(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099283
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】発光装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 33/60 20100101AFI20240718BHJP
H01L 33/56 20100101ALI20240718BHJP
【FI】
H01L33/60
H01L33/56
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003122
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】溝渕 尚嗣
(72)【発明者】
【氏名】野々山 晋
(72)【発明者】
【氏名】矢羽田 孝輔
(72)【発明者】
【氏名】松浦 健一
【テーマコード(参考)】
5F142
【Fターム(参考)】
5F142AA64
5F142AA72
5F142BA02
5F142CA11
5F142CE04
5F142CE13
5F142CE22
5F142CG05
5F142DA02
5F142DA12
5F142DA73
5F142FA21
5F142FA48
(57)【要約】
【課題】Alからなる反射層を備えた発光装置であって、外環境に対して露出した状態で用いられる場合であっても、Alと反応する物質が触れることによる反射層の反射特性の劣化を抑えることができる発光装置、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】発光素子10と、発光素子10を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材11と、封止部材11上の密着層12と、密着層12上のAl膜からなる反射層13と、反射層13の側面131及び上面132を直接又は間接的に覆う、封止部材11の母材と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜15と、を備え、被覆膜15の外縁部151が封止部材11に密着することにより、反射層13が被覆膜15と封止部材11によって密閉された、発光装置1を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光素子と、
前記発光素子を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材と、
前記封止部材上の密着層と、
前記密着層上のAl膜からなる反射層と、
前記反射層の側面及び上面を直接又は間接的に覆う、前記封止部材の母材と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜と、
を備え、
前記被覆膜の外縁部が前記封止部材に密着することにより、前記反射層が前記被覆膜と前記封止部材によって密閉された、
発光装置。
【請求項2】
前記封止部材と前記被覆膜が、変性シリコーンを母材とする、
請求項1に記載の発光装置。
【請求項3】
前記被覆膜の前記反射層の側面を覆う部分の厚さが、1μm以上である、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項4】
前記被覆膜が、白色又は黒色を有する、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項5】
前記被覆膜の上面を覆う遮光層を備えた、
請求項1又は2に記載の発光装置。
【請求項6】
支持基板上に複数の発光素子を配列させる工程と、
前記支持基板上に、前記複数の発光素子を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材を形成する工程と、
前記封止部材上に、密着層を形成する工程と、
前記密着層上に、Al膜からなる反射層を形成する工程と、
第1のダイシングブレードを用いて、前記反射層側から前記封止部材の一部までをダイシングラインに沿ってカットし、溝を形成する工程と、
前記反射層の上方及び前記溝の内面を覆うように、前記封止部材と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜を形成する工程と、
前記第1のダイシングブレードよりも幅の小さい第2のダイシングブレードを用いて、前記溝内の前記被覆膜及び前記溝の下の前記封止部材を前記ダイシングラインに沿ってカットし、前記封止部材に封止された前記発光素子、前記密着層、前記反射層、及び前記被覆膜をそれぞれ備えた複数の発光装置に個片化する工程と、
を含み、
前記発光装置において、前記被覆膜が前記反射層の上面及び側面を直接又は間接的に覆い、前記被覆膜の外縁部が前記封止部材に密着することにより、前記反射層が前記被覆膜と前記封止部材によって密閉された、
