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特開2024-99198車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099198
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/1755 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B60T8/1755 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023002964
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 満憲
【テーマコード(参考)】
3D246
【Fターム(参考)】
3D246BA02
3D246DA01
3D246EA18
3D246GA08
3D246GB05
3D246HA02A
3D246HA08A
3D246LA02Z
(57)【要約】
【課題】車両の旋回状態における前輪の接地荷重の急減を抑制できる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムによれば、その1つの態様において、ブレーキ操作部の解除操作に関する信号を取得したとき、車両の操舵角に関する物理量が、所定の舵角閾値より小さい場合は、制動装置にて発生させた制動力を、第1減少勾配で減少させ、前記車両の操舵角に関する物理量が、前記舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、前記第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるための制動指令を出力する。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によるブレーキ操作部の操作によって車輪に対して制動力を発生させる制動装置を備える車両に設けられた車両制御装置であって、
前記車両制御装置が備えるコントロール部は、
前記ブレーキ操作部の解除操作に関する信号を取得したとき、
前記車両の操舵角に関する物理量が、所定の舵角閾値より小さい場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、第1減少勾配で減少させ、
前記車両の操舵角に関する物理量が、前記舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、前記第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるための制動指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記制動装置にて発生させた制動力を前記第2減少勾配で減少させているときに、前記運転者によるアクセル操作部の加速操作に関する情報を取得した場合は、
前記制動装置にて発生させた制動力を前記第1減少勾配で減少させるように前記制動指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記車両の速度が所定の速度閾値より小さい場合は、前記車両の操舵角に関する物理量の大きさに関係なく、前記制動装置にて発生させた制動力を前記第1減少勾配で減少させるように前記制動指令を出力する、
車両制御装置。
【請求項4】
運転者によるブレーキ操作部の操作によって車輪に対して制動力を発生させる制動装置を備える車両に設けられたコントロールユニットが実行する車両制御方法であって、
前記コントロールユニットが、
前記ブレーキ操作部の解除に関する信号を取得したとき、
前記車両の操舵角に関する物理量が、所定の舵角閾値より小さい場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、第1減少勾配で減少させ、
前記車両の操舵角に関する物理量が、前記舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、前記第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるための制動指令を出力する、
車両制御方法。
【請求項5】
運転者によるブレーキ操作部の操作によって車輪に対して制動力を発生させる制動装置と、
前記制動装置を制御するコントロールユニットであって、
前記ブレーキ操作部の解除に関する信号を取得したとき、
