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  • 特開-木質部材の接合構造 図1
  • 特開-木質部材の接合構造 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099362
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】木質部材の接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/61 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
E04B1/61 502N
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003255
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】貞広 修
(72)【発明者】
【氏名】木村 誠
【テーマコード(参考)】
2E125
【Fターム(参考)】
2E125AA13
2E125AB12
2E125AE16
2E125AG23
2E125AG25
(57)【要約】
【課題】遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない木質部材の接合構造を提供する。
【解決手段】隣接する二つの木質部材12の側端面14同士を突き合わせて接合した接合構造10であって、前記側端面14に形成された凹部20にそれぞれ嵌合して、二つの前記木質部材12に跨がって配置される木質系の雇材16と、前記木質部材12の正面30から雇材16を貫通して打ち込まれ、前記雇材16と前記木質部材12とを連結する連結材18とを備えるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する二つの木質部材の側端面同士を突き合わせて接合した接合構造であって、
前記側端面に形成された凹部にそれぞれ嵌合して、二つの前記木質部材に跨がって配置される木質系の雇材と、前記木質部材の正面から雇材を貫通して打ち込まれ、前記雇材と前記木質部材とを連結する連結材とを備えることを特徴とする木質部材の接合構造。
【請求項2】
前記雇材は、前記木質部材を正面から見て少なくとも前記木質部材の上端側と下端側とに設けられることを特徴とする請求項1に記載の木質部材の接合構造。
【請求項3】
前記凹部の端部は、前記木質部材を正面から見て四分円状に形成されており、前記雇材の両端部は、前記凹部の端部に内接する多角形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の木質部材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木質梁などに使用される木質部材の接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木質部材として、直交集成板(CLT:Cross Laminated Timber)を使用したCLTパネルが知られている(例えば、特許文献1を参照)。CLTは、ひき板または小角材(これらをその繊維方向を互いにほぼ平行にして長さ方向に接合接着して調整したものを含む。)をその繊維方向を互いにほぼ平行にして幅方向に並べ、または接着したものを、主としてその繊維方向を互いにほぼ直角にして積層接着し3層以上の構造を持たせた木質板材であり、耐震・耐火性能が高いという特長がある。
【0003】
CLTパネル同士をパネルの幅方向に接合する一般的な方法としては、例えば、鋼板挿入ドリフトピン(DP)接合形式(例えば、特許文献2を参照)、引きボルト式接合形式(例えば、特許文献3を参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-195743号公報
【特許文献2】特開2022-144037号公報
【特許文献3】特開2019-27020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
鋼板挿入DP接合形式の場合、鋼板に設ける孔径は施工上の都合により、DP径より1.0~1.5mm程度大きくする必要がある。この遊び代が継手部の初期剛性の低下や材端の肌隙等の見え掛かりに影響する。また、DP本数が多数となる場合、CLTパネル母材と挿入鋼板の孔位置を合わせた上でDPを叩き入れながら納めることが困難であることから、施工性に問題がある。
【0006】
引きボルト式接合形式の場合、定着ナットを納めるためにCLTパネルに断面欠損部を設ける必要があるが、相応の引張力を負担するためにボルト本数が多くなると、材幅が小さい場合には納まりが困難となる場合がある。