(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099260
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240718BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/543 545A
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003073
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】505155528
【氏名又は名称】公立大学法人横浜市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 弥生
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 洋子
(72)【発明者】
【氏名】中居 佑介
(72)【発明者】
【氏名】梁 明秀
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 研
(72)【発明者】
【氏名】平野 久
(57)【要約】
【課題】本発明は、骨粗鬆症をはじめとする骨強度の低下を伴う疾患を検査する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】Extracellular matrix protein 1(ECM1)及びParvalbumin alpha(PVALB)から成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定することにより、骨強度の低下を伴う疾患を検査できることを見出した。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Extracellular matrix protein 1(ECM1)及びParvalbumin alpha(PVALB)から成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカー。
【請求項2】
前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、請求項1に記載のバイオマーカー。
【請求項3】
生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨強度の低下を伴う疾患の検査方法。
【請求項4】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨強度の低下を伴う疾患を有しないコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨強度の低下を伴う疾患を有する可能性が高いと判定されるものである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記検体が、全血、血清又は血漿である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記タンパク質のレベルの測定が、免疫学的測定法である、請求項3又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫学的測定法が、ELISA法である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨折リスク評価用バイオマーカー。
【請求項10】
生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨折リスクの評価方法。
【請求項11】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨折リスクの低いコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨折リスクが高いと判定されるものである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記検体が、全血、血清又は血漿である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記タンパク質のレベルの測定が、免疫学的測定法である、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
前記免疫学的測定法が、ELISA法である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を検出できる試薬を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査のための又は骨折リスク評価のためのキット。
【請求項16】
前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、請求項15に記載の
キット。
【請求項17】
前記試薬が、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体を含む、請求項15又は16に記載のキット。
