(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099250
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】車両用変速機
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240718BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 E
F16H57/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003053
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貞弘 真吾
【テーマコード(参考)】
3J063
【Fターム(参考)】
3J063AA01
3J063AA04
3J063AB02
3J063AC04
3J063BB50
3J063CA10
3J063CD41
3J063CD42
3J063XD03
3J063XD17
3J063XD23
3J063XD32
3J063XD42
3J063XD56
3J063XD62
3J063XD72
3J063XD73
3J063XE14
3J063XE15
(57)【要約】
【課題】差動装置のリングギヤにオイルが降りかかることを抑制でき、ギヤ室におけるオイルの撹拌抵抗を減らして車両の燃費を向上させることができる車両用変速機を提供すること。
【解決手段】変速機ケース3には、変速機構6、差動装置10およびオイルポンプ40が収納されるギヤ室8Bと、モータジェネレータ27が収納されるモータ室8Cと、ギヤ室8Bとモータ室8Cとを区画する隔壁50と、が形成されている。隔壁50は、モータジェネレータ27を冷却したオイルをモータ室8Cからギヤ室8Bに排出する排出孔51を有する。隔壁50におけるギヤ室8B側の壁面に、排出孔51の一部を覆う蓋部材52が取り付けられている。蓋部材52の下部は、排出孔51よりも下方に延び、隔壁50から離間して、排出孔51の下方にオイルの排出経路53を形成している。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機構、差動装置およびオイルポンプが収納されるギヤ室と、回転電機が収納されるモータ室と、前記ギヤ室と前記モータ室とを区画する隔壁と、が形成された変速機ケースを備える車両用変速機であって、
前記隔壁は、前記回転電機を冷却したオイルを前記モータ室から前記ギヤ室に排出する排出孔を有し、
前記隔壁における前記ギヤ室側の壁面に、前記排出孔の一部を覆う蓋部材が取り付けられていることを特徴とする車両用変速機。
【請求項2】
前記蓋部材の下部は、前記排出孔よりも下方に延び、前記隔壁から離間して、前記排出孔の下方にオイルの排出経路を形成していることを特徴とする請求項1に記載の車両用変速機。
【請求項3】
前記変速機ケースは、その内周面で軸受を介して前記差動装置を保持する軸受保持部を有し、
前記軸受保持部の外周面の上面に、前記蓋部材とともに前記排出経路を形成する傾斜部が形成され、
前記傾斜部は、前記差動装置から前記オイルポンプに近づくにつれて低くなるように傾斜し、前記排出孔から排出されたオイルを前記オイルポンプに導くことを特徴とする請求項2に記載の車両用変速機。
【請求項4】
前記軸受保持部の外周面の側面であって前記傾斜部の下流側に、前記傾斜部に連続し、かつ、前記オイルポンプに向かって下方に延びる縦壁部が設けられ、
前記オイルポンプが吐出するオイルを前記モータ室に供給するオイルパイプが前記縦壁部に沿って配置されていることを特徴とする請求項3に記載の車両用変速機。
【請求項5】
