(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099496
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】素地調整方法、素地調整済木材及び再塗装済木材
(51)【国際特許分類】
B05D 7/24 20060101AFI20240718BHJP
B05D 7/06 20060101ALI20240718BHJP
B27K 5/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
B05D7/24 302T
B05D7/06 Z
B27K5/00 G
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002530
(22)【出願日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2023003277
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】592190969
【氏名又は名称】株式会社アールシーコア
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井谷 真由美
【テーマコード(参考)】
2B230
4D075
【Fターム(参考)】
2B230AA26
2B230DA02
2B230EA11
2B230EB03
4D075AE03
4D075CA13
4D075DA27
4D075DB21
4D075DC01
4D075EA07
4D075EB38
(57)【要約】
【課題】塗装済木材の塗料残留物を除去することなく素地調整が可能な素地調整方法、素地調整済木材及び再塗装済木材を提供する。
【解決手段】素地調整方法は、2液ウレタンを含む素地調整剤を準備し、準備した素地調整剤を、塗装された木材の上に塗布する。素地調整済木材は、第1の層と、第1の層よりも表面の側に存在する第2の層とを備え、第2の層は、第1の層よりも木材を構成するリグニンの含有量が少なく、かつ、樹脂を含む。再塗装済木材は、素地調整済木材と、素地調整済木材の素地調整が行われた表面に存在する塗料定着物とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2液ウレタンを含む素地調整剤を準備する工程と、
準備した前記素地調整剤を、塗装された木材の上に塗布する工程と、を備える、
素地調整方法。
【請求項2】
前記塗装された木材は、少なくとも一度は表面に造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されて塗膜が形成された木材である、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項3】
前記素地調整剤は、有機溶剤を含む、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項4】
前記2液ウレタンは、主剤と硬化剤とを含むと共に、前記硬化剤に対する前記主剤の重量の比率が0.8以上3.0以下である、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項5】
前記素地調整剤は、希釈剤を含むと共に、前記2液ウレタンに対する前記希釈剤の重量の比率が0.1以上2.0以下である、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項6】
前記塗装された木材の上に前記素地調整剤を塗布する前に、前記塗装された木材の上に素地着色剤を塗布する工程を備える、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項7】
前記素地調整剤は、素地着色剤を含む、
請求項1に記載の素地調整方法。
【請求項8】
塗装された木材の上に、2液ウレタンを含む素地調整剤が塗布された木材であって、請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の素地調整方法が適用された、
素地調整済木材。
【請求項9】
第1の層と、
前記第1の層よりも表面の側に存在する第2の層と、を備え、
前記第2の層は、前記第1の層よりも木材を構成するリグニンの含有量が少なく、かつ、樹脂を含む、
請求項8に記載の素地調整済木材。
【請求項10】
素地調整が行われた木材であって、
第1の層と、
前記第1の層よりも表面の側に存在する第2の層と、を備え、
前記第2の層は、前記第1の層よりも木材を構成するリグニンの含有量が少なく、かつ、樹脂を含む、
素地調整済木材。
【請求項11】
少なくとも前記第2の層の表面に塗料残留物を備える、
請求項9に記載の素地調整済木材。
【請求項12】
少なくとも前記第2の層の表面に塗料残留物を備える、
請求項10に記載の素地調整済木材。
【請求項13】
少なくとも前記第2の層よりも表面の側に素地着色剤を備える、
請求項9に記載の素地調整済木材。
【請求項14】
少なくとも前記第2の層よりも表面の側に素地着色剤を備える、
請求項10に記載の素地調整済木材。
【請求項15】
請求項8に記載の素地調整済木材と、
前記素地調整済木材の素地調整が行われた表面に存在する塗料定着物と、を備える、
再塗装済木材。
【請求項16】
請求項10、請求項12又は請求項14に記載の素地調整済木材と、
前記素地調整済木材の素地調整が行われた表面に存在する塗料定着物と、を備える、
再塗装済木材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は素地調整方法、素地調整済木材及び再塗装済木材に関し、特に木材の再塗装の前処理に適した素地調整方法及び素地調整済木材並びに再塗装済木材に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の屋外に露出している部分は、外観をよくするため、あるいは日射や風雨から保護するため、一般に、木部や鉄部に対しては塗装が施される。施された塗装は、その機能を維持するため、適時に再塗装が施される。再塗装の際は、ケレンやブラスト処理等の物理的除去又は剥離剤を用いた化学的除去等により、既に存在していた塗膜(旧塗膜)を除去し、その後に新しい塗料が塗布されることがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ケレンやブラスト処理を行うと、粉塵や騒音が発生するおそれがある。他方、剥離剤を使用すると、剥離剤には環境上好ましくない物質が含まれている場合があるため、使用した剥離剤を回収しそれを廃棄するのに手間とコストがかかる。
【0005】
本開示は上述の課題に鑑み、塗装された木材の塗料残留物を除去することなく塗装済の木材の素地調整を行うことができる素地調整方法及び素地調整済木材並びに素地調整済木材に再塗装した再塗装済木材を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の態様に係る素地調整方法は、2液ウレタンを含む素地調整剤を準備する工程と、準備した前記素地調整剤を、塗装された木材の上に塗布する工程と、を備える。
【0007】
このように構成すると、塗料残留物を除去することなく木材の素地調整をすることができる。木材の素地調整をすることで、典型的には、木材の劣化した層を補強することができる。なお、塗料残留物は、典型的には、塗料が造膜形又は半造膜形の場合は塗膜が、塗料が含浸形の場合は塗料が木材に浸透した後に揮発成分が揮発した後の顔料等が、それぞれ該当する。また、状況に応じて、上記本開示の第1の態様に係る素地調整方法は、2液ウレタンと希釈剤とを含む素地調整剤を準備する工程と、準備した前記素地調整剤を、塗装された木材の上に塗布する工程と、を備えることとしてもよい。
【0008】
また、本開示の第2の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様に係る素地調整方法において、前記塗装された木材は、少なくとも一度は表面に造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されて塗膜が形成された木材である。
【0009】
このように構成すると、塗膜が存在している場合は塗膜及び塗膜の下に存在していた木材の劣化した層の両方をウレタン樹脂で補強することができる。塗膜がなくなっている場合は、かつて存在していた塗膜の下に存在していた木材の劣化した層をウレタン樹脂で補強することができる。
