(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099431
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/20 20060101AFI20240718BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240718BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240718BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240718BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B60C9/20 G
B60C1/00 A
B60C1/00 C
B60C11/00 D
C08L21/00
C08L91/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003373
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢嶋 亮
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA15
3D131BA03
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB01
3D131BC36
3D131DA34
3D131EA02U
3D131EA10U
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC051
4J002AC061
4J002AC081
4J002AC111
4J002AE002
4J002AE052
4J002EH046
4J002FD022
4J002FD026
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】新品時および劣化後において、ベルト層とカーカスの剥離が生じにくいタイヤを提供すること。
【解決手段】トレッド部およびベルト層を有するタイヤであって、ベルト層はベルトトッピングゴムを有し、トレッド部およびベルトトッピングゴムがそれぞれゴム成分および植物油を含有するゴム組成物により構成され、トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をT(質量部)、ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をB(質量部)としたとき、T/Bが1.0超であり、トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を30℃E*T、ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率を70℃E*Bとしたとき、70℃E*B/30℃E*Tが1.0超である、タイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部およびベルト層を有するタイヤであって、
前記ベルト層はベルトトッピングゴムを有し、
前記トレッド部および前記ベルトトッピングゴムがそれぞれゴム成分および植物油を含有するゴム組成物により構成され、
前記トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をT(質量部)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をB(質量部)としたとき、T/Bが1.0超であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を30℃E*T、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率を70℃E*Bとしたとき、70℃E*B/30℃E*Tが1.0超である、タイヤ。
【請求項2】
Bが5質量部未満である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)が0.13以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδB)が0.13以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項5】
T/Bが8.0未満である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項6】
T/Bが4.0超である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項7】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)が0.20以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)に対する前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)の比(0℃tanδT/30℃tanδT)が1.0以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項9】
前記トレッド部を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAET(質量%)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAEB(質量%)としたとき、AET-AEBが10.0質量%以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項10】
前記トレッド部の30℃における複素弾性率を30℃E*T(MPa)、前記ベルトトッピングゴムの30℃における複素弾性率を30℃E*B(MPa)としたとき、30℃E*T/30℃E*Bが0.35以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項11】
前記トレッド部の全厚みt(mm)とTとの積(t×T)が100以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを長期間使用することによって、タイヤが劣化し、亀裂や剥離等の損傷が発生することがある。これらの損傷は、タイヤの長寿命を阻害する。タイヤの損傷としては、ベルト層とカーカス(コード)との剥離が特に高頻度で発生する。そこで、耐剥離性能に優れたタイヤが求められている。
【0003】
例えば、特許文献1では、自動二輪車用空気入りタイヤのトレッドゴムにおいて、ショルダーゴム層のオイル成分の含有量をベースゴム層のオイル成分の含有量よりも多くすることによって、タイヤの耐久性能を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、乗用車用タイヤの耐剥離性能については、検討が進んでいない。そこで、本発明は、新品時および劣化後において、ベルト層とカーカスの剥離が生じにくいタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のタイヤに関する。
トレッド部およびベルト層を有するタイヤであって、
前記ベルト層はベルトトッピングゴムを有し、
前記トレッド部および前記ベルトトッピングゴムがそれぞれゴム成分および植物油を含有するゴム組成物により構成され、
前記トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をT(質量部)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をB(質量部)としたとき、T/Bが1.0超であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を30℃E*T、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率を70℃E*Bとしたとき、70℃E*B/30℃E*Tが1.0超である、タイヤ。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新品時および劣化後において、ベルト層とカーカスの剥離が生じにくいタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤのトレッド部およびベルト層の一部が示された断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0010】
