(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099313
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】二酸化炭素固定化方法
(51)【国際特許分類】
C01B 32/50 20170101AFI20240718BHJP
C01F 11/18 20060101ALI20240718BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240718BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240718BHJP
B01D 53/14 20060101ALI20240718BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C01B32/50
C01F11/18 B
B01D53/62 ZAB
B01D53/78
B01D53/14 210
B01D53/18 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003161
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(72)【発明者】
【氏名】村上 和希
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 達弥
(72)【発明者】
【氏名】重久 卓夫
(72)【発明者】
【氏名】堺 康爾
【テーマコード(参考)】
4D002
4D020
4G076
4G146
【Fターム(参考)】
4D002AA09
4D002BA02
4D002CA06
4D002DA05
4D002DA34
4D002DA35
4D002EA13
4D002FA02
4D002GA01
4D002GB08
4D020AA03
4D020BA02
4D020BB03
4D020BC06
4D020CB01
4D020DA03
4D020DB07
4G076AA16
4G076AB28
4G076AC04
4G076BA30
4G076BB03
4G076BB08
4G076BC02
4G076BC07
4G076BC08
4G076BE11
4G076CA02
4G076DA30
4G146JA02
4G146JB09
4G146JC22
4G146JC39
(57)【要約】
【課題】本発明は、二酸化炭素を低コストで効率的に固定化することができる二酸化炭素の固定化方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明の一態様に係る二酸化炭素固定化方法は、カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる接触工程と、上記接触工程後の混合液に、二酸化炭素を曝気させる曝気工程と、上記曝気工程後の混合液から上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する分離工程と、上記分離工程で上記析出物を分離した混合液を回収する回収工程とを備え、上記回収工程で回収した混合液を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部として使用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる接触工程と、
上記接触工程後の混合液に、二酸化炭素を曝気させる曝気工程と、
上記曝気工程後の混合液から上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する分離工程と、
上記分離工程で上記析出物を分離した混合液を回収する回収工程と
を備え、
上記回収工程で回収した混合液を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部として使用する二酸化炭素固定化方法。
【請求項2】
上記接触工程後の材料に、水をさらに接触させる水接触工程と、
上記水接触工程後の水を回収する接触水回収工程と
をさらに備え、
上記接触水回収工程で回収した水を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用する請求項1に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項3】
上記接触工程後の材料に、水をさらに接触させる水接触工程と、
上記水接触工程後の水を、ポリオール化合物及び水に分離する接触水分離工程と、
上記接触水分離工程で分離したポリオール化合物を回収するポリオール化合物回収工程と
をさらに備え、
