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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099265
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】エレベータシステム
(51)【国際特許分類】
   B66B 13/14 20060101AFI20240718BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B66B13/14 L
B66B13/14 Q
B66B13/14 N
B66B3/00 M
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003082
(22)【出願日】2023-01-12
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-07-16
(71)【出願人】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白倉 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 岳人
【テーマコード(参考)】
3F303
3F307
【Fターム(参考)】
3F303CB22
3F303CB31
3F307EA21
3F307EA27
3F307EA31
(57)【要約】
【課題】保守員による変更作業を必要とせず、現場の状況に応じて、ドア制御に関わる各種項目の設定値を適宜変更して最適化する。
【解決手段】一実施形態に係るエレベータシステムは、乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させる。上記エレベータシステムは、上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段とを具備する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させるエレベータシステムにおいて、
上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、
ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段と、
を具備したことを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記検知データには、上記ドアのリオープン回数が含まれることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項3】
上記設定変更手段は、
上記リオープン回数が前回よりも多く変化した場合に、上記ドアを通常よりも遅く閉めるように設定変更し、
上記リオープン回数が前回よりも少なく変化した場合に、上記ドアを通常よりも早く閉めるように設定変更することを特徴とする請求項2記載のエレベータシステム。
【請求項4】
上記検知データには、上記センサの検知継続時間が含まれることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項5】
上記設定変更手段は、
上記検知継続時間が前回よりも長く変化した場合に、上記ドアを通常よりも遅く閉めるように設定変更し、
上記検知継続時間が前回よりも短く変化した場合に、上記ドアを通常よりも早く閉めるように設定変更することを特徴とする請求項4記載のエレベータシステム。
【請求項6】
上記設定変更手段は、
上記検知データの変化率に応じて、上記各種項目の中から少なくとも1つの項目を変更対象として選択し、その選択された項目の設定値を変更することを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項7】
上記設定変更手段は、
上記変化率に応じて、設定変更の対象として選択する項目数を増減することを特徴とする請求項6記載のエレベータシステム。
【請求項8】
上記各種項目には、上記ドアが全開してから戸閉を開始するまでの最低戸開時間、上記センサの検知結果が上記ドアの開閉制御に反映されるまでの待機時間、上記ドアの戸閉速度の少なくとも1つが含まれることを特徴とする請求項1記載のエレベータシステム。
【請求項9】
複数の物件毎に設けられた複数の制御装置と、上記複数の制御装置に通信ネットワークを介して接続されたクラウドサーバとを備えたエレベータシステムであって、
上記複数の制御装置は、
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させ、
上記クラウドサーバは、
上記複数の制御装置から上記センサによって上記利用者が検知されたときの検知データを一定期間単位で取得し、
上記複数の物件毎にドア制御に関わる各種項目を有し、上記複数の物件の中で前回の検知データと今回の検知データとの間に一定値以上の変化が生じている物件が存在した場合に、そのときの変化率に応じて、当該物件における上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項10】
上記センサは、
上記乗りかご内に設置されたカメラを含むことを特徴とする請求項1または9記載のエレベータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、エレベータの乗りかごが乗場に到着して戸開すると、所定時間経過後に戸閉して出発する。その際、エレベータの利用者は乗りかごがいつ戸閉するのか分からないため、乗場から乗りかごに乗車するときに戸閉途中のドアにぶつかることがある。このような乗車時のドアの衝突を回避するため、カメラの撮影画像を用いて乗りかごに乗車する利用者を検知し、その検知結果をドアの開閉制御に反映させるシステムがある。
【0003】
このようなシステムにおいて、物件側の混雑状況などに応じて、ドア制御に関わる各種項目の設定値の変更を求められることがある。ドア制御に関わる各種項目とは、例えば戸閉速度などである。通常、これらの項目は、出荷時に初期値に設定されている。物件側から設定値の変更が求められた場合、エレベータの保守員が現場に出向いて、制御プログラムを書き換えるといった作業を行うことが一般的である。
【0004】
なお、設定値を自動変更する方法として、例えば、ドアがリオープンまたはリクローズする頻度が高い場合に、利用者を検知するためのカメラの検知感度を変更する方法、ドアのリオープン回数や戸開ボタンが押された回数に応じて戸閉速度を変更する方法が知られている。また、実際の戸開時間や戸閉/戸閉ボタンの使用頻度を学習し、その学習結果に応じて適切な戸開時間を設定する方法などが知られている。これらの方法は、ある1つの項目に対して設定変更を自動的に行うだけであり、各種項目の設定値を現場の状況に応じて最適化するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第7019740号公報
