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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099230
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】油分抽出装置、および、油分抽出方法
(51)【国際特許分類】
   C11B 1/14 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
C11B1/14
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003024
(22)【出願日】2023-01-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-04
(71)【出願人】
【識別番号】504073908
【氏名又は名称】株式会社実践環境研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【弁理士】
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100227732
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 祥二
(72)【発明者】
【氏名】水野 久
【テーマコード(参考)】
4H059
【Fターム(参考)】
4H059BC12
4H059CA16
4H059CA96
4H059CA97
(57)【要約】
【課題】 油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置において、油脂植物に含まれる油分を効率的に抽出する技術を提供する。
【解決手段】 油分抽出装置は、水蒸気が流れる流路を有し、流路を流れる水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する管状発熱体と、管状発熱体によって生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する抽出部と、を備え、管状発熱体は、流路の幅に対する流路の長さの比が、45以上1500以下である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置であって、
水蒸気が流れる流路を有し、前記流路を流れる水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する管状発熱体と、
前記管状発熱体によって生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する抽出部と、を備え、
前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が、45以上1500以下である、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路の幅が15mm以上100mm以下であり、
前記流路の長さが4.5m以上20m以下である、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、導電性材料から形成されており、
前記油分抽出装置は、さらに、
電源と、
前記電源が供給する電気を降圧する降圧器と、を備え、
前記管状発熱体は、前記降圧器によって降圧された電気が供給されることで発熱する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路を形成する管状部と、
前記管状部の内側に設けられ、内側の内周面から突出する突出部と、を備える、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、前記抽出部を囲むように配置されている、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油脂植物としての植物の種子から、油分を抽出する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油分が抽出された油脂植物の残渣として、炭素を主成分とする固体物を生成する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項8】
油脂植物から油分を抽出する油分抽出方法であって、
管状発熱体に形成されている流路に水蒸気を供給する第1の工程と、
前記第1の工程で供給された水蒸気を前記管状発熱体で加熱することで、過熱蒸気を生成する第2の工程と、
前記第2の工程で生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物から油分を抽出する第3の工程と、を備え、
前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が45以上1500以下である、
ことを特徴とする油分抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油分抽出装置、および、油分抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置が知られている。例えば、特許文献1には、パーム椰子から油分を抽出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-191084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のような先行技術によっても、油分抽出装置において、油脂植物に含まれる油分を効率的に抽出する技術については、なお、改善の余地があった。例えば、特許文献1に開示されている技術では、パーム椰子を各部に分離したのち、分離された各部の状態に適した圧搾を行うことで油分を抽出する。しかしながら、各部の状態に適した圧搾であっても油分を取りきることは困難であり、例えば、熱処理のためのエネルギが必要となる。このため、油脂植物に含まれる油分を効率的に抽出する方法が求められていた。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置において、油脂植物に含まれる油分を効率的に抽出する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置が提供される。この油分抽出装置では、水蒸気が流れる流路を有し、前記流路を流れる水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する管状発熱体と、前記管状発熱体によって生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する抽出部と、を備え、前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が、45以上1500以下である。
