(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099432
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 15/06 20060101AFI20240718BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20240718BHJP
B60C 3/04 20060101ALI20240718BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240718BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240718BHJP
C08L 45/00 20060101ALI20240718BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B60C15/06 C
B60C11/00 D
B60C3/04 Z
B60C1/00 A
C08L21/00
C08L45/00
C08L57/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003374
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】祖父江 尚也
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131AA12
3D131BA05
3D131BA20
3D131BB01
3D131BB03
3D131BB06
3D131BB16
3D131BC31
3D131CA03
3D131HA33
4J002AC001
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC051
4J002AC061
4J002AC081
4J002AC111
4J002AF022
4J002BA012
4J002BC092
4J002CC032
4J002CE002
4J002FD202
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】タイヤの高速走行時の耐久性能の向上を図ること。
【解決手段】一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであって、タイヤ外径Dtが600mm以下であり、ビード部がクリンチ部を有し、クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδが0.10以下であり、ビードコア下端からクリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離をL(mm)としたとき、Lに対するクリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδの比(70℃tanδC/L)が6.7×10-3以下である、タイヤ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであって、
タイヤ外径Dtが600mm以下であり、
前記ビード部がクリンチ部を有し、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が0.10以下であり、
ビードコア下端から前記クリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離をL(mm)としたとき、
Lに対する前記70℃tanδCの比(70℃tanδC/L)が6.7×10-3以下である、タイヤ。
【請求項2】
タイヤ外径Dtが580mm以下である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤ外径Dtが550mm以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項4】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、70℃tanδC×30℃tanδTが0.020以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、30℃tanδT/Dtが5.0×10-4以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項6】
前記トレッド部を構成するゴム組成物が、樹脂成分を含有する、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項7】
前記樹脂成分が、テルペン樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項6記載のタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の総スチレン量をS(質量%)としたとき、
Lに対するSの比(S/L)が、1.7以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項9】
タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量G(kg)の比(G/WL)が0.015以下である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項10】
タイヤ外径Dt(mm)に対するタイヤ断面幅Wt(mm)の比(Wt/Dt)が0.30以上である、請求項1または2記載のタイヤ。
【請求項11】
自動運転車用タイヤである、請求項1または2記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両に求められる性能は多岐にわたる。その中の重要な性能として、居住性の向上(車両スペースの確保)や低燃費性能が挙げられる。
【0003】
特許文献1には、タイヤの断面幅を小さくすることにより、居住性を向上させ得るタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、車両にタイヤ外径分のホイールハウスを確保する必要があるため、タイヤ断面幅を小さくするのみでは居住性の向上に限界がある。
【0006】
また、高速道が発達し、高速で移動することも珍しくなくなった昨今においては、そのような外径が小さいタイヤを装着した車両においても、高速走行をすることが想定される。車両の高速走行時におけるタイヤの耐久性能には未だ改善の余地があると考えられる。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、タイヤの高速走行時の耐久性能の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下のタイヤに関する。
一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであって、
タイヤ外径Dtが600mm以下であり、
前記ビード部がクリンチ部を有し、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が0.10以下であり、
ビードコア下端から前記クリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離をL(mm)としたとき、
Lに対する前記70℃tanδCの比(70℃tanδC/L)が6.7×10-3以下である、タイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤによれば、タイヤ外径が所定の値以下でありながら、高速走行時の耐久性能が向上したタイヤが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの一部が示された断面図である。
【
図2】タイヤの断面図において、タイヤ断面幅Wt、タイヤ断面高さHt、タイヤ外径Dtを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤは、一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであって、タイヤ外径Dtが600mm以下であり、前記ビード部がクリンチ部を有し、前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が0.10以下であり、ビードコア下端から前記クリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離をL(mm)としたとき、Lに対する前記70℃tanδCの比(70℃tanδC/L)が6.7×10-3以下である、タイヤである。
【0012】
