(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099466
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】圧縮機ユニット
(51)【国際特許分類】
F04B 49/10 20060101AFI20240718BHJP
F17C 13/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
F04B49/10 331G
F17C13/00 302A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087175
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2023002863
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100137143
【弁理士】
【氏名又は名称】玉串 幸久
(72)【発明者】
【氏名】名倉 見治
(72)【発明者】
【氏名】久保 賢司
【テーマコード(参考)】
3E172
3H145
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA04
3E172EA02
3E172EA13
3E172EA23
3E172EB02
3E172HA08
3H145AA03
3H145AA25
3H145BA41
3H145CA19
3H145DA16
3H145DA48
3H145EA16
3H145EA37
3H145EA38
3H145EA42
(57)【要約】
【課題】液化水素のボイルオフガスの幅広い温度変化からその構成機器を適切に保護することができるレシプロ式の圧縮機ユニットを提供する。
【解決手段】圧縮機ユニット10において、起動時であって中間温度センサ46によって取得された温度TS1が0℃よりも大きい温度閾値T1以上である場合に、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスが低圧ガス排出路53から低圧需要先D2に排出されるように需要先切替手段CV1を制御する。検出温度TS1が温度閾値T1未満となった場合には、高圧需要先D1に水素ガスが流れるように需要先切替手段CV1を制御する。そして、制御部50は、検出温度TS2が予め定められた温度範囲内となるようにスピルバック弁18bを制御する。前記温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、0℃未満の範囲で設定されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素貯槽からボイルオフガスである水素ガスを回収し、その少なくとも一部をエンジン、発電設備又はボイラの少なくとも一つを含む高圧需要先(D1)に供給するレシプロ式の圧縮機ユニットであって、
吸込流路から吸入した水素ガスを圧縮する複数の圧縮ステージと、
前記複数の圧縮ステージを駆動するクランク機構と、
前記複数の圧縮ステージの吐出側の吐出流路に吐出された後の水素ガス又は前記複数の圧縮ステージの間の中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻すスピルバック流路、および、前記スピルバック流路においてスピルバック量を調整するスピルバック弁を含むスピルバック部(SB1)と、
前記中間流路、又は、前記吐出流路に設けられた分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる低圧需要先(D2)に水素ガスを排出可能な低圧ガス排出路と、
前記低圧ガス排出路または前記分岐点に設けられる需要先切替手段(CV1)と、
前記分岐点よりも下流側に位置する逆止弁と、
前記中間流路又は前記吐出流路において、前記分岐点よりも上流側に配置される第1温度センサと、
前記吸込流路において、前記スピルバック流路の接続部と前記複数の圧縮ステージの内の最前段の第1圧縮ステージとの間に配置される第2温度センサと、
前記需要先切替手段(CV1)および前記スピルバック弁を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
起動時であって前記第1温度センサによって取得された温度TS1が0℃より大きい所定の第1温度閾値T1以上である場合に、水素ガスを前記低圧ガス排出路に流通させる第1切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御し、
前記第1温度センサによって取得された温度TS1が前記第1温度閾値T1未満になった場合に、水素ガスを前記高圧需要先(D1)に向けて前記吐出流路に送る第2切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御し、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記第2温度センサによって取得された吸込温度TS2を参照し、前記吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記スピルバック弁を制御し、
前記予め定められた温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定される、圧縮機ユニット。
【請求項2】
前記逆止弁が前記吐出流路に設けられ、
前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側の位置に設けられている、請求項1に記載の圧縮機ユニット。
【請求項3】
前記第1圧縮ステージに吸入される前の水素ガスと、前記吐出流路に吐出された後の水素ガスとを熱交換可能なプレヒータと、
前記吐出流路における前記プレヒータの下流に配置される第3温度センサと、
前記プレヒータへの水素ガスの流入状態を調整可能な流量調整手段(FCV1)と、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、
前記プレヒータによる前記吸込流路の水素ガスの加温を前記スピルバック部(SB1)による加温に対して優先して行えるように前記プレヒータへの水素ガスの流入量を増加させつつ、前記第3温度センサによって取得された前記プレヒータの下流側の温度TS3が閾値以下とならないように前記流量調整手段(FCV1)を制御し、
前記吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲よりも低い場合には、当該吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲内になるように、前記流量調整手段(FCV1)および前記スピルバック弁を制御する、請求項2に記載の圧縮機ユニット。
【請求項4】
前記第1圧縮ステージに吸入される前の水素ガスと、前記中間流路を流通する水素ガスとを熱交換可能なプレヒータと、
前記中間流路における前記プレヒータの下流に配置される第3温度センサと、
前記プレヒータへの水素ガスの流入状態を調整可能な流量調整手段(FCV1)と、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、
前記プレヒータによる前記吸込流路の水素ガスの加温を前記スピルバック部(SB1)による加温に対して優先して行えるように前記プレヒータへの水素ガスの流入量を増加させ、前記第3温度センサによって取得された前記プレヒータの下流側の温度TS3が閾値以下とならないように前記流量調整手段(FCV1)を制御し、
前記吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲よりも低い場合には、当該吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記流量調整手段(FCV1)および前記スピルバック弁を制御する、請求項2に記載の圧縮機ユニット。
【請求項5】
前記逆止弁が前記吐出流路に設けられ、
前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側に設けられており、
該圧縮機ユニットは、
前記中間流路に設けられた他の分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる他の低圧需要先(D3)に水素ガスを排出可能な他の低圧ガス排出路と、
前記他の低圧ガス排出路または前記他の分岐点に設けられる第2需要先切替手段(CV2)と、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第1切替状態である場合に、前記中間流路の水素ガスを前記他の低圧ガス排出路に流通させるように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御し、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、水素ガスを前記高圧需要先(D1)に向けて前記吐出流路に送るように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御する、請求項1に記載の圧縮機ユニット。
【請求項6】
前記逆止弁が前記吐出流路に設けられ、
前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側の位置に設けられており、
該圧縮機ユニットは、
前記中間流路における他の分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる他の低圧需要先(D3)に水素ガスを排出可能な他の低圧ガス排出路と、
前記他の低圧ガス排出路または前記他の分岐点に設けられる第2需要先切替手段(CV2)と、
前記複数の圧縮ステージの内の前記第1圧縮ステージを除く後続圧縮ステージによる水素ガスの処理量を調整する調整手段と、
をさらに備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、
前記他の低圧需要先(D3)の要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の変動分に応じて前記他の低圧ガス排出路に水素ガスが排出されるように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御しつつ、前記後続圧縮ステージの処理量が調整されるように前記調整手段を制御する、請求項1に記載の圧縮機ユニット。
【請求項7】
前記スピルバック部(SB1)が、前記吐出流路に吐出された後の水素ガスを前記吸込流路に戻す場合において、
前記調整手段が、
前記スピルバック流路が分岐する前記吐出流路上の分岐部よりも上流側から前記後続圧縮ステージの吸込側に水素ガスを戻す第2スピルバック流路、および、前記第2スピルバック流路においてスピルバック量を調整する第2スピルバック弁を含む第2スピルバック部(SB2)を備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量が前記後続圧縮ステージの吸込側に戻されるように前記第2スピルバック弁を制御する、請求項6に記載の圧縮機ユニット。
【請求項8】
前記スピルバック部(SB1)が、前記中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻す場合において、
前記調整手段が、
前記スピルバック流路が分岐する前記中間流路上の分岐部よりも下流側に位置する圧縮ステージから吐出された水素ガスを、前記圧縮ステージよりも上流側に戻す第2スピルバック流路、および、前記第2スピルバック流路においてスピルバック量を調整する第2スピルバック弁を含む第2スピルバック部(SB2)を備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記スピルバック部(SB1)の戻し量に相当する流量が前記圧縮ステージよりも上流側に戻されるように前記第2スピルバック弁を制御する、請求項1に記載の圧縮機ユニット。
【請求項9】
前記調整手段が、
前記後続圧縮ステージのシリンダ部に装着されたオンオフ式の吸込弁アンローダを備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量が前記後続圧縮ステージの吸込側に戻されるように前記吸込弁アンローダを制御する、請求項6に記載の圧縮機ユニット。
【請求項10】
前記調整手段が、
前記後続圧縮ステージのシリンダ部に装着された吸込弁アンローダと、
前記吸込弁アンローダを開閉させる油圧式又は電気式の駆動装置と、
からなる無段階の容量調整装置を備え、
前記制御部は、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量に応じて前記シリンダ部内部から吸込側へと吸入された水素ガスが戻されるように、クランク軸の回転運動に連動させ前記吸込弁アンローダが動作するタイミングを制御することにより、前記後続圧縮ステージの処理量を調整する、請求項6に記載の圧縮機ユニット。
【請求項11】
液体水素貯槽からボイルオフガスである水素ガスを回収し、その少なくとも一部をエンジン、発電設備又はボイラの少なくとも一つを含む高圧需要先(D1)に供給するレシプロ式の圧縮機ユニットであって、
吸込流路から吸入した水素ガスを圧縮する複数の圧縮ステージと、
前記複数の圧縮ステージを駆動するクランク機構と、
前記複数の圧縮ステージの吐出側の吐出流路に吐出された後の水素ガス又は前記複数の圧縮ステージの間の中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻すスピルバック流路、および、前記スピルバック流路においてスピルバック量を調整するスピルバック弁を含むスピルバック部(SB1)と、
前記中間流路に設けられた分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる低圧需要先(D2)に水素ガスを排出可能な低圧ガス排出路と、
前記低圧ガス排出路または前記分岐点に設けられる需要先切替手段(CV1)と、
前記中間流路における前記分岐点よりも下流側に設けられる逆止弁と、
前記中間流路において、前記分岐点よりも上流側に配置される第1温度センサと、
前記吸込流路において、前記スピルバック流路の接続部と前記第1圧縮ステージとの間に配置される第2温度センサと、
前記低圧ガス排出路に設けられる圧力センサと、
前記需要先切替手段(CV1)および前記スピルバック弁を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
起動時であって前記第1温度センサによって取得された温度TS1が0℃より大きい所定の第1温度閾値T1以上の場合に、前記複数の圧縮ステージの内の最前段に位置する第1圧縮ステージから吐出された水素ガスを前記低圧ガス排出路に流通させる第1切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御し、