【0008】
この構成によれば、油分抽出装置は、管状発熱体によって生成される過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する。管状発熱体は、流路の幅に対する流路の長さの比が45以上1500以下となっているため、流路の一方の入口から流入する水蒸気が加熱されて生成される過熱蒸気は、さらに加熱されて膨張する。流路を流れる過熱蒸気は、流路の他方の入口に向かう方向にしか熱膨張できないため、過熱蒸気の水分子の移動速度が大きくなりやすい。移動速度が大きい高速の水分子を含む過熱蒸気が抽出部において油脂植物に接触すると、油脂植物は、過熱蒸気によって加熱されるとともに、高速の水分子によって表面に穴が形成される。これにより、油脂植物の内部に含まれる油分が気化すると、油脂植物から放出されやすくなる。したがって、油脂植物の油分を効率的に抽出することができる。
【0009】
(2)上記形態の油分抽出装置において、前記管状発熱体は、前記流路の幅が15mm以上100mm以下であり、前記流路の長さが4.5m以上20m以下であってもよい。この構成によれば、管状発熱体の流路は、非常に細長い形状を有している。これにより、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなるため、油脂植物の表面に穴が形成されやすくなる。したがって、油脂植物の油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0010】
(3)上記形態の油分抽出装置において、前記管状発熱体は、導電性材料から形成されており、前記油分抽出装置は、さらに、電源と、前記電源が供給する電気を降圧する降圧器と、を備え、前記管状発熱体は、前記降圧器によって降圧された電気が供給されることで発熱してもよい。この構成によれば、管状発熱体は、降圧器によって降圧された電気が供給されると発熱する。同じ電力が管状発熱体に供給される場合、低電圧の方が、電流値が大きい電気が管状発熱体に供給されるため、管状発熱体の発熱量は、電流値の2乗に比例して大きくなる。これにより、過熱蒸気の温度が上昇しやすくなるため、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなる。したがって、油脂植物の表面に穴が形成されやすくなるため、油脂植物の油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0011】
(4)上記形態の油分抽出装置において、前記管状発熱体は、前記流路を形成する管状部と、前記管状部の内側に設けられ、内側の内周面から突出する突出部と、を備えてもよい。この構成によれば、管状発熱体は、管状部の内側に、内側の内周面から突出するように形成される突出部を備える。これにより、管状発熱体の熱が、流路を流れる水蒸気および過熱蒸気に伝わりやすくなるため、過熱蒸気が生成されやすく、かつ、過熱蒸気の温度が上昇しやすくなる。したがって、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなるため、油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0012】
(5)上記形態の油分抽出装置において、前記管状発熱体は、前記抽出部を囲むように配置されていてもよい。この構成によれば、管状発熱体は、抽出部を囲むように配置されているため、管状発熱体で発生する熱を利用して、抽出部内の油脂植物を加熱することができる。これにより、抽出部内の油脂植物を加熱するためのエネルギが節約できるため、油脂植物からの油分の抽出に必要なエネルギを低減することができる。
【0013】
(6)上記形態の油分抽出装置において、前記抽出部は、油脂植物としての植物の種子から、油分を抽出してもよい。この構成によれば、抽出部は、外殻が比較的固いため、内部に含まれる油分を抽出しにくい、植物の種子から油分を抽出する。抽出部では、過熱蒸気に含まれる高速の水分子を用いて、種子の外殻に穴を形成することができるため、種子の内部に含まれる油分を容易に抽出することができる。したがって、植物の種子に含まれる油分を効率的に抽出することができる。
【0014】
(7)上記形態の油分抽出装置において、前記抽出部は、油分が抽出された油脂植物の残渣として、炭素を主成分とする固体物を生成してもよい。この構成によれば、抽出部では、油分が抽出された油脂植物の残渣が発生する。この油脂植物の残渣は、効率的に油分が抽出されているため、内部に残っている油分の量が比較的少なく、炭素が主成分となっている。これにより、抽出部で生成される油脂植物の残渣は、炭素を主成分とする固体物となるため、例えば、吸着材の原料にするなど、再利用することができる。
【0015】
(8)本発明の別の形態によれば、油脂植物から油分を抽出する油分抽出方法が提供される。この油分抽出方法は、管状発熱体に形成されている流路に水蒸気を供給する第1の工程と、前記第1の工程で供給された水蒸気を前記管状発熱体で加熱することで、過熱蒸気を生成する第2の工程と、前記第2の工程で生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物から油分を抽出する第3の工程と、を備え、前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が45以上1500以下である。この構成によれば、第3の工程では、管状発熱体によって生成される過熱蒸気によって油脂植物が加熱される。管状発熱体は、流路の幅に対する流路の長さの比が45以上1500以下となっている。これにより、第2の工程では、水蒸気が加熱されて生成される過熱蒸気は、さらに加熱されて、流路の他方の入口に向かう方向に膨張するため、過熱蒸気の水分子の移動速度が大きくなりやすい。したがって、管状発熱体で生成された過熱蒸気を用いて油脂植物を加熱すると、油脂植物は、加熱されつつ、高速の水分子によって油脂植物の表面に穴が形成されるため、内部の油分が外部に放出されやすくなり、油脂植物の油分を効率的に抽出することができる。
【0016】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、管状発熱体を含む装置、油分抽出装置を含むシステム、これら装置およびシステムの制御方法、これら装置およびシステムにおいて油脂植物からの油分の抽出を実行させるコンピュータプログラム、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の油分抽出装置の構成の概略を示す模式図である。
図2】第1実施形態の管状発熱体の配置を説明する模式図である。
図3】第1実施形態の管状発熱体の断面図である。
図4】第2実施形態の油分抽出装置の構成の概略を示す模式図である。
図5】第2実施形態の油分抽出装置の部分断面図である。
