IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シチズンホールディングス株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図1
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図2
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図3
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図4
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図5
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図6
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図7
  • 特開-逆回転防止機構及び時計 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099410
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】逆回転防止機構及び時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 11/02 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
G04B11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003340
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西中 雄哉
(72)【発明者】
【氏名】飯田 淳
(57)【要約】
【課題】逆回転防止機構及び時計において、部品点数を減らす。
【解決手段】逆回転防止機構100は、ぜんまいを巻き上げるクラッチ上歯車120と同期して回転するクラッチ下歯車50と、クラッチ下歯車50を、ぜんまいを巻き上げる方向への回転を許容するとともに、ぜんまいが巻き解かれる方向への回転を阻止するこはぜ部材10と、を備え、こはぜ部材10は、クラッチ下歯車50の歯51と噛み合った状態と歯51との噛み合いが解除された状態との間で回転自在に設けられたこはぜ部11と、こはぜ部11を噛み合った状態に付勢するこはぜばね部18と、を一体に備えている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ぜんまいを巻き上げる角穴車と同期して回転する歯車と、
前記歯車を、前記ぜんまいを巻き上げる方向への回転を許容するとともに、前記ぜんまいが巻き解かれる方向への回転を阻止するこはぜ部材と、を備え、
前記こはぜ部材は、
前記歯車の歯と噛み合った状態と前記歯車の歯との噛み合いが解除された状態との間で回転自在に設けられたこはぜ部と、
前記こはぜ部を前記噛み合った状態に付勢するこはぜばね部と、を一体に備えている逆回転防止機構。
【請求項2】
前記こはぜ部と前記こはぜばね部が略V字状に連なって形成され、
前記こはぜ部は、前記こはぜばね部と連なった接続部とは反対の端部側に、前記歯車の歯と噛み合う爪を有し、
前記こはぜばね部は、前記爪が前記歯車の歯に噛み合った状態となるように、前記こはぜ部を付勢し、
前記歯車は、前記ぜんまいを巻き上げる方向への回転により前記爪が前記解除された状態となるように、前記こはぜ部を回転させる、請求項1に記載の逆回転防止機構。
【請求項3】
前記こはぜ部は、前記端部側の前記爪よりも先の部分に、前記歯車の面に突き当たることにより、前記爪が前記歯車の歯から外れるように前記こはぜ部が浮き上がるのを阻止するつば部を有している、請求項2に記載の逆回転防止機構。
【請求項4】
前記こはぜばね部は、前記接続部とは反対の端部に、前記こはぜばね部に沿った押圧力を入力することにより、前記こはぜ部を、前記解除された状態に回転させる操作部を有している、請求項2に記載の逆回転防止機構。
【請求項5】
前記こはぜ部材は、前記こはぜ部と前記こはぜばね部とは、厚さが均一で、かつ互いに直交する向きの面によって形成され、
前記こはぜ部が、前記歯車と略平行な面内方向の荷重に対して剛体部として機能し、
