(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099418
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】異なる位置の生体信号の類似度から生体特性を判定する判定装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20240718BHJP
【FI】
G06Q10/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003351
(22)【出願日】2023-01-12
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【弁理士】
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 直
(72)【発明者】
【氏名】石川 雄一
(72)【発明者】
【氏名】中島 加惠
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 康
【テーマコード(参考)】
5L010
5L049
【Fターム(参考)】
5L010AA06
5L049AA06
(57)【要約】
【課題】複数のユーザに刺激情報を与えて得られた複数の生体信号について、異なる位置の生体信号の類似度から生体特性を判定する判定装置等を提供する。
【解決手段】判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する判定装置であって、第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と、第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、類似度が所定閾値を超えた際に、生体特性が一致していると判定する判定手段とを有する。当該判定装置は、生体特性として心理特性の一致を判定するものであり、生体信号として脳波信号を取得し、脳波信号同士の位相差同期度を算出する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する判定装置であって、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
類似度が所定閾値を超えた際に、生体特性が一致していると判定する判定手段と
を有することを特徴とする判定装置。
【請求項2】
第2の生体信号取得手段は、
第2のユーザにおける、第1の位置と異なる第2の位置で、第1の周波数帯と同じ第2の周波数帯の第2の生体信号を取得するか、
第2のユーザにおける、第1の位置と異なる第2の位置で、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯の第2の生体信号を取得するか、又は、
第2のユーザにおける、第1の位置と同じ第2の位置で、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯の第2の生体信号を取得する
ことを特徴とする請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
当該判定装置は、生体特性として心理特性の一致を判定するものであり、
第1の生体信号取得手段は、第1の生体信号として、第1のユーザの頭部における第1の脳波信号を取得し、
第2の生体信号取得手段は、第2の生体信号として、第2のユーザの頭部における第2の脳波信号を取得する
類似度算出手段は、第1の脳波信号及び第2の脳波信号における時系列同期の類似度を算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項4】
第1の脳波信号及び第2の脳波信号は、ヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルのウェアラブルデバイスに配置されたEEG(ElectroEncephaloGraphy)センサによって計測された信号である
ことを特徴とする請求項3に記載の判定装置。
【請求項5】
刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報であり、
第1の位置及び第2の位置は、五感の生体信号を検知可能な位置となる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項6】
類似度算出手段は、第1の生体信号及び第2の生体信号の位相差同期度を、類似度として算出する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項7】
複数のユーザ間における正解の人間関係を目的変数とし、当該複数のユーザ間で予め算出された類似度を説明変数として対応付けた教師データを事前に用意し、
教師データによって事前に訓練した上で、判定対象の複数のユーザにおける第1の生体信号及び第2の生体信号の類似度から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の判定装置。
【請求項8】
判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
