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特開2024-99333ポリアミド酸ワニス、ポリイミド組成物、接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体
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  • 特開-ポリアミド酸ワニス、ポリイミド組成物、接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099333
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ポリアミド酸ワニス、ポリイミド組成物、接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20240718BHJP
   C09J 179/08 20060101ALI20240718BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20240718BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20240718BHJP
   G03F 7/038 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
C08G73/10
C09J179/08 A
C09J11/06
B32B27/34
G03F7/038 504
【審査請求】未請求
【請求項の数】23
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003196
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 昂
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 真喜
【テーマコード(参考)】
2H225
4F100
4J040
4J043
【Fターム(参考)】
2H225AM73P
2H225AM99P
2H225AN68P
2H225AN82P
2H225AN84P
2H225CA12
2H225CA13
4F100AK49B
4F100AT00A
4F100BA02
4F100GB41
4F100YY00B
4J040EH031
4J040HB09
4J040HC11
4J040HC22
4J040HD15
4J040JA05
4J040JA09
4J040JB02
4J040KA23
4J040LA06
4J040LA11
4J040NA19
4J040NA20
4J040PA30
4J043PA02
4J043PA04
4J043PA08
4J043PA19
4J043PB15
4J043QB16
4J043QB26
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043SB03
4J043SB04
4J043TA22
4J043TB01
4J043TB03
4J043UA132
4J043UA141
4J043UA151
4J043UA152
4J043UA342
4J043UA672
4J043UB011
4J043UB021
4J043UB022
4J043UB062
4J043UB131
4J043UB132
4J043UB402
4J043VA022
4J043VA041
4J043VA062
4J043VA081
4J043WA05
4J043ZA12
4J043ZA23
4J043ZA34
4J043ZB01
4J043ZB02
4J043ZB47
4J043ZB50
(57)【要約】
【課題】高い耐熱性を有し、加熱後においても高い溶解性を有するポリイミド組成物を付与するポリアミド酸ワニスの提供。
【解決手段】ポリアミド酸ワニスは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含むポリアミド酸を含む。これらのモノマーは、芳香環を構成しない、C-H結合及びC-O結合の少なくとも一方を含むモノマー(A)を50~100モル%と、モノマー(B)を0~50モル%とを含む。重縮合ユニット当たり、上記C-H結合及びC-O原子の総数に対する、メチルC-H結合数が35~100%、メチレンC-H結合数が0~65%、メチンC-H結合数が0~2%、脂肪族C-O結合数が0~15%である。芳香環を有しない脂肪族モノマーの含有量は、モノマー全量に対して15質量%以下である。ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.9~0.999である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸と、溶媒とを含むポリアミド酸ワニスであって、
前記ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーは、
モノマー全量に対して、
50~100モル%の、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の少なくとも一方を含むモノマー(A)と、
0~50モル%の、前記モノマー(A)以外のモノマー(B)と
を含み、
前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~65%、メチンC-H結合の数が0~2%、及び、脂肪族炭素とのエーテル結合の数が0~15%であり、
芳香環を有しない脂肪族モノマーの含有量は、前記モノマー全量に対して15質量%以下であり、
前記ジアミンと前記テトラカルボン酸二無水物のモル比が、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.90~0.999である、
ポリアミド酸ワニス。
【請求項2】
前記モノマー(A)は、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【化1】
(式(1)中、
Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
mは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
o及びpは、それぞれ0~3の整数を示す)
【請求項3】
前記mは、0である、
請求項2に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項4】
前記Yは、-C(CHである、
請求項2に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項5】
前記モノマー(A)は、式(2)で表される芳香族ジアミンを含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【化2】
(式(2)中、
Zは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
nは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
q及びrは、それぞれ0~3の整数を示す)
【請求項6】
前記nは、0である、
請求項5に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項7】
前記Zは、-C(CHである、
請求項5に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項8】
前記モノマー(A)は、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と、式(2)で表される芳香族ジアミンとを含み、
前記式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と前記式(2)で表される芳香族ジアミンの合計量は、前記モノマー全量に対して50~100モル%である、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【化3】
(式(1)及び(2)中、
Y及びZは、それぞれ酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
m及びnは、それぞれ0又は1の整数を示し、
~Rは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
o、p、q及びrは、それぞれ0~3の整数を示す)
【請求項9】
前記モノマー(A)は、式(3)で表される脂肪族ジアミンをさらに含む、
請求項2に記載のポリアミド酸ワニス。
【化4】
(式(3)中、
は、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が5~500であり;
前記脂肪族鎖は、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよく、前記側鎖を構成する原子数の合計が10以下である)
【請求項10】
前記式(3)で表される脂肪族ジアミンの含有量は、前記モノマー全量に対して15~45モル%である、
請求項9に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項11】
前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、脂肪族炭素とのエーテル結合の数は5~15%である、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項12】
前記モノマー(B)は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸二無水物を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項13】
前記溶媒は、非プロトン性極性溶媒及びアルコール系溶媒からなる群より選ばれる一以上を含む、
請求項1に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項14】
前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られるポリイミドフィルムの大気雰囲気下での5%重量減少温度は、400℃以上である、
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項15】
