(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099475
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】電極を用いた接触状態検出方法およびシステム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/276 20210101AFI20240718BHJP
A61B 5/287 20210101ALI20240718BHJP
A61B 18/14 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61B5/276 100
A61B5/287 200
A61B18/14
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023206339
(22)【出願日】2023-12-06
(31)【優先権主張番号】18/096,188
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】511177374
【氏名又は名称】セント・ジュード・メディカル,カーディオロジー・ディヴィジョン,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エリック ジェイ. ボス
(72)【発明者】
【氏名】ジェフェリー エー. シュヴァイツェル
【テーマコード(参考)】
4C127
4C160
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127EE01
4C127LL08
4C127LL30
4C160KK63
(57)【要約】 (修正有)
【課題】医療機器およびシステムならびに測定されたインピーダンスに基づいて医療機器の電極と隣接組織との接触を検出する方法を提供する。
【解決手段】電極の接触状態を判断する方法は、電極対の間に駆動信号を印加することと、収集期間にわたって、駆動信号に応答して生成されたバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を測定することと、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することと、を含む。方法はさらに、電極の接触状態を、所定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加し、駆動信号に応答して生成されるBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせに基づいて、接触状態を判断することによって、判断することを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極の接触状態を判断する方法であって、
電極対の間に駆動信号を印加することと、
収集期間にわたって、前記駆動信号に応答して生成されたバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を測定することと、
前記収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することと、
接触状態を、
所定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加し、
前記駆動信号に応答して生成されるBECI値を測定し、
前記所定のインターバルにわたって測定された前記BECI値に関連するピーク間値を測定し、
前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および測定された前記BECI値に関連する前記ピーク間値の組み合わせに基づいて、前記接触状態を判断することによって、
判断することを含む、方法。
【請求項2】
前記BECI値が実数部分と直交部分を含み、前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および前記ピーク間値がすべて前記BECI値の大きさを表す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定された前記BECI値にフィルタを適用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記所定のインターバルにわたって測定された前記BECI値に関連するピーク間値を測定することは、
前記所定のインターバルにわたって測定されたBECI値の最大の正の偏差を計算することを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断することは、さらに、
測定された前記BECI値の前記ベースラインBECI値に対する比率を表す比率値を計算することと、
前記比率値または前記ピーク間値の少なくとも一方をスケーリングし、前記比率値と前記ピーク間値の比較を可能にすることと、
そのようにスケーリングされた前記比率値と前記ピーク間値の最大値として変数を定義することと、
前記変数を1つまたは複数の閾値と比較し、接触状態を判断することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および前記ピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断することは、
を適用することをさらに含み、
ここで、Dは接触変数であり、Mは測定された前記BECI値であり、M
Bは前記ベースラインBECI値であり、PPは前記所定のインターバルの間に計算された前記ピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vは、前記ピーク間BECI測定値をM/M
Bによって定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記接触変数を1つまたは複数の閾値と比較して前記接触状態を判断し、前記接触変数が第1の閾値より小さい場合は「接触なし」状態が割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合は「断続的接触」状態が割り当てられ、前記第2の閾値より大きい場合は「良好な接触」状態が割り当てられる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
患者に挿入するように構成された医療機器と共に使用するためのシステムであって、
前記医療機器に配置された1対または複数対の電極に駆動信号を印加するように構成された信号発生器と、
前記駆動信号に対する前記電極対の応答を測定するように構成された測定回路と、
接触評価モジュールであって、前記電極対の各々についてバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を生成し、収集期間中に測定された最小BECI値を表すベースラインBECI値を決定し、続いて所定のインターバルにわたって印加された前記駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、前記所定のインターバルにわたって測定された前記BECI値に関連するピーク間値を測定し、前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および測定された前記BECI値に関連する前記ピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するように構成された、接触評価モジュールと、
前記接触評価モジュールから受信した出力に基づいて、組織に対する前記電極の近接度を表示するためのディスプレイと、
を備える、システム。
【請求項9】