図6】第2実施形態の管状発熱体の第1の断面図である。
図7】第2実施形態の管状発熱体の第2の断面図である。
図8】第2実施形態の管状発熱体の第3の断面図である。
図9】第2実施形態の油分抽出部の構造を説明する模式図である。
図10】第2実施形態の油分抽出装置の変形例の構成の概略を示す模式図である。
図11】第2実施形態の油分抽出部の変形例の構造を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の油分抽出装置1の構成の概略を示す模式図である。第1実施形態の油分抽出装置1は、油脂植物から油分を抽出するために用いられる。本実施形態では、油分抽出装置1は、油脂植物、例えば、特に油分の含有量が多いジャトロファの種子から、油分を抽出する。油分抽出装置1は、油分抽出部10と、水蒸気生成部20と、管状発熱体30と、分離部40と、電源部50と、制御部60と、を備える。なお、油分抽出装置1において油分が抽出される油脂植物の種類は、綿実、大豆、サフラワ、なたね、亜麻、蓖麻、はぜ、オリーブ、胡麻、椿、落花生、パーム椰子、アブラヤシ、ココヤシ、コーヒー、ひまわりなどの種子であってもよい。また、油分抽出装置1において油分が抽出される油脂植物の部分は、種子に限定されず、茎、葉、根、殻などを含んでもよい。1種類の油脂植物を単独で使用してもよいし、2種類以上の油脂植物を混合して使用してもよい。
【0019】
油分抽出部10は、過熱蒸気を用いて油脂植物から油分を抽出する。本実施形態の油分抽出部10は、いわゆる、バッチ式の処理炉であって、中空の炉本体部11と、油脂植物を炉本体部11の炉内11aに投入するための投入口12と、油脂植物から油分を抽出した後に炉内11aに残る固体物を外部に排出するための排出口13と、を備える。油分抽出部10では、投入口12から炉内11aに投入される油脂植物(図1に示す白抜き矢印Mj)は、炉内11aにおいて、過熱蒸気によって加熱されることで含有する油分が気化し、抽出される。油脂植物から気化した油分は、後述する分離部40に送られる。油分が抽出された油脂植物の残渣(固体物)は、排出口13から排出される(図1に示す白抜き矢印Rd)。
【0020】
水蒸気生成部20は、例えば、LNGを燃料とする燃焼ボイラであって、図示しない水供給部から供給される液体の水を加熱し、水蒸気を生成する。本実施形態では、水蒸気生成部20が生成する水蒸気は、飽和水蒸気となっている。水蒸気生成部20が生成する水蒸気は、水蒸気供給管21を通って、管状発熱体30に供給される。
【0021】
管状発熱体30は、管状の部材であって、通電によって熱を発生可能な導電性材料、例えば、ニッケル70%-クロム25%をベースとする金属である、インコネル(登録商標)やハステロイ(登録商標)から形成されている。管状発熱体30は、水蒸気生成部20から供給される水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する。
【0022】
図2は、管状発熱体30の配置を説明する模式図である。管状発熱体30は、内側に、水蒸気生成部20が生成する水蒸気が流れる流路30aが形成されている。管状発熱体30は、後述する電源部50から供給される電気が流れることで発熱する。これにより、流路30aを流れる水蒸気が管状発熱体30自身の熱によって加熱され、過熱蒸気となる。本実施形態では、図2に示すように、管状発熱体30は、炉本体部11を囲むように配置されている。これにより、電気が流れることで発生する管状発熱体30の熱が炉本体部11に伝わり、炉本体部11の温度を上昇させたり、炉本体部11を高温で維持したりすることができる。なお、炉本体部11に、管状発熱体とは別の発熱体を設けることによって、過熱蒸気と組み合わせて、油脂植物を加熱してもよい。
【0023】
本実施形態では、管状発熱体30は、流路30aの幅Wに対する流路30aの長さの比が45以上1500以下となっている。また、管状発熱体30は、流路30aの幅Wが15mm以上100mm以下であり、流路30aの一方の開口30bから他方の開口30cまでの長さが4.5m以上20m以下となっている。なお、管状発熱体30の流路30aの幅Wに対する流路30aの長さの比は、90以上700以下が好ましく、流路30aの幅が、15mm以上50mm以下であり、流路30aの長さが、4.5m以上10m以下となることが好ましい。管状発熱体30では、水蒸気生成部20で生成された水蒸気が、流路30aの一方の開口30bから流路30aに流入し、管状発熱体30の形状に沿って流れる(図2の白抜き矢印F1,F2,F3)。管状発熱体30の形状に沿って流れる水蒸気は、管状発熱体30の熱によって加熱され、過熱蒸気となる。本実施形態では、過熱蒸気は、過熱蒸気となった後も流路30aを流れている間、加熱され続けるため、熱膨張する。このとき、過熱蒸気は、流路30aの他方の開口30cに向かう方向にしか膨張できないため、過熱蒸気の水分子の移動速度が大きくなり、高速化する。高速の水分子を含む過熱蒸気は、流路30aの他方の開口30cから炉内11aに流入する(図2の白抜き矢印F4)。
【0024】
図3は、管状発熱体30の断面図である。管状発熱体30は、流路30aを形成する管状部31と、管状部31の内側に設けられ、内側の内周面31aから突出するように形成される複数の突出部32と、を備える、管状部31は、図3に示すように、水蒸気が流れる方向、すなわち、管状部31の中心軸C31に垂直な断面形状が円環状となるように形成されている。複数の突出部32のそれぞれは、内周面31aから管状部31の中心軸C31に向かって突出するよう形成されている。本実施形態では、突出部32のそれぞれは、管状部31の中心軸C31から見て中心角が90度となる間隔で設けられている。これにより、断面が真円の流路に比べ、管状発熱体30と流路30aを流れる水蒸気との接触面積が大きくなるため、流路30aを流れる水蒸気が加熱されやすくなる。なお、管状発熱体30は、突出部32を有していなくてもよい。
【0025】
分離部40は、例えば、冷却塔であって、中空筒状に形成されており、油分輸送管41を介して、油分抽出部10に接続されている。分離部40の内部には、冷却水が循環する冷却水パイプ42が設けられている。分離部40は、油分抽出部10の炉本体部11に接続されており、炉内11aで発生した、油脂植物の油分や水の混合物(気体状態)が冷却塔の上部から内部に送られる。分離部40では、気体状態の混合物が冷却水パイプ42に接触することで液化し、図1に示すように、冷却塔の下部に液体状態でたまる。このとき、油分と水とは比重によって分離するため、油分Ocと水Wtとして分離され、回収することができる。回収した油分Ocに複数の成分が含まれる場合には、さらに蒸留などによって分離してもよい。なお、炉内11aで発生した気体状態の混合物を処理する方法は、これに限定されない。
【0026】
