(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099278
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】先端支持力の推定方法、圧入施工システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 13/06 20060101AFI20240718BHJP
E02D 7/20 20060101ALI20240718BHJP
E02D 1/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
E02D13/06
E02D7/20
E02D1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003115
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000141521
【氏名又は名称】株式会社技研製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(72)【発明者】
【氏名】北村 精男
(72)【発明者】
【氏名】石原 行博
【テーマコード(参考)】
2D043
2D050
【Fターム(参考)】
2D043AA01
2D043AB03
2D043AC05
2D043BB05
2D050AA06
2D050CB21
2D050FF04
(57)【要約】
【課題】推定精度を向上させることが可能な先端支持力の推定方法、圧入施工システム、およびプログラムを提供する。
【解決手段】先端支持力の推定方法は、杭を地盤に圧入する工程と、前記杭が前記地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する工程と、取得された前記先端抵抗力度に基づき、前記杭の閉塞状態を演算する工程と、演算された前記閉塞状態に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する工程と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭を地盤に圧入する工程と、
前記杭が前記地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する工程と、
取得された前記先端抵抗力度に基づき、前記杭の閉塞状態を演算する工程と、
演算された前記閉塞状態に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する工程と、を有する、先端支持力の推定方法。
【請求項2】
前記杭は管状杭であり、
前記閉塞状態はIFRである、請求項1に記載の先端支持力の推定方法。
【請求項3】
以下の数式(7)、(12)に基づき、前記IFRを演算する、請求項2に記載の先端支持力の推定方法。
【数7】
【数12】
ただし、zは貫入深度であり、λは比例定数であり、h
scは管内土長であり、q
baは圧入施工時の前記先端抵抗力度であり、q
cはコーン貫入試験におけるコーン指数である。
【請求項4】
杭を地盤に圧入する圧入装置と、
前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する推定部と、を備え、
前記推定部は、前記圧入装置によって前記杭が前記地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得し、取得された前記先端抵抗力度に基づいて前記杭の閉塞状態を演算し、演算された前記閉塞状態に基づき前記先端支持力を推定する、圧入施工システム。
【請求項5】
コンピュータに、
杭が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する処理と、
取得された前記先端抵抗力度に基づき、前記杭の閉塞状態を演算する処理と、
演算された前記閉塞状態に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する処理と、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、先端支持力の推定方法、圧入施工システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、杭を地盤に圧入した際の、先端支持力(base capacity)を推定する方法が開示されている。この推定方法では、土圧係数K、および土圧係数Kに応じて決定される係数βを用いて、先端支持力を推定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Yukihiro Ishihara, et al. “Assessment of base capacity of open-ended tubular piles installed by the Rotary Cutting Press-in method”, Soils and Foundations, 60 (2020) 1189-1201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1の推定方法では、土圧係数Kの値に応じて、先端支持力の推定値が大きく変動する。ここで、土圧係数Kを正確に把握することは難しい。このため、非特許文献1の推定方法においては、先端支持力の推定精度を向上させる点で、改善の余地があった。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされ、推定精度を向上させることが可能な先端支持力の推定方法、圧入施工システム、およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の態様1に係る先端支持力の推定方法は、杭を地盤に圧入する工程と、前記杭が前記地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する工程と、取得された前記先端抵抗力度に基づき、前記杭の閉塞状態を演算する工程と、演算された前記閉塞状態に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する工程と、を有する。
【0007】
