(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099188
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ガスアトマイズ装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20240718BHJP
B05B 7/08 20060101ALI20240718BHJP
B05B 7/16 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B22F9/08 A
B05B7/08
B05B7/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002943
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】関本 光一郎
【テーマコード(参考)】
4F033
4K017
【Fターム(参考)】
4F033NA01
4F033QA10
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB13Y
4F033QB19
4F033QC04
4F033QD03
4F033QD19
4F033QD25
4F033QE09
4F033QG32
4F033QG38
4F033QG42
4K017CA07
4K017EB03
4K017EB12
(57)【要約】
【課題】溶湯ノズルから吐出された金属溶湯が装置内で凝固しても、生じた凝固体を除去することができるガスアトマイズ装置を提供する。
【解決手段】中空筒状のシリンダ2と、シリンダ2の中空部内に向かって先端から金属溶湯を吐出する溶湯ノズル3と、溶湯ノズル3から吐出された金属溶湯にガスを噴射するガスノズル4と、金属溶湯が溶湯ノズル3の先端部を含む領域で凝固して生じた凝固体S、およびシリンダ2の壁面21の少なくとも一方に振動を与える加振部材6と、を有するガスアトマイズ装置1とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空筒状のシリンダと、
前記シリンダの中空部内に向かって先端から金属溶湯を吐出する溶湯ノズルと、
前記溶湯ノズルから吐出された前記金属溶湯にガスを噴射するガスノズルと、
前記シリンダの壁面、および前記金属溶湯が前記溶湯ノズルの先端部を含む領域で凝固して生じた凝固体の少なくとも一方に振動を与える加振部材と、を有するガスアトマイズ装置。
【請求項2】
前記加振部材は、前記凝固体を打撃する打撃部材を含んでいる、請求項1に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項3】
前記打撃部材は、前記溶湯ノズルを先端側に延長したノズル下方位置と、前記ノズル下方位置から外れた位置の間で進退運動可能であり、
前記ノズル下方位置に向かって前進することで、前記凝固体を打撃する、請求項2に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項4】
前記加振部材は、前記シリンダの壁面に振動を与える壁面振動部材を含んでいる、請求項1に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項5】
前記加振部材は、前記凝固体に気流を噴射する気流噴射部材を含んでいる、請求項1に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項6】
前記溶湯ノズルから吐出される前記金属溶湯の温度を、前記金属溶湯の融点から200℃高い温度未満に抑える、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項7】
前記加振部材による振動の発生を、前記溶湯ノズルと前記ガスノズルによる金属粉末の製造を行いながら実施する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガスアトマイズ装置。
【請求項8】
