(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099315
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B61L 3/12 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
B61L3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003170
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】栗田 晃
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161BB06
5H161CC03
5H161DD21
5H161EE01
5H161EE07
5H161FF01
5H161FF07
5H161GG02
5H161GG12
5H161GG22
(57)【要約】
【課題】各種列車に対応可能な安定した無線通信環境により地上-車上間で確実に情報を伝達して安全な列車運行を実現できる列車制御システムを提供する。
【解決手段】列車制御システム1は、複数の沿線無線設備3及び各列車Tの車上無線設備5を介して、地上制御装置2から各列車Tの車上制御装置4に保安上の停止点情報を無線送信する。この列車制御システム1において、地上制御装置2は、軌道R上の列車位置を基に各沿線無線設備3の通信可能範囲を求め、列車Tが前方の全沿線無線設備3の通信可能範囲外となる通信限界点情報を車上制御装置4に無線送信し、車上制御装置4は、受信した停止点情報及び通信限界点情報に基づいて列車制御を行う。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌道沿いに設置された複数の無線局を介して地上装置から列車の車上装置に保安上の停止点情報を無線送信する列車制御システムであって、
前記地上装置は、軌道上の列車位置を基に各無線局の通信可能範囲を求め、前記列車が前方の全無線局の通信可能範囲外となる通信限界点情報を前記車上装置に無線送信し、
前記車上装置は、受信した前記停止点情報及び前記通信限界点情報に基づいて列車制御を行う、列車制御システム。
【請求項2】
前記車上装置は、受信した前記停止点情報及び前記通信限界点情報にそれぞれ対応した2通りの速度照査パターンを作成し、各々の速度照査パターンを用いた速度照査を独立して行い、該各速度照査結果の論理和に従って列車ブレーキを制御する、請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項3】
前記車上装置は、
自列車の走行速度を検出する速度検出部と、
前記地上装置から前記各無線局を介して受信した前記停止点情報及び前記通信限界点情報に従って、前記停止点に対応する第1速度照査パターン、及び前記通信限界点に対応する第2速度照査パターンを作成するパターン作成部と、
前記速度検出部で検出された自列車の走行速度が、前記パターン作成部で作成された第1及び第2速度照査パターンをそれぞれ超えたか否かを判定する速度照査部と、
前記速度照査部において自列車の走行速度が第1及び第2速度照査パターンの少なくとも一方を超えたことが判定された場合に、当該速度照査パターンに従って列車ブレーキを制御するブレーキ制御部と、
を含む、請求項2に記載の列車制御システム。
【請求項4】
前記地上装置は、
軌道上に在線する各列車の前記車上装置から無線送信される情報を前記各無線局を介して受信し、当該受信情報を用いて前記各列車の位置情報を更新する列車位置更新部と、
前記列車位置更新部で更新された前記各列車の位置情報、軌道沿いに設置された信号機の現示情報、及び軌道終端点の位置情報を基に、前記各列車に対応した保安上の停止点を決定する停止点決定部と、
前記列車位置更新部で更新された前記各列車の位置情報、及び前記各無線局の通信性能に応じた通信可能範囲データを基に、前記各無線局の実際の通信可能範囲を求め、前記各列車に対応した通信限界点を決定する通信限界点決定部と、
前記停止点決定部で決定された停止点を示す前記停止点情報、及び前記通信限界点決定部で決定された通信限界点を示す前記通信限界点情報を含む制御コマンドを、前記各無線局を介して、前記各列車の前記車上装置に無線送信する制御コマンド送信部と、
を含む、請求項1に記載の列車制御システム。
【請求項5】
前記通信限界点決定部は、前記各列車の車種及び走行方向に対応した前記通信可能範囲データを使用して、前記各無線局の実際の通信可能範囲を求める、請求項4に記載の列車制御システム。
【請求項6】
前記各無線局間の無線通信における受信電力及び通信エラーレートの少なくとも一方の経時的な変化に応じて前記通信可能範囲データを修正するデータ修正部を含む、請求項4に記載の列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地上-車上間で無線通信により情報を交換して列車を制御する列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、CBTC(Communication Based Train Control)と呼ばれる無線式の列車制御を行うシステムは、列車に搭載された車上制御装置と地上に設置された地上制御装置とが、地上側の無線局(沿線無線設備)及び車上側の無線局(車上無線設備)を介して無線通信により情報を交換して安全な列車運行(移動閉塞運転)を実現する。このような無線式の列車制御システムでは、電波法に規定されている免許を要しない小電力無線局が広く使用されている。しかし、小電力無線局は通信エリアが狭いため、地上側の無線局間に他の列車などの障害物が存在する場合、無線通信が不安定になり列車制御に影響を与える可能性がある。特に、隧道内や地下軌道においては、列車の車体等による電波の遮蔽などによって沿線無線設備の通信可能範囲が狭小化することが知られている。
【0003】
上記のような無線式の列車制御システムにおける無線通信の安定化を図るための従来技術として、例えば、特許文献1に開示されている無線通信ネットワークシステムでは、2台の列車無線機(車上側の無線局)が列車の前部と後部に配置され、各列車無線機が有線ケーブルで接続されて互いに通信可能に構成されている。そして、互いに無線通信可能な沿線無線機(地上側の無線局)の間に列車が存在することで該各沿線無線機間における無線通信が阻害されるような場合に、当該列車に搭載された2台の列車無線機を利用して上記各沿線無線機間の情報伝達を中継する。これにより、無線通信ネットワークの信頼性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のような従来技術については、無線局を搭載しない貨車等の車両を機関車で牽引する貨物列車や、故障車両を牽引する救援列車などが列車制御の対象に含まれる場合、貨物列車や救援列車などには前部及び後部のいずれか一方にしか車上側の無線局が配置されていない。このため、貨物列車や救援列車などが地上側の無線局の間に存在して該各無線局間における無線通信が阻害された場合に、貨物列車や救援列車などにより上記地上側の無線局間の情報伝達を中継することが困難になる。また、車上側の無線局が前部及び後部の両方に配置されている列車であっても、一方の無線局が故障したり、前後の無線局を接続する有線ケーブルに不具合が生じたりしても、上記地上側の無線局間の情報伝達を中継することができなくなる。このため、従来技術は、各種列車に対応可能な安定した無線通信環境を実現するという点で、改善の余地があった。
【0006】
