(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099334
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】光学素子、光学素子の製造方法、及び、マスク群
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240718BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003199
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】三枝 良輔
(72)【発明者】
【氏名】川平 雄一
(72)【発明者】
【氏名】坂井 彰
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
【Fターム(参考)】
2H149AA01
2H149AB01
2H149AB26
2H149DA06
2H149DB06
2H149FA24Y
2H149FC09
2H249AA04
2H249AA14
2H249AA33
2H249AA53
2H249AA60
2H249AA64
(57)【要約】
【課題】 高い回折効率を有し、簡便に製造することができる光学素子、当該光学素子の製造方法、及び、当該光学素子の製造に用いられるマスク群を提供する。
【解決手段】 本発明の光学素子は、異方性分子を含む光学異方性層を備え、上記光学異方性層は、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第1の領域と、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域である第2の領域と、を備える。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性分子を含む光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、前記異方性分子が前記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第1の領域と、前記異方性分子が前記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域である第2の領域と、を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記光学異方性層は、前記第1の領域及び前記第2の領域に加えて、更に、前記異方性分子が前記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第3の領域を有し、
平面視において、前記光学異方性層の中心部から端部に向かって、前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域の順に配置されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記光学異方性層は、前記第1の領域及び前記第2の領域に加えて、更に、第3の領域~第Nの領域を有し、
前記第1の領域~前記第Nの領域は、平面視において、前記光学異方性層の中心部から端部に向かってこの順に配置され、
前記第1の領域~前記第Nの領域のうち第pの領域は、前記異方性分子が前記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域であり、
第(p+1)の領域は、前記異方性分子が前記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域であり、
Nは、4以上の整数であり、
pは、1以上、(N-1)以下の整数であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項4】
前記捩れ配向していない領域は、前記光学異方性層の表側の分子配向と裏側の分子配向との差が、0°以上、0.1°未満である領域であり、
前記捩れ配向している領域は、前記光学異方性層の表側の分子配向と裏側の分子配向との差が0.1°以上である領域であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項5】
前記第1の領域及び前記第2の領域は、環状に配置されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学素子は、パンチャラトナムベリー位相光学素子であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の光学素子。
【請求項7】
異方性分子を含む光学異方性層を備え、
前記光学異方性層は、消偏性を有する領域である第1の領域と、前記第1の領域よりも高い消偏性を有する領域である第2の領域と、を備えることを特徴とする光学素子。
【請求項8】
前記光学異方性層は、前記第1の領域及び前記第2の領域に加えて、更に、前記第2の領域よりも低い消偏性を有する第3の領域を有し、
平面視において、前記光学異方性層の中心部から端部に向かって、前記第1の領域、前記第2の領域及び前記第3の領域の順に配置されることを特徴とする請求項7に記載の光学素子。
【請求項9】
前記光学異方性層は、前記第1の領域及び前記第2の領域に加えて、更に、第3の領域~第Nの領域を有し、
前記第1の領域~前記第Nの領域は、平面視において、前記光学異方性層の中心部から端部に向かってこの順に配置され、
前記第1の領域~前記第Nの領域のうち第pの領域は、第1の消偏性を有する領域であり、
第(p+1)の領域は、前記第1の消偏性よりも高い第2の消偏性を有する領域であり、
N、は4以上の整数であり、
pは、1以上、(N-1)以下の整数であることを特徴とする請求項7に記載の光学素子。
【請求項10】
前記第1の領域及び前記第2の領域は、環状に配置されることを特徴とする請求項7に記載の光学素子。
【請求項11】
前記光学素子は、パンチャラトナムベリー位相光学素子であることを特徴とする請求項7~10のいずれかに記載の光学素子。
【請求項12】
支持基板上の配向膜を露光して配向処理する露光工程と、
露光後の前記配向膜上に重合性液晶材料を配置し硬化させる液晶層形成工程と、
を備え、
前記露光工程は、前記配向膜の第1の露光領域を、第1の偏光軸を有する第1の偏光で露光する第1の露光工程と、前記第1の露光領域の一部のみと重畳する前記配向膜の第2の露光領域を、前記第1の偏光軸とは角度が異なる第2の偏光軸を有する第2の偏光で露光する第2の露光工程と、を順に備えることを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項13】
前記露光工程は、前記第1の露光工程、及び、前記第2の露光工程~第Mの露光工程を順に備え、
前記第1の露光工程~前記第Mの露光工程は、それぞれ、前記配向膜の前記第1の露光領域~第Mの露光領域を、前記第1の偏光軸~第Mの偏光軸を有する前記第1の偏光~第Mの偏光で露光する工程であり、
前記第1の偏光軸~前記第Mの偏光軸の角度は互いに異なり、
前記第1の露光領域~前記第Mの露光領域のうち第rの露光領域の一部分は第(r-1)の露光領域と重畳し、前記第rの露光領域の他の部分は前記第(r-1)の露光領域と重畳せず、
前記第1の露光領域~前記第Mの露光領域のうち前記第(r-1)の露光領域の一部分は前記第rの露光領域と重畳し、前記第(r-1)の露光領域の他の部分は前記第rの露光領域と重畳せず、
前記第rの露光領域は、前記第1の露光領域~第(r-2)の露光領域とは重畳せず、
Mは、3以上の整数であり、
rは、3以上、M以下の整数であることを特徴とする請求項12に記載の光学素子の製造方法。
【請求項14】
前記光学素子の製造方法は、パンチャラトナムベリー位相光学素子の製造方法であることを特徴とする請求項12又は13に記載の光学素子の製造方法。
【請求項15】
第1の透光部及び第1の遮光部が設けられた第1のマスクと、
第2の透光部及び第2の遮光部が設けられた第2のマスクと、を有し、
前記第1のマスクの中心と前記第2のマスクの中心とが重畳するよう前記第1のマスク及び前記第2のマスクを重ね合わせたとき、
前記第1の透光部は、前記第2の透光部の一部及び前記第2の遮光部の一部と重畳し、
前記第2の透光部は、前記第1の透光部の一部及び前記第1の遮光部の一部と重畳することを特徴とするマスク群。
【請求項16】
前記マスク群は、パンチャラトナムベリー位相光学素子の製造に用いられることを特徴とする請求項15に記載のマスク群。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光学素子、光学素子の製造方法、及び、マスク群に関する。より具体的には、光学素子、当該光学素子の製造方法、及び、当該光学素子の製造に用いられるマスク群に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドマウントディスプレイ等の表示装置向けに、パンチャラトナムベリー位相光学素子(PBOE:Pancharatnam-Berry phase Optical Elements)等の光学素子を用いた光学システムが提案されている。PBOEは、例えば、液晶分子を含む液晶組成物を用いて形成された光学異方性層を備える。
【0003】
PBOEとして、特許文献1には、同心円状に分布し液晶が配置される複数の領域を有し、各領域における液晶の配向状態が中心領域から周辺領域に向かって周期的に変化し、さらにその変化の周期が中心から周囲に向かって変化している液晶セルからなる光変調素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高い回折効率を実現するためには、PBOEが面内において周期的で連続した分子配向パターンを有することが重要である。PBOEをマスク露光で作成する場合、面内において周期的なパターンは実現できる一方で、通常は面内において連続配向を実現できず、離散的な配向となるため、光学性能が悪化する。
【0006】
図43は、比較形態のPBOEの回折効率の測定方法を示す模式図である。
図44は、比較形態のPBOEの分子配向の種類と回折効率との関係を示すグラフである。ここで、回折効率とは、透過光に対する主要光の割合を表す。
図45は、8種類の分子配向を有する比較形態のPBOEの偏光顕微鏡観察写真、及び、当該PBOEの作製に必要なマスクの断面模式図を示す図である。
【0007】
図43及び
