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特開2024-99364オートタキシンアプタマーを含む増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物
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  • 特開-オートタキシンアプタマーを含む増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099364
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】オートタキシンアプタマーを含む増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20240718BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/712 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/7125 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 47/60 20170101ALI20240718BHJP
   C12N 15/115 20100101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K31/7088
A61P27/02 ZNA
A61K48/00
A61K31/712
A61K31/7125
A61K47/60
C12N15/115 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003260
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】505254175
【氏名又は名称】株式会社リボミック
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】長岡 泰司
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 浩継
(72)【発明者】
【氏名】中村 義一
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076BB11
4C076BB24
4C076CC10
4C076EE59
4C084AA13
4C084MA58
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA14
4C084ZA33
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】増殖性硝子体網膜症を予防するための新規医薬組成物を提供すること。
【解決手段】本発明は、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物。
【請求項2】
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、請求項1に記載の医薬組成物:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【請求項3】
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、請求項1に記載の医薬組成物:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【請求項4】
オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、修飾又は改変されている、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、inverted dT又はポリエチレングリコールで修飾されている、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
オートタキシンアプタマーの5’末端又は3’末端にinverted dT又はポリエチレングリコールが結合している、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
オートタキシンアプタマーに含まれるリン酸基の少なくとも一つが、ホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されている、請求項2又は3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
オートタキシンアプタマーが、下式:
GL2-400GS2-Y-tC(M)U(M)G(M)A(M)G(M)G(M)gA(M)AsA(M)C(F)A(M)ggU(F)U(F)U(F)U(F)G(M)C(F)U(M)cC(M)U(M)cG(M)G(M)A(M)-idT
(式中、A、G、U及びCはそれぞれリボヌクレオチドを、g、c及びtはそれぞれデオキシリボヌクレオチドを、各リボヌクレオチドの右の(M)はリボースの2’位のメトキシ基を、各リボヌクレオチドの右の(F)はリボースの2’位のフッ素原子を、GL2-400GS2はSUNBRIGHT(登録商標)GL2-400GS2を、idTはinverted-dTを、YはssHリンカーを、Aの右のsは、そのAのリン酸基のホスホロチオエート化をそれぞれ示す。)
で表されるヌクレオチド配列からなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
オートタキシンアプタマー又はその塩を対象に投与する工程を含む、増殖性硝子体網膜症を予防する方法。
【請求項11】
増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
増殖性硝子体網膜症の予防に使用するための、オートタキシンアプタマー又はその塩。
【請求項13】
増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、請求項12に記載のオートタキシンアプタマー又はその塩。
【請求項14】
増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物の製造における、オートタキシンアプタマー又はその塩の使用。
【請求項15】
増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、請求項14に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートタキシンアプタマーを含む増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
増殖性硝子体網膜症(PVR)は、裂孔原性網膜剥離(RRD)や外傷が原因となって発症することが知られており、一旦発症すると、極めて難治性の疾患となる。RRDからPVRへの進行は約10%であり、様々な細胞やサイトカインがPVRの発症に関与していると言われている。その中でも網膜色素上皮(RPE)細胞はPVR発症に関わる主要な細胞であると言われている。硝子体は、(カメラのレンズにあたる)水晶体の後方にある眼球の内腔を埋める透明で、やや硬いゼリー状の組織である。網膜裂孔が生じ、RRDが発症すると、RPE細胞は硝子体中に分散して(カメラのフィルムにあたる)網膜表面に付着する。これに伴い、RPE細胞の上皮間葉転換(EMT)が起こり、線維芽細胞様へと変化し、線維化が生じる。線維化したRPE細胞と細胞外マトリックスの相互作用により増殖膜が形成され、網膜の牽引収縮が起こることがPVRの原因となる。これらのPVR発症の過程には、様々なサイトカインや増殖因子が関与していると言われるが、詳細なメカニズムは未だ不明である。
【0003】
PVRの主な治療法は外科手術であるが、外科手術後もPVRの予後として、重度の視機能障害が残るのが現状である。外科手術以外の補助療法として薬剤による治療が検討されており、例えば副腎皮質ステロイド、ダサチニブ及びレスベラトロールなどが報告されているが、その治療効果は様々である。
【0004】
オートタキシン(ATX)はリゾホスファチジン酸(LPA)を生成する酵素で、循環血液、脳脊髄液、腎臓、リンパ器官に広く分布している。ATX酵素であるリゾホスホリパーゼDは、リゾホスファチジルコリン(LPC)をLPAに変換する。LPAは脂質メディエーターであるリゾリン脂質の1つである。LPAはLPCからLPAに変換された後、細胞外に放出され、細胞外受容体に結合し、生理活性を示す。LPAは細胞外受容体に結合した後、下流経路を活性化することにより、細胞増殖、遊走、細胞間接着、線維化などの作用を示す。
【0005】
