(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099459
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ナノ結晶構造体基板
(51)【国際特許分類】
G02B 5/20 20060101AFI20240718BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20240718BHJP
【FI】
G02B5/20
B82Y20/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023022990
(22)【出願日】2023-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2023002784
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトの掲載日:令和4年8月26日(抄録公開日7月6日) ウェブサイトのアドレス 講演予稿:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/programpage 抄録:https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022a/subject/23a-A101-8/tables?cryptoId= [刊行物等] 開催日:令和4年9月23日 集会名:第83回応用物理学会秋季学術講演会 [刊行物等] ウェブサイトの掲載日:令和4年10月11日(プログラム公開日9月29日) ウェブサイトのアドレス 講演予稿 :https://www.bunkou.or.jp/annual_2022/program.html プログラム :https://www.bunkou.or.jp/content/pdf/2022_annual_program.pdf [刊行物等] 開催日:令和4年10月13日 集会名:2022年度日本分光学会 年次講演会 [刊行物等] 発行日:令和4年10月24日 刊行物:医用分光学研究会第20回年会予稿集,第32頁 [刊行物等] 開催日:令和4年10月24日 集会名:医用分光学研究会 第20回年会
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 共創の場形成支援(共創の場形成支援プログラム)「ネオ・ディスタンス社会を創造する次世代「光」共創拠点を実現するための国立大学法人徳島大学による研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(72)【発明者】
【氏名】矢野 隆章
(72)【発明者】
【氏名】加藤 遼
【テーマコード(参考)】
2H148
【Fターム(参考)】
2H148AA05
2H148AA07
2H148AA21
(57)【要約】 (修正有)
【課題】可視光領域で動作し、かつ構造的に安定なナノ結晶構造体基板および蛍光イムノセンサーを簡便な製造方法で実現する。
【解決手段】ナノ結晶構造体基板は、基材の表面にポリマー層が設けられ、前記ポリマー層の表面に、波長500nm以上800nm以下の光領域において屈折率が3以上でしかも消光率が3以下の誘電体または半導体より成るナノ結晶粒子が固定されたものである。その製造方法は、前記基材の表面上にポリマー層を形成する工程と、前記ポリマー層の表面に誘電体または半導体のアモルファス層を形成する工程と、前記アモルファス層にレーザー光を照射する工程と、前記アモルファス層表面の全部または一部を走査する工程とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面にポリマー層が設けられ、前記ポリマー層の表面に、波長500nm以上800nm以下の領域において屈折率が3以上でかつ消光率が3以下の誘電体または半導体より成るナノ結晶粒子が固定された、ナノ結晶構造体基板。
【請求項2】
前記ポリマー層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、(ポリアミド)、ポリアクリロニトリルポリエチレンからなる群より選択される1種以上の熱可塑性高分子、またはフェノール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上の熱硬化性樹脂を含むことを特徴とする、請求項1に記載のナノ結晶構造体基板。
【請求項3】
前記ナノ結晶粒子は、シリコン、ゲルマニウム、テルルからなる群より選択される1種以上の単一元素、または、ガリウム砒素、ガリウムリン、インジウムリン、酸化チタン、アンチモン化ガリウム、テルル化鉛、テルル化ゲルマニウム、炭化ケイ素からなる群より選択される1種以上の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載のナノ結晶構造体基板。
【請求項4】