図44に示すように、比較形態のPBOE10Rを離散的な分子配向パターンで作製する場合、分子の配向方向の種類が多いほどレンズの性能は上がる。マスク露光で実現する分子配向は離散的であるため、通常、分子配向の種類はマスクの枚数と同数となる。例えば、分子配向を8種類有する比較形態のPBOE10Rを作製するには、
図45に示すように、8枚のマスクで、8種類の偏光UVを照射する必要がある。そのため、通常はマスクの枚数を増やすことで、分子配向の種類を増やし、面内の離散的な配向を連続配向に近づけていく。しかしながら、当該方法ではマスクの枚数が増えるため、コスト、生産工程の増加といったデメリットが生じる。
【0008】
図46は、特許文献1の光学素子の平面模式図である。上記特許文献1では、光変調素子の製造において、まず、2枚のガラス基板の表面に酸化インジウム錫(ITO)でベタ状電極を形成する。次いで、当該ベタ状電極の上にポリイミド膜を形成する。更に、マスクラビング法により、
図46の領域R1、R2及びR3示すように、ガラス基板の中心領域から周辺領域に向かって0°、45°、90°の配向方向角の周期的な分布が得られるようラビング処理する。更に、2枚のガラス基板を重ね合わせ液晶を真空注入する。特許文献1の方法により回折効率の高い光学素子を得るためには、ラビングの回数を増やす必要があり、例えば、製造コストが増大する。特許文献1の方法により回折効率の高い光学素子を簡便に製造することは困難である。
【0009】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、高い回折効率を有し、簡便に製造することができる光学素子、当該光学素子の製造方法、及び、当該光学素子の製造に用いられるマスク群を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)本発明の一実施形態は、異方性分子を含む光学異方性層を備え、上記光学異方性層は、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第1の領域と、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域である第2の領域と、を備える光学素子。
【0011】
(2)また、本発明のある実施形態は、上記(1)の構成に加え、上記光学異方性層は、上記第1の領域及び上記第2の領域に加えて、更に、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第3の領域を有し、平面視において、上記光学異方性層の中心部から端部に向かって、上記第1の領域、上記第2の領域及び上記第3の領域の順に配置される光学素子。
【0012】
(3)また、本発明のある実施形態は、上記(1)の構成に加え、上記光学異方性層は、上記第1の領域及び上記第2の領域に加えて、更に、第3の領域~第Nの領域を有し、上記第1の領域~上記第Nの領域は、平面視において、上記光学異方性層の中心部から端部に向かってこの順に配置され、上記第1の領域~上記第Nの領域のうち第pの領域は、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域であり、第(p+1)の領域は、上記異方性分子が上記光学異方性層の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域であり、Nは、4以上の整数であり、pは、1以上、(N-1)以下の整数である光学素子。
【0013】
(4)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、上記(2)又は上記(3)の構成に加え、上記捩れ配向していない領域は、上記光学異方性層の表側の分子配向と裏側の分子配向との差が、0°以上、0.1°未満である領域であり、上記捩れ配向している領域は、上記光学異方性層の表側の分子配向と裏側の分子配向との差が0.1°以上である領域である光学素子。
【0014】
(5)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、上記(2)、上記(3)又は上記(4)の構成に加え、上記第1の領域及び上記第2の領域は、環状に配置される光学素子。
【0015】
(6)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、上記(2)、上記(3)、上記(4)又は上記(5)の構成に加え、上記光学素子は、パンチャラトナムベリー位相光学素子である光学素子。
【0016】
(7)また、本発明の他の一実施形態は、異方性分子を含む光学異方性層を備え、上記光学異方性層は、消偏性を有する領域である第1の領域と、上記第1の領域よりも高い消偏性を有する領域である第2の領域と、を備える光学素子。
【0017】
(8)また、本発明のある実施形態は、上記(7)の構成に加え、上記光学異方性層は、上記第1の領域及び上記第2の領域に加えて、更に、上記第2の領域よりも低い消偏性を有する第3の領域を有し、平面視において、上記光学異方性層の中心部から端部に向かって、上記第1の領域、上記第2の領域及び上記第3の領域の順に配置される光学素子。
【0018】
(9)また、本発明のある実施形態は、上記(7)の構成に加え、上記光学異方性層は、上記第1の領域及び上記第2の領域に加えて、更に、第3の領域~第Nの領域を有し、上記第1の領域~上記第Nの領域は、平面視において、上記光学異方性層の中心部から端部に向かってこの順に配置され、上記第1の領域~上記第Nの領域のうち第pの領域は、第1の消偏性を有する領域であり、第(p+1)の領域は、上記第1の消偏性よりも高い第2の消偏性を有する領域であり、N、は4以上の整数であり、pは、1以上、(N-1)以下の整数である光学素子。
【0019】
(10)また、本発明のある実施形態は、上記(7)、上記(8)又は上記(9)の構成に加え、上記第1の領域及び上記第2の領域は、環状に配置される光学素子。
【0020】
(11)また、本発明のある実施形態は、上記(7)、上記(8)、上記(9)又は上記(10)の構成に加え、上記光学素子は、パンチャラトナムベリー位相光学素子である光学素子。
【0021】
(12)また、本発明の他の一実施形態は、支持基板上の配向膜を露光して配向処理する露光工程と、露光後の上記配向膜上に重合性液晶材料を配置し硬化させる液晶層形成工程と、を備え、上記露光工程は、上記配向膜の第1の露光領域を、第1の偏光軸を有する第1の偏光で露光する第1の露光工程と、上記第1の露光領域の一部のみと重畳する上記配向膜の第2の露光領域を、上記第1の偏光軸とは角度が異なる第2の偏光軸を有する第2の偏光で露光する第2の露光工程と、を順に備える光学素子の製造方法。
【0022】
(13)また、本発明のある実施形態は、上記(12)の構成に加え、上記露光工程は、上記第1の露光工程、及び、上記第2の露光工程~第Mの露光工程を順に備え、上記第1の露光工程~上記第Mの露光工程は、それぞれ、上記配向膜の上記第1の露光領域~第Mの露光領域を、上記第1の偏光軸~第Mの偏光軸を有する上記第1の偏光~第Mの偏光で露光する工程であり、上記第1の偏光軸~上記第Mの偏光軸の角度は互いに異なり、上記第1の露光領域~上記第Mの露光領域のうち第rの露光領域の一部分は第(r-1)の露光領域と重畳し、前記第rの露光領域の他の部分は上記第(r-1)の露光領域と重畳せず、上記第1の露光領域~上記第Mの露光領域のうち上記第(r-1)の露光領域の一部分は上記第rの露光領域と重畳し、上記第(r-1)の露光領域の他の部分は上記第rの露光領域と重畳せず、上記第rの露光領域は、上記第1の露光領域~第(r-2)の露光領域とは重畳せず、Mは、3以上の整数であり、rは、3以上、M以下の整数である光学素子の製造方法。
【0023】
(14)また、本発明のある実施形態は、上記(12)又は上記(13)の構成に加え、上記光学素子の製造方法は、パンチャラトナムベリー位相光学素子の製造方法である光学素子の製造方法。
【0024】
(15)また、本発明の他の一実施形態は、第1の透光部及び第1の遮光部が設けられた第1のマスクと、第2の透光部及び第2の遮光部が設けられた第2のマスクと、を有し、上記第1のマスクの中心と上記第2のマスクの中心とが重畳するよう上記第1のマスク及び上記第2のマスクを重ね合わせたとき、上記第1の透光部は、上記第2の透光部の一部及び上記第2の遮光部の一部と重畳し、上記第2の透光部は、上記第1の透光部の一部及び上記第1の遮光部の一部と重畳するマスク群。
【0025】
(16)また、本発明のある実施形態は、上記(15)の構成に加え、上記マスク群は、パンチャラトナムベリー位相光学素子の製造に用いられるマスク群。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、高い回折効率を有し、簡便に製造することができる光学素子、当該光学素子の製造方法、及び、当該光学素子の製造に用いられるマスク群を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図2】
図1において破線で囲まれた領域における実施形態1の光学素子の平面模式図である。
【
図3】
図2中のA1-A2線に沿った、実施形態1の光学素子の断面模式図である。
【
図4A】実施形態1の光学素子の一例を示す偏光顕微鏡観察写真、及び、当該光学素子の作製に必要なマスクの断面模式図を示す図である。
【
図4B】
図4Aに示すマスクの断面模式図の横軸を拡大した拡大断面模式図である。
【
図5】実施形態1の光学素子の一例を示す平面模式図である。
【
図6】実施形態1の光学素子の製造方法における第1の露光工程を示す模式図である。
【
図7】実施形態1の光学素子の製造方法における第2の露光工程を示す模式図である。
【
図8】実施形態1の光学素子の製造方法における第1の露光工程及び第2の露光工程後を示す模式図である。
【
図9】実施形態1の光学素子の製造に用いられるマスク群の一例を示す平面模式図である。
【
図10】通常のマスク群の一例を示す平面模式図である。
【
図11】実施形態2の光学素子の平面模式図である。
【
図12】実施形態1の光学素子の一例を示す平面模式図である。
【
図13】実施形態2の光学素子の製造方法における第1の露光工程を示す模式図である。
【
図14】実施形態2の光学素子の製造方法における第2の露光工程を示す模式図である。
【
図15】実施形態2の光学素子の製造方法における第1の露光工程及び第2の露光工程後を示す模式図である。
【
図16】実施例1の光学素子の製造方法を示す断面模式図、及び、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