前記第1温度センサによって取得された温度TS1が前記第1温度閾値T1未満になった場合に、水素ガスを前記低圧ガス排出路と前記中間流路における前記分岐点よりも下流側との両方に流通させる第3切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御し、
前記需要先切替手段(CV1)が前記第3切替状態である場合に、前記圧力センサによって取得された圧力PS2が予め設定された範囲内になるように前記需要先切替手段(CV1)を制御するとともに、前記第2温度センサによって取得された吸込温度TS2を参照し、前記吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記スピルバック弁を制御し、
前記予め定められた温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定される、圧縮機ユニット。
【請求項12】
前記複数の圧縮ステージの内の前記第1圧縮ステージを除く後続圧縮ステージによる水素ガスの処理量を調整する調整手段と、
前記中間流路における前記第1圧縮ステージと前記後続圧縮ステージとの間に設けられる第2圧力センサと、
をさらに備え、
前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第3切替状態である場合に、前記第2圧力センサによって取得された前記中間流路における圧力PS1の変化量に応じて、前記後続圧縮ステージの処理量が調整されるように前記調整手段を制御する、請求項11に記載の圧縮機ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レシプロ式の圧縮機ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境を考慮して、水素を発電や自動車等の燃料として用いることが考えられており、水素の需要が増大している。また、液化天然ガス(LNG)、液体水素(LH2)などの低温のボイルオフガス(BOG)を圧縮機によって回収してエンジン等の需要先に供給することが行われている。特にLH2から発生したボイルオフガスは非常に低温である。このため、圧縮機がそのままボイルオフガスを吸入する構成を採用すると、極低温に適した材料を選択する必要があったり、熱変形量を考慮した設計条件を採用したり、厳重な断熱処理を実施したりする必要がある等の制約がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-172870号公報
【特許文献2】特許第7085079号公報
【特許文献3】特開2001-65795号公報
【特許文献4】特開2019-27590号公報
【特許文献5】特開平4-12178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では次のような問題が指摘されている。「近年、新たなエネルギ源として、水素が注目されている。エネルギ源として水素を利用する場合にも、天然ガスのように、貯蔵および輸送時には、液化した状態とすることが想定されている。しかし、水素は、液化温度が空気の液化温度よりも低いという特性を有する。そのため、天然ガス等を対象とした往復動圧縮機といった設備をそのまま水素に適用すると、極低温の液体水素に起因する不具合が生じる可能性がある。例えば、液体水素が供給される装置の周辺に液化空気を生じさせてしまう。」
【0005】
これに対して、特許文献1では「この往復動圧縮機は、ガスを圧縮する圧縮部が容器部に収容されている。そして、この容器部は、圧縮部の周囲に真空領域を形成する。そうすると、圧縮部は、真空領域によって外部領域から熱的に絶縁される。つまり、圧縮部に極低温のガスが提供された場合にも、往復動圧縮機の周辺領域を過度に冷却することがない。従って、液化空気の発生を抑制できる。」と説明されている。しかしながら、一般的に、運転中の振動を伴う動機械や、点検開口部を通して定期的なメンテナンスを必要とする設備(例えば往復動圧縮機など)等では高性能な断熱が非常に難しい。
【0006】
特許文献2、3ではスクリュー圧縮機を対象として、プレヒータを利用して吸込みガスの温度を調整する技術が提案されている。また、特許文献4には、レシプロ式の圧縮機が開示されており、圧縮部に吸入される前のボイルオフガスと圧縮部から吐出された後のボイルオフガスとを熱交換させる熱交換器が示されている。しかし、この熱交換器は圧縮部で圧縮された後のボイルオフガスを再液化するためのものであるため、圧縮部の下流に配置されたクーラによって冷却されたボイルオフガスが熱交換器に導入される。
【0007】
一方、特許文献5では次のような問題も指摘されている。「従来、LNG低温貯蔵タンク内で蒸発したBOG(ボイルオフガス)は低温ガス多段圧縮機で圧縮してプラントに供給する場合、BOGの温度はマイナス百数度から常温と広い範囲で変動しやすく、特に多段圧縮機の起動直後は、吸込側温度が常温近くまで昇温しており、これをそのまま圧縮すると吐出温度が許容温度以上となり運転できない。」
【0008】
液化水素では、LNGよりも沸点が低いことから特許文献5で開示された問題はより深刻となり得る。液化水素のボイルオフガスを扱うレシプロ圧縮機では、極低温の状態から常温までの幅広い温度帯域に対応させる必要がある。
【0009】
そこで、本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、液化水素のボイルオフガスを扱うレシプロ式の圧縮機ユニットについて、ボイルオフガスの幅広い温度変化からその構成機器を適切に保護することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様に係る圧縮機ユニットは、液体水素貯槽からボイルオフガスである水素ガスを回収し、その少なくとも一部をエンジン、発電設備又はボイラの少なくとも一つを含む高圧需要先(D1)に供給するレシプロ式の圧縮機ユニットである。本態様に係る圧縮機ユニットは、複数の圧縮ステージと、クランク機構と、スピルバック部(SB1)と、低圧ガス排出路と、需要先切替手段(CV1)と、逆止弁と、第1温度センサと、第2温度センサと、制御部と、を備える。
【0011】
前記複数の圧縮ステージは、吸込流路から吸入した水素ガスを圧縮する。前記クランク機構は、前記複数の圧縮ステージを駆動する。前記スピルバック部(SB1)は、前記複数の圧縮ステージの吐出側の吐出流路に吐出された後の水素ガス又は前記複数の圧縮ステージの間の中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻すスピルバック流路、および、前記スピルバック流路においてスピルバック量を調整するスピルバック弁を含む。前記低圧ガス排出路は、前記中間流路、又は、前記吐出流路に設けられた分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる低圧需要先(D2)に水素ガスを排出可能な流路である。前記需要先切替手段(CV1)は、前記低圧ガス排出路または前記分岐点に設けられる。前記逆止弁は、前記分岐点よりも下流側に位置する。前記第1温度センサは、前記中間流路又は前記吐出流路において、前記分岐点よりも上流側に配置される。前記第2温度センサは、前記吸込流路において、前記スピルバック流路の接続部と前記複数の圧縮ステージの内の最前段の第1圧縮ステージとの間に配置される。前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)および前記スピルバック弁を制御する。
【0012】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、起動時であって前記第1温度センサによって取得された温度TS1が0℃より大きい所定の第1温度閾値T1以上である場合に、水素ガスを前記低圧ガス排出路に流通させる第1切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御する。また、前記制御部は、前記第1温度センサによって取得された温度TS1が前記第1温度閾値T1未満になった場合に、水素ガスを前記高圧需要先(D1)に向けて前記吐出流路に送る第2切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御する。また、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記第2温度センサによって取得された吸込温度TS2を参照し、前記吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記スピルバック弁を制御する。
【0013】
前記予め定められた温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定される。
【0014】
上記態様では、BOG(水素ガス)が低温である環境下において圧縮機ユニットを保護することができ、かつBOG(水素ガス)が常温である起動時において圧縮機ユニットを保護することができる。
【0015】
ここで、レシプロ式の圧縮機では、需要先の圧力に応じた圧力で圧縮機からBOGが吐出される。このような前提の下、上記態様では、起動時において液体水素貯槽側の配管内の水素ガスがプラスの温度領域まで上昇している場合(常温)であっても、圧縮ステージから吐出された水素ガスが低圧需要先(D2)に送出されるように制御部が需要先切替手段(CV1)を第1切替状態に切り替えるよう構成されている。よって、相対的に低い圧力で水素ガスを処理する低圧需要先に向けて水素ガスを排出することにより、圧縮ステージでの圧縮比を低く抑え、圧縮ステージで水素ガスを圧縮し昇圧することによる水素ガスの過度の温度上昇を防止できる。すなわち、圧縮ステージを保護することができる。また、ユニットの起動時に上記配管内の水素ガスが常温であっても、上述のように圧縮ステージから低圧需要先に向けて水素ガスを排出することによって、圧縮機ユニットの立ち上げも速やかに行うことができる。
【0016】
一方、上記態様では、需要先切替手段(CV1)が第2切替状態である場合に、吸込温度TS2が上記予め定められた温度範囲内になるように制御部がスピルバック弁を制御するので、スピルバック部が吸込流路に戻した水素ガスにより、吸込温度TS2を上記予め定められた温度範囲内に収めることができる。そして、上記態様では、上記予め定められた温度範囲が空気の液化温度に基づく基準温度よりも高い範囲に設定されているので、第1圧縮ステージの吸込部の外表面もしくは水素ガスが供給される装置の周辺において支燃性ガスである酸素の液化が発生することを回避できる。
【0017】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記逆止弁が前記吐出流路に設けられてよい。また、前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側の位置に設けられてよい。
【0018】
上記態様では、吐出流路に逆止弁を設けるとともに、吐出流路における逆止弁よりも上流側の位置に分岐点を設けるという具体的構成を採用するが、制御部が第1温度TS1に基づいて需要先切替手段(CV1)を第1切替状態と第2切替状態との間で切り替え、且つ、需要先切替手段(CV1)が第2切替状態である場合に、吸込温度TS2に基づいてスピルバック弁を制御するので、上記態様と同じ効果を得ることができる。
【0019】
また、上記態様では、吐出流路に逆止弁を設けることとしているので、吐出流路から圧縮ステージへの水素ガスの逆流を防止することができ、より適切に圧縮機を保護することができる。
【0020】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、プレヒータと、第3温度センサと、流量調整手段(FCV1)と、をさらに備えてもよい。前記プレヒータは、前記第1圧縮ステージに吸入される前の水素ガスと、前記吐出流路に吐出された後の水素ガスとを熱交換可能であってもよい。前記第3温度センサは、前記吐出流路における前記プレヒータの下流に配置されてもよい。前記流量調整手段(FCV1)は、前記プレヒータへの水素ガスの流入状態を調整可能であってよい。
【0021】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記プレヒータによる前記吸込流路の水素ガスの加温を前記スピルバック部(SB1)による加温に対して優先して行えるように前記プレヒータへの水素ガスの流入量を増加させつつ、前記第3温度センサによって取得された前記プレヒータの下流側の温度TS3が閾値以下とならないように前記流量調整手段(FCV1)を制御してもよい。また、前記制御部は、前記吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲よりも低い場合には、当該吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲内になるように、前記流量調整手段(FCV1)および前記スピルバック弁を制御してもよい。
【0022】
上記態様では、プレヒータによる吸込流路における水素ガスの加温をスピルバック部による加温に対して優先させ、加温が足らない場合はスピルバック部による加温で補う制御とするため、スピルバック部による加温だけを行う場合に比べて圧縮したガスを吸込み側へ戻す動力のロスをミニマム化することができる。よって、上記態様では、処理効率の低下を抑制しつつ吸込温度を一定範囲に管理することができる。
【0023】
また、上記態様では、第3温度センサによってプレヒータの下流側の水素ガスの温度TS3を取得し、第3温度センサによって取得された水素ガスの温度TS3を基に制御部が流量調整手段(FCV1)を制御することとしているので、需要先へ供給する水素ガスの過度の温度低下を抑止できる。
【0024】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、プレヒータと、第3温度センサと、流量調整手段(FCV1)と、をさらに備えてよい。前記プレヒータは、前記第1圧縮ステージに吸入される前の水素ガスと、前記中間流路を流通する水素ガスとを熱交換可能であってよい。前記第3温度センサは、前記中間流路における前記プレヒータの下流に配置されてもよい。前記流量調整手段(FCV1)は、前記プレヒータへの水素ガスの流入状態を調整可能であってよい。
