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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099400
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】鉄鉱石ペレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 1/14 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
C22B1/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003320
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】藤坂 岳之
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA10
4K001BA02
4K001CA18
4K001CA20
4K001CA22
(57)【要約】
【課題】結晶水を含む鉄鉱石を用いてもバースティングを抑制することが可能な鉄鉱石ペレットの製造方法を提供する
【解決手段】
(a)生ペレットを作成し、焼成する工程と、(b)焼成中ペレットの内圧が、予め定められた内圧許容値以下となるように調整する工程と、を含み、前記(b)工程は、(c)生ペレット空隙率を上昇させる工程、(d)単位時間当たり水蒸気放出重量比を低下させる工程、(e)生ペレット見掛密度を低下させる工程、(f)生ペレット半径を小さくする工程、又は(g)原料粒子の球相当径を大きくする工程、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、鉄鉱石ペレットの製造方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)生ペレットを作成し、焼成する工程と、
(b)焼成中ペレットの内圧が、予め定められた内圧許容値以下となるように調整する工程と、
を含み、
前記(b)工程は、(c)生ペレット空隙率を上昇させる工程、(d)単位時間当たり水蒸気放出重量比を低下させる工程、(e)生ペレット見掛密度を低下させる工程、(f)生ペレット半径を小さくする工程、又は(g)原料粒子の球相当径を大きくする工程、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、鉄鉱石ペレットの製造方法。
【請求項2】
前記内圧が下記式(1)で表されるΔPであることを特徴とする、請求項1に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【数1】
但し、ε[-]は生ペレット空隙率、A[-]は前記生ペレットの形状に基づき算出される定数、μ[Pa・s]は水蒸気の粘性係数、w[/s]は単位時間当たり水蒸気放出重量比、ρ[kg/m]は生ペレット見掛密度、R[J/mol/K]は気体定数、T[K]は焼成中ペレット温度、r[m]は生ペレット半径、d[m]は原料粒子の球相当径である。
【請求項3】
前記生ペレットは、円柱形状であり、
前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/2であることを特徴とする、請求項2に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【請求項4】
前記生ペレットは、球形状であり、
前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/3であることを特徴とする、請求項2に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【請求項5】
前記内圧許容値を前記生ペレットの圧潰強度から推定することを特徴とする、請求項1に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【請求項6】
前記生ペレットは、円柱形状であり、
前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(2)を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
ΔPmax=2F/(πDW) ・・・(2)
但し、πは円周率、D[m]は生ペレット直径、W[m]は生ペレット厚さ、F[N]は圧潰荷重である。
【請求項7】
前記生ペレットは、球形状であり、
前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(3)を満たすことを特徴とする、請求項5に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
ΔPmax=0.9F/D ・・・(3)
但し、D[m]は生ペレット直径、F[N]は圧潰荷重である。
【請求項8】
前記(a)工程において、
(h)結晶水含有率が3%以上の原料鉱石を含む1種又は2種以上の原料鉱石を配合してペレット原料を得る工程と、
(i)前記ペレット原料を粉砕し、原料粒子を得る工程と、
(j)前記原料粒子に対して転動造粒又は圧縮成形をおこない、前記生ペレットを造粒する工程と、
を含むように生ペレットを作成することを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【請求項9】
前記(c)工程は、以下の(c1)~(c3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(c1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(c2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(c3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
【請求項10】
前記(d)工程は、以下の(d1)又は(d2)のいずれか又は両方の工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(d1)前記(a)工程の実行時、昇温速度を低下させる。
(d2)前記(h)工程の実行時、結晶水含有率が3%以上の前記原料鉱石の配合比を減少させる。
【請求項11】