【
図17】実施例1の光学素子の製造において、偏光軸0°の偏光UVを照射する際に用いられた第1のマスクの模式図である。
【
図18】実施例1の光学素子の製造において、偏光軸45°の偏光UVを照射する際に用いられた第2のマスクの模式図である。
【
図19】実施例1の光学素子の製造において、偏光軸90°の偏光UVを照射する際に用いられた第3のマスクの模式図である。
【
図20】実施例1の光学素子の製造において、偏光軸135°の偏光UVを照射する際に用いられた第4のマスクの模式図である。
【
図21】光学異方性層の表側の分子配向の測定方法について説明する断面模式図である。
【
図22】光学異方性層の裏側の分子配向の測定方法について説明する断面模式図である。
【
図23】実施例1の光学素子の中心部が最も暗くなったときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
【
図24】第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、第1の偏光板及び第2の偏光板を
図23から20°回転させたときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
【
図25】第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、重ね露光されていない領域Aが最も暗くなるよう第1の偏光板及び第2の偏光板を回転させたときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
【
図26】実施例1の光学素子の、重ね露光した領域を示す顕微鏡観察写真である。
【
図27】実施例1の光学素子の重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEにおける、表側の分子配向と裏側の分子配向との差を示すグラフである。
【
図28】実施例1の光学素子の、重ね露光していない領域を示す断面模式図である。
【
図29】実施例1の光学素子の中心部の「暗の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
【
図30】実施例1の光学素子の中心部の「明の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
【
図31】実施例1の光学素子の重ね露光した領域Cの「暗の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
【
図32】実施例1の光学素子の重ね露光した領域Cの「明の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
【
図33】実施例1の光学素子の重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEにおける消偏性を示すグラフである。
【
図34】重ね露光と配向規制力との関係を説明する模式図である。
【
図35】実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真、及び、実施例1の光学素子の作製に用いたなマスクの断面模式図を示す図である。
【
図37】参考例の光学素子の回折効率を計算する際に用いた分子配向を示す図である。
【
図38】2種類の分子配向を有する実施例2の光学素子の分子配向を示す図である。
【
図39】3種類の分子配向を有する実施例3の光学素子の分子配向を示す図である。
【
図40】4種類の分子配向を有する実施例4の光学素子の分子配向を示す図である。
【
図41】6種類の分子配向を有する実施例5の光学素子の分子配向を示す図である。
【
図42】実施例1~実施例5の光学素子の回折効率を示すグラフである。
【
図43】比較形態のPBOEの回折効率の測定方法を示す模式図である。
【
図44】比較形態のPBOEの分子配向の種類と回折効率との関係を示すグラフである。
【
図45】8種類の分子配向を有する比較形態のPBOEの偏光顕微鏡観察写真、及び、当該PBOEの作製に必要なマスクの断面模式図を示す図である。
【
図46】特許文献1の光学素子の平面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に記載された内容に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。なお、以下の説明において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して適宜用い、その繰り返しの説明は適宜省略する。本発明の各態様は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよい。
【0029】
(実施形態1)
図1は、実施形態1の光学素子の平面模式図である。
図2は、
図1において破線で囲まれた領域における実施形態1の光学素子の平面模式図である。
図3は、
図2中のA1-A2線に沿った、実施形態1の光学素子の断面模式図である。
【0030】
図1~
図3に示す本実施形態の光学素子10は、異方性分子310を含む光学異方性層300を備え、光学異方性層300は、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第1の領域30
1と、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域である第2の領域30
2と、を備える。このような態様とすることにより、面内において連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、高い回折効率を実現することができる。また、このような構成の光学素子10は、例えば、後述するように、マスクの枚数を増やすことなく製造することが可能であるため、簡便に製造することができる。
【0031】
干渉露光を用いることにより、異方性分子を連続的で周期的なパターンで配列させることは可能であるが、量産が困難であり、光学素子を簡便に製造することができない。一方、マスク露光で異方性分子を配向させる場合、配向パターンが離散的になる。そのため、連続的で周期的な配向パターンと、マスク露光で実現できる配向パターンとの間に差が生じてしまい、回折効率(光学性能)が低下してしまう。
【0032】
また、上記特許文献1に開示された方法を用いて、連続的で周期的なパターンで異方性分子を配向させるためには、ラビング処理の回数を増やす必要がある。そのため、特許文献1により、回折効率の高い光学素子を簡便に製造することはできない。
【0033】
一方、本実施形態の光学素子10は、マスクの枚数を増やすことなく、異方性分子の離散的な配向を連続配向に近づけ、光学性能を向上させることができる。
【0034】
本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、光配向膜の同じ領域に異なる偏光UV(PUVともいう。)を重ねて照射することで、偏光方向とは異なる方向に配向規制力が働くことに注目した。当該現象を利用することにより、
図4A及び
図4Bに示すように、「(分子の配向方向の種類)>(マスクの枚数)」を実現することができる。これにより、より性能の高い(より回折効率の高い)光学素子10(PBOE)を、従来よりも少ないマスクで作製することができる。本実施形態の重ね照射を用いて、
図4A及び
図4Bでは、4枚のマスクで8種類の分子配向を実現している。
図4Aは、実施形態1の光学素子の一例を示す偏光顕微鏡観察写真、及び、当該光学素子の作製に必要なマスクの断面模式図を示す図である。
図4Bは、
図4Aに示すマスクの断面模式図の横軸を拡大した拡大断面模式図である。
【0035】
例えば、
図4A及び
図4Bに示す第1のマスクを用いて光配向膜に偏光軸0°の偏光UVを照射する第1の露光工程、第2のマスクを用いて光配向膜に偏光軸45°の偏光UVを照射する第2の露光工程、第3のマスクを用いて光配向膜に偏光軸90°の偏光UVを照射する第3の露光工程、及び、第4のマスクを用いて光配向膜に偏光軸135°の偏光UVを照射する第4の露光工程、を順に行う。このような態様とすることにより、平面視において、第1のマスクの透光部であって、かつ、他のマスクの透光部ではない1つ目の開口に対応する領域において、分子配向は0°に設定される。また、平面視において、第1のマスクの透光部であって、かつ、第2のマスクの透光部である2つ目の開口に対応する領域において、分子配向は22.5°に設定される。また、平面視において、第2のマスクの透光部であって、かつ、他のマスクの透光部ではない3つ目の開口に対応する領域において、分子配向は45°に設定される。また、平面視において、第2のマスクの透光部であって、かつ、第3のマスクの透光部である4つ目の開口に対応する領域において、分子配向は67.5°に設定される。また、平面視において、第3のマスクの透光部であって、かつ、他のマスクの透光部ではない5つ目の開口に対応する領域において、分子配向は90°に設定される。また、平面視において、第3のマスクの透光部であって、かつ、第4のマスクの透光部である6つ目の開口に対応する領域において、分子配向は112.5°に設定される。また、平面視において、第4のマスクの透光部であって、かつ、他のマスクの透光部ではない7つ目の開口に対応する領域において、分子配向は135°に設定される。また、平面視において、第4のマスクの透光部であって、かつ、第1のマスクの透光部である8つ目の開口に対応する領域において、分子配向は157.5°に設定される。
【0036】
異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域は、例えば、光学異方性層300の表側の分子配向(配向角)と裏側の分子配向との差が、0°以上、0.1°未満である領域である。また、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域は、例えば、光学異方性層300の表側の分子配向(配向角)と裏側の分子配向との差が0.1°以上である領域である。異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域における、光学異方性層300の表側の分子配向(配向角)と裏側の分子配向との差の上限は特に限定されないが、例えば、光学異方性層300の表側の分子配向(配向角)と裏側の分子配向との差は、0.1°以上、5°以下であり、0.1°以上、1°以下であることが好ましい。