最近、オートタキシンに結合するアプタマー(以下、「オートタキシンアプタマー」ともいう)を用いたATX阻害による肺線維症モデルマウスの増殖抑制効果に関する報告がある(特許文献1)。アプタマーは、抗体に代わる分子標的物質として注目されており、抗体よりも強い標的結合力を有し、標的の制約がなく、化学修飾が容易であり、抗原性が低いなどの利点を有している。しかしながら、現在に至るまで、ATXとPVRの関係性の詳細な報告はなされていないままであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/147290号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、PVRを予防するための新規医薬組成物などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、オートタキシンに対する良質なアプタマーが、PVRを予防することを見出し、もって本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の発明を提供するものである。
[1]オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物。
[2]オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、[1]に記載の医薬組成物:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
[3]オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、[1]に記載の医薬組成物:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
[4]オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、修飾又は改変されている、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[5]オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、inverted dT又はポリエチレングリコールで修飾されている、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[6]オートタキシンアプタマーの5’末端又は3’末端にinverted dT又はポリエチレングリコールが結合している、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[7]オートタキシンアプタマーに含まれるリン酸基の少なくとも一つが、ホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されている、[2]又は[3]に記載の医薬組成物。
[8]オートタキシンアプタマーが、下式:
GL2-400GS2-Y-tC(M)U(M)G(M)A(M)G(M)G(M)gA(M)AsA(M)C(F)A(M)ggU(F)U(F)U(F)U(F)G(M)C(F)U(M)cC(M)U(M)cG(M)G(M)A(M)-idT
(式中、A、G、U及びCはそれぞれリボヌクレオチドを、g、c及びtはそれぞれデオキシリボヌクレオチドを、各リボヌクレオチドの右の(M)はリボースの2’位のメトキシ基を、各リボヌクレオチドの右の(F)はリボースの2’位のフッ素原子を、GL2-400GS2はSUNBRIGHT(登録商標)GL2-400GS2を、idTはinverted-dTを、YはssHリンカーを、Aの右のsは、そのAのリン酸基のホスホロチオエート化をそれぞれ示す。)
で表されるヌクレオチド配列からなる、[1]に記載の医薬組成物。
[9]増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、[1]に記載の医薬組成物。
[10]オートタキシンアプタマー又はその塩を対象に投与する工程を含む、増殖性硝子体網膜症を予防する方法。
[11]増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、[10]に記載の方法。
[12]増殖性硝子体網膜症の予防に使用するための、オートタキシンアプタマー又はその塩。
[13]増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、[12]に記載のオートタキシンアプタマー又はその塩。
[14]増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物の製造における、オートタキシンアプタマー又はその塩の使用。
[15]増殖性硝子体網膜症が、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症である、[14]に記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
オートタキシンに対する良質なアプタマーは、PVRを予防するための医薬として有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】RPE細胞増殖に対するオートタキシンアプタマーのin vitro抑制効果を示す図である。**P<0.01
図2】RPE細胞遊走に対するオートタキシンアプタマーのin vitro抑制効果を示す図である。(A) 定義したゾーン(白色の点線円)内の細胞の遊走の痕跡を示す図である。(B)RPE細胞遊走の面積を示すグラフである。**P<0.01
図3】PVRに対するオートタキシンアプタマーのin vivoでの効果を示す図である。(A)オートタキシンアプタマーを投与すると、PVRにおける牽引性網膜剥離(TRD)の発症が抑制された。オートタキシンアプタマーを投与していない対照群では、PVRにおけるTRDが発生した。(B)オートタキシンアプタマー投与により、非投与に比べ、PVRにおけるTRDの発生が有意に抑制された。*P<0.05
図4】オートタキシンアプタマー投与時のブタの網膜の組織像を示す図である。バー:50μm
【発明を実施するための形態】
【0012】
<本発明の医薬組成物>
本発明は、オートタキシンアプタマー(以下、本発明のアプタマーともいう)又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物ともいう)を提供する。
【0013】
本明細書において「アプタマー」とは、所定の標的分子に対する結合活性を有する核酸分子をいう。アプタマーは、所定の標的分子に対して結合することにより、所定の標的分子の活性を阻害し得る。本発明のアプタマーは、オートタキシンに対して結合活性を有し、オートタキシンの活性を阻害し得るアプタマーである。また本発明のアプタマーは、RNA、DNA、修飾核酸又はそれらの混合物であり得る。本発明のアプタマーはまた、直鎖状又は環状の形態であり得る。
【0014】
「オートタキシン」(EC.3.1.4.39)は血液中に存在する糖たんぱく質で、リゾホスファチジルコリン(LPC)をリゾホスファチジン酸(LPA)とコリンに分解する酵素である。本発明のアプタマーは、任意の哺乳動物に由来するオートタキシンに対する阻害活性を有し得る。このような哺乳動物としては、例えば、霊長類(例、ヒト、サル)、げっ歯類(例、マウス、ラット、モルモット、ハムスター)、並びにペット、家畜及び使役動物(例、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ヤギ、ヒツジ、ブタ)が挙げられるが、好ましくはヒトである。
【0015】
ヒトオートタキシンはα、β、γ、δの4つのアイソタイプが報告されているが、本発明においてヒトオートタキシンは特にβタイプを意味する。ヒトβ‐オートタキシンのアミノ酸配列はNCBIアクセッション番号NP_001035181で特定されるアミノ酸配列を有するヒトオートタキシンをいうが、これらと実質的に同等のLPA合成活性を有する部分タンパク質、又は一部のアミノ酸が置換、欠損、付加、若しくは挿入された変異タンパク質もこれに含まれる。
【0016】
本発明のアプタマーは、生理的な緩衝液中で、オートタキシンに結合する。緩衝液としては特に限定されるものではないが、pHが約5.0~10.0程度のものが好ましく用いられ、このような緩衝液としては、例えば酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、酒石酸緩衝液、トリス緩衝液などが挙げられる。本発明のアプタマーは、以下のいずれかの試験により検出可能な程度の強度で、オートタキシンに結合するものである。
本発明のアプタマーのオートタキシンへの結合強度の測定にはGEヘルスケア社のBiacore T100を用いる。一つの測定方法としては、まずセンサーチップにアプタマーを固定化する。固定化量は約1500 RUとする。0.020 μMに調製したアナライト用のオートタキシン溶液を20 μLインジェクトし、オートタキシンのアプタマーへの結合を検出する。30ヌクレオチドからなるランダムなヌクレオチド配列を含むRNAをネガティブコントロールとし、該コントロールRNAと比較してオートタキシンが有意に強くアプタマーに結合した場合、該アプタマーはオートタキシンへの結合能を有すると判定することができる。