前記こはぜばね部は、前記歯車と略平行な面内方向の荷重に対して弾性部として機能する、請求項1から4のうちいずれか1項に記載の逆回転防止機構。
【請求項6】
請求項5に記載の逆回転防止機構と、
前記角穴車と、を備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆回転防止機構及び時計に関する。
【背景技術】
【0002】
時計の巻真は、時計の本体から外部に突出した部分にりゅうずが設けられている。りゅうずを巻真の軸回りに回転させると、巻真の回転が、つづみ車、きち車、丸穴車、角穴車、香箱真と伝達される。これにより、香箱真に固定されたぜんまいが巻き上げられる。
【0003】
巻き上げられたぜんまいが解けないようにするために、時計には、角穴車がぜんまいの巻き解き方向に回転するのを防止する逆回転防止機構が設けられている。逆回転防止機構は、こはぜとこはぜばねを有している。
【0004】
こはぜは、角穴車の歯又は角穴車と同期する車の歯(以下、角穴車等の歯という。)に噛み合う姿勢とその噛み合いが外れた姿勢との間で回転可能に設けられていて、その姿勢の変化によって、角穴車の回転と停止を切り替える剛体の部材である。
【0005】
こはぜばねは弾性部材であり、弾性変形した状態でこはぜに接し、その弾性変形による弾性力(復元力)によって、こはぜを上述した噛み合う姿勢に付勢する。こはぜとこはぜばねは、別体の部材として形成されている。
【0006】
そして、ぜんまいを巻き上げるときは角穴車が順方向に回転することで、こはぜばねの弾性力に逆らって、角穴車等の歯の面(歯面)のうち順方向の前を向いた歯面が、角穴車等の歯に噛み合っているこはぜを押圧する。これにより、こはぜが角穴車等の歯先円の外側に押し出されてこはぜと角穴車等の歯との噛み合いが外れ、逆回転防止機構は、角穴車の順方向への回転を許容し、ぜんまいの巻き上げが行われる。
【0007】
一方、ぜんまいが巻き解かれる逆方向に回転するときは、角穴車等の歯面のうち逆方向の前を向いた歯面がこはぜを押圧するが、このこはぜを押圧する方向が、角穴車等の歯先円の外側に向かうように設定されていないため、こはぜは角穴車等の歯から逃げずに噛み合ったままとなる。これにより、逆回転防止機構は、角穴車の逆方向への回転を阻止する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-117196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、特許文献1に記載された逆回転防止機構は、こはぜと、こはぜばねと、こはぜを地板等に固定するねじとを有し、部品点数が多いという問題がある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、部品点数を減らすことができる逆回転防止機構及び時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1は、ぜんまいを巻き上げる角穴車と同期して回転する歯車と、前記歯車を、前記ぜんまいを巻き上げる方向への回転を許容するとともに、前記ぜんまいが巻き解かれる方向への回転を阻止するこはぜ部材と、を備え、前記こはぜ部材は、前記歯車の歯と噛み合った状態と前記歯車の歯との噛み合いが解除された状態との間で回転自在に設けられたこはぜ部と、前記こはぜ部を前記噛み合った状態に付勢するこはぜばね部と、を一体に備えている逆回転防止機構である。
【0012】
本発明の第2は、本発明に係る逆回転防止機構と、前記角穴車と、を備えた時計である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る逆回転防止機構及び時計によれば、部品点数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】逆回転防止機構を備えた時計のムーブメントを示す図である。
図2】逆回転防止機構を示す要部平面図であって、こはぜ部材のこはぜ部がクラッチ下歯車の歯と噛み合っている状態を示す。
図3図2に示した状態において、クラッチ上歯車を仮想的に取り除いたようすを示す。
図4】逆回転防止機構を示す要部平面図であって、こはぜ部材のこはぜ部とクラッチ下歯車の歯と噛み合いが解除された状態を示す。
図5図4に示した状態において、クラッチ上歯車を仮想的に取り除いたようすを示す。
図6】クラッチ上歯車とクラッチ下歯車とが一体的に設けられた状態を示す斜視図である。