【0037】
以下、本実施形態の光学素子10について詳細に説明する。
【0038】
図1~
図3に示す本実施形態の光学素子10は、支持基板100と、配向膜200と、光学異方性層300と、を順に備える。
図1に示すように、第1の領域30
1及び第2の領域30
2は、環状に配置される。より具体的には、第1の領域30
1及び第2の領域30
2は、平面視において、環状に配置される。本実施形態の光学素子10は、パンチャラトナムベリー位相光学素子である。パンチャラトナムベリー位相光学素子は、円偏光を集光及び発散させる機能を有する。
【0039】
支持基板100としては、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等の基板が挙げられる。ガラス基板の材料としては、例えば、フロートガラス、ソーダガラス等のガラスが挙げられる。プラスチック基板の材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、脂環式ポリオレフィン等のプラスチックが挙げられる。
【0040】
配向膜200は、光学異方性層300における異方性分子310の配向を制御する機能を有する。配向膜200の材料としては、ポリイミドを主鎖に有するポリマー、ポリアミック酸を主鎖に有するポリマー、ポリシロキサンを主鎖に有するポリマー等の液晶パネルの分野で一般的な材料を用いることができる。配向膜200は配向膜材料を塗布することによって形成することができ、上記塗布方法は特に限定されず、例えば、フレキソ印刷、インクジェット塗布等を用いることができる。
【0041】
配向膜200は、光配向膜であることが好ましい。光配向膜は、例えば、光官能基を有する光配向性ポリマーを含む配向膜材料を基板上に成膜することにより得られる。配向膜200には、配向処理が施される。例えば、光配向性ポリマーを含む配向膜200に偏光紫外線を照射し、配向膜200の表面に異方性を発生させることにより配向処理が施される。
【0042】
上記光配向性ポリマーとしては、例えば、シクロブタン基、アゾベンゼン基、カルコン基、シンナメート基、クマリン基、スチルベン基、フェノールエステル基及びフェニルベンゾエート基から選択される少なくとも一種の光官能基を有する光配向性ポリマー等が挙げられる。光配向層に含まれる光配向性ポリマーは、一種であっても、二種以上であってもよい。光配向性ポリマーが有する光官能基は、ポリマーの主鎖に存在してもよいし、ポリマーの側鎖に存在してもよいし、ポリマーの主鎖及び側鎖の両方に存在してもよい。
【0043】
上記光配向性ポリマーの光反応の型も特に限定されないが、光分解型ポリマー、光転位型ポリマー(好ましくは光フリース転位型ポリマー)、光異性化型ポリマー、光二量化型ポリマー及び光架橋型ポリマーを好適な例として挙げることができる。これらは何れかを単独で用いることもでき、二種以上を併用することもできる。なかでも、配向安定性の観点からは、254nm付近を反応波長(主感度波長)とする光分解型ポリマー、及び、254nm付近を反応波長(主感度波長)とする光転位型ポリマーが特に好ましい。側鎖に光官能基を有する光異性化型ポリマー及び光二量化型ポリマーもまた好ましい。
【0044】
上記光配向性ポリマーの主鎖構造は特に限定されないが、ポリアミック酸構造、ポリイミド構造、ポリ(メタ)アクリル酸構造及びポリシロキサン構造、ポリエチレン構造、ポリスチレン構造、ポリビニル構造を好適な例として挙げることができる。
【0045】
配向膜200は、異方性分子310を膜面に対して略水平に配向させる水平配向膜であってもよいし、異方性分子310を膜面に対して略垂直に配向させる垂直配向膜であってもよい。水平配向膜は、電圧無印加状態において、光学異方性層300中の異方性分子310を水平配向膜の表面に対して水平方向に配向させる機能を有する。ここで、異方性分子が水平配向膜の表面に対して水平方向に配向するとは、異方性分子のプレチルト角が、水平配向膜の表面に対して0~5°であることを意味し、好ましくは0~2°、より好ましくは0~1°であることを意味する。また、垂直配向膜は、電圧無印加状態において、光学異方性層300中の異方性分子310を垂直配向膜の表面に対して垂直方向に配向させる機能を有する。ここで、異方性分子が垂直配向膜の表面に対して垂直方向に配向するとは、異方性分子のプレチルト角が、垂直配向膜の表面に対して86~90°であることを意味し、好ましくは87~89°、より好ましくは87.5~89°であることを意味する。異方性分子のプレチルト角は、電圧無印加状態において、液晶分子の長軸が各基板の主面に対して傾斜する角度を意味する。
【0046】
光学異方性層300は、異方性分子310を含有する。光学異方性層300は、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第1の領域301と、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域である第2の領域302と、を備える。
【0047】
光学異方性層300としては、例えば、重合性液晶材料(「リアクティブメソゲン」ともいう)の硬化物が好適に用いられる。この場合、重合した重合性液晶材料及び重合していない重合性液晶材料の少なくとも一方が、異方性分子310に相当する。重合性液晶材料は、光が照射されることにより硬化する光重合性液晶材料であることが好ましい。
【0048】
光学異方性層300は、例えば、重合性液晶材料(リアクティブメソゲン)を塗布し、硬化することにより形成される。重合性液晶材料としては、光反応性基を有する液晶高分子(液晶性ポリマー)が用いられる。重合性液晶材料としては、例えば、ビフェニル基、ターフェニル基、ナフタレン基、フェニルベンゾエート基、アゾベンゼン基、これらの誘導体などの置換基(メソゲン基)と、シンナモイル基、カルコン基、シンナミリデン基、β-(2-フェニル)アクリロイル基、桂皮酸基、これらの誘導体などの光反応性基を併せ有する構造の側鎖を有し、アクリレート、メタクリレート、マレイミド、N-フェニルマレイミド、シロキサンなどの構造を主鎖に有するポリマーを挙げることができる。かかるポリマーは、単一の繰り返し単位からなるホモポリマーであってもよく、側鎖の構造の異なる2以上の繰り返し単位からなるコポリマーであってもよい。かかるコポリマーとしては、交互型、ランダム型、クラフト型などのいずれをも含む。また、かかるコポリマーにおいては、少なくとも一の繰り返し単位に係る側鎖が、上記の如きメソゲン基と光反応性基を併せ有する構造の側鎖であり、他の繰り返し単位に係る側鎖が、かかるメソゲン基や光反応性基を有さないものであってよい。
【0049】
また、重合性液晶材料は、光重合開始剤等の添加物を含んでいてもよい。光重合開始剤としては特に限定されず、従来公知のものを使用することができる。
【0050】
重合性液晶材料の塗布に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、エチルベンゼン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテル、ジブチルエーテル、アセトン、メチルエチルケトン、エタノール、プロパノール、シクロヘキサン、シクロペンタノン、メチルシクロヘキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、n-ヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、メトキシブチルアセテート、N-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは何れかを単独で用いることもでき、2種以上を併用することもできる。
【0051】
図2に示すように、光学異方性層300は、第1の領域30
1において第1の方向D
1に沿った分子配向を有し、第2の領域30
2において、第1の方向D
1とは異なる第2の方向D
2に沿った分子配向を有することが好ましい。このような態様とすることにより、面内においてより連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、より高い回折効率を実現することができる。なお、分子配向は、光学異方性層の表側の分子配向を意味する。
【0052】
図2に示すように、光学異方性層300は、第1の領域30
1及び第2の領域30
2に加えて、更に、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域である第3の領域30
3を有し、平面視において、光学異方性層300の中心部から端部に向かって、第1の領域30
1、第2の領域30
2及び第3の領域30
3の順に配置されることが好ましい。このような態様とすることにより、面内においてより連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、より高い回折効率を実現することができる。
【0053】
光学異方性層300は、第3の領域303において第3の方向D3に沿った分子配向を有し、第1の方向D1、第2の方向D2及び第3の方向D3は、互いに異なることが好ましい。このような態様とすることにより、より高い回折効率を実現することができる。
【0054】
図5は、実施形態1の光学素子の一例を示す平面模式図である。
図5に示すように、光学異方性層300は、第1の領域30
1及び第2の領域30
2に加えて、更に、第3の領域30
3~第Nの領域30
Nを有し、第1の領域30
1~第Nの領域30
Nは、平面視において、光学異方性層300の中心部から端部に向かってこの順に配置され、第1の領域30
1~第Nの領域30
Nのうち第pの領域30
pは、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域であり、第(p+1)の領域30
p+1は、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域であることも好ましい。ここで、Nは4以上の整数であり、pは、1以上、(N-1)以下の整数である。このような態様とすることにより、面内においてより連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、より高い回折効率を実現することができる。
【0055】
Nは、6以上の整数であることが好ましい。このような態様とすることにより、より効果的に回折効率を高めることができる。Nは、8以上の整数であることがより好ましい。
【0056】