別の測定方法としては、まずセンサーチップにオートタキシンを固定化する。オートタキシンの固定化量は約2700 RUとする。0.30 μMに調製したアナライト用のアプタマー溶液を20 μLインジェクトし、アプタマーのオートタキシンへの結合を検出する。30ヌクレオチドからなるランダムなヌクレオチド配列を含むRNAをネガティブコントロールとし、該コントロールRNAと比較してアプタマーが有意に強くオートタキシンに結合した場合、該アプタマーはオートタキシンへの結合能を有すると判定する。
【0017】
オートタキシンに対する阻害活性とは、オートタキシンが保有する任意の活性に対する阻害能を意味する。例えば、オートタキシンは加水分解によりホスホジエステル結合を切断するホスホジエステラーゼ活性をもっているが、それを阻害するということである。酵素活性に対する基質として許容されるのは生体内に存在するホスホジエステル結合含有物質(例えばATPなど)に限らず、それが含まれる化合物に発色物質や蛍光物質が付加した基質を含む。発色物質や蛍光物質は、当業者に公知である。また、オートタキシンはリゾホスホリパーゼD活性を持っている。この活性はリゾリン脂質のホスホジエステルのグリセロール骨格とは反対側の結合を切断して、主にリゾホスファチジン酸(LPA)を産生するが、例えば、LPAの産生を抑制することもオートタキシン活性を阻害することに含まれる。
【0018】
オートタキシンの基質とはオートタキシンにより加水分解をうけ、切断される、ホスホジエステル結合をもつ物質のことをいう。生体内に存在するオートタキシンの基質としては、リゾホスファチジルコリン(LPC)とスフィンゴシルホスホリルコリン(SPC)が知られている。本明細書におけるオートタキシンの基質としては、様々な炭素鎖長と不飽和度をもつLPCやSPC、それらに発色物質や蛍光物質が付加された基質も含まれる。
【0019】
オートタキシンの酵素活性をアプタマーが阻害するか否かは、例えば以下の試験により評価することができる。オートタキシンの基質として、ホスホジエステル結合含有合成基質p-nitrophenyl thymidine 5’-monophosphate (pNP-TMP) (SIGMA社)を用いる。加水分解によりホスホジエステル結合が切断され、p-ニトロフェノールが遊離する。このp-ニトロフェノールは黄色く発色し、当該発色を検出する。アッセイには96ウェルプレート(96-Well EIA/RIA Polystyrene Plates、 Costar社)を使用し、反応液量200 μLで行う。核酸を適当な緩衝液100 μL中に用意し、そこに同じく緩衝液中で調整した10 mM pNP-TMP、20 μLを添加しよく混合したあと、37 ℃で5分間加温する。一方で6 ngのオートタキシン(Recombinant Human、R&D社)を緩衝液で希釈したものを80 μL用意し、37 ℃で5分間加温する。加温後両者を混合し酵素反応を開始させる。反応溶液中の最終オートタキシン濃度は0.3 nM、最終基質濃度は1 mMである。反応液を含むプレートを37 ℃で24時間加温後、マイクロプレートリーダーSpectraMax190(Molecular Devices社)にセットし、波長405 nmで吸光度を求める。核酸をいれていないときの吸光度を100 % (A0)とし、次式を用いて各被験物質の吸光度 (A)から酵素活性率を求める。
【0020】
【数1】
【0021】
酵素活性を50 %阻害するのに要する阻害剤の濃度(IC50)を求める。IC50値が0.10 μM以下であるアプタマーを優れた阻害活性を持つアプタマー(良質なアプタマー)であると判定する。
【0022】
本発明のアプタマーは、オートタキシンの任意の部分に結合するアプタマーである限り特に限定されない。また本発明のアプタマーは、オートタキシンの任意の部分に結合し、その活性を阻害し得るものである限り特に限定されない。
【0023】
本発明のアプタマーの長さは特に限定されず、通常、約200ヌクレオチド以下であり得るが、例えば約100ヌクレオチド以下であり、好ましくは約50ヌクレオチド以下であり、より好ましくは約40ヌクレオチド以下であり、最も好ましくは約30ヌクレオチド以下であり得る。総ヌクレオチド数が少なければ、化学合成及び大量生産がより容易であり、かつコスト面でのメリットも大きい。また、化学修飾も容易であり、生体内安定性も高く、毒性も低いと考えられる。本発明のアプタマー長の下限は、配列番号1で表わされる共通配列(GWAACAGGUUUUGCU;WはA又はUを示す。但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、該共通配列が所望の二次構造(後述の式(I)又は(II)で表わされる二次構造)をとり得る限り特に制限はないが、該アプタマー長は、例えば21ヌクレオチド以上であり得る。特に好ましい実施態様において、本発明のアプタマーの長さは21~50ヌクレオチド、あるいは21~40ヌクレオチドである。
【0024】
好ましい一実施態様において、本発明のアプタマーは、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含む(以下、本発明のアプタマー(I)ともいう)。
【0025】
本発明のアプタマー(I)は、以下の(a)又は(b):
(a)本発明のアプタマー(I)に含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例、メトキシ基)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基)及びアミノ基(例、-NH2基)からなる群より選ばれる原子又は基、好ましくは、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、フッ素原子又はアルコキシ基(例、メトキシ基)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基)及びアミノ基(例、-NH2基)からなる群より選ばれる原子又は基、好ましくは、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかである。
【0026】
式:GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)において、Wは、好ましくはAである。
【0027】
式:GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)で表わされる配列は、式(I):
【0028】
【化1】
【0029】
又は、WがAである場合、式(II):
【0030】
【化2】
【0031】
で表わされる潜在的2次構造を形成することができる。
本発明のアプタマー(I)は、GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)(式中、WはA又はUである)で表わされる配列部分において上記構造をとることができる。この構造をとることで、オートタキシンに対する種々の活性(オートタキシンへの結合活性、オートタキシンの阻害活性等)を有すると考えられる。
【0032】
また上記構造において、5’末端と3’末端それぞれに続く配列間の相互作用によって、好ましくはステム構造が形成され得る。本発明のアプタマーが種々の活性(オートタキシンへの結合活性、オートタキシンの阻害活性等)を有するためには、上記潜在的2次構造に加えて、それに続くステム構造を有することが望ましい。ステム構造を持つことによってアプタマーが安定化し、強い活性を持つようになる。ステム構造は相補的な塩基対(ワトソン-クリック塩基対の他、G=U塩基対も含む)によって形成されるが、塩基対の数(ステム長)は特に限定されない。好ましくは、ステム長は4塩基対以上である。ステム長の上限に特に制限はないが、例えば18塩基対以下、好ましくは11塩基対以下である。またステム構造においては、全体としてステム構造を構成する限りにおいて、その一部において塩基対を形成しなくてもアプタマー活性は維持される。従って、ステム構造部分は、その構造を持つ限りにおいてヌクレオチドの置換、欠失、挿入、付加が可能である。
【0033】
本発明のアプタマー(I)は、オートタキシンへの結合活性及びオートタキシン活性(オートタキシンの酵素活性等)の阻害活性を保持する限り、配列番号1で表わされるヌクレオチド配列において、1~数個(例えば、1~4個、好ましくは1~3個、より好ましくは1~2個、特に好ましくは1個)のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されてもよい。ヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加される位置は特に制限されないが、例えばヌクレオチドが置換される場合、配列番号1で表わされるヌクレオチド配列の5’末端から10~12番目のUUUの少なくとも1個のUが、他のヌクレオチド、好ましくはA以外のヌクレオチド、より好ましくはCで置換されることが好ましい。また、配列番号1で表わされるヌクレオチド配列中、5’末端から6番目のAが置換される場合、U以外のヌクレオチドで置換されることが好ましく、より好ましくは5’末端から6番目のAは置換されない。