本発明は上記の点に着目してなされたもので、各種列車に対応可能な安定した無線通信環境により地上-車上間で確実に情報を伝達して安全な列車運行を実現できる列車制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため本発明の一態様は、軌道沿いに設置された複数の無線局を介して地上装置から列車の車上装置に保安上の停止点情報を無線送信する列車制御システムを提供する。この列車制御システムにおいて、前記地上装置は、軌道上の列車位置を基に各無線局の通信可能範囲を求め、前記列車が前方の全無線局の通信可能範囲外となる通信限界点情報を前記車上装置に無線送信し、前記車上装置は、受信した前記停止点情報及び前記通信限界点情報に基づいて列車制御を行う。
【発明の効果】
【0008】
上記のように本発明に係る列車制御システムによれば、他の列車の在線状況によって無線通信が不安定になる区間に制御対象の列車を進入させない列車制御が可能になるので、地上-車上間の安定的な無線通信環境を維持することができる。このような列車制御システムでは、列車の前部及び後部の両方に無線設備を設ける必要がないので、貨物列車や救援列車などにも対応することが可能である。よって、各種列車に対応可能な安定した無線通信環境により地上-車上間で確実に情報を伝達して安全な列車運行を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る列車制御システムの一実施形態を示す概略構成図である。
【
図2】上記実施形態による列車制御システムの具体的な構成例を示すブロック図である。
【
図3】地上-車上間の無線通信における受信電力の基本的なモデルを説明するための概念図である。
【
図4】上記実施形態における通信可能範囲データの一例を示す図である。
【
図5】上記実施形態における複数の沿線無線設備の通信可能範囲を説明するための概念図である。
【
図6】上記実施形態における通信可能範囲決定部で決定される実際の通信可能範囲を説明するための概念図である。
【
図7】上記実施形態における通信限界点を説明するための概念図である。
【
図8】上記実施形態において作成される速度照査パターンの一例を示す図である。
【
図9】上記実施形態における速度照査部、ブレーキ制御部及びブレーキ装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】上記実施形態における列車制御の基本処理サイクルを示す概念図である。
【
図11】上記実施形態における地上制御装置で実行される具体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【
図12】上記実施形態における車上制御装置で実行される具体的な処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】上記実施形態における速度照査及びブレーキ制御に関する具体的な状況の一例を示す図である。
【
図14】
図13の状況で実行される速度照査及びブレーキ制御を説明するための図である。
【
図15】上記実施形態に関連する変形例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明に係る列車制御システムの一実施形態を示す概略構成図である。
図1において、本実施形態の列車制御システム1は、地上に設置された地上制御装置2と、列車Tが走行する軌道Rに沿って設置された複数の沿線無線設備3(3A,3B,3C…)と、軌道R上の各列車Tに搭載された車上制御装置4及び車上無線設備5と、を備えて構成される。
【0011】
地上制御装置2及び複数の沿線無線設備3は、有線又は無線により双方向の通信が可能となるように接続されている。地上制御装置2は、地上データベース(図示せず)を有している。地上データベースは、軌道Rの沿線情報(沿線無線設備3及び信号機Sの設置位置、軌道R上の終端点の位置、並びに、隧道及び地下軌道区間の場所等)、軌道Rを走行する各列車Tの車両情報(車種、編成長、識別子等)、軌道Rに沿って設置されている複数の地上子に関する情報(各地上子の識別子(ID)及び設置位置)などを含んでいる。
【0012】
本実施形態の列車制御システム1は、地上制御装置2と各列車Tの車上制御装置4とが、各沿線無線設備3及び各列車Tの車上無線設備5を介して無線通信により各種情報を交換し、該交換した情報を基に各列車Tの制御を行う。このような列車制御システム1は、CBTC方式の列車制御を行うシステムとして好適である。本実施形態では、地上制御装置2が本発明の「地上装置」に相当し、複数の沿線無線設備3が本発明の「複数の無線局」に相当し、車上制御装置4及び車上無線設備5が本発明の「車上装置」に相当する。
【0013】
以下、本実施形態による列車制御システム1の各構成要素について詳しく説明する。
図2は、本実施形態による列車制御システム1の具体的な構成例を示すブロックである。
図2において、地上制御装置2は、例えば、列車位置更新部20と、停止点決定部21と、停止点距離計算部22と、通信可能範囲決定部23と、通信限界点距離計算部24と、データ記憶部25と、データ修正部26と、制御コマンド作成部27と、制御コマンド送信部28と、を有している。
【0014】
列車位置更新部20には、各沿線無線設備3の無線送受信部30で受信される各列車Tの在線位置を示す情報が与えられる。各沿線無線設備3の無線送受信部30は、各列車Tの車上無線設備5との間で地上アンテナ31を介して無線信号を送受信するように構成されている。列車位置更新部20は、上記各列車Tの在線位置を示す情報を集約して、軌道R上に在線する全ての列車Tの位置を把握し、その結果を纏めて路線図上にマッピングした列車位置情報を作成して記憶する。該記憶した列車位置情報は、各沿線無線設備3から新たな情報が与えられる都度更新される。列車位置情報には、例えば、軌道R上の各列車Tの先頭(前端)位置を示す情報が各列車Tの識別子に対応付けて記憶されている。列車位置更新部20で更新された列車位置情報は、停止点決定部21及び通信可能範囲決定部23にそれぞれ伝えられる。
【0015】
停止点決定部21は、列車位置更新部20から伝えられた列車位置情報と、軌道Rに沿って設置されている信号機Sの現示情報と、軌道Rの終端点の位置情報とに基づいて、軌道R上の各列車Tにそれぞれ対応した保安上の停止点Psを決定する。具体的に、停止点決定部21は、軌道R上の各列車Tについて、制御対象とする列車(自列車)の走行方向で前方に存在する他の列車(先行列車)の後端の位置、自列車の前方にある停止現示の信号機Sの位置、及び自列車が走行する軌道Rの終端点の位置の中から、自列車に最も近い地点を選択し、該選択した地点を自列車の保安上の停止点Psに決定する。
【0016】
先行列車の後端の位置に関しては、まず、列車位置更新部20からの列車位置情報を使用して、自列車が走行する軌道R上の前方に存在する先行列車が特定される。そして、前述した地上データベースの各列車Tの車両情報を参照して、先行列車の編成長が求められ、先行列車の先頭位置及び編成長に従って後端の位置が算出される。また、停止現示の信号機Sの位置に関しては、まず、軌道Rの沿線に設置されている各信号機Sの現示状態を制御する信号制御装置(図示せず)から地上制御装置2に随時与えられる各信号機Sの現示情報を使用して、自列車の前方にある停止現示の信号機Sが特定される。そして、地上データベースの沿線情報を使用して、停止現示の信号機Sの設置位置が決められる。さらに、軌道Rの終端点の位置に関しては、地上データベースの沿線情報を使用して、自列車が走行する軌道Rにおける前方側の終端点の位置が決められる。
【0017】