【請求項18】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体の、請求項15又は16に記載するキットの製造における使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカー及びそれを用いた骨強度の低下を伴う疾患の検査方法及び検査キット等に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨折リスクの増加をもたらす疾患である。骨折リスクの増加はQOLの低下や、死亡リスクを有意に増加することが知られている。そのため、骨粗鬆症において、骨折患者を減らすためには早期の診断と治療介入が重要である。現在、骨粗鬆症の診断のゴールドスタンダードは、DXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)法による骨密度測定である。骨粗鬆症の判定は骨密度を指標として行われ、具体的には、%YAM値やT-scoreに基づき判定される。ここで、%YAM値とは、若年成人平均(YAM)と比較したときの骨密度の減少割合を示すものであり、「%YAM値=100×骨密度/YAM」で表すことができる。また、T-scoreとは、若年成人平均(YAM)と比較したときの骨密度の偏りを示すものであり、「T-score=[(%YAM値/100)-1]/(YAM×標準偏差)」で表すことができる。
WHO(世界保健機関)では、T-scoreに基づき骨粗鬆症の判定を行っており、T-score≦-2.5を原発性骨粗鬆症の診断基準としている。
一方で、骨粗鬆症性骨折を生じた閉経後の女性の約50%は正常な骨密度(BMD)値を示したとの報告があるため(非特許文献1)、骨密度値だけで骨粗鬆症患者を完全に診断することはできない。そのため、日本においては、脆弱性骨折の既往歴についても診断基準の1つとして含まれている。
【0003】
また、骨粗鬆症に関連する指標としては、骨代謝マーカーが用いられる。骨代謝マーカーは骨密度とは独立した指標として認識されており、骨代謝回転の評価は、治療薬の選択、治療効果の判定に有用である。しかしながら、骨代謝マーカーは、日差変動、日内変動することが知られているため、診断基準には含まれていない。
【0004】
また、骨折リスク評価ツールのFRAX(fracture risk assessment tool)も臨床で利用されている。FRAXは年齢、性別、BMI、骨折の危険因子の有無を入力することで、10年間の骨折リスクを予測する。そのため、欧米や日本において、治療開始基準として取り入れられている。しかしながら、FRAXについても予測精度の限界や、危険因子として選択できる項目が限られているため診断には利用されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nguyen et al, J. Clin. Endocrinol. Metab., 2007; 92(3): 955-962
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の通り、現在の骨粗鬆症の診断に利用される定量的な指標は骨密度のみである。しかしながら、骨密度による判定だけでは骨粗鬆症患者の骨折リスクを正確に診断することは困難である。一方で、骨粗鬆症の早期診断と治療介入は骨折の予防に向けた重要な課題である。
そこで本発明は、骨粗鬆症をはじめとする骨強度の低下を伴う疾患を検査する方法を提
供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究の結果、骨粗鬆症患者の血清において、Extracellular matrix protein 1(ECM1)及びParvalbumin alpha(PVALB)が健常者血清より多く発現することを見出した。さらに、これらの何れか又は両方のタンパク質の発現を指標とすることにより、ごく少量の患者血液又は血清を用いて骨粗鬆症を診断するための検査を行えることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち本発明は以下の通りである。
[1]Extracellular matrix protein 1(ECM1)及びParvalbumin alpha(PVALB)から成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカー。
[2]前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、[1]に記載のバイオマーカー。
[3]生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨強度の低下を伴う疾患の検査方法。
[4]ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨強度の低下を伴う疾患を有しないコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨強度の低下を伴う疾患を有する可能性が高いと判定されるものである、[3]に記載の方法。
[5]前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、[3]又は[4]に記載の方法。
[6]前記検体が、全血、血清又は血漿である、[3]~[5]の何れかに記載の方法。[7]前記タンパク質のレベルの測定が、免疫学的測定法である、[3]~[6]の何れかに記載の方法。
[8]前記免疫学的測定法が、ELISA法である、[7]に記載の方法。
[9]ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨折リスク評価用バイオマーカー。
[10]生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨折リスクの評価方法。
[11]ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨折リスクの低いコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨折リスクが高いと判定されるものである、[10]に記載の方法。
[12]前記検体が、全血、血清又は血漿である、[10]又は[11]に記載の方法。[13]前記タンパク質のレベルの測定が、免疫学的測定法である、[10]~[12]の何れかに記載の方法。
[14]前記免疫学的測定法が、ELISA法である、[13]に記載の方法。
