(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099440
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 23/223 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003388
(22)【出願日】2023-01-12
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100155963
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100150566
【弁理士】
【氏名又は名称】谷口 洋樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213470
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100220489
【弁理士】
【氏名又は名称】笹沼 崇
(72)【発明者】
【氏名】高原 晃里
(72)【発明者】
【氏名】庄司 孝
(72)【発明者】
【氏名】表 和彦
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA02
2G001EA07
2G001EA08
2G001GA01
2G001JA05
(57)【要約】
【課題】2つの分光素子を備えた走査型の波長分散型蛍光X線分析装置において、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができるものを提供する。
【解決手段】測定中に、第2の分光素子(6B)で分光される蛍光X線(4D)の波長を変えながら、その分光された蛍光X線(4D)が検出器(7)に入射するように、第2の分光素子(6B)を回転させる第2の回転機構(8B)および検出器(7)を回転させる第3の回転機構(8C)のうち少なくとも第2の回転機構(8B)を制御する制御手段(11)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に1次X線を照射するX線源と、
試料から発生する蛍光X線を分光する第1の分光素子と、
前記第1の分光素子で分光された蛍光X線をさらに分光する第2の分光素子と、
前記第2の分光素子で分光された蛍光X線の強度を測定する検出器と、
前記第1の分光素子の分光面を通り、かつ試料からの蛍光X線の光路に垂直な第1の軸心を中心として、前記第1の分光素子を回転させる第1の回転機構と、
試料からの蛍光X線の光路と平行に前記第2の分光素子および前記検出器を直線移動させる移動機構と、
前記第2の分光素子の分光面を通り、かつ前記第1の軸心と平行な第2の軸心を中心として、前記第2の分光素子を回転させる第2の回転機構と、
前記第2の軸心を中心として、前記検出器を回転させる第3の回転機構と、
試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第2の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構のうち少なくとも前記第2の回転機構を制御する制御手段とを備えた蛍光X線分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
試料から発生する蛍光X線が、前記第1の軸心が延びる方向に積み重ねられた箔を有するソーラースリットを通過して、発散ビームとして前記第1の分光素子に入射され、
前記制御手段が、測定前に、前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,+)配置とするとともに、前記第1の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0±Δθを包含するように前記第1の分光素子を回転させ、測定中に、前記第2の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0±Δθとなるように前記第2の分光素子を4Δθの範囲で回転させながら、前記検出器を6Δθの範囲で連動回転させる蛍光X線分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の蛍光X線分析装置において、
前記制御手段が、測定前に、前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,+)配置とするにあたり、まず前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,-)配置とするとともに、前記第1の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0となるように前記第1の分光素子を回転させた状態で、前記第2の分光素子を回転させて前記検出器で測定される強度が最大となる前記第2の分光素子の回転角度を基準角度とし、前記第2の分光素子を前記基準角度から180度反転させてさらに2θ0だけ回転させることにより(+,+)配置とする蛍光X線分析装置。
【請求項4】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記制御手段が、高分解能モード広域測定を指定された場合には、
前記第1の軸心が延びる方向に積み重ねられた箔を有して、試料から発生する蛍光X線を通過させるソーラースリットを用い、
試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第1の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御する蛍光X線分析装置。
