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特開2024-9934細胞ゲノムにおける、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009934
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】細胞ゲノムにおける、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20240116BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240116BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240116BHJP
   C12N 9/22 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240116BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20240116BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20240116BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240116BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N15/09 110
C12N5/071 ZNA
C12N5/10
C12Q1/68
C12N9/22
A61K48/00
A61K35/12
A61K35/545
A61P43/00 111
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176087
(22)【出願日】2023-10-11
(62)【分割の表示】P 2019554497の分割
【原出願日】2017-12-20
(31)【優先権主張番号】62/437,042
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391015708
【氏名又は名称】ブリストル-マイヤーズ スクイブ カンパニー
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL-MYERS SQUIBB COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ネイサン・フェダー
(72)【発明者】
【氏名】チィ・グオ
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・アレン・ミンティア
(57)【要約】      (修正有)
【課題】細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法を提供する。
【解決手段】細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:(a)細胞に:(i)ヌクレアーゼ;および(ii)ゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入すること、および(b)細胞を、37℃から、より低温への温度シフトに供すること、を含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く、方法、を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:
(a)細胞に:(i)ヌクレアーゼ;および(ii)ゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入すること、および
(b)細胞を、37℃から、より低温への温度シフトに供すること
を含み、
ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く、方法。
【請求項2】
該より低温が、28℃~35℃の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
該より低温が、30℃~33℃の間である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
細胞を、少なくとも24時間、該より低温で増殖させる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞が、哺乳類細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞が、幹細胞、誘導多能性幹細胞(iPSC)、または初代細胞から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ヌクレアーゼが、CasヌクレアーゼまたはCpf1ヌクレアーゼから選択されるCRISPRヌクレアーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
ヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
CRISPRヌクレアーゼが、sgRNAと共に、DNA形式またはRNA形式のいずれかで、細胞に導入される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
sgRNAが、合成であり、かつ、化学的に修飾されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
Cas9ヌクレアーゼおよびsgRNAをコードするDNAが細胞に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
sgRNA/Cas9RNPが細胞に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
sgRNA/Cas9mRNAが細胞に導入される、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
ドナー核酸が、対称性のホモロジーアームを含有し、ヌクレアーゼにより切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
相同組換え修復(HDR)率が、少なくとも1.5倍上昇している、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
請求項1に記載の方法により生産された細胞。
【請求項17】
請求項16に記載の細胞を含む、医薬組成物。
【請求項18】
目的のたんぱく質を、それを必要とする対象に提供する方法であって:
(a)請求項1に記載の方法に従い、目的のたんぱく質をコードするドナー核酸を、細胞に導入すること;および
(b)該細胞を対象に導入して、目的のたんぱく質を対象において発現させること、
を含む、方法。
【請求項19】
細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:細胞に、(i)ヌクレアーゼ、および(ii)対称性のホモロジーアームを含み、ヌクレアーゼにより切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的であり、切断部位から10塩基対を超えて離れてゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入することを含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く、方法。
【請求項20】
さらに、細胞を、37℃から、より低温への温度シフトに供することを含む、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の参照
本出願は、2016年12月20日に出願された、米国仮特許出願第62/437,042号の利益を主張するものであり、該仮出願は、あらゆる目的のために、その全体が本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
ゲノム配列のDNA標的切断についての様々な方法が、当業界で記載されている。これらの標的切断事象を用いて、標的突然変異誘発を誘導し、細胞DNA配列の標的欠失を誘導し、所定の染色体遺伝子座での標的組換えを促進することができる。これらの方法は、しばしば、非相同末端結合(NHEJ)または相同組換え修復(homology directed repair、HDR)などのエラー発生プロセスによる切断の修復が、遺伝子の不活性化または目的の外来性配列の挿入をもたらし得るように、標的DNA配列中に2本鎖切断(DSB)またはニックを誘導するための、操作された切断システムの使用を包含する。特異的切断をガイドするように操作されたシングルガイドRNA(sgRNA)と共にCRISPR/Casシステムを用いて、操作されたZnフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)などの、特異的ヌクレアーゼを使用することによって切断が起こり得る。
【0003】
HDRプロセスによる特異的標的位置でのゲノム修飾の効率は、細胞内では比較的低い。従って、細胞ゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法が、依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明の概要
ある実施形態において、本発明は、細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:(a)細胞に、(i)ヌクレアーゼ、および(ii)ゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入すること、および、(b)細胞を、37℃から、より低温への温度シフトに供することを含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く方法を、提供する。例えば、相同組換え修復(HDR)率は、少なくとも1.5倍上昇している。場合により、相同組換え修復(HDR)率は、少なくとも2倍上昇している。
【0005】
ある局面において、該より低温は、28℃~32℃の間である。場合により、該より低温は、30℃~33℃の間である。例えば、細胞を、少なくとも24時間、または少なくとも48時間、例えば、1~5日間(1日、2日、3日、4日、または5日間)、該より低温で増殖させる。場合により、細胞を、温度シフト後に37℃で増殖させる。
【0006】
ある局面において、細胞は、哺乳類細胞などの、真核細胞である。特定の実施形態において、細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)などの、幹細胞である。別の特定の実施形態において、細胞は、初代細胞である。
【0007】
ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼには、全てのDNA配列特異的エンドヌクレアーゼ、またはRNAガイドDNAエンドヌクレアーゼが含まれる。場合により、ヌクレアーゼは、CasヌクレアーゼまたはCpf1ヌクレアーゼから選択されるCRISPRヌクレアーゼである。例えば、ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。例示すると、CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9)は、DNA形式(例えば、Cas9ヌクレアーゼおよびsgRNAをコードするDNA)で、または、RNA形式(例えば、sgRNA/Cas9RNPまたはsgRNA/Cas9mRNA)で、sgRNAと共に細胞に導入される。場合により、sgRNAは、合成であり、かつ、化学的に修飾されている。ある局面において、ドナー核酸は、対称性のホモロジーアームを含有する。場合により、ドナー核酸は、ヌクレアーゼによって切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的である。
【0008】
ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である。他のある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、TALEヌクレアーゼ(TALEN)である。
【0009】
ある実施形態において、本発明は、上記の方法により生産された単離細胞を提供する。
【0010】