理論に拘束されることは意図しないが、本発明において、高速走行時の耐久性能が向上され得るメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0013】
前記のとおり、タイヤ断面幅を小さくするのみでは、居住性の向上に限界があるが、タイヤ外径Dtを600mm以下とすることにより、居住性をさらに向上することができる。また、(1)タイヤの外径を600mm以下とすることにより、サイドウォール部の変形領域を小さくすることができるため、車両走行時において、サイドウォール部を構成するゴム組成物の変形量が小さくなり、サイドウォール部の発熱が抑制される。さらに、(2)クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃tanδを0.10以下とすることにより、クリンチ部での変形による発熱を低減することができる。加えて、クリンチ部は、転動時にサイドウォール部の変形に合わせて動きが生じやすい部材であるため、(3)ビードコア下端からクリンチ部でのタイヤ半径方向外側までの距離をLに対するクリンチ部の70℃におけるtanδの比を6.7×10-3以下とすることで、クリンチ部の発熱性に対して、ビードコア下からクリンチ部のタイヤ半径方向外側までの距離Lを十分大きくすることができ、クリンチ部の剛性を高め変形および発熱を抑制し、ビード部付近での発熱をさらに低減することができる。そして、上記(1)~(3)が協働することにより、トレッド部、サイドウォール部、およびクリンチ部での発熱性を低減させることができるため、高速走行時の耐久性能が向上するという、特筆すべき効果が達成されると考えられる。
【0014】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、70℃tanδC×30℃tanδTは0.020以下であることが好ましい。
【0015】
70℃tanδC×30℃tanδTを0.020以下とし、クリンチ部およびトレッド部の発熱を抑制することで、高速走行時の耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0016】
前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、外径Dtに対する比である30℃tanδT/Dtは、5.0×10-4以下であることが好ましい。
【0017】
30℃tanδT/Dtが5.0×10-4以下であることで、タイヤ外径が比較的小さい場合にも、トレッド部の発熱性を下げることで、高速走行時の耐久性能が向上すると考えられる。
【0018】
最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量G(kg)の比(G/WL)が0.015以下であることが好ましい。
【0019】
タイヤの最大負荷能力に対してタイヤ重量を小さくすることで、同じ重量が加わっている場合であっても、タイヤ重量の分、転動時のエネルギーが小さくすることができ、タイヤに加わるエネルギーが低減されるので、高速走行時の耐久性能が向上すると考えられる。
【0020】
トレッド部を構成するゴム組成物は樹脂成分を含有することが好ましい。樹脂成分によりゴム成分の相溶性が向上し、ゴム組成物の発熱性が低下し、高速走行時の耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0021】
トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分中の総スチレン量をS(質量%)としたとき、Lに対するSの比(S/L)は、2.0以下であることが好ましい。S/Lを前記の範囲とすることで、トレッド部の発熱性を低減し、高速走行時の耐久性能がさらに向上すると考えられる。
【0022】
タイヤ外径Dt(mm)に対するタイヤ断面幅Wt(mm)の比(Wt/Dt)は、0.30以上であることが好ましい。転動時の変形をトレッド部で受け止めやすくなり、かつトレッド面が広がることで、トレッド部に加わる力が分散されやすくなるため、高速走行時の発熱を低減させ、耐久性能を向上させることができると考えられる。
【0023】
<定義>
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、JATMAであれば“標準リム”、TRAであれば“Design Rim”、ETRTOであれば“Measuring Rim”であり、JATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。なお、前記の規格体系において定めを持たないサイズのタイヤの場合は、そのタイヤにリム組可能であり、リム/タイヤの間でエア漏れを発生させない最小径のリムのうち、最も幅の狭いものを指すものとする。
【0024】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば「最高空気圧」、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値とし、正規リムと同様にJATMA、ETRTO、TRAの順に参照し、参照時に適用サイズがあればその規格に従う。そして、規格に定められていないサイズのタイヤの場合には、前記正規リムを標準リムとして記載されている別のタイヤサイズ(規格に定められているもの)の正規内圧(ただし、250KPa以上)を指す。なお、250KPa以上の正規内圧が複数記載されている場合には、その中の最小値を指す。
【0025】
「正規状態」は、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。なお、本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法は、前記正規状態で測定される。
【0026】
「タイヤ外径Dt(mm)」は、正規状態で測定されたタイヤ外径である。「タイヤ断面幅Wt(mm)」は、正規状態において、タイヤ側面に模様または文字などがある場合にはそれらを除いたものとしてのサイドウォール部外面間の最大幅である。「タイヤ断面高さHt(mm)」は、タイヤ外径とリム径との差の1/2の長さであり、タイヤを正規リムにリム組みし、かつ、正規内圧が充填された無負荷の正規状態において測定される。
【0027】
「タイヤ重量G(kg)」は、リムの重量を含まないタイヤ単体の重量である。また、タイヤ内腔部に制音材、シーラント、センサーなどを取り付けた場合には、G(kg)はこれらの重量を含む値である。
【0028】
「タイヤ体積V(mm3)」は、タイヤが正規リムにリム組みされ、正規内圧が充填され、無負荷の状態で測定されたタイヤ断面幅Wt(mm)、タイヤ断面高さHt(mm)、タイヤ外径Dt(mm)から、下記式により算出される。
V={(Dt/2)2-(Dt/2-Ht)2}×π×Wt
【0029】
「最大負荷能力WL(kg)」は、タイヤ体積V(mm3)から下記式により算出される。なお、JATMA規格で定められるロードインデックスに基づく「最大負荷能力」とは異なる。
WL=0.000011×V+100
【0030】
「ビードコア下端からクリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離L(mm)」は、ビードコアのタイヤ半径方向最内部端から、クリンチ部のタイヤ半径方向最外部端までの直線距離をいう。前記直線距離は、タイヤを、タイヤ回転軸を含むタイヤ半径方向に切り出した断面において、ビード部を正規リム幅に合わせた状態で、ビードコアのタイヤ半径方向最内部端を通りタイヤ幅方向に平行な直線と、クリンチ部のタイヤ半径方向外側端部を通りタイヤ幅方向に平行な直線との距離を測定することにより求められる。
【0031】
「ゴム成分中の総スチレン量(S)」とは、ゴム組成物中のゴム成分100質量%中に含まれるスチレン部の合計含有量(質量%)であって、Σ(各スチレン含有ゴムのスチレン含量(質量%)×各スチレン含有ゴムのゴム成分中の含有量(質量%)/100)により計算される。例えば、ゴム成分が、第一のSBR(スチレン含量25質量%)30質量%、第二のSBR(スチレン含量27.5質量%)60質量%、およびBR10質量%からなる場合、ゴム成分100質量%中の総スチレン量(S)は、24.0質量%(=25×30/100+27.5×60/100)である。なお、スチレン含有ゴムのスチレン量は、1H-NMR測定により算出される。
【0032】
<測定方法>
「70℃tanδ」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪み10%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する損失正接である。損失正接測定用サンプルは長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmの加硫ゴム組成物である。タイヤのクリンチ部またはトレッド部から切り出して作製する場合には、トレッド部であれば長さ方向はタイヤの周方向であり、クリンチ部であれば、長さ方向はタイヤ周方向に対する接線方向である。