上記ポリオール化合物回収工程で回収したポリオール化合物を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用する請求項1に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項4】
上記接触工程における上記混合液中の上記ポリオール化合物濃度が60質量%以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項5】
上記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項6】
上記ジオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールからなる群より選択される1又は2以上のものである請求項5に記載の二酸化炭素固定化方法。
【請求項7】
上記トリオール化合物がグリセリンである請求項5に記載の二酸化炭素固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化による気候変動が問題となっている。大気中の二酸化炭素は温室効果ガスの一つであり、地球温暖化の主要因と考えられている。このため、二酸化炭素の排出削減、大気中の二酸化炭素濃度の低減等が求められており、その一つとして、二酸化炭素を固定化する方法が知られている。
【0003】
例えば、産業廃棄物中に含まれる酸化カルシウム、酸化マグネシウムを水と接触させてカルシウムイオン及びマグネシウムイオンを水中に溶出させ、この溶液と二酸化炭素ガスとを接触させて炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムを生成させることにより二酸化炭素を固定化する方法が提案されている(特開平7-265688号公報)。
【0004】
また、高炉スラグ中とアルカリを混合した水溶液中に二酸化炭素を供給し、上記高炉スラグから溶出したカルシウムに二酸化炭素を固定化する方法が提案されている(特許第6653108号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7-265688号公報
【特許文献2】特許第6653108号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水に対するカルシウムの溶解度を考慮すると、十分なカルシウムを上記水中に抽出できないため、上記特許文献1の方法では、カルシウムへの二酸化炭素の固定化も十分にできないおそれがある。
【0007】
上記特許文献2の方法は、高炉スラグからカルシウムを抽出するためにアルカリ水溶液を用いている。しかし、一般的に、アルカリ溶液環境下ではカルシウムの溶解度がpH12.5程度で飽和するため、この方法によっても、十分なカルシウムを抽出できないおそれがある。また、上記特許文献2の方法では、ボイラ、加水分解反応機、コンデンサ等を含む処理装置を用いているため、設備投資が必要であり、低コストで二酸化炭素の固定化をすることができないおそれがある。
【0008】
このような事情に鑑み、本発明は、二酸化炭素を低コストかつ効率的に固定化することができる二酸化炭素の固定化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の一態様に係る二酸化炭素固定化方法は、カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる接触工程と、上記接触工程後の混合液に、二酸化炭素を曝気させる曝気工程と、上記曝気工程後の混合液から上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する分離工程と、上記分離工程で上記析出物を分離した混合液を回収する回収工程とを備え、上記回収工程で回収した混合液を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部として使用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の二酸化炭素固定化方法は、二酸化炭素を低コストで効率的に固定化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る二酸化炭素固定化方法を示す概念図である。
【
図2】
図2は、本発明の他の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法を示す概念図である。
【
図3】
図3は、本発明のさらに他の実施形態に係る二酸化炭素固定化方法を示す概念図である。
【
図4】
