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特開2024-99481アシストガス制御装置、レーザ加工機及びアシストガス制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099481
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】アシストガス制御装置、レーザ加工機及びアシストガス制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20240718BHJP
   B23K 26/14 20140101ALI20240718BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/14
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215212
(22)【出願日】2023-12-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2023003101
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390014672
【氏名又は名称】株式会社アマダ
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100170575
【弁理士】
【氏名又は名称】森 太士
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】島田 悠太
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168AD07
4E168CB03
4E168DA24
4E168DA28
4E168EA17
4E168FB02
4E168FB03
(57)【要約】
【課題】早送り移動中に加工中と同じ量のアシストガスを消費することがなくなり、早送り移動中のアシストガスの消費量を低減することのできるアシストガス制御装置を提供する。
【解決手段】 アシストガス制御装置9は、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、移動時間と圧力指令値に基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、加工ヘッド5が加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を低減圧力指令値まで低下させ、加工ヘッド5が加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工機の加工ヘッドが加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御するアシストガス制御装置であって、
前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、
前記加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、
前記移動時間と前記圧力指令値に基づいて、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、
前記加工ヘッドが前記加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を前記低減圧力指令値まで低下させ、
前記加工ヘッドが前記加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させるアシストガス制御装置。
【請求項2】
前記移動時間と前記圧力指令値に基づいて、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定し、前記圧力指令値から前記圧力低減幅だけ低下させて前記低減圧力指令値を設定する請求項1に記載のアシストガス制御装置。
【請求項3】
前記移動時間の長さと前記圧力指令値の大きさとに応じて前記圧力低減幅が設定された圧力低減幅設定テーブルに基づいて、前記圧力低減幅を設定する請求項2に記載のアシストガス制御装置。
【請求項4】
前記圧力指令値と前記圧力低減幅に基づいて、前記圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する請求項3に記載のアシストガス制御装置。
【請求項5】
前記移動時間に基づいて、前記圧力指令値に対する圧力低減後の圧力の比である低減後圧力比を算出し、前記低減後圧力比と前記圧力指令値に基づいて前記圧力低減幅を設定する請求項2に記載のアシストガス制御装置。
【請求項6】
前記移動時間に基づいて、前記圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する請求項5に記載のアシストガス制御装置。
【請求項7】
前記移動時間と前記復帰時間の差分を算出して、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間を算出する請求項4または6に記載のアシストガス制御装置。
【請求項8】
前記圧力低減時間の最小値である最小低減時間を取得し、前記移動時間が前記最小低減時間と前記復帰時間との合計値未満である場合には、アシストガスの圧力を低下させる処理を実行しない請求項7に記載のアシストガス制御装置。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のアシストガス制御装置を備えたレーザ加工機。
【請求項10】
レーザ加工機の加工ヘッドが加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御するアシストガス制御装置のアシストガス制御方法であって、
前記アシストガス制御装置は、