前記蓋部材は、前記オイルパイプを支持する支持部を有していることを特徴とする請求項4に記載の車両用変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ファイナルギヤが収容される第1油溜まり部と、ファイナルギヤが収容されない第2油溜まり部と、に油溜まり部を仕切る仕切り壁と、少なくとも、ロータ軸の軸受部、入力軸の軸受部及び減速機構に潤滑油を供給する給油路と、吐出ポートが給油路に連結され、吸込みポートが第2油溜まり部に連通されたオイルポンプと、を備える動力伝達装置が記載されている。特許文献1に記載の技術によれば、仕切り壁によって第1油溜まり部から第2油溜まり部への潤滑油の移動がせき止められ、第2油溜まり部は気泡を含まない潤滑油の状態が維持される。このため、気泡の含まれていない潤滑油がオイルポンプによって給油路に供給されるので、キャビテーション不良を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のものは、仕切り壁を設けたことで第1油溜まり部に貯留されるオイルの量が減少することで、リングギヤがオイルを掻き上げることによる撹拌抵抗を低減することはできるが、リングギヤに降りかかるオイルによる撹拌抵抗については十分に検討されていない。このため、仮に、モータを冷却後のオイルが変速機ケースの底部に流下する途中でリングギヤに降りかかるような場合は、リングギヤの撹拌抵抗が増加して燃費が悪化してしまうという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、差動装置のリングギヤにオイルが降りかかることを抑制でき、ギヤ室におけるオイルの撹拌抵抗を減らして車両の燃費を向上させることができる車両用変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明は、変速機構、差動装置およびオイルポンプが収納されるギヤ室と、回転電機が収納されるモータ室と、前記ギヤ室と前記モータ室とを区画する隔壁と、が形成された変速機ケースを備える車両用変速機であって、前記隔壁は、前記回転電機を冷却したオイルを前記モータ室から前記ギヤ室に排出する排出孔を有し、前記隔壁における前記ギヤ室側の壁面に、前記排出孔の一部を覆う蓋部材が取り付けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このように、本発明によれば、差動装置のリングギヤにオイルが降りかかることを抑制でき、ギヤ室におけるオイルの撹拌抵抗を減らして車両の燃費を向上させることができる車両用変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る車両用変速機の背面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る車両用変速機の左側面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る車両用変速機のライトケースの左側面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係る車両用変速機のレフトケースの右側面図である。
【
図7】
図7は、
図4のVII-VII方向の矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施の形態に係る車両用変速機は、変速機構、差動装置およびオイルポンプが収納されるギヤ室と、回転電機が収納されるモータ室と、ギヤ室とモータ室とを区画する隔壁と、が形成された変速機ケースを備える車両用変速機であって、隔壁は、回転電機を冷却したオイルをモータ室からギヤ室に排出する排出孔を有し、隔壁におけるギヤ室側の壁面に、排出孔の一部を覆う蓋部材が取り付けられていることを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用変速機は、差動装置のリングギヤにオイルが降りかかることを抑制でき、ギヤ室におけるオイルの撹拌抵抗を減らして車両の燃費を向上させることができる。
【実施例0010】
以下、本発明の一実施例に係る車両用変速機について、図面を用いて説明する。
図1から
図7は、本発明の一実施例に係る車両用変速機を示す図である。
【0011】
図1から
図7において、上下前後左右方向は、車両に配置された状態の車両用変速機を基準とし、車両の前後方向を前後方向、車両の左右方向(車幅方向)を左右方向、車両の上下方向(車両の高さ方向)を上下方向とする。
