(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099290
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】車両試験装置及び車両試験装置の動作制御方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/007 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
G01M17/007 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003129
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】浦田 瑶平
(72)【発明者】
【氏名】桑原 惇
(72)【発明者】
【氏名】大塚 淳司
(72)【発明者】
【氏名】琴尾 浩介
(72)【発明者】
【氏名】須和 祐太
(57)【要約】
【課題】タイヤ切れ角度に関する事前準備を不要にし、かつ、角度変位量を精度良く認識することができるシャーシダイナモメータ等の車両試験装置を得る。
【解決手段】変位センサ7Lは、タイヤ6Lにおける距離測定領域90を検出対象として、タイヤ6Lのタイヤ切れ角度を検出して角度測定情報S7Lを得ている。変位センサ7Rは、タイヤ6Rにおける距離測定領域90を検出対象として、タイヤ6Rのタイヤ切れ角度を検出して角度測定情報S7Rを得ている。コントローラ15は、変位センサ7(7L,7R)より角度測定情報S7(S7L,S7R)を受け、角度測定情報S7が示すタイヤ切れ角度に合致する操舵角度を求め、求めた操舵角度を指示する操舵角指示情報SGをモータドライブ装置19に出力する。モータドライブ装置19は操舵角指示情報SGに従い、ローラ旋回機構3(3L,3R)の旋回用モータ42を駆動する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のタイヤを載置するローラと、
前記ローラを含む旋回対象物を旋回させるローラ旋回動作を実行するローラ旋回機構と、
前記タイヤにおける測定対象領域を検出対象として、前記タイヤの基準方向に対する角度であるタイヤ切れ角度に関する角度変位量を検出して角度測定情報を得る変位センサとを備える、
車両試験装置。
【請求項2】
請求項1記載の車両試験装置であって、
前記変位センサは、前記ローラ旋回動作に実行時に移動しない位置に固定配置される固定変位センサを含む、
車両試験装置。
【請求項3】
請求項1記載の車両試験装置であって、
前記変位センサは、前記旋回対象物に含まれる旋回変位センサを含む、
車両試験装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち、いずれか1項に記載の車両試験装置であって、
前記角度測定情報に基づき、旋回制御処理を実行するローラ旋回制御部をさらに備え、
前記旋回制御処理は、前記ローラと前記タイヤとの位置関係が角度ズレなく一定になるように、前記ローラ旋回機構に前記ローラ旋回動作を実行させる処理である、
車両試験装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のうち、いずれか1項に記載の車両試験装置であって、
前記測定対象領域内に複数の測定ポイントが設けられ、
前記変位センサは前記複数の測定ポイントまでの距離を検出して複数の測定距離を得る距離検出機能を有し、
前記変位センサは角度変位量演算処理を実行して前記角度測定情報を取得し、
前記角度変位量演算処理は、
(a) 前記複数の測定距離に基づき、前記複数の測定ポイントの平面上での座標位置を示す複数の測定座標を求めるステップと、
(b) 前記複数の測定座標から前記タイヤの向きを近似するタイヤ用近似直線を求めるステップと、
(c) 前記タイヤ用近似直線と前記基準方向との間の角度を前記角度変位量として求めるステップと、
(d) 前記角度変位量を指示する前記角度測定情報を得るステップとを含む、
車両試験装置。
【請求項6】
車両のタイヤを載置するローラを有する車両試験装置であって、
前記タイヤは前輪側のタイヤ及び後輪側のタイヤを有し、前輪側のタイヤ及び後輪側のタイヤのうち一方が第1種タイヤとして規定され、他方が第2種タイヤとして規定され、
前記第1種タイヤは左右に配置される第1種左タイヤと第1種右タイヤとを含み、
前記第2種タイヤは左右に配置される第2種左タイヤと第2種右タイヤとを含み、
前記ローラは、前記第1種左タイヤを載置する第1種左ローラと、前記第1種右タイヤを載置する第1種右ローラと、前記第2種左タイヤを載置する第2種左ローラと、前記第2種右タイヤを載置する第2種右ローラとを含み、
前記車両試験装置は、
前記第1種左ローラを旋回させるローラ旋回動作を実行する左側旋回機構と、
前記第1種右ローラを旋回させるローラ旋回動作を実行する右側旋回機構と、
前記第1種左タイヤに設けられた左側測定対象領域を検出対象として、前記第1種左タイヤまでの左タイヤ側距離を検出して左側距離測定情報を得る左側変位センサと、
前記第1種右タイヤに設けられた右側測定対象領域を検出対象として、前記第1種右タイヤまでの右タイヤ側距離を検出して右側距離測定情報を得る右側変位センサと、
前記第2種左タイヤを回転動作可能に固定する左側車両拘束装置と、
前記第2種右タイヤを回転動作可能に固定する右側車両拘束装置と、
前記第2種左ローラ及び前記左側車両拘束装置を含む左側移動対象物を前記車両の幅方向に沿った横方向に移動させる左側移動処理を実行する左側移動機構と、
前記第2種右ローラ及び前記右側車両拘束装置を含む右側移動対象物を前記横方向に移動させる右側移動処理を実行する右側移動機構と、
前記左側距離測定情報及び前記右側距離測定情報を受け、車両位置調整処理を実行する移動処理制御部とをさらに備え、
前記車両位置調整処理は、前記左タイヤ側距離と前記右タイヤ側距離とが位置調整条件を満足するように、前記左側移動機構に前記左側移動処理を実行させ、かつ前記右側移動機構に前記右側移動処理を実行させる処理であり、
前記左側旋回機構と前記右側旋回機構とは中心線に対し左右対称に配置され、前記左側変位センサ及び前記右側変位センサは、前記車両位置調整処理の実行時に前記中心線に対し左右対称に配置され、
前記位置調整条件は前記左タイヤ側距離と前記右タイヤ側距離とが一致する条件である、
車両試験装置。
【請求項7】
請求項6記載の車両試験装置であって、
前記移動処理制御部は、前記第1種左ローラと前記第1種右ローラとを一定の回転速度で回転させるローラ駆動処理をさらに実行する、
車両試験装置。
【請求項8】
車両試験装置の動作制御方法であって、
前記車両試験装置は請求項2記載の車両試験装置を含み、
(a) 前記固定変位センサから前記角度測定情報を受けるステップと、
(b) 前記角度測定情報から前記角度変位量として前記タイヤ切れ角度を得るステップと、
(c) 前記タイヤ切れ角度に合致する旋回角度で前記ローラが旋回するように前記ローラ旋回機構に前記ローラ旋回動作を実行させるステップとを備える、
車両試験装置の動作制御方法。
【請求項9】
車両試験装置の動作制御方法であって、
前記車両試験装置は請求項3記載の車両試験装置を含み、
(a) 前記旋回変位センサから前記角度測定情報を受けるステップと、
(b) 前記角度測定情報から、前記ローラと前記タイヤとの位置関係の角度ズレ量であるローラ・タイヤ間角度ズレ量を得るステップと、
(d) 前記ローラ・タイヤ間角度ズレ量が“0”になるように、前記ローラ旋回機構に前記ローラ旋回動作を実行させるステップとを備える、
車両試験装置の動作制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は車両の各種走行試験に用いられるシャーシダイナモメータ等の車両試験装置及び車両試験装置の動作制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車両試験装置の1つであるシャーシダイナモメータは、従来、車両(自動車)の走行試験を行う際に用いられており、主要構成要素としてローラ装置を含んでいる。
【0003】
車両のステアリング操作に伴う種々の走行試験を行うには、タイヤの旋回動作に適合するようにローラを旋回させるローラ旋回動作を行う必要があるため、シャーシダイナモメータは、ローラ旋回動作を実行する旋回機構をさらに有している。旋回機構を有する従来のシャーシダイナモメータとして、例えば、特許文献1に開示されたシャーシダイナモメータがある。
【0004】
すなわち、左右のタイヤ用のローラ装置をステアリング操作によるタイヤの切れ角度に追従させるための制御方式を実現するには、ローラ旋回動作が必要となる。上記制御方式は自動運転やADAS模擬走行試験に適用することができる。なお、「ADAS(Advanced Driver Assistance System)」は、「先進運転システム」を意味し、事故などの可能性を事前に検知し回避するシステムである。
【0005】
上述したような車両のステアリング操作に伴う種々の走行試験を行うべく、従来のシャーシダイナモメータは、ローラ旋回動作を実行するローラ旋回機構をさらに備えている。上述した特許文献1に開示されたシャーシダイナモメータは、ローラ旋回機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、シャーシダイナモメータで代表される従来の車両試験装置は、車両のハンドルに取り付けたエンコーダから得られるハンドル角度情報(「ハンドル切れ角」を指示)に基づき、操舵角変換テーブルを参照して、タイヤの操舵角であるタイヤ切れ角度を間接的に認識していた。なお、操舵角変換テーブルは、一般に、複数種のハンドル切れ角に対応する形式で複数種のタイヤ切れ角度を示した複数種の角度ペア情報を有している。