前記加振部材による振動の発生を、前記溶湯ノズルと前記ガスノズルによる金属粉末の製造を中断して実施する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のガスアトマイズ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスアトマイズ装置に関し、さらに詳しくは、金属溶湯の凝固体を除去できる機構を備えたガスアトマイズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粉末冶金や積層造形の原料等として、金属粉末材料に対する需要が大きい。金属粉末材料を製造する方法の1つとして、ガスアトマイズ法が広く用いられている。ガスアトマイズ法においては、溶湯ノズルから吐出した金属溶湯に、ガスノズルからガスを噴射することで、金属溶湯を微細な溶滴とし、凝固させて、金属粉末を形成する。中でも、溶湯ノズルにガスノズルが一体に設置され、金属溶湯の吐出位置とガスの噴射位置を近接させたコンファインド型のガスアトマイズノズルを用いることで、噴射ガスによって金属溶湯に与える粉砕エネルギーを大きくし、微細な金属粉末を高効率で製造することができる。コンファインド型のガスアトマイズノズルは、例えば下記の特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コンファインド型のガスアトマイズノズルを備えたガスアトマイズ装置においては、溶湯ノズルのすぐ近傍で、高圧の噴射ガスによって、高温の金属溶湯を急冷するため、溶湯ノズルの先端部で、微粉化されないままの金属溶湯の凝固が起こりやすい。金属溶湯の凝固の形態としては、
図2に示すように、溶湯ノズル3の先端部に凝固体(地金)Sが付着して留まる形態がある。凝固体Sは、溶湯ノズル3のノズル孔31を閉塞し、さらに溶湯ノズル3の外側の領域にまでつながって形成されうる。このような溶湯ノズル3の先端部に留まる形態の凝固体Sは、溶湯ノズル3の先端部が噴射ガスによって過剰に冷却されることで生じ、特に、金属溶湯の温度が比較的低い場合に生じやすい。また、金属溶湯の凝固の他の形態として、
図3に示すように、製造された金属粉末が通過する領域を囲むシリンダ2の壁面21に付着して凝固体Sが形成される場合がある。凝固体Sは、溶湯ノズル3の先端部と、シリンダ2の壁面21の間の領域を占めて形成される。このようにシリンダ2の壁面21に付着する形態の凝固体Sは、噴射ガスにより溶滴化されなかった金属溶湯がシリンダ2の壁面21に衝突して急冷されることで形成され、特に、金属溶湯の温度が比較的高い場合に生じやすい。いずれの形態についても、金属溶湯の凝固が発生すると、溶湯ノズル3の閉塞等の影響が生じ、金属粉末の製造を正常に継続するのが難しくなる。
【0005】
金属溶湯の凝固による溶湯ノズルの閉塞を防ぐ手段として、上記特許文献1では、溶湯ノズルのノズル孔断面積を、溶湯入口部で最小に形成している。そのように、装置構成やガスアトマイズにかかる条件の設定を工夫することなどにより、金属溶湯の凝固やそれによる溶湯ノズルの閉塞を起こりにくくすることは重要である。一方で、金属溶湯の凝固が起こってしまった場合に、生じた凝固体を除去して、金属粉末の製造を継続できるようにすることも重要である。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、溶湯ノズルから吐出された金属溶湯が装置内で凝固しても、生じた凝固体を除去することができるガスアトマイズ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明にかかるガスアトマイズ装置は、以下の構成を有している。
[1]本発明にかかるガスアトマイズ装置は、中空筒状のシリンダと、前記シリンダの中空部内に向かって先端から金属溶湯を吐出する溶湯ノズルと、前記溶湯ノズルから吐出された前記金属溶湯にガスを噴射するガスノズルと、前記金属溶湯が前記溶湯ノズルの先端部を含む領域で凝固して生じた凝固体、および前記シリンダの壁面の少なくとも一方に振動を与える加振部材と、を有する。
【0008】
[2]上記[1]の態様において、前記加振部材は、前記凝固体を打撃する打撃部材を含んでいるとよい。
【0009】
[3]上記[2]の態様において、前記打撃部材は、前記溶湯ノズルを先端側に延長したノズル下方位置と、前記ノズル下方位置から外れた位置の間で進退運動可能であり、前記ノズル下方位置に向かって前進することで、前記凝固体を打撃するものであるとよい。
