(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099179
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】養殖水濾過装置及び養殖システム
(51)【国際特許分類】
B01D 35/027 20060101AFI20240718BHJP
B01D 24/00 20060101ALI20240718BHJP
B01D 29/00 20060101ALI20240718BHJP
C02F 3/06 20230101ALI20240718BHJP
C02F 3/08 20230101ALI20240718BHJP
A01K 63/04 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B01D35/02 C
B01D29/08 520A
B01D23/02 Z
C02F3/06
C02F3/08
A01K63/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002926
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】502328282
【氏名又は名称】株式会社アクアテックジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】田中 英男
【テーマコード(参考)】
2B104
4D003
4D116
【Fターム(参考)】
2B104AA02
2B104AA05
2B104AA07
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4D116VV10
(57)【要約】
【課題】設置作業の容易化を図ることができる養殖水濾過装置を提供する。
【解決手段】養殖水濾過装置3は、養殖槽2からの養殖水を沈殿処理する円筒状の沈殿槽11を備える。また、養殖水濾過装置3は、沈殿槽11からの養殖水を濾過処理する円環状の濾過手段12を備える。濾過手段12は、沈殿槽の外周面にこの外周面に沿って一体的に設ける。濾過手段12は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用のうちの少なくとも2つ以上の濾過作用を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
養殖生物を養殖する養殖槽からの養殖水を浄化処理する養殖水濾過装置であって、
前記養殖槽からの養殖水を沈殿処理する円筒状の沈殿槽と、
前記沈殿槽の外周面にこの外周面に沿って一体的に設けられ、前記沈殿槽からの養殖水を濾過処理する円環状の濾過手段とを備え、
前記濾過手段は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用のうちの少なくとも2つ以上の濾過作用を有する
ことを特徴とする養殖水濾過装置。
【請求項2】
前記濾過手段は、
前記沈殿槽の外周面の一方側半周に亘って配置され、前記沈殿槽からの養殖水を前記沈殿槽の周方向に沿って半周流動させながら濾過処理する半円環状の一方側濾過部と、
前記沈殿槽の外周面の他方側半周に亘って配置され、前記沈殿槽からの養殖水を前記沈殿槽の周方向に沿って半周流動させながら濾過処理する半円環状の他方側濾過部とを有する
ことを特徴とする請求項1記載の養殖水濾過装置。
【請求項3】
前記一方側濾過部及び前記他方側濾過部は、平面視において前記沈殿槽の中心点を通る直線に対して線対称の構成であり、いずれも前記沈殿槽の周方向に沿って並ぶ複数の濾過室を有し、
前記一方側濾過部における前記複数の濾過室のうちの最上流の濾過室と前記他方側濾過部における前記複数の濾過室のうちの最上流の濾過室とが仕切りなく連続し、かつ、前記一方側濾過部における前記複数の濾過室のうちの最下流の濾過室と前記他方側濾過部における前記複数の濾過室のうちの最下流の濾過室とが仕切りなく連続している
ことを特徴とする請求項2記載の養殖水濾過装置。
【請求項4】
前記濾過手段は、
前記沈殿槽の外周面の全周に亘って配置され、前記沈殿槽からの養殖水を前記沈殿槽の周方向に沿って1周流動させながら濾過処理する円環状の濾過部を有する
ことを特徴とする請求項1記載の養殖水濾過装置。
【請求項5】
養殖水の温度を調整する温度調整手段を備え、
前記温度調整手段は、前記沈殿槽内でこの沈殿槽の内周面に沿って配置されている