前記接触評価モジュールは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定された前記BECI値にフィルタを適用することにより、前記収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定する、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記接触評価モジュールは、前記所定のインターバルにわたって測定されたBECI値の最大の正の偏差を計算することにより、ピーク間値を測定する、請求項8に記載のシステム。
【請求項11】
前記接触評価モジュールは、
前記ベースラインBECI値に対する測定された前記BECI値の比率を表す比率値を計算し、
前記比率値とピーク間BECI値との比較を可能にするために、前記比率値または前記ピーク間BECI値の少なくとも一方をスケーリングし、
そのようにスケーリングされた前記比率値および前記ピーク間値の最大値として変数を定義し、
接触状態を判断するために前記変数を1つまたは複数の閾値と比較することにより、
前記ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断する、請求項8に記載のシステム。
【請求項12】
前記接触評価モジュールは、
に基づいて接触状態を判断し、ここで、Dは接触変数であり、Mは測定された前記BECI値であり、M
Bは前記ベースラインBECI値であり、PPは前記所定のインターバルの間に計算された前記ピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vは前記ピーク間BECI測定値をM/M
Bで定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である、請求項8記載のシステム。
【請求項13】
前記接触評価モジュールが、前記接触変数Dを1つまたは複数の閾値と比較して前記接触状態を判断し、前記接触変数が第1の閾値より小さい場合は「接触なし」状態が割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合は「断続的接触」状態が割り当てられ、前記第2の閾値より大きい場合は「良好な接触」状態が割り当てられる、請求項12記載のシステム。
【請求項14】
医療器具の遠位端に位置する電極対の一部として含まれる電極の接触状態を判断するための接触評価システムであって、前記システムは、
前記電極対に印加されたソース信号に応答して収集された信号を受信するように構成された入力部と、
プロセッサであって、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された特定のプログラム命令を実行する際に、
収集期間中に受信した入力信号に基づいて、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を計算し、
前記収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定し、
その後、所定のインターバルにわたって前記電極対の間に駆動信号を印加し、前記所定のインターバルにわたって印加された前記駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、前記所定のインターバルにわたって測定された前記BECI値に関連するピーク間値を測定し、前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および測定された前記BECI値に関連する前記ピーク間値の組み合わせを利用して、前記電極の前記接触状態を決定することによって、接触状態を決定するように構成された、プロセッサと、
を備える、システム。
【請求項15】
前記プロセッサが、判断された前記接触状態をディスプレイに出力する、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定するステップは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定された前記BECI値にフィルタを適用することをさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
前記所定のインターバルにわたって測定された前記BECI値に関連するピーク間BECI値を測定するステップは、前記所定のインターバルにわたって測定されたBECI値における最大の正の偏差を計算することをさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項18】
前記ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するステップは、
測定された前記BECI値の前記ベースラインBECI値に対する比率を表す比率値を計算することと、
前記比率値または前記ピーク間BECI値の少なくとも一方をスケーリングし、前記比率値と前記ピーク間BECI値との比較を可能にすることと、
そのようにスケーリングされた前記比率値と前記ピーク間値の最大値として変数を定義することと、
前記変数を1つまたは複数の閾値と比較し、接触状態を決定することと、
をさらに含む、請求項14に記載のシステム。
【請求項19】
前記ベースラインBECI値、測定された前記BECI値、および前記ピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するステップは、
を適用することをさらに含み、ここで、Dは接触変数であり、Mは測定された前記BECI値であり、M
B前記はベースラインBECI値であり、PPは前記所定のインターバルの間に計算された前記ピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vは前記ピーク間BECI測定値をM/M
Bで定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である、請求項14に記載のシステム。
【請求項20】
前記接触変数が、前記接触状態を決定するために1つまたは複数の閾値と比較され、前記接触変数が第1の閾値より小さい場合、「接触なし」ステータスが割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合、「断続的接触」ステータスが割り当てられ、前記第2の閾値より大きい場合、「良好な接触」ステータスが割り当てられる、請求項19に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、医療機器およびシステムならびに測定されたインピーダンスに基づいて医療機器の電極と隣接組織との接触を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは人体内での多くの操作に利用されている。このような用途の多くでは、周囲の組織からデータを収集する場合であれ、治療を行う場合であれ、カテーテル、特にデータを収集する電極または治療を行う電極と、隣接する組織との近接度を判断することが重要である。この判断をするため、例えば心電図信号(例えば電極間で測定される電圧)および/または電極のインピーダンスのモニタリングなど、多くの方法が利用される。例えば、インピーダンスは一般に、組織との接触に応じて増加すると理解されている。しかし、体内の電極の位置(すなわち、異なる心室では異なる量の血流にさらされ、異なるインピーダンス値を示す可能性がある)や、例えば心拍に由来する周囲の組織の動きを含む、多くの他の要因もまた、インピーダンスの変動をもたらす可能性がある。これらの要因により、生の電極インピーダンス測定値に頼ることは困難である。したがって、このようなインピーダンス測定値に基づいて、より確実に接触を検出する方法を開発することは有益であるだろう。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