車両の操舵角に関する物理量が、所定の舵角閾値より小さい場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、第1減少勾配で減少させ、
前記車両の操舵角に関する物理量が、前記舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、前記第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるための制動指令を出力する、
前記コントロールユニットと、
を備える、車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の車両用ブレーキ装置は、4個の車輪の各回転をそれぞれ抑制する車輪回転抑制手段と、車両全体として必要な制動力を、4個の車輪の各々に、それら車輪の各々の接地荷重に応じた比率で配分する制動力配分決定手段と、少なくとも制動力配分決定手段により決定された制動力比率に基づいて車輪回転抑制手段の各々を制御する制御手段とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05-050914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両がワインディングロード(Winding Road)を走行する場合、運転者は、ブレーキペダルからアクセルペダルへの早い踏み替え動作が必要となる場合がある。
しかし、車両の旋回状態においてブレーキペダルからアクセルペダルへの踏み替え動作が早く行われると、車両の前輪の接地荷重が急減することで、車両の姿勢変化が大きくなるという課題があった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の旋回状態における前輪の接地荷重の急減を抑制できる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムによれば、その1つの態様において、ブレーキ操作部の解除操作に関する信号を取得したとき、車両の操舵角に関する物理量が、所定の舵角閾値より小さい場合は、制動装置にて発生させた制動力を、第1減少勾配で減少させ、前記車両の操舵角に関する物理量が、前記舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合は、前記制動装置にて発生させた制動力を、前記第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるための制動指令を出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の旋回状態における前輪の接地荷重の急減を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両制御システムを示すブロック図である。
図2】減少勾配制御のプロセスを示す機能ブロック図である。
図3】減少勾配制御のオンオフによるブレーキ液圧(制動力)の減少勾配の違いを示す線図である。
図4】操舵角θと第1レシオR1との相関を示す線図である。
図5】車速VSと第2レシオR2との相関を示す線図である。
図6】アクセル開度AOと第3レシオR3との相関を示す線図である。
図7】減少勾配制御のオンオフによる前輪の接地荷重の違いを示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、車両100に搭載される車両制御システム110の一態様を示す図である。
車両100は、左右一対の前輪101,102及び左右一対の後輪103,104を有する4輪自動車である。
車両制御システム110は、制動装置200と、車両制御装置300とを備える。
【0010】
制動装置200は、運転者によるブレーキ操作部の操作によって車輪101-104に対して制動力を発生させる。
制動装置200は、ブレーキ操作部としてのブレーキペダル210と、各車輪101-104に配置したブレーキアクチュエータ221-224と、ブレーキ制御装置230と、ブレーキ液圧センサ240と、ブレーキスイッチ250とを有する。
【0011】
ブレーキアクチュエータ221-224は、たとえば、図示を省略した液圧発生装置から供給される液圧によって制動力を発生する液圧式のブレーキアクチュエータである。
ブレーキ制御装置230は、マイクロコンピュータを備えた電子制御装置であって、液圧発生装置からブレーキアクチュエータ221-224に供給される液圧を制御する。