前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、2.0cm×2.0cm×厚み20μmのポリイミドフィルムを、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で5分間浸漬させた後、ろ紙でろ過して測定される下記式で表される溶解率は90%以上である、
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリアミド酸ワニス。
溶解率(%)=[1-[(ろ過・乾燥後のろ紙の重量)-(使用前のろ紙の重量)]/(浸漬前のフィルムの重量)]×100
【請求項16】
前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、厚み10μmのポリイミドフィルムを、350℃で20分間加熱処理した後、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で10分間浸漬させたとき、前記ポリイミドフィルムは完全に溶解する、
請求項15に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項17】
前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、厚み20μmのポリイミドフィルムの23℃における伸び率は、50%以上である、
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項18】
前記ポリアミド酸を、濃度が0.5g/dLとなるようにN-メチル-2-ピロリドンに溶解させたときの固有粘度は、0.3~2.0dL/gである、
請求項1~13のいずれか一項に記載のポリアミド酸ワニス。
【請求項19】
ポリイミドを含むポリイミド組成物であって、
前記ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーは、
モノマー全量に対して、
50~100モル%の、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の少なくとも一方を含むモノマー(A)と、
0~50モル%の、前記モノマー(A)以外のモノマー(B)と
を含み、
前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~65%、メチンC-H結合の数が0~2%、及び、脂肪族炭素とのエーテル結合の数が0~15%であり、
芳香環を有しない脂肪族モノマーの含有量は、前記モノマー全量に対して15質量%以下であり、
前記ジアミンと前記テトラカルボン酸二無水物のモル比が、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.9~0.999である、
ポリイミド組成物。
【請求項20】
請求項19に記載のポリイミド組成物を含む、
接着剤。
【請求項21】
前記接着剤は、半導体部材用接着剤、フレキシブルプリント基板用接着剤、カバーレイフィルム用接着剤、又はボンディングシート用接着剤である、
請求項20に記載の接着剤。
【請求項22】
請求項19に記載のポリイミド組成物を含む、
パターン形成用レジスト材料。
【請求項23】
基材と、厚み8μm以上の請求項19に記載のポリイミド組成物からなる樹脂層とを含む、
積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド酸ワニス、ポリイミド組成物、接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路基板や半導体デバイスに用いられる接着剤は、一般的に、エポキシ樹脂である。しかしながら、エポキシ樹脂は、耐熱性や柔軟性が十分でなく、熱硬化反応に長時間を要していた。
【0003】
一方、熱可塑性ポリイミドは、高い耐熱性及び柔軟性を有するだけでなく、熱硬化反応も比較的短時間であることが知られている。そのため、熱可塑性ポリイミドを含むワニスやフィルムの使用が検討されている。例えば、特許文献1では、ポリイミドを溶媒に溶解させたワニス(溶剤可溶型のポリイミドワニス)の塗膜を乾燥させて得られる熱可塑性ポリイミドフィルムが開示されている。
【0004】
また、ポリアミド酸ワニスの塗膜をイミド化させて得られる熱可塑性ポリイミドフィルムも知られている。例えば、特許文献2では、2,2-ビス[4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物(BPADA)と、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシフェニル)]プロパン(BAPP)とを反応させてなるポリアミド酸ワニスの塗膜をイミド化して得られる熱可塑性ポリイミドフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-255780号公報
【特許文献2】特開2007-106891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるようなポリイミドワニスは、ポリイミドの溶媒に対する溶解度が低いため、塗工時にワニス中の溶媒が大気中の水分を吸収すると、ポリイミドが析出しやすい(白色析出を生じやすい)。そのような析出を生じたワニスから得られるポリイミドフィルムは、表面状態が不均一になりやすく、ポリイミドワニスはハンドリング性に劣る。一方、特許文献2に示されるようなポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸の溶媒に対する溶解度が高いため、塗工時に析出を生じにくく、ハンドリング性に優れる。
【0007】
ところで、電子回路基板や半導体デバイスの製造工程では、接着剤として熱可塑性ポリイミドフィルムを付与した後、糊残りなく剥離できることが望まれる。剥離方法としては、レーザーリフトオフ(LLO)や機械的剥離、溶媒等による溶解除去等の方法があるが、低コストで簡易に剥離する観点では、溶媒等で溶解除去できること(ポリイミドフィルムの溶解性)が求められる。
【0008】
また、電子回路基板や半導体デバイスの製造工程では、電極成膜や再配線工程等の加熱工程を伴うため、用いられる熱可塑性ポリイミドフィルムには、高温下でも熱分解しないような高い耐熱性が求められている。さらに、高温の加熱工程を経た後にも、当該熱可塑性ポリイミドフィルムを溶媒で容易に溶解除去できること(加熱後のポリイミドフィルムの溶解性)が求められている。
【0009】
しかしながら、特許文献2で得られる熱可塑性ポリイミドフィルムは、溶媒に対して十分な溶解性を有するものではなく、ましてや加熱後において溶解性を有するものではなかった。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、高い耐熱性を有し、加熱後においても溶媒に対する高い溶解性を有するポリイミド組成物を付与するポリアミド酸ワニスを提供することを目的とする。また、ポリイミド組成物、及びそれを用いた接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0012】
[1] ポリアミド酸と、溶媒とを含むポリアミド酸ワニスであって、前記ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーは、モノマー全量に対して、50~100モル%の、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の少なくとも一方を含むモノマー(A)と、0~50モル%の、前記モノマー(A)以外のモノマー(B)とを含み、前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~65%、メチンC-H結合の数が0~2%、及び、脂肪族炭素とのエーテル結合の数が0~15%であり、芳香環を有しない脂肪族モノマーの含有量は、前記モノマー全量に対して15質量%以下であり、前記ジアミンと前記テトラカルボン酸二無水物のモル比が、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.90~0.999である、ポリアミド酸ワニス。
[2] 前記モノマー(A)は、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物を含む、[1]に記載のポリアミド酸ワニス。
【化1】
(式(1)中、
Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
mは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
o及びpは、それぞれ0~3の整数を示す)
[3] 前記mは、0である、[2]に記載のポリアミド酸ワニス。
[4] 前記Yは、-C(CHである、[2]または[3]に記載のポリアミド酸ワニス。
[5] 前記モノマー(A)は、式(2)で表される芳香族ジアミンを含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【化2】
(式(2)中、
Zは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
nは、それぞれ0又は1の整数を示し、
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
q及びrは、それぞれ0~3の整数を示す)
[6] 前記nは、0である、[5]に記載のポリアミド酸ワニス。
[7] 前記Zは、-C(CHである、[5]又は[6]に記載のポリアミド酸ワニス。
[8] 前記モノマー(A)は、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と、式(2)で表される芳香族ジアミンとを含み、前記式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と前記式(2)で表される芳香族ジアミンの合計量は、前記モノマー全量に対して50~100モル%である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【化3】
(式(1)及び(2)中、
Y及びZは、それぞれ酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示し、
m及びnは、それぞれ0又は1の整数を示し、
~Rは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し、
o、p、q及びrは、それぞれ0~3の整数を示す)
[9] 前記モノマー(A)は、式(3)で表される脂肪族ジアミンをさらに含む、
[2]~[8]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【化4】
(式(3)中、