【0010】
また、本開示の第3の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様又は第2の態様に係る素地調整方法において、前記素地調整剤は、有機溶剤を含む。
【0011】
このように構成すると、2液ウレタンが塗料残留物及び木材に浸透しやすくなり、ウレタンを木材の劣化した層に到達させやすくなる。
【0012】
また、本開示の第4の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法において、前記2液ウレタンは、主剤と硬化剤とを含むと共に、前記硬化剤に対する前記主剤の重量の比率が0.8以上3.0以下である。
【0013】
このように構成すると、木材の劣化した層におけるウレタン樹脂による補強をより強固にすることができる。
【0014】
また、本開示の第5の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法において、前記素地調整剤は、希釈剤を含むと共に、前記2液ウレタンに対する前記希釈剤の重量の比率が0.1以上2.0以下である。
【0015】
このように構成すると、素地調整剤の粘度が下がることで塗布した素地調整剤の木材への浸透性が向上すると共に、存在していた塗料残留物を軟化させることができる。また、木材に吸収されずに当該木材の表面に残った不要な素地調整剤を除去しやすくなり、素地調整後の塗装をしやすくすることができる。
【0016】
また、本開示の第6の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様乃至第5の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法において、前記塗装された木材の上に前記素地調整剤を塗布する前に、前記塗装された木材の上に素地着色剤を塗布する工程を備える。
【0017】
このように構成すると、塗装された木材に対して、後に再塗装として塗布する上塗り塗料の色味を出すための素地調整を行うことができる。
【0018】
また、本開示の第7の態様に係る素地調整方法は、上記本開示の第1の態様乃至第6の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法において、前記素地調整剤は、素地着色剤を含む。
【0019】
このように構成すると、塗布された木材に対して、後に再塗装として塗布する上塗り塗料の色味を出すための素地調整を行うことができる。
【0020】
また、本開示の第8の態様に係る素地調整済木材は、塗装された木材の上に、2液ウレタンを含む素地調整剤が塗布された木材であって、上記本開示の第1の態様乃至第7の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法が適用されている。
【0021】
このように構成すると、塗料残留物を除去せずに素地調整が済んだ木材を得ることができる。なお、状況に応じて、上記本開示の第8の態様に係る素地調整済木材は、塗装された木材の上に、2液ウレタンと希釈剤とを含む素地調整剤が塗布された木材であって、上記本開示の第1の態様乃至第7の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整方法が適用されているものであってもよい。
【0022】
本開示の第9の態様に係る素地調整済木材は、第1の層と、前記第1の層よりも表面の側に存在する第2の層と、を備え、前記第2の層は、前記第1の層よりも木材を構成するリグニンの含有量が少なく、かつ、樹脂を含む。なお、この第9の態様に係る素地調整済木材は、上記本開示の第8の態様に係る素地調整済木材が備える構成であってもよい。
【0023】
このように構成すると、一旦劣化した層が樹脂で補強された層を有する素地調整済木材となる。
【0024】
また、本開示の第10の態様に係る素地調整済木材は、上記本開示の第9の態様に係る素地調整済木材において、少なくとも前記第2の層の表面に塗料残留物を備える。
【0025】
このように構成すると、塗料残留物及び塗料残留物の下に存在していた木材の劣化した層の両方が樹脂で補強された素地調整済木材を得ることができる。
【0026】
また、本開示の第11の態様に係る素地調整済木材は、上記本開示の第9の態様又は第10の態様に係る素地調整済木材において、少なくとも前記第2の層よりも表面の側に素地着色剤を備える。
【0027】
このように構成すると、後に再塗装として塗布する上塗り塗料の色味を出すための素地調整が行われた素地調整済木材を得ることができる。
【0028】
また、本開示の第12の態様に係る再塗装済木材は、上記本開示の第8の態様乃至第11の態様のいずれか1つの態様に係る素地調整済木材と、前記素地調整済木材の素地調整が行われた表面に存在する塗料定着物と、を備える。
【0029】
このように構成すると、塗装された木材に対して再塗装が行われた木材を簡便に得ることができる。
【発明の効果】
【0030】
本開示によれば、塗料残留物を除去することなく木材の素地調整をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】第1の実施の形態に係る素地調整方法の手順を示すフローチャートである。
【
図2】第1の実施の形態に係る素地調整済木材の模式的断面図である。
【
図4】第1の実施の形態に係る再塗装済木材の模式的断面図である。
【
図5】第2の実施の形態に係る素地調整方法の手順を示すフローチャートである。
【
図6】第2の実施の形態に係る素地調整済木材の模式的断面図である。
【
図8】第1の実施の形態に係る素地調整方法を適用した素地調整済木材の顕微鏡写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、実施の形態を説明する。本実施の形態は、既に塗装されている木材(塗装された木材)に対して簡便に素地調整を行うことができる方法、素地調整が行われた木材、及び再塗装が行われた木材を開示する。本実施の形態において「素地調整」とは、再塗装の前に、再塗装される面(下地)を調整することを意味している。塗装された木材は、塗料が塗布されたことがある木材であって、過去に塗装されてその後に劣化したものを含む。以下の説明において、「塗料残留物」は、塗装された木材が有する塗料の残留物であって、典型的には木材の表面に塗布された塗料から揮発成分が揮発した後に残留しているものである。また「塗料定着物」は、素地調整が行われた木材に対して再塗装が行われた後に定着した塗料の成分であって、典型的には素地調整が行われた木材の表面に塗布された塗料から揮発成分が揮発した後に定着しているものである。木造建物、例えばログハウスは、柱や梁のみならず、外壁にも木材が用いられている。ログハウスで用いられる木材の種類として、レッドウッド、スプルース、北米パイン、北欧パイン、ダグラスファー、ウェスタン・レッドシダー、杉、西洋カラマツ、檜、唐松等が挙げられる。外壁に木材が採用されている建物には、屋外に露出している木材の部分がある。屋外に露出している木材は、日射や風雨等に晒される。屋外に露出している木材は、日射や風雨等から保護するため、一般に、塗装が施される。
【0033】
木材に塗布する塗料には、大別して、造膜形と含浸形がある。造膜形の塗料は、塗布した木材の表面に膜を造り、この造られた膜によって木材を日射や風雨等から保護するものである。造膜形の塗料は、典型的には木材に浸透せずに木材の表面に膜を造る。造膜形の塗料は、透明なものから着色したものまであり、着色が強いほど、木材の風合が残りにくいが耐候性が高くなる傾向になる。造膜形の塗料の具体例として、三井化学産資株式会社製ノンロットブルーノ(登録商標)が挙げられる。他方、含浸形の塗料は、塗布した木材の表面から内部に浸透して、木材の内部から保護効果を発揮させるものである。含浸形の塗料は、透明なもののほか、着色しつつ木材の風合が残った半透明なものがあり、着色が強い方が比較的高い耐候性を有する。含浸形の塗料の具体例として、大阪ガスケミカル株式会社製キシラデコール(登録商標)が挙げられる。造膜形と含浸形とを比較すると、造膜形の方が含浸形よりも耐候性が高い。なお、造膜形と含浸形の中間の半造膜形の塗料もある。半造膜形の塗料は、塗布した木材に対して、内部に浸透しつつ表面に薄い膜を造るものである。一般に、半造膜形の塗料によって木材の表面に造られる膜は、造膜形の塗料によって造られる膜よりも薄い。半造膜形の塗料の具体例として、三井化学産資株式会社製セミオペーク(登録商標)が挙げられる。
【0034】
