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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099387
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電力変換装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240718BHJP
【FI】
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003298
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】柏原 弘典
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770EA27
5H770HA02Y
5H770KA01Y
5H770LA02Y
5H770LA05Y
5H770LB07
(57)【要約】
【課題】電力変換装置のインバータから負荷装置に流れる過電流を速やかに低減する。
【解決手段】電力変換装置(1)の制御部(30)は、インダクタ(L)と負荷装置(LD)との接続点の電圧である負荷側電圧(Vs)を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットを含む。制御部(30)は、インバータ(10)から負荷装置(LD)に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、インバータ(10)を特殊モードで動作させる。制御部(30)は、特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することによりインバータ(10)の出力電圧(Vout)を設定し、上記電流値を低減させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置であって、
インバータと、
上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、
上記インバータを制御する制御部と、を備えており、
上記制御部は、上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットを含んでおり、
上記制御部は、
上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させ、
上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる、電力変換装置。
【請求項2】
上記制御部は、上記定電圧制御ユニットの出力に対する、上記特殊モードにおける補正値を、上記電流値および上記電流閾値に基づき設定する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
上記制御部は、上記定電圧制御ユニットの出力から上記補正値を減算した値を、上記特殊モードにおける上記インバータの出力電圧として設定する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
上記制御部は、上記特殊モードにおける上記インバータの仮想インピーダンスを、上記電流値および上記電流閾値に基づき設定する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項5】
上記定電圧制御ユニットの出力を示すベクトルと上記負荷側電圧を示すベクトルとの差を表すベクトルを第1ベクトルと称し、
上記インバータから上記負荷装置に流れる電流を示すベクトルを第2ベクトルと称し、
上記第2ベクトルに対する上記第1ベクトルの位相差をθxとして表し、
上記特殊モードにおいて、0°≦θx≦90°である、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項6】
上記制御部は、上記仮想インピーダンスおよび上記電流値に基づき、上記特殊モードにおける上記補正値を設定する、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項7】
上記制御部は、上記特殊モードにおける上記仮想インピーダンスの値を非負に設定するリミッタを有している、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項8】
上記制御部は、上記特殊モードにおいて、上記定電圧制御ユニットにおける上記定電圧制御を中断する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項9】
上記制御部は、上記特殊モードにおいて、上記定電圧制御ユニットの出力と上記負荷側電圧と上記電流閾値とから算出したインピーダンスに基づき、上記仮想インピーダンスを設定する、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項10】
上記制御部は、上記インピーダンスから上記インダクタのインピーダンスを減算した値を、上記仮想インピーダンスとして設定する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項11】
上記制御部は、上記インバータの出力電圧と上記負荷側電圧と上記電流値とに基づき、上記インダクタのインピーダンスを算出する、請求項9に記載の電力変換装置。
【請求項12】
上記制御部は、上記特殊モードにおける上記仮想インピーダンスとは異なる、上記インバータの定常的な第2仮想インピーダンスに基づき、上記電流値を制御する、請求項4に記載の電力変換装置。
【請求項13】
負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置を制御する制御方法であって、
上記電力変換装置は、
インバータと、
上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、
上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットと、を備えており、
上記制御方法は、
上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させる工程と、