【請求項5】
請求項1に記載の蛍光X線分析装置において、
前記第2の分光素子を蛍光X線の光路から退避させる退避機構を備え、
前記制御手段が、低分解能モードを指定された場合には、
試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記第2の分光素子を経由せずに前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記退避機構、前記移動機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第1の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第1の回転機構、前記移動機構および前記第3の回転機構のうち少なくとも前記第1の回転機構および前記移動機構を制御する蛍光X線分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型の波長分散型蛍光X線分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば状態分析法の一つであるX線発光分光法に用いるために、2つの分光素子を備えた走査型の波長分散型蛍光X線分析装置がある。このような蛍光X線分析装置では、第1の分光素子で分光された蛍光X線を第2の分光素子でさらに分光することにより、高いエネルギー分解能での測定が行われる(特許文献1、2、非特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10-232209号公報
【特許文献2】特開2005-140719号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Gohshi et al., “Applied Spectroscopy”, 1982, 36, p. 171-174
【非特許文献2】T. Konishi et al., “Review of Scientific Instruments”, 1991, 62, p. 2588-2592
【非特許文献3】R. D. Deslattes, “Review of Scientific Instruments”, 1967, 38, p. 616-620
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの蛍光X線分析装置では、スペクトル取得のための測定中に、第1の分光素子の移動、回転、第2の分光素子の移動、回転の4つの動作のうち、3つを実行するか、X線源および試料を回転移動させなければならず、それらの動作から、蛍光X線の分光角について高精度の角度再現性を得ることが困難であった。
【0006】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、2つの分光素子を備えた走査型の波長分散型蛍光X線分析装置において、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の蛍光X線分析装置は、まず、試料に1次X線を照射するX線源と、試料から発生する蛍光X線を分光する第1の分光素子と、前記第1の分光素子で分光された蛍光X線をさらに分光する第2の分光素子と、前記第2の分光素子で分光された蛍光X線の強度を測定する検出器とを備えている。
【0008】
そして、本発明の装置は、前記第1の分光素子の分光面を通り、かつ試料からの蛍光X線の光路に垂直な第1の軸心を中心として、前記第1の分光素子を回転させる第1の回転機構と、試料からの蛍光X線の光路と平行に前記第2の分光素子および前記検出器を直線移動させる移動機構と、前記第2の分光素子の分光面を通り、かつ前記第1の軸心と平行な第2の軸心を中心として、前記第2の分光素子を回転させる第2の回転機構と、前記第2の軸心を中心として、前記検出器を回転させる第3の回転機構とを備えている。
【0009】
さらに、本発明の装置は、試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第2の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構のうち少なくとも前記第2の回転機構を制御する制御手段を備えている。
【0010】
本発明の装置によれば、スペクトル測定中(走査中)に、第2の分光素子の回転のみ、または、第2の分光素子の回転および検出器の回転のみがなされ、スペクトル測定中に駆動される部位が少ないので、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。
【0011】
本発明の装置においては、試料から発生する蛍光X線が、前記第1の軸心が延びる方向に積み重ねられた箔を有するソーラースリットを通過して、発散ビームとして前記第1の分光素子に入射され、前記制御手段が、測定前に、前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,+)配置とするとともに、前記第1の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0±Δθを包含するように前記第1の分光素子を回転させ、測定中に、前記第2の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0±Δθとなるように前記第2の分光素子を4Δθの範囲で回転させながら、前記検出器を6Δθの範囲で連動回転させることが望ましい。
【0012】
この第1の付加的な構成によれば、第1の分光素子に入射する発散ビームに含まれる波長範囲の蛍光X線について、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。この測定を、後述する他の測定と区別するために、高分解能モード挟域測定と呼ぶ。