【0025】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記プレヒータによる前記吸込流路の水素ガスの加温を前記スピルバック部(SB1)による加温に対して優先して行えるように前記プレヒータへの水素ガスの流入量を増加させ、前記第3温度センサによって取得された前記プレヒータの下流側の温度TS3が閾値以下とならないように前記流量調整手段(FCV1)を制御してもよい。また、前記制御部は、前記吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲よりも低い場合には、当該吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記流量調整手段(FCV1)および前記スピルバック弁を制御してもよい。
【0026】
上記態様では、第1圧縮ステージに吸入される前の水素ガスと中間流路を流通する水素ガスとの間で熱交換可能なプレヒータを備える。そして、上記態様では、プレヒータによる吸込流路における水素ガスの加温をスピルバック部による加温に対して優先させ、加温が足らない場合はスピルバック部による加温で補う制御とするため、スピルバック部での加温だけを行う場合に比べて圧縮したガスを吸込み側へ戻す動力のロスをミニマム化することができる。よって、上記態様では、処理効率の低下を抑制しつつ吸込温度を一定範囲に管理することができる。
【0027】
また、上記態様では、第3温度センサによってプレヒータの下流側の水素ガスの温度TS3を取得し、第3温度センサによって取得された水素ガスの温度TS3を基に制御部が流量調整手段(FCV1)を制御することとしているので、需要先へ供給する水素ガスの過度の温度低下を抑止できる。
【0028】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記逆止弁が前記吐出流路に設けられてもよく、前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側に設けられてよい。本態様に係る圧縮機ユニットは、他の低圧ガス排出路と、第2需要先切替手段(CV2)と、をさらに備えてよい。前記他の低圧ガス排出路は、前記中間流路に設けられた他の分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる他の低圧需要先(D3)に水素ガスを排出可能な流路であってよい。前記第2需要先切替手段(CV2)は、前記他の低圧ガス排出路または前記他の分岐点に設けられてよい。
【0029】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)
が前記第1切替状態である場合に、前記中間流路の水素ガスを前記他の低圧ガス排出路に流通させるように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御してもよい。また、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、水素ガスを前記高圧需要先(D1)に向けて前記吐出流路に送るように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御してもよい。
【0030】
上記態様では、制御部が2つの需要先切替手段(CV1)、(CV2)を制御して第1切替状態と第2切替状態とを切り替え可能な構成とし、低圧ガス排出路だけでなく、他の低圧ガス排出路に対しても水素ガスを排出可能としているので、他の低圧ガス排出路を備えない場合に比べて、中間流路における水素ガスの圧力を下げることができる。よって、上記態様では、中間流路よりも下流側に配された圧縮ステージの吸込圧力を下げることができ、起動時の動力をより小さくできる。
【0031】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記逆止弁が前記吐出流路に設けられてもよく、前記分岐点は、前記吐出流路における前記逆止弁よりも上流側の位置に設けられてもよい。本態様に係る圧縮機ユニットは、他の低圧ガス排出路と、第2需要先切替手段(CV2)と、調整手段と、をさらに備えてもよい。前記他の低圧ガス排出路は、前記中間流路における他の分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる他の低圧需要先(D3)に水素ガスを排出可能な流路であってもよい。前記第2需要先切替手段(CV2)は、前記他の低圧ガス排出路または前記他の分岐点に設けられてもよい。前記調整手段は、前記複数の圧縮ステージの内の前記第1圧縮ステージを除く後続圧縮ステージによる水素ガスの処理量を調整してもよい。
【0032】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の変動分に応じて前記他の低圧ガス排出路に水素ガスが排出されるように前記第2需要先切替手段(CV2)を制御しつつ、前記後続圧縮ステージの処理量が調整されるように前記調整手段を制御してもよい。
【0033】
上記態様では、高圧需要先での水素ガスの必要量(要求量)が削減された場合に他の低圧需要先へ水素ガスを排出することで、液体水素貯槽から発生するボイルオフガスの量と圧縮機ユニットが送出する水素ガスの量とをバランスさせることで、液体水素貯槽の圧力を一定に保つことができる。
【0034】
さらに、上記態様では、調整手段を備えるので、後続段圧縮ステージの吸込圧力を略一定に保つことができることができる。このため、上記態様では、後続圧縮ステージの各段の圧力バランスを常に一定とすることができ、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。即ち、後続圧縮ステージにおける圧力バランスを一定に保てない場合には、その変化を吸収できるだけの余裕があるマージンの大きな圧縮機を用意する必要があるが、上記態様では、マージンの大きな圧縮機を用意する必要がない。
【0035】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記調整手段が第2スピルバック部(SB2)を備えてもよい。前記スピルバック部(SB1)が、前記吐出流路に吐出された後の水素ガスを前記吸込流路に戻す場合において、前記第2スピルバック部(SB2)は、前記スピルバック流路が分岐する前記吐出流路上の分岐部よりも上流側から前記後続圧縮ステージの吸込側に水素ガスを戻す第2スピルバック流路、および、前記第2スピルバック流路においてスピルバック量を調整するスピルバック弁を含んでよい。
【0036】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量が前記後続圧縮ステージの吸込側に戻されるように前記第2スピルバック弁を制御してもよい。
【0037】
上記態様では、第2スピルバック部を備えるので、高圧需要先(D1)の要求量が減少した場合にも、第2スピルバック部により圧縮後の水素ガスを後続圧縮ステージの吸込側へ戻すことで、後続圧縮ステージの吸込圧力を略一定に保つことができる。よって、上記態様では、後続圧縮ステージの各段の圧力バランスを常に一定となり、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。
【0038】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記調整手段が第2スピルバック部(SB2)を備えてもよい。前記スピルバック部(SB1)が、前記中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻す場合において、前記スピルバック流路が分岐する前記中間流路上の分岐部よりも下流側に位置する圧縮ステージから吐出された水素ガスを前記圧縮ステージよりも上流側に戻す第2スピルバック流路、および、前記第2スピルバック流路においてスピルバック量を調整する第2スピルバック弁を含んでよい。
【0039】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記スピルバック部(SB1)の戻し量に相当する流量が前記圧縮ステージよりも上流側に戻されるように前記第2スピルバック弁を制御してもよい。
【0040】
上記態様では、第2スピルバック部を備えるので、スピルバック部により吸込流路へと戻されることで前記圧縮ステージの処理量が減少した場合にも、第2スピルバック部により圧縮後の水素ガスを前記圧縮ステージよりも上流側へ戻すことで、前記圧縮ステージの吸込圧力を略一定に保つことができる。よって、上記態様では、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。
【0041】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記調整手段がオンオフ式の吸込弁アンローダを備えてよい。前記オンオフ式の吸込弁アンローダは、前記後続圧縮ステージのシリンダ部に装着されてよい。
【0042】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量が前記後続圧縮ステージの吸込側に戻されるように前記吸込弁アンローダを制御してもよい。
【0043】
上記態様では、第2スピルバック部を備えるので、高圧需要先(D1)の要求量が減少した場合にも、第2スピルバック部により圧縮後の水素ガスを後続圧縮ステージの吸込側へ戻すことで、後続圧縮ステージの吸込圧力を略一定に保つことができる。よって、上記態様では、後続圧縮ステージの各段の圧力バランスを常に一定となり、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。
【0044】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記調整手段が無段階式の容量調整装置を備えてよい。前記無段階式の容量調整装置は、吸込弁アンローダと駆動装置とを備えてよい。前記吸込弁アンローダは、前記後続圧縮ステージのシリンダ部に装着されてよい。前記駆動装置は、前記吸込弁アンローダを開閉させる油圧式又は電気式の駆動装置であってよい。
【0045】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第2切替状態である場合に、前記他の低圧需要先(D3)の前記要求量または前記高圧需要先(D1)の要求量の前記変動分に相当する流量に応じて前記シリンダ部内部から吸込側へと吸入された水素ガスが戻されるように、クランク軸の回転運動に連動させ前記吸込弁アンローダが動作するタイミングを制御することにより、前記後続圧縮ステージの処理量を調整してもよい。
【0046】
上記態様では、他の低圧ガス排出路を備えるとともに、調整手段が吸込弁アンローダを備える構成を採用しているので、需要先切替手段(CV1)が第2切替状態である場合に、制御部が容量調整装置を制御することによってシリンダ内部の水素ガスの一部を吸込側に戻すことができる。よって、上記態様では、後続圧縮ステージでの水素ガスの処理量を低減することができ、さらに動力が削減できる。
【0047】
本発明の別態様に係る圧縮機ユニットは、液体水素貯槽からボイルオフガスである水素ガスを回収し、その少なくとも一部をエンジン、発電設備又はボイラの少なくとも一つを含む高圧需要先(D1)に供給するレシプロ式の圧縮機ユニットである。本態様に係る圧縮機ユニットは、複数の圧縮ステージと、クランク機構と、スピルバック部(SB1)と、低圧ガス排出路と、需要先切替手段(CV1)と、逆止弁と、第1温度センサと、第2温度センサと、圧力センサと、制御部と、を備える。
【0048】
前記複数の圧縮ステージは、吸込流路から吸入した水素ガスを圧縮する。前記クランク機構は、前記複数の圧縮ステージを駆動する。前記スピルバック部(SB1)は、前記複
数の圧縮ステージの吐出側の吐出流路に吐出された後の水素ガス又は前記複数の圧縮ステージの間の中間流路を流通する水素ガスを前記吸込流路に戻すスピルバック流路、および、前記スピルバック流路においてスピルバック量を調整するスピルバック弁を含む。前記低圧ガス排出路は、前記中間流路に設けられた分岐点から分岐して、前記高圧需要先(D1)で要求される水素ガスの圧力よりも低い水素ガスを処理できる低圧需要先(D2)に水素ガスを排出可能な流路である。前記需要先切替手段(CV1)は、前記低圧ガス排出路または前記分岐点に設けられる。前記逆止弁は、前記中間流路における前記分岐点よりも下流側に設けられる。前記第1温度センサは、前記中間流路において、前記分岐点よりも上流側に配置される。前記第2温度センサは、前記吸込流路において、前記スピルバック流路の接続部と前記第1圧縮ステージとの間に配置される。前記圧力センサは、前記低圧ガス排出路に設けられる。前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)およびスピルバック弁を制御する。
【0049】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、起動時であって前記第1温度センサによって取得された温度TS1が0℃より大きい所定の第1温度閾値T1以上の場合に、前記複数の圧縮ステージの内の最前段に位置する第1圧縮ステージから吐出された水素ガスを前記低圧ガス排出路に流通させる第1切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御する。また、前記制御部は、前記第1温度センサによって取得された温度TS1が前記第1温度閾値T1未満になった場合に、水素ガスを前記低圧ガス排出路と前記中間流路における前記分岐点よりも下流側との両方に流通させる第3切替状態となるように前記需要先切替手段(CV1)を制御する。また、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第3切替状態である場合に、前記圧力センサによって取得された圧力PS2が予め設定された範囲内になるように前記需要先切替手段(CV1)を制御するとともに、前記第2温度センサによって取得された吸込温度TS2を参照し、前記吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内になるように、前記スピルバック弁を制御する。
【0050】
前記予め定められた温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定される。
【0051】
上記態様では、起動時において、液体水素貯槽側の配管内の水素ガスがプラスの温度領域まで上昇している場合(常温)であっても、中間流路における分岐点よりも下流側と分岐点から低圧需要先(D2)との両方に水素ガスが送出される第1切替状態となるように制御部が需要先切替手段(CV1)を制御するように構成されている。よって、上記態様では、吐出流路から高圧需要先(D1)にのみ水素ガスを送出する場合に比べて圧縮ステージでの圧縮比を低く抑え、圧縮ステージで水素ガスを圧縮し昇温することによる水素ガスの過度の温度上昇を防止できる。すなわち、圧縮ステージを保護することができる。また、ユニットの起動時に上記配管内の水素ガスが常温であっても、上述のように高圧需要先(D1)と低圧需要先(D2)の両方に向けても水素ガスを送出することによって、圧縮機ユニットの立ち上げも速やかに行うことができる。