ある実施形態において、本発明は、上記の方法により生産された単離細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0011】
ある実施形態において、本発明は、目的のたんぱく質を、それを必要とする対象に提供する方法であって:(a)目的のたんぱく質をコードするドナー核酸を、上記の方法に従い、細胞に導入すること;および(b)該細胞を対象に導入して、目的のたんぱく質を対象において発現させること、を含む方法を、提供する。
【0012】
ある実施形態において、本発明は、細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:細胞に、(i)ヌクレアーゼ;および(ii)対称性のホモロジーアームを含み、ヌクレアーゼにより切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的であり、切断部位から10塩基対を超えて離れてゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入することを含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く方法を、提供する。例えば、相同組換え修復(HDR)率が、少なくとも1.5倍、または少なくとも2倍上昇している。場合により、本方法はさらに、細胞を、37℃から、より低温(例えば、28℃~35℃の間、または30℃~33℃の間)への温度シフトに供することを含む。例えば、細胞を、少なくとも24時間、または少なくとも48時間、例えば、1~5日間(1日、2日、3日、4日、または5日間)、該より低温で増殖させる。場合により、細胞を、温度シフト後に37℃で増殖させる。ある局面において、細胞は、哺乳類細胞などの、真核細胞である。特定の実施形態において、細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)などの、幹細胞である。別の特定の実施形態において、細胞は、初代細胞である。ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、CasヌクレアーゼまたはCpf1ヌクレアーゼから選択されるCRISPRヌクレアーゼである。例えば、ヌクレアーゼが、Cas9ヌクレアーゼである。例示すると、CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9)は、DNA形式(例えば、Cas9ヌクレアーゼおよびsgRNAをコードするDNA)で、または、RNA形式(例えば、sgRNA/Cas9RNPまたはsgRNA/Cas9mRNA)で、sgRNAと共に細胞に導入される。ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である。他のある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、TALEヌクレアーゼ(TALEN)である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1a~図1bは、CAMK2D遺伝子座での遺伝子編集および変異検出のための、1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)ドナーデザイン、droplet digital PCRプローブおよびプライマーデザインを示している。(a)2つのガイドRNA(CAMK-CR1およびCAMK-CR2)を、CAMK2D Exon2を特異的に標的とするようにデザインし、CAMK-CR1およびCAMK-CR2は14ヌクレオチド重複しており、DNAを切断してHDRにより同じ配列変更を導入するようにデザインした。(b)2つのssODN HDRドナー(C-CR2およびC-CR2-Asym)を、キナーゼノックアウトK43R変異(AAAからAGG)および4つのサイレント変異を、CAMK2D遺伝子座のExon2に導入するように、デザインした。ssODNドナーC-CR2は、(+)鎖のHDRドナーであり、目的の変異の両側にバランスの取れたホモロジーアームを持つ(それぞれ5’-73ntおよび3’-72nt)。C-CR2-Asymは、(-)鎖のHDRドナーであり、長さの異なるホモロジーアームを有し(それぞれ5’-93ntおよび3’-36nt)、ガイドRNA非標的鎖に相補的である。後の再切断を防ぐために、ドナーオリゴC-CR2とC-CR2-Asymの両方が、ガイドCAMK-CR1認識部位内に3つのサイレント変異を、かつPAM部位内に1つのサイレント変異を導入する。C-CR2およびC-CR2-Asymが、ガイドCAMK-CR2認識部位内に、4つのサイレント変異を導入する。一対のプライマー、およびVicまたはFamフルオロフォアをコンジュゲートした対立遺伝子特異的プローブもまた、未変更の野生型対立遺伝子および変異配列変換事象をそれぞれ検出するようにデザインした。適切な遺伝子座が確実に増幅されるように、フォワードプライマーは、ドナー配列内でアニールするようにデザインし、一方リバースプライマーは、ドナー配列の外側でアニールするようにデザインした。
【0014】
図2図2a~図2cは、mc-iPSCのCAMK2D遺伝子座でのHDRを実行するための、1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)ドナーおよびsgRNA/Cas9mRNAの、同時送達のための、最適化された方法を示している。EditPro(登録商標)RNAトランスフェクション試薬を用いて、sgRNA CAMK-CR1またはCAMK-CR2、Cas9mRNAおよびssODNドナーC-CR2を、mc-iPSCに同時トランスフェクトした。(a)トランスフェクト細胞由来の野生型対立遺伝子および変異対立遺伝子のパーセントを、野生型対立遺伝子特異的蛍光プローブ(VIC)および変異対立遺伝子特異的蛍光プローブ(FAM)を用いて、droplet digital PCR(ddPCR)によって検出した。サンプル中の各ドロップレットの蛍光強度をドロップレット数に対してプロットする。ピンクの閾値ラインを超える蛍光強度を有するドロップレットを、標的対立遺伝子についてポジティブとして、カウントする。下図(緑)は野生型対立遺伝子のドロップレットを表し、上図(青)はHDRが生じた対立遺伝子を表す。提示したデータは、最良の濃度10pmolのssODNで、2つのsgRNAを用いた、1回の代表的な実験によるものである。(b)変異対立遺伝子頻度の定量。データは、4回の独立した実験からの平均±SEMとして提示した。sgRNA CAMK-CR2は、全対立遺伝子の15%超で、一貫してHDRをもたらした。(c)ddPCR実験に用いたのと同じgRNAおよびドナーを用いた、次世代シーケンシングによる目的のヌクレオチド変化の定量。各バーは、ドナーオリゴに含まれる、6つのヌクレオチド変化のうちの1つを表す。データは、完全な配列変換が、標的領域にわたって、かつ、ddPCRの結果と一致した頻度で起こったことを示している。ddPCRによって直接測定されない2つのAからGへの変化もまた、CRISPR切断部位により近いAからGへの変化と比較してより低い頻度ではあるが、組み込まれていた。提示したデータは、4回の独立した実験からの、正確な各ゲノム座標における目的の塩基変化の平均パーセントである。
【0015】
図3図3a~図3bは、NGSによって決定される、mc-iPSCのCAMK2D遺伝子座でのHDR効率に対する、「低温ショック」およびssODN HDRドナーデザインの効果を示している。CAMK2D遺伝子座でのHDRを達成するために、様々な量のssODN C-CR2またはC-CR2-Asymを、Cas9mRNAおよびsgRNA CAMK-CR1またはCAMK-CR2と共に、mc-iPSCに送達した。実験は、「材料および方法」に記載されているように、24時間間隔での様々な温度で実施した:PL1:37℃-37℃-37℃、PL2:37℃-32℃-37℃、PL3:37℃-32℃-32℃。(a)各処置(C-TR2またはC-TR2-Asymを伴うCAMK-CR1、C-TR2またはC-TR2-Asymを伴うCAMK-CR2)について、10pmolのssODN HDRドナーを使用したHDR事象を、「材料および方法」に記載されているようにNGSによって決定した。提示したデータは、HDR事象の平均パーセント(C-CR2:3回の独立した実験からの8回の反復試験;C-CR2-Asym:2回の独立した実験からの6回の反復試験)である。HDRのタイプを、目的の変異の領域の周辺の得られた配列に基づいて、3つのグループに分類した。完全HDR:全ての目的の塩基変化が、再編集されたインデルを伴わず存在する。編集HDR:1つ以上の目的の塩基変化が、再編集されたインデルの存在と共に、存在する。部分的HDR:全部ではないがいくつかの目的の塩基変化が存在し、インデルを伴わない。データは、細胞を「低温ショックする」ことによってHDRの増加が達成できること、および増加の大部分が「完全HDR」カテゴリーであることを示している。各gRNAおよびssODN処置についての、3つの温度条件間の、HDR全体の効率の違いの有意性を、一元配置ANOVAにより解析した(全てのgRNAおよびssODN処置について一元配置ANOVA P<0.0001、フォローアップのダネット多重比較のP値は図に示している)。30pmolのssODNおよびオリゴなしの処置由来のHDRは、表4に示した。(b)各処置(C-TR2またはC-TR2-Asymを伴うCAMK-CR1、C-TR2またはC-TR2-Asymを伴うCAMK-CR2)の完全HDR事象をプロットして、2つのssODNデザイン間の完全HDR頻度を比較した。提示したデータは、完全HDR事象±SEMの平均パーセントである(2回の独立した実験からの、6回の生物学的反復試験)。各処置グループにおける、2つのssODNデザイン間の完全HDR頻度の違いを、スチューデントT検定により評価して、P値を図に示している。全ての温度条件に渡って、(+)鎖ssODN C-CR2は、(-)鎖ssODN C-CR2-Asymよりも、より多くの完全HDRを促進する。
【0016】
図4図4a~図4cは、TGFBR1遺伝子座での、遺伝子編集のための、ガイドRNAおよび1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)ドナーデザインを示す。(a)2つのガイドRNA TR-CR2およびTR-CR3を、TGFBR1 Exon4を特異的に標的とし、異なる配列変更をHDRにより導入するように、デザインした。TR-CR3は、TR-CR2の39ヌクレオチド下流にある。(b)2つのssODN HDRドナー(T-CR2およびT-CR2-Asym)を、HDR変換された配列の再編集を防ぐために、ガイドRNA TR-CR2標的部位の12bp上流にサイレント変異を導入し、ガイドRNA認識配列内に3つのサイレント変異を導入するように、デザインした。T-CR2は、バランスの取れたホモロジーアームを、目的の変異の両側に有し(それぞれ、5’-73ntおよび3’-74nt)、ガイドRNA標的切断鎖に相補的な(+)鎖のHDRドナーである。T-CR2-Asymは、長さの異なるホモロジーアームを有し(それぞれ、5’-93ntおよび3’-36nt)、ガイドRNA非標的鎖に相補的な(-)鎖のHDRドナーである。(c)2つのssODNドナー(T-CR3およびT-CR3-Asym)を、HDR変換された配列の再編集を防ぐために、ガイドRNA TR-CR3標的部位の12bp上流に、既知のSNPを導入し、ガイドRNA認識配列内に2つのサイレント変異を、かつ、TR-CR3 PAM部位内に1つのサイレント変異を有するように、デザインした。T-CR3は目的の変異の両側に、バランスの取れた長さのホモロジーアーム(それぞれ5’-73ntと3’-72nt)を有し、ガイドRNA標的鎖に相補的な(+)鎖のHDRドナーである。T-CR3-Asymは目的の変異の両側に、バランスのとれていない長さのホモロジーアーム(それぞれ、5’-86ntおよび3’-36nt)を有し、ガイドRNA非標的鎖に相補的な(-)鎖のHDRドナーである。
【0017】