類似度が高いほど、生体特性が一致していると判定する判定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項9】
判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する装置の判定方法であって、
当該装置は、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得すると共に、第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第1のステップと、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する第2のステップと、
類似度が高いほど、生体特性が一致していると判定する第3のステップと
を実行することを特徴とする判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のユーザに刺激情報を与えて得られる生体信号から、生体特性の一致を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば婚活サービスについて、男女を対象に、結婚するか否か、結婚した場合に幸福を感じるか否か、などを予測する技術がある(例えば非特許文献1参照)。
また、例えば電話営業について、企業側オペレータと顧客とのペアを対象に、営業の成否を予測する技術もある(例えば非特許文献2参照)。
更に、例えば企業、学校、軍隊などにおけるチーム決めについて、チームのパフォーマンスを予測する技術もある(例えば非特許文献3及び4参照)。
【0003】
これら非特許文献1~4によれば、複数のユーザにおける性格や価値観、知能指数などの様々な生体特性を、テストによって予め収集し、その結果から判定するものである。例えば非特許文献1によれば、婚活サービスの事業者が、予め用意した心理テストを利用者に回答させ、その結果の類似度からマッチングする男女の候補を選定している。心理テストでは、性格や価値観のみならず、知能指数など様々な生体特性を測定することができる。
【0004】
一方で、心理テストには、以下のような課題があった。
第1に、心理テストの回答には、意識又は無意識を問わず、様々なバイアスが含まれる。例えば、無意識に自分を良く見せようとする「社会適応性バイアス」や、自分の力を誇示したがる「名声バイアス」などがある。即ち、このようなバイアスによって、期待した予測精度が得られないという課題があった。
また、第2に、心理テストにおける質問文が多かったり、長文であったりする場合、複数のユーザにおける回答の質が劣化することがある。心理テストでは、ユーザ自ら質問文を読み、複数の選択肢を検討する必要があり、認知負荷が高いといえる。即ち、ユーザの認知力に応じて、期待した予測精度が得られないという課題があった。
【0005】
これに対し、対象となる複数のユーザに同一の刺激を与え、その際に得られた各ユーザの生体信号から、ユーザ間の友人関係を予測する技術がある(例えば非特許文献5参照)。この技術によれば、複数のユーザに動画像の刺激情報を与えて、磁気共鳴画像法(MRI:Magnetic Resonance Imaging)によって「脳活動量」(神経反応)を計測する。脳活動量を生体信号として、ユーザ間の友人関係を予測する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】SAITAMA出会いサポートセンター運営協議会 「恋たま」、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://koitama.jp/>
【非特許文献2】Akihiro Kobayashi, Yuichi Ishikawa, and Roberto Sebastian Legaspi. 2021. Psychographic Matching between a Call Center Agent and a Customer. In Proceedings of the 29th ACM Conference on User Modeling, Adaptation and Personalization (UMAP '21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 229-234.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://doi.org/10.1145/3450613.3456815>
【非特許文献3】Halfhill, T., Sundstrom, E., Lahner, J., Calderone, W., & Nielsen, T. M. (2005). Group personality composition and group effectiveness: An integrative review of empirical research. Small group research, 36(1), 83-105.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://www.researchgate.net/publication/237439485_Group_Personality_Composition_and_Group_Effectiveness_An_Integrative_Review_of_Empirical_Research>
