(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099323
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】継手構造
(51)【国際特許分類】
E01D 19/06 20060101AFI20240718BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
E01D19/06
E01D19/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003180
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】521409973
【氏名又は名称】阿部 忠
(74)【代理人】
【識別番号】100134647
【弁理士】
【氏名又は名称】宮部 岳志
(72)【発明者】
【氏名】阿部 忠
(72)【発明者】
【氏名】小野 晃良
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059GG45
2D059GG55
(57)【要約】
【課題】遊間部を挟んで対峙する伸縮装置の縦鋼板又は縦鋼板に接続された誘導板により誘発される荷重変動に起因する劣化を抑制できる継手構造を提供する。
【解決手段】遊間部(2)を挟んで対峙する床版(1)の端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、前記床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成される継手設置面(3)の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って配置される縦鋼板(4)が、前記継手設置面に形成されたコンクリート(7)と一体化され、前記遊間部が、樹脂と骨材の混合物で形成され、前記床版の上に設けられる舗装面(10)、又は、コンクリート増圧補強層の表面、と連続する表面を有する弾性体層(9)で覆われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遊間部を挟んで対峙する床版の端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、前記床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成された継手設置面の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って配置される縦鋼板が、前記継手設置面に形成されるコンクリートと一体化され、前記遊間部が、樹脂と骨材の混合物で形成され、前記床版の上に設けられる舗装面と連続する表面を有する弾性体層で覆われることを特徴とする継手構造。
【請求項2】
遊間部を挟んで対峙する床版の端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、前記床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成された継手設置面の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って配置される縦鋼板が、前記継手設置面に形成されるコンクリートと一体化され、前記遊間部が、樹脂と骨材の混合物で形成され、前記床版の上に設けられるコンクリート増圧補強層の表面と連続する表面を有する弾性体層で覆われることを特徴とする継手構造。
【請求項3】
前記縦鋼板から離れる方向に伸び前記床版の表面高さから前記継手設置面に向かって下る傾斜面を有する誘導板が前記コンクリートに埋設される請求項1又は2に記載の継手構造。
【請求項4】
前記縦鋼板から橋軸方向に突出する定着筋と、前記定着筋に交差する向きで配置される配力筋が前記コンクリートに埋設される請求項1又は2に記載の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁において上部構造と地上構造の間に設けられる継手構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
橋梁において上部構造と地上構造の間に設けられる継手構造として、鋼製の伸縮装置を使用したものが広く採用されている。伸縮装置は、上部構造と地上構造の間に、寒暖差による橋梁の伸縮を調整するための遊間部を形成しながら、上面を通過する車両による輪荷重を通過させる装置である。
【0003】
伸縮装置の上面を通過する車両による輪荷重は、伸縮装置を構成する鋼材を介して床版に加わるが、伸縮装置の構造によっては輪荷重が床版の局部に集中し、床版の部分的な早期劣化を招いていた。そこで、伸縮装置の上面を通過する車両による輪荷重を拡散する手法が提案されている。
【0004】
例えば、特開2017-40052公報には、橋台や床版等の橋梁部材の接続部において上から荷重がかかる際に負荷を分散し、局部的な負荷集中を防止する伸縮装置が提案されている。この伸縮装置によれば、橋梁部材とコンクリートで一体化される張出し部材の下層側に面状に広がって設置される荷重分散手段により、道路面側から下方向へかかる荷重を分散させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の継手構造では、継手構造を介して連結される床版の、遊間部を挟んで対峙する端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成された継手設置面の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って、伸縮装置を構成する縦鋼板が配置されている。
