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特開2024-99354触媒担体、それを用いた白金系触媒担持体およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099354
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】触媒担体、それを用いた白金系触媒担持体およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20240718BHJP
   H01M 4/92 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240718BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20240718BHJP
【FI】
H01M4/96 B
H01M4/92
H01M4/88 C
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003237
(22)【出願日】2023-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業/共通課題解決型基盤技術開発/高温低加湿作動を目指した革新的低白金化技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(71)【出願人】
【識別番号】000198709
【氏名又は名称】石福金属興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000475
【氏名又は名称】弁理士法人みのり特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 稔
(72)【発明者】
【氏名】大門 英夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀男
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018BB01
5H018BB16
5H018EE03
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH04
5H018HH05
5H018HH08
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】固体高分子形燃料電池に好ましく用いられる電極用の触媒担体および白金系触媒担持体を提供する。
【解決手段】少なくともその表面近傍にsp成分を有する多孔質炭素と、前記多孔質炭素の表面に結合された窒素含有化学種とを含む触媒担体。窒素含有化学種は前記多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理することにより、前記多孔質炭素の表面近傍に結合されている。この触媒担体に白金系触媒を担持させて固体高分子形燃料電池の電極として用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素と、前記多孔質炭素の表面に結合された窒素含有化学種とを含むことを特徴とする触媒担体。
【請求項2】
前記多孔質炭素は、平均粒径が200nm以上、1μm以下であり、全表面積が500m/g以上であり、前記全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上であり、2nm~20nmの第1の細孔の容積が0.80cm/g以上、1.4cm/g以下であり、20nmより大きい第2の細孔の容積が1cm/g以上、6cm/g以下である、
ことを特徴とする請求項1記載の触媒担体。
【請求項3】
前記第1の細孔の中心径が2nm以上、10nm以下であり、前記第2の細孔の中心径が25nm以上、700nm以下である、
ことを特徴とする請求項2記載の触媒担体。
【請求項4】
前記多孔質炭素が、CuKα線に対するX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θが25.5度から27.0度の間に2つのピークを有する、
ことを特徴とする請求項1記載の触媒担体。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の触媒担体と、前記触媒担体に担持された白金系触媒とを有する、
ことを特徴とする白金系触媒担持体。
【請求項6】
少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素を準備する工程と、前記多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、400℃以上で熱処理する工程とを有する、
ことを特徴とする触媒担体の製造方法。
【請求項7】
前記多孔質炭素は、平均粒径が200nm以上、1μm以下であり、全表面積が500m/g以上であり、前記全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上であり、2nm~20nmの第1の細孔の容積が0.80cm/g以上、1.4cm/g以下であり、20nmより大きい第2の細孔の容積が1cm/g以上、6cm/g以下である、
ことを特徴とする請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項8】
前記第1の細孔の中心径が2nm以上、10nm以下であり、前記第2の細孔の中心径が25nm以上、700nm以下である、
ことを特徴とする請求項7記載の触媒担体の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質炭素を準備する工程は、有機質樹脂粒子と酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物、クエン酸マグネシウム粒子、または、有機質樹脂粒子とクエン酸マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物のいずれかを、非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成した後、酸洗浄によって前記複合体から酸化マグネシウムを除した非晶質多孔質炭素を、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程である、
ことを特徴とする請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質炭素を準備する工程は、有機質樹脂粒子と酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物、クエン酸マグネシウム粒子、または、有機質樹脂粒子とクエン酸マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物のいずれかを、非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成した後、酸洗浄によって前記複合体から酸化マグネシウムを除した非晶質多孔質炭素を、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理し、その後、平均粒径が200nm以上、1μm以下となるように粉砕し、再度、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程である、
ことを特徴とする請求項6記載の触媒担体の製造方法。
【請求項11】
請求項6から10のいずれかに記載の触媒担体の製造方法と、前記触媒担体に白金系触媒粒子を担持する工程とを有する、
ことを特徴とする白金系触媒担持体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒担体、それを用いた白金系触媒担持体およびそれらの製造方法に関する。特に、固体高分子燃料電池の電極に用いられる白金系触媒を担持するための触媒担体、それを用いた白金系触媒担持体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、アノードで水素の酸化反応を、カソードで酸素の還元反応を起こすことにより、高効率に電気エネルギーを取り出すことができる。そして、その生成物は水のみであるため、クリーンなエネルギー変換デバイスとして着目されている。このような固体高分子形燃料電池のアノードとカソードでの化学反応を促進させるため、触媒として白金(Pt)を使用することが広く知られている。白金を用いた触媒は、触媒活性が高く、また、周辺環境の状態や周辺環境に存在する物質による腐食を受けにくいという利点を有している。このような白金を用いた触媒としては、白金系触媒粒子(例えば、白金粒子、白金コアシェル粒子、白金合金粒子等)を触媒担体(例えば、多孔質炭素)に担持した白金系触媒担持体が広く知られている。
本発明者は、これまでに、例えば、特許文献1~3に示すように、固体高分子形燃料電池のカソードに用いる白金系触媒粒子および白金系触媒担持体ならびにそれらの酸素還元活性を向上させる方法の提案をしている。
【0003】
一方、固体高分子形燃料電池の白金系触媒を担持する触媒担体として用いられる多孔質炭素についても多くの研究がなされている。そのような多孔質炭素の好ましい構造として、高酸素拡散性を示す連通性の高いメソ孔を有する細孔構造を有すること、白金系触媒粒子の担持率を向上させるべく高い比表面積(特に高い内部表面積)を有すること、および、高い耐久性を得るべく炭素表面がsp化(黒鉛化)されていることが知られている。
【0004】
そして、好ましい構造を有する多孔質炭素として、酸化マグネシウムを鋳型として用いた鋳型炭素化法による多孔質炭素が知られている。