[15]ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を検出できる試薬を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査のための又は骨折リスク評価のためのキット。
[16]前記骨強度の低下を伴う疾患が、骨粗鬆症又は骨量減少症である、[15]に記載のキット。
[17]前記試薬が、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体を含む、[15]又は[16]に記載のキット。[18]ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質
を特異的に検出できる抗体の、[15]~[17]の何れかに記載するキットの製造における使用。
【発明の効果】
【0009】
ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質をバイオマーカーとして使用することにより、骨粗鬆症をはじめとする骨強度の低下を伴う疾患の簡易な検査方法を提供することができた。さらに、例えば、バイオマーカーとしてECM1を使用したとき、骨密度を用いた従来の診断法では判定することができなかった正常な骨密度を有する骨粗鬆症患者においても骨粗鬆症を有すると判定できることが示された。したがって、これらのバイオマーカーを使用することによって、従来の骨粗鬆症の診断を補助することが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】ELISA法により、骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1濃度を測定した結果を示す図である。
【
図2】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1のROC解析結果を示す図である。
【
図3】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1濃度を測定した結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、WHO国際基準の診断指標に基づけば骨粗鬆症とは診断されないが、日本基準の診断指標に基づけば骨粗鬆症と診断される患者、すなわちT-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者である(分類1)。
【
図4】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1のROC解析結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、T-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者である(分類1)。
【
図5】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1濃度を測定した結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、T-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者及びT-score≦-2.5[骨折既往歴あり]の患者である(分類2)。
【
図6】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1のROC解析結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、T-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者及びT-score≦-2.5[骨折既往歴あり]の患者である(分類2)。
【
図7】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1濃度を測定した結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、T-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者、T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]の患者及びT-score≦-2.5[骨折既往歴なし]である(分類3)。
【
図8】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のECM1のROC解析結果を示す図である。当該骨粗鬆症患者は、T-score>-2.5[骨折既往歴あり]の患者、T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]の患者及びT-score≦-2.5[骨折既往歴なし]である(分類3)。
【
図9】ELISA法により、骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のPVALB濃度を測定した結果を示す図である。
【
図10】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のPVALBのROC解析結果を示す図である。
【
図11】ELISA法により、骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のPVALB濃度を測定した結果を示す図である。
図10における骨粗鬆症患者の血清中PVALB濃度の測定結果のうち極端に高い値を除いたときの結果を示す。
【
図12】骨粗鬆症患者及び健常者における血清中のPVALBのROC解析結果を示す図である。
図11における骨粗鬆症患者の血清中PVALB濃度の測定結果のうち極端に高い値を除いたときの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<疾患検査用バイオマーカー>