【0007】
縦鋼板は、遊間部を挟んで対峙する端面をなすものであるが、その上面が路面に露出した状態で設置され、遊間部の上を通過する車輪の路面からの跳ね返りを誘発し、伸縮装置に対する荷重変動に伴う衝撃を発生させていた。
【0008】
そして、上記伸縮装置を含む、道路面側から下方向へかかる荷重を分散させる従来の伸縮装置では、縦鋼板により誘発される荷重変動に伴う衝撃を抑制することができず、荷重変動に起因する劣化を防止することができなかった。
【0009】
また、積雪量の多い地域で使用される伸縮装置には、除雪車に搭載された除雪装置の路面近傍に配置される刃が縦鋼板に引っ掛かることを防止するための誘導板が設けられている。誘導板は、縦鋼板から離れる方向に下る傾斜面を有するものであるが、誘導板に接続される部位の近傍は縦鋼板と同じ高さとなり、縦鋼板と同様に荷重変動を誘発し、荷重変動に起因する劣化の要因となっていた。
【0010】
そこで、本発明は、遊間部を挟んで対峙する伸縮装置の縦鋼板又は縦鋼板に接続された誘導板により誘発される荷重変動に起因する劣化を抑制できる継手構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る第一の継手構造では、遊間部を挟んで対峙する床版の端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、前記床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成される継手設置面の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って配置される縦鋼板が、前記継手設置面に形成されたコンクリートと一体化され、前記遊間部が、樹脂と骨材の混合物で形成され、前記床版の上に設けられる舗装面と連続する表面を有する弾性体層で覆われる。
【0012】
本発明に係る第二の継手構造では、遊間部を挟んで対峙する床版の端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、前記床版の表面より鉛直方向の低い位置に形成された継手設置面の橋軸直角方向に伸びる縁辺沿って配置される縦鋼板が、前記継手設置面に形成されるコンクリートと一体化され、前記遊間部が、樹脂と骨材の混合物で形成され、前記床版の上に設けられるコンクリート増圧補強層の表面と連続する表面を有する弾性体層で覆われる。
【0013】
本発明に係る継手構造は、前記縦鋼板から離れる方向に伸び前記床版の表面高さから前記継手設置面に向かって下る傾斜面を有する誘導板が前記コンクリートに埋設されるものであってもよい。
【0014】
また、本発明に係る継手構造は、前記縦鋼板から橋軸方向に突出する定着筋と、前記定着筋に交差する向きで配置される配力筋が前記コンクリートに埋設されるものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明係る継手構造によれば、樹脂と骨材の混合物で形成され、床版の上に設けられる舗装面又はコンクリート増圧補強層の表面と連続する表面を有する弾性体層により、縦鋼板により誘発される荷重変動に伴う衝撃を緩和し、荷重変動に起因する劣化を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明係る継手構造の概要を示す縦断面図である。
【
図2】縦鋼板及び誘導板が継手設置面に配置されている状態を示す斜視図である。
【
図3】他の継手構造の伸縮装置部材を構成する縦鋼板、定着筋及び配力筋を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1、2を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、
図1、2においては、本発明の理解を容易にするため、説明の便宜上、誇張して表示されている部分があり、部位間の相対寸法は正確ではない。
【0018】
この実施形態は、橋軸方向の端面を50mm以下の間隔を空け向かい合わせにして配置する新設の床版1の接続を想定したものである。すなわち、遊間部2の橋軸方向の長さ寸法は50mm以下となる。
【0019】
床版1は鉄筋コンクリート製で、遊間部2を挟んで対峙する端面近傍の上面側の一部が切り欠かれ、床版の表面より鉛直方向に低い位置となる継手設置面3が形成されている。
【0020】
なお、床版1の厚み寸法は、床版支間長と交通量に基づき決められる。具体的には、床版支間長をLとして(30×L+110)で得られた値に、交通量による割り増し係数を乗じた値とされる。例えば、床版支間長が2m、大型車両の計画交通量が一日一方向2000台以上の場合、170(単位mm)に割り増し係数1.25を乗じて得られる値(212.5)の一の位を四捨五入して得られる210mmが厚み寸法となる。
【0021】
継手設置面3には、継手設置面3の上で起立し床版の端面をなす縦鋼板4と、縦鋼板4に接続された誘導板5の複数が配置されている。
【0022】