前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、
前記加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、
前記移動時間と前記圧力指令値に基づいて、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、
前記加工ヘッドが前記加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を前記低減圧力指令値まで低下させ、
前記加工ヘッドが前記加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させるアシストガス制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシストガス制御装置、レーザ加工機及びアシストガス制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来では、タクトタイムを短縮するためのアシストガスの圧力制御方法が、特許文献1に開示されている。特許文献1に開示されたアシストガスの圧力制御方法では、ノズル口近傍のアシストガスの検出圧力値が目標圧力値となるようにアシストガスの圧力をフィードバック制御していた。このような従来のアシストガスの圧力制御方法では、加工点の間を早送り移動するときに、アシストガスの圧力を低下させてしまうと、復帰させるまでに時間がかかるので、移動後の加工点で加工を開始する前に待ち時間が発生してしまう。そこで、移動後の加工点で待ち時間が発生しないように、早送り移動開始時に移動後の加工点における圧力指令値に切り替えていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-251487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来のアシストガスの圧力制御方法では、加工点の間を早送り移動する間も移動後の加工点の圧力指令値でアシストガスを制御しているので、早送り移動中も加工中と同じ量のアシストガスを消費してしまうという問題点があった。特に、移動後の加工点における加工条件が高圧ガスで切断を行う場合には、早送り移動中に大量のアシストガスを消費し続けていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様に係るアシストガス制御装置は、レーザ加工機の加工ヘッドが加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御するアシストガス制御装置であって、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、前記加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、前記移動時間と前記圧力指令値に基づいて、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、前記加工ヘッドが前記加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を前記低減圧力指令値まで低下させ、前記加工ヘッドが前記加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させる。
【0006】
本発明の一態様に係るアシストガス制御方法は、レーザ加工機の加工ヘッドが加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御するアシストガス制御装置のアシストガス制御方法であって、前記アシストガス制御装置は、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、前記加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、前記移動時間と前記圧力指令値に基づいて、前記加工ヘッドが前記加工終了点から前記加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、前記加工ヘッドが前記加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を前記低減圧力指令値まで低下させ、前記加工ヘッドが前記加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を前記圧力指令値まで上昇させる。
【0007】
上述した構成のアシストガス制御装置及びその方法では、加工ヘッドが加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を低減圧力指令値まで低下させ、加工ヘッドが加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させる。したがって、早送り移動中に加工中と同じ量のアシストガスを消費することがなくなる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様に係るアシストガス制御装置及びその方法によれば、早送り移動中に加工中と同じ量のアシストガスを消費することがなくなるので、早送り移動中のアシストガスの消費量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置を備えたレーザ加工機の構成を示す図である。
図2図2は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置による加工点の間を加工ヘッドが移動する移動時間の算出方法を説明するための図である。
図3図3は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置による加工点の間を加工ヘッドが移動する移動時間の算出方法を説明するための図である。