上記のような先行列車の後端の位置、停止現示の信号機の位置、及び軌道Rの終端点の位置の中で、自列車に最も近い地点は、列車運行の安全を保つために自列車が進入してはいけない保安上の停止点Psとなる。つまり、保安上の停止点Psは、その手前までに列車を停止させなければならない走行限界点を表している。停止点決定部21で決定された各列車Tの保安上の停止点Psは、列車位置更新部20からの列車位置情報と一緒に停止点距離計算部22に伝えられる。
【0018】
停止点距離計算部22は、停止点決定部21から伝えられる各列車Tの保安上の停止点Ps及び列車位置情報を使用して、各列車Tの先頭位置から保安上の停止点Psまでの停止点距離をそれぞれ計算する。そして、停止点距離計算部22で計算された各列車Tの停止点距離を示す情報が、停止点距離計算部22から制御コマンド作成部27に伝えられる。
【0019】
通信可能範囲決定部23は、前述した列車位置更新部20で更新された列車位置情報と、データ記憶部25に記憶されている各沿線無線設備3の通信可能範囲データとに基づいて、軌道R上の各列車Tの車種及び在線位置、並びに、各沿線無線設備3の稼働状態などを考慮しながら、各沿線無線設備3にそれぞれ対応した実際の通信可能範囲を決定する。各沿線無線設備3の通信可能範囲データは、各沿線無線設備3と各列車Tとの間(地上-車上間)で行われる無線通信における受信電力に基づく通信可能な範囲を示すデータである。
【0020】
図3は、地上-車上間の無線通信での受信電力の基本的なモデルを説明するための概念図である。
図3に示す曲線PRは、軌道Rを走行する列車Tにおける車上無線設備5の位置を横軸に取り、沿線無線設備3の地上アンテナ31から送信される無線信号を車上無線設備5で受信したときの電力(dBm)を縦軸に取った場合の当該受信電力の変化を示している。なお、本実施形態では、車上無線設備5が無線送受信部50及び車上アンテナ51を有しており(
図2)、該車上アンテナ51が列車Tの先頭部分に設置されている。このモデルでは、列車Tが沿線無線設備3の地上アンテナ31に近づくにつれて、車上無線設備5での受信電力PRが徐々に増加し、車上アンテナ51が地上アンテナ31の位置に達すると受信電力PRが最大となり、車上アンテナ51が地上アンテナ31から遠ざかるにつれて受信電力PRが急激に減少する。
【0021】
このような車上無線設備5での受信電力PRの変化に対して、地上-車上間で安定に無線通信を行うことができる受信電力PRの下限値(以下、「安定通信限界値」とする)PR
Lを設定することにより、沿線無線設備3(地上アンテナ31)の設置位置を基準点にして軌道Rに沿って前後に広がる通信可能範囲Acを定義することができる。なお、
図3のモデルでは、地上-車上間で双方向通信を行うので、沿線無線設備3及び車上無線設備5は同等の送受信性能を有するものとしている。沿線無線設備3及び車上無線設備5の送受信性能に差異がある場合には、性能が劣る側に合わせて安定通信限界値PR
Lを増大させる側に補正して通信可能範囲Acを狭める必要がある。
【0022】
上記のように基本的なモデルに従って定義される沿線無線設備3の通信可能範囲Acは、通信相手となる列車Tの車種や走行方向(上り/下り方向)に応じて変わる。このため、各沿線無線設備3について、列車Tの車種及び走行方向にそれぞれ対応した通信可能範囲Acが事前に算出され、各々の通信可能範囲Acを示す通信可能範囲データが、データ記憶部25に記憶されている。
【0023】
図4は、データ記憶部25に記憶されている通信可能範囲データの一例を示す図である。
図4の上段に示すように、データ記憶部25は、各沿線無線設備3A,3B,3C…について、通信相手となる列車の車種X,Y,Z毎に、下り方向に走行する列車Tの通信可能範囲Acを示す一対のデータD1,D2と、上り方向に走行する列車T’の通信可能範囲Ac’を示す一対のデータD3,D4とを纏めたテーブル(通信可能範囲データ)を記憶している。
【0024】
このテーブルにおいて、列車の車種X,Y,Zは、旅客列車や貨物列車等の列車種別、編成長、車上無線設備5の種類などの違いを表している。また、下り列車Tに対応したデータD1は、
図4の下段に示すように、沿線無線設備3(地上アンテナ31)の設置位置を基準点P0として、該基準点P0から第1限界点P1までの距離(D1=|P1-P0|)を表している。第1限界点P1は、下り列車Tの通信可能範囲Acにおいて上り方向側で通信が限界となる地点である。下り列車Tに対応したデータD2は、基準点P0から第2限界点P2までの距離(D2=|P2-P0|)を表している。第2限界点P2は、下り列車Tの通信可能範囲Acにおいて下り方向側で通信が限界となる地点である。上記のような下り列車Tに対応したデータD1,D2と同様に、上り列車T’に対応したデータD3は、基準点P0から第3限界点P3までの距離を(D3=|P3-P0|)表している。第3限界点P3は、上り列車T’の通信可能範囲Ac’において上り方向側で通信が限界となる地点である。上り列車T’に対応したデータD4は、基準点P0から第4限界点P4までの距離(D4=|P4-P0|)を表している。第4限界点P4は、上り列車T’の通信可能範囲Ac’において下り方向側で通信が限界となる地点である。
【0025】
上記のように各沿線無線設備3A,3B,3C…における下り列車Tの通信可能範囲Ac及び上り列車T’の通信可能範囲Ac’は、当該地上アンテナ31の設置位置(基準点P0)を中心にして上り方向及び下り方向の各軌道Rに沿って広がっており、データD2及びD3に対応する部分は双方の通信可能範囲Ac,Ac’で重複している。
【0026】
ところで、一般的な無線設備は、経年や周囲環境の変化により送受信性能の低下や通信エラーレートの増加が起こり得る。本実施形態における各沿線無線設備3は、設置位置が固定された固定局であるので、各沿線無線設備3の間での無線通信における受信電力及び通信エラーレートが略一定となる性質を持つ。この性質を利用して、本実施形態では、データ修正部26が、各沿線無線設備3の間での無線通信における受信電力及び通信エラーレートの少なくとも一方の経時的な変化を監視及び評価し、その評価結果に応じてデータ記憶部25に記憶されているテーブルのデータD1~D4を修正するように構成されている。
【0027】
具体的に、データ修正部26には、隣り合う沿線無線設備3の間で相互に無線通信して得られる受信電力及び/又は通信エラーレートに関する情報が、各沿線無線設備3から所要の監視周期で伝えられる。データ修正部26は、各沿線無線設備3について、受信電力及び/又は通信エラーレートの経時的な変化率を算出して各々の受信状況を評価する。そして、データ修正部26は、データ記憶部25に記憶されているテーブルのデータD1~D4に、各沿線無線設備3にそれぞれ対応する上記変化率を乗じることによって、通信可能範囲データの修正処理を実行する。なお、複数の沿線無線設備3のいずれかが故障した場合にも、上記と同様にしてデータ修正部26が、故障した沿線無線設備の通信可能範囲データを修正する(データD1~D4を0mに変える)ことにより対処することが可能である。
【0028】
本実施形態における通信可能範囲決定部23は、上記のようにデータ修正部26により所要の監視周期で修正処理される通信可能範囲データと、列車位置更新部20の列車位置情報とを使用し、軌道R上の各列車Tの車種及び在線位置、並びに、各沿線無線設備3の稼働状態などを考慮して、各沿線無線設備3にそれぞれ対応した実際の通信可能範囲を決定する。
【0029】
図5は、本記実施形態における複数の沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’を説明するための概念図である。
