(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099194
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ガラスラン
(51)【国際特許分類】
B60J 10/76 20160101AFI20240718BHJP
B60J 10/50 20160101ALI20240718BHJP
B60J 10/16 20160101ALI20240718BHJP
【FI】
B60J10/76
B60J10/50
B60J10/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002956
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120765
【弁理士】
【氏名又は名称】小滝 正宏
(74)【代理人】
【識別番号】100097076
【弁理士】
【氏名又は名称】糟谷 敬彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 康広
(72)【発明者】
【氏名】野尻 昌利
【テーマコード(参考)】
3D201
【Fターム(参考)】
3D201AA14
3D201AA17
3D201BA01
3D201CA19
3D201DA31
3D201DA34
3D201EA11
(57)【要約】
【課題】 風切り音の低減効果に優れ、装着時に倒れ込みと抑制するガラスランを提供する。
【課題を解決するための手段】
底壁20と、車外側側壁30と、車内側側壁40を基本骨格とし、基本骨格がドアフレーム3に形成されたドアフレーム溝部5に取付けられ、基本骨格の開口にドアガラス4を受け入れると共に、ドアガラス4の車内外側をシールするガラスランであって、車外側側壁30の車内側には、車外側側壁30の車外側側壁本体部33より硬度の高い車内側硬質部35が形成され、車内側硬質部34は、ドアガラス4に摺接し、車内側硬質部34を含む車外側側壁30は、底壁20の車外側面24に面で当接する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底壁と、車外側側壁と、車内側側壁を基本骨格とし、前記基本骨格がドアフレームに取付けられ、前記基本骨格の開口にドアガラスを受け入れると共に、前記ドアガラスの車内外側をシールするガラスランであって、
前記車外側側壁の車内側には、前記車外側側壁の車外側側壁本体部より硬度の高い車内側硬質部が形成され、
前記車内側硬質部は、前記ドアガラスに摺接し、
前記車内側硬質部を含む前記車外側側壁は、前記底壁の車外側面に面で当接することを特徴とするガラスラン。
【請求項2】
前記車外側側壁の車外側には、前記車外側側壁を構成する車外側側壁本体部より硬度の高い車外側硬質部が形成され、前記車外側硬質部は、前記ドアフレームに面で当接する請求項1に記載のガラスラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等車両のドアに形成されたドアフレームに取付けられるガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等車両の静粛性向上は、乗員の快適性が高められるので、商品力向上のアピール度が高い。又、今後急速に普及が進むことが予想される電気自動車においては、従来搭載されているエンジンが無くなるので、そのエンジン音が無くなることによって残存する主な騒音は、ロードノイズと風切音が顕在化する。したがって、それらの低減技術の必要性が従来以上に高まっている。
【0003】
風切音は、走行時の風が車両に当たって車室外で発生する音が車体を透過して車室内に届く音である。その透過経路では、車室内の乗員の耳の位置に近いドアガラスの寄与が最も大きいことが分かっており、ドアガラスの板厚増加やアコースティックガラスの設定等の対策が行われているが、重量増とコストアップが障害になっている。
【0004】
ところで、ドアガラス以外にも、ドアガラスとドアフレームとの間のシール材であるガラスランにおいて、特に1kHz以上の高周波数域の騒音の低減が可能であり、この低減効果の増大化検討が行われている。
【0005】
ガラスランによる騒音低減技術として、例えば、以下の特許文献1に記載の技術が知られている。
図4に示すように、ガラスラン100は、底壁200、車外側側壁300と車内側側壁400を基本骨格としてチャンネル状(断面コ字形状)に形成されている。車外側側壁300の先端にはドアガラス600に当接するカバーリップ340が形成され、車外側側壁300のカバーリップ340より底壁200側の車内側には、底壁200側に突出し、ドアガラス600に摺接する車外側シールリップ310が形成されている。
【0006】