図4図4は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置によって利用される圧力低減幅設定テーブルの一例を示す図である。
図5図5は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置によって利用される復帰時間設定テーブルの一例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置によるアシストガスの圧力制御方法を説明するための図である。
図7図7は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置によるアシストガスの圧力制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
図8図8は、第1実施形態に係るアシストガス制御装置によるアシストガスの圧力制御方法を説明するための図である。
図9図9は、低減後圧力比と圧力低減時間との関係を示す図である。
図10図10は、低減後圧力比と復帰時間との関係を示す図である。
図11図11は、第2実施形態に係るアシストガス制御装置によって利用される移動時間と低減後圧力比との関係を示す図である。
図12図12は、第2実施形態に係るアシストガス制御装置によって利用される移動時間と復帰時間との関係を示す図である。
図13図13は、第2実施形態に係るアシストガス制御装置によるアシストガスの圧力制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
図14図14は、変形例に係るアシストガス制御装置によるアシストガスの圧力制御方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[第1実施形態]
以下、本発明を適用した第1実施形態について図面を参照して説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0011】
[レーザ加工機の構成]
図1は、本実施形態に係るアシストガス制御装置を備えたレーザ加工機の構成を示す図である。図1に示すように、レーザ加工機1は、レーザ発振器3と、加工ヘッド5と、NC装置7と、アシストガス制御装置9と、サーボアンプ11と、サーボモータ13と、アシストガス供給器15と、電空レギュレータ17と、圧力計19とを備えている。
【0012】
本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、レーザ加工機1の加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御するアシストガス制御装置であって、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、移動時間と圧力指令値に基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定し、加工ヘッド5が加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を低減圧力指令値まで低下させ、加工ヘッド5が加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させる。
【0013】
レーザ加工機1は、図示していない移動機構によって加工ヘッド5を移動させ、金属製のワークに対してレーザ切断等のレーザ加工を行う。レーザ発振器3は、ファイバレーザ発振器又はYAGレーザ発振器などであり、レーザビームを発振して加工ヘッド5へ供給する。
【0014】
加工ヘッド5は、レーザ発振器3に伝送ファイバを介して接続され、レーザ発振器3から供給されたレーザビームをワークに向けて照射する。加工ヘッド5の内部には、レーザビームをコリメートするコリメートレンズ、及びコリメートされたレーザビームを集束する集束レンズが設けられている。
【0015】
NC(Numerical Control:数値制御)装置7は、レーザ加工機1の数値制御を行い、アシストガス制御装置9を搭載している。具体的に、NC装置7は、サーボアンプ11に制御目標値を出力して移動機構を駆動することによって加工ヘッド5を移動させる。また、NC装置7は、電空レギュレータ17に制御信号を出力してアシストガスの圧力を制御する。
【0016】
サーボアンプ11は、NC装置7から入力された制御目標値とサーボモータ13からのフィードバック信号とを比較して、加工ヘッド5がX、Y、Z軸方向(左右方向、前後方向、上下方向)に移動するようにサーボモータ13を駆動する。サーボモータ13は、サーボアンプ11の制御により移動機構を駆動する。また。サーボモータ13は、回転角度を検出するエンコーダが内蔵されているので、検出した回転角度をサーボアンプ11にフィードバックする。
【0017】
アシストガス供給器15は、窒素やアルゴン、酸素などのアシストガスを加工ヘッド5に供給する。電空レギュレータ17は、NC装置7からの制御信号によって内部のソレノイドバルブや比例制御バルブを動作させて、アシストガス供給器15から供給されたアシストガスの圧力を制御する。圧力計19は、加工ヘッド5に供給されるアシストガスの圧力を計測して、電空レギュレータ17に出力する。
【0018】
アシストガス制御装置9は、NC装置7に搭載され、レーザ加工機1の加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間のアシストガスの圧力を制御する。アシストガス制御装置9は、移動時間算出部21と、圧力低減幅設定部23と、復帰時間設定部25と、圧力制御部27とを備えている。
【0019】
移動時間算出部21は、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間の移動時間を算出する。加工ヘッド5が加工終了点から次の加工開始点へ移動する場合には、加工経路に沿ってレーザ加工を行いながら加工開始点から加工終了点へ移動する場合と比べて、加工ヘッド5の移動は早送りされる。この早送り移動時の加工ヘッド5の動作制御パターンには3種類ある。そこで、移動時間算出部21は、動作制御パターンに応じて移動時間の算出方法を切り替えている。