【0008】
操舵角変換テーブルの内容は車両毎に異なるため、試験対象となる車両が変更される毎に、タイヤ切れ角度に関する情報として試験対象の車両用の操舵角変換テーブルを準備する必要があり、事前準備に手間を要するという問題点があった。
【0009】
加えて、シャーシダイナモメータで代表される従来の車両試験装置は、ハンドル切れ角に基づいて間接的にタイヤ切れ角度を求めているため、タイヤ切れ角度の認識精度が低いという問題点があった。
【0010】
本開示は上記問題点を解決するためになされたもので、タイヤ切れ角度に関する事前準備を不要にし、かつ、タイヤ切れ角度を精度良く認識することができる車両試験装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係る車両試験装置は、車両のタイヤを載置するローラと、前記ローラを含む旋回対象物を旋回させるローラ旋回動作を実行するローラ旋回機構と、前記タイヤにおける測定対象領域を検出対象として、前記タイヤの基準方向に対する角度であるタイヤ切れ角度に関する角度変位量を検出して角度測定情報を得る変位センサとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本開示の車両試験装置における変位センサは、タイヤに設けられた測定対象領域を検出対象としているため、タイヤ切れ角度に関する角度変位量を精度良く求めることができる。
【0013】
加えて、本開示の車両試験装置は、タイヤに設けられた測定対象領域を検出対象とすることにより、試験対象の車両が変更されても、当該車両のタイヤ切れ角度に関する新たな情報を事前準備する必要はない。
【0014】
したがって、本開示の車両試験装置は、タイヤ切れ角度に関する事前準備を不要にし、かつ、角度変位量を精度良く認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態1のシャーシダイナモメータに関し、車両の載置後の構成を模式的に示す斜視図である。
【
図2】実施の形態1のシャーシダイナモメータにおける変位センサ及びその周辺を模式的に示す説明図である。
【
図3】
図2のA-A断面を模式的に示す説明図である。
【
図4】ローラ旋回機構の構成を模式的に示す説明図である。
【
図5】タイヤに設けられた距離測定領域の内容を模式的に示す説明図である。
【
図6】実施の形態1の変位センサによる角度測定情報の取得方法を示すフローチャートである。
【
図7】実施の形態1のシャーシダイナモメータにおける旋回用モータの駆動系を模式的に示す説明図である。
【
図8】実施の形態1におけるローラ旋回機構の旋回制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図9】実施の形態2のシャーシダイナモメータにおける変位センサ及びその周辺を模式的に示す説明図である。
【
図10】実施の形態2の変位センサによる角度測定情報の取得方法を示すフローチャートである。
【
図11】実施の形態2のシャーシダイナモメータにおける旋回用モータの駆動系を模式的に示す説明図である。
【
図12】実施の形態2におけるローラ旋回機構の旋回制御方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】実施の形態3のシャーシダイナモメータの平面構成を模式的に示す説明図である。
【
図14】実施の形態3の横方向移動機構の構造を示す正面図である。
【
図15】
図14で示した横方向移動機構を上方から視た上面図である。
【
図16】実施の形態3のシャーシダイナモメータにおける各種モータの駆動系を模式的に示す説明図である。
【
図17】実施の形態3のシャーシダイナモメータにおけるセンタリング調整処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態1>
(全体構成)
図1は実施の形態1のシャーシダイナモメータ1に関し、車両60の載置後の構成を模式的に示す斜視図である。なお、
図1にXYZ直交座標系を示している。実施の形態1では車両試験装置としてシャーシダイナモメータ1を用いている。
【0017】
図1に示すように、4つのローラ装置2のローラ対20上に車両60の4つのタイヤ6が載置される。各ローラ装置2は、車両60のタイヤ6を載置するローラ対20を有している。さらに、車両60に対する試験を行う際は、図示しない車両固定手段によって、車両60が4つのローラ装置2のローラ対20上に載置された状態で固定される。
【0018】
床面50上において、車両60の前方(+Y方向)にX方向を長手方向、Z方向を短手方向とした矩形状の画像シミュレータ62が設けられる。シミュレーション補助部材である画像シミュレータ62は、車両60から視覚認識可能な全景色を表示する表示機能を有している。
【0019】
また、車両60は図示しない外界センサを有しても良い。外界センサとして、コーナーセンサ等に利用されるレーダ及びライダー(LiDAR)やサイドカメラ(サイド電子ミラー)等が考えられる。
【0020】
シャーシダイナモメータ1は、必要に応じて車両60のタイヤ6の角度測定情報や画像シミュレータ62等を用い、必要に応じて車両60の上記外界センサからの情報を受け、車両60に対する走行試験を行う。走行試験には、車両60のタイヤ6を旋回されるタイヤ旋回動作と、タイヤ旋回動作に併せてローラ対20を旋回されるローラ旋回動作とを伴う試験が含まれる。
【0021】
(車両60の用語規定について)
本明細書において、車両60のタイヤ6を第1種タイヤと第2種タイヤに分類している。以下で述べる実施の形態では、車両60の4つのタイヤ6に関し、前輪側タイヤ及び後輪側タイヤのうち、前輪側タイヤを第1種タイヤして規定し、後輪側タイヤを第2種タイヤと規定している。
【0022】
したがって、第1種タイヤは左右に配置される第1種左タイヤと第1種右タイヤとを含んでおり、前輪側のタイヤ6Lが第1種左タイヤとなり、前輪側のタイヤ6Rが第1種右タイヤとなる。
【0023】
同様に、第2種タイヤは左右に配置される第2種左タイヤと第2種右タイヤとを含んでおり、後輪側のタイヤ6Lが第2種左タイヤとなり、後輪側のタイヤ6Rが第2種右タイヤとなる。
【0024】
4つのローラは、第1種左タイヤである前輪側左タイヤを載置する第1種左ローラと、第1種右タイヤである前輪側右タイヤを載置する第1種右ローラと、第2種左タイヤである後輪側左タイヤを載置する第2種左ローラと、第2種右タイヤである後輪側右タイヤを載置する第2種右ローラとに分類される。
【0025】
(特徴部の構成)
図2は実施の形態1のシャーシダイナモメータ1における変位センサ7及びその周辺を模式的に示す説明図である。同図にXYZ直交座標系を記している。旋回台32Lを有するローラ旋回機構3L(左側旋回機構)は、第1種左ローラとなるローラ対20(前方ローラ20F+後方ローラ20B)を左側旋回対象物として、ローラ旋回方向R2に沿って左側旋回対象物を旋回させる左側ローラ旋回動作を実行する。なお、旋回台32Lは左側ローラ旋回動作時にローラ旋回方向R2に沿って旋回する。
【0026】
同様に、旋回台32Rを有するローラ旋回機構3R(右側旋回機構)は、第1種右ローラとなるローラ対20(前方ローラ20F+後方ローラ20B)を右側旋回対象物として、ローラ旋回方向R2に沿って右側旋回対象物を旋回させる右側ローラ旋回動作を実行する。なお、旋回台32Rは右側ローラ旋回動作時にローラ旋回方向R2に沿って旋回する。
【0027】
図2では第1種左ローラ上に第1種左タイヤであるタイヤ6Lが載置され、第1種右ローラ上に第1種右タイヤであるタイヤ6Rが載置されている状態を示している。
【0028】
左側変位センサである変位センサ7Lは、タイヤ6Lにおける後述する距離測定領域90を検出対象として、タイヤ6Lの固定基準方向(前後方向;Y方向)に対する角度(操舵角)であるタイヤ切れ角度を検出して角度測定情報S7Lを得ている。角度測定情報S7Lは角度変位量として、変位センサ7Lで検出されたタイヤ切れ角度を示している。なお、タイヤ角度検出範囲37Lは変位センサ7Lによる検出範囲を示している。
【0029】
同様に、右側変位センサである変位センサ7Rは、タイヤ6Rにおける距離測定領域90を検出対象として、タイヤ6Rの固定基準方向に対する角度であるタイヤ切れ角度を検出して角度測定情報S7Rを得ている。角度測定情報S7Rは角度変位量として、変位センサ7Rによって検出されたタイヤ切れ角度を示している。タイヤ角度検出範囲37Rは変位センサ7Rによる検出範囲を示している。
【0030】
なお、実施の形態1で用いるタイヤ6の固定基準方向は、ローラ旋回動作によって変化しない。このように、実施の形態1ではタイヤ切れ角度用の基準方向として固定基準方向を採用している。
【0031】
変位センサ7Lは旋回台32Lの外部領域に固定配置され、変位センサ7Rは旋回台32Rの外部領域に固定配置される。すなわち、変位センサ7Lは、左側旋回機構による左側ローラ旋回動作の実行時に移動しない位置に固定配置されるため、左側旋回対象物に含まれない。同様に、変位センサ7Rは、右側旋回機構による右側ローラ旋回動作の実行時に移動しない位置に固定配置されるため、右側旋回対象物に含まれない。
【0032】
図3は
図2のA-A断面を模式的に示す説明図である。
