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特開2024-99330ジオポリマーコンクリートの製造方法、およびジオポリマーコンクリート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099330
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ジオポリマーコンクリートの製造方法、およびジオポリマーコンクリート
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/26 20060101AFI20240718BHJP
   C04B 16/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C04B28/26
C04B16/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003192
(22)【出願日】2023-01-12
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行者:公益社団法人日本コンクリート工学会 刊行物:コンクリート工学年次論文集,Vol.44,No.1,2022 発行日:2022年6月15日
(71)【出願人】
【識別番号】593045341
【氏名又は名称】明和製紙原料株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000195971
【氏名又は名称】西松建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】富山 潤
(72)【発明者】
【氏名】平城 有梨
(72)【発明者】
【氏名】大城 藤乃
(72)【発明者】
【氏名】駒津 慎
(72)【発明者】
【氏名】原田 耕司
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA24
4G112PB40
(57)【要約】
【課題】古紙の有効理由を図るとともに、COの削減および環境負荷の低減が達成され、施工性を向上するジオポリマーコンクリートの製造方法、およびジオポリマーコンクリートを提供する。
【解決手段】活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を含むジオポリマーコンクリートの製造方法である。骨材の一部を古紙に置き換えて混合することにより、前記活性フィラー、前記アルカリ溶液および前記骨材を含む混合物の粘着性を低減する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を含むジオポリマーコンクリートの製造方法であって、
前記骨材の一部を古紙に置き換えて混合することにより、前記活性フィラー、前記アルカリ溶液および前記骨材を含む混合物の粘着性を低減する、
ジオポリマーコンクリートの製造方法。
【請求項2】
前記古紙は、前記骨材の総容積のうち、0~2%を置き換えた、
請求項1記載のジオポリマーコンクリートの製造方法。
【請求項3】
前記古紙は、幅0.5~1.0cmであり、長さが1.0~3.0cmである、
請求項1記載のジオポリマーコンクリートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項記載のジオポリマーコンクリートの製造方法で製造されたジオポリマーコンクリートであって、
前記骨材の総容積のうち、0~2%を古紙で置換した、
ジオポリマーコンクリート。
【請求項5】
前記モルタル混合物を打設した初期状態と、打設して14日間が経過した後の経過状態とにおける長さの変化率が、0.02%以下である、
請求項4記載のジオポリマーコンクリート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、ジオポリマーコンクリートの製造方法、およびジオポリマーコンクリートに関する。
【背景技術】
【0002】
森林資源の浪費を抑え、製紙原料の安定的な確保のために、使用済みの紙類である古紙は再利用および再資源化することが求められている。一方、脱炭素社会の促進の観点から、建設業界においても、COの削減および環境負荷の低減が求められている。近年、このCO削減および環境負荷の観点から、従来の石灰石を由来とするポルトランドセメントを用いたコンクリートに代えて、ジオポリマーコンクリートの実用化が広く検討されている。
【0003】