発光装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光装置及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、Alからなる光反射層を備えた発光装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。特許文献1に記載の発光装置においては、発光素子の上方に光反射層が設けられ、発光素子から発せられる光を反射する。一般的に、Alからなる光反射層は、反射率に優れるために発光装置の光取出効率を向上させることができ、また、薄く形成することができるために発光装置を薄型化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、発光装置が密閉されていない状態、すなわち外環境に対して露出した状態で用いられる場合には、塩水や、水、アルカリなどのAlと反応する物質が光反射層に触れて、光反射層の反射特性が劣化するおそれがある。例えば、塩水がAlからなる光反射層に触れると、点状に小さな孔が開く孔食と呼ばれる腐食が生じ、生じた孔から光が漏れて発光装置の配光が変わってしまう場合がある。
【0005】
本発明の目的は、Alからなる反射層を備えた発光装置であって、外環境に対して露出した状態で用いられる場合であっても、Alと反応する物質が触れることによる反射層の反射特性の劣化を抑えることができる発光装置、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記の発光装置及びその製造方法を提供する。
【0007】
[1]発光素子と、前記発光素子を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材と、前記封止部材上の密着層と、前記密着層上のAl膜からなる反射層と、前記反射層の側面及び上面を直接又は間接的に覆う、前記封止部材の母材と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜と、を備え、前記被覆膜の外縁部が前記封止部材に密着することにより、前記反射層が前記被覆膜と前記封止部材によって密閉された、発光装置。
[2]前記封止部材と前記被覆膜が、変性シリコーンを母材とする、上記[1]に記載の発光装置。
[3]前記被覆膜の前記反射層の側面を覆う部分の厚さが、1μm以上である、上記[1]又は[2]に記載の発光装置。
[4]前記被覆膜が、白色又は黒色を有する、上記[1]又は[2]に記載の発光装置。
[5]前記被覆膜の上面を覆う遮光層を備えた、上記[1]又は[2]に記載の発光装置。
[6]支持基板上に複数の発光素子を配列させる工程と、前記支持基板上に、前記複数の発光素子を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材を形成する工程と、前記封止部材上に、密着層を形成する工程と、前記密着層上に、Al膜からなる反射層を形成する工程と、第1のダイシングブレードを用いて、前記反射層側から前記封止部材の一部までをダイシングラインに沿ってカットし、溝を形成する工程と、前記反射層の上方及び前記溝の内面を覆うように、前記封止部材と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜を形成する工程と、前記第1のダイシングブレードよりも幅の小さい第2のダイシングブレードを用いて、前記溝内の前記被覆膜及び前記溝の下の前記封止部材を前記ダイシングラインに沿ってカットし、前記封止部材に封止された前記発光素子、前記密着層、前記反射層、及び前記被覆膜をそれぞれ備えた複数の発光装置に個片化する工程と、を含み、前記発光装置において、前記被覆膜が前記反射層の上面及び側面を直接又は間接的に覆い、前記被覆膜の外縁部が前記封止部材に密着することにより、前記反射層が前記被覆膜と前記封止部材によって密閉された、発光装置の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、Alからなる反射層を備えた発光装置であって、外環境に対して露出した状態で用いられる場合であっても、Alと反応する物質が触れることによる反射層の反射特性の劣化を抑えることができる発光装置、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置の垂直断面図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、被覆膜の外縁部の周辺を拡大した本発明の実施の形態に係る発光装置の拡大断面図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る発光装置の製造工程の一例を示す垂直断面図である。
【
図4】