図3にXYZ直交座標系を記している。同図に示すように、タイヤ6(タイヤ6L)は、下方に測定対象領域として距離測定領域90を有しており、距離測定領域90内に直線方向(
図3ではY方向)に沿って複数の測定ポイント9が設けられる。複数の測定ポイント9は変位センサ7によって認識可能な特徴を有している。変位センサ7によって認識可能な特徴として、例えば、凸部等、様々な形状が考えられる。
【0033】
変位センサ7(変位センサ7L)は、変位センサ7(の検出点)から複数の測定ポイント9それぞれまでの複数の(センサ・タイヤ間)測定距離を検出して距離情報を得る距離検出機能を有している。
【0034】
図4はローラ旋回機構3の構成を模式的に示す説明図である。同図に示すローラ旋回機構3は左側旋回機構(ローラ旋回機構3L)及び右側旋回機構(ローラ旋回機構3R)それぞれに共通の構造である。
【0035】
ローラ旋回機構3は旋回構造体31(ローラ装置2)、旋回軸受34、基台36、及び旋回用モータ42を主要構成要素として含んでいる。旋回構造体31は旋回台32及び旋回ベッド35を含み、ローラ対20を有するローラ装置2と一体化されている。
【0036】
旋回用モータ42は速度制御が可能なギヤ付モータである。旋回用モータ42の先端にはギヤが取り付けられ、基台36の外周に取り付けられたギヤ(図示せず)とかみ合わせている。したがって、旋回用モータ42の回転により、旋回ベッド35を旋回させることができる。
【0037】
旋回軸受34は旋回可能に旋回ベッド35を支持しており、旋回軸受34の中心を旋回中心として、旋回用モータ42の動力で旋回ベッド35を旋回させている。旋回ベッド35の回転に伴い、旋回構造体31が回転する。このように、ローラ旋回機構3は、旋回用モータ42によって旋回される旋回構造体31を有している。
【0038】
以下、変位センサ7L及び7Rを総称する場合は単に「変位センサ7」と称し、角度測定情報S7L及びS7Rを総称する場合は単に「角度測定情報S7」と称する場合がある。
【0039】
図5はタイヤ6に設けられた距離測定領域90(測定対象領域)の内容を模式的に示す説明図である。同図に示すように、距離測定領域90内において複数の測定ポイント9として8つの測定ポイント91~98が設けられる。8つの測定ポイント91~98は複数の測定ポイントの一例であり、測定ポイントの数が8つに限定されないことは勿論である。
【0040】
図6は変位センサ7による角度測定情報S7の取得方法を示すフローチャートである。以下、
図5及び
図6を参照して角度測定情報S7の取得内容を説明する。
【0041】
まず、ステップST1において、測定ポイント座標演算処理を実行する。測定ポイント座標演算処理は、以下の部分ステップST1-1及びST1-2を含んでいる。
【0042】
ステップST1-1は、「変位センサ7から測定ポイント91~98それぞれへの距離を測定距離L91~L98として得る」部分ステップである。変位センサ7は、変位センサ7から測定ポイント91~98までの距離を検出して、測定距離L91~L98を得ている。このように、変位センサ7は、変位センサ7から複数の測定ポイント(測定ポイント91~98)それぞれまでの複数の測定距離(測定距離L91~L98)を得る距離検出機能を有している。
【0043】
ステップST1-2は、「測定距離L91~L98から測定ポイント91~98の水平面(XY平面)上における座標位置を測定座標C91~C98として得る」部分ステップである。
【0044】
このように、部分ステップST1-1及びST1-2を含む測定ポイント座標演算処理(ST1)を実行することにより、複数の測定ポイントである測定ポイント91~98における測定座標C91~C98を複数の測定座標として得ることができる。
【0045】
次に、ステップST2において、ステップST1で取得した、各々が座標位置を示す測定座標C91~C98に基づき、一次関数として得られる回帰直線であるタイヤ用近似直線を求める。このタイヤ用近似直線がタイヤ6の方向を示す直線となる。
【0046】
その後、ステップST3において、予め準備した基準方向とタイヤ用近似直線との間に形成される角度から、タイヤ切れ角度を得る。なお、実施の形態1では、基準方向として、車両60の前後方向である直進方向(Y方向)等を示す固定基準方向が採用されている。
【0047】
そして、ステップST4において、変位センサ7は、ステップST3で算出されたタイヤ切れ角度を示す角度測定情報S7を出力する。すなわち、角度測定情報S7は角度変位量としてタイヤ切れ角度を示している。
【0048】
このように、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、距離検出機能を有する変位センサ7を用いて、タイヤ6に設けられた距離測定領域90(測定対象領域)を検出対象として、角度変位量であるタイヤ切れ角度を求めることができる。
【0049】
図7は実施の形態1のシャーシダイナモメータ1における旋回用モータ42の駆動系を模式的に示す説明図である。
【0050】
同図に示すように、シャーシダイナモメータ1は、ローラ旋回制御部であるコントローラ15、モータドライブ装置19、及びエンコーダ55をさらに備えている。
図7で示す旋回用モータ42は、ローラ旋回機構3L及び3Rそれぞれに用いられるモータである。
【0051】
図7に示すように、コントローラ15は、変位センサ7より角度測定情報S7を受け、角度測定情報S7が示すタイヤ切れ角度に合致する操舵角度を求める。そして、コントローラ15は、求めた操舵角度を指示する操舵角指示情報SGをモータドライブ装置19に出力する。モータドライブ装置19は、操舵角指示情報SGが指示する操舵角度に合致する旋回角度でのローラ旋回動作を指示する駆動制御信号S19を旋回用モータ42に出力する。なお、モータドライブ装置19は、エンコーダ55からエンコーダ情報S55をフィードバック信号として受信している。エンコーダ情報S55には旋回構造体31の基準方向に対する旋回角度の測定値が含まれる。
【0052】
図8は、
図7で示した駆動系においてコントローラ15の制御下で行うローラ旋回機構3の旋回制御方法の処理手順を示すフローチャートである。実施の形態1では、車両試験装置の動作制御方法として、
図8で示すローラ旋回機構3の旋回制御方法を示している。
【0053】
同図を参照して、ステップST11において、固定変位センサである変位センサ7から角度測定情報S7を受け、角度測定情報S7が示すタイヤ切れ角度に合致する操舵角度を求める。なお、角度測定情報S7が“0”でないタイヤ切れ角度を示す場合、車両60に対するステアリング処理によりタイヤ6が旋回したことを意味する。
【0054】
その後、ステップST12において、コントローラ15は、ステップST11で求めた操舵角度を指示する操舵角指示情報SGをモータドライブ装置19に出力する。
【0055】
そして、ステップST13において、モータドライブ装置19が旋回用モータ42に駆動制御信号S19を出力するモータ制御により、ローラ旋回機構3にローラ旋回動作を実行させる。
【0056】
この際、ローラ旋回機構3によるローラ旋回動作は、操舵角指示情報SGが指示する操舵角度に合致する旋回角度で旋回構造体31が旋回するように実行される。したがって、実施の形態1のローラ旋回動作の実行時における旋回構造体31の旋回角度は、固定の基準方向からの絶対旋回角度となる。
【0057】
このように、ローラ旋回制御部であるコントローラ15は、
図8で示す旋回制御方法を行う旋回制御処理を実行している。この旋回制御処理は、ローラ対20とタイヤ6との位置関係が角度ズレなく一定になるように、ローラ旋回機構3にローラ旋回動作を実行させる処理となる。
【0058】
例えば、車両60のステアリング操作に伴い、タイヤ切れ角度A6でタイヤ6を旋回させた場合、角度測定情報S7が示すタイヤ切れ角度A6と同じ絶対旋回角度で旋回構造体31を旋回させることにより、ローラ対20とタイヤ6との位置関係はタイヤ切れ角度A6の発生前の位置関係を維持し一定となる。なお、タイヤ切れ角度A6には旋回方向が含まれる。
【0059】
具体的にはローラ対20に対し設定した旋回基準方向DKにタイヤ6の前述したタイヤ用近似直線が常に一致するようにローラ旋回動作が実行される。なお、旋回基準方向DKとして、
図2に示すように、旋回台32内における前方ローラ20Fと後方ローラ20Bとの対向方向等が考えられる。
【0060】
実施の形態1のシャーシダイナモメータ1における変位センサ7(変位センサ7L+変位センサ7R)は、タイヤ6に設けられた距離測定領域90(測定対象領域)を検出対象としているため、角度変位量として固定基準方向(Y方向)に対するタイヤ切れ角度を精度良く求めることができる。
【0061】
加えて、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、タイヤ6に設けられた距離測定領域90を検出対象としているため、試験対象の車両60が変更されても、変更された車両60のタイヤ切れ角度に関する新たな情報を事前準備する必要はない。
【0062】
必要な処理は、変更された車両60のタイヤ6に対し、変位センサ7の距離検出機能が利用できる距離測定領域90を設定することのみであり、従来用いた操舵角変換テーブルのようなタイヤ切れ角度に関する情報は不要となる。したがって、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、試験対象となる車両60の車種に制約・制限されることはない。
【0063】