なお、ブレーキアクチュエータ221-224は、液圧式に限定されず、たとえば、モータの駆動により摩擦力を発生する電動キャリパなどであってもよい。
【0012】
ブレーキ液圧センサ240は、ブレーキアクチュエータ221-224に供給されるブレーキ液圧BP[Pa](換言すれば、ブレーキパッドの押圧力若しくは制動力)を検出する。
ブレーキスイッチ250は、ブレーキペダル210の操作を検出するセンサであり、運転者がブレーキペダル210を踏み込んだとき、換言すれば、運転者が制動力を発生させる制動操作を実施したときにオンとなり、運転者がブレーキペダル210の踏み戻しを行なったとき、換言すれば、運転者がブレーキペダル210の制動操作を解除したときにオフとなる。
【0013】
なお、車両制御システム110は、ブレーキペダル210のストローク量(換言すれば、踏み込み量)を検出するブレーキペダルセンサの出力から、運転者によるブレーキペダル210の制動操作の有無が判断することができる。
詳細には、車両制御システム110は、ブレーキペダルセンサの出力と閾値とを比較することで、ブレーキペダル210が制動操作されているか否かを示すフラグであるブレーキオンオフフラグを設定し、ブレーキオンオフフラグに基づき、運転者による制動操作の有無が判断することができる。
【0014】
車両制御装置300は、マイクロコンピュータ310を備えた電子制御装置である。
マイクロコンピュータ310は、MPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
そして、マイクロコンピュータ310は、後述するように、運転者がブレーキペダル210の踏み戻し(換言すれば、制動の解除操作)を行なったときに、制動力の減少勾配を制御するための制御指令を出力するコントロール部として機能する。
【0015】
また、車両100は、車両100が備える操舵装置を構成するステアリングホイール400(換言すれば、操舵操作部材)の回転角から前輪101,102の操舵角θ[deg]を検出する操舵角センサ410、車両100の走行速度(以下、車速VS[km/h]と称する。)を検出する車速センサ500、運転者が操作するアクセル操作部としてのアクセルペダル600の踏み込み量に相当するアクセル開度AO[%]を検出するアクセル開度センサ610を備える。
なお、操舵角センサ410は、前輪101,102の切れ角を、操舵角として検出するセンサとすることができる。
【0016】
マイクロコンピュータ310は、ブレーキ液圧センサ240が出力するブレーキ液圧信号BP、ブレーキスイッチ250のオンオフ信号、操舵角センサ410が出力する操舵角θ(換言すれば、操舵角θに関する物理量)の信号、車速センサ500が出力する車速VSの信号、アクセル開度センサ610が出力するアクセル開度AOの信号を取得する。
そして、マイクロコンピュータ310は、ブレーキスイッチ250のオンオフ信号からブレーキペダル210の踏み戻し操作を検知したときに(換言すれば、ブレーキ操作部の解除操作に関する信号を取得したときに)、操舵角θが所定の舵角閾値以上であることを少なくとも実施条件として、制動装置200にて発生させた制動力の減少勾配を標準よりも小さくする減少勾配制御を実施する。
【0017】
図2は、マイクロコンピュータ310による減少勾配制御のプロセスを示す機能ブロック図である。
マイクロコンピュータ310は、運転者操作検出部311、ブレーキ圧減衰部312、レシオ設定部313、介入制御部314の各機能部を有し、これらにより減少勾配制御(換言すれば、本発明に係る車両制御方法)を実行する。
【0018】
運転者操作検出部311は、ブレーキ液圧センサ240からブレーキ液圧信号BPを取得し、ブレーキスイッチ250のオンオフ信号を取得する。
そして、運転者操作検出部311は、運転者がブレーキペダル210を踏み戻して制動操作を解除したタイミングを、ブレーキスイッチ250がオンからオフに切り替わったタイミングとして検出する。
【0019】
なお、車両100がブレーキペダル210の踏み込み量(換言すれば、ブレーキペダル210の操作量)を検出するブレーキセンサを備える場合、運転者操作検出部311は、ブレーキペダル210の踏み込み量と閾値との比較によって、運転者によるブレーキペダル210の制動操作、解除操作を検出することができる。
運転者操作検出部311は、運転者がブレーキペダル210を解除操作したタイミングを検知すると、そのときに、ブレーキ液圧センサ240が出力するブレーキ液圧信号BPをサンプリングして、運転者がブレーキペダル210を解除操作したタイミングでのブレーキ液圧BPC(換言すれば、制動力)を求める。