図5には、軌道R上における隧道又は地下軌道区間に沿って4つの沿線無線設備3A,3B,3C,3Dを設置した一例が図示されている。沿線無線設備3A~3Dの配置は、通常、地上制御装置2と列車Tの車上制御装置4との間で安定的な通信を維持するために、軌道R上の列車の車上無線設備5が同時に2箇所以上の沿線無線設備の通信可能範囲内に位置して複数の冗長な通信経路が形成可能となるように設計されている。
【0030】
図5の上段は、隧道又は地下軌道区間に列車が在線していない状況において、各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した下り列車の通信可能範囲Ac及び上り列車の通信可能範囲Ac’を示している。なお、
図5では、1つの沿線無線設備における下り列車の通信可能範囲Acと上り列車の通信可能範囲Ac’とが重複する部分の図示が省略されている。
図5の上段に示すような状況では、隧道又は地下軌道区間の任意の位置において、隣り合う沿線無線設備の同一方向の通信可能範囲Ac(Ac’)が重なり合って、2つの冗長な通信経路が形成可能になっている。データ記憶部25に記憶されている通信可能範囲データは、
図5の上段に示したような各沿線無線設備3A~3Dの通信可能範囲Ac,Ac’を、通信相手となる列車Tの車種X~Z毎に示したデータに該当する。
【0031】
一方、
図5の下段は、沿線無線設備3B,3Cの間に列車Tが在線している状況において、各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した下り列車の通信可能範囲Ac及び上り列車の通信可能範囲Ac’を示している。このような状況では、沿線無線設備3B,3Cの間に在線する列車Tにより、各沿線無線設備3A~3Dから送信された無線信号が遮蔽されることによって、各沿線無線設備3A~3Dの通信可能範囲Ac,Ac’が狭小化している(
図5の破線で囲まれた部分を参照)。具体的には、各沿線無線設備3A,3Bにおける上り列車の通信可能範囲Ac’について、沿線無線設備3B,3Cの間に在線する列車Tと重なる部分、及び該列車Tより下り方向側の部分が通信不可となっている。また、各沿線無線設備3C,3Cにおける下り列車の通信可能範囲Acについて、列車Tと重なる部分、及び該列車Tより上り方向側の部分が通信不可となっている。
【0032】
上記のように軌道Rに沿って設置された各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’は、軌道R上の列車Tの在線位置に応じて変化する可能性があり、特に、隧道又は地下軌道区間において当該変化が生じやすくなる。このため、本実施形態における通信可能範囲決定部23は、列車位置更新部20で列車位置情報が更新される都度、最新の列車位置情報を使用して、各沿線無線設備3の実際の通信可能範囲Ac,Ac’を決定(更新)する。
【0033】
図6は、本実施形態における通信可能範囲決定部23によって決定される実際の通信可能範囲Acを説明するための概念図である。
図6には、前述した
図5における各沿線無線設備3A~3Dの通信相手となる下り列車T1の前方に他の列車T2が在線することにより、各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した通信可能範囲Acが変化する様子が例示されている。なお、
図6には、下り列車の通信可能範囲Acだけが図示されており、上り列車の通信可能範囲Ac’の図示は省略されている。
【0034】
図6の上段は、下り列車T1が沿線無線設備3Aの手前に位置し、他の列車T2が沿線無線設備3Bを跨いだ位置に在線している状況での各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した通信可能範囲Acを示している。このような状況において、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Aの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3A(地上アンテナ31)の近傍位置(
図4の第2限界点P2に相当)から列車T1の先頭付近までの範囲を決定する。一方、沿線無線設備3Bの通信可能範囲Acについては、沿線無線設備3Bから送信される無線信号が他の列車T2によって遮蔽されてしまう。このため、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Bの通信可能範囲なし(通信不可)を決定する。また、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Cの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Cの近傍位置から他の列車T2の先頭付近までの範囲を決定するとともに、沿線無線設備3Dの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Dの近傍位置から他の列車T2の先頭付近までの範囲を決定する。
図6の上段に示した状況において、列車T1の車上無線設備5は、沿線無線設備3Aの通信可能範囲Ac内にのみ位置しているので、冗長な通信経路は形成されず、1つの通信経路だけを形成することが可能である。
【0035】
図6の中段は、下り列車T1が沿線無線設備3Aの手前に位置し、他の列車T2が沿線無線設備3B,3Cの間に在線している状況での各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した通信可能範囲Acを示している。このような状況では、
図6の上段に示した状況と比べて、沿線無線設備3Bから送信される無線信号が他の列車T2によって遮蔽されなくなるので、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Bの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Bの近傍位置から列車T1の先頭付近までの範囲を決定する。沿線無線設備3B以外の各沿線無線設備3A,3C,3Dの通信可能範囲Acについては、前述した
図6の上段の場合と同様な範囲が決定される。ただし、他の列車T2が沿線無線設備3B,3Cの間に移動したことによって、各沿線無線設備3C,3Dの通信可能範囲Acは、
図6の上段の場合よりも狭くなっている。
図6の中段に示した状況において、列車T1の車上無線設備5は、2つの沿線無線設備3A,3Bの通信可能範囲Ac内に位置しているので、2つの冗長な通信経路を形成することが可能である。
【0036】
図6の下段は、下り列車T1が沿線無線設備3A,3Bの間に位置し、他の列車T2が沿線無線設備3C,3Dの間に在線している状況での各沿線無線設備3A~3Dにそれぞれ対応した通信可能範囲Acを示している。このような状況において、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Aの通信可能範囲Acとして、データ記憶部25に記憶されている通信可能範囲データに従った範囲を決定する。また、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Bの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Bの近傍位置から列車T1の先頭付近までの範囲を決定するとともに、沿線無線設備3Cの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Cの近傍位置から列車T1の先頭付近までの範囲を決定する。さらに、通信可能範囲決定部23は、沿線無線設備3Dの通信可能範囲Acとして、沿線無線設備3Dの近傍位置から他の列車T2の先頭付近までの範囲を決定する。