Nは、10以下の整数であることが好ましい。このような態様とすることにより、より簡便に光学素子10を製造することができる。
【0057】
Nは、4以上、10以下の整数であることが好ましく、6以上、10以下の整数であることがより好ましく、8以上、10以下の整数であることが更に好ましい。
【0058】
光学異方性層300は、第1の領域301~第Nの領域30Nにおいて、それぞれ、第1の方向D1~第Nの方向DNに沿った分子配向を有し、第1の方向D1~第Nの方向DNは、互いに異なることが好ましい。このような態様とすることにより、より高い回折効率を実現することができる。
【0059】
光学異方性層300が捩れ配向していない領域を複数有する場合、表側の分子配向と裏側の分子配向との差は、複数の捩れ配向していない領域において同一であっても、互いに異なっていてもよい。また、光学異方性層300が捩れ配向している領域を複数有する場合、表側の分子配向と裏側の分子配向との差は、複数の捩れ配向している領域において同一であっても、互いに異なっていてもよい。
【0060】
次に、本実施形態の光学素子10の製造方法について説明する。
【0061】
本実施形態の光学素子10の製造方法は、支持基板100上の配向膜200を露光して配向処理する露光工程と、露光後の配向膜200上に重合性液晶材料を配置し硬化させる液晶層形成工程と、を備え、上記露光工程は、配向膜200の第1の露光領域を、第1の偏光軸を有する第1の偏光で露光する第1の露光工程と、上記第1の露光領域の一部のみと重畳する配向膜200の第2の露光領域を、上記第1の偏光軸とは角度が異なる第2の偏光軸を有する第2の偏光で露光する第2の露光工程と、を順に備える。
【0062】
このような態様とすることにより、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳しない部分に第1の偏光のみを露光し、第2の露光領域のうち第1の露光領域と重畳しない部分に第2の偏光のみを露光し、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳する部分に第1の偏光及び第2の偏光を重ねて露光することが可能となる。
図6~
図8に示すように、重ね露光された領域では分子配向が2回の露光の平均化される。したがって、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳しない部分、第2の露光領域のうち第1の露光領域と重畳しない部分、及び、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳する部分との間で、配向膜200の配向方向を互いに異ならせることが可能となる。すなわち、配向膜200に対して2回の露光を行うことにより3種の配向方向を付与することが可能となる。その結果、より少ない露光回数で、異方性分子310の配列パターンを増加させることが可能となり、高い回折効率を有する光学素子10をより簡便に製造することができる。例えば、マスクの枚数を増やすことなく、高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。
図6は、実施形態1の光学素子の製造方法における第1の露光工程を示す模式図である。
図7は、実施形態1の光学素子の製造方法における第2の露光工程を示す模式図である。
図8は、実施形態1の光学素子の製造方法における第1の露光工程及び第2の露光工程後を示す模式図である。
【0063】
例えば、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳しない部分が第1の領域301に相当し、第2の露光領域のうち第1の露光領域と重畳しない部分が第3の領域303に相当し、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳する部分、すなわち、重ね露光された領域が第2の領域302に相当する。
【0064】
上記特許文献1はラビングにより配向処理を行うことにより光変調素子を製造している。一方、本実施形態では、複数回露光を行うことにより光学素子10を製造しており、特許文献1とは異なる方法が用いられる。
【0065】
本実施形態の光学素子10の製造方法は、上記露光工程の前に、光官能基を有する光配向性ポリマーを含む配向膜材料を支持基板100上に塗布して配向膜200を形成する配向膜形成工程を備えていてもよい。配向膜形成工程において、配向膜材料の塗布には、スリットコーターやスピンコーターなどの塗布装置が好適に使用できる。また、配向膜材料を均一な厚さで塗布した後、例えば、70~100℃程度の温度で1~10分間、仮焼成を行ってもよい。
【0066】
上記露光工程は、支持基板100上の配向膜200を露光して配向処理する工程である。露光工程は、例えば、波長313~365nmの光(紫外線)を照射する露光装置を用いて行われる。
【0067】
露光工程は、配向膜200の第1の露光領域を、第1の偏光軸を有する第1の偏光で露光する第1の露光工程と、上記第1の露光領域の一部のみと重畳する配向膜200の第2の露光領域を、上記第1の偏光軸とは角度が異なる第2の偏光軸を有する第2の偏光で露光する第2の露光工程と、を順に備える。
【0068】
第1の露光領域の一部分は第2の露光領域と重畳し、第1の露光領域の他の部分は第2の露光領域と重畳せず、第2の露光領域の一部分は第1の露光領域と重畳し、第2の露光領域の他の部分は第1の露光領域と重畳しないことが好ましい。このような態様とすることにより、より効果的に少ない露光回数で、異方性分子310の配列パターンを増加させることが可能となり、高い回折効率を有する光学素子10をより簡便に製造することができる。
【0069】
第2の偏光軸の角度は、第1の偏光軸の角度よりも10°以上、60°以下大きいことが好ましく、20°以上、50°以下大きいことがより好ましく、30°以上、45°以下大きいことが更に好ましい。このような態様とすることにより、異方性分子310の配列パターンをより連続的に変化させることが可能となり、より高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。ここで、軸の角度は、反時計回りを正の角度とする。
【0070】
露光工程は、上記第1の露光工程、及び、上記第2の露光工程~第Mの露光工程を順に備えてもよい。上記第1の露光工程~上記第Mの露光工程は、それぞれ、配向膜200の上記第1の露光領域~第Mの露光領域を、上記第1の偏光軸~第Mの偏光軸を有する上記第1の偏光~第Mの偏光で露光する工程である。上記第1の偏光軸~上記第Mの偏光軸の角度は互いに異なる。上記第1の露光領域~上記第Mの露光領域のうち第rの露光領域の一部分は第(r-1)の露光領域と重畳し、上記第rの露光領域の他の部分は上記第(r-1)の露光領域と重畳せず、上記第1の露光領域~上記第Mの露光領域のうち上記第(r-1)の露光領域の一部分は上記第rの露光領域と重畳し、上記第(r-1)の露光領域の他の部分は上記第rの露光領域と重畳せず、上記第rの露光領域は、上記第1の露光領域~第(r-2)の露光領域とは重畳しない。ここで、Mは3以上の整数である。rは、3以上、M以下の整数である。このような態様とすることにより、簡便に異方性分子310の配列パターンを増加させることが可能となり、高い回折効率を有する光学素子10をより簡便に製造することができる。
【0071】
Mは、3以上の整数であり、4以上の整数であることが好ましい。Mは、7以下の整数であることが好ましく、6以下の整数であることがより好ましい。Mは、3以上、7以下の整数であることが好ましく、4以上、6以下の整数であることがより好ましい。
【0072】
第rの偏光軸の角度は、第(r-1)の偏光軸の角度よりも10°以上、60°以下大きいことが好ましく、20°以上、50°以下大きいことがより好ましく、30°以上、45°以下大きいことが更に好ましい。このような態様とすることにより、異方性分子310の配列パターンをより連続的に変化させることが可能となり、より高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。
【0073】
具体的には、Mが3である場合、露光工程は、上記第2の露光工程の後、更に、第3の露光工程を備える。第3の露光工程は、配向膜200の第3の露光領域を、第3の偏光軸を有する第3の偏光で露光する工程である。第1の偏光軸~第3の偏光軸の角度は互いに異なる。第3の露光領域の一部分は第2露光領域と重畳し、第3の露光領域の他の部分は第2の露光領域と重畳せず、第2の露光領域の一部分は第3の露光領域と重畳し、第2の露光領域の他の部分は第3の露光領域と重畳せず、第3の露光領域は、第1の露光領域とは重畳しない。
【0074】
第3の偏光軸の角度は、第2の偏光軸の角度よりも10°以上、60°以下大きいことが好ましく、20°以上、50°以下大きいことがより好ましく、30°以上、45°以下大きいことが更に好ましい。このような態様とすることにより、異方性分子310の配列パターンをより連続的に変化させることが可能となり、より高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。ここで、軸の角度は、反時計回りを正の角度とする。
【0075】
Mが4である場合、露光工程は、上記第2の露光工程の後、更に、第3の露光工程及び第4の露光工程を備えていてもよい。第3の露光工程及び第4の露光工程は、それぞれ、配向膜200の第3の露光領域及び第4の露光領域を、第3の偏光軸及び第4の偏光軸を有する第3の偏光及び第4の偏光で露光する工程である。第1の偏光軸~第4の偏光軸の角度は互いに異なる。第3の露光領域の一部分は第2露光領域と重畳し、第3の露光領域の他の部分は第2の露光領域と重畳せず、第2の露光領域の一部分は第3の露光領域と重畳し、第2の露光領域の他の部分は第3の露光領域と重畳せず、第3の露光領域は、第1の露光領域とは重畳しない。第4の露光領域の一部分は第3露光領域と重畳し、第4の露光領域の他の部分は第3の露光領域と重畳せず、第3の露光領域の一部分は第4の露光領域と重畳し、第3の露光領域の他の部分は第4の露光領域と重畳せず、第4の露光領域は、第1の露光領域及び第2の露光領域とは重畳しない。
【0076】
第4の偏光軸の角度は、第3の偏光軸の角度よりも10°以上、60°以下大きいことが好ましく、20°以上、50°以下大きいことがより好ましく、30°以上、45°以下大きいことが更に好ましい。このような態様とすることにより、異方性分子310の配列パターンをより連続的に変化させることが可能となり、より高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。ここで、軸の角度は、反時計回りを正の角度とする。