図5図5a~図5bは、mc-iPSCのTGFBR1遺伝子座でのHDR効率に対する、「低温ショック」およびssODN HDRドナーデザインの効果を示す。ssODN HDRドナーおよびsgRNAを、TGFBR1遺伝子座でのHDRを達成するために、Cas9mRNAと共に、mc-iPSC細胞に同時送達した。実験は、「材料および方法」に記載したように、24時間間隔での様々な温度で実施した:PL1:37℃-37℃-37℃、PL2:37℃-32℃-37℃、PL3:37℃-32℃-32℃、PL4:32℃-32℃-32℃。(a)各処置(T-TR2またはT-TR2-Asymを伴うTR-CR2、T-TR3またはT-TR3-Asymを伴うTR-CR3)について、10pmolのssODN HDRドナーを用いたHDR事象を、「材料および方法」に記載されているようにNGSによって決定した。提示したデータは、HDR事象の平均パーセンテージ(3回の独立した実験からの4回の反復試験)である。HDRのタイプを、目的の変異の領域の周辺の得られた配列に基づいて、3つのグループに分類した。完全HDR:全ての目的の塩基変化が、再編集されたインデルを伴わず存在する。編集HDR:1つ以上の目的の塩基変化が、再編集されたインデルの存在と共に、存在する。部分的HDR:全部ではないがいくつかの目的の塩基変化が存在し、インデルを伴わない。各gRNAおよびssODN処置についての、3つの温度条件間の、HDR全体の効率の違いの有意性を、一元配置ANOVAにより解析した(一元配置ANOVA P>0.05、フォローアップのダネット多重比較のP値は図に示している)。30pmolのssODNおよびオリゴなしの処置由来のHDRは、表5に示した。(b)各処置(T-TR2またはT-TR2-Asymを伴うTR-CR2、T-TR3またはT-TR3-Asymを伴うTR-CR3)についての、10pmolのssODN HDRドナーを用いた完全HDR事象をプロットして、2つのssODNデザイン間の完全HDR頻度を比較した。提示したデータは、完全HDR事象±SEMの平均パーセントである(4回の反復試験を伴う、3回の独立した実験)。各処置グループにおける、2つのssODNデザイン間の完全HDR頻度の違いを、スチューデントT検定により評価して、P値を図に示している。全ての温度条件に渡って、(+)ssODN鎖T-CR2およびT-CR3は、それぞれ、(-)ssODN鎖T-CR2-AsymおよびT-CR3-Asymよりも、より多くの完全HDRを促進する。
【0018】
図6図6は、「低温ショック」が、HEK293T細胞のCAMK2D遺伝子座でのHDR効率を高めることを示す。CAMK2D遺伝子座でのHDRを達成するために、mc-iPSCと同じトランスフェクション条件を用いて、様々な量のssODN C-CR2を、Cas9mRNAおよびsgRNA CAMK-CR1またはCAMK-CR2と共に、HEK293T細胞に送達した。実験は、「材料および方法」に記載されているように、24時間間隔での様々な温度で実施した:PL1:37°C-37°C-37°C、PL2:37°C-32°C-37°C、PL3:37°C-32°C-32°C。(a)各処置についての、10pmolのssODN HDRドナーを用いたHDR事象を、「材料および方法」に記載されているようにNGSによって決定した。データは、3回の反復試験による、HDR事象の平均パーセンテージとして提示した。HDRのタイプを、目的の変異の領域の周辺の得られた配列に基づいて、3つのグループに分類した。完全HDR:全ての目的の塩基変化が起こり、インデルはない。編集HDR:1つ以上の目的の塩基変化が起こるが、インデルがある。部分的HDR:全部ではないがいくつかの目的の塩基変化が起こり、インデルはない。各gRNAおよびssODN処置についての、3つの温度条件間の、HDR全体の効率の違いの有意性を、一元配置ANOVAにより解析した。(一元配置ANOVA:C-CR2を伴うCAMK-CR1、P=0.0041;C-CR2を伴うCAMK-CR2、P=0.0469;フォローアップのダネット多重比較のP値は図に示している)。30pmolのssODNおよびオリゴなしの処置由来のHDRは、表7に示した。
【0019】
図7図7a~図7cは、「低温ショック」後の、mc-iPSCの多能性マーカーの発現を示している。Mc-iPSCを、「補足の方法」に記載したように、24時間間隔での様々な温度で増殖させた。PL1:37℃-37℃-37℃、PL2:37℃-32℃-37℃、PL3:37℃-32℃-32℃。その後、細胞を、「補足の方法」に記載したように、多能性特異的抗体で染色した:(a)SSEA3(緑)、(b)Nanog(緑)および(c)OCT4(緑)。細胞はまた、Hoechstで共染色して、核を標識した(青)。
【0020】
図8図8は、NGSによって決定されるように、「低温ショック」が、mc-iPSCのCAMK2D遺伝子座でのHDR効率を高めることを示す。30pmolのssODN C-CR2を、CAMK2D遺伝子座でのHDRを達成するために、Cas9mRNAおよびsgRNA CAMK-CR1またはCAMK-CR2と共に、mc-iPSCに送達した。実験は、「材料および方法」に記載されているように、24時間間隔での様々な温度で実施した:PL1:37℃-37℃-37℃、PL2:37℃-32℃-37℃、PL3:37℃-32℃-32℃、PL4:32℃-30℃-37℃、PL5:37℃-30℃-30℃、PL6:37℃-28℃-37℃、PL7:37℃-28℃-28℃。(a)各処置についてのHDR事象を、「材料および方法」に記載されているようにNGSによって決定した。提示したデータは、2回の反復試験によるHDR事象の平均パーセントである。HDRのタイプを、目的の変異の領域の周辺の得られた配列に基づいて、3つのグループに分類した。完全HDR:全ての目的の塩基変化が、再編集されたインデルを伴わず存在する。編集HDR:1つ以上の目的の塩基変化が、再編集されたインデルの存在と共に、存在する。部分的HDR:全部ではないがいくつかの目的の塩基変化が存在し、インデルを伴わない。オリゴなしの処置における、編集HDRおよび部分的HDR配列のパーセンテージの低さは、次世代シーケンシングに関するバックグラウンドエラー率を表す。オリゴなしの処置においては、完全HDRは検出されなかった。データは、細胞を「低温ショックする」ことによってHDRの増加が達成できること、および増加の大部分が「完全HDR」カテゴリーにあることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明の詳細な説明
ある局面において、本発明は、CRISPR/Cas9技術を用いるなどにより、細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法に関する。実施例に記載されているように、出願人らは、トランスフェクション後に、より低温で、細胞を「低温ショックする」ことによって、細胞(例えば、PSCおよびHEK293細胞)において、低いHDR率(1~20%)が、2~10倍高められることを実証した。本方法はまた、CRISPR切断部位からより遠位にあるヌクレオチドがあまり効率的に組み込まれない、部分配列変換(「部分HDR」)とは対照的に、ドナー配列にわたって完全な配列変換を生じた遺伝子座、すなわち「完全HDR」の割合を増加させる。また、実施例において、1本鎖DNAオリゴドナーの構造がHDRの忠実度に大きく影響し得、CRISPR切断部位に関して対称性であり、標的鎖に相補的であるオリゴが、非対称性の非標的鎖相補的オリゴと比較して、「完全HDR」を導く上でより効率的であることが示された。
【0022】
ある実施形態において、本発明は、細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:(a)細胞に、(i)ヌクレアーゼ、および(ii)ゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入すること、および、(b)細胞を、37℃から、より低温への温度シフトに供することを含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く方法を、提供する。例えば、相同組換え修復(HDR)率は、少なくとも1.5倍上昇している。場合により、相同組換え修復(HDR)率は、少なくとも2倍上昇している。
【0023】
ある局面において、該より低温は、28℃~32℃の間である。場合により、該より低温は、30℃~33℃の間である。例えば、細胞を、少なくとも24時間、または少なくとも48時間、例えば、1~5日間(1日、2日、3日、4日、または5日間)、該より低温で増殖させる。場合により、細胞を、温度シフト後に37℃で増殖させる。
【0024】
ある局面において、細胞は、哺乳類細胞などの、真核細胞である。特定の実施形態において、細胞は、誘導多能性幹細胞(iPSC)などの、幹細胞である。別の特定の実施形態において、細胞は、初代細胞である。別の特定の実施形態において、細胞は植物細胞である。
【0025】
ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼには、全てのDNA配列特異的エンドヌクレアーゼ、またはRNAガイドDNAエンドヌクレアーゼが含まれる。場合により、ヌクレアーゼは、CasヌクレアーゼまたはCpf1ヌクレアーゼから選択されるCRISPRヌクレアーゼである。例えば、ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼである。例示すると、CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Cas9)は、DNA形式(例えば、Cas9ヌクレアーゼおよびsgRNAをコードするDNA)で、または、RNA形式(例えば、sgRNA/Cas9RNPまたはsgRNA/Cas9mRNA)で、sgRNAと共に細胞に導入される。場合により、sgRNAは、合成であり、かつ、化学的に修飾されている。ある局面において、ドナー核酸は、対称性のホモロジーアームを含有する。場合により、ドナー核酸は、ヌクレアーゼによって切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的である。
【0026】
ある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)である。他のある局面において、本発明で用いられるヌクレアーゼは、TALEヌクレアーゼ(TALEN)である。
【0027】
ある実施形態において、本発明は、上記の方法により生産された単離細胞を提供する。
【0028】
ある実施形態において、本発明は、上記の方法により生産された単離細胞を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
ある実施形態において、本発明は、目的のたんぱく質を、それを必要とする対象に提供する方法であって:(a)目的のたんぱく質をコードするドナー核酸を、上記の方法に従い、細胞に導入すること;および(b)該細胞を対象に導入して、目的のたんぱく質を対象において発現させること、を含む方法を、提供する。
【0030】
ある実施形態において、本発明は、細胞のゲノムにおいて、相同組換え修復(HDR)の効率を上昇させるための方法であって:細胞に(i)ヌクレアーゼ;および(ii)対称性のホモロジーアームを含み、ヌクレアーゼにより切断されるゲノム内のDNA鎖と相補的であり、切断部位から10塩基対を超えて離れてゲノムに挿入されるべき修飾配列を含むドナー核酸を、導入することを含み、ヌクレアーゼが、細胞において切断部位でゲノムを切断し、ドナー核酸が、上昇したHDR率によって、修飾配列によるゲノム配列の修復を導く方法を、提供する。例えば、相同組換え修復(HDR)率が、少なくとも1.5倍、または少なくとも2倍上昇している。場合により、本方法はさらに、細胞を、37℃から、より低温(例えば、28℃~35℃の間、または30℃~33℃の間)への温度シフトに供することを含む。例えば、細胞を、少なくとも24時間、または少なくとも48時間、例えば、1~5日間(1日、2日、3日、4日、または5日間)、該より低温で増殖させる。
【0031】
I.定義
本開示を、より容易に理解し得るように、特定の用語を最初に定義する。本出願で使用されている際は、本明細書で他に明示的に提供されている場合を除いて、以下の用語のそれぞれは、以下に記載の意味を有するものとする。さらなる定義を、本出願を通して記載する。
【0032】
「核酸」、「ポリヌクレオチド」および「オリゴヌクレオチド」は、互換的に用いられ、直鎖状または環状の、および1本鎖または2本鎖形態のいずれかの、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドポリマーを指す。
【0033】
用語「ポリヌクレオチド」「ペプチド」および「たんぱく質」は、互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。
【0034】
「ZnフィンガーDNA結合たんぱく質」(または結合ドメイン)は、たんぱく質、またはより大きいたんぱく質内のドメインで、亜鉛イオンの配位により構造が安定化する結合ドメイン内のアミノ酸配列の領域である、1つ以上のZnフィンガーを介して配列特異的にDNAに結合する。ZnフィンガーDNA結合たんぱく質という用語は、しばしば、Znフィンガーたんぱく質またはZFPとして、略される。
【0035】