【0010】
[4]上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記加振部材は、前記シリンダの壁面に振動を与える壁面振動部材を含んでいるとよい。
【0011】
[5]上記[1]から[4]のいずれか1つの態様において、前記加振部材は、前記凝固体に気流を噴射する気流噴射部材を含んでいるとよい。
【0012】
[6]上記[1]から[5]のいずれか1つの態様において、前記溶湯ノズルから吐出される前記金属溶湯の温度を、前記金属溶湯の融点から200℃高い温度未満に抑えるとよい。
【0013】
[7]上記[1]から[6]のいずれか1つの態様において、前記加振部材による振動の発生を、前記溶湯ノズルと前記ガスノズルによる金属粉末の製造を行いながら実施するとよい。
【0014】
[8]上記[1]から[7]のいずれか1つの態様において、前記加振部材による振動の発生を、前記溶湯ノズルと前記ガスノズルによる金属粉末の製造を中断して実施するとよい。
【発明の効果】
【0015】
上記[1]の発明にかかるガスアトマイズ装置は、加振部材を備えており、溶湯ノズルの先端部に生じた金属溶湯の凝固体、およびシリンダの壁面の少なくとも一方に振動を与えることができる。そのため、ガスアトマイズ装置内で凝固体が生じることがあっても、加振部材による振動により、その凝固体を、溶湯ノズルの先端部、またシリンダの壁面から脱離させ、除去することができる。その結果、金属粉末の製造中に凝固体が生じてしまっても、凝固体を除去することで、溶湯ノズルの閉塞等、凝固体の形成による影響を解消し、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造を継続することができる。
【0016】
上記[2]の態様においては、前加振部材が、凝固体を打撃する打撃部材を含んでいる。この場合には、凝固体に直接、物理的な刺激による振動を与えることで、効率良く、また高確度で、凝固体を除去することができる。打撃部材を用いることで、
図2に示したような溶湯ノズルの先端部に留まった凝固体も、
図3に示したようなシリンダの壁面に付着した凝固体も、効率的に除去することができる。
【0017】
上記[3]の態様においては、打撃部材が、ノズル下方位置と、ノズル下方位置から外れた位置の間で進退運動可能な部材として設けられている。この構成によれば、ノズル下方位置へと打撃部材を前進させることで、ノズルの先端部から生じた凝固体に、確実に打撃を加え、打撃時の振動によって凝固体を除去しやすい。また、打撃を行わない際には、ノズル下方位置から打撃部材を退避させておくことで、金属粉末の製造工程を打撃部材が妨げることも回避できる。
【0018】
上記[4]の態様においては、加振部材がシリンダの壁面に振動を与える壁面振動部材を含んでいる。この場合には、
図3に示したようなシリンダの壁面に付着する形態の凝固体を特に効率的に除去することができる。壁面振動部材は溶湯ノズルに直接振動を与えるものではないため、凝固体の除去に伴う負荷が溶湯ノズルに生じにくい。また、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造を行っている最中であっても、凝固体の除去を行いやすい。
【0019】
上記[5]の態様においては、加振部材が、凝固体に気流を噴射する気流噴射部材を含んでいる。この場合には、生じた凝固体に、気流噴射部材によって気流を噴射することで、凝固体に振動を与え、凝固体を溶湯ノズルから脱離させることができる。特に、
図2に示したような溶湯ノズルの先端部に留まる形態の凝固体の除去に、気流噴射部材による加振を好適に利用することができる。気流噴射部材は、振動の発生を、力学的に行うのではなく、凝固体への気流の衝突によって行うので、溶湯ノズルをはじめとする装置の構成部材に負荷を与えにくい。また、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造を行っている最中であっても、凝固体の除去を行いやすい。
【0020】