【0034】
上記において、ヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたアプタマーは、以下の(a)又は(b):
(a) 配列番号1で表されるヌクレオチド配列において、1~数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたヌクレオチド配列を含み、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例、メトキシ基)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基)及びアミノ基(例、-NH2基)からなる群より選ばれる原子又は基、好ましくは、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、フッ素原子又はアルコキシ基(例、メトキシ基)、アシルオキシ基(例、アセチルオキシ基)及びアミノ基(例、-NH2基)からなる群より選ばれる原子又は基、好ましくは、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかである。
【0035】
あるいは、別の好ましい実施態様において、本発明のアプタマーは、下記(A)~(C):
(A)配列番号2で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマー(但し、ウラシルはチミンであってもよい);
(B)配列番号2で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)において、1~数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたヌクレオチド配列を含むアプタマー;又は
(C)配列番号2で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)と60 %以上(好ましくは70 %以上、より好ましくは75 %以上、さらに好ましくは80 %以上、いっそう好ましくは85 %以上、特に好ましくは90 %以上、最も好ましくは95 %以上)の同一性を有するヌクレオチド配列を含むアプタマー;
(但し、上記(B)又は(C)のアプタマーは、オートタキシンに結合し、オートタキシンの活性(オートタキシンの酵素活性等)を阻害し得るものである。)
のいずれかのアプタマーである(以下、本発明のアプタマー(II)ともいう)。
【0036】
上記(B)及び(C)の配列番号2で表わされるヌクレオチド配列は、式:GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)(式中、WはA又はUである)で表わされる配列を共通配列として含む。
【0037】
上記(B)において、置換、欠失、挿入又は付加されるヌクレオチド数は、アプタマーがオートタキシンに結合し、オートタキシンの活性(オートタキシンの酵素活性等)を阻害し得る限り特に限定されないが、例えば約10個以下、さらにより好ましくは5個以下、最も好ましくは4個、3個、2個又は1個であり得る。配列番号1で表わされる共通配列中にヌクレオチドの置換、欠失、挿入又は付加を有する場合、上記本発明のアプタマー(I)と同様の変異を含むことが好ましい。また、配列番号1で表わされるヌクレオチド配列中、5’末端から6番目のAが置換される場合、U以外のヌクレオチドで置換されることが好ましく、より好ましくは5’末端から6番目のAは置換されない。
【0038】
上記(C)において、「同一性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのヌクレオチド配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方又は両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全ヌクレオチド残基に対する、同一ヌクレオチド残基の割合(%)を意味する。
【0039】
本明細書において、ヌクレオチド配列における同一性は、例えば相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST-2 (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(ギャップオープン=5ペナルティ;ギャップエクステンション=2ペナルティ;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON)にて2つのヌクレオチド配列をアラインすることにより、計算することができる。
【0040】
上記(C)のアプタマーにおいて、配列番号1で表わされる共通配列部分に対する同一性は、80 %以上、好ましくは85 %以上、より好ましくは90 %以上であり、また、配列番号1で表わされるヌクレオチド配列中、5’末端から6番目のAが置換される場合、U以外のヌクレオチドで置換されることが好ましく、より好ましくは5’末端から6番目のAは置換されない。
【0041】
特に好ましい実施態様において、本発明のアプタマー(II)は、下記(A’)、(B’)又は(C’):
(A’)配列番号2で表わされるヌクレオチド配列を含むアプタマー(但し、ウラシルはチミンであってもよい);
(B’)配列番号2で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)において、GAAACAGGUUUUGCU(配列番号3)で表わされる配列を除いた部分に1~数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたヌクレオチド配列を含むアプタマー;又は
(C’)配列番号2で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)と70%以上(好ましくは75 %以上、より好ましくは80 %以上、さらに好ましくは85 %以上、特に好ましくは90 %以上、最も好ましくは95 %以上)の同一性を有する(但し、GAAACAGGUUUUGCU(配列番号3)で表わされる配列は同一である)ヌクレオチド配列を含むアプタマー(但し、上記(B’)又は(C’)のアプタマーは、オートタキシンに結合し、オートタキシンの活性(オートタキシンの酵素活性等)を阻害し得るものである。)
のいずれかである。
【0042】
上記(B’)において、置換、欠失、挿入又は付加されるヌクレオチド数は、アプタマーがオートタキシンに結合し、オートタキシンの活性(オートタキシンの酵素活性等)を阻害し得る限り特に限定されないが、好ましくは5個以下、より好ましくは4個、さらに好ましくは3個、特に好ましくは2個又は1個であり得る。
【0043】
上記(C’)において、「同一性」とは、上記(C)と同義である。
【0044】
本発明のアプタマー(II)はまた、
(D)1以上の上記(A)及び/又は1以上の上記(B)及び/又は1以上の上記(C)の複数の連結物、好ましくは、
(D’)1以上の上記(A’)及び/又は1以上の上記(B’)及び/又は1以上の上記(C’)の複数の連結物
であり得る。上記(D)、(D’)において連結はタンデム結合にて行われ得る。また、連結に際し、リンカーを利用してもよい。リンカーとしては、ヌクレオチド鎖(例、1~約20ヌクレオチド)、非ヌクレオチド鎖(例、-(CH2)n-リンカー、-(CH2CH2O)n-リンカー、ヘキサエチレングリコールリンカー、TEGリンカー、ペプチドを含むリンカー、-S-S-結合を含むリンカー、-CONH-結合を含むリンカー、-OPO3-結合を含むリンカー)が挙げられる。上記複数の連結物における複数とは、2以上であれば特に限定されないが、例えば2個、3個又は4個であり得る。
【0045】
上記(A)~(D)、(A’)~(D’)における各アプタマーは、以下の(a)又は(b):
(a)各アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b) 該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかである。
【0046】
また、本発明のアプタマー(II)は、上記(B)、(C)、(B’)又は(C’)において、式:GAAACAGGUUUUGCU(配列番号3)で表わされるヌクレオチド配列を含み、該ヌクレオチド配列は、式(I’):
【0047】
【化3】
【0048】
又は式(II):
【0049】
【化4】