図6の下段に示した状況において、列車T1の車上無線設備5は、2つの沿線無線設備3B,3Cの通信可能範囲Ac内に位置しているので、2つの冗長な通信経路を形成することが可能である。
【0037】
通信可能範囲決定部23は、上記のような下り列車の通信可能範囲Acの場合と同様に、上り列車の在線位置を考慮して、上り列車の通信可能範囲Ac’も決定する。そして、通信可能範囲決定部23で決定された各沿線無線設備3にそれぞれ対応する通信可能範囲Ac,Ac’は、列車位置更新部20からの列車位置情報と一緒に通信限界点距離計算部24に伝えられる(
図2)。
【0038】
通信限界点距離計算部24は、通信可能範囲決定部23から伝えられる各沿線無線設備3にそれぞれ対応する通信可能範囲Ac,Ac’に基づき、軌道R上の各列車について、制御対象とする列車(自列車)が前方にある全ての沿線無線設備3の通信可能範囲外となる通信限界点Pcを設定し、自列車の先頭位置から通信限界点Pcまでの距離(以下、「通信限界点距離」とする)を計算する。なお、本実施形態では、通信可能範囲決定部23及び通信限界点距離計算部24が本発明の「通信限界点決定部」に相当する。
【0039】
図7は、本実施形態における通信限界点距離計算部24で設定される通信限界点Pcを説明するための概念図である。なお、
図7についても、前述した
図6と同様に、下り列車の通信可能範囲Acだけが図示され、上り列車の通信可能範囲Ac’の図示は省略されている。
【0040】
図7の上段は、軌道Rに沿って設置された4箇所の沿線無線設備3A~3Dのうちの沿線無線設備3A,3Bの間に列車T(自列車)が在線している状況での該列車Tの通信限界点Pcを示している。このような状況において、通信限界点距離計算部24は、通信可能範囲決定部23で決定された各沿線無線設備3A~3Dの通信可能範囲Acを使用して、列車Tの車上無線設備5が、列車Tの走行方向(下り方向)側に設置されている全ての沿線無線設備3B~3Dの通信可能範囲Acの圏外に初めてなる境界位置を通信限界点Pcに設定する。
図7の上段に示した例では、列車Tの前方に設置されている各沿線無線設備3B~3Dの通信可能範囲Acが下り方向に進むに従って順に重なり合って連続している。このため、列車Tから最も遠い沿線無線設備3Dの通信可能範囲Acにおける下り方向側の限界点(
図4の第2限界点P2に相当)が、列車Tの通信限界点Pcとして設定される。
【0041】
図7の中段は、沿線無線設備3A,3Bの間に列車T(自列車)が在線し、かつ、沿線無線設備3Bが故障して通信不可になっている状況での該列車Tの通信限界点Pcを示している。このような状況において、列車Tの車上無線設備5は、沿線無線設備3Bが故障していても、その先の沿線無線設備3Cの通信可能範囲Ac内に位置しているので、沿線無線設備3Cと通信することが可能である。このため、通信限界点距離計算部24は、
図7の上段に示した場合と同様に、沿線無線設備3Dの通信可能範囲Acにおける下り方向側の限界点を列車Tの通信限界点Pcに設定する。
【0042】
図7の下段は、沿線無線設備3A,3Bの間に列車T1(自列車)が在線し、かつ、他の列車T2(先行列車)が沿線無線設備3Dを跨いだ位置に在線している状況での列車T1の通信限界点Pcを示している。このような状況では、沿線無線設備3Dから送信された無線信号が他の列車T2により遮蔽されるので、沿線無線設備3Dが通信不可となる。このため、通信限界点距離計算部24は、沿線無線設備3Dよりも1つ手前側の沿線無線設備3Cの通信可能範囲Acにおける下り方向側の限界点を列車T1の通信限界点Pcに設定する。
【0043】
上記のようにして列車(自列車)の通信限界点Pcが設定されると、通信限界点距離計算部24は、列車位置情報を使用して、該列車の先頭位置から通信限界点Pcまでの通信限界点距離を計算する。通信限界点距離計算部24により軌道R上の各列車Tの通信限界点距離が計算されると、該各列車Tの通信限界点距離を示す情報(通信限界点情報)が、通信限界点距離計算部24から制御コマンド作成部27に伝えられる(
図2)。
【0044】
制御コマンド作成部27は、停止点距離計算部22及び通信限界点距離計算部24から伝えられる各情報を使用して、軌道R上の各列車Tに対して走行許可を指示するための制御コマンドを作成する。この制御コマンドには、各列車Tの識別子に対応付けられた停止点距離及び通信限界点距離が含まれている。制御コマンド作成部27で作成された制御コマンドは、制御コマンド送信部28に伝えられる。
【0045】
制御コマンド送信部28は、制御コマンド作成部27からの制御コマンドを所定の通信プロトコルに従って変換した送信信号を生成する。制御コマンド送信部28で生成された送信信号は、地上制御装置2から各沿線無線設備3の無線送受信部30にそれぞれ送られる。
【0046】
各沿線無線設備3の無線送受信部30は、地上制御装置2からの送信信号(制御コマンド)を受けて、制御コマンドを含む無線信号を地上アンテナ31から軌道R上の各列車Tに向けて送信する。各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’内に位置する各列車Tの車上無線設備5は、地上アンテナ31から送信された無線信号を、列車先頭に設置されている車上アンテナ51を介して無線送受信部50で受信する。無線送受信部50の受信信号は、車上無線設備5から車上制御装置4に送られる。
【0047】
車上制御装置4は、例えば
図2に示すように、速度検出部40と、列車位置検知部41と、パターン作成部42と、速度照査部43と、ブレーキ制御部44と、を有している。
速度検出部40は、列車Tに搭載された速度発電機(図示せず)の出力信号に基づいて、列車Tの速度及び走行距離を検出(算出)する。速度検出部40で検出(算出)された列車Tの速度及び走行距離は、列車位置検知部41及び速度照査部43にそれぞれ伝えられる。
【0048】
列車位置検知部41は、列車Tの前側下部に取り付けられた車上子(図示せず)で受信される地上子情報と、速度検出部40から伝えられる列車Tの速度及び走行距離とに基づいて、列車Tの在線位置(列車位置)を算出し、該列車Tの在線位置を所定周期C(例えば、0.5秒)で更新する。地上子情報は、軌道Rに沿って設置された各地上子(図示せず)から発信される情報であり、車上子が地上子の上方を通過する際に受信される。
【0049】
具体的な一例を挙げて説明すると、列車位置検知部41は、車上子で地上子情報が受信された時に、該地上子情報に含まれる地上子の識別子(ID)を取得する。そして、列車位置検知部41は、地上子情報の受信タイミングを基準にして、速度検出部40から伝えられる走行距離を用いて当該地上子に対する列車Tの相対位置を算出し、地上子の識別子に対応付けた列車Tの相対位置情報を、列車Tの在線位置を示す情報として検知する。列車位置検知部41は、このような列車Tの在線位置の検知処理を所定周期Cで繰り返し実行して、列車Tの在線位置を更新する。ただし、列車位置検知部41における列車位置の検知及び更新の方法は上記の一例に限定されない。
【0050】
列車位置検知部41で更新された列車Tの在線位置を示す情報は、速度照査部43に伝えられるとともに、車上無線設備5の無線送受信部50に送られる。車上無線設備5の無線送受信部50は、列車位置検知部41からの列車Tの在線位置を示す情報を受けて、該情報を含む無線信号を車上アンテナ51から沿線無線設備3に向けて送信する。
【0051】