【0052】
一方、上記態様では、需要先切替手段(CV1)が第3切替状態である場合に、取得された水素ガスの圧力PS2が予め設定された範囲内になるように需要先切替手段(CV1)を制御部が制御し、且つ、吸込温度TS2が上記予め定められた温度範囲内になるようにスピルバック弁を制御部が制御する構成としているので、水素ガスが低温である環境下において圧縮機ユニットを保護することができる。
【0053】
上記態様に係る圧縮機ユニットにおいて、調整手段と、第2圧力センサと、をさらに備えてもよい。前記調整手段は、前記複数の圧縮ステージの内の前記第1圧縮ステージを除く後続圧縮ステージによる水素ガスの処理量を調整してよい。前記第2圧力センサは、前記中間流路における前記第1圧縮ステージと前記後続圧縮ステージとの間に設けられてよい。
【0054】
本態様に係る圧縮機ユニットにおいて、前記制御部は、前記需要先切替手段(CV1)が前記第3切替状態である場合に、前記第2圧力センサによって取得された前記中間流路における圧力PS1の変化量に応じて、前記後続圧縮ステージの処理量が調整されるように前記調整手段を制御してもよい。
【0055】
上記態様では、需要先切替手段(CV1)が第3切替状態である場合に、制御部が調整手段を制御して後続圧縮ステージでの水素ガスの処理量を削減することができるように構成されているので、後続圧縮ステージの動力を軽減することができる。
【発明の効果】
【0056】
上記の各態様に係る圧縮機ユニットでは、液化水素のボイルオフガスの幅広い温度変化からその構成機器を適切に保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】第1実施形態に係る圧縮機ユニットの構成を概略的に示す図である。
【
図2】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図3】第1実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図4】第1実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図5】第2実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図6】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図7】第2実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図8】第3実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図9】第3実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図10】第4実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図11】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図12】第4実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図13】第5実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図14】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図15】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図16】第5実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図17】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図18】第5実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図19】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図20】第5実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図21】第6実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図22】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図23】第7実施形態に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図24】前記圧縮機ユニットの運転において、制御部が実行する運転制御を示すフローチャートである。
【
図25】第7実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図26】第1実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【
図27】第1実施形態の変形例に係る圧縮機ユニットの一部構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下では、本発明の実施形態について、図面を参酌しながら説明する。なお、以下で説明の形態は、本発明を例示的に示すものであって、本発明は、その本質的な構成を除き何ら以下の形態に限定を受けるものではない。
【0059】
(第1実施形態)
本実施形態に係る圧縮機ユニットは、レシプロ式の圧縮機ユニットであって、液体水素貯槽からボイルオフガスである水素ガスを回収し、回収した水素ガスを圧縮して需要先に供給するように構成されている。水素ガスであるボイルオフガスの温度は、約-253℃である。
【0060】
図1に示すように、圧縮機ユニット10は、吸込流路21の水素ガスを圧縮する複数の圧縮ステージ(第1圧縮ステージ12、後続圧縮ステージ14)と、第1圧縮ステージ12および後続圧縮ステージ14を駆動するクランク機構16と、を備えている。
【0061】
第1圧縮ステージ12は、吸込流路21を介して液体水素貯槽23に接続される。したがって、液体水素貯槽23内で発生した液化ガスのボイルオフガスは吸込流路21を通して第1圧縮ステージ12に吸入される。
【0062】
第1圧縮ステージ12は、レシプロ式の圧縮機構によって構成されている。第1圧縮ステージ12は、シリンダ部内を往復動するピストンを有し、ピストンに連結されたピストンロッドを介してクランク機構16に接続される。なお、第1圧縮ステージ12は、潤滑油を用いない無給油式の圧縮機構によって構成されてもよい。また、第1圧縮ステージ12は、ダブルアクティング構造を有する圧縮ステージであってもよいし、シングルアクティング構造を有する圧縮ステージであってもよい。
【0063】
さらに、
図1では便宜上第1圧縮ステージ12を1つの台形で示しているが、第1圧縮ステージ12は複数のシリンダ部内においてそれぞれピストンの往復動により水素ガスが圧縮されて昇圧される構成をされてもよい。他の実施形態においても同様である。
【0064】
後続圧縮ステージ14は、中間流路22を介して第1圧縮ステージ12に接続されており、第1圧縮ステージ12で圧縮された水素ガスをさらに圧縮するための圧縮機構である。そして、後続圧縮ステージ14で圧縮された水素ガスは吐出流路24に吐出される。吐出流路24に流れる水素ガスは、需要先切替手段CV1の切り替えによって高圧需要先D1または低圧需要先D2に送られる。圧縮機ユニットから吐出された水素ガスは必ずしも直接的に高圧需要先D1に供給される必要はなく、例えばボンベ等に充填された後に、当該ボンベの運搬や当該ボンベに接続されたガス配管などの種々の手段で高圧需要先D1に供給されてもよい。
【0065】
高圧需要先D1としては、エンジン、発電設備またはボイラの少なくとも1つを含むが、それらに加えて、例えば、フレア設備、ベントなどガスを大気へ放出する設備が含まれ
ていてもよい。
【0066】
低圧需要先D2は、高圧需要先D1で要求される水素ガスの圧力よりも低い圧力の水素ガスを処理できる設備である。低圧需要先D2としては、例えば、エンジン、発電設備、ボイラなどのガスをエネルギ源として活用する設備以外にフレア設備、ベントなど略大気圧でガスを活用する設備が含まれていてもよい。
【0067】
後続圧縮ステージ14も、第1圧縮ステージ12と同様、レシプロ式の圧縮機構によって構成されている。また、後続圧縮ステージ14も、シリンダ部内を往復動するピストンを有し、ピストンに連結されたピストンロッドを介してクランク機構16に接続される。
【0068】
なお、後続圧縮ステージ14については、当該圧縮ステージ14内で発生するリークガスを吸込流路21へと戻すリークガス排出部が接続されてもよい。また、
図1では便宜上後続圧縮ステージ14を1つの台形で示しているが、後続圧縮ステージ14は必ずしも1段式である必要はなく、複数の圧縮機構を有してもよい。すなわち、後続圧縮ステージ14は、直列に接続された複数のシリンダ部内においてそれぞれピストンの往復動により水素ガスが順次圧縮されて昇圧される構成とされてもよい。他の実施形態においても同様である。後続圧縮ステージ14において、常温の水素ガスを吐出する圧縮段については、無給油式でも潤滑式でもよい。
【0069】
図1に示すように、圧縮機ユニット10は、後続圧縮ステージ14から吐出流路24へと吐出された水素ガスの一部を吸込流路21に戻すスピルバック部SB1を備えている。スピルバック部SB1は、スピルバック流路18aと、スピルバック流路18aに配置された開度調整可能な弁からなるスピルバック弁18bと、を有する。スピルバック流路18aの一端部は、吐出流路24に接続され、他端部は、吸込流路21に接続されている。つまり、スピルバック流路18aを流れた水素ガスは、吸込流路21において、液体水素貯槽23からの水素ガスと合流する。スピルバック弁18bは、スピルバック流路18aにおいてスピルバック量を調整する。
【0070】
また、圧縮機ユニット10は、吐出流路24に位置する分岐点PBで分岐されて低圧需要先D2に接続される低圧ガス排出路53と、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスの供給先を高圧需要先D1と低圧需要先D2とで切り替える需要先切替手段CV1と、を備える。分岐点PBは、吐出流路24におけるスピルバック流路18aが接続された箇所よりも上流側の部位に配置されている。吐出流路24における分岐点PBよりも下流側に、逆止弁54が設けられている。逆止弁54はスピルバック流路18aの接続部よりも下流側でもよい。逆止弁54は、水素ガスが分岐点PBから高圧需要先D1に流れることを許容する一方で、その逆向きに流れることを阻止するための弁である。したがって、水素ガスが高圧需要先D1から分岐点PBに逆流して低圧ガス排出路53に流入することを防止することができる。
【0071】
需要先切替手段CV1は、開閉および開度調節が可能な調節弁56aによって構成されるとともに、本実施形態では一例として低圧ガス排出路53に設けられている。ただし、需要先切替手段CV1は分岐点PBに設けられてもよいし、吐出流路24における分岐点PBよりも下流側の部位に設けられてもよい。なお、本実施形態では、調節弁56aによって構成された需要先切替手段CV1を採用することとしているが、これに限定されるものではない。例えば、全開/全閉の二位置をとることができる開閉弁によって構成された需要先切替手段CV1を採用することなども可能である。
【0072】
需要先切替手段CV1は、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスが高圧需要先D1へと送出させる状態(第2切替状態)と、低圧需要先D2に送出させる状態(第1切
替状態)と、の間で水素ガスの流路を切り替え可能に構成されている。
【0073】
圧縮機ユニット10は、上流温度センサ(第2温度センサ)45と、中間温度センサ(第1温度センサ)46と、を備える。上流温度センサ45は、吸込流路21において、スピルバック流路18aの接続部と第1圧縮ステージ12との間に配置されている。したがって、上流温度センサ45は、スピルバック流路18aを水素ガスが流れるときには、液体水素貯槽23からの水素ガスにスピルバック流路18aからの水素ガスが合流した後の水素ガスであって第1圧縮ステージ12に吸入される水素ガスの温度TS2を取得することができる。
【0074】
中間温度センサ46は、第1圧縮ステージ12と第2圧縮ステージ14との間を繋ぐ中間流路22に配置されている。したがって、中間温度センサ46は、中間流路22を流れる水素ガスの温度TS1を取得することができる。
【0075】
上流温度センサ45および中間温度センサ46のそれぞれは、取得した各温度情報を制御部50へと送出する。制御部50は、MPU/CPU、ASIC、ROM、RAM等を含むマイクロプロセッサを備え構成されており、メモリに予め格納されたファームウェア等を実行することにより圧縮機ユニット10の各種動作を制御する。制御部50の機能には、第1制御部50aと、第2制御部50bと、が含まれている。第1制御部50aは、中間温度センサ46によって取得された水素ガスの温度TS1を参照して需要先切替手段CV1を制御するように構成された機能部である。第2制御部50bは、上流温度センサ45によって取得された水素ガスの温度TS2を参照してスピルバック弁18bを制御するように構成された機能部である。
【0076】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図2を参照しつつ説明する。
【0077】
制御部50は、圧縮機ユニット10が既に駆動中であるか、駆動中でない場合に駆動の指令の有無を判断する。
【0078】
圧縮機ユニット10に対して起動指令があった場合には、制御部50は、クランク機構16を作動させ、これにより第1圧縮ステージ12および後続圧縮ステージ14を駆動させる(ステップST1)。第1圧縮ステージ12および後続圧縮ステージ14は、クランク機構16の作動により、シリンダ部内においてピストンが往復動する。これにより、第1圧縮ステージ12において、吸込流路21の水素ガスが第1圧縮ステージ12に吸い込まれ、また後続圧縮ステージ14において、中間流路22の水素ガスが後続圧縮ステージ14に吸い込まれ、水素ガスの圧縮が行われる。
【0079】
圧縮機ユニット10の起動時には、中間流路22を流れる(第1圧縮ステージ12から吐出された)水素ガスの温度TS1が中間温度センサ(第1温度センサ)46によって取得される。このとき制御部50は、温度TS1を参照しており、温度TS1が所定の第1温度閾値T1以上であるか否かを判断する(ステップST2)。ここで、所定の第1温度閾値T1は、0℃よりも大きい温度である。
【0080】