【特許文献2】特公平7-121796号公報
【特許文献3】特開昭59-17481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、カメラを用いて利用者を検知するシステムにおいて、ドア制御に関わる各種項目設定変更が必要な場合に、保守員が現場に出向いて変更する必要があり、保守員の負担が大きく、変更までに時間を要していた。特に、多数の物件から設定値の変更を求められた場合には、保守員による対応では、多大な時間と労力を必要とし、非効率的であった。
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、保守員による変更作業を必要とせず、現場の状況に応じて、ドア制御に関わる各種項目の設定値を適宜変更して最適化することのできるエレベータシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係るエレベータシステムは、乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させる。上記エレベータシステムは、上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は第1の実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。
図2図2は上記エレベータシステムの乗りかご内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
図3図3は上記乗りかごに設置されたカメラの撮影画像の一例を示す図である。
図4図4は上記エレベータシステムにおける利用者検知機能を説明するための図であり、カメラで乗車意思ありの利用者を検知した状態を示す図である。
図5図5は上記エレベータシステムにおける利用者検知機能を説明するための図であり、カメラで乗車意思なしの利用者を検知した状態を示す図である。
図6図6は上記乗りかごが任意の階で着床後、ドアを全開して全閉するまでの流れを示す図である。
図7図7は上記エレベータシステムの利用者検知処理を示すフローチャートである。
図8図8は実空間での座標系を説明するための図である。
図9図9は撮影画像をブロック単位で区切った状態を示す図である。
図10図10は上記エレベータシステムの設定変更処理を示すフローチャートである。
図11図11はリオープン回数の変化率に対する設定変更の具体例を示す図である。
図12図12はリオープン回数の変化率に対する設定変更の別の具体例を示す図である。
図13図13は検知継続時間の変化率に対する設定変更の具体例を示す図である。
図14図14は検知継続時間の変化率に対する設定変更の別の具体例を示す図である。
図15図15は第2の実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。
図16図16は上記エレベータシステムの設定変更処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
なお、開示はあくまで一例にすぎず、以下の実施形態に記載した内容により発明が限定されるものではない。当業者が容易に想到し得る変形は、当然に開示の範囲に含まれる。説明をより明確にするため、図面において、各部分のサイズ、形状等を実際の実施態様に対して変更して模式的に表す場合もある。複数の図面において、対応する要素には同じ参照数字を付して、詳細な説明を省略する場合もある。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。なお、ここでは、1台の乗りかごを例にして説明するが、複数台の乗りかごでも同様の構成である。また、以下では、利用者を検知するためのセンサとして、カメラを例にして説明する。
【0012】
乗りかご11の出入口上部にカメラ12が設置されている。具体的には、カメラ12は、乗りかご11の出入口上部を覆う幕板11aの中にレンズ部分を直下方向、もしくは、乗場15側あるいは乗りかご11内部側に所定の角度だけ傾けて設置される。
【0013】
カメラ12は、例えば車載カメラ等の小型の監視用カメラであり、広角レンズもしくは魚眼レンズを有し、1秒間に数コマ(例えば30コマ/秒)の画像を連続的に撮影可能である。カメラ12は、例えば乗りかご11が各階の乗場15に到着したときに起動され、かごドア13付近と乗場15を含めて撮影する。なお、カメラ12は、乗りかご11の運転時に常時動作中であっても良い。
【0014】
このときの撮影範囲はL1+L2に調整されている(L1≫L2)。L1は乗場側の撮影範囲であり、かごドア13から乗場15に向けて所定の距離を有する。L2はかご側の撮影範囲であり、かごドア13からかご背面に向けて所定の距離を有する。なお、L1,L2は奥行き方向の範囲であり、幅方向(奥行き方向と直交する方向)の範囲については少なくとも乗りかご11の横幅より大きいものとする。
【0015】
各階の乗場15において、乗りかご11の到着口には乗場ドア14が開閉自在に設置されている。乗場ドア14は、乗りかご11の到着時にかごドア13に係合して開閉動作する。なお、動力源(ドアモータ)は乗りかご11側にあり、乗場ドア14はかごドア13に追従して開閉するだけである。以下の説明においては、かごドア13を戸開している時には乗場ドア14も戸開しており、かごドア13が戸閉している時には乗場ドア14も戸閉しているものとする。
【0016】
カメラ12によって連続的に撮影された各画像(映像)は、画像処理装置20によってリアルタイムに解析処理される。なお、図1では、便宜的に画像処理装置20を乗りかご11から取り出して示しているが、実際には、画像処理装置20はカメラ12と共に幕板11aの中に収納されている。
【0017】
画像処理装置20には、記憶部21と制御部22とが備えられている。記憶部21は、例えばRAM等のメモリデバイスからなる。記憶部21は、カメラ12によって撮影された画像を逐次保存すると共に、制御部22の処理に必要なデータを一時的に保存しておくためのバッファエリアを有する。なお、記憶部21には、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や拡大縮小、一部切り取り等の処理が施された画像が保存されるとしても良い。
【0018】