【0013】
前記第1の付加的な構成の装置においては、前記制御手段が、測定前に、前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,+)配置とするにあたり、まず前記第1の分光素子および前記第2の分光素子を(+,-)配置とするとともに、前記第1の分光素子への蛍光X線の入射角がθ0となるように前記第1の分光素子を回転させた状態で、前記第2の分光素子を回転させて前記検出器で測定される強度が最大となる前記第2の分光素子の回転角度を基準角度とし、前記第2の分光素子を前記基準角度から180度反転させてさらに2θ0だけ回転させることにより(+,+)配置としてもよい。
【0014】
この第2の付加的な構成によれば、第1の付加的な構成の装置について、標準試料等を用いることなく、第1の分光素子および第2の分光素子の回転角度について、高い正確度で絶対的な角度校正を行うことができる。
【0015】
本発明の装置においては、前記制御手段が、高分解能モード広域測定を指定された場合には、前記第1の軸心が延びる方向に積み重ねられた箔を有して、試料から発生する蛍光X線を通過させるソーラースリットを用い、試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第1の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第1の回転機構、前記移動機構、前記第2の回転機構および前記第3の回転機構を制御してもよい。
【0016】
この第3の付加的な構成によれば、スペクトル測定中に、第1の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が検出器に入射するように、第2の回転機構および第3の回転機構のみならず、第1の回転機構および移動機構をも制御するので、前記第1の付加的な構成の装置による高分解能モード挟域測定よりも、広い波長範囲の蛍光X線について、高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。この測定を、高分解能モード広域測定と呼ぶ。
【0017】
本発明の装置においては、前記第2の分光素子を蛍光X線の光路から退避させる退避機構を備え、前記制御手段が、低分解能モードを指定された場合には、試料から発生する所定の波長範囲の蛍光X線について、当該蛍光X線が前記第2の分光素子を経由せずに前記検出器に入射するように、測定前に、前記第1の回転機構、前記退避機構、前記移動機構および前記第3の回転機構を制御し、測定中に、前記第1の分光素子で分光される蛍光X線の波長を変えながら、その分光された蛍光X線が前記検出器に入射するように、前記第1の回転機構、前記移動機構および前記第3の回転機構のうち少なくとも前記第1の回転機構および前記移動機構を制御してもよい。
【0018】
この第4の付加的な構成によれば、第2の分光素子を退避させ、第1の分光素子のみを用いて、一般的な波長分散方式の蛍光X線スペクトルを得ることができる。この動作モードを低分解能モードと呼ぶ。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略平面図である。
【
図2】同装置における測定動作の詳細を示す図である。
【
図3】同装置における校正動作の途中段階を示す図である。
【
図4】同装置における校正動作の完了時を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態の蛍光X線分析装置について、図にしたがって説明する。概略平面図である
図1に示すように、この装置は、まず、試料1に1次X線2を照射するX線管などのX線源3と、試料1から発生する蛍光X線4Aを分光する第1の分光素子6Aと、第1の分光素子6Aで分光された蛍光X線4Cをさらに分光する第2の分光素子6Bと、第2の分光素子6Bで分光された蛍光X線4Dの強度を測定する検出器7とを備えている。
【0021】
そして、この装置は、第1の分光素子6Aの分光面を通り、かつ試料1からの蛍光X線4Aの光路に垂直な第1の軸心O1を中心として、第1の分光素子6Aを回転(自転)させる第1の回転機構8Aと、試料1からの蛍光X線4Aの光路と平行に第2の分光素子6Bおよび検出器7を直線移動させる移動機構9と、第2の分光素子6Bの分光面を通り、かつ第1の軸心O1と平行な第2の軸心O2を中心として、第2の分光素子6Bを回転(自転)させる第2の回転機構8Bと、第2の軸心O2を中心として、検出器7を回転(公転)させる第3の回転機構8Cとを備えている。移動機構9は、軌道部9aとその上を直線移動する移動部9bとからなり、移動部9bは、第2の分光素子6Bおよび第2の回転機構8Bならびに検出器7および第3の回転機構8Cを搭載している。
【0022】
さらに、この装置は、試料1から発生する所定の波長範囲の蛍光X線4Aについて、当該蛍光X線4Aが、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを経由して、検出器7に入射するように、測定前に、第1の回転機構8A、移動機構9、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cを制御し、測定中に、第2の分光素子6Bで分光される蛍光X線4Dの波長を変えながら、その分光された蛍光X線4Dが検出器7に入射するように、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cのうち少なくとも第2の回転機構8Bを制御する制御手段11を備えている。つまり、基本的に、スペクトル測定中には、第2の分光素子6Bの回転および検出器7の回転がなされるが、測定すべき蛍光X線4Aの波長範囲と検出器7の検出面の大きさによっては、検出器7を回転せずとも第2の分光素子6Bの回転のみで当該波長範囲の測定が可能となる。