制御部50がステップST2でYES(TS1≧閾値T1)と判断した場合には、第1制御部50aは、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが低圧ガス排出路53に流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST3)。これにより、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスは低圧ガス排出路53を通り低圧需要先D2へと送られる(第1切替状態)。すなわち、圧縮機ユニット10では、起動時(ステップST2:YES)であって第1圧縮ステージ12の下流の配管
内における水素ガスが常温もしくはそれ以上の高温(ステップST2:YES)である場合には、圧縮した水素ガスを高圧需要先D1へは送らず低圧需要先D2へ送る(ステップST3)。これにより、起動時の後続圧縮ステージ14において、後続圧縮ステージ14の吸込ガスの温度が高い場合は、高い圧力まで昇圧することによる過度な吐出温度上昇から圧縮機を保護することができる。
【0081】
一方、制御部50がステップST2でNO(TS1<閾値T1)と判断した場合には、第1制御部50aは、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが高圧需要先D1に流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST4)。すなわち、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスの供給先が低圧需要先D2から高圧需要先D1へと切り替えられる(第2切替状態)。なお、第1切替状態は圧縮機ユニット10の起動時に対応するのに対して、第2切替状態は圧縮機ユニット10の定常運転時に対応している。
【0082】
圧縮機ユニット10の定常運転時には、第1圧縮ステージ12に吸入される水素ガスの温度(吸込温度)TS2が上流温度センサ(第2温度センサ)45によって取得される。制御部50は、吸込温度TS2を参照しつつスピルバック制御を開始できるようになる(ステップST5)。すなわち、需要先切替手段CV1が第2切替状態である場合(ステップST4)において、吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内(TTH1≦TS2≦TTH2)となるように吸込流路21の水素ガスを加温する。
【0083】
より詳細には、TS2<TTH1の場合に、第2制御部50bがスピルバック弁18bを制御して吐出流路24のガスの一部を吸込流路21に戻す、もしくは戻す量を増やすことにより、吸込温度TS2が上記温度範囲内とされる。なお、TS2>TTH2である場合には、吐出流路24のガスの一部を吸込流路21に戻す動作は行われない、もしくは戻す量が減らされる。
【0084】
ここで、前記予め定められた温度範囲は、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定されている。すなわち、前記予め定められた温度範囲の下限値TTH1および上限値TTH2は、上記基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲内に設定される。
【0085】
上記のように第2制御部50bがスピルバック弁18bを開状態してスピルバック制御が実行される(ステップST5を実行する)場合には、液体水素貯槽23からの水素ガスがそのまま第1圧縮ステージ12に導入されるのではなく、後続圧縮ステージ14で圧縮された水素ガスが合流して昇温した水素ガスが第1圧縮ステージ12に導入されることになる。しかも、吸込温度TS2が空気の液化温度に基づく基準温度よりも高い範囲で設定される前記予め定められた温度範囲の下限値TTH1以上となるように調整されるため、第1圧縮ステージ12が極低温(前記予め定められた温度範囲よりも低い温度)の水素ガスに晒されることを防止できる。これにより、第1圧縮ステージ12に吸入される水素ガスの密度が過度に高くなることも防止できる。
【0086】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10は、ボイルオフガス(水素ガス)が低温である環境下において保護が図られ、かつ、ボイルオフガス(水素ガス)が常温である起動時においても保護が図られる。
【0087】
ここで、レシプロ式の圧縮機では、ボイルオフガスの供給先の圧力に応じた圧力で圧縮機からボイルオフガス(水素ガス)が吐出される。このような前提の下、本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、起動時において液体水素貯槽23側の配管内の水素ガスがプラスの温度領域まで上昇している場合(常温)であっても、後続圧縮ステージ14から吐
出された水素ガスが低圧需要先D2に流れるように制御部50が需要先切替手段CV1を第1切替状態に切り替えるように構成されている。よって、相対的に低い圧力で水素ガスを処理する低圧需要先D2に向けて水素ガスを排出することにより、圧縮ステージ12,14での圧縮比を低く抑え、圧縮ステージ12,14で水素ガスを圧縮し昇温することによる水素ガスの過度の温度上昇を防止できる。すなわち、圧縮ステージ12,14を保護することができる。
【0088】
また、圧縮機ユニット10の起動時において液体水素貯槽23側の配管内の水素ガスが常温であっても、上述のように圧縮ステージ12,14から低圧需要先D2に向けて水素ガスを排出することによって、圧縮機ユニット10の立ち上げも速やかに行うことができる。
【0089】
一方、本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、需要先切替手段CV1が第2切替状態である場合に、スピルバック部SB1が吸込流路21に戻した水素ガスにより、吸込温度TS2を上記予め定められた温度範囲内(TTH1≦TS2≦TTH2)に収めることができる。そして、圧縮機ユニット10では、上記温度範囲の下限値TTH1が空気の液化温度に基づく基準温度よりも高い範囲で設定されているので、第1圧縮ステージ12の吸込部の外表面もしくは水素ガスが供給される装置の周辺において支燃性ガスである酸素の液化が発生することを回避できる。
【0090】
また、圧縮機ユニット10では、吐出流路24に逆止弁54を設けているので、吐出流路24における高圧需要先D1側から後続圧縮ステージ14への水素ガスの逆流を防止でき、適切に圧縮機(第1圧縮ステージ12および後続圧縮ステージ14)を保護することができる。
【0091】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0092】
なお、
図1に示す圧縮機ユニットでは、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。例えば、
図3に示すように、後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとで後続圧縮ステージ14が構成されてもよい。ただし、後続圧縮ステージ14については、3段以上の圧縮機構を有してもよい。すなわち、圧縮機ユニット10全体として4段以上の圧縮機構を備えてもよい。
【0093】
また、
図1に示す圧縮機ユニット10では、中間流路22に中間温度センサ(第1温度センサ)46を配置することとしたが、中間温度センサ46を配置する位置については、これに限定されない。例えば、
図4に示すように、吐出流路24における分岐点P
Bよりも上流側の部位に中間温度センサ46を配置してもよい。この場合には、中間流路22における水素ガスの温度を吐出流路24に配置した中間温度センサ46で推定することができ、推定した中間流路22における水素ガスの温度を用いてステップST2の判断を実行することができる。
【0094】
(第2実施形態)
図5に示すように、第2実施形態に係る圧縮機ユニット10は、吸込流路21を流れる水素ガス(第1圧縮ステージ12に吸入される水素ガス)と、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された後の水素ガスとが互いに熱交換可能なプレヒータ71を備える点で、上記第1実施形態と異なっている。
図5では、上記第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複する部分の説明を省略する。
【0095】
図5に示すように、吐出流路24は、スピルバック流路18aが接続される部位よりも上流側において、互いに分岐した流路である第1流路24aおよび第2流路24bを有しており、プレヒータ71はその一方の流路である第1流路24aと吸込流路21との間に設けられている。これにより、プレヒータ71では、第1流路24aを流れる水素ガスと吸込流路21を流れる水素ガスとの間で熱交換が可能となっている。
【0096】
吐出流路24における第1流路24aと第2流路24bとの分岐点には、流量調整手段FCV1が設けられている。流量調整手段FCV1は、本実施形態では一例として三方弁72aにより構成されており、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスを第1流路24aと第2流路24bとの一方に流すことも可能であるし、第1流路24aと第2流路24bとの両方に流しつつ第1流路24aに流す水素ガスの量を調整することも可能である。ただし、流量調整手段FCV1については、第1流路24aと第2流路24bとの適切に分流できるのであれば、三方弁72aに限定されない。
【0097】
本実施形態にかかる圧縮機ユニット10は、吐出流路24におけるプレヒータ71の下流に配置される下流温度センサ(第3温度センサ)48も備える。下流温度センサ48は、吐出流路24におけるプレヒータ71よりも下流側の部分を流れる水素ガスの温度TS3を取得することができる。下流温度センサ48が取得した温度情報は、制御部50へと送出される。
【0098】
圧縮機ユニット10において、制御部50の機能には、第1制御部50aおよび第2制御部50bに加えて第3制御部50cが含まれている。第3制御部50cは、下流温度センサ48によって取得された水素ガスの温度TS3を参照して流量調整手段FCV1を制御するように構成された機能部である。
【0099】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図6を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、起動時における制御部50の動作(ステップST1~ST3)は上記第1実施形態と同じであり、その説明を省略する。
【0100】
制御部50は、定常運転状態となった場合(TS1<閾値T1、ステップST2でNO)には、高圧需要先D1に向けて水素ガスが流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST4)。
【0101】
制御部50は、上流温度センサ45によって取得された吸込温度TS2を参照しつつ、プレヒータ制御が開始されるようにする(ステップST6)。すなわち、TS2<TTH1の場合には、第3制御部50cは、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが第1流路24aに流入し、プレヒータ71を経由するように流量調整手段FCV1を制御する(ステップST6)。そして、制御部50は、水素ガスがプレヒータ71を経由する状態において、下流温度センサ48によって取得された温度TS3が温度TTH3よりも大きいか否かを判断する(ステップST7)。制御部50がステップST7でYES(TS3>TTH3)と判断した場合には、第3制御部50cは、プレヒータ71に水素ガスが流入する状態を継続させる。プレヒータ71での熱交換が継続的に実行される。なお、TS2>TTH2である場合には、プレヒータ制御は行われない。
【0102】
一方、制御部50がステップST7でNO(TS3≦TTH3)と判断した場合には、プレヒータ71への水素ガスの流入量が固定されるように流量調整手段FCV1を制御した上で(ステップST8)、スピルバック制御が開始されるようにする(ステップST5)。すなわち、第2制御部50bは、スピルバック弁18bを制御して吐出流路24のガスの一部が吸込流路21に戻されるようにする。このように、ステップST7でNOと判断した場合には、プレヒータ71による水素ガスの加温に加えてスピルバック部SB1を用いた水素ガスの加温が実行される。これによって、吸込温度TS2が前記予め定められた温度範囲の下限値TTH1以上となるように調整される。
【0103】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、プレヒータ71による吸込流路21における水素ガスの加温をスピルバック部18による加温に対して優先させ、加温が足らない場合はスピルバック部SB1による加温で補う制御とする。これにより、スピルバック部SB1による加温だけを行う場合に比べて水素ガスを吸込み側へ戻す動力のロスをミニマム化することができる。よって、圧縮機ユニット10では、処理効率の低下を抑制しつつ吸込温度TS2を一定範囲に管理することができる。
【0104】
また、圧縮機ユニット10では、下流温度センサ48によって吐出流路24におけるプレヒータ71よりも下流側の水素ガスの温度TS3を取得し、下流温度センサ48によって取得された水素ガスの温度TS3を基に第3制御部50cが流量調整手段FCV1を制御することとしているので、高圧需要先D1へ供給する水素ガスの過度の温度低下を抑止できる。
【0105】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0106】
なお、
図5に示す圧縮機ユニット10では、吐出流路24を第1流路24aと第2流路24bとに分岐して第1流路24aにプレヒータ71を設ける構成を一例としたが、プレヒータ71の配設形態はこれに限定されない。例えば、
図7に示すように、吸込流路21を第1流路21aと第2流路21bとに分岐させ、分岐した流路の一方(第1流路21a)と吐出流路24との間にプレヒータ71が設けられてもよい。この場合には、吸込流路21における第1流路21aと第2流路21bとの分岐点にプレヒータ71に流入する水素ガスの量を調整可能な流量調整手段FCV1が設けられてもよい。
【0107】
また、
図5および
図7に示す圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。すなわち、圧縮機ユニット10全体として3段以上の圧縮機構を備えてもよい。
【0108】
(第3実施形態)
図8に示すように、第3実施形態に係る圧縮機ユニット10は、中間流路22と吸込流路21との間で水素ガス同士の熱交換が可能なようにプレヒータ71が設けられている点で、上記第2実施形態と異なっている。