本発明のタイヤは、トレッド部およびベルト層を有するタイヤであって、前記ベルト層はベルトトッピングゴムにより被覆されており、前記トレッド部および前記ベルトトッピングゴムがそれぞれゴム成分および植物油を含有するゴム組成物により構成され、前記トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をT(質量部)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をB(質量部)としたとき、T/Bが1.0超であり、前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を30℃E*T、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率を70℃E*Bとしたとき、70℃E*B/30℃E*Tが1.0超である、タイヤである。
【0011】
本発明のタイヤは、新品時および劣化後において、ベルト層とカーカスの剥離が生じにくい。その理由については、理論に拘束されることは意図しないが、以下のように考えられる。すなわち、(1)植物油は不飽和結合を豊富に含むため、トレッド部およびベルトトッピングゴムを構成するそれぞれのゴム組成物が植物油を含有することによって、硫黄成分により生じるゴム組成物の劣化をそれぞれ抑制することができる。また、(2)トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量を、ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量よりも大きくすることで、トレッド部からベルトトッピングゴムへの植物油の経時的な移行を抑制することができる。(3)植物油のベルトトッピングゴムへの移行が抑制されることによって、ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の劣化を防げるため、ベルト層とカーカスの剥離が抑制される。さらに、(4)トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を、ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率より小さくすることで、トレッド部の剛性よりもベルトトッピングゴムの剛性が高くなり、タイヤ転動時におけるベルト層の歪みが小さくなり、ベルト層とカーカスの接着界面の劣化が抑制される。そして、これらが協働することで、新品時および劣化後において、ベルト層とカーカスの剥離が生じにくいタイヤが提供されるという、特筆すべき効果が達成されると考えられる。
【0012】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)は0.13以上であることが好ましい。
【0013】
30℃tanδTを0.13以上とすることにより、トレッド部の剛性が担保され、タイヤの劣化が抑制され、より剥離が生じにくくなると考えられる。
【0014】
前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδB)は0.13以上であることが好ましい。
【0015】
70℃tanδBを0.13以上とすることにより、ベルトトッピングゴムの剛性が担保され、タイヤ転動時におけるベルト層の歪みが小さくなり、ベルト層とカーカスの接着界面の劣化が抑制されると考えられる。
【0016】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)は0.20以上であることが好ましい。
【0017】
0℃tanδTはトレッド部表面でのすべりによる発熱に寄与すると考えられる。タイヤは走行時に路面との間で、高周波数ですべりを生じていると考えられる。そのため、0℃tanδTを前記の範囲とすることで、トレッド部表面での植物油の溶解性を向上させ、ベルトトッピングゴムへの植物油の移行を抑制することができると考えられる。
【0018】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)と前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)との比(0℃tanδT/30℃tanδT)は1.0以上であることが好ましい。
【0019】
0℃tanδT/30℃tanδTを前記の範囲とすることで、トレッド部内部での植物油の過剰な保持を抑制し、トレッド部表面へ移行しやすくなり、ベルトトッピングゴムへ植物油が移行することをさらに抑制できると考えられる。
【0020】
前記トレッド部を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAET(質量%)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAEB(質量%)としたとき、AET-AEBは10.0質量%以下であることが好ましい。
【0021】
AET-AEBを前記の範囲とすることで、植物油がトレッド部からベルトトッピングゴムへ移行することを抑制しやすくすることができると考えられる。
【0022】
前記トレッド部の30℃における複素弾性率を30℃E*T(MPa)、前記ベルトトッピングゴムの30℃における複素弾性率を30℃E*B(MPa)としたとき、30℃E*T/30℃E*Bは0.35以下であることが好ましい。
【0023】
30℃E*T/30℃E*Bを前記の範囲とすることにより、トレッド部とベルトトッピングゴムでの植物油の濃度勾配を得やすくすることができると考えられる。
【0024】
前記トレッド部の全厚みt(mm)とTとの積(t×T)は100以上であることが好ましい。
【0025】
t×Tを前記の範囲とし、トレッド部の厚みが薄くても植物油の含有量を上げることにより、トレッド部からベルトトッピングゴムへの植物油の移行を抑制しやすくすることができると考えられる。
【0026】
<定義>
トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量T(質量部)は、トレッド部が2層以上のゴム組成物から構成される場合には、トレッド部を構成する各ゴム層について、それぞれ、ゴム成分100質量部に対する植物油の含有量(質量部)にトレッド部の全厚みtに対する各ゴム層の厚み(%)を乗じて得られる値を算出し、それら値を総和した値である。具体的にはΣ(各ゴム層のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量(質量部)×トレッド部の全厚みに対する各ゴム層の厚み(%)/100)により算出される。
【0027】
「トレッド部の全厚みt」とは、タイヤを、タイヤ回転軸を含む面で切断した断面において、タイヤ赤道面上で測定されるトレッド部の最表面からバンドのタイヤ半径方向最外部(バンドが存在しない場合には、ベルト層の最外部)までの直線距離をいう。タイヤ赤道面上に周方向溝を有する場合においては、タイヤ赤道面に最も近い陸部のタイヤ幅方向中央におけるトレッド部最表面からバンドのタイヤ半径方向最外部までの直線距離をいう。タイヤ赤道面に最も近い陸部が2つ存在する場合には、2つの陸部のトレッド部表面からバンドのタイヤ半径方向最外部までの直線距離の平均値とする。「タイヤ赤道面に最も近い陸部」とは、タイヤ赤道面CLに存在する周方向溝の、タイヤ赤道面に最も近い溝縁を有する陸部を指すものとする。
【0028】
「トレッド部のアセトン抽出量AET」は、トレッド部が2層以上である場合には、トレッド部を構成する各ゴム層について、それぞれ、アセトン抽出量(質量%)にトレッド部の全厚みに対する各ゴム層の厚み(%)を乗じて得られる値を算出し、それら値を総和した値である。具体的にはΣ(各ゴム層のアセトン抽出量(質量%)×全厚みに対する各ゴム層の厚み(%)/100)により算出される。
【0029】
<測定方法>
「30℃E*」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される複素弾性率である。測定用サンプルは、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤから切り出して作製する場合には、タイヤのトレッド部またはベルトトッピングゴムから、タイヤ周方向が長辺、タイヤ半径方向が厚さ方向となるように切り出す。
【0030】
「70℃E*」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される複素弾性率である。本測定用サンプルは、30℃E*の場合と同様にして作製される。
【0031】
「30℃tanδ」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。本測定用サンプルは、30℃E*の場合と同様にして作製される。
【0032】
「70℃tanδ」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪±1%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。本測定用サンプルは、30℃E*の場合と同様にして作製される。