このように、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、タイヤ切れ角度に関する事前準備を不要にし、かつ、角度変位量としてタイヤ切れ角度を精度良く認識することができる。
【0064】
実施の形態1のシャーシダイナモメータ1において、固定変位センサである変位センサ7は、ローラ旋回動作に実行時に移動しない位置である旋回台32外に固定配置されるため、角度測定情報S7からタイヤ切れ角度を直接的に認識することができる。
【0065】
実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、ローラ旋回制御部であるコントローラ15による旋回制御処理によって、変位センサ7によって得られた角度測定情報S7に基づき、ローラ対20とタイヤ6との位置関係が角度ズレなく一定になるように、タイヤ切れ角度(角度変位量)に精度良く同期したローラ旋回動作をローラ旋回機構3に実行させることができる。
【0066】
したがって、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、コントローラ15による旋回制御処理によって、角度測定情報S7が示すタイヤ切れ角度に合致した(絶対)旋回角度で精度良くローラ対20を旋回させるローラ旋回動作をローラ旋回機構3に実行させることができる。
【0067】
実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、角度変位量演算処理として
図6で示した角度測定情報S7の取得方法を実行している。角度測定情報S7の取得方法は上述したステップST1~ST4を含んでいる。
【0068】
実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、上記距離検出機能を有する変位センサ7に
図6で示す角度変位量演算処理(角度測定情報S7の取得処理)を実行させることにより、角度変位量としてタイヤ切れ角度を精度良く求めることができる。
【0069】
また、変位センサ7は距離検出機能を有しているため、特別な演算処理を行うことなく距離測定領域90を有するタイヤ6までの距離を測定することができる。
【0070】
図8で示したように、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1は、ローラ旋回機構3の旋回制御処理(車両試験装置の動作制御方法)として、ステップST11~ST14を実行している。このため、タイヤ6を旋回させるタイヤ旋回動作を伴う車両60の試験時に、ローラ対20とタイヤ6との位置関係を常に角度ズレなく一定にして、精度良く車両60の試験を行うことができる。
【0071】
なお、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1では、変位センサ7が
図6で示すステップST1~ST4を実行して、角度測定情報S7がタイヤ切れ角度を示す基本態様を示したが、以下の変形態様も考えられる。
【0072】
変形態様では、変位センサ7が行う処理をステップST1の部分ステップST1-1のみに留めている。この場合、角度測定情報S7が測定距離L91~L98を示している。
【0073】
変形態様において、コントローラ15は、角度測定情報S7が示す測定距離L91~L98に基づき、
図6で示すステップST1の部分ステップST1-2、及びステップST2~ST4を実行して、タイヤ切れ角度を求めた後、
図8で示すステップST12及びST13を実行する。
【0074】
このように、実施の形態1の変形態様として、変位センサ7の処理内容を必要最小限に留め、コントローラ15の機能を拡張した構成も考えられる。
【0075】
<実施の形態2>
図9は実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおける変位センサ8及びその周辺を模式的に示す説明図である。同図にXYZ直交座標系を記している。実施の形態2では車両試験装置としてシャーシダイナモメータ1Bを用いている。
【0076】
なお、変位センサ7が変位センサ8に置き換わった点、後述するようにコントローラ15がコントローラ15Bに変更された点等を除き、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは実施の形態1のシャーシダイナモメータ1と同様な構成である。
【0077】
以下、実施の形態1のシャーシダイナモメータ1と同じ構成部は同一参照番号を付して説明を適宜省略し、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bの特徴箇所を中心に説明する。
【0078】
図9では、実施の形態1と同様、第1種左ローラ上に第1種左タイヤであるタイヤ6Lが載置され、第1種右ローラ上に第1種右タイヤであるタイヤ6Rが載置されている状態を示している。
【0079】
なお、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおいても、実施の形態1と同様、タイヤ6L及び6Rそれぞれに測定対象領域として距離測定領域90が設けられる。
【0080】
左側変位センサである変位センサ8Lは、タイヤ6Lにおける距離測定領域90を検出対象として、第1種左ローラとなるローラ対20(前方ローラ20F+後方ローラ20B)とタイヤ6Lとの位置関係における角度ズレ量であるローラ・タイヤ間角度ズレ量を検出し、ローラ・タイヤ間角度ズレ量を示す角度測定情報S8Lを得ている。角度測定情報S8Lは角度変位量として、変位センサ8Lで検出されたローラ・タイヤ間角度ズレ量を示している。タイヤ角度検出範囲38Lは変位センサ8Lによる検出範囲を示している。
【0081】
同様に、右側変位センサである変位センサ8Rは、タイヤ6Rにおける距離測定領域90を検出対象として、第1種右ローラとなるローラ対20とタイヤ6Rとのローラ・タイヤ間角度ズレ量を検出し、ローラ・タイヤ間角度ズレ量を示す角度測定情報S8Rを得ている。角度測定情報S8Rは角度変位量として、変位センサ8Rで検出されたローラ・タイヤ間角度ズレ量を示している。タイヤ角度検出範囲38Rは変位センサ8Rによる検出範囲を示している。
【0082】
変位センサ8Lは旋回台32L上に配置され、変位センサ8Rは旋回台32R上に配置される。すなわち、変位センサ8Lはローラ旋回機構3L(左側旋回機構)による左側ローラ旋回動作によって、第1種左ローラとなるローラ対20と共に旋回し、変位センサ8Rはローラ旋回機構3R(右側旋回機構)による右側ローラ旋回動作によって、第1種右ローラとなるローラ対20と共に旋回する。
【0083】
したがって、ローラ旋回機構3Lの左側旋回対象物に第1種左ローラと変位センサ8Lとが含まれ、ローラ旋回機構3Rの右側旋回対象物に第1種右ローラと変位センサ8Rとが含まれる。
【0084】
このように、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおいて、左側旋回対象物に第1種左ローラと変位センサ8Lとが含まれ、右側旋回対象物に第1種右ローラと変位センサ8Rとが含まれる。
【0085】
変位センサ8Lは、変位センサ8L(の検出点)からタイヤ6Lの距離測定領域90内に設けられた複数の測定ポイント9それぞれまでの複数の測定距離を検出して距離情報を得る距離検出機能を有している。
【0086】
同様に、変位センサ8Rは、変位センサ8R(の検出点)からタイヤ6Rの距離測定領域90内に設けられた複数の測定ポイント9それぞれまでの複数の測定距離を検出して距離情報を得る距離検出機能を有している。
【0087】
以下、変位センサ8L及び8Rを総称する場合は単に「変位センサ8」と称し、角度測定情報S8L及びS8Rを総称する場合は単に「角度測定情報S8」と称する場合がある。
【0088】
図10は変位センサ8による角度測定情報S8の取得方法を示すフローチャートである。なお、タイヤ6に設けられた距離測定領域90は、実施の形態1と同様、
図6で示す領域となる。以下、
図6及び
図10を参照して角度測定情報S8の取得内容を説明する。
【0089】
まず、ステップST21において、測定ポイント座標演算処理を実行する。測定ポイント座標演算処理は、以下の部分ステップST21-1及びST21-2を含んでいる。
【0090】
ステップST21-1は、「変位センサ8から測定ポイント91~98それぞれへの距離を測定距離L91~L98として得る」部分ステップである。変位センサ8は測定ポイント91~98までの距離を検出して、測定距離L91~L98を得ている。このように、変位センサ8は複数の測定ポイント(測定ポイント91~98)までの複数の測定距離(測定距離L91~L98)を検出する距離検出機能を有している。変位センサ8より得られる距離情報は測定距離L91~L98を示している。
【0091】
ステップST21-2は、「測定距離L91~L98から測定ポイント91~98のXY平面における座標位置を測定座標C91~C98として得る」部分ステップである。
【0092】
このように、部分ステップST21-1及びST21-2を含む測定ポイント座標演算処理(ST21)を実行することにより、複数の測定ポイントである測定ポイント91~98における測定座標C91~C98を複数の測定座標として得ることができる。
【0093】
次に、ステップST22において、ステップST21で取得した、各々が座標位置を示す測定座標C91~C98に基づき、一次関数として得られる回帰直線であるタイヤ用近似直線を求める。このタイヤ用近似直線がタイヤ6の方向を示す直線となる。
【0094】