【0020】
ブレーキ圧減衰部312は、運転者操作検出部311が検出した、運転者がブレーキペダル210を解除操作したタイミングでのブレーキ液圧信号BPCを取得する。
そして、ブレーキ圧減衰部312は、運転者がブレーキペダル210を解除操作したタイミングでのブレーキ液圧信号BPCを初期値として、時間経過に応じて所定の第2減少勾配で減少するブレーキ液圧指示値BP2を設定する。
【0021】
ここで、ブレーキ圧減衰部312における第2減少勾配は、マイクロコンピュータ310が減少勾配制御を実施しないときのブレーキ液圧BPの減少勾配である第1減少勾配(換言すれば、標準の減少勾配)より小さくなるように適合されている(第1減少勾配>第2減少勾配)。
つまり、ブレーキ圧減衰部312は、運転者がブレーキペダル210を解除操作したタイミングからの制動力の減少変化が、減少勾配制御を実施しないときに比べて緩やかになるように、ブレーキ液圧指示値BP2を設定する。
【0022】
図3は、マイクロコンピュータ310が減少勾配制御を実施しないときのブレーキ液圧BPの変化と、ブレーキ圧減衰部312が設定するブレーキ液圧指示値BP2の変化とを対比するタイムチャートである。
マイクロコンピュータ310が減少勾配制御を実施しない場合、運転者がブレーキペダル210を解除操作すると、ブレーキ液圧BPは所定の第1減少勾配で急減する。
つまり、マイクロコンピュータ310は、減少勾配制御を実施しない場合、第1減少勾配で減少するブレーキ液圧指示値BP1を、ブレーキ制御装置230に与えることになる。
【0023】
これに対し、ブレーキ圧減衰部312が設定するブレーキ液圧指示値BP2は、減少速度が減少勾配制御を実施しない場合に比べて遅く設定され、より緩やかに減少変化する。
このように、マイクロコンピュータ310の減少勾配制御は、運転者によるブレーキペダル210の解除操作に伴うブレーキ液圧BPの低下を鈍化させる制御である。
【0024】
レシオ設定部313は、操舵角センサ410からステアリングホイール400の操舵角θの信号を取得し、車速センサ500から車速VSの信号を取得し、さらに、アクセル開度センサ610からアクセル開度AOの信号を取得する。
そして、レシオ設定部313は、取得した各種信号に基づいて、減少勾配制御の介入を制御するためのレシオ、詳細には、ブレーキ圧減衰部312が設定するブレーキ液圧指示値BP2の適用割合を設定する。
【0025】
レシオ設定部313は、操舵角θの信号に基づいて第1レシオR1を設定し、車速VSの信号に基づいて第2レシオR2を設定し、アクセル開度AOの信号に基づいて第3レシオR3を設定する。
なお、第1レシオR1、第2レシオR2、及び第3レシオR3は、最小値である0以上、かつ、最大値である1.0以下の値に設定される。
【0026】
ここで、R1、R2、R3=0は、減少勾配制御を介入させない指令、つまり、ブレーキペダル210の解除操作に対して、ブレーキ液圧BPを第1減少勾配で減少させる指令、換言すれば、ブレーキ液圧指示値BP1の選択指令である。
一方、R1、R2、R3=1.0は、減少勾配制御を介入させる指令、つまり、ブレーキペダル210の解除操作に対して、ブレーキ液圧BPを第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させる指令、換言すれば、ブレーキ液圧指示値BP2の選択指令である。
【0027】
図4は、操舵角θ[deg]の絶対値と第1レシオR1との相関を例示する線図である。
第1レシオR1は、操舵角θの絶対値が第1舵角閾値θTH1(θTH1>0)より小さいときは零に設定され、操舵角θの絶対値が第1舵角閾値θTH1以上でかつ第2舵角閾値θTH2(0<θTH1<θTH2)未満のときは操舵角θの絶対値の増大に比例して増加し、操舵角θの絶対値が第2舵角閾値θTH2になったときに最大値である1.0に達し、操舵角θの絶対値が第2舵角閾値θTH2以上で1.0を保持する。
たとえば、第1舵角閾値θTH1は10deg程度の値であり、第2舵角閾値θTH2は20deg程度の値である。
【0028】
操舵角θに基づく第1レシオR1は、車両100が旋回状態でマイクロコンピュータ310の減少勾配制御を介入させるためのレシオであって、第1舵角閾値θTH1は、車両100が旋回状態であるか否かを区別するための閾値である。
そして、レシオ設定部313は、操舵角θの絶対値が第1舵角閾値θTH1より小さく、車両100が旋回状態ではないと判断される状態では、第1レシオR1を零に設定することで、減少勾配制御を介入させないようにする。