制御部22は、例えばマイクロプロセッサからなり、カメラ12の撮影画像を用いてかごドア13付近にいる利用者を検知する。この制御部22を機能的に分けると、検知エリア設定部22a、検知処理部22bで構成される。なお、これらは、ソフトウェアによって実現しても良いし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現しても良いし、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現しても良い。
【0019】
検知エリア設定部22aは、カメラ12から得られる撮影画像上に利用者を検知するための検知エリアを少なくとも1つ以上設定する。本実施形態では、乗場15にいる利用者を検知するための検知エリアE1が設定される。詳しくは、検知エリア設定部22aは、乗りかご11の出入口からシル18,47を含み、乗場15に向けて所定の距離L3を有する検知エリアE1を設定する(図3参照)。
【0020】
検知処理部22bは、検知エリア設定部22aによって設定された検知エリアE1内の画像を用いて、乗場15に存在する利用者または物を検知する。なお、「物」とは、例えば利用者の衣服や荷物、さらに車椅子等の移動体を含む。以下の説明で、「利用者を検知」と言った場合に、「物」を含んでいるものとする。なお、画像処理装置20の一部あるいは全部の機能をエレベータ制御装置30に持たせることでも良い。
【0021】
エレベータ制御装置30は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータからなる。エレベータ制御装置30は、乗りかご11の運転制御などを行う。また、エレベータ制御装置30は、戸開閉制御部31、設定変更部32、テーブル33、通知部34を備える。
【0022】
戸開閉制御部31は、乗りかご11が乗場15に到着したときのかごドア13の戸開閉を制御する。詳しくは、戸開閉制御部31は、乗りかご11が乗場15に到着したときにかごドア13を戸開し、所定時間経過後に戸閉を開始する。ただし、かごドア13の戸閉動作中のときに、検知処理部22bによって利用者が検知された場合には、戸開閉制御部31は、かごドア13の戸閉動作を禁止して、かごドア13を全開方向にリオープンして戸開状態を維持する。
【0023】
設定変更部32は、ドア制御に関わる各種項目の設定値を変更する処理を行う。詳しくは、設定変更部32は、予め物件毎に定められたドア制御に関わる各種項目を有し、後述する検知データの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する。
【0024】
「ドア制御に関わる各種項目」には、具体的には、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度などが含まれる。
「最低戸開時間」は、かごドア13が全開した状態から戸開を開始するまでの時間であり(図6のTa参照)、利用者が検知されていないときの戸開時間である。
「待機時間」は、利用者の検知結果がかごドア13の開閉制御に反映されるまでの待ち時間のことである。具体的には、カメラ12から時系列で得られる複数のフレーム画像を順次比較して、乗車意思を有する利用者を検知するまでの処理時間に相当する。多数のフレーム画像を用いれば、利用者の動きを細かく追従できるので、検知精度を上げることができる。ただし、利用者を検知するまでに時間を要するため、その検知結果を戸開閉制御に反映させるタイミングが通常よりも遅れる。
「戸閉速度」は、かごドア13を全閉方向に移動させるときの速度である。
【0025】
テーブル33には、カメラ12によって検知された利用者の動きを表している検知データを一定期間単位(例えば1週間単位)で保存する。「検知データ」には、戸閉動作中に発生するかごドア13のリオープン回数や、戸開中にカメラ12によって利用者が継続的に検知されている検知継続時間などが含まれる。「リオープン回数」や「検知継続時間」などは、利用者の動きによって変動するデータであり、物件側の混雑状況を表している。通知部34は、この検知データに基づいて、ドア制御に関わる各種項目の設定値が変更された場合に、その旨をビルの管理者や利用者などに通知する。
【0026】
図2は乗りかご11内の出入口周辺部分の構成を示す図である。
乗りかご11の出入口にかごドア13が開閉自在に設けられている。図2の例では2枚戸両開きタイプのかごドア13が示されており、かごドア13を構成する2枚のドアパネル13a,13bが間口方向(水平方向)に沿って互いに逆方向に開閉動作する。なお、「間口」とは、乗りかご11の出入口と同じである。
【0027】
乗りかご11の出入口の両側に正面柱41a,41bが設けられており、幕板11aと共に乗りかご11の出入口を囲っている。「正面柱」は、出入口柱あるいは出入口枠とも言い、裏側にはかごドア13を収納するための戸袋が設けられているのが一般的である。図2の例では、かごドア13が戸開したときに、一方のドアパネル13aが正面柱41aの裏側に設けられた戸袋42aに収納され、他方のドアパネル13bが正面柱41bの裏側に設けられた戸袋42bに収納される。
【0028】
正面柱41a,41bの一方あるいは両方に表示器43や、行先階ボタン44などが配設された操作盤45、スピーカ46が設置されている。図2の例では、正面柱41aにスピーカ46、正面柱41bに表示器43、操作盤45が設置されている。ここで、乗りかご11の出入口上部の幕板11aの中央部に、広角レンズを有するカメラ12が設置されている。
【0029】
図3はカメラ12の撮影画像の一例を示す図である。上側は乗場15、下側は乗りかご11内である。図中の16は乗場15の床面、19は乗りかご11の床面を示している。E1は検知エリアを表している。
【0030】
かごドア13は、かごシル47上を互いに逆方向に移動する2枚のドアパネル13a,13bを有する。乗場ドア14も同様であり、乗場シル18上を互いに逆方向に移動する2枚のドアパネル14a,14bを有する。乗場ドア14のドアパネル14a,14bは、かごドア13のドアパネル13a,13bと共に戸開閉方向に移動する。
【0031】
カメラ12は乗りかご11の出入口上部に設置されている。したがって、乗りかご11が乗場15で戸開したときに、図1に示したように、乗場側の所定範囲(L1)とかご内の所定範囲(L2)が撮影される。このうち、乗場側の所定範囲(L1)に、乗りかご11に乗車する利用者を検知するための検知エリアE1が設定されている。
【0032】
実空間において、検知エリアE1は、出入口(間口)の中心から乗場方向に向かってL3の距離を有する(L3≦乗場側の撮影範囲L1)。全開時における検知エリアE1の横幅W1は、出入口(間口)の横幅W0以上の距離に設定されている。検知エリアE1は、図3に斜線で示すように、シル18,47を含み、三方枠17a,17bの死角を除いて設定される。なお、検知エリアE1の横方向(X軸方向)のサイズは、かごドア13の開閉動作に合わせて変更される構成としても良い。また、検知エリアE1の縦方向(Y軸方向)のサイズについても、かごドア13の開閉動作に合わせて変更される構成としても良い。