【0012】
図1、
図2に示すように、車両の図示しないエンジンルームには内燃機関としてのエンジン1と、エンジン1に連結される自動変速機2とが設けられている。本実施例の自動変速機2は、車両用変速機を構成する。
【0013】
自動変速機2は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両において、横置きに配置されるエンジン1に取付けられている。
【0014】
自動変速機2は、例えば、AMT(Automated Manual Transmission)から構成されている。自動変速機2は変速機ケース3を備えており、変速機ケース3は、レフトケース4とライトケース5を備えている。
【0015】
レフトケース4とライトケース5の合わせ面にはフランジ部4A、5Aが形成されており、レフトケース4とライトケース5は、フランジ部4Aとフランジ部5Aがボルト30Aによって締結されることにより、一体化されている。
【0016】
ライトケース5に関し、レフトケース4側に形成されているフランジ部5Aに対して反対側となるエンジン1側にはフランジ部5Bが形成されており、フランジ部5Bは、図示しないボルトによってエンジン1の図示しないシリンダブロックに締結されている。
【0017】
図3に示すように、ライトケース5には縦壁5Wが設けられている。変速機ケース3は、縦壁5Wによって、図示しない摩擦クラッチを収容するクラッチ室8A(
図1参照)と、変速機構6を収容するギヤ室8B(
図1参照)とに仕切られている。ギヤ室8Bは、レフトケース4とライトケース5とにより形成される。
【0018】
なお、縦壁5Wは、クラッチ室8Aとギヤ室8Bとを仕切る隔壁部分とフランジ部5Bの後方で隔壁に連絡される縦壁部分とを含んで構成されている。
【0019】
ギヤ室8Bには変速機構6および差動装置10が収容されている。差動装置10は、変速機構6の後方に配置されている。
【0020】
図1に示すように、レフトケース4には、変速機構6を上下方向および前後方向から取り囲む円筒状の周壁4Bが設けられている。周壁4Bは左方に膨出している。
【0021】
ライトケース5には、変速機構6を上下方向および前後方向から取り囲む円筒状の周壁5Cが設けられており、周壁5Cの左端部にはフランジ部5Aが形成されている。
【0022】
自動変速機2は、摩擦クラッチを介してエンジン1の駆動力を変速機構6に入力し、同期装置の作動により変速機構6において変速を行い、変速された回転(回転速度)を差動装置10により、図示しない左右のドライブシャフトを介して図示しない左右の駆動輪に伝達する。
【0023】
図3に示すように、変速機構6は、それぞれ平行に延びる入力軸21、カウンタ軸22、リバース軸23および中間軸24を備えている。
【0024】
入力軸21は、摩擦クラッチを介してエンジン1の図示しないクランク軸に連結可能となっており、入力軸21にはエンジン1から摩擦クラッチを介して駆動力が伝達される。
【0025】
カウンタ軸22は、入力軸21よりも後斜め下方に配置されており、リバース軸23は、入力軸21の前斜め下方に配置されている。カウンタ軸22とリバース軸23は略同じ高さ位置に配置されている。
【0026】
入力軸21の左端部には、6速入力ギヤ21Fが設けられている。また、入力軸21には、図示しない1速入力ギヤ、2速入力ギヤ、3速入力ギヤ、4速入力ギヤ、5速入力ギヤおよびリバース入力ギヤが設けられている。
【0027】
カウンタ軸22の左端部には、6速カウンタギヤ22Fが設けられている。また、カウンタ軸22には、1速カウンタギヤ22Aと、図示しない2速カウンタギヤ、3速カウンタギヤ、4速カウンタギヤ、5速カウンタギヤ、リバースカウンタギヤおよびファイナルドライブギヤが設けられている。
【0028】
1速カウンタギヤ22Aから6速カウンタギヤ22Fは、同一の変速段を構成する1速入力ギヤから6速入力ギヤ21Fにそれぞれ常時噛み合っている。
【0029】
リバース軸23にはリバースアイドラギヤ23Aが設けられており、リバースアイドラギヤ23Aは、車両の後進時にリバース軸23に沿って軸方向に移動し、リバース入力ギヤとリバースカウンタギヤに噛み合う。