いくつかの態様によれば、電極の接触状態を判断する方法は、電極対の間に駆動信号を印加することと、収集期間にわたって、駆動信号に応答して生成されたバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を測定することと、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することと、を含む。方法はさらに、接触状態を、一定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加することと、駆動信号に応答して生成されるBECI値を測定することと、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定することと、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせに基づいて、接触状態を判断することと、によって電極の接触状態を判断することを含む。
【0004】
別の態様によれば、患者に挿入するように構成された医療機器と共に使用するためのシステムは、医療機器に配置された1対または複数対の電極に駆動信号を印加するように構成された信号発生器と、駆動信号に対する電極対の応答を測定するように構成された測定回路と、接触評価モジュールを備える。接触評価モジュールは、電極対の各々についてバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を生成し、収集期間中に測定された最小BECI値を表すベースラインBECI値を決定し、続いて所定のインターバルにわたって印加された駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するように構成される。システムは、接触評価モジュールから受信した出力に基づいて、組織に対する電極の近接度を表示するためのディスプレイと、をさらに備える。
【0005】
別の態様によれば、医療器具の遠位端に位置する電極対の一部として含まれる電極の接触状態を判断するための接触評価システムは、電極対に印加されたソース信号に応答して収集された信号を受信するように構成された入力部と、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された特定のプログラム命令の実行の際、作動するプロセッサを含む。特定のプログラム命令の実行により、プロセッサは、収集期間中に受信した入力信号に基づいて、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を計算し、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定し、その後、所定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加することによって電極の接触状態を判断する。プロセッサは、所定のインターバルにわたって印加された駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせを利用して、電極の接触状態を判断する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、いくつかの実施形態による、患者内に挿入するための医療機器を含むシステムの図式的描写であり、このシステムは、医療機器の遠位端に位置する1つまたは複数の電極の近接度または接触状態を判断するために、測定された電極間のバイポーラ電極複合インピーダンスを利用するように構成される。
【0007】
【
図2】
図2は、いくつかの実施形態による、複数のスプラインおよび各スプライン上に配置された複数の電極を有する医療機器の遠位端の図式的描写である。
【0008】
【
図3】
図3は、いくつかの実施形態による、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)測定を使用して、医療機器に配置された電極の接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。
【0009】
【
図4】
図4は、いくつかの実施形態による、BECIベースライン値、測定されたBECI値、およびピーク間BECI値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。
【0010】
【
図5】
図5は、いくつかの実施形態による、BECIベースライン値、測定されたBECI値、およびピーク間BECI値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。
【0011】
【
図6】
図6は、いくつかの実施形態による、医療機器に配置された2つの電極間のインピーダンスを測定するために利用されるコンポーネントの図式的描写である。
【0012】
【
図7】
図7は、いくつかの実施形態による、平面内に配置された電極のアレイを有する医療機器の遠位端の図示的描写である。
【0013】
【
図8】
図8は、いくつかの実施形態による、1つまたは複数の電極を保持するための複数のスプラインを有する医療機器の遠位端の図示的描写である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
いくつかの実施形態によれば、特許請求される発明は、組織に対する一対の電極の近接度または接触状態を判断するために、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)測定値を利用する。特許請求される発明は、(電極が組織と接触していないときのBECIを表す)ベースラインBECI値と測定されたBECI値の比を、所定のインターバル(例えば、1秒)に対応するピーク間測定BECI値と組み合わせて利用し、接触を判断する。
【0015】
図1は、医療機器102およびローカルシステム103を含むシステム100の図式的描写である。いくつかの実施形態では、ローカルシステム103は、スイッチ108と、デジタル-アナログ(D to A)変換器110と、フィルタ112と、アナログ-デジタル(A to D)変換器114と、フィルタ116と、ディスプレイ130と、電子制御ユニット(ECU)118であって、信号源120と、同期復調回路122と、接触評価モジュール124と、メモリ126と、プロセッサ128とを含み得る電子制御ユニット(ECU)118と、を含む。いくつかの実施形態では、1つまたは複数の表面パッチ電極105が患者の皮膚に取り付けられてもよい。
【0016】
いくつかの実施形態では、医療機器102は、診断および/または治療用カテーテル、イントロデューサ、シース、または他の同様のタイプの機器などの、細長い医療機器である。医療機器102は、遠位端104と、近位端(図示せず)であって、技術者によって操作されるハンドル、および医療機器102をローカルシステム103にインターフェース接続するためのインターフェースを含む、近位端とを含む。遠位端104は、患者内における遠位端104の位置特定/ナビゲーション、患者内における生理学的パラメータのマッピング、および治療の提供のための様々なセンサおよび/またはコンポーネントを含んでいてもよい。特に、医療機器の遠位端104は、これらの目的の1つまたは複数に利用され得る複数の電極を含む。
【0017】
医療機器102の遠位端104に位置する1つまたは複数の電極の接触状態は、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)測定値に基づいて判断される。一般に、BECI測定値は、バイポーラ対を形成する2つの電極間で励起信号を駆動することによって生成される。その結果生じる各電極における電圧が測定され、複合インピーダンス信号を導出するために利用される。接触評価モジュール124は、測定されたBECI測定値を利用して、
図3~5に示されるステップに関してより詳細に説明されるように、接触状態を判断する。いくつかの実施形態では、「接触状態」という用語は、電極が組織と「接触している」か「接触していない」かの二値判断である。他の実施形態では、「接触状態」という用語は、「断続的接触」のような追加の接触状態を含んでいてもよい。さらに他の実施形態では、「接触状態」という用語は、隣接組織に対する電極の近接度を表してもよい。