本発明の第一の実施態様は、Extracellular matrix protein 1(ECM1)及びParvalbumin alpha(PVALB)から成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカーである。
具体的な、骨強度の低下を伴う疾患の検査方法や判定基準に関しては、後述の<疾患検査方法>の項における記載を援用できる。
【0012】
ECM1及びPVALBは、その全長タンパク質であってもよく、又は骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカーとして使用することができる限りそれらのタンパク質を構成するアミノ酸配列の1若しくは複数が置換、挿入、付加又は欠失されたものであってもよい。
【0013】
骨強度を表す指標として骨密度と骨質がある。
骨密度は、例えば骨の単位面積(cm2)当たりの骨塩量(カルシウム等のミネラル成分)で表すことができる。骨密度の測定は任意の方法により行うことができ、例えばDXA(Dual-energy X-ray Absorptiometry)法やMD(Microdensitometry法)法、定量的超音波測定法等により行うことができる。骨密度低下は、例えば後述の%YAM値又はT-scoreを指標として判断することができる。
骨質は、例えば骨の微細構造等により示すことができる。骨質は任意の方法又は指標により測定又は評価することができ、例えばTBS(Trabecular bone score)を指標として評価することができる。
【0014】
本発明において、骨強度の低下を伴う疾患としては、骨粗鬆症、骨量減少症等を挙げることができる。また、関連する疾患としてサルコペニア、ロコモティブシンドローム等を挙げることができ、これらの疾患も骨強度の低下を伴うことがある。本態様のバイオマーカーは、骨粗鬆症又は骨量減少症の診断に好ましく利用でき、骨粗鬆症の診断により好ましく利用でき、原発性骨粗鬆症の診断に特に好ましく利用できる。
【0015】
本発明において、骨粗鬆症は、WHO国際基準の診断指標に基づき診断されるものであってもよく、日本基準の診断指標に基づき診断されるものであってもよい。
WHO国際基準の診断指標によると、脆弱性骨折既往歴の有無によらず、T-scoreが-2.5SD以下であるときに、骨粗鬆症と診断される。
日本基準の診断指標によると、
(1)脆弱性骨折既往歴が無い場合には、T-scoreが-2.5SD以下であるとき又は%YAM値が70%以下であるとき;
(2)大腿骨近位部又は椎体の脆弱性骨折既往歴があるとき;又は
(3)大腿骨近位部又は椎体以外の部位において脆弱性骨折既往歴があり、かつ%YAM値が80%未満であるときに、骨粗鬆症と診断される。
【0016】
本態様のバイオマーカーを用いることにより、日本基準の診断指標による骨粗鬆症、すなわち骨密度の低下を伴わない骨粗鬆症の診断まで行えることがメリットである。ECM1及びPVALBのいずれであっても本態様のバイオマーカーとして用いることができるが、特にECM1は、WHO国際基準の診断指標による骨粗鬆症の検査のみならず、日本基準の診断指標による骨粗鬆症の検査においても、疾患検査用バイオマーカーとして好適に用いることができる。
【0017】
%YAM値とは、若年成人平均(YAM)と比較したときの骨密度の減少割合を示すものであり、「%YAM値=100×骨密度/YAM」で表すことができる。ここで、YA
Mは、腰椎の場合は20~44歳の若年成人の平均値とすることができ、大腿骨近位部の場合は20~29歳の若年成人の平均値とすることができる。
T-scoreとは、若年成人平均(YAM)と比較したときの骨密度の偏りを示すものであり、「T-score=[(%YAM値/100)-1]/(YAM×標準偏差)」で表すことができる。
【0018】
骨量減少症は、将来骨粗鬆症を発症するリスクが高い疾患であり、T-scoreが-2.5SDより大きくかつ-1.0SD未満であって、脆弱性骨折既往歴が無いとき、骨量減少症と診断される。
【0019】
本態様のバイオマーカーは、骨密度や骨質といった骨強度に関する検査や、血液又は尿中に存在する骨に関連する各種バイオマーカーと組み合わせて用いることもできる。
【0020】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質の、骨強度の低下を伴う疾患検査用バイオマーカーとしての使用である。
【0021】
<疾患検査方法>
本発明の第二の実施態様は、生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨強度の低下を伴う疾患の検査方法である。
【0022】
本発明において、検体としては、例えば全血、血清、血漿又は尿を挙げることができ、好ましくは血清又は血漿である。血液検体を用いることによって、低侵襲な定量検査を行うことが可能となる。
【0023】
検体を採取する動物としては哺乳動物である限り特に限定されないが、ヒトであることが好ましい。
【0024】
骨強度の低下を伴う疾患を有することは、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨強度の低下を伴う疾患を有しないコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨強度の低下を伴う疾患を有する可能性が高いと判定することができる。これらのタンパク質のレベルは、例えば、そのタンパク質の濃度により表すことができる。この検査方法により取得されたデータは、医師等による骨強度の低下を伴う疾患の診断を補助するために用いることができる。
【0025】
本態様において、骨強度の低下を伴う疾患を有しないコントロール対象は、骨密度及び骨質が正常範囲内でありかつ何れの疾患も有しない対象(以下、健常者ともいう)であってもよく、又は骨密度や骨質に影響を与えない限り他の疾患を有する対象であってもよい。