前記ポリマー層の表面にアモルファス領域をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載のナノ結晶構造体基板。
【請求項5】
前記アモルファス層の厚みは10nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項4に記載のナノ結晶構造体基板。
【請求項6】
前記ナノ結晶粒子は、表面が蛍光分子により修飾されたことを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のナノ結晶構造体基板。
【請求項7】
前記蛍光分子は、N-(3-Fluoranthyl)maleimide、FAM)、フルオレセイン、ダンシル、カスケードイエロー、フルオレスカミン、オレゴングリーン、ピレン、テキサスレッド、パシフィックブルー、マリンブルー、アレクサ、ルシファーイエロー、BODIPY、クーマリン、PyMPO、TET、JOE、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、ROX、VIC、HEX、TAMRA、SYBR Green、NBD、からなる群より選択される1種以上の有機化合物であることを特徴とする請求項6に記載のナノ結晶構造体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メタマテリアルまたはメタサーフェスに用いることができるナノ結晶構造体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
古来、ステンドグラスやガラス工芸品において、金属粉を用いて着色する技術が用いられているが、これはナノサイズの金属粒子がプラズモン共鳴を示す物理現象を利用したものである。一方、近年、誘電体ナノ粒子で生じるミー(Mie)共鳴に関する研究がある。ミー共鳴とは、屈折率nの誘電体ナノ粒子に波長λの光が入射した場合、実効波長(λ/n)が誘電体ナノ粒子の直径と等しい場合に、当該粒子中に定在波が発生し、その結果、磁気的双極子共鳴が光学領域において可視化される現象である。
【0003】
誘電体ナノ粒子の素材としては、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)およびガリウム砒素(GaAs)のように、3以上の高い屈折率を有するものが好ましいとされている(特許文献1、非特許文献1、2)。さらに、誘電体ナノ粒子は消光係数が小さい方が好ましく、特に消光係数0.5以下である結晶性シリコンがより好ましいとされている(特許文献1、非特許文献1、2)。
【0004】
誘電体ナノ粒子はその素材や粒径などを制御することで、任意に光の吸収波長、すなわち色を変えることができるので、インク材料として応用することができる。誘電体ナノ粒子はメチレンブルー等の有機色素のように分子構造の変化による退色が原理的に発生しない。そのため、高温下あるいは炎天下のような過酷な状況で恒久的に使用される標識等に有用である。基板上に誘電体ナノ粒子を固定する方法としては、誘電体ナノ粒子と基板の間の静電相互作用を利用するのが一般的である(特許文献1)。例えば、基板表面を正電位に、誘電体ナノ粒子の表面を負電位に予め帯電させておき、誘電体ナノ粒子を混ぜた溶媒を基板に塗布した後、溶媒を蒸発させて固定する。
【0005】
基板上に誘電体ナノ粒子を固定する別の方法としては、レーザーアブレーションの他に、はんだはじき(ディウィティング)を利用した方法がある(特許文献2、非特許文献3)。例えば石英ガラス結晶基板の上にまずSi膜を真空蒸着し、その後基板ごとアニーリングすることによりSi膜を溶融させると、Si膜は複数の島に分断され、それぞれの島は表面張力により球状に凝集する。その後徐冷すると、Siの球状体は結晶化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-25023号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2017/0186612号明細書
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】矢野、“高屈折率誘電体ナノ粒子のナノフォトニクス”、フォトニクスニュース、第6巻、第3号、2020
【非特許文献2】D.G.Baranov,D.A.Zuev,S.I.Lepeshov,O.V.Kotov,A.E.Krasnok,A.B.Evlyukhin,andB.N.Chichkov,“All-dielectricnanophotonics:thequestforbettermaterialsandfabricationtechniques”,OpticalSocietyofAmerica,Vol.4,No.7,2017