例えば、特許文献4には、有機質樹脂(イミド系樹脂)と、酸化マグネシウムとの混合物を不活性雰囲気下で加熱して酸化マグネシウムを鋳型とした酸化マグネシウム・炭素複合体を生成し、その複合体から酸洗浄によって酸化マグネシウムを完全に溶出させることにより非晶質多孔質炭素を生成し、その後、非晶質多孔質炭素を非酸化雰囲気下で非晶質多孔質炭素が結晶化(sp化)する温度以上(例えば、2000℃)で熱処理することによって製造される結晶性が発達した多孔質炭素が開示されている。この結晶性が発達した多孔質炭素は、メソ孔同士が連続している3次元網目構造を呈している。具体的には、メソ孔とこのメソ孔の外郭を構成する炭素質壁とを備えており、炭素質壁には層状構造を成す部分(sp成分)が存在し、比表面積(内部表面積を含む)が200m/g以上であり、メソ孔の容積が0.2ml/g以上である。特に、特許文献4の実施例には、比表面積が1000m/g以上であり、メソ孔の容積が1.0ml/g以上であり、表面にsp成分を有する結晶性が発達した多孔質炭素が開示されている。
さらに、特許文献5には、クエン酸マグネシウムを不活性雰囲気下で500℃以上に加熱して酸化マグネシウムを鋳型とした酸化マグネシウム・炭素複合体を生成し、その後、その複合体から酸洗浄によって酸化マグネシウムを除去することによって製造した非晶質多孔質炭素が開示されている。特許文献5の実施例には、比表面積が1500m/g以上であり、メソ孔容積が1.5ml/g以上である非晶質多孔質炭素が開示されている。
【0005】
特許文献4によれば、従来の非晶質多孔質炭素は、特性を改良(例えば、結晶化(sp化))するために所定温度以上で加熱処理を行うと、炭素材の収縮によって炭素材の細孔が潰れてしまうが、酸化マグネシウムを鋳型として用いた鋳型炭素化法によって生成された非晶質多孔質炭素は、所定の細孔構造を呈しているため、熱処理による炭素材の収縮に耐え、当該細孔構造を維持しつつ、結晶化(sp化)できるとの記載がある。非特許文献1にも、同様の記載があり、鋳型化法による多孔質炭素は、他の多孔質炭素に比べて熱処理による細孔構造が変化しにくいと記載されている。
このような結晶性が発達した多孔質炭素は、東洋炭素株式会社製の「CNovel(登録商標)」として製品化されている。
【0006】
固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いられる多孔質炭素として、上述した物性以外にも、所定の平均粒径を有することが求められている。
つまり、固体高分子形燃料電池は年々小型化(薄膜化)が進んでおり、固体高分子形燃料電池に用いられる固体高分子膜は10μm以下まで薄くなってきている。そして、固体高分子形燃料電池に用いられる膜電極接合体(MEA)は、カソード電極、固体高分子膜、アノード電極を圧縮しながらアッセンブリされるため、各電極の触媒担体によって固体高分子膜が突き破られないように、触媒担体(多孔質炭素)の粒子としては、1μm以下とすることが求められている。
【0007】
一方、白金触媒を触媒担体に担持した白金系触媒担持体は、フッ素系イオノマー(例えば、ナフィオン(登録商標))との接触によって白金触媒が被毒されることが知られている。そして、例えば、特許文献6には、触媒担体である多孔質炭素の平均粒径を小さくしすぎると、イオノマーによる触媒金属の被毒が大きくなると記載されている。詳しくは、多孔質炭素の平均粒径が小さくなると、表面近辺に存在する白金の割合が大きくなるため、イオノマーによる被毒の影響が大きくなり、平均粒径が1μm前後近辺より小さくなると急激に触媒活性が低下すると記載されている。その上でイオノマーによる触媒金属の被毒を低減させることができる多孔質炭素として、モード半径が1~25nmで、細孔容積が1.0~3.0cm/gとなるメソ孔を有し、平均粒径が200nm以上、800nm以下となる多孔質炭素を挙げている。
このように固体高分子形燃料電池の触媒担体として用いられる多孔質炭素として好ましい平均粒径は、200nm以上、1μm以下であることが知られている。
【0008】
その他、イオノマーによる触媒粒子の均一被覆を行う方法として、非晶質多孔質炭素の表面に窒素が組み込まれた化学種を導入する方法も知られている。
例えば、非特許文献2には、非晶質多孔質炭素(ケッチェンブラック(登録商標))の表面に、化学的手法によってアミジン基を導入する技術が開示されている。
また非特許文献3、4には、非晶質多孔質炭素(ケッチェンブラック(登録商標))をアンモニア雰囲気下で400℃~600℃で熱処理することによって窒素含有化学種を導入する技術が開示されている。特に、非特許文献5には、アンモニア雰囲気下、それぞれ200℃、600℃、800℃で熱処理した非晶質多孔質炭素および熱処理を施さなかった非晶質多孔質炭素を比較し、アンモニア雰囲気下600℃で熱処理した非晶質多孔質炭素を用いた電極が最も高い電池電圧を示したと記載されている。一方、アンモニア雰囲気下800℃で熱処理した非晶質多孔質炭素は、他の温度で熱処理した非晶質多孔質炭素より電池電圧が低下し、条件によってはアンモニア雰囲気下の熱処理を施さなかった非晶質多孔質炭素より電池電圧が低下したと記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第6403046号
【特許文献2】特許第6653875号
【特許文献3】特許第6815590号
【特許文献4】特許第5860600号
【特許文献5】特許第6071261号
【特許文献6】特許第6566331号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】飯島孝、小村智子、日吉正孝、「メソ孔を主体とした多孔質炭素の固体高分子形燃料電池触媒担体への適用」、1A09(一般公演)、電気化学学会第87回大会(2020)
【非特許文献2】K. Matsutori, T. Kinumoto et al., Electrochem. Sci. Adv., 2100014 (2021)
【非特許文献3】A. Orfanidi, H. A. Gasteiger et al., J. Electrochem. Soc., 164, F418 (2017)
【非特許文献4】S. Ott, P. Strasser et al., Nat. Mater., 19, 77 (2020)
【非特許文献5】S. Ott, F. Du et al., J. Electrochemical Soc., 169, 054520 (2022)054520 (2022)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述したように、固体高分子形燃料電池の電極用の触媒担体として用いられる多孔質炭素については、多くの研究が行われている。
本発明は、このような背景技術から導かれたものであり、高分子形燃料電池の電極として用いたとき高い電池電圧を示し、良好な電池特性を示す触媒担体、白金系触媒担持体およびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、表面の少なくとも一部にsp成分を有し、2nm~20nmの第1の細孔と、20nmより大きい第2の細孔を含む細孔構造(デュアルポア構造)を有する多孔質炭素を触媒担体として高分子形燃料電池に用いたときの当該多孔質炭素の平均粒径の電池電圧への影響を検討した結果、多孔質炭素の平均粒径を1μm以下としたとき、電池電圧が低下することが確認された。そして、そのような電池電圧の低下を補うべく様々な手段を試したところ、表面の少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素にアンモニア雰囲気で熱処理を施した触媒担体は、平均粒径を1μm以下としても高い電池電圧を示すことを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明の触媒担体は、表面の少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素と、前記多孔質炭素の表面に結合された窒素含有化学種とを含むことを特徴としている。本発明の触媒担体は、高分子形燃料電池の電極に用いられる白金系触媒を担持するための触媒担体として好ましい。
【0014】
本発明の触媒担体であって、前記多孔質炭素は、平均粒径が200nm以上、1μm以下であり、全表面積が500m/g以上であり、前記全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上であり、2nm~20nmの第1の細孔の容積が0.80cm/g以上、1.4cm/g以下であり、20nmより大きい第2の細孔の容積が1cm/g以上、6cm/g以下であるものが好ましい。特に、第1の細孔の中心径が2nm以上、10nm以下であり、第2の細孔の中心径が25nmより大きく、700nm以下であるものが好ましい。ここで「第1の細孔の中心径」とは、多孔質炭素への相対圧に対する窒素の吸着量の関係を表した窒素吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法で解析した2nm~20nmの第1の細孔の細孔分布(体積分布)の最頻値を言う。また「第2の細孔の中心径」とは、多孔質炭素を水銀ポロシメーター(水銀圧入法)で解析した20nmより大きい第2の細孔の細孔分布(体積分布)の最頻値を言う。
本発明の触媒担体であって、前記多孔質炭素が、CuKα線に対するX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θが25.5度から27.0度の間に2つのピークを有するものが好ましい。
【0015】
本発明の白金系触媒担持体は、上述したいずれかの本発明の触媒担体と、前記触媒担体に担持された白金系触媒とを有することを特徴としている。本発明の白金触系触媒担持体は、高分子形燃料電池の電極に用いられる白金系触媒担持体として好ましい。
【0016】