ジオポリマーコンクリートは、石灰石を用いないため、COの排出が抑えられるだけでなく、フライアッシュや高炉スラグなどの産業副産物が用いられることから、環境負荷の低減に寄与する。一方、ジオポリマーコンクリートは、その特性から、粘り気つまり粘着性が非常に高いという特性を有している。そのため、ジオポリマーコンクリートは、従来のポルトランドセメントを用いるコンクリートと比較して施工性が極めて悪いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-92474号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】一宮一夫:低炭素で高機能バインダーとしてのジオポリマー~セメント産業への期待~,セメント・コンクリート,No.890,pp.20-23,2020.4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、古紙の有効理由を図るとともに、COの削減および環境負荷の低減が達成され、施工性が向上するジオポリマーコンクリートの製造方法、およびジオポリマーコンクリートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態では、骨材の一部を古紙に置き換えている。これにより、活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を含む混合物は、粘着性が低減する。すなわち、混合物を構成する骨材の一部を古紙に置き換えることにより、混合物の粘着性は低下する。また、古紙を用いることにより、紙類の再利用および再資源化に寄与する。したがって、古紙の有効理由を図ることができるとともに、COの削減および環境負荷の低減を達成しつつ、施工性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの粘着性測定試験の流れを示す模式図
図2】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの粘着性測定試験において、古紙を混入したジオポリマーコンクリートの例を示す模式図
図3】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの粘着性測定試験において、古紙を含まないジオポリマーコンクリートの例を示す模式図
図4】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの粘着性測定試験を説明するための概略図
図5】一実施形態によるジオポリマーコンクリートに混入する古紙の例として新聞紙を示す概略図
図6】ジオポリマーコンクリートの比較例および実施例における材料の混合量を示す概略図
図7】一実施形態によるジオポリマーコンクリートに混入する古紙の置換率と圧縮強度との関係を示す概略図
図8】一実施形態によるジオポリマーコンクリートに混入する古紙の置換率とフロー値との関係を示す概略図
図9】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの比較例および実施例において、材齢と圧縮強度との関係を示す概略図
図10】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの比較例および実施例において、フロー値の経時的な変化を示す概略図
図11】(A)は比較例である試料1の粘着性測定試験を示す写真の図であり、(B)は実施例である試料3の粘着性測定試験を示す写真の図
図12】(A)は粘着性測定試験に用いる比較例である試料1の写真の図であり、(B)は粘着性測定試験に用いる実施例である試料3の写真の図
図13】比較例である試料1の粘着性測定試験の流れを示す写真の図
図14】実施例である試料3の粘着性測定試験の流れを示す写真の図
図15】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの比較例、実施例およびセメントモルタルの吸水量の経時的な変化を示す概略図
図16図14に示す吸水量の測定に用いるセメントモルタルにおける材料の混合量を示す概略図
図17】一実施形態によるジオポリマーコンクリートの比較例および実施例の長さ変化率の経時的な変化を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
(ジオポリマーコンクリート)
まず、本実施形態のジオポリマーコンクリートについて説明する。なお、本明細書におけるジオポリマーコンクリートとは、コンクリートだけでなくモルタルも含む総称とする。すなわち、本明細書におけるジオポリマーコンクリートとは、粗骨材を主な骨材とするコンクリート、および細骨材を主な骨材とするモルタルの双方を含むものとする。
【0010】