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない木質部材の接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る木質部材の接合構造は、隣接する二つの木質部材の側端面同士を突き合わせて接合した接合構造であって、前記側端面に形成された凹部にそれぞれ嵌合して、二つの前記木質部材に跨がって配置される木質系の雇材と、前記木質部材の正面から雇材を貫通して打ち込まれ、前記雇材と前記木質部材とを連結する連結材とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造は、上述した発明において、前記雇材は、前記木質部材を正面から見て少なくとも前記木質部材の上端側と下端側とに設けられることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造は、上述した発明において、前記凹部の端部は、前記木質部材を正面から見て四分円状に形成されており、前記雇材の両端部は、前記凹部の端部に内接する多角形状に形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る木質部材の接合構造によれば、隣接する二つの木質部材の側端面同士を突き合わせて接合した接合構造であって、前記側端面に形成された凹部にそれぞれ嵌合して、二つの前記木質部材に跨がって配置される木質系の雇材と、前記木質部材の正面から雇材を貫通して打ち込まれ、前記雇材と前記木質部材とを連結する連結材とを備えるので、遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない木質部材の接合構造を提供することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、前記雇材は、前記木質部材を正面から見て少なくとも前記木質部材の上端側と下端側とに設けられるので、木質部材を梁パネルとして使用した場合の接合部の強度を向上することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、前記凹部の端部は、前記木質部材を正面から見て四分円状に形成されており、前記雇材の両端部は、前記凹部の端部に内接する多角形状に形成されているので、凹部の端部と雇材の両端部の加工手間を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を示す概略斜視図である。
図2図2は、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る木質部材の接合構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態に係る木質部材の接合構造10は、隣接する二つの木質部材12の側端面14同士を突き合わせて接合した接合構造であって、木質系の雇材16と、連結材18とを備える。
【0017】
木質部材12は、矩形状の木質の梁パネルである。本実施の形態では、木質部材12としてスギ等の樹種からなる梁せい2.0m程度、厚み200mm程度のCLTパネルを想定しているが、本発明はこれに限るものではない。例えば、木質部材12を構造用LVL(単板積層材:Laminated Veneer Lumber)、構造用集成材などで構成してもよい。
【0018】
各木質部材12の側端面14には、厚さ方向中心側の領域に、凹部20が形成される。凹部20は、上側凹部20Aと、下側凹部20Bと、中央凹部20Cとを有する。上側凹部20Aは、木質部材12の側端面14の上側と上隅部と上端面22の側端側にかけて連続して木質部材12の内部に切り欠いた部分である。下側凹部20Bは、木質部材12の側端面14の下側と下隅部と下端面24の側端側にかけて連続して木質部材12の内部に切り欠いた部分である。中央凹部20Cは、木質部材12の側端面14の上下方向中央部において木質部材12の内部に切り欠いた部分である。
【0019】
上側凹部20Aは、木質部材12を正面から見て横長の略長方形状に形成されており、その左右端部26は、上端面22の近傍を中心とする四分円状に形成されている。下側凹部20Bは、木質部材12を正面から見て横長の略長方形状に形成されており、その左右端部28は、下端面24の近傍を中心とする四分円状に形成されている。中央凹部20Cは、木質部材12を正面から見て縦長の長方形状に形成される。上側凹部20Aと、下側凹部20Bと、中央凹部20Cは、木質部材12の内部で互いに連通している。
【0020】
雇材16は、二つの木質部材12の凹部20に嵌合して、二つの木質部材12に跨がって配置される木質の雇い実であり、上側雇材16Aと、下側雇材16Bと、中央雇材16Cとによって構成される。上側雇材16Aは、木質部材12の上側凹部20Aに配置される横長の略長方形板状のものである。下側雇材16Bは、木質部材12の下側凹部20Bに配置される横長の略長方形板状のものである。上側雇材16Aと、下側雇材16Bの形状は、上側凹部20Aと、下側凹部20Bの形状に合わせた形状である。
【0021】
ここで、上側雇材16Aおよび下側雇材16Bの左右端部17は、上側凹部20Aの左右端部26の四分円と、下側凹部20Bの左右端部28の四分円にそれぞれ内接する多角形状である。上側雇材16Aは、下から上に行くにしたがって左右方向の幅が大きくなる形状である。下側雇材16Bは、上から下に行くにしたがって左右方向の幅が大きくなる形状である。上側凹部20Aの左右端部26の四分円と、下側凹部20Bの左右端部28の四分円を丸鋸による機械加工とし、上側雇材16Aおよび下側雇材16Bの左右端部17の形状を四分円に内接する多角形状となるように加工すると、加工精度の向上と、加工手間の削減効果を期待できる。また、木質部材12の上下端に近い部分のビス本数が相対的に増加することによる継手強度の向上が見込まれる。
【0022】