【非特許文献4】Peeters, M. A., Van Tuijl, H. F., Rutte, C. G., & Reymen, I. M. (2006). Personality and team performance: a meta‐analysis. European journal of personality, 20(5), 377-396.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://research.utwente.nl/en/publications/personality-and-team-performance-a-meta-analysis>
【非特許文献5】Parkinson, Carolyn, Adam M. Kleinbaum, and Thalia Wheatley. "Similar neural responses predict friendship." Nature communications 9.1 (2018): 1-14.、[online]、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL:https://www.nature.com/articles/s41467-017-02722-7>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した非特許文献1~4のような人間関係の相性を推定する際に、非特許文献5のように脳活動量を計測することも想定される。しかし、脳活動量を計測するために、MRIのような高コストな設備が必要となるだけなく、制約された計測環境からユーザによっては性格的に計測できない場合もある。
【0008】
一方で、例えばスマートウォッチやスマートリングのようなウェアラブルデバイスでは、脳活動量以外の一般的な生体信号を比較的容易に計測することができる。生体信号の中でも例えば脳波信号の場合、ユーザの頭部にEEG(ElectroEncephaloGram)センサを接触させることによって、容易に計測することができる。
【0009】
ここで、生体信号から、人間関係の相性を推定することを想定する。その場合、複数のユーザへ、例えば五感に訴える刺激情報を与えて、その生体信号を計測するとする。「同じシーンで、同じ位置から計測された生体信号が、同じような信号形態である場合」、一般的に、人間関係の相性が良いと判定される。例えば脳波信号の場合、ユーザの頭部の同じ位置から計測された信号は、同じ五感系に基づくものと想定される。
【0010】
これに対し、本願の発明者らは、映画のような刺激情報は、感情として、音楽的に影響を受けるユーザもいれば、映像的に影響を受けるユーザもいるのではないか、と考えた。例えば脳波信号の場合、頭部における聴覚系の位置と視覚系の位置から、同じような信号形態が得られることとなる。その場合、同じような感情を得ており、生体特性として類似度は高いと判定することもできる。
即ち、本願の発明者らは、生体信号について、同じ位置から同じような信号形態が得られないとしても、異なる位置から同じような信号形態が得られる場合、同じような生体特性であると判定できるではないか、と考えた。
【0011】
そこで、本発明は、複数のユーザに刺激情報を与えて得られた複数の生体信号について、異なる位置の生体信号の類似度から生体特性を判定する判定装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する判定装置であって、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
類似度が所定閾値を超えた際に、生体特性が一致していると判定する判定手段と
を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
第2の生体信号取得手段は、
第2のユーザにおける、第1の位置と異なる第2の位置で、第1の周波数帯と同じ第2の周波数帯の第2の生体信号を取得するか、
第2のユーザにおける、第1の位置と異なる第2の位置で、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯の第2の生体信号を取得するか、又は、
第2のユーザにおける、第1の位置と同じ第2の位置で、第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯の第2の生体信号を取得する
ことも好ましい。
【0014】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
当該判定装置は、生体特性として心理特性の一致を判定するものであり、
第1の生体信号取得手段は、第1の生体信号として、第1のユーザの頭部における第1の脳波信号を取得し、
第2の生体信号取得手段は、第2の生体信号として、第2のユーザの頭部における第2の脳波信号を取得し、