油分輸送管41には、フィルタ43が設けられている。フィルタ43には、リン酸とカルシウムとを含む燐灰石(アパタイト)が収容されている。本実施形態では、フィルタ43には、アパタイトの一種であるハイドロキシアパタイト(Ca10(PO46(OH)2)が収容されている。ハイドロキシアパタイトは、例えば、ホタテの貝殻など生体由来のアパタイトであって、複数の物質が混ざり合っているものに含まれる酸成分を吸着または吸収し、除去することが可能である。これにより、油分抽出部10から分離部40に送られる気体状の混合物に含まれる酸成分を混合物から除去することができるため、分離部40において回収される油分の酸性度を低下させることができる。なお、フィルタ43には、油分輸送管41における気体状の混合物の流れに対してアパタイトの上流側に、気体状の混合物に含まれる水分を吸着除去するための吸着材が収容されていてもよい。これにより、フィルタ43は、気体状の混合物に含まれる酸ヒュームを除去することも可能となるため、分離部40において回収される油分の酸性度をさらに低下させることができる。
【0027】
電源部50は、電源51と、降圧器52と、を備える。電源51は、例えば、電圧が200Vの電気を供給する。降圧器52は、電源51が供給する電気の電圧を、例えば、200Vから40Vに降圧する。これにより、管状発熱体30には、例えば、40Vの電気が供給されるが、電源51が出力する電力に着目すると、降圧することで、管状発熱体30には、200Vの電気が供給される場合に比べ、5倍の電流が流れることとなる。これにより、管状発熱体30における発熱量は、電流値の2乗に比例することから、同じ電力でも発熱量は増大する。したがって、電源51が供給する電気の電圧を降圧器52によって降圧することで、管状発熱体30の発熱量を大きくすることができる。
【0028】
制御部60は、ROM、RAM、および、CPUを含んで構成されるコンピュータである。制御部60は、主に、油分抽出部10と、水蒸気生成部20と、電源部50と、に電気的に接続している。制御部60は、油分抽出装置1全体の制御を行う。具体的には、水蒸気生成部20における水蒸気の発生量を制御するとともに、油分抽出部10の炉本体部11に投入する油脂植物の投入量を制御しつつ、図示しない温度センサを用いて、炉内11aの温度を管理する。また、制御部60は、電源部50によって管状発熱体30に供給される電力を調整する。
【0029】
次に、本実施形態の油脂植物からの油分の抽出方法を説明する。本実施形態の油分抽出方法は、油分抽出装置1の操作者による開始の指示によって実行可能である。
【0030】
最初に、制御部60からの指令に応じて、水蒸気生成部20が飽和水蒸気を生成する。生成された飽和水蒸気は、管状発熱体30の流路30aに送られる。管状発熱体30では、電源部50が供給する電気が流れると抵抗加熱によって熱が発生する。水蒸気生成部20から送られる水蒸気は、管状発熱体30の流路30aの一方の開口30bから流路30aに流入すると、管状発熱体30の熱によって加熱され、過熱蒸気になる。このとき、過熱蒸気は、管状発熱体30の流路30aを流れる途中でさらに加熱されるため、温度が、例えば、350℃から900℃程度まで、好ましくは、500℃から800℃程度まで、上昇する。流路30aを流れる過熱蒸気中の水分子は、流路30aの他方の開口30cの方向にしか熱膨張することができないため、移動速度が急激に大きくなり、高速化する。
【0031】
油分抽出部10では、投入口12から炉本体部11に油脂植物が投入される。その後、流路30aの他方の開口30cから放出される過熱蒸気が炉内11aに導入される。炉本体部11は、炉内11aに導入される過熱蒸気と、炉本体部11を囲むように配置されている管状発熱体30自身の熱によって加熱され、炉内11aの温度が、例えば、350℃から400℃程度となる。これにより、加熱される油脂植物に含まれる油分は気化しやすくなる。さらに、本実施形態では、炉内11aの油脂植物は、過熱蒸気の高速の水分子が衝突することで表面に穴が形成されるため、気化しやすくなっている油脂植物に含まれる油分は、油脂植物の表面に形成された穴を通って、油脂植物の外部に放出されやすい。本実施形態では、炉内11aの温度を調節することで、油脂植物から放出される油分を、例えば、軽油、灯油、重油、タールとなるように、調整することができる。なお、本実施形態では、炉内11aには過熱蒸気が充満するため、炉内11aは低酸素雰囲気となり、油脂植物から放出される油分が燃焼することはない。また、油脂植物は、過熱蒸気によって加熱されると、油脂植物に含まれる水分が蒸発し気化するため、必然的に乾燥される。したがって、油脂植物からの油分の抽出処理において、前処理として、油脂植物をあらかじめ乾燥しておく必要がなくなり、油分の抽出処理にかかるコストや時間を節約することができる。
【0032】
油脂植物から放出される油分は、炉内11aの水蒸気とともに、気体状態の混合物として、油分輸送管41を通って、分離部40に送られる。このとき、油分輸送管41を通る気体状態の混合物に含まれる酸成分は、フィルタ43によって除去される。分離部40は、気体状態の混合物を冷却することで、比重によって油分と水とに分離する。油分に複数の成分が含まれる場合には、分離部40は、さらに、成分ごとに分離する。また、油分が抽出された油脂植物の残渣(固体物)は、油脂植物からの油分の抽出処理後に、例えば、重力によって排出される。炉内11aから排出される固体物は、油分が比較的多く抜けているため、主成分が炭素となっている。本実施形態の油分抽出装置1では、炉内11aから排出される固体物は、炭素の含有量が、例えば、60%以上となっている。これにより、炉内11aから排出される固体物を活性炭などの吸着材の原料とするなどの再利用が可能である。また、本実施形態では、上述した炉内11aの温度を調整することで、炉内11aから排出される固体物に、タールなどの油分を意図的に残すことも可能である。これにより、炉内11aから排出される固体物を固体燃料として利用したり、残っているタールを用いて固体物に賦活処理を施したりすることができる。
【0033】
以上説明した、本実施形態の油分抽出装置1によれば、管状発熱体30によって生成される過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する。管状発熱体30は、流路30aの幅Wに対する流路30aの長さの比が45以上1500以下となっているため、流路30aの一方の開口30bから流入する水蒸気が加熱されて生成される過熱蒸気は、さらに加熱されて膨張する。流路30aを流れる過熱蒸気は、流路30aの他方の開口30cに向かう方向にしか熱膨張できないため、過熱蒸気の水分子の移動速度が大きくなりやすい。移動速度が大きい高速の水分子を含む過熱蒸気が油分抽出部10において油脂植物に接触すると、油脂植物は、過熱蒸気によって加熱されるとともに、高速の水分子によって表面に穴が形成される。これにより、油脂植物の内部に含まれる油分は、気化すると油脂植物から放出されやすくなる。したがって、油脂植物の油分を効率的に抽出することができる。