その後、ステップST23において、予め準備した旋回基準方向DKとタイヤ用近似直線との角度から、ローラ・タイヤ間角度ズレ量を得る。
図9では、旋回基準方向DKとして、旋回台32内における前方ローラ20Fと後方ローラ20Bとの配置方向(前方ローラ20Fと後方ローラ20Bとが互いに対向する方向)を示す方向を示している。
【0095】
このように、実施の形態2に用いる基準方向はローラ旋回動作に伴い向きが変化する旋回基準方向DKとなる。
【0096】
そして、ステップST24において、変位センサ8は、ステップST23で算出されたローラ・タイヤ間角度ズレ量を示す角度測定情報S8を出力する。
【0097】
このように、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、距離検出機能を有する変位センサ8を用い、タイヤ6に設けられた距離測定領域90(測定対象領域)を検出対象として、角度変位量としてローラ・タイヤ間角度ズレ量を算出することができる。
【0098】
図11は実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおける旋回用モータ42の駆動系を模式的に示す説明図である。
【0099】
同図に示すように、シャーシダイナモメータ1Bは、ローラ旋回制御部であるコントローラ15B、モータドライブ装置19、及びエンコーダ55をさらに備えている。
図11で示す旋回用モータ42は、ローラ旋回機構3L及び3Rそれぞれに用いられるモータである。
【0100】
図11に示すように、コントローラ15Bは、変位センサ8より角度測定情報S8を受け、角度測定情報S8が示すローラ・タイヤ間角度ズレ量に合致する操舵角度を求める。そして、コントローラ15Bは、求めた操舵角度を指示する操舵角指示情報SGBをモータドライブ装置19に出力する。モータドライブ装置19は、操舵角指示情報SGBが指示する操舵角度に合致する相対旋回角度でのローラ旋回動作を指示する駆動制御信号S19を旋回用モータ42に出力する。相対旋回角度は、ローラ旋回機構3の現在位置(現在の旋回角度)からの旋回角度となる。なお、モータドライブ装置19は、エンコーダ55からエンコーダ情報S55をフィードバック信号として受信している。エンコーダ情報S55には旋回構造体31のローラ旋回動作の実行前後の絶対旋回角度が含まれる。
【0101】
図12は
図11で示した駆動系においてコントローラ15Bの制御下で行うローラ旋回機構3の旋回制御方法の処理手順を示すフローチャートである。実施の形態2では、車両試験装置の動作制御方法として、
図12で示すローラ旋回機構3の旋回制御方法を示している。
【0102】
同図を参照して、ステップST31において、旋回変位センサである変位センサ8から角度測定情報S8を受け、角度測定情報S8が示すローラ・タイヤ間角度ズレ量に合致する操舵角度を求める。
【0103】
その後、ステップST32において、コントローラ15Bは、ステップST31で求めた操舵角度を指示する操舵角指示情報SGBをモータドライブ装置19に出力する。
【0104】
そして、ステップST33において、モータドライブ装置19が旋回用モータ42に駆動制御信号S19を出力するモータ制御により、ローラ旋回機構3にローラ旋回動作を実行させる。
【0105】
この際、ローラ旋回機構3によるローラ旋回動作は、操舵角指示情報SGBが指示する操舵角度と合致する相対旋回角度で旋回構造体31が旋回するように実行される。したがって、ローラ旋回動作実行後の旋回構造体31の絶対旋回角度は、ローラ旋回動作実行直前における直近の絶対旋回角度と相対旋回角度とにより決定する。上述したように、実施の形態2のローラ旋回動作の実行時における旋回構造体31の旋回角度は、ローラ旋回動作実行前の直近の旋回角度を基準とした相対旋回角度となる。
【0106】
このように、ローラ旋回制御部であるコントローラ15Bは、
図12で示す旋回制御方法を行う旋回制御処理を実行している。この旋回制御処理は、ローラ対20とタイヤ6との位置関係が角度ズレなく一定になるように、ローラ旋回機構3にローラ旋回動作を実行させる処理となる。
【0107】
例えば、車両60のステアリング操作等によって、車両60のタイヤ6とローラ対20との間にローラ・タイヤ間角度ズレ量X6が発生した場合、角度測定情報S8の示すローラ・タイヤ間角度ズレ量X6と同じ相対旋回角度で旋回構造体31を旋回させる。その結果、ローラ対20とタイヤ6との位置関係はローラ・タイヤ間角度ズレ量X6の発生前の位置関係を維持し、一定となる。なお、ローラ・タイヤ間角度ズレ量X6には旋回方向が含まれる。
【0108】
具体的にはローラ対20に対し設定した旋回基準方向DKにタイヤ6のタイヤ用近似直線が常に一致するようにローラ旋回動作が実行される。すなわち、ローラ・タイヤ間角度ズレ量が“0”になるようにローラ旋回動作が実行される。
【0109】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおける変位センサ8(変位センサ8L+変位センサ8R)は、タイヤ6に設けられた距離測定領域90(測定対象領域)を検出対象としているため、旋回基準方向DKに対するローラ・タイヤ間角度ズレ量を角度変位量として精度良く求めることができる。
【0110】
加えて、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、実施の形態1と同様、タイヤ6に設けられた距離測定領域90を検出対象としているため、試験対象の車両60が変更されても、変更された車両60のタイヤ切れ角度に関する新たな情報を事前準備する必要はない。
【0111】
なお、実施の形態2では、ローラ・タイヤ間角度ズレ量にローラ旋回機構3の旋回角度を加えた角度がタイヤ切れ角度となる。
【0112】
したがって、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、タイヤ切れ角度に関する事前準備を不要にし、かつ、角度変位量としてローラ・タイヤ間角度ズレ量を精度良く認識することができる。
【0113】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bにおいて、旋回変位センサである変位センサ8はローラ旋回機構3による旋回対象物(左側旋回対象物+右側旋回対象物)に含まれるため、変位センサ8の角度測定情報S8から、ローラ・タイヤ間角度ズレ量を直接的に認識することができる。
【0114】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、ローラ旋回制御部であるコントローラ15Bによる旋回制御処理によって、ローラ対20とタイヤ6との位置関係が一定(ローラ・タイヤ間角度ズレ量=“0”)になるように、ローラ・タイヤ間角度ズレ量に精度良く同期したローラ旋回動作をローラ旋回機構3に実行させることができる。
【0115】
また、変位センサ8は旋回台32上に載置されるため、実施の形態1の変位センサ7と比較してタイヤ6までの距離が近い。このため、タイヤ角度検出範囲38はタイヤ角度検出範囲37と比較して至近距離の検出範囲となる分、外乱の影響を受けにくくなる。したがって、実施の形態2の変位センサ8は、実施の形態1の変位センサ7と比較して角度変位量の検出精度を高めることができる。
【0116】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、コントローラ15Bによる旋回制御処理によって、ローラ・タイヤ間角度ズレ量(角度変位量)が一定の“0”になるように、精度良く旋回構造体31を旋回させるローラ旋回動作をローラ旋回機構3に実行させることができる。
【0117】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、角度変位量演算処理として
図10で示した角度測定情報S8の取得方法を実行している。角度測定情報S8の取得方法は上述したステップST21~ST24を含んでいる。
【0118】
実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、上記距離検出機能を有する変位センサ8に
図10で示す角度変位量演算処理(角度測定情報S8の取得処理)を実行させることにより、角度変位量としてローラ・タイヤ間角度ズレ量を精度良く求めることができる。
【0119】
また、変位センサ8は距離検出機能を有しているため、特別な演算処理を行うことなく距離測定領域90を有するタイヤ6までの距離を認識することができる。
【0120】
図12で示したように、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bは、ローラ旋回機構3の旋回制御処理(車両試験装置の動作制御方法)として、ステップST31~ST34を実行している。このため、タイヤ6を旋回させるタイヤ旋回動作を伴う車両60の試験時に、ローラ対20とタイヤ6との位置関係を常に一定にして、精度良く車両60の試験を行うことができる。
【0121】
なお、実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Bでは、変位センサ8が
図10で示すステップST21~ST24を実行して、角度測定情報S8がローラ・タイヤ間角度ズレ量を示す基本態様を示したが、以下の変形態様も考えられる。
【0122】
変形態様では、変位センサ8が行う処理をステップST21の部分ステップST21-1のみに留めている。この場合、角度測定情報S8が測定距離L91~L98を示している。
【0123】