類似度算出手段は、第1の脳波信号及び第2の脳波信号における時系列同期の類似度を算出する
ことも好ましい。
【0015】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
第1の脳波信号及び第2の脳波信号は、ヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルのウェアラブルデバイスに配置されたEEG(ElectroEncephaloGraphy)センサによって計測された信号である
ことも好ましい。
【0016】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報であり、
第1の位置及び第2の位置は、五感の生体信号を検知可能な位置となる
ことも好ましい。
【0017】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
類似度算出手段は、第1の生体信号及び第2の生体信号の位相差同期度を、類似度として算出する
ことも好ましい。
【0018】
本発明の判定装置における他の実施形態によれば、
複数のユーザ間における正解の人間関係を目的変数とし、当該複数のユーザ間で予め算出された類似度を説明変数として対応付けた教師データを事前に用意し、
教師データによって事前に訓練した上で、判定対象の複数のユーザにおける第1の生体信号及び第2の生体信号の類似度から、人間関係を予測する人間関係予測エンジンと
を有することも好ましい。
【0019】
本発明によれば、判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する第1の生体信号取得手段と、
第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第2の生体信号取得手段と、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する類似度算出手段と、
類似度が高いほど、生体特性が一致していると判定する判定手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する装置の判定方法であって、
当該装置は、
第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得すると共に、第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する第1のステップと、
第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する第2のステップと、
類似度が高いほど、生体特性が一致していると判定する第3のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明における判定装置、プログラム及び方法によれば、複数のユーザに刺激情報を与えて得られた複数の生体信号について、異なる位置の生体信号の類似度から生体特性を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明における第1のシステム構成図である。
【
図2】本発明における第2のシステム構成図である。
【
図3】本発明について脳波信号を取得するセンサを表す説明図である。
【
図4】本発明における判定装置の機能構成図である。
【
図5】複数のユーザから取得された脳波信号を表す説明図である。
【
図7】人間関係の予測が可能な判定装置の機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明における第1のシステム構成図である。
【0025】
図1のシステムによれば、判定装置1と、複数のユーザの生体信号を計測可能なウェアラブルデバイス2とを有する。ウェアラブルデバイス2は、判定対象となるユーザそれぞれに装着される。また、ウェアラブルデバイス2によって計測された生体信号は、判定装置1へ送信される。
【0026】
尚、実施形態の中では主に、生体信号は、例えば「脳波信号」であるとして説明するが、勿論、例えば心拍数、血中酸素濃度、皮膚温、血圧、発汗量、活動量、ストレスレベルなどであってもよい。
また、実施形態の中では主に、生体信号が脳波信号である場合、ウェアラブルデバイス2は、「ヘッドセット」であるとして説明するが、勿論、生体信号が心拍数等である場合、ウェアラブルデバイス2は、例えばスマートウォッチ又はスマートリングのようなものとなる。
【0027】
<ウェアラブルデバイス2>
ウェアラブルデバイス2は、ヒトに接触し、生体信号を計測するデバイスである。
生体信号として脳波信号を計測する場合、ウェアラブルデバイス2は、例えばヘッドセット、スマートグラス、イヤホン又はゴーグルのようなものとなる。ウェアラブルデバイス2に配置されたEEGセンサが、ヒトの頭部に接触し、脳波信号を計測する。勿論、EEGセンサが接触する位置としては、耳や顔であってもよい。
【0028】
図1によれば、ウェアラブルデバイス2は、例えばbluetooth(登録商標)を介してスマートフォンと接続し、当該スマートフォンへ、計測した脳波信号を送信する。