中央雇材16Cは、木質部材12の中央凹部20Cに配置される縦長の長方形板状のものである。上側雇材16A、下側雇材16B、中央雇材16Cをこのような形状で配置することで、木質部材12を梁パネルとして用いた際の曲げによる引張/圧縮、せん断に対して連結材18を有効にレイアウトできる。雇材16は、木質系の材料であればいかなる材料でもよく、構造用LVLのほか構造用集成材、製材板等でも代用可能である。
【0023】
なお、上側雇材16A、下側雇材16B、中央雇材16Cの左右方向の幅を上側凹部20A、下側凹部20B、中央凹部20Cの幅よりも若干小さくし(例えば-3mm程度)、その隙間に接着剤を充填、または接着面に直接塗布して上側雇材16A、下側雇材16B、中央雇材16Cを挿入して、木質部材12、雇材16同士の接着強度を向上してもよい。この場合、実質的な継手部の強度・剛性はさらに高まり、連結材18のめり込みによる長期変形の増大に対する懸念が小さくなり、信頼性を向上させることができる。
【0024】
連結材18は、二つの木質部材12の正面30から雇材16を貫通して打ち込まれる長尺の木質構造用のビスであり、間隔をあけて複数設けられる。ビスを木質部材12の正面30から雇材16を貫通して打ち込むことで、雇材16の前後両面でビスによるせん断抵抗を効かせることができ、ビスの必要本数を減らす施工的なメリットもある。ビスは、木質部材12の両面側から打ち込んでもよい。ビスを打ち込む角度は、木質部材12の正面30に対して直角としてもよい。また、これ以外にも、ビスを打ち込む角度は、木質部材12同士を接合する左右方向(材軸方向)に対して傾斜させてもよいし、打ち込み場所によって傾斜の方向を変えてクロス打ちとしてもよい。なお、連結材18は、木質構造用のビスに限るものではなく、ラグスクリュー等の連結材を用いてもよい。
【0025】
本実施の形態によれば、上記の従来の鋼板挿入DP接合形式との比較において、長尺のビス(連結材18)の径は、DP等の接合具と比較して細径であり、木質部材12の正面から雇材16を貫通させて接合する際に先孔を必要としないことから、遊び代を必要としない。このことにより継手部の初期剛性の低下や、材端の肌隙等の見え掛かりへの懸念はない。
【0026】
また、従来の引きボルト式接合形式との比較において、適宜ビス本数を増やすことで所要の剛性・耐力を満たすことが可能であることから、納まり上の制約は少ない。鋼材を用いないことにより、異種材料が接することによる結露等の懸念が小さくなり、耐久性に関する信頼性が向上する。
【0027】
一般的に、継手計画位置を梁部材の中央に設定するほど、継手部に発生する曲げモーメントは大きくなる。本実施の形態を梁部材のような木質部材同士の接合に適用することで、発生応力に応じたビス本数を適切にレイアウトすることが可能となり、設計自由度が向上する。
【0028】
したがって、本実施の形態によれば、遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない木質部材の接合構造を提供することができる。なお、本実施の形態は、CLTパネル工法により施工される建物の屋根梁として梁パネルを適用する場合の梁パネル同士の材軸方向の接合に好適である。屋根梁の計画長さが運搬可能長さ(例えば、12m程度まで)を超える場合、本実施の形態を適用し、分割した状態で現場に搬入した梁パネル同士を施工現場で接合すれば、屋根梁を容易に構築することができる。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る木質部材の接合構造によれば、隣接する二つの木質部材の側端面同士を突き合わせて接合した接合構造であって、前記側端面に形成された凹部にそれぞれ嵌合して、二つの前記木質部材に跨がって配置される木質系の雇材と、前記木質部材の正面から雇材を貫通して打ち込まれ、前記雇材と前記木質部材とを連結する連結材とを備えるので、遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない木質部材の接合構造を提供することができる。
【0030】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、前記雇材は、前記木質部材を正面から見て少なくとも前記木質部材の上端側と下端側とに設けられるので、木質部材を梁パネルとして使用した場合の接合部の強度を向上することができる。
【0031】
また、本発明に係る他の木質部材の接合構造によれば、前記凹部の端部は、前記木質部材を正面から見て四分円状に形成されており、前記雇材の両端部は、前記凹部の端部に内接する多角形状に形成されているので、凹部の端部と雇材の両端部の加工手間を軽減することができる。
【0032】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係る木質部材の接合構造は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「13.気候変動に具体的な対策を」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明に係る木質部材の接合構造は、CLTを使用した木質梁などの木質部材の接合に有用であり、特に、遊び代を必要とせず、納まり上の制約が少ない構造とするのに適している。
【符号の説明】
【0034】
10 木質部材の接合構造
12 木質部材
14 側端面
16 雇材
16A 上側雇材
16B 下側雇材
16C 中央雇材
18 連結材
20 凹部
20A 上側凹部
20B 下側凹部
20C 中央凹部
22 上端面
24 下端面
26,28 端部
30 正面
図1
図2