図7図6に示した状態からクラッチ上歯車を取り除いた状態のクラッチ下歯車を示す斜視図である。
図8】こはぜ部材の単体での斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る逆回転防止機構及び時計の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0016】
(構成)
図1は逆回転防止機構100を備えた時計200のムーブメントを示す図、図2~5は逆回転防止機構100を示す要部平面図であって、図2,3はこはぜ部材10のこはぜ部11がクラッチ下歯車50の歯51と噛み合っている状態、図4,5はクラッチ上歯車120が順方向に回転して、こはぜ部11とクラッチ下歯車50の歯51との噛み合わせが解除された状態をそれぞれ示す。
【0017】
なお、図3は、図2に示した状態において、クラッチ下歯車50とこはぜ部11とが噛み合っている状態を見易くするため、クラッチ上歯車120を仮想的に取り除いたようすを示し、図5は、図4に示した状態において、クラッチ下歯車50とこはぜ部11との噛み合わせが解除された状態を見易くするため、クラッチ上歯車120を仮想的に取り除いたようすを示す。
【0018】
また、図6はクラッチ上歯車120とクラッチ下歯車50とが一体的に設けられた状態を示す斜視図であり、図7図6に示した状態からクラッチ上歯車120を取り除いた状態のクラッチ下歯車50を示す斜視図である。図8はこはぜ部材10の単体での斜視図である。
【0019】
図示の時計200は、本発明に係る時計の一実施形態である。また、図示の逆回転防止機構100は、本発明に係る逆回転防止機構の一実施形態である。
【0020】
時計200は、図1,2に示すように、ムーブメントに逆回転防止機構100を備えている。逆回転防止機構100は、図1~5に示すように、こはぜ部材10と、クラッチ車50と、を備えている。
【0021】
クラッチ下歯車50は、図6に示すように、軸C2を共通してクラッチ上歯車120と同軸に、かつクラッチ上歯車120の厚さ方向に重ねられて、図7に示すクラッチラチェット機構70を介して、角穴車120と一体的に設けられている。クラッチ車50は、クラッチラチェット機構70を介して、クラッチ上歯車120とともに軸C2回りに回転する。したがって、クラッチ下歯車50は、クラッチ上歯車120と同期して軸C2回りに回転する。クラッチ下歯車50はクラッチ上歯車120と一体に形成されていてもよい。
【0022】
ここで、クラッチ上歯車120は、時計200の巻真に連動するように構成されていて、自動巻回転錘が、自動巻機構の一例であるクラッチ上歯車120、クラッチラチェット機構70、クラッチ下歯車50、クラッチカナ81、図示を略した減速車、角穴車、へと順次伝達される。これにより、角穴車の軸となる香箱真に一端が固定されたぜんまいが巻き上げられる。
【0023】
クラッチカナ81は、一例として、図2,4,6において矢印Rで示した、軸C2を中心とした時計回り(右回り)の回転によって、連動する減速車が回転してぜんまいを巻き上げ、矢印-Rで示した反時計回り(左回り)に回転することにより、巻き上げられたぜんまいを巻き解く。
【0024】
クラッチ下歯車50は、外周に歯51が形成されている。歯51は、他の歯車の歯と噛み合わされる歯ではなく、後述するこはぜ部11と係合するラチェット機構の歯として形成されていて、鋸歯状歯のような歯形となっている。
【0025】
具体的には、歯51は、図2,4,6に示した状態で、軸C2回りの時計回りの回転(ゼンマイを巻き上げる方向の回転)において前面側となる歯面51aが後面側となる歯面51bに比べて、クラッチ下歯車50の歯51の歯先円の接線の対する傾斜角度が浅く(小さく)形成されている。
【0026】
そして、前面側となる歯面51aの、クラッチ下歯車50の歯51の歯先円の接線の対する傾斜角度は例えば35~45[度]に形成され、後面側となる歯面51bの、クラッチ下歯車50の歯51の歯先円の接線の対する傾斜角度は例えば略90[度]に形成されている。
【0027】
クラッチ下歯車50の歯51の数は、クラッチ上歯車120の歯121の数と同数で形成されている。クラッチ下歯車50の歯51の数はクラッチ上歯車120の歯121の数と同数でなくてもよく、したがって、クラッチ上歯車120の歯121の数よりも多くてもよいし、少なくてもよい。
【0028】