図8では、上記第2実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複する部分の説明を省略する。
【0109】
圧縮機ユニット10において、中間流路22は、中間温度センサ46が配置された位置よりも下流側の部位が第1流路22aと第2流路22bとに分岐するように構成されている。本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、中間流路22における第1流路22aと吸込流路21との間にプレヒータ71が設けられている。
【0110】
流量調整手段FCV1は、中間流路22における第1流路22aと第2流路22bとの分岐点等に設けられている。また、圧縮機ユニット10では、下流温度センサ48がプレヒータ71と後続圧縮ステージ14との間に配置されている。下流温度センサ48は後続圧縮ステージ14に吸入される水素ガスの温度TS3を取得する。
【0111】
本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50は上記第2実施形態と同様の制御を実行する。即ち、
図6を用いて説明したのと同様の制御を実行する。
【0112】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、第1圧縮ステージ12に吸入される前の水素ガスと中間流路22を流通する水素ガスとの間で熱交換可能なプレヒータ71を備える。そして、圧縮機ユニット10でも、上記第2実施形態と同様に、プレヒータ71による吸込流路21における水素ガスの加温をスピルバック部SB1による加温に対して優先させ、加温が足らない場合はスピルバック部SB1による加温で補う制御とする。これにより、スピルバック部SB1による加温だけを行う場合に比べて圧縮した水素ガスを吸込み側へ戻す動力のロスをミニマム化することができる。さらに、後続圧縮ステージ14(詳細には、第1圧縮ステージ12よりも後段に位置する2段目の圧縮機構)の入口
のガス温度が低下することによりガスの体積が小さくなり後続圧縮ステージ14での圧縮動力も小さくなる、よって、圧縮機ユニット10では、処理効率の低下を抑制しつつ吸込温度TS2を一定範囲に管理することができる。
【0113】
また、圧縮機ユニット10では、下流温度センサ48によって中間流路22におけるプレヒータ71よりも下流側の水素ガスの温度TS3を取得し、下流温度センサ48によって取得された水素ガスの温度TS3を基に第3制御部50cが流量調整手段FCV1を制御することとしているので、高圧需要先D1へ供給する水素ガスの過度の温度低下を抑止できる。
【0114】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0115】
なお、
図8に示す圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。例えば、
図9に示すように、後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとで後続圧縮ステージ14が構成されてもよい。この場合には、中間流路22における後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとの間の部位が第1流路22aと第2流路22bとに分岐されてもよい。そして、流量調整手段FCV1は、第1流路22aと第2流路22bとの分岐点等に設けてよい。この構成を採用する場合には、後続第1圧縮ステージ14aから吐出された水素ガスと吸込流路21を流れる水素ガスとの間で熱交換が可能となる。
【0116】
ただし、後続圧縮ステージ14については、3段以上の圧縮機構を有してもよい。すなわち、圧縮機ユニット10全体として4段以上の圧縮機構を備えてもよい。このように4段以上の圧縮機構を備える構成の場合においては、中間流路22における最終段の圧縮機構の吸込側の部位にプレヒータ71を設けてもよい。
【0117】
(第4実施形態)
図10に示す第4実施形態に係る圧縮機ユニット10は、他の低圧ガス排出路である第2低圧ガス排出路83をさらに備える。第2低圧ガス排出路83は、中間流路22に位置する他の分岐点である第2分岐点P
B2で分岐されて第2低圧需要先(他の低圧需要先)D3に接続される。
【0118】
第4実施形態に係る圧縮機ユニット10では、起動時において、水素ガスが低圧需要先D2および第2低圧需要先D3に送られる点で、第1実施形態と異なっている。
図10では、上記第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複する部分の説明を省略する。
【0119】
第2低圧需要先D3は、高圧需要先D1で要求される水素ガスの圧力よりも低い圧力の水素ガスを処理できる設備である。第2低圧需要先D3としては、例えば、エンジン、発電設備、ボイラなどのガスをエネルギ源として活用する設備以外に、フレア設備、ベントなどの略大気圧でガスを活用する設備が含まれていてもよい。
【0120】
圧縮機ユニット10は、第1圧縮ステージ12から吐出された水素ガスの流路を後続圧縮ステージ14への流路と第2低圧ガス流路83とで切り替える、他の需要先切替手段である第2需要先切替手段CV2をさらに備えている。第2需要先切替手段CV2は、本実施形態では一例として調節弁86aにより構成されており、第2低圧ガス排出路83に設けられている。なお、本実施形態では、開度調整が可能な調節弁86aによって構成された第2需要先切替手段CV2を採用することとするが、これに限定されない。例えば、全開/全閉の二位置をとることができる開閉弁によって構成された第2需要先切替手段CV2を採用することも可能である。
【0121】
圧縮機ユニット10において、制御部50の機能には、第1制御部50aおよび第2制御部50bに加えて第4制御部50dが含まれている。第4制御部50dは、中間温度センサ46によって取得された水素ガスの温度TS1を参照して第2需要先切替手段CV2を制御するように構成された機能部である。
【0122】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図11を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態と重複する説明を一部省略する。
【0123】
制御部50がステップST2でYESと判断した場合(TS1≧閾値T1)、すなわち起動時には、第1制御部50aは、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが低圧需要先D2に流れるように需要先切替手段CV1を第1切替状態に制御する。さらに、第4制御部50dは、第1圧縮ステージ12から中間流路22に吐出された水素ガスの一部が第2低圧需要先D3に流れるように第2需要先切替手段CV2を制御する(ステップST9)。このように、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが低圧ガス排出路53を通り低圧需要先D2へ流れる第1切替状態である場合に、第1圧縮ステージ12から中間流路22に吐出された水素ガスの一部が第2低圧ガス排出路83を通り第2低圧需要先D3へ流れる。
【0124】
一方、制御部50がステップST2でNOと判断した場合(TS1<閾値T1)には、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが高圧需要先D1に流れるように需要先切替手段CV1および第2需要先切替手段CV2を制御する(ステップST10)。すなわち、定常運転状態となった場合には、第1圧縮ステージ12および後続圧縮ステージ14で圧縮された水素ガスが高圧需要先D1に送られる(第2切替状態)。定常運転状態において、第2制御部50bが実行するステップST5(スピルバック制御を開始させるステップ)については上記第1実施形態と同様である。
【0125】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、制御部50が需要先切替手段CV1を制御して第1切替状態と第2切替状態とを切り替え可能な構成とし、第1切替状態において低圧ガス排出路53だけでなく、第2低圧ガス排出路(他の低圧ガス排出路)83に対しても水素ガスを排出可能としている。本実施形態に係る圧縮機ユニット10は、第2低圧ガス排出路83を備えない場合に比べて中間流路22における水素ガスの圧力を下げることができる。よって、圧縮機ユニット10では、中間流路22の下流側に配された後続圧縮ステージ14の吸込圧力を下げることができ、起動時の動力をより小さくできる。
【0126】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0127】
なお、
図10に示す圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。例えば、
図12に示すように、後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとで後続圧縮ステージ14が構成されてもよい。ここで、
図12に示す圧縮機ユニット10では、第1圧縮ステージ12と後続第2圧縮ステージ14bとの間のガス流路が中間流路22ということになる。この構成を採用する場合に、低圧ガス排出路53が分岐される分岐点P
Bを吐出流路24ではなく中間流路22における後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとの間の位置に配置してもよい。
【0128】
ただし、後続圧縮ステージ14については、3段以上の圧縮機構を有してもよい。すなわち、圧縮機ユニット10全体として4段以上の圧縮機構を備えてもよい。この場合にも、第1圧縮ステージ12と後続圧縮ステージ14を構成する圧縮機構の内の最後段の圧縮機構との間のガス流路が中間流路22ということになる。このように4段以上の圧縮機構を備える構成の場合においては、中間流路22における最終段の圧縮機構の吸込側となる位置に分岐点PBを配置してもよい。
【0129】
(第5実施形態)
図13に示す第5実施形態に係る圧縮機ユニット10の構成は、後続圧縮ステージ14の構造が異なる点で
図10に示す第4実施形態に係る圧縮機ユニット10と相違している。また、圧縮機ユニット10の水素ガスの処理に関して、起動時には水素ガスが低圧需要先D2にのみ送られ、定常運転時には水素ガスが第2低圧需要先D3および高圧需要先D1に送られる点において、上記第4実施形態に係る圧縮機ユニット10の処理と相違している。その他の点は上記第4実施形態と同様であり、上記第4実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複部分の説明を省略する。
【0130】
圧縮機ユニット10は、後続圧縮ステージ14による水素ガスの処理量を調整する調整手段41が設けられている。調整手段41は、クランク機構16の回転数を調整する以外の方法によってガス処理量を調整するものであり、本実施形態では、一例として、後続圧縮ステージ14のシリンダ部に高圧需要先D1に向けて送られるガス流量を調整するオンオフ式の吸込弁アンローダ61が装着されることによって構成されている。
【0131】
また、圧縮機ユニット10は、中間圧力センサ(第2圧力センサ)47と、排出路圧力センサ(圧力センサ)49と、吐出路圧力センサ(第4圧力センサ)87と、を備える。中間圧力センサ47は、中間流路22における後続圧縮ステージ14の吸込側に配置されており、当該部分を流れる水素ガスの圧力PS1を取得する。吐出路圧力センサ87は、吐出流路24に配置されており、吐出流路24を流れる水素ガスの圧力PS4を取得する。排出路圧力センサ49は、第2低圧ガス排出路83に配置されており、第2低圧ガス排出路83を流れる水素ガスの圧力PS2を取得する。各圧力センサ47,87,49は、制御部50に取得した圧力情報を送出する。
【0132】
制御部50の機能には、第1制御部50a、第2制御部50b、および第4制御部50dに加えて、第5制御部50eが含まれる。また、制御部50に対しては、高圧需要先D1の圧力PS4および第2低圧需要先D3の圧力PS2および後続圧縮ステージ14の入口の圧力PS1が入力されるようになっており、さらに中間圧力の範囲の設定値(圧力閾値a1および圧力閾値a2)が入力されている。そして、第5制御部50eは、第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて変化する後続圧縮ステージ14の入口の圧力PS1をあらかじめ設定された値の範囲となるように、調整手段41である吸込弁アンローダ61を制御するように構成された機能部である。
【0133】
後続圧縮ステージ14のシリンダ部には、ピストンが押行程時に圧縮する押圧縮室と、引行程時に圧縮する引圧縮室の2室を有し、それぞれの圧縮室を個別にロード、アンロードさせる容量調整装置を備える。なお、当該2室をロードさせると100%ロード、1室のみロードさせる場合は50%ロードとなる。第5制御部50eは、第2圧力センサ47により取得した後続圧縮ステージ14の入口の圧力に基づいて前記吸込弁アンローダへロードまたはアンロードの指令を送る。
【0134】
圧縮機ユニット10においては、前記第2低圧需要先D3への供給量が増加すると、それが無い場合と比べて後続圧縮ステージ14で処理されるガス量は減少するため、後続圧縮ステージ14の入口の圧力は低下する。すなわち、後続圧縮ステージ14の入口および出口の差圧は、第2低圧需要先への供給量が増加するにつれて大きくなり、圧縮ステージのシリンダ部で圧縮のために往復動しているピストンなどの内部部品に作用する荷重が増大する。
【0135】
あらかじめ設定されていた圧力閾値a1よりも後続圧縮ステージ14の入口の圧力PS1が下がった場合において、後続圧縮ステージ14のロード100%から50%へ下げることで、入口の圧力PS1を上昇させることができ、すなわち内部部品に作用する荷重を低減することができる。また、50%ロードの状態で、入口の圧力PS1があらかじめ設定されていた圧力閾値a2よりも上昇する場合には、第1圧縮ステージ12の吐出圧力が上昇していることと同じであり、後続圧縮ステージ14のロードを100%に上げることで、第1圧縮ステージ12の内部部品に作用する荷重を低減することができる。
【0136】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図14を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態と重複する説明を一部省略する。
【0137】
制御部50がステップST2でYESと判断した場合(TS1≧閾値T1)には、第1制御部50aは、第1切替状態となるように需要先切替手段(CV1)を制御する。なお、起動時には、第2低圧需要先D3に水素ガスが流れないように第2需要先切替手段(CV2)が閉められている。その結果、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが低圧需要先D2にのみ流れる(ステップST3)。これにより、後続圧縮ステージ14から吐出流路24に吐出された水素ガスが低圧ガス排出路53を通り低圧需要先D2へ流れる(第1切替状態)。