図4は、接触工程後に水接触工程及び抽出工程を行った際の抽出工程におけるポリオール化合物の抽出状況を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一態様に係る二酸化炭素固定化方法は、カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる接触工程と、上記接触工程後の混合液に、二酸化炭素を曝気させる曝気工程と、上記曝気工程後の混合液から上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する分離工程と、上記分離工程で上記析出物を分離した混合液を回収する回収工程とを備え、上記回収工程で回収した混合液を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部として使用する。
【0013】
当該二酸化炭素固定化方法は、カルシウム(Ca)を含む材料からカルシウムを抽出するためにポリオール化合物と水との混合液を上記材料に接触させている。このため、上記混合液中に上記カルシウムを効率的にカルシウムイオンとして抽出することができる。上記材料に接触させたことによって多くのカルシウムイオンを含んだ上記混合液に二酸化炭素を曝気することで、上記カルシウムイオンと炭酸イオンとが反応し、炭酸カルシウムが析出物として析出する。つまり、上記混合液に多くのカルシウムイオンが含まれているため、多くの二酸化炭素を固定化することができる。また、当該二酸化炭素固定化方法は、上記材料からカルシウムの抽出をするための比較的大型の設備が必要ないため、低コストで二酸化炭素を固定化することができる。さらに、上記析出物が析出した混合液から上記析出物を分離し、この混合液を上記材料からカルシウムを抽出するための混合液として再利用しているため、より低コストで二酸化炭素を固定化することができる。
【0014】
上記接触工程後の材料に、水をさらに接触させる水接触工程と、上記水接触工程後の水を回収する接触水回収工程とをさらに備え、上記接触水回収工程で回収した水を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用することが好ましい。上記混合液と接触した後の材料に水を接触させることで、上記材料の空隙に残存するポリオール化合物を取り除くことができる。この残存していたポリオール化合物を含む水を上記接触工程における上記混合液の少なくとも一部としてさらに使用することで、さらに低コストで二酸化炭素を固定化することができる。
【0015】
上記接触水回収工程に換えて、上記水接触工程後の水を、ポリオール化合物及び水に分離する接触水分離工程と、上記接触水分離工程で分離したポリオール化合物を回収するポリオール化合物回収工程とをさらに備え、上記ポリオール化合物回収工程で回収したポリオール化合物を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用してもよい。上記水接触工程で上記材料の空隙に残存していたポリオール化合物を含む水からポリオール化合物を分離し、分離したポリオール化合物を上記接触工程における上記混合液の少なくとも一部としてさらに使用することでも、二酸化炭素の固定化をさらに低コストで行うことができる。
【0016】
上記接触工程における上記混合液中の上記ポリオール化合物濃度が60質量%以下であることが好ましい。このようにすることで、より効率的に二酸化炭素を固定化することができる。
【0017】
上記ポリオール化合物が、ジオール化合物又はトリオール化合物であることが好ましい。このようにすることで、上記材料中のカルシウムをカルシウムイオンとしてより効率的に抽出することができる。
【0018】
上記ジオール化合物が、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールからなる群より選択される1又は2以上のものであることが好ましい。このようにすることで、上記材料中のカルシウムをカルシウムイオンとしてさらに効率的に抽出することができる。
【0019】
上記トリオール化合物がグリセリンであることが好ましい。このようにすることで、上記材料中のカルシウムをカルシウムイオンとしてさらに効率的に抽出することができる。
【0020】
ここで、「ポリオール化合物」とは、複数のアルコール性水酸基(脂肪族炭化水素の水素原子をヒドロキシ基(-OH)で置換した基)を有する有機化合物をいう。同様に、「ジオール化合物」とは、二の上記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいい、「トリオール化合物」とは、三の上記アルコール性水酸基を有する有機化合物をいう。
【0021】
[発明を実施するための形態の詳細]
以下、適宜図面を参照しながら詳説する。なお、図面は説明用の図であり、各構成(各部材)は模式的に描かれたものであって、形状、縮尺などは、実際のものと異なることがあり、物質(後述の混合液M又は水等)を移送させるためのポンプ、又は物資を適切なタイミングで移送させるための弁等の各種部材も一部を割愛している。また、本明細書では、本発明の構成の数値範囲として複数の上限値と複数の下限値とを記載していることがある。これら複数の上限値と複数の下限値とは、それぞれのうちの一つを任意に選択して組み合わせることができるものとして記載されている。