【0033】
図4および図5は本システムにおける利用者検知機能を説明するための図である。図4はカメラ12で乗車意思ありの利用者を検知した状態、図5はカメラ12で乗車意思なしの利用者を検知した状態を示している。
【0034】
図4に示すように、かごドア13が全開している状態で、カメラ12によって乗場15から乗りかご11に向かって来る利用者P1が検知されると、その利用者P1に乗車意思ありと判断される。詳しくは、図3に示した検知エリアE1内の画像上で乗場15から乗りかご11に向かうY方向の動きが検知された場合に、利用者P1に乗車意思ありと判断される。この場合、利用者P1が乗車するまでの間、戸開状態が維持される。なお、戸閉動作中に乗車意思を有する利用者P1が検知された場合には、かごドア13が全開方向にリオープンして戸開状態が維持される。
【0035】
一方、図5に示すように、利用者P2がかごドア13の前を通り過ぎた場合、つまり、
図3に示した検知エリアE1内の画像上で戸開閉方向であるX方向の動きが検知された場合に、利用者P2に乗車意思なしと判断される。この場合、かごドア13が全開してから所定時間後に戸閉方向に移動する。
【0036】
図6は乗りかご11が任意の階で着床後、ドアを全開して全閉するまでの流れを示す図である。図中の黒三角印はセンサオン、白三角印はセンサオフを表している。
【0037】
「センサオン」とは、カメラ12の撮影画像上で利用者(乗車意思を有する利用者)を検知したことを示す。「センサオフ」とは、カメラ12による利用者の検知機能を一時的に止めておくことを示す。かごドア13が全閉する手前、具体的には、図2に示したドアパネル13aとドアパネル13bとの間隔が例えば20mmの状態になると、撮影画像に含まれるノイズなどの関係で、利用者を正しく検知できない。このため、戸間20mmの時点から全閉するまでの間、利用者の検知機能を内部処理的に止めておく必要がある。
【0038】
いま、乗りかご11が任意の階で着床したときの時間をt0とする。乗りかご11が着床すると、エレベータ制御装置30から乗りかご11に対して戸開制御信号が送られてくる。この戸開制御信号により、時間t1でかごドア13が戸開を開始し、全開方向に移動する。かごドア13が全開したときの時間をt2とすると、そこから最低戸開時間Taの間、戸開状態が維持される。
【0039】
戸開中(全開中)に利用者が検知されなければ、時間t4で戸閉が開始されるが、カメラ12によって利用者が検知されると、所定時間Tbだけ戸開が延長される。Tbは、Taと同じ時間であっても、異なる時間であっても良い。図6の例では、時間t3で利用者が検知され、時間t5まで戸開延長された状態が示されている。時間t5で戸閉が開始され、かごドア13が全閉方向に移動する。戸閉動作中に利用者が検知されなければ、所定時間Tc後の時間t7でかごドア13が全閉する。
【0040】
一方、戸閉動作中にカメラ12によって利用者が検知されると、かごドア13が全開方向に反転移動(リオープン)する。図6の例では、時間t6で利用者が検知され、かごドア13がリオープンした状態が示されている。リオープン時間をTd、リオープンによりかごドア13が全開位置まで移動した時間をt8とする。時間t8で戸閉が再び開始され、かごドア13が全閉方向に移動する。
【0041】
ここで、戸閉動作中に利用者が検知されなければ、所定時間Te後の時間t9にかごドア13が全閉する。Teは、Tcと同じ時間である。上述したように、戸閉動作中にかごドア13のドアパネル13aとドアパネル13bとの間隔が20mmになると、センサオフの状態になり、カメラ12による利用者の検知機能が一時的に停止する。
【0042】
次に、本システムの動作について、(a)利用者検知処理、(b)設定変更処理に分けて説明する。
【0043】
(a)利用者検知処理
図7は本システムの利用者検知処理を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、画像処理装置20に備えられた制御部22によって実行される。
【0044】
まず、初期設定として、制御部22の検知エリア設定部22aによって検知エリア設定処理が実行される(ステップS10)。この検知エリア設定処理は、例えばカメラ12を設置したとき、あるいは、カメラ12の設置位置を調整したときに、以下のようにして実行される。
【0045】
すなわち、検知エリア設定部22aは、乗りかご11が全開した状態で、出入口から乗場15に向けて距離L3を有する検知エリアE1を設定する。図3に示したように、検知エリアE1は、シル18,47を含み、三方枠17a,17bの死角を除いて設定される。ここで、乗りかご11が全開した状態では、検知エリアE1の横方向(X軸方向)のサイズはW1であり、出入口(間口)の横幅W0以上の距離を有する。
【0046】
ここで、乗りかご11が任意の階の乗場15に到着すると(ステップS11のYes)、エレベータ制御装置30は、かごドア13を戸開して乗りかご11に乗車する利用者を待つ(ステップS12)。
【0047】
このとき、乗りかご11の出入口上部に設置されたカメラ12によって乗場側の所定範囲(L1)とかご内の所定範囲(L2)が所定のフレームレート(例えば30コマ/秒)で撮影される。画像処理装置20は、カメラ12で撮影された画像を時系列で取得し、これらの画像を記憶部21に逐次保存しながら(ステップS13)、以下のような利用者検知処理をリアルタイムで実行する(ステップS14)。なお、撮影画像に対する前処理として、歪み補正や、拡大縮小、画像の一部の切り取りなどを行っても良い。
【0048】
利用者検知処理は、画像処理装置20に備えられた制御部22の検知処理部22bによって実行される。検知処理部22bは、カメラ12によって時系列で得られる複数の撮影画像から検知エリアE1内の画像を抽出することにより、これらの画像に基づいて利用者または物の有無を検知する。
【0049】
具体的には、図8に示すように、カメラ12は、乗りかご11の出入口に設けられたかごドア13と水平の方向をX軸、かごドア13の中心から乗場15の方向(かごドア13に対して垂直の方向)をY軸、乗りかご11の高さ方向をZ軸とした画像を撮影する。このカメラ12によって撮影された各画像において、検知エリアE1の部分をブロック単位で比較することで、かごドア13の中心から乗場15の方向、つまりY軸方向に移動中の利用者の足元位置の動きを検知する。
【0050】