【0138】
制御部50は、定常運転状態となった場合(TS1<閾値T1、ステップST2でNO)に、需要先切替手段CV1を制御して第2切替状態とし、水素ガスが高圧需要先D1に供給されるようにする(ステップST4)。そして、第2制御部50bがスピルバック弁18bを制御してスピルバック制御を開始する(ステップST5)。
【0139】
さらに、第4制御部50dおよび第5制御部50eが第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて第2需要先切替手段CV2および調整手段41(吸込弁アンローダ)を制御する(ステップST11)。すなわち、第4制御部50dは第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて第2低圧ガス排出路83に水素ガスが排出されるように第2需要先切替手段CV2を制御する。第5制御部50eは後続圧縮ステージ14の入口の圧力PS1があらかじめ設定された閾値の範囲におさまるように調整手段41の制御を実行する。具体的には、吸込弁アンローダ61によりロード変更を行う。
【0140】
吸込弁アンローダ61のロード変更について
図15を参照して詳細に説明する。第2低圧需要先D3の要求量が多くなる(換言すれば高圧需要先D1の要求量が少なくなる)、すなわち、中間圧力センサ47で検出される圧力PS1が小さくなり、圧力閾値a1を下回った場合は(ステップST21でYES)、吸込弁アンロードによりロードを100%から50%へ変更する(ステップST22)。50%ロード時に、第2低圧需要先D3の要求量が少なくなる(換言すれば高圧需要先D1の要求量が多くなる)、すなわち、中間圧力センサ47で検出される圧力PS1が大きくなり、圧力閾値a2を上回った場合は(ステップST23でYES)、吸込弁アンローダ61によりロードを50%から100%へ変更する(ステップST24)。なお、仮に第2低圧需要先D3の量は変化させず、高圧需要先D1の要求量に応じて変化させる場合は、スピルバック部SB1によるスピルバック量にて調整してもよい。
【0141】
圧縮機ユニット10では、特に第2低圧需要先D3の要求量が多くなる場合において、後続圧縮ステージ14の入口の圧力の過度な低下を防ぐことで、その内部部品の過大な差圧が作用することを防ぐ。言い換えれば、この制御をしない場合は、圧縮機においてその変化を吸収するだけの余裕があるマージンの大きな圧縮機を用意する必要があるが、圧縮機ユニット10では、そのマージンを小さくすることができる。
【0142】
図16に示す圧縮機ユニット10では、例えば、
図13とは異なる調整手段41が設けられている。本実施形態では、一例として、後続圧縮ステージ14から高圧需要先D1に向けて送られるガス流量が調整されるように水素ガスの処理量を調整するスピルバック部(第2スピルバック部)SB2によって調整手段41が構成されている。
【0143】
第2スピルバック部SB2は、第2スピルバック流路43aと、第2スピルバック流路43aに配置された開度調整可能な第2スピルバック弁43bと、を有する。第2スピルバック流路43aの一端部は、吐出流路24における逆止弁54が配置された位置よりも上流の部位に接続され、他端部は、中間流路22に接続されている。したがって、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスの一部は中間流路22における後続圧縮ステージ14の吸込側に戻される。第2スピルバック弁43bは、第2スピルバック流路43aにおいてスピルバック量を調整する。
【0144】
また、圧縮機ユニット10は、中間圧力センサ(第2圧力センサ)47と、排出路圧力センサ(圧力センサ)49と、吐出路圧力センサ(第4圧力センサ)87と、を備える。中間圧力センサ47は、中間流路22における後続圧縮ステージ14の吸込側の位置に配置されており、当該部分を流れる水素ガスの圧力PS1を取得する。吐出路圧力センサ87は、吐出流路24に配置されており、吐出流路24を流れる水素ガスの圧力PS4を取得する。排出路圧力センサ49は、第2低圧ガス排出路83に配置されており、第2低圧ガス排出路83を流れる水素ガスの圧力PS2を取得する。各圧力センサ47,87,49は、制御部50に取得した圧力情報を送出する。
【0145】
制御部50の機能には、第1制御部50a、第2制御部50b、および第4制御部50dに加えて、第5制御部50eが含まれる。また、制御部50に対しては、高圧需要先D1の圧力PS4および第2低圧需要先D3の圧力PS2および後続圧縮機ステージ14の入口の圧力PS1が入力されるようになっており、さらに中間圧力の設定値(圧力閾値a1および圧力閾値a2)が入力されている。そして、第5制御部50eは、第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて変化する後続圧縮ステージ14の入口の圧力PS1をあらかじめ設定された値となるように、調整手段41(第2スピルバック弁43b)を制御するように構成された機能部である。後続圧縮ステージ14の入口圧力の設定値はPS4およびPS2の値から演算により求めても良い。
【0146】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図14を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態と重複する説明を一部省略する。
【0147】
制御部50は、定常運転状態となった場合(TS1<閾値T1、ステップST2でNO)に、水素ガスが高圧需要先D1に供給されるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST4)。そして、第2制御部50bがスピルバック弁18bを制御してスピルバック制御を開始する(ステップST5)。
【0148】
さらに、第4制御部50dおよび第5制御部50eが第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて第2需要先切替手段CV2および調整手段41(第2スピルバック弁43b)を制御する(ステップST11)。すなわち、第4制御部50dは第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に応じて第2低圧ガス排出路83に水素ガスが排出されるように第2需要先切替手段CV2を制御する。第5制御部50eは後続圧縮ステージ14でのガス処理量が調整されるように第2スピルバック弁43bの開度調整を実行する。
【0149】
第2スピルバック弁43bの開度調整について
図17を参照して詳細に説明する。第2低圧需要先D3の要求量が多くなる(換言すれば高圧需要先D1の要求量が少なくなる)、すなわち、中間圧力センサ47で検出される圧力PS1が小さくなり、圧力閾値a11を下回った場合は(ステップST31でYES)、第2スピルバック部SB2によるスピルバック量を増す(ステップST32)。第2低圧需要先D3の要求量が少なくなる(換言すれば高圧需要先D1の要求量が多くなる)、すなわち、中間圧力センサ47で検出される圧力PS1が大きくなり、圧力閾値a2を上回った場合は(ステップST33でYES)、第2スピルバックSB2によるスピルバック量を減らす制御を行う(ステップST34)。なお、仮に第2低圧需要先D3の量は変化させず、高圧需要先D1の要求量に応じて変化させる場合は、スピルバック部SB1によるスピルバック量にて調整してもよい。
【0150】
以上に説明したように、第2低圧需要先D3のガス要求量または高圧需要先D1のガス要求量の変動分に対して、第2低圧需要先D3への水素ガスの排出と、第2スピルバック部SB2による後続圧縮ステージ14でのガス処理量の調整とによって、後続圧縮ステージ14の吸込圧力が略一定に保たれる。
【0151】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、高圧需要先D1での水素ガスの必要量(要求量)が削減された場合に第2低圧需要先D3へ水素ガスを排出することで、液体水素貯槽23から発生するボイルオフガス(水素ガス)の量と圧縮機ユニット10から送出する水素ガスの量とをバランスさせることで、液体水素貯槽23の圧力を一定に保つことができる。
【0152】
また、圧縮機ユニット10では、調整手段41(第2スピルバック部SB2)を備えるので、後続圧縮ステージ14の吸込圧力を略一定に保つことができる。このため、圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージの各段の圧力バランスを常に一定とすることができ、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。すなわち、後続圧縮ステージ14における圧力バランスを一定に保てない場合には、その変化を吸収するだけの余裕があるマージンの大きな圧縮機を用意する必要があるが、圧縮機ユニット10では、マージンの大きな圧縮機を用意する必要がない。
【0153】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。さらに、極低温の吸込ガスを適切な温度に加温する熱源を圧縮機で圧縮し昇温したガスを利用することで、圧縮機の上流側に、例えば化石燃料の燃焼熱を利用するヒータを設置する場合と比べ、余分なCO2の排出を防ぐこともできる。
【0154】
圧縮機ユニット10は、
図18に示すように、
図13と同様のオンオフ式の吸込弁アンローダ61と、
図16と同様の第2スピルバック部SB2を併用して調整手段41が構成されてもよい。
【0155】
図19に示すように、調整手段41の制御では、制御部50に入力される第2スピルバック弁43bの状態(弁の開度)が、あらかじめ設定されている開度閾値b1より大きくなった場合(スピスバック量が多い)には(ステップST41でYes)、吸込弁アンローダ61が制御されて後続圧縮ステージ14のロード量がダウン(100%から50%)される(ステップST42)。第2スピルバック弁43bの開度が開度閾値b2よりも小さくなった場合は(ステップST43でYes)、吸込弁アンローダ61が制御されて後続圧縮ステージ14のロード量がアップ(50%から100%)されるように制御が実行される(ステップST44)。これによって、スピルバックが過剰な場合において、後続圧縮ステージ14のロードを下げることにより、動力削減することができる。
【0156】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0157】
圧縮機ユニット10は、
図20に示すように、調整手段41として後続圧縮ステージ14に設けられた無段階式容量調整装置64bを備えてもよい。
【0158】
無段階容量調整装置64bは、吸込弁アンローダ61bと、駆動装置62bと、クランク機構の回転を検出する検出器63bを有する。吸込弁アンローダ61bは、油圧式または電気式の駆動装置62bによって駆動され、吸込弁の弁板の開状態を維持又は解除をピストンが往復にかかる時間よりも高速で実施することできる。また、クランク機構に設置された検出器63bから送出される信号により制御部では、ピストンの位置を推定する演算処理が行われている。
【0159】
後続圧縮ステージ14のシリンダ部には、吸込通路と圧縮室の間に設置された吸込弁は、ガス通路を開閉する弁板とそれを収納する弁体などで構成され、逆止弁と同様に、上流の圧力が下流側よりも高い場合、その差圧で弁板が開状態となり、下流側の圧力が高い場合は、ガスが流れない構造である。
【0160】
吸込弁アンローダ61bが駆動すると、吸込弁の弁板を開状態に維持され逆止弁の機能ができない状態をつくる。なお、アンローダを駆動させない状態でピストンが吸込行程となった場合、圧縮室の圧力が吸込通路より下がるため、吸込弁は開の状態となり、圧縮室側へガスが導入される。ピストンが圧縮行程となった場合、圧縮室の圧力が吸込通路より上がるため、吸込弁は閉の状態となる。
【0161】
圧縮行程が始まった初期において、前記無段階容量調整装置64bにより、開状態を維持し、圧縮室へ導入されたガスの一部を吸込通路側へ戻し、圧縮行程の途中から開状態を解除することで、吸込弁が閉となり、その時に圧縮室に残っているガスが圧縮され、送出される。次のピストン吸込行程時に再び駆動部を駆動させ、ピストンの圧縮行程が始まってから開状態を解除する、これをピストンの往復運動にあわせて繰り返す。
【0162】
この解除のタイミングを早くすると、送出量が多くなり、遅くすると送出量が少なくなるので、第2スピルバック弁と同じ機能をはたすことができる。さらに、圧縮するガス量を調整しているので、動力を削減する効果は大きい。
【0163】
また、
図12に示すように後続圧縮ステージ14が複数段の圧縮機構を有する構成を採用する場合には、少なくとも1つの圧縮機構に対して第2スピルバック部43や容量調整装置64bを設けてもよい。
【0164】
(第6実施形態)
次に、第6実施形態に係る圧縮機ユニット10について
図21を参照して説明する。圧縮機ユニット10の構成は、
図1に示す第1実施形態に係る圧縮機ユニット10に対して、低圧ガス排出路53の位置が中間流路22に配置されている点で相違する。さらに、水素ガスの処理に関して、起動時および定常運転時のいずれにおいても、水素ガスが低圧ガス排出路53を経由して低圧需要先D2に供給される点において、第1実施形態に係る圧縮機ユニット10と異なる。
図21では、上記第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複部分の説明を省略する。
【0165】
本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、低圧ガス排出路53が分岐する分岐点PBが中間流路22における中間温度センサ46が配置された位置よりも下流側に配置されている。さらに、中間流路22における下流側の位置には、中間圧力センサ47が配置されている。中間圧力センサ47は、後続圧縮ステージ14に吸入される水素ガスの圧力PS1を取得して制御部50へと送出する。
【0166】
圧縮機ユニット10は、排出路圧力センサ49も備える。排出路圧力センサ49は、低圧ガス排出路53における需要先切替手段CV1が設けられた位置よりも下流側に配置されている。排出路圧力センサ49は、低圧ガス排出路53を通り低圧需要先D2に排出される水素ガスの圧力PS2を取得して制御部50に送出する。
【0167】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図22を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記第1実施形態と重複する説明を一部省略する。