本発明の態様2に係る圧入施工システムは、杭を地盤に圧入する圧入装置と、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する推定部と、を備え、前記推定部は、前記圧入装置によって前記杭が前記地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得し、取得された前記先端抵抗力度に基づいて前記杭の閉塞状態を演算し、演算された前記閉塞状態に基づき前記先端支持力を推定する。
【0008】
本発明の態様3に係るプログラムは、コンピュータに、杭が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する処理と、取得された前記先端抵抗力度に基づき、前記杭の閉塞状態を演算する処理と、演算された前記閉塞状態に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する処理と、を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、推定精度を向上させることが可能な先端支持力の推定方法、圧入施工システム、およびプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態に係る圧入施工システムの概略図である。
【
図3】実施例および比較例に係る先端支持力の推定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の圧入施工システムについて、図面に基づいて説明する。
図1に示すように、圧入施工システム1は、圧入装置2と、推定部3と、を備えている。圧入装置2は、杭4を把持することが可能なチャックを有している。圧入装置2は、杭4を把持したチャックを繰り返し昇降させることで、杭4を地盤に圧入することが可能である。圧入装置2は、杭4を回転させながら地盤に圧入してもよいし、杭4を回転させずに地盤に圧入してもよい。
【0012】
杭4は、鋼管杭、鋼矢板、および鋼管矢板のいずれであってもよい。鋼管杭および鋼管矢板は、管状杭の一種である。また、これら以外の種類の、先端が開いた形状の杭4を用いてもよい。「先端が開いた形状の杭」とは、地盤に杭が圧入される際に、先端を土砂等が閉塞し得る種類の杭を指す。杭4の先端の具体的な形状は、例えば円形であってもよいし、C字状であってもよい。
【0013】
推定部3は、杭4の先端支持力を推定するように構成されている。推定部3は、例えば、圧入装置2を制御するためのコンピュータ等である。推定部3は、圧入装置2に有線接続または無線接続されている。先端支持力とは、杭4の先端(下端)における、地盤による支持力である。以下、杭4が鋼管杭である場合を例にして、先端支持力の推定方法について説明する。
【0014】
まず、以下の説明において用いる各パラメータの定義を記載する。
Qbf:先端支持力
qbf:先端支持力度(圧力)
qbi:管内土を押上げる圧力
qc:CPT(コーン貫入試験)におけるコーン指数
qBI:当該時点までのqbiの最大値
qba:圧入施工時の先端抵抗力度(圧力)
Ab,closed:杭の先端断面積(杭の内空部も含めた全断面積)
Di:杭の内径
Do:杭の外径
hsc:管内土長
IFR(Incremental Filling Ratio):閉塞状態を表す指標
K:土圧係数
z:貫入深度
β:杭内の鉛直有効応力と摩擦応力を関連付ける係数
γ:土の単位体積重量
γw:水の単位体積重量
δsp:杭と土との壁面摩擦角
τi:管内土と杭内周面との間の摩擦応力
λ:比例定数
【0015】
まず、非特許文献1における、先端支持力Q
bfの算出方法の概略を説明する。
図2は、杭4の先端の応力状態等を説明する図である。
図2に示す摩擦応力τ
iは、以下の数式(1)によって算出される。数式(1)におけるq
bi’については後述する。
【数1】
【0016】
また、数式(1)における係数βは、以下の数式(2)によって算出される。
【数2】
【0017】
図2に示す、高さδh
scの微小要素に作用する力のつり合いは、以下の数式(3)によって表される。
【数3】
【0018】
杭4の先端の間隙水圧をγ
w×h
scと仮定すると、q
bi’は以下の数式(4)によって表される。
【数4】
【0019】
数式(3)を数式(4)に代入して整理すると、以下の数式(5)が得られる。
【数5】
【0020】
押上げ圧力q
biおよび閉塞状態を表す指標IFRは、先述の非特許文献1等に記載されているように、以下の数式(6)(7)によって表される。
【数6】
【数7】
【0021】
数式(5)~(7)を用いて、押上げ圧力q
biおよび閉塞状態を表す指標IFRを消去すると、数式(8)が得られる。
【数8】
【0022】
数式(8)をdh
scについて解き、数式(7)に代入することで、IFRが得られる。このようにして得られたIFRを、先端支持力式に代入することで、先端支持力Q
bfが得られる。先端支持式の一例として、以下の数式(9)、(10)が挙げられる。
【数9】
【数10】
【0023】
以上が、非特許文献1に開示されている方法の概略である。次に、本実施形態に係る先端支持力Q
bfの推定方法について、非特許文献1とは異なる点を説明する。
本実施形態では、先端支持力Q
bfを推定するために、圧入施工時の先端抵抗力度q
baを取得し、その値に基づき、IFRを演算する。本明細書において、「圧入施工時の先端抵抗力度q
baを取得する」ことには、圧入施工時に計測手段を用いて先端抵抗力度q
baを得ること、および、圧入施工時の施工データ(圧入力やトルクなど)を用いて推定された先端抵抗力度q
baの値を利用すること、が含まれる。施工データを用いて先端抵抗力度を推定する方法については、既知の技術(例えば、特開2014-177826号公報、特開2015-17493号公報、特開2017-2623号公報に記載の技術)を適用することができる。本実施形態において、先端抵抗力度q
baは数式(11)によって表される。
【数11】
【0024】
圧入施工時の先端抵抗力度qbaを計測手段により得る方法としては、例えば、開端杭に作用する軸応力に対して閉塞状態を考慮して算出することが挙げられる。開端杭の軸応力は、杭4の先端近傍の周面に、ひずみゲージを貼り付けて、杭4に作用する軸ひずみを計測することにより得てもよい。あるいは、杭4を二重管構造として、内空部(二重管の隙間)に、センサー(小型土圧計等)を配置してもよい。センサーの受圧面を、二重管の隙間の底部に配置することで、軸応力と同等の圧力を計測できる。閉塞状態の情報を計測手段により得る方法としては、例えば、鋼管の頭部付近から鋼管内の土の表面までの距離を計測してIFRを求めることが挙げられる。