スマートフォンは、ウェアラブルデバイス2から脳波信号を常時受信し、それら脳波信号を、ネットワークを介して判定装置1へ転送する。また、ウェアラブルデバイス2がネットワークを介した通信機能を有する場合には、生体信号は、スマートフォンを経由させずに、ウェアラブルデバイス2から判定装置1へ直接的に送信されるようにしてもよい。
【0029】
図2は、本発明における第2のシステム構成図である。
【0030】
図2によれば、判定装置1の機能が、スマートフォンに、所定のアプリケーションとして組み込まれたものである。これによって、ネットワークを介することなく、ユーザに所持されるスマートフォンのみで、生体特性を判定することができる。
【0031】
図3は、本発明について脳波信号を取得するセンサを表す説明図である。
【0032】
図3によれば、複数のユーザに、同一の刺激情報(コンテンツ)が与えられているとする。
刺激情報は、視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚からなる五感のいずれか又はそれらの組み合わせに基づく時系列の情報である。即ち、連続した一定時間、対象となる複数のユーザに与え続けられる刺激となる。
【0033】
尚、実施形態の中では、ユーザは2人として説明するが、勿論、3人以上のグループであってもよい。また、同一の刺激情報は、判定対象となる複数のユーザに、必ずしも同時に与えられる必要もない。ユーザ毎に、同一の刺激情報を与えて生体信号を計測できればよい。
【0034】
刺激情報は、具体的には、以下のようなものである。
視覚に対しては、映画、オンライン動画や、デジタル書籍、電子新聞などがある。
聴覚に対しては、音楽やラジオニュース, 朗読コンテンツなどがある。
嗅覚に対しては、香水やアロマセラピーなどがある。
味覚に対しては、調味料や料理などがある。
触覚に対しては、マッサージチェアによるマッサージなどがある。
これら五感の組み合わせとしては、所定のコースにおける散歩やジョギングなどもある。
【0035】
図3によれば、複数のユーザは、例えば映画を視聴しているとする。また、ユーザはそれぞれ、ウェアラブルデバイス2としてヘッドセットを、頭部に装着している。ウェアラブルデバイス2には、複数の異なる位置に複数のセンサ21が配置されている。センサ21によって計測された脳波信号は、判定装置1へ送信される。
尚、脳波信号は、複数のユーザに与えられる時系列の刺激情報と同期して取得される。
【0036】
図4は、本発明における判定装置の機能構成図である。
【0037】
<判定装置1>
判定装置1は、判定対象の複数のユーザに刺激情報を与えて、生体特性の一致を判定する。
図4によれば、判定装置1は、第1の生体信号取得部111と、第2の生体信号取得部112と、類似度算出部12と、判定部13とを有する。これら機能構成部は、判定装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現される。また、これらの機能構成部の処理の流れは、装置の判定方法としても理解できる。
尚、
図4で説明する判定装置1のソフトウェア的な処理は、スマートフォンの所定のアプリケーションで実行されるものであってもよい。
【0038】
[第1の生体信号取得部111]
第1の生体信号取得部111は、第1のユーザにおける第1の位置及び/又は周波数帯の第1の生体信号を取得する。生体信号が例えば脳波信号である場合、第1の生体信号取得部111は、第1のユーザの頭部における第1の位置のセンサによって計測された第1の脳波信号を取得する。
【0039】
[第2の生体信号取得部112]
第2の生体信号取得部112は、第2のユーザにおける、第1の位置及び/又は周波数帯とは異なる第2の位置及び/又は周波数の第2の生体信号を取得する。生体信号が例えば脳波信号である場合、第2の生体信号取得部112は、第2のユーザの頭部における第2の位置のセンサによって計測された第2の脳波信号を取得する。
尚、ユーザが3人以上の場合、第n(n≧3)の生体信号取得部を必要とすると共に、それら3つ以上の生体信号から生体特性の一致が判定される。
【0040】
生体信号の周波数帯が1~40Hzである場合、例えば以下の4つの周波数帯に分解するものであってもよい。
δ波:1~4Hz
θ波:4~8Hz
α波:8~12Hz
β波:12~30Hz
【0041】
ここで、第2の生体信号取得部112は、第1のユーザにおける第1の生体信号に対して、以下のいずれかの実施形態で、第2のユーザにおける第2の生体信号を取得する。
<第1の実施形態>
第2のユーザにおける、「第1の位置と異なる第2の位置」で、「第1の周波数帯と同じ第2の周波数帯」の第2の生体信号を取得する。
<第2の実施形態>
第2のユーザにおける、「第1の位置と異なる第2の位置」で、「第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯」の第2の生体信号を取得する。
<第3の実施形態>
第2のユーザにおける、「第1の位置と同じ第2の位置」で、「第1の周波数帯と異なる第2の周波数帯」の第2の生体信号を取得する。
【0042】
図5は、複数のユーザから取得された脳波信号を表す説明図である。
【0043】
図5によれば、前述した<第1の実施形態>として、第1のユーザ及び第2のユーザによって計測された脳波信号について、時間経過に伴う振幅の波形として表現されている。