上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる工程と、を含んでいる、制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一態様は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力系統を連系するための電力変換装置(系統連系電力変換装置)の一構成例が開示されている。特許文献1に開示されている電力変換装置は、例えばPCS(Power Conditioning System)であり、インバータを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2021/029313号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様の目的は、電力変換装置のインバータから負荷装置に流れる過電流を速やかに低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するために、本開示の一態様に係る電力変換装置は、負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置であって、インバータと、上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、上記インバータを制御する制御部と、を備えており、上記制御部は、上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットを含んでおり、上記制御部は、上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させ、上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる。
【0006】
また、本開示の一態様に係る制御方法は、負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置を制御する制御方法であって、上記電力変換装置は、インバータと、上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットと、を備えており、上記制御方法は、上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させる工程と、上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる工程と、を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、電力変換装置のインバータから負荷装置に流れる過電流を速やかに低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態1における電力変換装置の一構成例について説明するための図である。
図2】Iinvの制御について概略的に説明するための図である。
図3】Iinvの制御について概略的に説明するための図である。
図4】Iinvの制御について概略的に説明するための図である。
図5】Iinvの制御について概略的に説明するための図である。
図6】実施形態1における制御部の一構成例を示す。
図7】実施形態1におけるベクトル図の一例を示す。
図8】θxの範囲について説明するための図である。
図9】比較例における制御部の一構成例を示す。
図10】短絡事故シミュレーション結果の例を示す。
図11】仮想インピーダンス制御無の場合における、負荷投入シミュレーション結果の例を示す。
図12】仮想インピーダンス制御有の場合における、負荷投入シミュレーション結果の例を示す。
図13】実施形態2における制御部の一構成例を示す。
図14】実施形態3における制御部の一構成例を示す。
図15】実施形態4における電力変換装置の一構成例について説明するための図である。
図16】実施形態4における制御部の一構成例を示す。
図17】「Z0’:無」における負荷投入シミュレーションの結果の例を示す。
図18】「Z0’:有」における負荷投入シミュレーションの結果の例を示す。
図19】「Z0’:無」における短絡事故シミュレーションの結果の例を示す。
図20】「Z0’:有」における短絡事故シミュレーションの結果の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態1〕
実施形態1について以下に説明する。説明の便宜上、実施形態1にて説明したコンポーネント(構成要素)と同じ機能を有するコンポーネントについては、以降の各実施形態では同じ符号を付し、その説明を繰り返さない。簡潔化のため、公知の技術事項についても説明を適宜省略する。本明細書において述べる各コンポーネントおよび各数値はいずれも、特に矛盾のない限り単なる例示である。それゆえ、例えば、特に矛盾のない限り、各コンポーネントの位置関係および接続関係は各図の例に限定されない。また、各図は必ずしもスケール通りに図示されていない。
【0010】
(電力変換装置1の構成例)
図1は、実施形態1の電力変換装置1の一構成例について説明するための図である。図1では、電力変換装置1およびその周囲の構成が概略的に示されている。電力系統SYS内には、電力変換装置1および負荷装置LDが位置している。電力変換装置1は、負荷装置LDに供給される電力を制御する。電力変換装置1は、例えばPCSであってもよい。図1に示す通り、電力変換装置1は、インバータ10とフィルタ回路20と制御部30とを備えていてよい。
【0011】
図1の例では、インバータ10内のコンポーネントとして、電源11と仮想インピーダンスZ0とが示されている。インバータ10は、不図示の直流電源に接続されていてよい。インバータ10は、当該直流電源から供給された直流電圧を、交流電圧へと変換してよい。図1の例では、インバータ10による交流電圧の出力が、電源11によって等価的に表されている。実施形態1では、電源11の周波数は、商用周波数(50Hzまたは60Hz)であるものとする。
【0012】
本明細書では、あるインピーダンスのインピーダンス値についても、同じ符号を用いて表記する。したがって、例えば、仮想インピーダンスZ0のインピーダンス値を、Z0と表記する。また、本明細書における説明では、特に矛盾のない限り、Z0の絶対値(大きさ)|Z0|を、Z0と略記する。この略記は、特に矛盾のない限り、その他のパラメータについても当てはまる。
【0013】
フィルタ回路20は、インバータ10と負荷装置LDとに直列に接続されたインダクタLを有する。インダクタLは、インバータ10から負荷装置LDに流れる電流Iinvの値を調整するための素子である。インダクタLは、いわゆる限流リアクトルである。インダクタLを設けることにより、電力系統SYSにおける事故発生時に生じる、過大なIinvの値(過電流)の最大値を減少させることができる。図1に示す通り、本明細書では、インダクタLのインピーダンスをZ1と表記する。本明細書では、内容上矛盾のない限り、例えば、「電流の値(電流値)」とは、当該電流の絶対値を指すものとする。
【0014】
フィルタ回路20は、ローパスフィルタ(例:Iinvの高調波成分を除去するためのフィルタ)として、キャパシタCをさらに有していてよい。フィルタ回路20は、例えばL型のLCフィルタであってよい。本明細書では、説明の簡単化のため、Iinvの高調波成分については無視する。したがって、Iinvは、キャパシタCを流れないものとする。
【0015】
