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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099506
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】水処理方法および水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20240718BHJP
【FI】
C02F1/28 A
C02F1/28 D
C02F1/28 L
C02F1/28 F
C02F1/28 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024003438
(22)【出願日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2023003397
(32)【優先日】2023-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】井関 正博
(72)【発明者】
【氏名】鳥巣 亜麻音
(72)【発明者】
【氏名】今野 大輝
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 ひな乃
(72)【発明者】
【氏名】浅見 瑚子
【テーマコード(参考)】
4D624
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AA10
4D624AB04
4D624AB11
4D624AB16
4D624BA02
4D624BA16
4D624BB01
4D624DB03
(57)【要約】
【課題】本発明は、水環境中の難分解性物質及び/又は重金属を効率的に吸着及び除去するための水処理方法及び該方法に使用するための水処理方法及び水処理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明によれば、被処理物質を含む被処理水を水処理する方法であって、(a)吸着物質と被処理物質を大気圧下で混合する工程;及び(b)吸引若しくは加圧によってろ過を行う工程を含む上記水処理方法、ならびに該水処理方法を行うための水処理装置が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物質を含む被処理水を水処理する方法であって、
(a)吸着物質と被処理物質を大気圧下で混合する工程;及び
(b)吸引若しくは加圧によってろ過を行う工程
を含む上記水処理方法。
【請求項2】
前記工程(a)を1~120分間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
(c)工程(a)及び(b)を1回から複数回繰り返すことを含む、請求項1又は2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記吸着物質が金属有機構造体又は多孔性配位高分子である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項5】
前記吸着物質が活性炭である、請求項1~3のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項6】
前記吸着物質が粒径100μm以下である、請求項1~5のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項7】
前記被処理物質が、有機フッ素化合物、環状エーテル、ダイオキシン、医薬品、重金属、又はこれらの混合物である、請求項1~6のいずれか1項に記載の水処理方法。
【請求項8】
被処理水タンク、吸着塔、及びろ過塔を備える、請求項1~7のいずれか1項に規定の水処理方法に使用するための水処理装置。
【請求項9】
複数の吸着塔及び複数のろ過塔を備える、請求項8に記載の水処理装置。
【請求項10】
メリーゴーランド方式である、請求項9に記載の水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機フッ素化合物及び医薬品等の難分解性有機物及び/又は重金属を含む被処理水(例えば、工業排水、生活排水及び飲料水)の水処理方法に関し、特に、吸着物質を用いて難分解性有機物を吸着及び濃縮し、物理化学的手段により難分解性有機物を分解する水処理方法に関する。また、該水処理方法に使用するための水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
各工場や家庭から排出される排水には、難分解性物質(典型的には、有機フッ素化合物や医薬品)を含む多くの有機物が含まれている。近年、環境保護の機運の高まりから、これらの有機物を高精度に処理したうえで、環境中に排出することが求められている。また、医薬品の服用後に生体内で分解されず排泄された医薬品や、化粧品・塗り薬の洗い出しにより生活排水に混入した薬用石鹸などは、少なからず下水処理場や家庭の浄化槽において処理され得ないため、医薬品や石鹸は河川水に排出され、続いて、取水され、浄水場を経由して飲料水として生体に取り込まれることになる。