第1のユーザ: 第1のセンサFz1->聴覚系位置(α波)
第1のユーザ: 第2のセンサOz1->視覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第1のセンサFz2->聴覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第2のセンサOz2->視覚系位置(α波)
第1のセンサ及び第2のセンサは、例えば五感の脳波信号を検知可能な位置に配置されることが好ましい。
【0044】
[類似度算出部12]
類似度算出部12は、第1の生体信号及び第2の生体信号における時系列同期の類似度を算出する。生体信号が例えば脳波信号である場合、類似度算出部12は、第1の脳波信号及び第2の脳波信号における時系列同期の類似度を算出する。勿論、類似度算出部12は、例えば脳波信号と心拍数との時系列同期の類似度を算出するものであってもよい。
【0045】
類似度算出部12は、第1の生体信号及び第2の生体信号の位相差同期度(例えばPLV(Single-trial Phase Locking Value))を、類似度として算出するものであってもよい。位相差同期度とは、2つ(複数)の生体信号について、計測点間で特定帯域成分の位相差を、時間平均したものである。
【0046】
各生体信号の各周波数帯(δ波、θ波、α波、β波)について、以下のように位相差同期度を算出する。
PLV=|Σn=1
N exp(j(ψ1
f[n]-ψ2
f[n]))/N| (0 ≦ PLV ≦ 1)
ψ1
f[n]:第1のユーザにおける脳波信号fのサンプリングポイントnの瞬時位相
ψ2
f[n]:第2のユーザにおける脳波信号fのサンプリングポイントnの瞬時位相
N :刺激情報の開始から終了までの全サンプリング数
ここで、全サンプリングポイントにおけるψ1
f及びψ2
fの位相差が一定であれば1に近づき、ばらけていれば0に近づく。即ち、PLVが高いほど、脳波信号の類似度は高い、といえる。
【0047】
【0048】
図6(a)によれば、2人のユーザにおける同じ位置で且つ同じ周波数帯の脳波信号を比較したもの(従来技術)である。
(a1) 第1のユーザ: 第1のセンサFz1->聴覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第1のセンサFz2->聴覚系位置(α波)
(a2) 第1のユーザ: 第2のセンサOz1->視覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第2のセンサOz2->視覚系位置(α波)
しかしながら、
図6(a)によれば、第1のユーザと第2ユーザとは、聴覚系の脳波信号同士と視覚系の脳波信号同士とは異なっている。
【0049】
これに対し、
図6(b)によれば、前述した<第1の実施形態>に基づくものであって、2人のユーザにおける異なる位置で且つ同じ周波数帯の脳波信号を比較したもの(本発明)である。
(b1) 第1のユーザ: 第1のセンサFz1->聴覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第2のセンサOz2->視覚系位置(α波)
(b2) 第1のユーザ: 第2のセンサOz1->視覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第1のセンサFz2->聴覚系位置(α波)
図6(b)によれば、第1のユーザと第2ユーザとは、聴覚系の脳波信号と視覚系の脳波信号とが相互に類似している。例えば、第1のユーザは聴覚的に刺激を受けているのに対して、第2のユーザは視覚的に刺激を受けている(又はその逆)ことが理解できる。
【0050】
勿論、前述した<第2の実施形態>として、2人のユーザにおける異なる位置で且つ異なる周波数帯の脳波信号を比較したものであってもよい。
(c1) 第1のユーザ: 第1のセンサFz1->聴覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第2のセンサOz2->視覚系位置(θ波)
(c2) 第1のユーザ: 第2のセンサOz1->視覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第1のセンサFz2->聴覚系位置(θ波)
また、前述した<第3の実施形態>として、2人のユーザにおける同じ位置で且つ異なる周波数帯の脳波信号を比較したものであってもよい。
(d1) 第1のユーザ: 第1のセンサFz1->聴覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第1のセンサFz2->聴覚系位置(θ波)
(d2) 第1のユーザ: 第2のセンサOz1->視覚系位置(α波)
第2のユーザ: 第2のセンサOz2->視覚系位置(θ波)
【0051】
[判定部13]
判定部13は、類似度が所定閾値を超えた際に、生体特性が一致していると判定する。具体的には、類似度が位相差同期度PLVである場合、例えば閾値0.7を超えた際に、生体特性における心理特性が一致していると判定することができる。
その判定結果は、アプリケーションによって処理可能となる。
【0052】
図7は、人間関係の予測が可能な判定装置の機能構成図である。