前記(e)工程は、以下の(e1)~(e3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(e1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(e2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(e3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
【請求項12】
前記(f)工程は、以下の(f1)又は(f2)のいずれか又は両方の工程を含むことを特徴とする、請求項8に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(f1)前記(j)工程の実行時、転動造粒をおこなう場合、造粒滞留時間を短くする、又は、前記生ペレットの分級点を小さくする。
(f2)前記(j)工程の実行時、圧縮成形をおこなう場合、ダイス径を小さくする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石ペレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鉱石ペレット(本明細書において、単にペレットと称する。)は、100μm以下の微粉鉄鉱石を十数mm程度の大きさに塊成化した焼成物であり、高炉プロセスや直接還元プロセスの原料として用いられる。ペレットの製造工程は主として造粒工程と焼成工程を含む。造粒工程では、粒度と水分を調整した微粉鉄鉱石原料を転動造粒機で直径が十数mm程度の球状に造粒し、生ペレットが作成される。焼成工程では、生ペレットを最高温度1300℃程度まで加熱し、焼き固めることでペレットが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000-87150号公報
【特許文献2】特開2010-24477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ペレットの原料として、これまでは結晶水をほとんど含まない良質なヘマタイト鉱石やマグネタイト鉱石が用いられてきた。しかし、近年、良質な鉄鉱石の枯渇化に伴い、結晶水や脈石を多く含む劣質な鉄鉱石をペレットの原料として使用することが必要となってきている。
【0005】
結晶水を含む鉄鉱石は、焼成過程で熱分解し、これにより焼成中のペレット(本明細書において、焼成中ペレットと称する。)の内部で水蒸気が発生し、圧力が高まることで焼成中ペレットがバースティング(爆裂)する課題があった。このようなバースティングが発生すると、ペレットが粉化し、歩留が低下するため生産性が低下してしまう。また、焼成過程でペレットが粉化すると、発生した粉がペレット充填層の隙間を閉塞して通気性を阻害する悪影響も生じる。したがって、ペレット製造においてバースティングを抑制することが求められる。
【0006】
上記課題に関し、特許文献1には、予熱ペレットの強度低下に応じて予熱温度を調整することでペレットを安定製造する方法が開示されている。特許文献2には、離水室出口グレート直下ガス温度と予熱室入口雰囲気温度との温度差に着目した温度管理によりバースティングを抑制する方法が開示されている。
【0007】
これらの特許文献には、高結晶水鉱石を用いたペレット製造において、焼成中ペレット内部に生じる応力を推定する方法や、その推定に基づいて製造条件を決定し、バースティングを抑制する方法について記載されていない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、結晶水を含む鉄鉱石を用いてもバースティングを抑制することが可能なペレットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の鉄鉱石ペレットの製造方法は、(a)生ペレットを作成し、焼成する工程と、(b)焼成中ペレットの内圧が、予め定められた内圧許容値以下となるように調整する工程と、を含み、前記(b)工程は、(c)生ペレット空隙率を上昇させる工程、(d)単位時間当たり水蒸気放出重量比を低下させる工程、(e)生ペレット見掛密度を低下させる工程、(f)生ペレット半径を小さくする工程、又は(g)原料粒子の球相当径を大きくする工程、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴としている。
【0010】
前記内圧ΔPが下記式(1)で表されてもよい。
【数1】
但し、ε[-]は生ペレット空隙率、A[-]は前記生ペレットの形状に基づき算出される定数、μ[Pa・s]は水蒸気の粘性係数、w[/s]は単位時間当たり水蒸気放出重量比、ρ[kg/m]は生ペレット見掛密度、R[J/mol/K]は気体定数、T[K]は焼成中ペレット温度、r[m]は生ペレット半径、d[m]は原料粒子の球相当径である。
【0011】
前記生ペレットは、円柱形状であり、前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/2であってもよい。
【0012】
前記生ペレットは、球形状であり、前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/3であってもよい。
【0013】
前記内圧許容値を前記生ペレットの圧潰強度から推定してもよい。
【0014】
前記生ペレットは、円柱形状であり、前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(2)を満たしていてもよい。
ΔPmax=2F/(πDW) ・・・(2)
但し、πは円周率、D[m]は生ペレット直径、W[m]は生ペレット厚さ、F[N]は圧潰荷重である。
【0015】
前記生ペレットは、球形状であり、前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(3)を満たしていてもよい。
ΔPmax=0.9F/D ・・・(3)
但し、D[m]は生ペレット直径、F[N]は圧潰荷重である。
【0016】
前記鉄鉱石ペレットの製造方法は、前記(a)工程において、(h)結晶水含有率が3%以上の原料鉱石を含む1種又は2種以上の原料鉱石を配合してペレット原料を得る工程と、(i)前記ペレット原料を粉砕し、原料粒子を得る工程と、(j)前記原料粒子に対して転動造粒又は圧縮成形をおこない、前記生ペレットを造粒する工程と、を含むように生ペレットを作成してもよい。
【0017】