「TALE DNA結合ドメイン」または「TALE」は、1つ以上のTALEリピートドメイン/ユニットを含むポリペプチドである。リピートドメインは、TALEの、同族のDNA配列への結合に関与している。単一の「リピートユニット」(「リピート」とも呼ばれる)は、典型的には33~35アミノ酸長であり、天然のTALEたんぱく質内の他のTALEリピート配列に、少なくともいくらかの配列相同性を示す。
【0036】
用語「CRISPR/Cas9システム」または「Cas9システム」という用語は、多くのDNA修復経路のうちの1つによって標的核酸を変更することができるシステムを指す。ある実施形態において、本明細書で記載されるCas9システムは、HDR経路を介した標的核酸の修復を促進する。いくつかの実施形態において、Cas9システムは、gRNA分子およびCas9分子を含む。いくつかの実施形態において、Cas9システムはさらに、第2のgRNA分子を含む。
【0037】
本明細書で用いられる「Cas9分子」または「Cas9ヌクレアーゼ」は、Cas9ポリペプチド、またはCas9ポリペプチドをコードする核酸を指す。「Cas9ポリペプチド」は、gRNA分子と相互作用することができ、gRNA分子と協調して、標的ドメインを含む部位に局在化することができ、ある実施形態においてはPAM配列に局在化することができる、ポリペプチドである。Cas9分子は、天然のCas9分子、操作、変更、または修飾されたCas9分子と、参照CAs9配列、例えば天然のCas9分子から、例えば少なくとも1つのアミノ酸残基が異なるCas9ポリペプチドとの両方を含む。本文脈で用いられる「変更、操作、または修飾された」という用語は、単に参照または天然のCas配列からの違いを指すだけであり、特定のプロセスまたは由来の制限を課すものではない。Cas9分子は、ヌクレアーゼ(2本鎖核酸の両方の鎖を切断する酵素)またはニッカーゼ(2本鎖核酸の一方の鎖を切断する酵素)であってよい。
【0038】
本明細書で用いられる場合、「gRNA分子」または「gRNA」は、Cas9分子を標的核酸に標的化させることができる、ガイドRNAを指す。一実施形態において、「gRNA分子」という用語は、ガイドリボ核酸を指す。別の実施形態において、「gRNA分子」という用語は、gRNAをコードする核酸を指す。一実施形態において、gRNA分子は非天然である。一実施形態において、gRNA分子は、合成gRNA分子である。別の実施形態において、gRNA分子は、化学的に修飾されている。
【0039】
「鋳型核酸」、「ドナー核酸」または「ドナーポリヌクレオチド」は、ヌクレアーゼ(例えば、Cas9分子)と組み合わせて用いて、標的位置の構造を変更することができる、核酸配列を指す。一つの実施形態において、鋳型核酸は、鋳型核酸のいくつかまたは全ての配列を有するように、典型的には切断部位またはその近傍で、修飾される。一つの実施形態において、鋳型核酸は1本鎖である。代替の実施形態において、鋳型核酸は2本鎖である。一つの実施形態において、鋳型核酸はDNAであり、例えば、2本鎖DNAである。代替の実施形態において、鋳型核酸は1本鎖DNAである。一つの実施形態において、鋳型核酸はRNAであり、例えば2本鎖RNAまたは1本鎖RNAである。一実施形態において、鋳型核酸は外来性核酸配列である。別の実施形態において、鋳型核酸配列は、内在性核酸配列、例えば、内在性相同領域である。一実施形態において、鋳型核酸は、核酸配列のプラス鎖に対応する、1本鎖オリゴヌクレオチドである。別の実施形態において、鋳型核酸は、核酸配列のマイナス鎖に対応する、1本鎖オリゴヌクレオチドである。
【0040】
「相同組換え修復」または「HDR」は、相同核酸(例えば、内在性相同配列、例えば、姉妹染色分体、または外来性核酸、例えば、鋳型核酸)を用いて、細胞内でDNA損傷を修復するプロセスを指す。古典的HDRは、典型的には、2本鎖切断で重大な切除があった場合に作用し、DNAの少なくとも1つの1本鎖部分を形成する。正常細胞では、HDRは典型的には、切断の認識、切断の安定化、切除、1本鎖DNAの安定化、DNA交差中間体の形成、交差中間体の分解、および連結などの一連のステップを包含する。
【0041】
「非相同末端結合」または「NHEJ」は、古典的NHEJ(cNHEJ)、代替的NHEJ(altNHEJ)、マイクロホモロジー媒介末端結合(MMEJ)、1本鎖アニーリング(SSA)、および合成依存的マイクロホモロジー媒介末端結合(SD-MMEJ)を含む、ライゲーション媒介修復および/または非鋳型媒介修復を指す。
【0042】
「組換え」は、2つのポリヌクレオチド間の遺伝子情報の交換プロセスを指し、非相同末端結合(NHEJ)および相同組換えによるドナー捕捉を含むが、これらに限定されない。「相同組換え(HR)」は、例えば、相同組換え修復メカニズムを介して、細胞における2本鎖切断の修復中におこる、当該交換の特殊形態を指す。本プロセスは、ヌクレオチド配列相同性を必要とし、「標的」分子の鋳型修復に「ドナー」分子を使用して、ドナーから標的への遺伝子情報の移行をもたらす。この移行は、破壊された標的とドナーとの間に形成するヘテロ2本鎖DNAのミスマッチ修正、および/または標的の一部となるであろう遺伝子情報を再合成するためにドナーが使用される「合成依存的鎖アニーリング」、および/または関連するプロセスを包含し得る。この特殊なHRはしばしば、ドナーポリヌクレオチドの配列の一部または全部が、標的ポリヌクレオチドに組み込まれるように、標的分子の配列の変更をもたらす。
【0043】
本開示の方法において、本明細書で記載されるヌクレアーゼは、標的配列(例えば、細胞クロマチン)において、所定の認識部位で2本鎖切断を作成し、切断領域のヌクレオチド配列に相同性を有する「ドナー」ポリヌクレオチドを、細胞に導入することができる。2本鎖切断の存在は、ドナーポリヌクレオチドによるゲノム配列の修復を促進することが示されている。ドナーポリヌクレオチドは、物理的に組み込まれ得るか、あるいは、ドナーポリヌクレオチドは、相同組換えを介した切断の修復用の鋳型として用いられ、ドナーにおけるように、ヌクレオチド配列の全部または一部が、細胞クロマチンに導入される。したがって、細胞クロマチンにおける第一の配列は、変更することができ、ある実施形態においては、ドナーポリヌクレオチドに存在する配列に変換させることができる(本明細書では、「修飾配列」と呼ばれる)。したがって、「置換する」または「置換」という用語の使用は、あるヌクレオチド配列の別の配列による置換を表すと理解され得、必ずしもあるポリヌクレオチドの別のヌクレオチドによる物理的または化学的置換を必要としない
【0044】
II.ヌクレアーゼ
本発明の方法は、鋳型核酸(導入遺伝子)が、標的化様式でゲノム配列の修復を導くように、細胞のゲノムの切断のためにヌクレアーゼを利用する。ある実施形態において、ヌクレアーゼは天然である。他の実施形態において、ヌクレアーゼは非天然であり、例えば、天然の野生型ヌクレアーゼの、操作または修飾されたバージョンである。
【0045】
ヌクレアーゼには、Casたんぱく質、DNA配列特異的エンドヌクレアーゼ、RNAガイドDNAエンドヌクレアーゼ(例えば、Cpf1)、制限エンドヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼ、TALエフェクターヌクレアーゼ、およびZnフィンガーヌクレアーゼが含まれるが、これらに限定されない。例示的ヌクレアーゼには、タイプI、タイプII、タイプIII、タイプIV、およびタイプVエンドヌクレアーゼが含まれるが、これらに限定されない。例えば、ヌクレアーゼは、CRISPRヌクレアーゼ(例えば、Casヌクレアーゼ、またはCpf1ヌクレアーゼ)である。いくつかの特定の実施形態において、ヌクレアーゼはCas9であり、例えば、細菌(例えば、化膿性連鎖球菌(S.pyogenes)、肺炎球菌(S.pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、またはストレプトコッカス・サーモフィルス(S.thermophilus))からクローニングされた、またはこれら細菌由来の、Cas9である。
【0046】
ある実施形態において、ヌクレアーゼは、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムである。該システムのRNA要素をコードするCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)遺伝子座、およびたんぱく質をコードするcas(CRISPR-associated)遺伝子座(Jansen et al., 2002. Mol. Microbiol. 43: 1565-1575; Makarova et al., 2002. Nucleic Acids Res. 30: 482-496; Makarova et al., 2006. Biol. Direct 1: 7; Haft et al., 2005. PLoS Comput. Biol. 1:e60)が、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムの遺伝子配列を構成する。微生物宿主におけるCRISPR遺伝子座は、CRISPR関連(Cas)遺伝子と、CRISPR媒介核酸切断の特異性をプログラミングすることができる非コードRNAエレメントとの組み合わせを含有する。
【0047】
タイプIICRISPRは、最もよく特徴付けをされているシステムの1つであり、4つの連続した工程で標的DNA2本鎖切断を実行する。第1に、2つの非コードRNA、pre-crRNAアレイおよびtracrRNAが、CRISPR遺伝子座から転写される。第2に、tracrRNAが、pre-crRNAのリピート領域にハイブリダイズして、pre-crRNAの、それぞれのスペーサーを含む成熟crRNAへのプロセシングを媒介する。第3に、成熟crRNA:tracrRNA複合体は、crRNA上のスペーサーと、標的認識のためのさらなる要件であるプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の隣の標的DNA上のプロトスペーサーとの間のワトソン・クリック塩基対形成を介して、Cas9を標的DNAへ向かわせる。第4に、Cas9は標的DNAの切断を媒介して、プロトスペーサー内に2本鎖切断を作成する。
【0048】
ある実施形態において、Casたんぱく質は、天然のCasたんぱく質の「機能性誘導体」である。天然配列ポリペプチドの「機能性誘導体」は、天然配列ポリペプチドと共通する定性的生物学的特徴を有する化合物である。「機能性誘導体」には、対応する天然配列ポリペプチドと共通の生物活性を有するという条件で、天然配列のフラグメントおよび天然配列ポリペプチドの誘導体およびそのフラグメントを含まれるが、これらに限定されない。本明細書で企図される生物活性は、機能性誘導体が、DNA基質をフラグメントに加水分解する能力である。「誘導体」という用語は、ポリペプチドのアミノ酸配列バリアント、共有結合的修飾の両方、およびそれらの融合体を包含する。Casポリペプチドまたはそのフラグメントの好適な誘導体には、Casたんぱく質またはそのフラグメントの、変異体、融合体、共有結合的修飾が含まれるが、これらに限定されない。Casたんぱく質またはそのフラグメントを含む、Casたんぱく質、および、Casたんぱく質またはそのフラグメントの誘導体は、細胞から入手可能であるか、または化学的に合成され得るか、またはこれら2つの手順の組み合わせにより得ることができる。細胞は、天然にCasたんぱく質を生産する細胞であるか、天然にCasたんぱく質を産生し、より高い発現レベルで内在性Casたんぱく質を生産するように、または外来性導入核酸(該核酸は、内在性Casと同じまたは異なるCasをコードする)からCasたんぱく質を産生するように、遺伝子操作された細胞であり得る。場合によっては、細胞は天然にCasたんぱく質を生産せず、Casたんぱく質を生産するように遺伝的操作されている。
【0049】
他の実施形態において、ヌクレアーゼは、Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)または転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)である。ZFNおよびTALENは、異種のDNA結合ドメインおよび切断ドメインを含む。これらの分子は、周知のゲノム編集ツールである。例えば、Gai, et al., Trends Biotechnol. 2013 Jul; 31(7): 397-405を参照されたい。
【0050】
III.宿主細胞
ゲノム修飾における任意の宿主細胞を、本発明において用いることができる。細胞タイプは、例えば初代細胞などの、細胞株または天然の(例えば、単離された)細胞であり得る。
【0051】