【0033】
「30℃tanδ」は、GABO社製のイプレクサーシリーズを用いて、温度30℃、周波数10Hz、初期歪み10%、および、動歪み1%、伸長モードの条件下で測定する損失正接である。損失正接測定用サンプルは70℃tanδの場合と同様にして作製される。
【0034】
「スチレン含量」は、1H-NMR測定により算出される。例えば、SBR等のスチレン含有ゴムに適用される。
【0035】
「ビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)」は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される。例えば、SBR、BR等に適用される。
【0036】
「シス1,4-結合含有率(シス含量)」は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。例えば、BR等に適用される。
【0037】
「重量平均分子量」は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)(東ソー(株)製のGPC-8000シリーズ、検出器:示差屈折計、カラム:東ソー(株)製のTSKGEL SUPERMALTIPORE HZ-M)による測定値を基に、標準ポリスチレン換算により求めることができる。例えば、SBR、BR、樹脂、液状ポリマー等に適用される。
【0038】
「平均一次粒子径」は、粒子を透過型または走査型電子顕微鏡で写真撮影し、粒子400個の粒子径の算術平均により求められる値である。粒子の形状が球形の場合には球の直径を粒子径とし、球形以外の場合には顕微鏡画像から円相当径({4×(粒子の面積)÷π}の正の平方根)を算出して粒子径とする。
【0039】
「カーボンブラックのN2SA」は、JIS K 6217-2「ゴム用カーボンブラック基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」に準じて測定される。「シリカのN2SA」は、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される。
【0040】
「軟化点」は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。例えば、樹脂成分等に適用される。
【0041】
<タイヤ>
本発明のタイヤついて、適宜図面を用いて説明するが、図面は本発明を限定するものではない。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態であるタイヤを例示したものである。
図1には、タイヤを、タイヤ回転軸を含む面で切断した時の断面の一部が示されている。
図1において、上下方向がタイヤの半径方向であり、左右方向がタイヤの軸方向であり、紙面に垂直な方向がタイヤの周方向である。
図1において、一点鎖線CLは、タイヤ赤道を表わす。
【0043】
図1のタイヤは、走行時に地面と接触するトレッド部1、タイヤ半径方向外側に延びる一対のサイドウォール部2、および一対のビード部3を有する。
【0044】
図1に示すように、トレッド部1のタイヤ半径方向内側には、ベルト層5を有している。ベルト層5の下部には、カーカス4およびインナーライナー7が積層されている。また、トレッド部1とベルト層5との間にバンド層6が存在してもよい。ビード部3は、ビードコア14と、このコアからタイヤ半径方向外側に延びるビードエイペックス13とを備えている。ビードエイペックス13は、タイヤ半径方向外向きに先細りである。ビード部3において、カーカス4の外側には、リム8装着時にリム8と接するクリンチ部10が設けられており、クリンチ部10はゴム成分を含むゴム組成物により構成される。クリンチ部10とリム8との間にリムチェーファー9が存在していてもよい。
図1において、「ビードコア下端からクリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離L(mm)」は、ビードコア14のタイヤ半径方向最内部端から、クリンチ部10のタイヤ半径方向最外部端までの直線距離をいう。
【0045】
本発明では、トレッド部1は、ゴム組成物により構成されることが好ましい。トレッド部1は、単一のゴム層であっても二層以上のゴム層を含んでいてもよく、なかでも、トレッド面を構成するキャップゴム層11と、ベルト層5のタイヤ半径方向外側にベースゴム層12とを備えていることが好ましい。キャップゴム層11とベースゴム層12の間には、さらに1以上の中間ゴム層が存在していてもよい。本発明において、トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ等の各物性値は、トレッド部が二層以上のゴム層を含んでいる場合には、いずれかのゴム層において物性値を満たしていればよいが、キャップゴム層が満たしていることが好ましい。
【0046】
本発明に係るタイヤのビードコア14下端からクリンチ部10のタイヤ半径方向外側までの距離Lは、10.0mm以上が好ましく、12.0mm以上がより好ましく、14.5mm以上がさらに好ましい。前記範囲とすることで、クリンチ部10での剛性を確保し、変形を抑制することで、発熱を低減させやすくすることができると考えられる。また、Lの上限は特に限定されないが、30.0mm以下が好ましく、25.0mm以下がより好ましく、20.0mm以下がさらに好ましい。
【0047】
本発明に係るタイヤのタイヤ外径Dtは、600mm以下であり、590mm以下が好ましく、580mm以下がより好ましく、550mm以下がさらに好ましい。前記範囲とすることで、転動時にトレッド部が路面と接する単位時間を小さくしやすくすることができ、発熱を低減させることができると考えられる。また、Dtの下限は特に限定されないが、500mm以上が好ましく、515mm以上がより好ましく、535mm以上がさらに好ましく、545mm以上が特に好ましい。
【0048】
タイヤ断面幅Wtは、トレッド部で変形を受け止めやすくし、トレッド部にかかる単位面積当たりの力を小さくする観点から、160mm以上が好ましく、190mm以上がより好ましく、200mm以上がさらに好ましく、また、タイヤの断面幅Wtの上限は特に限定されないが、270mm未満が好ましく、250mm未満がより好ましく、230mm未満がさらに好ましい。
【0049】
タイヤ断面高さHtは、サイドウォール部の変形を小さくする観点から、130mm未満が好ましく、120mm未満がより好ましく、110mm未満がさらに好ましく、100mm未満が特に好ましい。一方、下限は特に限定されないが、60mm以上が好ましく、70mm以上がより好ましく、80mm以上がさらに好ましい。
【0050】
タイヤ体積Vは、2.00×107mm3以上が好ましく、2.10×107mm3以上がより好ましく、2.20×107mm3以上がさらに好ましい。一方、前記体積Vは、3.80×107mm3未満が好ましく、3.75×107mm3未満がより好ましく、3.30×107mm3未満がさらに好ましい。
【0051】
本発明に係るタイヤのタイヤ重量G(kg)は、転動時にタイヤに加わるエネルギーを小さくする観点から、8.5kg以下が好ましく、8.0kg以下がより好ましく、7.5kg以下がさらに好ましい。また、タイヤ重量G(kg)の下限値は特に制限されないが、通常3.0kg以上である。
【0052】
なお、タイヤ重量G(kg)は、公知の方法により、適宜調整可能であり、例えば、タイヤを形成する各ゴム層の厚みを薄くすること、タイヤを構成する材料の比重を小さくすることなどにより、小さくすることができる。
【0053】
タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量(kg)の比(G/WL)は、転動時にタイヤに加わるエネルギーを小さくする観点から、0.0150以下が好ましく、0.0145以下がより好ましく、0.0135以下がさらに好ましい。また、G/WLの下限値は特に限定されないが、0.0100以上が好ましく、0.0110以上がより好ましく、0.0115以上がさらに好ましい。
【0054】
なお、最大負荷能力WLは公知の方法により、適宜調整可能であり、例えば、外径Dtや断面幅Wtを大きくすることにより、大きくすることができる。
【0055】
タイヤ外径Dt(mm)に対するタイヤ断面幅Wt(mm)の比(Wt/Dt)は、転動時の変形をトレッド部で受け止めやすくし、トレッド部に加わる力が分散させる観点から、0.30以上が好ましく、0.32以上がより好ましく、0.33以上がさらに好ましい。また、上限は特に限定されないが、0.50以下が好ましく、0.48以下がより好ましく、0.45以下がさらに好ましい。
【0056】
