(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099358
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】有機廃水の処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20240718BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240718BHJP
【FI】
C02F3/12 B
C02F3/12 U
C02F3/12 H
C02F3/34 A
C02F3/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003247
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000184687
【氏名又は名称】小松マテーレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100194087
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 伸一
(72)【発明者】
【氏名】森 幸治
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 正人
(72)【発明者】
【氏名】東 正樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 信弘
【テーマコード(参考)】
4D028
4D040
【Fターム(参考)】
4D028AA03
4D028AB03
4D028AC06
4D028BB06
4D028BC14
4D028BC17
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4D028BD00
4D028BD06
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4D028CB02
4D028CC05
4D040DD03
4D040DD04
(57)【要約】
【課題】汚泥減容のための特別な設備や汚泥減容のための特殊な処理条件を必要とせず、かつ高い汚泥減容効果を有する有機廃水の処理方法の提供。
【解決手段】活性汚泥法による有機廃水の処理方法であって、有機廃水処理設備に含まれ、活性汚泥により好気性処理を行う槽に対して、活性汚泥を溶菌する微生物を、式(1)を満たす微生物量Mとなるよう添加する工程を含み、添加する工程において、好気性処理を行う槽に流入する有機廃水のMLSS負荷が、有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下であるタイミングにて、好気性処理を行う槽に対して活性汚泥を溶菌する微生物を添加し、式(1)において、一日あたりの微生物の添加量M
Dが式(2)で表され、式(1)において、計画日数DがMLSS負荷の設計値の20%以下で有機排水処理設備を運転する計画日数である、有機廃水の処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性汚泥法による有機廃水の処理方法であって、有機廃水処理設備に含まれ、活性汚泥により好気性処理を行う槽に対して、活性汚泥を溶菌する微生物を、下記式(1)を満たす微生物量Mとなるよう添加する工程を含み、
前記添加する工程において、前記好気性処理を行う槽に流入する前記有機廃水のMLSS負荷が、前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下であるタイミングにて、前記好気性処理を行う槽に対して前記活性汚泥を溶菌する微生物を添加し、
下記式(1)において、一日あたりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MDが下記式(2)で表され、
下記式(1)において、計画日数Dが前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下で前記有機排水処理設備を運転する計画日数である、有機廃水の処理方法。
0.1≦活性汚泥を溶菌する微生物量M(個)/(1日当たりの微生物の添加量MD×計画日数D)≦200・・・(1)
1日当たりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MD(個/日)=有機排水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,D×1.0×107・・・(2)
【請求項2】