【0050】
で表わされる潜在的二次構造を形成することができる。
【0051】
また、本発明のアプタマー(II)は、上記(B)又は(C)において、式:GAAACAGGUUUUGCU(配列番号3)で表わされるヌクレオチド配列の5’末端と3’末端それぞれに続く配列間の相互作用によって、ステム構造を形成し得る。ステム長は特に限定されないが、好ましくは4塩基対以上である。ステム長の上限も特に制限はないが、例えば18塩基対以下、好ましくは11塩基対以下である。またステム構造においては、全体としてステム構造を構成する限りにおいて、その一部において塩基対を形成しなくてもアプタマー活性は維持される。従って、ステム構造部分は、その構造を持つ限りにおいてヌクレオチドの置換、欠失、挿入、付加が可能である。
【0052】
上述のように、本発明のアプタマー(本発明のアプタマー(I)及び(II)を包括する)は、少なくとも1種(例、1、2、3又は4種)のヌクレオチドが、リボースの2’位において、ヒドロキシル基、又は上述した任意の原子又は基、例えば、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシル基及びメトキシ基からなる群より選ばれる少なくとも2種(例、2、3又は4種)の基を含むヌクレオチドであり得る。
【0053】
本発明のアプタマーにおいてはまた、全てのピリミジンヌクレオチドが、リボースの2’位において、フッ素原子であるか、又は上述した任意の原子又は基、好ましくは、水素原子、ヒドロキシル基及びメトキシ基からなる群より選ばれる同一の原子又は基で置換されているヌクレオチドであり得る。
【0054】
本発明のアプタマーにおいてはまた、全てのプリンヌクレオチドが、リボースの2’位において、ヒドロキシル基であるか、又は上述した任意の原子又は基、好ましくは、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる同一の原子又は基で置換されるヌクレオチドであり得る。
【0055】
本発明のアプタマーはまた、全てのヌクレオチドが、リボースの2’位において、上述した任意の原子又は基、例えば、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシル基及びメトキシ基からなる群より選ばれる同一の原子又は基を含むヌクレオチドであり得る。
【0056】
尚、本明細書においては、アプタマーを構成するヌクレオチドをRNAと仮定して(すなわち糖基をリボースと仮定して)、ヌクレオチド中の糖基への修飾の態様を説明するが、これは、アプタマーを構成するヌクレオチドからDNAが除外されることを意味するものではなく、適宜DNAへの修飾として読み替えられる。例えば、アプタマーを構成するヌクレオチドがDNAである場合、リボースの2’位のヒドロキシル基のXへの置換は、デオキシリボースの2’位の一方の水素原子のXへの置換として読み替えられる。
【0057】
本発明のアプタマーは、オートタキシンに対する結合性、安定性、薬物送達性等を高めるため、各ヌクレオチドの糖残基(例、リボース)が修飾されたものであってもよい。糖残基において修飾される部位としては、例えば、糖残基の2’位、3’位及び/又は4’位のヒドロキシル基を他の原子に置き換えたものなどが挙げられる。修飾の種類としては、例えば、フルオロ化、アルコキシ化(例、メトキシ化、エトキシ化)、O-アリル化、S-アルキル化(例、S-メチル化、S-エチル化)、S-アリル化、アミノ化(例、-NH2)が挙げられる。このような糖残基の改変は、自体公知の方法により行うことができる(例えば、Sproat et al., Nucle. Acid. Res., 19, 733-738 (1991); Cotton et al., Nucl. Acid. Res., 19, 2629-2635 (1991); Hobbs et al., Biochemistry, 12, 5138-5145 (1973)を参照)。
また糖残基については、2’位及び4’位で架橋構造を形成したBNA: Bridged nucleic acid (LNA: Linked nucleic acid)とすることもできる。このような糖残基の改変も、それ自体公知の方法により行うことができる(例えば、Obika et al., Tetrahedron Lett., 38, 8735-8738 (1997); Hari et al., Tetrahedron, 59, 5123-5128 (2003); Rahman et al., , J. Am. Chem. Soc., 130, 4886-4896 (2008)を参照)。
【0058】
本発明のアプタマーはまた、オートタキシンに対する結合活性等を高めるため、核酸塩基(例、プリン、ピリミジン)が改変(例、化学的置換)されたものであってもよい。このような改変としては、例えば、5位ピリミジン改変、6位及び/又は8位プリン改変、環外アミンでの改変、4-チオウリジンでの置換、5-ブロモ又は5-ヨード-ウラシルでの置換が挙げられる。
また、ヌクレアーゼ及び加水分解に対して耐性であるように、あるいはオートタキシンに対する結合活性等を高める目的で、本発明のアプタマーに含まれるリン酸基が改変されていてもよい。例えば、リン酸基たるP(O)O基が、P(O)S(チオエート)、P(S)S(ジチオエート)、P(O)NR(アミデート)、P(O)R、R(O)OR’、CO又はCH2(ホルムアセタール)又は3’-アミン(-NH-CH2-CH2-)で置換されていてもよい〔ここで各々のR又はR’は独立して、Hであるか、あるいは置換されているか、又は置換されていないアルキル(例、メチル、エチル)である〕。上記改変のなかでも、リン酸基たるP(O)O基の少なくとも一つが、P(O)S(チオエート)又はP(S)S(ジチオエート)で置換されている、いわゆるホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化したものが好ましい。アプタマーに含まれるリン酸基の少なくとも一つがホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されることによって、本発明のアプタマーの活性が向上する。ホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されるリン酸基は特に制限されないが、例えば、本発明のアプタマー(I)又は(II)における共通配列(配列番号1、3)中の任意のヌクレオチドであってよく、好ましくは、該共通配列の5’末端から3番目のAのリン酸基であり得る。
連結基としては、-O-、-N-又は-S-が例示され、これらの連結基を通じて隣接するヌクレオチドに結合し得る。
本発明のアプタマーはまた、キャッピングのような核酸塩基の3’及び5’の改変を含んでもよい。
【0059】
本発明のアプタマーはさらに、ポリエチレングリコール、アミノ酸、ペプチド、inverted dT、核酸、ヌクレオシド、Myristoyl、Lithocolic-oleyl、Docosanyl、Lauroyl、Stearoyl、Palmitoyl、Oleoyl、Linoleoyl、その他脂質、ステロイド、コレステロール、カフェイン、ビタミン、色素、蛍光物質、抗癌剤、毒素、酵素、放射性物質、ビオチンなどをアプタマーの5’末端及び/又は3’末端に付加することにより、末端修飾が行われ得る。このような末端修飾については、例えば、米国特許第5,660,985号、Kratshmer & Matthew, Nucl. Acid Ther., 27, 335-344 (2017)を参照して行うことができる。
【0060】
アプタマーの末端修飾に使われるポリエチレングリコールとしては、例えば、平均分子量が、約500 Da~約50 kDaであればよいが、好ましくは、約5 kDa~約40 kDaであり、より好ましくは、約10 kDa~約40 kDaの範囲のものである。また、アプタマーの末端の修飾を容易にするために、ポリエチレングリコールの誘導体を使用してもよい。例えば、後述のように、SUNBRIGHT(登録商標)GL2-400GS2のような、二鎖分岐型ポリエチレングリコール誘導体を使用することができる。ポリエチレングリコールは、アプタマーに対して直接、又はリンカーを介してアプタマーの末端に連結させることができる。アプタマーの末端にポリエチレングリコールを連結させるためのリンカーとしては、特に限定されないが、例えばアミノリンカーを使用してもよい。例えば、後述のように、ssHリンカーを使用することができる。ssHリンカーは、Komatsu et al., Bioorg. Med. Chem., 16, 941-949 (2008) にその構造が記載されている、核酸の5’末端の化学修飾用のアミノリンカーである。
【0061】
Inverted-dTは、アプタマーなどの核酸の3’末端で3’-3’塩基間結合を形成し、3’エキソヌクレアーゼによる分解を阻害するための構造である(Beigelman et al., J. Biol. Chem., 270, 25702-25708 (1995))。