図9に撮影画像を所定のブロック単位でマトリックス状に分割した例を示す。原画像を一辺Wblockの格子状に区切ったものを「ブロック」と呼ぶ。図9の例では、ブロックの縦横の長さが同じであるが、縦と横の長さが異なっていても良い。また、画像全域に渡ってブロックを均一な大きさとしても良いし、例えば画像上部ほど縦(Y軸方向)の長さを短くするなどの不均一な大きさにしても良い。
【0051】
検知処理部22bは、記憶部21に保持された各画像を時系列順に1枚ずつ読み出し、これらの画像の平均輝度値をブロック毎に算出する。その際、初期値として最初の画像が入力されたときに算出されたブロック毎の平均輝度値を記憶部21内の図示せぬ第1のバッファエリアに保持しておくものとする。
【0052】
2枚目以降の画像が得られると、検知処理部22bは、現在の画像のブロック毎の平均輝度値と上記第1のバッファエリアに保持された1つ前の画像のブロック毎の平均輝度値とを比較する。その結果、現在の画像の中で予め設定された閾値以上の輝度差を有するブロックが存在した場合には、検知処理部22bは、当該ブロックを動きありのブロックとして判定する。現在の画像に対する動きの有無を判定すると、検知処理部22bは、当該画像のブロック毎の平均輝度値を次の画像との比較用として上記第1のバッファエリアに保持する。以後同様にして、検知処理部22bは、各画像の輝度値を時系列順にブロック単位で比較しながら動きの有無を判定することを繰り返す。
【0053】
検知処理部22bは、検知エリアE1内の画像に動きありのブロックがあるか否かをチェックする。その結果、検知エリアE1内の画像に動きありのブロックがあれば、検知処理部22bは、検知エリアE1内に利用者または物が存在するものと判断する。
【0054】
このような方法により、かごドア13の戸開時に検知エリアE1内で利用者または物の存在が検知されると(ステップS15のYes)、画像処理装置20からエレベータ制御装置30に対して利用者検知信号が出力される。エレベータ制御装置30の戸開閉制御部31は、この利用者検知信号を受信することにより、かごドア13の戸閉動作を禁止して戸開状態を維持する(ステップS16)。
【0055】
詳しくは、かごドア13が全開状態になると、戸開閉制御部31は、戸開時間のカウント動作を開始し、所定の時間(例えば1分)をカウントした時点で戸閉を行う。この間に利用者が検知され、利用者検知信号が送られてくると、戸開閉制御部31はカウント動作を停止してカウント値をクリアする。これにより、かごドア13の戸開状態が維持されることになる(戸開延長)。
【0056】
また、かごドア13の全開後、一定時間経過すると、エレベータ制御装置30は、かごドア13の戸閉を開始する(ステップS17)。戸閉動作中においても、検知処理部22bは、カメラ12の撮影画像を用いて、乗場15に存在する利用者または物(車椅子など)の有無を検知する(ステップS18)。詳しくは、検知処理部22bは、カメラ12から時系列に順に得られる各画像の輝度値をブロック単位で比較することで、検知エリアE1内の画像に動きありのブロックが存在していれば、検知エリアE1内に利用者または物が存在するものと判断する。
【0057】
戸閉動作中(戸閉開始から全閉するまでの間)に検知エリアE1内で利用者または物の存在が検知されると(ステップS19のYes)、画像処理装置20からエレベータ制御装置30に対して利用者検知信号が出力される。エレベータ制御装置30の戸開閉制御部31は、この利用者検知信号を受信することにより、かごドア13の戸閉動作を禁止してかごドア13を全開方向に反転移動させる(ステップS20)。
【0058】
(b)設定変更処理
図10は本システムの設定変更処理を示すフローチャートである。このフローチャートで示される処理は、エレベータ制御装置30に備えられた設定変更部32によって実行される。
【0059】
設定変更部32は、利用者の動きを表す検知データを所定時間単位で取得し、テーブル33に保存する(ステップS21)。以下では、検知データとして、「リオープン回数」を例にして説明する。設定変更部32は、建物の各階の乗場で発生したリオープン回数を例えば1時間単位で戸開閉制御部31から取得してテーブル33に保存する。なお、例えば基準階の乗場、あるいは、交通需要が高い特定階の乗場で発生したリオープン回数を取得することでも良い。また、複数台の乗りかごを有する群管理システムであれば、乗りかご毎に各階床(基準階あるいは特定の階)で発生したオープン回数を取得してテーブル33に保存する。
【0060】
ここで、一定期間(例えば1週間)分のリオープン回数がテーブル33に保存されると(ステップS22のYes)、設定変更部32は、前回のリオープン回数と今回のリオープン回数とを比較し、前回のリオープン回数に対する今回のリオープン回数の変化率を求める(ステップS23)。この場合、例えば1週間単位で7日分のリオープン回数をテーブル33に順次保存していれば、前回のリオープン回数とは、1週間前の7日分のリオープン回数の合計値である。
【0061】
変化率は、下記のような式で求められる。
変化率={(今回の値-前回の値)/前回の値}×100(%)
例えば、先週のリオープン回数の合計値が30回、今週のリオープン回数の合計値が50回であったとすると、変化率={(50-30)/30}×100=66.6(%)である。これは、今週のリオープン回数が変化率66.6(%)で前週よりも増えていることを意味する。また、先週のリオープン回数の合計値が30回、今週のリオープン回数の合計値が20回であったとすると、変化率={(20-30)/30}×100=-33.3(%)である。今週のリオープン回数が変化率33.3(%)で前週よりも減っていることを意味する。
【0062】
なお、この例では、1週間分のリオープン回数の合計値を比較したが、1週間分のリオープン回数の平均値を求め、この平均値を前回と今回とで比較して、リオープン回数の変化率を求めても良い。
【0063】
設定変更部32は、前回のリオープン回数に対する今回のリオープン回数の変化率が例えば±10%以上であった場合(ステップS24のYes)、そのときの変化率に応じて、ドア制御に関わる各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する(ステップS25)。
【0064】
「ドア制御に関わる各種項目の設定値」とは、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度などである。詳しくは、リオープン回数が前回よりも多く変化した場合には、設定変更部32は、リオープンを抑制するために、かごドア13を通常よりも遅く閉めるように設定変更する。一方、リオープン回数が前回よりも少なく変化した場合には、設定変更部32は、運行効率を優先し、かごドア13を通常よりも早く閉めるように設定変更する。
【0065】