例示すると、好適な細胞には、真核生物(例えば、動物、植物、哺乳動物)細胞および/細胞株が含まれる。これらの細胞または細胞株の、非限定的な例には、COS、CHO(例えば、CHO-S、CHO-K1、CHO-DG44、CHO-DUXB11、CHO-DUKX、CHOK1SV)、VERO、MDCK、WI38、V79、B14AF28-G3、BHK、HaK、NS0、SP2/0-Ag14、HeLa、HEK293(例えば、HEK293-F、HEK293-H、HEK293-T)、およびperC6細胞が含まれる。ある実施形態において、細胞株は、CHO、MDCKまたはHEK293細胞株である。好適な細胞にはまた、例として、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、および間葉系幹細胞などの幹細胞が含まれる。
【0052】
IV.送達方法
ヌクレアーゼ、これらのヌクレアーゼをコードする核酸、鋳型核酸、および該たんぱく質および/該核酸を含む組成物が、任意の好適な手段により、任意の細胞タイプに、インビボまたはエクスビボで、送達され得る。
【0053】
本明細書に記載されるヌクレアーゼおよび/またはドナーコンストラクトはまた、ZFN、TALENまたはCRIPSR/Casシステムの1つ以上をコードする配列を含有するベクターを用いて、送達され得る。プラスミドベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、およびアデノ随伴ウイルスベクターなどを含むが、これらに限定されない、任意のベクターシステムが、用いられ得る。米国特許第6,534,261号;6,607,882号;6,824,978号;6,933,113号;6,979,539号;7,013,219号;および7,163,824号(これらの全体が、参照により本明細書に組み込まれる)もまた、参照されたい。さらに、これらのベクターのいずれも、処置に必要な配列を1つ以上含み得ることは、明らかであろう。従って、1つ以上のヌクレアーゼおよびドナーコンストラクトが細胞に導入される場合、ヌクレアーゼおよび/またはドナーポリヌクレオチドは、同じベクター上または異なるベクター上に、保有され得る。複数のベクターが用いられる場合、各ベクターは、1つまたは複数のヌクレアーゼ、および/またはドナーコンストラクトをコードする配列を、含み得る。
【0054】
従来のウイルス性または非ウイルス性遺伝子導入方法が、ヌクレアーゼおよびドナーコンストラクトをコードする核酸を、細胞(例えば、哺乳類細胞)および標的組織に導入するために、用いられ得る。非ウイルス性ベクター送達システムには、DNAまたはRNAプラスミド、DNA MC、ネイキッド核酸、およびリポソームまたはポロクサマーなどの送達媒体と複合体を形成した核酸が、含まれる。ウイルス性ベクター送達システムには、細胞への送達後に、エピソームゲノムまたは組み込まれたゲノムのいずれかを有するDNAおよびRNAウイルスが含まれる。
【0055】
核酸の非ウイルス性送達の方法には、エレクトロポレーション、リポフェクション、マイクロインジェクション、微粒子銃、ビロソーム、リポソーム、イムノリポソーム、ポリカチオンまたは脂質:核酸コンジュゲート、ネイキッドDNA、人工ビリオン、およびDNAの薬剤増強取り込みが、含まれる。例えば、Sonitron 2000システム(Rich-Mar)を用いた、ソノポレーション(Sonoporation)もまた、核酸の送達に用いることができる。
【0056】
さらなる例示的な核酸送達システムには、Amaxa Biosystems(Cologne,Germany)、Maxcyte, Inc.(Rockville,Md.)、BTX Molecular Delivery Systems(Holliston,Mass.)およびCopernicus Therapeutics Inc(例えば、米国特許第6,008,336号参照)により提供されるシステムが含まれる。リポフェクションは、例えば、米国特許第5,049,386号;4,946,787号;および4,897,355号に記載されており、リポフェクション試薬は、市販されている(例えば、Transfectam(商標)およびLipofectin(商標))。効率的な、ポリヌクレオチドの受容体認識リポフェクションに好適なカチオン性および中性脂質ポリヌクレオチドには、Feigner、国際公開第91/17424号、国際公開第91/16024号のものが含まれる。
【0057】
脂質:核酸複合体(免疫脂質複合体(immunolipid complex)などの、標的リポソームを含む)の調製は、当業者に周知されている(例えば、Crystal, Science 270:404-410 (1995); Blaese et al., Cancer Gene Ther. 2:291-297 (1995); Behr et al., Bioconjugate Chem. 5:382-389 (1994); Remy et al., Bioconjugate Chem. 5:647-654 (1994); Gao et al., Gene Therapy 2:710-722 (1995); Ahmad et al., Cancer Res. 52:4817-4820 (1992);米国特許第4,186,183号、4,217,344号、4,235,871号、4,261,975号、4,485,054号、4,501,728号、4,774,085号、4,837,028号、および4,946,787号参照)。
【0058】
操作されたZFP、TALEおよび/またはCRISPR/Casシステムをコードする核酸の送達のための、RNAまたはDNAウイルスベースのシステムの使用は、ウイルスを体内の特定の細胞に標的化し、ウイルスペイロードを核に輸送するための、高度に進化したプロセスを利用する。ウイルスベクターは患者に直接投与することができ(インビボ)、あるいは、ウイルスベクターはインビトロで細胞を処置するために使用することができ、修飾された細胞が患者に投与される(エクスビボ)。
【0059】
ヌクレアーゼおよび/またはドナーコンストラクトを含有するベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス、リポソームなど)はまた、インビボでの細胞の形質導入のために、生物に直接投与することができる。あるいは、ネイキッドDNAを投与することができる。投与は、注射、注入、局所適用およびエレクトロポレーションを含むがこれらに限定されない、血液または組織細胞との最終的な接触に分子を導入するために通常使用される経路の、いずれかによるものである。これらの核酸を投与するのに好適な方法は、利用可能であり、かつ、当業者には周知であり、また、特定の組成物を投与するために2つ以上の経路を使用することができるが、ある特定の経路はしばしば、もう一つの経路よりもより即時型で、かつより効果的な反応を提供することができる。
【0060】
ヌクレアーゼコード配列およびドナーコンストラクトは、同じまたは異なるシステムを用いて送達され得ることは、明らかであろう。例えば、ヌクレアーゼおよびドナーは、同じDNA MCによって運搬され得る。あるいは、ドナーポリヌクレオチドはMCにより運搬され得、一方で1つ以上のヌクレアーゼは標準的プラスミドまたはAACベクターにより、運搬され得る。さらに、異なるベクターは、同じまたは異なる経路により投与され得る(筋肉内注射、尾静脈注射、他の静脈内注射、腹腔内投与および/または筋肉内注射)。ベクターは、同時に、または任意の連続した順番で、送達され得る。
【0061】
本明細書に開示される方法を用いた遺伝子操作の効果は、例えば、目的の組織から単離されたRNA(例、mRNA)のノーザンブロットによって、観察することができる。典型的には、mRNAが存在するか、またはmRNAの量が増加している場合、対応する導入遺伝子が発現されていると仮定することができる。遺伝子および/またはコードされたポリペプチドの活性を測定する他の方法を、用いることができる。使用される基質および反応生成物または副生成物の増加または減少を検出する方法に応じて、異なる種類の酵素アッセイを、用いることができる。さらに、発現されるポリペプチドのレベルは、免疫化学的に、すなわち、ELISA、RIA、EIA、および当業者に周知の他の抗体ベースのアッセイ、例えば、電気泳動検出アッセイ(染色法またはウェスタンブロッティングのいずれかによる)などによって、測定することができる。
【0062】
V.温度シフト
本発明は、ヌクレアーゼおよび/またはドナー核酸の導入後に、宿主細胞を低温ショックの期間に供することを包含する。細胞は、トランスフェクション後数分以内に、37℃からより低温に移行させる(低温ショック)か、またはより低温に移行させる前に短期間(たとえば1日)37℃で維持させてよい。
【0063】
細胞を低温ショックさせる期間は、数時間から数日の範囲であり得る。ある実施形態において、細胞を、1日~4日間、低温ショックさせる。低温ショックの期間はまた、ヌクレアーゼが導入される細胞タイプに応じて異なるであろうことは、明らかであろう。
【0064】
さらに、細胞が低温ショックを受ける温度は、細胞分裂を減少させる任意の温度であるが、ヌクレアーゼが発現および/または活性化する温度である。好適な温度は、宿主細胞タイプに応じて異なるであろう。哺乳類細胞について、低温ショック温度は、35°C、34°C、33°C、32℃、31°C、30℃、29°C、28℃、27°C、26°C、25°C、および、さらに低い温度が含まれるが、これらに限定されない。さらに、温度は、細胞が分裂していないか、または減少した速度で分裂している程度に、十分に低いままであれば、低温ショックの期間中に変動し得る。
【0065】
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、これはさらなる限定として解釈されるべきではない。本出願を通して引用された全ての図および全ての参考文献、特許および公開された特許出願の内容は、参照により本明細書に明示的に組み込まれる。
【実施例0066】
実施例1
低温ショックは、誘導多能性幹細胞の遺伝子編集に関して、相同組換え修復の頻度を増加させる
序論
Clustered Regularly Spaced Palindromic Repeats(CRISPR)技術の最も有望な用途の1つは、ヒト疾病の遺伝的モデルの作成におけるその使用である。CRISPR技術は、疾病表現型を研究するために正常な個体から単離された誘導多能性幹細胞(iPSC)に使用でき、または推定上の疾病を引き起こす変異を野生型に戻すために疾病患者に由来するIPSCに使用できる。Znフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)および転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)と比較した、CRISPRアプローチの相対的頑強さは、ゲノムワイド関連研究により生まれた経験的データや他の非コード変異と同様に、たんぱく質をコードする変異に対しての試験を利用可能にした(3、4)。多くの成功にもかかわらず、iPSCにおける遺伝子編集は、外来性ドナーDNAがCRISPR誘導2本鎖切断を修復するために使用されるプロセスである相同組換え修復(HDR)が、形質転換された癌細胞株より効率が低いという事実に見舞われている(5-8)。
【0067】
低いHDR率を克服するために、研究者らは、CRISPRプラスミド上および/またはドナーDNA上に抗生物質耐性遺伝子を含むこと(9)などのいくつかの戦略を採用した。これらの戦略は、効果的ではあるが、外来DNAのゲノムへの望ましくない挿入を残したままである。Cre/loxシステムや痕跡を残さない(footprint-free)PiggyBACトランスポゾンなどの、選択マーカーの切除を可能にする技術と、ポジティブ選択マーカーとを組み合わせることは、顕著な改善を示すが、クローン選択が2段階プロセスになるために予定表(timeline)を伸ばす(2、10)。1本鎖オリゴDNAヌクレオチド(ssODN)ドナー分子を使用する方法は、ランダムな組み込みおよび望ましくない「痕跡(footprint)」に関してより大きな2本鎖DNA分子が存在するという問題を回避するが、やはり比較的低い頻度で成功する修復および2本鎖切断部位周辺の配列変換を受けやすい(7、11)。Miyaokaらは、希少なクローンの単離が困難であることを克服するために、droplet digital PCR、クローンのプール、および同胞選択を使用して、非常に希少なクローンを濃縮する戦略を考案した(12)。HDR率を上昇させるためのさらなる戦略は、細胞周期の進行の既知の化学的インヒビターで、細胞周期の同調(synchronization)を誘導することによって、Cas9RNP複合体のヌクレアーゼへの送達のタイミングをとることを含む(13)。ここでは、同調させたHEK293細胞で最大38%のHDRの顕著な増加を達成することができるが、ヒト初代線維芽細胞またはH9ヒト胚性幹細胞では、同調の効果は最小限であった。ssODN構造および組成物の仕様もHDR率に影響を及ぼすことが示されている。Lin et al.は、少なくとも60ヌクレオチドのホモロジーアームを有するオリゴが最も効果的であるが、鎖相補性は要因ではないことを見出した。Richardson et al.による、ドナーオリゴの構造が、いかにして、HEK293細胞のHDRに影響を及ぼすかについての、より詳細な研究は、Cas9RNP-dsDNA複合体のインビトロ結合から得られた洞察を用いた。彼らは、GFPレポーターアッセイを使用して、PAM部位に関してより短く、(+)鎖に対して相補的(すなわち、非標的鎖)である非対称性ドナーオリゴが、HDRを促進することにおいて、対称性ドナーオリゴよりも効果的であることを示した(14)。Paquet et al.によるiPSCのHDRを最適化する研究は、目的の変異の効率的な挿入は、標的鎖に相補的なオリゴ(-)で達成できること、および目的の変異の組込みの頻度は、CRISPR切断部位からの距離依存的であることを示した。HDRの忠実度はまた、オリゴにサイレント塩基変化を導入して、CRISPR認識配列を破壊することにより、上昇させることができた(15)。