前記(c)工程は、以下の(c1)~(c3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含んでいてもよい。
(c1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(c2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(c3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
【0018】
前記(d)工程は、以下の(d1)又は(d2)のいずれか又は両方の工程を含んでいてもよい。
(d1)前記(a)工程の実行時、昇温速度を低下させる。
(d2)前記(f)工程の実行時、結晶水含有率が3%以上の前記原料鉱石の配合比を減少させる。
【0019】
前記(e)工程は、以下の(e1)~(e3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含んでいてもよい。
(e1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(e2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(e3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
【0020】
前記(f)工程は、以下の(f1)又は(f2)のいずれか又は両方の工程を含んでいてもよい。
(f1)前記(j)工程の実行時、転動造粒をおこなう場合、造粒滞留時間を短くする、又は、前記生ペレットの分級点を小さくする。
(f2)前記(j)工程の実行時、圧縮成形をおこなう場合、ダイス径を小さくする。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように本発明によれば、結晶水を含む鉄鉱石を用いてもバースティングを抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】焼成中ペレットの内部における水蒸気の流れの概略を模式的に示す断面図である。
図2】一次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。
図3】二次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。
図4】三次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。
図5】生ペレットの圧潰強度を測定する方法の一例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態にかかるペレットの製造方法について説明する。本実施形態にかかるペレットの製造方法は、生ペレットを作成し、焼成する第1の工程と、焼成中ペレット2の中心部に生じると予測される内圧を算出し、これに基づきペレットの製造方法の条件を変更する第2の工程と、を含む。
【0024】
第1の工程では、生ペレット1を作成し、焼成して、ペレットを得る。生ペレット1を作成する方法(第8の工程~第10の工程)については、後述する。生ペレット1を焼成する手段は特に限定されず、公知のものを用いることができる。一例として、トラベリンググレート式、グレートキルン式、シャフト式、又はポット式等の焼成炉を用いることができる。ただし、後述する第2の工程で昇温速度を変更する場合は、昇温速度を所望の範囲で変更することができる焼成炉を用いる。
【0025】
ここで、第1の工程で焼成中のペレット(本明細書において、焼成中ペレット2と称する。)においては、焼成中ペレット2に含まれる水分の蒸発または結晶水の熱分解(主に2FeOOH→Fe+HO)により、その内部に水蒸気が発生する場合がある。
【0026】
本発明者が鋭意検討したところ、かかる水蒸気は焼成中ペレット2の表面に向かって放出されるが、このとき水蒸気放出に伴って生じる最大の応力が焼成中ペレット2の基質強度を超えると、バースティングする場合があるという知見を得た。また、かかる知見に基づき、第2の工程を実行することに想到した。
【0027】
第2の工程では、まず、焼成中ペレット2の内部で水蒸気が発生したならば焼成中ペレット2の中心部に生じると予測される内圧ΔP[Pa](焼成中ペレット2の表面の圧力に対する相対値。以下、単に内圧ΔPと称する。)を、下記式(1)に基づき算出する。また、焼成中ペレット2の基質強度としての内圧許容値ΔPmax[Pa]を測定又は算出する。次に、内圧ΔPが内圧許容値ΔPmax以下となるように、各パラメータの値を調整することで内圧ΔPの値を減少させる。第2の工程は後述するように、生ペレット1の作成時、又は、焼成時に、実行することができる。内圧ΔPの詳細及び内圧許容値ΔPmaxの詳細については、後述する。
【数2】
【0028】
(各パラメータの説明)
式(1)で、ε[-]は生ペレット空隙率、A[-]は定数、μ[Pa・s]は水蒸気の粘性係数、w[/s]は単位時間当たり水蒸気放出重量比、ρ[kg/m]は生ペレット見掛密度、R[J/mol/K]は気体定数、T[K]は焼成中ペレット温度、r[m]は生ペレット半径、d[m]は原料粒子の球相当径である。
【0029】
生ペレット空隙率εは、乾燥状態における生ペレット1中の空孔4の体積比である。より詳細には、生ペレット空隙率εは、乾燥状態における生ペレット見掛密度ρ[kg/m]と原料粒子3の真密度ρ’[kg/m]とから、(1-ρ/ρ’)として求められる。見掛密度ρは、原料粒子3及び空孔4を含む生ペレット1全体としての密度である。見掛密度ρは、生ペレット1をフィルム包装などにより表面をコーティングした状態とし、液浸法や気体容積法により測定することができる。また見掛密度ρは、試料の寸法測定から体積を求めることによっても算出することができる。また見掛密度ρは、ビーズ体積置換法などによっても測定することができる。真密度ρ’は、生ペレット1中の複数の原料粒子3の密度の平均値であり、液浸法や気体容積法により測定することができる。
【0030】
定数Aは、生ペレット1の形状に基づき算出される定数である。定数Aの算出については後述する。
【0031】
単位時間当たり水蒸気放出重量比wは、焼成中ペレット2の単位時間当たりの変化前重量と変化後重量の比である。単位時間当たり水蒸気放出重量比wは、熱天秤または熱天秤機能を有する焼成炉で第1の工程を実行し、重量変化を連続的又は断続的に測定することで求めることができる。このほか、任意の時間間隔で焼成を中断し、各時刻での重量を測定することでも焼成過程での重量変化を測定することができる。なお、炉内の温度変化に伴い単位時間当たり水蒸気放出重量比wは変化するが、式(1)で用いる代表値としては、その最大値を採用する。