【0022】
[第一実施形態]
本発明の一実施形態の二酸化炭素固定化方法は、カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる接触工程と、上記接触工程後の混合液に、二酸化炭素を曝気させる曝気工程と、上記曝気工程後の混合液から上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する分離工程と、上記分離工程で上記析出物を分離した混合液を回収する回収工程とを主に備える。上記回収工程で回収した混合液は、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部として使用する。
【0023】
〔接触工程〕
接触工程では、カルシウムを含む材料に、ポリオール化合物及び水を含む混合液を接触させる。具体的には、
図1で示すように、材料Sを収容している反応容器1に混合液Mを供給して、材料Sと混合液Mとを接触させる。つまり、当該二酸化炭素固定化方法は、上記接触工程の前に、材料Sと混合液Mとを反応容器1に供給する工程を含む。
【0024】
供給工程では、カルシウムを含む材料Sと混合液Mとを反応容器1に供給する。反応容器1としては、材料Sを所定量収容でき、混合液Mを供給及び排出できるものであれば、特に限定されない。
【0025】
反応容器1への材料Sと混合液Mとの供給は、材料Sが侵付けできる量の混合液Mを反応容器1に満たした後に材料Sを供給してもよいし、反応容器1に材料Sを供給した後に混合液Mを供給してもよいし、材料Sと混合液Mとを同時に供給するようにしてもよい。また、一定量の材料Sを供給した後に、材料Sを適宜追加するようにしてもよい。
【0026】
接触工程では、混合液Mは、貯留槽2から一定量が連続して供給され、一定量が排出され続ける。すなわち、混合液Mは、一定の量が反応容器1に貯留され続けるのではなく、反応容器1内の材料Sに接触しつつ通過していくように供給され続ける。混合液Mの供給量と混合液Mの排出量とは、反応容器1内の材料Sの全部が侵付けされる状態を維持できるのであれば、同一量であってもよく、異なる量であってもよい。材料Sに混合液Mを接触させる時間は、材料Sの種類(材質)、材料Sの総量などに応じて適宜設定される。
【0027】
接触工程後の材料Sは、例えば、材料Sが製鋼スラグである場合、上記接触工程で混合液Mと接触させた後に反応容器1から取り出して乾燥させることで、路盤材(道路用材料)、又は肥料の資源などとして利用することができる。
【0028】
(材料)
カルシウムを含む材料Sとしては、例えば、高炉スラグ、製鋼スラグ等のスラグ、セメント、コンクリート廃材、ガラス廃材、石炭灰、又は汚泥焼却灰が挙げられる。これらの材料においては、カルシウムは、例えば、酸化カルシウム(CaO)の形態で存在している。上記高炉スラグは、製銑の過程で生じる製銑スラグであってカルシウムを含有するものである。上記製鋼スラグは、転炉スラグ又は電気炉スラグといった製鋼の過程で生じるスラグであってカルシウムを含有するものである。
【0029】
(ポリオール化合物)
上記ポリオール化合物は、材料Sからカルシウムを抽出するための媒体である。上記ポリオール化合物は、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物である。アルコール性水酸基は、脂肪族炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基であり、芳香環を構成する炭化水素の水素原子を置換したヒドロキシ基(例えば、フェノールのヒドロキシ基)は含まれない。
【0030】
上記ポリオール化合物としては、複数のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、ジオール化合物又はトリオール化合物が好ましい。これらジオール化合物及びトリオール化合物は、通常、常温常圧で液状であるため、比較的容易に上記水と混合して材料Sと接触させることができる。
【0031】
上記ジオール化合物としては、二のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されない。上記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール、又はジエタノールアミンが挙げられる。これらのうち、上記ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジエチレングリコールよりなる群から選択される一種又は二種以上が好ましい。
【0032】
例えば、エチレングリコールに対するカルシウムの溶解度は、水に対する溶解度の10倍程度であることが一般に知られている。つまり、ジオール化合物に対するカルシウムの溶解度は水に対する溶解度よりも遥かに大きい。よって、ジオール化合物が上記群から選択される一種又は二種以上のものであることで、材料Sからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0033】