クラッチラチェット機構70は、太陽歯車71と遊星歯車72とを備えている。クラッチラチェット機構70は、クラッチ上歯車120の一方の回転のみをクラッチ下歯車50に伝達する。クラッチ下歯車50は、クラッチカナ81に固定されているため、クラッチ下歯車50の回転がクラッチカナ81に伝達され、クラッチカナ81から、図示を略した減速車を介して、角穴車に回転が伝達される。
【0029】
こはぜ部材10は、図8に示すように、こはぜ部11と、こはぜばね部18と、を備えている。こはぜ部11とこはぜばね部18は、それぞれ、こはぜ部材10の一部である。したがって、こはぜ部11とこはぜばね部18とは、一体に形成されている。こはぜ部材10は、こはぜ部11とこはぜばね部18とによって、略V字状に形成されている。
【0030】
こはぜ部材10は、例えば、厚さが均一の平板の金属板をプレス加工によって、所定の形状に切り抜かれ、折り曲げられて、平面視で略V字状に成形されている。なお、こはぜ部材10の成形方法は、上述したプレス加工によるものに限定されない。
【0031】
こはぜ部11は、平板部11aと、腕部11cと、を有している。平板部11aは、時計200のムーブメントにおいて、クラッチ上歯車120及びクラッチ下歯車50と平行な姿勢に配置されている。つまり、こはぜ部材10は、平板部11aの厚さ方向が、時計200の厚さ方向に一致した姿勢で、ムーブメントに配置される
【0032】
平板部11aには支持孔11bが形成されている。支持孔11bに、平板部11aに直交する軸が通されて、その軸が、時計200のムーブメントの地板等に固定される。これにより、こはぜ部11は、支持孔11bに通された軸の中心C1回りに回転自在に支持される。
【0033】
腕部11cは、平板部11aに直交するように下向きに折り曲げられて形成されている。腕部11cには、クラッチ爪11d(爪の一例)と、つば部11eとが形成されている。つば部11eは、クラッチ爪11dよりも、中心C1から遠い側で、腕部11cの先端側に形成されている。クラッチ爪11dは、腕部11cのうち、つば部11eよりも平板部11aに近い側に形成されている。
【0034】
こはぜ部材10は、時計200の厚さ方向において、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合う高さ範囲となるように、時計200のムーブメントに配置される。こはぜ部材10は、前述した中心C1回りの回転により、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態(図2,3参照)と、クラッチ爪11dと歯51との噛み合いが外れた状態(図4,5参照)と、の間で変位し得る。
【0035】
具体的には、クラッチ下歯車50が時計回り(矢印R方向)に回転することにより、クラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態(図3参照)のクラッチ爪11dは、クラッチ爪11dよりも回転方向の後側の歯51の前側を向いた歯面51aによって、クラッチ下歯車50の歯先円の外側に向けて押される。
【0036】
この押圧によって、こはぜ部11が、中心C1回りの反時計回り(矢印-R方向)に回転する。そして、クラッチ爪11dが、クラッチ下歯車50の歯51の歯先円よりも半径方向の外側に変位し、クラッチ爪11dとクラッチ下歯車50の歯51との噛み合いが外れた状態(図4,5)となり、クラッチ下歯車50の時計回り(矢印R方向)の回転を許容する。これにより、クラッチカナ81、減速車、角穴車を介して、香箱車の内部で巻かれていたぜんまいが巻き上げられる。
【0037】
一方、クラッチ下歯車50の反時計回り(矢印-R方向)の回転では、クラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態(図2参照)のクラッチ爪11dは、クラッチ爪11dよりも回転方向の後ろ側の歯51の歯面51bによって、クラッチ爪11dの先端が歯面51bに直交する方向に押される。これによって、こはぜ部11には、中心C1回りの時計回り(矢印R方向)の回転モーメントが生じるが、この回転モーメントは、クラッチ爪11dをクラッチ下歯車50の歯51の歯先円の外側に変位できない。
【0038】
したがって、クラッチ爪11dとクラッチ下歯車50の歯51とは噛み合った状態(図2,3)を維持し、クラッチ下歯車50の反時計回り(矢印-R方向)の回転は阻止される。これにより、香箱車の内部で巻かれていたぜんまいが巻き解かれる。