は、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖であり、前記主鎖を構成する原子数の合計が5~500であり;
前記脂肪族鎖は、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよく、前記側鎖を構成する原子数の合計が10以下である)
[10] 前記式(3)で表される脂肪族ジアミンの含有量は、前記モノマー全量に対して15~45モル%である、[9]に記載のポリアミド酸ワニス。
[11] 前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、脂肪族炭素とのエーテル結合の数は5~15%である、[1]~[10]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[12] 前記モノマー(B)は、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)からなる群より選ばれる芳香族テトラカルボン酸無水物を含む、[1]~[11]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[13] 前記溶媒は、非プロトン性極性溶媒及びアルコール系溶媒からなる群より選ばれる一以上を含む、[1]~[12]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[14] 前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られるポリイミドフィルムの大気雰囲気下での5%重量減少温度は、400℃以上である、[1]~[13]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[15] 前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、2.0cm×2.0cm×厚み20μmのポリイミドフィルムを、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で5分間浸漬させた後、ろ紙でろ過して測定される下記式で表される溶解率は90%以上である、[1]~[14]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
溶解率(%)=[1-[(ろ過・乾燥後のろ紙の重量)-(使用前のろ紙の重量)]/(浸漬前のフィルムの重量)]×100
[16] 前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、厚み10μmのポリイミドフィルムを、350℃で20分間加熱処理した後、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で10分間浸漬させたとき、前記ポリイミドフィルムは完全に溶解する、[15]に記載のポリアミド酸ワニス。
[17] 前記ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、厚み20μmのポリイミドフィルムの23℃における伸び率は、50%以上である、[1]~[16]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
[18] 前記ポリアミド酸を、濃度が0.5g/dLとなるようにN-メチル-2-ピロリドンに溶解させたときの固有粘度は、0.3~2.0dL/gである、[1]~[17]のいずれかに記載のポリアミド酸ワニス。
【0013】
本開示のポリイミド組成物は、ポリイミドを含むポリイミド組成物であって、前記ポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンの重縮合ユニットを含み、
前記テトラカルボン酸二無水物と前記ジアミンからなるモノマーは、
モノマー全量に対して、
50~100モル%の、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の少なくとも一方を含むモノマー(A)と、
0~50モル%の、前記モノマー(A)以外のモノマー(B)と
を含み、
前記重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~65%、メチンC-H結合の数が0~2%、及び、脂肪族炭素とのエーテル結合の数が0~15%であり、
芳香環を有しない脂肪族モノマーの含有量は、前記モノマー全量に対して15質量%以下であり、
前記ジアミンと前記テトラカルボン酸二無水物のモル比が、ジアミン/テトラカルボン酸二無水物=0.9~0.999である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い耐熱性を有し、加熱後においても溶媒に対する高い溶解性を有するポリイミド組成物を付与するポリアミド酸ワニスを提供することができる。また、ポリイミド組成物、及びそれを用いた接着剤、パターン形成用レジスト材料及び積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、引張破断試験に用いる試験片を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
【0017】
上記の通り、ポリアミド酸ワニスは、ポリイミドワニスで生じるような白色析出を生じにくく、ハンドリング性に優れる。一方で、ポリアミド酸ワニスの分子末端がアミノ基である割合が多いと、得られるポリイミドフィルムが溶解しにくい場合があった。これに対し、ジアミン/酸二無水物の比率を一定以下とすることで、分子末端が酸無水物基である割合を、分子末端がアミノ基である割合よりも多くすることができる。それにより、得られるポリイミドフィルムの溶解性を高めることができる。
【0018】
また、一般的に、耐熱性の高いポリイミドは剛直な構造を有するため、溶媒に対して溶けにくく、溶解性は低くなりやすい。つまり、耐熱性と溶解性は、通常、両立することが難しい。これに対して本発明者らは、ポリアミド酸を構成するモノマーが、好ましくは芳香環を含み、且つ(芳香環を構成しない)C-H結合及びC-O結合の少なくとも一方を含む特定のモノマー(A)を含むことで、得られるポリイミドフィルムの耐熱性(特にTd)と溶解性を両立しうることを見出した。
【0019】
さらに、本発明者らは、熱劣化しやすいポリイミド;即ち、熱により開裂しやすい結合を多く含むポリイミドほど、ポリイミドフィルムの加熱後の溶解性が低いことを見出した。そして、前駆体であるポリアミド酸を構成する重縮合ユニット当たりの、結合エネルギーが低い特定の結合の含有比率を少なくすることで、当該ポリイミドフィルムの加熱後の溶解性(特に窒素雰囲気下において350℃で20~60分加熱処理した後の溶解性)を高めうることを見出した。
【0020】
以下、ポリアミド酸ワニスの構成について詳細に説明する。
【0021】
1.ポリアミド酸ワニス
本開示のポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸と、溶媒とを含む。
【0022】
1-1.ポリアミド酸
ポリアミド酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの重縮合ユニット(繰り返し単位)を含む。テトラカルボン酸二無水物とジアミンからなるモノマーは、モノマー(A)と、モノマー(B)とを含む。
【0023】
(モノマー(A))
モノマー(A)は、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の少なくとも一方を含むモノマーである。モノマー(A)は、芳香環を有するモノマー(芳香族モノマー)を含むことが好ましい。そのような芳香族モノマーは、芳香環に由来する適度な剛直性と、芳香環を構成しないC-H結合又はC-O結合(脂肪族C-O結合)に由来する適度な柔軟性とを有するため、得られるポリイミドは、良好な耐熱性と溶解性を有し得る。なお、芳香環を構成しないC原子とO原子の結合とは、脂肪族C-O結合であり、カルボニル基等は含まれない。
【0024】
モノマー(A)としての芳香族モノマーは、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、芳香族ジアミンであってもよい。
【0025】
芳香族テトラカルボン酸二無水物は、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物であることが好ましい。
【化5】
【0026】
式(1)中、Yは、酸素原子、メチレン基、及び-CR(R及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換又は無置換のアルキル基)からなる群より選ばれる2価の基を示すし;好ましくは-CR、より好ましくは-C(CHである。mは、それぞれ0又は1の整数を示し、好ましくは0である。
【0027】
及びRは、それぞれ炭素数1~3の置換若しくは無置換のアルキル基、又は炭素数1~3のアルコキシ基を示し;好ましくはメチル基又はメトキシ基である。o及びpは、それぞれ0~3の整数を示し、好ましくは0又は1である。
【0028】
式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(pBPADA)が含まれる。
【0029】
芳香族ジアミンは、式(2)で表される芳香族ジアミンであることが好ましい。
【化6】
【0030】
式(2)中のZ、R、R、n、q及びrは、式(1)中のY、m、R、R、o及びpとそれぞれ同義である。
【0031】
式(2)で表される芳香族ジアミンの例には、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンが含まれる。
【0032】
モノマー(A)は、脂肪族モノマーをさらに含んでもよい。それにより、得られるポリイミドに適度な柔軟性を付与しうるため、Tgを適度に低くしやすく、伸び等も高めやすい。脂肪族モノマーは、芳香環を有する脂肪族モノマーであっても、芳香環を有さない脂肪族モノマーであってもよいが、Tgを適度に低くしやすい観点では、好ましくは芳香環を有さない脂肪族モノマーである。
【0033】
芳香環を有さない脂肪族モノマーは、式(3)で表される脂肪族ジアミンであることが好ましい。
【化7】
【0034】
式(3)中、Rは、C、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖を有する脂肪族鎖、好ましくは一以上のCを含む主鎖を有する脂肪族鎖を示す。主鎖を構成する原子数の合計は、好ましくは5~500、より好ましくは10~500、さらに好ましくは21~300、より更に好ましくは50~300である。Rにおける主鎖とは、分子末端の2つのアミノ基を連結する脂肪族鎖のうち、側鎖を構成する原子以外の原子からなる鎖である。