上記トリオール化合物としては、三のアルコール性水酸基を有する有機化合物であれば特に限定されず、例えば、グリセリンが好ましい。グリセリンを用いることで、材料Sからカルシウムをより効率的に抽出することができる。
【0034】
上記接触工程における混合液M中の上記ポリオール化合物濃度の上限値としては、60質量%が好ましく、50質量%がより好ましく、40質量%がさらに好ましい。上記ポリオール化合物濃度が上記上限値を超えると、後述する曝気工程における炭酸カルシウムの析出が低減するおそれがある。すなわち、二酸化炭素を固定化する効率性が低減するおそれがある。上記接触工程における混合液M中の上記ポリオール化合物濃度の下限値としては、20質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記ポリオール化合物濃度が上記下限値に満たないと、材料Sから混合液M中に十分な量のカルシウムが溶出しないおそれがある。
【0035】
(水)
上記水は、二酸化炭素をイオン化(炭酸イオン化)するためのプロトン(H+)の供給源となる。また、上記接触工程における混合液M中では、上記ポリオール化合物によって抽出したカルシウムイオンが水に移行(拡散)し、この水に二酸化炭素が炭酸イオン(CO3
2-)として溶解する。その結果、この水を反応の場としてカルシウムイオンと炭酸イオンとが反応し、炭酸カルシウムとして析出する。このような水としては、上述のように触媒的に機能するものであれば特に限定されず、例えば、純水が挙げられる。
【0036】
〔曝気工程〕
曝気工程では、上記接触工程後の混合液Mに、二酸化炭素Cを曝気させる。具体的には、反応容器1から排出された混合液Mを曝気槽3に貯留し、この貯留された混合液Mに二酸化炭素Cを曝気する。曝気する方法としては、特に限定されるものでなく、例えば、公知のガス吹き込み装置4等を用いて、混合液M中に二酸化炭素Cが排出されるようにしてもよい。曝気槽3内の混合液Mを攪拌しつつ、二酸化炭素Cを曝気するのが好ましい。
【0037】
二酸化炭素Cとしては、工場の排ガスに含まれる二酸化炭素などを用いるとよい。また、二酸化炭素Cと他の気体とを混合した混合ガスを曝気してもよい。この場合、上記混合ガス中の二酸化炭素Cの濃度は特に限定されない。例えば、上記混合ガス中の二酸化炭素Cの濃度としては、特に限定されず、大気中の二酸化炭素の濃度と同様な濃度であってもよく、上記排ガス中の二酸化炭素濃度と同様な濃度であってもよく、これらが希釈又は濃縮された濃度であってもよい。
【0038】
上記接触工程後の混合液M中の水には、材料Sから溶出したカルシウムイオンが溶解している。材料Sに接触した混合液Mに二酸化炭素Cを曝気すると、混合液M中の水に二酸化炭素が炭酸イオンとして溶解し、この水の中で、上記カルシウムイオンと上記炭酸イオンとが反応し、炭酸カルシウム(析出物)として析出する。
【0039】
〔分離工程〕
分離工程では、上記曝気工程後の混合液Mから上記二酸化炭素が固定化された析出物を分離する。すなわち、上記曝気工程で、析出した析出物と、混合液Mとを分離する。分離する方法としては、特に限定されるものでなく、例えば、公知の遠心分離機5などを用いて、固液分離する方法が挙げられる。
【0040】
分離された混合液Mは、上記接触工程における混合液Mの一部として用いる。このように、混合液Mを再利用することで、低コストで二酸化炭素の固定化をすることができる。分離された析出物は、例えば、コンクリート、又はセメント等の材料の一部として利用することができる。
【0041】
〔回収工程〕
回収工程では、上記分離工程で析出物Dを分離した混合液Mを回収する。混合液Mは、貯留槽1に回収されて、材料Sに接触する混合液の一部として用いられる。すなわち、上記分離工程後の混合液Mは、再利用される。回収された混合液Mは、上記分離工程で析出物Dが取り除かれているため、材料Sに接触する前と同等の品質を有する。
【0042】
〔利点〕
当該二酸化炭素固定化方法は、カルシウムを含む材料Sにポリオール化合物と水との混合液Mを接触させているため、材料S中のカルシウムを効率的に抽出することができる。このため、材料Sに接触した混合液Mには多くのカルシウムが含まれ、この混合液Mに二酸化炭素Cを曝気することで、効率的に二酸化炭素を固定化することができる。曝気後の混合液Mから析出物を分離除去することで、分離後の混合液Mは、材料Sに接触させるための混合液Mとして再利用することができる。このため、当該二酸化炭素固定化方法は、低コストで二酸化炭素を固定化することができる。
【0043】
[第二実施形態]