図4(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る発光装置の製造工程の一例を示す垂直断面図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施の形態に係る発光装置の変形例の垂直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(発光装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る発光装置1の垂直断面図である。発光装置1は、発光素子10と、発光素子10を封止する、樹脂材料を母材とする封止部材11と、封止部材11上のSiO
2膜などからなる密着層12と、密着層12上のAl膜からなる反射層13と、反射層13の側面131及び上面132を直接又は間接的に覆う、封止部材11と同種の樹脂材料を母材とする被覆膜15と、を備える。
【0011】
そして、発光装置1においては、被覆膜15の外縁部151が封止部材11に密着することにより、反射層13が被覆膜15と封止部材11によって密閉されている。外縁部151と封止部材11との密着部分は、封止部材11の側面に沿って環状に連続している。
【0012】
発光素子10は、典型的にはLEDチップである。また、発光素子10は、典型的にはフリップチップ型の素子であるが、フェイスアップ型の素子であってもよい。発光素子10がフリップチップ型である場合、
図1に示されるp側パッド電極101aとn側パッド電極101bが、プリント基板などの実装対象の電極に接続される。
【0013】
発光装置1においては、発光素子10が発する光が反射層13や発光装置1が実装される基板に反射されて、封止部材11の側面から斜め上方に取り出される。このため、発光装置1は、上方向の発光強度が比較的小さく、広角側に発光強度のピークを有する、いわゆるバットウィング形状の配光特性を有する。すなわち、配光角と発光強度の関係において、配光角が0°よりも大きい範囲に発光強度のピークが存在する。
【0014】
封止部材11は、シリコーン樹脂やエポキシ樹脂などの樹脂材料を母材とし、例えば、発光素子10が発する光の波長を変換するための蛍光体を含む。例えば、発光素子10の発する光が青色光、例えば波長が430~470nmの光であって、封止部材11がYAG蛍光体などの黄色蛍光体を含む場合、発光装置1は白色の光を発する。
【0015】
封止部材11は、通常、発光素子10の側面と上面を覆い、また、封止部材11の平面方向の中心に発光素子10が位置するように設けられる。封止部材11の形状は特に限定されないが、典型的には直方体である。この場合、封止部材11の側面が直方体の発光素子10の側面に平行になるように設けられる。
【0016】
密着層12は、封止部材11と反射層13の間に設けられるSiO2などからなる膜であり、密着層12を設けることにより、反射層13のクラックの発生による反射率の低下を抑えることができる。密着層12は、Alとの線膨張係数差が、封止部材11の母材の樹脂材料とAlの線膨張係数差よりも小さい材料からなる。
【0017】
例えば、封止部材11がシリコーン樹脂を母材とする場合、シリコーン樹脂の線膨張係数はおよそ200×10-6~400×10-6ppm、Alの線膨張係数はおよそ23.6×10-6ppmであるため、Al膜からなる反射層13の線膨張係数とシリコーン樹脂を母材とする封止部材11の線膨張係数の差はかなり大きい。このため、封止部材11の上に反射層13を直接形成した場合、反射層13の形成時の昇温による封止部材11と反射層13の膨張、その後の降温による収縮を経て反射層13にクラックが発生しやすい。
【0018】
そこで、密着層12としてSiO2膜を用いた場合、Alの線膨張係数とおよそ0.5×10-6ppmであるSiO2の線膨張係数の差が、Alの線膨張係数とシリコーン樹脂の線膨張係数の差よりも格段に小さいために、反射層13の形成時の昇温とその後の降温を経ても反射層13にクラックが生じ難い。
【0019】
また、密着層12は、SiO2などのAlと全く又はほとんど反応しない材料からなることが好ましい。この場合、密着層12を設けることにより、封止部材11と反射層13の界面に生成される生成物による反射層13の反射率の低下を抑えることができる。
【0020】
封止部材11の上に反射層13を直接形成した場合、封止部材11を構成するシリコーン樹脂などの樹脂材料と反射層13を構成するAlの間に反応(Alの酸化などが考えられる)が生じ、封止部材11と反射層13の界面に反応による生成物が生成される。この生成物の反射率がAlの反射率よりも低いために、この生成物の発生が反射層13の反射率を低下させることになる。
【0021】
封止部材11上にSiO2などからなる密着層12を介して反射層13が形成された発光装置1においては、封止部材11と反射層13が接触していないため、両者の反応による生成物の発生が抑えられる。なお、密着層12としてSiO2膜を用いた場合、反射層13と密着層12との間では反応は生じず、また、密着層12の上に高品質の反射層13を形成できることが確認されている。
【0022】