制御部30は、インバータ10を制御する。具体的には、制御部30は、インバータ10を制御することにより、Iinvを制御する。制御部30は、特殊モード(インバータ10から負荷装置LDに流れる過電流を低減するための動作モード)において、仮想インピーダンスZ0に基づいてインバータ10を制御してよい。Z0は、後述する電圧制御に基づいてIinvを低下させる処理を考慮しやすくするために導入されている、仮想的なインピーダンスである。特殊モードにおける動作例については後述する。
【0016】
後述の通り、制御部30は、通常モード(インバータ10の通常の動作モード)では、Z0=0Ωと設定できる。したがって、通常モードでは、仮想インピーダンスZ0は存在していないものと見なすことができる。制御部30は、Iinvが電流閾値Ilim以上となったことを契機として、インバータ10を特殊モードで動作させてよい。言い換えれば、制御部30は、IinvがIlim以上となったことを契機として、インバータ10の動作モードを、通常モードから特殊モードへと切り替えてよい。Ilimは、予め設定された一定値であってよい。一例として、Ilimは、Iinvの定格電流値の1.25倍の値として設定されてよい。
【0017】
図1における電圧Vgは、後述する定電圧制御ユニット31(図6を参照)の出力値を表す。定電圧制御ユニット31は、例えばAVR(Automatic Voltage Regulator)ユニットであってよい。それゆえ、Vgは、AVR制御出力と称されてもよい。Vgは、電源11の背後電圧と見なすこともできる。電圧Voutは、インバータ10の出力電圧を表す。より具体的には、Voutは、電力変換装置1の電圧出力指令値である。Voutは、PCS電圧出力指令値と称されてもよい。ΔV0は、Z0に対応する仮想的な電圧降下量である。
【0018】
図1から明らかである通り、
Vg=Vout+ΔV0 …(1)
の関係が成立する。したがって、Voutは、
Vout=Vg-ΔV0 …(2)
と表すことができる。後述の説明から明らかである通り、Z0=0Ωの場合には、ΔV0=0Vである。このことから、ΔV0は、特殊モードにおける、Vgに対する補正値と見なすことができる。
【0019】
Vsは、インダクタLと負荷装置LDとの接続点の電圧である。Vsは、負荷側電圧とも称される。定電圧制御ユニット31は、Vsを一定値に維持する制御(定電圧制御)を実行する。したがって、定電圧制御ユニット31は、Vsが一定値に維持されるように、Vgを設定する。例えば図6に示す通り、定電圧制御ユニット31は、フィードバック制御に基づきVgを設定してよい。図1の例では、VgとVsとの電位差を、ΔV=Vg-Vsと表記する。
【0020】
続いて、図2図5を参照して、制御部30によるIinvの制御について概略的に説明する。図2および図3では、説明の単純化のために、仮想インピーダンスZ0が無い場合が示されている。図2の例では、VoutとVsとの電位差を、ΔV1=Vout-Vsと表記する。また、負荷装置LDのインピーダンスをZ2と表記し、負荷装置LDの接地端子の電圧をVGNDと表記する。VGND=0Vである。
【0021】
図2に示す回路構成から明らかである通り、VoutとVGNDとに着目した場合、Invは、
Iinv=(Vout-VGND)/(Z1+Z2)
=Vout/(Z1+Z2) …(3)
と表すことができる。
【0022】
その一方、VoutとVsとに着目した場合、Invは、
Iinv=(Vout-Vs)/Z1
=ΔV1/Z1 …(4)
と表すことができる。
【0023】
図3の上側には、電力系統SYSに事故が発生していない状態(健全状態)の一例が示されている。図3の例では、健全状態におけるIinvを、Iinv1と表記する。符号300Aに示す通り、Vout=110V、Vs=100Vである。したがって、健全状態では、ΔV1=10Vである。式(4)から、
Iinv1=ΔV1/Z1 …(5)
である。
【0024】
図3の下側には、電力系統SYSに事故が発生した状態(事故状態)の一例が示されている。本明細書では、事故として負荷装置LDの短絡事故を例示する。このため、当該例では、Vs=VGND=0Vである。事故状態におけるVoutとVsとの電位差を、ΔV2=Vout-Vsと表記する。図3の例では、ΔV2=Vout=110Vである。図3の例では、事故状態におけるIinvを、Iinv2と表記する。式(4)から、
Iinv2=ΔV2/Z1 …(6)
である。
【0025】
したがって、式(5)および式(6)から、
Iinv2=(ΔV2/ΔV1)×Iinv1 …(7)
が得られる。図3の例におけるIinv2は、Iinvの11倍の値である。
【0026】
図4では、図2図3の例とは異なり、仮想インピーダンスZ0が考慮されている。図3において述べた通り、事故発生時にはZ2が低下する。このため、Z2の低下に伴ってIinvが増加する。あまりに大きい過電流が負荷装置LDに流れた場合、インバータ10および負荷装置LDの重故障が生じうる。このため、IinvがIlimをなるべく越えないように、Iinvを低下させることが好ましい。式(3)から明らかである通り、Voutを低下させることにより、Iinvを低下させることができる。
【0027】
図4に示されている回路構成によれば、VgとVGNDとに着目することにより、Invを、
Iinv=(Vg-VGND)/(Z0+Z1+Z2)
=Vg/(Z0+Z1+Z2) …(8)
と表すことができる。式(8)におけるZ0を決定することにより、式(3)において設定すべきVoutの値を導出できる。なお、図4から明らかである通り、ΔV=ΔV0+ΔV1である。
【0028】
図5は、事故発生の前後での各信号値の変化を模式的に示す図である。図5の例では、説明の簡単化のために、Vgは事故発生の前後を通じて一定値であるものとする。上述の図4から明らかである通り、Z0=0Ωの場合には、Vg=Voutである。図5の例では、仮想インピーダンスに基づく制御を行わない場合(常にZ0=0Ωの場合)には、事故発生後のIinvはIlimよりも大きくなる。
【0029】
その一方、仮想インピーダンスに基づく制御を行う場合には、例えばZ2の低下を契機としてZ0を増加させるように、Z0を設定できる。すなわち、Z2の低下を相殺するようにZ0を増加させることができる。上述の式(6)から理解できる通り、Z0を増加させることにより、事故発生後のIinvを低下させることができる。
【0030】
図5の例では、仮想インピーダンスに基づく制御を行う場合には、事故発生後のIinvはIlimと等しくなる。言い換えれば、図5の例では、事故発生後のIinvがIlimと等しくなるように、Z0が設定されている。図5の例では、事故発生後において、Vs=0V、Z2=0Ωであるものとする。この場合、Vg=ΔVであるので、式(8)に基づいて、
Z0=(ΔV/Ilim)-Z1 …(9)
を得ることができる。
【0031】
(制御部30の構成例)
図6は、制御部30の一構成例を示す。図6では、制御部30における演算のための制御系が例示されている。制御部30は、定電圧制御ユニット31、実効値比較部32、Z算出部33、演算器34・37、リミッタ35、およびΔV0算出部36を有してよい。定電圧制御ユニット31は、演算器311・313およびPI(Proportional-Integral)制御器312を有していてよい。図6における下記の説明では、内容上矛盾のない限り、特殊モードにおける動作例について述べる。