【0033】
「0℃tanδ」は、動的粘弾性測定装置(例えば、GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度0℃、周波数10Hz、初期歪10%、動歪±2.5%、伸長モードの条件下で測定される損失正接である。本測定用サンプルは、30℃E*の場合と同様にして作製される。
【0034】
「アセトン抽出量」は、JIS K 6229:2015に準拠して各加硫ゴム試験片を72時間アセトンに浸漬して可溶成分を抽出し、抽出前後の各試験片の質量を測定し、下記式により求めることができる。
(アセトン抽出量(質量%))={(抽出前のゴム試験片の質量-抽出後のゴム試験片の質量)/(抽出前のゴム試験片の質量)}×100
【0035】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される値であり、例えば、SBR等のスチレンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。「シス含量(シス-1,4-結合ブタジエン単位量)」は、JIS K 6239-2:2017に従い、赤外吸収スペクトル分析により算出される値であり、例えば、BR等のブタジエンに由来する繰り返し単位を有するゴム成分に適用される。
【0036】
「重量平均分子量(Mw)」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(例えば、東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0037】
「カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、JIS K 6217-2:2017に準じて測定される。「シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0038】
「樹脂成分の軟化点」は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0039】
本発明の上記物性値および関係式は、製造直後のタイヤまたは製造直後から1年以内かつ新品未使用のタイヤにおける値や関係を示す。
【0040】
本発明の一実施形態に係るタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。
【0041】
[タイヤ]
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態に係るタイヤを説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明のタイヤは、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0042】
図1には、タイヤの周方向に対して垂直な断面の一部が示されている。
図1において、上下方向がタイヤ半径方向であり、左右方向がタイヤ軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤ周方向である。
【0043】
本発明のタイヤは、走行時に地面と接触するトレッド部1を有し、そのタイヤ半径方向内側にベルトトッピングゴムを有する少なくとも1層のベルト層2を有している。ベルト層2の下部には、カーカス9およびインナーライナー7が積層されている。ベルト層は1層であっても2層以上であってもよいが、2層であることが好ましく、
図1では、ベルト層2は2層に積層されている。
【0044】
本発明のトレッド部1は、少なくとも1つのゴム層を有する。本発明のトレッド部は、単一のゴム層により構成されていてもよく、2層以上のゴム層を有していてもよいが、2層以上のゴム層を有することが好ましい。該ゴム層の構成は、特に制限されないが、例えば、
図1では、バンド11のタイヤ半径方向外側に隣接するベースゴム層4と、トレッド面を構成するキャップゴム層3を有する。またキャップゴム層3とベースゴム層4の間にさらに1以上の中間ゴム層を有していてもよい。
【0045】
本発明において、トレッド部1の全厚みtは特に限定されないが、30mm以下が好ましく、25mm以下がより好ましく、20mm以下がさらに好ましく、15mm以下が特に好ましい。また、トレッドの全厚みは、3.0mm以上がより好ましく、5.0mm以上がより好ましく、7.0mm以上がさらに好ましい。
【0046】
トレッド部1の全厚みtに対するキャップゴム層2の厚みは、本発明の効果の観点から20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、40%以上がさらに好ましく、50%以上がさらに好ましく、60%以上が特に好ましい。一方、トレッド部1の全厚みに対するキャップゴム層2の厚みの上限値は特に制限されないが、例えば、100%、99%以下、95%以下、90%以下とすることができる。
【0047】
ベースゴム層4が存在する場合のトレッド部1の全厚みtに対する厚みは、本発明の効果の観点から、1%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。一方、トレッド部1の全厚みtに対するベースゴム層4の厚みは、80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましく、50%以下がさらに好ましく、40%以下が特に好ましい。
【0048】
中間ゴム層が存在する場合のトレッド部1の全厚みtに対する厚みは、特に制限されないが、例えば1%以上、5%以上、10%以上、30%以下、25%以下、20%以下とすることができる。
【0049】
トレッド部の全厚みt(mm)とトレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量T(質量部)との積(t×T)は、30以上が好ましく、40以上がより好ましく、50以上がさらに好ましく、80以上がさらに好ましく、100以上がさらに好ましく、110以上が特に好ましい。また、t×Tは、450以下が好ましく、400以下がより好ましく、350以下がさらに好ましい。
【0050】
≪30℃E*T≫
トレッド部1を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率(30℃E*T)は、5.0MPa以上が好ましく、5.5MPa以上がより好ましく、5.8MPa以上がさらに好ましく、6.0MPa以上が特に好ましい。また、30℃E*Tは、9.0MPa以下が好ましく、8.5MPa以下がより好ましく、8.0MPa以下がさらに好ましく、7.5MPa以下が特に好ましい。なお、トレッド部が2層以上のゴム組成物から構成される場合には、トレッド面を構成するキャップゴム層の30℃E*を30℃E*Tとする。
【0051】
≪70℃E*B≫
ベルトトッピングゴム11を構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率(70℃E*B)は、5.5MPa以上が好ましく、5.8MPa以上がより好ましく、6.0MPa以上がさらに好ましく、6.2MPa以上さらに好ましく、6.5MPa以上が特に好ましい。また、70℃E*Bは、9.5MPa以下が好ましく、9.0MPa以下がより好ましく、8.5MPa以下がさらに好ましく、8.0MPa以下が特に好ましい。
【0052】
≪70℃E*B/30℃E*T≫
30℃E*Tに対する70℃E*Bの比(70℃E*B/30℃E*T)は、1.0超であり、1.1超がより好ましい。70℃E*B/30℃E*Tを1.0超とすることで、トレッド部の剛性よりもベルトトッピングゴムの剛性が高くなり、タイヤ転動時におけるベルト層の歪みが小さくなり、ベルト層とカーカスの接着界面の劣化が抑制されると考えられる。
【0053】
≪30℃E*B≫
ベルトトッピングゴム11を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率(30℃E*B)は、10MPa以上が好ましく、13MPa以上がより好ましく、16MPa以上がさらに好ましく、20MPa以上が特に好ましい。また、30℃E*Bは、40MPa以下が好ましく、35MPa以下がより好ましく、30MPa以下がさらに好ましく、25MPa以下が特に好ましい。
【0054】
トレッド部1の30℃における複素弾性率に対するベルトトッピングゴム11の30℃における複素弾性率の比(30℃E*T/30℃E*B)は、トレッド部1とベルトトッピングゴム11での植物油の濃度勾配を得やすくする観点から、0.35以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.37以下がさらに好ましく、0.34以下がさらに好ましい。また、30℃E*T/30℃E*Bは、0.23以上が好ましく、0.26以上がより好ましく、0.29以上がさらに好ましい。