密着層12の厚さは、密着層12がアイランド状に形成されて反射層13と封止部材11が部分的に接触することを防ぐため、10nm以上であることが好ましい。また、密着層12の厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、封止部材11との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、密着層12の厚さは300nm以下であることが好ましい。密着層12は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0023】
反射層13は密着層12の上に形成されるため、上述のクラックや封止部材11との反応による生成物の発生による反射率の低下が抑えられている。例えば、シリコーン樹脂からなる封止部材11の上にSiO2からなる密着層12を介して形成され、表面を保護層14で保護された反射層13の500nmの波長を有する光に対する反射率がおよそ78%であり、ガラスの上に成膜されたクラックや反応による生成物のないAl膜の反射率と同等であることが実験により確かめられている。一方で、シリコーン樹脂からなる封止部材11の上に直接形成した反射層13の500nmの波長を有する光に対する反射率はおよそ37%であり、クラックや封止部材11との反応による生成物によると考えられる著しい低下がみられた。
【0024】
反射層13は、厚さが小さすぎると発光素子10が発する光の一部を透過するおそれがあり、具体的には、およそ90nm以下になると透過が生じ始める。このため、光の透過を抑えるために、反射層13の厚さは50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましい。また、反射層13は、厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、密着層12との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、反射層13の厚さは300nm以下であることが好ましい。反射層13は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0025】
なお、Al膜からなる反射層13の厚さは、TiO2などの反射材を含む樹脂膜からなる反射層の厚さ(例えば60μm以上)と比較して、格段に小さい。このため、反射層13を用いることにより、樹脂膜からなる反射層を用いる場合と比較して、発光装置1を薄くすることができる。
【0026】
保護層14は、反射層13の表面を保護するための層である。保護層14を設けることにより、反射層13の形成後のクラック、傷、酸化の発生を抑えることができる。保護層14は、例えばSiO2膜、Ti膜、Ta膜、又はCr膜からなる。保護層14の厚さは、保護層14がアイランド状に形成されて反射層13の表面が部分的に露出することを防ぐため、10nm以上であることが好ましい。また、保護層14の厚さが大きすぎると応力により割れやすくなるため、反射層13との熱膨張率の差によりクラックが発生するおそれがある。このため、保護層14の厚さは300nm以下であることが好ましい。保護層14は、例えば、スパッタや蒸着により形成される。
【0027】
発光装置1は、典型的には、CSP(チップスケールパッケージ)と呼ばれる、そのサイズを光源である発光素子のサイズにできる限り合わせたパッケージである。
【0028】
被覆膜15は、上述のように、反射層13の側面131及び上面132を直接又は間接的に覆い、その外縁部151が封止部材11に密着している。このため、反射層13が被覆膜15と封止部材11によって密閉され、塩水や、水、アルカリなどのAlと反応する物質が反射層13と接触することを抑制することができる。これにより、反射層13の反射特性の劣化、例えば、反射層13が塩水に触れたときに生じる孔食による光漏れ、を抑えることができる。
【0029】
反射層13上に保護層14が設けられている場合は、被覆膜15は保護層14の上面を覆う。すなわち、被覆膜15は反射層13の上面132を間接的に覆う。反射層13上に保護層14が設けられていない場合は、被覆膜15は反射層13の上面132を直接覆う。
【0030】
図2(a)、(b)は、被覆膜15の外縁部151の周辺を拡大した発光装置1の拡大断面図である。被覆膜15の外縁部151は、封止部材11の側面の上部に設けられた窪み111に収まり、封止部材11に密着している。被覆膜15の外縁部151は、窪み111に応じた形状を有する。
【0031】
図2(a)に示される例では、窪み111及びそこに収まる外縁部151の断面形状は長方形であり、
図2(b)に示される例では、窪み111及びそこに収まる外縁部151の断面形状は三角形である。窪み111は、後述するように、ダイシングブレードを用いたダイシングにより形成され、窪み111の形状は、ダイシングブレードの形状によって決まる。ダイシングの精度を考慮して、窪み111を安定して形成するためには、窪み111の高さ方向の深さD
1は、例えば、10μm以上、70μm以下であることが好ましい。また、
図2(a)に示される窪み111の横方向の深さD
2は、例えば、1μm以上、40μm以下になる。
【0032】