【0032】
焼成中ペレット温度Tは、焼成中ペレット2の内部の応力が最大となるときの焼成中ペレット2の温度である。式(1)で用いる代表値としては、単位時間当たり水蒸気放出重量比wが最大値となるときの焼成中ペレット2の温度を採用することが好ましい。このほか、焼成中ペレット温度Tの代表値は、バースティングが発生したときの温度(以下、バースティング温度と称する。)とすることができる。この場合、バースティング温度は、焼成中ペレット2の外観をその場観察することができる焼成炉を用いて、焼成中ペレット2が割れた時点の、当該焼成中ペレット2の表面温度として求めることができる。焼成中ペレット2の表面温度を測定することができない焼成炉においては、バースティング温度は、焼成中ペレット2が割れた時点の炉内雰囲気の温度として求めることができる。さらにこのほか、焼成中ペレット温度Tの代表値は、焼成過程でバースティングによる破裂音が生じた時点の温度とすることができる。
【0033】
生ペレット1の直径D[m]は、以下のように決定することができる。後述する実施形態において圧縮成形機や押出成形機などによって造粒した生ペレット1の直径Dは、用いたダイスのダイス直径を代表値として決定することができる。また、転動造粒機によって造粒した生ペレット1は、通常、粒度分布幅をもつため、以下のようにして直径Dを決定することができる。まず、生ペレット1の粒度分布を測定する。粒度分布は、ふるい分けや、例えばJISZ 8827-1:2018に記載の投影像の画像解析による投影面積円相当径(ヘイウッド径)の測定法を用いて測定することができる。次に、測定した粒度分布から平均径又はメジアン径を求めて、これを代表値として生ペレット1の直径Dとする。なお、転動造粒機によって造粒される生ペレット1の粒度分布が正規分布とみなせる場合は平均径又はメジアン径のいずれを用いてもよく、正規分布とみなせない場合はメジアン径を用いる。
【0034】
生ペレット1の直径Dの値の範囲は、特に限定されないが、一例として、10mm~20mmとしてもよい。また、円柱形状の生ペレット1の場合は、中心軸方向(長手方向)の長さW[m]を直径Dと同じ値としてもよい。ただし、長さWは、D/2以上とすることが以下の観点から好ましい。すなわち、長さWがD/2以上であれば、当該生ペレット1にかかる上記式(1)を導出する際に、後述する二次元モデルを適用することができ、空塔速度uをより近似的に求めることができる。
【0035】
生ペレット1の半径rは、上記で求めた生ペレット1の直径Dの値の1/2の値として算出することができる。
【0036】
原料粒子の球相当径d[m]は、以下のように決定することができる。まず、生ペレット1に含まれる原料粒子3、又は、後述する実施形態において原料鉱石を粉砕若しくは分級した後に得られた原料粒子3の、球相当径の粒度分布を測定する。粒度分布の測定は、例えばJIS Z 8825:2022に記載のレーザー回折散乱法によって行うことができる。次に、測定した粒度分布から平均径又はメジアン径を求めて、これを原料粒子の球相当径dの代表値とする。なお、原料粒子3の粒度分布が正規分布とみなせる場合は平均径又はメジアン径のいずれを用いてもよく、正規分布とみなせない場合はメジアン径を用いる。また、鉱石粒子球相当径は、例えばJISM8721:2020に記載の空気透過法(Blain法)により測定してもよい。
【0037】
上記の各パラメータは、複数の生ペレット1から代表サンプルを採取することで、測定又は算出することができる。
【0038】
(内圧ΔPの説明)
以下、内圧ΔPの意義について、図を用いながら上記式(1)の導出に沿って説明する。図1は、焼成中ペレット2の内部に水蒸気が発生する場合の水蒸気の流れの概略を模式的に示す断面図である。図2は、一次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。図3は、二次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。図4は三次元モデルにおける単位流路の概略を示す説明図である。
【0039】
本発明者らは、焼成中ペレット2の内部に水蒸気が発生する場合について、焼成中ペレット2が原料粒子3の集合体(粉体層)であることに着目した。かかる着眼点のもと、Kozeny-Carmanのねじれモデル(三輪茂雄:粉粒体工学、朝倉書店、東京、1972、p.320)を参考にして、焼成中ペレット2の内部を均一な流路(以下、単位流路11と称する。)の集合体と仮定した。
【0040】
図1で、焼成中ペレット2の内部に水蒸気が発生すると、太線矢印で示すように、焼成中ペレット2の中心から表面13の方向に水蒸気の流れ10が生じる。具体的には、焼成中ペレット2の各部位から生じた水蒸気は、合流しながら、空孔4を通って最終的に表面13から外部に放出される。かかる水蒸気の流れ10は本来均一なものではないが、Kozeny-Carmanのねじれモデルによると、水蒸気の流れ10が均一な単位流路11を通るものとみなして、焼成中ペレット2の内圧などを扱うことができる。かかるねじれモデルとしては、以下の一次元モデル、二次元モデル又は三次元モデルが考えられる。なお、図1中に示す単位流路11は、一次元モデルにおける一例である。
【0041】
(一次元モデルの説明)
図2で、ねじれモデルの一次元モデルについて説明する。一次元モデルでは、焼成中ペレット2の内部を、断面積S[m]が単位面積1である単位流路11の集合体と仮定する。なお、焼成中ペレット2の中心12側の流路は閉じており、生じた水蒸気は全て焼成中ペレット2の表面13の方向に流れるものと仮定した。単位流路11の一次元モデルでは、任意の位置xについて、焼成中ペレット2の中心12を原点(x=0)とし、焼成中ペレット2の表面13側をxの値の正方向とし、焼成中ペレット2の表面13のx座標を、生ペレット半径の値(x=r)とした。ただし、xは0≦x≦rを満たす。
【0042】
一次元モデルにおける単位流路11の任意の位置xにおいて、表面13の方向に流れている単位時間当たり水蒸気放出重量w’[kg/s]は、区間[0,x](図3中の区間14)で単位時間に発生した水蒸気の重量の総和である。したがって、単位時間当たり水蒸気放出重量比w及び生ペレット見掛密度ρを用いて、下記式(4)で表される。
【数3】
【0043】