前記活性汚泥を溶菌する微生物が、EM菌、バチルス属細菌及び片岡菌からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の菌を含む、請求項1に記載の有機廃水の処理方法。
【請求項3】
前記活性汚泥を溶菌する微生物が、バチルス属細菌、ラクトバチルス属細菌、チューメバチルス属細菌、シュードモナス属細菌、ユーロチウム属細菌、ストレプトマイセス属細菌、ケカビ属菌、サッカロマイセス属細菌、セルロサイマイクロビウス属細菌及びネイッセリア属細菌からなる群から選ばれる少なくとも一種の菌を含む、請求項1に記載の有機廃水の処理方法。
【請求項4】
前記好気性処理を行う槽に対して、さらに光合成細菌を添加する工程を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機廃水の処理方法。
【請求項5】
前記有機廃水処理設備が汚泥貯留槽を含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の有機廃水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機廃水の処理方法に関する。より具体的には、本発明は、活性汚泥を用いた好気性処理による有機廃水の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機廃水を生物処理する際に用いられる活性汚泥法は、処理水質が良好で、メンテナンスが容易であるなどの利点がある。このことから、活性汚泥法は、生活排水、下水、食品工場及び化学工場などから排出される有機廃水の浄化処理に広く用いられている。
【0003】
しかし、有機廃水中の有機物の処理量に比例して活性汚泥中の微生物が増殖していき、分解処理したBOD(生物化学的酸素要求量ともいう)の3~6割程度が汚泥へと変換される。そのため、大量に余剰汚泥が発生する。
【0004】
余剰汚泥は、浄化処理施設の系外へ排出され、その一部はバイオマス発電燃料や肥料として活用されている。一方でそれ以外の大部分は、余剰汚泥廃棄物となる。余剰汚泥廃棄物は、脱水、運搬及び焼却などを要し、現状では大量のエネルギーを投入して処分されている。
【0005】
そのため、省エネルギー、焼却時の温室効果ガス排出抑制、処分にかかる手間及びコストの削減といった観点から、余剰汚泥を減容させる技術が様々に検討されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、汚水の生物処理工程に用いられる生物処理槽とは別に、余剰汚泥減量化槽を設け、余剰汚泥に溶菌作用を有する粘液細菌を接種し好気条件で作用させる方法が提案されている。
【0007】
特許文献2では、排水処理工程に加え、汚泥分解処理工程として、高アルカリ性及び高温で汚泥を溶菌すると同時に、微生物の生育には不適な環境下でも生育可能な微生物によって汚泥の分解を行う工程を設けることで、さらなる汚泥の減容化もしくは発生をなくす方法が提案されている。
【0008】
特許文献3では、膜分離で濃縮した余剰汚泥をオゾン処理により加水分解して低分子化し、生物分解可能な状態にしたのちに好気性処理槽へ返送することにより、余剰汚泥を減容化する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6-106198号公報
【特許文献2】特開2000-139449号公報
【特許文献3】特開平8―19789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1~3で提案された方法では、一般的な活性汚泥法に備わる設備に別途の余剰汚泥減容化設備を設けて汚泥処理することが必要になり、設備が大型化してしまう。また、特許文献2の汚泥分解処理工程は、高アルカリ及び高温という、生物処理においては特殊な環境を維持し続けなければならない。特許文献3のオゾン処理は、オゾン処理装置を必要とする。
【0011】
以上に鑑み、本発明は、汚泥減容のための特別な設備や汚泥減容のための特殊な処理条件を必要とせず、かつ高い汚泥減容効果を有する有機廃水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1]活性汚泥法による有機廃水の処理方法であって、有機廃水処理設備に含まれ、活性汚泥により好気性処理を行う槽に対して、活性汚泥を溶菌する微生物を、下記式(1)を満たす微生物量Mとなるよう添加する工程を含み、前記添加する工程において、前記好気性処理を行う槽に流入する前記有機廃水のMLSS負荷が、前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下であるタイミングにて、前記好気性処理を行う槽に対して前記活性汚泥を溶菌する微生物を添加し、下記式(1)において、一日あたりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MDが下記式(2)で表され、下記式(1)において、計画日数Dが前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下で前記有機排水処理設備を運転する計画日数である、有機廃水の処理方法。