上記[6]の態様においては、溶湯ノズルから吐出される金属溶湯のスーパーヒート(融点を基準とした温度)を200℃未満に抑える。金属溶湯のスーパーヒートを200℃未満に抑えることで、金属やセラミックス等、溶湯ノズルの構成部材が、過熱による強度低下や損傷を起こすのを抑制することができる。金属溶湯のスーパーヒートを小さくすると、凝固体の形成が起こりやすくなるが、本発明のガスアトマイズ装置は、加振装置を備えており、凝固体が生じたとしても除去することができるので、溶湯ノズルを過熱から保護しながら、凝固体形成による影響を低減し、金属粉末材料の製造を安定に継続することができる。
【0021】
上記[7]の態様においては、加振部材による振動の発生を、金属粉末の製造を行いながら実施する。この形態によれば、凝固体の除去のために金属粉末の製造を中断する必要がなく、また凝固体が大きく成長する前に除去することができる。そのため、金属粉末の製造を、長時間にわたり、安定に継続することができる。
【0022】
上記[8]の態様においては、加振部材による振動の発生を、金属粉末の製造を中断して実施する。この場合には、加振部材によって凝固体を除去する工程と、金属粉末を製造する工程が、相互に影響を与えないため、凝固体の確実な除去を図ることができる。また、凝固体の除去が実際に必要になった際に、加振装置による振動の発生を行えばよいので、不要な振動による装置への影響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるガスアトマイズ装置の概略を示す模式図である。
【
図2】凝固体が生じた状態の一例を示す模式図である。凝固体が溶湯ノズルの先端に留まった形態を示している。ここでは、溶湯ノズルの近傍を拡大して表示している。
【
図3】凝固体が生じた状態の別の例を示す模式図である。凝固体がシリンダの壁面に付着した形態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、図面を参照しながら、本発明の一実施形態にかかるガスアトマイズ装置について説明する。
【0025】
[ガスアトマイズ装置の概略]
図1に、本開示の一実施形態にかかるガスアトマイズ装置1の構成を模式的に示す。以降、上下等の方向は、
図1中に表示された方向に従うものとする。
【0026】
本実施形態にかかるガスアトマイズ装置1は、シリンダ2と、ガスアトマイズノズル5と、加振部材としての打撃部材6と、タンディッシュ7を備えている。ガスアトマイズノズル5は、溶湯ノズル3と、ガスノズル4を備えている。
【0027】
シリンダ2は、中空筒状の部材として構成されており、ガスアトマイズ装置1の外郭の一部を構成している。シリンダ2は、下方において、ガスアトマイズ装置1の外容器の本体である噴霧チャンバ(不図示)に連通している。シリンダ2の上方には、金属溶湯を貯留可能なタンディッシュ7が設けられている。
【0028】
ガスアトマイズノズル5は、溶湯ノズル3とガスノズル4を一体に備えたコンファインド型のガスアトマイズノズルとして構成されている。溶湯ノズル3は、金属溶湯が通過可能なノズル孔31を有している。溶湯ノズル3は、基端側で、シリンダ2の底部に取り付けられ、ノズル孔31がタンディッシュ7内の空間と連通されている。溶湯ノズル3の先端側は、シリンダ2の中空部に向かって突出しており、タンディッシュ7内の金属溶湯を、溶湯ノズル3の先端から、シリンダ2の中空部内に向かって吐出することができる。ガスノズル4は、溶湯ノズル3の先端部の外周を囲むガス噴射口として構成されており、ガス供給源(不図示)から供給される不活性ガスを高圧で噴射することができる。ガスノズル4から噴射されるガスは、溶湯ノズル3の先端のすぐ下側の領域に向かって、斜め上方から噴射される。
【0029】
溶湯ノズル3から金属溶湯を吐出するとともに、ガスノズル4から、その吐出された金属溶湯に高圧のガスを噴射すると、金属溶湯が噴射ガスによって微細な溶滴に粉砕される。その微細化された溶滴が冷却されて固化することで、金属の微粉末が形成される。シリンダ2は、形成された金属粉末が通過する領域の外周を囲んでおり、金属粉末が飛散するのを防止する。
【0030】
[打撃部材]
打撃部材6は、進退運動可能な部材として構成されている。打撃部材6は、シリンダ2の外部からの操作によって、溶湯ノズル3が延びる方向と交差する方向、ここでは図の横方向に、進退運動可能となっている。打撃部材6を前進させた状態では、溶湯ノズル3の下方の位置、つまり溶湯ノズル3を先端側に延長した延長線上の位置であるノズル下方位置に、打撃部材6の先端部が配置される。一方、打撃部材6を後退させた状態では、ノズル下方位置から外れ、溶湯ノズル3からの金属溶湯の吐出とガスノズル4からのガス噴射による金属粉末の形成を妨げない位置まで、打撃部材6が退避される。打撃部材6は、例えば、シリンダ装置62の先端に、打撃に適したブロック部材61を結合したものとして、構成することができる。