パターン作成部42は、車上無線設備5の無線送受信部50で受信された無線信号に含まれる地上制御装置2からの制御コマンドに基づいて、2種類の速度照査パターン(第1速度照査パターンV1、第2速度照査パターンV2)を作成する。第1速度照査パターンV1は、列車Tが安全に走行できるように、制御コマンドにより指示される保安上の停止点Psまでに列車Tを停止させるための速度変化を示すパターンである。また、第2速度照査パターンV2は、地上-車上間の無線通信が維持されるように、制御コマンドにより指示される通信限界点Pcまでに列車Tを停止させるための速度変化を示すパターンである。
【0052】
図8は、本実施形態におけるパターン作成部42で作成される2種類の速度照査パターンの一例を示す図である。
パターン作成部42で作成される第1速度照査パターンV1は、
図8の上段に示すように、列車Tの在線位置(距離0m)から走行方向に停止点距離だけ離れた保安上の停止点Psまでの区間における保安限界速度の変化(実線)、及び保安制限速度の変化(破線)を示している。第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度の変化は、列車Tの速度が保安制限速度を超えた場合に、列車Tの常用ブレーキを作動させて保安上の停止点Psの手前に列車Tを停止させるための減速パターンを表している。第1速度照査パターンV1が示す保安限界速度の変化は、列車Tの速度が保安限界速度を超えた場合に、列車Tの非常ブレーキを作動させて保安上の停止点Psに列車Tを停止させるための減速パターンを表している。第1速度照査パターンV1が示す保安限界速度は、横軸が示す各距離(列車の在線位置)において、保安制限速度よりも僅かに上回っている。
【0053】
パターン作成部42で作成される第2速度照査パターンV2は、
図8の下段に示すように、列車Tの在線位置(距離0m)から走行方向に通信限界点距離だけ離れた通信限界点Pcまでの区間における制限速度の変化を示している。第2速度照査パターンV2が示す制限速度の変化は、列車Tの速度が制限速度を超えた場合に、列車Tの常用ブレーキを作動させて通信限界点Pcまでに列車Tを停止させるための減速パターンを表している。第2速度照査パターンV2が示す制限速度の変化によって表される減速カーブ(ブレーキレート)は、基本的に、第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度の変化によって表される減速カーブと同一となるように設定されている。上記のようにしてパターン作成部42で作成された第1速度照査パターンV1及び第2速度照査パターンV2は、速度照査部43に伝えられる(
図2)。
【0054】
速度照査部43は、パターン作成部42で作成された第1速度照査パターンV1(保安限界速度、保安制限速度)に対する速度検出部40で検出された列車Tの速度の照査と、パターン作成部42で作成された第2速度照査パターンV2(制限速度)に対する速度検出部40で検出された列車Tの速度の照査とを独立して実行し、各々の速度照査結果を示す信号をブレーキ制御部44に出力する。ブレーキ制御部44は、速度照査部43での速度照査結果に応じて、列車Tのブレーキ装置6(非常ブレーキ及び常用ブレーキ)の動作を制御するための制御信号を生成し、該制御信号をブレーキ装置6に出力する。
【0055】
図9は、車上制御装置4の速度照査部43及びブレーキ制御部44、並びにブレーキ装置6の機能構成の一例を示すブロック図である。
図9において、車上制御装置4の速度照査部43は、第1速度照査パターンV1が示す保安限界速度に対する速度照査と、第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度に対する速度照査と、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度に対する速度照査とを独立して実行する。ブレーキ制御部44は、速度照査部43での保安限界速度に対する速度照査の結果を示す信号を受けて、列車Tの速度が保安限界速度を超える場合に、ブレーキ装置6の非常ブレーキ6Aを作動させる制御信号を生成する。また、ブレーキ制御部44は、速度照査部43での保安制限速度に対する速度照査の結果を示す信号と、通信限界点Pcに対応した制限速度に対する速度照査の結果を示す信号との論理和を演算し、列車Tの速度が保安制限速度を超えるか、又は通信限界点Pcに対応した制限速度を超える場合に、ブレーキ装置6の常用ブレーキ6Bを作動させる制御信号を生成する。
【0056】
次に、本実施形態の列車制御システム1による列車制御の動作について詳しく説明する。
図10は、列車制御システム1による列車制御の基本処理サイクルを示す概念図である。
上述したような構成の列車制御システム1では、
図10の右上に示すように、軌道R上の各列車Tに搭載された車上制御装置4で検知される列車位置が無線通信により地上制御装置2に送信されて集約される。そして、地上制御装置2では、
図10の右下に示すように、各列車Tに対応した保安上の停止点Ps及び通信限界点Pcが決定され、各列車Tに対する走行許可として保安上の停止点距離及び通信限界点距離を指示する制御コマンドが作成されて、該制御コマンドが無線通信により各列車Tの車上制御装置4に送信される。
【0057】
地上側からの制御コマンドを受信した各列車Tの車上制御装置4では、
図10の左側に示すように、保安上の停止点Psに対応した第1速度照査パターンV1と、通信限界点Pcに対応した第2速度照査パターンV2とが作成され、第1、2速度照査パターンV1,V2との速度照査の結果に応じて各列車Tのブレーキ制御が行われ、各列車Tの在線位置が再び検知される。このような地上-車上間での一連の処理が、例えば、0.5秒等の所定周期Cで繰り返し実行される。
【0058】
ここで、上記のような列車制御システム1による列車制御の基本処理サイクルにおける地上制御装置2及び車上制御装置4それぞれの具体的な処理の流れを詳しく説明する。
図11は、地上制御装置2で実行される具体的な処理の一例を示すフローチャートである。また、
図12は、各列車Tの車上制御装置4で実行される具体的な処理の一例を示すフローチャートである。
【0059】
まず、
図11のステップS100において、地上制御装置2では、軌道R上の各列車Tの車上制御装置4で検知された在線位置を示す情報が、各列車Tの車上無線設備5から送信されて各沿線無線設備3で受信され、地上制御装置2の列車位置更新部20に集約される。そして、次のステップS110では、列車位置更新部20が、地上データベースの地上子に関する情報を参照しながら軌道R上に在線する全ての列車Tの在線位置を把握し、地上側で記憶している列車位置情報を更新する。
【0060】
続くステップS120では、停止点決定部21が、上記ステップS110で更新された列車位置情報と、沿線に設置された各信号機Sの現示情報と、軌道Rの終端点の位置情報とを使用して、軌道R上の各列車Tにそれぞれ対応した保安上の停止点Psを決定する。そして、ステップS130では、停止点距離計算部22が、各列車Tの先頭位置から保安上の停止点Psまでの停止点距離をそれぞれ計算する。
【0061】
上記ステップS120及びS130の処理と並行して、ステップS140では、通信可能範囲決定部23が、上記ステップS110で更新された列車位置情報と、データ修正部26により所要の監視周期で修正された通信可能範囲データとを使用して、各沿線無線設備3にそれぞれ対応した通信可能範囲Ac,Ac’を決定する。そして、ステップS150では、通信限界点距離計算部24が、各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’を使用して、軌道R上の各列車Tにそれぞれ対応した通信限界点Pcを設定する。続くステップS160では、通信可能範囲決定部23が、各列車Tの先頭位置から通信限界点Pcまでの通信限界点距離をそれぞれ計算する。
【0062】