位置xにおける水蒸気の空塔速度u[m/s]は、位置xにおける水蒸気の流量V[m/s]と、位置xにおける単位流路11の断面積Sから、u=V/Sで表される。一次元モデルではS=1であるので、u=V/1である。放出される気体がすべてHO(0.018kg/mol)であるとして理想気体を仮定すると、位置xにおける水蒸気の空塔速度uは下記式(5)で表される。
【数4】
【0044】
上記式(5)の結果は、任意の形状の焼成中ペレット2の内部を構成する単位流路11について導出されるものである。したがって、かかる式(5)の結果を所望の形状の焼成中ペレット2について適用することで、当該焼成中ペレット2における単位流路11の、位置xでの水蒸気の空塔速度uを近似的に算出することが可能である。
【0045】
ここで、実際の焼成中ペレット2の形状は円柱形状又は球形状であることが多い。以下、円柱形状に適用することでより近似的に空塔速度uを算出することが可能な二次元モデル、及び、球形状に適用することでより近似的に空塔速度uを算出することが可能な三次元モデルについて説明する。
【0046】
(二次元モデルの説明)
図3で、ねじれモデルの二次元モデルについて説明する。二次元モデルでは、焼成中ペレット2の内部を、中心軸20方向(長手方向)の長さHが単位長さ1[m]である円柱の、中心軸20から表面21の方向に放射するように構成される単位流路11の集合体と仮定する。なお図3では便宜上、単位流路11の微小区間dxにおける水蒸気の流れ10の一部のみを図示している。単位流路11の半径位置xにおける断面積S[m]は、1×2πxで表される。焼成中ペレット2の中心軸20側の流路は閉じており、生じた水蒸気は全て表面21側に流れるものと仮定する。また、単位流路11の任意の位置xについて、焼成中ペレット2の中心軸20を原点(x=0)とし、中心軸20に垂直かつ焼成中ペレット2の表面21側の方向をxの値の正方向とし、焼成中ペレット2の表面21のx座標を生ペレット半径の値(x=r)とする。ただし、xは0≦x≦rを満たす。
【0047】
二次元モデルにおける単位流路11の任意の半径位置xにおいて、表面21の方向に流れている単位時間当たり水蒸気放出重量w’は、焼成中ペレット2の中心軸20から半径位置xまでの領域(図3中の領域22)で発生した水蒸気の重量の総和である。したがって、単位時間当たり水蒸気放出重量比w及び生ペレット見掛密度ρを用いて、下記式(6)で表される。
【数5】
【0048】
水蒸気の空塔速度uは、半径位置xにおける流量V[m/s]と、半径位置xにおける断面積Sから、u=V/Sで表される。よって、半径位置xにおける水蒸気の空塔速度uは下記式(7)で表される。
【数6】
【0049】
(三次元モデルの説明)
図4で、ねじれモデルの三次元モデルについて説明する。三次元モデルでは、焼成中ペレット2の内部を、焼成中ペレット2の中心30側から表面31の方向に放射するように構成される単位流路11の集合体と仮定する。なお図4では便宜上、単位流路11の微小区間dxにおける断面の一部(図4中の2本の閉じた太線で囲まれた部分)を図示し、当該断面の一部における水蒸気の流れ10のみを図示している。単位流路11の半径位置xにおける断面積S[m]は4πxで表される。焼成中ペレット2の中心30側の流路は閉じており、生じた水蒸気は全て表面31側に流れるものと仮定する。また、単位流路11の任意の位置xについて、焼成中ペレット2の中心を原点(x=0)とし、焼成中ペレット2の表面31側方向をxの値の正方向とし、焼成中ペレット2の表面31のx座標を生ペレット半径の値(x=r)とする。ただし、xは0≦x≦rを満たす。
【0050】
三次元モデルにおける単位流路11の任意の半径位置xにおいて、表面31の方向に流れている単位時間当たり水蒸気放出重量w’は、焼成中ペレット2の中心から半径位置xまでの領域(図4中の領域32)で発生した水蒸気の重量の総和である。したがって、単位時間当たり水蒸気放出重量比w及び生ペレット見掛密度ρを用いて、下記式(8)で表される。
【数7】
【0051】
水蒸気の空塔速度uは、半径位置xにおける流量V[m/s]と、半径位置xにおける断面積Sから、u=V/Sで表される。よって、位置xにおける水蒸気の空塔速度u[m/s]は下記式(9)で表される。
【数8】
【0052】
(圧力Pの関係式の説明)
次に、上記で導出した各モデルにおける空塔速度uを用いて、水蒸気放出に伴う圧力損失を考慮した、半径位置xにおける圧力Pの関係式の導出について説明する。水蒸気放出に伴う圧力損失(内圧上昇)の算出には、以下のKozeny-Carmanの式(三輪茂雄:粉粒体工学、朝倉書店、東京、1972、p.320)を用いる(下記式(10))。
【数9】
【0053】
式(10)で、dxは単位流路11の微小区間であり、dPは微小区間dxにおける圧力差である。
【0054】
半径位置xにおける空塔速度uの式(5)、式(7)又は式(9)のいずれか1つと、水蒸気放出に伴う圧力損失の式(10)から、uを消去して得られる微分方程式を解くと、半径位置xにおける圧力Pの関係式として下記式(11)が得られる。
【数10】
【0055】
ここで、定数Aは、式(11)の導出にあたって一次元モデルにかかる式(5)を代入した場合はA=10000と、二次元モデルにかかる式(7)を代入した場合はA=10000/2と、三次元モデルにかかる式(9)を代入した場合はA=10000/3と、それぞれ算出される。
【0056】
圧力Pは、焼成中ペレット2の中心(x=0)で最大(P=P)となる。焼成中ペレット2の中心の圧力Pと表面の圧力Pの圧力差をΔP’とすると、圧力差ΔP’は下記式(12)で表される。
【数11】
【0057】
式(12)で、右辺根号中の(+P )の項と、根号外の(-P)の項は、相殺して0に近似することができる。このように近似したときの圧力差ΔP’を、内圧ΔPに等しいものとみなすことにより、上記式(1)が導出される。
【0058】
(内圧許容値ΔPmaxの説明)
内圧許容値ΔPmaxは、バースティングが発生しない最大の内圧ΔPであり、以下のいずれかの方法で決定することができる。
【0059】
(経験的に決定する方法)
内圧許容値ΔPmaxは、過去の焼成時におけるバースティング時の各パラメータの記録や、内圧ΔPを変化させてバースティングが生じたときの内圧ΔPを測定する試験を事前に行うことなどで、経験的に決定することができる。
【0060】
(圧潰強度から推定する方法)
また、内圧許容値ΔPmaxは、生ペレット1の圧潰強度から推定することができる。ここで、生ペレット1の形状は円柱形状又は球形状とされることが多い。これらの形状ごとに、以下の方法で圧潰強度σ[Pa]を算出し、かかる圧潰強度σから内圧許容値ΔPmaxを推定することができる。
