(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099173
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】空調機のモニタリングシステム及びモニタリング装置
(51)【国際特許分類】
F24F 11/89 20180101AFI20240718BHJP
F24F 11/30 20180101ALI20240718BHJP
F24F 11/46 20180101ALI20240718BHJP
F24F 11/62 20180101ALI20240718BHJP
F24F 11/38 20180101ALI20240718BHJP
F25B 49/02 20060101ALI20240718BHJP
F24F 140/00 20180101ALN20240718BHJP
F24F 140/20 20180101ALN20240718BHJP
【FI】
F24F11/89
F24F11/30
F24F11/46
F24F11/62
F24F11/38
F25B49/02 510C
F25B49/02 510F
F24F140:00
F24F140:20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002910
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114524
【弁理士】
【氏名又は名称】榎本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】ジャンネッティ ニコロ
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 潔
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 洋一
【テーマコード(参考)】
3L260
【Fターム(参考)】
3L260AB01
3L260BA32
3L260BA38
3L260BA51
3L260BA61
3L260CB13
3L260CB90
3L260EA03
(57)【要約】
【課題】既設の空調機に簡単に後付けすることができ、空調機の実利用環境での性能評価に必要となる情報を簡易な構成で取得すること。
【解決手段】モニタリングシステム10は、空調機の冷媒配管の外周面に取り付けられ、冷媒の状態に対応したデータを検出する検出部11と、検出部11の検出結果に基づいて、空調機の性能把握に必要となる情報を取得する情報取得部12とを備える。検出部11は、冷媒配管の外周面の温度を計測する温度センサ14と、冷媒配管の外周面での基準状態に対する変位を計測する変位センサ15とを備える。情報取得部12は、冷媒配管内の冷媒圧力を導出する冷媒圧力導出部18を含み、そこでは、温度センサ14の計測結果から、温度変化の影響による温度起因変位を求め、変位センサ15の計測結果から温度起因変位を除外した圧力起因変位に基づいて冷媒圧力を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調機の冷媒配管の外周面に取り付けられ、冷媒の状態に対応したデータを検出する検出部と、当該検出部の検出結果に基づいて、前記空調機の性能把握に必要となる情報を取得する情報取得部とを備えた空調機のモニタリングシステムにおいて、
前記検出部は、前記冷媒配管の外周面の温度を計測する温度センサと、前記冷媒配管の外周面での基準状態に対する変位を計測する変位センサとを備え、
前記情報取得部は、前記冷媒配管内の冷媒圧力を導出する冷媒圧力導出部を含み、
前記冷媒圧力導出部では、所定時刻の前記温度センサの計測結果から、温度変化の影響による前記冷媒配管の前記変位である温度起因変位を求め、同時刻における前記変位センサの計測結果から前記温度起因変位を除外した圧力起因変位を特定し、当該圧力起因変位に基づいて前記冷媒圧力を算出することを特徴とする空調機のモニタリングシステム。
【請求項2】
前記情報取得部は、前記温度センサの計測結果と前記冷媒圧力導出部で求めた前記冷媒圧力から冷媒サイクルを特定する冷媒サイクル特定部を更に含むことを特徴とする請求項1記載の空調機のモニタリングシステム。
【請求項3】
前記情報取得部は、前記変位センサでの計測結果から前記空調機の圧縮機周波数を導出する圧縮機周波数導出部を更に含むことを特徴とする請求項1又は2記載の空調機のモニタリングシステム。
【請求項4】
前記圧縮機周波数導出部では、前記冷媒配管の経時的な前記変位を高速フーリエ変換し、予め取得された前記圧縮機の電気的ノイズを除去することで、冷媒の質量流量に対応する前記圧縮機周波数を求めることを特徴とする請求項3記載の空調機のモニタリングシステム。