0.1≦活性汚泥を溶菌する微生物量M(個)/(1日当たりの微生物の添加量MD×計画日数D)≦200・・・(1)
1日当たりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MD(個/日)=有機排水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,D×1.0×107・・・(2)
[2]前記活性汚泥を溶菌する微生物が、EM菌、バチルス属細菌及び片岡菌からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の菌を含む、[1]に記載の有機廃水の処理方法。
[3]前記活性汚泥を溶菌する微生物が、バチルス属細菌、ラクトバチルス属細菌、チューメバチルス属細菌、シュードモナス属細菌、ユーロチウム属菌、ストレプトマイセス属細菌、ムコール属菌、サッカロマイセス属菌、セルロサイマイクロビウム属細菌、ナイセリア属細菌、エキシグオバクテリウム属細菌、ブレビバチルス属細菌、リゾープス属菌及びアスペルギルス属菌からなる群から選ばれる少なくとも一種の菌を含む、[1]に記載の有機廃水の処理方法。
[4]前記好気性処理を行う槽に対して、さらに光合成細菌を添加する工程を含む、[1]~[3]のいずれか1項に記載の有機廃水の処理方法。
[5]前記有機廃水処理設備が汚泥貯留槽を含まない、[1]~[4]のいずれか1項に記載の有機廃水の処理方法。
【発明の効果】
【0013】
上記態様によれば、汚泥減容のための特別な設備や汚泥減容のための特殊な処理条件を必要とせず、かつ高い汚泥減容効果を有する有機廃水の処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態に係る有機廃水の処理方法を説明する概略図である。
【
図2】実施例1及び比較例1~2の汚泥減容率の経時変化を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本明細書において、MLSS(Mixed Liquor Suspended Solids、活性汚泥)負荷LMとは、以下の式(3)により算出される値である。
LM=LP/A(kg/kg・日)・・・(3)
LP(kg/日):好気性処理を行う槽に流入する有機廃水の汚濁負荷量
A(kg):好気性処理を行う槽が保持する活性汚泥(MLSS)量
【0016】
本明細書において、有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値LM,Dは、有機廃水処理設備固有の値である。より詳しくは、有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値LM,Dは、例えば工場の生産能力や処理を引き受ける世帯数などで想定される処理負荷、および採用した好気性処理のおよび処理設備が立地する地域において達成するべき濃度基準や水質総量規制を勘案し、下記有機廃水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,Dと、好気性処理を行う槽が保持する活性汚泥量とが有機廃水処理設備の設計段階から定められ、前記2つの設計値から計算される値である。
【0017】
本明細書において、汚濁負荷量LPとは、以下の式(4)により算出される値である。
LP=W×CP×0.001(kg/日)・・・(4)
W(m3/日):好気性処理を行う槽に1日に流入する排水量
CP(mg/L):汚濁濃度
【0018】
本明細書において、有機廃水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,Dは、有機廃水処理設備固有の値である。より詳しくは、有機廃水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,Dは、例えば工場の生産能力や処理を引き受ける世帯数などで想定される処理負荷、採用した好気性処理の方式、及び処理設備が立地する地域において達成するべき濃度基準や水質総量規制を勘案し、有機廃水処理設備の設計段階から定められる値である。一般的に、当該設備の完成図書中に記載される、又は完成図書中の数値から容易に計算することができる。
【0019】
本明細書において、汚濁濃度CPとは、以下の式(5)により算出される値である。
CP=BOD+CODMn+n-Hex・・・(5)
BOD(mg/L):生物化学的酸素要求量
CODMn(mg/L):化学的酸素要求量
n-Hex(mg/L):ノルマルヘキサン抽出物質濃度
【0020】