【0003】
有機フッ素化合物(PFCs)は優れた化学的安定性を有するため、長期に渡り様々な産業で用いられてきた。パーフルオロオクタン酸(PFOA)は最も一般的なPFCの1つであり、その安定性ゆえに環境中に排出されると分解されず、世界中の水環境中に存在している。また、発ガン性等の人体への影響が懸念されている。
【0004】
また、上記のPFOAの他、パーフルオロオクンタスルホン酸(PFOS)、パーフルオロアルキルスルホン酸(PFAS)、パーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド、又はパーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド誘導体等のPFCsの処理が近年問題となっている。これらは、環境中で非常に安定であり、河川や地下水等の水環境への蓄積が確認されていることから、これらもまた排水等から分解、除去する技術が求められている。
【0005】
また、難分解性物質として、ダイオキシン類が知られている。ダイオキシン類は、毒性が強く、一般廃棄物最終処分場の浸出水や産業廃水等の汚水中などに微量含まれており、これを高度に分解除去する技術が求められている。
【0006】
さらに、難分解性物質として、1,4-ジオキサンが挙げられる。1,4-ジオキサンは、一般に溶剤等として使用されており、市販のポリオキシアルキルエーテルのような洗剤中にも含まれている。このため、1,4-ジオキサンを製造する工程からの廃水中、或いはポリエチレン系の製品を製造する工程や使用する工程からの廃水中に1,4-ジオキサンが含まれ、その濃度は、前記の物質を含む排水の濃度と比較して高い場合が多い。
【0007】
また、排出された医薬品は、有害性ではないが、上記の通り、飲料水として健常者が服用してしまうという問題、また、抗生物質の場合、環境中の微生物を死滅させ、一方で、耐性菌を生じさせるという悪循環を助成するという問題がある。
【0008】
他には、鉱山由来の重金属(カドミウム、鉛、ヒ素等)による水質汚染の問題もあり、公共用水域へ流入させる前に無害化する対策(坑廃水処理対策)が望まれている。
【0009】
PFCsを完全に分解することができる唯一の方法は、焼却である。しかしながら、水を焼却するのは多大なエネルギーが必要であるため、現実的ではない。また、生成物のフッ酸は、焼却塔の管路を損傷するため、好ましい方法とは言えない。そこで、穏和な酸化条件が求められる。その中でも電気分解は有力候補であり、本発明者らによって、PFCsを高効率に吸着及び分解する技術を開発している(特許文献1)。
【0010】
一般に、有機物を含有する排水の分解方法としては、例えば、オゾン酸化法、促進酸化法、電気分解法又は生物処理法等が知られている。
【0011】
上述した方法のうち、難分解性物質対象の生物処理法は、排水処理可能な方法として現在注目されているが、一般に、処理能力が未だ十分でなく、大量の排水に対して安定した分解除去性能を得るのは困難である。
【0012】
例えば、特許文献2には、1,4-ジオキサンに対する分解活性の高い微生物を用いた環状エーテルの分解方法が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示の方法でも、難分解性物質に対する分解除去効率は必ずしも十分ではなかった。このため、難分解性物質を、より高精度に分解除去可能な処理方法が求められている。
【0013】
上述した方法のうち、難分解性物質の分解除去に対して最も有効な手法として、促進酸化法が挙げられる。促進酸化法は、例えば過酸化水素処理及び紫外線処理を併用することで、OHラジカルの形成を促進するものであり、酸化力が強力で、かつ汚泥等の副生成物を生じないため、最も有力な方法とされている。この他にも、硫酸ラジカルによる促進酸化や電気分解による直接酸化も難分解性物質の分解には有効である。
【0014】
一方、PFCs及び医薬品は水環境中で希薄という点から、処理するにしても効率が悪い。そのため、できるだけ濃縮して分解処理することが望まれる。例えば、このような処理として吸着技術が想起され、一般的には活性炭が使用され得る。活性炭よりも対象物質の選択性が高い吸着剤として、最近金属有機構造体又は多孔性配位高分子が注目されている。但し、いずれにしても吸着にはある一定の平衡時間が必要であり、その平衡吸着量も限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2021-137805号公報