【0032】
制御部30には、電圧指令値VrefとVsとが供給されてよい。Vrefは、予め設定された一定値であってよい。Vrefの値は、Vsの定格電圧値に応じて設定されてよい。Vsの値は、電力系統SYS内に配置された不図示の電圧センサを用いて取得されてよい。
【0033】
定電圧制御ユニット31は、VsをVrefに一致させるようにPI制御を行う。演算器311は、VrefからVsを減算した値を、PI制御器312に供給する。定電圧制御が行われる場合、PI制御器312は、演算器311から取得した入力値に対してPI制御を行うことにより導出した出力値を、演算器313に供給する。以下、PI制御器312の出力値を、電圧フィードバック制御出力値とも称する。演算器313は、電圧フィードバック制御出力値に対してVrefを加算した値を、Vgとして出力する。
【0034】
制御部30には、IinvとIlimとが供給されてよい。Iinvの値は、電力系統SYS内に配置された不図示の電流センサを用いて取得されてよい。実効値比較部32は、IinvとIlimとを取得し、それぞれの実効値を導出する。一例として、実効値比較部32は、実効値としてRMS(Root Mean Square)値を導出してよい。
【0035】
実効値比較部32は、Iinvの実効値とIlimの実効値とを比較する。Iinvの実効値がIlimの実効値以上であることは、IinvがIlim以上であることを意味する。したがって、Iinvの実効値がIlimの実効値以上である場合には、電力系統SYSに何らかの事故が発生していることが示唆される。
【0036】
電力系統SYSに何らかの事故が発生している状態では、定電圧制御ユニット31における定電圧制御が、Ilinvを低下させるための制御の安定性をかえって低下させてしまう場合がある。そこで、実効値比較部32は、Iinvの実効値がIlimの実効値以上である場合には、電圧フィードバック制御出力値を一定値(例:0)に固定するロック信号を、PI制御器312に供給してよい。これにより、定電圧制御ユニット31における定電圧制御を中断できる。このように、実効値比較部32は、特殊モードにおいて、定電圧制御ユニット31における定電圧制御を中断してよい。その結果、特殊モードにおいて、Ilinvを低下させるための制御の安定性を高めることができる。
【0037】
ところで、上述の式(9)との対応性から理解できる通り、Z0とZ1との合成インピーダンスZは、
Z=ΔV/Ilim…(10)
の通り表すことができる。そして、上述の通り、ΔV=Vg-Vsであることから、式(10)は、
Z=(Vg-Vs)/Ilim…(11)
と書き換えることができる。そこで、Z算出部33は、式(11)に従って、Zを算出してよい。このように、Z算出部33は、VgとVsとIlimとに基づき、Zを算出してよい。
【0038】
制御部30には、インピーダンスZ1の設定値が供給されてよい。実施形態1における以下の説明では、内容上矛盾のない限り、Z1は、Z1の設定値を指すものとする。演算器34は、Zに基づいてZ0を設定してよい。具体的には、演算器34は、ZおよびZ1に基づいてZ0を算出してよい。
【0039】
式(9)および式(10)によれば、Z0は、
Z0=Z-Z1 …(12)
と表される。そこで、図6の例における演算器34は、Z算出部33によって算出されたZ0から、Z1を減算した値を、Z0の値として出力するように構成されている。演算器34における当該演算は、式(12)に従ったZ0の算出を意味する。式(12)によれば、比較的単純な演算によってZ0を算出できる。このように、演算器34は、ZからZ1を減算した値を、Z0として設定してよい。
【0040】
リミッタ35は、Z0の最終的な値を設定するために用いられる。リミッタ35には、演算器34によって算出されたZ0の値が供給される。図6の例におけるリミッタ35は、入力値に対応する出力値の下限値が所定値と等しくなるように、当該下限値を設定する。言い換えれば、リミッタ35は、入力値の下限値をクリッピングして所定値に置き換える。
【0041】
具体的には、リミッタ35は、演算器34によって算出されたZ0が非負の値である場合には、当該Z0をそのまま出力する。この場合、リミッタ35から出力されたZ0の値が、Z0の最終的な値として設定される。
【0042】
上述の説明から明らかである通り、事故発生時におけるΔVは、通常時におけるΔVよりも大きくなる。このため、例えば、上述の式(9)によって表されるZ0は、特殊モードにおいて、通常モードにおける値よりも大きくなる。このため、特殊モードでは、多くの場合、Z0は正の値を取る。
【0043】
ただし、電力系統SYSの回路構成および各種パラメータの設定条件次第では、特殊モードにおいても、式(9)によって表されるZ0は、負の値を取りうる。しかしながら、負のZ0は、Iinvをかえって増加させてしまうので、Iinvの低減という観点からは好ましくない。特に、特殊モード(Iinvを低減させるための動作モード)では、Z0が負の値を取ることは好ましくない。
【0044】
この点を踏まえ、リミッタ35では、所定値が0に設定されている。言い換えれば、リミッタ35は、非正の入力値に対して、クリッピング値としての0を出力する。このように、リミッタ35によれば、特殊モードにおけるZ0の値を非負に設定できる。すなわち、リミッタ35によれば、特殊モードにおけるZ0の最小値を0に設定できる。
【0045】
上述の説明から明らかである通り、ΔVはIinvに関連している。したがって、特殊モードにおけるZ0は、IinvおよびIlimに基づいて設定されてよい。
【0046】
なお、通常時におけるΔVは、事故発生時におけるΔVよりも小さい。したがって、通常モードでは、多くの場合、Z0は負の値を取る。リミッタ35によれば、通常モードにおいても、Z0の最小値を0に設定している。通常モードにおいてZ0を無視して差し支えないという上述の説明は、このことに基づく。
【0047】
以上の通り、制御部30では、リミッタ35を設けることにより、仮想インピーダンスに基づく制御(仮想インピーダンス制御)の有無を切り替えることができる。リミッタ35によれば、例えば、Z>Z1となった場合にのみ仮想インピーダンス制御を有効化できる。あるいは、リミッタ35によれば、IinvがIlim以上となった場合にのみ、仮想インピーダンス制御を有効化することもできる。このように、リミッタ35によれば、仮想インピーダンス制御の有無を切り替えるために、切替スイッチなどの付加的なコンポーネントを設けることが不要となる。
【0048】
ΔV0算出部36は、上述のΔV0を算出する。ΔV0は、Vgに対する補正値と見なすことができる。一例として、ΔV0算出部36は、
ΔV0=Z0×Ilim …(13)