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一記載の養殖水濾過装置。
【請求項6】
養殖生物を養殖する養殖槽と、
前記養殖槽からの養殖水を浄化処理する請求項1ないし4のいずれか一記載の養殖水濾過装置と、
前記養殖槽と前記養殖水濾過装置との間で養殖水を循環させる循環手段と
を備えることを特徴とする養殖システム。
【請求項7】
前記循環手段は、
前記養殖槽から前記養殖水濾過装置に養殖水を供給するための供給管と、
前記養殖水濾過装置から前記養殖槽に養殖水を戻すための戻し管と、
前記戻し管に設けられた循環ポンプとを有し、
前記循環ポンプの駆動のみによって、養殖水が前記養殖槽と前記養殖水濾過装置との間で循環するとともに、その循環する養殖水が前記養殖水濾過装置内では所定の水位を保持しつつ流動して浄化処理される
ことを特徴とする請求項6記載の養殖システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設置作業の容易化を図ることができる養殖水濾過装置及び養殖システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば下記の特許文献1に記載された養殖システム(養殖装置)が知られている。
【0003】
この養殖システムは、養殖水(飼育水)を用いて魚介類を養殖する養殖槽と、この養殖槽からの養殖水を浄化処理する養殖水濾過装置とを備えている。
【0004】
そして、この養殖水濾過装置は、例えば沈澱槽と、フィルター装置と、生物濾過槽と、脱窒槽と、紫外線照射装置と、酸素溶入器と、ヒートポンプとを順次接続した構成であり、これら浄化処理用の複数の槽等はそれぞれ独立した別体からなるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の養殖水濾過装置では、この養殖水濾過装置を設置する際に、それぞれ独立した別体からなる浄化処理用の複数の槽等をそれぞれ個別に設置して配管で接続する必要があるため、設置作業が煩雑で手間がかかるという問題がある。
【0007】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、設置作業の容易化を図ることができる養殖水濾過装置及び養殖システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る養殖水濾過装置は、養殖生物を養殖する養殖槽からの養殖水を浄化処理する養殖水濾過装置であって、前記養殖槽からの養殖水を沈殿処理する円筒状の沈殿槽と、前記沈殿槽の外周面にこの外周面に沿って一体的に設けられ、前記沈殿槽からの養殖水を濾過処理する円環状の濾過手段とを備え、前記濾過手段は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用のうちの少なくとも2つ以上の濾過作用を有するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、設置作業の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る養殖システムの概略平面図である。
【
図2】同上養殖システムの養殖水濾過装置の概略断面図である。
【
図3】同上養殖水濾過装置の濾過手段の一例を説明するための説明図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る養殖システムを示す図で、(a)は概略平面図、(b)はその一部を拡大した概略断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態に係る養殖システムの概略平面図である。
【
図6】本発明の第4の実施の形態に係る養殖システムの概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第1の実施の形態について
図1ないし
図3を参照して説明する。
【0012】
図1において、1は養殖システムで、この養殖システム1は、例えば養殖水を用いて養殖生物(水生生物等)を効率よく高密度で陸上養殖することが可能な循環式の陸上養殖システムである。なお、養殖生物は、例えば鮭、ひらめ、うなぎ等の魚類、バナメイ海老、あわび、ほたて貝、青のり等である。
【0013】
養殖システム1は、養殖水を用いて養殖生物を養殖する養殖槽(飼育槽)2と、この養殖槽2からの養殖水(例えば養殖生物の排泄物や残留食餌等の汚濁物質を含む汚れた浄化対象の養殖水)を浄化処理(少なくとも沈殿処理及び濾過処理を含む)する養殖水濾過装置3と、これら養殖槽2と養殖水濾過装置3との間で養殖水を循環させる循環手段4とを備えている。