【0030】
変速機構6には、図示しない1-2速段用の同期装置、3-4速段用の同期装置、5-6速段用の同期装置が設けられている。これらの同期装置およびリバースアイドラギヤ23Aは、図示しないシフトフォークによって操作されることにより、入力軸21上の各入力ギヤ、カウンタ軸22上の各カウンタギヤ、リバース軸23上のリバースアイドラギヤ23Aを介するいずれか1つの所定の変速段を成立させる。
【0031】
AMTとしての自動変速機2には電気式または油圧式の図示しない変速用のアクチュエータとクラッチ用のアクチュエータが設けられている。
【0032】
変速用のアクチュエータは、運転者によって操作される図示しないシフトレバーがリバースポジション、ニュートラルポジションおよびドライブポジションの各ポジションに操作されると、図示しないECU(Electronic Control Unit)から出力される制御信号に基づいて、図示しないシフトアンドセレクト軸をシフト方向およびセレクト方向に操作する。
【0033】
シフトアンドセレクト軸は、セレクト方向に移動したときに、いずれか1つのシフタ軸に係合し、シフト方向に移動したときに係合したシフタ軸を入力軸21の軸方向に移動させて同期装置およびリバースアイドラギヤ23Aを操作することにより、所定の変速段を成立させる。
【0034】
クラッチ用のアクチュエータは、変速時に自動でクラッチを機械的に切断/締結してエンジン1からの駆動力の伝達状態を切り替える。さらに、自動でクラッチを切断/締結するだけでなく、運転者によって図示しないクラッチペダルが踏み込まれると、クラッチを機械的に切断させてエンジン1から入力軸21に入力される駆動力を遮断するようにしてもよい。
【0035】
また、クラッチ用のアクチュエータは、運転者によってクラッチペダルの踏み込みが解除されると、クラッチを機械的に締結してエンジン1から入力軸21に駆動力を伝達可能とするようにしてもよい。
【0036】
差動装置10は、リングギヤ11と、リングギヤ11が固定されたデフケース12とを有している。また、差動装置10は、図示しないピニオンシャフトと、このピニオンシャフトに回転自在に支持された図示しない一対のピニオンギヤと、ピニオンギヤに噛み合う図示しない一対のサイドギヤとを有している。サイドギヤは、それぞれ左右のドライブシャフトに連結されている。
【0037】
差動装置10のリングギヤ11は、カウンタ軸22上のファイナルドライブギヤに噛み合っている。差動装置10は、左右の駆動輪の差動を許容しつつ、ファイナルドライブギヤからリングギヤ11に伝えられた回転を左右の駆動輪に伝達する。
【0038】
中間軸24にはファイナルドライブギヤ24Aと、モータ出力ギヤ24Bとが設けられている。ファイナルドライブギヤ24Aは、モータ出力ギヤ24Bよりも小径に形成されている。中間軸24のファイナルドライブギヤ24Aもカウンタ軸22のファイナルドライブギヤと同様に差動装置10のリングギヤ11と噛み合っている。
【0039】
リングギヤ11の下端部は、1速カウンタギヤ22A等の変速機ケース3に収容されたギヤの中で最も下方に位置している。
【0040】
ライトケース5の周壁5Cの後部には膨出壁5Fが設けられており、膨出壁5Fは、ライトケース5の前側の周壁5Cの上壁5Eよりも上方に湾曲するように膨出している。
【0041】
変速機ケース3の底部にはオイルが貯留されており、リングギヤ11はオイルに浸かっている。このため、車両の前進時にリングギヤ11が
図3の反時計回りに回転すると、リングギヤ11によって掻き上げられたオイルは、矢印O1で示すように、後壁5Iから膨出壁5Fに沿って流れる。
【0042】
ライトケース5の周壁5Cは、上壁5Eおよび膨出壁5Fと、上下方向で上壁5Eおよび膨出壁5Fに対向する下壁5Gと、上壁5Eの前端部と下壁5Gの前端部とに連絡される前壁5Hと、膨出壁5Fの後端部と下壁5Gの後端部とに連絡される後壁5Iとを含んで構成されている。
【0043】
図1に示すように、ライトケース5の後部には筒状の収容部5Dが形成されており、収容部5Dは、縦壁5Wからレフトケース4と離れる方向(右方)に膨出している。収容部5Dの膨出方向の先端部(右端部)は、図示しない軸受を介してデフケース12(