本発明の触媒担体の製造方法は、少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素を準備する工程と、前記多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、400℃以上で熱処理する工程とを有することを特徴としている。
【0017】
本発明の触媒担体の製造方法であって、前記多孔質炭素は、平均粒子径が200nm以上、1μm以下であり、全表面積が500m/g以上であり、前記全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上であり、2nm~20nmの第1の細孔の容積が0.80cm/g以上、1.4cm/g以下であり、20nmより大きい第2の細孔の容積が1cm/g以上、6cm/g以下であるのが好ましい。特に、第1の細孔の中心径が2nm以上、10nm以下であり、第2の細孔の中心径が25nm以上、700nm以下であるのが好ましい。
本発明の触媒担体の製造方法であって、前記多孔質炭素を準備する工程は、有機質樹脂粒子と酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物、クエン酸マグネシウム粒子、または、有機質樹脂粒子とクエン酸マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物のいずれかを、非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成した後、酸洗浄によって前記複合体から酸化マグネシウムを除した非晶質多孔質炭素を、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程であるのが好ましい。
本発明の触媒担体の製造方法であって、前記多孔質炭素を準備する工程は、有機質樹脂粒子と酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物、クエン酸マグネシウム粒子、または、有機質樹脂粒子とクエン酸マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物のいずれかを、非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成した後、酸洗浄によって前記複合体から酸化マグネシウムを除した非晶質多孔質炭素を、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理し、その後、平均粒径が200nm以上、1μm以下となるように粉砕し、再度、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程であるのが好ましい。
ここで「非酸化雰囲気下」とは、アルゴンガスや窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下や減圧雰囲気下が挙げられる。このように酸化マグネシウムを鋳型にした酸化マグネシウム・炭素複合体から生成される多孔質炭素は、複数の第1の細孔と、複数の第2の細孔とを有し、それらの細孔同士が複雑に連続した三次元構造を呈する。
【0018】
本発明の白金系触媒担持体の製造方法は、上述したいずれかの触媒担体の製造方法によって製造された触媒担体を準備する工程と、前記触媒担体に白金系触媒粒子を担持する工程とを有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明の触媒担体は、少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素の表面に所定の窒素含有化学種が結合されているため、白金系触媒を担持して固体高分子形燃料電池の電極として用いたとき、高い電池電圧を示し、良好な電池特性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1aは本発明の触媒担体の製造方法を示す工程図であり、図1bは触媒担体の多孔質炭素の製造方法の一例を示す工程図であり、図1cは触媒担体の多孔質炭素の製造方法の他の例を示す工程図であり、図1dは本発明の白金系触媒担持体の製造方法を示す工程図である。
図2図2aは多孔質炭素(2000nm)、多孔質炭素(825nm)および非晶質多孔質炭素(ケッチェンブラック(登録商標)EC600JD)のX線回析パターンを示す図であり、図2bはその一部拡大図である。
図3図3a~図3cは多孔質炭素(2000nm)の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)であり、図3d~図3fは多孔質炭素(540nm)の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)である。
図4図4aは多孔質炭素(2000nm)のt-プロットを示す図であり、図4bは多孔質炭素(2000nm)および非晶質多孔質炭素(KB―600JDおよびKB300J)の第1の細孔の細孔分布を示す図であり、図4cは多孔質炭素(300nm~2000nm)の第2の細孔の細孔分布を示す図である。
図5図5aは本発明の触媒担体に用いられる多孔質炭素(2000nm)の6nm以下の第1の細孔(メソ孔)の連通性を示す三次元解析像であり、図5bは本発明の触媒担体に用いられる多孔質炭素(2000nm)の断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM像)である。
図6図6a~図6dは、異なる平均粒径の多孔質炭素(MPC1~4)にPt/Pdコアシェル型触媒粒子を担持したPtシェルPdコア触媒担持体(Pt/Pd/MPC1~4)を備えた膜電極接合体(MEA1~4)をそれぞれ異なる相対湿度で評価したH-Air燃料電池の分極曲線図である。
図7図7aは、それぞれ異なる平均粒径の多孔質炭素(MPC5~9)に白金系触媒粒子を担持した白金系触媒担持体(Pt/MPC5~9)を備えた膜電極接合体(MEA5~9)を用いたH-Air燃料電池の分極曲線図であり、図7bは図7aの横軸の電流密度を対数とした各膜電極接合体のTafelプロットを示す図であり、図7cは図7bから求められる活性化過電圧と電流密度との関係を示す図であり、図7dは図7bから求められる拡散過電圧と電流密度との関係を示す図である。
図8】実施例2、比較例2の触媒担体のN1s XPSスペクトルを示す図である。
図9図9aは、実施例1、2および比較例1、2の触媒担体に白金系触媒粒子を担持した実施例1-1、2-1および比較例1-1、2-1の白金系触媒担持体を備えた実施例1-2、2-2および比較例1-2、2-2の膜電極接合体を用いたH-Air燃料電池の分極曲線図であり、図9bは図9aの横軸の電流密度を対数とした各膜電極接合体のTafelプロットを示す図であり、図9cは図9bから求められる活性化過電圧と電流密度との関係を示す図であり、図9dは図9bから求められる拡散過電圧と電流密度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
「触媒担体」
本発明の触媒担体は、表面の少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素と、その多孔質炭素の表面に結合された窒素含有化学種とを含んでいる。この窒素含有化学種は、当該多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理することによって当該表面に結合するのが好ましい。この触媒担体は、固体高分子燃料電池に用いられる白金系触媒を担持するために好ましく用いられる。
【0022】
「多孔質炭素の物性」
多孔質炭素は、表面の少なくとも一部にsp成分を有している。多孔質炭素表面近傍のsp成分は、CuKα線に対するX線回析パターンにおいて、(002)面を示すピーク(ブラッグ角度2θの26度近辺のピーク)として確認することができる。例えば、図2aの点線は表面近傍にsp成分を有する平均粒径が2μmの多孔質炭素(MPC 2000nm)のX線回析パターンであり、実線はそれを825nmまで粉砕した多孔質炭素(MPC 825nm)のX線回析パターンであり、細線は表面近傍にsp成分を有さない非晶質多孔質炭素(KB-600JD)のX線回析パターンである。この図2aに示すように、実線(MPC 825nm)および点線(MPC 2000nm)には、ブラッグ角度2θが26度近辺に、細線(KB-600JD)では観察されない炭素の(002)面からの回折ピークが見られる。このように、多孔質炭素の表面近傍に存在するsp成分を、X線回折によって確認することができる。さらに、図2aのX線回析パターン26.0度近辺の拡大図である図2bに示すように、多孔質炭素は、CuKα線に対するX線回析スペクトルにおいて、ブラッグ角度2θが25.5度~27.0度の間に2つのピークを有するものが好ましく、特に、ブラッグ角度2θが26.0度近辺(例えば、25.8度~26.0度の間)および26.5度近辺(例えば、26.4度~26.6度の間)にそれぞれピークを有するのが好ましい。その場合、低い角度側のピークの方が、ピーク強度が高くなっているものが好ましい。
また、電子顕微鏡写真において、表面に現れる層状組織からも、多孔質炭素の表面近傍に存在するsp成分を確認することができる。例えば、図3a~cは、表面にsp成分を有する平均粒径が2μmの多孔質炭素(MPC 2000nm)の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)であり、図3d~fは、それを540nmまで粉砕した多孔質炭素(MPC 540nm)の透過型電子顕微鏡写真(TEM像)である。これらのTEM像において、表面近傍の層状組織がsp成分である。このように、多孔質炭素の表面近傍に存在するsp成分を、電子顕微鏡観察によっても確認することができる。
【0023】