【0014】
また、循環手段4は、養殖槽2から養殖水濾過装置3に浄化処理前の養殖水を供給するための供給管(往路流路)6と、養殖水濾過装置3から養殖槽2に浄化処理後の養殖水を戻すための戻し管(復路流路)7と、この戻し管7の途中に設けられた1個の循環ポンプ8とを有している。
【0015】
そして、この1個の循環ポンプ8の駆動のみによって、養殖水が養殖槽2と養殖水濾過装置3との間で循環するとともに、その循環する養殖水が養殖水濾過装置3内では所定の水位Hを保持しつつ流動して浄化処理される。
【0016】
つまり、当該循環ポンプ8の駆動のみにより、浄化処理前の養殖水が供給管(オーバーフロー管)6を通って養殖水濾過装置3内に供給されてこの養殖水濾過装置3内で浄化処理され、かつ、この浄化処理後の養殖水が養殖水濾過装置3内から排出されて戻し管7を通って養殖槽2内に戻される。
【0017】
養殖水濾過装置3は、供給管6から供給(流入)される浄化処理前の養殖水を所定の水位Hに保持した状態で、その養殖水を流動させながら浄化処理する一体型の円形状の養殖水濾過槽である。
【0018】
この一体型の養殖水濾過装置3は、養殖槽2からの浄化処理前の養殖水を沈殿処理する円筒状の沈殿槽11と、この沈殿槽11の外周面にこの外周面に沿って一体的に設けられ、沈殿槽11からの沈殿処理後の養殖水を濾過処理する円環状の濾過手段12とを備えている。
【0019】
そして、濾過手段12は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用のうちの少なくとも2つ以上(複数)の濾過作用、すなわち例えばこれら3つのすべての濾過作用(濾過機能)を有するものである。
【0020】
なお、濾過手段(円環状筒体の濾過洗浄部)12は、沈殿槽11と同心状であって所定の水位Hよりも高い所定高さを有しかつ濾過時間等に応じて設定された所定幅を有した円環状に形成されている。
【0021】
沈殿槽11は、
図1ないし
図3に示すように、この沈殿槽11の中心点Pを通る上下方向(鉛直方向)の中心軸線Xを中心とした有底円筒状のものであって、円板状の底部16と、この底部16の外周端部に一体的に立設された円筒状の周壁部17とを有している。
【0022】
底部16の中心部には排出口18が形成され、この排出口18にはストレーナー19を介して排出管20が接続され、この排出管20に開閉バルブ(図示せず)が設けられている。そして、開閉バルブを開くことにより、底部16の上面上に蓄積した沈殿物が外部に排出される。なお、底部16の上面は、沈殿物が排出口18側に向かって案内されるように逆截頭円錐状に形成してもよい。
【0023】
また、周壁部17の下部には供給口21が形成され、この供給口21には供給管(オーバーフロー管)6が接続されている。そして、供給管6の下流端開口22は、養殖水が沈殿槽11の周壁部17の内周面に沿って流れる旋回流が生じるように、沈殿槽11の中心軸線Xからずれた方向に向かって開口している。
【0024】
さらに、周壁部17の上部には連通口23が形成され、この連通口23には連通管(オーバーフロー管)25が接続され、この連通管25によって沈殿槽11内と濾過手段12内とが互いに連通している。なお、例えば連通管25を用いずに、連通用の開口部である連通口(流出口)23によって沈殿槽11内と濾過手段12内とが互いに連通した構成でもよい。
【0025】
また、周壁部17の内周面には、養殖水の温度が養殖槽2内の養殖生物に応じた所定温度である適正温度になるように養殖水の温度を調整する温度調整手段としての熱交換器である熱交換パイプ27が当該内周面に沿って全周に亘って固着されている。この熱交換パイプ27は、例えば平面視で沈殿槽11と同心状の円環状でかつ当該沈殿槽11の中心軸線Xを中心とした螺旋状に形成されたものであり、周壁部17の内周面上部から内周面下部に亘って配置されている。
【0026】
さらに、周壁部17の内周面下部からは、沈殿物を排出口18側に案内する案内板(邪魔板)28が中心軸線X側に向かって突出しており、この案内板28は底部16に一体的に立設されている。なお、案内板28の数は任意であり、例えば複数の案内板28を沈殿槽11の周方向に間隔をおいて並設してもよい。
【0027】
濾過手段12は、沈殿槽11の周方向に沿って養殖水が流動する円環状の流路30を沈殿槽11の周壁部17の外周面との間に形成する流路形成体31を有している。
【0028】