【0020】
まず、図2に示すように、加工ヘッド5が加工終了点からZ軸方向(上下方向)へ移動してからX、Y軸方向(左右方向、前後方向)へ移動する場合の移動時間の算出方法を説明する。移動時間算出部21は、X、Y軸方向の早送り移動時間Txyが、Z軸方向への上昇後に判るため、Z軸方向への上昇完了後に移動時間の算出を行う。このとき、Z軸方向への上昇移動時間Tz1と下降移動時間Tz2はほぼ等しいので、移動時間算出部21は、移動時間TをT=Txy+Tz1で算出する。
【0021】
また、図3に示すように、動作制御パターンには、加工ヘッド5が加工終了点からZ軸方向とX、Y軸方向に同時に移動する中速の動作制御パターン41がある。この場合には、Z軸方向への移動時間はX、Y軸方向への移動時間に含まれるので、移動時間算出部21は、移動時間TをT=Txyで算出する。さらに、加工ヘッド5が加工終了点からZ軸方向へ上昇せずに移動する高速の動作制御パターン43もある。この場合には、Z軸方向へ移動しないので、移動時間算出部21は、移動時間TをT=Txyで算出する。
【0022】
圧力低減幅設定部23は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。加工終了点から次の加工点へ移動する際に、アシストガスの切り替え時間を考慮して、圧力低減幅設定部23は、早送り移動を開始する前に次の加工開始点で必要となる圧力指令値を取得している。各加工点における圧力指令値は、NC装置7のメモリやデータベース等の記憶部に格納された加工条件に記録されているので、圧力低減幅設定部23は、NC装置7から次の加工開始点における圧力指令値を取得する。
【0023】
圧力低減幅設定部23は、圧力指令値を取得すると、取得した圧力指令値と、移動時間算出部21で算出した移動時間とに基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定する。この圧力低減幅は、取得した加工開始点の圧力指令値からの低減幅であり、加工終了点から次の加工開始点へ加工ヘッド5が移動する間に、アシストガスの圧力は10~30%低減される。
【0024】
さらに、圧力低減幅設定部23は、加工開始点の圧力指令値から圧力低減幅だけ低下させて低減圧力指令値を設定する。この低減圧力指令値は、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である。したがって、圧力低減幅設定部23は、移動時間と加工開始点の圧力指令値に基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定する。
【0025】
具体的に、圧力低減幅設定部23は、図4に示す圧力低減幅設定テーブルを用いて圧力低減幅を設定する。圧力低減幅設定テーブルは、移動時間の長さと圧力指令値の大きさとに応じて圧力低減幅が設定されている。すなわち、圧力低減幅設定部23は、移動時間の長さと圧力指令値の大きさとに応じて圧力低減幅が設定された圧力低減幅設定テーブルに基づいて、圧力低減幅を設定する。圧力低減幅設定テーブルは、アシストガス制御装置9のメモリに記録されている。
【0026】
図4に示すように、圧力低減幅設定テーブルでは、予め設定された閾値1と閾値2によって、圧力指令値が大、中、小に分類されている。同様に、予め設定された閾値3と閾値4によって、移動時間が大、中、小に分類されている。圧力低減幅設定部23は、取得した圧力指令値を、閾値1及び閾値2と比較して大、中、小のいずれに当てはまるかを判定する。同様に、圧力低減幅設定部23は、移動時間算出部21で算出した移動時間を、閾値3及び閾値4と比較して大、中、小のいずれに当てはまるかを判定する。その結果、圧力低減幅設定部23は、圧力指令値の大、中、小と、移動時間の大、中、小に応じて、圧力低減幅A~Iのいずれかを選択し、選択した圧力低減幅に設定する。圧力低減幅A~Iのうちで、圧力低減幅Aが最も大きく、例えば30%であり、圧力低減幅Iが最も小さく、例えば10%である。すなわち、圧力低減幅は、圧力指令値が大きくなるほど大きい値に設定され、移動時間が長くなるほど大きい値に設定される。
【0027】
復帰時間設定部25は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。そして、取得した圧力指令値と、圧力低減幅設定部23で設定された圧力低減幅に基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。
【0028】
具体的に、復帰時間設定部25は、図5に示す復帰時間設定テーブルを用いて復帰時間を設定する。復帰時間設定テーブルは、圧力低減幅の大きさと圧力指令値の大きさとに応じて復帰時間が設定されている。復帰時間設定テーブルは、アシストガス制御装置9のメモリに記録されている。
【0029】
図5に示すように、復帰時間設定テーブルでは、予め設定された閾値5と閾値6によって、圧力指令値が大、中、小に分類されている。同様に、予め設定された閾値7と閾値8によって、圧力低減幅が大、中、小に分類されている。ただし、閾値5、6は、図4の閾値1、2と同一であってもよい。復帰時間設定部25は、取得した圧力指令値を、閾値5及び閾値6と比較して大、中、小のいずれに当てはまるかを判定する。同様に、復帰時間設定部25は、圧力低減幅設定部23で設定された圧力低減幅を、閾値7及び閾値8と比較して大、中、小のいずれに当てはまるかを判定する。その結果、復帰時間設定部25は、圧力指令値の大、中、小と、圧力低減幅の大、中、小に応じて、復帰時間A~Iのいずれかを選択し、選択した復帰時間に設定する。復帰時間A~Iのうちで、復帰時間Aが最も大きく、復帰時間Iが最も小さい。すなわち、復帰時間は、圧力指令値が大きくなるほど大きい値に設定され、圧力低減幅が大きくなるほど大きい値に設定される。