【0077】
上記液晶層形成工程は、露光後の配向膜200上に重合性液晶材料を配置し硬化させる工程である。液晶層形成工程において、重合性液晶材料は、例えば、塗布により配向膜200上に配置される。塗布には、スリットコーターやスピンコーターなどの塗布装置が好適に使用できる。重合性液晶材料の硬化は、例えば、波長313~365nmの光(紫外線)を照射する露光装置を用いて行われる。
【0078】
図9は、実施形態1の光学素子の製造に用いられるマスク群の一例を示す平面模式図である。本実施形態の光学素子10は、
図4A、
図4B及び
図9に示すマスク群20を用いて作製することができる。マスク群20は、第1の透光部(開口部)20A
1及び第1の遮光部20B
1が設けられた第1のマスク20
1と、第2の透光部20A
2及び第2の遮光部20B
2が設けられた第2のマスク20
2と、を有する。第1のマスク20
1の中心と第2のマスク20
2の中心とが重畳するよう第1のマスク20
1及び第2のマスク20
2を重ね合わせたとき、第1の透光部20A
1は、第2の透光部20A
2の一部及び第2の遮光部20B
2の一部と重畳し、第2の透光部20A
2は、第1の透光部20A
1の一部及び第1の遮光部20B
1の一部と重畳する。このような態様とすることにより、上記製造工程における第1の露光工程で第1のマスク20
1を用い、第2の露光工程で第2のマスク20
2を用いて、光学素子10を作製することができる。
【0079】
一方、複数枚のマスクを用いて露光する場合は、通常、例えば
図10に示すマスク群20Rが用いられる。
図10は、通常のマスク群の一例を示す平面模式図である。
図10に示すように、通常のマスク群20Rは、透光部20RA
1及び遮光部20RB
1を有する第1のマスク20R
1と、透光部20RA
2及び遮光部20RB
2を有する第2のマスク20R
2と、透光部20RA
3及び遮光部20RB
3を有する第3のマスク20R
3と、透光部20RA
4及び遮光部20RB
4を有する第4のマスク20R
4と、を備える。第1のマスク20R
1~第4のマスク20R
4の中心が重畳するよう第1のマスク20R
1~第4のマスク20R
4を重ね合わせたとき、各マスクの透光部は重畳しない。
【0080】
上述のように、本実施形態の光学素子10は、光配向性ポリマーを含む配向膜200に複数の所定パターンを露光し、各パターンの重ね合わせにより所望のパターンをパターニングする光パターニングを行うことにより作製できる。第1の透光部20A1、第1の遮光部20B1、第2の透光部20A2及び第2の遮光部20B2は、それぞれ、所定の幅を有する同心円状のパターンであり、第1のマスク201及び第2のマスク202には互いに異なるパターンが形成されている。
【0081】
図9に示すように、マスク群20は、第1のマスク20
1、及び、第2のマスク20
2から第Mのマスク20
Mを有していてもよい。第1のマスク20
1から第Mのマスク20
Mのうち、第rのマスク20
rには、第rの透光部20A
r及び第rの遮光部20B
rが設けられており、第(r-1)のマスク20
r-1には、第(r-1)の透光部20A
r-1及び第(r-1)の遮光部20B
r-1が設けられており、第(r-2)のマスク20
r-2には、第(r-2)の透光部20A
r-2及び第(r-2)の遮光部20B
r-2が設けられている。第rのマスク20
rの中心部と第(r-1)のマスク20
r―1の中心部とを重ね合わせたとき、第(r-1)の透光部20A
r-1は、第rの透光部20A
r及び第rの遮光部20B
rの一部と重畳し、第rの透光部20A
rは、第(r-1)の透光部20A
r-1及び第(r-1)の遮光部20B
r-1の一部と重畳し、第(r-2)の透光部20A
r-2と重畳しない。ここで、Mは3以上の整数である。rは、3以上、M以下の整数である。このような態様とすることにより、簡便に異方性分子310の配列パターンを増加させることが可能となり、高い回折効率を有する光学素子10をより簡便に製造することができる。
【0082】
具体的には、Mが3である場合、マスク群20は、第1のマスク201及び第2のマスク202に加えて、更に、第3のマスク203を有する。第3のマスク203には、第3の透光部20A3及び第3の遮光部20B3が設けられている。第3のマスク203の中心部と第2のマスク202の中心部とを重ね合わせたとき、第2の透光部20A2は、第3の透光部20A3及び第3の遮光部20B3の一部と重畳し、第3の透光部20A3は、第2の透光部20A2及び第2の遮光部20B2の一部と重畳し、第1の透光部20A1と重畳しない。このような態様とすることにより、上記製造工程における第3の露光工程で第3のマスク203を用いて、光学素子10を作製することができる。
【0083】
具体的には、Mが4である場合、マスク群20は、第1のマスク201及び第2のマスク202に加えて、更に、第3のマスク203及び第4のマスク204を有する。第4のマスク204には、第4の透光部20A4及び第4の遮光部20B4が設けられている。第4のマスク204の中心部と第3のマスク203の中心部とを重ね合わせたとき、第3の透光部20A3は、第4の透光部20A4及び第4の遮光部20B4の一部と重畳し、第4の透光部20A4は、第3の透光部20A3及び第3の遮光部20B3の一部と重畳し、第1の透光部20A1及び第2の透光部20A2と重畳しない。このような態様とすることにより、上記製造工程における第3の露光工程で第3のマスク203を用い、第4の露光工程で第4のマスク204を用いて、光学素子10を作製することができる。
【0084】
マスク群20が備える各マスクには、同心円状の透光部及び遮光部が設けられている。透光部は、光を透過する部分であり、例えば、80%以上、100%以下の透過率を有する。遮光部は、光を透過しない部分であり、例えば、0%以上、10%以下の透過率を有する。
【0085】
(実施形態2)
本実施形態では、本実施形態に特有の特徴について主に説明し、上記実施形態1と重複する内容については説明を省略する。
【0086】
図11は、実施形態2の光学素子の平面模式図である。
図11に示す本実施形態の光学素子10は、異方性分子310を含む光学異方性層300を備え、光学異方性層300は、消偏性を有する領域である第1の領域31
1と、第1の領域31
1よりも高い消偏性を有する領域である第2の領域31
2と、を備える。このような態様とすることにより、実施形態1と同様に、面内において連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、高い回折効率を実現することができる。また、このような構成の光学素子10は、例えば、マスクの枚数を増やすことなく製造することが可能であるため、簡便に製造することができる。
【0087】
ここで、消偏性とは、対象となる領域のコントラストと光学異方性層300の中心部のコントラストとの差である。すなわち、第1の領域311の消偏性は、第1の領域311のコントラストと光学異方性層300の中心部のコントラストとの差である。第2の領域312の消偏性は、第2の領域312のコントラストと光学異方性層300の中心部のコントラストとの差である。コントラストの差は絶対値である。
【0088】
コントラストは、クロスニコルに配置した一対の偏光板間に光学異方性層300を配置して測定される最も明るい輝度を最も暗い輝度で除した値である。例えば、第1の領域311のコントラストは、クロスニコルに配置した一対の偏光板間に光学異方性層300を配置して測定される第1の領域311の最も明るい輝度を最も暗い輝度で除した値である。第2の領域312のコントラストは、クロスニコルに配置した一対の偏光板間に光学異方性層300を配置して測定される第2の領域312の最も明るい輝度を最も暗い輝度で除した値である。光学異方性層300の中心部のコントラストは、クロスニコルに配置した一対の偏光板間に光学異方性層300を配置して測定される光学異方性層300の中心部の最も明るい輝度を最も暗い輝度で除した値である。
【0089】
第1の領域311及び第2の領域312は、環状に配置される。より具体的には、第1の領域311及び第2の領域312は、平面視において、環状に配置される。本実施形態の光学素子10は、パンチャラトナムベリー位相光学素子である。
【0090】
第1の領域311は、例えば、消偏性が0以上、1未満の領域であり、第2の領域312は、例えば、消偏性が1以上、10以下の領域である。
【0091】
図11に示すように、光学異方性層300は、第1の領域31
1及び第2の領域31
2に加えて、更に、第2の領域31
2よりも低い消偏性を有する第3の領域31
3を有し、平面視において、光学異方性層300の中心部から端部に向かって、第1の領域31
1、第2の領域31
2及び第3の領域31
3の順に配置されることが好ましい。このような態様とすることにより、面内においてより連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、より高い回折効率を実現することができる。
【0092】
図12は、実施形態1の光学素子の一例を示す平面模式図である。
図12に示すように、光学異方性層300は、第1の領域31
1及び第2の領域31
2に加えて、更に、第3の領域31
3~第Nの領域31
Nを有していてもよい。第1の領域31
1~第Nの領域31
Nは、平面視において、光学異方性層300の中心部から端部に向かってこの順に配置される。第1の領域31
1~第Nの領域31
Nのうち第pの領域31
pは、第1の消偏性を有する領域であり、第(p+1)の領域31
p+1は、第1の消偏性よりも高い第2の消偏性を有する領域であることが好ましい。ここで、Nは4以上の整数であり、pは、1以上、(N-1)以下の整数である。このような態様とすることにより、面内においてより連続的で周期的なパターンで異方性分子310が配列し得るため、より高い回折効率を実現することができる。
【0093】
第1の消偏性は、例えば、0以上、1未満であり、第2の消偏性は、例えば、1以上、10以下である。
【0094】
実施形態2の光学素子10は、実施形態1と同様の方法により製造することができる。光配向膜に照射する偏光UVの条件が、重ね露光をするかどうかで異なるために、配向膜の配向規制力に差が生じ、重ね露光をした領域と重ね露光していない領域との間で、消偏性に差が生じる。その結果、本実施形態の光学素子10は、消偏性の互いに異なる第1の領域311及び第2の領域312を有する。