この流路形成体31は、沈殿槽11の底部16の外周端部に一体的に連設された円環板状の底部32と、この底部32の外周端部に一体的に立設され、沈殿槽11の周壁部17の外周面と流路30を介して離間対向する円筒状の周壁部33とを有している。そして、互いに離間対向する両周壁部17,33と、これら両周壁部17,33の下端部同士を連結する底部32とで、円環状の流路30が区画されている。
【0029】
なお、沈殿槽11の中心軸線Xを中心とした円筒状の外側の周壁部33の半径R1は、沈殿槽11の中心軸線Xを中心とした円筒状の内側の周壁部17の半径R2よりも大きく、例えば半径R1が半径R2の1.3倍~1.8倍の範囲内であることが好ましい(
図2参照)。
【0030】
また、濾過手段12は、例えば2方向タイプのもので、沈殿槽11の外周面の両側に一体的に設けられた対をなす左右対称の左側濾過部41L及び及び右側濾過部41Rを有している。
【0031】
つまり、この2方向タイプの濾過手段12は、沈殿槽11の周壁部17の外周面の一方側半周(左側半周)に亘って配置され、沈殿槽11からの沈殿処理後の養殖水を流路30内で沈殿槽11の周方向に沿ってこの周方向一方(例えば反時計回りの方向)に半周流動させながら濾過処理する半円環状の一方側濾過部である左側濾過部41Lと、沈殿槽11の周壁部17の外周面の他方側半周(右側半周)に亘って配置され、沈殿槽11からの沈殿処理後の養殖水を流路30内で沈殿槽11の周方向に沿ってこの周方向他方(例えば時計回りの方向)に半周流動させながら濾過処理する半円環状の他方側濾過部である右側濾過部41Rとを有している。
【0032】
そして、これら左側濾過部41L及び右側濾過部41Rは、平面視において沈殿槽11の中心点Pを通る直線(仮想線)Lに対して線対称の構成(略線対称の構成を含む)となっており、この各濾過部41L,41Rは沈殿槽11の中心軸線Xを中心とした半円環状に形成されている。つまり、この濾過手段12は、それぞれ半円環状をなす2つの濾過部41L,41Rで構成されている。
【0033】
なお、左右の両濾過部41L,41Rは、平面視で直線Lに対して線対称の構成(左右対称の構成)である点を除いて同じ構成であるため、以下では、主として左側濾過部41Lの構成について詳細に説明する。
【0034】
左側濾過部41Lは、沈殿槽11の周方向に沿ってこの周方向一方に向かって順に並ぶ複数、すなわち例えば4つの濾過室42a,42b,42c,42dを有している。
【0035】
つまり、この左側濾過部41Lは、3枚の仕切壁46,47,48によって流路30の左半部が仕切られて形成された4つの濾過室である第1濾過室42a、第2濾過室42b、第3濾過室42c及び第4濾過室42dを有している。
【0036】
そして、互いに隣り合う第1濾過室42aと第2濾過室42bとは、それらの間に位置する仕切壁46の上方の連通部(上側の空間部分)51によって互いに連通している。また、互いに隣り合う第2濾過室42bと第3濾過室42cとは、それらの間に位置する仕切壁47の下方の連通部(下側の空間部分)52によって互いに連通している。さらに、互いに隣り合う第3濾過室42cと第4濾過室42dとは、それらの間に位置する仕切壁48の上方の連通部(上側の空間部分)53によって互いに連通している。なお、仕切壁46,48の上縁は、濾過手段12内の養殖水の水位を所定の水位Hに保持するように連通管25の下端側開口26又は連通口23よりやや下方位置に位置している。
【0037】
また、左側濾過部41Lの第1濾過室42aは、右側濾過部41Rの第1濾過室42aと仕切りなく連続して繋がっており、これら互いに連続(連通)した一連の両第1濾過室42a,42aによって円弧状の1つの上流側の第1共通室56が構成されている。つまり、左側濾過部41Lにおける複数の濾過室のうちの最上流の濾過室42aと右側濾過部41Rにおける複数の濾過室のうちの最上流の濾過室42aとが仕切りなく連続して1つの第1共通室56を構成している。
【0038】
同様に、左側濾過部41Lの第4濾過室42dは、右側濾過部41Rの第4濾過室42dと仕切りなく連続して繋がっており、これら互いに連続(連通)した一連の両第4濾過室42d,42dによって円弧状の1つの下流側の第2共通室57が構成されている。つまり、左側濾過部41Lにおける複数の濾過室のうちの最下流の濾過室42dと右側濾過部41Rにおける複数の濾過室のうちの最上流の濾過室42dとが仕切りなく連続して1つの第2共通室57を構成している。
【0039】
なお、上流側の第1共通室56は、下流側の第2共通室57よりも長い円弧状のもので、例えば