このように、多孔質炭素の表面近傍の少なくとも一部にsp成分を有する場合、固体高分子形燃料電池の電極に用いたとき、高電位領域で、次式に示す炭素が二酸化炭素に酸化され、ガス化する反応が安定なsp成分により抑制されることが期待される。したがって、多孔質炭素の表面近傍の少なくとも一部にsp成分を有する場合、高電位領域で高い耐久性を示すことが期待される。
C+2HO=CO+4H+4e(E:0.208V vs. SHE)
また後述するように、表面近傍の少なくとも一部にsp成分を有する多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理することにより、所定の窒素含有化学種が多孔質炭素の表面近傍に導入・結合され、固体高分子形燃料電池の電極に用いた際、電池電圧を向上させることができる。
【0024】
多孔質炭素の平均粒径は200nm以上、好ましくは300nm以上、特に好ましくは、400nm以上であり、1μm以下、好ましくは950nm以下、特に好ましくは900nm以下である。平均粒径が200nmより小さくなると、全表面積における外表面積の割合が大きくなる、または、内部表面積の割合が小さくなる。つまり、多孔質炭素の外表面に担持される白金系触媒の割合が大きくなり、イオノマーによる被毒の影響が大きくなる。平均粒径が1μmより大きいと固体高分子形燃料電池の電極に用いた際、固体高分子膜を破断させることがある。
多孔質炭素の平均粒径の測定には、各種の粒度分布測定装置を用いることができる。例えば、HORIBA製作所製のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(LA-950 S2)などが挙げられる。
【0025】
多孔質炭素の全表面積(比表面積)の下限は、500m/g以上、好ましくは1000m/g以上、より好ましくは1100m/g以上、特に好ましくは1200m/g以上である。多孔質炭素の全表面積を大きくすることにより白金系触媒の担持率を増やすことができる。一方、多孔質炭素の全表面積の上限は、2000m/g以下、好ましくは1700m/g以下、特に好ましくは、1500m/g以下である。
多孔質炭素の全表面積(比表面積)は、例えば、多孔質炭素の窒素吸着等温線を測定し、得られた吸着等温線をBET解析することにより求めることができる。
【0026】
多孔質炭素の全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上、好ましくは65%以上、特に好ましくは75%以上であり、95%以下、好ましくは90%以下、特に好ましくは85%以下である。この全表面積に対する内部表面積の割合が55%より小さい場合、外部表面積の割合が大きくなり、多孔質炭素の外部に担持される白金系触媒が増加する。つまり、多孔質炭素の外表面に析出する白金系触媒が増加し、イオノマーによる被毒が大きくなる。
多孔質炭素の全表面積(比表面積)、外部表面積、内部表面積およびメソ孔容積は、多孔質炭素への窒素吸着等温線を、非多孔質炭素担体への窒素吸着等温線を標準等温線として用いたt-法(t-プロット)で解析することにより求めることができる。この際、t-法で多孔質炭素への窒素吸着等温線を解析すると、勾配が大きい初期の直線の傾きが全面積への窒素吸着に対応し、その後の勾配が小さい直線が外部表面への窒素吸着に対応している。各直線に定数を掛けることにより、全表面積(比表面積)と外部表面積を求めることができ、その差分から内部表面積を求めることができる。さらに、勾配が小さい直線を延長し、縦軸の交点の値からメソ孔容積を求めることができる。したがって、多孔質炭素の全表面積に対する内部表面積の割合は、内部表面積/全表面積で求めることができる。
【0027】
多孔質炭素は、2nm以上、20nm以下である第1の細孔と、20nmより大きい第2の細孔とを含む細孔構造を呈している。また、この多孔質炭素の細孔構造は、2nmより小さいマイクロ孔を有していてもよい。
【0028】
第1の細孔の容積は、0.80cm/g以上、好ましくは0.85cm/g以上、より好ましくは0.90cm/g以上、特に好ましくは0.95cm/g以上であり、1.40cm/g以下、好ましくは1.30cm/g以下、特に好ましくは1.20cm/g以下である。第1の細孔の容積を0.80cm/g以上とすることにより、多孔質炭素内への白金系触媒の担持量を十分確保することができる。一方、第1の細孔の容積を1.40cm/gより大きくするのは困難である。
多孔質炭素の第1の細孔の容積は、上述したように、多孔質炭素への窒素吸着等温線を、非多孔質炭素担体への窒素吸着等温線を標準等温線に用いたt-法(t-プロット法)で解析することにより求めることができる。
【0029】
第1の細孔の中心径は、2nm以上、10nm以下であり、好ましくは2nm以上、6nm以下であり、特に好ましくは3nm以上、5nm以下である。第1の細孔の中心径を10nm以下とすることで、触媒インク中での大きさが10nmより大きいイオノマー凝集体の侵入を防止することができる。このため、多孔質炭素の第1の細孔に担持された白金系触媒のイオノマーの直接吸着による被毒を抑制することができる。
第1の細孔の中心径は、多孔質炭素の窒素吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法で解析することにより求めた細孔分布の最頻値から求めることができる。
【0030】
第2の細孔の中心径の下限は、25nm以上、好ましくは30nm以上、特に好ましくは35nm以上、特に好ましくは40nm以上である。一方、第2の細孔の中心径の上限は、700nm以下、500nm以下、好ましくは300nm以下、特に200nm以下、特に好ましくは150nmである。
【0031】
この20nmより大きい第2の細孔の存在により、多孔質炭素の平均粒径が数百nm~1μmと大きな場合でも、イオノマーが多孔質炭素の内部まで侵入することができ、イオノマーと白金触媒表面との距離が遠くなりすぎないようにすることができる。通常、イオノマーと白金触媒表面の距離が離れている場合、イオノマーによって運ばれてくるプロトンは、水分子のホッピング機構で白金触媒表面に供給される。このホッピング機構が有効に機能する距離は200nm前後と考えられている。したがって、イオノマーと白金触媒表面との距離が200nm以上になると、プロトンが白金触媒表面に達することが困難になる。このことから、多孔質炭素に存在する第2の細孔は、多孔質炭素の平均粒径が数百nm~1μmと大きな場合においても、イオノマーを白金触媒表面から適切な距離に配置する重要な役割を担っている。
【0032】
第2の細孔の容積は、1cm/g以上、好ましくは2cm/g以上、特に好ましくは3cm/g以上であり、6cm/g以下、好ましくは5cm/g以下、特に好ましくは4cm/g以下である。第2の細孔の容積が大きくなりすぎるとイオノマーによる被毒が大きくなり、第2の細孔の容積が小さくなりすぎると白金触媒表面へのプロトン供給が行われにくくなる。
【0033】
第2の細孔の孔径とその頻度(細孔分布)および第2の細孔の容積は、水銀圧入法を用いた水銀ポロシメーターにより測定することができる。そして、第2の細孔の中心径は、細孔分布における最頻値から求めることができる。例えば、マイクロトラック・ベル社の水銀ポロシメーター(BELPORE-HP)を用い、水銀圧力を1~300MPaに変えて多孔質炭素に存在するマクロ孔に水銀を注入し,その圧力と注入された水銀の体積から第2の細孔の孔径とその頻度(細孔分布)、および第2の細孔の容積を求めることができる。
【0034】
このような多孔質炭素は、特に限定されないが、金属酸化物を鋳型にした金属酸化物・炭素複合体を生成し、その金属酸化物・炭素複合体を酸洗浄して、金属酸化物・炭素複合体から金属酸化物を除去した非晶質多孔質炭素(表面にsp成分を有さない多孔質炭素)を生成し、その非晶質多孔質炭素を非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理することによって生成するのが好ましい。特に、酸化マグネシウムを鋳型にした酸化マグネシウム・炭素複合体を生成し、酸洗浄によってその複合体から酸化マグネシウムを除去した非晶質多孔質炭素(表面にsp成分を有さない多孔質炭素)を、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理することによって生成するのが好ましい。
【0035】
酸化マグネシウムを鋳型として非晶質多孔質炭素を生成する方法としては、例えば、炭素前駆体となる有機質樹脂(例えば、イミド系樹脂)および酸化マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物を非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成し、その複合体を硫酸または塩酸等によって酸洗浄して、その複合体から酸化マグネシウムを取り除く方法が挙げられる。その他の方法としては、クエン酸マグネシウム粒子または有機質樹脂およびクエン酸マグネシウム粒子を所定の割合で混合した混合物を、非酸化雰囲気下、500℃以上、1500℃以下で熱処理して酸化マグネシウム・炭素複合体を生成し、その複合体を硫酸または塩酸によって酸洗浄して、その複合体から酸化マグネシウムを取り除く方法が挙げられる。特に、クエン酸マグネシウムを用いる場合、酸化マグネシウム・炭素複合体における酸化マグネシウムの粒子径を小さくすることができるため、2nm~20nmの第1の細孔と、20nmより大きい第2の細孔を有するデュアルポア構造を備えた多孔質炭素の製造に適している。
【0036】
非晶質多孔質炭素の非酸化雰囲気での熱処理は、不活性ガス雰囲気下、あるいは減圧雰囲気下、非晶質の炭素の結晶化(sp化)する1800℃以上、2500℃以下、好ましくは2300℃以下、特に好ましくは2200℃以下で熱処理する。
このように金属酸化物を鋳型にした複合体から生成される多孔質炭素は、複数の第1の細孔と、複数の第2の細孔を有し、それらの孔同士が複雑に連続した三次元構造(デュアルポア構造)を呈する。