【0035】
脂肪族鎖を構成するC、N、Oのいずれか一以上の原子からなる主鎖の例には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のポリアルキレンポリアミンに由来する構造を有する主鎖;アルキレン基を含む主鎖;ポリアルキレングリコール構造を有する主鎖;アルキルエーテル構造を有する主鎖;ポリアルキレンカーボネート構造を有する主鎖;アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む主鎖が含まれ、好ましくはアルキレン基を含む主鎖、アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む主鎖である。
【0036】
アルキレン基を含む主鎖における、アルキレン部分の炭素数は、4~12であることが好ましい。
【0037】
アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む主鎖における、ポリアルキレンオキシ基とは、アルキレンオキシを繰り返し単位として含む2価の連結基であり、エチレンオキシユニットを繰り返し単位とする「-(CHCHO)-」や、プロピレンオキシユニットを繰り返し単位とする「-(CH-CH(-CH)O)-」(nとmは繰り返し数)等が例示できる。後述する脂肪族C-O結合の比率を一定以下とする観点では、ポリアルキレンオキシ基におけるアルキレンオキシユニットの繰り返し数は、好ましくは2~3である。
【0038】
アルキレンオキシ基のアルキレン部分及びポリアルキレンオキシ基を構成するアルキレンオキシユニットのアルキレン部分の炭素数は、2~10であることが好ましい。アルキレンオキシ基を構成するアルキレン基の例には、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基が含まれる。
【0039】
の主鎖において、アルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基と、末端アミノ基とを連結する基は、特に制限されず、アルキレン基、アリーレン基、アルキレンカルボニルオキシ基、アリーレンカルボニルオキシ基であってよく、末端アミノ基の反応性を高める観点からは、アルキレン基が好ましい。
【0040】
で表される脂肪族鎖は、C、N、H、Oのいずれか一以上の原子からなる側鎖をさらに有してもよい。側鎖とは、主鎖を構成する原子に連結する1価の基である。側鎖を構成する原子数の合計は10以下であることが好ましい。そのような側鎖の例には、メチル基等のアルキル基が含まれる。
【0041】
このように、式(3)で表される脂肪族ジアミンは、適度な長さの脂肪族鎖を含むため、得られるポリイミドは柔軟性を有し、Tgが適度に低くなりやすい。中でも、後述するように、メチンC-H結合の含有比率を一定以下とする観点では、Rで表される脂肪鎖は、側鎖を有さない脂肪環であることが好ましい。
【0042】
即ち、式(3)で表される脂肪族ジアミンは、炭素数4~12の直鎖状のアルキレン基を有するアルキレンジアミン(直鎖状のアルキレンジアミン)、又は直鎖状のアルキレンオキシ基又はポリアルキレンオキシ基を含む炭素数4~15のアルキレンオキシジアミン(直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシジアミン)であることが好ましい。直鎖状アルキレンジアミンの例には、1,6-ジアミノヘキサン、1,7-ジアミノヘプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカン等が含まれる。直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシジアミンの例には、1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン、4,9-ジオキサン-1,12-ドデカンジアミン、1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデカン等が含まれる。なお、本明細書では、直鎖状のアルキレン、直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシは、分岐構造を有さない(側鎖アルキル基を有さない)直鎖状のアルキレン、直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシを意味する。直鎖状の(ポリ)アルキレンオキシジアミンの炭素数は、より好ましくは6~12、さらに好ましくは6~10である。
【0043】
芳香環を有さない脂肪族モノマーの含有量は、モノマー全量に対して15質量%以下であることが好ましい。芳香環を有さない脂肪族モノマーの含有量が上記範囲であると、ポリアミド酸の重縮合ユニットにおける芳香環の割合が少なくなりすぎないため、ポリイミドの耐熱性(Td5)を高めやすいからである。
【0044】
Tgを適度に低くする観点では、芳香環を有さない脂肪族モノマーが適量含まれることが好ましい。例えば、芳香環を有さない脂肪族モノマー、好ましくは式(3)で表される脂肪族ジアミンの含有量は、モノマー全量に対して15~45モル%であってもよい。式(3)で表される脂肪族ジアミンの含有量が上記範囲内であると、得られるポリイミドのTgが適度に低くなりやすいため、例えばポリアミド酸ワニスの塗膜の乾燥温度を低くすることができる。
【0045】
モノマー(A)は、上記以外にも、例えば1,4-ジアミノメチルシクロヘキサン(1,4-BAC)等の脂環式ジアミンを含んでもよい。
【0046】
ポリアミド酸を構成するテトラカルボン酸二無水物及びジアミンからなるモノマーのうち、モノマー(A)の含有量は、モノマー全量に対して、50~100モル%であり;好ましくは60~100モル%であり、より好ましくは80~100モル%である。
【0047】
(モノマー(B))
モノマー(B)は、モノマー(A)以外のモノマー、即ち、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合のいずれも有しないモノマーである。モノマー(B)は、芳香環を有するモノマー(芳香族モノマー)を含むことが好ましい。そのような芳香族モノマーは、芳香環に由来する高い剛直性を有するため、得られるポリイミドは、良好な耐熱性(Td5)を有し得る。
【0048】
モノマー(B)としての芳香族モノマーは、芳香族テトラカルボン酸二無水物であってもよいし、芳香族ジアミンであってもよい。
【0049】
芳香族テトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、ヘキサフルオロイソプロピリデン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、及びフルオレン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる一以上の芳香族テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。これらの芳香族テトラカルボン酸二無水物は、適度な剛直性を有するため、得られるポリイミドフィルムの耐熱性(Td5)を高めやすい。
【0050】
ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,1’,2’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,2’,3-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物が含まれる。
【0051】
ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス無水フタル酸、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、3,4’-オキシジフタル酸無水物、及び3,3'-オキシジフタル酸無水物が含まれ、入手性の観点では、好ましくは4,4’-オキシジフタル酸無水物である。
【0052】
ヘキサフルオロイソプロピリデン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)、及び2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物が含まれる。
【0053】
フルオレン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物の例には、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン二酸無水物(BPAF)等が含まれる。
【0054】
中でも、熱分解しやすい結合を有さず、耐熱性をより高めやすい観点では、ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物、及びヘキサフルオロイソプロピリデン骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物がより好ましく;3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸ニ無水物(BPDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、及び4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)がさらに好ましい。
【0055】
芳香族ジアミンは、ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミンを含むことが好ましい。得られるポリイミドフィルムの耐熱性及び柔軟性をよりバランス高めうるからである。
【0056】
ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミンの例には、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)-2-メチルベンゼン、1,3-ビス(3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ)-4-メチルベンゼン、1,3-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)-2-エチルベンゼン、1,3-ビス(3-(2-アミノフェノキシ)フェノキシ)-5-sec-ブチルベンゼン、1,3-ビス(4-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)-2,5-ジメチルベンゼン、1,3-ビス(4-(2-アミノ-6-メチルフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-(2-アミノ-6-エチルフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-(3-アミノフェノキシ)-4-メチルフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(2-(4-アミノフェノキシ)-4-tert-ブチルフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)-2,5-ジ-tert-ブチルベンゼン、1,4-ビス(3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ)-2,3-ジメチルベンゼン、1,4-ビス(3-(2-アミノ-3-プロピルフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、1,2-ビス(3-(3-アミノフェノキシ)フェノキシ)-4-メチルベンゼン、1,2-ビス(3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ)-3-n-ブチルベンゼン、1,2-ビス(3-(2-アミノ-3-プロピルフェノキシ)フェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェニル)-1,4-ジイソプロピルベンゼンが含まれる。
【0057】
中でも、ジフェニルエーテル骨格を有する芳香族ジアミンは、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、からなる群より選ばれる一つ以上を含むことが好ましい。耐熱性と柔軟性のバランスの良好なポリイミドが得られるからである。
【0058】
モノマー(B)の含有量は、モノマー全量に対して0~50モル%であり、好ましくは0~40モル%であり、より好ましくは0~20モル%である。モノマー(B)の含有量が上記範囲であると、得られるポリイミドの耐熱性を一層高めやすい。
【0059】
(重縮合ユニット)
ポリイミドフィルムの加熱後の溶解性は、上記の通り、ポリイミドを構成する各種結合(特にC-H結合や脂肪族C-O結合)の熱による開裂のし易さに依存すること;具体的には、熱により開裂しやすい結合を多く含むものほど、加熱後の溶解性が低いことが見出された。
【0060】
結合の熱による開裂は、結合エネルギーが小さいものほど生じやすい。例えば、ポリイミドを構成するモノマーには、アルキレン鎖やエーテル結合を有するジアミンやテトラカルボン酸二無水物が用いられるが、メチルC-H結合(410kJ/mol)>メチレンC-H結合(372kJ/mol)>メチンC-H結合(356kJ/mol)>脂肪族C-O結合(340kJ/mol)の順に結合エネルギーが高い。即ち、結合エネルギーが低いメチレンC-H結合、メチンC-H結合及び脂肪族C-O結合の含有比率が少ないポリイミドほど熱劣化しにくく、加熱後の溶解性は高くなる。
【0061】
そのようなポリイミドを付与するポリアミド酸は、当該ポリアミド酸を構成する1つの重縮合ユニット当たり、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合及び芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~65%、メチンC-H結合の数が0~2%、脂肪族炭素とのエーテル結合(脂肪族C-O結合)の数が0~15%である。なお、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数とは、メチルC-H結合、メチレンC-H結合、メチンC-H結合、及び脂肪族C-O結合の総数を意味する。
【0062】
また、同様の観点では、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合及び芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、メチルC-H結合の数が35~100%、メチレンC-H結合の数が0~55%、メチンC-H結合の数が0~1%、及び、脂肪族炭素とのエーテル結合の数が0~10%であることが好ましい。
【0063】
或いは、ポリイミドのTgを適度に低くする観点では、重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合の総数に対する、脂肪族C-O結合の含有比率は、5~15%であることが好ましい。
【0064】
ポリアミド酸を構成する各種結合の含有比率は、以下の手順で測定することができる。
1)ポリアミド酸を構成する結合の種類及び量を、2次元NMRや13C-NMRの一種であるDEPT法(Distorsionless Enhancement by Polarization Transfer法)で測定する。2次元NMRやDEPT法での測定は、例えばポリアミド酸をアルカリで加水分解し、分離した成分に対して行うことが好ましい。
2)ポリアミド酸の重縮合ユニット当たりにおいて、芳香環を構成しないC原子とH原子との結合(メチルC-H結合、メチレンC-H結合、メチンC-H結合)、及び、芳香環を構成しないC原子とO原子との結合(脂肪族C-O結合)の総数に対する、各種結合数の含有比率を求める。
【0065】
各種結合の含有比率は、ポリアミド酸を構成するジアミンやテトラカルボン酸二無水物の種類や含有比率によって調整され得る。例えば、分岐状のアルキレン基や脂肪族C-O(エーテル結合)を比較的多く有するジアミンやテトラカルボン酸二無水物(例えば、ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン社製D230やD2000)、ポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製RT1000)等)の含有量を少なくすることで、メチンC-H結合や脂肪族C-O結合の含有比率を少なくすることができる。また、直鎖状のアルキレン基を比較的多く有するジアミンやテトラカルボン酸二無水物(例えばアルキレンジアミンやBSPA8)の含有量を少なくすることで、メチレンC-H結合の含有比率を少なくすることができる。
【0066】
従って、各種結合の含有比率を上記範囲に調整し、得られるポリイミドフィルムの加熱後の溶解性を高めやすくする観点では、モノマー(A)は、直鎖状のアルキレン基や分岐状のアルキレン基、脂肪族C-O結合の含有比率が少ない、式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物と、式(2)で表される芳香族ジアミンとを含むことが好ましい。式(1)のR、R、o及びpと、式(2)のR、R、q及びrとは、それぞれ同一であってもよいし、異なってもよい。
【0067】
具体的には、モノマー(A)としての式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量は、テトラカルボン酸二無水物の全量に対して、例えば50モル%以上、好ましくは80~100モル%としうる。式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量が一定以上であると、得られるポリイミドの耐熱性(Td5)やポリイミドフィルムの溶解性(初期、加熱後)をさらに高めやすい。
【0068】
モノマー(A)としての式(2)で表される芳香族ジアミンの含有量は、ジアミンの全量に対して、例えば20モル%以上、好ましくは60~100モル%としうる。式(2)で表される芳香族ジアミンの含有量が一定以上であると、得られるポリイミドの耐熱性(Td5)やポリイミドフィルムの溶解性(初期)をさらに高めやすいだけでなく、伸びもさらに高めやすい。
【0069】
また、耐熱性(Td5)を一層高める観点では、モノマー(B)としての芳香族テトラカルボン酸二無水物をさらに含むことが好ましい。当該芳香族テトラカルボン酸二無水物の含有量は、テトラカルボン酸二無水物の全量に対して、例えば50モル%以下、好ましくは0~20モル%としうる。
【0070】
また、Tgを適度に低くする観点では、モノマー(A)としての式(3)で表される脂肪族ジアミンをさらに含むことが好ましい。式(3)で表される脂肪族ジアミンの含有量は、ジアミン全量に対して、例えば80モル%以下、好ましくは0~40モル%としうる。
【0071】
ポリアミド酸の組成は、上記の通り、アルカリで加水分解し、分離した成分に対して2次元NMRやDEPT法により分析することにより確認することができる。
【0072】
ポリアミド酸の分子末端は、酸無水物基とアミノ基のいずれであってもよい。ポリイミドフィルムの溶解性を高める観点では、分子末端が酸無水物基である割合のほうが、分子末端がアミノ基である割合よりも多いことが好ましい。分子末端が酸無水物基である割合を多くするためには、反応させるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)を、ジアミン成分(bモル)よりも多くすればよい。具体的には、ポリアミド酸を構成するジアミン(bモル)とテトラカルボン酸二無水物(aモル)のモル比は、特に制限されないが、b/a=0.90~0.999であることが好ましく、0.95~0.995であることがより好ましく、0.97~0.995であることがさらに好ましい。b/aが0.999以下であると、得られるポリイミドの分子末端を酸無水物基としやすいため、ポリイミドフィルムの溶解性が得られやすい。b/aは、反応させるテトラカルボン酸二無水物成分(aモル)とジアミン成分(bモル)の仕込み比として特定することができる。
【0073】
ポリアミド酸の固有粘度ηは、成膜しやすくする観点から、0.3~2.0dL/gであることが好ましく、0.5~1.5dL/gであることがより好ましい。ポリアミド酸の固有粘度(η)は、ポリアミド酸を、濃度が0.5g/dLとなるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させたときの25℃でウベローデ粘度管にて3回測定した平均値である。
【0074】
ポリアミド酸の固有粘度(η)は、ポリアミド酸を構成するジアミン(bモル)とテトラカルボン酸二無水物(aモル)のモル比(b/a)によって調整することができる。モル比(b/a)を上記範囲にすることで、ηを適度に小さくしたまま適度な固形分濃度にできるため、厚みの大きいポリイミド層を形成しやすい。
【0075】
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムは、高い耐熱性(Td5)と、溶解性(初期、加熱後)を有し、好ましくはさらに高い機械物性(伸び率)を有する。