ジオポリマーコンクリートは、活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を含んでいる。これら活性フィラー、アルカリ溶液および骨材は、混合物として生成される。活性フィラーは、例えばフライアッシュおよび高炉スラグなどが用いられる。また、アルカリ溶液は、水酸化ナトリウム、あるいは水ガラスと称されるケイ酸ナトリウムなどの水溶液が用いられる。これらの活性フィラーやアルカリ溶液は、例示であり、ジオポリマーコンクリートへ適用可能であれば任意の材料を用いることができる。活性フィラーとしては、例示したものの他、例えばもみ殻灰、パームアッシュ、廃ガラス、ごみ焼却灰や活性汚泥焼却灰などを用いてもよい。また、アルカリ溶液は、例示したものの他、水酸化カリウム水溶液、炭酸塩、硫酸塩や硝酸塩などの水溶液を用いてもよい。
【0011】
骨材は、コンクリートに一般的な材料が用いられる。すなわち、骨材は、例えば石や砂などの鉱物を由来とするもの、セラミックスなど人工的に生成されたものなど、任意に用いることができる。骨材は、コンクリートとする場合には砂利などの粗骨材が含まれる。また、骨材は、モルタルとする場合には、主に砂などの細骨材が含まれる。本実施形態では、この骨材に、古紙を加えている。すなわち、本実施形態では、通常用いられる骨材の一部は、古紙に置き換えられている。古紙は、例えば新聞、段ボール、雑誌、雑紙、飲料用パックなどを由来とする。これらの古紙は、由来によって異なるものの、セルロースを60~70wt%、リグニンを6~8wt%、灰分を10~20wt%ほど含んでいる。古紙は、これらに加え、その他の成分として純粋なセルロース以外の成分も含んでいる。その他の成分としては、例えばエタノール-ベンゼンを溶媒とした抽出物などである。この抽出物は、古紙に含まれる印刷物のインクなどに由来すると考えられる。このように、本実施形態で用いる古紙は、紙に由来する純粋なセルロースだけでなく、インクや表面の処理剤などに由来するその他の成分を含んでいる。
【0012】
本実施形態では、骨材の総容積のうち、0~2%を古紙に置き換えている。すなわち、本実施形態の場合、骨材は、0~2vol%の古紙を含んでいる。当然のことながら、古紙が0vol%となる骨材は、本実施形態に含まれない。換言すると、骨材の総容積のうち古紙で置き換えた割合を置換率R(vol%)としたとき、0<R≦2である。古紙は、幅を0.5~1.0cm、長さを1.0~3.0cmとした短冊状に破砕することが好ましい。活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を混練することにより、短冊状の古紙は微細に破断される。そのため、古紙は、混練が完了した混合物において目視できない程度に破断された状態で分散する。古紙は、幅および長さを過大に設定すると、混練によって十分に破断されず、混合物に十分に分散しないおそれがある。また、古紙は、幅および長さを過小に設定すると、飛散などを生じやすく、取り扱いが煩雑になるおそれがある。したがって、古紙は、上記した程度の幅および長さに設定することが好ましい。
【0013】
(粘着性測定試験)
次に、ジオポリマーコンクリートの粘着性測定試験について説明する。
ジオポリマーコンクリートは、粘り気つまり粘着性が高いという性質を有している。そのため、ジオポリマーコンクリートは、建築や土木材料として使用する場合、施工性の悪化を招くという問題を有している。
【0014】
一般的なコンクリートは、その粘着性などの性質を測定する試験として、「JIS A1101」にスランプ試験が規定されている。スランプ試験は、JIS規格で規定されたスランプコーンに混合物であるコンクリートやモルタルを詰め、締め固めを施した後、スランプコーンを引き上げることにより、混合物の広がりを測定する試験である。通常のジオポリマーコンクリートは、粘着性が高いことから、スランプコーンや突き棒に付着しやすい傾向がある。そのため、通常のジオポリマーコンクリートは、締め固めの際に突き棒に付着したり、スランプコーンの引き上げ時にスランプコーンに付着して形状の維持が困難になったり、という問題が生じる。すなわち、従来のスランプ試験は、ジオポリマーコンクリートの性質の測定に不十分な面がある。
【0015】
そこで、本実施形態では、粘着性の高いジオポリマーコンクリートに適した粘着性測定試験を行なっている。粘着性測定試験は、以下のように実施している。
粘着性測定試験は、図1に示すように粘着性測定装置10を用いて実施する。粘着性測定装置10は、混合物11が詰められる容器12、および混合物11を突く突き棒13を備えている。容器12は、例えば円筒状など、任意の形状とすることができる。突き棒13は、上述の「JIS A1101」で規定されているものを用いる。この「JIS A1101」に規定される突き棒13は、外径が16mmであり、長さが500~600mmである。突き棒13は、先端14が半球状に成形された鋼または金属製である。
【0016】