このような多孔質炭素としては、東洋炭素株式会社製の「CNovel MH」シリーズが挙げられる。
【0037】
「窒素含有化学種の導入」
表面にsp成分を有する多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理することにより、多孔質炭素の表面近傍に結合した窒素含有化学種を導入することができる。
熱処理の温度は、400℃以上、1500℃以下であり、温度の下限は600℃以上であり、特に700℃以上であり、温度の上限は1200℃以下であり、特に1000℃以下であるのが好ましい。
この窒素含有化学種としては、ピリジニック窒素、ピロリック窒素等が多孔質炭素の表面近傍に導入されていると考えられる。
【0038】
なお、本発明者は、sp成分を有する表面を備えた多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、400℃以上で熱処理することによって窒素含有化学種を多孔質炭素の表面に結合させた触媒担体と、sp成分を有さない表面を備えた非晶質多孔質炭素をアンモニア雰囲気下で熱処理することによって窒素含有化学種を多孔質炭素の表面に結合させた触媒担体とは、異なっていることを見出した。
つまり、非特許文献5には、非晶質多孔質炭素(ケッチェンブラック(登録商標))をアンモニア雰囲気下でそれぞれ200℃、600℃、800℃で熱処理した触媒担体を準備し、それに白金粒子を担持させた白金系触媒担持体の電池特性(I-V特性)を調べた結果、アンモニア雰囲気下、200℃および600℃で熱処理した触媒担体は、熱処理を施さない触媒担体より電池電圧が向上した。一方、アンモニア雰囲気下、800℃で熱処理した触媒担体は、熱処理を施さない触媒担体と試験条件によって電池電圧が同等あるいは低下したと報告されている。
【0039】
上記に対し、sp成分を有する表面を備えた多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、800℃で熱処理した触媒担体では、後述するように、アンモニア雰囲気下、600℃で熱処理した触媒担体および熱処理を施さなかった触媒担体よりも高分子形燃料電池に用いた際、電池電圧が向上することが、本発明者の試験によりわかった。
sp成分を有する多孔質炭素の表面は、sp成分を有さない非晶質多孔質炭素の表面よりも化学的に安定化している。このため、アンモニア雰囲気で熱処理する際、600℃以上の温度で熱処理しても、sp成分を有さない非晶質多孔質炭素表面と比較し、その表面に安定な窒素含有化学種が導入・結合されると考えられる。
したがって、sp成分を有する表面を備えた多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、600℃以上で熱処理した触媒担体と、非晶質多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、600℃以上で熱処理した触媒担体では、処理前のそれぞれの多孔質炭素表面の化学的安定性が異なっており、アンモニア雰囲気で熱処理した際、電池特性の向上が観察される上限温度が違っていると考えられる。
【0040】
このように本発明の触媒担体では、少なくともその表面近傍の一部にsp成分を有する多孔質炭素の表面に、所定の窒素含有化学種が導入・結合されているため、窒素含有化学種がプロトン受容体(ルイス塩基)として働くと考えられる。このため、触媒インク作製時、添加されたイオノマー分子に存在するスルホン酸基からプロトンを受容し、多孔質炭素表面がカチオン化する。このカチオン化した多孔質炭素表面では、イオノマー分子に存在するスルホン酸アニオンとの間に静電的な相互作用が生じる。この静電的相互作用により、窒素含有化学種が存在しない多孔質炭素に白金系触媒粒子が担持された白金系触媒担持体と比較し、窒素含有化学種が存在する多孔質炭素(本発明の触媒担体)に白金系触媒粒子が担持された白金系触媒担持体(本発明の白金系触媒担持体)は、イオノマー分子が多孔質炭素表面と白金系触媒表面を、より均一に被覆することができると考えられる。イオノマー分子により、多孔質炭素表面と白金系触媒表面がより均一に被覆される白金系触媒担持体(本発明の白金系触媒担持体)を固体高分子形燃料電池の電極として用いれば、表面に所定の窒素含有化学種が結合されていない多孔質炭素に白金系触媒粒子が担持された白金系触媒担持体を用いた場合と比較し、イオノマー/白金系触媒粒子表面の界面において局所的な酸素拡散抵抗が低減される。この結果、高電流密度領域あるいは低湿度環境において、高い電池電圧を得ることができると考えられる。
【0041】
また本発明の触媒担体は、連通性が高い孔径2~20nmの第1の細孔が存在しており、その第1の細孔に担持される白金系触媒粒子のイオノマーの直接吸着による被毒が抑制される結果、触媒活性の低下を抑えることができる。
そして、本発明の触媒担体には、孔径が20nmより大きい第2の細孔が存在するため、多孔質炭素の平均粒径が数百nm~1μmの大きさであっても、イオノマーを多孔質炭素の内部まで侵入させることができる。これにより、イオノマーと触媒担体に担持させる白金系触媒粒子表面の距離を適切な範囲(200nm以下)にすることができ、イオノマーから触媒表面へのプロトン伝導にも問題を生じない。さらに、本発明の触媒担体は、その表面にsp成分が発達しているため、sp成分を持たない多孔質炭素と比較し、高電領域位での高い耐久性が期待される。そして、本発明の触媒担体の平均粒径は1μm以下であるため、固体高分子形燃料電池の製造において、薄膜化した固体高分子膜を破断させることがなく、生産面においても問題がない。
【0042】
「触媒担体の製造方法」
固体高分子燃料電池に用いられる白金系触媒粒子を担持するための触媒担体の製造方法は、図1aに示すように、少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素を準備する工程(S1)と、前記多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、400℃以上で熱処理する工程(S2)とを有する。工程(S2)は、上述したようにsp成分を有する多孔質炭素の表面に窒素含有化学種を導入・結合させる工程である。
【0043】
少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素を準備する工程(S1)は、多孔質炭素を少なくとも非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理することにより行う。多孔質炭素は、上述したように、平均粒径が200nm以上、1μm以下であり、全表面積が500m/g以上であり、前記全表面積に対する内部表面積の割合が55%以上であり、2nm~20nmの第1の細孔の容積が0.80cm/g以上、1.4cm/g以下であり、当該第1の細孔の中心径が2nm以上、10nm以下であり、さらに、20nmより大きい第2の細孔の容積が1cm/g以上、6cm/g以下であり、当該第2の細孔の中心孔が25nmより大きく700nm以下である所定の細孔構造を呈するのが好ましい。
このような所定の細孔構造の多孔質炭素の製造方法は、図1bに示すように、酸化マグネシウムを鋳型とした酸化マグネシウム・炭素複合体を生成する工程(S1-1)と、酸洗浄によって前記複合体から酸化マグネシウムを除した非晶質多孔質炭素を生成する工程(S1-2)と、その非晶質多孔質炭素を非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程(S1-3)とを有する。これらの工程(S1-1)~工程(S1-3)は、上述した通りである。
【0044】
なお、非晶質多孔質炭素の平均粒径が1μmより大きい場合、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程(S1―3)の後、平均粒径が200nm以上、1μm以下となるように粉砕してもよく、非晶質多孔質炭素を生成する工程(S1-2)の後、平均粒径が200nm以上、1μm以下となるように非晶質多孔質炭素を粉砕し、粉砕後の非晶質多孔質炭素を非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程(S1-3)をしてもよい。
例えば、図1cに示すように、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理する工程(S1-3)の後、平均粒径が200nm以上、1μm以下となるように粉砕(S1-4)し、再度、非酸化雰囲気下、1800℃以上で熱処理(S1―5)するのが好ましい。このように工程(S1‐3)の後に粉砕する場合、粉砕により表面のsp成分が損傷し、粉砕によりsp化されていない炭素の新生面が現れるため、全表面積におけるsp成分の割合が減少する可能性がある。しかし、再度、1800℃以上で熱処理することにより、多孔質炭素の表面のsp成分の割合を増加させることができる。
このような粉砕方法は、特に限定されないが、ビーズミルによって粉砕することが挙げられ、特に、湿式ビーズミルによって粉砕することが挙げられる。
【0045】
次に、上述したいずれかの触媒担体に白金系触媒粒子を担持させた白金系触媒担持体の製造方法について説明する。
白金系触媒担持体の製造方法は、図1dに示すように、本発明の触媒担体を製造する工程(A)と、その触媒担体に白金系触媒粒子を担持する工程(B)とを有する。
【0046】
「白金系触媒粒子を担持する工程(B)」
白金系触媒粒子は、白金、あるいは、白金と白金以外の金属を含むものであれば特に限定されるものではない。白金と白金以外の金属を含むものとしては、例えば、白金以外の金属からなるコアと、そのコアの表面に形成された白金からなるシェルとを有するコアシェル構造を有する白金コアシェル触媒、あるいは、白金と、白金以外の金属との合金を含む白金合金触媒とが挙げられる。白金コアシェル触媒は、パラジウム、コバルト又はニッケルを含有するコアと、コア粒子表面に形成された白金シェルとから構成され、特に、コア金属がパラジウムであるものが好ましい。白金合金触媒は、白金と、パラジウム、コバルト又はニッケルの白金以外の金属とからなる合金であり、特に、白金以外の金属がコバルトまたはニッケルであるものが好ましい。