【0039】
つば部11eは、平板部11aの厚さ方向において、クラッチ爪11dよりも平板部11aから遠い側の先端に形成されている。具体的には、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合う高さ範囲となるように配置された状態で、つば部11eは、クラッチ下歯車50の下面(時計200の厚さ方向において、クラッチ上歯車120に対向した面(上面)とは反対側の面)側に、クラッチ下歯車50とは接触しないように配置される。
【0040】
これにより、つば部11eは、こはぜ部材10がクラッチ下歯車50に対して厚さ方向の上方に変位するとき、クラッチ下歯車50の厚さ方向の下面に突き当たって、こはぜ部材10が、それ以上、上方に変位するのを阻止する。そして、つば部11のクラッチ爪11dが、クラッチ下歯車50の上方に逃げることによりクラッチ爪11dと歯51との噛み合いが解除されるのを、防止する。
【0041】
したがって、こはぜ部材10が上方に変位するのを防止する目的で、こはぜ部材10を地板等にねじによって固定する必要が無く、地板等に固定された軸を、平板部11aの支持孔11bに通しただけで、こはぜ部材10を地板等に保持することができる。よって、こはぜ部材10を、地板等に固定するねじ部材が不要となる。
【0042】
なお、こはぜとこはぜばねとが別々の部品として構成されていた、本発明が適用されない従来の逆回転防止機構では、こはぜを地板等に固定するねじ部材と、こはぜばねを地板等に固定するねじ部材とが必要であった。したがって、逆回転防止機構100は、そのような従来の逆回転防止機構に比べて、2つのねじ部材を削減することができる。
【0043】
平板部11aには、腕部11cが形成された位置とは別の位置において、中心C1からの半径方向の外方に向けて突出した突起部11gが形成されている。この突起部11gは、指を掛けて、こはぜ部11を中心C1回りの反時計回りに回転させる操作を入力する部分である。
【0044】
突起部11gを矢印f1方向(図4,5参照)に押す操作により、こはぜ部11を、中心C1回りの反時計回り(矢印-R方向)に回転させ、クラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態(図2)のクラッチ爪11dを、クラッチ下歯車50の歯先円の外側に移動させて、クラッチ爪11dと歯51との噛み合いが解除された状態(図4,5)に切り替えることができる。
【0045】
なお、後述するように、こはぜばね部18の端部には、ばね押圧部である折り曲げ部18bが形成されていて、この折り曲げ部18bが、突起部11gと同様に、こはぜ部11を中心C1回りの反時計回りに回転させる操作を入力する部分として形成されている。したがって、折り曲げ部18bと同じ機能を奏し得る突起部11gは無くてもよい。
【0046】
平板部11aの、支持孔11bを挟んで腕部11cと反対側には、接続部11fが形成されている。接続部11fは、平板部11aと平行で、厚さ方向において、平板部11aに対して腕部11cとは反対側である上方に、段差を有して形成されている。接続部11fは、こはぜばね部18に接続される部分である。
【0047】
こはぜ部材10は、金属板を折り曲げて形成されているため、こはぜ部11とこはぜばね部18とは厚さが均一に(等しく)形成されている。また、こはぜ部11は、クラッチ下歯車50と略平行な面の面内方向の荷重に対しては、ほとんど弾性変形しない剛体として機能する。つまり、こはぜ部11は中心C1回りの荷重に対して剛体部である。
【0048】
したがって、図2~5に示すように、クラッチ下歯車50の歯51からクラッチ爪11dに、平板部11aの面に沿った方向の押圧力を受けても、こはぜ部11は弾性変形することがほとんどなく、受けた押圧力に応じた中心C1回りのトルクにより、剛体部として中心C1回りに回転する。
【0049】
こはぜばね部18は、接続部11fの端部から、接続部11fの面に直交する方向で、下向きに折り曲げられて形成されている。こはぜばね部18は、全体として、一定方向に直線状に延びて形成されている。こはぜばね部18は、こはぜ部11よりも長く形成されている。なお、こはぜばね部18は、こはぜ部11よりも短く形成されていてもよい。
【0050】