【0018】
図1に示す実施形態では、信号源120が励起信号を生成するために利用される。いくつかの実施形態では、信号源120は、それぞれ固有の周波数で1つまたは複数の励起信号または駆動信号を生成する。より具体的には、信号発生器120は、一実施形態において、約1kHzから500kHzより上の範囲内、より典型的には約2kHzから200kHzの範囲内、さらに典型的には約10kHzから約20kHzの範囲内の固有の周波数を有する複数の励起信号または駆動信号を生成してもよい。駆動信号はそれぞれ、一実施形態において、典型的には1~200μAの範囲内、より典型的には約5μAの定電流を有してよい。信号発生器120はまた、例えば、マッピング、ナビゲーション、および/または治療の提供のために利用され得る、患者の体内における電極の位置の決定に関与する信号を発生し得る。信号源120によって生成されたデジタル信号は、D-to-A変換器110によってアナログ信号に変換され、フィルタ112およびスイッチ108を介して、選択されたバイポーラ電極に供給される。選択されたバイポーラ電極間に供給されたアナログ信号に応答して、結果として生じる電圧が、スイッチ108、フィルタ116、A-to-D変換器114、同期復調回路122によって電極対において測定される。いくつかの実施形態では、スイッチ108は、供給される励起信号または駆動信号に応答して、モニタリングする電極を選択する。フィルタ116およびA-to-D変換器114は、アナログ信号をECU118が操作可能なデジタル信号に変換する。同期復調回路122は、励振信号または駆動信号の周波数に基づいて信号を互いに分離し、電極対に供給される複数の励振信号または駆動信号に基づいて複数のバイポーラ電極対をほぼ同時に解析できるようにする。
【0019】
いくつかの実施形態では、メモリ126は、医療機器102、患者、および/または他のデータ(例えば、較正データ)のそれぞれのデータを記憶するように構成されてもよい。このようなデータは、医療処置の前に既知であってもよいし(医療機器固有のデータ、カテーテル電極の数など)、処置中に決定されて記憶されてもよい。メモリ126はまた、プロセッサ128および/または接触評価モジュール124によって実行される時に、本明細書に記載される1つまたは複数の方法、ステップ、機能、またはアルゴリズムをECU118に実行させる命令を記憶するように構成されてもよい。例えば、限定するものではないが、メモリ126は、医療機器102の1つまたは複数の電極のそれぞれのインピーダンス(例えば、バイポーラ電極複合インピーダンスまたはBECI測定値)を決定し、1つまたは複数の電極の接触状態を判断するためにインピーダンス測定値を利用するためのデータおよび命令を含んでいてもよい。いくつかの実施形態では、接触評価モジュール124は、メモリ126に格納された命令を実行するプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)、または他のタイプのプロセッサを利用して、
図3~5に記載された機能を実行する。ECUは、ディスプレイ130に接続されてもよく、これは、感知された組織(例えば、心臓)、医療機器(図示せず)、および/または医療機器102の1つまたは複数の電極の判断された接触状態の出力を表示してもよい。
【0020】
図2は、いくつかの実施形態による、複数のスプラインおよび心臓組織に隣接して配置された各スプライン上に配置された複数の電極204a、204bを有する医療機器200の遠位端202の図式的描写である。
図2に示す実施形態では、電極204a、204bはバイポーラ電極対を形成する。BECI測定値は、電極204aおよび204bに励起信号を供給することによって生成され、その結果、破線の矢印208a、208bによって示されるように、電極204aおよび204bの間を電流が流れる。電流208a、208bの少なくとも一部が電極と組織の界面において患者組織206を流れることにより、駆動信号に対する電極応答の誘導効果、容量効果、および抵抗効果に影響を与える。すなわち、組織接触は電極204a、204bのインピーダンス測定値に影響を与える。一般に、電極204a、204bが組織206と接触していない場合、回路は患者の血液プール内に形成され、血液プール内に形成される導電経路のためにBECI測定値は低下する。
図2に示すように、回路経路が組織206を含む場合、BECI測定値は、血液プール内で行われた測定値と比較して、組織206の高いインピーダンスを反映して増加する。
図3~5に関してより詳細に説明するように、BECI測定値は、電極の組織接触状態を判断するために利用される。いくつかの実施形態において、接触状態は、接触していることまたは接触していないことの判断を含み得る。他の実施形態では、接触状態は、断続的な接触などの他の接触状態、または接触状態の範囲を含んでもよい。
【0021】
他の実施形態では、医療機器の遠位端は、複数の異なる形状および/または設計を組み込むことができる。いくつかの実施形態では、医療機器の遠位端は、
図7により詳細に示される電極のグリッド状アレイである。他の実施形態では、医療機器の遠位端は複数のスプラインを含むが、各スプラインは
図8に示すように単一の電極のみを含む。この実施形態では、隣接するスプライン上に位置する電極間にバイポーラ電極対が形成される。他の実施形態では、医療機器の遠位端は湾曲しているか、またはループ状であってもよく、遠位端に沿って間隔をあけて複数の電極が配置される。同様に、様々な異なるタイプ、形状、およびサイズの電極が、医療機器の遠位端において利用されてもよい。
【0022】
図3は、いくつかの実施形態によるバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)測定値を使用して、医療機器上に配置された電極の接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。BECI測定値は、実数部分と虚数(直交)部分の両方を含む。いくつかの実施形態では、BECI測定は実数部分と虚数部分の両方を利用する。他の実施形態では、BECI測定値の実数部分のみが利用される。簡素性のため、実数部分(例えば、大きさ)のみで構成されるBECI測定値を参照する。しかしながら、他の実施形態では、BECI測定値は実数部分および虚数部分の両方を含み得ることが理解されるべきである。ステップ302で、医療機器は患者の体腔内に配置される。例えば、心臓への用途では、医療機器を患者の心臓内、より具体的には患者の心室のうちの1つに位置決めすることが含まれ得る。
【0023】
ステップ306および308で、ベースラインBECIの大きさが各電極について決定される。理想的には、ベースラインBECIの大きさは、血液プールに位置し、組織と接触していないときの電極のインピーダンスを表す。いくつかの実施形態では、ステップ306で、収集期間中に各電極について複数のBECI測定値が収集される。一般に、収集期間中に記録された最も低いBECI測定値は、電極が組織と接触していないときの電極インピーダンスを表す。したがって、ステップ308で、ベースラインBECI値M
Bが、収集期間中に測定された最小の大きさとして決定される。後に明らかになるように、各電極についてベースラインBECI値M
Bを決定する利点の1つは、各個々の電極についてベースラインBECI値M
Bを決定することによって、電極間のサイズ、形状などの違いに起因するインピーダンスの違いが説明されることである。例えば、
図2を参照すると、ベースラインBECI値M
Bが電極204aについて決定され、別のベースラインBECI値M
Bが電極204bについて決定される。いくつかの実施形態では、外科医は、電極が組織と接触していない各電極についてベースライン測定値を確実に確立できるように、医療機器の遠位端を患者の体腔内で移動させるように指示されてもよい。
【0024】