【0062】
特に好ましい一実施態様において、本発明のアプタマーは、下式:
GL2-400GS2-Y-tC(M)U(M)G(M)A(M)G(M)G(M)gA(M)AsA(M)C(F)A(M)ggU(F)U(F)U(F)U(F)G(M)C(F)U(M)cC(M)U(M)cG(M)G(M)A(M)-idT
(式中、A、G、U及びCはそれぞれリボヌクレオチドを、g、c及びtはそれぞれデオキシリボヌクレオチドを、各リボヌクレオチドの右の(M)はリボースの2’位のメトキシ基を、各リボヌクレオチドの右の(F)はリボースの2’位のフッ素原子を、GL2-400GS2はSUNBRIGHT(登録商標)GL2-400GS2を、idTはinverted-dTを、YはssHリンカーを、Aの右のsは、そのAのリン酸基のホスホロチオエート化をそれぞれ示す。)
で表されるヌクレオチド配列からなるアプタマーである(以下、本発明のアプタマー(III)ともいう)。
【0063】
本発明のアプタマーは、本明細書中の開示及び当該技術分野における自体公知の方法により合成することができる。合成方法の一つはRNAポリメラーゼを用いる方法である。目的の配列とRNAポリメラーゼのプロモーター配列を持つDNAを化学合成し、これをテンプレートにして既に公知の方法により転写することで目的のRNAを得ることができる。また、DNAポリメラーゼを用いることでも合成することができる。目的の配列を有したDNAを化学合成し、これをテンプレートにして、既に公知の方法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。増幅されたDNAを既に公知の方法であるポリアクリルアミド電気泳動法や酵素処理法により一本鎖とする。修飾の入ったアプタマーを合成する場合は、特定の位置に変異を導入したポリメラーゼを用いることで伸長反応の効率を上げることができる。このようにして得られたアプタマーは公知の方法により容易に精製することができる。
アプタマーはアミダイト法やホスホアミダイト法などの化学合成法によって大量合成することができる。合成方法はよく知られている方法であり、Nucleic Acid (Vol.2) [1] Synthesis and Analysis of Nucleic Acid (Editor:Yukio Sugiura,Hirokawa Publishing Company) などに記載のとおりである。実際にはGEヘルスケアーバイオサイエンス社のOligoPilot plus 100やOligoProcessなどの合成機を使用することができる。精製はクロマトグラフィー等の自体公知の方法により行われる。
アプタマーはホスホアミダイト法などの化学合成時にアミノ基などの活性基を導入することで、合成後に機能性物質を付加することができる。例えば、アプタマーの末端にアミノ基を導入することで、カルボキシル基を導入したポリエチレングリコール鎖などを縮合させることができる。
アプタマーは、リン酸基の負電荷を利用したイオン結合、リボースを利用した疎水結合及び水素結合、核酸塩基を利用した水素結合やスタッキング結合など多様な結合様式により標的物質と結合する。特に、構成ヌクレオチドの数だけ存在するリン酸基の負電荷を利用したイオン結合は強く、タンパク質の表面に存在するリジンやアルギニンの正電荷と結合する。このため、標的物質との直接的な結合に関わっていない核酸塩基は置換することができる。特に、ステム構造の部分は既に塩基対が作られており、また、二重らせん構造の内側を向いているので、ステム構造部分の核酸塩基は、標的物質と直接結合し難い。従って、塩基対を他の塩基対に置換してもアプタマーの活性は低下しない場合が多い。ループ構造など塩基対を作っていない構造においても、核酸塩基が標的分子との直接的な結合に関与していない場合には、塩基の置換が可能である。リボースの2’位の修飾に関しては、まれにリボースの2’位の官能基が標的分子と直接的に相互作用していることがあるが、多くの場合無関係であり、他の修飾分子に置換可能である。このようにアプタマーは、標的分子との直接的な結合に関与している官能基を置換又は削除しない限り、その活性を保持していることが多い。また、全体の立体構造が大きく変わらないことも重要である。
【0064】
アプタマーは、SELEX法及びその改良法(例えば、Ellington et al., Nature, 346, 818-822 (1990); Tuerk et al., Science, 249, 505-510 (1990))を利用することで作製することができる。SELEX法ではラウンド数を増やしたり、競合物質を使用したりして、選別条件を厳しくすることで、標的物質に対してより結合力の強いアプタマーが濃縮され、選別されてくる。よって、SELEXのラウンド数を調節したり、及び/又は競合状態を変化させたりすることで、結合力が異なるアプタマー、結合形態が異なるアプタマー、結合力や結合形態は似ているが塩基配列が異なるアプタマーを得ることができる場合がある。また、SELEX法にはPCRによる増幅過程が含まれるが、その過程でマンガンイオンを使用するなどして変異を入れることで、より多様性に富んだSELEXを行うことが可能となる。
【0065】
SELEXで得られるアプタマーは標的物質に対して親和性が高い核酸であるが、そのことは標的物質の生理活性を阻害することを意味しない。オートタキシンは塩基性タンパク質であり、核酸が非特異的に結合しやすいと考えられるが、特定の部位に強く結合するアプタマー以外はその標的物質の活性に影響を及ぼさない。
【0066】
このようにして選ばれた活性のあるアプタマーに基づき、より高い活性を有するアプタマーを獲得するために更にプライマーを変えてSELEXを行うことが出来る。具体的な方法とは、ある配列が決まっているアプタマーの一部をランダム配列にしたテンプレートや10~30 %程度のランダム配列をドープしたテンプレートを作製して、再度SELEXを行うものである。
【0067】
SELEXで得られるアプタマーは80ヌクレオチド程度の長さがあり、これをそのまま医薬にすることは難しい。そこで、試行錯誤を繰り返し、容易に化学合成ができる50ヌクレオチド程度以下の長さまで短くする必要がある。SELEXで得られるアプタマーはそのプライマー設計に依存して、その後の最小化作業のしやすさが変わる。うまくプライマーを設計しないと、SELEXによって活性のあるアプタマーが選別できたとしても、その後の開発が困難となる。
【0068】
アプタマーは化学合成が可能であるので改変が容易である。アプタマーはMFOLDプログラムを用いて二次構造を予測したり、X線解析やNMR解析によって立体構造を予測したりすることで、どのヌクレオチドを置換又は欠損することが可能か、また、どこに新たなヌクレオチドを挿入可能かなどを、ある程度予測することができる。予測された新しい配列のアプタマーは容易に化学合成することができ、そのアプタマーが活性を保持しているかどうかは、既存のアッセイ系により確認することができる。
【0069】
得られたアプタマーの標的物質との結合に重要な部分が、上記のような試行錯誤を繰り返すことにより特定できた場合、その配列の両端に新しい配列を付加しても、多くの場合活性は変化しない。新しい配列の長さは特に限定されるものではない。
【0070】
修飾に関しても、配列と同様に当業者であれば自由に設計又は改変可能である。
【0071】
本発明のアプタマーは塩の形態であってよい。塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。
【0072】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0073】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0074】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、修飾又は改変されており、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0075】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
オートタキシンアプタマーに含まれる少なくとも一つのヌクレオチドが、修飾又は改変されており、
かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0076】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、
inverted dT又はポリエチレングリコールで修飾されており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0077】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