本明細書において、BOD(mg/L)は、JIS K 0102(2016)の21.生物化学的酸素消費量(BOD)に記載の方法で測定し、溶存酸素濃度はJIS K 0102の32.4 光学式センサ法に記載の方法で測定した値である。
【0021】
本明細書において、CODMn(mg/L)は、JIS K 0102の17.100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)に記載の方法で測定した値である。
【0022】
本明細書において、ノルマルヘキサン抽出物質濃度n-Hex(mg/L)は、昭和49年環境庁告示第64号、付表4に記載の抽出-重量法で測定した値である。
【0023】
本明細書において、好気性処理とは、散気や撹拌などの手段で酸素が系中に供給される条件(例えば曝気下)において微生物と有機廃水に含まれる汚濁物質とを接触させることと定義する。好気性処理とは、例えば曝気槽において微生物と有機廃水に含まれる汚濁物質とを接触させることを含む。本明細書において、嫌気性処理とは、酸素供給を断った状態において微生物と有機廃水に含まれる汚濁物質とを接触させることと定義する。
【0024】
本実施形態の有機廃水の処理方法は、活性汚泥法による有機廃水の処理方法であって、有機廃水処理設備に含まれ、活性汚泥により好気性処理を行う槽に対して、活性汚泥を溶菌する微生物を、下記式(1)を満たす微生物量Mとなるよう添加する工程を含み、前記添加する工程において、前記好気性処理を行う槽に流入する前記有機廃水のMLSS負荷が、前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下であるタイミングにて、前記好気性処理を行う槽に対して前記活性汚泥を溶菌する微生物を添加し、下記式(1)において、一日あたりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MDが下記式(2)で表され、下記式(1)において、計画日数Dが前記有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値の20%以下で前記有機排水処理設備を運転する計画日数である、有機廃水の処理方法である。
0.1≦活性汚泥を溶菌する微生物量M(個)/(1日当たりの微生物の添加量MD×計画日数D)≦200・・・(1)
1日当たりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MD(個/日)=有機排水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,D×1.0×107・・・(2)
【0025】
本実施形態の有機廃水の処理方法は、活性汚泥法の処理を含む。
図1は、本発明の一実施形態に係る有機廃水の処理方法を説明する概略図である。本発明の一実施形態に係る有機廃水の処理方法は、有機廃水処理設備1で行うことができる。有機廃水処理設備1は、好気性処理を行う槽12、沈殿槽13、汚泥濃縮槽14、汚泥貯留槽15及びポンプ16を含む。好気性処理を行う槽12は、一般的に曝気槽や反応タンクなどと呼ばれる。有機廃水11は、活性汚泥を含む好気性処理を行う槽12において有機廃水11に含まれる汚濁物質が分解され、処理水とされる。好気性処理を行う槽12から排出された処理水は、沈殿槽13で静置される。沈殿槽13で静置された処理水のうち、上澄み17は、直接、又は適宜中和、消毒及びろ過などの後処理が施された後に河川、海及び下水などの環境へ放流される。沈殿槽13の沈殿物、すなわち汚泥は、ポンプ16で吸い上げられ、その大部分は、返送汚泥として好気性処理を行う槽12に返送され、再利用される。汚泥の一部は余剰汚泥として汚泥濃縮槽14に送られる。余剰汚泥は、ポンプ16で吸い上げられた後、汚泥濃縮槽14で水分が除去され濃縮されて濃縮汚泥となる。濃縮時に除去された水分である脱離液18は、処理水と同様、直接、又は適宜中和、消毒、ろ過などの後処理が施された後に河川や海、下水などの環境へ放流されるか、又は好気性処理を行う槽12へ返送される。濃縮汚泥19は、汚泥貯留槽15で保管され、最終的に有機廃水処理設備1の系外へ排出され処分される。
【0026】
図1の有機廃水処理設備1は、好気性処理を行う槽12を2つ有しているが、本実施形態はこれに限定されず、好気性処理を行う槽12が1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。また、
図1の有機廃水処理設備1は、汚泥濃縮槽14及び汚泥貯留槽15を有しているが、本実施形態はこれに限定されず、汚泥濃縮槽14及び汚泥貯留槽15が設けられていなくてもよい。また、