一方、車内側側壁400の先端には、ドアガラス600に摺接する車内側第1シールリップ410と、車内側第1シールリップ410より底壁200側に形成され、ドアガラス600に摺接する車内側第2シールリップ420が共に底壁200側に向けて形成され、車内側第1シールリップ410と車内側第2シールリップ420は、ドアガラス600との摺接時に、互いに当接しない。車内側シールリップを複数形成することにより、矢印Aで示すガラスラン透過ルートにおける透過音の遮蔽効果が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、風切音による騒音を低減する技術には、ドアガラスの振動エネルギーをドアガラスに当接する部品に効率的に流して散逸させる、いわゆるインピーダンスマッチングを利用して振動を低減することも可能であるが、現時点ではその検討は十分行われていない。
【0009】
本発明者は、先に出願した特願2022-007095と特願2022-116131において、インピーダンスマッチングに着目し、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させ、風切音による騒音を低減することを可能とするガラスランを提案した。上記出願は、ガラスランの車外側側壁の車内側に車外側側壁より硬度の高い硬質部(肉厚部)を形成し、硬質部(肉厚部)をドアガラスに摺接させる構成に基づくものである。
【0010】
上記の出願により、風切音による騒音を低減することが可能になったが、硬質部を形成し、車外側側壁の剛性が増大したことにより、車外側側壁の柔軟性、伸張性が低下し、ドアフレームにガラスランを装着した時に、車外側側壁がドアフレームの曲率に追従することができず、車外側側壁が車内側に倒れ込む問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、インピーダンスマッチングによる風切音による騒音の低減効果を維持しつつ、ドアフレームにガラスランを装着した時に、車外側側壁が車内側に倒れ込むことを抑制するガラスランを提供するものである。
【0012】
上記課題を解決するために、請求項1の本発明は、底壁と、車外側側壁と、車内側側壁を基本骨格とし、基本骨格がドアフレームに取付けられ、基本骨格の開口にドアガラスを受け入れると共に、ドアガラスの車内外側をシールするガラスランであって、車外側側壁の車内側には、車外側側壁の車外側側壁本体部より硬度の高い車内側硬質部が形成され、車内側硬質部は、ドアガラスに摺接し、車内側硬質部を含む車外側側壁は、底壁の車外側面に面で当接することを特徴とするガラスランである。
【0013】
請求項1の本発明では、車外側側壁の車内側には、車外側側壁の車外側側壁本体部より硬度の高い車内側硬質部が形成され、車内側硬質部は、ドアガラスに摺接するので、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、インピーダンスマッチングにより、ドアガラスとの当接時にドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0014】
又、車内側硬質部を含む車外側側壁は、ガラスランをドアフレームに装着した時に、底壁の車外側面に面で当接することにより、車外側側壁が車内側に倒れ込むことを抑制することができる。
【0015】
請求項2に記載の本発明は、請求項1の発明において、車外側側壁の車外側には、車外側側壁を構成する車外側側壁本体部より硬度の高い車外側硬質部が形成され、車外側硬質部は、ドアフレームに面で当接するガラスランである。
【0016】
請求項2に記載の本発明では、車外側側壁の車外側には、車外側側壁の車外側側壁本体部より硬度の高い車外側硬質部が形成され、車外側硬質部は、ドアフレームに面で当接するので、車外側側壁がドアフレームとドアガラスに挟まれることにより、車外側側壁の剛性を増大させることができ、ドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。又、車内側硬質部は、ガラスランをドアフレームに装着した時に、底壁の車外側面に当接するので、車外側側壁が車内側に倒れ込むことを抑制することができる。
【発明の効果】
【0017】
底壁と、車外側側壁と、車内側側壁を基本骨格とし、基本骨格がドアフレームに取付けられ、基本骨格の開口にドアガラスを受け入れると共に、ドアガラスの車内外側をシールするガラスランであって、車外側側壁の車内側には、車外側側壁の車外側側壁本体部より硬度の高い車内側硬質部が形成され、車内側硬質部は、ドアガラスに摺接するので、車外側側壁を含むガラスランの剛性が増大し、インピーダンスマッチングにより、ドアガラスとの当接時にドアガラスの振動エネルギーを効率的に流して散逸させることができる。その結果、風切音による騒音を低減することができる。
【0018】