【0061】
円柱状の生ペレット1の場合、図5を参照して、以下のようにして圧潰強度σを算出することができる。生ペレット1を加圧板40で挟み、生ペレット1の中心軸41と垂直の方向に加圧して、生ペレット1が圧潰したときの圧潰荷重F[N]を測定する。生ペレット1が圧潰したときの、加圧方向に垂直な方向に生ペレット1の内部に作用する引張応力42を圧潰強度σとみなして、下記式(13)(高橋ら:材料、28、(1979) p.819)に基づいて圧潰強度σを算出する。ただし、W[m]は生ペレット1の中心軸20方向の長さである。
σ=2F/(πDW) ・・・(13)
【0062】
球状の生ペレット1の場合、以下のようにして圧潰強度σを算出することができる。生ペレット1を最短距離にある2点で挟んで、点載荷による加圧を行ない、生ペレット1が圧潰したときの圧潰荷重Fを測定する。生ペレット1が圧潰したときの、加圧方向に垂直な方向にペレット内部に作用する引張応力を圧潰強度σとみなして、下記式(14)(平松ら:日本鉱業会誌、81、(1965) p.1024)に基づいて圧潰強度σを算出する。
σ=0.9F/D ・・・(14)
【0063】
求めた圧潰強度σから、以下のようにして内圧許容値ΔPmaxを推定することができる。以下の説明で、焼成中ペレット2の内部の任意区間における圧力差ΔPrによって、当該任意区間に生じる応力をσr[Pa]とする。
【0064】
一次元モデルでは、圧力差ΔPrと応力σは等しい(ΔPr=σ)。圧力差ΔPrは、焼成中ペレット2の中心部と表面の区間で最大となり、このような圧力差ΔPrは上記内圧ΔPに等しい。バースティングは応力σが圧潰強度σに達したときに生じるから、圧潰強度σの値を、内圧許容値ΔPmaxとする(ΔPmax=σ)ことで、バースティングが生じない内圧許容値ΔPmaxを求めることができる。
【0065】
二次元モデル又は三次元モデルでは、圧力分布を考慮すると必ずしも圧力差ΔPrと応力σは等しくなるわけではない。近似的に、圧力分布を考慮せず、圧力差ΔPrと応力σが等しい(ΔPr=σ)とみなすと、上記式(13)又は(14)にΔPmax=σを代入して、円柱形状の生ペレット1の場合は下記式(15)、球形状の生ペレット1の場合は下記式(16)に基づいて、内圧許容値ΔPmaxを算出することができる。
ΔPmax=2F/(πDW) ・・・(15)
ΔPmax=0.9F/D ・・・(16)
【0066】
一方、二次元モデル又は三次元モデルを適用する場合には、好ましくは、以下のようにして内圧許容値ΔPmaxを算出する。まず、焼成中ペレット2の内部における水蒸気の圧力Pの分布を求める。次に、当該分布に基づいて応力分布計算を行い、圧力差ΔPrと応力σとの関係式を導出する。最後に、当該関係式と、上記式(13)又は式(14)に基づいて、内圧許容値ΔPmaxを算出する。
【0067】
(第2の工程の説明)
第2の工程では、上記のように算出した内圧許容値ΔPmax以下となるように、内圧ΔPの値を減少させることで、焼成中ペレット2のバースティングを抑制することができる。以下、第2の工程の具体的な内容について説明する。
【0068】
第2の工程では内圧ΔPが内圧許容値ΔPmax以下となるように、各パラメータの値を調整することで内圧ΔPの値を減少させる。以下の第3~第7の工程は、第2の工程の一例であって、各パラメータの値を調整する工程である。
【0069】
すなわち、第2の工程は、生ペレット空隙率εを上昇させる工程(第3の工程)、単位時間当たり水蒸気放出重量比wを低下させる工程(第4の工程)、生ペレット見掛密度ρを低下させる工程(第5の工程)、生ペレット半径rを小さくする工程(第6の工程)、又は原料粒子の球相当径dを大きくする工程(第7の工程)、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含む。
【0070】
上記第3~第7の工程は、生ペレット1の作成時又は焼成時(第1の工程実行時)に実行され得る。以下、一実施形態にかかる生ペレット1の作成方法、及び、焼成時の条件の説明に沿って、第3~第7の工程の内容の一例を説明する。なお、第3~第7の工程は、少なくとも一つを実行することで内圧ΔPの値を減少させることができるが、以下説明する実施形態にかかる生ペレットの作成方法は、説明の便宜上、第3~第7の工程の全てを実行可能な構成としている。
【0071】
(生ペレット1の作成方法の説明)
第8の工程で、1種又は2種以上の原料鉱石を配合してペレット原料を得る。ここで、配合する原料鉱石の中には、結晶水含有率が3%以上である原料鉱石が含まれていてもよい。なお、結晶水含有率とは鉱石を105℃から950℃に加熱する間に発生する水分の重量比率である。また、結晶水含有率は、例えばJISM8211:1995に記載のカールフィッシャー法により測定することができる。原料鉱石の結晶水含有率が高いことはバースティングが生じる要因の一つとなり得るため、一般には結晶水含有率が低いことが好ましいとされる。一方で、本実施形態にかかるペレットの製造方法によると、結晶水含有率が3%以上である原料鉱石を含むペレット原料を用いた場合であっても、バースティングを十分に抑制することができる。
【0072】
ただし、原料鉱石中の結晶水含有率は、7%以下であることが好ましい。これにより、バースティングを抑制するとともに、焼成後のペレットに亀裂が生じ強度が低下することを抑制することができる。
【0073】
結晶水含有率が3%以上である原料鉱石以外の原料鉱石として、ヘマタイト鉱石やマグネタイト鉱石を配合してもよい。また、上記の鉄鉱石以外に、必要に応じて石灰石、ドロマイト、ベントナイト等を配合してもよい。
【0074】
第8の工程において、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させることで、生ペレット空隙率εを上昇させること(第3の工程)、又は、生ペレット見掛密度ρを低下させること(第5の工程)が可能である。多孔質な原料鉱石とは、配合する原料鉱石のうち気孔率が相対的に高い原料鉱石を指す。
【0075】
また第8の工程において、結晶水含有率が3%以上である原料鉱石の配合比を減少させることで、第1の工程実行時の単位時間当たり水蒸気放出重量比wを低下させること(第4の工程)が可能である。
【0076】