変形態様において、コントローラ15Bは、角度測定情報S8が示す測定距離L91~L98に基づき、
図10で示すステップST21の部分ステップST21-2、及びステップST22~ST24を実行して、ローラ・タイヤ間角度ズレ量を求めた後、
図12で示すステップST32及びST33を実行する。
【0124】
このように、実施の形態2の変形態様として、変位センサ8の処理内容を必要最小限に留め、コントローラ15Bの機能を拡張した構成も考えられる。
【0125】
<実施の形態3>
図13は実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cの平面構成を模式的に示す説明図である。実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは車両60の前輪側のタイヤ6を第1種タイヤとし、後輪側のタイヤを第2種タイヤとしている。実施の形態3では車両試験装置としてシャーシダイナモメータ1Cを用いている。
【0126】
なお、4組のローラ対20(前方ローラ20F+後方ローラ20B)は、第1種左タイヤである前輪側左タイヤを載置する第1種左ローラと、第1種右タイヤである前輪側右タイヤを載置する第1種右ローラと、第2種左タイヤである後輪側左タイヤを載置する第2種左ローラと第2種右タイヤである後輪側右タイヤを載置する第2種右ローラとに分類される。
【0127】
シャーシダイナモメータ1Cはさらに前輪側のタイヤ6用のローラ旋回機構3を有している。ローラ旋回機構3は左側旋回機構であるローラ旋回機構3Lと右側旋回機構であるローラ旋回機構3Rとを含んでいる。
【0128】
ローラ旋回機構3Lは、前輪のタイヤ6Lを載置するローラ対20(第1種左ローラ)を旋回させるローラ旋回動作を実行する左側旋回機構である。
【0129】
ローラ旋回機構3Rは、前輪のタイヤ6Rを載置するローラ対20(第1種右ローラ)を旋回させるローラ旋回動作を実行する右側旋回機構である。
【0130】
ローラ旋回機構3Lとローラ旋回機構3Rとの間の中心線がセンターラインCLとなる。すなわち、ローラ旋回機構3Lとローラ旋回機構3RとはセンターラインCLに対して左右対称に配置される。
【0131】
なお、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cにおいても、実施の形態1及び実施の形態2と同様、前輪のタイヤ6L及び6Rそれぞれに距離測定領域90(測定対象領域)が設けられる。
【0132】
実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは、第1種左タイヤとなる前輪側のタイヤ6Lに対して変位センサ8Lを配置し、第1種右タイヤとなる前輪側のタイヤ6Rに対して変位センサ8Rを配置している。
【0133】
シャーシダイナモメータ1Cは、実施の形態2と同様、ローラ旋回機構3Lの旋回台32L上に変位センサ8Lを有し、ローラ旋回機構3Rの旋回台32R上に変位センサ8Rを有している。
【0134】
したがって、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cにおいて、左側旋回対象物に第1種左ローラと変位センサ8Lとが含まれ、右側旋回対象物に第1種右ローラと変位センサ8Rとが含まれる。
【0135】
変位センサ8L及び8Rは旋回台32L及び32Rの旋回角度が0°で、
図13に示すように前方ローラ20F及び後方ローラ20Bが対向する旋回基準方向DKが直進方向(Y方向)に合致した状態されている場合に、センターラインCLに対して左右対称になるように設けられる。以下、旋回基準方向DKがY方向に合致した状態を単に「ローラ対20の直進方向設定状態」と呼ぶ場合がある。
【0136】
図13で示すシャーシダイナモメータ1Cにおいて、変位センサ8L及び8Rは横方向配置線L9上に設けられている。横方向配置線L9は第1種左ローラとなるローラ対20の左旋回中心C1Lと第1種右ローラとなるローラ対20の右旋回中心C1Rとを通過する線である。
【0137】
左側変位センサである変位センサ8Lは、前輪側のタイヤ6Lにおける距離測定領域90(左側測定対象領域)を検出対象として、第1種左ローラとなるローラ対20上に載置されたタイヤ6Lまでの左タイヤ側距離DLを検出して、左側距離測定情報となる距離測定情報S18Lを得ている。すなわち、距離測定情報S18Lは左タイヤ側距離DLを示している。
【0138】
左タイヤ側距離DLは、変位センサ8Lの距離検出機能による複数の測定距離に基づき決定される。最も簡易には複数の測定距離の1つを左タイヤ側距離DLとすることが考えられる。複数の測定距離としては、
図5を参照して説明した測定距離L91~L98等が該当する。
【0139】
同様に、右側変位センサである変位センサ8Rは、前輪側のタイヤ6Rにおける距離測定領域90(右側測定対象領域)を検出対象として、第1種右ローラとなるローラ対20上に載置されたタイヤ6Rまでの右タイヤ側距離DRを検出して、右側距離測定情報となる距離測定情報S18Rを得ている。すなわち、距離測定情報S18Rは右タイヤ側距離DRを示している。
【0140】
右タイヤ側距離DRは、変位センサ8Rの距離検出機能による複数の測定距離に基づき決定される。最も簡易には複数の測定距離の1つを右タイヤ側距離DRとすることが考えられる。複数の測定距離としては、
図5を参照して説明した測定距離L91~L98等が該当する。ただし、左タイヤ側距離DLとして測定ポイント9i(i=1~8のいずれか)までの測定距離L9iを用いた場合、右タイヤ側距離DRとして測定ポイント9iまでの測定距離L9iを用いる必要がある。すなわち、変位センサ8Lによるタイヤ6Lの距離測定箇所と変位センサ8Rによるタイヤ6Rの距離測定箇所とを一致させる必要がある。
【0141】
ここで、タイヤ6Lに設けられた距離測定領域90が「左側測定対象領域」となり、同様に、タイヤ6Rに設けられた距離測定領域90が「右側測定対象領域」となる。
【0142】
実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは、左側車両拘束装置である車両拘束治具13Lと右側車両拘束装置である車両拘束治具13Rとをさらに備えている。
【0143】
左車両拘束治具13Lは第2種左タイヤとなる後輪側のタイヤ6Lに対して設けられ、後輪側のタイヤ6Lを回転動作可能に固定している。車両拘束治具13Rは第2種右タイヤとなる後輪側のタイヤ6Rに対して設けられ、後輪側のタイヤ6Rを回転動作可能に固定している。車両拘束治具13L及び13Rはそれぞれ既存の装置である。
【0144】
左側移動機構である横方向移動機構4Lは、第2種左ローラとなるローラ対20及び左側車両拘束装置となる車両拘束治具13Lを含む左側移動対象物を車両60の幅方向(トレッド方向)に沿った横方向MXに移動させる左側移動処理を実行する。
図13において、横方向MXはX方向に一致する。すなわち、X方向は、ローラ対20上にタイヤ6が載置される車両60の幅方向(左右方向)に合致した方向となる。
【0145】
右側移動機構である横方向移動機構4Lは、第2種右ローラとなるローラ対20及び右側車両拘束装置となる車両拘束治具13Rを含む右側移動対象物を横方向MXに移動させる右側移動処理を実行する。
【0146】
以下、横方向移動機構4L及び4Rを総称して「横方向移動機構4」と称し、車両拘束治具13L及び13Rを総称して「車両拘束治具13」と称し、第2種左ローラ及び第2種左ローラを総称して単に「ローラ対20」と称する場合がある。
【0147】
図14は横方向移動機構4の構造を示す正面図である。
図15は
図14で示した横方向移動機構4を上方(+Z方向)から視た上面図である。なお、
図15では移動台車30の図示を省略している。
図14及び
図15それぞれXYZ直交座標系を記している。
図14及び
図15で示す横方向移動機構4の構造は、横方向移動機構4L及び4R間で共通する構造である。
【0148】
これらの図に示すように、横方向移動機構4は、ベース台25、一対のレール52、複数のガイド56、駆動モータ41、及び移動台車30を主要構成要素として含んでいる。移動台車30上に
図14では図示しない車両拘束治具13及びローラ対20が固定配置される。
【0149】
図15に示すように、ベース台25上に一対のレール52がX方向に沿って互いに並行に設けられる。各レール52には複数のガイド56(
図15では2つのガイド56を示している)が設けられる。
図14に示すように、各ガイド56の上面に移動台車30が固定される。
【0150】
図14及び
図15に示すように、ベース台25上に駆動モータ41が設けられる。駆動モータ41は回転軸41aを回転させ、移動台車30を移動させる動力源となっている。回転軸41aは一対の支持用軸受41bによって回転可能に支持される。
【0151】
したがって、横方向移動機構4は、駆動モータ41によって移動台車30を横方向MXに移動させる移動処理(左側移動処理+右側移動処理)を実行することができる。この際、一対のレール52及び複数のガイド56によって移動台車30は横方向MX(X方向)に沿って正確に移動するようにガイドされる。
【0152】
なお、後輪側のタイヤ6Lは車両拘束治具13Lによって拘束され、後輪側のタイヤ6Rは車両拘束治具13Rによって拘束されているため、横方向MXへの移動処理の実行時に車両60に前後の動き(推力)や横振れが発生することはない。
【0153】
移動台車30の移動に連動して、移動台車30上に配置された、移動対象物となるローラ対20及び車両拘束治具13がX方向に沿って移動する。
【0154】