設定変更部32は、建物内のすべての階床に対して共通に各種項目の設定変更を行う。また、多数台のエレベータ(乗りかご)を有する群管理システムであれば、設定変更部32は、各エレベータのそれぞれに対して共通の設定変更を行う。
【0066】
図11に設定変更の具体例を示す。
図11では、リオープン回数を前週と今週とで比較した場合の変化率Δxを6段階に分け、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度の3つの項目の設定値を変更する例を示している。
【0067】
(a)今週のリオープン回数が先週よりも減った場合
Δx<-70(%)であった場合、つまり、今週のリオープン回数が先週よりも70%以上も減少方向に変化していた場合には、予め設定された変更対象項目の優先順位に従って、「最低戸開時間」を変更対象として選択する。この例では、変化率の大きい順に、変更対象項目の優先順位が「最低戸開時間」→「待機時間」→「戸閉速度」に設定されている。Δx<-70(%)であった場合、前回設定されていた最低戸開時間よりも短くして、戸閉の開始を早めるように設定変更する。例えば、先週の最低戸開時間が「3秒」であった場合には、「2秒」に減らす。
【0068】
-70≦Δx<-40(%)であった場合には、「待機時間」を変更対象として選択する。「待機時間」とは、利用者の検知結果がかごドア13の開閉制御に反映されるまでの待ち時間のことであり、検知に要するフレーム画像の枚数に依存される。この場合、前回設定されていた待機時間よりも短くして、利用者の検知処理に時間をかけないように設定変更する。例えば、先週の待機時間が「1秒」であった場合には、「0.5秒」に減らす。
【0069】
-40≦Δx<-10(%)であった場合には、「戸閉速度」を変更対象として選択し、前回設定されていた戸閉速度よりも上げて、戸閉を早めるように設定変更する。例えば、先週の戸閉速度が「0.3m/秒」であった場合には、「0.4m/秒」に上げる。
【0070】
(b)今週のリオープン回数が先週よりも増えた場合
70≦Δx(%)であった場合、つまり、今週のリオープン回数が先週よりも70%以上も増加方向に変化していた場合には、「最低戸開時間」を変更対象として選択する。この場合、前回設定されていた最低戸開時間よりも長くして、戸閉の開始を遅らすように設定変更する。例えば、先週の最低戸開時間が「3秒」であった場合には、「10秒」に増やす。
【0071】
40≦Δx<70(%)であった場合には、「待機時間」を変更対象として選択する。この場合、前回設定されていた待機時間よりも長くして、利用者の検知処理に時間をかけるように設定変更する。例えば、先週の待機時間が「1秒」であった場合には、「3秒」に増やす。
【0072】
また、10≦Δx<40(%)の場合には、「戸閉速度」を変更対象として選択する。この場合、前回設定されていた戸閉速度よりも下げて、戸閉を遅らすように設定変更する。例えば、先週の戸閉速度が「0.3m/秒」であった場合には、「0.2m/秒」に下げる。
【0073】
(c)今週と先週のリオープン回数の変化率が一定値以内の場合
-10≦Δx<10(%)であった場合、つまり、今週と先週のリオープン回数の変化率が±10%の範囲内にあった場合には、各項目の設定変更はせず、前回の設定値を適用する。
【0074】
このように、リオープン回数が先週より少なく変化した場合には、乗りかご11を通常よりも早く戸閉して出発させるような設定変更が行なわれる。一方、リオープン回数が先週よりも多く変化した場合には、リオープンが発生しないように、乗りかご11を通常よりも遅く戸閉して出発させるような設定変更が行なわれる。なお、図11の例では、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度の3つの項目を例にしたが、さらに多くの項目に対して、上記同様の設定変更を行うようにしても良い。
【0075】
また、図12に示すように、リオープン回数の変化率に応じて、変更対象として選択する項目数を増減することでも良い。この場合、変化率が大きいほど、変更対象として選択する項目数を増やし、変化率が小さいほど、変更対象として選択する項目数を減らすようにする。図12の例では、Δx<-70(%),70≦Δx(%)の場合に、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度の3つの項目を変更対象としている。-70≦Δx<-40(%),40≦Δx<70(%)の場合に、待機時間と戸閉速度の2つの項目を変更対象としている。-40≦Δx<-10(%),10≦Δx<40(%)の場合に、戸閉速度のみを変更対象としている。
【0076】
図13に別の例を示す。
図13では、検知継続時間を前週と今週とで比較した場合の変化率Δyを6段階に分け、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度の3つの項目の設定値を変更する例を示している。
【0077】
「検知継続時間」とは、戸開中にカメラ12によって利用者が継続的に検知されている時間のことである。例えば、乗りかご11のドア前に多数の利用者が滞留しているような場合に、カメラ12で各利用者を検知しつづけるので、検知継続時間が長くなる。この検知継続時間の変化率Δyを求め、その変化率Δyに応じて設定変更を行う。例えば、検知継続時間が先週より短く変化した場合には、利用者が少ないと考えられるので、乗りかご11を通常よりも早く戸閉して出発させるような設定変更を行う。一方、検知継続時間が先週より長く変化した場合には、利用者が多いと考えられるので、乗りかご11を通常よりも遅く戸閉するような設定変更が行なわれる。変化率Δyに応じた変更対象項目の選択方法は、図11の例と同様であるため、ここではその説明を省略する。
【0078】
また、図14に示すように、検知継続時間の変化率に応じて、変更対象として選択する項目数を増減することでも良い。この場合、変化率が大きいほど、変更対象として選択する項目数を増やし、変化率が小さいほど、変更対象として選択する項目数を減らすようにする。
【0079】
なお、上記実施形態では、検知データとして、「リオープン回数」と「検知継続時間」を例にして説明したが、例えば「リクローズの回数」などの他の検知データを用いて、設定変更を行う構成としても良い。「リクローズ」とは、戸開動作中にドアを全閉方向に反転移動させる動作のことである。
【0080】
このように第1の実施形態によれば、例えばリオープン回数や検知継続時間などの利用者の動きを表している検知データに着目し、この検知データの変化率に応じて、ドア制御に関わる各種項目の設定値が自動変更される。この場合、一般的に知られている自動変更は、例えば戸開時間など、特定の項目のみが対象である。これに対し、本システムでは、物件毎に定められた複数種類の項目(最低戸開時間、待機時間、戸閉速度など)が変更対象であり、検知データの変化率に応じて、これらの項目の中で予め決められた項目が選択され、その選択された項目の設定値が変更される。したがって、保守員がその都度現場に出向いて設定値の変更作業を行わなくとも、現場の状況に応じて、各種項目の設定値を適宜変更して最適化することができる。