粘着性測定試験を実施するとき、図1(A)に示すように所定の材料を混練したジオポリマーコンクリートの混合物11は、容器12に詰められる。混合物11は、容器12の上端15まで満たされる。容器12に詰められた混合物11は、図1(B)に示すように突き棒13で突かれる。突き棒13は、容器12に詰められた混合物11の深さの概ね1/2あたりまで突き入れられる。粘着性測定試験では、図1(C)に示すようにジオポリマーコンクリートの混合物11に突き入れられた突き棒13を上方へゆっくりと引き上げる。そして、粘着性測定試験では、図1(D)に示すように突き棒13に付着して突き棒13とともに引き上げられた混合物11が落下したときの突き棒13の位置を測定する。
【0017】
図2に示すように骨材の2vol%を古紙に置き換えた本実施形態のジオポリマーコンクリートの混合物11は、引き上げた突き棒13にほとんど付着しない。これに対し、図3に示すように古紙を含まない比較例のジオポリマーコンクリートの混合物11は、粘着性が高いことから、引き上げた突き棒13に付着し、突き棒13とともに上方へ引き上げられる。このように、ジオポリマーコンクリートの混合物11は、突き棒13とともに引き上げられて落下した位置によって、粘着性が測定される。
【0018】
具体的には、突き棒13をゆっくりと引き上げたとき、突き棒13とともに引き上げられた混合物11はその自重によって突き棒13から落下する。このように混合物11が突き棒13から落下したとき、図4に示すように突き棒13が引き上げられた距離Lが測定される。この距離Lは、容器12の上端15から突き棒13の先端14までの長さである。すなわち、突き棒13を引き上げ、突き棒13から混合物11が落下したとき、容器12の上端15から突き棒13の先端14までの長さは、混合物11の粘着性を示す距離Lである。
【0019】
(実施例)
次に、実施例および比較例について説明する。
実施例では、骨材を置き換える古紙として、例えば図5に示すように新聞紙16を破砕したものを用いた。古紙となる新聞紙16は、概ね幅を1cm、長さを1~3cmとする短冊状である。本実施例では、ジオポリマーコンクリートは、粗骨材を含まないモルタルとして生成した。ジオポリマーコンクリートは、活性フィラー、アルカリ溶液および細骨材を含んでいる。活性フィラーは、フライアッシュを主として、これに高炉スラグ微粉末を加えた。フライアッシュは、電源開発株式会社製造の「JIS II種灰」を用いた。また、高炉スラグ微粉末は、石膏を含まない、プレーン値が4,090cm/gのものを用いた。アルカリ溶液は、市販の東曹産業株式会社製のGP-1溶液を用いた。細骨材は、セメント強さ試験用(JIS R5201)の標準砂を用いた。
【0020】
古紙を混入する比較検討のために、古紙を含まない比較例となるジオポリマーコンクリートを調製した。比較例は、材齢が1日における圧縮強度を、24N/mmとすることを目的に配合した。比較例となるジオポリマーコンクリートの圧縮強度は、活性フィラーとなるフライアッシュを置き換える高炉スラグ微粉末の体積によって変化する。すなわち、比較例となるジオポリマーコンクリートの圧縮強度は、活性フィラーに含まれるフライアッシュと高炉スラグ微粉末との比率によって変化する。その結果、比較例では、圧縮強度の確保と取り扱いの容易さの観点から、フライアッシュのうち体積で10%を高炉スラグ微粉末で置き換えた活性フィラーを用いた。比較例となるジオポリマーコンクリートの混合物は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末および標準砂を空練りした後、GP-1溶液を加えてかき落としを行ないながら練り混ぜた。練り上げられた混合物は、セメント強さ試験用(JIS R5201)の角柱型枠で4cm×4cm×16cmに成形して養生した。
【0021】
実施例は、ジオポリマーコンクリートにおいて古紙を混入する効果を検討するために、図6に示すように比較例に対して、古紙の混入割合を変更した複数の試料を実施例として作成した。具体的には、実施例では、細骨材となる標準砂のうち、体積で1%、2%、4%、6%を古紙である破砕した新聞紙16に置き換えた。比較例となる試料1では、細骨材は標準砂のみである。細骨材となる標準砂のうち体積で1%を古紙で置き換えた実施例は、試料2である。同様に、体積で2%を古紙に置き換えた実施例は試料3であり、体積で4%を古紙に置き換えた実施例は試料4であり、体積で6%を古紙に置き換えた実施例は試料5である。実施例では、細骨材となる砂を古紙で置換することにより、天然資源である骨材の使用量を削減している。これにより、骨材の使用の面からも環境負荷の低減に寄与することができる。実施例となるジオポリマーコンクリートの混合物11は、比較例と同様にフライアッシュ、高炉スラグ微粉末および標準砂を空練りした後、GP-1溶液を加えてかき落としを行ないながら練り混ぜた。古紙は、予めGP-1溶液に投入して撹拌し、空練りした混合材料にGP-1溶液とともに混合した。練り上げられた混合物11は、比較例である試料1と同様にセメント強さ試験用(JIS R5201)の角柱型枠で成形して養生した。