本発明に係るタイヤは、車両に装着される。車両としては、例えば4輪自動車が挙げられるが、4輪に限定されるものではなく、3輪構成、6輪構成、8輪構成などであってもよい。また、車両は、例えば自動運転(レベル4以上)の電気自動車とすることができるが、これに限定されるものではなく、車両は自動運転ではなく、運転主体が人であってもよい。また、車両は電気自動車でなくてもよく、ガソリン車やハイブリッド車であってもよい。
【0057】
[ゴム組成物]
本発明のクリンチ部およびトレッド部を構成するゴム組成物(以下、断りのない限り本発明に係るゴム組成物という)について、以下詳細に説明する。
【0058】
本発明に係るタイヤおいて、クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)は、0.10以下であり、0.09以下が好ましく、0.08以下がより好ましい。また、70℃tanδCの下限値は特に制限されないが、例えば、0.01以上、0.02以上等とすることができる。なお、70℃tanδは前記方法により測定される。
【0059】
ゴム組成物のtanδは、タイヤ工業における常法により、調節することができる。例えば、ガラス転移温度の高いゴム成分を用いること、フィラーの量を多くすること、粒子径を小さくすること、可塑剤成分として樹脂成分を多くすること、硫黄および促進剤の量を減らすことなどにより、tanδを大きくすることができる。
【0060】
L(mm)に対する70℃tanδCの比(70℃tanδC/L)は、6.7×10-3以下であり、6.5×10-3以下が好ましく、6.0×10-3以下がより好ましく、5.7×10-3以下がさらに好ましく、5.5×10-3以下がさらに好ましく、5.0×10-3以下が特に好ましい。一方、70℃tanδC/Lの下限は特に限定されないが、1.3×10-3以上が好ましく、1.6×10-3以上がより好ましく、2.0×10-3以上がさらに好ましく、2.3×10-3以上が特に好ましい。
【0061】
本発明に係るタイヤにおいて、トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδ(30℃tanδT)は、トレッド部での発熱を低減させ、耐久性能を向上させる観点から、0.30以下が好ましく、0.28以下がより好ましく、0.26以下がさらに好ましく、0.22以下がさらに好ましく、0.20以下がさらに好ましく、0.18以下がさらに好ましく、0.15以下が特に好ましい。また、30℃tanδTの下限値は特に制限されないが、例えば、0.01以上、0.05以上。0.10以上等とすることができる。なお、30℃tanδは前記方法により測定される。
【0062】
クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδとトレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδとの積(70℃tanδC×30℃tanδT)は、トレッド部およびクリンチ部での発熱を低減させ、耐久性能を向上させる観点から、0.025以下が好ましく、0.022以下がより好ましく、0.020以下がさらに好ましく、0.018以下がさらに好ましく、0.015以下がさらに好ましく、0.14以下が特に好ましい。また、70℃tanδR×30℃tanδTの下限値は特に制限されないが、例えば、0.005以上、0.0010以上等とすることができる。
【0063】
タイヤ外径Dt(mm)に対するトレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδの比(30℃tanδT/Dt)は、5.2×10-4以下が好ましく、5.0×10-4以下がより好ましく、4.8×10-4以下がさらに好ましく、4.5×10-4以下が特に好ましい。一方、30℃tanδT/Dtの下限は特に限定されないが、1.0×10-4以上が好ましく、1.5×10-4以上がより好ましく、1.8×10-4以上がさらに好ましく、2.0×10-4以上が特に好ましい。
【0064】
トレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分中の総スチレン量Sは、スチレン基によるtanδの上昇を低減する観点から、28質量%未満が好ましく、26質量%未満がより好ましく、25質量%未満がさらに好ましい。また、該総スチレン量Sの下限値は特に制限されず、例えば、1.0質量%超、2.0質量%超、3.0質量%超とすることができ、0質量%であっても良い。
【0065】
L(mm)に対するトレッド部を構成するゴム組成物のゴム成分中の総スチレン量Sの比(S/L)は、0.5以上が好ましく、0.7以上がより好ましく、0.8以上がさらに好ましい。また、発熱を低減させる観点から、S/Lは、2.0以下が好ましく、1.7以下がより好ましく、1.6以下がさらに好ましい。
【0066】
<ゴム成分>
本発明に係るゴム組成物は、ゴム成分を含有する。ゴム成分としては、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)およびブタジエンゴム(BR)からなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。クリンチ部を構成するゴム成分は、イソプレン系ゴムおよびBRを含むことがより好ましく、トレッド部を構成するゴム成分は、BRを含むことがより好ましい。また、これらは後述のオイル、樹脂成分などの可塑剤成分により予め伸展された伸展ゴムを用いても良い。ゴム成分として、伸展ゴムを用いる場合、可塑剤成分のゴム固形分100質量部に対する含有量は、10質量部以上50質量部以下であることが好ましい。
【0067】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0068】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ工業において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0069】
クリンチ部を構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上がさらに好ましく、50質量%以上が特に好ましい。一方、クリンチ部を構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましく、80質量%以下が特に好ましい。トレッド部を構成するゴム成分中のイソプレン系ゴムの含有量は、特に制限されない。
【0070】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。さらに、これらSBRの水素添加物(水素添加SBR)等も使用することができる。なかでもS-SBRが好ましく、変性S-SBRがより好ましい。
【0071】
変性SBRとしては、通常この分野で使用される官能基が導入された変性SBRが挙げられる。上記官能基としては、例えば、アミノ基(好ましくはアミノ基が有する水素原子が炭素数1~6のアルキル基に置換されたアミノ基)、アミド基、シリル基、アルコキシシリル基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシシリル基)、イソシアネート基、イミノ基、イミダゾール基、ウレア基、エーテル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、メルカプト基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、アンモニウム基、イミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基、カルボキシル基、ニトリル基、ピリジル基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1~6のアルコキシ基)、水酸基、オキシ基、エポキシ基等が挙げられる。なお、これらの官能基は、置換基を有していてもよい。置換基としては、例えば、アミノ基、アミド基、アルコキシシリル基、カルボキシル基、水酸基等の官能基が挙げられる。また、変性SBRとしては、水素添加されたもの、エポキシ化されたもの、スズ変性されたもの等を挙げることができる。
【0072】
前記で列挙されたSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。前記で列挙されたSBRとしては、例えば、住友化学(株)、JSR(株)、旭化成(株)、ZEON(株)、ZSエラストマー(株)等により製造・販売されているSBRを使用することができる。
【0073】
SBRのスチレン含量は、トレッド部での減衰性の確保の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、SBRのスチレン含量の上限値としては、28質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。なお、SBRのスチレン含量は、前記測定方法により算出される。
【0074】