【0055】
≪30℃tanδT≫
トレッド部1を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)は、0.11以上が好ましく、0.12以上がより好ましく、0.13以上がさらに好ましい。また、30℃tanδTは、0.20以下が好ましく、0.19以下がより好ましく、0.18以下がさらに好ましい。なお、トレッド部が2層以上のゴム組成物から構成される場合には、トレッド面を構成するキャップゴム層の30℃tanδを30℃tanδTとする。
【0056】
≪70℃tanδB≫
ベルトトッピングゴム11を構成するゴム組成物の70℃にけるtanδ(70℃tanδB)は、0.11以上が好ましく、0.12以上がより好ましく、0.13以上がさらに好ましい。また、70℃tanδBは、0.20以下が好ましく、0.19以下がより好ましく、0.18以下がさらに好ましい。
【0057】
≪0℃tanδT≫
トレッド部1を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)は、ウェットグリップ性能の観点から、0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.30以上がさらに好ましく、0.34以上がさらに好ましく、0.37以上が特に好ましい。また、0℃tanδTは、0.46以下が好ましく、0.43以下がより好ましく、0.40以下がさらに好ましい。なお、トレッド部が2層以上のゴム組成物から構成される場合には、トレッド面を構成するキャップゴム層の0℃tanδを0℃tanδTとする。
【0058】
30℃tanδTに対する0℃tanδTの比(0℃tanδT/30℃tanδT)は、1.0以上が好ましく、1.5以上がより好ましく、2.0以上がさらに好ましく、2.4以上がさらに好ましく、2.8以上が特に好ましい。0℃tanδT/30℃tanδTを前記の範囲とすることで、トレッド部内での植物油の過剰な保持を抑制し、表面へ移行させやすくすることができると考えられる。0℃tanδT/30℃tanδTの上限値は特に制限されないが、10.0以下が好ましく、8.0以下がより好ましく、7.0以下がさらに好ましい。
【0059】
70℃tanδ、30℃tanδ、0℃tanδ、70℃E*、30℃E*は、後記のゴム成分、フィラー、軟化剤、加硫剤、加硫促進剤等の種類や配合量により適宜調整することができる。例えば、ゴム成分中の総スチレン量を増加させると、tanδやE*の値は上昇する傾向がある。また、フィラー(特にカーボンブラック)や樹脂成分の配合量を増加させると、tanδやE*の値は上昇する傾向がある。
【0060】
≪アセトン抽出量≫
トレッド部1を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AETは、本発明の効果の観点から、17.0質量%以下が好ましく、16.0質量%以下がより好ましく、15.0質量%以下がさらに好ましく、14.0質量%以下が特に好ましい。また、AETは、9.0質量%以上が好ましく、10.0質量%以上がより好ましく、11.0質量%以上がさらに好ましく、12.0質量%以上が特に好ましい。
【0061】
トレッド部1が2層以上である場合、キャップゴム層3のアセトン抽出量は、20.0質量%以下が好ましく、18.0質量%以下がより好ましく、16.0質量%以下がさらに好ましく、14.0質量%以下がさらに好ましく、12.0質量%以下が特に好ましい。また、キャップゴム層3のアセトン抽出量は、3.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましく、6.0質量%以上が特に好ましい。
【0062】
ベースゴム層4が存在する場合のアセトン抽出量は、30.0質量%以下が好ましく、27.0質量%以下がより好ましく、24.0質量%以下がさらに好ましく、21.0質量%以下が特に好ましい。また、ベースゴム層4のアセトン抽出量は、3.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましく、6.0質量%以上が特に好ましい。
【0063】
ベルトトッピングゴム11を構成するゴム組成物のアセトン抽出量AEBは、本発明の効果の観点から、9.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がさらに好ましく、6.0質量%以下が特に好ましい。また、AEBは、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましく、4.0質量%以上がさらに好ましく、5.0質量%以上が特に好ましい。
【0064】
AETとAEBの差(AET-AEB)は、10.0質量%以下が好ましく、8.0質量%以下がより好ましく、7.0質量%以下がさらに好ましく、6.0質量%以下が特に好ましい。AET-AEBを前記の範囲とすることで、植物油がトレッド部からベルトトッピングゴムへ移行することを抑制しやすくすることができると考えられる。また、AET-AEBは、3.0質量%以上が好ましく、4.0質量%以上がより好ましく、5.0質量%以上がさらに好ましい。アセトン抽出量AETおよびAEBは、後記の軟化剤の含有量等により適宜調節することができる。例えば、軟化剤の含有量を増加させるとアセトン抽出量の値は上昇する傾向がある。
【0065】
[トレッド部用ゴム組成物、ベルトトッピングゴム用ゴム組成物]
本発明のトレッド部およびベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物(以下、本発明に係るゴム組成物という)は、いずれも以下に説明する原料を用いて、要求される複素弾性率等に応じて製造することができる。以下に詳細に説明する。
【0066】
<ゴム成分>
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分としてイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群より選ばれる少なくとも1種が好適に用いられる。トレッド部のゴム成分は、BRを含むことが好ましく、BRおよびSBRを含むことがより好ましく、イソプレン系ゴム、BRおよびSBRを含むことがさらに好ましく、イソプレン系ゴム、BR、およびSBRのみからなるゴム成分としてもよい。ベルトトッピングゴムのゴム成分は、イソプレン系ゴムを含むことが好ましく、イソプレン系ゴムのみからなるゴム成分としても良い。
【0067】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0069】
キャップゴム層を構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、グリップ性能の観点から、75質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下が特に好ましい。また、キャップゴム層のゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量の下限値は特に制限されないが、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。ベースゴム層を構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。また、ベースゴム層のゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、40質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、60質量%以上がさらに好ましい。
【0070】
ベルトトッピングゴムを構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、本発明の効果の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましいく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0071】
(SBR)
SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。なかでもS-SBRおよび変性SBRが好ましい。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0072】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、日本ゼオン(株)、ZSエラストマー(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0073】