【0026】
本態様において、基準値は、例えば当該コントロール対象から採取された血液中におけるECM1濃度又はPVALB濃度を予め測定しておき、その測定値から求められた中央値、平均値、上限値、インデックス値等を基準値とすることができる。この基準値は、例えば性別、年齢、骨折既往歴、治療歴等のパラメーターに基づき群分けして、それぞれの群ごとに最適な値を設定してもよい。
【0027】
本発明において、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する方法は、免疫学的測定法、液体クロマトグラフィー法、電気泳動法、質量分析法等定量性のある測定法であれば特に限定されない。免疫学的測定法
自体はこの分野において周知である。免疫学的測定法を反応形式に基づいて分類すると、サンドイッチ法、競合法、凝集法、ウェスタンブロット法等があり、また、標識に基づいて分類すると、酵素免疫分析、放射免疫分析、蛍光免疫分析等がある。
具体的には、タンパク質のレベルを測定する方法として、例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、イムノブロット法、蛍光抗体法(FA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、蛍光酵素免疫測定法(FLEIA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、化学発光免疫測定法(CLIA)、電気化学発光免疫測定法(ECLIA)、イムノクロマト法(ICA)、ウェスタンブロット法(WB)等を用いることができる。免疫学的測定法としては、例えばELISA法を好ましく用いることができ、高感度な検出感度が期待されるサンドイッチELISA法を特に好ましく用いることができる。
【0028】
免疫学的測定法に用いられる抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体であってよい。抗体の由来に関しては、例えば、マウス抗体、ラット抗体、ウサギ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体等が挙げられる。抗体は、完全抗体であってもよく、断片抗体(抗原結合性断片)であってもよい。
【0029】
ポリクローナル抗体として抗血清を用いてもよい。本発明において、ポリクローナル抗体という語には、精製前の抗血清も包含される。また、抗体に代えて該抗体の抗原結合性断片を用いることもできる。以下、本明細書において、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、「抗体」という語には当該抗体の抗原結合性断片も包含される。ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、抗原結合性断片は、何れも周知の常法により調製することができる。市販の抗体を用いてもよく、周知の方法により作製した抗体を用いてもよい。
【0030】
具体的には、ECM1又はPVALBの特定部位を認識するポリクローナル抗体は、例えば、当該部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を複数種混合して得ることができる。又は、化学合成等の周知の手法により調製したECM1又はPVALBの当該部位を含むポリペプチド、又はこれらをコードするポリヌクレオチドなどを免疫原として適宜アジュバントと共に非ヒト動物に免疫し、該動物から採取した血液から抗血清を得て、該抗血清中のポリクローナル抗体を精製することで得ることができる。免疫は、被免疫動物中での抗体価を上昇させるため、通常数週間かけて複数回行なう。抗血清中の抗体の精製は、例えば、硫酸アンモニウム沈殿や陰イオンクロマトグラフィーによる分画、アフィニティーカラム精製等により行うことができる。
【0031】
モノクローナル抗体の周知の作製方法の一例として、ハイブリドーマ法を挙げることができる。具体的には、例えば、上記のように免疫した非ヒト動物から脾細胞やリンパ球のような抗体産生細胞を採取し、これをミエローマ細胞と融合させてハイブリドーマを調製し、ECM1又はPVALBの特定部位と結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択し、これを増殖させて培養上清からECM1又はPVALBの特定部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0032】
「抗原結合性断片」とは、例えば免疫グロブリンのFab断片やF(ab’)2断片のような、当該抗体の対応抗原に対する結合性(抗原抗体反応性)を維持している抗体断片を意味する。このような抗原結合性断片もイムノアッセイに利用可能であることは周知であり、もとの抗体と同様に有用である。Fab断片やF(ab’)2断片は、周知の通り、抗体をパパインやペプシンのようなタンパク分解酵素で処理することにより得ることができる。なお、抗原結合性断片は、Fab断片やF(ab’)2断片に限定されるものではなく、対応抗原との結合性を維持しているいかなる断片であってもよく、遺伝子工学的手法により調製されたものであってもよい。また、例えば、遺伝子工学的手法により、一本鎖可変領域(scFv: single chain fragment of variable region)を大腸菌内で発現させた抗体を用いることもできる。scFvの作製方法も周知であり、上記の通りに作製したハイブリドーマのmRNAを抽出し、一本鎖cDNAを調製し、免疫グロブリンH鎖及びL鎖に特異的なプライマーを用いてPCRを行なって免疫グロブリンH鎖遺伝子及びL鎖遺伝子を増幅し、これらをリンカーで連結し、適切な制限酵素部位を付与してプラスミドベクターに導入し、それで大腸菌を形質転換し、大腸菌からscFvを回収することによりscFvを作製することができる。このようなscFvも「抗原結合性断片」に包含される。