つまり、第1レシオR1は、操舵角θが所定の舵角閾値より小さい場合、制動装置200にて発生させた制動力を第1減少勾配で減少させるように設定される。
【0029】
さらに、レシオ設定部313は、操舵角θの絶対値が第1舵角閾値θTH1以上になると、操舵角θの絶対値が大きくなるにつれて第1レシオR1を大きくすることで、減少勾配制御の非介入状態から減少勾配制御の介入状態へと遷移させる。
つまり、第1レシオR1は、操舵角θが、所定の舵角閾値になる、または前記舵角閾値より大きくなる場合、制動装置200にて発生させた制動力を、第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるように設定される。
【0030】
図5は、車速VS[km/h]と第2レシオR2との相関を例示する線図である。
第2レシオR2は、車速VSが第1車速閾値VSTH1(VSTH1>0)より低いときは零に設定され、車速VSが第1車速閾値VSTH1以上でかつ第2車速閾値VSTH2(0<VSTH1<VSTH2)未満であるときは車速VSの増大に比例して増加し、車速VSが第2車速閾値VSTH2になったときに最大値である1.0に達し、車速VSが第2車速閾値VSTH2以上で1.0を保持する。
たとえば、第1車速閾値VSTH1(第1速度閾値)は20km/h程度の値であり、第2車速閾値VSTH2(第2速度閾値)は30km/h程度の値である。
【0031】
車速VSに基づく第2レシオR2は、車両100の走行状態でマイクロコンピュータ310の減少勾配制御を介入させるためのレシオであって、第1車速閾値VSTH1は、車両100が通常の走行状態であるか、停車状態若しくは極低速走行状態であるかを区別するための閾値である。
そして、レシオ設定部313は、車速VSが第1車速閾値VSTH1より低く、減少勾配制御の介入が有効となる車両100の走行状態ではないと判断される状態では、第2レシオR2を零に設定することで、減少勾配制御を介入させないようにする。
つまり、第2レシオR2は、車速VSが所定の車速閾値より小さい場合、制動装置200にて発生させた制動力を第1減少勾配で減少させるように設定される。
【0032】
さらに、レシオ設定部313は、車速VSが第1車速閾値VSTH1以上になると、車速VSが大きくなるにつれて第2レシオR2を大きくすることで、減少勾配制御の非介入状態から減少勾配制御の介入状態へと遷移させる。
つまり、第2レシオR2は、車速VSが、所定の車速閾値になる、または前記車速閾値より大きくなる場合、制動装置200にて発生させた制動力を、第1減少勾配より小さい第2減少勾配で減少させるように設定される。
【0033】
図6は、アクセル開度AO[%]と第3レシオR3との相関を例示する線図である。
第3レシオR3は、アクセル開度AOが零であるときには最大値である1.0に設定され、アクセル開度AOが零からアクセル開度閾値AOTH(AOTH>0)になるまでの間でアクセル開度AOの増大に比例して減少し、アクセル開度AOがアクセル開度閾値AOTHになったときに零に達し、アクセル開度AOがアクセル開度閾値AOTH以上で零に保持される。
たとえば、アクセル開度閾値AOTHは、5%程度の値である。
【0034】
アクセル開度AOに基づく第3レシオR3は、運転者によるアクセルペダル600の加速操作があったときに減少勾配制御をキャンセルしてブレーキ液圧BPを速やかに減衰させるためのレシオであって、アクセル開度閾値AOTHは、運転者によるアクセルペダル600の加速操作の有無を区別するための閾値である。
そして、レシオ設定部313は、アクセル開度AOがアクセル開度閾値AOTHより大きく、運転者が加速操作(アクセルペダル600の踏み込み)を行なったと認められるときに、第3レシオR3を零に設定することで、減少勾配制御を介入させないようにする。
【0035】
さらに、レシオ設定部313は、アクセル開度AOが零から大きくなるにつれて、第3レシオR3を小さくすることで、減少勾配制御の介入状態から減少勾配制御の非介入状態へと遷移させる。
つまり、第3レシオR3は、制動装置200にて発生させた制動力を第2減少勾配で減少させているときに、運転者によるアクセル操作部の加速操作に関する情報を取得した場合、制動装置200にて発生させた制動力を第1減少勾配で減少させるように設定される。
【0036】
レシオ設定部313は、上記のようにして設定した第1レシオR1、第2レシオR2、及び第3レシオR3を乗算して、最終的なレシオR(R=R1×R2×R3)を求め、レシオRの信号、つまり、減少勾配制御を介入させるか否かを指示する信号を、介入制御部314に出力する。