【請求項5】
前記検出部は、前記空調機の室外機における前記冷媒配管の複数箇所に取り付けられ、少なくとも、圧縮機の入口側の第1の部位と、前記圧縮機の出口側の第2の部位と、膨張弁の入口側の第3の部位と、前記膨張弁の出口側の第4の部位とに配置され、前記第1、第2及び第3の部位には、前記温度センサ及び前記変位センサがセットで配置され、前記第4の部位には、前記温度センサのみが配置されることを特徴とする請求項3記載の空調機のモニタリングシステム。
【請求項6】
空調機の冷媒配管の外周面の温度と当該外周面の基準状態に対する変位とから、前記空調機の性能把握に必要となる情報を取得する空調機のモニタリング装置において、
前記冷媒配管内の冷媒圧力を導出する冷媒圧力導出部を含み、
前記冷媒圧力導出部では、所定時刻の前記温度から、温度変化の影響による前記冷媒配管の前記変位である温度起因変位を求め、同時刻における前記外周面の基準状態に対する変位から前記温度起因変位を除外した圧力起因変位を特定し、当該圧力起因変位に基づいて前記冷媒圧力を算出することを特徴とする空調機のモニタリング装置。
【請求項7】
前記温度と前記冷媒圧力導出部で求めた前記冷媒圧力から冷媒サイクルを特定する冷媒サイクル特定部を更に含むことを特徴とする請求項6記載の空調機のモニタリング装置。
【請求項8】
前記情報取得部は、前記外周面の基準状態に対する変位から前記空調機の圧縮機周波数を導出する圧縮機周波数導出部を更に含むことを特徴とする請求項6又は7記載の空調機のモニタリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調機のモニタリングシステム及びモニタリング装置に係り、更に詳しくは、空調機の実際の性能を把握する上で必要となる情報をリアルタイムで取得するモニタリングシステム及びモニタリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコン、ヒートポンプ、給湯器、冷凍機等の個別分散型冷凍空調機は、全世界で莫大な数の設置がなされており、その動作は、建物の構造、居住者のライフスタイルや外部の気候条件等の実利用環境と密接に関連している。ところが、これら空調機における実利用環境を考慮した実際の性能は、殆ど把握されていないのが実態である。このため、建物の空調負荷と空調機の能力が合っていないことが多く、空調機の性能が悪い領域で空調機が運転されている場合が大半である。従って、省エネルギーを推進するためには、空調機のリアルタイムでの性能把握が不可欠である。当該性能を表す空調能力やエネルギー消費効率(COP)を明確に把握するには、冷媒の圧力と温度に基づく当該冷媒の状態変化を表す熱力学サイクルや作動流体である冷媒の質量流量等の流れ状況をリアルタイムで把握する必要がある。ところが、実際の運転時に冷媒の流れ状況をリアルタイムで把握するためには、冷媒配管内の流路に、冷媒流量計や圧力計等の高額な計測機器を配置する必要がある。このため、当該計測機器を既存の空調機に後付けする場合に、手間やコストがかかることから、当該計測機器を有しない空調機での評価は、実験環境以外では行われていない。
【0003】
ところで、本発明者らは、空調機の室外機における冷媒配管の複数箇所に取り付けた温度センサで計測された冷媒温度を入力パラメータとし、当該冷媒温度と空調機の空調能力の関係を学習した機械学習(推定モデル)を用い、当該空調機の空調能力を推定する装置を既に提案している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1では、入力パラメータとして、冷媒圧力、圧縮機回転数等を用いても良い旨記載しているが、冷媒圧力等を求めるための具体的手法については開示されていない。また、特許文献1の装置では、機械学習を利用せずに、空調機の性能評価を明確に行うための熱力学サイクルを取得することは行われていない。
【0006】
本発明は、前述した課題に着目して案出されたものであり、その目的は、既設の空調機に簡単に後付けすることができ、空調機の実利用環境での性能評価に必要となる情報を簡易な構成で取得することができる空調機のモニタリングシステム及びモニタリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、主として、空調機の冷媒配管の外周面に取り付けられ、冷媒の状態に対応したデータを検出する検出部と、当該検出部の検出結果に基づいて、前記空調機の性能把握に必要となる情報を取得する情報取得部とを備えた空調機のモニタリングシステムにおいて、前記検出部は、前記冷媒配管の外周面の温度を計測する温度センサと、前記冷媒配管の外周面での基準状態に対する変位を計測する変位センサとを備え、