SBRのビニル含量は、シリカとの反応性の担保、ゴム強度や耐摩耗性能の観点から10モル%以上が好ましく、13モル%以上がより好ましく、16モル%以上がさらに好ましい。また、SBRのビニル含量は、温度依存性の増大防止、ウェットグリップ性能、破断伸び、および耐摩耗性能の観点から、70モル%以下が好ましく、65モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。なお、SBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、前記測定方法により算出される。
【0075】
SBRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から15万以上が好ましく、20万以上がより好ましく、25万以上がさらに好ましい。また、Mwは、架橋均一性等の観点から、250万以下が好ましく、200万以下がより好ましい。なお、Mwは、前記測定方法により測定される。
【0076】
トレッド部を構成するゴム成分がSBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、本発明の効果の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、トレッド部の発熱抑制の観点からは、該含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。クリンチ部を構成するゴム成分のSBRの含有量は特に制限されず、SBRを含有しなくてもよい。
【0077】
(BR)
BRとしては特に限定されず、例えば、シス1,4結合含有率(シス含量)が90モル%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。変性BRとしては、上記SBRで説明したのと同様の官能基等で変性されたBRが挙げられる。
【0078】
ハイシスBRとしては、例えば、ZEON(株)製のもの、宇部興産(株)製のもの、JSR(株)製のもの等が挙げられる。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。シス含量は、好ましくは、95モル%以上、より好ましくは96%以上、さらに好ましくは97%以上である。なお、本明細書において、シス含量は、赤外吸収スペクトル分析により算出される値である。
【0079】
希土類系BRとしては、希土類元素系触媒を用いて合成され、ビニル含量(1,2結合ブタジエン単位量)が好ましくは1.8モル%以下、より好ましくは1.0モル%以下、さらに好ましくは0.8%モル以下であり、シス含量(シス-1,4結合含有率)が好ましくは95モル%以上、より好ましくは96モル%以上、さらに好ましくは97モル%以上である。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)製のものなどを用いることができる。
【0080】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。このようなSPB含有BRとしては、宇部興産(株)製のものなどを用いることができる。
【0081】
変性BRとしては、末端および/または主鎖がケイ素、窒素および酸素からなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む官能基によって変性された変性ブタジエンゴム(変性BR)が好適に用いられる。
【0082】
その他の変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)等が挙げられる。また、変性BRは、水素添加されていないもの、水素添加されているもののいずれであってもよい。
【0083】
前記で列挙されたBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
BRの重量平均分子量(Mw)は、耐摩耗性能の観点から、30万以上が好ましく、35万以上がより好ましく、40万以上がさらに好ましい。また、架橋均一性等の観点からは、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。なお、Mwは、前記方法により測定される。
【0085】
クリンチ部を構成するゴム成分がBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、本発明の効果の観点から、20質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量は、80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、65質量%以下がさらに好ましく、60質量%以下が特に好ましい。
【0086】
トレッド部を構成するゴム成分がBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。また、該含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下が特に好ましい。
【0087】
(その他のゴム成分)
本発明に係るゴム成分として、前記のイソプレン系ゴム、SBRおよびBR以外のゴム成分を含有してもよい。他のゴム成分としては、ゴム工業で一般的に用いられる架橋可能なゴム成分を用いることができ、例えば、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合ゴム(SIBR)、スチレン-イソブチレン-スチレンブロック共重合体(SIBS)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、ブチルゴム(IIR)、エチレンプロピレンゴム、ポリノルボルネンゴム、シリコーンゴム、塩化ポリエチレンゴム、フッ素ゴム(FKM)、アクリルゴム(ACM)、ヒドリンゴム等が挙げられる。これらその他のゴム成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
<フィラー>
本発明に係るゴム組成物は、フィラーを含むことが好ましい。フィラーとしては、カーボンブラック、シリカからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。クリンチ部を構成するゴム組成物は、カーボンブラックを含むことがより好ましく、トレッド部を構成するゴム組成物は、カーボンブラックおよびシリカを含むことがより好ましい。またフィラーは、シリカおよびカーボンブラックのみからなるフィラーとしてもよい。
【0089】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記した鉱物油などを原料としたカーボンブラック以外に、リグニンなどを燃焼させて得たバイオマス由来のカーボンブラック、タイヤなどのカーボンブラックを含むゴム製品を熱分解し、精製したリサイクルカーボンブラックを適宜これらと等量置換して用いても良い。
【0090】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、50m2/g以上が好ましく、80m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐久性能の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、前記測定方法により求められる。
【0091】
カーボンブラックの平均一次粒子径は、60nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、45nm以下がさらに好ましい。また、該平均一次粒子径は、10nm以上が好ましく、15nm以上がより好ましく、20nm以上がさらに好ましい。カーボンブラックの平均一次粒子径が前記の範囲であることによって、ゴム成分を補強し良好な剛性を得ることができ、高速走行時の耐久性能がさらに向上すると考えられる。カーボンブラックの平均一次粒子径は、前記測定方法により求めることができる。
【0092】
クリンチ部を構成するゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点からは、10質量部超が好ましく、25質量部超がより好ましく、40質量部超がさらに好ましい。また、該含有量は、発熱抑制による耐久性能向上の観点から、80質量部未満が好ましく、70質量部未満がより好ましく、60質量部未満がさらに好ましい。
【0093】
トレッド部を構成するゴム組成物がカーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、補強性の観点から、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、10質量部超がさらに好ましい。また、該含有量は、発熱抑制による耐久性能向上の観点から、50質量部未満が好ましく、30質量部未満がより好ましく、20質量部未満がさらに好ましい。