ここで、最終的なレシオRは、第1レシオR1、第2レシオR2、第3レシオR3のうちの少なくとも1つが零であるときに零、換言すれば、減少勾配制御の非介入指示となる。
【0037】
また、第1レシオR1、第2レシオR2、第3レシオR3の全てが1であるときに1、換言すれば、減少勾配制御の介入指示となる。
さらに、最終的なレシオRは、第1レシオR1、第2レシオR2、第3レシオR3の全てが零よりも大きく、かつ、第1レシオR1、第2レシオR2、第3レシオR3のうちの少なくとも1つが1.0より小さいときに、0より大きくかつ1.0より小さい値、つまり、減少勾配制御の非介入と減少勾配制御の介入との間での遷移指示となる。
【0038】
介入制御部314は、ブレーキ制御装置230に出力する4輪の制動指令としてのブレーキ液圧指示値BPTGを、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号に応じて変更することで、減少勾配制御の介入、非介入を切り替える機能部である。
そして、ブレーキ制御装置230は、介入制御部314から取得したブレーキ液圧指示値BPTGに応じて、ブレーキペダル210の解除操作が実施された後のブレーキ液圧BPを制御する。
【0039】
ここで、介入制御部314は、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号が1であるときは、ブレーキ圧減衰部312が求めた、第2減少勾配で減少するブレーキ液圧指示値BP2を、そのままブレーキ制御装置230へのブレーキ液圧指示値BPTGとして出力する。
換言すれば、介入制御部314は、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号が1であるときは、減少勾配制御の介入をブレーキ制御装置230に指示する。
【0040】
一方、介入制御部314は、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号が零であるときは、ブレーキ圧減衰部312が求めたブレーキ液圧指示値BP2のブレーキ制御装置230への出力を停止し、ブレーキ液圧を第1減少勾配(標準の減少勾配)で減少させる指示、換言すれば、第1減少勾配で減少するブレーキ液圧指示値BP1を、ブレーキ制御装置230にブレーキ液圧指示値BPTGとして出力する。
換言すれば、介入制御部314は、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号が零であるときは、減少勾配制御の非介入をブレーキ制御装置230に指示する。
【0041】
さらに、介入制御部314は、レシオ設定部313から取得したレシオRの信号が零よりも大きく1.0よりも小さいときは、ブレーキ液圧指示値BPTGを、第2減少勾配で減少する指示値BP2と、第1減少勾配で減少する指示値BP1との間で、レシオRの信号に応じて変化させる。
つまり、介入制御部314は、レシオRの信号が零に近いほど、ブレーキ制御装置230に出力する指示値BPTGを、第1減少勾配(標準の減少勾配)で減少する指示値BP1に近づけ、レシオRの信号が1.0に近いほど、ブレーキ制御装置230に出力する指示値BPTGを、第2減少勾配で減少する指示値BP2に近づける。
【0042】
たとえば、操舵角θに基づく第1レシオR1が1.0で、かつ、車速VSに基づく第2レシオR2が1.0で、かつ、アクセル開度AOに基づく第3レシオR3が1.0である状態から、運転者がアクセルペダル600を踏み込むと、ブレーキ制御装置230に出力されるブレーキ液圧指示値BPTGは、アクセルペダル600の踏み込み量の増大に応じて、第2減少勾配で減少する指示値BP2から第1減少勾配で減少する指示値BP1へと徐々に遷移する。
【0043】
そして、アクセル開度AOがアクセル開度閾値AOTHにまで増加すると、第3レシオR3が零になって最終的なレシオRもゼロになることで、ブレーキ制御装置230に出力されるブレーキ液圧指示値BPTGは、第1減少勾配で減少する指示値BP1となり、減少勾配制御の介入は解除される。
つまり、車両100が旋回走行中であって、運転者がアクセルペダル600の加速操作を行っていないときに、ブレーキペダル210の踏み戻し(解除操作)が実施されると、ブレーキ液圧BPの減少勾配を緩くする減少勾配制御が介入され、係る減少勾配制御の介入状態でアクセルペダル600の加速操作などが実施されると、減少勾配制御の非介入状態に遷移される。
【0044】