【0034】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、管状発熱体30の流路30aは、幅Wが15mm以上100mm以下であって、長さが4.5m以上20m以下となっており、非常に細長い形状を有している。これにより、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなるため、油脂植物の表面に穴が形成されやすくなる。したがって、油脂植物の油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0035】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、管状発熱体30は、降圧器52によって降圧された電気が供給されることで発熱する。管状発熱体30は、降圧器52を介して供給される電源51からの電気が流れることで起こる抵抗加熱によって熱を発生する。これにより、比較的安価に過熱蒸気を生成することができるため、油分抽出装置1のランニングコストを低減することができる。また、同じ電力が管状発熱体30に供給される場合、低電圧の方が、電流値が大きい電気が管状発熱体30に供給されるため、管状発熱体30の発熱量は、電流値の2乗に比例して大きくなる。これにより、過熱蒸気の温度が上昇しやすくなるため、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなる。したがって、油脂植物の表面に穴が形成されやすくなるため、油脂植物の油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0036】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、管状発熱体30は、管状部31の内側に、内側の内周面31aから突出するように形成される複数の突出部32を備える。これにより、管状発熱体30の熱が、流路30aを流れる水蒸気および過熱蒸気に伝わりやすくなるため、過熱蒸気が生成されやすく、かつ、過熱蒸気の温度が上昇しやすくなる。したがって、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなるため、油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0037】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、管状発熱体30は、炉本体部11を囲むように配置されている。これにより、管状発熱体30の熱を利用して、炉内11aの油脂植物を加熱することができる。したがって、炉内11aの油脂植物を加熱するためのエネルギが節約できるため、油脂植物からの油分の抽出に必要なエネルギを低減することができる。
【0038】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、油分抽出部10は、外殻が比較的固いため、内部に含まれる油分を抽出しにくい油脂植物である、例えば、ジャトロファの種子から油分を抽出する。油分抽出部10では、過熱蒸気に含まれる高速の水分子を用いて、油脂植物の外殻に穴を形成することができるため、油脂植物の内部に含まれる油分を容易に抽出することができる。したがって、油脂植物に含まれる油分を効率的に抽出することができる。
【0039】
また、本実施形態の油分抽出装置1によれば、油分抽出部10では、油分が抽出された油脂植物の残渣が発生する。この油脂植物の残渣は、高速の水分子を含む過熱蒸気によって油分が抽出されているため、炭素が主成分となっており、残っている油分の量が比較的少ない。これにより、油分抽出部10から排出される油脂植物の残渣は、炭素を主成分とする固体物となっているため、例えば、活性炭の原料にするなどにして、再利用することができる。
【0040】
また、本実施形態の油分抽出方法によれば、油分抽出部10において、流路30aの幅Wに対する流路30aの長さの比が45以上1500以下となっている管状発熱体30によって生成される過熱蒸気によって油脂植物が加熱される。管状発熱体30で生成される過熱蒸気に含まれる水分子の移動速度は大きくなりやすいため、管状発熱体30で生成された過熱蒸気と油脂植物とを接触させると、油脂植物には、高速の水分子によって表面に穴が形成される。これにより、内部の油分が外部に放出されやすくなるため、油脂植物の油分を効率的に抽出することができる。
【0041】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態の油分抽出装置の概略構成を示す模式図である。第2実施形態の油分抽出装置2は、第1実施形態の油分抽出装置1(図1)と比較すると、抽出部の構成と管状発熱体の形状および配置が異なる。
【0042】
第2実施形態の油分抽出装置2は、油分抽出部70と、水蒸気生成部20と、複数の管状発熱体80と、分離部40と、電源部50と、制御部60と、を備える。油分抽出装置2は、ジャトロファの種子などの油脂植物に対して、連続的に油分抽出を行うことが可能な装置である。
【0043】
油分抽出部70は、過熱蒸気を用いて、油脂植物から油分を抽出する。本実施形態の油分抽出部70は、いわゆる、連続式の処理炉であって、中空の炉本体部71と、油脂植物を炉本体部71の炉内71aに投入するための投入口72と、油脂植物から油分を抽出した後に炉内71aに残る固体物を外部に排出するための排出口73と、を備える。炉本体部71は、図4に示すように、投入口72側の端部から排出口73側の端部にかけて低くなるように、傾斜して配置されている。投入口72を介して炉本体部71内に投入される油脂植物Mjは、排出口73に向かって移動する。なお、図4では、各部の大きさの関係は、説明の都合上、実際の大きさの関係とは異なっている。
【0044】
図5は、本実施形態の油分抽出装置2の部分断面図である。炉本体部71は、両端が閉塞されている筒形状を有しており、炉内71aには撹拌ばね74が収容されている。撹拌ばね74は、回転(図5に示す白抜き矢印R1)することにより、炉内71aの油脂植物Mjを撹拌し、炉内71aに供給される過熱蒸気と油脂植物Mjとの接触の機会を増やす。また、撹拌ばね74は、回転することで、炉内71aの油脂植物Mjを排出口73に向けて押し出すことも可能である。
【0045】
本実施形態の油分抽出装置2は、6本の管状発熱体80を備える。6本の管状発熱体80のそれぞれには、水蒸気生成部20が生成する水蒸気が流れる流路80aが形成されている。本実施形態の油分抽出装置2では、図5に示すように、流路80aの断面形状が異なる3種類の管状発熱体80を2本ずつ備えている。6本の管状発熱体80のそれぞれは、水蒸気生成部20と、電源部50とのそれぞれと個別に接続されている。制御部60は、6本の管状発熱体80のそれぞれについて、水蒸気生成部20が供給する水蒸気量と、電源部50が供給する電気量とのそれぞれを調整可能である。管状発熱体80では、水蒸気生成部20が生成する水蒸気は、流路80aの一方の開口80bから他方の開口30cに向かって流れる(図4参照)。管状発熱体80は、電源部50から供給される電気が流れることで発熱する。これにより、流路80aを流れる水蒸気が管状発熱体80自身の熱によって加熱され、過熱蒸気となる。6本の管状発熱体80のそれぞれにおいて生成される過熱蒸気は、合流し、炉本体部71の排出口73側の端部から、炉内71aに供給される。