前記情報取得部は、前記冷媒配管内の冷媒圧力を導出する冷媒圧力導出部を含み、
前記冷媒圧力導出部では、所定時刻の前記温度センサの計測結果から、温度変化の影響による前記冷媒配管の前記変位である温度起因変位を求め、同時刻における前記変位センサの計測結果から前記温度起因変位を除外した圧力起因変位を特定し、当該圧力起因変位に基づいて前記冷媒圧力を算出する、という構成を採っている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冷媒配管の外周面の温度となる表面温度と、冷媒配管の外周面での基準状態に対する変位となる表面変位とを検出する検出部が、室外機の冷媒配管に取り付け可能となる。更に、これら検出部で検出されたデータから、冷媒配管内の冷媒温度や冷媒圧力を取得することができ、その結果、冷媒サイクルや、冷媒の状態に対応した室外機の圧縮機周波数を特定できる。当該圧縮機周波数が判明すれば、圧縮機回転数が特定され、公知の手法により、当該圧縮機回転数から冷媒の質量流量を推定することができる。従って、既設の空調機の室外機に検出部を簡単に後付けすることができ、費用対効果が高く、冷媒サイクルや冷媒の質量流量等、空調機の実利用環境での性能評価に必要となる情報を簡易且つ高精度に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る空調機のモニタリングシステムの構成を表すブロック図である。
【
図2】検出部の配置を説明するための模式図である。
【
図3】上側は、変位センサで取得された冷媒配管の表面のひずみと周波数との関係を表すグラフであり、下側は、圧縮機の電気的ノイズのみに起因する前記ひずみと前記周波数との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0011】
図1には、本実施形態に係る空調機のモニタリングシステムの構成を表すブロック図が示されている。この図において、前記モニタリングシステム10は、空調機の冷媒配管を流れる冷媒の状態に対応したデータを検出する検出部11と、当該検出部11での検出結果に基づいて、空調機の性能把握に必要となる情報を取得する情報取得部12とを備えている。
【0012】
前記検出部11は、空調機の室外機における冷媒配管の外周面の複数箇所に取り付けられており、各冷媒配管の外周面の温度(以下、「表面温度」と称する)を計測する熱電対等からなる温度センサ14と、各冷媒配管の外周面での基準状態に対する変位(以下、「表面変位」と称する)を計測する変位センサ15とからなる。
【0013】
具体的に、前記検出部11は、
図2に示されるように、空調機Aの室外機Cにおける圧縮機C1の入口側となる冷媒配管Pの第1の部位P1と、圧縮機C1の出口側(室外機CのコンデンサC2の入口側)となる同第2の部位P2と、室外機Cの膨張弁C3の入口側(コンデンサC2の出口側)となる同第3の部位P3と、膨張弁C3の出口側(蒸発器Eの入口側)となる同第4の部位P4とに配置される。ここで、第1~第3の部位P1、P2、P3には、温度センサ14及び変位センサ15がセットで配置され、第4の部位P4には、温度センサ14のみが配置される。
【0014】
前記温度センサ14では、冷媒配管Pの外周面の設置部位における温度が計測され、事前のキャリブレーション等により、当該外周面の温度から冷媒配管P内を流れる冷媒の温度が特定されるようになっている。
【0015】
前記変位センサ15は、冷媒配管Pの外周面のひずみを計測するひずみゲージからなる。なお、本発明に係る変位センサ15としては、特に限定されるものではなく、後述の処理を可能とするように、冷媒配管Pの外周面の径方向の経時的な変位を取得可能な限り、圧電フィルム、ホール素子等の磁気センサ等の他の様々な力学センサや振動センサを採用することもできる。
【0016】
前記情報取得部12は、CPU等の演算処理装置及びメモリやハードディスク等の記憶装置等からなるコンピュータによって構成され、空調機の性能把握に必要となる情報を取得するモニタリング装置として機能する。この情報取得部12は、
図1に示されるように、検出部11からの検出データを取得時刻に対応して記憶する記憶部17と、冷媒配管内の冷媒圧力を求める冷媒圧力導出部18と、冷媒サイクルを特定する冷媒サイクル特定部19と、室外機の圧縮機周波数を導出する圧縮機周波数導出部20とを備えている。
【0017】
前記冷媒圧力導出部18では、温度センサ14及び変位センサ15が配置された第1~第3の部位P1~P3について、これらセンサ14,15の計測値に基づき、次のようにして冷媒配管内を流れる冷媒圧力が所定時間毎に求められる。