【0030】
圧力制御部27は、移動時間算出部21で算出した移動時間と、復帰時間設定部25で設定された復帰時間の差分を算出して、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間を算出する。そして、加工ヘッド5が加工終了点から次の加工開始点へ移動を開始すると、アシストガスの圧力を低減圧力指令値まで低下させ、加工ヘッド5が加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を加工開始点の圧力指令値まで上昇させる。
【0031】
具体的に、図6を参照して、圧力制御部27によるアシストガスの圧力制御方法を説明する。図6に示すように、圧力制御部27は、時刻t1の加工終了点より前に移動後の加工開始点における圧力指令値Sを取得し、取得した圧力指令値Sに切り替えている。そして、時刻t1の加工終了点において切断加工が終了すると、圧力制御部27は、圧力指令値Sを圧力低減幅だけ低下させる。すなわち、圧力制御部27は、圧力指令値Sを低減圧力指令値まで低下させる。これにより、アシストガスの圧力Pは、圧力低減時間の間に徐々に低下して圧力低減幅だけ低下する。この後、圧力低減時間が経過して時刻t2になると、圧力制御部27は、圧力指令値Sを次の加工開始点における圧力指令値に設定する。これにより、アシストガスの圧力Pは徐々に上昇して、復帰時間が経過する時刻t3において次の加工開始点における圧力指令値まで上昇する。こうして、圧力制御部27は、加工終了点から次の加工開始点へ加工ヘッド5が早送り移動する間にアシストガスの圧力を低減する。
【0032】
尚、アシストガス制御装置9は、マイクロコンピュータ、マイクロプロセッサ、CPUを含む汎用の電子回路と、メモリ等の周辺機器から構成されたコントローラである。アシストガス制御装置9は、アシストガスの圧力制御処理を実行するためのコンピュータプログラムがインストールされている。アシストガス制御装置9の各機能は、1または複数の処理回路によって実装することができる。処理回路は、例えば電気回路を含むプログラムされた処理装置を含んでおり、また実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含んでいてもよい。
【0033】
[アシストガスの圧力制御処理]
次に、図7を参照して、本実施形態に係るアシストガス制御装置9によるアシストガスの圧力制御処理を説明する。図7は、アシストガス制御装置9によるアシストガスの圧力制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0034】
図7に示すように、ステップS101において、移動時間算出部21は、加工ヘッド5が加工終了点から次の加工開始点まで早送り移動する間の移動時間を算出する。移動時間算出部21は、加工ヘッド5の動作制御パターンに応じて移動時間を算出する。
【0035】
ステップS103において、圧力低減幅設定部23は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。ステップS105において、圧力低減幅設定部23は、ステップS103で取得した圧力指令値と、ステップS101で算出した移動時間とに基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定する。圧力低減幅設定部23は、図4に示す圧力低減幅設定テーブルを用いて圧力低減幅を設定する。さらに、圧力低減幅設定部23は、加工開始点の圧力指令値から圧力低減幅だけ低下させて低減圧力指令値を設定する。
【0036】
ステップS107において、復帰時間設定部25は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。そして、取得した圧力指令値と、ステップS105で設定された圧力低減幅とに基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。復帰時間設定部25は、図5に示す復帰時間設定テーブルを用いて復帰時間を設定する。
【0037】
ステップS109において、圧力制御部27は、最小低減時間を取得する。最小低減時間は、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間の最小値である。最小低減時間は、電空レギュレータ17の性能に応じて設定された所定値であり、最小低減時間が短すぎるとアシストガスの圧力を上昇させるときに急激に上昇してしまう場合がある。そのため、圧力低減幅だけアシストガスの圧力を低下させるのに必要にして十分な時間を、最小低減時間として、実験またはシミュレーションによって設定している。最小低減時間は、アシストガス制御装置9のメモリに記録されている。
【0038】
ステップS111において、圧力制御部27は、ステップS101で算出した移動時間が、ステップS109で取得した最小低減時間とステップS107で設定した復帰時間との合計値未満であるか否かを判定する。そして、移動時間が最小低減時間と復帰時間の合計値未満である場合(ステップS111でYESの場合)にはステップS113へ進み、移動時間が最小低減時間と復帰時間の合計値以上である場合(ステップS111でNOの場合)にはステップS115へ進む。
【0039】
ステップS113において、圧力制御部27は、圧力低減幅を0%に設定する。図8に示すように、移動時間が最小低減時間と復帰時間の合計値未満である場合には、移動時間が終了した時点において、アシストガスの圧力Pは圧力指令値Sまで上昇することができない。そこで、圧力制御部27は、圧力低減幅を0%に設定して、アシストガスの圧力を低下させる処理を実行しないようにする。
【0040】
ステップS115において、圧力制御部27は、圧力低減指令を実行する。具体的に、圧力制御部27は、図6に示すように、加工終了点において切断加工が終了すると、時刻t1において圧力指令値Sを圧力低減幅だけ低下させた低減圧力指令値に設定する。
【0041】