【0022】
実施例および比較例は、圧縮強度試験およびフロー試験を行なった。圧縮強度試験では、材齢が1日となった実施例および比較例の試料1~5を用いて圧縮強度を測定した。フロー試験は、「JIS R5201」の規定にしたがって実施した。図7に示すように、古紙を混入した試料2~試料5に示す実施例は、古紙を混入していない試料1に示す比較例と同等の圧縮強度が得られた。また、試料2~試料5は、圧縮強度のばらつきがほとんど生じていない。これは、上述のように混合物11に混入された古紙は、混合時に微細に破断され、混合物11に均一に分散するためと考えられる。フロー試験によって得られるフロー値は、図8に示すように細骨材において置き換えた古紙が増えるほど、つまり置換率Rが大きくなるほど低下することがわかる。そのため、古紙が混入されたジオポリマーコンクリートは、細骨材における古紙の置換率が大きくなるほど流動性が低下することを示している。このことから、ジオポリマーコンクリートは、細骨材のうち体積で0~2%を古紙で置き換えることが好ましい。図8示す打撃前平均とは、フロー試験においてスランプコーンの引き上げから1分が経過した後の打撃前におけるフロー値の平均である。また、打撃後平均とは、「JIS R5201」に規定されている15回打撃を行なって1分が経過した後のフロー値の平均である。
【0023】
これら圧縮強度試験およびフロー試験の結果から、ジオポリマーコンクリートは、細骨材のうち体積で2%を古紙で置き換えた試料3を好適な実施例とする。以下、この試料3を実施例として用いるとともに、試料1を比較例として説明する。
・圧縮強度
試料1および試料3は、強度特性として、図9に示すように圧縮強度の経時的な変化を測定した。すなわち、実施例としての試料3および比較例としての試料1は、材齢が1日、3日、7日および28日の時期に圧縮強度を測定した。試料1および試料3の試験片は、上述の通り4cm×4cm×16cmの柱状とした。試料3は、材料として目標とする圧縮強度である24N/mmを、材齢が1日から満たしている。また、材齢が3日を経過するまでは、古紙を含む試料3は試料1と比較して低い圧縮強度を示している。これに対し、材齢が7日および28日では、試料3は試料1と同等の圧縮強度を示していることがわかる。
以上のことから、細骨材の一部を古紙に置き換えた試料3は、古紙を含まない比較例である試料1と同等の圧縮強度を有しており、材齢の経過による影響が小さいことが分かる。
【0024】
・フロー値の経時変化
試料1および試料3は、流動特性として、フロー値の経時的な変化を測定した。フロー値の測定は、練り混ぜた試料1または試料3の混合物をそれぞれフローコーンに詰め、フローコーンを引き上げて1分後に測定した。このフロー値の測定を、混合物の練り混ぜの開始から10分ごとに6回行なって、経時的なフロー値の変化を測定した。その結果、図10に示すように、試料3は、試料1に比較してフロー値が小さい。一方、試料3のフロー値の変化は、試料1に比較して小さい。つまり、試料3は、試料1に比較して、フロー値の時間的な変化が小さいことを示している。このことから、古紙を混入した試料3は、経時的な作業性の変化つまりフロー値の低下を抑制することができる。
【0025】
・粘着性
上述のように一般的なジオポリマーコンクリートは、粘着性が高く、施工性が悪いことが知られている。上述の粘着性測定試験で説明したように、容器12に詰められた試料3または試料1の混合物11は、突き棒13で突かれる。突き棒13は、容器12に詰められた試料3または試料1の混合物11の深さの概ね1/2あたりまで突き入れられた後、上方へゆっくりと引き上げられる。粘着性測定試験では、この突き棒13に付着して突き棒13とともに引き上げられる混合物11の長さを容器12の上端15から突き棒13の先端14までの距離Lとして目視で測定した。
【0026】
すなわち、古紙を混入しない比較例である試料1は、図11(A)に示すように容器12に詰められた混合物11が、図11(B)に示すように上方から突き棒13で突かれる。そして、突き棒13は、図11(C)および図11(D)に示すように混合物11からゆっくりと引き上げられる。突き棒13をさらに引き上げると、図11(E)に示すように混合物11は突き棒13から落下する。突き棒13から混合物11が落下したとき、そのときの混合物11の長さ、つまり容器12の上端15から突き棒13の先端14までの距離Lは目視で測定される。試料1の粘着性は、この距離Lによって測定される。
【0027】