【特許文献2】特開2004-298116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、従来方法と比較して、被処理水中に含まれる難分解性物質をより低濃度まで処理可能な水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、対象物質であるPFOAを多孔性錯体結晶(例えば、ZIF-8)に吸着させ(平衡吸着)、その後、引き続いて行う吸引ろ過又は加圧ろ過によって吸着効率が飛躍的に高まることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
本発明の水処理方法は、排水中及び水環境中の希薄な対象物質を金属有機構造体(Metal-Organic Frameworks;MOF)に平衡吸着させ、その後のろ過吸着によって高濃縮させるという画期的な特徴を有する。さらに、本発明者らによって開発した電気分解技術(特開2021-137805号公報)を用いて対象物質を分解してもよい。なお、対象物質は、二酸化炭素まで分解されるが、MOFも分解され、構成体である金属は陰極に析出する。そこで、金属を極性転換によって溶出させ、MOFを再構成することが可能となる。また、吸着物質として金属有機構造体以外にも活性炭を用いた場合にも本発明の水処理方法に適用可能であることが判明した。
【0019】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
[1]被処理物質を含む被処理水を水処理する方法であって、
(a)吸着物質と被処理物質を大気圧下で混合する工程;及び
(b)吸引若しくは加圧によってろ過を行う工程
を含む上記水処理方法。
[2]前記工程(a)を1~120分間行う、上記[1]に記載の方法。
[3](c)工程(a)及び(b)を1回から複数回繰り返すことを含む、[1]又は[2]のいずれかに記載の方法。
[4]前記吸着物質が金属有機構造体又は多孔性配位高分子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の水処理方法。
[5]前記吸着物質が活性炭である、[1]~[3]のいずれかに記載の水処理方法。
[6]前記吸着物質が粒径100μm以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の水処理方法。
[7]前記被処理物質が、有機フッ素化合物、環状エーテル、ダイオキシン、医薬品、重金属、又はこれらの混合物である、[1]~[6]のいずれかに記載の水処理方法。
[8]被処理水タンク、吸着塔、及びろ過塔を備える、[1]~[7]のいずれかに規定の水処理方法に使用するための水処理装置。
[9]複数の吸着塔及び複数のろ過塔を備える、[8]に記載の水処理装置。
[10]メリーゴーランド方式である、[9]に記載の水処理装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明の水処理方法によれば、被処理水中に含まれる難分解性有機物及び/又は重金属を効率的に吸着及び除去させることができ、有機物含有量及び重金属が極めて低減された処理水を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】吸着剤としてZIF-8を使用し、平衡吸着させずに吸引ろ過のみを行った場合のPFOAの吸着除去率を示す図である。ろ過前の混合水中のPFOA量(濃度)を基準とした、繰り返しの吸引ろ過によるPFOA量(濃度)の変化を比として示す。
図2】30分間又は60分間の撹拌(平衡吸着)後に吸引ろ過を行った場合のPFOAの吸着除去率を示す図である。ろ過前の混合水中のPFOA量(濃度)を基準とした、1回又は2回の吸引ろ過によるPFOA量(濃度)の変化を比として示す。
図3】吸着剤として粉末状活性炭を使用し、各経過時間(平衡吸着)後に吸引ろ過を行った場合のPFOAの吸着除去率を示す図である。ろ過前の混合水中のPFOA量(濃度)を基準とした、1回又は2回の吸引ろ過によるPFOA量(濃度)の変化を比として示す。
図4図3の実験で使用した粉末状活性炭を回収し、同様の実験を繰り返した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の被処理水(工業排水、生活排水、飲料水など)の水処理するための装置及び方法について説明する。
(1)水処理装置
本発明の被処理水を水処理するための装置には、被処理水源から供給される被処理水を収容する被処理水タンク、該タンクから供給された被処理水を処理するための吸着塔であって、吸着塔内には被処理水中の難分解性物質(以下、「対象物質」と呼ぶ場合がある)を吸着物質に吸着させるための手段が設けられている。吸着塔の数は、限定されないが、少なくとも1つ、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、及び10であり得る。
【0023】