ステップ310では、各電極についてベースラインBECI値MBを決定した後、1つまたは複数の電極でBECI値が測定される。いくつかの実施形態では、BECI値は、所定のインターバルまたはウィンドウ(例えば、1秒)にわたって収集される。いくつかの実施形態において、所定のインターバルまたはウィンドウにわたって収集されたBECI値は、メモリ126に記憶される。例えば、メモリ126は、古い測定値が新しい測定値で再書き込みされる循環キューを実装してもよい。他の実施形態では、所定のインターバル中にBECI値を収集し格納するために、他のデータ構造が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、所定のインターバルの持続時間は約1秒に等しいが、用途によってはそれより短くても長くてもよい。
【0025】
ステップ312において、所定のインターバルにわたって収集されたBECI値は、所定のインターバル内に所定の電極について収集された最大BECI値と最小BECIとの間の測定された差を表すピーク間BECI値(PP)を計算するために利用される。いくつかの実施形態では、ピーク間BECI値は、増加するピーク間BECI値として計算され、測定された差は、所定の電極について測定されたBECI値の計算された増加である。最大増加ピーク間BECI値の場合、測定されたBECI値が所定のインターバルにわたって減少すると、ピーク間BECI値はゼロになるであろう。逆に、測定されたBECI値が所定のインターバルにわたって増加した場合、ピーク間BECI値は、そのインターバル中に測定された最小BECI値と最大BECI値の差となるであろう。より詳細に後述するように、ピーク間BECI値は、接触状態を判断するために、ベースラインBECIの大きさおよび測定されたBECIの大きさ(すなわち、最も直近に測定されたBECI値)と組み合わせて利用される。いくつかの実施形態において、大きなピーク間BECI値は、電極に対する(少なくとも)断続的な組織接触を示す。いくつかの実施形態において、ピーク間BECI値を増加するピーク間BECI値に制限することは、組織との接触を失うこと-この場合、電極が組織との接触から血液プールとの接触に移ることに応じて、測定されたBECI値が減少する可能性が高い-が、組織との接触と解釈されることを防止するのに有益である。すなわち、電極が隣接組織との接触を失った場合、ピーク間BECI値は、測定されたBECI値の減少する大きさを含まず、組織との接触、または断続的な接触さえ示すと解釈されることが好ましい。ピーク間BECI値を決定するために増加するBECI値を利用することは、血液プールから隣接組織とのあるレベルの接触まで移動する電極が、組織との少なくともあるレベルの接触を示すと解釈されることを確実にする。
【0026】
ステップ314で、各電極について、ベースラインBECIの大きさM
B、現在のBECIの大きさM、および所定のインターバルにわたるピーク間BECI値PPの組み合わせに基づいて、接触状態が判断される。これらの値の様々な組み合わせが利用されてもよく、その一つが
図4に記載されている。一般に、現在のBECIの大きさMは、接触状態を決定する1つの要因として、ベースラインBECIの大きさM
Bと比較され、これらは比率として互いに関連することもある。さらに、ピーク間BECI値は、接触状態を判断するために利用できる別の要因を提供する。ベースラインBECIの大きさ、現在のBECIの大きさ、およびピーク間BECIの大きさの組合せを利用することで、バイポーラ電極複合インピーダンス測定値に基づいて、接触状態がより確実に判断される。
【0027】
ステップ316では、複数の電極の各々の接触状態が、(例えばディスプレイ130を介して)技術者/医師に表示される。いくつかの実施形態では、様々な程度の接触状態(例えば、接触なし、断続的接触、接触中)を表示するためのグラフィカルユーザインタフェースが提供される。
【0028】
図4は、いくつかの実施形態による接触変数Dを決定するために、BECIベースライン値、測定されたBECI値、およびピーク間BECI値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。ステップ402において、ベースラインバイポーラインピーダンス複合インピーダンス(BECI)値が各電極について計算される。上述したように、いくつかの実施形態では、各電極のベースラインBECI値は、電極に関連するBECI値を収集期間にわたってモニタリングし、最小値をベースラインBECI値として選択することによって決定される。いくつかの実施形態において、BECI値は、異常に低いBECI値をもたらす電極間の瞬間的な接触がベースラインBECI値として利用されないようにフィルタリングされる。
【0029】
ステップ404において、BECIの大きさが、所定のインターバルにわたって各電極について測定される。
図3に関して上述したように、いくつかの実施形態において、所定のインターバルまたはウィンドウにわたって収集されたBECI値は、メモリ126に格納される。例えば、メモリ126は、古い測定値が新しい測定値で再書き込みされる循環キューを実装してもよい。他の実施形態では、所定のインターバル中にBECI値を収集し記憶するために、他のデータ構造が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、所定のインターバルの持続時間は約1秒に等しいが、用途によってはそれより短くてもまたはそれより長くてもよい。
【0030】
ステップ406において、接触変数Dが、ベースラインBECIの大きさ、現在のBECI測定値、およびピーク間BECI測定値の組み合わせに基づいて、各電極について計算される。いくつかの実施形態において、ピーク間BECI測定値は、所定のインターバル中に収集された最大BECI値と最小BECI値との間の差である。上述したように、いくつかの実施形態において、ピーク間BECI測定値は、増加するピーク間BECI測定値であり、所定のインターバルの間にBECI測定値が振幅において減少する場合、ピーク間BECI測定値は、所定のインターバルの間の最大BECI値と最小BECI値との間の差にもかかわらずゼロになるであろう。
【0031】
図4に示す実施形態では、接触変数Dは式1のように計算される:
【数1】
ここで、Mは所定の電極について測定された現在のBECIの大きさであり、M
Bは所定の電極について計算されたベースラインBECI値であり、PPは所定のインターバル中に計算されたピーク間BECI測定値であり、PP
Cは上限または最大ピーク間BECI測定値であり、S
Vはピーク間BECI測定値をM/M
Bで定義された比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である。この実施形態では、M/M
Bという用語は比率値と呼ばれ、ベースラインBECIの大きさM
Bが適切に選択された場合、電極が組織と接触していないときはほぼ「1」に等しく、電極が組織と接触して現在のBECI測定値が増加するにつれて大きさが増加するはずである。同様に、ピーク間BECI測定値PPは、所定のインターバル中に測定されたBECI測定値に変化がない(または負の偏差のみの)場合はゼロであり、上限ピーク間値PP
Cによって定義される最大値まで増加する。ピーク間値のBECI測定値は、電極が血液プールから組織との接触に移ることに応答して増加する。この実施形態では、接触変数Dは、項M/M
BとS
V*min(PP,PP
C)の間の最大値に等しく設定される。いくつかの実施形態では、スケーリング変数S
Vは、(T
1-1.0)/PP
bに等しく設定され、ここで、T
1は組織との接触を示すために利用される閾値であり、PP
bは、少なくとも断続的な接触を示すであろうベースピーク間値である(すなわち、PP
bより大きいいかなるピーク間値PPも、少なくとも断続的な接触を示すであろう)。
【0032】