次のステップS170では、制御コマンド作成部27が、上記各ステップS130及びS160で計算された各列車Tの停止点距離及び通信限界点距離を示す制御コマンドを作成し、制御コマンド送信部28が、制御コマンドを示す送信信号を各沿線無線設備3にそれぞれ送る。これにより、地上制御装置2からの制御コマンドを含む無線信号が各沿線無線設備3から発信され、軌道R上に在線する各列車Tの車上無線設備5で受信される。
【0063】
各列車Tの車上制御装置4では、
図12のステップS200において、車上無線設備5で受信された地上制御装置2からの制御コマンドが、パターン作成部42に伝えられる。そして、ステップS210では、パターン作成部42が、制御コマンドに含まれる停止点距離及び通信限界点距離に従って、保安上の停止点Psまでに列車Tを停止させるための第1速度照査パターンV1と、通信限界点Pcまでに列車Tを停止させるための第2速度照査パターンV2とを作成する。
【0064】
次のステップS220では、速度検出部40が、速度発電機の出力信号を用いて列車Tの速度を検出する。そして、ステップS230では、速度照査部43が、上記ステップS210で作成された第1、2速度照査パターンV1,V2と、上記ステップS220で検出された列車Tの速度とを比較して速度照査を行う。このとき、第1速度照査パターンV1が示す保安限界速度及び保安制限速度、並びに、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度について、列車Tの速度との比較がそれぞれ個別に行われる。
【0065】
続くステップS240では、速度照査部43において、列車Tの速度が第1、2速度照査パターンV1,V2のいずれかが示すパターン速度(保安限界速度、保安制限速度、又は通信限界点に対応した制限速度)を超えているか否かの判定が行われる。列車Tの速度がパターン速度を超えている場合(YSE)、次のステップS250に進み、列車Tの速度がパターン速度以下である場合(NO)、ステップS260に移る。ステップS250では、ブレーキ制御部44が、列車Tのブレーキ装置6を作動させてパターン速度以下に減速させるための制御信号を出力する。
【0066】
ここで、上記ステップS230~S250の速度照査及びブレーキ制御の処理について、
図13及び
図14に示す具体的な一例を参照しながら詳しく説明する。
図13の具体例では、軌道Rに沿って3つの沿線無線設備3A~3Cが設置された区間に4台の下り列車T1~T4が在線する状況が図示されている。軌道Rは、本線R1及び支線R2を有しており、支線R2が本線R1に接続されるポイントが沿線無線設備3A,3Bの間に設けられている。このポイントの手前には、本線R1沿いに信号機S1、支線R2沿いに信号機S2が設置されている。
図13に例示した状況では、沿線無線設備3Aの手前の本線R1上に列車T1、支線R2上に列車T2が在線しており、列車T1の前方にある信号機S1が進行現示(g)、列車T2の前方にある信号機S2が停止現示(r)となっている。また、ポイントより前方の本線R1上には、沿線無線設備3Bを跨いだ位置に列車T3、沿線無線設備3Bの付近に列車T4がそれぞれ在線している。
【0067】
このとき、列車T1に対応した保安上の停止点Ps1は、信号機S1が進行現示であるので、本線R1上を先行する列車T3の後端手前となる。列車T2に対応した保安上の停止点Ps2は、信号機S2が停止現示であるので、信号機S2の設置位置手前となる。また、列車T1及び列車T2は、いずれも沿線無線設備3Aの通信可能範囲Ac内に在線している。沿線無線設備3Aの前方にある沿線無線設備3Bから送信される無線信号は、列車T3によって遮蔽されてしまうので、各沿線無線設備3A,3Bの間には無線通信が不可となる範囲が存在している。このため、沿線無線設備3Aの通信可能範囲Acにおける下り方向側の限界点(
図4の第2限界点P2に相当)が、列車T1及び列車T2に共通な通信限界点Pcとなる。
【0068】
上記のような
図13に例示した状況において、列車T1の車上制御装置4では、パターン作成部42が、
図14の左上に示すような保安上の停止点Ps1に対応した第1速度照査パターンV1と、
図14の左下に示すような通信限界点Pcに対応した第2速度照査パターンV2とを作成する。第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度(破線)と、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度(実線)とは、列車T1の在線位置付近では同じ速度である。しかし、通信限界点Pcが保安上の停止点Ps1よりも手前側に位置しているので、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度の減速カーブの方が、保安制限速度の減速カーブよりも早い段階で低下し始めている。このため、列車T1の車上制御装置4で行われる速度照査では、列車T1の速度(
図14左側の太線)が、第2速度照査パターンV2が示す制限速度を最初に超える。これにより、列車T1の常用ブレーキ6Bが作動して、列車T1が通信限界点Pcまでに停止するように減速制御が行われる。
【0069】
一方、列車T2の車上制御装置4では、パターン作成部42が、
図14の右上に示すような保安上の停止点Ps2に対応した第1速度照査パターンV1と、
図14の右下に示すような通信限界点Pcに対応した第2速度照査パターンV2とを作成する。上記列車T1の場合と同様に、列車T2で作成された第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度(破線)と、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度(実線)とは、列車T2の在線位置付近では同じ速度である。しかし、上記列車T1の場合とは逆に、保安上の停止点Ps2が通信限界点Pcよりも手前側に位置しているので、保安制限速度の減速ガーブの方が、通信限界点Pcに対応した制限速度の減速カーブよりも早い段階で低下し始めている。このため、列車T2の車上制御装置4で行われる速度照査では、列車T2の速度(
図14右側の太線)が保安制限速度を最初に超える。これにより、列車T2の常用ブレーキ6Bが作動して、列車T2が保安上の停止点Ps2の手前に停止するように減速制御が行われる。なお、常用ブレーキ6Bによる減速が不足して列車T2の速度が保安限界速度を超えた場合には、列車T2の非常ブレーキ6Aが作動する。
【0070】
図12に戻り、上記のようにしてステップS230~S250における速度照査及びブレーキ制御の処理が実行されると、続くステップS260では、車上制御装置4の列車位置検知部41が、自列車の現在の在線位置を算出して位置情報を更新する。そして、ステップS270では、列車位置検知部41で更新された位置情報を含む無線信号が車上無線設備5から送信され、通信可能範囲内にある沿線無線設備3で受信される。
【0071】
次に、本実施形態の列車制御システム1による効果について説明する。
上述したように本実施形態の列車制御システム1では、地上制御装置2が、軌道R上の各列車Tの位置情報を基に各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’を求め、各列車Tの通信限界点距離(通信限界点情報)を計算し、該通信限界点距離を保安上の停止点距離(停止点情報)と一緒に各列車Tの車上制御装置4に無線送信する。そして、各列車Tの車上制御装置4が、受信した保安上の停止点距離及び通信限界点距離に基づいて列車制御を行う。
【0072】