【0023】
このように、本発明の装置によれば、スペクトル測定中(走査中)に、第2の分光素子6Bの回転のみ、または、第2の分光素子6Bの回転および検出器7の回転のみがなされ、スペクトル測定中に駆動される部位が少ないので、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。
【0024】
さらにまた、この装置においては、試料1から発生する蛍光X線4Aが、第1の軸心O1が延びる方向に積み重ねられた箔を有するソーラースリット5を通過して、発散ビーム4B(
図1では簡単のために1本の直線で示している)として第1の分光素子6Aに入射され、制御手段11が、測定前に、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを(+,+)配置とするとともに、第1の分光素子6Aへの蛍光X線の入射角がθ
0±Δθを包含するように第1の回転機構8Aにより第1の分光素子6Aを回転させ、測定中に、第2の分光素子6Bへの蛍光X線の入射角がθ
0±Δθとなるように第2の回転機構8Bにより第2の分光素子6Bを4Δθの範囲で回転させながら、第3の回転機構8Cにより検出器7を6Δθの範囲で連動回転させる。
【0025】
この測定を、後述する他の測定と区別するために、高分解能モード挟域測定と呼ぶ。なお、(+,+)配置というのは、第1の分光素子6Aによる第1の反射の折れ曲がり方向(ここでは上から見て左向き)を+として、第2の分光結晶6Bによる第2の反射の折れ曲がり方向が同じ向きであるような配置をいう。第2の反射の折れ曲がり方向が第1の反射の折れ曲がり方向と逆の向きであるような配置は、(+,-)配置という。
【0026】
この装置における高分解能モード挟域測定での動作の詳細について説明する。高分解能モード挟域測定においては、第1の軸心O1が延びる方向(
図1、
図2の紙面垂直方向、高さ方向ともいう)に積み重ねられた箔を有するソーラースリット5を用いる。このソーラースリット5では、試料1から発生する蛍光X線4Aについて、高さ方向の発散を、高さ方向と直交する水平方向の発散よりも狭くなるように制限できる。つまり、試料1から発生する蛍光X線4Aに対して、このソーラースリット5を用いる目的は、平行ビーム化ではなく、高さ方向の制限、つまり、第1の分光素子6Aに対して水平方向からずれて斜めに入射することの制限である。
【0027】
この制限の結果、
図2に示すように、視野制限スリットの開口高さh(
図2では水平方向の矢印で表されている)およびソーラースリット5の寸法形状により、試料1から発生する蛍光X線4Aが、矢印R1,R2で挟まれた、水平面における角度範囲がθ
0±αの発散ビーム4Bとなって、第1の分光素子6Aの分光面全体へ入射する。この角度範囲θ
0±α(αは約1度)が、1回の高分解能モード挟域測定で走査できる、つまりスペクトルが得られる角度範囲となる。なお、角度の表記においては、試料1からの蛍光X線4A、4Bの光路(
図2では、2本の破線の中央に実線で示す)を基準として、左回りを正とする。
【0028】
さて、
図2に示すように、測定しようとする所定の波長範囲が、第1の分光素子6Aへの入射角においてθ
0±Δθ(Δθ≦α)の範囲である場合、その波長範囲の蛍光X線4Aが、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを経由して、検出器7に入射するように、
図1の制御手段11が、測定前に、第1の回転機構8A、移動機構9、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cを制御する。
【0029】
これには以下の動作が含まれる。
図2に示すように、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを(+,+)配置とするとともに、第1の分光素子6Aへの蛍光X線の入射角がθ
0±Δθを包含するように第1の分光素子6Aを回転させる。また、試料1からの蛍光X線4A、4Bの光路(
図2では、2本の破線の中央に実線で示す)と移動機構9による第2の軸芯O2の直線移動の軌道(
図2では、前記光路と平行な破線で示す)との距離をDとし、第1の軸芯O1の位置を左右方向における基準の位置とし、右方向を正として、第2の軸芯O2が、2θ
0<π/2の場合にはD×tan(π/2-2θ
0)の位置に来るように、2θ
0≧π/2の場合には-D×tan(π/2-2θ
0)の位置に来るように、移動部9bを移動させる。
【0030】
そして、
図1の制御手段11が、測定中に、第2の分光素子6Bで分光される蛍光X線4Dの波長を変えながら、その分光された蛍光X線4Dが検出器7に入射するように、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cを制御する。より具体的には、
図2において、測定中に、第2の分光素子6Bへの蛍光X線の入射角がθ
0±Δθとなるように、第2の分光素子6Bを3θ
0±2Δθで回転させながら、検出器7を4θ
0±3Δθで、つまり6Δθの範囲で連動回転させる。ここで、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bの回転方向の初期位置は、分光面が、基準となる試料1からの蛍光X線4A、4Bの光路と平行で、
図1、
図2において下向きとなる位置とし、検出器7の回転方向の初期位置は、検出面中央への法線が、基準となる試料1からの蛍光X線4A、4Bの光路と平行で、検出器7が
図1、
図2において第2の分光素子6Bの左側にある位置とする。
【0031】