【0168】
圧縮機ユニット10の起動時に、制御部50が中間流路22を流れる(第1圧縮ステージ12から吐出された)水素ガスの温度TS1≧閾値T1と判断した場合には、第1制御部50aは、第1圧縮ステージ12から中間流路22に吐出された水素ガスが低圧ガス排出路53に流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST1~ST3)。すなわち、水素ガスが低圧需要先D2に送出される第1切替状態が構成される。
【0169】
制御部50が定常運転状態となったと判断した場合(TS1<閾値T1)には、第1制御部50aは、水素ガスが高圧需要先D1と低圧需要先D2との両方に流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST12)。すなわち、本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、ステップST12の実行において、調節弁56aで構成される需要先切替手段CV1の開度調整を行って水素ガスが高圧需要先D1と低圧需要先D2との両方に流れるように制御が行われる。
【0170】
制御部50は、水素ガスが高圧需要先D1と低圧需要先D2との両方に送出されている状態(第3切替状態)において、排出路圧力センサ49が取得した圧力PS2が予め設定された範囲内であるか否かを判断する(ステップST13)。制御部50がステップST13でNOと判断した場合(PTH1≧PS2またはPS2>PTH2)には、第1制御部50aは、圧力PS2が上記予め設定された範囲内となるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST14)。
【0171】
一方、制御部50は、ステップST13でYESと判断した場合(PTH1<PS2≦PTH2)には、上流温度センサ45が取得した吸込温度TS2を参照しつつ、スピルバック制御が実行されるようにする(ステップST5)。すなわち、TS2<TTH1の場合には、第2制御部50bがスピルバック弁18bを制御して吐出流路24のガスの一部を吸込流路21に戻す。これにより、需要先切替手段CV1が第3切替状態である場合において、吸込温度TS2が予め定められた温度範囲内(TTH1≦TS2≦TTH2)となるように吸込流路21の水素ガスを加温する。なお、TS2>TTH2である場合には、吐出流路24のガスの一部を吸込流路21に戻す動作は行わない。ここで、前記予め定められた温度範囲は、上記第1実施形態と同様に、空気の液化温度に基づく基準温度よりも高く、かつ、0℃未満の範囲で設定されている。すなわち、前記予め定められた温度範囲の下限値TTH1および上限値TTH2は、上記基準温度よりも高く、0℃未満の範囲内に設定される。
【0172】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、液体水素貯槽23からのボイルオフガス(水素ガス)の幅広い温度変化からその構成機器を適切に保護することができる。すなわち、圧縮機ユニット10では、起動時において、液体水素貯槽23側の配管内の水素ガスがプラスの温度領域まで上昇している場合であっても、低圧需要先D2に水素ガスが流される第1切替状態となるように需要先切替手段CV1を制御するように構成されている。よって、圧縮機ユニット10では、吐出流路24から高圧需要先D1にのみ水素ガスを流す場合に比べて後続圧縮ステージ14での圧縮比を低く抑え、後続圧縮ステージ14で水素ガスを圧縮し昇温することによる水素ガスの過度の温度上昇を抑止できる。すなわち、後続圧縮ステージ14を保護することができる。また、圧縮機ユニット10の立ち上げも速やかに行うことができる。
【0173】
一方、圧縮機ユニット10では、需要先切替手段CV1が第3切替状態である場合に、排出路圧力センサ49によって取得される圧力PS2が予め設定された範囲内になるように需要先切替手段CV1を第1制御部50aが制御し、かつ、上流温度センサ45によって取得される吸込温度TS2が上記予め定められた温度範囲内になるように第2制御部50bがスピルバック弁18bを制御する構成としているので、水素ガスが低温である環境下において圧縮機ユニット10を保護することができる。
【0174】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0175】
なお、
図21に示す圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。
【0176】
(第7実施形態)
図23に示すように、第7実施形態に係る圧縮機ユニット10は、後続圧縮ステージ14による水素ガスの処理量を調整する調整手段41が設けられている点で上記第6実施形態と異なっている。
図23では、上記第6実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付し、以下では、重複部分の説明を省略する。
【0177】
調整手段41は、後続圧縮ステージ14による水素ガスの処理量を調整する。調整手段41は、クランク機構16の回転数を調整する以外の方法によってガス処理量を調整するものであり、本実施形態では、一例として、後続圧縮ステージ14から高圧需要先D1に向けて送られるガス流量が調整されるように水素ガスの処理量を調整するスピルバック部(第2スピルバック部SB2)によって構成されている。
【0178】
第2スピルバック部SB2は、第2スピルバック流路43aと、第2スピルバック流路43aに配置された開度調整可能な第2スピルバック弁43bと、を有する。第2スピルバック流路43aの一端部は、吐出流路24におけるスピルバック流路18aの接続部よりも上流側の部位に接続され、他端部は、中間流路22に接続されている。したがって、後続圧縮ステージ14から吐出された水素ガスの一部は中間流路22における後続圧縮ステージ14の吸込側に戻される。第2スピルバック弁43bは、第2スピルバック流路43aにおいてスピルバック量を調整する。
【0179】
制御部50の機能には、第1制御部50aおよび第2制御部50bに加えて第5制御部50eが含まれる。第5制御部50eは、中間圧力センサ47によって取得された圧力PS1の変化量に応じて、調整手段41(第2スピルバック弁43b)を制御するように構成された機能部である。
【0180】
ここで、本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転において、制御部50が実行する運転制御について、
図24を参照しつつ説明する。なお、以下の説明では、上記第6実施形態と重複する説明を省略する。
【0181】
制御部50が定常運転状態となったと判断した場合(TS1<閾値T1)には、第1制御部50aは、水素ガスが高圧需要先D1と低圧需要先D2との両方に流れるように需要先切替手段CV1を制御する(ステップST12)。本実施形態に係る圧縮機ユニット10では、第1制御部50aがステップST12を実行した後に、第5制御部50eが圧力PS1の変化量に応じて調整手段41(第2スピルバック弁43b)を制御する(ステップST15)。このように第5制御部50eが圧力PS1の変化量に応じて第2スピルバック弁43bを制御することにより、後続圧縮ステージ14の処理量が調整される。本実施形態は、第5制御部50eが調整手段41(第2スピルバック弁43b)の制御を行う点で上記第6実施形態と異なっている。
【0182】
本実施形態に係る圧縮機ユニット10の運転におけるステップST15以降の各制御については、上記第6実施形態と同じである。
【0183】
以上のような構成を備える圧縮機ユニット10では、需要先切替手段CV1が第3切替状態である場合に、第5制御部50eが調整手段41(第2スピルバック弁43b)を備えるので、後続圧縮ステージ14の吸込圧力を略一定に保つことができる。このため、圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージの各段の圧力バランスを常に一定とすることができ、圧縮機の高い信頼性を得ることができる。すなわち、後続圧縮ステージ14における圧力バランスを一定に保てない場合には、その変化を吸収するだけの余裕があるマージンの大きな圧縮機を用意する必要があるが、圧縮機ユニット10では、マージンの大きな圧縮機を用意する必要がない。
【0184】
また、圧縮機ユニット10を採用すれば、効率的な水素ガスの回収/供給が可能である。
【0185】
なお、
図23に示す圧縮機ユニット10でも、後続圧縮ステージ14が1段の圧縮機構
を有しているが、複数段の圧縮機構を有してもよい。この場合に、調整手段41については、複数段の圧縮機構のそれぞれに対して設けられてもよいし、複数段の圧縮機構に対して1つの調整手段41を設けてもよい。
【0186】
また、
図23に示す圧縮機ユニット10では、調整手段41の一例として第2スピルバック部SB2を有するが、調整手段41はこれに限定されない。例えば、
図25に示すように、調整手段41として後続圧縮ステージ14に設けられた無段階容量調整装置64bを備えてもよい。無段階容量調整装置64bは、上記同様に、吸込弁アンローダ61bと、駆動装置62bと、クランク機構の回転を検出する検出器63bを有する構成とすることができる。
【0187】
また、上述のように後続圧縮ステージ14が複数段の圧縮機構を有する構成を採用する場合において、調整装置41としても容量調整装置64を各圧縮機構に設けてもよいし、一部の圧縮機構に設けてもよい。
【0188】
さらに、
図23に示す圧縮機ユニット10で採用する第2スピルバック部SB2と、
図25で示す圧縮機ユニット10が採用する容量調整装置64bと、を後続圧縮ステージ14に対して併設することとしてもよい。
【0189】
(変形例)
上記第1実施形態の変形例に係る圧縮機ユニット10の構成について、
図26を用いて説明する。なお、
図26では、上記第1実施形態と同じ構成について、その一部を省略している。また、以下では、重複部分についての説明を省略する。
【0190】
本変形例に係る圧縮機ユニット10では、後続圧縮ステージ14が複数段の圧縮機構を有してもよい。具体的に、本変形例に係る圧縮機ユニット10は、後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとで後続圧縮ステージ14が構成されてもよい。ただし、後続圧縮ステージ14については、3段以上の圧縮機構を有してもよい。すなわち、圧縮機ユニット10全体として4段以上の圧縮機構を備えてもよい。
【0191】
また、本変形例に係る圧縮機ユニット10では、中間流路22における後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとの間の箇所にスピルバック流路18aが接続されてもよい。これより、後続第1圧縮ステージ14aで加温された水素ガスの一部をスピルバック部SB1を介して吸込流路21に戻すことができる。
【0192】
さらに、中間流路22における後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとの間の箇所に中間クーラ部74が設けられてもよい。これにより、後続第1圧縮ステージ14aの圧縮により温度上昇した水素ガスを冷却して後続第2圧縮ステージ14bへと送ることができ、後続第2圧縮ステージ14bの保護を図ることができる。
【0193】
上記第1実施形態の他の変形例に係る圧縮機ユニット10の構成について、
図27を用いて説明する。なお、
図27では、上記第1実施形態と同じ構成について、その一部を省略している。また、以下では、重複部分についての説明を省略する。
【0194】
本変形例に係る圧縮機ユニット10は、
図26に示した変形例と同様に、後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとで後続圧縮ステージ14が構成される。後続圧縮ステージ14については、3段以上の圧縮機構を有してもよい。
【0195】
また、中間流路22における後続第1圧縮ステージ14aと後続第2圧縮ステージ14bとの間の箇所にスピルバック流路18aが接続される。これより、後続第1圧縮ステージ14aで加温された水素ガスの一部をスピルバック部SB1を介して吸込流路21に戻すことができる。
【0196】
圧縮機ユニット10は、中間流路22におけるスピルバック流路18aの分岐部よりも下流側に調整手段41としての第2スピルバック部SB2をさらに備える。詳細には、第2スピルバック部SB2は、中間流路22におけるスピルバック流路18aの分岐部よりも下流側に位置する後続第2圧縮ステージ14bから吐出された水素ガスを後続第2圧縮ステージ14bよりも上流側(厳密には後続第2圧縮ステージ14bの吸込側)に戻す第2スピルバック流路43a、および、第2スピルバック流路43aにおいてスピルバック量を調整する第2スピルバック弁43bを含む。
【0197】
制御部50は、需要先切替手段(CV1)が第2切替状態である場合に、スピルバック部SB1の戻し量に相当する流量が後続第2圧縮ステージ14bよりも上流側に戻されるように前記第2スピルバック弁43bを制御する。これにより、後続第2圧縮ステージ14bの圧力バランスを一定とすることができる。
【0198】
図27では、中間流路22における第1圧縮ステージ12と後続第1圧縮ステージ14aとの間の箇所にスピルバック流路18aが接続されてもよい。この場合、後続第1圧縮ステージ14aから吐出された水素ガスを後続第1圧縮ステージ14aよりも上流側に戻すように第2スピルバック流路43aが構成されてもよい。また、後続第2圧縮ステージ14bから吐出された水素ガスを後続第1圧縮ステージ14aよりも上流側に戻すように第2スピルバック流路43aが構成されてもよい。
【0199】
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。
【符号の説明】
【0200】
10 圧縮機ユニット
12 第1圧縮ステージ
14 後続圧縮ステージ
16 クランク機構
18a スピルバック流路
18b スピルバック弁
21 吸込流路
22 中間流路
23 液体水素貯槽
24 吐出流路
41 調整手段
43a 第2スピルバック流路
43b 第2スピルバック弁
47 中間圧力センサ(第2圧力センサ)
48 下流温度センサ(第3温度センサ)
49 排出路圧力センサ(圧力センサ)
50 制御部
53 低圧ガス排出路
54 逆止弁
61 吸込弁アンローダ
61b 吸込弁アンローダ
64b 無段階容量調整装置
71 プレヒータ
83 第2低圧ガス排出路(他の低圧ガス排出路)
CV1 需要先切替手段
CV2 第2需要先切替手段
D1 高圧需要先
D2 低圧需要先
D3 第2低圧需要先(他の低圧需要先)
FCV1 流量調整手段
SB1 スピルバック部
SB2 第2スピルバック部
PB 分岐点
PB2 第2分岐点(他の分岐点)