このような本実施形態の列車制御システム1によれば、制御対象の列車の移動とその前方に在線する他の列車の移動とによって各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’が変化しても、制御対象の列車が通信可能範囲Ac,Ac’を逸脱するのを回避することができる。つまり、隧道又は地下軌道区間のように他の列車の在線状況によって無線通信が不安定になる区間に制御対象の列車を進入させない列車制御が行われることにより、地上-車上間の安定的な無線通信環境を維持することが可能になる。また、本実施形態の列車制御システム1では、上述した従来技術のように列車の前部及び後部の両方に車上無線設備を設ける必要はないので、貨物列車や救援列車などにも対応することができる。したがって、本実施形態の列車制御システム1によれば、各種列車に対応可能な安定した無線通信環境により地上-車上間で確実に情報を伝達して安全な列車運行を実現することができる。
【0073】
さらに、本実施形態の列車制御システム1における車上制御装置4では、パターン作成部42が、保安上の停止点Psに対応した第1速度照査パターンV1と、通信限界点Pcに対応した第2速度照査パターンV2とを作成する。そして、速度照査部43が、第1速度照査パターンV1を用いた速度照査と、第2速度照査パターンV2を用いた速度照査とを独立して行い、該各速度照査結果の論理和に従って、ブレーキ制御部44が列車Tのブレーキ装置6を制御する。このような車上制御装置4によれば、地上-車上間の安定した無線通信環境を確実に維持しながら、列車Tをより安全に運行するためのブレーキ制御を行うことが可能になる。
【0074】
また、本実施形態の列車制御システム1における地上制御装置2では、通信可能範囲決定部23が、データ記憶部25に記憶されている各列車Tの車種及び走行方向に対応した通信可能範囲データを使用して、各沿線無線設備3の実際の通信可能範囲Ac,Ac’を決定する。このような地上制御装置2によれば、軌道R上を走行する各種列車に対応して各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’を正確に決定することができ、各列車Tの通信限界点距離を精度良く計算することが可能になる。加えて、データ修正部26により、データ記憶部25の通信可能範囲データが、各沿線無線設備3の間の無線通信における受信電力及び通信エラーレートの少なくとも一方の経時的な変化に応じて修正されることによって、各沿線無線設備3の経年や周囲環境の変化による通信性能の低下にも柔軟に対応することが可能になる。
【0075】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。
【0076】
例えば、上述した実施形態では、地上制御装置2の通信可能範囲決定部23で決定される各沿線無線設備3の実際の通信可能範囲Ac,Ac’が、各列車Tの通信限界点Pcを設定して通信限界点距離を計算するために使用される一例を説明した。これに関連して、各沿線無線設備3の通信可能範囲Ac,Ac’が通信可能範囲決定部23により管理されていることよって、地上制御装置2は、軌道R上の各列車Tの在線位置における通信経路の冗長度(通信可能な沿線無線設備3の台数)に関する情報を随時取得することが可能である。そこで、この情報を参照して、通信経路の冗長度が低い場合には、事前に制御コマンドの送信回数を増やすようにしてもよい。これにより、通信経路の冗長度が低い列車Tの車上制御装置4との通信エラーを低減することができる。或いは、上記情報を参照して、軌道R上の各列車Tに対して少なくとも2つの通信経路が維持されるように通信限界点を決めるようにしてもよい。これにより、沿線無線設備3の突然の故障に備えることが可能になる。
【0077】
また、上述した実施形態では、地上制御装置2から各列車Tの車上制御装置4に停止点距離及び通信限界点距離が提供される一例を説明したが、保安上の停止点及び通信限界点に関する情報の提供方法や形式は上記の一例に限定されない。例えば、車上制御装置4の車上データベースに軌道Rの地図情報が格納されており、地上制御装置2から車上制御装置4に保安上の停止点及び通信限界点の位置情報を提供し、車上制御装置4において保安上の停止点及び通信限界点までの各距離を計算して、各々に対応した速度照査パターンを作成するようにしてもよい。
【0078】
さらに、上述した実施形態では、各列車Tの先頭部分に車上無線設備5が設けられる構成例を示したが、列車の前部及び後部に車上無線設備をそれぞれ搭載して冗長構成にしたシステムにも本発明は有効である。このような車上無線設備を冗長構成にしたシステムに本発明を適用した場合、列車の後部の車上無線設備が故障した状況において、上述した実施形態における各状況と等価になり、上述した実施形態の場合と同様な作用効果を得ることができる。或いは、車上無線設備を冗長構成にしたシステムにおいて前部の車上無線設備が故障した場合に本発明の技術的思想を適用すれば、先行する列車の無線通信支障を回避することができる。これに関して
図15を参照しながら簡単に説明する。
【0079】
図15には、前部の車上無線設備が故障した上り列車T2の後方を上り列車T1が走行している状況が図示されている。
図15に示す状況において、後続の列車T1が、先行の列車T2の後方側で最も近い位置にある沿線無線設備3Aの通信可能範囲Ac”内に進入すると、先行の列車T2と沿線無線設備3Aとの間の無線通信に支障を来す可能性がある。このとき、地上制御装置2は、列車T1と列車T2の間の距離d1と、列車T2の後端から、沿線無線設備3Aの通信可能範囲Ac”における下り方向側の限界点(
図4の第4限定点P4に相当)までの距離d2とを計算することができる。さらに、地上制御装置2は、各距離d1,d2を用いて、列車T1が列車T2の無線通信に支障を来さない限界点までの距離d3(d3=d1-d2)を算出することもできる。そして、地上制御装置2は、該算出した距離d3と、列車T1の通信限界点(沿線無線設備3Aの通信可能範囲Ac”における上り方向側の限界点)までの距離とを比較し、列車T1により近い方の地点を列車T1の実際の通信限界点に設定して、当該通信限界点情報を地上制御装置2から列車T1の車上制御装置4に送信する。これにより、先行する列車T2の無線通信支障を回避することができる。
【0080】
また、上述した実施形態では、第1速度照査パターンV1が示す保安制限速度の変化によって表される減速カーブと、第2速度照査パターンV2が示す通信限界点Pcに対応した制限速度の変化によって表される減速カーブとが同一となるように設定される一例を説明したが、各々の減速カーブを異なるように設定する、つまり、保安上の停止点Psと通信限界点Pcとでブレーキレートが異なる速度照査パターンを作成することも可能である。この場合、保安上の停止点Ps及び通信限界点Pcのうちで手前側(制御対象の列車の前端に近い側)にある地点に対応した速度照査パターンに従って列車制御を行うようにすればよい。
【符号の説明】
【0081】
1…列車制御システム、2…地上制御装置(地上装置)、3…沿線無線設備(無線局)、4…車上制御装置、5…車上無線設備、6…ブレーキ装置、6A…非常ブレーキ、6B…常用ブレーキ、20…列車位置更新部、21…停止点決定部、22…停止点距離計算部、23…通信可能範囲決定部、24…通信限界点距離計算部、25…データ記憶部、26…データ修正部、27…制御コマンド作成部、28…制御コマンド送信部、30,50…無線送受信部、31…地上アンテナ、40…速度検出部、41…列車位置検知部、42…パターン作成部、43…速度照査部、44…ブレーキ制御部、51…車上アンテナ、Ac,Ac’…通信可能範囲、Pc…通信限界点、Ps…保安上の停止点、R…軌道、T…列車、V1…第1速度照査パターン、V2…第2速度照査パターン