【0094】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、上記したシリカのほか、もみ殻などのバイオマス材料を原料としたバイオマスシリカを適宜、上記のシリカと等量置換して用いてもよい。
【0095】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、補強性およびトレッド部での減衰性の確保の観点から、140m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、160m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、発熱性および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。シリカのN2SAは、前記測定方法により測定される。
【0096】
シリカの平均一次粒子径は、20nm以下が好ましく、18nm以下がより好ましく、17nm以下がさらに好ましい。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、1nm以上が好ましく、3nm以上がより好ましく、5nm以上がさらに好ましい。シリカの平均一次粒子径が前期の範囲であることによって、シリカの分散性をより改善でき、耐久性能がさらに向上すると考えられる。シリカの平均一次粒子径は、前記測定方法により求めることができる。
【0097】
トレッド部を構成するゴム組成物がシリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、微小変形領域での柔軟性向上の観点から、10質量部超が好ましく、15質量部超がより好ましく、20質量部超がさらに好ましく、30質量部超が特に好ましい。また、ゴムの比重を低減させ軽量化を図る観点からは、100質量部未満が好ましく、95質量部未満がより好ましく、90質量部未満がさらに好ましく、85質量部未満がさらに好ましい。クリンチ部を構成するゴム組成物のシリカの含有量は特に制限されず、シリカを含有しなくても良い。
【0098】
(その他のフィラー)
カーボンブラックおよびシリカ以外のフィラーとしては、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク、バイオ炭(BIO CHAR)、セルロースナノファイバーなどの短繊維材料等、従来からタイヤ工業において一般的に用いられているものを配合することができる。
【0099】
トレッド部を構成するゴム組成物のフィラーのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、発熱抑制による耐久性能向上の観点から、150質量部未満が好ましく、120質量部未満がより好ましく、100質量部未満がさらに好ましく、90質量部未満が特に好ましい。また、ゴム成分との間での補強性を生じ易くする観点からは、30質量部超が好ましく、40質量部超がより好ましく、50質量部超がさらに好ましく、55質量部超がさらに好ましい。
【0100】
トレッド部を構成するゴム組成物のシリカおよびカーボンブラックの合計100質量%中のシリカの含有率は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、該シリカの含有率は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
【0101】
(シランカップリング剤)
シリカは、シランカップリング剤と併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、例えば、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド系シランカップリング剤;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXT等のメルカプト系シランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系シランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ系シランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系シランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系シランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系シランカップリング剤等が挙げられ、スルフィド系シランカップリング剤が好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0102】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、シリカの分散性を高める観点から、1.0質量部超が好ましく、3.0質量部超がより好ましく、5.0質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の低下を防止する観点からは、30質量部未満が好ましく、20質量部未満がより好ましく、15質量部未満がさらに好ましい。
【0103】
<可塑剤>
本発明に係るゴム組成物は、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤とは、ゴム成分に可塑性を付与する材料であり、常温(25℃)で液体(液状)の可塑剤および常温(25℃)で固体の可塑剤の両方を含む概念である。可塑剤としては、具体的には、例えば、オイル、樹脂成分、液状ポリマー、エステル系可塑剤等が挙げられる。可塑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、本明細書において、可塑剤には、伸展ゴムに含まれる可塑剤も含まれる。
【0104】
(オイル)
オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、動物油脂等が挙げられる。前記プロセスオイルとしてはパラフィン系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、芳香族系プロセスオイル等が挙げられる。また、環境対策で多環式芳香族(polycyclic aromatic compound:PCA)化合物の含量の低いプロセスオイルが挙げられる。前記低PCA含量プロセスオイルとしては、オイル芳香族系プロセスオイルを再抽出したTreated Distillate Aromatic Extract(TDAE)、アスファルトとナフテン油の混合油であるアロマ代替オイル、軽度抽出溶媒和物(mild extraction solvates)(MES)、および重ナフテン系オイル等が挙げられる。また、ライフサイクルアセスメントの観点から、ゴム混合機やエンジンなどで使用済みの潤滑油や、飲食店で使用された後の廃食用油を精製したものを適宜、等量置換して用いても良い。
【0105】
クリンチ部を構成するゴム組成物がオイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、10質量部超がさらに好ましい。また、該含有量は、本発明の効果の観点からは、80質量部未満が好ましく、60質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0106】
トレッド部を構成するゴム組成物がオイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、3質量部超が好ましく、5質量部超がより好ましく、10質量部超がさらに好ましい。また、該含有量は、本発明の効果の観点からは、80質量部未満が好ましく、60質量部未満がより好ましく、40質量部未満がさらに好ましい。
【0107】
(樹脂成分)
トレッド部を構成するゴム組成物は、さらに樹脂成分を含有することが好ましい。樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。樹脂成分としては、高速走行時の耐久性能を向上させる観点から、テルペン樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことが好ましい。クリンチ部を構成するゴム組成物は、樹脂成分を配合しても配合しなくても良い。
【0108】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0109】
石油樹脂としては、例えば、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂が挙げられる。これらの石油樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