白金系触媒粒子の粒子径としては、20nm以下、好ましくは、10nm以下、特に好ましくは6nm以下である。白金系触媒粒子の粒子径は、酸素還元反応に寄与する面積を増やすため、小さい方が好ましい。しかし、粒子径が小さくなりすぎると、PEFCカソードで生じる電位変動(0.6~1.0V vs.RHE)により、オストワルド成長が進行して粒子径が大きくなりやすい。このため、白金系触媒粒子の粒子径としては、0.5nm以上、1nm以上、特に2nm以上が好ましい。
【0047】
白金系触媒粒子を触媒担体に担持する方法は、特に限定されるものではない。例えば、触媒担体と、白金前駆体塩とを溶媒に加えて分散させ、溶媒を除去して得られる乾固物を、加熱還元する方法などが挙げられる。
またPt/Pdコアシェル型の白金系触媒粒子を担持させる場合、例えば、特許文献1~3に記載されているように、触媒担体を溶媒に分散させた分散液を調製し、その分散液にPd前駆体塩を加える。その後、溶媒を除去し、得られた乾固物を加熱還元して触媒担体にPdコア粒子を担持させる。得られたPdコアが担持された触媒担体を水に加えて分散する。その後、水溶液を冷却し、硫酸水溶液を加えてpHを1以下に調製する。その後、Ptシェルの前駆体であるKPtClを加え、水溶液を昇温し、Pdコア表面を直接Pt2+イオンで置換することにより、Pt/Pdコアシェル型白金系触媒粒子を電極用触媒担体に担持した白金系触媒を合成してもよい。
【0048】
以下に実施例を用いた本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0049】
以下に実施例の説明を行う。
初めに、少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素であって、平均粒径が異なる複数の多孔質炭素を準備し、それらの物性を測定した。そして、少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素と、非晶質多孔質炭素の比較を行った。
次に、少なくとも表面の一部にsp成分を有し、平均粒径が異なる複数の多孔質炭素を用いて2種類の触媒(Pt/Pdコアシェル型触媒、および、白金系触媒担持体(Pt/MPC))を合成し、それらの触媒をカソード極に使用した膜電極接合体(MEA)を作製し、それらの電池特性を試験1、試験2として評価した。
さらに、実施例サンプル、比較例サンプルとして、「少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素に窒素含有化学種を導入した触媒担体」(実施例1、2)、「少なくとも表面の一部にsp成分を有する多孔質炭素に窒素含有化学種を導入しない触媒担体」(比較例1、2)を作製してそれらの特性を評価した。そして、実施例1、2の触媒担体および比較例1、2の触媒担体を用いた膜電極接合体(実施例1-2、実施例2-2、比較例1-2、比較例2-2)をそれぞれ作製し、それらの電池性能を評価した。
【0050】
「平均粒径が2μmの多孔質炭素」
CNovel MH-18(東洋炭素社製)を準備した。その平均粒径は2μmであった。本願の明細書および図面において、「平均粒径が2μmの多孔質炭素」あるいは、「多孔質炭素(2000nm)」は、このCNovel MH-18を言う。
この多孔質炭素(2000nm)の窒素吸着等温線をマイクロトラック・ベル社のBELSORP MAX-IIで測定し、算出した全表面積は1257m/gであり、窒素吸着等温線をt-法(t-プロット)で解析した結果、内部面積は1113m/gであり、全表面積に対する内部面積の割合は89%であった。また、得られた窒素吸着等温線をt-法で解析した結果、第1の細孔の容積は、1.19cm/gであり、得られた窒素吸着等温線をBJH法で解析した結果、第1の細孔の中心径は4nmであった。また、マイクロトラック・ベル社の水銀ポロシメーターBELPORE-HPで測定した第2の細孔の容積は、3.6cm/gであり、第2の細孔の中心径は620nmであった。
図4aは、多孔質炭素(2000nm)の窒素吸着等温線を、非多孔質炭素の窒素吸着等温線である標準等温線と比較・変換して吸着層の厚みと吸着量の関係にしたt-プロットである。図4bは、各多孔質炭素の窒素吸着等温線をBJH法で解析することにより求めた多孔質炭素(2000nm)の第1の細孔の細孔分布である。また図4cのMPC2000nmは、多孔質炭素(2000nm)を水銀ポロシメーターで測定して求めた多孔質炭素(2000nm)の第2の細孔の細孔分布である。
【0051】
図5aは、多孔質炭素(2000nm)の6nm以下の第1の細孔の連通性を示す三次元解析像である。この三次元解析像は、透過型電子顕微鏡(TEM、日本電子製、JEM2100F)を用い、多孔質炭素(2000nm)を角度を変えながら加速電圧200kVで数十枚のTEM像を撮影し、得られたTEM像から多孔質炭素(2000nm)の三次元TEM像を構築し、その後、三次元TEM像に存在する孔径2nm~6nmのメソ孔(第1の細孔)の中から、連通したメソ孔(第1の細孔)のみを抽出し、白線で表したものである。この像より、多孔質炭素(2000nm)には、連通性が高い孔径2nm~6nmの第1の細孔が多数存在していることわかる。
さらに図5bは、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテク製、FIB-SEM NX-9000)で多孔質炭素(2000nm)の断面を加速電圧30kVで観察した結果を示す。このSEM像は図中の白線が800nmに対応しており、孔径2nm~6nmのメソ孔は観察できない低倍率となっている。図5bから、多孔質炭素(2000nm)には、孔径が20nmより大きい第2の細孔が多数存在していることがわかる。
図5aの三次元TEM像(三次元解析像)と図5bのSEM像から、CNovel MH-18(多孔質炭素(2000nm))には、連結性の高い孔径2nm~6nmの第1の細孔と、孔径が20nmより大きい第2の細孔が共存しており、それらの孔同士が複雑に絡み合った三次元細孔構造を有していることがわかる。
【0052】
「平均粒径が1μm以下の多孔質炭素」
多孔質炭素(2000nm)を連続湿式ビーズミルで粉砕することにより、平均粒径が1μm以下の多孔質炭素を準備した。なお、実施例において、多孔質炭素に続くカッコ内の数値は、多孔質炭素の平均粒径を示す。
具体的には、多孔質炭素(2000nm)を溶媒(水:エタノール=1:1、体積比)に混合し、固形分濃度10重量%のスラリーを調製した。このスラリーと、直径2mmのZrO製のビーズを連続湿式ビーズミルに投入し、粉砕処理を行った。粉砕処理後、ZrO製ビーズを除去し、スラリーを濾過・乾燥して粉砕した多孔質炭素を得た。なお、粉砕処理時間によって、多孔質炭素の平均粒径を200nm~960nmに調整した。
粉砕後の多孔質炭素の平均粒径の測定には、HORIBA製作所製のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置(LA-950 S2)を用いた。具体的には、湿式ビーズミルで粉砕した多孔質炭素インクを、水とエタノールの混合溶媒(水:エタノール=1:1、体積比)を用いで100倍に希釈し、専用の容器に入れて計測した。
表1に多孔質炭素(2000nm)「MPC(2μm)」と、多孔質炭素(550nm)「MPC(550nm)」と、多孔質炭素(250nm)「MPC(250nm)」の各物性を示す。全表面積、内部面積、第1の細孔の容積および第1の細孔の中心径は、各多孔質炭素の窒素吸着等温線をマイクロトラック・ベル社のBELSORP MAX-IIで測定して求めた。第2の細孔の容積および中心径は、マイクロトラック・ベル社の水銀ポロシメーターBELPORE-HPで測定した。
【0053】
【表1】
【0054】
表1より、多孔質炭素(2000nm)を粉砕し、平均粒径を小さくすることによって内部の細孔が減少し、第1の細孔の容積および第2の細孔の容積が減少していることがわかる。また内部の細孔が減少すると共に、外部表面積が増加するため、全表面積が増加し、全表面積に対する内部表面積の割合が減少していることがわかる。
なお、多孔質炭素(250nm)では、第2の細孔の中心径を求めることができなかった。平均粒径を250nmとなるまで粉砕する場合、粉砕とともに第2の細孔も潰されているためと考えられる。図4cは、多孔質炭素(2000nm)を粉砕した平均粒径が300nm、540nm、730nm、890nmの多孔質炭素を、マイクロトラック・ベル社の水銀ポロシメーター(BELPORE-HP)で測定して求めた第2の細孔の細孔分布を示す。この図4cからも同様の傾向が見られる。つまり、平均粒径が小さくなるにつれて、第2の細孔の最頻値が減少している。そして、平均粒径が300nmでは、第2の細孔の中心径を求めることができなかった。
【0055】
次に、多孔質炭素(2000nm)を粉砕し、平均粒径が825nmの多孔質炭素を準備した。多孔質炭素(2000nm)「MPC(2000nm)」と、多孔質炭素(825nm)「MPC(825nm)」のX線回析パターンを図2に示す。測定は、株式会社リガク製のSmart Labを用い、加速電圧45kV、電流200mAで測定した。なお、参考として、非晶質多孔質炭素(KB-600JD、ケッチェンブラック(登録商標))についても、そのX線回析パターンを示す。図2のX線回析パターンから、多孔質炭素(2000nm)および多孔質炭素(825nm)は、炭素の(002)面(sp成分)からの回折が観測され(ブラッグ角度2θの26度近辺のピーク)、多孔質炭素にsp成分が存在していることがわかる。一方、非晶質多孔質炭素は、当該ピークが観測されず、非晶質多孔質炭素には、sp成分が存在していないことがわかる。尚、図2bの拡大図において、炭素の(002)面からの回折2θ角度は26.5度であるが、多孔質炭素(2000nm)「MPC(2000nm)」と、多孔質炭素(825nm)「MPC(825nm)」では、回折2θ角度が26.0度付近でも回折が観測された。この角度からの回折は、乱れた(002)面からの回折であり、クエン酸マグネシウムから作製した多孔質炭素に特徴的な回折である。