に従ってΔV0を算出してよい。このように、ΔV0算出部36は、Z0およびIlimに基づいてΔV0を算出してよい。上述の説明から明らかである通り、Z0は、Iinvに関連する値である。したがって、特殊モードにおけるΔV0は、IinvおよびIlimに基づいて設定されてよい。
【0049】
演算器37は、VgおよびΔV0に基づいて、Voutを算出してよい。Voutは、上述の式(2)の通り表すことができる。そこで、図6の例における演算器37は、定電圧制御ユニット31によって算出されたVgから、ΔV0算出部36によって算出されたV0を減算した値を、Voutの値として出力するように構成されている。演算器37における当該演算は、式(2)に従ったVoutの算出を意味する。
【0050】
以上の通り、制御部30は、特殊モードにおいて、ΔV0に基づいてVgを補正することにより、Voutを設定してよい。特殊モードにおいて、このようにVoutを設定することにより、Ilinvを低減できる。なお、ΔV0はIinvおよびIlimに関連するパラメータであることから、「ΔV0に基づくVgの補正」は、「IinvおよびIlimに基づくVgの補正」と読み替えることができる。
【0051】
(特殊モードにおける各パラメータの数理的表現の例)
続いて、特殊モードにおける各パラメータの数理的表現の例について述べる。まず、dq軸理論に基づいて上述の式(10)を書き換えることにより、
【数1】
…(14)
を得る。式(14)における添字dはd軸(direct axis)成分を表し、添字qはq軸(quadrature)成分を表す。
【0052】
図7は、実施形態1におけるベクトル図の一例を示す。上述の式(11)および(12)から理解できる通り、VgとVsとIinvとの間の関係は、一般的には、
Vs=Vg-(Z0+Z1)Iinv …(15)
と表すことができる。上述の式(11)および(12)におけるIlimは、Iinvの一例であると理解されてよい。
【0053】
図7では、式(15)の関係に対応するベクトル図が併せて示されている。図7に示す通り、実施形態1では、d軸方向は、Vgの方向と一致するように設定されている。q軸方向は、d軸方向に対して90°遅れ位相の方向として設定されている。
【0054】
図7の例では、Vgに対するIinvの位相差をθとして表す。すなわち、
θ=∠Iinv-∠Vg …(16)
として、θを与える。このθを用いると、式(14)は、
【数2】
…(17)
の通り書き換えることができる。
【0055】
式(17)における左辺および右辺の実部および虚部をそれぞれ比較することより、
【数3】
…(18)
【数4】
…(19)
を得る。
【0056】
上述の式(12)の左辺および右辺をそれぞれ、d軸成分およびq軸成分に分解することにより、
Z0d=Zd-Z1d …(20)
Z0q=Zq-Z1q …(21)
を得る。
【0057】
式(20)から理解できる通り、上述のリミッタ35を設けることにより、Z0d≧0となることを保証できる。すなわち、Z0dが負の抵抗値を有しないことを保証できる。また、式(21)から理解できる通り、リミッタ35を設けることにより、Z0q≧0となることを保証できる。すなわち、Z0qがコンデンサとして機能しないことを保証できる。言い換えれば、Z0が進み力率を有しないことを保証できる。
【0058】
また、上述の式(10)の左辺および右辺をそれぞれ、d軸成分およびq軸成分に分解することにより、
【数5】
…(22)
を得る。
【0059】
式(22)の左辺および右辺の実部および虚部をそれぞれ比較することより、
【数6】
…(23)
【数7】
…(24)
を得る。
【0060】
ここで、図7の例において、Vgに対するΔVの位相差をθaとして表す。すなわち、
θa=∠ΔV-∠Vg …(25)
として、θaを与える。図8におけるベクトルΔVは、第1ベクトルと称されてもよい。第1ベクトルは、ベクトルVg(定電圧制御ユニット31の出力を示すベクトル)とベクトルVs(負荷側電圧を示すベクトル)との差を表すベクトルと表現できる。
【0061】
図7におけるベクトルIinvは、第2ベクトル(インバータ10から負荷装置LDに流れる電流を示すベクトル)と称されてもよい。ここで、Iinvに対するΔVの位相差(第2ベクトルに対する第1ベクトルの位相差)をθxとして表す。すなわち、
θx=∠ΔV-∠Iinv …(26)
として、θxを与える。
【0062】
この場合、θxは、
θx=(∠ΔV-∠Vg)-(∠Iinv-∠Vg)
=θa-θ …(27)
と書き換えることができる。
【0063】
図8に示す通り、制御部30は、
0°≦θx≦90° …(28)
の関係を成立させるように、特殊モードにおける制御を実行してよい。図8では、一例として、Iinv=Ilimの場合が例示されている。この場合、θx=90°である。すなわち、Iinv=Ilimの場合、IinvはΔVに対して90°遅れている。
【0064】
ところで、上述の式(15)は、
ΔV=(Z0+Z1)×Iinv
=Z×Iinv …(29)
と書き換えることができる。このことから明らかである通り、θxは合成インピーダンスZ=Z0+Z1の力率角を表す。例えば、制御部30は、θxに従ってΔV0を制御することにより(言い換えれば、θxに従ってΔVを制御することにより)、Iinvを制御してよい。
【0065】
本明細書におけるθxの定義によれば、θx=0°の場合、Zは力率1を有する。この場合のZは、R(抵抗)成分のみに相当する。その一方、0<θx<90°の場合、Zは0より大きくかつ1未満の遅れ力率を有する。この場合のZは、R成分とL(リアクトル)成分との合成インピーダンスに相当する。また、θx=90°の場合、Zは遅れ力率0を有する。この場合のZは、L成分のみに相当する。
【0066】
以上の通り、0°≦θx≦90°であることにより、等価回路として単純化した場合に、ZがR成分およびL成分の少なくとも一方を有していることが保証される。言い換えれば、0°≦θx≦90°であることにより、等価回路として単純化した場合に、ZがC(キャパシタ)成分を有していないことが保証される。ZがC要素を有している場合、C成分の存在に起因してIinvの増加が生じうる。それゆえ、0°≦θx≦90°であることは、Iinvの低減に有益である。
【0067】
なお、式(27)に基づいて式(28)を書き換えることにより、
θa-90°≦θ≦θa…(30)
を得る。したがって、制御部30は、式(30)が満たされているかを判定してよい。式(30)が満たされている場合、式(28)は満たされている。式(30)によれば、θxを直接的に導出することなく、式(28)が満たされているか否かを判定できる。
【0068】
(比較例)
電力変換装置1の効果の説明に先立ち、比較例について述べる。図9は、比較例における制御部30Rの一構成例を示す。図9は、図6と対になる図である。図9の例では、比較例における電力変換装置を、電力変換装置1Rと称する。図9では、従来の電力変換装置における制御系が例示されている。
【0069】