【0068】
本発明者らは、iPSCの遺伝子編集ステップを体系的に評価して、送達、CRISPR様式、およびドナーオリゴデザインの最良の組み合わせを決定した。次いで、HDRを実行する細胞の能力に対する、中程度の「低温ショック」の効果を試験した。本発明者らにより最適化された方法は、Cas9をコードするmRNA、標的鎖に相補的な対称ドナーオリゴ(-)、および再編集を防ぐためのサイレント変化と組み合わせた、大きなRNA分子を送達するためにデザインした脂質の新規の組み合わせにより、所望の遺伝子の変更を10-30%の効率でゲノムに導入することができる。32℃の、短い「低温ショック」にさらに細胞をさらすと、37℃で低い効率の修復が観察される場合には、完全HDRの量が2~10倍増加し得る。
【0069】
方法および材料
1)細胞株および細胞培養
ヒトmc-iPS細胞を、System Biosciences(SC301A-1)から入手し、毎日培地交換しながらmTeSR培地(Stem Cell Technologies)および50ユニット/mlペニシリン-ストレプトマイシン(Thermo Fisher Scientific)中において、Matrigel(BD Bioscience)被覆プレート上で維持した(Ludwig, T. E., et al. (2006). “Feeder-independent culture of human embryonic stem cells.” Nat Methods 3(8): 637-646)。継代培養のために、細胞をPBSで洗浄し、37℃で5分間Accutase(Thermo Fisher Scientific)で処理した。細胞を、mTeSR培地で再懸濁し、80gで5分間遠心分離し、細胞ペレットを10μM ROCK Inhibitor Y-27632(Cayman Chemical)を添加したmTeSR培地に再播種した。
【0070】
2)CRISPRおよびCas9試薬
CRISPRガイドRNAは、Doenchのアルゴリズム(http://portals.broadinstitute.org/gpp/public/)およびZhang研究室のCRISPRデザインツール(http://crispr.mit.edu)を用いて、デザインした。ガイド配列は、プラスミドpX458(GenScript)にサブクローニングするか、またはIVTsgRNA(Thermo Fisher Scientific)として合成した。GeneArt(登録商標)Platinum(登録商標)Cas9ヌクレアーゼは、Thermo Fisher Scientificから入手し、Cas9mRNA(5meC、Ψ)は、TriLink BioTechnologiesから得た。修復鋳型(Ultramer、IDT)は、オリゴヌクレオチドの中央に標的変異を有し、変異の両側に相同なゲノムフランキング配列を有する1本鎖オリゴヌクレオチド(ssODN)としてデザインした(Miyaoka, Chan et al. 2014, Richardson, Ray et al. 2016)。いくつかのssODNデザインではまた、ガイドRNA結合配列およびPAM部位に、サイレント変異を導入した。PCRプライマーはプライマー3を用いてデザインし、プライマーはSigmaから購入した。プライマー、プローブ、およびオリゴヌクレオチドドナーの配列については、表1を参照されたい。
【表1-1】

【表1-2】
【0071】
3)トランスフェクション
mc-iPSCでのCas9mRNAおよびIVTgRNAの脂質ベーストランスフェクションについては、手順は、IVTgRNAおよびCas9たんぱく質トランスフェクションに少し修正を加えた手順と、同様であった(追加の方法参照)。具体的には、480ngのIVTgRNAおよび2μgのCas9mRNAを、最初に、50μlのOptiMEM培地で混合し、続いて、2.5μlのmRNA-InStemまたはEdit-Pro(登録商標)(MTI-GlobalStem)を添加した。相同組換え修復実験については、脂質添加の前に、様々な量のssODNを該複合体に添加した。トランスフェクション効率をモニターするために、100ngのGFPmRNAもまた、各混合物に添加した。プレートを、5%COのインキュベーターにおいて、37℃で48時間インキュベートし、その後細胞を、ゲノムDNA抽出のために回収した。
【0072】
4)ゲノムDNA抽出および編集した領域のPCR増幅
トランスフェクト細胞からのゲノム抽出のために、各ウェルからの培地を吸引し、細胞を37℃で10分間、250μlのAccutase(Thermo Fisher Scientific)で処理した。750μlのmTeSR培地を、各ウェルに添加し、細胞懸濁液を1.5mlエッペンドルフチューブに移して、1000gで5分間回転させた。ゲノムDNAを、DNeasy Blood&Tissue Kit(QIAGEN)を用いて抽出し、100ngのゲノムDNAを、Q5ポリメラーゼ(NEB)および標的特異的プライマー(表1)を用いたPCRに使用した。具体的には、CAMK2D遺伝子座のPCR増幅を、プライマーCamk2D-FおよびCamk2D-Rを用いて行った。TGFBR1遺伝子座のPCR増幅は、プライマーTGFβR1-FおよびTGFβR1-Rを用いて行った。サーモサイクラーの条件は、98℃30秒を1サイクル、98℃10秒、63℃30秒、72℃1分を31サイクル、および72℃1分を1サイクルに設定した。PCR反応は、最終的には4℃に保った。
【0073】
5)次世代シーケンシングおよび解析
PCRアンプリコンを、2段階クリーンアップで高分子量(HMW)ゲノムDNAおよび残存プライマーを除去することにより、ライブラリー調製のために洗浄した。HMW DNAを、0.6v/v比のAmpureXPビーズ(Beckman Coulter)を添加することによって除去し、透明な上清を新しいプレートに移した。移した上清に0.2v/vのAmpureXPビーズを添加することによってプライマーを除去し、透明になるまで再び磁石上に置き、次いで上清を廃棄した。ビーズを80%EtOHで2回洗浄し、風乾し、20μlの水に再懸濁してDNAを溶出した。生成物をTapstation HSD5000(Agilent Technologies)によりサイズについてモニターし、Qubit HS DNA(Invitrogen)を用いて定量した。洗浄したPCR生成物を、製造元の標準試薬量の半分の使用量に従うように修正したNexteraXTキット(Illumina)に使用した。サンプルには、Illuminaの標準インデックスキットを使用して、最大384のi5/i7のユニークな組み合わせで、一意的にインデックスを付けた。増幅を、加熱蓋をして、72℃で3分、98℃で1分、その後98℃で30秒、55℃で30秒、72℃で1分を12~14サイクル行った後、72℃で5分の最終伸長を行い、4℃まで冷却した。ライブラリーを、上記と同じAmpureXPビーズプロトコールに従ってサイズ選択し、15μlの水中に溶出した。生成物を、Tapestation HSD1000(Agilent)で泳動し、ABI用のKAPA Library定量キット(Kapa Biosystems)を用いてqPCRによって定量した。ライブラリーを、Illumina用のKAPA Library Quantification Data Analysis Template(Kapa Biosystems)に従って、TEpH8.0中でそれぞれ4nMに正規化し、適切な比率の容量でプールした。標準的なIlluminaプロトコールに従って、ライブラリーを変性させ、12pMに希釈し、1%v/vのPhiXコントロールを添加した。実行パラメーターは、150bpペアエンド、デュアルインデックス8bpにそれぞれ設定し、MiSeq300v2試薬キット(Illumina)を使用した。サンプルは、MiSeq Reporter v2.6またはbcl2fastq v2.17を使用して逆多重化した(demultiplexed)。リードの重複排除後のガイド部位での対象範囲は、クローンサンプルでは約300倍、多様な非クローン集団の評価では最低3000倍に設定した。
【0074】
NSDデータ解析は、自社開発のパイプラインを用いて実行した。手短に言うと、PRINSEQを使用して、ペアエンドリードに対して品質フィルタリングを実行した。フィルタリングしたリードを、次いで、BWAで参照ゲノムに対してアライメントし、次に、インデルの検出を向上させるために、ABRA(assembly-based realigner)を用いてリアライメントした。品質保証のために、アンプリコンのカバレッジ深度を調べ、挿入及び欠失頻度についてアンプリコン領域全体を調査した。CRISPR部位のインデル頻度を計算するために、ターゲットウィンドウとしてsgRNA配列(18-20塩基)を使用し、このウィンドウに及ぶ野生型およびインデルリードの数を数えた。さらに、インデルリードは、本ウィンドウ内に、少なくとも1つの挿入または欠失塩基を有する必要があり、一方、野生型リードは、点突然変異は考慮せずに、本ウィンドウ内にインデルを有さない。インデルの全体的な割合の他に、インデルの破壊性(disruptiveness)を評価するために、インフレームのインデルの割合を計算した(Mose, L. E., et al. (2014). “ABRA: improved coding indel detection via assembly-based realignment.” Bioinformatics 30(19): 2813-2815)。インデル長ヒストグラムおよび他の全てのチャートは、Rを用いてプロットした。sgRNAガイド領域およびそのフランキング領域における、点突然変異の頻度もまた調べた。相同組換え修復(HDR)プロジェクトでは、HDR効率を評価するために、オリゴタイプを分類した。
【0075】
6)CAMK2D野生型配列および変異配列を検出するためのddPCRアッセイ
製造元の指示に従い、QX200(登録商標)Droplet digital PCRSystem(Bio-Rad laboratories、CA)を用いた。CAMK2D野生型配列および変異配列を検出するためのddPCRアッセイは、Primer Expressを使用してデザインし、Life Technologies(Life Technologies、CA、USA)に注文した。ddPCR反応物は、以下のように、標準的なプロトコールを用いて組み立てた。プローブ用ddPCRスーパーミックス(dUTPなし)(Bio-Rad laboratories、CA、USA)を、160ngのサンプルゲノムDNA、1μlの20×FAMアッセイおよび1μlの20×VICアッセイ(1×CAMK2D-ddPCRプライマーFおよびCAMK2D-ddPCRプライマーR各900nM、1xプローブ各250nM)、5ユニットの制限酵素BamHI-HF(登録商標)(New England BioLabs、MA)、および最終反応容量20μlにするための水と、組み合わせた。QX200 Droplet Generatorを用いて、反応液を約20,000個の1ナノリットルのドロップレットに変換し、このスーパーミックスの製造業者の推奨に従って、サーマルサイクリング用の96ウェルプレートに移した。サーマルサイクリング後、ドロップレットをQX200 Droplet Readerで読み取り、蛍光振幅に基づき、ポジティブとネガティブに割り当てた。プライマーおよびプローブ配列は、表1に列挙している。
【0076】
7)トランスフェクト細胞における「低温ショック」実験