【0031】
溶湯ノズル3からの金属溶湯の吐出と、ガスノズル4からのガスの噴射によって、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造を行う際に、溶湯ノズル3から吐出された金属溶湯の一部は、金属粉末とならずに、溶湯ノズル3の先端部を含む領域で凝固し、
図2,3のように、塊状の凝固体Sを形成する場合がある。打撃部材6は、それら溶湯ノズル3の先端部に生じた凝固体Sを打撃することで、凝固体Sに振動を与える加振部材として機能する。具体的には、打撃部材6を、ノズル下方位置を外れた後退位置から、ノズル下方位置に向かって前進させることで、溶湯ノズル3の先端部に付着した凝固体Sを、溶湯ノズル3の下方に突出した箇所にて、打撃することができる。
【0032】
凝固体Sが生じると、その凝固体Sは、溶湯ノズル3のノズル孔31を閉塞するものとなり、溶湯ノズル3からの金属溶湯の吐出を妨げる。また、溶湯ノズル3の外側に達した凝固体Sは、吐出された金属溶湯へのガスノズル4からの高圧ガスの噴射を妨げる可能性がある。それらの事象が起こると、ガスアトマイズ法による金属粉末の製造を正常に継続することが難しくなる。しかし、形成された凝固体Sを打撃部材6で打撃し、凝固体Sに振動を与えることで、凝固体Sを溶湯ノズル3やシリンダ2の壁面21から脱離させ、除去することができる。すると、金属溶湯の吐出と高圧ガスの噴射による金属粉末の製造を、正常に継続できるようになる。除去された凝固体Sは、噴霧チャンバの底部に蓄積されるので、適時に取り除けばよい。
【0033】
このように、ガスアトマイズ装置1に、金属溶湯の凝固体Sに振動を与えて除去することができる加振部材を設けておくことで、凝固体Sが形成されることがあっても、溶湯ノズル3の閉塞等、凝固体Sの形成による影響を軽減して、安定して金属粉末の製造を継続することができる。後に挙げるとおり、加振部材としては、打撃部材6以外の形態のものも考えられるが、上記で説明したように、凝固体Sを打撃して振動を与えられる打撃部材6として構成しておけば、凝固体Sに物理的な刺激を直接与えることにより、形成された凝固体Sを、高確度に、また高効率に除去することができる。打撃部材6による凝固体Sの除去は、
図2のように、凝固体Sが、溶湯ノズル3に付着して溶湯ノズル3の下方に突出した状態に留まっており、シリンダ2の壁面21には付着していない形態に対しても、
図3のように、凝固体Sが、シリンダ2の壁面21に付着し、溶湯ノズル3とシリンダ2との間を橋渡しする状態で形成されている形態に対しても、有効に実施することができる。中でも、凝固体Sが溶湯ノズル3の先端に留まった前者の形態に対して、高い効果を示す。
【0034】
打撃部材6による凝固体Sの除去は、溶湯ノズル3からの金属溶湯の吐出とガスノズル4からの高圧ガスの噴射による金属粉末の製造を行いながら実施しても、金属粉末の製造を中断して実施してもよい。あるはその両方の形態で行ってもよい。
【0035】
金属粉末の製造を行いながら凝固体Sの除去を実施する場合には、金属粉末の製造を行っている最中に、その製造を止めることなく、打撃部材6の前進運動を間欠的に行い、その時点で生じている凝固体Sを打撃して除去すればよい。打撃が終わると、打撃部材6は後方に退避させておく。この場合には、金属粉末の製造を中断する必要がないこと、また生成した凝固体Sが大きく成長して金属粉末の製造に大きな影響を与えるようになる前に凝固体Sを除去できることから、金属粉末の製造を効率的に連続実施することができる。
【0036】