【0095】
図13~
図15に示すように、重ね露光された領域では分子配向が2回の露光の平均化される。したがって、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳しない部分、第2の露光領域のうち第1の露光領域と重畳しない部分、及び、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳する部分との間で、配向膜200の配向方向を互いに異ならせることが可能となる。すなわち、配向膜200に対して2回の露光を行うことにより3種の配向方向を付与することが可能となる。その結果、より少ない露光回数で、異方性分子310の配列パターンを増加させることが可能となり、高い回折効率を有する光学素子10をより簡便に製造することができる。例えば、マスクの枚数を増やすことなく、高い回折効率を有する光学素子10を製造することができる。
図13は、実施形態2の光学素子の製造方法における第1の露光工程を示す模式図である。
図14は、実施形態2の光学素子の製造方法における第2の露光工程を示す模式図である。
図15は、実施形態2の光学素子の製造方法における第1の露光工程及び第2の露光工程後を示す模式図である。
【0096】
例えば、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳しない部分が第1の領域311に相当し、第2の露光領域のうち第1の露光領域と重畳しない部分が第3の領域313に相当し、第1の露光領域のうち第2の露光領域と重畳する部分が第2の領域312に相当する。
【実施例0097】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の効果を説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0098】
(実施例1)
図16は、実施例1の光学素子の製造方法を示す断面模式図、及び、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
図17は、実施例1の光学素子の製造において、偏光軸0°の偏光UVを照射する際に用いられた第1のマスクの模式図である。
図18は、実施例1の光学素子の製造において、偏光軸45°の偏光UVを照射する際に用いられた第2のマスクの模式図である。
図19は、実施例1の光学素子の製造において、偏光軸90°の偏光UVを照射する際に用いられた第3のマスクの模式図である。
図20は、実施例1の光学素子の製造において、偏光軸135°の偏光UVを照射する際に用いられた第4のマスクの模式図である。
【0099】
図16に示す方法により、実施形態1の光学素子10に対応する実施例1の光学素子を作製した。まず、配向膜形成工程において、支持基板100としてのガラス基板上に、光異性化型の光官能基を有する光配向性ポリマーを含む配向膜材料を塗布し、配向膜200を形成した。
【0100】
次に、露光工程において、マスク群20を用いて配向膜200を露光した。マスク群20は、透光部と遮光部とが繰り返される円環型マスク4枚(第1のマスク201、第2のマスク202、第3のマスク203及び第4のマスク204)から構成されており、当該4枚のマスクは、各マスクの中心が重畳するよう重ねたときに、透光部が重なる領域と重ならない領域とが交互に配置されるよう設計されていた。
【0101】
第1の露光工程では、
図17に示す第1のマスク20
1用いて、偏光軸0°の偏光UVを配向膜200に照射した。第2の露光工程では、
図18に示す第2のマスク20
2用いて、偏光軸45°の偏光UVを配向膜200に照射した。第3の露光工程では、
図19に示す第3のマスク20
3用いて、偏光軸90°の偏光UVを配向膜200に照射した。第4の露光工程では、
図20に示す第4のマスク20
4用いて、偏光軸135°の偏光UVを配向膜200に照射した。第1のマスク20
1、第2のマスク20
2、第3のマスク20
3及び第4のマスク20
4は、具体的には、
図4A及び
図4Bに示すように配置されていた。第1の露光工程~第4の露光工程では、いずれも、100mJ/cm
2(365nm)の偏光UVを照射した。
【0102】
第4の露光工程の後、配向膜200を160℃のオーブンで20分焼成した。
【0103】
次に、液晶層形成工程において、配向膜200上に重合性液晶材料(異方性分子310)を塗布した。重合性液晶材料は、1000rpmで回転するスピンコーターで塗布した。膜厚は、532nmの光に対して位相差がλ/2となるように設定した。
【0104】
次に、硬化工程において、塗布した重合性液晶材料に200mJ(365nm)の無偏光UVを露光し、重合性液晶材料を硬化し、実施例1の光学素子10を得た。
図16に示すように、偏光顕微鏡観察により、重合性液晶材料(異方性分子310)が正常に配列していることを確認した。
【0105】
<重ね露光していない領域A及びBの分子配向(配向角)の測定>
図21は、光学異方性層の表側の分子配向の測定方法について説明する断面模式図である。
図22は、光学異方性層の裏側の分子配向の測定方法について説明する断面模式図である。
図23は、実施例1の光学素子の中心部が最も暗くなったときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
図24は、第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、第1の偏光板及び第2の偏光板を
図23から20°回転させたときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
図25は、第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、重ね露光されていない領域Aが最も暗くなるよう第1の偏光板及び第2の偏光板を回転させたときの、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真である。
図23~
図25では、重ね露光していない領域A及びBを示す。
【0106】
図21及び
図22に示すように、光源1、第1の偏光板2、第2の偏光板3、及び、カメラ4を備える偏光顕微鏡の、第1の偏光板2と第2の偏光板3との間に実施例1の光学素子10を配置して、光学素子10の分子配向(配向角)を評価した。ここで、第1の偏光板2の吸収軸と第2の偏光板3の吸収軸とのなす角度は90°に設定した。すなわち、第1の偏光板2と第2の偏光板3とはクロスニコルに配置した。
【0107】
配向角は、具体的には次のように測定した。まず、光学異方性層300の中心部の分子配向を0°と定義した。また、偏光顕微鏡の第1の偏光板2及び第2の偏光板3のクロスニコル配置を維持したまま第1の偏光板2及び第2の偏光板3の偏光軸(吸収軸)を回転させ、
図23に示すように、光学異方性層300の中心部(重ね露光していない領域)の輝度が最も低くなったときの第1の偏光板2の吸収軸の角度を0°とした。
【0108】
次に、
図24及び
図25に示すように、偏光顕微鏡の第1の偏光板2及び第2の偏光板3のクロスニコル配置を維持したまま第1の偏光板2及び第2の偏光板3の偏光軸(吸収軸)を回転させ、
図25に示すように、領域Aの輝度が最も低くなったときの第1の偏光板2の吸収軸の角度を、領域Aの配向角とした。領域Bについても同様に測定した。
【0109】
図23~
図25に示す重ね露光していない領域A及びBのそれぞれについて、光学異方性層300の表側の分子配向及び裏側の分子配向を測定した。表側の分子配向は、
図21に示すように、カメラ4側から光源1側に向かって順に、光学異方性層300、配向膜200及び支持基板100が並ぶよう光学素子10を配置して測定した。裏側の分子配向は、
図22に示すように、カメラ4側から光源1側に向かって順に、支持基板100、配向膜200及び光学異方性層300が並ぶよう光学素子10を配置して測定した。すなわち、光学異方性層300側から観察したときの分子の配向角を表側の配向角とし、支持基板110側から観察したときの分子の配向角を裏側の配向角とした。
【0110】
<重ね露光した領域C、D及びEの分子配向(配向角)の測定>
図26は、実施例1の光学素子の、重ね露光した領域を示す顕微鏡観察写真である。
図26に示す重ね露光した領域C、D及びEのそれぞれの領域について、重ね露光していない領域A及びBと同様に、表側の分子配向及び裏側の分子配向を測定した。
【0111】
<分子配向(配向角)の測定結果>
重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEのそれぞれについて、表側の分子配向、裏側の分子配向、及び、表側の分子配向と裏側の分子配向との差を下記表1及び
図27に示す。
図27は、実施例1の光学素子の重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEにおける、表側の分子配向と裏側の分子配向との差を示すグラフである。
【0112】
【0113】
表1及び
図27に示すように、重ね露光をしていない領域A及びBでは、いずれも、表側の分子配向と裏側の分子配向との差が0.10°未満と小さかった。すなわち、重ね露光をしていない領域では、
図28に示すように、重合性液晶材料(異方性分子310)が光学異方性層300の膜厚方向に一様に配列していることが分かった。
図28は、実施例1の光学素子の、重ね露光していない領域を示す断面模式図である。なお、表側の分子配向と裏側の分子配向との差が0.10°以上となる場合、重合性液晶材料(異方性分子310)は、光学異方性層300の膜厚方向に一様配向ではなく、一部捩れ配向していると判断することができる。
【0114】
表1及び
図27に示すように、重ね露光した領域C、D及びEでは、重ね露光していない領域A及びBと異なり、表側の分子配向と裏側の分子配向との差が0.1°以上となることが分かった。この現象は、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に一様に配向していないために起こると考えられる。すなわち、重ね露光した領域C、D及びEでは、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に一部捩れ配向していると考えられる。
【0115】
図23~