反射層13の側面131側からの塩水などの浸入をより効果的に抑えるため、被覆膜15の反射層13の側面131を覆う部分の厚さT1が、1μm以上であることが好ましい。なお、反射層13が被覆膜15と封止部材11によって密閉されているのであれば、被覆膜15が反射層13の側面131に接していなくてもよい。すなわち、反射層13の側面131が被覆膜15に間接的に覆われていてもよい。
【0033】
被覆膜15の反射層13の上面132を覆う部分の厚さT2は、被覆膜15がアイランド状に形成されて下層の表面が部分的に露出することを防ぐことのできる程度の厚さであれば、特に限定されない。例えば、被覆膜15をスピンコーティングにより形成する場合には、厚さT2は20μm以上、40μm以下などとなる。
【0034】
被覆膜15は、封止部材11との密着性を高めるため、封止部材11と同種の樹脂材料を母材とする。ここで、樹脂材料の同種とは、変性シリコーン、メチルシリコーンなどの樹脂の種類が同じであることをいい、例えば、変性シリコーンと変性シリコーンであれば、製品の品番が同一であっても異なっていてもよい。例えば、封止部材11の母材に変性シリコーン(信越化学工業株式会社製SCR-1024NF)を用いる場合は、被覆膜15の母材に品番が同じ変性シリコーン(信越化学工業株式会社製SCR-1024NF)や品番の異なる変性シリコーン(信越化学工業株式会社製KCR-H2800)を用いることができる。封止部材11の母材と被覆膜15の母材が異種の樹脂材料からなる場合、密着性が低いために、それらの界面から塩水などが浸入する可能性が高くなる。
【0035】
封止部材11の母材と被覆膜15の母材には、特に、熱や光(紫外線、青色光)などによる劣化に強いシリコーン樹脂を用いることが好ましい。また、シリコーン樹脂のうち、メチルシリコーンなどと比較してガスバリア性に優れる変性シリコーンを用いることが好ましい。
【0036】
被覆膜15の形成には、後述するようにダイシングを用いる。このため、ダイシングの加工性を向上させるために、被覆膜15がある程度の硬度、例えばショア硬さD60以上、D90以下、を有することが好ましい。
【0037】
封止部材11が蛍光体などの粒子を含む場合、粒子を含まない場合と比較して線膨張係数が低下する。このため、封止部材11が粒子を含む場合は、被覆膜15にも粒子を添加して線膨張係数を低下させ、封止部材11と被覆膜15の線膨張係数差を小さくすることが好ましい。これにより、ダイシング中に発生する封止部材11と被覆膜15の形状変化や位置ずれを抑えることができる。被覆膜15に添加する粒子としては、例えば、シリカ粒子などの分散剤や、TiO2粒子、カーボンブラックなどの着色剤を用いることができる。
【0038】
被覆膜15は、透明であってもよいが、半透明や、白色、黒色であってもよい。例えば、被覆膜15がシリカ粒子を含む場合は半透明になり、TiO2粒子とシリカ粒子を含む場合は白色になり、カーボンブラックとシリカ粒子を含む場合は黒色になる。
【0039】
被覆膜15が白色又は黒色を有する場合、次のような効果がある。例えば、発光装置1の消灯時に外部光の反射を抑え、発光装置1を目立ち難くすることができる。また、発光装置1を実装する基板の色に合わせて、被覆膜15の色を白色又は黒色とすることによって、消灯時に発光装置1を目立ち難くすることができる。また、被覆膜15内を光が伝播し難くなるため、被覆膜15の封止部材11、密着層12、反射層13、保護層14の側面を覆う部分を伝って、被覆膜15の上面の外側の領域152(
図2(a)、(b)を参照)から光が漏れることを抑制できる。
【0040】
発光装置1の外形は、典型的には直方体であり、この場合の厚さは、例えば50~400μmであり、平面形状である正方形又は長方形の一辺の長さは、例えば150~1200μmである。
【0041】
(発光装置の製造方法)
図3(a)~(c)、
図4(a)~(c)は、本発明の実施の形態に係る発光装置1の製造工程の一例を示す垂直断面図である。
【0042】
まず、
図3(a)に示されるように、支持基板51上にチップ固定用テープ52を貼り、その上に複数の発光素子10を配列させる。
【0043】
次に、
図3(b)に示されるように、支持基板51上に、複数の発光素子10を封止する封止部材11を形成する。封止部材11の形成には、例えば、蛍光体を含むシリコーン樹脂などの封止部材11の材料を塗布し、硬化させる。
【0044】
次に、
図3(c)に示されるように、封止部材11上に、密着層12、反射層13、及び保護層14を順に形成する。このとき、保護層14は形成しなくてもよい。
【0045】
次に、
図4(a)に示されるように、ダイサーに備えられた第1のダイシングブレードを用いて、上側、すなわち反射層13側から封止部材11の一部までをダイシングラインに沿ってカットし、溝53を形成する。ここで、ダイシングラインとは、対象物を個片化する際にダイシングブレードで切断するラインである。
【0046】
次に、
図4(b)に示されるように、反射層13の上方及び溝53の内面を覆うように、被覆膜15を形成する。被覆膜15の形成には、例えば、シリコーン樹脂などの被覆膜15の材料を塗布し、硬化させる。このとき、保護層14が形成されている場合は、被覆膜15は保護層14の上面を覆い、保護層14が形成されていない場合は、被覆膜15は反射層13の上面を覆う。