【0046】
本実施形態では、6本の管状発熱体80のそれぞれは、流路80aの幅Wに対する流路80aの長さの比が45以上1500以下となっている。また、6本の管状発熱体80のそれぞれは、流路80aの幅Wが15mm以上100mm以下であり、流路80aの一方の開口80bから他方の開口80cまでの長さが4.5m以上20m以下となっている。なお、管状発熱体80における流路80aの幅Wに対する流路80aの長さの比は、90以上700以下が好ましく、流路80aの幅が、15mm以上50mm以下であり、流路80aの長さが、4.5m以上10m以下となることが好ましい。本実施形態では、6本の管状発熱体80のそれぞれは、炉本体部71の長手方向に沿って外壁71bに近接するように、直線形状を有している。本実施形態では、6本の管状発熱体80のそれぞれは、隣接する管状発熱体80に対して等間隔となるように、配置されている。すなわち、6本の管状発熱体80は、炉本体部71を囲むように配置されている。6本の管状発熱体80のそれぞれに電気が流れることで発生する熱が炉本体部71に伝わり、炉本体部71の温度を上昇させたり、炉本体部71を高温で維持したりすることができる。なお、炉本体部71の外壁71bに近接するように配置される管状発熱体80の本数は、6本に限定されない。油分抽出部70の処理能力に応じて、例えば、1本から15本まで増減させることが可能である。
【0047】
図6は、管状発熱体80の第1の断面図である。図6は、油分抽出装置2が備える3種類の管状発熱体80のうちの1つの管状発熱体80の断面図を示している。図6に示す管状発熱体80は、流路80aを形成する管状部81を備える。管状部81は、水蒸気が流れる方向、すなわち、管状部81の中心軸C81に垂直な断面形状が、図6に示すように、円環状となるように形成されている。
【0048】
図7は、管状発熱体80の第2の断面図である。図7は、油分抽出装置2が備える3種類の管状発熱体80のうち、図6に示す管状発熱体80とは異なる管状発熱体80の断面図を示している。図7に示す管状発熱体80は、流路80aを形成する管状部81と、管状部81の内側に設けられ、内側の内周面81aから突出するように形成される6つの突出部82と、を備える。6つの突出部82のそれぞれは、管状部81の中心軸C81に垂直な断面において、略円弧状となるように形成されており、内周面81aから管状部81の中心軸C81に向かって突出している。本実施形態では、突出部82のそれぞれは、管状部81の中心軸C81から見て中心角が60度となる間隔で設けられている。管状発熱体80は、図7に示すような管状発熱体80の中心軸C81に垂直な断面において、管状部81の内周面81aのうち、突出部82が設けられていない露出面81aeの合計の長さと、突出部82が設けられている設置面81asの合計の長さとの比が、一対一となっている。これにより、流路80aを流れる水蒸気が加熱されやすくなる。なお、露出面81aeの合計の長さと、設置面81asの合計の長さとの比である一対一は、厳密な意味での一対一だけでなく、一見して一対一に見える場合も含まれる。
【0049】
図8は、管状発熱体80の第3の断面図である。図8は、油分抽出装置2が備える3種類の管状発熱体80のうち、図6および図7に示す管状発熱体80とは異なる管状発熱体80の断面図を示している。図8に示す管状発熱体80は、流路80aを形成する管状部81と、管状部81の内側に設けられ、内側の内周面81aから突出するように形成される3つの突出部83と、を備える。3つの突出部83のそれぞれは、図8に示す管状部81の中心軸C81に垂直な断面において、先端に行くほど先細る略三角形状となるように形成されており、内周面81aから管状部81の中心軸C81に向かって突出している。本実施形態では、突出部83のそれぞれは、管状部81の中心軸C81から見て中心角が120度となる間隔で設けられている。なお、隣接する突出部83の間隔は、120度に限定されず、0度より大きく180度以下であってもよい。
【0050】
第2実施形態の油分抽出装置2が備える6本の管状発熱体80は、図6から図8に示すように、流路80aの断面形状が異なっている。しかしながら、複数の管状発熱体80において、流路80aの断面形状が同じであってもよい。例えば、本実施形態において、6本の管状発熱体80のそれぞれの流路80aの断面形状が図6の形状であってもよいし、図7の形状であってもよい。また、上述したように、油分抽出部70の処理能力に応じて、管状発熱体80の本数を1本から15本まで増減させる場合も同様に、全ての管状発熱体80の流路80aのそれぞれの断面形状が同じあってもよいし、図5に示すように、異なっていてもよい。
【0051】
図9は、本実施形態の油分抽出部70の構造を説明する模式図である。炉本体部71の炉内71aには、炉内71aを複数の空間に仕切る仕切り板75が設けられている。仕切り板75には、図9に示すように、油脂植物Mjが通ることが可能な切り欠き75aが形成されている。例えば、油脂植物Mjがジャトロファの種子である場合、油脂植物は、球形状に近い形状を有しているため、炉内71aを移動するとき、重力によって転がりやすく、炉内71aでの滞留時間が短くなるおそれがある。本実施形態では、炉内71aに複数の仕切り板75を設けることで、油脂植物Mjの白抜き矢印F5の方向への移動を一定程度抑制し、炉内71aでの滞留時間を稼ぐことができる。
【0052】
以上説明した、本実施形態の油分抽出装置2によれば、流路80aの幅Wに対する流路80aの長さの比が45以上1500以下となっている管状発熱体80によって生成される過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する。管状発熱体80によって生成される過熱蒸気に含まれる水分子は、移動速度が大きくなるため、移動速度が大きい高速の水分子を含む過熱蒸気と油脂植物とが油分抽出部70において接触すると、油脂植物には、高速の水分子によって表面に穴が形成される。これにより、油脂植物の内部に含まれる油分が気化すると油脂植物から放出されやすくなる。したがって、油脂植物の油分を効率的に抽出することができる。
【0053】
また、本実施形態の油分抽出装置2によれば、6本の管状発熱体80の一部は、管状部81の内側に内周面81aから突出するように形成される複数の突出部82,83を備える。これにより、管状発熱体80の熱が、流路80aを流れる水蒸気および過熱蒸気に伝わりやすくなるため、過熱蒸気の温度が上昇しやすい。したがって、過熱蒸気の水分子の移動速度がさらに大きくなるため、油分をさらに効率的に抽出することができる。