【0025】
本実施形態では、数式(6)に代えて、以下の数式(12)を用いる。つまり、押上げ圧力q
biに代えて先端抵抗力度q
baを用いる。
【数12】
【0026】
上記数式(12)をIFRについて解くことで、IFRが得られる。このようにして得られたIFRを、先端支持力式に代入することで、先端支持力Qbfが得られる。先端支持力式の一例としては、先述の数式(9)、(10)が挙げられる。
【0027】
推定部3は、本実施形態に係る先端支持力の推定方法を実行することができるように構成されている。推定部3の機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現される。また、推定部3の機能のうち一部または全部は、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウェアによって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。プログラムは、予め推定部3のHDDやフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体に格納されており、記憶媒体(非一過性の記憶媒体)がドライブ装置に装着されることで推定部3のHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0028】
上記の通り、本実施形態では、先端抵抗力度qbaを用いて先端支持力Qbfを推定する。推定部3が先端支持力Qbfを推定するに当たり、先端抵抗力度qbaが、外部から推定部3に入力されてもよい。この場合、先端抵抗力度qbaを測定または演算するための構成要素(センサ、CPU等)が、推定部3に接続される。あるいは、推定部3が圧入装置2を制御し、圧入装置2が杭4を圧入する際の各種データを用いて、推定部3が先端支持力Qbfを演算してもよい。いずれの場合も、推定部3が「先端抵抗力度qbaを取得」することに含まれる。
【0029】
図3は、本実施形態に係る先端支持力の推定方法を適用した結果の一例を示すグラフである。
図3において、縦軸は先端支持力の推定結果であり、横軸は実測された先端支持力である。×印によって示される実施例は、本実施形態の先端支持力の推定方法を用いた結果を示す。〇印によって示される比較例は、非特許文献1に開示された推定方法を用いた結果を示す。なお、比較例については、K=0.3~0.6としたデータを示している。
【0030】
図3に示す通り、比較例では、土圧係数Kの値に応じて推定結果(縦軸の値)が大きく変動している。これは、非特許文献1の方法では、土圧係数Kおよび管内土の押上げ圧力q
biに依存した推定を行っているためである。これに対して、実施例では、土圧係数Kおよび押上げ圧力q
biに代えて、圧入施工時の先端抵抗力度q
baを用いている。先端抵抗力度q
baは、土圧係数Kよりも精度よく取得することができる。したがって、非特許文献1の方法(比較例)と比較して、本実施形態の方法(実施例)のほうが、精度よく先端支持力を推定することが可能である。
【0031】
また、
図3の比較例では、土圧係数Kの値に応じて、推定結果(縦軸の値)が実測結果(横軸の値)よりも大きくなる場合がある。これに対して、実施例の推定結果(縦軸の値)は、実測結果(横軸の値)よりも小さくなっている。言い換えると、杭4が構造物を支える強度の指標となる先端支持力が、実際よりも低く見積もられており、より安全側の推定結果であるといえる。
【0032】
以上説明したように、本実施形態に係る先端支持力の推定方法は、杭4を地盤に圧入する工程と、杭4が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度qbaを取得する工程と、取得された先端抵抗力度qbaに基づき、IFR(杭4の閉塞状態)を演算する工程と、演算されたIFRに基づき、杭4の先端における地盤による支持力である先端支持力Qbfを推定する工程と、を有する。
【0033】
また、本実施形態に係る圧入施工システム1は、杭4を地盤に圧入する圧入装置2と、杭4の先端における地盤による支持力である先端支持力Qbfを推定する推定部3と、を備え、推定部3は、圧入装置2によって杭4が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度qbaを取得し、取得された先端抵抗力度qbaに基づいてIFRを演算し、演算されたIFRに基づき先端支持力Qbfを推定する。
【0034】
また、本実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、杭4が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度qbaを取得する処理と、取得された先端抵抗力度qba(est)に基づき、IFRを演算する処理と、演算されたIFRに基づき、杭4の先端における地盤による支持力である先端支持力Qbfを推定する処理と、を実行させる。
【0035】
このような先端支持力の推定方法、圧入施工システム1、あるいはプログラムにより、先端支持力Qbfの推定精度を向上させることができる。
【0036】
上記説明した実施形態は、以下のように表現することができる。
プログラムを記憶した記憶装置と、
ハードウェアプロセッサと、を備え、
前記ハードウェアプロセッサが前記プログラムを実行することにより、
杭が地盤に圧入されるときの先端抵抗力度を取得する処理と、
取得された前記先端抵抗力度に基づき、IFR値を演算する処理と、
演算された前記IFR値に基づき、前記杭の先端における前記地盤による支持力である先端支持力を推定する処理と、が行われるように構成されている、圧入施工システム。
【0037】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【0038】
例えば、前記実施形態では、杭4が鋼管杭である場合を例にして、先端支持力の推定方法を説明した。しかしながら、杭4が鋼管杭ではない場合にも、本実施形態の推定方法を応用することが可能である。
【0039】
その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能であり、また、上記した実施形態や変形例を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1…圧入施工システム 2…圧入装置 3…推定部 4…杭