トランスフェクションの1日前に、mc-IPSCをトランスフェクションのセクションに記載されているように24ウェルプレートに播種し、4つのグループ(P1-P4)に分けた。グループP1~P3は37℃で保ち、P4は32℃で24時間インキュベートした。細胞を、その後、記載したように、「Edit-Pro」を用いて、IVTgRNA/Cas9mRNAおよびssODNでトランスフェクトした。トランスフェクション後に、グループP1は、回収するまで37℃で保ち、一方、残りのグループは、トランスフェクションの24時間後に37℃に戻したグループP3を除いて、回収するまで32℃に移した。細胞を、記載したように、48時間後にゲノムDNAの単離のために回収し、インデル形成およびHDRを、ddPCRまたはNGSのいずれかにより測定した。
【0077】
8)追加のトランスフェクション方法
mc-iPSCにおけるDNAの脂質ベーストランスフェクションのために、細胞を、トランスフェクションの1日前に、1ウェルあたり1×10でMadrigal被覆24ウェルプレートに播種した。トランスフェクション当日に、1μgのpX458-CRISPR DNAを50μlのOptiMEM培地で希釈し、続いて2μlのDNA-In(登録商標)Stemトランスフェクション試薬(MTI-GlobalStem)を添加した。相同組換え修復実験のために、脂質添加の前に、様々な量のssODNを混合物に添加した。サンプルを、ゆるやかに混合し、室温で15分間インキュベートした。次いで、混合物全体を細胞に一滴ずつ添加した。プレートを、5%COインキュベーターで、37℃で48時間インキュベートし、細胞をゲノムDNA抽出のために回収した。
【0078】
mc-iPSCにおけるIVTgRNAおよびCas9ヌクレアーゼの脂質ベーストランスフェクションについては、手順は、DNAトランスフェクションに少しの修正を加えた手順と同様であった(Liang, X., et al. (2015). “Rapid and highly efficient mammalian cell engineering via Cas9 protein transfection.” J Biotechnol 208: 44-53)。具体的には、480ngのIVTgRNAおよび2μgのCas9ヌクレアーゼを、50μlのOptiMEM培地で最初に混合し、室温で10分保持して安定なRNP複合体を形成し、その後、2.5μlのmRNA-InStemまたはEdit-Pro(MTI-GlobalStem)を添加した。相同組換え修復実験のために、脂質添加の前に、様々な量のssODNを混合物に添加した。100ngのGFPmRNAもまた、各混合物に添加して、トランスフェクション効率をモニターした。プレートを、5%COインキュベーターで、37℃で48時間インキュベートし、細胞をゲノムDNA抽出のために回収した。
【0079】
ssODNの有無にかかわらずpX458 CRISPRプラスミドのヌクレオフェクションのために、mc-iPSCを最初に、Matrigel被覆10mmディッシュ中で、60~70%コンフルエントに達するまで培養した。細胞をPBSで洗浄し、全ての細胞が解離するまで、3mlのAccutase(Thermo Fisher Scientific)により、37℃で5~8分間処理した。細胞を、TeSR培地で再懸濁して、計数した。次に、細胞を15mlチューブに移し、80gで5分間遠心した。上清を除去した後、細胞を、1×10/mlで、P3またはP4ヌクレオフェクション溶液(Lonza、Basel Switzerland)に再懸濁した。20μlの細胞懸濁液をチューブに移し、1μgのpX458-CRISPRを、各チューブに添加した。相同組換え修復実験については、様々な量のssODNもまた、混合物に添加した。次いで、懸濁液を、泡が発生しないよう注意しながら、8ウェルストリップ(Lonza、Basel Switzerland)の各ウェルに移し、Amaxa(登録商標)4D-Nucleofector(登録商標)(Lonza、Basel Switzerland)を用いて、プログラムCM-113またはCE-118により、エレクトロポレーションした。ヌクレオフェクトした細胞を、各ウェルにおいて、10μMのROCK Inhibitor Y-27632と共に、500μlの予熱したmTESR培地を含むMatrigel被覆24ウェルプレートの個々のウェルに、直接プレーティングした。プレートを、5%COのインキュベーターにおいて、37℃で48時間インキュベートし、その後細胞を、ゲノムDNA抽出のために回収した。
【0080】
mc-iPSCにおけるIVTgRNAおよびCas9たんぱく質のヌクレオフェクションについては、手順は、DNAヌクレオフェクションに少しの修正を加えた手順と同様であった。具体的には、480ngのIVTgRNAおよび2μgのCas9たんぱく質を、OptiMEM培地で最初に混合し、最終容量5μlとし、室温で10分保持して安定なRNP複合体を形成した。相同組換え修復実験のために、様々な量のssODNもまた、混合物に添加した。該複合体を、その後、P3またはP4ヌクレオフェクション溶液中の、20μlの細胞懸濁液に移し、上述のように、Amaxa(登録商標)4D-Nucleofector(登録商標)(Lonza、Basel Switzerland)を用いて、プログラムCM-113またはCE-118を用いて、エレクトロポレーションした。
【0081】
結果
I.CRISPR/Cas9RNA様式および脂質送達を用いた、iPSCにおける効率的なHDR。
CAMK2D遺伝子内でHDRを生成するための最良の条件を見出すために、遺伝子編集プロトコールのいくつかの局面を評価した。最初に、どのCRISPR様式(例えば、オールインワンプラスミドDNA、sgRNAとCas9mRNA、またはsgRNAインビトロ転写(IVT)/Cas9リボヌクレオたんぱく質)および送達方法(例えば、ヌクレオフェクション、または大型のDNAおよびRNA分子の送達の増強のために製剤化された脂質)が、PCRアンプリコン次世代シーケンシング(NGS)によって検出されたように、CAMK2D遺伝子内の2つの特定の位置(図1a)で最大数の2本鎖切断を生じたかを、決定した。各様式および送達方法の、最良のNHEJ誘導インデル率を、表2に提示している。最適なインデル形成を決定するために使用した条件の完全なマトリックスを、HDRを促進するための、様式と送達の最良の組み合わせを決定するために再試験し、これらもまた表2に提示している。CRISPR認識配列を破壊するようにデザインされた4つの塩基変化の組込みと、同じオリゴ上にCAMK2Dのキナーゼをノックアウトしたバージョンを作り出すようにデザインされた特定の変異の組込みを測定するために、多重ddPCRアッセイを使用した(図1b)。非HDR野生型対立遺伝子を特異的に検出する異なるプローブを用いて、野生型の編集されていない配列の量を決定した(図1b)。ドナーオリゴデザインは、ホモロジーアームの長さに関して対称性であり、CRISPR切断部位は、目的のキナーゼノックアウト変異に、できるだけ近い位置であった。ドナー配列はまた、非標的CRISPR切断鎖(+)と相同であった。オリゴにより導入された4つのサイレント変異は、ガイドCAMK-CR2のCRISPR認識配列を4つの位置で変更し、ガイドCAMK-CR1においては、PAM配列を変異させ、3つの配列変化を導入した。アッセイは、異なるDNA配列の両方の合成フラグメントを用いて、HDRドナーオリゴ配列についてヘテロ接合性およびホモ接合性であることが知られているHEK293細胞で以前に作製されたクローンにおいて、検証した(データ不掲載)。比較した全ての条件についての最良のHDR率を表2に提示し、最良の組み合わせについてのデータを図2aに提示している。IVT sgRNA/Cas9mRNAおよびEditPro(登録商標)脂質については、CAMK-CR1に対しては全対立遺伝子の9%がドナーオリゴ配列を組み込んでいたこと、およびCAMK-CR2に対しては対立遺伝子の19%がドナーオリゴ配列を組み込んでいたことを確認した(図2b)。ddPCRの結果を確認するために、iPSCのトランスフェクト集団由来のPCRアンプリコンに対してNGSを実施した(図2c)。CAMK-CR1およびCAMK-CR2の両方を伴うIVT sgRNA/Cas9mRNAについて、遺伝子座へのHDRの成功を示すであろう目的の塩基変化は、正確なゲノム座標で、かつ、ddPCRによって決定されるものと厳密に一致する頻度で観察され、ddPCRアッセイによって直接測定されなかった2つのグアニン置換を含んでいた。これら2つの置換は、sgRNAアニーリングを破壊するようにデザインされたサイレント変異よりも、CRISPR切断部位に対してより遠位であり、より低い頻度で観察された。
【表2】
【0082】
II.「低温ショック」は、HDR率を増加させる。
32℃で増殖および維持されたT抗原温度感受性不死化細胞株は、37℃で増殖させた同様の細胞株よりも、より効率的にHDRが生じたという以前の観察に基づいて(データ不掲載)、mc-iPS細胞株を、様々な間隔の32℃にさらした場合に、HDRの効率に影響を与えるかどうかを試験した。実験のデザイン、および、得られた、各温度でのddPCRによって測定されたHDRが生じた対立遺伝子全体の百分率を、表3に提示する。HDRのベースラインとして37℃での通常の培養条件を使用すると(グループPL1)、10pmolおよび30pmolの濃度において、それぞれ、ガイドCAMK-CR1については7.50%および5.0%、ガイドCAMK-CR2については16.16%および8.86%のHDR頻度が観察された。細胞をトランスフェクション直後に32℃に移し、その状態で24時間保持し、さらに24時間37℃に移動した場合に(グループPL2)、HDRにおいて1.8~2.3倍の統計的に有意な増加を観察した。この効果は、より低いHDR効率がベースラインで観察された30pmol濃度で、より顕著であった。トランスフェクション後に48時間、細胞を32℃にさらすと(グループPL3)また、HDRについて統計的に有意な効果があり、HDRが2.0~3.6倍増加し、さらにHDRがベースラインでより低かった条件では、この効果はより顕著であった。
【表3】
【0083】
III.「低温ショック」および代替1本鎖オリゴヌクレオチドドナーデザインは、HDRの効率に影響を及ぼす。
最近のデータは、的確なドナーオリゴデザインは、ドナーオリゴHDRの効率に、劇的な影響を及ぼし得ることを、示唆している。より具体的には、CRISPR切断部位に関して非対称的な長さであり(切断部位に近い側の方が短い)、かつ非標的鎖(Cas9によって最初に切断されない鎖)と相補的な配列を有するオリゴは、CAMK2D遺伝子座を編集するために採用したデザイン、すなわちCRISPR切断部位を囲んで対称性であり、かつ標的鎖に相補的であるオリゴよりも、より効率的なHDRのプロモーターである(14)。2つのデザインを直接比較し、さらにHDRに対する低温ショックの効果をテストするために、対称性の標的鎖オリゴドナーで観察されたHDRの量を、同じ配列変更を導入するようにデザインした、非対称性の非標的鎖オリゴドナーで観察されたHDRの量と比較する、遺伝子編集実験を計画した(図1b)。アンプリコンベースNGSによりHDRの量を決定し、得られた配列データを、いくつかの方法で解析した:
1)該遺伝子座でのHDR全体の量、すなわち、目的の変化の全部または一部が存在するかどうかに関わらない、オリゴ組換え修復(oligo directed repair)の量;
2)目的の6つすべての塩基変化が完全であるオリゴ組換え修復である「完全HDR」を表したHDRのパーセンテージ(完全オリゴ%);
3)変換された配列にインデルが再導入されたために一度修復されたが、再編集されたと推定されるHDRのパーセンテージ(編集オリゴ%);および
4)配列に2つのより遠位の配列変化(目的のCAMK2キナーゼノックアウト変異)がみられないように、部分的オリゴ組換え修復が生じた、HDRパーセンテージ(部分的オリゴ%)(図3aおよび表4)。
【0084】
ddPCRによって最初に観察されたように、ガイドCAMK-CR2は、ベースライン条件で、すなわち、細胞が37℃でトランスフェクトされ維持される条件で、ガイドCAMK-CR1よりも、全HDRはより低いが、HDR全体を促進する上でより効率的であった(図2bおよび図3a)。全ての温度条件およびオリゴ濃度にわたるHDR全体の量は、ガイドCAMK-CR1と同等であった。概して、統計的に有意なHDR全体の増加が、温度、ガイドおよびオリゴデザインのすべての比較にわたって観察された(図3aおよび表4)。ガイドCAMK-CR1については、両方のオリゴについてHDR全体の量が、3つの温度条件にわたって、本質的に同じであり、両方のオリゴデザインについてPL3温度条件下で、約2.9倍のHDR全体の増加が観察された(図3a)。CAMK-CR2については、対称性のオリゴC-CR2に対するHDR全体の倍数の増加は約2.4倍であったが、反応の大きさはある種のHDRが生じた対立遺伝子の40%であった(図3a)。非対称性デザインC-CR2については、PL1とPL3との間で3.5倍のHDRの増加が観察されたが、反応の大きさは、対称性のガイドで観察されたものの約半分であった(図3a)。しかしながら、「低温ショック」の結果として観察された「完全」HDRの量のみを考慮すると、用いたオリゴのタイプは、特にガイドCAMK-CR2に対して劇的な効果を有し、最初の2つのデザインの間でのHDR全体の違いはより大きく、対称性のオリゴデザインが6つすべてのヌクレオチド変化の変換を導く点で優れていた(図3bおよび表4)。ガイドCAMK-CR1については、HDR全体の量は、全ての温度条件にわたって、両方のオリゴタイプについて同様であり、「完全」HDRの量はまた、対称性のオリゴについてより多かったが、その差はPL3条件下においてのみ統計的に有意であった(図3bおよび表4)。