本発明の他の実施形態の二酸化炭素固定化方法は、上記接触工程、上記曝気工程、上記分離工程、及び上記回収工程を備え、上記回収工程で回収した混合液を上記材料に接触させる混合液の一部として使用する。当該二酸化炭素固定化方法は、上記接触工程後の材料に、水をさらに接触させる水接触工程と、上記水接触工程後の水を回収する接触水回収工程とをさらに備え、上記接触水回収工程で回収した水を上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用する。上述した実施形態と同一の構成については、同一の符号を用いて説明を省略する。
【0044】
〔水接触工程〕
本実施形態の二酸化炭素固定化方法は、材料Sに、十分な混合液Mを接触した後に、水をさらに接触させる。具体的には、
図2に示すように、バルブV1を閉じて反応容器1への混合液Mの供給を停止し、他のバルブV2を開放して反応容器1内の材料Sに水Wを供給して接触させる。水Wは、一定量が連続して供給され、一定量が排出され続ける。水Wの供給量と水Wの排出量とは、反応容器1内の材料Sの全部が侵付けされる状態を維持できるのであれば、同一量であってもよく、異なる量であってもよい。水接触工程で用いられる水Wは、接触工程の混合液Mに用いられる水と同一のものでよい。
【0045】
混合液Mに接触させた材料Sに、さらに水Wを接触させることで、材料Sの空隙に残存していたポリオール化合物を抽出することができる。このため、水接触工程後に反応容器1から取り出した材料Sの乾燥を効率的に行うことができる。
【0046】
〔接触水回収工程〕
接触水回収工程では、上記水接触工程後の水Wを回収する。水接触工程後の水Wは、貯留槽1に回収される。回収した水Wによって、貯留槽1中の混合液Mにおけるポリオール化合物の希釈化が進行した場合には、好適な濃度になるようにポリオール化合物を添加するとよい。水接触工程で材料Sに接触した水Wには、材料Sの空隙に残存していたポリオール化合物が溶解している。このポリオール化合物を含む水Wを、上記接触工程における混合液Mの一部として用いる。このように、水Wを再利用することで、二酸化炭素の固定化をより低コストで行うことができる。
【0047】
〔利点〕
当該二酸化炭素固定化方法は、混合液Mと接触した後の材料Sに水Wを接触させているため、反応容器1から取り出した材料Sを効率的に乾燥させることができる。当該二酸化炭素固定化方法は、材料Sと接触した混合液Mと、材料Sと接触した水Wとを再利用するため、二酸化炭素の固定化をより低コストで行うことができる。
【0048】
[第三実施形態]
本発明のさらに他の実施形態の二酸化炭素固定化方法は、上記接触工程、上記曝気工程、上記分離工程、及び上記回収工程を備え、上記回収工程で回収した混合液を上記材料に接触させる混合液の一部として使用する。当該二酸化炭素固定化方法は、上記接触工程後の材料に、水をさらに接触させる水接触工程と、上記水接触工程後の水を、ポリオール化合物及び水に分離する接触水分離工程と、上記接触水分離工程で分離したポリオール化合物を回収するポリオール化合物回収工程とをさらに備え、上記ポリオール化合物回収工程で回収したポリオール化合物を、上記材料に接触させる混合液の少なくとも一部としてさらに使用する。
【0049】
〔水接触工程〕
水接触工程は、材料Sに、十分な混合液Mを接触した後に、水Wをさらに接触させる。具体的には、
図3に示すように、バルブV1を閉じて反応容器1への混合液Mの供給を停止し、他のバルブV2を開放して反応容器1内の材料Sに水Wを供給して接触させる。
【0050】
〔接触水分離工程〕
接触水分離工程では、上記水接触工程後の水Wからポリオール化合物Pを分離する。具体的には、上記水接触工程後の水Wを分離器6で水Wとポリオール化合物Pとに分離する。分離器6としては、特に限定されず、例えば、ボイラ、多重効用缶などを用いることができる。反応容器1から排出された水Wの分離器6への供給は、例えば、三方バルブV3を用いて流路を切り替えることによって行われる。
【0051】
接触水分離工程で分離された水Wは、水蒸気Hとして分離器6から排出されてもよい。排出された水蒸気Hは、水Wに還元して反応容器1内の材料Sに接触させる水の一部として用いてもよい。
【0052】
〔ポリオール化合物回収工程〕
ポリオール化合物回収工程では、分離したポリオール化合物Pを回収する。分離したポリオール化合物Pは、貯留槽1に回収される。回収したポリオール化合物Pによって、貯留槽1中の混合液Mにおけるポリオール化合物の濃縮化が進行した場合には、好適な濃度になるように水を添加するとよい。回収したポリオール化合物Pは、上記接触工程における混合液Mの一部として用いる。このように、ポリオール化合物Pを再利用することで、二酸化炭素の固定化をより低コストで行うことができる。
【0053】
〔利点〕