こはぜばね部18は、こはぜ部11とは異なり、クラッチ下歯車50と略平行な面の面内方向の荷重のうち、こはぜばね部18の延びた長手方向に交差する方向への荷重に対して、弾性的に撓む弾性部として機能する。
【0051】
こはぜばね部18は、ばね部18aと、当接部18cと、折り曲げ部18bと、接続部18dと、を有している。接続部18dは、こはぜばね部18のうち、こはぜ部11に最も近い側に形成されていて、こはぜ部11の接続部11fに繋がっている。接続部11fと接続部18dとが連なった部分が、こはぜ部材10の形状である略V字の頂角となる部分を形成している。
【0052】
ばね部18aは接続部18dに連なっていて、こはぜばね部18のうち、長手方向に直交する幅が他の部分よりも細く形成され、また、長手方向に沿った長さが他の部分よりも長く形成されている。この結果、ばね部18aは、こはぜばね部18の他の部分よりも、長手方向に交差する方向へ弾性変形し得る可撓性が最も高い(最も撓み易い)。
【0053】
当接部18cは、ばね部18aを挟んで接続部18dとは反対側、つまり、こはぜばね部18の端部側に、ばね部18aに連なって形成されている。当接部18cは、こはぜ部材10を時計200のムーブメントの所定位置に取り付けた状態(支持孔11bに軸を通して地板等に支持した状態)で、こはぜ部材10の平面視での略V字の外側に設けられたばね止め部80に当接する部分である。
【0054】
このとき、こはぜ部材10は、図2~5に示すように、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態となる。
【0055】
ばね止め部80は、ムーブメントの所定位置に取り付けられたこはぜ部材10の、ばね部18aが、こはぜ部材10の略V字の頂角を狭める方向に、弾性的に撓んだ状態(図2~5において、ばね部18aが下に凸となるように撓んだ状態)で、当接部18cに当接する位置に形成されている。
【0056】
これにより、こはぜ部材10は、中心C1回りの時計回り(矢印R方向)に回転する回転モーメントが付与された状態となり、したがって、所定位置に取り付けられたこはぜ部材10は、クラッチ爪11dを、クラッチ下歯車50の歯面51aに押し付ける方向(クラッチ下歯車50の半径方向の内側に向かう方向)に付勢した状態とされる。
【0057】
なお、ばね止め部80は、例えばムーブメントの地板に形成された不動の部分であり、当接部18cと接触した状態で当接部18cを滑らかに摺動させ得ることが好ましい。そこで、ばね止め部80は、当接部18cとの摺動性(滑り易さ)を高めるために、例えば円柱の周面で形成されていることが好ましい。
【0058】
折り曲げ部18bは、こはぜばね部18の、接続部18dとは反対側の端部に形成されている。折り曲げ部18bは、当接部18cに対して直交する方向に折り曲げられて形成されている。折り曲げ部18bは、指等によって、こはぜばね部18の長手方向の矢印f2方向(図4,5参照)に沿って押圧力を入力することができる部分である。
【0059】
折り曲げ部18bに、上述した矢印f2方向に沿った押圧力が入力されると、この押圧力は、こはぜばね部18の接続部18dを介して、こはぜ部11の接続部11fに入力される。そして、接続部11fに入力された押圧力は、こはぜ部11を含むこはぜ部材10に、中心C1回りの反時計回り(矢印-R方向)に回転させる回転モーメントを生じさせる。
【0060】
この回転モーメントにより、こはぜ部材10は、中心C1回りの反時計回りに回転し、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51の歯先円よりも外方に変位して、クラッチ爪11dと歯51との噛み合いが解除された状態(図4,5)となる。
【0061】
この結果、クラッチ下歯車50は、反時計回り(矢印-R方向)の規制が無くなり、クラッチカナ81が反時計回りに回転するのを許し、香箱車の内部で巻かれていたぜんまいが巻き解かれるのを許す。
【0062】
なお、上述した回転モーメントにより、こはぜ部材10が、中心C1回りの反時計回りに回転した状態では、こはぜばね部18のばね部18aが、図4,5において下に凸の、弾性的に撓んだ状態となり、撓みが無くなる方向への弾性力が生じた状態となっている。
【0063】
このため、折り曲げ部18bへ矢印f2方向に押圧力を掛けるのをやめると、撓みが無くなる方向への弾性力によって、撓む前の状態に戻り、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合った状態に戻る。これにより、香箱車の内部のぜんまいが巻き解かれるのを停止させる。