制御部30Rは、Z算出部31R、ΔV算出部32R、演算器33R、および定電圧制御ユニット34Rを有する。定電圧制御ユニット34Rは、演算器341RおよびPID(Proportional-Integral-Derivative)制御器342Rを有する。制御部30Rでは、制御部30とは異なり、定電圧制御ユニットが制御系の後段部に位置している。
【0070】
Z算出部31Rは、合成インピーダンスZ=Z0+Z1を算出する。Z算出部31Rは、Vref、Vs、Ilinv、およびIlimに基づいて、Zを算出する。このように、Z算出部31Rは、Z算出部33とは異なる手法によってZを算出する。ΔV算出部32Rは、Z算出部31Rによって算出されたZの値を取得する。ΔV算出部32Rは、例えば、上述の式(10)に従って、ZおよびIlimに基づいてΔVを算出する。
【0071】
演算器33Rは、VrefからΔVを減算した値であるVref’を、定電圧制御ユニット34Rに供給する。演算器341Rは、Vref’からVsを減算した値を、PID制御器342Rに供給する。PID制御器342Rは、演算器341Rから取得した入力値に対してPID制御を行うことにより導出した出力値を、Voutとして出力する。このように、制御部30Rでは、制御部30とは異なり、定電圧制御ユニットによってVoutが出力される。
【0072】
(効果)
過電流を速やかに低減するためには、Voutを速やかに低減することが必要である。ただし、比較例では、最終的な出力であるVout(PCS電圧出力指令値)を決定するためには、定電圧制御ユニット内のフィードバック制御を経る必要がある。したがって、比較例では、過電流に対する応答速度は、定電圧制御ユニットにおけるフィードバック制御の速度によって制限される。
【0073】
これに対し、電力変換装置1の制御部30では、定電圧制御ユニット内のフィードバック制御に依らずに、最終的な出力であるVoutを決定できる。具体的には、制御部30では、特殊モードにおいて、中間的な出力(AVR出力)であるVgを補正することにより、Voutを決定できる。それゆえ、制御部30では、比較例とは異なり、過電流に対する応答速度は、定電圧制御ユニットのフィードバック制御の速度によって制限されない。このため、制御部30によれば、比較例よりも速やかにVoutを決定できる。以上の通り、電力変換装置1によれば、過電流を従来よりも速やかに低減できる。
【0074】
図10は、電力変換装置1の効果について説明するためのシミュレーション結果の一例を示す。図10の例では、負荷装置LDの短絡事故が模擬されている。図10における符号1000Aは、Vsのグラフである。当該グラフの横軸は時刻を示し、縦軸はVsの値を示す。図10における1000Bは、Iinvのグラフである。当該グラフの横軸は時刻を示し、縦軸はIinvの値を示す。図10の例では、図示の平明化のために一相分の波形のみを示している。このことは、以降の各グラフについても当てはまる。
【0075】
符号1000Aに示す通り、短絡事故の発生を契機として、Vsの大きさはほぼ0Vに低下する。また、符号1000Bに示す通り、短絡事故の発生を契機として、IinvがIlimを越える。ただし、制御部30による仮想インピーダンス制御により、Iinvは速やかに低減する。その結果、短絡事故の発生後の期間では、短絡事故の発生直後のタイミングを除いては、IinvはIinv以内に収まっている。
【0076】
図11図12は、電力変換装置1の効果について説明するためのシミュレーション結果の別の例を示す。本例では、C負荷投入時の応答特性が模擬されている。本例では、負荷装置LDが、電力系統SYSにおける定格容量を有するキャパシタであるものとする。C負荷投入は、過電流の発生を招きうるイベントの一例である。
【0077】
図11では、以下に述べる図12との対比のため、仮想インピーダンス制御無の場合のシミュレーション結果が示されている。図11における符号1100AはVsのグラフであり、符号1100BはIinvのグラフである。符号1100Bのグラフでは、Iinvはpu(per unit)単位にて示されている。符号1100Bに示す通り、C負荷投入時を契機としてIinvが一時的に増加し、Ilimを越える。このように、仮想インピーダンス制御無の場合には、C負荷投入時に伴って、かなり大きい過電流が生じうる。
【0078】
図12では、仮想インピーダンス制御有の場合のシミュレーション結果が示されている。図12における符号1200AはVsのグラフであり、符号1200BはIinvのグラフである。符号1200Bに示す通り、C負荷投入時を契機としてIinvが一時的に増加するものの、IinvはIlimを越えない。このように、仮想インピーダンス制御によれば、C負荷投入時に生じる過電流を低減することもできる。
【0079】
〔実施形態2〕
図13は、実施形態2における制御部30Aの一構成例を示す。実施形態2の電力変換装置を、電力変換装置1Aと称する。実施形態2では、定電圧制御を中断するための別の手法について説明する。
【0080】
制御部30Aは、定電圧制御ユニット31に替えて、定電圧制御ユニット31Aを有している。また、制御部30Aは、制御部30とは異なり、実効値比較部32を有していない。定電圧制御ユニット31Aは、リミッタ314Aをさらに有している。
【0081】
図13の例におけるリミッタ314Aは、入力値に対応する出力値の上限値が所定値と等しくなるように、当該上限値を設定する。言い換えれば、リミッタ314Aは、入力値の上限値をクリッピングする。
【0082】
リミッタ314Aは、PI制御器312の後段かつ演算器313の前段に位置している。したがって、リミッタ314Aは、電圧フィードバック制御出力値を所定値へとクリッピングし、クリッピング後の電圧フィードバック制御出力値を演算器313に供給する。図13の例において、演算器313は、クリッピング後の電圧フィードバック制御出力値に対してVrefを加算した値を、Vgとして出力する。
【0083】
事故発生状態においては、健全状態に比べて、電圧フィードバック制御出力値が大きくなると考えられる。このため、リミッタ314Aにおける上記所定値を適切に選択することにより、特殊モードにおける定電圧制御を、リミッタ314Aによって中断させることができる。
【0084】
以上の通り、定電圧制御を中断させるための手法は、実施形態1の例に限定されない。実施形態2にて述べた通り、実効値比較部32に替えてリミッタ314Aを用いることによっても定電圧制御を中断できる。定電圧制御を中断させるための手法は、当業者が選択しうる任意の手法であってよい。したがって、本開示の一態様に係る制御部は、特殊モードにおいて定電圧制御を中断できるように構成されていればよい。
【0085】
〔実施形態3〕
図14は、実施形態3における制御部30Bの一構成例を示す。実施形態3の電力変換装置を、電力変換装置1Bと称する。制御部30Bは、制御部30Aの一変形例である。制御部30Bは、制御部30Aとは異なり、Z1算出部38をさらに有している。このように、本開示の一態様に係る制御部は、Z1を算出する機能を有していてもよい。したがって、制御部にはZ1の設定値が必ずしも供給されなくともよい。制御部においてZ1を直接的に算出することにより、実態により即したZ1の値を得ることができる。その結果、Iinvをより一層適切に制御することが可能となる。