ステップS117において、圧力制御部27は、ステップS101で算出した移動時間とステップS107で設定された復帰時間の差分を算出して、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間を算出する。
【0042】
ステップS119において、圧力制御部27は、ステップS117で算出した圧力低減時間が経過したか否かを判定する。圧力低減時間が経過していない場合には、繰り返し圧力低減時間が経過したか否かを判定し、圧力低減時間が経過した場合には、ステップS121へ進む。
【0043】
ステップS121において、圧力制御部27は、次の加工開始点の圧力指令値を実行する。図6に示すように、圧力制御部27は、圧力低減時間が経過して時刻t2になると、圧力指令値Sを、次の加工開始点の圧力指令値に上昇させる。これにより、アシストガスの圧力Pは、徐々に上昇して復帰時間が経過した時刻t3において、次の加工開始点の圧力指令値まで上昇する。こうして、本実施形態に係るアシストガスの圧力制御処理は終了する。
【0044】
[第1実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間の移動時間を算出し、加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得し、移動時間と圧力指令値に基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させるための圧力指令値である低減圧力指令値を設定する。そして、加工ヘッド5が加工終了点から移動を開始すると、アシストガスの圧力を低減圧力指令まで低下させ、加工ヘッド5が加工開始点に到達するまでにアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させる。これにより、早送り移動中に加工中と同じ量のアシストガスを消費することがなくなり、移動後の加工開始点での待ち時間の発生も防止することができる。したがって、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、生産性を維持することができるとともに、早送り移動中のアシストガスの消費量を低減することもできる。
【0045】
また、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、移動時間と圧力指令値に基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定し、圧力指令値から圧力低減幅だけ低下させて低減圧力指令値を設定する。これにより、圧力低減幅を設定することで低減圧力指令値を設定して、早送り移動中のアシストガスの消費量を低減するので、早送り移動中に加工中と同じ量のアシストガスが消費されることを防止できる。
【0046】
さらに、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、移動時間の長さと圧力指令値の大きさとに応じて圧力低減幅が設定された圧力低減幅設定テーブルに基づいて圧力低減幅を設定する。これにより、予め設定されたテーブルを用いて圧力低減幅を設定できるので、アシストガスの制御を容易に実行することができる。
【0047】
また、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、圧力指令値と圧力低減幅に基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。これにより、圧力指令値と圧力低減幅に応じた適切な長さの復帰時間を設定できるので、低減させたアシストガスの圧力を圧力指令値まで安定して上昇させることができる。
【0048】
さらに、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、移動時間と復帰時間の差分を算出して、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間を算出する。これにより、復帰時間を確保した上でアシストガスの圧力を低減させるので、低減させたアシストガスの圧力を確実に圧力指令値まで上昇させることができる。
【0049】
また、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、圧力低減時間の最小値である最小低減時間を取得し、移動時間が最小低減時間と復帰時間との合計値未満である場合には、アシストガスの圧力を低下させる処理を実行していない。これにより、移動時間内にアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させることができない場合を防止できるので、次の加工開始点における待ち時間の発生を防止して生産性を維持することができる。
【0050】
さらに、本実施形態では、アシストガス制御装置9を備えたレーザ加工機1を提供する。これにより、生産性を維持することができ、早送り移動中のアシストガスの消費量を低減することのできるレーザ加工機を提供することができる。
【0051】
[第2実施形態]
以下、図面を参照し、本実施形態に係るレーザ加工機について説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付して詳細な説明は省略する。第1実施形態では、圧力低減幅設定テーブルを用いて圧力低減幅を設定している。しかし、第2実施形態では、移動時間に基づいて、圧力指令値に対する圧力低減後の圧力の比である低減後圧力比を算出して圧力低減幅を設定していることが第1実施形態と相違している。
【0052】
第1実施形態では、早送り移動時間が短い場合に、アシストガスの圧力を大きく変動させてしまうと、圧力を復帰させるときに安定しないため、短い移動時間でも復帰できる範囲で圧力低減幅を設定していた。
【0053】