C5系石油樹脂とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0111】
芳香族系石油樹脂とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体、またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0112】
C5C9系石油樹脂とは、C5留分とC9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0113】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0114】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0115】
樹脂成分の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、65℃以上がより好ましい。また、加工性、ゴム成分とフィラーとの分散性向上という観点からは、150℃以下が好ましく、140℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、樹脂成分の軟化点は、前記方法により測定される値である。
【0116】
トレッド部を構成するゴム組成物が樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、本発明の効果の観点から、1.0質量部超が好ましく、1.5質量部超がより好ましく、2.0質量部超がさらに好ましい。また、発熱性を低減させる観点からは、50質量部未満が好ましく、40質量部未満がより好ましく、30質量部未満がさらに好ましく、25質量部未満が特に好ましい。
【0117】
<その他の配合剤>
本発明に係るゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、ワックス、加工助剤、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができる。
【0118】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、20質量部未満が好ましく、15質量部未満がより好ましい。
【0119】
加工助剤としては、未加硫時におけるゴムの低粘度化や離型性の確保を目的とした脂肪酸金属塩や、ゴム成分のミクロな層分離を抑制する観点から広く相溶化剤として市販されているもの等を使用することができる。
【0120】
加工助剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の改善効果を発揮させる観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、耐摩耗性および破壊強度の観点からは、10質量部未満が好ましく、8質量部未満がより好ましい。
【0121】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩などの老化防止剤が挙げられる。
【0122】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0123】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1質量部超がより好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部未満が好ましく、5質量部未満がより好ましい。
【0124】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部超が好ましく、1.0質量部超がより好ましく、1.5質量部超がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10.0質量部未満が好ましく、5.0質量部未満がより好ましい。
【0125】
(加硫剤)
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0126】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保する観点から、0.1質量部超が好ましく、0.3質量部超がより好ましく、0.5質量部超がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、3.0質量部未満が好ましく、1.5質量部未満がより好ましく、1.25質量部以下がさらに好ましく、1質量部以下がさらに好ましい。なお、加硫剤として、オイル含有硫黄を使用する場合の加硫剤の含有量は、オイル含有硫黄に含まれる純硫黄分の合計含有量とする。
【0127】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物、1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン等が挙げられる。これらの硫黄以外の加硫剤は、田岡化学工業(株)、ランクセス(株)、フレクシス社等より市販されているものを使用することができる。
【0128】
(加硫促進剤)
加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系若しくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、またはキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、スルフェンアミド系、グアニジン系、およびチアゾール系加硫促進剤からなる群から選ばれる1以上の加硫促進剤が好ましく、スルフェンアミド系加硫促進剤がより好ましい。
【0129】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N-tert-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。なかでも、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)が好ましい。
【0130】
グアニジン系加硫促進剤としては、例えば、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、1-o-トリルビグアニド、ジカテコールボレートのジ-o-トリルグアニジン塩、1,3-ジ-o-クメニルグアニジン、1,3-ジ-o-ビフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-クメニル-2-プロピオニルグアニジン等が挙げられる。なかでも、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)が好ましい。
【0131】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。なかでも、2-メルカプトベンゾチアゾールが好ましい。
【0132】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1.0質量部超が好ましく、1.25質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8.0質量部未満が好ましく、6.0質量部未満がより好ましく、3.0質量部未満がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0133】
<製造>
本発明に係るゴム組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、前記の各成分をオープンロール、密閉式混練機(バンバリーミキサー、ニーダー等)等のゴム混練装置を用いて混練りすることにより製造できる。
【0134】
混練り工程は、例えば、加硫剤および加硫促進剤以外の配合剤および添加剤を混練りするベース練り工程と、ベース練り工程で得られた混練物に加硫剤および加硫促進剤を添加して混練りするファイナル練り(F練り)工程とを含んでなるものである。さらに、前記ベース練り工程は、所望により、複数の工程に分けることもできる。混練条件としては特に限定されるものではないが、例えば、ベース練り工程では、排出温度150~170℃で3~10分間混練りし、ファイナル練り工程では、70~110℃で1~5分間混練りする方法が挙げられる。
【0135】
[タイヤ]
上記ゴム組成物から構成されるクリンチ部およびトレッド部を備えたタイヤは、通常の方法により製造することができる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、クリンチ部およびトレッドを構成するゴム層の形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。加硫条件としては、特に限定されるものではなく、例えば、150~200℃で10~30分間加硫する方法が挙げられる。