【0086】
上述の図4から明らかである通り、Z1は、
Z1=(Vout-Vs)/Iinv …(31)
と表すことができる。そこで、Z1算出部38は、式(31)に従ってZ1を算出してよい。このように、Z1算出部38は、VoutとVsとIinvとに基づきZ1を算出してよい。
【0087】
〔実施形態4〕
図15は、実施形態4の電力変換装置1Cの一構成例について説明するための図である。図15は、図1と対になる図である。電力変換装置1Cのインバータおよび制御部をそれぞれ、インバータ10Cおよび制御部30Cと称する。電力変換装置1Cでは、実施形態1にて述べた仮想インピーダンスZ0に加え、別の仮想インピーダンスZ0’がさらに導入されている。Z0とZ0’とを区別するため、Z0およびZ0’はそれぞれ、第1仮想インピーダンスおよび第2仮想インピーダンスと称されもよい。
【0088】
上述の通り、第1仮想インピーダンスZ0は、特殊モードにおいて有効化され、かつ、通常モードにおいて無効化される、非定常的な仮想インピーダンスである。これに対し、第2仮想インピーダンスZ0’は、通常モードおよび特殊モードのいずれにおいても有効な、インバータ10Cの定常的な仮想インピーダンスである。
【0089】
制御部30Cは、Z0’に基づいてIinvを制御してよい。制御部30Cは、通常モードでは、Z0’に基づいてIinvを制御してよい。そして、制御部30Cは、特殊モードでは、Z0およびZ0’に基づいてIinvを制御してよい。したがって、制御部30Cは、特殊モードでは、Z0とZ0’との合成インピーダンスZ0+Z0’に基づいて、Iinvを制御してよい。
【0090】
このように、Z0’は、Iinvの制御に常時作用する。例えば、Z0’は、同期発電機の定常的な内部インピーダンス(例:同期リアクタンス)を、インバータにおいて模擬するために使用されてよい。Z0’は、例えばVSG(Virtual Synchronous Generator,仮想同期発電機)制御のために導入されてよい。
【0091】
図16は、制御部30Cの一構成例を示す。制御部30Cは、制御部30Aの別の変形例である。図16の例では、図13とは異なり、Z0’の設定値が制御部30Cに供給されている。制御部30Cは、演算器331C・332Cをさらに有している。
【0092】
演算器331Cは、Z1の設定値とZ0’の設定値とを取得する。そして、演算器331Cは、Z1とZ0’との和Z1+Z0’を、演算器34に供給する。図16の例における演算器34は、Z算出部33からZを取得するとともに、演算器34から和Z1+Z0’を取得する。そして、演算器34は、Zから当該和を減算した値を、Z0として出力する。すなわち、実施形態4では、制御部30Cは、
Z0=Z-(Z1+Z0’) …(32)
に従ってZ0を算出する。
【0093】
演算器332Cは、リミッタ35からZ0の値(最終的なZ0の値)を取得する。また、演算器332Cは、Z0’の設定値を取得する。演算器332Cは、Z0とZ0’との和Z0+Z0’を、ΔV0算出部36に供給する。
【0094】
図15からも明らかである通り、当該和は、第1仮想インピーダンスと第2仮想インピーダンスとの合成インピーダンスである。実施形態4の例では、特殊モードにおけるΔV0は、当該合成インピーダンスにおいて生じる電圧降下量を表す。したがって、図16の例では、ΔV0算出部36は、
ΔV0=(Z0+Z0’)×Ilim …(33)
に従ってΔV0を算出してよい。
【0095】
以上の説明から明らかである通り、Z0’を導入することにより、インダクタLのインピーダンスZ1を変化させることなく、Z1をZ0’だけ増加させた場合と等価な状態を得ることができる。実際の電力系統では、同期発電機の同期リアクタンスは、電力変換装置におけるZ1よりも大きいことが一般的である。Z0’によれば、電力変換装置に実体的な回路素子を追加することなく、大きい同期リアクタンスを簡易的に模擬できる。
【0096】
(シミュレーション結果)
本願の発明者らは、実施形態4の効果についてより詳細に検討するため、「Z0’:無」の場合(実施形態1~3に対応)と、「Z0’:有」の場合(実施形態4に対応)のそれぞれについて、シミュレーションを行った。
【0097】
図17および図18はそれぞれ、「Z0’無」および「Z0’:有」のそれぞれの場合における負荷投入シミュレーションの結果の例を示す。図17における符号1700Aおよび図18における符号1800Aはそれぞれ、Vのグラフである。図17における符号1700Bおよび図18における符号1800Bはそれぞれ、Iinvのグラフである。図17における符号1700Cおよび図18における符号1800Cはそれぞれ、IinvのRMS値のグラフである。本明細書では、IinvのRMS値を、Iinv(rms)と表記する。
【0098】
図17および図18の例では、全ての期間に亘ってIinvがIlimよりも小さいので、Z0は有効化されない。そこで、Iinv(rms)に着目する。符号1700Cおよび符号1800Cに示す通り、負荷投入に伴い、Iinv(rms)の立ち上がりが生じる。そして、符号1800Cに示す通り、Z0’を導入することにより、Iinv(rms)の立ち上がりのピーク値をさらに低減することができる。このように、Z0’によれば、Z0が有効化されていない場合であっても、過渡応答時におけるIinvの変化量を低減できる。したがって、Z0’は、健全状態における電力系統の安定性向上に寄与する。
【0099】
図19および図20はそれぞれ、「Z0’無」および「Z0’:有」のそれぞれの場合における短絡事故シミュレーションの結果の例を示す。図19における符号1900Aおよび図20における符号2000Aはそれぞれ、Vのグラフである。図19における符号1900Bおよび図20における符号2000Bはそれぞれ、Iinvのグラフである。実施形態4の短絡事故シミュレーションでは、IlimはIinvの定格電流値に等しい値として設定されている。
【0100】
図19図20の例では、図17図18の例とは異なり、短絡事故発生に伴いIinvがIlimを越える。したがって、図19図20の例では、図17図18の例とは異なり、Z0が有効化される。符号1900Bに示す通り、Z0によれば、短絡事故発生直後のIinvのピーク値をある程度小さい値にすることができる。さらに、符号2000Bに示す通り、Z0’によれば、短絡事故発生直後のIinvのピーク値をより一層小さい値にすることができる。したがって、Z0’は、事故発生状態における電力系統の安定性向上にも寄与する。
【0101】
〔変形例〕
(1)上述の各実施形態では、説明の単純化のために、各設定値が一定である場合を例示した。ただし、これらの各設定値は可変であってよい。例えば、ドループ制御を用いて各設定値が変更されてよい。
【0102】