【0047】
次に、
図4(c)に示されるように、ダイサーに備えられた第2のダイシングブレードを用いて、溝53内の被覆膜15及び溝53の下の封止部材11を上記のダイシングラインに沿ってカットし、複数の発光装置1に個片化する。
【0048】
ここで、第2のダイシングブレードの幅は、第1のダイシングブレードの幅よりも小さい。このため、第2のダイシングブレードにより形成される溝54の幅は、第1のダイシングブレードにより形成される溝53の幅よりも小さくなる。その結果、溝53の一部が、個片化された発光装置1に窪み111として残る。例えば、第1のダイシングブレードの幅が150μmであり、第2のダイシングブレードの幅が100μmである場合は、窪み111の深さDはおよそ25μmとなる。
【0049】
以上の工程を経て、被覆膜15が反射層13の上面及び側面を直接又は間接的に覆い、被覆膜15の外縁部151が封止部材11に密着することにより、反射層13が被覆膜15と封止部材11によって密閉された、発光装置1が得られる。その後、支持基板51及びチップ固定用テープ52を個片化された複数の発光装置1から剥離する。
【0050】
(反射層の密閉性評価)
以下に、被覆膜15と封止部材11による反射層13の密閉性を評価するために実施した塩水噴霧試験について述べる。
【0051】
この塩水噴霧試験は、JEDEC規格のJESD22-A107に準拠した試験であり、温度が35℃、溶液中のNaClの質量パーセント濃度が5%、溶液の噴霧量が1~3ml/80cm2の条件で実施した。
【0052】
本試験における試料として、封止部材11の母材と被覆膜15の母材に同種の樹脂材料を用いた発光装置1(試料Aとする)、封止部材11の母材と被覆膜15の母材に異種の樹脂材料を用いた発光装置1(試料Bとする)、被覆膜15を省いた発光装置1(試料Cとする)を用いた。試料Aにおいては、封止部材11の母材と被覆膜15の母材に変性シリコーン(信越化学工業株式会社製SCR-1024NF)を用いた。試料Bにおいては、封止部材11の母材と被覆膜15の母材に変性シリコーン(信越化学工業株式会社製SCR-1024NF)とメチルシリコーン(信越化学工業株式会社製KER-2600)をそれぞれ用いた。また、試料Cにおいては、封止部材11の母材に変性シリコーン(信越化学工業株式会社製SCR-1024NF)を用いた。
【0053】
試料Aにおいては、試験開始から192時間が経過しても被覆膜15に腐食が生じなかった。試料Bにおいては、試験開始から72時間が経過したときには被覆膜15に腐食が生じており、192時間が経過したときには腐食がより進んでいた。また、試料Cにおいては、試験開始から24時間が経過したときには被覆膜15に極めて大きな腐食が生じていた。
【0054】
上記の試験結果から、封止部材11の母材と被覆膜15の母材に同種の樹脂材料を用いることにより、被覆膜15と封止部材11による反射層13の高い密閉性が得られることを確認できた。
【0055】
(変形例)
図5は、本発明の実施の形態に係る発光装置1の変形例の垂直断面図である。
図5に示されるように、被覆膜15の上面(
図5における上側を向いた面)を覆う遮光層16が設けられていてもよい。遮光層16は、黒色、白色などに着色されたシリコーン樹脂などの樹脂材料からなり、被覆膜15の上面、特に上面の外側の領域152からの光漏れを効果的に抑えることができる。
【0056】
例えば、遮光層16がTiO2粒子とシリカ粒子を含む場合は白色になり、カーボンブラックとシリカ粒子を含む場合は黒色になる。また、遮光層16と被覆膜15の密着性を高めるため、遮光層16の母材は、被覆膜15の母材と同種の樹脂材料であることが好ましい。
【0057】
遮光層16を形成する場合は、例えば、上記の発光装置1の製造工程において、
図4(b)に示される工程において被覆膜15を形成した後、被覆膜15の上に遮光層16を形成し、
図4(b)に示される工程において被覆膜15及び封止部材11とともに被覆膜15を第2のダイシングブレードを用いてカットすればよい。
【0058】
(実施の形態の効果)
上記の本発明の実施の形態に係る発光装置1によれば、Alからなる反射層13が被覆膜15と封止部材11により密閉されているため、外環境に対して露出した状態で用いられる場合であっても、塩水などのAlと反応する物質が触れることによる反射層13の反射特性の劣化を抑えることができる。
【0059】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0060】
また、上記の実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0061】
1 発光装置
10 発光素子
11 封止部材
111 窪み
12 密着層
13 反射層
131 側面
132 上面
14 保護層
15 被覆膜
151 外縁部
16 遮光層
53、54 溝