図1の有機廃水処理設備1は、有機廃水11が好気性処理を行う槽12に導入されているが、本実施形態はこれに限定されない。必要に応じて、好気性処理を行う槽12に導入する前に沈殿槽にて有機廃水11からゴミ及び砂を分離してもよい。有機廃水11は、別途設けられる嫌気性処理を行う槽へまず導入されて嫌気性処理が行われた後、好気性処理を行う槽12で処理されてもよい。
【0027】
以下、
図1に基づいて本実施形態について説明する。本実施形態に用いられる好気性処理を行う槽12は、生活排水、下水、食品工場又は化学工場などから排出される有機廃水11が導入される。有機廃水11と、好気性処理を行う槽12中に含まれる活性汚泥とを混合しつつ、散気管やエアレーターなどを通して空気の散気を行い、適宜ポンプやスクリューなどで槽内を撹拌することにより、有機廃水11中の有機物を分解させる。好気性処理を行う槽12として、従来の標準活性汚泥法又はその他各種変法の好気性処理を行う槽を採用できる。また、高負荷処理を行うために、好気性処理を行う槽12に、固定された担体に汚泥を担持した固定床を用いたり、汚泥を担持しつつ槽内を水流に乗って流動する流動床を用いたりすることもできる。さらに、好気性処理を行う槽12は、後述する固液分離処理を行う槽としての能力を担わせる方式、具体的には膜分離式や回分式の槽などであってもよい。
【0028】
本実施の形態の有機廃水の処理方法は、活性汚泥により好気性処理を行う槽に対し、活性汚泥を溶菌する微生物を添加する工程を含む。活性汚泥を溶菌する微生物を好気性処理を行う槽12に添加すると、後段の処理に送られる汚泥の量を減らすことができる。活性汚泥を溶菌する微生物は、有機廃水11を処理することで増殖した活性汚泥(余剰汚泥ともいう)を好気性条件下で溶菌し、余剰汚泥を減容する役割を担う。なお、溶菌され水中に溶けた活性汚泥は、再び活性汚泥中の微生物群によって、有機廃水11中の有機物と同様に処理される。
【0029】
活性汚泥を溶菌する微生物としては、活性汚泥を溶菌できるものであれば特に限定されないが、汚泥を溶菌する能力が高い微生物を用いれば、汚濁負荷量Lpが高くとも安定的に汚泥を減容できるため、高負荷処理が可能となる。具体的には、好気菌や通正嫌気菌などが挙げられ、汚泥を溶菌する能力が高いという観点から、EM菌(例えば株式会社EM研究所製や有限会社Ueta Lab製)、バチルス(Bacillus)属細菌及び片岡菌(例えば株式会社片岡バイオ研究所製)からなる群より選ばれる少なくとも1つ以上の菌からなるとよい。これらの菌又は菌群は、活性汚泥をなす細菌の細胞壁(主にペプチドグリカン)の加水分解酵素(例えば、リゾチームなど)を産生しやすい。そのため、活性汚泥中にこれらの菌又は菌群を添加すると、活性を失った汚泥を選択的に分解し、余剰汚泥を効率的に溶菌する。また、活性汚泥を溶菌する微生物は、バチルス属細菌、ラクトバチルス(Lactobacillus)属細菌、チューメバチルス(Tumebacillus)属細菌、シュードモナス(Pseudomonas)属細菌、ユーロチウム(Eurotium)属菌、ストレプトマイセス(Streptomyces)属細菌、ムコール(Mucor)属菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属菌、セルロサイマイクロビウム(Cellulosimicrobium)属細菌、ナイセリア(Neisseria)属細菌、エキシグオバクテリウム(Exiguobacterium)属細菌、ブレビバチルス(Brevibacillus)属細菌、リゾープス(Rhizopus)属菌及びアスペルギルス(Aspergillus)属菌からなる群から選ばれる少なくとも一種の菌であってもよい。
【0030】
活性汚泥を溶菌する微生物は、活性汚泥により好気性処理を行う槽12中に適宜の方法で添加される。例えば、添加される活性汚泥を溶菌する微生物の形態としては、活性汚泥を溶菌する微生物を多量に含む粉末又は液体である微生物製剤であってもよく、さらにこれらに活性を向上させるための添加剤及び保存安定化剤等の少なくとも1種を含む微生物製剤であってもよい。微生物製剤は、定期的に少量ずつ活性汚泥を含む槽中に添加されてもよいし、一度に所定の量が添加されてもよい。
【0031】
好気性処理を行う槽12に活性汚泥を溶菌する微生物を添加する際、好気性処理を行う槽12に流入する有機廃水11のMLSS負荷LMが、有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下であるタイミングにて、好気性処理を行う槽12に対して活性汚泥を溶菌する微生物を、下記式(1)を満たす微生物量Mとなるよう添加する。
0.1≦活性汚泥を溶菌する微生物量M(個)/(1日当たりの微生物の添加量MD×計画日数D)≦200・・・(1)
1日当たりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MD(個/日)=有機排水処理設備の汚濁負荷量設計値LP,D×1.0×107個・・・(2)