図27より、実施例1の光学素子10が備える光学異方性層300は、異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向していない領域(重ね露光していない領域A及びB)及び異方性分子310が光学異方性層300の膜厚方向に沿って捩れ配向している領域(重ね露光した領域C、D及びE)を交互に備えることが分かった。
【0116】
<重ね露光していない領域A及びBの消偏性の評価>
図29は、実施例1の光学素子の中心部の「暗の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
図30は、実施例1の光学素子の中心部の「明の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
図30は、第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、第1の偏光板及び第2の偏光板を
図29から45°回転させたときの、実施例1の光学素子10の偏光顕微鏡観察写真である。
【0117】
重ね露光していない領域A及びBのそれぞれについて消偏性を評価した。具体的には、光学異方性層300の中心部(重ね露光していない領域)、重ね露光していない領域A及び領域Bにおけるコントラストを測定し、重ね露光していない領域Aのコントラストと光学異方性層300の中心部のコントラストとの差から領域Aの消偏性を評価した。同様に、重ね露光していない領域Bのコントラストと光学異方性層300の中心部のコントラストとの差から領域Bの消偏性を評価した。
【0118】
光学素子10の中心部のコントラストの測定は、次のように行った。
図21に示す並び、すなわち、光学異方性層300の表側の分子配向を測定する並びとなるように光学素子10を偏光顕微鏡に配置した。偏光顕微鏡で実施例1の光学素子10の中心部を観察し、第1の偏光板2及び第2の偏光板3のクロスニコル配置を維持しながら、第1の偏光板2及び第2の偏光板3の吸収軸を回転させ、
図29に示すように最も暗くなったときの光の強度を「暗の強度」として測定し、
図30に示すように最も明るくなったときの光の強度を「明の強度」として測定した。更に、中心部の「明の強度」を「暗の強度」で除することにより、中心部のコントラストを求めた。
【0119】
ここで、偏光板の吸収軸と光学異方性層300の遅相軸とが直交する、又は、平行であるとき、クロスニコルに配置された第1の偏光板2及び第2の偏光板3を透過する光は
図29に示すように最も暗くなった。また、偏光板の吸収軸と光学異方性層300の遅相軸とが45°の角度をなすとき、クロスニコルに配置された第1の偏光板2及び第2の偏光板3を透過する光は
図30に示すように最も明るくなった。
図29における第1の偏光板2の吸収軸は0°、
図30における第1の偏光板2の吸収軸は45°であった。
【0120】
中心部と同様に、重ね露光していない領域A及びBについても、それぞれ、「暗の強度」及び「明の強度」を測定し、コントラストを求めた。
【0121】
中心部(重ね露光していない領域)のコントラストをリファレンスとして、重ね露光していない領域Aのコントラストと中心部のコントラストの差、及び、重ね露光していない領域Bのコントラストと中心部のコントラストの差を求めて、重ね露光していない領域の消偏性を評価した。
【0122】
<重ね露光した領域C、D及びEの消偏性の評価>
図31は、実施例1の光学素子の重ね露光した領域Cの「暗の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
図32は、実施例1の光学素子の重ね露光した領域Cの「明の強度」の測定方法について説明する偏光顕微鏡観察写真である。
図32は、第1の偏光板及び第2の偏光板のクロスニコル配置を維持した状態で、第1の偏光板及び第2の偏光板を
図21から45°回転させたときの、実施例1の光学素子10の偏光顕微鏡観察写真である。
【0123】
重ね露光していない領域A及びBと同様に、重ね露光した領域C、D及びEのそれぞれについて消偏性を評価した。具体的には、偏光顕微鏡で実施例1の光学素子10の重ね露光した領域Cを観察し、第1の偏光板2及び第2の偏光板3のクロスニコル配置を維持しながら、第1の偏光板2及び第2の偏光板3の吸収軸を回転させ、
図31に示すように最も暗くなったときの光の強度を「暗の強度」として測定し、
図32に示すように最も明るくなったときの光の強度を「明の強度」として測定した。
【0124】
更に、重ね露光した領域Cの「明の強度」を「暗の強度」で除することにより、重ね露光した領域Cのコントラストを求めた。重ね露光した領域D及びEについても同様にコントラストを求めた。
【0125】
中心部(重ね露光していない領域)のコントラストをリファレンスとして、重ね露光した領域Cのコントラストと中心部のコントラストの差、重ね露光した領域Dのコントラストと中心部のコントラストの差、及び、重ね露光していない領域Eのコントラストと中心部のコントラストの差を求めて、重ね露光した領域の消偏性を評価した。
【0126】
<消偏性の評価結果>
重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEの消偏性を下記表2及び
図33に示す。
図33は、実施例1の光学素子の重ね露光していない領域A及びB、並びに、重ね露光した領域C、D及びEにおける消偏性を示すグラフである。
【0127】
【0128】
重ね露光していない領域A及びBでは、光学素子10の中心部のコントラストとの差が0.4程度と小さく、消偏性にバラツキはなかった。一方、重ね露光した領域C、D及びEでは、重ね露光していない領域A及びBと比較して、光学素子10の中心部のコントラストとの差が大きいことが分かった。この結果より、重ね露光をした領域と重ね露光していない領域との間で、消偏性に差が生じることが分かった。これは、
図34に示すように、光配向膜に照射する偏光UVの条件が、重ね露光をするかどうかで異なるために、配向膜の配向規制力に差が生じるためであると考えられる。よって、消偏性の異なる領域を有することが、重ね露光で作製した光学素子(PBOE)のと特徴であることが分かった。
図34は、重ね露光と配向規制力との関係を説明する模式図である。
【0129】
図29~
図34より、実施例1の光学素子10が備える光学異方性層300は、消偏性が0以上、1未満である領域と、消偏性が1以上、10以下である領域とを交互に備えることが分かった。
【0130】
<回折効率の測定(実測)>
図35は、実施例1の光学素子の偏光顕微鏡観察写真、及び、実施例1の光学素子の作製に用いたなマスクの断面模式図を示す図である。
図36は、回折効率の測定方法を示す模式図である。
【0131】
図35に示す実施例1の光学素子10について、回折効率を測定した。回折効率の測定は、
図36に示す構成で行い、波長532nmのレーザー光源を使用した。ここで、回折効率の測定では、レーザー光源から発せられた光は、まず、円偏光板を通過して円偏光となり光学素子10へと出射される。光学素子10の外周部を透過した光のうち、主要光は焦点に向かっていく。一方、0次光などの不要光は主要光とは異なる方向に回折する。回折効率は、下記(式1)により定義される。
【0132】
【0133】
そこで、
図36に示す第1の測定点及び第2の測定点で光強度を測定し、第1の測定点での光強度を全透過光強度、第2の測定点での光強度を主要光強度とし、当該測定値から上記(式1)を用いて回折効率を算出した。その結果、
図35に示すように分子配向の種類が8種類である実施例1の光学素子10の回折効率(実測値)は95%であった。
【0134】
<回折効率の計算>
図37は、参考例の光学素子の回折効率を計算する際に用いた分子配向を示す図である。実施例1の光学素子10の8種類の分子配向は、
図37に示す参考例のようにモデル化することができる。そこで、
図37に示す分子配向に基づいて、参考例の光学素子の回折効率をシミュレーションにより求めた。シミュレーションに用いた光学素子は、
図37に示すように、0°、22.5°、45°、67.5°、90°、112.5°、135°及び157.5°の8種類の分子配向を有する1次元回折格子であった。
【0135】
光学素子(PBOE)の回折効率は分子配向が決まれば、フラウンフォーファー回折を利用して計算することができる。回折効率ηの計算式は下記(式2)である。下記(式2)におけるΛはx軸上の周期、Φ(x)は
図37の分子配向を示す。ここで、光学素子であるPBOEはx軸方向に周期的な分子配向をもつ。この周期をΛ[m]とする。Λは回折角に影響するが回折効率に影響しないため、本件の計算では適当な値に定めた。
【0136】
【0137】
上記(式2)により求めた参考例の光学素子の回折効率(計算値)は、95%であった。
【0138】
<回折効率の実測値及び計算値の評価>
実施例1の光学素子の回折効率の実測値及び参考例の光学素子の回折効率の計算値を下記表3に示す。
【0139】
【0140】
表3より、8種類の分子配向を有する実施例1の光学素子10の回折効率の実測値は、参考例の光学素子の回折効率の計算値と一致することが確認された。実施例1のような8種類の分子配向を有する光学素子10の作製には、本来8枚のマスクが必要であるが、実施例1では4枚のマスクで同等の性能を実現できることが分かった。
【0141】
(実施例2~5)
図38は、2種類の分子配向を有する実施例2の光学素子の分子配向を示す図である。
図39は、3種類の分子配向を有する実施例3の光学素子の分子配向を示す図である。
図40は、4種類の分子配向を有する実施例4の光学素子の分子配向を示す図である。
図41は、6種類の分子配向を有する実施例5の光学素子の分子配向を示す図である。
図42は、実施例1~実施例5の光学素子の回折効率を示すグラフである。
【0142】
実施例1の回折効率の計算と同様の方法を用いて、
図38~
図41に示す実施例2~5の光学素子の回折効率を計算し、分子配向の種類と回折効率(計算値)との関係を検討した。
図38に示す実施例2の光学素子は、0°及び90°の2種類の分子配向を有していた。
図39に示す実施例3の光学素子は、0°、60°及び120°の3種類の分子配向を有していた。
図40に示す実施例4の光学素子は、0°、45°、90°及び135°の4種類の分子配向を有していた。
図41に示す実施例5の光学素子は、0°、30°、60°、90°、120°及び150°の6種類の分子配向を有していた。実施例2~5の光学素子の回折効率の計算結果を、下記表4及び
図42に示す。
【0143】
【0144】
上記表4及び
図42に示すように、分子配向の種類が4種類以上である場合、80%以上の特に高い回折効率を実現することができた。