一方、金属粉末の製造を中断して凝固体Sの除去を実施する場合には、ある程度金属粉末の製造を継続した後、一時的にその製造を中断する。そしてその中断期間中に、打撃部材6による打撃を実施して、その時点で生じている凝固体Sを除去し、除去後に金属粉末の製造を再開する。このサイクルを何度も繰り返せばよい。この場合には、溶湯ノズル3からの金属溶湯の吐出や、ガスノズル4からのガスの噴射に対して打撃部材6が妨害となること、また、打撃部材6に金属溶湯が付着して凝固することなど、金属粉末の製造工程と打撃による凝固体除去の工程の間に、相互干渉が生じない。そのため、金属粉末の製造と凝固体Sの除去のそれぞれを、適切な条件で効率的に実施することができる。また、金属粉末の製造において影響を生じそうな凝固体Sが生じているか否かを確認したうえで打撃を行うことができるので、不要な打撃によって溶湯ノズル3等、ガスアトマイズ装置1の構成部材に負荷を与えるのを避けられるとともに、生じている凝固体Sを確実に除去してから、金属粉末の製造を再開することができる。
【0037】
打撃部材6による凝固体Sの除去を、金属粉末の製造を行いながら実施する場合にも、金属粉末の製造を中断して実施する場合にも、凝固体Sの除去は、シリンダ2の外側からの打撃部材6の操作・制御によって行うことができる。よって、凝固体Sの除去のために、シリンダ2および噴霧チャンバを開放する必要がなく、内部の雰囲気をそのまま維持することができる。
【0038】
上記打撃部材6のように、振動によって凝固体Sを除去することができる加振部材をガスアトマイズ装置1に設けないとすれば、ガスアトマイズノズル5の設計や、ガスアトマイズにかかる条件の設定により、凝固体Sの生成を起こさないための対策を講じる必要がある。例えば、一般には、金属溶湯のスーパーヒート(その金属の融点よりも何度上の温度に金属溶湯を加熱するか)を大きくとることで、凝固体Sの生成の抑制が図られる。しかし、ガスアトマイズ装置1に加振装置を設けておけば、ある程度は凝固体Sが生成しても、除去することができるので、凝固体Sを生成させないための対策を省略あるいは緩和することができる。例えば、金属溶湯のスーパーヒートを、200℃未満のように、比較的小さく抑えることができる。スーパーヒートを小さく抑えることで、溶湯ノズル3をはじめとして、ガスアトマイズ装置1の各部への熱負荷を小さく抑えることができる。通常、溶湯ノズル3は金属およびセラミックスより構成されており、過熱を受けると、強度の低下や、溶損等の損傷を起こす可能性があるが、金属溶湯のスーパーヒートを200℃未満に抑えることで、それらの現象を抑制できる。スーパーヒートの下限は特に限定されないが、典型的には、50℃以上とされる。
【0039】
[打撃部材以外の加振部材]
上記で説明したガスアトマイズ装置1においては、凝固体Sに振動を与える加振部材として、凝固体Sを打撃する打撃部材が設けられているが、加振部材は、そのような打撃部材6に限定されるものではない。以下、加振部材の他の形態について例示する。
【0040】
打撃部材6とは異なる形態の加振部材の一例として、気流噴射部材を挙げることができる。気流噴射部材は、溶湯ノズル3の先端に形成された凝固体Sに気流を噴射する。気流噴射部材は、凝固体Sに向かって気流を噴射することで、凝固体Sに振動を与え、凝固体Sを溶湯ノズル3から脱離させる。気流噴射部材は、凝固体Sが形成される位置、例えば上記のノズル下方位置に、凝固体Sに振動を与えるのに十分な風圧で気流を噴射できるように構成すればよい。例えば、シリンダ2の壁面21を貫通して、溶湯ノズル3の下方から少し外周側に外れた位置にまで延びたパイプまたはノズルとして、気流噴射部材を設け、外部から空気または不活性ガスを気流として供給できるように構成すればよい。気流噴射部材によって気流が噴射される位置は、ガスアトマイズノズル5のガスノズル4よりも下方の位置(溶湯ノズル3の先端から離れた位置)に設定される。
【0041】
気流噴射部材は、上記の打撃部材6とは異なり、力学的な衝撃ではなく、気流による風圧により、凝固体Sに振動を与えるものである。そのため、ガスアトマイズノズル5による金属粉末の製造工程と、気流噴射部材による凝固体Sの除去工程との間に干渉が生じにくく、金属粉末の製造を行いながら凝固体Sの除去を実施するのに、気流噴射部材を好適に利用することができる。また、打撃部材6を用いる場合と比較して、気流噴射部材を用いる場合の方が、凝固体Sが付着した溶湯ノズル3をはじめ、ガスアトマイズ装置1の構成部材に、大きな力学的負荷を与えることなく、凝固体Sに振動を与えることができる。一方で、気流噴射部材によって発生できる振動は、上記打撃部材6によって発生できる振動よりも小さくなりやすいため、凝固体Sの除去における効率には劣る場合がある。