inverted dT又はポリエチレングリコールで修飾されており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0078】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、
5’末端又は3’末端にinverted dT又はポリエチレングリコールが結合しており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0079】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
5’末端又は3’末端にinverted dT又はポリエチレングリコールが結合しており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0080】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
GWAACAGGUUUUGCU(配列番号1)
(式中、WはA又はUである)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
21ヌクレオチド以上の長さを有し、
リン酸基の少なくとも一つが、ホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0081】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
オートタキシンアプタマーが、下式:
UCUGAGGGAAACAGGUUUUGCUCCUCGGA(配列番号2)
で表されるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含み、
リン酸基の少なくとも一つが、ホスホロチオエート化又はホスホロジチオエート化されており、かつ
以下の(a)又は(b)のいずれかである、オートタキシンアプタマー又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である:
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている。
【0082】
一つの実施態様において、本発明の医薬組成物は、
下式:
GL2-400GS2-Y-tC(M)U(M)G(M)A(M)G(M)G(M)gA(M)AsA(M)C(F)A(M)ggU(F)U(F)U(F)U(F)G(M)C(F)U(M)cC(M)U(M)cG(M)G(M)A(M)-idT
(式中、A、G、U及びCはそれぞれリボヌクレオチドを、g、c及びtはそれぞれデオキシリボヌクレオチドを、各リボヌクレオチドの右の(M)はリボースの2’位のメトキシ基を、各リボヌクレオチドの右の(F)はリボースの2’位のフッ素原子を、GL2-400GS2はSUNBRIGHT(登録商標)GL2-400GS2を、idTはinverted-dTを、YはssHリンカーを、Aの右のsは、そのAのリン酸基のホスホロチオエート化をそれぞれ示す。)
で表されるヌクレオチド配列からなるオートタキシンアプタマー、又はその塩を含む、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物である。
【0083】
後述する実施例の通り、本発明のオートタキシンアプタマーは、in vitroでRPE細胞の増殖及び遊走を抑制し、ブタの増殖性硝子体網膜症モデルにおいて、増殖性硝子体網膜症における牽引性網膜剥離の発生率を減少させた。従って、本発明のアプタマー又はその塩は、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物として使用され得る。
【0084】
「裂孔原性網膜剥離」は、網膜にできる穴や裂け目(網膜裂孔)が原因で起こる。一般的に、網膜剥離というと裂孔原性網膜剥離を指すことが多い。「増殖性硝子体網膜症」は、網膜剥離が長く続いた場合や、裂孔原性網膜剥離の術後において裂孔が完全に塞がらなかった場合などに、傷を治そうとして網膜の表面や硝子体内に線維性の細胞が増えることで、網膜が引き上げられ(牽引され)、網膜剥離(牽引性網膜剥離)が生じる疾患である。従って、本発明の医薬組成物によって予防される増殖性硝子体網膜症は、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症であってよい。
【0085】
本発明の医薬組成物は、医薬上許容される担体が配合されたものであり得る。医薬上許容される担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム-グリコール-スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0086】
本発明の医薬組成物の投与経路としては特に限定されるものではないが、例えば経口投与、非経口投与が挙げられるが、非経口投与が好ましい。
【0087】
非経口的な投与(例えば、静脈内投与、硝子体内投与、網膜下投与、点眼投与など)に好適な製剤としては、水性及び非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性及び非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分及び医薬上許容される担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌の溶媒に溶解又は懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0088】
本発明の医薬組成物の投与量は、有効成分の種類や活性、疾患の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分量として例えば、約0.0001~約100 mg/kg、好ましくは約0.0001~約10 mg/kg、より好ましくは約0.005~約1 mg/kgであり得る。
【0089】
<本発明の増殖性硝子体網膜症を予防する方法等>
本発明は、オートタキシンアプタマー又はその塩を対象に投与する工程を含む、増殖性硝子体網膜症を予防する方法、オートタキシンアプタマー又はその塩を対象に投与する工程を含む、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症を予防する方法、増殖性硝子体網膜症の予防に使用するための、オートタキシンアプタマー又はその塩、裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症の予防に使用するための、オートタキシンアプタマー又はその塩、増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物の製造における、オートタキシンアプタマー又はその塩の使用、及び裂孔原性網膜剥離の術後に発生する増殖性硝子体網膜症の予防用医薬組成物の製造における、オートタキシンアプタマー又はその塩の使用を含む。
【0090】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例0091】
1.方法及び材料
1.1.RBM-006のプロファイル
以下にRBM-006のヌクレオチド配列を示す。
40P-Y-tC(M)U(M)G(M)A(M)G(M)G(M)gA(M)AsA(M)C(F)A(M)ggU(F)U(F)U(F)U(F)G(M)C(F)U(M)cC(M)U(M)cG(M)G(M)A(M)-idT
(式中、A、G、U及びCはそれぞれリボヌクレオチドを、g、c及びtはそれぞれデオキシリボヌクレオチドを、各リボヌクレオチドの右の(M)はリボースの2’位のメトキシ基を、各リボヌクレオチドの右の(F)はリボースの2’位のフッ素原子を、GL2-400GS2はSUNBRIGHT(登録商標) GL2-400GS2(日油社)を、idTはinverted-dTを、YはssHリンカーを、Aの右のsは、そのAのリン酸基のホスホロチオエート化をそれぞれ示す。)
以上のとおり、RBM-006は29個のヌクレオチドからなるオートタキシンアプタマーであり、各ヌクレオチドのリボースの2'位はリボヌクレアーゼに抵抗するように大きく修飾され、その5'及び3'末端はそれぞれ40 kDa PEG及びinverted-dTに結合されており、十分な薬物動態プロファイルが得られている(国際公開第2015/163458号)。RBM-006は、オートタキシンに安定かつ特異的に結合し、ヘパリン結合タンパク質を含む、試験された他のタンパク質には結合しない。重要なことに、RBM-006はオートタキシンのLPCからLPAへの変換活性を0.5 nM (IC50値)で阻害する。また、RBM-006の血中半減期は3.7時間である。
【0092】
1.2.RPE細胞培養