造膜形(半造膜形を含む)の塗料も、含浸形の塗料も、屋外に露出している木材に塗布された状態において経年劣化するため、適時に再塗装が行われる。一般に、含浸形の塗料を用いる方が、造膜形の塗料を用いるよりも、再塗装の頻度が多くなる。本発明者は、木材への再塗装を行う際、塗料残留物が残っている状態でその塗料残留物の上から塗装すると、新たな塗装による塗料定着物が剥離しやすいことを見出した。これは、塗装が施された木材は、時間経過と共に、塗料残留物と木材との界面の部分の木材が劣化するため、塗料残留物の上から新しい塗料を重ね塗りしても、当該劣化した部分から塗料定着物及び塗料残留物が剥離してしまうためであると考えられる。造膜形の塗料を用いた場合は、再塗装の頻度を比較的少なくすることができるが、木材の表面に形成されていた塗料残留物である膜(以下「旧塗膜」という。)が経年劣化により剥離しやすくなっていることが多い。新たな塗膜(塗料定着物)が旧塗膜ごと剥離することを回避するためには、再塗装の前に旧塗膜を除去することが考えられる。しかし、旧塗膜をケレンやブレスト処理等によって物理的に除去する場合、粉塵や騒音の発生を伴うおそれがあるため、回避することが好ましい。他方、旧塗膜を剥離剤によって化学的に除去する場合、使用後に回収して廃棄処理することを要する塩化メチレン等が剥離剤に含まれているため、処理負担を軽減する観点から回避することが好ましい。そこで、以下に説明する第1の実施の形態では、塗装された木材が、造膜形又は半造膜形の塗料が塗布された木材である場合を例示して、旧塗膜を除去せずに旧塗膜ごと剥離することを抑制するための塗装面の素地調整の方法を開示する。
【0035】
図1は、第1の実施の形態に係る素地調整方法の手順を示すフローチャートである。第1の実施の形態に係る素地調整方法は、概観すると、2液ウレタンを含む特有の素地調整剤を準備し、この素地調整剤を、旧塗膜に上塗りすることで、木材の劣化した層を補強して、後に再塗装した際に、新たに塗布した塗料の膜を適切に形成させるものである。第1の実施の形態に係る素地調整方法を適用する木材(塗装された木材)は、典型的には、造膜形又は半造膜形の塗料が表面に塗布されていて旧塗膜が形成されていた木材であって、所定の期間にわたって屋外に露出されていた木材である。ここでの所定の期間は、典型的には旧塗膜に劣化が見られるようになる期間であり、一般には着色塗料の膜が形成されていた木材の方が透明塗料の膜が形成されていた木材よりも長い。所定の期間は、概ね5年~10年の場合が多く、種々の条件によって、5年よりも短い例えば1年~3年又はそれ以下の場合もあり、10年よりも長い例えば12年~13年又はそれ以上の場合もあり得る。旧塗膜の劣化は、例えば、紫外線の影響等による塗膜の割れとして表れ、一般に、旧塗膜の下の木材表面の劣化も伴う。このような木材の素地調整を開始したら、まず、2液ウレタンを混合する(S1)。2液ウレタンは、各種ポリオールを含む主剤と各種イソシアネートを含む硬化剤とを反応させてウレタン樹脂を得るものである。
【0036】
2液ウレタンの主剤に含まれるポリオールの例としては、アクリルポリオール、ポリエステルポリオール、アルキドポリオール、ポリエーテルポリオール、フッ素含有ポリオール、エポキシ型ポリオール、等を挙げることができる。その他、主剤に含まれる物質の例として、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル・メチルイソブチルケトン・酢酸ノルマルブチルを混合したもの、等が挙げられる。
【0037】
2液ウレタンの硬化剤に含まれるイソシアネートの例としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンジフェニルジイソシアネート、等を挙げることができる。その他、硬化剤に含まれる物質の例として、酢酸エチル・酢酸ブチル・プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート・ヘキサメチレンジイソシアネートを混合したもの、又はトリレンジイソシアネート・酢酸エチル・酢酸ノルマルブチルを混合したもの、等が挙げられる。
【0038】
2液ウレタンを混合する際の、硬化剤に対する主剤の重量の比率(主剤の重量/硬化剤の重量)は、含有する物質の種類に応じて、0.8~3.0とするのが好ましい。硬化剤に対する主剤の重量の比率は、上述のように含有する物質の種類に応じて適宜決定されるが、硬化剤の余剰を抑制する観点から1.0以上とするのがより好ましく、架橋による強度向上を図る観点から2.0以下とするのがより好ましい。
【0039】
2液ウレタンを混合したら、その混合した2液ウレタンと希釈剤とを混合する(S2)。希釈剤は、2液ウレタンを木材に塗り広げやすくするために2液ウレタンに混ぜている。混合した2液ウレタンと希釈剤とを混ぜ合わせることで、木材に塗布する素地調整剤が生成される。希釈剤としては、典型的にはウレタン用シンナー等の有機溶剤が用いられる。この種の有機溶剤の例として、酢酸エチル、酢酸ブチル、これらの混合物、等が挙げられる。希釈剤に有機溶剤を用いている素地調整剤を、溶剤形の素地調整剤ということとする。2液ウレタンと希釈剤とを混合する際の、2液ウレタンに対する希釈剤の重量の比率(希釈剤の重量/2液ウレタンの重量)は、0.1~2.0とするのが好ましく、希釈剤の揮発を早くしすぎない観点から0.5以上とするのが好ましい。2液ウレタンと希釈剤とを混合する工程(S2)は、先に準備された混合した2液ウレタンに対して希釈剤を注ぎ入れること、及び先に準備された希釈剤に対して混合した2液ウレタンを注ぎ入れることの両方を含む。なお、
図1に示す例では、2液ウレタンを混合する工程(S1)の後に、その混合した2液ウレタンと希釈剤とを混合する(S2)こととしているが、2液ウレタンの成分等の事情に応じて、これらの工程(S1、S2)を同時に行うこととしてもよい。換言すれば、2液ウレタンを構成する主剤と、2液ウレタンを構成する硬化剤と、希釈剤と、を同時に混合することとしてもよい。
【0040】
素地調整剤が生成されたら、再塗装を予定している木材の部分に素地調整剤を塗布する(S3)。このとき、塵埃の除去等の簡易な清掃を行ってもよい。なお、本実施の形態では、旧塗膜を除去する必要はないが、旧塗膜を除去したい場合は、旧塗膜の一部又は全部を除去しても差し支えない。素地調整剤は、旧塗膜の上から及び/又は離脱した旧塗膜が存在していた場所の上から、換言すれば塗料残留物の上から、塗布する。素地調整剤を塗布したら、塗布してから所定の時間が経過したか否かを判断する(S4)。ここでの所定の時間は、少なくとも、塗布した素地調整剤が、旧塗膜に浸み込んで、旧塗膜の下の木材に到達するまでに要する時間とすることが好ましく、旧塗膜の下の木材の劣化した層に行き渡る(浸透する)までに要する時間とすることがより好ましい。所定の時間は、素地調整剤の成分にもよるが、例えば数分間~24時間程度としてもよい。本実施の形態では、素地調整剤に含まれる希釈剤として有機溶剤を用いているので、旧塗膜に対して素地調整剤を適時に浸み込ませることができる。
【0041】
素地調整剤を木材に塗布してから所定の時間が経過したか否かを判断する工程(S4)において、所定の時間が経過していない場合は、所定の時間が経過したか否かを判断する工程(S4)に戻る。他方、所定の時間が経過した場合は、旧塗膜の上に残存している素地調整剤を拭き取る(S5)。仮に素地調整剤が残存している上に再塗装を行おうとすると、再塗装の塗料が弾かれてしまい、塗料の密着が不十分になるおそれがある。このため、素地調整剤を拭き取るとき、余分な(旧塗膜の下に浸透していない)素地調整剤を適切に除去できるように、素地調整剤が乾燥していないようにするとよい。換言すれば、素地調整剤を木材に塗布してから所定の時間が経過した時点において素地調整剤が乾燥していないように、2液ウレタンと希釈剤とを混合する工程(S2)における希釈剤の注入量を決定するとよい。2液ウレタンに注入する希釈剤の量を比較的多くすると、素地調整剤が乾燥するまでの時間を遅らせることができるため、2液ウレタンが旧塗膜の下の木材の劣化した層に浸透する時間を確保することができる。また、素地調整剤の乾燥を遅らせることで、旧塗膜の上に残存している余分な素地調整剤を適切に拭き取ることができる。余分な素地調整剤を適切に拭き取ることで、素地調整後の再塗装の際に、塗料の密着が悪くなることを抑制することができる。なお、塗装された木材の劣化の進行が速く、塗布された素地調整剤の吸収量が多い場合は、2液ウレタンが旧塗膜の下の木材の劣化した層に十分に浸透するため、未乾燥の素地調整剤が表面に存在しない場合があり得る。この場合は、余分な素地調整剤を拭き取る工程(S5)を省略することができる(工程(S5)を行わなくてよい)。