しかし、移動時間が長く、復帰時間に余裕がある場合には、アシストガスの圧力をさらに低減できるにも関わらず圧力を十分に低減できていない場合がある。そこで、第2実施形態では、移動時間の長さに応じて圧力低減幅を設定できるようにしている。
【0054】
圧力低減幅設定部23は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。また、圧力低減幅設定部23は、圧力指令値を取得すると、取得した圧力指令値と、移動時間算出部21で算出した移動時間とに基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定する。さらに、圧力低減幅設定部23は、加工開始点の圧力指令値から圧力低減幅だけ低下させて低減圧力指令値を設定する。
【0055】
具体的に、図面を参照して、本実施形態に係る圧力低減幅の設定方法を説明する。図9は、低減後圧力比と圧力低減時間との関係を示した図である。低減後圧力比は、早送り移動後の加工開始点の圧力指令値に対する圧力低減後の圧力の比である。すなわち、圧力指令値がP、圧力低減幅がΔPである場合に、低減後圧力比は(P-ΔP)/P×100である。例えば、低減後圧力比が70%である場合には、圧力低減幅だけ低下させた後の圧力が、加工開始点の圧力指令値の70%であることを示している。また、図9の圧力低減時間は、アシストガスの圧力を圧力低減幅だけ低下させるために必要な時間である。
【0056】
ただし、アシストガスの圧力を短時間で大きく上下させると、圧力がオーバーシュートしてしまい、レーザ加工に影響が出てしまう。そこで、図9は、一定時間内に圧力を下げてから再度復帰させたときのオーバーシュート量が圧力指令値に対して一定範囲内に収まるようにして求めた場合の関係を示している。
【0057】
図9に示すように、低減後圧力比が小さくなるのにしたがって圧力低減時間が増加している。すなわち、アシストガスの圧力を大きく低減させると、圧力低減時間が増加することを示している。ここで、図9に示す実測値D1から求めた近似値D2は、以下の式(1)で表すことができる。
【数1】
ただし、yは低減後圧力比、xは圧力低減時間、a0、b0、x0、y0は定数である。
【0058】
また、低減後圧力比と復帰時間との間には、図10に示す関係がある。復帰時間は、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する時間である。図10に示すように、低減後圧力比が小さくなるのにしたがって復帰時間が増加している。すなわち、アシストガスの圧力を大きく低減させると、復帰時間が増加することを示している。ここで、図10に示す実測値D1から求めた近似値D2は、以下の式(2)で表すことができる。
【数2】
ただし、yは復帰時間、xは低減後圧力比、a1、b1は定数である。式(2)に示すように、図10に示す低減後圧力比と復帰時間との関係は1次式で近似することができる。
【0059】
次に、式(1)と式(2)を用いて、移動時間から圧力低減幅と復帰時間を設定する方法を説明する。まず、図6に示す移動時間をt0、圧力低減時間をt1、復帰時間をt2とする。そして、式(1)のxは圧力低減時間なので、xをt1で置き換えて、式(1)を式(3)に書き換える。
【数3】
【0060】
式(2)のyは復帰時間、xは低減後圧力比なので、それぞれt2とyで置き換えて、式(2)を式(4)に書き換える。
【数4】
【0061】
ここで、移動時間t0と圧力低減時間t1と復帰時間t2との間の関係は、図6に示すように、t1=t0-t2となるので、この式に式(4)を入力して、式(5)を求める。
【数5】
【0062】
この式(5)を式(3)のt1に入力して、式(6)を求める。
【数6】
【0063】
式(6)をyについて解くと、式(7)となり、この式により移動時間t0から低減後圧力比yを算出することができる。
【数7】
ただし、W(x)はランベルトのW関数である。
【0064】
式(7)に基づいて移動時間t0と低減後圧力比yとの関係を示すと、図11となる。図11に示すように、移動時間が長くなるのにしたがって低減後圧力比は小さくなる。すなわち、移動時間が長くなるのにしたがって、アシストガスの圧力を大きく低減させることができる。
【0065】
ここで、早送り移動後の加工開始点の圧力指令値がP、圧力低減幅がΔPである場合に、低減後圧力比yは、式(8)となる。
[数8]
y=(P-ΔP)/P×100 (8)
そこで、式(7)に基づいて、移動時間t0から低減後圧力比yを算出すると、圧力低減幅ΔPは、式(8)に圧力指令値Pを入力することによって算出することができる。
【0066】
したがって、圧力低減幅設定部23は、式(7)に基づいて移動時間t0から低減後圧力比yを算出し、低減後圧力比yと圧力指令値Pとから式(8)に基づいて圧力低減幅ΔPを算出して設定する。すなわち、圧力低減幅設定部23は、移動時間に基づいて、圧力指令値に対する圧力低減後の圧力の比である低減後圧力比を算出し、低減後圧力比と圧力指令値に基づいて圧力低減幅を設定する。
【0067】
また、式(7)を式(4)に入力することによって、復帰時間t2と移動時間t0との関係を求めることができる。図12は、復帰時間t2と移動時間t0との関係を示す図である。図12に示すように、移動時間が長くなるのにしたがって、復帰時間も長くすることができる。ただし、例えば、図12では移動時間が700msの場合に復帰時間が240ms程度になっている。この復帰時間の240msは、図11に示す移動時間が700msの場合に低減後圧力比が40%になるので、低減後圧力比が40%の場合の復帰時間である。
【0068】
したがって、復帰時間設定部25は、式(4)と式(7)に基づいて移動時間t0から復帰時間t2を設定する。すなわち、復帰時間設定部25は、移動時間に基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。
【0069】
[アシストガスの圧力制御処理]
次に、図13を参照して、本実施形態に係るアシストガス制御装置9によるアシストガスの圧力制御処理を説明する。図13は、アシストガス制御装置9によるアシストガスの圧力制御処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0070】