ステップ408で、接触変数Dは、複数の電極のそれぞれの接触状態を判断するために、1つまたは複数の閾値と比較される。いくつかの実施形態では、単一の閾値のみが必要である。接触変数Dが閾値より小さい場合、電極は「接触なし」のステータスが割り当てられる。接触変数Dが閾値より大きい場合、電極は「接触中」のステータスを割り当てられる。一般的に、閾値は「1」より大きく、分析される機器の種類(または電極の種類)に基づいて変化する可能性がある。他の実施形態では、複数の閾値が利用されてもよく、各閾値は異なる接触レベルを示す。例えば、いくつかの実施形態では、接触変数Dが第一の閾値T1より小さい場合、電極に「接触なし」のステータスが割り当てられる。接触変数Dが第一の閾値より大きければ、「断続的接触」ステータスが電極に割り当てられ、接触変数Dが第2の閾値T2より大きければ、「接触中」ステータスが電極に割り当てられる。他の実施形態では、電極と組織の間の様々な接触段階をさらに詳しく説明するために、さらなる閾値が利用されてもよい。
【0033】
ステップ410では、複数の電極のそれぞれについて接触状態が表示される。いくつかの実施形態では、表示は、割り当てられた接触状態に基づいて電極を色づけすることを含んでもよい。他の実施形態では、各電極の接触状態を示す他の様々な手段が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、接触状態は、所定のサンプル数にわたる接触変数Dの移動平均として表示される。例えば、いくつかの実施形態では、接触変数Dは、接触変数Dの突然の変化を滑らかにするために、25サンプル(例えば、1秒)にわたって平均化される。いくつかの実施形態では、接触変数を平均化するために使用されるサンプル数は変更することができる。例えば、サンプル数を減らせば、(接触変数のジッタが増えるという代償を払って)接触変数の応答性が高まり、サンプル数を増やせば、より安定した接触評価が得られるが、接触状態の変化に対する応答性が遅くなるという代償を払うことになる。
【0034】
図5は、別の実施形態による、BECIベースライン値、測定されたBECI値、およびピーク間BECI値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するために利用されるステップを示すフローチャートである。ステップ502において、ベースラインバイポーラインピーダンス複合インピーダンス(BECI)値が各電極について計算される。上述のように、いくつかの実施形態では、各電極のベースラインBECI値は、収集期間にわたって電極に関連するBECI値をモニタリングし、最小値をベースラインBECI値として選択することによって決定される。いくつかの実施形態において、BECI値は、異常に低いBECI値をもたらす電極間の瞬間的な接触がベースラインBECI値として利用されないように、フィルタリングされる。
【0035】
ステップ504で、BECIの大きさが、所定のインターバルにわたって各電極について測定される。
図3および
図4に関して上述したように、いくつかの実施形態において、所定のインターバルまたはウィンドウにわたって収集されたBECI値は、メモリ126に格納される。例えば、メモリ126は、古い測定値が新しい測定値で再書き込みされる循環キューを実装してもよい。他の実施形態では、所定のインターバル中にBECI値を収集し格納するために、他のデータ構造が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、所定のインターバルの持続時間は約1秒に等しいが、用途によってはそれより短くても長くてもよい。
【0036】
ステップ506で、測定されたそれぞれの新しいBECIの大きさMについて、最小BECI値Mminが、過去のWMのサンプルから選択される。いくつかの実施形態において、サンプルWMの数は、所定のインターバルの長さに対応する。他の実施形態では、サンプルWMの数は、所定のインターバルとは無関係である。
【0037】
ステップ508で、最小BECI値M
minが閾値T
Mと比較され、ここでT
MはM
min値であって、これより下では「しっかり接触」が絶対的に禁止される値を表す。その結果、ステップ508での比較は、過去のW
Mサンプルにおいて測定されたBECI値に、過去W
Mのサンプルの間に、電極が組織と「しっかり接触」していなかったことを示す値が割り当てられたかどうかを判断する。最小BECI値M
minが閾値T
Mよりも小さい場合、ステップ510でBECI値M
Nが次式に基づいて計算される:
【数2】
ここで、Mは現在のBECI測定値、M
BはベースラインBECI測定値、T
2は接触変数Dと比較した閾値で、それより上には「しっかり接触」が割り当てられ、M
minは過去のW
Mサンプルから選択された最小BECI測定値、T
MはM
min値で、それより下では「しっかり接触」が禁止される。このようにして、比率値(M/M
B)と閾値T
2の間の最小値が選択され、その結果得られた最小値に項M
min/T
Mが乗じられ、この定義は1より小さくなければならず、したがって、それぞれの項M/M
BとT
2との間の選択された最小値を減少させる。ステップ510でのこの選択は、少なくとも最近の断続的な接触を示す最小BECIの大きさM
minに基づき、現在のBECIの大きさMが、第2の閾値T
2よりも大きい値までM
Nの計算を支配することを防ぐ(ここで、第2の閾値T
2よりも大きい接触値Dは「しっかり接触」を示す)。逆に、ステップ508で最小BECI値M
minが閾値T
Mより大きい場合、ステップ512でBECI値M
Nが次式に基づいて計算される:
【数3】
M
MIN<T
Mの場合に選択される式2とは対照的に、式3は比率値M/M
Bと閾値T
2の間の最小値を選択しない。項M
minは過去W
Mサイクルにおける断続的な接触を示さなかったので、比率値M/M
Bは閾値T
2によって定義される上限値に制限されず、したがって電極が組織と接触している可能性がより高いことに基づいて、より高い値を割り当てることができる。このように、
図5に示す実施形態は、BECI値M
Nを修正するために、特に、最小BECI値M
minがしっかりとした接触が不可能であることを示す場合、BECI値M
Nの最大値に上限を設定することによって、最小BECI値M
minを利用する。最後のW
Mサイクルで測定された最小BECI値M
minと、ステップ510または512でM/M
Bによって定義された比率値に基づいてBECI値M
Nを定義した後、ステップ514、518、および522で、接触値Dを選択するために、ピーク間BECI値PPが様々な閾値と比較される。
【0038】
ステップ514において、ピーク間BECI値PPは、閾値PPGと比較され、PPGはピーク間値であり、これ以下では「接触なし」が絶対確実である値である。測定されたピーク間BECI値PPが閾値PPG未満であり、測定されたピーク間BECI値がいかなる接触も示さないことを示す場合、ステップ516において、接触値Dは、MNの最小値および閾値T1に等しく設定される。このようにして、ピーク間値PPが接触の可能性が低いことを示す場合、接触値Dは閾値T1によって定義される上限が割り当てられ、T1未満の接触値Dは接触がないことを示す。
【0039】
ピーク間値PPがPPGより大きい場合、ステップ518において、ピーク間値PPは閾値PPFと比較され、閾値PPFは、それより上では「接触なし」が絶対的に禁じられるか不可能となるPP値(すなわち、組織との少なくとも断続的な接触を示すピーク間値)である。ピーク間値PPが閾値PPFよりも大きい場合、ステップ520において、接触値DはBECI値MNの最大値と閾値T1が割り当てられる。このように、ピーク間値PPが、少なくとも何らかの接触の可能性があることを示す場合、接触値Dは、閾値T1によって定義されるフロアによって制約され(すなわち、接触値Dには、閾値T1より低い値を割り当てることはできない)、少なくともT1の接触値Dは少なくとも何等かの断続的な接触を示す。
【0040】
ピーク間値PPがステップ514で閾値PP
Gよりも大きいが、ステップ518で閾値PP
Fよりも小さい場合、ピーク間値PPが特定の接触がないことまたは特定の接触を示さないことを示し、ステップ522で式に基づいて接触値Dに値が割り当てられる:
【数4】
ここで、
【数5】
【0041】