図3参照)の右端部を回転自在に支持している。
【0044】
レフトケース4の外周面の上部には、円筒状のモータ収容壁4Mが設けられている。モータ収容壁4Mは、レフトケース4の周壁4Bの上壁4Eよりも上側で、かつライトケース5の膨出壁5Fよりも上側に湾曲するように膨出している。モータ収容壁4Mの左端部には、ボルト30Gによってモータケース26が取付けられている。
【0045】
モータ収容壁4Mの左端部は、開口端となっており、モータ収容壁4Mの左端部は、モータケース26によって閉塞されている。モータ収容壁4Mの右端部は、隔壁50(
図4参照)により覆われており、この隔壁50およびモータ収容壁4Mとモータケース26とに囲まれた空間は、モータ室8Cとなっている。モータ室8Cには、回転電機としてのモータジェネレータ27が収容されている。
【0046】
図3に示すように、モータジェネレータ27は、その軸線上に、モータ軸27Bと、モータ軸27Bの右端部に設けられたモータ入力ギヤ27Cとを有する。
【0047】
モータ入力ギヤ27Cは、モータ出力ギヤ24Bに噛み合っており、モータジェネレータ27によるモータ走行時、またはエンジン1とモータジェネレータ27とによるハイブリッド走行時に、モータジェネレータ27の駆動力は、モータ入力ギヤ27Cからモータ出力ギヤ24Bを介して中間軸24に伝達される。
【0048】
モータジェネレータ27の駆動力は、中間軸24からファイナルドライブギヤ24Aを介してリングギヤ11に伝達される。
【0049】
また、モータジェネレータ27は、車両減速時に差動装置10のリングギヤ11によって駆動されることにより、図示しないバッテリに充電する電力を生成する発電機としても機能する。
【0050】
図4に示すように、レフトケース4の周壁4Cの後部には膨出壁4Fが設けられており、膨出壁4Fは、周壁4Cの上壁4Eよりも上方に湾曲するように膨出している。
【0051】
レフトケース4の周壁4Cは、上壁4Eおよび膨出壁4Fと、上下方向で上壁4Eおよび膨出壁4Fに対向する下壁4Gと、上壁4Eの前端部と下壁4Gの前端部とに連絡される前壁4Hと、膨出壁4Fの後端部と下壁4Gの後端部とに連絡される後壁4Iとを含んで構成されている。
【0052】
車両の前進時にリングギヤ11が
図4の時計回りに回転すると、リングギヤ11によって掻き上げられたオイルは、ライトケース5(
図3参照)における流れと同様に、矢印O1で示すように、後壁4Iから膨出壁4Fに沿って流れる。ギヤ室8Bの上部には、オイルガター81が設けられている。オイルガター81は、オイルを捕集する捕集部81Aと、捕集したオイルを潤滑必要部位に案内する案内部81Bとを有している。オイルガター81は、リングギヤ11によって掻き上げられて膨出壁4Fに沿って流れたオイルを捕集部81Aによって捕集して一時的に貯留し、案内部81Bによってギヤ室8B内の潤滑必要部位にオイルを案内する。オイルガター81に捕集されるオイルの量は、低車速域においてリングギヤ11の回転速度が小さいときは少なく、高車速域においてリングギヤ11の回転速度が大きいときは多い。
【0053】
レフトケース4の上部には、隔壁50が設けられており、隔壁50は、ギヤ室8Bとモータ室8Cとを区画している。この隔壁50は、レフトケース4の上部におけるモータケース26と軸方向に対向する位置に設けられており、中間軸24およびモータ軸27Bの左端部を回転自在に支持している。
【0054】
隔壁50は、モータジェネレータ27を冷却したオイルをモータ室8Cからギヤ室8Bに排出する排出孔51を有している。
図4に示すように、排出孔51はリングギヤ11に対向するように、リングギヤ11の外径の位置に形成されている。
【0055】
隔壁50におけるギヤ室8B側の壁面には、排出孔51の一部を覆う蓋部材52が取り付けられている。詳細には、隔壁50のギヤ室8B側の壁面であって排出孔51の下部周縁から右側に突出するようにボスを立設し、このボスに排出孔51から軸方向右側に距離をおいて隔壁50と平行となるように蓋部材52が取り付けられている。蓋部材52は、