したがって、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは、車両拘束治具13によって後輪のタイヤ6が拘束された状態で、横方向移動機構4に移動処理を実行させる。横方向移動機構4による移動処理は、横方向移動機構4Lによる左側移動処理と横方向移動機構4Rによる右側移動処理とを含んでいる。
【0155】
この際、左側移動処理における移動方向及び移動量と、右側移動処理における移動方向及び移動量が完全一致する態様で、横方向移動機構4Lによる左側移動処理及び横方向移動機構4Rによる右側移動処理が同時に実行される。その結果、横方向移動機構4による移動方向及び移動量で車両60が横方向に移動される。
【0156】
このように、横方向移動機構4L及び4Rを含む横方向移動機構4は、駆動モータ41によって移動台車30を横方向MXに沿って移動させる移動処理(左側移動処理+右側移動処理)を実行することにより、車両60を横方向MXに移動させることができる。したがって、前輪側のタイヤ6L及びタイヤ6Rも横方向に移動する。
【0157】
図16は実施の形態2のシャーシダイナモメータ1Cにおける各種モータの駆動系を模式的に示す説明図である。駆動対象のモータとて前輪ローラ駆動用モータ58、駆動モータ41が該当する。
【0158】
前輪ローラ駆動用モータ58は前輪ローラ駆動用モータ58L及び前輪ローラ駆動用モータ58Rを含み、前輪ローラ駆動用モータ58Lは第1種左ローラとなるローラ対20を回転駆動するためのモータであり、前輪ローラ駆動用モータ58Rは第1種右ローラとなるローラ対20を回転駆動するためのモータである。
【0159】
駆動モータ41は駆動モータ41L及び41Rを含み、駆動モータ41Lは横方向移動機構4Lで用いられるモータであり、駆動モータ41Rは横方向移動機構4Rで用いられるモータである。
【0160】
同図に示すように、シャーシダイナモメータ1Cは、移動処理制御部であるコントローラ22、モータドライブ装置26,27及びエンコーダ59,45をさらに備えている。
【0161】
モータドライブ装置26はモータドライブ装置26L及び26Rを含み、モータドライブ装置26Lは前輪ローラ駆動用モータ58Lを駆動する装置であり、モータドライブ装置26Rは前輪ローラ駆動用モータ58Rを駆動する装置である。
【0162】
モータドライブ装置27はモータドライブ装置27L及び27Rを含み、モータドライブ装置27Lは駆動モータ41Lを駆動する装置であり、モータドライブ装置27Rは駆動モータ41Rを駆動する装置である。駆動モータ41Lは横方向移動機構4Lにおける
図14で示した駆動モータ41に相当し、駆動モータ41Rは横方向移動機構4Rにおける
図14で示した駆動モータ41に相当する。
【0163】
コントローラ22は外部機器70よりセンタリング指令信号S70を受け、センタリング指令信号S70がセンタリング調整処理の実行開始を指示すると、センタリング調整処理を開始する。センタリング調整処理は、位置調整条件を満足するように車両60の幅方向に沿って位置調整する車両位置調整処理である。
【0164】
前述したように、ローラ旋回機構3Lとローラ旋回機構3RとはセンターラインCLに対して左右対称に配置されている。
【0165】
さらに、センタリング調整処理の実行時には、ローラ旋回機構3L及び3Rはそれぞれローラ対20の直進方向設定状態に設定されている。したがって、変位センサ8L及び8Rは、センタリング調整処理の実行時にセンターラインCLに対し左右対称に配置されている。
【0166】
なお、位置調整条件は、車両60の前輪側のタイヤ6Lとタイヤ6Rとを、ローラ旋回機構3Lとローラ旋回機構3Rとの中心線となるセンターラインCLに対し左右対称になるよう配置する条件となる。以下、コントローラ22の制御下で行うセンタリング調整処理の内容を説明する。
【0167】
図16に示すように、コントローラ22は、変位センサ8Lより距離測定情報S18L(左側距離測定情報)を受け、変位センサ8Rより距離測定情報S18R(右側距離測定情報)を受ける。
【0168】
図16ではコントローラ22の制御内容を模式的に示しており、コントローラ22は動作用の条件J1及びJ2,動作用の接点P1~P5を有している。
【0169】
コントローラ22は、距離測定情報S18Lが示す左タイヤ側距離DLと、距離測定情報S18Rが示す右タイヤ側距離DRとを比較し、左タイヤ側距離DLから右タイヤ側距離DRを差し引いた差分距離ΔDを求める。差分距離ΔDが“0”になると上述した位置調整条件を満足することになる。
【0170】
コントローラ22は、差分距離ΔDが正の場合(ΔD>0)、(動作)条件J2を満足するため、接点P2~P5のうち、接点P2及び接点P5を有効とし、接点P3及び接点P4を無効とする。したがって、コントローラ22は、移動量MD(=差分距離ΔD/2)で左方向への移動を指示する横方向移動指示情報SXLをモータドライブ装置27Lに出力し、移動量MDで左方向への移動を指示する横方向移動指示情報SXRをモータドライブ装置27Rに出力する。
【0171】
モータドライブ装置27Lは、移動量MDで左方向への移動動作を指示する駆動制御信号S27Lを駆動モータ41Lに出力する。エンコーダ45Lは駆動モータ41Lの駆動内容の検出用に設けられる。
【0172】
モータドライブ装置27Rは、移動量MDで左方向への移動動作を指示する駆動制御信号S27Rを駆動モータ41Rに出力する。エンコーダ45Rは駆動モータ41Rの駆動内容の検出用に設けられる。
【0173】
したがって、駆動制御信号S27Lによって駆動モータ41Lを駆動させることにより、移動量MDで左方向に横方向移動機構4Lの移動台車30が移動する。同様に、駆動制御信号S27Rによって駆動モータ41Rを駆動させることにより、移動量MDで左方向に横方向移動機構4Rの移動台車30が移動する。
【0174】
その結果、左側移動対象物(ローラ対20+車両拘束治具13L)及び右側移動対象物(ローラ対20+車両拘束治具13R)の左方向への移動に伴い、車両60全体が移動量MDで左方向に移動する。したがって、車両60の前輪側のタイヤ6L及び6Rも移動量MDで左方向に移動する。
【0175】
一方、コントローラ22は、差分距離ΔDが負の場合(ΔD<0)、条件J2を満足しないため、接点P2~P5のうち、接点P2及び接点P5を無効とし、接点P3及び接点P4を有効とする。したがって、コントローラ22は、移動量MD(=差分距離|ΔD/2|)で右方向への移動を指示する横方向移動指示情報SXLをモータドライブ装置27Lに出力し、移動量MDで右方向への移動を指示する横方向移動指示情報SXRをモータドライブ装置27Rに出力する。
【0176】
モータドライブ装置27Lは、移動量MDで右方向への移動動作を指示する駆動制御信号S27Lを駆動モータ41Lに出力する。同様に、モータドライブ装置27Rは、移動量MDで右方向の移動動作を指示する駆動制御信号S27Rを駆動モータ41Rに出力する。
【0177】
したがって、駆動制御信号S27Lによって駆動モータ41Lを駆動させることにより、移動量MDで右方向に横方向移動機構4Lの移動台車30が移動する。同様に、駆動制御信号S27Rによって駆動モータ41Rを駆動させることにより、移動量MDで右方向に横方向移動機構4Rの移動台車30が移動する。
【0178】
その結果、左側移動対象物(ローラ対20+車両拘束治具13L)及び右側移動対象物(ローラ対20+車両拘束治具13R)の右方向への移動に伴い、車両60全体が移動量MDで右方向に移動する。したがって、車両60の前輪側のタイヤ6L及び6Rも移動量MDで右方向に移動する。
【0179】
一方、差分距離ΔDが“0”でない場合、条件J1が成立する。この場合、接点P1が有効となり、コントローラ22はモータ回転指示情報SKをモータドライブ装置26に出力する。
【0180】
モータドライブ装置26Lはモータ回転指示情報SKが指示する回転量で第1種左ローラとなるローラ対20の回転動作を実行する。モータドライブ装置26Lは、エンコーダ59Lから前輪ローラ駆動用モータ58Lの動作内容をモニタリングすることにより、モータ回転指示情報SKが指示する回転量で回転するローラ対20の回転動作が行われるように、前輪ローラ駆動用モータ58Lを動作させることができる。
【0181】
モータドライブ装置26Rはモータ回転指示情報SKが指示する回転量で第1種右ローラとなるローラ対20の回転動作を実行する。モータドライブ装置26Rは、エンコーダ59Rから前輪ローラ駆動用モータ58Rの動作内容をモニタリングすることにより、モータ回転指示情報SKが指示する回転量で回転するローラ対20の回転動作が行われるように、前輪ローラ駆動用モータ58Rを動作させることができる。
【0182】
このように、コントローラ22はモータドライブ装置26にモータ回転指示情報SKを出力することにより、第1種左ローラとなるローラ対20と第1種右ローラとなるローラ対20とをそれぞれ一定の回転速度で回転させるローラ駆動処理をさらに実行することができる。
【0183】
第1種左ローラとなるローラ対20の回転動作は車両60の前輪側のタイヤ6Lを強制的に回転させる動作となり、第1種右ローラとなるローラ対20の回転動作は車両60の前輪側のタイヤ6Rを強制的に回転させること動作となる。この際、車両60の前輪はニュートラル状態に設定されている。
【0184】
差分距離ΔDが“0”となると、条件J1及び条件J2が共に満足しなくなるため、接点P1~P5は全て実質的に無効となり、コントローラ22から出力されるモータ回転指示情報SK、横方向移動指示情報SXL及びSXRは全て動作停止(動作量“0”)を指示する。