【0064】
(作用)
以上のように構成された本実施形態の時計200及び逆回転防止機構100によれば、クラッチ下歯車50の歯51には、図2,3に示すように、こはぜ部材10のクラッチ爪11dが係合し、ばね部18aの弾性力により、クラッチ爪11dは、歯51の歯面51aをクラッチ下歯車50の半径方向の内側に押圧している。つまり、こはぜばね部18が、こはぜ部11とクラッチ下歯車50とを、噛み合った状態に付勢している。
【0065】
ここで、時計200のムーブメントにおける香箱車のぜんまいを巻き上げるために、自動巻回転錘を回転させると、その回転が、クラッチ上歯車120に伝達される。クラッチ上歯車120は、ぜんまいの巻き上げ時には、図2~5において、時計回り(矢印R方向)に回転する。
【0066】
クラッチ上歯車120は、クラッチラチェット機構70を介してクラッチ下歯車50を同期して回転させる。したがって、クラッチ下歯車50も時計回り(矢印R方向)に回転する。
【0067】
ここで、クラッチ下歯車50の歯51は、上述したように、クラッチ爪11dによって回転を抑制するように押圧されているが、クラッチ下歯車50を回転させるトルクが、クラッチ爪11dによってクラッチ下歯車50の回転を抑制するトルクを上回ると、図4,5に示すように、クラッチ下歯車50の歯51の歯面51aがクラッチ爪11dを、クラッチ下歯車50の半径方向の外側に押し上げながら回転する。
【0068】
クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の半径方向の外側に押し上げられるとき、この押し上げの荷重は、こはぜ部11の面内方向の荷重に相当し、こはぜ部11は、この面内方向の荷重に対して剛体部であるため、クラッチ下歯車50から受ける押し上げの荷重により、こはぜ部11は、中心C1回りに反時計回り(矢印-R方向)に回転する。
【0069】
これにより、こはぜ部11の接続部11fは、図2,3に示した状態よりも、図示の上方に回転し、こはぜばね部18の図示の右端の接続部18dも図示の上方に回転する。このとき、こはぜばね部18の図示の左端側の当接部18cは、ばね止め部80に当接しているため、接続部18dの回転に従う図示下方への回転が阻止されている。
【0070】
したがって、こはぜばね部18は、当接部18cがばね止め部80に当接した状態で、接続部18dが上方に変位することで、ばね部18aが下に凸となるように弾性的に撓んだ状態となる。ばね部18aの撓みによって、こはぜ部材10には、中心C1回りの時計回り(矢印R方向)に回転させようとするトルクが発生した状態となる。
【0071】
そして、クラッチ下歯車50の歯51の歯面51aがクラッチ爪11dを、クラッチ下歯車50の歯先円の外側まで押し上げると、歯51が、クラッチ爪11dよりも、回転方向の前方に移動する。これにより、クラッチ爪11dは、歯51を乗り越えた状態となり、上述したばね部18aの撓みによるトルクにより、こはぜ部材10は、中心C1回りの時計回りに回転し、クラッチ爪11dは、前方に移動した歯51に後続する歯51の歯面51aに当接した状態となる。
【0072】
このようにして、クラッチ上歯車120の時計回りの回転による、ぜんまいの巻き上げを行うことができる。
【0073】
一方、自動巻回転錘を回転する動作を行っていないときは、クラッチ下歯車50は、時計回りに回転しないが、巻き上げたぜんまいによって、ぜんまいが解ける方向、すなわち、クラッチ下歯車50を反時計回り(矢印R方向)に回転させるようにトルクが作用する。
【0074】
しかし、クラッチ下歯車50が、反時計回りに回転しようとしても、こはぜ部材10のクラッチ爪11dの先端が、クラッチ下歯車50の歯51の歯面51bに突き当たり、歯面51bから、こはぜ部材10を時計回り(矢印R方向)に回転させる回転モーメントを受ける。
【0075】
したがって、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51に噛み合ったままの状態となり、クラッチ下歯車50が反時計回りに回転するのが阻止され、クラッチ下歯車50に固定されたクラッチカナ81の反時計回りの回転によるぜんまいの巻き解きが阻止される。
【0076】