図4に示す右側面視において、上辺よりも下辺が前後に長い台形に形成されており、排出孔51および排出孔51の下方の隔壁50を覆っている。
【0056】
ギヤ室8Bの底部には機械式のオイルポンプ40が収納されている。オイルポンプ40は、差動装置10のリングギヤ11と噛み合って回転する入力ギヤ40A(
図5参照)を有しており、車両走行に伴って回転するリングギヤ11から伝達された動力によって作動する。
【0057】
自動変速機2はオイル供給油路47を備えており、オイル供給油路47は、モータジェネレータ27を冷却するオイルをオイルポンプ40からモータ室8Cに供給する。モータジェネレータ27等を冷却したオイルは、モータ室8Cの隔壁50に形成された排出孔51を通ってギヤ室8Bの底部に戻され、再びオイルポンプ40に汲み上げられる。
【0058】
オイル供給油路47は、オイルパイプ46を有している。オイルパイプ46は、全体として上下方向に延伸しており、オイルポンプ40から受け入れたオイルを、リングギヤ11より高い位置にあるモータ室8Cに供給する。モータ室8Cに供給されたオイルは、モータジェネレータ27の上部に滴下されることでモータジェネレータ27等を冷却する。
【0059】
蓋部材52は、ボルト30Eによって隔壁50に固定されている。蓋部材52は、オイルパイプ46を支持する支持部52Aを有している。つまり、蓋部材52はオイルパイプ46と接合一体化されており、蓋部材52はオイルパイプ46を変速機ケース3に取付けるブラケットとなっている。蓋部材52とオイルパイプ46との接合箇所である支持部52Aは、蓋部材52の上端かつ前端に設けられている。
【0060】
図6、
図7に示すように、蓋部材52の下部52Bは、排出孔51よりも下方に延び、隔壁50から離間している。蓋部材52の下部52Bは、隔壁50側(左側)に屈曲して後述する軸受保持部54の上面に重なるように配置されている。蓋部材52は、その下部52Bと軸受保持部54の上面と隔壁50にて、排出孔51の下方にオイルの排出経路53を形成している。排出孔51から流出するオイルは、この排出経路53を流れて、前方に向かって流れることになる。
【0061】
図4、
図5、
図6、
図7に示すように、変速機ケース3は、その内周面で軸受55(
図6参照)を介して差動装置10を保持する軸受保持部54を有している。軸受保持部54は、排出孔51の下方に環状に形成されており、隔壁50よりも右方(リングギヤ11側)に突出している。
【0062】
図4、
図5に示すように、軸受保持部54の外周面の上面には、蓋部材52とともに排出経路53を形成する傾斜部54Aが形成されている。傾斜部54Aは、差動装置10からオイルポンプ40に近づくにつれて低くなるように傾斜し、排出孔51から排出されたオイルをオイルポンプ40側に導く。
【0063】
軸受保持部54の外周面の側面であって傾斜部54Aの下流側には、傾斜部54Aに連続し、かつ、オイルポンプ40に向かって下方に延びる縦壁部54Bが設けられている。排出経路53を流れるオイルは、この縦壁部54Bを流れることになる。傾斜部54Aおよび縦壁部54Bは、軸受保持部54の本来の外周面を切欠くようにして形成されている。オイルポンプ40が吐出するオイルをモータ室8Cに供給するオイルパイプ46は、この縦壁部54Bに沿って配置されている。
図5、
図7に示すように、オイルパイプ46は、周壁4Bの右端部と距離をとって配置されており、周壁4Bの右端部と縦壁部54Bとともに排出経路53から流れ込むオイルを流すオイルの流通経路を構成する。
【0064】
図4、
図5、
図6、
図7に示すように、モータ室8Cに供給されたオイルは、モータジェネレータ27を冷却した後にモータ室8Cの底部に流下し、隔壁50の排出孔51を右方に通過してモータ室8Cからギヤ室8Bに排出される。排出孔51を通ってギヤ室8Bに排出されたオイルは、矢印O2で示すように、蓋部材52に衝突して前方に流れ方向を変え、蓋部材52の下部52Bの上面および軸受保持部54の外周面の傾斜部54A、縦壁部54Bおよびオイルパイプ46の表面に沿ってギヤ室8B内を流下し、オイルポンプ40に到達する。