【0042】
余分な素地調整剤を拭き取ったら、待機時間が経過したか否かを判断する(S6)。ここで、待機時間は、旧塗膜の下の木材の劣化した層に行き渡った2液ウレタンが硬化するのに要する時間である。待機時間は、2液ウレタンの成分等の事情によって変わり得るが、少なくとも2時間~1日程度確保するとよい。待機時間が経過したか否かを判断する工程(S6)において、待機時間が経過していない場合は、待機時間が経過したか否かを判断する工程(S6)に戻る。他方、待機時間が経過すると、再塗装の準備が整った、素地調整が完了した木材を得ることができ、素地調整方法を終了する。このときの素地調整が完了した木材(素地調整済木材)は、以下のようになっている。
【0043】
図2は、素地調整済木材1の模式的断面図である。
図2は、紙面の上方が屋外に露出している部分、すなわち表面の側となる。
図2は模式図であり、各部の大きさの比率は実際の比率を表したものではない。素地調整済木材1は、表面に造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されて塗膜が形成されていた木材が経年劣化したものに対して素地調整を行ったものの例示であり、基材層3と、樹脂混合層5と、旧塗膜7とを有している。一般に、木材は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンを主要成分としている。セルロースは、グルコースが直鎖状に結合した高分子であり、木材の繊維を構成するものである。ヘミセルロースは、グルコース以外の糖が結合した高分子であり、セルロースと共に木材の繊維を構成するものである。リグニンは、芳香族の高分子化合物であり、木材の繊維を構成するセルロース及びヘミセルロースを強く結びつけ、細胞壁同士も固定化するものである。屋外に露出した木材の表層部分では、主にリグニンが、太陽光に含まれる紫外線を吸収し、ラジカル反応によって分解され、低分子化する。この、木材中の主にリグニンが、紫外線によって分解された層が、劣化層となる。例えば、劣化していない木材におけるリグニンの含有量は、温暖帯産木材において、針葉樹材で約20重量%~35重量%、広葉樹材で約17重量%~28重量%であるのに対し、劣化層におけるリグニンの含有量は劣化していない木材に対して約8重量%~15重量%減少していると考えられる。木材中の劣化していない層及び劣化層の存在は、例えば赤外分光分析によって確認することができる。
図3に、劣化層9を有する木材の顕微鏡写真を示す。劣化層9は、木材中のリグニンが溶脱し、セルロース及び/又はヘミセルロースの繊維が残って、ワタ状になった様子を観察することができる。なお、
図3において、
図2に示す要素と同一の要素には同一の符号を付している。
【0044】
再び
図2を参照する。素地調整済木材1を構成する基材層3は、実質的に木材中のリグニンが紫外線によって分解されていない、劣化していない層であり、第1の層に相当する。基材層3は、典型的には、構成する成分中のリグニンの割合が約17重量%~35重量%となっている。樹脂混合層5は、リグニンが溶脱した劣化層9(
図3参照)に、樹脂(本実施の形態ではウレタン樹脂)が入り込んだ層である。樹脂混合層5は、基材層3と比較してリグニンの含有量が少なく、かつ基材層3には含まれていない樹脂を含んでおり、第2の層に相当する。樹脂混合層5は、典型的には、リグニンの含有量が、基材層3における含有量に対して、8重量%程度減少しており、10重量%以上減少している場合や12重量%以上減少している場合もある。樹脂混合層5は、リグニンに代えてこの樹脂が、セルロース及び/又はヘミセルロースの繊維を結びつけていると考えられる。樹脂混合層5は、換言すれば、基材層3におけるリグニンの少なくとも一部が樹脂に置換された層であるとも考えられる。樹脂混合層5は、本実施の形態に係る素地調整済木材1では、基材層3の表面に位置している。樹脂混合層5は、素地調整済木材1の表面の全体に設けられていてもよく、一部に設けられていてもよい。旧塗膜7は、前述のように、木材の表面に造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されて形成された塗膜であり、塗料残留物に相当する。
【0045】
素地調整済木材1は、前述の素地調整方法の適用によって、旧塗膜7の下の木材の劣化層に行き渡った2液ウレタンが硬化しており、当該木材の劣化層であった部分が、2液ウレタンが反応して生じたウレタン結合によって補強された、樹脂混合層5になっている。樹脂混合層5は、旧塗膜7が残っている部分は比較的薄く、旧塗膜7が無くなっている部分は比較的厚い傾向にある。また、樹脂混合層5と、素地調整剤が浸み込んだ旧塗膜7とが、ウレタン結合によって密着しており、樹脂混合層5から旧塗膜7が剥離しないようになっている。また、前述のように、旧塗膜7の上の余分な素地調整剤は既に除去されている。このような状態の素地調整済木材1における基材層3、樹脂混合層5、旧塗膜7の存在は、例えば赤外分光分析によって確認することができる。例えば、ミクロトームを用いて素地調整済木材1の旧塗膜7を削り、現れた層に対して赤外分光分析を行って、ウレタンのピークを確認することで、樹脂混合層5の存在を把握することができる。このような状態の素地調整済木材1に対し、後に再塗装の塗料を旧塗膜の上から塗布したとき、当該再塗装によって生成された塗膜(塗料定着物)は、素地調整済木材1に適切に密着することとなる。
図4に、素地調整済木材1に対して再塗装して生成された再塗装済木材10の例を示す。再塗装済木材10は、素地調整済木材1の表面に、再塗装によって形成された新たな塗膜17を有している。新たな塗膜17は、再塗装の塗料から揮発成分が揮発した後の塗料残留物の一形態であり、塗料定着物に相当する。なお、素地調整済木材1において、旧塗膜7が何らかの原因で離脱していて、旧塗膜7の一部又は全部が存在しない状態でも差し支えない。
図2及び
図4に示す例では、旧塗膜7の一部が離脱している。素地調整済木材1において旧塗膜7が存在しない場合でも、木材の劣化層においてウレタン樹脂が硬化しているので、素地調整が行われた状態になっている。
【0046】
以上で説明したように、第1の実施の形態に係る素地調整方法によれば、素地調整剤が旧塗膜に浸み込んで木材の劣化層に到達するので、旧塗膜を除去することなく素地調整剤を木材に塗布して木材の素地調整を行うことができる。また、木材の劣化層に到達した素地調整剤のうちの2液ウレタンが、劣化層において硬化するので、木材の劣化層を補強することができる。つまり、塗装された木材の塗料残留物の下にウレタンが浸入して木材を補強することができる。また、本実施の形態に係る素地調整済木材によれば、木材の劣化層及び旧塗膜がウレタン樹脂によって補強されているので、再塗装に適した木材を得ることができる。また、本実施の形態に係る再塗装済木材によれば、上述の素地調整済木材に再塗装しているので、旧塗膜ごと剥離してしまうことを抑制することができ、再びの塗装によって保護された木材を簡便に得ることができる。
【0047】
以上の説明では、
図1に示す素地調整方法を適用する木材が、造膜形又は半造膜形の塗料が表面に塗布されていた木材であるとしたが、含浸形の塗料が塗布されていた木材に適用してもよい。しかし、含浸形の塗料が塗布されていた木材は、上述の素地調整方法をそのまま適用した場合、素地調整後の再塗装を同じ色で繰り返した場合や、再塗装の塗料として元の色とは異なる色(特に明るい色)を採用すると、期待した色が出ない場合や、均一な色の仕上がりとならない場合が生じ得る。この原因として、経年して再塗装を行う際、木材の劣化が進むと黒カビが生えてきて黒くなる場合があること、含浸形の塗料が塗布されていたために旧塗膜のない状態で素地調整された木材は劣化していない木材に比べて塗料を多く吸収するために仕上がりの色が濃くなり少し暗くなること、再塗装時に元の色とは異なる色(特に明るい色)の塗料を塗布すると元の色が透ける場合があること、の1つ又は複数が考えられる。このような事情から、素地調整の後に元の色と同じ色又は異なる色(特に明るい色)の塗料を塗布しても、期待した色や均一な色を出すことが難しい。換言すれば、含浸形の塗料が塗布されていた木材は、素地調整後の新たな塗装によって再塗装(上塗り塗料)の色味を出すことが難しい。そこで、以下に説明する第2の実施の形態では、塗装された木材が、含浸形の塗料が塗布された木材である場合を例示して、再塗装用の上塗り塗料の色味を出すことを可能にするための塗装面の素地調整の方法を開示する。