又、車内側硬質部を含む車外側側壁は、ガラスランをドアフレームに装着した時に、底壁の車外側面に面で当接することにより、車外側側壁が車内側に倒れ込むことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1のドアフレームに用いるガラスランを示す正面図である。
【
図3】本発明の実施形態のガラスランであり、
図1のA-A断面図である。
【
図4】従来のガラスランの取付構造を示す断面図である(特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の第1の実施形態について
図1から
図3に基づいて説明する。
図1は自動車の左側のフロントドア1を車外側からみた正面図を示す。このフロントドア1を構成するドア本体2の上部には、ドアフレーム3が装着されている。このドアフレーム3とドア本体2の上端縁とにより窓開口が形成されている。ドアフレーム3に形成されたドアフレーム溝部5とドア本体2の内部にはガラスラン10が取付られ、ドアガラス4の昇降動作を案内するようになっている。なお、本発明は、左側のフロントドア1のみならず、右側のフロントドア、左右のリヤドアにも適用可能である。又、ドアガラスの昇降するスライドドアにも適用可能である。
【0021】
図2はガラスラン10のみを簡略化して車外側から見た正面図である。このガラスラン10はドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11と、フロントドア1の前側の縦枠部に対応する第2の押出成形部12と、後側の縦枠部と対応する第3の押出成形部13とにより構成されている。第1の押出成形部11の前端部は第2の押出成形部12の上端部に対し第1の型成形部14により接続されている。又、第1の押出成形部11の後端部は第3の押出成形部13の上端部に対し第2の型成形部15により接続されている。
【0022】
図3は、
図1のA-A断面図であり、ガラスラン10を溝部21、21で車内側側壁40と車外側側壁30間が狭まるようにドアフレーム3のドアフレーム溝部5に挿入してドアフレーム溝部5に装着した後、ドアガラス4を介在させた時の断面図である。ガラスラン10は、底壁20、車外側側壁30と車内側側壁40を基本骨格とし、チャンネル状(断面が略コ字形)に形成されている。底壁20と車外側側壁30、車内側側壁40の連結部は、車外側及び車内側の溝部21、21により自由状態で展開可能に連結されている。
【0023】
底壁20は、略板状に形成され、ドアガラス側面22、ドアフレーム溝部側面23、車外側面24と車内側面25を有している。ドアガラス側面22には、複数本の底壁凹部26が長手方向に連続して平行に形成されている。又、底壁20の厚さは、溝部21で底壁20と車外側側壁30を屈曲させた時に、底壁20において、車外側面24が車外側側壁30の車内側に当接可能な厚さに形成した。
【0024】
車内側側壁40の車内側には、底壁20との連結部近傍と車内側側壁40の先端部方向に車内側保持リップ43と当接リブ44が形成されている。車内側保持リップ43と当接リブ44は、湾曲部を有するドアフレーム溝部5に、湾曲部分を挟んで当接する。又、湾曲部には車内側側壁40の車内側が当接する。又、車内側側壁40の先端部分には、カバーリップ45が形成されている。
【0025】
車内側シールリップは、車内側側壁40の車外側面から延設される第1車内側シールリップ41と、第1車内側シールリップ41より底壁20側に形成された第2車内側シールリップ42を有している。第1車内側シールリップ41と第2車内側シールリップ42は、共に底壁20側に延設されている。第2車内側シールリップ42は、ドアガラス4の車内側面への押圧力を高くするために、第1車内側シールリップ41より厚く形成されている。
【0026】
又、第2車内側シールリップ42と底壁20との間には、第2車内側シールリップ42の車内側面方向であり、第2車内側シールリップ42の付根部方向に、斜めに突出してサブリップ46が形成されている。サブリップ46は、第2車内側シールリップ42の車内側面に当接する。
【0027】
車外側側壁30の車内側には、ドアガラス4の車外側面に当接する車内側硬質部34が形成されている。車内側硬質部34は、車外側側壁本体部33より硬度が高い。又、車内側硬質部34は、底壁20と車外側側壁30の連結部分の溝部21の近傍まで延設されている。
【0028】
車内側硬質部34は、車内側硬質部34が形成されていない領域より車内側に突出して形成されている。これにより、車内側硬質部34をドアガラス4に確実に摺接させることができる。車外側側壁30に形成した車外側側壁本体部33より硬度が高い車内側硬質部34にドアガラス4を摺接させることにより、ドアガラス4と車内側硬質部34との剛性差が小さくなり、インピーダンスマッチングによりドアガラス4の振動を車内側硬質部34に効率的に流して散逸させることができ、風切音による騒音を低減することができる。