【0056】
さらに、多孔質炭素(2000nm)を粉砕して、平均粒径が540nmの多孔質炭素を準備した。多孔質炭素(2000nm)と多孔質炭素(540nm)の透過型電子顕微鏡写真(TEM、日本電子株式会社製、JEM2100F、加速電圧200kVで撮影)を図3に示す。多孔質炭素(2000nm)と多孔質炭素(540nm)の表面近傍に、炭素のグラファイトが積層した層状組織が観察された。図2に示したX線回析パターンとともに、この図3の電子顕微鏡写真からも、多孔質炭素(2000nm)と多孔質炭素(540nm)の表面近傍には、sp成分が存在していることが確認された。
(1)試験1
平均粒径が異なる多孔質炭素(触媒担体)を用いてPt/Pdコアシェル型触媒を合成し、このPt/Pdコアシェル型触媒をカソード極に使用した膜電極接合体を作製し、それらの電池特性を評価した。
【0057】
「Pt/Pdコアシェル型触媒の合成」
触媒担体として、多孔質炭素(250nm)、多孔質炭素(450nm)、多孔質炭素(800nm)および多孔質炭素(2000nm)を準備した。それぞれ上記の順番でMPC1~4とする。
各触媒担体(MPC1~4)の多孔質炭素300mgを純水200mlに加え、10分間超音波分散した。これらの分散液に、Pd金属として担持率が50wt.%になるようPd前駆体塩を添加・分散後、水分を留去した。得られた固形物を回収し、大気中、60℃のオーブンで一昼夜乾燥した。乾燥した固形物をアルミナボートに入れて管状炉に設置し、Ar雰囲気下、400℃で4時間熱還元し、各触媒担体(MPC1~4)の多孔質炭素にPdコアを担持した。
Pdコアが担持された多孔質炭素600mgを純水800mlが入ったセパラブルフラスコに加え、10分間超音波分散した。その後、撹拌しながら窒素ガスを500ml/分でバブリングし、氷浴を用いて分散液の温度を5℃に冷却した。分散液の温度が5℃になった時点で4Mの硫酸水溶液を30g加え、分散液のpHを0.85に調整した。その後、Ptシェルの前駆体であるKPtClを1モノレーヤー相当加え、5℃で30分間撹拌後、水浴を用いて分散液の温度を70℃に昇温し、70℃で3時間撹拌することにより、Pdコア表面をPt2+イオンで直接置換し、Pt/Pdコアシェル型触媒がMPC1~4の多孔質炭素に担持された白金系触媒担持体(Pt/Pd/MPC1~4)を合成した。このとき、コアシェル型白金触媒粒子の平均粒径は、5.4nmであった。なお、この平均粒径は、XRD回折パターンの(220)面に、シェラー式を適用して算出した。
【0058】
「膜電極接合体の作製」
上述の白金系触媒担持体(Pt/Pd/MPC1~4)を用い、以下の工程により表面積が1cmの膜電極接合体(MEA1~4)を作製した。
各白金系触媒担持体(Pt/Pd/MPC1~4)200mgを、水:イソプロピルアルコール=6:4(重量比)の混合溶媒に分散後、イオノマー(Nafion(登録商標)、DE2020)を多孔質炭素との重量比が0.83になるよう加え(I/C比:0.83)、直径3mmのZrOビーズを用い、300rpmで1時間ビーズミル混錬を行った。混錬後、ZrOビーズを除去し、得られた触媒インクをバーコーターに乗せたPTFEシート上にドクターブレードを用い、白金目付量が0.1mg/cmになるよう塗布した。その後、真空乾燥機を用い、溶媒を蒸発させた。アノード触媒層(TECEA50E、田中貴金属製、白金目付量0.1mg/cm)も、同様の手順で作製した。厚さ12μmの固体高分子膜(日本GORE製)の両面に、カソード触媒層とアノード触媒層をホットプレス機により転写し、表面積1cmの膜電極接合体(MEA1~4)を作製した。
【0059】
「膜電極接合体の電池特性評価」
作製した膜電極接合体(MEA1~4)の両側をガス拡散層(東レ製)で挟み込み、電池特性評価用の単セルを作製した。この単セルのアノードに水素ガスを出口圧力が150kPaになるよう導入し、カソードには空気を出口圧力が150kPaになるよう導入し、セル温度80℃、相対湿度35%~95%の条件で単セルの電池特性(I-V特性)を評価した。セル電圧を電気負荷装置(菊水電子製、PLZ-164WA)により制御し、各電流密度で1分間保持した後、電池電圧を記録した。その結果を図6a~図6dに示す。
【0060】
図6a~図6dに示すように、全相対湿度条件(95%RH~35%RH)で、多孔質炭素の平均粒径が800nmの膜電極接合体(MEA3)が最も高い電池電圧を示した。これは多孔質炭素の平均粒径が2000nmの膜電極接合体(MEA4)よりも高い電池電圧であった。相対湿度が55%~95%では、多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)が一番低い電池電圧を示し、相対湿度が35%では、多孔質炭素の平均粒径が250nmの電極接合体(MEA1)が一番低い電池電圧を示した。
【0061】
各膜電極接合体(MEA1~MEA4)で観測された相対湿度による電池特性の変化は、以下のように解釈される。先ず、この多孔質炭素には、図5bで示したように孔径が20nmより大きい第2の細孔が存在している。したがって、触媒インク中で凝集したイオノマーであっても、この多孔質炭素に存在する第2の細孔を通し、イオノマーは多孔質担体の内部に侵入すると考えられる。しかし、多孔質炭素の平均粒径が2μmと大きい場合、多孔質炭素の外部から内部までの拡散距離が長くなる。このため、多孔質炭素内部のイオノマー濃度は、外部に比べて低下すると考えられる。実際、膜電極接合体の断面をSEMで組成分析した結果、多孔質炭素の平均粒径が2μmの膜電極接合体(MEA4)では、多孔質炭素の外部ではフッ素濃度が高く、内部ではフッ素濃度が低く観測された。一方、多孔質炭素の平均粒径が800nmの膜電極接合体(MEA3)では、多孔質炭素の外部と内部でのフッ素濃度差が減少した。このことから、多孔質炭素の平均粒径が2μmの膜電極接合体(MEA4)では、多孔質炭素の外部に厚いイオノマー層が形成されており、多孔質炭素の平均粒径が800nmの膜電極接合体(MEA3)と比較して酸素拡散抵抗が増加し、全ての相対湿度条件で低い電池電圧を示したと考えられる。
【0062】
一方、多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)と多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)においては、膜電極接合体の断面をSEMで組成分析した結果、多孔質炭素の外部と内部でフッ素の濃度差は観測されなかった。したがって、これらの多孔質炭素の外部では厚いイオノマー層は形成されていないと考えられる。しかし、多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)と多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)の電池電圧は多孔質炭素の平均粒径が800nmの膜電極接合体(MEA3)を下回った。
湿式ビーズミル粉砕により、多孔質炭素の平均粒径を250nmまで粉砕した触媒担体(MPC1)では、その全表面積は平均粒径が2μmの触媒担体(MPC4)に比べ、15%増加した。したがって、この表面積増加により、多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)ではイオノマー量が不足していたと考えられる。実際、平均粒径を250nmまで粉砕した多孔質炭素を用いた膜電極接合体(MEA1)に対し、イオノマー添加量を増やしてI/C比を0.93に高めた結果、電池電圧が大きく増加することが確認された。
したがって、図6aにおいて、相対湿度が35%で多孔質炭素の平均粒径体250nmの膜電極接合体(MEA1)が最も低い電池電圧を示した原因は、イオノマーが不足していたと考えられる。しかし、図6b~図6dにおいて、相対湿度55%~95%の環境では、多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)が、多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)と比較して高い電池電圧を示した。この原因は、イオノマー量は多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)と多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)で共に不足しているが、平均粒径を250nmまで粉砕した多孔質炭素を用いた膜電極接合体(MEA1)では、イオノマーが多孔質炭素の外部から内部に拡散する距離が最も短くなっている。多孔質炭素の平均粒径が250nmの膜電極接合体(MEA1)では、イオノマーの拡散距離が短くなったことに加え、相対湿度が55%以上の条件において水分子によるホッピング機構が作用し、多孔質炭素の平均粒径が450nmの膜電極接合体(MEA2)に比べて高い電池電圧を示したと考えられる。
【0063】
(2)試験2
試験2では、異なる平均粒径の多孔質炭素に白金粒子を担持した白金系触媒担持体(Pt/MPC)を用いた膜電極接合体(MEA)を作製し、それぞれの電池特性を評価した。
【0064】
「白金系触媒担持体の合成」
触媒担体として、多孔質炭素(300nm)、多孔質炭素(550nm)、多孔質炭素(760nm)、多孔質炭素(960nm)および多孔質炭素(2000nm)を準備した。それぞれMPC5~9とする。