【0065】
図4に示すように、モータ室8Cにはリリーフ孔64が設けられており、モータ室8Cに供給されたオイルの余剰分は、モータジェネレータ27を冷却することなく、リリーフ孔64からギヤ室8Bに流下する。リリーフ孔64からギヤ室8Bに流下したオイルは、矢印O3で示すように、オイル案内部材90によってオイルガター81の捕集部81Aに案内される。
【0066】
図5に示すように、オイルガター81の捕集部81Aに流入したオイルは、矢印O3で示すように、オイルガター81の案内部81Bを通って左側壁4Wに設けられた図示しない軸受に供給された後、ギヤ室8B内を流下してオイルポンプ40に到達する。
【0067】
以上のように、本実施例では、変速機ケース3には、変速機構6、差動装置10およびオイルポンプ40が収納されるギヤ室8Bと、モータジェネレータ27が収納されるモータ室8Cと、ギヤ室8Bとモータ室8Cとを区画する隔壁50と、が形成されている。そして、隔壁50は、モータジェネレータ27を冷却したオイルをモータ室8Cからギヤ室8Bに排出する排出孔51を有し、隔壁50におけるギヤ室8B側の壁面に、排出孔51の一部を覆う蓋部材52が取り付けられている。
【0068】
これにより、モータ室8Cから排出孔51を介してギヤ室8Bに流れ出すオイルは、蓋部材52によって受け止められ、蓋部材52の側方に流れるように向きを変える。そして、蓋部材52の側方に向きを変えたオイルは、差動装置10のリングギヤ11に降りかかることなくギヤ室8Bの底部のオイルポンプ40まで流下する。
【0069】
この結果、差動装置10のリングギヤ11にオイルが降りかかることを抑制でき、ギヤ室8Bにおけるオイルの撹拌抵抗を減らして車両の燃費を向上させることができる。
【0070】
また、本実施例では、蓋部材52の下部52Bは、排出孔51よりも下方に延び、隔壁50から離間して、排出孔51の下方にオイルの排出経路53を形成している。
【0071】
これにより、オイルの流れ方向を確実に下方に向けることができる。
【0072】
また、本実施例では、変速機ケース3は、その内周面で軸受55を介して差動装置10を保持する軸受保持部54を有している。そして、軸受保持部54の外周面の上面に、蓋部材52とともに排出経路53を形成する傾斜部54Aが形成され、この傾斜部54Aは、差動装置10からオイルポンプ40に近づくにつれて低くなるように傾斜し、排出孔51から排出されたオイルをオイルポンプ40に導く。
【0073】
これにより、排出孔51からギヤ室8Bに排出されたオイルを傾斜部54Aの上面を流下させてオイルポンプ40に案内することができる。
【0074】
また、本実施例では、軸受保持部54の外周面の側面であって傾斜部54Aの下流側に、傾斜部54Aに連続し、かつ、オイルポンプ40に向かって下方に延びる縦壁部54Bが設けられている。また、オイルポンプ40が吐出するオイルをモータ室8Cに供給するオイルパイプ46が縦壁部54Bに沿って配置されている。
【0075】
これにより、軸受保持部54の外周面の傾斜部54Aおよび縦壁部54Bを流下してきたオイルを、オイルパイプ46の表面で受け止め、オイルパイプ46によってオイルポンプ40に案内することができる。
【0076】
また、本実施例では、蓋部材52は、オイルパイプ46を支持する支持部52Aを有している。
【0077】
これにより、蓋部材52は、オイルパイプ46を隔壁50に取り付けるブラケットとしても機能するので、蓋部材52とブラケットとを共通化することができ、部品点数の増加を防止できる。
【0078】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
2...自動変速機(車両用変速機)、3...変速機ケース、6...変速機構、8B...ギヤ室、8C...モータ室、10...差動装置、27...モータジェネレータ(回転電機)、40...オイルポンプ、46...オイルパイプ、50...隔壁、51...排出孔、52...蓋部材、52A...支持部、52B...下部、53...排出経路、54...軸受保持部、54A...傾斜部、54B...縦壁部、55...軸受