当該二酸化炭素固定化方法は、材料Sと接触した混合液Mと、材料Sと接触した水Wから分離したポリオール化合物Pとを再利用するため、二酸化炭素の固定化をより低コストで行うことができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態の添加工程においては、混合液が、水及びポリオール化合物以外の他の溶媒を含んでいてもよい。他の溶媒としては、例えば、親水性溶媒である。親水性溶媒としては、エタノール、又はメタノール等が挙げられる。また、接触工程では、ポリオール化合物と、溶媒以外の添加剤を水に溶解させた水溶液との混合液を用いてもよい。
【実施例0055】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
試験例1として、50質量%のグリセリンと水(純水)との混合液を用意した。カルシウムを含む材料として平均粒径が10mmの転炉スラグ50gを用意した。上記材料と上記混合液とを、質量比が1:10になるようにビーカーに入れ、室温条件下で200spm振とうした。
【0057】
試験例1の材料と混合液とを濾紙で固液分離し、分離した混合液を回収して試験例2の混合液とした。この試験例2の混合液から50mlを取り出してカルシウム濃度を測定し、試験例1におけるカルシウム抽出量を算出した。その後、試験例2の混合液に、二酸化炭素を0.5L/minで30分間曝気し、炭酸カルシウムを析出させた。
【0058】
試験例2の混合液から炭酸カルシウムを濾紙で濾過分離し、試験例3の混合液とした。試験例1と同一の材料を新たに準備し、この材料と試験例3の混合液とをビーカーに入れ、試験例1と同一の条件で振とうした。
【0059】
試験例3の混合液と材料とを濾紙で固液分離し、分離した混合液を回収して試験例4の混合液とした。この試験例4の混合液から50mlを取り出してカルシウム濃度を測定し、試験例3におけるカルシウム抽出量を算出した。その後、試験例4の混合液に、試験例2と同一の条件で曝気した。
【0060】
試験例4の混合液から炭酸カルシウムを濾紙で濾過分離し、試験例5の混合液とした。試験例1と同一の材料を新たに準備し、この材料と試験例5の混合液とをビーカーに入れ、試験例1と同一の条件で振とうした。
【0061】
試験例5の混合液と材料とを濾紙で固液分離し、分離した混合液を回収して試験例6の混合液とした。この試験例6の混合液から50mlを取り出してカルシウム濃度を測定し、試験例5におけるカルシウム抽出量を算出した。その後、試験例6の混合液に、試験例2と同一の条件で曝気した。
【0062】
試験例6の混合液から炭酸カルシウムを濾紙で濾過分離し、試験例7の混合液とした。試験例1と同一の材料を新たに準備し、この材料と試験例7の混合液とをビーカーに入れ、試験例1と同一の条件で振とうした。
【0063】
試験例7の混合液と材料とを濾紙で固液分離し、分離した混合液から50mlを取り出してカルシウム濃度を測定し、試験例7におけるカルシウム抽出量を算出した。
【0064】
表1に試験例1~7を示す。表1中、「-」は、該当事項がないことを意味する。表1中、水温「RT」とは、室温(Room Temperature)下で測定したことを意味する。各試験例において混合液量が順次低減しているのは、サンプルとして混合液の一部を採取したためである。試験例2及び試験例5では、水20mlを追加した。試験例6では、水10mlを追加した。
【0065】
【0066】
表2に試験例1、試験例3、試験例5及び試験例7におけるカルシウム抽出量、pH及び各混合液における水の割合の結果を示す。
【0067】
【0068】
表2より、再利用した試験例3、試験例5及び試験例7それぞれの混合液でも、再利用ではない試験例1の混合液と同等のカルシウム抽出量が得られている。また、pH及び混合液中における水の割合にもほとんど変化が見られない。このことから、混合液を再利用しても、二酸化炭素を固定化する効率性は維持できることが分かる。
【0069】
[実施例2]
反応容器として、内径42mm、全長230mm(内容積330cm3)のカラムを用意した。このカラム内に、転炉スラグ450g-dryの材料を充填し、混合液を供給して上記材料に接触させた。混合液は、40質量%のグリセリンと水とを用いた。この混合液を上記カラム内に0.08mm/sで供給した。上記カラムは長手方向が鉛直になるように配設し、下方から上記混合液を供給し、上方から上記混合液を排出させた。
【0070】
上記材料のカルシウムを抽出して上記混合液の供給を停止した後、上記混合液と同様にして水を上記カラムに供給した。排出された水を所定時間ごとに回収し、70℃、8時間以上乾燥させ、その重量変化から排出された水におけるグリセリン濃度を算出した。その結果を
図4に示す。
【0071】
図4から、カラム内容積の約三倍の水を供給することで、上記カラム内の材料に残存するグリセリンの全量が回収できることが分かる。また、カラム内容積の約三倍に達するまでの水は、再利用できる混合液になり得る。
本発明は、カルシウムに二酸化炭素を低コストで効率的に固定化することができるため、カルシウムを含む材料の有効利用を図りつつ、大気中への二酸化炭素の放出量を抑制することに寄与することができる。