【0048】
図5は、第2の実施の形態に係る素地調整方法の手順を示すフローチャートである。第2の実施の形態に係る素地調整方法は、概観すると、第1の実施の形態と同様に2液ウレタンを含む特有の素地調整剤を準備するが、塗装された木材に当該素地調整剤を塗布する前に、塗装された木材に素地着色剤を塗布することで、後の再塗装を行う際に上塗り塗料の色味を出すための素地調整を可能にしつつ木材の劣化した層を補強するものである。ここで、「素地着色剤」は、再塗装される面(下地)を着色するための着色剤であり、典型的には顔料及び染料の総称である。また、本実施の形態では、水や油等の溶媒に溶けるものを「染料」といい、溶けないものを「顔料」ということとしている。顔料は、溶媒に投入されると、溶媒中に分散して存在することとなる。
【0049】
第2の実施の形態に係る素地調整方法を適用する木材(塗装された木材)は、典型的には、含浸形の塗料が表面に塗布されていた木材であって、所定の期間にわたって屋外に露出されていた木材である。ここでの所定の期間は、典型的には木材に劣化が見られるようになる期間であり、概ね3年~7年の場合が多く、種々の条件によって、3年よりも短い例えば1年~2年又はそれ以下の場合もあり、7年よりも長い例えば8年~10年又はそれ以上の場合もあり得る。このような木材の劣化は、例えば、カビや藻による生物劣化や、紫外線の影響等により、木材表面の劣化も伴う。このような木材の素地調整を開始したら、まず、2液ウレタンを混合する(S11)。2液ウレタンは、典型的には、第1の実施の形態で用いたものと同じものを用いることができる。なお、本実施の形態では、2液ウレタンを希釈剤で希釈せず、2液ウレタン自体を素地調整剤としている。その理由は、含浸形の塗料が塗布されていた木材は、旧塗膜が存在しないために素地調整剤が内部に浸透しやすいので、浸透しすぎることを抑制するためである。ただし、塗装された木材に塗布されていた含浸形の塗料の再塗装回数によっては、塗装された木材に旧塗膜が存在する場合もあり、この場合は2液ウレタンを希釈剤で希釈したものを素地調整剤としてもよい。
【0050】
2液ウレタンを混合したら、再塗装を予定している木材の部分に対し、2液ウレタンを塗布する前に、素地着色剤を塗布する(S12)。このとき、塵埃の除去等の簡易な清掃を行ってもよい。素地着色剤は、塗料残留物の上から塗布すればよい。素地着色剤として、本実施の形態では顔料を用いることとしている。また、塗装された木材への素地着色剤の塗布を容易にするために、本実施の形態では、素地着色剤を分散剤に混入させたものを塗布することとしている。分散剤として、典型的にはシンナー等の有機溶剤を用いることができるが、水系分散剤であってもよい。素地着色剤を塗布したら、素地着色剤を塗布してから前もって決められた時間が経過したか否かを判断する(S13)。ここでの前もって決められた時間は、素地着色剤を混入させていた分散剤がしっかりと蒸発して、素地着色剤を塗布した木材の表面が乾くまでに要する時間とすることが好ましく、分散剤の成分にもよるが、例えば数分間~24時間程度としてもよい。なお、
図5に示す例では、説明の便宜上、まず2液ウレタンを混合し(S11)、その後に素地着色剤を塗布する(S12)こととしているが、2液ウレタンの混合(S11)と素地着色剤の塗布(S12)を同時に行ってもよく、あるいは順序が逆でもよい。特に、上記の前もって決められた時間が、2液ウレタンを混合するのに要する時間よりも長い場合は、先に素地着色剤を塗布し(S12)、その後に2液ウレタンを混合する(S11)ことが好ましい。この場合、素地着色剤を塗布してから前もって決められた時間が経過した頃に、2液ウレタンの混合が完了するように時間調節してもよい。
【0051】
素地着色剤を木材に塗布してから前もって決められた時間が経過したか否かを判断する工程(S13)において、前もって決められた時間が経過していない場合は、前もって決められた時間が経過したか否かを判断する工程(S13)に戻る。他方、前もって決められた時間が経過した場合は、塗布された素地着色剤の上から素地調整剤を塗布する(S14)。この素地調整剤を塗布する工程(S14)、及びこれ以降の各工程(S15~S17)は、それぞれ、
図1に示す第1の実施の形態における素地調整剤を塗布する工程(S3)、及びこれ以降の各工程(S4~S6)と基本的には同じである。ただし、本実施の形態では、素地調整剤に希釈剤が含まれておらず、木材に旧塗膜が存在しないという事情を考慮して、素地調整剤を塗布してから所定の時間が経過したか否かを判断する工程(S15)における所定の時間は、少なくとも、塗布した素地調整剤が、素地着色剤に浸み込んで、素地着色剤の下の木材に到達するまでに要する時間とすることが好ましい。塗布された素地着色剤は乾燥によって層状になっていると考えられるが、素地着色剤の顔料の粒子の間に隙間があるので、旧塗膜(
図2参照)よりも素地調整剤が浸透しやすいと考えられる。所定の時間は、素地調整剤の成分にもよるが、例えば数分間~24時間程度としてもよい。また、余剰な素地調整剤を拭き取る工程(S16)では、素地着色剤の上に残存している素地調整剤を拭き取ることとなる。このように、
図5に示す本実施の形態における工程(S14)~工程(S17)では、
図1に示す第1の実施の形態における工程(S3)~工程(S6)中の説明の旧塗膜を素地着色剤に読み替えて理解すればよい。なお、本実施の形態においても、素地調整剤を木材に塗布してから所定の時間が経過したときに、未乾燥の素地調整剤が表面に存在しない場合は、余分な素地調整剤を拭き取る工程(S16)を省略することができる。特に、含浸形の塗料が塗装されていた木材の場合は、造膜形又は半造膜形の塗料が塗装されていた木材よりも、塗布された素地調整剤の吸収量が多い傾向にあるため、余分な素地調整剤を拭き取る工程(S16)を行わなくてよい場合が多くなると推定される。工程(S16)を省略する場合、工程(S15)において所定の時間が経過した場合に、工程(S17)に進むようにすればよい。上述の要領で素地調整方法が適用された本実施の形態では、素地調整が完了した木材(素地調整済木材)は、以下のようになっている。
【0052】
図6は、素地調整済木材2の模式的断面図である。
図6においても、紙面の上方が屋外に露出している部分、すなわち表面の側となる。
図6は模式図であり、各部の大きさの比率は実際の比率を表したものではない。含浸形の塗料が塗布されていた木材を素地調整して生成された素地調整済木材2は、造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されていた木材を素地調整して生成された素地調整済木材1(
図2参照)と比較して、基材層3及び樹脂混合層5は存在するが典型的には旧塗膜7(
図2参照)は存在しない。素地調整済木材2は、旧塗膜7(
図2参照)に代えて、着色剤層8が存在している。着色剤層8は、主として、前述の素地調整方法において塗布された素地着色剤が、分散剤の蒸発によって層状に残存したものである。素地調整済木材2の樹脂混合層5は、主として、前述の素地調整方法の適用によって、木材に塗布されて乾いた素地着色剤の上から素地調整剤が塗布されたときに、塗布された素地調整剤が素地着色剤に浸透し、素地着色剤の下の木材の劣化層に行き渡った2液ウレタンが硬化して補強されたものである。本実施の形態における素地着色剤は顔料を用いているので、典型的には、素地調整剤は顔料の粒子の隙間を通って木材の劣化層に到達し、顔料の粒子の多くは木材の表面に残存する傾向にあると考えられる。
図6では、便宜上、樹脂混合層5の上に着色剤層8が隣接しているように示されているが、実際は、顔料の粒子と2液ウレタンの粒子が混ざり合って一緒に固まり、上方に顔料の粒子がより多く存在し、下方に2液ウレタンがより多く存在するものと考えられる。顔料の粒子の多くが素地調整済木材2の表面に存在するので、素地調整済木材2の表面には顔料の色が残り、素地調整の後に明るい色の塗料を塗布した場合に色を変更することが可能になる。このように、素地調整済木材2は、樹脂混合層5及び着色剤層8が、再塗装用の上塗り塗料を、塗装された木材から分離する機能(上塗り用塗料への素地着色剤の色移りを防ぐ機能)を有している。これに対し、素地調整剤を塗布せずに、素地着色剤の上に直接再塗装用の上塗り塗料(新たな塗料)を塗布した場合は、素地着色剤と上塗り塗料とが混ざり合って、上塗り塗料の色味が出ないことになる。
【0053】
また、含浸形の塗料が塗布されていた木材は、表面から塗料が内部に浸み込んでおり、