【0054】
また、本実施形態の油分抽出装置2によれば、6本の管状発熱体80のそれぞれは、直線形状を有しており、炉本体部71の長手方向に沿って外壁71bに近接するように、配置されている。すなわち、6本の管状発熱体80が炉本体部71を囲むように配置されている。これにより、6本の管状発熱体80の熱を利用して、炉内71aの油脂植物を加熱することができるため、油脂植物からの油分の抽出に必要なエネルギを低減することができる。
【0055】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0056】
[変形例1]
油分抽出装置1,2において、油分を抽出することができる油脂植物は、ジャトロファの種子以外にも、綿実、大豆、サフラワ、なたね、亜麻、蓖麻、はぜ、オリーブ、胡麻、椿、落花生、パーム椰子、アブラヤシ、ココヤシ、コーヒー、ひまわりなどの油脂植物の種子であってもよい。また、油脂植物の茎、葉、根、殻などであってもよい。さらに、1種類の油脂植物を単独で使用してもよいし、2種類以上の油脂植物を混合して使用してもよい。
【0057】
[変形例2]
上述の実施形態では、管状発熱体30,80は、導電性材料から形成されており、電源部50から供給される電気が流れることで発熱するとした。しかしながら、管状発熱体30,80を発熱させる方法はこれに限定されない。ただし、上述の実施形態のように、管状発熱体に電気が流れることで起こる抵抗加熱によって熱を発生させることで、油分抽出装置のランニングコストをさらに低減させることができる。また、管状発熱体30,80は、インコネル(登録商標)やハステロイ(登録商標)から形成されているとしたが、管状発熱体を形成する材料は、これに限定されない。
【0058】
[変形例3]
上述の実施形態では、管状発熱体30,80のそれぞれは、管状部31,81のそれぞれの内側に設けられ、内側の内周面31a,81aのそれぞれから突出する突出部32,82,83を備えるとした。突出部32,82,83はなくてもよい。また、第1実施形態では、管状発熱体30は、4つの突出部32を備えるとし、第2実施形態では、管状発熱体80の一部は、6つの突出部82、または、3つの突出部83を備えるとしたが、突出部の数はこれらに限定されない。さらに、管状部31,81は、水蒸気が流れる方向、すなわち、管状部31,81の中心軸に垂直な断面形状が円環状に形成されるとしたが、断面形状は円環状に限定されない。水蒸気および過熱蒸気が流れる流路が形成される環形状であればよい。
【0059】
[変形例4]
第1実施形態では、管状発熱体30は、油分抽出部10を囲むように配置されるとした。第2実施形態では、複数の管状発熱体80は、油分抽出部70を囲むように配置されるとした。管状発熱体30,80のそれぞれは、油分抽出部10,70のそれぞれを囲むように配置されていなくてもよいが、管状発熱体30,80の熱を利用して、油分抽出部10,70内の油脂植物を加熱することができるため、消費エネルギの節約につながる。
【0060】
[変形例5]
第2実施形態では、6本の管状発熱体80のそれぞれは、炉本体部71の外壁71bに沿うように、配置されているとした。しかしながら、炉本体部71に対する管状発熱体80が配置される位置は、これに限定されない。
【0061】
図10は、第2実施形態の油分抽出装置2の変形例の構成の概略を示す模式図である。図10に示す油分抽出装置2の変形例は、5本の管状発熱体80を備えている。5本の管状発熱体80のそれぞれは、炉本体部71の外壁71bに巻き付くように配置されている。図10に示す5本の管状発熱体80のそれぞれは、個別に降圧器52と電気的に接続されており、5本の管状発熱体80のそれぞれの温度を制御することが可能である。これにより、5本の管状発熱体80のそれぞれの温度を調節することで、管状発熱体80の熱によって加熱される炉本体部71内の温度分布を調整することができる。したがって、油脂植物から抽出される油分の質を調整したり、排出口73から排出される固体物の性状を調整したりすることができる。
【0062】
[変形例6]
上述の実施形態では、油分抽出装置1,2は、液体の水を加熱し、水蒸気を生成する水蒸気生成部20を備えるとした。しかしながら、油分抽出装置1,2は、水蒸気生成部を備えていなくてもよい。他の装置において発生する水蒸気を用いて、管状発熱体において過熱蒸気が生成できればよい。
【0063】
[変形例7]
上述の実施形態では、油分抽出装置1,2は、油分抽出部10から分離部40に送られる気体状の混合物に含まれる酸成分を混合物から除去することができるフィルタ43を備えるとした。しかしながら、フィルタ43はなくてもよい。油分抽出装置1,2において、フィルタ43を設けることで、分離部40において回収される油分の酸性度をさらに低下させることができるため、例えば、回収される油分を燃焼器などに利用する際、燃焼器の損傷を抑制することができる。
【0064】
[変形例8]
第2実施形態では、炉本体部71の炉内71aには、撹拌ばね74や仕切り板75が設けられるとした。撹拌ばねや仕切り板はなくてもよい。炉本体部の傾斜を調整したり、撹拌ばねが取り付けられる角度を調整したりするなどして、油脂植物の滞留時間が調整できればよい。
【0065】
[変形例9]
第2実施形態では、炉本体部71は、投入口72側の端部から排出口73側の端部にかけて傾斜するように配置されており、重力によって炉本体部71内に投入される油脂植物を排出口73に移動させるとした。しかしながら、炉本体部71での油脂植物の移動方法は、これに限定されない。
【0066】
図11は、第2実施形態の油分抽出部70の変形例の構造を説明する模式図である。図11に示す油分抽出部70の変形例では、炉本体部71は、傾斜しておらず、投入口72から排出口73にかけて、同じ高さとなっている。図11に示す油分抽出部70の変形例では、撹拌ばね74の代わりに、スクリュ76を備えており、スクリュ76の回転によって、油脂植物Mjは、投入口72から排出口73に向かって移動する(図11の白抜き矢印F6)。これにより、スクリュ76の回転速度を制御することで、炉内71aにおける油脂植物Mjの滞留時間を調整することができる。
【0067】
以上、実施形態、変形例に基づき本態様について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本態様の理解を容易にするためのものであり、本態様を限定するものではない。本態様は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本態様にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【0068】
(適用例1)
油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置であって、