【0029】
車内側硬質部34の車内側表面には、複数本の凸状のリブ36が長手方向に連続して平行に形成されている。リブ36は、ドアガラス4の昇降時に車内側硬質部34に埃、チリや異物などが噛み込まれ、それに伴う異音の発生を防止する。
【0030】
車外側側壁30の車外側側壁先端部37には、ドアガラス4方向であり、底壁20とは反対側に向けてカバーリップ38が形成されている。カバーリップ38はドアガラス4の車外側面に当接し、雨水や埃の車内側硬質部34への侵入を抑制すると共に車内側硬質部34の劣化を防止する。又、ドアガラス4とのシール性を向上させる。カバーリップ38の付け根部分には、車外側に向けて係止部39が形成され、ピラーガーニッシュ6の端部を固定する。
【0031】
車外側側壁30の車外側には、底壁20との連結部近傍に、ドアフレーム溝部5に係止される車外側保持リップ31が形成されている。車外側保持リップ31は、ガラスラン10をドアフレーム溝部5に装着した時に、先端部が折れ曲るようにドアフレーム溝部5に当接する。
【0032】
又、車外側側壁30の車外側の車外側保持リップ31より先端部側には、ドアフレーム3のヘミング加工されていないドアフレーム溝部5の領域に当接する凸部32が形成されている。
【0033】
又、車外側側壁30の車外側には、ヘミング加工されたドアフレーム3に当接する部分から凸部32を含む領域に、車外側側壁本体部33より硬度が高い車外側硬質部35が形成されている。したがって、車外側側壁30の車外側は、車外側硬質部35がドアフレーム3、ドアフレーム溝部5に面で当接している。このため、ドアガラス4とドアフレーム3との間に車外側側壁本体部33の車内外側を車内側硬質部34と車外側硬質部35で挿まれた車外側側壁30を挟み込むことになり、車外側側壁30の剛性を増加させることができる。その結果、ドアガラス4の振動エネルギーをインピーダンスマッチングにより効率的に車外側側壁30に伝達し、車外側側壁30、すなわち、ガラスラン10の高い減衰で散逸させることができる。
【0034】
本実施形態において、車内側硬質部34と車外側硬質部35を除くガラスラン10は、IRHD(国際ゴム硬さ)が80±5のオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用し、車内側硬質部34と車外側硬質部35は、IRHDが100±5のTPOを使用し、押出成形によって作製した。
【0035】
図3に示すように、車内側硬質部34は、底壁20と車外側側壁30の連結部分の溝部21の近傍まで延設され、底壁20の車外側面24は、車外側側壁30の車内側硬質部34を含む車外側側壁30に面で当接している。したがって、ガラスラン10をドアフレーム3に装着する時、底壁20の車外側面24が車外側側壁30の車内側硬質部34に当接し、車外側側壁30が車内側に倒れ込むことを抑制することができる。なお、車内側硬質部34が、底壁20と車外側側壁30の連結部分の溝部21の近傍まで延設されておらず、底壁20の車外側面24が車外側側壁30の車外側側壁本体部33とのみ当接する場合は、当接部近傍で車外側側壁30が車内側に倒れ込む変形が発生するので好ましくない。一方、
図3において、底壁20の車内側面25は、車内側側壁40に当接していない。車内側側壁40は、車外側側壁30より柔軟性、伸張性を有しているので、ドアフレーム溝部5の曲率に追従することができるからである。
【0036】
したがって、上記の構造を有するガラスラン10により、インピーダンスマッチングによる風切音による騒音の低減効果を維持しつつ、ドアフレーム3のドアフレーム溝部5にガラスラン10を装着した時に、車外側側壁30が車内側に倒れ込むことを抑制することができる。
【0037】
本発明の実施形態において、ガラスラン10を構成する材料としては、ゴム、熱可塑性エラストマー、軟質合成樹脂等で形成することができる。ゴムの場合は、EPDM(エチレンプロピレンジエンゴム)が、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)や動的架橋型熱可塑性エラストマー(TPV)が耐候性、リサイクル、コスト等の観点から望ましい。
【0038】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0039】
上記の実施形態は、第3の押出成形部13の場合であるが、ドアフレーム3の横枠部に対応する第1の押出成形部11、前側の縦辺部に対応する第2の押出成形部12にも適用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1 フロントドア
2 ドア本体
3 ドアフレーム
10 ガラスラン
20 底壁
24 車外側面
30 車外側側壁
32 凸部
33 車外側側壁本体部
34 車内側硬質部
35 車外側硬質部
40 車内側側壁
41 車内側シールリップ