【0032】
式(1)において、一日あたりの活性汚泥を溶菌する微生物の添加量MDは、式(2)で表される。式(1)において、計画日数Dは、有機廃水処理設備のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下で有機排水処理設備1を運転する計画日数である。
【0033】
有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下であるタイミングとしては、例えば、排水量が減る夜間や、工場の休業日などが挙げられる。
【0034】
MLSS負荷LMが、有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%を超える場合、活性汚泥中の微生物の多くは、活発に有機物を分解するとともに、自身を外的刺激から防御するための粘性物質を多く分泌する。MLSS負荷LMが、有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下である場合、活性汚泥中の微生物の多くが休眠状態で粘性物質の分泌が少ない。このタイミングにおいて、一日あたりの微生物の添加量MD×計画日数Dの0.1倍以上200倍以下となるよう、一時に大量に活性汚泥を溶菌する微生物を添加すると、計画日数Dの間に連続的に活性汚泥を溶菌する微生物を添加する場合と比較して、活性汚泥が効率よく溶菌される。有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下のタイミングで活性汚泥を溶菌する微生物を一日あたりの微生物の添加量MD×計画日数Dの0.1倍以上添加すると、MLSS負荷LMの大小に問わず定期的に少量ずつ活性汚泥を溶菌する微生物を添加する場合と比較して、活性汚泥を溶菌する微生物の添加量を減らすことができる。一方、有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下のタイミングで活性汚泥を溶菌する微生物の量が一日あたりの微生物の添加量MD×計画日数Dの200倍を超えると、活性汚泥が減りすぎたり、生物相が好ましくない状態へ変化してしまったりするおそれがある。もちろん、有機廃水処理設備1のMLSS負荷の設計値LM,Dの20%以下である場合に上記のように活性汚泥を溶菌する微生物を添加すると共に、負荷が大きい有機廃水処理時には定期的に少量ずつ活性汚泥を溶菌する微生物を好気性処理を行う槽12中に添加していてもよい。
【0035】
また、好気性処理を行う槽12に対して、さらに光合成細菌を添加することが好ましい。光合成細菌は、活性汚泥に含まれうる硫酸塩還元菌を捕食してアミノ酸を産生する菌である。光合成細菌は、硫酸塩還元菌の代謝により発生する悪臭の原因である硫化水素の発生を抑制する効果と、産生するアミノ酸が活性汚泥を溶菌する微生物の活性を向上させ、汚泥減容を促進させる効果とを発揮する。光合成細菌として、具体的には、紅色硫黄細菌、緑色硫黄細菌、紅色非硫黄細菌及び緑色非硫黄細菌が挙げられる。中でも硫化物イオンを電子受容体として利用する能力が高く、かつ微好気性条件で増殖させられ、安価に入手できる紅色硫黄細菌が好ましい。
【0036】
光合成細菌の添加量は、活性汚泥を溶菌する微生物が添加される活性汚泥を含む槽が保持する活性汚泥(MLSS;Mixed Liquor Suspended Solids)1kgに対して、5.00×103個~5.00×106個であることが好ましく、1.00×104個~1.00×106個であることがより好ましい。光合成細菌の添加量がMLSS1kgに対して、5.00×103個であると、上述の効果が得られやすい。光合成細菌の添加量がMLSS1kgに対して、5.00×106個以下であると、光合成細菌が放つ悪臭を抑えることができる。なお、本明細書において光合成細菌のの割合の測定方法は、JIS K0350-10-10(2002) 用水・排水中の一般細菌試験方法に記載の方法に準じる。
【0037】
光合成細菌は、活性汚泥を溶菌する微生物と同様に、活性汚泥を含む槽中に適宜の方法で添加される。例えば、添加される光合成細菌の形態としては、光合成細菌を多量に含む粉末又は液体である光合成細菌製剤であってもよく、さらにこれらに活性を向上させるための添加剤及び保存安定化剤等の少なくとも1種を含む光合成細菌製剤であってもよい。光合成細菌製剤は、定期的に少量ずつ活性汚泥を含む槽中に添加されてもよいし、一度に所定の量が添加されてもよい。
【0038】
活性汚泥を溶菌する微生物の活性を向上させるために、活性汚泥を溶菌する微生物とともに添加剤を活性汚泥を含む槽に添加することが好ましい。添加剤としては、糖質、アミノ酸、ミネラル及びステロイド並びにその配糖体及び腐植物質などが挙げられる。ここで、水温が10℃~15℃程度まで低下してしまう冬場や緯度の高い地域においては、活性汚泥を溶菌する微生物の活性が5割~8割程度まで低下してしまう。このような低温環境下においても高い溶菌作用を維持できるとの観点から、添加剤は、サポニン及びフルボ酸の少なくとも一方であることが好ましく、添加剤としてサポニンとフルボ酸を共に活性汚泥を含む槽に添加することがより好ましい。