図5に示す素地調整方法が適用されて素地調整済木材2となったときに、第1の層(基材層3に対応)及び/又は第1の層よりも表面の側の第2の層(樹脂混合層5に対応)に含浸形の塗料の残留物(塗料残留物に相当)が残存し得る。第1の層及び/又は第2の層に塗料の残留物が残存している場合であっても、第1の層よりも表面の側の第2の層(樹脂混合層5に対応)にウレタン結合の補強を形成できるので差し支えない。また、第1の層及び/又は第2の層に塗料の残留物が残存している場合であっても、表面に顔料の色が残存しているので、後の再塗装の際に上塗り塗料の色味を出すことに差し支えない。また、塗装された木材にもともと含浸形の塗料が塗布されていたのは、木材の木目を視認可能にする目的もあり得ると考えられるところ、素地調整剤の塗布前に塗布した素地着色剤は木目強調剤としての役割を果たすことができ、塗装された木材の木目を際立たせることができる。特に、含浸形の塗料が塗布されていた木材が経年劣化したものに対して、素地着色剤を塗布して木材の木目を際立たせることは、斬新な思想である。素地調整済木材2では、樹脂混合層5と、素地調整剤が浸み込んだ着色剤層8とが混在して、ウレタン結合によって密着しており、樹脂混合層5と着色剤層8とが分離しないようになっている。このような状態の素地調整済木材2における基材層3、樹脂混合層5、着色剤層8の存在は、例えば赤外分光分析によって確認することができる。このような状態の素地調整済木材2に対し、後に再塗装の塗料として造膜形又は半造膜形の塗料を表面に塗布した場合、当該再塗装によって生成された塗膜(塗料定着物)は、素地調整済木材1(
図2参照)に再塗装の塗料を塗布した場合と同様に、素地調整済木材2に適切に密着することとなる。素地調整済木材2に対して再塗装して生成された再塗装済木材も、図示は省略するが、再塗装済木材10(
図4参照)に存在するのと同様の、再塗装によって形成された新たな塗膜17(
図4参照)を有する。他方、素地調整済木材2への再塗装の塗料として含浸形の塗料を塗布した場合、素地着色剤の塗布により際立った木材の木目を維持することができる。なお、
図2及び
図6では、基材層3と樹脂混合層5とが接している例を示しているが、基材層3と樹脂混合層5との間に、基材層3よりもリグニンの含有量が少ないが樹脂が存在していない層(樹脂が行き渡っていない層)が存在してもよい。この、基材層3よりもリグニンの含有量が少ないが樹脂が存在していない層は、典型的には樹脂混合層5よりもリグニンの含有量が多い。
【0054】
以上で説明したように、第2の実施の形態に係る素地調整方法によれば、含浸形の塗料が塗布されていた木材の表面に着色剤層が形成されるので、後に再塗装用の上塗り塗料として元の色と同じ色又は異なる色(特に明るい色)の塗料を塗布した場合に、暗くなることを抑制することが可能になり、再塗装用の上塗り塗料の色味を出すことができる。また、素地調整剤が着色剤層に浸み込んで木材の劣化層に到達するので、着色剤層を形成しながら素地調整剤を木材に塗布して木材の素地調整を行うことができる。また、木材の劣化層に到達した素地調整剤の2液ウレタンが劣化層において硬化するので、木材の劣化層を補強することができる。また、本実施の形態に係る素地調整済木材によれば、樹脂混合層及び着色剤層が形成されるので、後に再塗装を行った場合に、素地着色剤が再塗装用の上塗り塗料に色移りすることを防ぐことができる。また、素地着色剤が塗布されたことによって木材の木目を際立たせることができると共に、素地調整剤が塗布されたことによって木材の劣化した層を補強することができ、木材の耐候性及び意匠性を向上させることができる。また、木材の劣化層及び着色剤層がウレタン樹脂によって補強されているので、再塗装用の上塗り塗料を吸収し得る劣化層を消滅又は縮小させることができ、再塗装に適した木材を得ることができる。また、本実施の形態に係る再塗装済木材によれば、上述の素地調整済木材に再塗装しているので、再塗装用の上塗り塗料の色味を出すことを可能にしつつ、再塗装によって耐候性や耐摩耗性が再現又は向上された木材を簡便に得ることができる。
【0055】
なお、上記の第2の実施の形態に係る素地調整方法の説明では、素地着色剤を塗布して乾燥させた後に素地調整剤を塗布することとしているが、素地調整剤に素地着色剤(例えば顔料)を混合させることとしてもよい。この場合、
図5に示すフローチャートにおいて、2液ウレタンを混合する工程(S11)において素地着色剤も混合すればよい。さらに、
図5において、素地着色剤を塗布する工程(S12)及び決められた時間が経過したか否かを判断する工程(S13)を省略し、工程(S11)の後に素地調整剤を塗布する工程(S14)に進むようにすればよい。また、素地調整剤に素地着色剤を混合させる場合は、素地着色剤の割合を、50重量%(素地着色剤の重量/素地調整剤全体の重量)以下にすることが好ましく、30重量%以下にすることがより好ましい。素地調整剤に素地着色剤(例えば顔料)を混合させた場合も、木材の木目を際立たせることができ、木材の耐候性及び意匠性を向上させることができる。また、
図5に示す素地調整方法を適用する木材が、含浸形の塗料が表面に塗布されていた木材であるとしたが、造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されていた木材に適用してもよい。造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されていた木材に
図5に示す素地調整方法を適用した場合、素地調整済木材は、旧塗膜(塗料残留物)の表面に着色剤層(素地着色剤)が存在することになる。この場合も、樹脂混合層(第2の層)よりも表面の側に素地着色剤を備えることに変わりはない。
【0056】
以上の説明では、
図1及び
図5に示す素地調整方法を、屋外に露出している建物の木材の部分に適用することとしたが、建物以外の、例えば屋外に設置する又は屋内で日光や風雨が入る窓際に設置する家具等に適用することとしてもよい。
【0057】
以上の説明では、素地調整剤が希釈剤を含む場合、希釈剤に有機溶剤を用いる(すなわち溶剤形の素地調整剤を採用している)こととしたが、希釈剤に水を用いる(これを「水性の素地調整剤」という。)こととしてもよい。しかしながら、本発明者は、溶剤形の素地調整剤の方が水性の素地調整剤よりも旧塗膜に対する浸透性に優れることを見出したため、造膜形又は半造膜形の塗料が塗布されていた木材に対しては、溶剤形の素地調整剤を用いるのが好ましい。
【0058】
以上の説明では、塗装された木材(塗料残留物を有する木材)のベースとなる木材として、熱処理を行っていない木材(以下「未処理木材」という。)を想定しているが、熱処理木材を用いてもよい。熱処理木材は、典型的には、窒素雰囲気下や水蒸気雰囲気下などで150℃~240℃の加熱処理によって製造される木材である。熱処理木材は、薬品類を用いずに熱処理のみで製造することができる。熱処理木材は、通常、未処理木材に比べて耐朽性や寸法安定性が向上する。また、熱処理木材は、熱処理によって疎水的になり、木材表面の撥水性が高くなる。他方で、熱処理木材は、塗装した場合は未処理木材に比べて塗膜の剥離が多く発生し、また、日光や雨風等の影響で浸食されやすいとの報告がある。熱処理木材は、一般に、熱処理によって酢酸やギ酸が生成されるために未処理木材に比べて酸度が高くなっており、未処理木材に比べて密度が低くなっている。このため、熱処理木材は、屋外での浸食作用を受けやすく、通常の木材保護塗料では十分な耐候性能が得られないおそれがある。しかしながら、未処理木材に比べて耐候性が低く劣化が早い熱処理木材であっても、前述の素地調整方法を適用することで熱処理木材の劣化層をウレタン樹脂で補強することができ、熱処理木材の利点を持ちながら、劣化を抑制した素地調整済木材を得ることができる。
【実施例0059】
以下、前述の素地調整方法の実施例について説明する。以下に説明する実施例では、3種類の試験木材を用意した。第1の試験木材として、レッドウッドが平板状に加工された木材の表面に、半造膜形の塗料である三井化学産資株式会社製セミオペーク(登録商標)を塗布し、約7年間屋外で日射及び風雨に晒されたものを用意した。なお、
図3に示す木材が、この第1の試験木材である。