図2に示すように、凝固体Sが溶湯ノズル3の下方に留まっている形態については、凝固体Sの除去に気流噴射部材を有効に利用することができるが、
図3に示すように、凝固体Sがシリンダ2の内壁面21に付着して形成されている場合には、気流噴射部材では十分に凝固体Sを除去できない場合もある。そこで、シリンダ2の内壁面21に付着して凝固体Sが形成される可能性がある場合には、気流噴射部材よりも、あるいは気流噴射部材に加えて、上記打撃部材6や、次に挙げる壁面振動部材を、加振部材として設けることが好ましい。気流噴射部材からの気流は、凝固体Sが溶湯ノズル3の下方に突出した箇所に衝突するように設定すればよいが、気流の一部は、溶湯ノズル3に衝突してもよい。溶湯ノズル3に衝突した気流は、ノズル孔31の内部に収まっている凝固体Sに振動を与え、溶湯ノズル3からの脱離を促すものとなる。
【0042】
上記の打撃部材6および気流噴射部材は、形成された凝固体Sに直接振動を与えて、凝固体Sを除去するものであったが、加振部材は、シリンダ2の壁面21に振動を与えるものであってもよい。シリンダ2の壁面21に振動を与える形態の加振部材として、壁面振動部材を例示することができる。壁面振動部材は、シリンダ2を外側から打撃すること、または振盪させることで、シリンダ2の壁面21を力学的に振動させるものである。これにより、シリンダ2の壁面21を介して振動が凝固体Sに伝達され、その振動によって凝固体Sが、シリンダ2の壁面21および溶湯ノズル3から脱離し、除去される。
【0043】
壁面振動部材は、大きな振動を発生することができるが、溶湯ノズル3から離れたシリンダ2を振動させるものであるため、溶湯ノズル3には大きな振動が伝達されにくい。そのため、溶湯ノズル3への力学的負荷の印加を抑えながら、効率的に、凝固体Sの除去を行うことができる。特に、
図3に示したような、シリンダ2の壁面21に付着した形態の凝固体Sを除去するのに、壁面振動部材を効果的に利用することができる。また、壁面振動部材は、シリンダ2の内部の空間に構成部材を設けることを要さないので、金属粉末の製造を行いながら凝固体Sの除去を実施するのに、特に好適に利用することができる。
【0044】
以上に説明した打撃部材6、気流噴射部材、壁面振動部材はそれぞれ、凝固体Sおよびシリンダ2の壁面21の少なくとも一方に振動を与える加振部材として機能する。これらの加振部材を用いることで、シリンダ2や噴霧チャンバを開放することなく、つまり内部が雰囲気制御された状態のままで、凝固体Sおよび/またはシリンダ2の壁面に振動を与えて、凝固体Sを除去することができる。1つのガスアトマイズ装置1に、同種の加振部材、また種類の異なる加振部材を、複数設けてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明した。本発明は、これらの実施形態に特に限定されることなく、種々の改変を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0046】
1 ガスアトマイズ装置
2 シリンダ
21 壁面
3 溶湯ノズル
31 ノズル孔
4 ガスノズル
5 ガスアトマイズノズル
6 打撃部材(加振部材)
7 タンディッシュ
S 凝固体
【手続補正書】
【提出日】2023-03-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0028
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0028】
ガスアトマイズノズル5は、溶湯ノズル3とガスノズル4を一体に備えたコンファインド型のガスアトマイズノズルとして構成されている。溶湯ノズル3は、金属溶湯が通過可能なノズル孔31を有している。溶湯ノズル3は、基端側で、タンディッシュ7の底部に取り付けられ、ノズル孔31がタンディッシュ7内の空間と連通されている。溶湯ノズル3の先端側は、シリンダ2の中空部に向かって突出しており、タンディッシュ7内の金属溶湯を、溶湯ノズル3の先端から、シリンダ2の中空部内に向かって吐出することができる。ガスノズル4は、溶湯ノズル3の先端部の外周を囲むガス噴射口として構成されており、ガス供給源(不図示)から供給される不活性ガスを高圧で噴射することができる。ガスノズル4から噴射されるガスは、溶湯ノズル3の先端のすぐ下側の領域に向かって、斜め上方から噴射される。