SBRのスチレン含量は、40質量%以下が好ましく、36質量%以下がより好ましく、32質量%以下がさらに好ましく、28質量%以下が特に好ましい。また、SBRのスチレン含量は、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、前記測定方法により測定される。
【0074】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、本発明の効果の観点から、10万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、30万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点から、重量平均分子量は200万以下が好ましく、180万以下がより好ましく、150万以下がさらに好ましい。なお、SBRの重量平均分子量は、前記測定方法により測定される。
【0075】
キャップゴム層を構成するゴム成分中のSBRの含有量は、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、60質量%以上が特に好ましい。一方、キャップゴム層を構成するゴム成分中のSBRの含有量は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。なお、ベースゴム層およびベルトトッピングゴムを構成するゴム成分中のゴム成分中のSBRの含有量は特に制限されない。
【0076】
(BR)
BRとしては特に限定されるものではなく、例えば、シス含量が50質量%未満のBR(ローシスBR)、シス含量が90質量%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より市販されているものを使用することができる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、95モル%以上が好ましく、96モル%以上がより好ましく、97モル%以上がさらに好ましい。なお、BRのシス含量は、前記測定方法により測定される。
【0078】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0079】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0080】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、BRの重量平均分子量は、前記測定方法により測定される。
【0081】
キャップゴム層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、8質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、18質量%以上が特に好ましい。一方、キャップゴム層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、40質量%以下が好ましく、35質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましく、25質量%以下が特に好ましい。
【0082】
ベースゴム層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。一方、ベースゴム層を構成するゴム成分中のBRの含有量は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。
【0083】
なお、ベルトトッピングゴムを構成するゴム成分中のゴム成分中のBRの含有量は特に制限されない。
【0084】
(その他のゴム成分)
本実施形態に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、タイヤ工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、スチレンイソプレンゴム(SIR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のイソプレン系ゴム、SBR、およびBR以外のジエン系ゴム;ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等の非ジエン系ゴムが挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。本実施形態に係るゴム成分は、ジエン系ゴムを80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、98質量%以上が特に好ましく、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分としてもよい。また、上記のゴム成分の他に、公知の熱可塑性エラストマーを含有してもよく、含有しなくてもよい。
【0085】
<フィラー>
本発明の組成物は、カーボンブラックおよび/またはシリカを含むフィラーを含むことが好ましい。トレッド部を構成するゴム組成物は、フィラーとしてシリカを含むことが好ましく、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましい。ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物は、フィラーとしてカーボンブラックを含むことが好ましい。
【0086】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、例えば、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なお、一般的な鉱油を燃焼させて生成されるカーボンブラック以外に、リグニン等のバイオマス材料を用いたカーボンブラックを用いてもよい。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性の観点から、10m2/g以上が好ましく、30m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、200m2/g以下が好ましく、150m2/g以下がより好ましく、120m2/g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0088】
キャップゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、耐久性能および補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、植物油を過剰に吸着させないようにする観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、15質量部以下が特に好ましい。
【0089】
ベースゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、耐久性能および補強性の観点から、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下が特に好ましい。
【0090】
ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、10質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましく、20質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、120質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、65質量部以下が特に好ましい。
【0091】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。なお、上記のシリカの他に、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたシリカを適宜用いてもよい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、120m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、170m2/g以上がさらに好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、シリカのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0093】
キャップゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、補強性の観点から、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましく、55質量部以上が特に好ましい。また、植物油を過剰に吸着させないようにする観点からは、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましく、70質量部以下が特に好ましい。ベースゴム層およびベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するシリカの含有量は、特に制限されない。
【0094】
トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対するシリカとカーボンブラックの合計含有量は、補強性の観点から、50質量部以上が好ましく、55質量部以上がより好ましく、60質量部以上がさらに好ましい。また、植物油を過剰に吸着させないようにする観点からは、110質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、80質量部以下が特に好ましい。
【0095】
(その他のフィラー)
シリカおよびカーボンブラック以外のフィラーとしては、特に限定されず、例えば、水酸化アルミニウム、アルミナ(酸化アルミニウム)、炭酸カルシウム、硫酸マグネシウム、タルク、クレー、バイオ炭(BIOCHAR)等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。これらその他のフィラーは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されず、タイヤ工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系シランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-ヘキサノイルチオ-1-プロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-1-プロピルトリメトキシシラン等のチオエステル系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド系シランカップリング剤および/またはメルカプト系シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、例えば、モメンティブ社等より市販されているものを使用することができる。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
シランカップリング剤のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、8質量部以上がさらに好ましい。また、コストおよび加工性の観点からは、18質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0098】
<植物油>
本発明において植物油とは、例えば、あまに油、なたね油、べに花油、大豆油、コーン油、綿実油、米油、トール油、ごま油、えごま油、ひまし油、桐油、パイン油、パインタール油、ひまわり油、ココナッツ油、パーム油、パーム核油、オリーブ油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、落花生油、グレープシード油、木ろう等が挙げられる。さらに、植物油としては、前記油を精製した精製油(サラダ油など)、前記油をエステル交換したエステル交換油、前記油を水素添加した硬化油、前記油を熱重合させた熱重合油、前記油を酸化させた酸化重合油、食用油等として利用したものを回収した廃食用油等も挙げられる。なお、植物油は常温(25℃)で液体であっても固体であっても良い。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記植物油は、後述の軟化剤に含まれる成分であり、他の軟化剤と併用しても良い。また、公知のゴム組成物中の軟化剤成分の一部をこれらの植物油に等量置換し、本発明の関係性を満たすようにしても良い。
【0099】
本実施形態に係る植物油は、アシルグリセロールを含むことが好ましく、トリアシルグリセロールを含むことがより好ましい。なお、本明細書において、アシルグリセロールとは、グリセリンの持つヒドロキシ基と脂肪酸とがエステル結合をした化合物を指す。アシルグリセロールとしては、特に限定されず、1-モノアシルグリセロールでもよく、2-モノアシルグリセロールでもよく、1,2-ジアシルグリセロールでもよく、1,3-ジアシルグリセロールでもよく、トリアシルグリセロールでもよい。さらに、アシルグリセロールは、単量体でもよく、2量体でもよく、3量体以上の多量体であってもよい。なお、2量体以上のアシルグリセロールは、熱重合や酸化重合等によって得ることができる。また、アシルグリセロールは常温(25℃)で液体であっても固体であっても良い。
【0100】
ゴム組成物中に前記アシルグリセロールが含まれているか確認する方法としては、特に限定されないが、1H-NMR測定によって確認することができる。例えば、トリアシルグリセロールを配合したゴム組成物を常温(25℃)で24時間重クロロホルムに浸漬し、ゴム組成物を除いた後、室温下で1H-NMRを測定し、テトラメチルシラン(TMS)のシグナルを0.00ppmとした場合、5.26ppm付近、4.28ppm付近、4.15ppm付近のシグナルが観測され、該シグナルはエステル基の酸素原子に隣接する炭素原子に結合した水素原子由来のシグナルと推測される。なお、この段落における「付近」とは、±0.10ppmの範囲とする。
【0101】
前記脂肪酸としては、特に限定されず、不飽和脂肪酸であっても、飽和脂肪酸であっても良い。不飽和脂肪酸としては、オレイン酸等の一価不飽和脂肪酸や、リノール酸、リノレン酸等の多価不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0102】
植物油としては、例えば、出光興産(株)、三共油化工業(株)、ENEOS(株)、オリソイ社、H&R社、豊国製油(株)、富士興産(株)、日清オイリオグループ(株)等より市販されているものを使用することができる。
【0103】
植物油の構成脂肪酸に含まれる不飽和脂肪酸の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70%質量以上がさらに好ましく、75質量%以上がさらに好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。
【0104】
トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量Tは、3.0質量部以上が好ましく、5.0質量部以上がより好ましく、7.0質量部以上がさらに好ましく、8.5質量部以上がさらに好ましく、10.0質量部以上が特に好ましい。また、Tは、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、15質量部以下が特に好ましい。なお、ゴム成分として、植物油で伸展された伸展ゴムが用いられる場合には、前記トレッドを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量Tにはそれらの植物油も含まれる。
【0105】
ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量Bは、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましく、2.5質量部以上が特に好ましい。また、Bは、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、8.0質量部以下が特に好ましい。なお、ゴム成分として、植物油で伸展された伸展ゴムが用いられる場合には、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量Bにはそれらの植物油も含まれる。
【0106】
T/Bは、1.0超であり、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましく、4.0以上が特に好ましい。また、T/Bは、8.5未満が好ましく、7.5未満がより好ましく、7.0未満がさらに好ましく、7.5未満が特に好ましい。
【0107】
<その他の配合剤>
本実施形態に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、軟化剤、ワックス、加工助剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、老化防止剤、加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0108】
(軟化剤)