【0185】
このように、コントローラ22は、距離測定情報S18L及びS18Rを受け、車両位置調整処理であるセンタリング調整処理を実行している。センタリング調整処理は、上述した位置調整条件を満足するように、横方向移動機構4Lに左側移動処理を実行させ、かつ、横方向移動機構4Rに右側移動処理を実行させる処理である。ここで、位置調整条件は、左タイヤ側距離DLと右タイヤ側距離DRとが一致する、すなわち、差分距離ΔDが“0”となる条件である。
【0186】
図17は、
図16で示した駆動系においてコントローラ22の制御下で行うセンタリング調整処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0187】
前述したように、外部機器70から、センタリング調整処理の実行開始を指示するセンタリング指令信号S70が付与されると、コントローラ22の制御下において
図17で示すセンタリング調整処理が実行される。
【0188】
センタリング調整処理の実行に先がけ、
図13に示すように、車両60の前後方向の位置決めは完了していることを前提としている。したがって、前輪側のタイヤ6L及び6Rの旋回中心点は横方向配置線L9上に存在する。なお、車両60の前後方向の位置決めは、車両60の手動操作によって比較的簡単に行うことができる。
【0189】
センタリング調整処理は、第1種タイヤであるタイヤ6L及び6RがセンターラインCL(
図1参照)に対し左右対称となる位置に車両60を配置する車両位置調整処理である。
【0190】
したがって、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cを用いて車両60直進走行を主体とした走行試験を行うことにより、走行試験を適切に行うことができる。
【0191】
以下、
図17を参照して、コントローラ22の制御下で自動的に行うセンタリング調整処理の処理内容を説明する。
【0192】
まず、ステップST41において、ローラ対20の直進方向設定状態を実現すべく、ローラ旋回機構3L及び3Rの旋回角度を0°で固定し、コントローラ22の制御下で上述したローラ駆動処理を実行して第1種左ローラ及び第1種右ローラとなる前輪側の左右のローラ対20を一定の回転速度で駆動する。
【0193】
センタリング調整処理の実行期間中は、第1種左ローラ及び第1種右ローラとなるローラ対20を回転させるローラ駆動処理を併せて実行して、車両60の前輪側のタイヤ6L及び6Rを一定の回転速度で強制的に回転させている。
【0194】
ステップST41におけるローラ駆動処理は、コントローラ22からモータ回転指示情報SKをモータドライブ装置26に出力することにより実行される。
【0195】
次に、ステップST42において、第2種タイヤとなる後輪側のタイヤ6L及び6Rに設けた車両拘束治具13L及び13Rによって車両60を拘束した状態で、横方向移動機構4による横方向移動処理を実行する。横方向移動機構4による横方向移動処理は、横方向移動機構4Lによる左側移動処理と横方向移動機構4Rによる右側移動処理とを含んでいる。
【0196】
ステップST42の処理は、コントローラ22から、横方向移動指示情報SXLをモータドライブ装置27Lに出力し、かつ、横方向移動指示情報SXRをモータドライブ装置27Rに出力することにより実行される。
【0197】
その後、ステップST43において、位置制御条件{差分距離ΔD=0}を満足したか(YES)否か(NO)が判定される。
【0198】
ステップST43で「YES」の場合、センタリング調整処理を終了し、「NO」の場合、ステップST41に戻る。以降、ステップST43で「YES」になるまで、ステップST41及びST42が繰り返される。
【0199】
センタリング調整処理が終了すると、前輪側のタイヤ6L及び6RをセンターラインCLに対し左右対称となるように、車両60がシャーシダイナモメータ1C上に位置決め配置される。
【0200】
このように、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cはコントローラ22の制御下で自動的にセンタリング調整処理を実行することができる。
【0201】
したがって、ドライバーによるステアリング操作による車両60の手動位置決め処理のように、目視による位置確認など細かな作業を行う必要はなく、比較的短時間で自動的にセンタリング調整処理を行うことができる。
【0202】
なお、センタリング調整処理の実行により、前輪側のローラ対20と後輪側のローラ対20との位置関係は横方向に少しずれる。しかしながら、移動量MDはローラ対20の横幅と比較して十分小さく、後輪側にローラ旋回機構3を設けない構成の場合、シャーシダイナモメータ1Cを用いた車両60の試験に支障をきたすことはない。
【0203】
実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは、コントローラ22の制御下で行う車両位置調整処理であるセンタリング調整処理によって、位置制御条件{差分距離ΔD=0}を満足させることができる。
【0204】
このため、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cは、第1種左タイヤである前輪側のタイヤ6Lと第1種右タイヤである前輪側のタイヤ6RとがセンターラインCLを挟んで左右対称となるように、前輪側のタイヤ6L及び6Rにおける横方向(X方向)の位置決めを自動的に行うことができる。
【0205】
さらに、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cにおけるコントローラ22は上記センタリング調整処理と共に上記ローラ駆動処理を併せて実行することにより、上記センタリング調整処理の実行時に、前輪側のタイヤ6L及び6Rを含む車両60全体を精度良く横方向MXに移動させることができる。
【0206】
なお、実施の形態3のシャーシダイナモメータ1Cにおいて、左側変位センサ及び右側変位センサとして、実施の形態2で用いた変位センサ8L及び8Rを採用したが、左側変位センサ及び右側変位センサとして、実施の形態1で用いた変位センサ7L及び7Rを採用しても良い。さらに、(左側,右側)距離測定情報を得ることが可能なセンサであれば、変位センサ7及び変位センサ8以外のセンサを用いても良いことは勿論である。
【0207】
この場合、変位センサ7Lは、距離検出機能により得られた左タイヤ側距離DLを指示する距離測定情報S17Lを出力し、変位センサ7Rは、距離検出機能により得られた右タイヤ側距離DRを指示する距離測定情報S17Rを出力する。したがって、コントローラ22は、距離測定情報S18L及びS18Rに替えて、距離測定情報S17L及びS17Rを利用することになる。
【0208】
また、実施の形態3では、第1種タイヤを前輪側タイヤとし、第2種タイヤを後輪側タイヤとしたが、第1種タイヤを後輪側タイヤとし、第2種タイヤを前輪側タイヤとして、横方向移動機構4及び車両拘束治具13を前輪側に設け、ローラ旋回機構3及び変位センサ8を後輪側に設ける変形構成も可能である。
【0209】
<その他>
上述した実施の形態では、車両試験装置としてシャーシダイナモメータ1、1B及び1Cを取り上げたが、車両試験装置はシャーシダイナモメータに限定されない。例えば、シャーシダイナモメータ1(1B,1C)に替えて、車両試験装置としてフリーローラ試験装置を用いても良い。フリーローラ試験装置はローラ対20の重みだけで車両60の加減速負荷を与える装置であり、ローラ対20に動力を伝えない装置である。このため、フリーローラ試験装置は、シャーシダイナモメータのように、ローラ対20に負荷をかけるモータを有していない。
【0210】
このように、本開示の車両試験装置はシャーシダイナモメータやフリーローラ試験装置を含んでいる。ただし、車両試験装置としてフリーローラ試験装置を用いた場合、
図17のステップST41で示した処理は実行されない。
【0211】
なお、上述した実施の形態では、車両60のタイヤ6を載置する「ローラ」として、ツインローラ構成のローラ対20を示したが、ローラ対20に替えてシングルローラ構成の単体のローラを用いても良い。
【0212】
角度測定情報を得る変位センサとして、実施の形態1では変位センサ7を、実施の形態2では変位センサ8を示した。角度測定情報が取得できるセンサであれば、変位センサ7及び変位センサ8以外のセンサを用いても良いことは勿論である。
【0213】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、各実施の形態を自由に組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変形、省略したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0214】
1,1B,1C シャーシダイナモメータ
3,3L,3R ローラ旋回機構
4,4L,4R 横方向移動機構
6,6L,6R タイヤ
7,7L,7R,8,8L,8R 変位センサ
9,91~98 測定ポイント
13,13L,13R 車両拘束治具
15,15B,22 コントローラ
19 モータドライブ装置
20 ローラ対
20B 後方ローラ
20F 前方ローラ
26,26L,26R,27,27L,27R モータドライブ装置
32,32L,32R 旋回台
41,41L,41R 駆動モータ
42 旋回用モータ
58,58L,58R 前輪ローラ駆動用モータ
60 車両
90 距離測定領域