【非特許文献3】Y.Wakayama,T.Tagami,andS.Tanaka,”FormationofSiislandsfromamorphousthinfilmsuponthermalannealing”,J.Appl.,Vol85,No.12,1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1の技術を用いてナノ結晶構造体基板を作成した場合、誘電体ナノ粒子は単に基板に静電相互作用で付着しているに過ぎず、外力によって簡単に剥がれ落ちるという課題を有していた。また、非特許文献2、3の技術は基板全体を高温に加熱するため、基板として石英ガラスなど耐熱性を有する素材を選ぶ必要があり、材料選択の自由度が制限されるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第一の態様に係るナノ結晶構造体基板は、基材の表面にポリマー層が設けられ、前記ポリマー層の表面に、波長500nm以上800nm以下の領域において屈折率が3以上でしかも消光率が3以下の誘電体または半導体より成るナノ結晶粒子が固定されたものである。
【0010】
前記ナノ結晶構造体基板において、前記ポリマー層は、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリアクリロニトリルポリエチレンからなる群より選択される1種以上の熱可塑性高分子、またはフェノール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1種以上の熱硬化性樹脂を含むものである。
【0011】
前記ナノ結晶構造体基板において、前記ナノ結晶粒子は、Si、Ge、テルル(Te)からなる群より選択される1種以上の単元素、または、GaAs、ガリウムリン(GaP)、インジウムリン(InP)、酸化チタン(TiO2)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、テルル化鉛(PbTe)、テルル化ゲルマニウム(GeTe)、炭化ケイ素(SiC)、からなる群より選択される1種以上の化合物である。
【0012】
前記ナノ結晶構造体基板において、前記ポリマー層の表面にアモルファス領域をさらに有するものであってもよい。
【0013】
本発明の第二の態様に係るナノ結晶構造体基板は、前記ナノ結晶構造体ナノ結晶粒子の表面が蛍光分子により修飾されたものである。
【0014】
前記ナノ結晶構造体基板において、前記蛍光分子は、N-(3-Fluoranthyl)maleimide、FAM)、フルオレセイン、ダンシル、カスケードイエロー、フルオレスカミン、オレゴングリーン、ピレン、テキサスレッド、パシフィックブルー、マリンブルー、アレクサ、ルシファーイエロー、BODIPY、クーマリン、PyMPO、TET、JOE、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、ROX、VIC、HEX、TAMRA、SYBR Green、NBD、からなる群より選択される1種以上の有機化合物であってもよい。
【0015】
前記ナノ結晶構造体基板において、前記アモルファス層の厚みは10nm以上100nm以下であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第一の態様によれば、粒径によって光共鳴波長の制御が可能なナノ結晶粒子が基板上に安定的に設けられたナノ結晶構造体基板を実現することができる。
また、本発明の第二の態様によれば、ナノ結晶粒子表面に蛍光分子を修飾することにより顕著な蛍光増強効果を有するナノ結晶構造体基板を実現することができる。
また、本発明の第三の態様によれば、部分的にアモルファス部を残すことにより、任意の領域における蛍光強度を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1の実施の形態のナノ結晶構造体基板の概略断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施の形態のナノ結晶構造体基板の概略断面図である。
【
図3】本発明の第3の実施の形態のナノ結晶構造体基板の概略断面図である。
【
図4】レーザーアニーリングによるナノ結晶粒子の生成を示す説明図である。および生成されたシリコンナノ粒子のSEM像写真である。
【
図5】本発明の実施例1における暗視野顕微鏡像の写真である。
【
図6】本発明の実施例2および比較例における蛍光スペクトル測定結果である。
【
図7】本発明の実施例3におけるナノ結晶粒子のサイズごとの発色を撮影した暗視野顕微鏡像の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の第一の態様に係る実施の形態(以下、本実施の形態)について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は本実施の形態におけるナノ結晶構造体基板の概略断面図である。