図13に示すように、ステップS201において、移動時間算出部21は、加工ヘッド5が加工終了点から次の加工開始点まで早送り移動する間の移動時間を算出する。移動時間算出部21は、加工ヘッド5の動作制御パターンに応じて移動時間を算出する。
【0071】
ステップS203において、圧力低減幅設定部23は、加工ヘッド5が移動した後の加工開始点におけるアシストガスの圧力指令値を取得する。ステップS205において、圧力低減幅設定部23は、ステップS203で取得した圧力指令値と、ステップS201で算出した移動時間とに基づいて、加工ヘッド5が加工終了点から加工開始点まで移動する間にアシストガスの圧力を低減させる圧力低減幅を設定する。具体的に、圧力低減幅設定部23は、図11に示す関係を用いて移動時間から低減後圧力比を算出し、この低減後圧力比と圧力指令値から圧力低減幅を算出して設定する。さらに、圧力低減幅設定部23は、加工開始点の圧力指令値から圧力低減幅だけ低下させて低減圧力指令値を設定する。
【0072】
ステップS207において、復帰時間設定部25は、ステップS201で算出した移動時間に基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。具体的に、復帰時間設定部25は、図12に示す関係を用いて移動時間から復帰時間を設定する。
【0073】
ステップS209において、圧力制御部27は、圧力低減指令を実行する。具体的に、圧力制御部27は、図6に示すように、加工終了点において切断加工が終了すると、時刻t1において圧力指令値Sを圧力低減幅だけ低下させた低減圧力指令値に設定する。
【0074】
ステップS211において、圧力制御部27は、ステップS201で算出した移動時間とステップS207で設定された復帰時間の差分を算出して、アシストガスの圧力を低下させる圧力低減時間を算出する。
【0075】
ステップS213において、圧力制御部27は、ステップS211で算出した圧力低減時間が経過したか否かを判定する。圧力低減時間が経過していない場合には、繰り返し圧力低減時間が経過したか否かを判定し、圧力低減時間が経過した場合には、ステップS215へ進む。
【0076】
ステップS215において、圧力制御部27は、次の加工開始点の圧力指令値を実行する。図6に示すように、圧力制御部27は、圧力低減時間が経過して時刻t2になると、圧力指令値Sを、次の加工開始点の圧力指令値に上昇させる。これにより、アシストガスの圧力Pは、徐々に上昇して復帰時間が経過した時刻t3において、次の加工開始点の圧力指令値まで上昇する。こうして、本実施形態に係るアシストガスの圧力制御処理は終了する。
【0077】
[変形例]
上述した実施形態では、早送り移動後の加工開始点の圧力指令値が、加工終了点の圧力指令値と同じ場合について説明したが、加工開始点の圧力指令値が加工終了点の圧力指令値と異なる場合がある。例えば、早送り移動後の次の加工点においてピアス加工を行ってから切断加工を行う場合には、図14に示すように、時刻t1の加工終了点の圧力指令値と時刻t2の加工開始点の圧力指令値が相違している。一般的に、切断加工ではピアス加工よりも高圧のアシストガスを必要とするので、ピアス加工時と切断加工時でそれぞれ個別に圧力指令値を設定できるようにしている。
【0078】
そこで、次の加工点でピアス加工を行う場合には、時刻t1に切断加工が終了すると、早送り移動後の加工開始点の圧力指令値として、ピアス加工の圧力指令値と切断加工の圧力指令値を取得する。そして、上述した実施形態と同様に、図11に示す関係を用いて移動時間から低減後圧力比を算出し、この低減後圧力比とピアス加工の圧力指令値から圧力低減幅を算出して設定する。
【0079】
時刻t2になると、圧力制御部27は、圧力指令値Sをピアス加工の圧力指令値に上昇させ、時刻t3に次の加工点に移動すると、ピアス加工が開始される。その後、時刻t4にピアス加工が終了すると、圧力制御部27は、圧力指令値Sを切断加工の圧力指令値に上昇させる。
【0080】
ただし、ピアス加工から切断加工へ移行する際にガス圧の切り替えによる待ち時間が発生してしまうので、生産性の低下を防止するために、ピアス加工の圧力指令値と切断加工の圧力指令値を同じ圧力に設定してもよい。
【0081】
[第2実施形態の効果]
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、移動時間に基づいて、圧力指令値に対する圧力低減後の圧力の比である低減後圧力比を算出し、低減後圧力比と圧力指令値に基づいて圧力低減幅を設定する。これにより、移動時間の長さに応じて圧力低減幅を設定できるので、移動時間が長い場合には、アシストガスの圧力をより大きく低減させることができる。
【0082】
また、本実施形態に係るアシストガス制御装置9は、移動時間に基づいて、圧力低減幅だけ低下したアシストガスの圧力を圧力指令値まで上昇させるのに要する復帰時間を設定する。これにより、移動時間の長さに応じて復帰時間が設定されるので、移動時間が長い場合には、より長い復帰時間を設定することができる。
【0083】
ただし、上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0084】
1 レーザ加工機
3 レーザ発振器
5 加工ヘッド
7 NC装置
9 アシストガス制御装置
11 サーボアンプ
13 サーボモータ
15 アシストガス供給器
17 電空レギュレータ
19 圧力計
21 移動時間算出部
23 圧力低減幅設定部
25 復帰時間設定部
27 圧力制御部
41、43 動作制御パターン
D1 実測値
D2 近似値
S 圧力指令値
P アシストガスの圧力
Txy X、Y軸方向の早送り移動時間
Tz1 Z軸上昇移動時間
Tz2 Z軸下降移動時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14