第9の工程で、上記第8の工程で得たペレット原料を粉砕して、原料粒子3を得る。ペレット原料の粉砕の手段は特に限定されず、公知のものを用いることができる。一例として、ボールミルを用い、直径100μm以下の原料粒子3の割合が90%以上となるように粉砕する。その後、得られた原料粒子3が所望の粒度分布となるように、分級を行ってもよい。
【0077】
第9の工程において、原料粒子3の粒度分布幅を狭めることで、生ペレット空隙率εを上昇させること(第3の工程)、又は、生ペレット見掛密度ρを低下させること(第5の工程)が可能である。原料粒子3の粒度分布幅を狭めるためには、例えば、粉砕後に、所望の粒度分布とすることができる篩目の篩を用いて分級を行う。
【0078】
第9の工程において、例えば粉砕時間を短くすることで、原料粒子の球相当径dを大きくすること(第7の工程)が可能である。
【0079】
第10の工程で、上記第9の工程で得た原料粒子3から造粒して、生ペレット1を得る。生ペレット1の造粒の手段は特に限定されず、所望する生ペレット1の形状に応じて適当な公知のものを用いることができる。一例として、原料粒子3を造粒に適した水分に調湿した後、パンペレタイザーやドラムペレタイザーなどの転動造粒機によって造粒することで、所望の直径Dを有する球状の生ペレット1を得ることができる。また、他の一例として、圧縮成形機や押出成形機によって造粒することで、ダイス直径に応じた所望の直径Dを有する円柱状の生ペレット1を得ることができる。造粒後に、生ペレット1を乾燥させる。
【0080】
第10の工程において圧縮成形機や押出成形機によって造粒する場合、造粒時の圧密力を小さくすることで、生ペレット空隙率εを上昇させること(第3の工程)、又は、生ペレット見掛密度ρを低下させること(第5の工程)が可能である。また、ダイス径を小さくすることによって、生ペレット半径rを小さくすること(第6の工程)が可能である。
【0081】
また、第10の工程において転動造粒機によって造粒する場合、造粒滞留時間を短くすること、又は生ペレット1の分級点を小さくすることで、生ペレット半径rを小さくすること(第6の工程)が可能である。
【0082】
(焼成時の条件の説明)
所望の生ペレット1、又は、第8~第10の工程で得た生ペレット1を、第1の工程で焼成してペレットを得る。この時、昇温速度を低下させることで、単位時間当たり水蒸気放出重量比wを低下させる(第4の工程)ことができる。
【0083】
以上の生ペレット1の作成時又は焼成時において各パラメータを調整することで、第2の工程を実行することができる。
【0084】
(バースティングの評価)
上記各パラメータの調整の際に実験を行う場合などにおいて、バースティングの有無は、焼成後の試料の目視観察で評価することができる。このほか、焼成後の試料を所望の篩目でふるい分けし、焼成後の発生粉量からバースティングの有無を評価することができる。
【実施例0085】
以下の実施例では、下記の各条件で生ペレットを作成し、又は焼成を行った。このとき、当該生ペレットにおける各パラメータ、及び焼成時の昇温速度並びに単位時間当たり水蒸気放出重量比を調べ、バースティングの有無を調べた。
【0086】
本実施例では、下記の原料鉱石A、原料鉱石Bのいずれかを原料鉱石として用いた。各原料鉱石の成分を表1に示す。表1において、各成分の値は、質量%の値である。原料鉱石A、原料鉱石Bとも豪州産鉱石であり、結晶水含有量(CW)が異なる。
【0087】
【表1】
【0088】
各原料鉱石はボールミルで直径100μm以下の原料粒子の割合が90%以上となるように粉砕した。粉砕後に得られた各原料鉱石の粒子をレーザー回折散乱法により粒度測定した結果、メジアン径は6μmであった。各原料鉱石の粒子に対し、バインダーとしてベントナイトを0.5質量%(乾燥基準)添加し、原料粒子を得た。当該原料粒子に対し、水分を8質量%(湿潤基準)添加し、圧縮成形機を用いて、直径15mm×高さ15mmまたは直径10mm×高さ10mmの円柱形状の生ペレットを作成した。なお、圧密力は50MPaとした。
【0089】
生ペレット見掛密度ρは、試料寸法から算出した体積と重量から求めた。また、原料の真密度ρ’は気体容積法により測定し、生ペレット空隙率εを算出した。
【0090】
生ペレット1は、昇温速度を制御可能で、かつ、熱天秤機能を有する焼成炉を用いて焼成した。バースティングの有無は焼成後の試料外観から目視で判定した。なお、昇温速度は、室温から300℃までを50℃/minとし、300℃から1300℃までを100℃/minまたは200℃/minとした。
【0091】
単位時間当たり水蒸気放出重量比wは、焼成中に連続的に測定し、最大値を代表値として用いた。生ペレットの圧潰強度σを測定し、上記式(15)から内圧許容値ΔPmaxを求めた。表2に試験条件および試験結果を示す。
【0092】
【表2】
【0093】
比較例1は、鉱石Aを用いて従来の典型的な条件で焼成したものであり、バースティングが生じた。このとき算出される内圧ΔPは、上記算出された内圧許容値ΔPmaxを上回っていた。
【0094】
発明例1は、比較例1より昇温速度を下げたものであり、バースティングは生じなかった。発明例1で、昇温速度を下げることにより、単位時間当たり水蒸気放出重量比wが低下した。単位時間当たり水蒸気放出重量比wが低下することで、内圧ΔPが低下し、内圧許容値ΔPmax以下となった。
【0095】
発明例2は、比較例1より生ペレット直径Dを小さくしたものであり、バースティングは生じなかった。発明例2で、生ペレット直径Dを小さくすることにより、内圧ΔPが低下し、内圧許容値ΔPmax以下となった。
【0096】
発明例3は、比較例1より結晶水含有量の低い鉱石Bを用いたものであり、バースティングは生じなかった。発明例3で、結晶水含有量の低い鉱石Bを用いることにより、単位時間当たり水蒸気放出重量比wが低下し、かつ、生ペレット見掛密度ρが上昇することで、内圧ΔPが低下し、内圧許容値ΔPmax以下となった。
【0097】
発明例4は、比較例1より圧密力を20MPaに下げることで生ペレット空隙率を上昇させ、かつ、生ペレット見掛密度を低下させたものであり、バースティングは生じなかった。発明例4で、生ペレット空隙率が上昇し、かつ、生ペレット見掛密度が低下することで、内圧ΔPが低下し、内圧許容値ΔPmax以下となった。
【0098】
実施例の結果から、生ペレット空隙率εを上昇させる工程、単位時間当たり水蒸気放出重量比wを低下させる工程、生ペレット見掛密度ρを低下させる工程、又は生ペレット半径rを小さくする工程、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を実行することによって、内圧ΔPを低下させることができることがわかる。また、内圧ΔPが内圧許容値ΔPmax以下となることで、バースティングを抑制することができることがわかる。