【0076】
1-2.溶媒
溶媒は、ポリアミド酸の調製に使用される溶媒であってよく、前述のジアミン成分及びテトラカルボン酸二無水物成分を溶解可能であれば特に制限されない。例えば、非プロトン性極性溶媒やアルコール系溶媒を用いることができる。
【0077】
非プロトン性極性溶媒の例には、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルフォスフォラアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、ガンマブチロラクトン、イプシロンカプロラクトンや;エーテル系化合物である、2-メトキシエタノール、2-エトキシエタノール、2-(メトキシメトキシ)エトキシエタノール、2-イソプロポキシエタノール、2-ブトキシエタノール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコール、1-メトキシ-2-プロパノール、1-エトキシ-2-プロパノール、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等が含まれる。
【0078】
アルコール系溶媒の例には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブチルアルコール、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-ブテン-1,4-ジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、ジアセトンアルコール等が含まれる。
【0079】
これらの溶媒は、1種のみ含んでいてもよく、2種以上を組み合わせてもよい。中でも、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、ガンマブチロラクトン又はこれらのうち二以上の混合溶媒が好ましい。
【0080】
ポリアミド酸ワニスにおける樹脂固形分の濃度は、塗工性を高める観点等から、5~50質量%であることが好ましく、10~30質量%であることがより好ましい。
【0081】
1-3.ポリアミド酸ワニスの物性
上記の通り、本開示のポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルム(ポリイミド組成物)は、高い耐熱性と溶解性(初期、加熱後)を有し、好ましくはさらに良好な機械物性(伸び率)を有する。イミド化条件は、大気雰囲気下で50~250℃の温度領域における昇温速度を、好ましくは0.25~30℃/分、より好ましくは1~20℃/分、さらに好ましくは2~10℃/分とし、加熱は、50~250℃の温度領域で30分間行う。具体的には、実施例におけるイミド化条件と同様としうる。
【0082】
即ち、上記条件でイミド化して得られるポリイミドフィルムは、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0083】
(1)熱物性
(ガラス転移温度(Tg))
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムのガラス転移温度は、特に制限されないが、例えば80℃以上260℃未満、好ましくは110~190℃でありうる。ポリイミドフィルムのガラス転移温度が適度に低いと、溶媒を除去するための温度(乾燥温度)を低くすることができるため、ハンドリング性に優れる。
【0084】
ポリイミドフィルムのガラス転移温度は、以下の方法で測定することができる。ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムを幅5mm、長さ22mmの大きさに裁断する。得られたサンプルのガラス転移温度(Tg)を、熱分析装置(例えば島津製作所社製TMA-60)により測定する。具体的には、大気雰囲気下、昇温速度5℃/分、引張りモード(100mN)の条件において測定を行ってTMA曲線を求め、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿することにより、ガラス転移温度(Tg)の値を求めることができる。
【0085】
ポリイミドフィルムのTgは、ポリアミド酸の組成によって調整することができる。例えば、モノマー(A)として脂肪族C-O結合を適度に有する脂肪族モノマー(例えば式(3)で表される脂肪族ジアミン)の含有量を多くすると、ポリイミドフィルムのTgが適度に低くなりやすい。
【0086】
(5%重量減少温度(Td5))
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムの大気雰囲気下での5%重量減少温度(Td5)は、上記と同様の観点から、400℃以上であることが好ましく、420℃以上であることがより好ましく、450℃以上であることがさらに好ましい。ポリイミドのTd5の上限は、特に制限されないが、例えば600℃でありうる。
【0087】
ポリイミドフィルムのTd5は、ポリアミド酸の組成によって調整することができる。例えば、モノマー(A)としての芳香族モノマー(例えば式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物、式(2)で表される芳香族ジアミン)や、モノマー(B)としての芳香族モノマー(例えば、ビフェニル骨格を有する芳香族テトラカルボン酸二無水物)の含有量を多くすると、ポリイミドフィルムのTd5が高くなりやすい。
【0088】
(2)溶解性
(2-1)初期
ポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムは、例えば接着剤として用いる際に、溶媒に溶解させて剥離しやすくする観点では、溶媒に対する溶解性が高いことが好ましい。具体的には、ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られるポリイミドフィルムを、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で5分間浸漬させた後、ろ紙でろ過して測定される下記式で表される溶解率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
溶解率(%)=[1-[(ろ過・乾燥後のろ紙の重量)-(使用前のろ紙の重量)]/(浸漬前のフィルムの重量)]×100
【0089】
溶解性は、以下の手順で測定することができる。
1)前述のポリアミド酸ワニスをイミド化して得られるポリイミドフィルムを、厚さ20μm、2.0cm×2.0cmの大きさに切断してサンプルとし、予めその重量(浸漬前のフィルムの重量)を測定する。また、使用前のろ紙の重量も予め測定しておく。
2)次いで、当該サンプルを、濃度1質量%となるようにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加えてサンプル液とし、得られたサンプル液を、80℃に加熱したオーブンの中に5分間静置する。その後、サンプル液をオーブンから取り出し、ろ紙でろ過した後、100℃で減圧乾燥させる。そして、ろ過・乾燥後のろ紙の重量を測定する。
3)上記1)と2)の測定値を上記式に当てはめて、溶解率を算出する。これらの操作(上記1)~3)の操作)をn=2で行い、その平均値を溶解率(%)とする。
なお、サンプルのサイズ(厚さなど)は、上記記載のサイズが好ましいが、多少異なるサイズとなることを妨げない。
【0090】
(2-2)加熱後
ガラス基材上に、ポリアミド酸ワニスをスピンコートで塗工し、上記(2-1)と同様の条件でイミド化して得られるポリイミドガラス積層体をサンプルとする。これを、窒素雰囲気下において350℃で20分間加熱処理後、N-メチル-2-ピロリドンに80℃で10分間浸漬させたとき、当該ポリイミド層は完全に溶解することが好ましい。完全に溶解するとは、目視においてほぼ全て溶解することを意味する。そのようなポリイミドを付与するポリアミド酸ワニスは、例えば高温下に曝された後、剥離除去することが求められるような用途に好適である。
【0091】
加熱後の溶解性は、以下の手順で測定することができる。
1)前述のポリアミド酸ワニスを、イミド化後のポリイミド層の厚みが10μmになるようにガラス基材上にスピンコートで塗工し、イミド化して得られるポリイミドガラス積層体をサンプルとする。ガラス基材は、例えば松浪硝子工業社製の大型スライドガラス(S9111)を使用することができる。
2)次いで、当該サンプルを窒素雰囲気下、350℃に加熱したオーブンの中に20分間静置する。その後、加熱した当該サンプルをオーブンから取り出して、加熱後サンプルとする。
3)当該加熱後サンプルをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に加えて、80℃に加熱したオーブンの中に10分間静置する。静置後のサンプルを目視観察し、金属棒等で表面をなぞったときにポリイミド層が残っていないかどうか判断する。
【0092】
ポリイミドフィルムの溶解性(初期)及び加熱後の溶解性は、ポリアミド酸の組成やジアミン/酸二無水物の比率によって調整することができる。例えば、ポリアミド酸を構成するモノマーとして、モノマー(A)(特に式(1)で表される芳香族テトラカルボン酸二無水物、式(2)で表される芳香族ジアミン)の含有量を多くすると、ポリイミドフィルムの溶解性が高くなりやすい。また、ジアミン/酸二無水物の比率を小さくすると、得られるポリイミドフィルムの溶解性が高くなりやすい。
【0093】
また、ポリアミド酸を構成するモノマーとして、芳香環を有さない脂肪族モノマー(例えば式(3)で表される脂肪族ジアミン)の含有量を多くすると、ポリイミドの加熱後の溶解性が高くなりやすい。また、ポリアミド酸を構成する重縮合ユニット当たりの、結合エネルギーが低い結合(メチレンC-H結合、メチンC-H結合、脂肪族C-O結合)の含有比率を少なくすると、ポリイミドフィルムの加熱後の溶解性が高くなりやすい。
【0094】
(3)機械物性(伸び)
ポリアミド酸ワニスをイミド化させて得られる、厚み20μmのポリイミドフィルムの23℃における伸び率は、50%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましい。
【0095】
ポリイミドフィルムの伸び率は、以下の方法で測定することができる。図1は、引張破断試験で用いる試験片を示す模式図である。
1)まず、ポリイミドフィルムを図1に示されるようなダンベル形状に打ち抜いて、A:50mm、B:10mm、C:20mm、D:5mmのサンプルフィルムとする。