(2)定電圧制御ユニットにおける制御手法も、各実施形態の例に限定されない。例えば、定電圧制御ユニットによる電圧制御も、dq軸理論に基づいて実行されてよい。当然ながら、定電圧制御ユニットの構成も、各実施形態の例に限定されない。例えば、定電圧制御ユニットは、PI制御器またはPID制御器に替えて、P制御器を有していてもよい。また、dq軸理論に基づいてZ0を制御する場合、Z0dおよびZ0qのそれぞれに対して個別のリミッタが設けられてもよい。
【0103】
〔ソフトウェアによる実現例〕
電力変換装置1~1C(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に制御部30~30Cに含まれる各部)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0104】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0105】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0106】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本開示の一態様の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0107】
また、上記各実施形態で説明した各処理は、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0108】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る電力変換装置は、負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置であって、インバータと、上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、上記インバータを制御する制御部と、を備えており、上記制御部は、上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットを含んでおり、上記制御部は、上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させ、上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる。
【0109】
本開示の態様2に係る電力変換装置では、上記態様1において、上記制御部は、上記定電圧制御ユニットの出力に対する、上記特殊モードにおける補正値を、上記電流値および上記電流閾値に基づき算出してよい。
【0110】
本開示の態様3に係る電力変換装置では、上記態様2において、上記制御部は、上記定電圧制御ユニットの出力から上記補正値を減算した値を、上記特殊モードにおける上記インバータの出力電圧として設定してよい。
【0111】
本開示の態様4に係る電力変換装置では、上記態様2または3において、上記制御部は、上記特殊モードにおける上記インバータの仮想インピーダンスを、上記電流値および上記電流閾値に基づき設定してよい。
【0112】
本開示の態様5に係る電力変換装置は、上記態様4において、上記定電圧制御ユニットの出力を示すベクトルと上記負荷側電圧を示すベクトルとの差を表すベクトルを第1ベクトルと称し、上記インバータから上記負荷装置に流れる電流を示すベクトルを第2ベクトルと称し、上記第2ベクトルに対する上記第1ベクトルの位相差をθxとして表し、上記特殊モードにおいて、0°≦θx≦90°であってよい。
【0113】
本開示の態様6に係る電力変換装置では、上記態様4または5において、上記制御部は、上記仮想インピーダンスおよび上記電流値に基づき、上記特殊モードにおける上記補正値を設定してよい。
【0114】
本開示の態様7に係る電力変換装置では、上記態様4から6のいずれか1つにおいて、上記制御部は、上記特殊モードにおける上記仮想インピーダンスの値を非負に設定するリミッタを有していてよい。
【0115】
本開示の態様8に係る電力変換装置では、上記態様4から7のいずれか1つにおいて、上記制御部は、上記特殊モードにおいて、上記定電圧制御ユニットにおける上記定電圧制御を中断してよい。
【0116】
本開示の態様9に係る電力変換装置では、上記態様4から8のいずれか1つにおいて、上記制御部は、上記特殊モードにおいて、上記定電圧制御ユニットの出力と上記負荷側電圧と上記電流閾値とから算出したインピーダンスに基づき、上記仮想インピーダンスを設定してよい。
【0117】
本開示の態様10に係る電力変換装置では、上記態様9において、上記制御部は、上記インピーダンスから上記インダクタのインピーダンスを減算した値を、上記仮想インピーダンスとして設定してよい。
【0118】
本開示の態様11に係る電力変換装置では、上記態様9または10において、上記制御部は、上記インバータの出力電圧と上記負荷側電圧と上記電流値とに基づき、上記インダクタのインピーダンスを算出してよい。
【0119】
本開示の態様12に係る電力変換装置では、上記態様4から11のいずれか1つにおいて、上記制御部は、上記特殊モードにおける上記仮想インピーダンスとは異なる、上記インバータの定常的な第2仮想インピーダンスに基づき、上記電流値を制御してよい。
【0120】
本開示の態様13に係る制御方法は、負荷装置に供給される電力を制御する電力変換装置を制御する制御方法であって、上記電力変換装置は、インバータと、上記インバータと上記負荷装置とに直列に接続されたインダクタを有するフィルタ回路と、上記インダクタと上記負荷装置との接続点の電圧である負荷側電圧を一定値に維持する定電圧制御を実行する定電圧制御ユニットと、を備えており、上記制御方法は、上記インバータから上記負荷装置に流れる電流値が電流閾値以上となったことを契機として、上記インバータを特殊モードで動作させる工程と、上記特殊モードにおいて、上記電流値および上記電流閾値に基づき上記定電圧制御ユニットの出力を補正することにより上記インバータの出力電圧を設定し、上記電流値を低減させる工程と、を含んでいる。
【0121】
〔付記事項〕
本開示の一態様は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本開示の一態様の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1、1A、1B、1C、1R 電力変換装置
10、10C インバータ
20 フィルタ回路
30、30A、30B、30C 制御部
31、31A 定電圧制御ユニット
33 Z算出部
35 リミッタ
36 ΔV0算出部
38 Z1算出部
L インダクタ
LD 負荷装置
Vg 電圧(定電圧制御ユニットの出力)
Vout 電圧(インバータの出力電圧)
Vs 電圧(負荷側電圧)
Z0 仮想インピーダンス(第1仮想インピーダンス,非定常的な仮想インピーダンス)
Z0’ 第2仮想インピーダンス(定常的な仮想インピーダンス)
Z1 インピーダンス(インダクタのインピーダンス)
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