このように、項αは、閾値PPG、PPFに対するピーク間BECIの大きさを表す。例えば、ピーク間値PPがPP上限閾値PPFにほぼ等しい場合、αの値は「1」に近づき、項「max(MN,T1)」の影響を増加させ、第2項「min(MN,T1)」の影響を少なくする。逆に、ピーク間値PPがPP下限閾値PPGにほぼ等しい場合、αの値は「0」に近づき、第2項「min(MN,T1)」の影響を増加させる一方、第1項「max(MN,T1)」の影響を少なくする。
【0042】
ステップ524で、接触値Dが閾値T1、T2と比較され、接触状態が判断される(例えば、D<T1=接触なし、D≦T2=断続的接触、D>T2=しっかり接触)。
【0043】
ステップ526では、複数の電極の各々について接触状態が表示される。上述したように、いくつかの実施形態において、表示は、割り当てられた接触状態に基づいて電極を色づけすることを含み得る。他の実施形態では、各電極の接触状態を示す他の様々な手段が利用されてもよい。いくつかの実施形態では、接触状態は、所定のサンプル数にわたる接触変数Dの移動平均として表示される。例えば、いくつかの実施形態では、接触変数Dは、接触変数Dの突然の変動を滑らかにするために、25サンプル(例えば、1秒)にわたって平均化される。いくつかの実施形態では、接触変数を平均化するために使用されるサンプルの数は変更可能である。例えば、サンプル数を減らせば、接触変数の応答性が(接触変数のジッタが増えるという代償を払って)高まり、サンプル数を増やせば、より安定した接触評価が得られるが、接触状態の変化に対する応答性が遅くなるという代償を払うことになる。
【0044】
図6は、いくつかの実施形態による、電極のバイポーラ対を励起し、結果として生じる複合インピーダンスを測定するために利用される回路要素を示す回路図である。特に、回路図は、信号源120(
図1に示す)、一対の電極204a、204b(
図2に示す)、第1および第2のオペアンプ602a、602b、およびECU118(同じく
図1に示す)を含む。いくつかの実施形態では、信号源120は、第1および第2の電極204a、204bに供給される励起信号を生成する。第1のオペアンプ602aは、第1の電極204aに接続された第1の端子(例えば、正端子)と、基準電極105(例えば、表面電極)に接続された第2の端子(例えば、負端子)とを含む。オペアンプ602aの出力は、第1の電極204aと基準電極105との間の電圧の差を反映する。第2のオペアンプ602bは、第2の電極204bに接続された第1の端子(例えば、正端子)と、基準電極105(例えば、表面電極)に接続された第2の端子(例えば、負端子)とを含む。オペアンプ602bの出力は、第2電極204bと基準電極105との間の電圧の差を反映する。第1のオペアンプ602aおよび第2のオペアンプ602bのそれぞれの出力はECU118に供給され、ECU118はそれぞれの測定値を利用してバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)を決定する。
【0045】
図7は、グリッドアレイカテーテル700の上面図である。いくつかの実施形態では、グリッドアレイカテーテル700は、シャフト702、シャフト電極704aおよび704b、近位端706、複数のスプライン708a、708b、708c、708d、遠位端710、および複数のスプライン電極712を備える。いくつかの実施形態において、バイポーラ電極複合インピーダンス測定値は、隣接する電極の任意の対の間で測定されてもよい。例えば、BECI測定値は、シャフト電極704a、704bの間で測定されてもよい。他の実施形態では、BECI測定値は、任意の対のスプライン電極712の間で測定されてもよく、複数の電極704、712の隣接組織への接触状態または近接度を評価するために、
図3~5に関して説明した方法が利用されてもよい。
【0046】
図8は、バスケットカテーテル800の等角図である。いくつかの実施形態において、バスケットカテーテル800は、シャフト802、近位端804、遠位端806、および近位端804と遠位端806との間に延びる複数のスプライン810a~810fを備える。複数のスプライン810a~810fの各々は、対応する電極812a~812fを含む。いくつかの実施形態において、BECI測定値は、電極812aと電極812bとの間、または電極812cと電極812dとの間など、隣接する電極の対の間で測定されてもよく、
図3~5に関して記載された方法は、電極の各々の隣接する組織に対する接触状態または近接度を評価するために利用されてもよい。
【0047】
本発明を例示的な実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲を逸脱することなく、様々な変更を加えることができ、その要素に等価物を代用することができることが、当業者には理解されるであろう。さらに、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、特定の状況または材料を本発明の教示に適合させるために、多くの変更を加えることができる。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲に属するすべての実施形態を含むことが意図される。
【0048】
考えられる実施形態の検討
以下は、本発明の、考えられる実施形態に関する非排他的な説明である。
【0049】
いくつかの態様によれば、電極の接触状態を判断する方法は、電極対の間に駆動信号を印加することと、収集期間にわたって、駆動信号に応答して生成されたバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を測定することと、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することと、を含む。方法はさらに、所定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加し、駆動信号に応答して生成されるBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせに基づいて、接触状態を判断することによって、電極の接触状態を判断することを含む。
【0050】
前段落の方法は、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、ステップ、構成、および/または追加のコンポーネントのいずれか1つまたは複数を含むことができる。
【0051】
例えば、BECI値は実数部分と直交部分とを含んでいてもよく、ベースラインBECI値、測定BECI値、およびピーク間値はすべてBECI値の大きさを表す。
【0052】
収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定することは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定されたBECI値にフィルタを適用することを含んでいてもよい。
【0053】
所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定することは、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値の最大の正の偏差を計算することを含んでいてもよい。
【0054】
ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断することは、さらに、測定されたBECI値のベースラインBECI値に対する比率を表す比率値を計算することと、比率値またはピーク間値の少なくとも一方をスケーリングし、比率値とピーク間値の比較を可能にすることと、そのようにスケーリングされた比率値とピーク間値の最大値として変数を定義することと、変数を1つまたは複数の閾値と比較し、接触状態を判断することと、を含み得る。
【0055】
ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断することは、