図3から把握されるように、第1の試験木材では、基材層3と旧塗膜7との間に、ワタ状になった木材の劣化層9が認められる。他方、第2の試験木材として、レッドウッドが平板状に加工された木材の表面に、造膜形の塗料である三井化学産資株式会社製ノンロットブルーノ(登録商標)を塗布したものに対し、約12年間相当の促進耐候性試験を行ったものを用意した。促進耐候性試験は、JIS K5600-7-7に規定されたキセノンランプ法を使用した。最後に、第3の試験木材として、レッドウッドが平板状に加工された木材の表面に、含浸形の塗料である大阪ガスケミカル株式会社製キシラデコール(登録商標)を塗布し、約5年間相当の上記促進耐候性試験を行ったものを用意した。そして、これらの第1の試験木材、第2の試験木材、及び第3の試験木材に対して以下の条件で素地調整を実施した。
【0060】
素地調整を実施した木材に対しては、さらに、
図7に示す要領で付着性試験を実施した。この付着性試験は、第1の試験木材及び第2の試験木材に対して素地調整を実施したものに相当する素地調整済木材1の表面にセロハン粘着テープ99を貼り付けた後、セロハン粘着テープ99を、その一端と素地調整済木材1に貼り付けられている部分とのなす角θを60度にして斜め上方に剥がしたときに、旧塗膜7が剥がれなければ合格とした。また、第3の試験木材に対して素地調整を実施したものに相当する素地調整済木材2(
図6参照)に対しても同じ要領で当該付着性試験を実施し、着色剤層8が剥がれなければ合格とした。なお、この付着性試験は、JIS K5600-5-6に準じたものであるが、素地調整済木材1、2の表面に切り込みを行っていない点で上記規格とは異なっている。ここでの付着性試験で切り込みを行わなかったのは、屋外で経年した木材には割れが入っている場合が多く、切り込みを入れると木材が欠けてしまうおそれがあるためである。
【0061】
(実施例1)
<使用した試験木材>
第1の試験木材
<2液ウレタン>
主剤:キャピタルペイント株式会社製「CX-520ウレタンシーラーA液」
硬化剤:キャピタルペイント株式会社製「CX-520ウレタンシーラーB液」
<希釈剤>
キャピタルペイント株式会社製「NAウレタンシンナー」
<素地調整剤の準備>
上記2液ウレタンの主剤100重量部と硬化剤50重量部とを混ぜ合わせ、2液ウレタン塗料150重量部を得た。このときの硬化剤に対する主剤の重量比率は、2.0(=100/50)である。この2液ウレタン塗料150重量部と希釈剤100重量部とを混ぜ合わせ、素地調整剤を得た。このときの2液ウレタンに対する希釈剤の重量比率は、0.67(=100/150)である。
【0062】
<素地調整剤の塗布>
第1の試験木材の表面をウエスで拭いて塵埃を軽く除去した後、残存している旧塗膜の上から、上記の素地調整剤を塗布した。素地調整剤を第1の試験木材の表面に塗布して2分程度放置した後、当該表面をウエスで拭き、余分な素地調整剤を除去した。その後さらに2時間程度放置して、素地調整済木材を得た。このようにして得た素地調整済木材の顕微鏡写真を、
図8に示す。
図8から分かるように、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ワタ状の様子が消え、ウレタン樹脂で補強された樹脂混合層5になっている。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、旧塗膜7と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに旧塗膜の付着はなかった。つまり、実施例1に係る素地調整方法によって得られた素地調整済木材は、旧塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、前述の半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、健全な塗膜の存在を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗膜の付着はなく、換言すれば新塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。
【0063】
(実施例2)
実施例2は、試験木材として第2の試験木材を用いた点を除き、実施例1と同じ条件で実施した。つまり、実施例2では、実施例1で用いたのと同じ2液ウレタン及び希釈剤を、実施例1と同じ比率で混合して、実施例1と同じ素地調整剤を得た。この素地調整剤を、実施例1と同じ要領で第2の試験木材に塗布して素地調整済木材を得た。このようにして得られた素地調整済木材を調査したところ、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ウレタン樹脂で補強されていた。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、旧塗膜と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに旧塗膜の付着はなかった。つまり、実施例2に係る素地調整済木材は、旧塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、実施例1と同様に、半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、健全な塗膜の存在を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗膜の付着はなく、換言すれば新塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。なお、実施例2では、再塗装の塗料として、旧塗膜を形成する元になった造膜形の塗料とは異なる半造膜形の塗料を使用したが、旧塗膜を形成する元になった造膜形の塗料を用いても同じ結果となることが推定される。
【0064】
(実施例3)
<使用した試験木材>
第1の試験木材
<2液ウレタン>
主剤:和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコNo.250ウッドシーラーP液」
硬化剤:和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコNo.250ウッドシーラーD液」
<希釈剤>
キャピタルペイント株式会社製「NAウレタンシンナー」
<素地調整剤の準備>
上記2液ウレタンの主剤100重量部に対して硬化剤100重量部を混ぜ合わせ、2液ウレタン塗料200重量部を得た。このときの硬化剤に対する主剤の重量比率は、1.0(=100/100)である。この2液ウレタン塗料200重量部に対して希釈剤50重量部を混ぜ合わせ、素地調整剤を得た。このときの2液ウレタンに対する希釈剤の重量比率は、0.25(=50/200)である。
【0065】
<素地調整剤の塗布>
第1の試験木材の表面をウエスで拭いて塵埃を軽く除去した後、残存している旧塗膜の上から、上記の素地調整剤を塗布した。素地調整剤を第1の試験木材の表面に塗布して2分程度放置した後、当該表面をウエスで拭き、余分な素地調整剤を除去した。その後さらに2時間程度放置して、素地調整済木材を得た。このようにして得られた素地調整済木材を調査したところ、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ウレタン樹脂で補強されていた。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、旧塗膜と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに旧塗膜の付着はなかった。つまり、実施例3に係る素地調整方法によって得られた素地調整済木材は、旧塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、前述の半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、健全な塗膜の存在を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗膜の付着はなく、換言すれば新塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。
【0066】
(実施例4)