【0081】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について説明する。
第2の実施形態では、クラウドサーバを用いて、各物件のエレベータに対する設定変更を行う構成としたものである。
【0082】
図15は第2の実施形態に係るエレベータシステムの構成を示す図である。図15の例では、クラウドサーバ51に通信ネットワーク52を介して複数の物件(ここでは物件A,B,C)のエレベータが接続された構成が示されている。
【0083】
物件Aのエレベータには、通信装置53、制御装置54、乗りかご55a,55b,55cが備えられている。通信装置53は、クラウドサーバ51と制御装置54との間で各種データをやり取りするインタフェースであり、制御装置54と共に昇降路に設置されている。制御装置54は、乗りかご55a,55b,55cの運転を制御する。制御装置54、乗りかご55a,55b,55cは、図1と同様にカメラ12を用いて利用者を検知し、その検知結果をドアの開閉制御に反映させるための機能が備えられているものとする。他の物件B,Cについても、物件Aと同様である。なお、物件の数や、物件内のエレベータ(乗りかご)の台数などは図15の例に限られるものではない。
【0084】
クラウドサーバ51は、クラウド上に設けられたコンピュータであり、通信ネットワーク52を介して各物件のエレベータの動作を監視している。クラウドサーバ51は、各物件毎に定められたドア制御に関わる各種項目を有する。「ドア制御に関わる各種項目」とは、最低戸開時間、待機時間、戸閉速度などである。クラウドサーバ51は、各物件のエレベータから取得した検知データを物件毎に一定期間単位で保存するテーブル51aを有し、このテーブル51aに保存された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に基づいて、上記第1の実施形態で説明した設定変更を各物件のエレベータに対して行う。
【0085】
図16は本システムの設定変更処理を示すフローチャートである。第2の実施形態において、この設定変更処理は、クラウドサーバ51によって実行される。
クラウドサーバ51は、各物件の制御装置54からカメラ12によって利用者が検知されたときの検知データを各物件毎に定められた識別情報(物件ID)と共に一定期間単位で取得して、テーブル51aに保存する(ステップS31)。クラウドサーバ51は、各物件毎に前回の検知データに対する今回の検知データの変化率を求める(ステップS32)。
【0086】
ここで、一定値以上の変化率を有する物件が存在した場合(ステップS33のYes)に、クラウドサーバ51は、そのときの変化率に応じて、当該物件におけるドア制御に関わる各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する(ステップS34)。
【0087】
例えば、物件Aにおいて、前回と今回のリオープンの変化率が一定値以上であった場合に、クラウドサーバ51は、物件の識別情報に基づいて物件Aを特定し、その物件Aのエレベータに備えられた制御装置54に設定変更の制御信号を出力し、上記変化率に応じて、各種項目の中の予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する。設定変更の方法は、上記第1の実施形態と同様である。
【0088】
このように第2の実施形態によれば、クラウドサーバ51側で各物件のエレベータにおける検知データを監視し、その検知データの変化率が大きい物件に対して、設定変更を指示する構成とした場合でも、上記第1の実施形態と同様に、保守員の変更作業を必要とせず、現場の状況に応じて、各種項目の設定値を適宜変更して最適化することができる。特に、第2の実施形態では、クラウドサーバ51側で設定変更に必要な処理を行うので、各物件のエレベータ側に設定変更のための大きな改良を必要としないといったメリットがある。
【0089】
(変形例)
・検知データがセンサ(カメラ12を用いた利用者検知機能)の正常動作によるものか否かを判断する方法として、下記のような方法がある。なお、下記の処理は、上記第1の実施形態ではエレベータ制御装置30、上記第2の実施形態ではクラウドサーバ51によって実行される。
【0090】
(1)検知データの1つであるリオープン回数の上限値を設定しておき、例えば1時間以内にリオープン回数が上記上限値を超えた場合に、エレベータ側の故障と判断する。具体的には、センサあるいはドア側の機器類(機械式セフテイやドア開閉装置)に何らかの異常が発生している場合である。エレベータ側の故障と判断した場合、エレベータの保守管理センターへ発報し、エレベータの運転を一時的に停止し、乗りかご内と乗場に運転停止中であることをアナウンスまたは表示する。
(2)会議やイベントなどで、多数の利用者がエレベータを利用する特定の時間帯以外で、急に検知データが例えば1週間の平均値よりも10倍以上になった場合に、エレベータ側の故障と判断する。故障と判断した場合の対応は、上記(1)と同様である。
(3)他のエレベータ(乗りかご)が隣接している場合に、その隣接しているエレベータの検知データが上記(1),(2)と同様の状況になった場合に、エレベータ側の故障と判断する。故障と判断した場合の対応は、上記(1)と同様である。
【0091】
・設定変更を行う場合に、建物全体の設定を変更するのではなく、バンク毎に変更する。つまり、例えば複数台のエレベータがAバンクとBバンクに分けられていた場合に、AバンクとBバンクで検知データと個別に管理し、設定変更を行う構成とする。
【0092】
・乗りかご内に乗車している利用者の占有率をカメラの画像解析などで求め、その占有率を戸開時間や戸閉時間の設定変更に反映させる。例えば、乗りかご内で出入口付近に利用者がいると、乗りかご内に空きがあっても(占有率が低くても)、利用者が乗車しない場合がある。したがって、乗りかごの占有率が低い場合には、戸開時間や戸閉時間を通常よりも短くして、早めに戸閉して出発するように設定変更することが好ましい。
【0093】
・戸閉動作中にドアがリオープンした場合に、そのリオープンの原因となった利用者の乗車の有無でリオープンのカウントを変える。つまり、利用者が乗りかごに乗車した場合にはカウントし、利用者が乗りかごに乗車しなかった場合にはカウントしない。これにより、リオープンの回数に実際に利用者が乗車した状況が正しく反映させることができる。なお、利用者が乗車したか否かの判断には、カメラ、多光軸センサ、かご荷重検知器のいずれを用いても良い。