水蒸気が流れる流路を有し、前記流路を流れる水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する管状発熱体と、
前記管状発熱体によって生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する抽出部と、を備え、
前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が、45以上1500以下である、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例2)
適用例1に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路の幅が15mm以上100mm以下であり、
前記流路の長さが4.5m以上20m以下である、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例3)
適用例1または適用例2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、導電性材料から形成されており、
前記油分抽出装置は、さらに、
電源と、
前記電源が供給する電気を降圧する降圧器と、を備え、
前記管状発熱体は、前記降圧器によって降圧された電気が供給されることで発熱する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例4)
適用例1から適用例3のいずれか一例に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路を形成する管状部と、
前記管状部の内側に設けられ、内側の内周面から突出する突出部と、を備える、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例5)
適用例1から適用例4のいずれか一例に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、前記抽出部を囲むように配置されている、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例6)
適用例1から適用例5のいずれか一例に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油脂植物としての植物の種子から、油分を抽出する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例7)
適用例1から適用例6のいずれか一例に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油分が抽出された油脂植物の残渣として、炭素を主成分とする固体物を生成する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
(適用例8)
油脂植物から油分を抽出する油分抽出方法であって、
管状発熱体に形成されている流路に水蒸気を供給する第1の工程と、
前記第1の工程で供給された水蒸気を前記管状発熱体で加熱することで、過熱蒸気を生成する第2の工程と、
前記第2の工程で生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物から油分を抽出する第3の工程と、を備え、
前記管状発熱体は、前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が45以上1500以下である、
ことを特徴とする油分抽出方法。
【符号の説明】
【0069】
1,2…油分抽出装置
10…油分抽出部
30,80…管状発熱体
30a,80a…流路
31,81…管状部
31a,81a…内周面
32,82,83…突出部
51…電源
52…降圧器
Mj…油脂植物
W…(流路の)幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
【手続補正書】
【提出日】2023-05-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂植物から油分を抽出する油分抽出装置であって、
水蒸気を生成する水蒸気生成部と、
前記水蒸気生成部が生成する水蒸気が流れる流路を有し、前記流路を流れる水蒸気を加熱することで過熱蒸気を生成する管状発熱体と、
前記管状発熱体によって生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物を加熱し、油分を抽出する抽出部と、を備え、
前記管状発熱体は
記流路の幅に対する前記流路の長さの比が、90以上1500以下であり、
前記水蒸気生成部が生成する水蒸気が、前記流路の一方の開口から前記流路に流入し、
生成する過熱蒸気が、前記流路の他方の開口から前記抽出部内に流出する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路の幅が15mm以上50mm以下であり、
前記流路の長さが4.5m以上20m以下である、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、導電性材料から形成されており、
前記油分抽出装置は、さらに、
電源と、
前記電源が供給する電気を降圧する降圧器と、を備え、
前記管状発熱体は、前記降圧器によって降圧された電気が供給されることで発熱する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、
前記流路を形成する管状部と、
前記管状部の内側に設けられ、内側の内周面から突出する突出部と、を備える、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記管状発熱体は、前記抽出部を囲むように配置されている、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油脂植物としての植物の種子から、油分を抽出する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載の油分抽出装置であって、
前記抽出部は、油分が抽出された油脂植物の残渣として、炭素を主成分とする固体物を生成する、
ことを特徴とする油分抽出装置。
【請求項8】
油脂植物から油分を抽出する油分抽出方法であって、
水蒸気生成部が生成する水蒸気を管状発熱体に形成されている流路に供給する第1の工程と、
前記第1の工程で供給された水蒸気を前記管状発熱体で加熱することで、過熱蒸気を生成する第2の工程と、
前記第2の工程で生成された過熱蒸気を用いて、油脂植物から油分を抽出する第3の工程と、を備え、
前記管状発熱体は、
前記流路の幅に対する前記流路の長さの比が90以上1500以下であ
前記水蒸気生成部が生成する水蒸気が、前記流路の一方の開口から前記流路に流入し、
生成する過熱蒸気が、前記流路の他方の開口から前記抽出部内に流出する、
ことを特徴とする油分抽出方法。