実施例4は、試験木材として第2の試験木材を用いた点を除き、実施例3と同じ条件で実施した。つまり、実施例4では、実施例3で用いたのと同じ2液ウレタン及び希釈剤を、実施例3と同じ比率で混合して、実施例3と同じ素地調整剤を得た。この素地調整剤を、実施例3と同じ要領で第2の試験木材に塗布して素地調整済木材を得た。このようにして得られた素地調整済木材を調査したところ、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ウレタン樹脂で補強されていた。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、旧塗膜と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに旧塗膜の付着はなかった。つまり、実施例4に係る素地調整済木材は、旧塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、実施例3と同様に、半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、健全な塗膜の存在を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗膜の付着はなく、換言すれば新塗膜の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。なお、実施例4では、再塗装の塗料として、旧塗膜を形成する元になった造膜形の塗料とは異なる半造膜形の塗料を使用したが、旧塗膜を形成する元になった造膜形の塗料を用いても同じ結果となることが推定される。
【0067】
(実施例5)
<使用した試験木材>
第3の試験木材
<2液ウレタン>
主剤:キャピタルペイント株式会社製「CX-520ウレタンシーラーA液」
硬化剤:キャピタルペイント株式会社製「CX-520ウレタンシーラーB液」
<素地着色剤>
キャピタルペイント株式会社製「ピュアPGステイン」
<分散剤>
キャピタルペイント株式会社製「ピュアシンナー」
<素地着色剤の準備>
上記素地着色剤100重量部に対して分散剤100重量部を混ぜ合わせ、塗布用の着色剤を得た。
<素地調整剤の準備>
上記2液ウレタンの主剤100重量部と硬化剤50重量部とを混ぜ合わせ、2液ウレタン塗料150重量部を得た。このときの硬化剤に対する主剤の重量比率は、2.0(=100/50)である。この2液ウレタン塗料150重量部を素地調整剤とした。
【0068】
<素地着色剤及び素地調整剤の塗布>
第3の試験木材の表面をウエスで拭いて塵埃を軽く除去した後、上記の塗布用着色剤を塗布した。塗布用着色剤を第3の試験木材の表面に塗布して12時間程度放置した後、着色剤層の上から上記の素地調整剤を塗布した。着色剤層が形成された第3の試験木材の表面に素地調整剤を塗布して2分程度放置した後、念のため当該表面をウエスで拭き、存在し得る余分な素地調整剤を除去した。その後さらに2時間程度放置して、素地調整済木材を得た。このようにして得られた素地調整済木材を調査したところ、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ウレタン樹脂で補強されており、表面の着色剤層と共に硬化していた。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、着色剤層と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に前述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに着色剤層の付着はなかった。つまり、実施例5に係る素地調整方法によって得られた素地調整済木材は、着色剤層の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、再塗装用の上塗り塗料として前述の含浸形の塗料であるキシラデコール(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、再塗装用の上塗り塗料の色味を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗料の付着はなく、換言すれば新塗料の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。
【0069】
(実施例6)
<2液ウレタン>
主剤:和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコNo.250ウッドシーラーP液」
硬化剤:和信化学工業株式会社製「ポリウレックスエコNo.250ウッドシーラーD液」
<素地調整剤の準備>
上記2液ウレタンの主剤100重量部に対して硬化剤100重量部を混ぜ合わせ、2液ウレタン塗料200重量部を得た。このときの硬化剤に対する主剤の重量比率は、1.0(=100/100)である。この2液ウレタン塗料200重量部を素地調整剤とした。
【0070】
実施例6は、素地調整剤として上記のものを用いた点を除き、実施例5と同じ条件で実施した。つまり、実施例6では、第3の試験木材に対して、実施例5で用いたのと同じ塗布用着色剤を塗布し、12時間程度放置した後、実施例5と同じ要領で素地調整剤を塗布して素地調整済木材を得た。このようにして得られた素地調整済木材を調査したところ、素地調整剤を塗布する前に劣化層であった部分は、ウレタン樹脂で補強されており、表面の着色剤層と共に硬化していた。ウレタン樹脂で補強された部分の触感は、硬化しており、着色剤層と共に離脱する兆候は見られなかった。得られた素地調整済木材に前述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに着色剤層の付着はなかった。つまり、実施例6に係る素地調整済木材は、着色剤層の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。その後、得られた素地調整済木材に、実施例5と同様に、再塗装用の上塗り塗料として含浸形の塗料であるキシラデコール(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、再塗装用の上塗り塗料の色味を確認することができた。このようにして得られた再塗装済木材についても上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに新塗料の付着はなく、換言すれば新塗料の剥離はなく、付着性試験に合格したことが確認できた。
【0071】
(比較例1)
比較例1として、第1の試験木材に対して、素地調整を行わずに、上述の付着性試験を行った。セロハン粘着テープを第1の試験木材に貼り付けてから剥がしてみると、セロハン粘着テープに劣化層及び旧塗膜が付着しており、第1の試験木材からの劣化層及び旧塗膜の剥離を確認できた。さらに、この素地調整が行われていない第1の試験木材に対して半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに劣化層、旧塗膜、及び新塗膜が付着しており、塗装された第1の試験木材からの劣化層、旧塗膜、及び新塗膜の剥離を確認できた。
【0072】
(比較例2)
比較例2として、第2の試験木材に対して、素地調整を行わずに、上述の付着性試験を行った。セロハン粘着テープを第2の試験木材に貼り付けてから剥がしてみると、セロハン粘着テープに劣化層及び旧塗膜が付着しており、第2の試験木材からの劣化層及び旧塗膜の剥離を確認できた。さらに、この素地調整が行われていない第2の試験木材に対して半造膜形の塗料であるセミオペーク(登録商標)を塗布し、5日後に上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに劣化層、旧塗膜、及び新塗膜が付着しており、塗装された第2の試験木材からの劣化層、旧塗膜、及び新塗膜の剥離を確認できた。
【0073】
(比較例3)
比較例3として、第3の試験木材の表面に塗布用着色剤を塗布したものに対して、素地調整を行わずに、上述の付着性試験を行った。セロハン粘着テープを第3の試験木材に貼り付けてから剥がしてみると、セロハン粘着テープに劣化層及び着色剤層が付着しており、第3の試験木材からの劣化層及び着色剤層の剥離を確認できた。さらに、この塗布用着色剤が塗布されているが素地調整が行われていない第3の試験木材に対して含浸形の塗料であるキシラデコール(登録商標)を塗布し、5日後に確認したところ、再塗装用の上塗り塗料の本来の色とは異なる色になっていた。また、上述の付着性試験を行ったところ、セロハン粘着テープに劣化層、着色剤層、及び新塗料が付着しており、塗装された第3の試験木材からの劣化層、着色剤層、及び新塗料の剥離を確認できた。
【0074】
以上で示した各実施例及び各比較例の結果から、塗装された木材に対して、2液ウレタンを含む素地調整剤を塗布せずに、新たな塗料を塗布した場合は、新塗膜(新塗料)が劣化層と共に剥離するが、当該素地調整剤を塗布してから新たな塗料を塗布すると、新塗膜(新塗料)の剥離を回避できることが確認できた。