この実施形態の装置での高分解能モード挟域測定によれば、第1の分光素子6Aに入射する発散ビーム4Bに含まれる波長範囲(入射角においてはθ0±Δθの範囲)の蛍光X線について、十分に高精度で高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。
【0032】
この実施形態の装置での高分解能モード挟域測定においては、制御手段が、測定前に、第1の分光素子および第2の分光素子を(+,+)配置とするにあたり、
図3に示すように、まず第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを(+,-)配置とするとともに、第1の分光素子6Aへの蛍光X線の入射角がθ
0となるように、つまり第1の分光素子6Aの指示角度θ
1stがθ
0となるように、第1の分光素子6Aを回転させた状態で、第2の分光素子6Bを回転させながら、検出方向を移動機構9(
図1)の直線移動方向と略平行(すなわち、蛍光X線4A、4B(
図1)の光路と略平行)に配置した検出器7で測定される強度が最大となる第2の分光素子6Bの回転角度(指示角度)θ
2nd=π+θ
0+Δθ
R(Δθ
Rは補正角度)を基準角度とする。このとき、第1の分光素子6Aと第2の分光素子6Bが平行配置となり、補正角度Δθ
Rが求まる。
【0033】
次に、
図4に示すように、第2の分光素子6Bを基準角度から180度反転させてさらに2θ
0だけ回転させることにより、第2の分光素子6Bの指示角度θ
2ndを3θ
0+Δθ
Rとして、第1の分光素子および第2の分光素子を(+,+)配置とする。このとき、第1の分光素子6Aと第2の分光素子6Bのなす角度が正確にπ-2θ
0となり、第2の分光素子6Bへの入射角が、第1の分光素子6Aの指示角度θ
1stと第2の分光素子6Bの指示角度θ
2ndによらず、絶対角度でθ
0となる。
【0034】
この動作によれば、この実施形態の装置で高分解能モード挟域測定を行うにあたり、標準試料等を用いることなく、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bの回転角度について、高い正確度で絶対的な角度校正を行うことができる。
【0035】
この実施形態の装置においては、
図1の制御手段11が、高分解能モード広域測定を指定された場合には、高分解能モード挟域測定で用いたのと同様の、第1の軸心O1が延びる方向に積み重ねられた箔を有して、試料1から発生する蛍光X線4Aを通過させるソーラースリット5を用い、試料1から発生する所定の波長範囲の蛍光X線4Aについて、当該蛍光X線4Aが、第1の分光素子6Aおよび第2の分光素子6Bを経由して、検出器7に入射するように、測定前に、第1の回転機構8A、移動機構9、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cを制御し、測定中に、第1の分光素子6Aで分光される蛍光X線4Cの波長を変えながら、その分光された蛍光X線4Cが第2の分光素子6Bを経由して検出器7に入射するように、第1の回転機構8A、移動機構9、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cを制御する。
【0036】
この付加的な構成によれば、スペクトル測定中に、第1の分光素子6Aで分光される蛍光X線4Cの波長を変えながら、その分光された蛍光X線4Cが検出器7に入射するように、第2の回転機構8Bおよび第3の回転機構8Cのみならず、第1の回転機構8Aおよび移動機構9をも制御するので、上述の高分解能モード挟域測定よりも、広い波長範囲の蛍光X線4Aについて、高いエネルギー分解能でのスペクトル測定ができる。この測定を、高分解能モード広域測定と呼ぶ。
【0037】
この実施形態の装置においては、
図1に示すように、第2の分光素子6Bを蛍光X線4Cの光路から退避させる退避機構10を備え、制御手段11が、低分解能モードを指定された場合には、試料1から発生する所定の波長範囲の蛍光X線4Aについて、当該蛍光X線4Aが、第1の分光素子6Aを経由し、第2の分光素子6Bを経由せずに検出器7に入射するように、測定前に、第1の回転機構8A、退避機構10、移動機構9および第3の回転機構8Cを制御し、測定中に、第1の分光素子6Aで分光される蛍光X線4Cの波長を変えながら、その分光された蛍光X線4Cが直接検出器7に入射するように、第1の回転機構8A、移動機構9および第3の回転機構8Cのうち少なくとも第1の回転機構8Aおよび移動機構9を制御する。
【0038】
ここで、基本的に、測定中には、第1の分光素子6Aの回転、移動部9bの直線移動および検出器7の回転がなされるが、測定すべき蛍光X線4Aの波長範囲と検出器7の検出面の大きさによっては、検出器7を回転せずとも第1の分光素子6Aの回転および移動部9bの直線移動のみで当該波長範囲の測定が可能となる。
【0039】
この付加的な構成によれば、第2の分光素子6Bを退避させ、第1の分光素子6Aのみを用いて、一般的な波長分散方式の蛍光X線スペクトルを得ることができる。この動作モードを低分解能モードと呼ぶ。低分解能モードにおいては、一般的な波長分散型蛍光X線分析装置と同様に、第1の軸心O1が延びる方向と直交する方向に積み重ねられた箔を有して、試料1から発生する蛍光X線4Aを通過させて平行ビーム化するソーラースリット5を用いる。
【符号の説明】
【0040】
1 試料
2 1次X線
3 X線源
4A 試料から発生する蛍光X線
4B 発散ビームとしての試料から発生する蛍光X線
4C 第1の分光素子で分光された蛍光X線
4D 第2の分光素子で分光された蛍光X線
5 ソーラースリット
6A 第1の分光素子
6B 第2の分光素子
7 検出器
8A 第1の回転機構
8B 第2の回転機構
8C 第3の回転機構
9 移動機構
10 退避機構
11 制御手段
O1 第1の軸心
O2 第2の軸心