縦鋼板4は、継手設置面3の上に起立した状態における上端面の高さ位置が、床版1の表面の高さ位置に等しくなる幅寸法と、継手接地面3の橋軸直角方向の寸法に等しい長手寸法を有している。そして、継手設置面3の橋軸直角方向に伸びる縁辺に沿って起立し、床版1の端面をなしている。
【0023】
誘導板5は、縦鋼板4と同じく鋼鉄製の板材で、継手設置面3に設置された状態において上側に配置される面が、床版1の表面高さから継手設置面3に向かって下る傾斜面6をなす形状とされている。この実施形態では、長方形鋼板の一方の長辺の真ん中辺りに直角台形の切り欠きを加え、他方の長辺の一方の端部に、当該直角台形の斜辺に平行する斜辺を有する直角三角形の切り欠きを加えた形状とされている。そして、直角三角形の切り欠きの加えられた長辺が、床版1の表面高さから継手設置面3に向かって下る傾斜面6をなすものとされている。
【0024】
誘導板5は、また、橋軸直角方向に所定の間隔を空けて複数配置され、傾斜面6が縦鋼板4から離れる方向に下る向きで、縦鋼板4に溶接されている。なお、
図2では、5個の誘導板5が配置されているが、その個数や配置間隔に制限はなく、継手構造が設けられる橋梁の交通量や規模などに応じて決定すればよい。
【0025】
更に、継手設置面3に配置された縦鋼板3と誘導板5は、継手設置面3から床版1の表面高さに至るコンクリート7と一体化され、コンクリート7と共に伸縮装置部材8を構成するものとなっている。
【0026】
なお、縦鋼板3及び誘導板5の表面には、コンクリート7とのより強固な一体化を図るために接着剤を塗布することが好しく、これにより、鋼材とコンクリートとの付着強度が向上し、耐久性の向上を図ることができる。接着剤としては、付着強度が3.0N/mm2以上のエポキシ系付着用接着剤が好適である。
【0027】
伸縮装置部材8は、その一対が遊間部2を挟んで配置される。そして、伸縮装置部材8の一対と遊間部2は、弾性体層9で覆われている。
【0028】
弾性体層9は、樹脂と骨材の混合物で形成され、床版1の上に設けられる舗装面10と連続する表面を有するものとされている。使用する樹脂や骨材に制限はなく、継手構造が設けられる道路の交通量や気象環境などに応じて決めることができる。ただし、弾性体層9は、遊間部2と同程度の長さ範囲(遊間部5が50mmの場合は‐25~+25mm)の伸縮を許容し、舗装面10をなす舗装と同等以上の圧縮強度を有することが必要である。
【0029】
なお、遊間部2の橋軸方向の長さ寸法が50mm以上となる場合、伸縮装置部材8が荷重を支持する機能を高めることが好ましい。そのために用いられる鉄筋の配置構造を
図3に示す。
【0030】
図3に示す鉄筋の配置構造では、
図1、2に示す継手構造において用いられている誘導板5の代わりに、縦鋼板5から橋軸方向に突出する定着筋11と、定着筋11に交差する向きで配置される配力筋12が、伸縮装置部材8を構成するものとなっている。
【0031】
また、
図1、2に示す継手構造は新設の床版1の接続を想定しているが、本発明に係る継手構造を、既設の伸縮装置に代わるものとして設置することも可能である。ただし、この場合、弾性体層9に必要な強度が維持されることが必要となり、そのためには、弾性体層9を形成する骨材として15~20mmのものを使用し、弾性体層9の厚み寸法を30mm以上とすることが好ましい。
【0032】
例えば、交通量や橋梁規模を考慮した設計強度を備える伸縮装置として、一般的には高さ100mmの鋼製伸縮装置が広く採用されているが、この鋼製伸縮装置に代える場合、鋼材断面を厚くすることにより伸縮装置部材8の高さ寸法を70mmに抑え、弾性体層9の厚み寸法を30mmとすることが好ましい。
【0033】
更に、弾性体層9の厚みと伸縮装置部材8の厚みを足し合わせた継手構造全体の厚み寸法に対し、弾性体層9の厚み寸法を略30%とすることが好ましい。
【0034】
例えば、既設の伸縮装置の高さ寸法が150mmであれば、弾性体層9の厚み寸法を30~60mmの範囲で決定し、伸縮装置部材8の高さ寸法を、150mmから弾性体層10の厚みを差し引いた値と、すなわち120~90mmの範囲の値としてもよい。
【0035】
更にまた、既設の伸縮装置を撤去する際に床版の切削を要する場合もあるが、その場合は、切削された厚み分だけ弾性体層9の厚み寸法を大きくしてもよい。例えば、高さ100mmの既設の鋼製伸縮装置を撤去する際に20mmの厚みで切削された場合は、伸縮装置部材8の高さ寸法が70mmであれば、弾性体層9の厚み寸法を50mmとしてもよい。また、伸縮装置部材8の高さ寸法が80mmであれば、弾性体層9の厚み寸法を40mmとしてもよい。
【0036】
図1、2に示す実施形態において、弾性体層9は、床版1の上に設けられる舗装面10と連続する表面を有するものとされているが、コンクリート増圧補強の表面と連続する表面を有するものとしてもよい。
【0037】
RC床版の耐荷力不足や耐疲労性の向上に対する補強法として、RC床版に40mmから60mm厚のコンクリート補強が行われることがあり、この補強法においては、既設の伸縮装置が撤去され、新たな伸縮装置が設置されている。このような場合においても、新たに設置された伸縮装置の上に、増厚補強寸法に合わせた厚み寸法を有する、すなわち、コンクリート増圧補強の表面と連続する表面を有する弾性体層を設けても良い。
【符号の説明】
【0038】
1 床版
2 遊間部
3 継手設置面
4 縦鋼板
5 誘導板
6 傾斜面
7 コンクリート
8 伸縮装置部材
9 弾性体層
10 舗装面
11 定着筋
12 配力筋