【0033】
免疫学的測定法自体は周知の技術であるが、簡単に記載すると、例えば、サンドイッチ法では、ECM1に結合する抗体を固相に不動化し(固相化抗体)、試料と反応させ、必要に応じて洗浄後、固相化抗体と同一又は異なる部位でECM1に結合する抗体に標識を付した標識抗体を反応させ、洗浄後、固相に結合した標識抗体を測定する。PVALBの測定も同様の測定法で行うことができる。
【0034】
標識抗体の測定は、標識物質からのシグナルを測定することにより行なうことができる。シグナルの測定法は、標識物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、酵素標識の場合、該酵素に対応した発色基質、蛍光基質又は発光基質等の基質を該酵素と反応させ、その結果発生する発色や発光等のシグナルを吸光光度計やルミノメータ等の適当な機器で測定することにより、酵素活性を求め測定対象物を測定することができる。例えば、標識物質としてALPを用いる場合、3-(4-メトキシスピロ(1,2-ジオキセタン-3,2’-トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン)-4-イル)フェニルホスフェート2ナトリウム(例えば商品名AMPPD)などの発光基質を用いることができる。標識抗体は、標識物質が当該抗体に直接結合されていてもよいし、ビオチン又はハプテン等の特異結合分子を抗体に結合させ、標識物質を結合した特異結合分子のパートナー(ストレプトアビジン又はハプテン抗体等)を反応させることにより、間接的に標識物質が結合されていてもよい。ECM1又はPVALBを種々の濃度で含む濃度既知の標準試料について、それぞれ抗ECM1抗体若しくは抗PVALB抗体又はそれぞれの抗原結合性断片を用いて免疫学的測定を行ない、標識からのシグナルの量と標準試料中のECM1又はPVALBの濃度との相関関係をプロットして検量線を作成しておき、ECM1又はPVALBの濃度が未知の検体について同じ操作を行なって標識からのシグナル量を測定し、測定値をこの検量線に当てはめることにより、検体中のECM1又はPVALBの濃度を定量することができる。
【0035】
<骨折リスク評価用マーカー>
本発明の第三の実施態様は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を含む、骨折リスク評価用バイオマーカーである。具体的な、骨折リスク評価方法や評価基準に関しては、後述の<骨折リスク評価方法>の項における記載を援用できる。
【0036】
ECM1及びPVALBは、その全長タンパク質であってもよく、又は骨折リスク評価用バイオマーカーとして使用することができる限りそれらのタンパク質を構成するアミノ酸配列の1若しくは複数が置換、挿入、付加又は欠失されたものであってもよい。
【0037】
本態様のバイオマーカーを用いることにより、骨折リスクが高い潜在的な治療対象を診断可能となり、骨折リスクが高い対象において早期に治療介入することができる。これにより当該対象における骨折のリスクを低下させることができ、結果として骨折によるQOL低下を予め防ぐことができる。例えば、上述の<疾患検査用バイオマーカー>の項に記載した通り、特にECM1は、WHO国際基準の診断指標による骨粗鬆症の検査のみならず、日本基準の診断指標による骨粗鬆症の検査においても、疾患検査用バイオマーカーとして好適に用いることができる。そのため、ECM1及びPVALBのいずれであっても
本態様のバイオマーカーとして用いることができるが、特にECM1は、骨折リスク評価用バイオマーカーとしても好適に用いることができる。
【0038】
本態様のバイオマーカーは、骨密度や骨質といった骨強度に関する検査や、血液又は尿中に存在する骨に関連する各種バイオマーカーと組み合わせて用いることもできる。
【0039】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質の、骨折リスク評価用バイオマーカーとしての使用である。
【0040】
<骨折リスク評価方法>
本発明の第四の実施態様は、生体から採取された検体における、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定する工程を含む、骨折リスクの評価方法である。
【0041】
骨折リスクが高いことは、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルが、骨折リスクの低いコントロール対象から得られた値又は予め定められた基準値よりも高い場合に、骨折リスクが高いと判定することができる。
【0042】
本態様において、骨折リスクの低いコントロール対象は、何れの疾患も有しない対象(以下、健常者ともいう)であってもよく、又は骨折リスクに影響を与えない限り他の疾患を有する対象であってもよい。
【0043】
本態様において、基準値は、例えば当該コントロール対象から採取された血液中におけるECM1濃度又はPVALB濃度を予め測定しておき、その測定値から求められた中央値、平均値、上限値、インデックス値等を基準値とすることができる。この基準値は、例えば性別、年齢、骨折既往歴、治療歴等のパラメーターに基づき群分けして、それぞれの群ごとに最適な値を設定してもよい。
【0044】
本態様において、検体についての記載やタンパク質のレベルを測定する方法についての記載は、上記<疾患検査方法>の項における記載を援用できる。
【0045】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質の、骨折リスク評価用バイオマーカーとしての使用である。
【0046】
<キット>
本発明の第五の実施態様は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を検出できる試薬を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査のための又は骨折リスク評価のためのキットである。骨強度の低下を伴う疾患についての記載は、上記<疾患検査用バイオマーカー>の項における記載を援用できる。