図1において、1は基板であり基材1aと基材1aの表面に形成されたポリマー層1bより構成される。基材1aの厚みは強度の観点から100μm以上が好ましい。また、基材1aの素材は特に限定されず、金属、誘電体、半導体、樹脂、セラミック、ガラスのいずれかからなる。
【0019】
図1において、2はナノ結晶粒子である。ナノ結晶粒子2は単体でミー共鳴を示す誘電体または半導体で構成される。ここでミー共鳴とは、波長λの光が屈折率nの物体に入射した場合、その実効波長λ/nが粒子の直径に等しくなるときに定在波が形成され、電気的および磁気的双極子共鳴が光学領域に出現する現象である。屈折率が大きい方がより小さな粒径でミー共鳴が示される。波長500nm~800nmの可視領域において屈折率が4程度あるいはそれ以上あれば高い光閉じ込め効果(光増強効果)が期待できる。
【0020】
ナノ結晶粒子2の素材としては、前記屈折率の要件と併せて、共鳴のQ値の低下要因となる消光率k(屈折率の虚数部)が小さい方がより高い光閉じ込め効果を期待できる。素材としては、Si、Ge、Teのように単元素であっても、また、GaAs、GaP、InP、TiO2、GaSb、PbTe、GeTe、SiC、のような化合物でも同じ効果が期待できる。
【0021】
例えば、結晶シリコン(c-Si)の屈折率nはλ=500nm~1450nmの波長帯で4.293~3.486であるので、可視光域の波長の約4分の1の径(50~200nm程度)のナノ粒子でミー共鳴が生じる。さらにc-Siの消光率kは同波長域で0.0045~0.001程度である。一方、アモルファスシリコン(a-Si)も屈折率ではc-Siとほぼ同等である。しかし、短波長域で消光率kは急激に悪化し、λ=500nmでは1.12とc-Siの250倍にもなる。
【0022】
シリコン以外の半導体材料として、Geが候補として挙げられる。Geは中波長域(λ=500nm~600nm)で屈折率nは4.035~5.748とc-Siよりもやや大きい。しかし、消光率kは同波長域で2.455~0.345と非常に大きい。a-SiやGeに限らず、一般的に、波長が短いほど消光率kは悪化する。ただ、c-Siは他の元素や化合物に比べ、悪化の度合いが緩やかなため、ナノ結晶粒子としては望ましい材料のひとつである。
【0023】
さらに
図1において、基材1aとナノ結晶粒子2との間にポリマー層1bが設けられている。素材としては、融点温度が100°Cから350°Cの高分子が選択される。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、PET、ナイロン(ポリアミド)、ポリアクリロニトリルポリエチレン、等の熱可塑性高分子、フェノール樹脂、ポリウレタン、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等の熱硬化性樹脂である。
【0024】
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第二の態様に係る実施の形態(以下、第2の実施の形態)について説明する。本実施の形態では、第1の実施の形態のナノ結晶構造体基板を蛍光イムノセンサーに応用した場合について説明する。
図2は第2の実施の形態におけるナノ結晶構造体基板の概略断面図である。
図2において、基材1a、ポリマー層1b、ナノ結晶粒子2は
図1に示したものと同等の機能を有するものである。
図1と異なるのはナノ結晶粒子2の表面が蛍光プローブ分子20で修飾されていることである。
【0025】
本実施の形態において、蛍光プローブ分子20としては、例えば、N-(3-Fluoranthyl)maleimide、FAM)、フルオレセイン、ダンシル、カスケードイエロー、フルオレスカミン、オレゴングリーン、ピレン、テキサスレッド、パシフィックブルー、マリンブルー、アレクサ、ルシファーイエロー、BODIPY、クーマリン、PyMPO、TET、JOE、Cy3、Cy5、Cy5.5、Cy7、ROX、VIC、HEX、TAMRA、SYBR Green、NBD、等である。
【0026】
本実施の形態において、ナノ結晶粒子2は、例えばSiのような半導体の結晶より構成される。金属ナノ粒子とは異なり、Siは蛍光プローブ分子との表面間の電子遷移が起こりにくい。つまり、蛍光プローブ分子が表面に近接しても蛍光強度が減衰しないため、表面に高分子を被膜する必要がない。そのため、蛍光プローブ分子20はナノ結晶粒子2と接触してもよく、その結果後述の実施例で示すように、顕著な蛍光増強効果を得ることができる。
(第3の実施の形態)
【0027】
以下、本発明の第三の態様に係る実施の形態(以下、第3の実施の形態)について説明する。
図3は第3の実施の形態におけるナノ結晶構造体基板の概略斜視図である。
図3において、アモルファス層3の厚さは、最終的に生成されるナノ結晶粒子のサイズにも影響するが、10nm以上100nm以下が好ましい。アモルファス層の組成は、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、テルル(Te)のように単一元素であったり、また、GaAs、GaP、InP、TiO