同様に、古紙を混入した実施例である試料3は、図12(A)に示すように容器12に詰められた混合物11が、図12(B)に示すように上方から突き棒13で突かれる。そして、突き棒13は、図12(C)および図12(D)に示すように混合物11からゆっくりと引き上げられる。突き棒13をさらに引き上げると、図12(E)に示すように混合物11は突き棒13から落下する。突き棒13から混合物11が落下したとき、そのときの混合物11の長さ、つまり容器12の上端15から突き棒の先端14までの距離Lは目視で測定される。試料3の粘着性は、この長さによって測定される。
【0028】
図11図13(A)および図14(A)に示すように古紙を混入しない比較例である試料1は、突き棒13を引き上げた後、かなりの量の混合物11が突き棒13に付着し、粘着性の高い挙動を示す。これに対し、古紙を混入した実施例である試料3は、図12(B)、図13(B)および図14(B)に示すように突き棒13に付着する混合物11が減少し、粘着性の改善が図られている。比較例である試料1の場合、図13(A)に示すように突き棒13が上方へ約9cmまで引き上げられるまで混合物11は突き棒13に付着している。これに対し、実施例である試料3の場合、突き棒13が上方へ約4cmまで引き上げられたところで混合物11は突き棒13から脱離し、図13(B)に示すように突き棒13が上方へ約9cmまで引き上げられると混合物11は突き棒13から完全に脱離する。このことから、比較例である試料1の粘着性測定試験の結果は、距離L=9cmである。また、実施例である試料3の粘着性測定試験の結果は、距離L=4cmである。以上のように、ジオポリマーコンクリートは、骨材の一部を古紙に置き換えることにより、粘着性を改善できることがわかる。
【0029】
・吸水試験
吸水性の試験として、図15に示すように試料1および試料3の吸水性を測定した。また、吸水試験では、比較および参考のために材齢が28日における強度が同等となる図16に示す組成のセメントモルタルについても吸水性を測定した。この吸水試験では、試料1、試料3およびセメントモルタルについて、外径100mm×長さ100mmの円柱状の供試体を作成した。作成した供試体は、材齢が14日まで20℃の環境下で封かんして養生した後、試験に用いた。この吸水試験では、供試体に設けた吸水試験器を用いて、供試体が吸収する水の累積量を測定した。
【0030】
一般に、ジオポリマーコンクリートは、通常のセメントを用いたコンクリートと比較して吸水性が高いことが知られている。そのため、試料1および試料3は、図15に示すようにセメントモルタルよりも高い吸水性を示している。一方、実施例である試料3は、比較例である試料1と比較して、吸水速度が速く、累積の吸水量も約2割程度大きくなっている。このことから、実施例のジオポリマーコンクリートは、古紙を含まないジオポリマーコンクリートやセメントモルタルに比較して、保水性が高いことがわかる。したがって、実施例のジオポリマーコンクリートは、放射熱の低減を図ることができる。
【0031】
・長さ変化試験
試料1および試料3は、長さ変化試験として、図17に示すように経時的な長さの変化を測定した。試験は、温度を約20℃で一定とし、湿度を70~90%に設定した環境で行なった。湿度が高い環境での試験であることから、比較例である試料1および実施例である試料3は、吸水作用により時間の経過とともに膨張つまり長さが増大する傾向を示した。また、実施例である試料3は、比較例である試料1と比較して、長さの変化率が小さくなっている。このように、試料3は、上述の吸水試験では試料1に比較して吸水量が大きい傾向を示しているのに対し、長さの変化率が試料1よりも小さくなっている。
【0032】
以上のことから、細骨材の一部を古紙に置き換えた試料3は、長さの変化率が小さいことがわかる。そのため、試料3は、湿度などの周辺の環境に応じた体積の変化が小さいことを示している。したがって、古紙を混入したジオポリマーコンクリートは、寸法の変化にともなう施工後のひび割れなどを低減することができる。
【0033】
本実施形態では、骨材の一部を古紙に置き換えている。これにより、活性フィラー、アルカリ溶液および骨材を含む混合物11は、粘着性が低減する。すなわち、混合物11を構成する骨材の一部を古紙に置き換えることにより、この混合物11は粘着性が低減する。また、古紙を用いることにより、紙類の再利用および再資源化に寄与する。したがって、古紙の有効理由を図ることができるとともに、COの削減および環境負荷の低減を達成しつつ、施工性を向上することができる。
【0034】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
図面中、11は混合物、12は容器、13は突き棒、16は新聞紙(古紙)を示す。
図1
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図17