【0018】
具体的に、以下の数式の通り、所定時刻における変位センサ15の計測値から、同時刻の温度センサ14の計測値に基づく冷媒配管の基準状態からの表面変位である温度起因変位の影響を除外することで、冷媒圧力のみに起因した前記表面変位である圧力起因変位を特定し、圧力起因変位に基づいて、同時刻で冷媒配管を流れる冷媒圧力が推定される。
【数1】
上式において、eは、非運転時等の基準状態からの冷媒配管の表面変位率を表し、Δrは、変位センサ15で取得された同基準状態からの冷媒配管の外周面(表面)の変位量であり、rは、当該基準状態における冷媒配管の表面の半径である。また、e
Tは、温度のみに起因する冷媒配管の前記表面変位率を表し、ΔTは、温度センサ14の計測結果から特定される前記基準状態時からの温度変化であり、βは、予め設定された係数である。この係数βは、冷媒配管の材質等に対応して特定される。e
pは、温度変化による冷媒配管の表面の温度起因変位を除外した冷媒圧力のみに起因する圧力起因変位における冷媒配管の表面変位率を表す。
当該表面変位率e
pは、冷媒配管を流れる冷媒圧力に対応しており、予め実行されるキャリブレーション等により、冷媒圧力との対応関係が設定されている。従って、上式により表面変位率e
pが求められると、予め記憶された表面変位率e
pと冷媒圧力との関係に基づき、その時刻における第1~第3の部位P1~P3の冷媒圧力が導出される。
【0019】
なお、上式において導出された冷媒圧力は、本発明者らにより行った実験により、冷媒配管内に設置した圧力センサを用いて冷媒圧力を計測した結果にほぼ一致することが実証されている。
【0020】
また、前記第4の部位P4については、2相流領域となっており、飽和温度状態であるため、冷媒圧力導出部18では、温度センサ14の計測値から、一義的に冷媒圧力(飽和圧力)が特定される。なお、第4の部位P4にも変位センサ15を配置して、前述した第1~第3の部位P1~P3と同様の手法で飽和圧力を算出することも可能である。
【0021】
前記冷媒サイクル特定部19では、冷媒圧力導出部18で導出された第1~第4の部位P1~P4の冷媒温度と冷媒圧力から、対応する時刻におけるp-h線図等の冷媒サイクルが求められる。
【0022】
前記圧縮機周波数導出部20では、圧縮機C1(
図2参照)の出口側となる第2の部位P2における変位センサ15での検出結果から、当該検出時刻における圧縮機周波数が求められる。本発明者らの試験研究によれば、変位センサ15で取得された第2の部位P2での冷媒配管の時系列の表面変位を高速フーリエ変換し、圧縮機C1等の電気的ノイズ等の影響を除去することで、変位センサ15での検出結果から、圧縮機周波数を推定できることが実証された。これにより、ここでは、変位センサ15での計測値(ひずみ信号)の経時的な変化を高速フーリエ変換し、ひずみ周波数とひずみとの関係(
図3上側のグラフ参照)について、予め取得された作動流体(冷媒)の質量流量に関係のない圧縮機C1等の電気的ノイズの波形(
図3下側のグラフ参照)と対比すると、
図3上側のグラフ中、破線で囲んだ位置の周波数が、電気的ノイズがキャンセルされ冷媒の質量流量のみに起因する圧縮機周波数であると特定される。これにより、冷媒の質量流量のみに対応する圧縮機周波数から、予め判明している圧縮機の仕様等により、対応する圧縮機回転数が判明する。その結果、当該圧縮機回転数から、公知の手法により冷媒の質量流量を推定可能となる。
【0023】
以上のモニタリングシステム10で取得された各データは、図示しない機械学習装置等の入力パラメータとして活用され、空調機の運転状況の把握や診断等を行うことができ、この結果に基づき、省エネルギー等の観点から、空調機の実際の利用状態において適切となる空調機の運転制御手法の開発等に有用となる。
【0024】
従って、このような実施形態によれば、高価な計測機器等を冷媒配管の内部等に設けることなく、比較的安価な温度センサ14及び変位センサ15を、空調機の室外機における冷媒配管の外周面に取り付けることで、既存の空調機に対する後付けを簡便に行うことができ、空調機の実質的な性能把握に必要な情報を容易且つ高精度に取得できるという効果を得る。
【0025】
なお、前記情報取得部12での処理及び/又は各種情報の取得は、変位センサ15での計測値から機械学習を用いて行うことも可能である。
【0026】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0027】
10 モニタリングシステム
11 検出部
12 情報取得部(モニタリング装置)
14 温度センサ
15 変位センサ
18 冷媒圧力導出部
19 冷媒サイクル特定部
20 圧縮機周波数導出部