2、GaSb、PbTe、GeTe、SiC、のような化合物である。
【0028】
次に、アモルファス層3の表面にレーザー光を照射し、アモルファス層3を部分的に加熱して瞬間的に溶融させる。溶融したアモルファス層3(例えばSi)は、
図4に示すように複数の島(island)に分かれて微小球状に凝集し、固化して結晶シリコンとなる。一般にa-Siの融点は約1420°Kであるが、下層のポリマー層の熱伝導率が0.1~0.5W/m・K程度と、Si(150W/m・K程度)やGe(60W/m・K)と比べて2~3桁も低いために、レーザーから供給される熱エネルギーはほぼアモルファス層3の島に閉じ込められ、低エネルギーのレーザーの照射でナノ結晶粒子2を生成することができる。
【0029】
また、レーザーによる加熱は、アモルファス層3の表面に照射されるレーザービームの域内に限られるので、基板全体をアニールする場合と比べて、非常に小さいエネルギーの投入で十分である。レーザービームの領域つまり光学的なレーザービームのスポットの大きさ(例えば半値幅)は、一般的にはレーザーの波長と対物光学系の開口数で決定されるが、アモルファス層3が融解する温度領域の大きさはレーザービームのパワー(照射エネルギー)にも関係する。本実施の形態においては、アモルファス層3に照射するレーザービームはラインビームとし、そのビーム径は縦0.1μm以上2.0μm以下、横10μm以上100μm以下とする。照射パワーは1mW以上10mW以下に設定する。なお、レーザーの波長はアモルファス層3による吸収率ができるだけ高くなるものが選択してもよいが、本実施の形態では488nm以上630nm以下と設定している。
【0030】
より広範囲に、例えば基板全面に、ナノ結晶粒子2を生成する場合は、CW発光させたレーザービームを連続的に照射しながら表面上を走査することにより実現できるすなわち、レーザービーム31のスポット内部のアモルファス層3は高熱のため一旦は溶融し、さらに表面張力により概球形状に凝集する。その後レーザービームスポットが通過すると、溶融部分の温度が次第に下がり、凝集した形状のまま結晶化してナノ結晶粒子2が形成される。
【0031】
なお本実施の形態において、アモルファス層3の厚さは最終的に生成されるナノ結晶粒子のサイズにも影響するが、アモルファス層3の厚さを同一基板内で変えることにより、基板上の場所によってサイズの異なるすなわちミー共鳴波長の異なるナノ結晶粒子2を形成することができる。アモルファス層3の厚さを部分的に変えるには、当初最大厚でアモルファス層3を形成しておき、その後部分的に、例えば階段状に薄く、微細研削加工することにより実現できる。
【実施例0032】
以下、本発明の実施例について説明する。以下の実施例において、基材1aは厚さ170μmのガラス(松浪硝子工業社製C218181)を用いた。その表面にZEP-520A(高分子材料)より成る厚さ0.6μmのポリマー層1bを設けた。さらにポリマー層1bの表面に真空蒸着法を用いて厚さ50nmのa-Siを設け、その面上をラインビーム径 縦0.64μm横20μm、照射パワー2mW、波長532nmのレーザーで走査し、ナノ結晶粒子を形成した。また、ナノ結晶粒子ではなくシリコン結晶膜を基材上に設けたサンプルも比較例として示す。
【0033】
(実施例1)
以上のように作成した本実施例および比較例の各サンプルの暗視野顕微鏡像の写真を
図5に示す。
図5(b)に示すように本実施例では、緑色(薄暗い部分)から黄緑色(比較的明るい部分)、波長でいえば530~540nm付近に強い光共鳴特性(Mie散乱共鳴)が確認された。一方で、
図5(a)に示すように比較例では、光共鳴現象は確認されなかった。
【0034】
(実施例2)
さらにナノ結晶粒子の表面に蛍光分子(Alexa Fluor
TM 532 NHS Ester)を化学修飾し、蛍光強度を測定した。実験結果を
図6に示す。本実施例のナノ結晶構造体基板と比較例それぞれのサンプルに波長532nmのレーザーを照射し、蛍光スペクトルを測定した。本実施例のナノ結晶構造体基板のサンプルは560nm付近をピークに520nm~680nmの範囲で蛍光が確認された。
【0035】
比較例においても波長560nmあたりに蛍光のピークが確認できるが、実施例と比べると高々数パーセント程度である。言い換えれば、本実施例のナノ結晶構造体基板は蛍光分子による蛍光を100倍近く高めたと言える。
【0036】
(実施例3)
本実施例では、ナノ結晶粒子のサイズと光共鳴波長の関係を確認した。
図7(a)~(d)は、ナノ結晶粒子の直径をそれぞれ100nm、150nm、170nm、200nm付近に変えたときの暗視野顕微鏡像の写真である。ナノ結晶粒子のサイズが小さいほど青化し、大きいほど赤化する傾向が確認でき、蛍光波長に応じてサイズの識別が可能なことが分かる。なお、(a)~(d)のナノ粒子は、それぞれ膜厚30nm、50nm、70nm、100nmのアモルファスシリコン層にレーザーを照射して作製したものである。