以上、詳細に説明したように、本実施形態の時計200及び逆回転防止機構100によれば、こはぜ部11とこはぜばね部18とを一体に形成したこはぜ部材10によって、別体の、こはぜと、こはぜばねとで構成された逆回転防止機構と同じ機能を奏することができる。
【0077】
したがって、本実施形態の時計200及び逆回転防止機構100は、こはぜとこはぜばねとが別体で構成された逆回転防止機構に比べて、部品点数を低減することができる。
【0078】
また、本実施形態の時計200及び逆回転防止機構100は、厚さが均一の平板の金属板を所定の形状に切り抜き、折り曲げる、というプレス加工の工程によって、剛性部であるこはぜ部11と弾性部であるこはぜばね部18とが一体のこはぜ部材10を、簡単に製造することができる。したがって、本実施形態の逆回転防止機構100は、別個に形成した剛性部と弾性部とを一体化したものに比べて、製造コストを低減することができる。
【0079】
また、本実施形態の時計200及び逆回転防止機構100は、クラッチ爪11dがクラッチ下歯車50の歯51から、図6,7において軸C2の上方に外れるように、こはぜ部材10が時計200の厚さ方向に移動する(浮き上がる)とき、つば部11eが、クラッチ下歯車50の下面(図6において、クラッチ下歯車50の、クラッチ上歯車120に対向する面(上面)とは反対側の面)に突き当たり、クラッチ爪11dが歯51から外れる位置までこはぜ部材10が移動するのを阻止することができる。
【0080】
したがって、こはぜ部材10が、時計200の厚さ方向に移動するのを阻止する目的で、こはぜ部材10を地板等に固定するねじ等の固定部材を設ける必要が無い。つまり、つば部11eを備えないものでは、ねじ等の固定部材を用いて、こはぜ部材10を地板等に固定してこはぜ部材10が浮き上がるのを阻止する必要があるが、つば部11eを有する本実施形態のこはぜ部材10は、ねじ等の固定部材の設ける必要が無い。
【0081】
また、こはぜと、こはぜばねとが別体で構成された、本発明が適用されない逆回転防止機構においては、こはぜとは独立して、こはぜばねを、ねじ等の固定部材を用いて地板等に固定する必要があるが、本発明の逆回転防止機構は、こはぜ部とこはぜばね部とが一体に構成されているため、つば部によってこはぜ部の浮き上がりを阻止することで、こはぜばね部の浮き上がりも阻止することができ、こはぜばねの固定のための固定部材も不要となる。
【0082】
また、本実施形態の逆回転防止機構100は、こはぜばね部18に、折り曲げ部18bが形成されている。折り曲げ部18bは、指等によって押すことで、クラッチ爪11dとクラッチ下歯車50の歯51との噛み合いを解除して、クラッチカナ81の逆回転(ぜんまいの巻き解き方向(矢印-R方向)への回転)を許容する操作部として機能する。
【0083】
そして、折り曲げ部18bは、こはぜ部材10自体や、こはぜ部材10の少なくとも一部を覆うように重ねて設けられた周囲の部品を取り外すことなく、指等で押圧力を掛けることができるため、時計200の修理やオーバーホール等の目的で、ムーブメントを分解する際に、こはぜ部材10自体や周囲の部品を取り外す前に、予め、ぜんまいを巻き解くことができ、ぜんまいが巻き上げられたままで分解することによる作業の困難性を緩和することができる。
【0084】
本実施形態の逆回転防止機構100は、自動巻機構の一部を構成して角穴車と同期するクラッチ下歯車50と、こはぜ部材10とを組み合わせた構成であるが、こはぜ部材10が噛み合う歯車は、クラッチ下歯車50に限定されず、角穴車と同期して回転するものであればよい。したがって、逆回転防止機構100は、クラッチ下歯車50のように、クラッチ上歯車120と同軸C2上に設けられた歯車でなく、クラッチ上歯車120の噛み合うように構成された歯車と、その歯車の回転を規制するこはぜ部材10との組み合わせの構成であってもよい。
【0085】
本発明に係る逆回転防止機構は、角穴車と同期して回転する歯車と、こはぜ部材との組み合わせに限らず、角穴車自体の回転を直接、規制するこはぜ部材のみによって構成されたものでもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 こはぜ部材
11 こはぜ部
18 こはぜばね部
50 クラッチ下歯車(歯車)
100 逆回転防止機構
120 クラッチ上歯車
200 時計
C1 中心
C2 軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8