それぞれの多孔質炭素(MPC5~9)に白金粒子を担持させた白金系触媒担持体(Pt/MPC5~9)を、以下の手順で合成した。
300mgの各多孔質炭素(MPC5~9)を、水:エタノールの体積比を37.5mL:250mLに調整した混合溶媒に加え、10分間超音波分散した。その後、Pt前駆体をPt金属担持率が50wt.%になるよう加え、窒素雰囲気下、500rpmで撹拌しながら90℃で4時間還流することにより、Pt/MPC5~9の触媒を合成した。合成後、触媒を濾別し、300mLの純水に再分散して10分間撹拌後、濾別した。この操作を5回繰り返し、触媒を洗浄した。最終的に濾別した触媒を大気中、60℃で一昼夜乾燥した。
【0065】
「膜電極接合体の作製」
上述の白金系触媒担持体(Pt/MPC5~9)を用い、試験1と同様の工程により表面積が1cmの膜電極接合体(MEA5~9)を作製した。
【0066】
「膜電極接合体の電池特性評価」
作製した膜電極接合体(MEA5~9)の両側をガス拡散層で挟み込み、電池特性評価用の単セルを作製した。この単セルのアノードに水素ガスを出口圧力が150kPaになるよう導入し、カソードには空気を出口圧力が150kPaになるよう導入し、セル温度80℃、相対湿度75%で単セルの電池特性(I-V特性)を評価した。セル電圧を試験1と同様に記録した。その結果を図7aに示す。
活性化過電圧と拡散過電圧はNEDO PEFCセル評価解析プロトコル2022年3月版に基づいて算出した。計算方法の概要を以下に示す。電流密度を変えて測定したI-V特性(図7a)から、横軸を対数でプロットした電流密度、縦軸をiR-free電圧としたTafelプロットを作成する(図7b)。低電流密度側で直線性がある3点(本測定では0.020、0.050および0.075A/cm) から、回帰直線の式(1)のAとBを求めた。
y=Aln(x)+B・・・式(1)
分析したい電流密度xをAとBとを求めた式(1)に代入し、回帰式上での電圧yを求めた。活性化過電圧は、80℃、H2-Air条件での理論起電圧1.17Vと、電圧yとの値との差から算出した(図7c)。拡散過電圧は、電流密度xでの式(1)の電圧yの値と、iR-free電圧値との差から算出した(図7d)。
【0067】
図7a、図7bに示すように、多孔質炭素の平均粒径が2000nmの膜電極接合体(MEA9)が、一番高い電池電圧を示した。また図7c、図7dから多孔質炭素の平均粒径が2000nmの膜電極接合体(MEA9)では、活性化過電圧および拡散過電圧が一番低い値を示し、これらの低い過電圧により、多孔質炭素の平均粒径が2000nmの膜電極接合体(MEA9)が最も高い電池特性を示したと考えられる。また、図7a~図7dの結果から、多孔質炭素の平均粒径が減少するにしたがい、活性化過電圧と拡散過電圧が増加し、電池電圧が低下した。
試験1、2から多孔質炭素の平均粒径が800nmの膜電極接合体(MEA3)を除けば、担持させた白金系触媒粒子に関わらず、多孔質炭素の平均粒径が2000nmの膜電極接合体(MEA4、MEA9)は、粉砕した多孔質炭素の平均粒径が1000nm以下の膜電極接合体(MEA1、2、5~8)よりも、高分子形燃料電池に用いた際、高い電池電圧を示した。
【0068】
(3)実施例を用いた電池特性試験1
粉砕した多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理し、粉砕した多孔質炭素の表面に窒素含有の化学種を導入した触媒担体(実施例1、2)を作製した。これらの触媒担体に白金粒子を担持させた白金系触媒担持体(Pt/MPC)(実施例1-1、2-1)を合成した。その後、これらの白金系触媒担持体を用いた膜電極接合体(MEA)(実施例1-2、2-2)を作製し、電池特性を評価した。
【0069】
「窒素含有化学種を導入した触媒担体(実施例1、2)の作製」
湿式ビーズミルにより、平均粒径が550nmの多孔質炭素(550nm)を準備した。この多孔質炭素(550nm)をアンモニア雰囲気下、600℃と800℃で2時間熱処理し、窒素含有の化学種が導入された触媒担体(実施例1、2)を作製した。なお、アンモニア雰囲気で熱処理を行わなかった多孔質炭素(2000nm)および多孔質炭素(550nm)を、それぞれ比較例1、2とする。
【0070】
図8は、実施例2および比較例2の触媒担体のN1s XPSスペクトルを示す。XPS分析に用いた装置はアルバック・ファイ社製のPHI-5000 Versaprobe IIIで、X線源には、AlKα線を使用した。100μmφの試料面積にX線を照射し、25W、15kV、パスエネルギー27eV、0.2eVステップでN1s XPSスペクトルを取得した。実施例2の多孔質炭素(平均粒径550nm、アンモニア雰囲気下、800℃で2時間熱処理)のN1s XPSスペクトルでは、結合エネルギーが367eV~402eVに窒素の存在を示すピークが観測された。結合エネルギーが398.5eV付近のピークはピリジニック窒素、結合エネルギーが400.5eV付近のピークはピロリック窒素に帰属される。一方、比較例2の多孔質炭素(平均粒径550nm、アンモニア雰囲気での熱処理なし)では、N1s XPSスペクトルに窒素の存在を示すピークは全く観測されなかった。これらの結果より、実施例2の多孔質炭素では、アンモニア雰囲気で熱処理することにより、その表面近傍に窒素含有化学種が導入・結合されていることが確認された。
【0071】
「白金系触媒担持体の作製」
実施例1、2および比較例1、2の触媒担体に、試験2と同様の方法で、白金粒子を担持させて白金系触媒担持体(Pt/MPC)(実施例1-1、実施例2-1、比較例1-1、比較例2-1)を作製した。
【0072】
「膜電極接合体の作製」
上記の白金系触媒担持体(Pt/MPC)を用いて、試験1と同様の工程により表面積が1cmの膜電極接合体を作製した。それぞれ実施例1-2、実施例2-2、比較例1-2、比較例2-2とする。
【0073】
「膜電極接合体の電池特性評価」
作製した膜電極接合体(MEA)(実施例1-2、実施例2-2、比較例1-2、比較例2-2)の両側をガス拡散層で挟み込み、電池特性評価用の単セルを作製した。得られた単セルのI-V特性と過電圧を、試験2と同様な方法で測定し、その結果を、図9に示す。
【0074】
図9aと図9bに示すように、アンモニア雰囲気で熱処理を行い、窒素含有化学種を導入した触媒担体(実施例1、2)を備えた膜電極接合体(実施例1-2、2-2)では、アンモニア雰囲気で熱処理を行わなかった触媒担体(比較例2)を備えた膜電極接合体(比較例2-2)と比較し、電池電圧が向上した。特に、アンモニア雰囲気下、800℃で熱処理した触媒担体(実施例2)を備えた膜電極接合体(実施例2-2、平均粒径550nm)は、平均粒径が2μmの多孔質炭素(比較例1、アンモニア雰囲気で熱処理なし)を用いた膜電極接合体(比較例1-2)よりも電池電圧が向上した。
【0075】
図9cと図9dに示した過電圧から、アンモニア雰囲気下、800℃で熱処理を行った実施例2-2(平均粒径550nm)の膜電極接合体では、アンモニア雰囲気で熱処理を行わなかった比較例2-2(平均粒径550nm)の膜電極接合体より活性化過電圧および拡散過電圧が大きく減少しており、さらに、実施例2-2の膜電極接合体は、平均粒径 が2μmの比較例1-2の膜電極接合体(アンモニア雰囲気での熱処理なし)よりも活性化過電圧および拡散過電圧が減少していることがわかる。
【0076】
図9cの活性化過電圧と図9dの拡散化過電圧の電流密度2.0A/cmでの値を表2に示す。
【表2】
【0077】
上述した、少なくとも表面近傍の一部にsp成分を有する多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、600℃および800℃で熱処理した触媒担体を使用した場合に観察された電池特性の向上は、以下のように解釈される。少なくとも表面近傍の一部にsp成分を有する多孔質炭素をアンモニア雰囲気で熱処理した場合、図8に示したように、多孔質炭素の表面近傍に素含有化学種(ピリジニック窒素あるいはピロリック窒素等)が導入・結合される。この窒素含有化学種はプロトン受容体(ルイス塩基)として働くため、触媒インク作製工程で添加されイオノマーのスルホン酸からプロトンを受容し、カチオン化する。カチオン化した窒素含有化学種は、アニオン化したスルホン酸基と静電的に相互作用する。この結果、アンモニア雰囲気で熱処理した多孔質炭素表面は、アンモニア雰囲気で熱処理を行っていない多孔質炭素と比較し、イオノマーとの静電的相互作用により、イオノマーが均一に多孔質炭素表面に被覆される。この結果、アンモニア雰囲気で熱処理した多孔質炭素担体に担持した触媒では、触媒粒子表面/イオノマー界面での局所的な酸素拡散抵抗が減少し、高い電池特性を示したと考えられる。
【0078】
非特許文献5には、非晶質多孔質炭素(ケッチェンブラック(登録商標))をアンモニア雰囲気下でそれぞれ200℃、600℃、800℃で熱処理した触媒担体を準備し、それに白金粒子を担持させた白金系触媒担持体の電池特性(I-V特性)を調べた結果、アンモニア雰囲気下、200℃および600℃で熱処理した触媒担体は、熱処理を施さない触媒担体より電池電圧が向上したのに対し、アンモニア雰囲気下、800℃で熱処理した触媒担体は、熱処理を施さない触媒担体と試験条件によって電池電圧が同等あるいは低下したと報告されている。これは、非晶質多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、600℃以上で熱処理した触媒担体と、sp成分を有する表面を備えた多孔質炭素をアンモニア雰囲気下、600℃以上で熱処理した触媒担体では、処理前のそれぞれの多孔質炭素表面の化学的安定性が異なっており(sp成分の有無)、アンモニア雰囲気で熱処理した際、電池特性の向上が観察される上限温度が違っている結果と考えられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9