本実施形態に係るゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、例えば、樹脂成分、植物油以外のオイル、液状ゴム等が挙げられる。なお、これらの軟化剤には前述の伸展ゴムを用いた際の伸展成分も含まれる。
【0109】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等の炭化水素樹脂が挙げられる。
【0110】
樹脂成分の軟化点は、グリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、樹脂成分の軟化点は、前記測定方法により測定される。
【0111】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂成分の含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0112】
植物油以外のオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルを使用することもできる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、軽度抽出溶媒和物(MES)、処理留出物芳香族系抽出物(TDAE)、重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンに用いられた後の廃油や、飲食店で使用された廃食用油を精製したものを用いてもよい。
【0113】
植物油以外のオイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部下がさらに好ましい。
【0114】
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0115】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
【0116】
キャップゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量(複数の軟化剤を併用する場合は、植物油を含めた全ての合計量)は、例えば、AET-AEBが前記の範囲を満たすように適宜選択することができるが、5質量部以上が好ましく、6質量部以上がより好ましく、7質量部以上がさらに好ましく、8質量部以上が特に好ましい。また、該含有量は、60質量部以下が好ましく、50質量部以下がより好ましく、45質量部以下がさらに好ましく、40質量部以下が特に好ましい。ベースゴム層を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量(複数の軟化剤を併用する場合は、植物油を含めた全ての合計量)は、AET-AEBが前記の範囲を満たすように適宜選択することができる。
【0117】
ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する軟化剤の含有量(複数の軟化剤を併用する場合は、植物油を含めた全ての合計量)は、例えば、AET-AEBが前記の範囲を満たすように適宜選択することができるが、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。
【0118】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0119】
加工助剤としては、例えば、脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、アミドエステル、シリカ表面活性剤、脂肪酸エステル、脂肪酸金属塩とアミドエステルとの混合物、脂肪酸金属塩と脂肪酸アミドとの混合物等が挙げられる。これらの加工助剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。加工助剤としては、例えば、Schill+Seilacher社、パフォーマンスアディティブス社等より市販されているものを使用することができる。
【0120】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部以下が好ましく、8.0質量部以下がより好ましい。
【0121】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0122】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0123】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0124】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5.0質量部以下がより好ましい。
【0125】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0126】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下がさらに好ましく、2.5質量部以下が特に好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0127】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0128】
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系およびグアニジン系加硫促進剤がより好ましい。
【0129】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0130】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0131】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0132】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の加硫促進剤を併用する場合は全ての合計量)は、1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上がさらに好ましい。また、該含有量は、8.0質量部以下が好ましく、7.0質量部以下がより好ましく、6.0質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0133】
<製造>
本発明のゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0134】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。
【0135】
混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0136】
トレッド部およびベルト層を有し、ベルト層がベルトトッピングゴムにより被覆されたタイヤは、それぞれに対応するゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、前記の方法により得たそれぞれのゴム層に対応する未加硫のゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機で各部材の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0137】
<用途>
本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、競技用タイヤに好適に用いることができ、中でも乗用車用タイヤに用いることが好ましい。なお、乗用車用タイヤとは、四輪で走行する自動車に装着されることを前提としたタイヤであり、その最大負荷能力が1000kg以下のものを指す。また、本発明のタイヤは、全シーズン用タイヤ、夏用タイヤ、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤに使用可能である。
【実施例0138】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0139】
以下に示す各種薬品を用いて表1~表2に従って得られるゴム組成物からなるトレッド部およびベルト層を有し、ベルト層がベルトトッピングゴムに被覆されたタイヤを検討して、下記の分析・評価方法に基づいて算出した結果を、表3に示す。
【0140】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
SBR:旭化成(株)製のアサプレン1205(未変性S-SBR、スチレン含量:25質量%、非油展)
BR:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(ビニル含量:1.5モル%、シス含量:97モル%、Mw:44万)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製のショウブラックN220(N2SA:111m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