【0136】
[用途]
本発明に係るタイヤは、一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであり、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わないが、空気入りタイヤとして、好適に使用することができる。また、本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、二輪車用タイヤ、三輪車用タイヤ等さまざまな用途に使用することができる。また、昨今では、ドライバーの負担を軽減しながら安全で快適な車両の運行を実現するために、自動運転と呼ばれる技術が検討されているが、本発明のタイヤは、そのような自動運転車用タイヤとしても好適に使用できる。
【実施例0137】
以下では、実施をする際に好ましいと考えられる例(実施例)を示すが、本発明の範囲は実施例に限られない。
【0138】
以下に示す各種薬品を用いて表1に従って得られるゴム組成物からなるクリンチ部、および表2に従って得られるゴム組成物からなるキャップゴム層を有するトレッド部を有するタイヤを検討して、下記の各種分析・評価方法評価方法に基づいて算出した結果を表3に示す。
【0139】
NR:TSR20
SBR1:ZEON(株)製のNipol1502(E-SBR、スチレン含量:23.5質量%、ビニル含量:18モル%、非変性)
SBR2:ZEON(株)製のNipol1739(E-SBR、スチレン含量:40.0質量%、ビニル含量:14モル%、非変性)
BR1:宇部興産(株)製のUBEPOL BR(登録商標)150B(シス含量:97モル%、Tg:-108℃、Mw:44万)
BR2:宇部興産(株)製のBR360B(シス含量:98モル%、Mp42万、Mw/Mn2.4)
カーボンブラック1:N134(N2SA:148m2/g、DBP吸油量:123mL/100g、キャボットジャパン(株)から入手可能)
カーボンブラック2:N220(ISAF,N2SA:111m2/g、DBP吸油量:115mL/100g、キャボットジャパン(株)から入手可能)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g、平均一次粒子径:15nm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)
オイル1:H&R(株)製のVivaTec500(TDAEオイル)
オイル2:出光興産(株)製のミネラルオイルPW-380(パラフィン系プロセスオイル)
樹脂成分:Sylvares SA85(α-メチルスチレンとスチレンの共重合体(芳香族ビニル系樹脂)、軟化点:85℃、SP値:9.1、Tg:43℃、クレイトン社から入手可能)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
硫黄:細井化学工業(株)製のHK-200-5(5%オイル含有粉末硫黄)
加硫促進剤:ノクセラーCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、大内新興化学工業(株)から入手可能)
【0140】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得る。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得る。得られた未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でクリンチ部またはキャップゴム層の形状に押し出し成形し、ベースゴム層、サイドウォール部その他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、各試験用タイヤ(215/45R16、195/50R15、165/50R15)を製造、準備する。各試験用タイヤのキャップゴム層は7.0mm、ベースゴム層は3.0mmとする。
【0141】
試験用タイヤについて下記の評価を行う。なお、各タイヤ重量W(kg)、および仮想体積V(m3)は、各タイヤが正規リムにリム組みされ、正規内圧が充填され、無負荷の状態で測定されたタイヤ断面幅Wt(mm)、タイヤ断面高さHt(mm)、タイヤ外径Dt(mm)から、算出される値である。
【0142】
<クリンチ部の70℃tanδ(70℃tanδC)の測定>
各試験用タイヤのクリンチ部から、タイヤ周方向の接線方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作製した各加硫ゴム試験片について、動的粘弾性測定装置(GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度70℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%、伸長モードの条件下でtanδを測定する。
【0143】
<トレッド部の30℃tanδ(30℃tanδT)の測定>
各試験用タイヤのキャップゴム層から、タイヤ周方向が長辺となるように、長さ20mm×幅4mm×厚さ1mmで切り出して作成した各加硫ゴム試験片について、動的粘弾性測定装置(GABO社製のイプレクサーシリーズ)を用い、温度30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪1%、伸長モードの条件下でtanδを測定する。
【0144】
<高速走行時の耐久性能>
各試験用タイヤについて、ドラム試験機を用い、正規リム(16×7.0J、または15×6.0J、または15×5.0J)に組付けたのち、正規内圧を充填し、各タイヤの正規荷重を負荷し、室温(25℃)、キャンバー角(0°)の条件下で、ステップスピード方式により高速耐久性をテスト行う。テストは、速度260(km/h)から、10分走行毎に10(km/h)速度を増加させ、タイヤが破壊するまでの走行時間に基づき、基準比較例(比較例1)を100とした指数で評価する。指数値が大きいほど良好である。
【0145】
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
<実施形態>
本発明の実施形態の例を以下に示す。
〔1〕一対のビード部およびトレッド部を有するタイヤであって、
タイヤ外径Dtが600mm以下であり、
前記ビード部がクリンチ部を有し、
前記クリンチ部はゴム成分を含むゴム組成物により構成され、
前記クリンチ部を構成するゴム組成物の70℃におけるtanδ(70℃tanδC)が0.10以下であり、
ビードコア下端から前記クリンチ部のタイヤ半径方向外側端までの距離をL(mm)としたとき、
Lに対する前記70℃tanδCの比(70℃tanδC/L)が6.7×10-3以下である、タイヤ。
〔2〕タイヤ外径Dtが580mm以下である、上記〔1〕記載のタイヤ。
〔3〕タイヤ外径Dtが550mm以下である、上記〔1〕または〔2〕記載のタイヤ。
〔4〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、70℃tanδC×30℃tanδTが0.020以下である、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔5〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の30℃におけるtanδを30℃tanδTとしたとき、30℃tanδT/Dtが5.0×10-4以下である、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔6〕前記トレッド部を構成するゴム組成物が、樹脂成分を含有する、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔7〕前記樹脂成分が、テルペン樹脂および石油樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、上記〔6〕記載のタイヤ。
〔8〕前記トレッド部を構成するゴム組成物の総スチレン量をS(質量%)としたとき、
Lに対するSの比(S/L)が、1.7以下である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔9〕タイヤの最大負荷能力WL(kg)に対するタイヤ重量G(kg)の比(G/WL)が0.015以下である、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔10〕タイヤ外径Dt(mm)に対するタイヤ断面幅Wt(mm)の比(Wt/Dt)が0.30以上である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のタイヤ。
〔11〕自動運転車用タイヤである、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のタイヤ。