サポニンは、ステロイドやトリテルペン骨格などからなるサポニゲンと、糖とからなる配糖体の総称であり、一般的に植物の根、葉、茎などから抽出される。サポニンとしては、大豆サポニン、高麗人参サポニン、茶実サポニンなどが挙げられる。
フルボ酸は、植物が微生物によって分解された最終生成物質である腐食物質の内、酸に可溶な成分の総称である。
【0039】
サポニンの添加量は、活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、5mg~500mgが好ましく、10mg~250mgがより好ましい。サポニンの添加量が活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し5mg以上であると、低温環境下においても高い溶菌作用を維持できる。サポニンの添加量が活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し500mg以下であると、サポニンの界面活性効果で処理水が泡立つことを抑制し、固液分離処理しやすくなる。なお、本明細書において活性汚泥を溶菌する細菌の割合の測定方法は、JIS K0350-10-10(2002) 用水・排水中の一般細菌試験方法に記載の方法に準じる。
【0040】
フルボ酸の添加量は、活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、0.5mg~50mgが好ましく、1mg~25mgがより好ましい。フルボ酸の添加量が活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、0.5mg以上であると、低温環境下においても高い溶菌作用を維持できる。フルボ酸の添加量が活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、50mg以下であると、フルボ酸が水に十分溶解し、また水質のpH変化を生じ難い。
【0041】
サポニンとフルボ酸の両方を添加する場合、サポニンの添加量が、活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、5mg~500mgであり、かつフルボ酸の添加量が、活性汚泥を溶菌する微生物の添加量に対し、0.5mg~50mgであることが好ましく、サポニンの添加量が、活性汚泥を溶菌する微生物の添加菌数1.0×106個に対し、10mg~250mgであり、かつフルボ酸の添加量が、活性汚泥を溶菌する微生物の添加量に対し、1mg~25mgであることがより好ましい。
【0042】
本実施の形態の有機廃水の処理方法は、好気性処理を行う槽12内の前記有機廃水、前記活性汚泥及び前記微生物を含む混合物の銀-塩化銀電極に対する酸化還元電位を0mV以上200mV以下に維持することが好ましい。前記酸化還元電位が0mV以上であれば、汚泥の腐敗を抑制することで臭気の発生を抑制するとともに、活性汚泥を溶菌する微生物による汚泥の減容効果を高く維持できる。また、前記酸化還元電位が200mV以下であれば、活性汚泥中のフロックの解体を抑制し、後述する固液分離処理において処理水と汚泥との分離を容易にすることができる。さらに好ましい酸化還元電位として、50mV以上であってもよいし、80mV以上であってもよいし、150mV以下であってもよい。前記酸化還元電位の上限値と下限値は、任意に組み合わせることができる。
【0043】
前記酸化還元電位が低くなった場合には、微生物への添加剤の投与、共生菌の添加又は散気量を増加させるなどの方法により酸化還元電位を上昇させることができる。添加剤としては、上述のものが挙げられる。共生菌としては、上述の細菌が挙げられる。また、前記酸化還元電位が高くなった場合には、好気性処理を行う槽12に蓋をするなどして閉塞したり、散気量を減少させたりなどの方法により酸化還元電位を低下させることができる。即効性を有しかつ制御が容易であるとの観点から、前記酸化還元電位の制御は、散気量の制御により行うことが好ましい。なお、前記酸化還元電位の測定値を入力し、入力された測定値に対して散気量を自動で増減させるシステムを用い、前記酸化還元電位を0mV以上200mV以下に維持してもよい。
【0044】
好気性処理を行う槽12で処理された処理水は、処理水に分散している汚泥とともに固液分離処理される。固液分離処理は、公知の方法で行えばよい。例えば、固液分離処理は、