RPE細胞は、東京芝浦臓器株式会社(日本、東京)から購入したブタ眼から単離した。RPE細胞の初代培養は、確立されたプロトコル(Sonoda et al., Nat. Protoc., 4, 662-673 (2009))に従った。実験は、25 cm2の組織培養フラスコ内で、六角形の形態を有し、目に見える色素沈着がない状態でコンフルエントになるまで培養された、2~6 週間目のRPE細胞を使用して行った。RPE細胞の培養は、グルタミン(5 mL)、ペニシリン/ストレプトマイシン(5 mL)、及び5 %ウシ胎児血清(FBS)入りDMEMを用いて、37 ℃、5 % CO2にて行った。
【0093】
1.3.ブタのPVRモデル
動物の使用は、日本大学倫理委員会の承認を受け、ARVO Statement for the Use of Animals in Ophthalmic and Vision Research (Association for Research in Vision and Ophthalmology; ARVO) に準拠した。家畜ブタを用い、報告されているプロトコルに従ってPVRを誘発した(Umazume et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 53, 4910-4916 (2012))。具体的には、創口を3か所開け、25ゲージ口径の灌流回路、吸引・切除用カッター、及び照明装置をそれぞれ、3か所の口から挿入する硝子体手術を行い、周辺硝子体を切除した。次に、39ゲージの網膜下注射針を用いて、網膜下にダルベッコ改変イーグル培地(高グルコース)(Merck社, D6171)を注入し、網膜剥離を引き起こした。硝子体手術終了後、RPE細胞(2.0×106cells)を眼内に注入した。オートタキシンアプタマーRBM-006(リボミック社)の注入は、RBM-006を50 mg/mlになるようにBSS PLUS 500 Intraocular irrigating solution 0.0184%(日本アルコン社)に懸濁し、合計1 mgのRBM-006の注入を、RPE細胞注入後に続けて行った。さらに、術後7日目に、前記と同じように、1 mgのRBM-006を再注入した。臨床検査は術後7日目、及び14日目に実施した。PVRグレードは報告されているプロトコル(Umazume et al., Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 53, 4910-4916 (2012))に基づいた。
【0094】
1.4.免疫蛍光法及び免疫組織化学法
免疫蛍光法及び免疫組織化学法については、例えば免疫組織化学染色法実験ハンドブック(タカラバイオ)などに詳しくその方法が述べられているため、ここでは簡単に説明する。家畜ブタ由来のサンプルをパラフィンブロック包埋し、その切片を作製した。免疫染色開始前に、まず脱パラフィン処理を行い、次に10 mMクエン酸緩衝液(pH6.0)を用いて抗原賦活化(110℃、10分)を行った。その後、PBSで洗浄する(5分間×3回浸漬)。洗浄が終わった切片を、ブロッキング緩衝液(10% Donkey serum/ PBS)を用いてブロッキング(室温、60分間)した後、順に、一次抗体反応(4℃、一晩)、PBSを用いた洗浄(5分間×3回浸漬)、二次抗体反応(室温、60分間)、及びPBSを用いた洗浄(5分間×3回浸漬)を行った。免疫染色用の抗体としては、一次抗体としてanti-SMA抗体(Rabbit)(abcam社、ab5694)と、対応する二次抗体としてAlexaFluor(登録商標)647 anti-Rabbit IgG(H+L)抗体(Donkey)(Invitrogen社、A-31573)、一次抗体としてanti-Autotaxinモノクローナル抗体(Rat)(MBL社、D323-3)と、対応する二次抗体として、Alexa Fluor(登録商標)488 anti-Rat IgG (H+L)抗体(Donkey)(abcam社、ab150153)、及び一次抗体としてanti-Fibronectin(EP5)抗体(mouse)(SantaCruz社、SC-8422)と、対応する二次抗体としてAlexa Fluor(登録商標)546 anti-Mouse IgG(H+L)抗体(Donkey)(Invitrogen社、A-10036)を用いた。一次抗体、及び二次抗体はそれぞれ、ブロッキング緩衝液を用いて1:200希釈、1:500希釈したものを用いた。ここで、Anti-Autotaxinモノクローナル抗体以外の抗体は、増殖膜がEMTに由来することを確認するために用いた(データは示さず)。
免疫蛍光染色を行った切片について、DAPI染色液(abcam社、ab228549)を用いて、室温で15分間反応させ、その後PBSを用いた洗浄(5分間×3回浸漬)を行うことで核染色を行った。
切片を封入剤(VECTASHIELD Vibrance Antifade Mounting Medium、Vector Laboratories社、H-1700)に封入し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0095】
1.5.細胞増殖アッセイ
RBM-006添加の有無による、RPE細胞の細胞増殖への影響を、Cell Proliferation ELISA, BrdU (colorimetric) kit(Roche Applied Science社, 11647229001)を使用して、該キットに添付のプロトコルに従って分析した。
【0096】
1.6.細胞遊走アッセイ
細胞遊走アッセイは、Oris Cell Migration Assay kit (Platypus Technologies社, CMA1-101) を用いて、該キットに添付のプロトコルに従って実施した。細胞遊走の面積は、Photoshopソフトウェア(Adobe Inc.社)を使用して決定した。
【0097】
1.7.統計解析
PVRグレードについてはMann-Whitney U検定で解析し、in vitroアッセイ(細胞増殖アッセイ及び細胞遊走アッセイ)の解析には一元配置分散分析(one-way ANOVA)を使用した。すべての統計解析はEZRソフトウェア(自治医科大学附属さいたま医療センター)を用いて行った。
【0098】
2.結果
2.1.オートタキシンアプタマーはRPE細胞の増殖を抑制する
RPE細胞は硝子体内に散布されることでEMTを起こす。RPE細胞のEMTはPVRの病態における細胞増殖、遊走、細胞外マトリックス(ECM)リモデリングなどの線維化プロセスの初期段階である。オートタキシンアプタマーは、オートタキシンを阻害し、オートタキシン-LPA経路の下流で細胞増殖、遊走、細胞間接着、線維化を抑制すると考えられている。本実施例では、オートタキシンアプタマー(RBM-006)をRPE細胞(5.0×104 cells)の培地に添加し、細胞増殖について検討した(液量:0.1ml/ well)。RBM-006の0.005 mg添加では有意差はなかったが、0.05 mg添加、及び0.5 mg添加では、RBM-006を添加しなかったコントロールと比較して有意に細胞増殖が低下し、用量依存性も認められた(図1)。
【0099】
2.2.オートタキシンアプタマーはRPE細胞の遊走を阻害する
培養RPE細胞(5.0×104cells)の培地にRBM-006を添加し(液量:0.1ml/ well)、細胞増殖と同様に細胞遊走を検討したところ、RBM-006の0.005 mg添加、及び0.05 mg添加では有意差は認められなかったが、RBM-006の0.5 mg添加では、RBM-006を添加していないコントロールと比較して有意に細胞遊走が抑制された(図2)。
【0100】
2.3.オートタキシンアプタマーはin vivoでPVRの進行を抑制する
次に、発明者らは、ブタのPVRモデルを用いて、オートタキシンアプタマーをin vivoで投与し、PVRが抑制されるかどうかを検討した。in vitroでの細胞増殖、細胞遊走の実験結果を踏まえ、施術後の当該ブタPVRモデルの眼に、培養RPE細胞(2.0×106 cells)の注入した後、RBM-006 1.0 mgを0日目と7日目に投与した。アプタマー非投与をコントロールとした。14日目にPVRのグレードを確認したところ、PVRにおけるTRDの発生率は、RBM-006の投与により、非投与に比べ有意に減少した(図3)。RBM-006を合計5眼に投与したところ、1眼を除き、1グレード以上のTRDは観察されなかった。
コントロールでは、HE(ヘマトキシリン・エオジン)染色により網膜に増殖膜が確認された(黒色の点線円)。この増殖膜はオートタキシン陽性であった(白色の点線円)。一方、RBM-006投与では増殖膜が観察されず、オートタキシン陽性組織が明確に確認されなかった(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の医薬組成物は、増殖性硝子体網膜症を予防するための医薬組成物として有用である。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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