【0094】
・ドアの先端部(戸当たり)には機械式セフティが設けられていて、戸閉動作中に利用者が機械式セフティに触れると、挟まれ防止のためにリオープンする。この機械式セフティによってリオープンしたときの回数もセンサデータのリオープン回数に含めても良い。
・車椅子仕様の乗りかごは、設定変更の対象外としても良い。
【0095】
以上述べた少なくとも1つの実施形態によれば、保守員による変更作業を必要とせず、現場の状況に応じて、ドア制御に関わる各種項目の設定値を適宜変更して最適化することのできるエレベータシステムを提供することができる。
【0096】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0097】
11…乗りかご、11a…幕板、12…カメラ、13…かごドア、13a,13b…ドアパネル、14…乗場ドア、14a,14b…ドアパネル、15…乗場、17a,17b…三方枠、18…乗場シル、47…かごシル、20…画像処理装置、21…記憶部、22…制御部、22a…検知エリア設定部、22b…検知処理部、30…エレベータ制御装置、31…戸開閉制御部、32…設定変更部、33…テーブル、34…通知部、51…クラウドサーバ、52…通信ネットワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
【手続補正書】
【提出日】2024-03-18
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させるエレベータシステムにおいて、
上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、
ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段と、
を具備し
上記検知データには、上記ドアのリオープン回数が含まれることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
上記設定変更手段は、
上記リオープン回数が前回よりも多く変化した場合に、上記ドアを通常よりも遅く閉めるように設定変更し、
上記リオープン回数が前回よりも少なく変化した場合に、上記ドアを通常よりも早く閉めるように設定変更することを特徴とする請求項記載のエレベータシステム。
【請求項3】
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させるエレベータシステムにおいて、
上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、
ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段と、
を具備し、
上記検知データには、上記センサの検知継続時間が含まれることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項4】
上記設定変更手段は、
上記検知継続時間が前回よりも長く変化した場合に、上記ドアを通常よりも遅く閉めるように設定変更し、
上記検知継続時間が前回よりも短く変化した場合に、上記ドアを通常よりも早く閉めるように設定変更することを特徴とする請求項記載のエレベータシステム。
【請求項5】
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させるエレベータシステムにおいて、
上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、
ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段と、
を具備し、
上記設定変更手段は、
上記検知データの変化率に応じて、上記各種項目の中から少なくとも1つの項目を変更対象として選択し、その選択された項目の設定値を変更することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項6】
上記設定変更手段は、
上記変化率に応じて、設定変更の対象として選択する項目数を増減することを特徴とする請求項記載のエレベータシステム。
【請求項7】
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させるエレベータシステムにおいて、
上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、
ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段と、
を具備し、
上記各種項目には、上記ドアが全開してから戸閉を開始するまでの最低戸開時間、上記センサの検知結果が上記ドアの開閉制御に反映されるまでの待機時間、上記ドアの戸閉速度の少なくとも1つが含まれることを特徴とするエレベータシステム。
【請求項8】
複数の物件毎に設けられた複数の制御装置と、上記複数の制御装置に通信ネットワークを介して接続されたクラウドサーバとを備えたエレベータシステムであって、
上記複数の制御装置は、
乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させ、
上記クラウドサーバは、
上記複数の制御装置から上記センサによって上記利用者が検知されたときの検知データを一定期間単位で取得し、
上記複数の物件毎にドア制御に関わる各種項目を有し、上記複数の物件の中で前回の検知データと今回の検知データとの間に一定値以上の変化が生じている物件が存在した場合に、そのときの変化率に応じて、当該物件における上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項9】
上記センサは、
上記乗りかご内に設置されたカメラを含むことを特徴とする請求項1または記載のエレベータシステム。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0008】
一実施形態に係るエレベータシステムは、乗りかごが任意の階の乗場に着床しているときに、上記乗場にいる利用者を検知するセンサを備え、上記センサの検知結果を上記乗りかごのドアの開閉制御に反映させる。上記エレベータシステムは、上記センサによって検知された上記利用者の動きを表している検知データを保存する記憶手段と、ドア制御に関わる各種項目を有し、上記記憶手段に記憶された検知データを一定期間単位で比較したときの変化率に応じて、上記各種項目の中から予め決められた項目を選択し、その選択された項目の設定値を変更する設定変更手段とを具備する。上記検知データには、上記ドアのリオープン回数が含まれる。