図1に示すように好気性処理を行う槽12とは別の沈殿槽13にて処理水と汚泥を沈殿分離する方法であってもよいし、膜分離モジュールを用いて処理水と汚泥を分離する方法であってもよい。膜分離モジュールは、好気性処理を行う槽12外に設けてもよいし、好気性処理を行う槽12中に設けてもよい。
【0045】
固液分離処理により、
図1では沈殿槽13により分離された汚泥は、大部分が再び好気性処理を行う槽12へ返送される。必要に応じて、適宜の量の汚泥を引き抜き、余剰汚泥として処分してもよい。余剰汚泥の処分は、例えば、
図1に示すように汚泥濃縮槽14で濃縮後乾燥させたり、別途の汚泥減容槽を用いたりするなど、公知の方法で行えばよい。本実施形態の有機廃水の処理方法を用いれば、余剰汚泥の発生量を大幅に減らす、又は余剰汚泥をなくすことができるため、余剰汚泥を処分するための特別な設備や余剰汚泥の処理を省略することができる。
【0046】
なお、一般的な活性汚泥法において、固液分離処理により分離された汚泥は、固形分濃度が0.4~1質量%程度と大部分が水である。そのため、汚泥濃縮処理が施され、固形分濃度が1~4質量%程度となるまで濃縮される。汚泥濃縮処理は、前記好気性処理を行う槽とは別に設けられた汚泥濃縮槽14中で行われる。汚泥濃縮処理の方法は、公知の方法で行えばよく、例えば、重力濃縮、遠心濃縮、常圧浮上濃縮及びベルト式ろ過濃縮などが挙げられる。ただし、本実施の形態の有機排水の処理方法であれば、余剰汚泥の発生量を大幅に減らしたり、発生をなくしたりすることができるため、汚泥濃縮処理を省略することもできる。
【0047】
一般的な活性汚泥法において、濃縮された余剰汚泥は、浄化処理施設系外へ排出されるが、余剰汚泥を処理又は搬出するまで一時貯留しておく汚泥貯留槽15へ送られ貯留される。
【0048】
以上の通り、本実施形態の有機廃水の処理方法を用いれば、好気性処理を行う槽中で余剰汚泥を高効率で溶菌することが可能となる。そのため、汚泥減容のための特別な設備や、汚泥減容のための特殊な処理条件を必要とせず、かつ高い汚泥減容効果が得られる。特に、本実施の形態の有機廃水の処理方法を用いれば、余剰汚泥の発生を無くすことができる場合があり、このような場合は、余剰汚泥を処理するまでの間貯留しておく汚泥貯留槽15を使用しなくとも活性汚泥法による有機性廃水の処理を行うことが可能になる。汚泥貯留槽15を省略できれば、設備の小型化、投入エネルギーの省力化及び貯留している汚泥の腐敗を原因とした悪臭発生の抑制といった利点がより一層得られるため好ましい。
【実施例0049】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
容量が5200m3でかつMLSS濃度が12000mg/L、つまり活性汚泥量Aが62400kgである曝気槽を有する有機廃水処理設備により有機廃水処理を行った。また、有機廃水処理設備の汚濁負荷量の設計値LP,Dは、12500kg/日であり、この設備のMLSS負荷LMの設計値LM,Dは、0.2であると求められる。さらに、原水を排出する工場を14日間休止するタイミングで実験を行った(つまり、計画日数D=14)。この設備の1日当たりの微生物の添加量MDは、前記式(2)より1.25×1011個/日であり、添加する微生物の量Mは、前記式(1)よりMの範囲は、1.75×1011個以上3.50×1014個以下であると求められる。
【0051】
有機廃水処理0日目に、有機廃水と活性汚泥を含む曝気槽に対し、活性汚泥を溶菌する微生物として片岡菌を一般細菌数1.0×106個/mL含有する微生物製剤を2000L添加(つまり添加菌数は2.0×1012個)した。その後、エアー200m3/minで14日間処理し、0日目、3日目、6日目、10日目及び14日目の曝気槽中の混合物のMLSS濃度を測定した。MLSS濃度は、MLSS計(飯島電子工業株式会社製、IM-100P)を用て測定した。汚泥減容率は、以下の式から算出した。
汚泥減容率(%)={(測定日のMLSS濃度/0日目のMLSS濃度)-1.0}×(100)
【0052】
(比較例1)
有機廃水処理の0日目から14日目までの間、微生物製剤を連続的に一定の流量で一日あたり133L添加した以外は、実施例1と同様に有機廃水処理を行った。0日目、3日目及び6日目の曝気槽中の混合物のMLSS濃度を測定した。
【0053】
(比較例2)
微生物製剤を添加しない以外は、実施例1と同様に有機廃水処理を行った。0日目、3日目及び6日目目の曝気槽中の混合物のMLSS濃度を測定した。
【0054】
実施例1及び比較例1~2の汚泥減容率の経時変化を
図2に示す。活性汚泥を溶菌する微生物は、好気性処理を行う槽に有機廃水処理時に連続的に添加するより、MLSS負荷率が20%以下のタイミングで添加した方が汚泥減容率が向上することが分かった。
1…有機廃水処理設備、11…有機廃水、12…好気性処理を行う槽、13…沈殿槽、14…汚泥濃縮槽、15…汚泥貯留槽、16…ポンプ、17…上澄み、18…脱離液、19…濃縮汚泥。