【0047】
当該キットは免疫学的測定キットであり、検出試薬としてECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体が含まれることが好ましく、当該抗体は任意の標識が付された標識抗体であることがより好ましい。また、当該キットは、免疫学的測定に必要な他の試薬類等も含んでもよく、例えば、検体希釈液、洗浄液、標識物質、標準試料、ブロッキング剤、検出試薬、反応停止液等を含んでもよく、標識抗体に使用されている標識物質が酵素の場合には該酵素の基質液等をさらに含んでもよい。また、当該キットは使用説明書等を含んでもよい。
【0048】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体の、骨強度の低下を伴う疾患検査のための又は
骨折リスク評価のためのキットの製造における使用である。
【0049】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に検出できる抗体の、骨強度の低下を伴う疾患検査又は骨折リスク評価における使用である。
【0050】
本態様の別の側面は、骨強度の低下を伴う疾患検査又は骨折リスク評価のために使用される、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に認識できる抗体である。
【0051】
本態様の別の側面は、ECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質を特異的に認識する抗体を含む、骨強度の低下を伴う疾患検査方法又は骨折リスク評価方法に使用するための試薬である。
【0052】
<治療効果判定>
本発明の第六の実施態様は、骨強度の低下を伴う疾患を治療する又は骨折リスクを低減させる医薬品の治療効果の判定方法であって、前記医薬品を投与された後の患者から採取された検体におけるECM1及びPVALBから成る群から選択される少なくとも1つのタンパク質のレベルを測定し、その測定したレベルが、前記医薬品を投与される前のレベルと比較して低下したとき又は予め定められた基準値よりも低下したとき、前記医薬品が、骨粗鬆症を治療する又は骨折リスクを低減させる効果があると判定する方法である。本態様において、骨強度の低下を伴う疾患についての記載は、上記<疾患検査用バイオマーカー>の項における記載を援用できる。また、本態様において、検体についての記載やタンパク質のレベルを測定する方法についての記載は、上記<疾患検査方法>の項における記載を援用できる。
【0053】
本態様において、基準値は、例えば予め<疾患検査方法>又は<骨折リスク評価方法>の項において記載されるコントロール対象から採取された血液中におけるECM1濃度又はPVALB濃度を予め測定しておき、その測定値から求められた中央値、平均値、上限値、インデックス値等を基準値とすることができる。この基準値は、例えば性別、年齢、骨折既往歴、治療歴等のパラメーターに基づき群分けして、それぞれの群ごとに最適な値を設定してもよい。
【0054】
医薬品は任意のものであってよく、例えば、カルシウム製剤、骨形成促進薬、骨吸収抑制薬等を挙げることができる。
【0055】
医薬品が投与された後、患者から検体を採取するまでの時間は任意の時間でよく、医薬品の種類、用途、用量等によって適宜定めることができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実施例1:骨粗鬆症患者血清を用いたECM1の臨床的有用性の検証>
骨粗鬆症患者由来の血清(図中、OPと示す)を32検体と、健常者(50、60代)由来の血清(バイオバンク室)を20検体使用した。
当該骨粗鬆症患者のT-score及び脆弱性骨折の既往歴の内訳は以下の通りである。
・T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]:17名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴なし]:15名
【0058】
骨粗鬆症患者から得られた血清を用いて、当業者に既知の方法であるELISA法によって、Extracellular matrix protein 1(ECM1)の濃度を測定した。測定に使用したキットは、Human ECM1 ELISA Kit(abcam)であり、製造業者のプロトコルに従い測定を行った。
その結果、骨粗鬆症患者群の中央値は7,466ng/mLであり、健常者群の中央値は6,052ng/mLであり、骨粗鬆症患者群は健常者群と比較して有意に高い濃度を示すことが確認できた(
図1;Mann WhitneyのU検定:p=0.0032)。
また、骨粗鬆症の検出能を、GraphPad Prism(バージョン7.02、GraphPad Prismソフトウェア)を使用したROC(Receiver Operating Characteristic)解析により評価した結果、AUC(Area Under the Curve)が0.74であり、ECM1が骨粗鬆症の診断の有用なバイオマーカーとなることが示された(
図2)。
【0059】
<実施例2:骨粗鬆症患者血清を用いたECM1の臨床的有用性の追加の検証>
さらに、下記の患者由来の血清を58検体と健常者(50、60代)由来の血清(バイオバンク室)を30検体使用して、骨粗鬆症を複数群に分類して健常者群における血清中のECM1とそれぞれ比較した。
当該骨粗鬆症患者のT-score及び脆弱性骨折の既往歴の内訳は以下の通りである。
・T-score>-2.5[骨折既往歴あり]:5名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]:24名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴なし]:29名
【0060】
(1)骨粗鬆症患者群と健常者群との比較(分類1)
骨粗鬆症患者群としては以下の5名を用いた(図中、OP-FFと示す)。これらは、WHO国際基準の診断指標に基づけば骨粗鬆症とは診断されないが、日本基準の診断指標に基づけば骨粗鬆症と診断される患者に相当する。
・T-score>-2.5[骨折既往歴あり]:5名
その結果、骨粗鬆症患者群の中央値は6,075ng/mLであり、健常者群の中央値は4,284ng/mLであり、骨粗鬆症患者群(分類1)は健常者群と比較して有意に高い濃度を示すことが確認できた(
図3;Mann WhitneyのU検定:p=0.0216)。
また、骨粗鬆症の検出能を、GraphPad Prismを使用したROC解析により評価した結果、AUCが0.82であり、ECM1が骨粗鬆症の診断の有用なバイオマーカーとなることが示された(
図4)。
【0061】
(2)骨粗鬆症患者群と健常者群との比較(分類2)
骨粗鬆症患者群としては以下の29名を用いた(図中、OP-FFと示す)。
・T-score>-2.5[骨折既往歴あり]:5名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]:24名
その結果、骨粗鬆症患者群の中央値は5,710ng/mLであり、健常者群の中央値は4,284ng/mLであり、骨粗鬆症患者群(分類2)は健常者群と比較して有意に高い濃度を示すことが確認できた(
図5;Mann WhitneyのU検定:p=0.0017)。
また、骨粗鬆症の検出能を、GraphPad Prismを使用したROC解析により評価した結果、AUCが0.73であり、ECM1が骨粗鬆症診断のための検査の有用なバイオマーカーとなることが示された(
図6)。
【0062】
(3)骨粗鬆症患者群と健常者群との比較(分類3)
骨粗鬆症患者群としては以下の58名を用いた(図中、OPと示す)。
・T-score>-2.5[骨折既往歴あり]:5名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴あり]:24名
・T-score≦-2.5[骨折既往歴なし]:29名
その結果、骨粗鬆症患者群の中央値は5,472ng/mLであり、健常者群の中央値は4,284ng/mLであり、骨粗鬆症患者群(分類3)は健常者群と比較して有意に高い濃度を示すことが確認できた(
図7;Mann WhitneyのU検定:p=0.0006)。
また、骨粗鬆症の検出能を、GraphPad Prismを使用したROC解析により評価した結果、AUCが0.72であり、ECM1が骨粗鬆症診断のための検査の有用なバイオマーカーとなることが示された(
図8)。
【0063】
<実施例3:骨代謝マーカーによる診断とECM1による診断の感度比較>
当業者に既知の方法により、実施例2に記載する骨粗鬆症患者58名及び健常者30名の血清中におけるECM1の感度を算出した。なお、ECM1のカットオフ値は、Youden’s indexを用いてROC曲線から決定し、感度は、そのカットオフ値よりも測定値が高い症例数の割合によって表した(表1)。
また、骨代謝マーカーである、BAP(骨型アルカリフォスファターゼ)、P1NP(I型プロコラーゲン-N-プロペプチド)、TARCP-5b(酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ)においてもそれぞれ各検体において、当業者に既知のELISA法によって濃度を測定した。測定に使用したキットは、それぞれアクセス オスターゼ(ベックマン・コールター)、エクルーシス試薬total P1NP(ロシュ)、オステオリンクス「TRAP-5b」(ニットーボーメディカル株式会社)であり、製造業者のプロトコルに従い測定を行った。カットオフ値を各代謝マーカーの基準値の上限値で定義し、測定値に基づき、ECM1と同様に感度を算出した。
その結果、ECM1が他のマーカーと比較して感度が高いことが示され、骨粗鬆症の診断に特に有用であることが示された。
【表1】
【0064】
<実施例4 骨粗鬆症患者血清を用いたPVALBの臨床的有用性の検証>
腰椎のT-score≦-2.5を示す骨粗鬆症患者(平均68.9歳)由来の血清を46検体と、健常者(50、60代)由来の血清(バイオバンク室)を30検体使用した。なお、当該骨粗鬆症患者のうち27名が骨折既往歴を有する。
【0065】
骨粗鬆症患者から得られた血清を用いて、当業者に既知の方法であるELISA法によって、Parvalbumin alpha(PVALB)の濃度を測定した。測定に使用したキットは、Human Parvalbumin alpha ELISA Kit(Signalway Antibody)であり、製造業者のプロトコルに従い測定を行った。
その結果、骨粗鬆症患者群の中央値は0.7098ng/mLであり、健常者群の中央値は0.6490ng/mLであり、骨粗鬆症患者群は健常者群と比較して有意に高い濃度を示すことが確認できた(
図9;Mann WhitneyのU検定:p=0.0014)。
また、骨粗鬆症の検出能を、GraphPad Prismを使用したROC解析により評価した結果、AUCが0.7145であり、PVALBが骨粗鬆症診断のための検査の有用なバイオマーカーとなることが示された(
図10)。
なお、極端に血清中PVALB濃度が高い5検体(≧1ng/mL)を除いた解析においてもp=0.0021と有意差が認められ(
図11)、AUCが0.7126であった(
図12)。
【0066】
骨粗鬆症患者(46名)における腰椎のT-scoreとPVALB濃度の相関を調べるために、GraphPad PrismによりSpearmanの順位相関係数を算出した結果、相関係数は-0.091(p=0.55)であった。その結果より、骨粗鬆症患者において腰椎のT-scoreとPVALB濃度の相関は無いことが示され、PVALBが骨粗鬆症診断のための検査の有用なバイオマーカーとなることが示された。