【数6】
を適用することをさらに含み、ここで、Dは接触変数であり、Mは測定されたBECI値であり、M
BはベースラインBECI値であり、PPは所定のインターバルの間に計算されたピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vはピーク間BECI測定値を、M/MB によって定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である。
【0056】
本方法は、接触変数を1つまたは複数の閾値と比較して接触状態を判断することをさらに含み、接触変数が第1の閾値より小さい場合は「接触なし」状態が割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合は「断続的接触」状態が割り当てられ、第2の閾値より大きい場合は「良好な接触」状態が割り当てられる。
【0057】
別の態様によれば、患者に挿入するように構成された医療機器と共に使用するためのシステムは、医療機器に配置された1対または複数対の電極に駆動信号を印加するように構成された信号発生器と、駆動信号に対する電極対の応答を測定するように構成された測定回路と、接触評価モジュールと、を備える。接触評価モジュールは、電極対の各々についてバイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を生成し、収集期間中に測定された最小BECI値を表すベースラインBECI値を決定し、続いて所定のインターバルにわたって印加された駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するように構成されている。システムはさらに、接触評価モジュールから受信した出力に基づいて、組織に対する電極の近接度を表示するためのディスプレイと、を備える。
【0058】
前段落のシステムは、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加のコンポーネントのいずれか1つまたは複数を任意に含むことができる。
【0059】
例えば、接触評価モジュールは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定されたBECI値にフィルタを適用することにより、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定してもよい。
【0060】
接触評価モジュールは、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値の最大の正の偏差を計算することにより、ピーク間値を測定してもよい。
【0061】
接触評価モジュールは、ベースラインBECI値に対する測定されたBECI値の比率を表す比率値を計算し、比率値とピーク間BECI値との比較を可能にするために、比率値またはピーク間BECI値の少なくとも一方をスケーリングし、そのようにスケーリングされた比率値およびピーク間値の最大値として変数を定義し、接触状態を判断するために変数を1つまたは複数の閾値と比較することにより、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断してもよい。
【0062】
接触評価モジュールは、
【数7】
に基づいて接触状態を判断してもよく、ここで、Dは接触変数であり、Mは測定されたBECI値であり、M
BはベースラインBECI値であり、PPは所定のインターバルの間に計算されたピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vはピーク間BECI測定値をM/M
Bで定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である。
【0063】
接触評価モジュールは、接触変数Dを1つまたは複数の閾値と比較して接触状態を判断してもよく、接触変数が第1の閾値より小さい場合は「接触なし」状態が割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合は「断続的接触」状態が割り当てられ、第2の閾値より大きい場合は「良好な接触」状態が割り当てられる。
【0064】
別の態様によれば、医療器具の遠位端に位置する電極対の一部として含まれる電極の接触状態を判断するための接触評価システムであって、システムは、電極対に印加されたソース信号に応答して収集された信号を受信するように構成された入力部と、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された特定のプログラム命令を実行する際に、作動するように構成されるプロセッサと、を含む。特定のプログラム命令の実行により、プロセッサは、収集期間中に受信した入力信号に基づいて、バイポーラ電極複合インピーダンス(BECI)値を計算し、収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定し、その後、所定のインターバルにわたって電極対の間に駆動信号を印加しすることによって接触状態を判断する。プロセッサは、所定のインターバルにわたって印加された駆動信号に応答して生成されたBECI値を測定し、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間値を測定し、ベースラインBECI値、測定されたBECI値、および測定されたBECI値に関連するピーク間値の組み合わせを利用して、電極の接触状態を決定する。
【0065】
前段落の接触評価システムは、任意選択で、追加的および/または代替的に、以下の特徴、構成、および/または追加のコンポーネントのいずれか1つまたは複数を含むことができる。
【0066】
例えば、プロセッサは、判断された接触状態をディスプレイに出力してもよい。
【0067】
収集期間中に測定された最小値を表すベースラインBECI値を決定するステップは、他の電極との接触に起因する誤った最小値をフィルタリングするために、測定されたBECI値にフィルタを適用することをさらに含んでいてもよい。
【0068】
所定のインターバルにわたって測定されたBECI値に関連するピーク間BECI値を測定するステップは、所定のインターバルにわたって測定されたBECI値における最大の正の偏差を計算することをさらに含んでいてもよい。
【0069】
ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するステップは、測定されたBECI値のベースラインBECI値に対する比率を表す比率値を計算することと、比率値またはピーク間BECI値の少なくとも一方をスケーリングし、比率値とピーク間BECI値との比較を可能にすることと、そのようにスケーリングされた比率値とピーク間値の最大値として変数を定義することと、変数を1つまたは複数の閾値と比較し、接触状態を決定することと、をさらに含んでいてもよい。
【0070】
ベースラインBECI値、測定されたBECI値、およびピーク間値の組み合わせに基づいて接触状態を判断するステップは、
【数8】
を適用することをさらに含んでいてもよく、ここで、Dは接触変数であり、Mは測定されたBECI値であり、M
BはベースラインBECI値であり、PPは所定のインターバルの間に計算されたピーク間値であり、PP
Cは上限または最大のピーク間BECI測定値であり、S
Vはピーク間BECI測定値をM/M
Bで定義される比率の基準フレームに適切にスケーリングするために選択されたスケーリング変数である。
【0071】
接触変数が、接触状態を決定するために1つまたは複数の閾値と比較されてもよく、接触変数が第1の閾値より小さい場合、「接触なし」ステータスが割り当てられ、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さい場合、「断続的接触」ステータスが割り当てられ、第2の閾値より大きい場合、「良好な接触」ステータスが割り当てられる。
【外国語明細書】