2)次いで、サンプルフィルムを引張試験装置(例えば島津製作所社製EZ-S)にセットし、23℃において、速度5mm/分、チャック間距離30mmで、長さ方向(Aの方向)に引っ張る。そして、(破断時のサンプルフィルムの長さ-サンプルフィルムの元の長さ)/(サンプルフィルムの元の長さ)×100(%)を「引張破断時の伸び率」として求めることができる。
【0096】
ポリイミドフィルムの伸び率は、ポリイミドの組成によって調整することができる。例えば、モノマー(A)として式(2)で表される芳香族ジアミンや、芳香環を有さない脂肪族モノマー(例えば式(3)で表される脂肪族ジアミン)の含有量を多くすると、ポリイミドフィルムの伸び率が高くなりやすい。
【0097】
2.ポリイミド組成物
本開示のポリイミド組成物は、上記ポリアミド酸ワニスを加熱して、イミド化させて得ることができる。
【0098】
ポリアミド酸がイミド化する温度は、例えば150~250℃でありうる。そのため、塗膜の温度を急激に250℃以上まで上昇させると、塗膜から溶媒が揮発する前に、塗膜表面のポリアミド酸がイミド化する。その結果、塗膜内に残った溶媒が気泡を生じさせたり、塗膜表面に凹凸を生じたさせたりする。したがって、50~250℃の温度領域では、塗膜の温度を徐々に上昇させることが好ましい。具体的には、50~250℃の温度領域における昇温速度を0.25~30℃/分とすることが好ましく、1~20℃/分とすることがより好ましく、2~10℃/分とすることがさらに好ましい。
【0099】
本開示のポリイミド組成物の形態は、特に限定されず、フィルムであってもよいし、ペレット又は粉体であってもよい。
【0100】
ポリイミド組成物からなるフィルム(ポリイミドフィルム)は、上記熱物性(Tg、Td5)、機械物性(伸び)、及び溶解性(初期、加熱後)を満たすことが好ましい。なお、これらの物性を測定する時のポリイミドフィルムの厚みは、特に制限されず、実際に作製したポリイミドフィルム(即ち、使用時の厚さとしたときのポリイミドフィルム)であってよい。
【0101】
3.ポリイミド組成物の用途
本開示のポリイミド組成物は、上記の通り、高い耐熱性を有し、且つ加熱後においても優れた溶解性を有することから、それらの特性が要求される用途;例えば電子回路基板部材、半導体デバイス、サージ部品等における接着剤や封止材、絶縁材料、基板材料又は保護材料としうる。
【0102】
即ち、基材と、その上に配置された、本開示のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミド組成物からなる樹脂層とを有する積層体としうる。基材を構成する材料は、用途にもよるが、シリコン、セラミックス、金属又は樹脂でありうる。金属の例には、シリコン、銅、アルミ、SUS、鉄、マグネシウム、ニッケル、及びアルミナ等が含まれる。樹脂の例には、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリイミド、PET樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド等が含まれる。
また、本開示のポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸の固有粘度ηを適度な範囲に調整しやすいため、比較的厚みの大きいポリイミド組成物からなる樹脂層を形成しうる。ポリイミド組成物からなる樹脂層の厚みは、用途にもよるが、例えば5μm以上、好ましくは8μm以上、より好ましくは10~200μmとしうる。
【0103】
当該積層体は、例えば、基材上に、本開示のポリアミド酸ワニスを塗布した後、加熱してイミド化させて、ポリイミド組成物からなる樹脂層を形成するステップを経て製造されうる。
【0104】
電子回路基板部材について
本開示のポリイミド組成物は、回路基板;特にフレキシブル回路基板における絶縁性基板又は接着材としうる。例えば、フレキシブル回路基板は、金属箔(基材)と、その上に配置された、本開示のポリイミド組成物を含む絶縁層とを有しうる。また、フレキシブル回路基板は、絶縁樹脂フィルム(基材)と、本開示のポリイミド組成物からなる接着層と、金属箔とを有しうる。
【0105】
半導体部材について
本開示のポリイミド組成物は、半導体チップ同士の接着や、半導体チップと基板との接着を行う接着材、半導体チップの回路を保護する保護材、半導体チップを埋め込む埋め込み材(封止材)としうる。
【0106】
即ち、本開示の半導体部材は、半導体チップ(基材)と、その少なくとも一方の面に配置された、本開示のポリイミド組成物からなる樹脂層とを有する。半導体チップは、ダイオード、トランジスタ及び集積回路(IC)等が含まれ、パワー素子等も含まれる。ポリイミド組成物からなる樹脂層は、半導体チップの端子が形成される面(端子形成面)に配置されても、端子形成面とは異なる面に配置されてもよい。
【0107】
サージ部品用接着剤について
本開示のポリイミド組成物は、家電、パソコン、自動車等の輸送機器、携帯機器、電源、サーバー、電話等へ影響を及ぼす異常電流・電圧から保護するためのサージ部品(サージアブソーバー)用接着剤、又はサージ部品用封止材としうる。本開示のポリイミド組成物を接着剤又は封止材とすることで、サージ部品を低温で接着もしくは封止が可能であり、かつ耐電圧及び耐熱性も十分である。
【0108】
これらの中でも、本開示のポリイミド組成物は、電子回路基板部材、半導体部材、サージ部品等における接着剤;特に半導体部材用接着剤、フレキシブルプリント基板用接着剤、カバーレイフィルム用接着剤、又はボンディングシート用接着剤として用いられることが好ましい。
【0109】
即ち、電子回路基板や半導体部材等の電子デバイスは、例えば基材上に、本開示のポリアミド酸組成物を付与した後、イミド化してポリイミド組成物の樹脂層(接着剤)を形成する工程、樹脂層上に電子部品を配置して接着させる工程、及び樹脂層を溶媒に溶解させて、電子部品を基材から剥離する工程を経て製造されうる。
【0110】
このように、電子回路基板や半導体部材等の製造工程では、基板上に接着剤を付与した後、電子部品を接着した状態で電極成膜や再配線工程等の加熱工程に曝され、その後、糊残りなく、接着剤ごと基板から剥離されることがある。これに対し、本開示のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミド組成物は、加熱工程に耐える耐熱性を有し、且つ加熱工程を経た後においても溶媒に良好に溶解させることができるため、糊残りなく剥離可能となる。そのため、本開示のポリイミド組成物は、電子回路基板や半導体部材等の接着剤として好適であり、特に仮固定用接着剤(一度接着した後剥離して用いられる接着剤)として好適である。
【0111】
パターン形成用レジスト材料について
本開示のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミド組成物は、パターン形成用レジスト材料としても用いられる。
即ち、本開示のポリイミド組成物の樹脂層の上に、フォトレジスト材料を付与し、フォトマスクを用いてフォトレジスト材料のパターンを形成する。その後、上記樹脂層のフォトマスク材料で覆われていない部分をプラズマ等でエッチングすることで、上記樹脂層のパターン(ポリイミド組成物のパターン)の形成が可能になる。
得られたポリイミド組成物のパターンは、耐熱性に優れているため、化学蒸着等の高温を必要とする手法で無機物の層を付与することができる。また、ポリイミド組成物のパターンは、溶媒で洗浄除去できるため、溶解しない無機物のパターンを残したままポリイミド組成物を除去することで、無機物のパターンの形成が可能になる。
即ち、本開示のポリイミド組成物のパターンは、加熱工程に耐える耐熱性を有し、且つ加熱工程を経た後においても溶媒に良好に溶解しうるため、パターン形成用レジスト材料としても好適である。
【実施例0112】
以下において、実施例を参照して本開示を説明する。実施例によって、本開示の範囲は限定して解釈されない。
【0113】
1.材料の準備
1-1.モノマー(A)
(テトラカルボン酸二無水物)
pBPADA:4,4’-(4,4’-イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)
BSPA8:5,5’-(オクタン-1,8-ジイル)ビス(イソベンゾフラン-1,3-ジオン)
【0114】
(ジアミン)
(1)芳香族ジアミン
p-BAPP:2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)プロパン
【0115】
(2)脂肪族ジアミン
HMDA:1,6-ジアミノヘキサン
DoDA:1,12-ジアミノドデカン
ジオキサオクタン:1,8-ジアミノ-3,6-ジオキサオクタン
ジオキサドデカン:4,9-ジオキサン-1,12-ドデカンジアミン
トリオキサトリデカン:1,13-ジアミノ-4,7,10-トリオキサトリデカン
D230:ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン社製、Mw=230、下記式(4)のX=~2.3)
D2000:ポリオキシプロピレンジアミン(三井化学ファイン社製、Mw=2000、下記式(4)のX=~33)
【化8】
RT1000:ポリエーテルアミン(HUNTSMAN社製、下記式参照、Mw=1015)
【化9】
エラスマー1000P:ポリエーテルジアミン(イハラケミカル社製、アミン価80~90、下記式参照、Mw=1268)
【化10】
【0116】
(3)脂環式ジアミン
1,4-BAC:1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン
【0117】
1-2.モノマー(B)
(テトラカルボン酸二無水物)
BPDA:3,3‘,4,4‘-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物
【0118】
(ジアミン)
APB-N:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(三井化学社製)
【0119】
1-3.溶媒
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMI:1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン
KJCMPA-100(登録商標)(KJケミカルズ社製):3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド
【0120】
2.ワニスの調製及び評価
(実施例1~21、比較例1~6、8~11、13及び14)
ポリアミド酸ワニスの調製
表1又は2に示される溶媒中に、表1又は2に示される種類及び量の酸二無水物とジアミンを配合した。得られた混合物を、乾燥窒素ガスを導入できるフラスコ内で、65℃で5時間以上攪拌し、樹脂固形分が20~25質量%であるポリアミド酸ワニスを得た。なお、比較例13では樹脂固形分が5質量%であるポリアミド酸ワニスを得た。