【0053】
図7によれば、
図4と比較して、人間関係予測エンジン14を更に有する。人間関係予測エンジン14は、機械学習エンジンであって、教師データにおける訓練段階と、予測対象データにおける運用段階とを実行する。
【0054】
[人間関係予測エンジン14]
<教師データ>
教師データは、複数のユーザ間における正解の「人間関係」を目的変数とし、当該複数のユーザ間で予め算出された「類似度」を説明変数として対応付けたものある。
【0055】
「人間関係」については、教師データとなる複数のユーザについて、アンケートなどによって予め収集した正解のデータである。
「類似度」については、教師データとなる複数のユーザについて、同一の刺激情報を与えて計測された生体信号から、予め算出されたものである。具体的には、前述した位相差同期度であってもよい。
【0056】
判定対象の人間関係は、以下のように様々関係が想定される。
・夫 -妻 :結婚する/しない、結婚満足度
・上司-部下 :部下の業務パフォーマンスやエンゲージメント
・先生-生徒 :生徒の成績
・医師-患者 :疾患からの回復
・コーチ-アスリート:パフォーマンス
尚、人間関係としては、人間関係自体の項目に限られず、人間関係の心理特性の一致度合いであってもよい。例えば人間関係が「夫-妻」である場合における結婚満足度であってもよい。
【0057】
教師データにおける他の実施形態として、目的変数として、「類似度」に加えて、判定対象のユーザそれぞれの「個人属性」を更に含むことも好ましい。人間関係(例えば結婚する/しない)を予測する場合、同一の刺激情報(コンテンツ)であっても、例えば年齢(年齢差)や学歴などによって、得られる生体信号から算出される類似度も異なるものとなる場合があるためである。
【0058】
<訓練段階>
人間関係予測エンジン14は、教師データによって事前に訓練する。
例えば目的変数が「結婚する/しない」のような項目である場合、人間関係予測エンジン14は、ロジスティック回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
また、例えば目的変数が「結婚満足度」のような度合いである場合、人間関係予測エンジン14は、線形重回帰モデルとして訓練するものであってもよい。
勿論、これらの機械学習アルゴリズムに限られず、多層パーセプトロン(MLP:MultiLayer Perceptron)のようなものであってもよい。
【0059】
<運用段階>
人間関係予測エンジン14は、判定対象の複数のユーザにおける第1の生体信号及び第2の生体信号の類似度(例えば位相差同期度)から、人間関係を予測する。
【0060】
尚、訓練段階で用いられる教師データの「類似度」が算出された刺激情報(コンテンツ)と、運用段階で複数のユーザに与えられる刺激情報とは、同一のものであることが好ましい。人間関係予測エンジン14は、運用段階で複数のユーザに与えられる刺激情報に応じて、教師データを得るために複数のユーザに与えられる刺激情報が選択されて訓練されるものであってもよい。即ち、人間関係予測エンジン14が、刺激情報毎に構築されるものであってもよい。
【0061】
以上、詳細に説明したように、本発明における判定装置、プログラム及び方法によれば、複数のユーザに刺激情報を与えて得られた複数の生体信号について、異なる位置の生体信号の類似度から生体特性を判定することができる。
また、生体特性となる心理特性を判定するために、生体信号として、比較的計測が容易な脳波信号を用いることもできる。
【0062】
本発明によれば、ユーザに対する心理テストを必要としないために、ユーザの無意識なバイアスが入る余地も少なく、ユーザの認知力に頼ることもない。また、ユーザは、例えば映画のようなコンテンツを刺激情報として視聴するだけでよく、脳波信号のような生体信号も、簡易に取得可能となり、ユーザの負担も少ない。
【0063】
本発明によれば、人間関係の相性を推定するサービスに利用することもできる。例えば男女の相性や、結婚する/しない及び結婚満足度を予測することもできる。勿論、上司-部下など様々な人間関係の相性を推定することもできる。
また、リアルな人間関係の相性に限られず、オンライン(カスタマーサポート)での人間関係の相性も推定することができる。
更に、人同士に限らず、人とバーチャルヒューマン(会話型AI)との相性を推定することもできる。バーチャルヒューマンが、そのユーザの相性に合わせて、応答文を選択することもできる。
このような効果を奏する本発明によれば、LX(Life Transformation)における利用が可能となる。
【0064】
尚、これにより、例えば「人間関係の生体特性の類似度を判定することができる」ことから、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)の目標8「すべての人々のための包摂的かつ持続可能な経済成長、雇用およびディーセント・ワークを推進する」に貢献することが可能となる。
【0065】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0066】
1 判定装置
111 第1の生体信号取得部
112 第2の生体信号取得部
12 類似度算出部
13 判定部
14 人間関係予測エンジン
2 ウェアラブルデバイス
21 センサ