【表4-1】

【表4-2】

【表4-3】

【表4-4】

【0085】
これらの所見を別の遺伝子座に拡張するため、および「低温ショック」とオリゴデザインのHDRにおける効果をさらにテストするために、TGFRB1遺伝子座にサイレント変化とSNPを挿入する遺伝子編集実験をデザインした。テストした2つのガイドの位置は図4aに示し、4つのドナーオリゴの配列、目的の配列変更の位置、およびそれらのガイド位置との関係を、図4bおよび図4cに示す。ガイドTR-CR2は、目的のAからCへの配列変化の3’側におよそ31bpの位置で切断を導くように、デザインした(図4b)。対称性および非対称性ドナーオリゴは両方とも、該遺伝子座でのガイド認識および再編集を妨げるようにデザインされた、3つのさらなる配列変化も含有していた。ホモロジーアームの長さもまた、図4bに列挙している。ガイドTR-CR3は、目的のCからTへの配列変化の3’側におよそ30bpの位置で切断させるように、デザインした(図4c)。TR-CR2およびそのssODNと同様に、変換された遺伝子座の再編集を防ぐために、3つのさらなるサイレント配列変更も含んだ。ホモロジーアームの長さを、ガイドTR-CR2に用いられるssODNに、できるだけ近いように、デザインした(図4c)。
【0086】
IVTsgRNA/Cas9RNA脂質形式を使用すると、両方のCRISPRはmc-iPSC株におけるインデルの生成において効率的であり、修復オリゴが存在しない場合、NGSによって決定されるように、インデルを有する対立遺伝子のパーセントは、TR-CR2については92%、TR-CR3については64%であった。両方の修復オリゴが存在する場合、ガイドTR-CR2は、37℃の条件PL1において、対称性オリゴT-CR2については60%、非対称性デザインについては42%の、非常に効率的なHDR全体率を導いた(図5aおよび表5)。ガイドTR-CR3については、対称性および非対称性のデザインそれぞれについて、37℃で、41%および34%のHDR全体パーセンテージが観察された(図5aおよび表5)。
【0087】
CAMK2Dで観察されたように、32℃で、24時間(グループPL2)または48時間(グループPL3)のいずれかで、細胞を培養すると、HDRの増加をもたらした;しかしながら、その効果は、37℃で開始した場合の比較的高いHDR率を考えると、概して最小であり、大抵の場合、統計的有意性には達しなかった(図5aおよび表5)。しかしながら、「低温ショック」効果は、37℃での「完全HDR」の量が対称性オリゴよりも少なかった非対称性オリゴで、より顕著であった。ここでは、ガイドTR-CR2および非対称性ドナーT-CR2については、37℃で観察されたHDR全体の量(PL1)を、細胞を32℃で48時間培養したときに観察された量(PL3)と比較した場合に、統計的有意性が達成され、ガイドTR-CR3および非対称性ガイドT-CR3については、PL2およびPL3条件の両方で、統計的有意性が達成された(図5aおよび表5)。しかしながら、「低温ショック」およびベースライン条件の結果として観察された、「完全」HDRの量のみを考慮すると、用いたオリゴのタイプは劇的な効果を有していた(図5bおよび表5)。1つ(TR-CR2/PL3)を除くすべての比較において、対称性のドナーオリゴは、「完全」HDR修復を導くことにおいて、それらに対応する非対称性ドナーオリゴよりも、統計的に有意に優れていた(図5bおよび表5)。
【表5-1】

【表5-2】

【表5-3】

【表5-4】
【0088】
IV.ベースHDR率がより低いほど、「低温ショック」はより効果的である。
研究中の特定のmc-iPSC株以外の細胞タイプにおいて「低温ショック」が効果的であるかどうかを調べるために、表3のデータを導出するのに用いたのと同一のCAMK2D遺伝子編集実験をHEK293細胞において繰り返し、ddPCRを用いてHDRレベルを決定し(表6)、NGSによって具体的なHDRカテゴリーを決定した(図6および表7)。両方のCAMK2DsgRNAおよび2つのドナーオリゴ濃度についての、ベースラインのHDR全体のレベルは、37℃で約1%であった(表6、表7および図6)。これらの結果は、プラスミドベースのオールインワンCRISPR様式(データ不掲載)と、独立した実験においてiPSCに使用されたIVTsgRNA/Cas9RNA様式の両方を使用して得た。これは、HEK293細胞株を同じ相対的効率でトランスフェクトしたにもかかわらず、10pmol濃度のCAMK-CR1およびCR2について、HDR全体レベルがそれぞれ10%および20%を超えたmc-iPSC株において観察されたものとは対照的である(図3aおよびデータ不掲載)。遺伝子座および細胞タイプが遺伝子編集のレベルを決定することができる程度は、他者によって記載されている(8)。しかしながら、37℃で観察された低いHDR率にもかかわらず、24時間(PL2)および48時間(PL3)の両方の条件下での「低温ショック」は、最良のsgRNAであるCAMK-CR2について、ddPCRによって決定されるように、24時間および48時間の条件の両方において、HDR全体で、統計的に有意な6.9倍の増加をもたらした(表6)。両方のガイドおよび全ての条件が、「低温ショック」に応答して、HDR全体で、統計的に有意な増加をもたらした(図6および表7)。
【0089】
アンプリコンベースNGSおよび解析により、ガイドCAMK-CR2についてのPL1対PL3の比較を除いて、「低温ショック」が両方のガイドについて、統計的に有意なHDR全体の増加をもたらしたことを、確認した。概して、「完全」HDRの増加は、両方のガイドおよびすべての条件について、5~20倍を超えた(図6および表7)。
【表6】

【表7-1】

【表7-2】

【表7-3】
【0090】
V.「低温ショック」は、多能性マーカーの発現に影響を及ぼさない
低温期間にmc-IPSCをさらすことが、様々な細胞系譜への分化能に影響を及ぼし得るかどうかを試験するために、該プロセスがHDR率に影響を及ぼしたかどうかを決定するために用いたのと同じ「低温ショック」プロトコールを行い、その発現が多能性の指標であるたんぱく質抗原を認識する抗体で、細胞を染色した。これらの研究の結果は、マーカーSSEA3、NanogおよびOCT4の発現が、細胞を、24時間または48時間のいずれにおいても、32℃の温度条件にさらした結果、変化しないことを証明している(図7a―c)。
【0091】
VI.「低温ショック」は、様々な温度条件において、HDR率を上昇させるのに効果的である。
細胞を32℃より低い温度条件にさらすことの効果を試験するために、我々は、前述の細胞培養プロトコールを繰り返し、24時間と48時間の両方について、30℃、28℃、並びに32℃のいずれかに、mc-IPSCをさらした。
【0092】
得られたPCRアンプリコンを、ddPCRおよびNGSの両方で、解析した(表8、表9、および図8)。一般に、HDR全体の増加(表9および図8)と「完全」HDRの増加(図8)は、テストした3つの温度間で同等であり、これらのデータはHDRの増加が32℃の温度条件に依存しないことを示している。
【表8】

【表9-1】

【表9-2】

【表9-3】
【0093】
考察
CRISPRベースのゲノム工学方法論の急速な発展は、この技術から最大の利益を得るために不可知論的(agnostic)かつ体系的な評価プロセスを必要とする。ここに、mc-iPS株において、HDRを促進するうえで非常に効果的な、最適化されたCRISPR様式/送達の組み合わせを報告する。次に、この方法を用いて、より低温へさらすことがHDR効率を高めることができるかどうかを評価し、24時間または48時間、32℃すなわち「低温ショック」にさらすことが、HDR率を2倍以上高めることができることを見出した。DNA修復酵素の化学的阻害により修復プロセスを非相同末端結合からHDRへと「追いやる」こと(16)、および他のインヒビターによりG2/M境界で細胞をブロックおよび同調させること(13)を含んで、HDR率を上昇させる方法を見出すためにかなりの努力が払われていることを考えると、我々の方法は、特に遺伝子編集が治療の場で適用されている場合には、より広い応用を有し得る、より「生理学的な」アプローチを提供する。
【0094】
興味深いことに、「低温ショック」効果は、より低いHDR率(対立遺伝子の1~20%)が観察される場合に、より劇的であり、ベースのHDR率が30%以上を超えて増加するにつれて減少する。これは、少なくともこのアプローチにより、変更することができる対立遺伝子の数についての理論的限界を示唆している。「低温ショック」がHDRを増加させる正確なメカニズムは、現在研究中である。Znフィンガーヌクレアーゼがインデル形成を増加させるのと同様のメカニズムが、有望であり得る(17)。CAMK2DガイドCAMK-CR1およびTGFBR1ガイドTR-CR2で観察されたように、非常に効率的なCRISPRを用いた場合のインデル形成に対する「低温ショック」の効果は、最小限であることが観察された。逆に、HEK293細胞のCAMK2D遺伝子座で観察されたように、切断効率およびインデル形成がより低い場合、切断効率およびインデル形成の増加はより顕著である。インデル形成の増加は、明らかにより高いHDR率に寄与し得るが、「低温ショック」で観察されたすべての上昇を説明するわけではなく、また「完全HDR」が低温条件下で好まれる理由を説明するわけでもない。HDR率の上昇に寄与し得る可能性のあるメカニズムは、32℃で細胞を増殖させることが細胞周期に影響を及ぼし、より多くの細胞がG2/Mに蓄積することである;しかし、これまでの我々の初期の所見では、この仮説を裏付ける細胞周期効果は何ら示されていない(データ不掲載)。3つ目の、そしてより寄与している可能性の高い要因は、低温が組換え中間体を安定させるように作用する熱力学的効果を有することである。メカニズムを詳細に理解するために、研究が現在進められている。潜在的懸念の一つは、「低温ショック」が多能性に悪影響を及ぼす可能性があることである。多能性の3つの標準的マーカー、Oct4、SSEA3、Nanog(18、19)を見た予備的分析は、これが問題ではないことを示唆しているが、Nanog発現のいくらかの喪失は低温に長期間さらされることで起こるのかもしれない(図7)。「低温ショック」が効果的であって、細胞株や応用を超えて一般化可能であることを保証するためには、明らかにより多くの研究が必要である。
【0095】
我々はまた、HDRを促進するために使用されるドナーオリゴの構造が、生じるHDRの全体の頻度と種類の両方に大きな影響を与える可能性があることも示す。試験した2つの遺伝子座おいて、対称性の標的鎖および非対称性の非標的鎖の両方のオリゴデザインが、高レベルにHDR全体をもたらすことができたが、特に「低温ショック」の条件下では、対称性の標的鎖オリゴが、非対称性の非標的鎖オリゴよりも効率的に、「完全HDR」をもたらした。これらのデータは、Richardson et al.のデータ(14)と一致していないが、我々のデータは、ドナーオリゴが同じ鎖に対してデザインされているPaquet et alのデータ(15)と一致している。
【0096】
要約すると、我々は、HDRプロセスによって、定方向の(directed)ゲノム配列変更が効率的に生じた細胞集団を得るために、ヌクレオフェクションまたは選択の使用を必要としない、iPSCにおいて遺伝子編集を行うためのプロトコールを開発した。我々はまた、HDRが、より低温に、単純に、短時間、生理学的にさらされることを導入することによって、効果的に増加され得ることを示したが、これは多くのゲノム工学応用にわたって広く有用であろう。
【0097】
参考文献
図1
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図6
図7-1】
図7-2】
図7-3】
図8
【配列表】
2024009934000001.app
【手続補正書】
【提出日】2023-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に本明細書に記載され、実施例および図面を参照して説明される発明。