図1に図示した例では、この第1共通室56は沈殿槽11の中心点Pを中心とした半円以上の円弧状に形成されている。
【0040】
ここで、第1濾過室42aは、連通管25を介して沈殿槽11内と連通しており、物理濾過用のフィルター62がその連通管25の下端側開口26の下方側にこの下端側開口26に臨んで配置されている。
【0041】
このフィルター62は、例えば網状の支持部と、この支持部で支持されたスポンジ状のフィルター部とで構成されたもので、円弧状の第1共通室56の中央部(円弧方向中央部)に配置されている。
【0042】
そして、フィルター62の左半部が左側濾過部41Lの第1濾過室42aに配置され、かつ、フィルター62の右半部が右側濾過部41Rの第1濾過室42aに配置されている。つまり、平面視において、1つの共用のフィルター62のうち、直線Lよりも左側に位置する部分が左側濾過部41Lの最上流の濾過室42aに配置されるとともに、直線Lよりも右側に位置する部分が右側濾過部41Rの最上流の濾過室42aに配置されている。
【0043】
また、第1濾過室42aには、物理濾過用の泡沫分離装置63がフィルター62の下流側にこのフィルター62に近接して配置されている。
【0044】
この泡沫分離装置63は、フィルター62を通過した後の養殖水中に微細な気泡を供給する気泡供給部64を有し、この気泡供給部64は円筒状の筒状体65の下部内に配置されている。なお、泡沫分離装置63の筒状体65の外径寸法は、流路30の幅寸法Bと同一である。
【0045】
そして、筒状体65の上部には、養殖水中の汚濁物質(タンパク質等)を吸着した気泡層からなる泡沫を外部に排出するための泡沫排出管66が接続されている。なお、濾過部41L,41Rの各泡沫分離装置63は、1個のフィルター62の左右方向端部にそれぞれ近接して配置されている。
【0046】
さらに、第1濾過室42aには、生物濾過用の濾材68が泡沫分離装置63の下流側にこの泡沫分離装置63に近接して配置されている。
【0047】
この濾材68は、例えば養殖水中の汚濁物質を分解する微生物を担持する紐状の担体(商品名:バイオコード)等である。すなわち例えば、濾材68は、支持枠に上下方向に懸架されたポリプロピレン樹脂、炭素繊維等の繊維体や、細かい繊維をモール状に加工した繊維体等である。
【0048】
なお、第1濾過室42aは、
図3に示されるように、この図示した例では物理濾過作用のフィルター室部43と、物理濾過作用の泡沫分離室部44と、生物濾過作用の生物槽室部45とを有しており、これら3つの室部43,44,45が、両周壁部17,33に接合した筒状体65で区画されている。また、筒状体65の下部と濾過手段12の底部32との間が開口しており、3つの室部43,44,45は互いに連通している。
【0049】
そして、フィルター室部43の上部にフィルター62が配置され、泡沫分離室部44に泡沫分離装置63が配置され、生物槽室部45に濾材68が配置(充填)されている。
【0050】
当該図示した第1濾過室42aは、一例に過ぎず、例えば物理濾過作用の沈殿槽における物理濾過で十分であればフィルターや泡沫分離装置は必ずしも必要ではなく、フィルター室部を有しない構成や、泡沫分離室部を有しない構成等でもよい。
【0051】
化学濾過作用の水質調整室である第2濾過室42b及び第3濾過室42cには、化学濾過用の濾材71がそれぞれ充填されている。この濾材71は、例えば珊瑚砂、活性炭、ゼオライト、麦飯石、アラゴナイト、牡蠣殻、貝化石、セラミック等の水質調整濾材である。そして、水質調整濾材の多孔質の表面に養殖水中の汚濁物質が吸着され、或いは、水質調整濾材との接触による化学作用によって濾過され、養殖水の酸性、アルカリ性のpH、軟水、硬水の硬度等が調整される。なお、例えば2つの濾過室42b,42cにそれぞれ異なる濾材を充填してもよい。
【0052】
生物濾過作用の流動担体室である第4濾過室42dには、生物濾過用の濾材72として、例えば養殖水中の汚濁物質を分解する微生物を担持する筒状の流動担体が充填されている。また、第4濾過室42dには、養殖水中に空気を供給する散気管73が配置されている。さらに、第4濾過室42dの底部付近において、浄化処理後の養殖水を吸い込む戻し管7の上流端開口(吸込口)75が開口している。
【0053】
そして、
図1に示すように、平面視において、連通管25の下端側開口26と戻し管7の上流端開口75とは、沈殿槽11の中心点Pを中心とした点対称の位置(略点対称の位置を含む)に位置している。
【0054】