植物油:オリソイ社製の高オレイン酸ひまわり油(オレイン酸比率:82%、多価不飽和脂肪酸比率:9%、飽和脂肪酸比率:9%)
オイル1:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルAC-12(芳香族系プロセスオイル)
オイル2:出光興産(株)製のダイアナプロセスオイルPW-380(パラフィン系プロセスオイル)
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
ワックス:日本精蝋(株)のオゾエース0355
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(1,3-ジフェニルグアニジン(DPG))
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0141】
(実施例および比較例)
表1~表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度150~160℃になるまで1~10分間混練りし、混練物を得る。さらに、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で20分間プレス加硫し、加硫ゴムシートを得る。
【0142】
また、得られた未加硫ゴム組成物を、それぞれ、トレッド部のキャップゴム層、トレッド部のベースゴム層、もしくはベルトトッピングゴムの形状に合わせて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを作製し、170℃で加硫して表3に記載の各試験用タイヤを得る。なお、トレッド部の全厚みは10mmとする。
【0143】
<アセトン抽出量(AETおよびAEB)の測定>
加硫ゴムシートについて、それぞれAE量を測定する。AE量は、各加硫ゴムシートを24時間アセトンに浸漬し、可溶成分を抽出し、抽出前後の各シートの質量を測定し、下記式により求める。
アセトン抽出量(%)={(抽出前の加硫ゴムシートの質量-抽出後の加硫ゴムシートの質量)/(抽出前の加硫ゴムシートの質量)}×100
【0144】
<30℃E*Tおよび30℃tanδTの測定>
各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各加硫ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%の条件下で複素弾性率(E*30)およびtanδを測定する。
【0145】
<30℃E*Bの測定>
各試験用タイヤのベルトトッピングゴムから、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各加硫ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪±1%の条件下で複素弾性率(E*30)を測定する。
【0146】
<0℃tanδ測定>
各試験用タイヤのトレッド部から、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各加硫ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度0℃、初期歪10%、動歪±2.5%、周波数10Hzの条件下でtanδを測定する。
【0147】
<70℃E*Bおよび70℃tanδBの測定>
各試験用タイヤのベルトトッピングゴムから、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各加硫ゴム試験片について、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、初期歪10%、動歪±1%、周波数10Hzの条件下で複素弾性率(E*70)およびtanδを測定する。
【0148】
<新品時の耐剥離性能>
ドラム試験機を用いて、標準リム、正規内圧、正規荷重、路面温度80℃の条件にて、ドラム上で、速度を230km/hとして、ベルト層とカーカスに剥離が発生するまでの走行時間を測定する。結果は、基準比較例(比較例6)を100として指数表示する。指数が大きいほど、耐剥離性能に優れることを示す。
【0149】
<劣化後の耐剥離性能>
前記のタイヤを80℃で7日間熱劣化させた後に、トレッド部の厚さが新品時の50%となるように、トレッドラジアスに沿ってトレッド部を摩耗させる。この各試験用タイヤについて、ドラム試験機を用いて、標準リム、正規内圧、正規荷重、路面温度80℃の条件にて、ドラム上で、速度を230km/hとして、ベルト層とカーカスに剥離が発生するまでの走行時間を測定する。結果は、基準比較例(比較例6)を100として指数表示する。指数が大きいほど、耐剥離性能に優れることを示す。
【0150】
<総合性能>
上記新品時の耐剥離性能指数、および劣化後の耐剥離性能指数の和を総合性能指数として表示する。指数が大きいほど、総合性能に優れることを示す。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
〔1〕トレッド部およびベルト層を有するタイヤであって、
前記ベルト層はベルトトッピングゴムを有し、
前記トレッド部および前記ベルトトッピングゴムがそれぞれゴム成分および植物油を含有するゴム組成物により構成され、
前記トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をT(質量部)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のゴム成分100質量部に対する植物油の含有量をB(質量部)としたとき、T/Bが1.0超であり、
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃における複素弾性率を30℃E*T、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃における複素弾性率を70℃E*Bとしたとき、70℃E*B/30℃E*Tが1.0超である、タイヤ。
〔2〕Bが5質量部未満である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)が0.13以上である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδB)が0.13以上である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕T/Bが8.0未満である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕T/Bが4.0超である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)が0.20以上(好ましくは0.25以上、より好ましくは0.30以上、さらに好ましくは0.37以上)である、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔8〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)に対する前記トレッド部を構成するゴム組成物の0℃におけるtanδ(0℃tanδT)の比(0℃tanδT/30℃tanδT)が1.0以上(好ましくは2.0以上、より好ましくは2.4以上、さらに好ましくは2.8以上)である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔9〕前記トレッド部を構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAET(質量%)、前記ベルトトッピングゴムを構成するゴム組成物のアセトン抽出量をAEB(質量%)としたとき、AET-AEBが10.0質量%以下(好ましくは8.0質量%以下、より好ましくは7.0質量%以下、さらに好ましくは6.0質量%以下)である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕前記トレッド部の30℃における複素弾性率を30℃E*T(MPa)、前記ベルトトッピングゴムの30℃における複素弾性率を30℃E*B(MPa)としたとき、30℃E*T/30℃E*Bが0.35以下(好ましくは0.34以下)である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔11〕前記トレッド部の全厚みt(mm)とTとの積(t×T)が100以上である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。