【0121】
フィルムの作製
得られたポリアミド酸ワニスを、ガラス板上に10mm/秒の速度で塗工した後、50℃から表1又は表2に記載の成膜温度(180~250℃)まで5℃/分で昇温し、当該所定の温度で30分間加熱して、溶媒を除去しつつ、イミド化させた。得られたポリイミドフィルムを、ガラス板から剥離して、目標厚み20μmのポリイミドフィルム(ポリイミド組成物)を得た。
なお、成膜温度は、ポリイミドのTgが180℃未満のものは180℃に、ポリイミドのTgが180℃以上250℃以下のものは250℃に、それぞれ設定した。
【0122】
(比較例7、12、15及び16)
ポリイミドワニスの調製
NMP(N-メチルピロリドン)とPQ(1,2,4-トリメチルベンゼン)をNMP:PQ=8:2の重量比で調製した溶媒中に、表1又は2に示される酸二無水物とジアミンの種類及び量を配合し、得られた混合物を、乾燥窒素ガスを導入できるディーンスタークとコンデンサーを備えたフラスコ内で、65℃で5時間以上攪拌し、ポリアミド酸ワニスを得た。続けて、溶液温度を上げて、内温190℃で8時間以上撹拌させた。この時、留出した縮合水、及び、一部揮発したNMPやPQをディーンスタークで捕集した。反応終了後、NMPを追加し、濃度を10~20質量%に調整し、濃黄色の粘稠なポリイミドワニスを得た。
【0123】
フィルムの作製
ポリアミド酸ワニスに代えて、上記調製したポリイミドワニスを用いた以外は実施例1と同様にして、目標厚み20μmのポリイミドフィルム(ポリイミド組成物)を得た。
【0124】
実施例1~21のモノマー組成を表1に示し、比較例1~16のモノマー組成を表2に示す。
【0125】
なお、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物のモル比は、ジアミンとテトラカルボン酸二無水物の仕込み量(モル)から算出した。また、1つの重縮合ユニット当たりの結合の含有比率は、仕込んだモノマーの種類及び組成比から算出した。また、表1及び2中の脂肪族モノマーは、芳香環を有さない脂肪族モノマーを意味する。
【0126】
【表1】
【0127】
【表2】
【0128】
(評価)
実施例1~21及び比較例1~16で調製したワニスの、(1)固有粘度、及び(2)ハンドリング性を、以下の方法で測定した。また、得られたポリイミドフィルムの、(3)熱物性(Tg、Td5)、(4)機械物性(伸び率)、及び(5)溶解性(初期、加熱後)を、以下の方法で評価した。
【0129】
(1)固有粘度
得られたワニスを、樹脂濃度が0.5g/dLとなるようにNMPで希釈した溶液の固有粘度ηを、JIS K7367-1:2002に準じて25℃でウベローデ粘度管(サイズ番号1)にて3回測定した平均値とした。
【0130】
(2)ハンドリング性
(白化耐性)
恒温恒湿室(室温:23~24℃、相対湿度58~60%)の中で、ガラス上に、2.5mLずつの上記作製したワニスを垂らし、所定の時間ごとに観察を行った。ワニスの周辺部からの白化が確認されるまでの時間(白化耐性)を求めた。
そして、白化が確認されるまでに要した時間を測定し、以下の基準に基づいて評価した。
〇:10分経過しても白化しない
×:白化するまでの時間が10分以下
【0131】
(3)熱物性
(ガラス転移温度(Tg))
得られたポリイミドフィルムを幅5mm、長さ22mmに裁断した。当該サンプルのガラス転移温度(Tg)を、島津製作所社製 熱分析装置(TMA-60)により測定した。具体的には、大気雰囲気下(空気ガス50mL/min)昇温速度5℃/分、引張りモード(100mN)の条件において測定を行ってTMA曲線を求め、ガラス転移に起因するTMA曲線の変曲点に対し、その前後の曲線を外挿することにより、ガラス転移温度(Tg)の値を求めた。
【0132】
(5%重量減少温度(Td5))
得られたポリイミドフィルムの5%重量減少温度(Td5)を、島津製作所社製 熱重量分析装置(TGA-60)を用いて測定した。具体的には、得られたポリイミドフィルム(目安量約5mg)を当該装置上で正確に秤り、走査温度を30~900℃に設定し、大気雰囲気下、空気ガスを50mL/minで流しながら、昇温速度10℃/分の条件で加熱して、試料の質量が5%減少した時の温度をTd5とした。
d5は、400℃以上であれば良好と判断した。
【0133】
(4)機械物性
(伸び率)
得られたポリイミドフィルムを、図1に示されるようなダンベル形状に打ち抜いて、A:50mm、B:10mm、C:20mm、D:5mmのサンプルフィルムとした。
得られたサンプルフィルムを引張試験装置EZ-S(島津製作所社製)にセットし、23℃において、速度5mm/分、チャック間距離30mmで、長さ方向(Aの方向)に引っ張った。そして、(破断時のサンプルフィルムの長さ-サンプルフィルムの元の長さ)/(サンプルフィルムの元の長さ)を「引張破断時の伸び率」とした。
伸び率は、50%以上であれば良好と判断した。
【0134】
(5)溶解性
(初期の溶解性)
1)得られたポリイミドフィルムを、2.0cm×2.0cmの大きさに切断してサンプルとし、予めその重量(浸漬前のフィルムの重量)を測定した。また、使用前のろ紙の重量も予め測定した。
2)次いで、当該サンプルを、N-メチル-2-ピロリドン中(当該サンプルが1質量%となる量、今回は5~7mL)に加えてサンプル液とし、得られたサンプル液を、80℃に加熱したオーブンの中に5分間静置した。その後、サンプル液をオーブンから取り出し、ろ紙(目の粗さ:5B)でろ過した後、100℃で減圧乾燥させた。そして、ろ過・乾燥後のろ紙の重量を測定した。
3)上記1)と2)の測定値を下記式に当てはめて溶解率を算出した。これらの操作(上記1)~3)の操作)をn=2で行い、その平均値を溶解率(%)とした。
溶解率(%)=[1-[(ろ過・乾燥後のろ紙の重量)-(使用前のろ紙の重量)]/(浸漬前のフィルムの重量)]×100
この操作をn=2で行い、それらの平均値を採用した。そして、以下の基準に基づいて評価した。
〇:溶解率が90%以上
×:溶解率が90%未満
【0135】
(加熱後の溶解性)
(A)350℃で20分間加熱した場合
1)前述のポリアミド酸ワニスを、ガラス基材(松浪硝子工業社製の大型スライドガラス S9111)上に、イミド化後のポリイミド層の厚みが10μmになるようにスピンコートで塗工した後、イミド化して得られるポリイミドガラス積層体をサンプルとした。イミド化条件は、ポリイミドフィルム作製時のイミド化条件と同様とした。
2)次いで、このサンプルを、窒素ガス雰囲気下、350℃に加熱したオーブンの中に20分間静置した。その後、加熱した当該サンプルをオーブンから取り出して、加熱後サンプルとした。
3)当該加熱後サンプルを、NMPに加えて、80℃に加熱したオーブンの中に10分間静置した。静置後のサンプルを目視観察し、金属棒(ステンレスSUS304製、先端のサイズ 長さ5mm×幅3mm)で表面をなぞったときに、ポリイミド層が残っていないかどうかを判断した。そして、以下の基準に基づいて、加熱後の溶解性を評価した。
◎:10分以内で完全に溶解(金属棒で表面を触った際に、ガラス基材に何も残っていない)
〇:10分以内で大部分は溶解するものの、一部は溶解せず基材上に残留(金属棒で表面を触った際にポリイミドが付着する)
×:10分以内には溶解せず、ガラス基材に固着(金属棒でガラス基材の表面を削り取らないと、ガラス基材上のポリイミドを除去できない)
【0136】
(B)350℃で60分間加熱した場合
上記2)において、窒素ガス雰囲気下、350℃に加熱したオーブンの中に60分間静置した以外は上記と同様の方法及び基準で、加熱後の溶解性を評価した。
【0137】
(C)総合評価
以下の基準に基づいて、総合評価を行った。
◎:350℃で20分間加熱した場合と、350℃で60分間加熱した場合の両方で◎
○:350℃で20分間加熱した場合と350℃で60分間加熱した場合の両方で○、又は、一方が◎で他方が○
×:350℃で20分間加熱した場合と350℃で60分間加熱した場合の少なくとも一方が×
【0138】
実施例1~21の評価結果を表3に示し、比較例1~16の評価結果を表4に示す。
【0139】
【表3】
【0140】
【表4】
【0141】
表3に示されるように、モノマー(A)を一定量以上含み、モノマー(B)としての脂肪族モノマーが一定量以下であり、結合エネルギーが低い結合(メチレンC-H結合、メチンC-H結合、脂肪族C-O結合)の含有比率が一定以下であり、且つジアミン/酸二無水物の比率が1未満である実施例1~21のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムは、400℃以上の高い耐熱性(Td5)を有しつつ、溶解性(初期、加熱後)が良好であることがわかる。また、これらのフィルムは、良好な伸びを示すこともわかる。
【0142】
これに対し、モノマー(A)を含まない比較例2及び13のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムは、少なくとも溶解性(初期、加熱後)が低いことがわかる。また、モノマー(A)の含有量が少ない比較例9のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムは、Td5も低めであることがわかる。
【0143】
また、結合エネルギーが低い結合(メチレンC-H結合、メチンC-H結合、脂肪族C-O結合)の数が多い比較例3~6、10及び11のポリアミド酸ワニスは、少なくとも加熱後の溶解性が低いことがわかる。
【0144】
また、モノマー(B)としての脂肪族モノマーの含有量(質量%)が15質量%を超える比較例8のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムは、少なくとも加熱後の溶解性が低く、Td5も低めであることがわかる。
【0145】
また、ジアミン/酸二無水物の比率が1を超える比較例1及び14のポリアミド酸ワニスから得られるポリイミドフィルムは、いずれも初期の溶解性が低いことがわかる。また、ポリイミドワニスから得られる比較例7、12、15及び16のポリイミドフィルムは、いずれも白化耐性が低く;比較例7及び12のポリイミドフィルムは、さらに溶解性(初期)が低いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本開示のポリアミド酸ワニスは、高い耐熱性を有し、加熱後においても高い溶解性を有するポリイミド組成物を付与しうる。そのため、得られるポリイミド組成物は、高い耐熱性と、加熱後においても高い溶解性が要求される各種分野;例えば、電子回路基板部材、半導体デバイス等の接着剤として好適である。
図1