このため、各濾過部41L,41R内において、連通管25の下流端開口26から供給された養殖水は、沈殿槽11の外周面に沿って同じ距離(略同じ距離を含む)だけ半周流動するように、複数の濾過室42a,42b,42c,42dを順次経由して濾過処理される。そして、この濾過処理された養殖水(処理水)は、戻し管7の上流端開口75から吸い込まれてこの戻し管7を通って養殖槽2に戻される。
【0055】
次に、上記第1の実施の形態に係る養殖システム1の作用等を説明する。
【0056】
例えば養殖槽2内の養殖生物の排泄物や残留食餌等の汚濁物質を含んだ汚れた養殖水は、循環ポンプ8の駆動に基づいて供給管6から養殖水濾過装置3の沈殿槽11内に供給される。
【0057】
そして、沈殿槽11内では、養殖水よりも比重が大きい汚濁物質が、沈殿物となって底部16上に沈殿して蓄積する。
【0058】
この際、供給管6の下流端開口22が沈殿槽11の中心軸線Xからずれた方向に向かって開口していることから、沈殿槽11内において養殖水が沈殿槽11の内周面に沿って流れる旋回流が生じる。その結果、養殖水中の汚濁物質が遠心分離作用で分離して沈殿槽11の中心下部に集積されるため、効率よく沈殿処理が行われる。
【0059】
また、沈殿槽11内では、温度調整用の熱交換パイプ27との熱交換によって養殖水の温度が養殖槽2内の養殖生物に応じた所定温度である適正温度に調整される。
【0060】
この際、熱交換パイプ27が沈殿槽11の周壁部17の内周面に直接接触した状態でその周方向に沿って固着されていることから、周壁部17を介して熱が移動することにより濾過手段12内でも養殖水の温度は適正温度に維持され、また養殖水が螺旋状の熱交換パイプ27によって案内されることで養殖水の旋回流も生じやすい。加えて、円環状の濾過手段12が沈殿槽11の周壁部17の外周面全体を覆っていることから、その周壁部17の外周面全体(略全体を含む)に直接接触した状態で流路30を流動する濾過手段12内の養殖水は、沈殿槽11内の養殖水の温度変化を防止する断熱機能を発揮するため、熱エネルギーの浪費も防止される。
【0061】
次いで、沈殿槽11における沈殿処理後の養殖水、すなわち養殖水よりも比重が大きい汚濁物質が分離除去された養殖水は、連通管25を通って濾過手段12内の流路30に供給され、この流路30を流動しながら濾過処理される。
【0062】
具体的には、連通管25の下流端開口26から第1共通室56の中央部に供給された沈殿処理後の養殖水は、フィルター62を通過して汚濁物質が捕捉除去された後、左右の2方向に分岐して両濾過部41L,41Rにおける複数の濾過室42a,42b,42c,42dを沈殿槽11の周方向に沿ってそれぞれ半周流動し、この半周の間に濾過処理、すなわち物理濾過処理、生物濾過処理及び化学濾過処理が行われる。
【0063】
こうして、養殖水濾過装置3の濾過手段12の両濾過部41L,41Rで濾過処理された浄化処理後の養殖水は、適正温度を維持したまま、第2共通室57の中央部で合流した後、戻し管7を通って養殖槽2に戻され、再び養殖生物の養殖に用いられる。
【0064】
なお、このような養殖システム1を設置する場合、作業者は、沈殿槽11と濾過手段12とが予め一体化された一体型の養殖水濾過装置3と、これとは別体の養殖槽2とを所定の設置スペースにそれぞれ設置し、かつ、これら養殖水濾過装置3と養殖槽2との間を循環手段4の供給管6及び戻し管7で接続すればよい。
【0065】
そして、養殖システム1の養殖水濾過装置(養殖水浄化装置)3によれば、養殖槽2からの養殖水を沈殿処理する円筒状の沈殿槽11と、この沈殿槽11の外周面にこの外周面に沿って一体的に設けられ、沈殿槽11からの養殖水を濾過処理する円環状の濾過手段12とを備えるため、浄化処理用の複数の槽等をそれぞれ個別に設置して配管で接続する必要がある従来の養殖水濾過装置に比べて設置が容易で、設置作業の容易化を図ることができ、また、装置全体として小型化を図ることができ、設置スペースの確保も容易であり、しかも、沈殿槽11及び濾過手段12の点検や整備等を個々にでき、メンテナンスの簡素化を図ることができる。
【0066】
また、濾過手段12は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用の3つのすべての濾過作用(濾過機能)を有するため、この濾過手段12で養殖水をより一層適切に濾過処理できる。
【0067】