【0099】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0100】
今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
【0101】
また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0102】
なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
[1](a)生ペレットを作成し、焼成する工程と、
(b)焼成中ペレットの内圧が、予め定められた内圧許容値以下となるように調整する工程と、
を含み、
前記(b)工程は、
(c)生ペレット空隙率を上昇させる工程、(d)単位時間当たり水蒸気放出重量比を低下させる工程、(e)生ペレット見掛密度を低下させる工程、又は(f)生ペレット半径を小さくする工程、(g)原料粒子の球相当径を大きくする工程、のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、鉄鉱石ペレットの製造方法。
[2]前記内圧ΔPが下記式(1)で表されることを特徴とする、上記[1]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
【数12】
但し、ε[-]は生ペレット空隙率、A[-]は前記生ペレットの形状に基づき算出される定数、μ[Pa・s]は水蒸気の粘性係数、w[/s]は単位時間当たり水蒸気放出重量比、ρ[kg/m]は生ペレット見掛密度、R[J/mol/K]は気体定数、T[K]は焼成中ペレット温度、r[m]は生ペレット半径、d[m]は原料粒子の球相当径である。
[3]前記生ペレットは、円柱形状であり、
前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/2であることを特徴とする、上記[2]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
[4]前記生ペレットは、球形状であり、
前記生ペレットの形状に基づき算出される前記定数Aは、A=10000/3であることを特徴とする、上記[2]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
[5]前記内圧許容値を前記生ペレットの圧潰強度から推定することを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
[6]前記生ペレットは、円柱形状であり、
前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(2)を満たすことを特徴とする、上記[5]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
ΔPmax=2F/(πDW) ・・・(2)
但し、πは円周率、D[m]は生ペレット直径、W[m]は生ペレット厚さ、F[N]は圧潰荷重である。
[7]前記生ペレットは、球形状であり、
前記内圧許容値ΔPmaxは、下記式(3)を満たすことを特徴とする、上記[5]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
ΔPmax=0.9F/D ・・・(3)
但し、D[m]は生ペレット直径、F[N]は圧潰荷重である。
[8]前記(a)工程において、
(h)結晶水含有率が3%以上の原料鉱石を含む1種又は2種以上の原料鉱石を配合してペレット原料を得る工程と、
(i)前記ペレット原料を粉砕し、原料粒子を得る工程と、
(j)前記原料粒子に対して転動造粒又は圧縮成形をおこない、前記生ペレットを造粒する工程と、
を含むように生ペレットを作成することを特徴とする、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
[9]前記(c)工程は、以下の(c1)~(c3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、上記[8]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(c1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(c2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(c3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
[10]前記(d)工程は、以下の(d1)又は(d2)のいずれか又は両方の工程を含むことを特徴とする、上記[8]又は[9]に記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(d1)前記(a)工程の実行時、昇温速度を低下させる。
(d2)前記(h)工程の実行時、結晶水含有率が3%以上の前記原料鉱石の配合比を減少させる。
[11]前記(e)工程は、以下の(e1)~(e3)のいずれか一つ又は二つ以上から選択される工程を含むことを特徴とする、上記[8]~[10]のいずれか一つに記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(e1)前記(h)工程の実行時、多孔質な原料鉱石の配合比を増加させる。
(e2)前記(i)工程の実行時、前記原料粒子の粒度分布幅を狭める。
(e3)前記(j)工程の実行時、造粒時の圧密力を小さくする。
[12]前記(f)工程は、以下の(f1)又は(f2)のいずれか又は両方の工程を含むことを特徴とする、上記[8]~[11]のいずれか一つに記載の鉄鉱石ペレットの製造方法。
(f1)前記(j)工程の実行時、転動造粒をおこなう場合、造粒滞留時間を短くする、又は、前記生ペレットの分級点を小さくする。
(f2)前記(j)工程の実行時、圧縮成形をおこなう場合、ダイス径を小さくする。
【符号の説明】
【0103】
1 生ペレット
2 焼成中ペレット
3 原料粒子
4 空孔
10 水蒸気の流れ
11 単位流路
12 中心
13 表面
14 区間
20 中心軸
21 表面
22 領域
30 中心
31 表面
32 領域
40 加圧板
41 中心軸
42 引張応力
図1
図2
図3
図4
図5