上記のように、車両制御装置300のマイクロコンピュータ310は、車両100の旋回走行中に、運転者がブレーキペダル210の解除操作を行ったときに、ブレーキ液圧BPの減少勾配を能動的に緩やかにする減少勾配制御を実施する。
係る減少勾配制御によって、ブレーキ液圧BP、つまり、制動力の急減が抑制されることで、前輪101,102の接地荷重が急減することが抑制されるため、ブレーキペダル210の解除操作に伴う車両姿勢の変化を抑えることができる。
【0045】
したがって、車両100がワインディングロードなどを走行するときに、運転者が、ブレーキペダル210からアクセルペダル600への踏み替えを素早く行っても、車両姿勢が乱れることが抑止され、車両100の旋回走行における安定性が向上する。
また、減少勾配制御が介入している状態で、アクセルペダル600の踏み込み(換言すれば、加速操作)が実施されると、車両制御装置300は、ブレーキ液圧BPを第1減少勾配で速やかに減少させるので、運転者による加速操作に対する加速応答が、制動力の減少が遅れることで鈍くなることを抑止できる。
【0046】
図7は、運転者がブレーキペダル210の制動操作を解除したときの減少勾配制御の介入の有無による、ブレーキ液圧BP(制動力)の違い、及び、前輪101,102の接地荷重の違いを示すタイムチャートである。
時刻t1にて、運転者がブレーキペダル210の解除操作を行なうと、その後、ブレーキ液圧BP(制動力)が減少変化することになるが、減少勾配制御が介入することで、ブレーキ液圧の減少変化が緩やかになる。
【0047】
そして、減少勾配制御によってブレーキ液圧BPの減少変化が緩やかになることで、前輪101,102の接地荷重の減少が抑制される。
つまり、ブレーキペダル210の解除操作に伴う車両姿勢の変化が抑えられ、車両100の旋回走行における安定性が向上する。
【0048】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0049】
上記実施形態では、車両制御装置300は、減少勾配制御を4輪全てに適用するが、車両制御装置300は、車両状態や走行状態などに応じて減少勾配制御を適用する車輪を選択することができ、たとえば、減少勾配制御を適用する車輪を旋回内側の車輪に限定することができる。
また、上記実施形態において、車両制御装置300は、操舵角θ、車速VS、アクセル開度AOの変化に対してレシオRを徐々に変化させるが、減少勾配制御を介入させるか否かに応じてレシオRを1又は零のいずれか一方に設定し、レシオRのステップ的な切り替わりに対して、ブレーキ液圧の指示値を、応答遅れを有して変化させることができる。
【0050】
また、車両制御装置300は、減少勾配制御で適用する第2減少勾配を、ブレーキペダル210の解除操作が行われたときの減速度、ブレーキ液圧(制動力)などに応じて可変に設定することができる。
ここで、車両制御装置300は、ブレーキペダル210の解除操作が行われたときの減速度或いはブレーキ液圧(制動力)が大きいときほど、第2減少勾配をより小さい勾配に変更する。
【0051】
また、ブレーキ操作部、アクセル操作部は、ブレーキペダル210、アクセルペダル600に限定されず、車両100は、ブレーキ操作部及び/又はアクセル操作部として、運転者が手動で操作する手動操作部を備えることができる。
さらに、手動操作部は、たとえば、手前に引くとアクセル、前方へ押すとブレーキが作動する(換言すれば、手前に引く操作が加速操作となり、前方へ押す操作が制動操作となる)コントロールグリップのように、ブレーキ操作部とアクセル操作部とを兼ねる操作部とすることができる。
【0052】
また、車両制御装置300は、車速VSに基づく第2レシオR2の設定と、アクセル開度AOに基づく第3レシオR3の設定との少なくとも一方を省略することができる。
また、車両制御装置300は、たとえば、運転者が運転モードとしてスポーツモードを選択しているときに減少勾配制御を実施し、前記スポーツモードが選択されていないときは減少勾配制御をキャンセルすることができる。
また、車両制御装置300は、ブレーキ制御装置230の機能を兼ね備えることができる。換言すれば、ブレーキ制御装置230は、車両制御装置300の減少勾配制御機能を備えることができる。
【符号の説明】
【0053】
100…車両、101-104…車輪、200…制動装置、210…ブレーキペダル(ブレーキ操作部)、230…ブレーキ制御装置、300…車両制御装置、310…マイクロコンピュータ(コントロールユニット)、600…アクセルペダル(アクセル操作部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7