さらに、沈殿槽11が円筒状(有底円筒状)でかつ濾過手段12が円環状(円環筒状)であることから、沈殿槽11内では供給管6から養殖水を沈殿槽11の周壁部17の内周面に向けて供給(流入)することにより養殖水の旋回流が効率的に生じるため、養殖水を効率よく沈殿処理でき、かつ、濾過手段12内では周壁部17の外周面及び周壁部33の内周面に沿って養殖水を流すことにより養殖水が効率的に流動するため、養殖水を効率よく濾過処理できる。
【0068】
また、循環手段4の循環ポンプ8の駆動のみによって、養殖水が養殖槽2と養殖水濾過装置3との間で循環するとともに、その養殖水が養殖水濾過装置3の沈殿槽11内及び濾過手段12内においては所定の水位Hを適切に保持しつつ流動して浄化処理されるため、養殖水の浄化のために1個の循環ポンプ8のみを駆動すればよく、よって省エネルギー化を図ることができ、製造コストも低減でき、しかも、濾過手段12内の養殖水による断熱機能によって熱エネルギーの浪費も防止できる。
【0069】
さらに、所定高さ及び所定幅を有した円環状の濾過手段12における幅寸法(所定幅)、すなわち流路30の幅寸法Bを適宜設計設定することにより、流路30の断面積も変わり、幅寸法Bを長くすれば流路30の断面積は広がり、その流路30を流動する養殖水の流速は遅くなり、養殖水の濾過時間を長くでき、逆に幅寸法Bを短くすれば流路30の断面積は狭まり、その流路30を流動する養殖水の流速は速くなり、養殖水の濾過時間を短くできる。従って、幅寸法Bを適宜設計設定することにより濾過手段12での養殖水の濾過時間を容易かつ適切に調整でき、養殖槽2内で養殖する養殖生物による養殖水の汚濁態様や汚濁内容等に応じた適切な濾過処理を効率よく行うことができる。
【0070】
また、濾過手段12は、2方向タイプのものであって左右対称の半円環状の左側濾過部41L及び右側濾過部41Rを有するため、養殖水を沈殿槽11の周方向に沿って半周流動(略半周流動を含む)させる間にその養殖水を適切に濾過処理できるばかりでなく、沈殿槽11からの養殖水は左右に分離形成された濾過部41L,41Rに分流され、各濾過部41L,41Rに流れる養殖水の水量は略2分の1となって、養殖水の流速は略2分の1となるので、各濾過部41L,41Rの距離が短くなっても濾過時間を確実に確保でき、養殖生物の種類によっては濾過手段12の複数の濾過作用の種類が少なくても養殖水を確実に効率よく濾過処理でき、養殖水の濾過効率を高めることができる。
【0071】
さらに、濾過手段12は、第1共通室56及び第2共通室57を有した構成であることから、例えば共通室を有しない構成(例えば後述する
図5に示す構成)等に比べて、構成の簡素化を図ることができ、製造コストの低減等も図れる。
【0072】
なお、上記第1の実施の形態では、両濾過部41L,41Rに対して共用の1つのフィルター62が第1共通室56の中央部に配置され、かつそのフィルター62の両側方に泡沫分離装置63がそれぞれ配置された構成について説明したが、例えば
図4(a)及び(b)に示す第2の実施の形態のように、両濾過部41L,41Rに対して共用の1つの泡沫分離装置63が第1共通室56の中央部に配置された構成でもよい。
【0073】
つまり、この
図4(a)及び(b)に示す第2の実施の形態では、左右の両濾過部41L,41Rに対して共用の1つの泡沫分離装置63が同じく共用の1つのフィルター62とともに第1共通室56の中央部に配置され、この泡沫分離装置63の筒状体65の上方に当該フィルター62が配置されている。
【0074】
また、この泡沫分離装置63の筒状体65の截頭円錐筒部76には、フィルター62を通過した後の養殖水を筒状体65内に流入するための開口部77が形成されており、この開口部77はフィルター62を介して連通管25の下端側開口26と離間対向している。なお、この開口部77を通って筒状体65内に流入した養殖水は、この筒状体65内で汚濁物質が泡沫分離除去された後、左右の2方向に分岐してそれぞれ半周流動して濾過処理される。
【0075】
そして、この第2の実施の形態の構成によれば、1つの泡沫分離装置63を両濾過部41L,41Rで共用できるため、複数の泡沫分離装置63を必要とする構成に比べて、構成の簡素化を図ることができ、製造コストの低減等も図れる。
【0076】
また、上記第1の実施の形態では、濾過手段12が第1共通室56及び第2共通室57を有する構成について説明したが、例えば
図5に示す第3の実施の形態のように、濾過手段12が両共通室56,57を有しない構成でもよい。
【0077】
つまり、この
図5に示す第3の実施の形態では、左側濾過部41Lの第1濾過室42aと右側濾過部41Rの第1濾過室42aとが仕切壁81によって非連通状態に仕切られ、かつ、左側濾過部41Lの第4濾過室42dと右側濾過部41Rの第4濾過室42dとが仕切壁82によって非連通状態に仕切られている。そして、左右の両第1濾過室42aは、それぞれ個別の連通管25を介して沈殿槽11内と連通しており、この各連通管25の下端側開口26の下方側にフィルター62がそれぞれ配置されている。
【0078】
また、戻し管7は、分岐した2つの分岐管部83,84を上流端側に有しており、そのうちの左側の分岐管部83の上流端開口75が左側濾過部41Lの第4濾過室42dの底部付近で開口し、右側の分岐管部84の上流端開口75が右側濾過部41Rの第4濾過室42dの底部付近で開口している。
【0079】
そして、この第3の実施の形態の構成によれば、それぞれ独立した非連通状態の2つの濾過部41L,41Rに分かれているため、例えばいずれか一方の濾過部に不具合等が生じても、他方の濾過部のみを使用して濾過処理を行うことができる。なお、例えば濾過手段12が両共通室56,57のうちのいずれか一方のみを有する構成でもよい。
【0080】
さらに、上記第1の実施の形態では、濾過手段12が2方向タイプのものであって左右の濾過部41L,41Rを有する構成について説明したが、例えば
図6に示す第4の実施の形態のように、濾過手段12が1方向タイプの構成でもよい。
【0081】
つまり、この
図6に示す第4の実施の形態では、濾過手段12は、沈殿槽11の外周面の全周に亘って配置され、その沈殿槽11からの沈殿処理後の養殖水を沈殿槽11の周方向に沿って1周流動(例えば時計回りに1周の旋回)させながら濾過処理する円環状の濾過部91を有している。すなわち、この
図6に示す濾過手段12は、円環状をなす1つの濾過部91で構成されている。
【0082】
また、この濾過部91は、各濾過部41L,41Rと同様、例えば沈殿槽11の周方向に沿って並ぶ4つの濾過室42a,42b,42c,42dを有している(ただし、濾過部41L,41Rに比べて各濾過室の距離は2倍)。そして、最上流の第1濾過室42aと最下流の第4濾過室42dとが仕切壁92で非連通状態に仕切られている。
【0083】
さらに、連通管25の下端側開口26及び戻し管7の上流端開口75は、仕切壁92に近接して配置されている。つまり、これら両開口26,75は、平面視で互いに近接した位置に配置されている。なお、図示した例では、濾過部91が有する濾過室の数は4つであるが、例えば5つ以上でもよい。
【0084】
そして、この第4の実施の形態の構成によれば、養殖水を沈殿槽11の周方向に沿って1周流動(略1周流動を含む)させる間にその養殖水を適切に濾過処理できるばかりでなく、円環状の濾過部91の距離が半円環状の各濾過部41L,41Rの距離に比べて長いため、例えば物理濾過作用、生物濾過作用または化学濾過作用の多くの種類の濾過作用を有する濾過手段12とすることができ、多くの種類の濾過作用を必要とする養殖水であっても確実に効率よく濾過処理できる。なお、例えば沈殿槽11の周方向に沿って養殖水を2周以上流動させて濾過処理する構成としてもよい。
【0085】
なお、上記いずれの実施の形態においても、濾過手段は、物理濾過作用、生物濾過作用及び化学濾過作用のうちの少なくとも2つ以上の濾過作用を有するものであればよく、必ずしも3つのすべての濾過作用を有する必要はなく、例えば物理濾過作用及び生物濾過作用のみを有した構成や、生物濾過作用及び化学濾過作用のみを有した構成等でもよい。
【0086】
また、濾過手段の濾過部における濾過室の数、その濾過室に配置するフィルター及び濾材の種類や組合せ等は、いずれも任意であり、例えば養殖対象の養殖生物の特性や養殖水の汚濁内容等に応じて適宜選択される。
【0087】
さらに、沈殿槽内においてその内周面に沿って配置する温度調整手段は、養殖生物に応じた所定温度になるように養殖水の加熱や冷却が可能なものには限定されず、例えば養殖水を加熱(加温)するヒータ等の加熱手段でもよい。
【0088】
また、例えば濾過手段内の養殖水の水位を調整するための水位調整器を濾過手段に設けてもよい。
【符号の説明】
【0089】
1 養殖システム
2 養殖槽
3 養殖水濾過装置
4 循環手段
6 供給管
7 戻し管
8 循環ポンプ
11 沈殿槽
12 濾過手段
27 温度調整手段である熱交換パイプ
41L 一方側濾過部である左側濾過部
41R 他方側濾過部である右側濾過部
42a 濾過室である第1濾過室(最上流の濾過室)
42b 濾過室である第2濾過室
42c 濾過室である第3濾過室
42d 濾過室である第4濾過室(最下流の濾過室)
91 濾過部
P 中心点
L 直線
H 水位