吸着塔においては、被処理水タンクから供給された被処理水が、後述する本発明の被処理水の水処理方法に従って、平衡吸着(第1吸着段階)及び吸引ろ過吸着又は加圧ろ過吸着(第2吸着段階)処理した後、処理水は、処理水タンクに一時的に貯蔵されてもよく、又は直接、排水されてもよい。さらなる態様では、上記2つの吸着段階後に、対象物質を電気分解する段階を含めてもよく、さらには適宜、電気分解を行う前に被処理水のpHを一時的に酸性に調整する段階を含めてもよい。なお、被処理水タンク、吸着塔(複数可)、及び処理水タンクは、それぞれ配管で接続されている。
【0024】
吸着塔における平衡吸着(第1吸着段階)では、被処理水は、大気圧下で吸着物質(例えば、金属有機構造体、多孔性配位高分子、又は活性炭)と混合させることを目的とする。したがって、吸着塔には、被処理水と吸着物質とを接触させ、及び混合する手段が備わっている。吸着物質と被処理物質を混合する工程では、撹拌する工程が伴っていてもよく、上記吸着塔に撹拌手段を備えることができる。これらの手段は特に限定されず、上記目的が達成される限り、当業者の技術的範囲内の手段であり得る。続く、吸着塔における吸着(典型的には、吸引ろ過吸着又は加圧ろ過吸着)(第2吸着段階)では、第1吸着段階で処理された被処理水をさらに吸着させることを目的とする。したがって、吸着塔には、第1吸着段階で処理された被処理水をさらに吸着させる手段が備わっている。
【0025】
吸着物質を所定の容器内に充填して用いる場合、その容器の形状や吸着物質の充填層の形状については、吸着物質と被処理水が接触できればよく、例えば、円筒状、円柱状、多角柱状、箱型等の容器が適用できる。また、上述した容器から吸着物質が流出しないように、固液分離機構、例えば、目皿やメッシュなどを具備していることが好ましい。容器の材質は、特に限定されないが、ステンレス、FRP(ガラス繊維入り強化プラスチック)、ガラス、各種プラスチックなどが適用できる。
【0026】
第2吸着段階では、第1吸着段階で平衡吸着に達した被処理水をさらにろ過することにより吸着率を高めるものであり、ろ過手段としては、特に限定されるものではない。例えば、ろ過手段としては、ろ過膜として精密ろ過膜(MF膜)又は限外ろ過膜(UF膜)を使用した膜分離法を適用することができる。MF膜又はUF膜としては、従来公知の任意の材料により形成された適切な孔径を有するMF膜又はUF膜を用いることができる。その他のろ過手段としては、クロスフロー方式であってよく、また全量ろ過方式であってもよい。さらには、ろ過手段は、外圧ろ過方式又は内圧ろ過方式のいずれであってもよい。このようなろ過では、吸引ろ過(減圧ろ過)又は加圧ろ過のいずれであってもよい。ろ過における圧力は適宜設定することができ、ろ液の流量を一定に保ってろ過を行う定流量ろ過又は膜差圧を一定に保ってろ過を行う定圧ろ過のいずれであってもよい。
【0027】
上記の吸着塔において付加的に、適宜行ってもよい被処理水の電気分解では、陽極(例えば、ボロンドープダイヤモンド(BDD)を付着させた基材電極)及び陰極(白金又はBDD)、ならびに電源が設けられている。
【0028】
また、上記の吸着塔において付加的に行ってもよい被処理水のpHの調整では、吸着塔の上流又は吸着塔においてpH調整剤を添加するpH調整手段を備えることができる。さらに、被処理水のpH値を測定するpH測定器を設けることができる。
【0029】
なお、上記のいずれかの吸着塔において、被処理水中の対象物質を、例えば金属有機構造体(多孔性錯体結晶など)に吸着させ、対象物質を分解(無機化工程)した後、対象物質と同時に分解された使用済みの金属有機構造体を再構成し得る手段を備えることができる。活性炭を用いた場合も同様に電気分解等で対象物質を分解すると同時に活性炭を再生し再利用する手段を備えることができる。
【0030】
本発明によれば、水処理装置に、いわゆる「メリーゴーランド方式」を採用することができる。本明細書で使用する場合、「メリーゴーランド方式」とは、複数の吸着塔を用意して、対象物質を連続的に回収するための手段である。例えば、吸着塔が3つの場合、第1の吸着塔において吸着物質への対象物質の吸着が飽和に達した場合、第1の吸着塔中の被処理水を第2の吸着塔に移動させ、第2の吸着塔において吸着物質への対象物質の吸着が飽和に達した場合、第2の吸着塔の被処理水を第3の吸着塔に移動させる。この場合、第1の吸着塔において、対象物質を無機化及び吸着物質の分解生成物を吸着後、吸着物質を再構成することにより、先の第3の吸着塔において吸着物質への対象物質の吸着が飽和に達した場合、再生させた第1の吸着塔に移動させることにより、吸着物質を再構成し得るという特徴に基づいて、連続的に被処理水を処理することができる。
【0031】
(2)水処理方法
本発明によれば、被処理物質を含む被処理水を水処理する方法であって、(a)吸着物質と被処理物質を大気圧下で混合する工程;及び(b)吸引若しくは加圧によってろ過を行う工程を含む上記水処理方法が提供される。上記工程(a)及び(b)を1回から複数回繰り返すことを含む工程をさらに含んでもよい。
【0032】
本明細書で使用される場合、「難分解性物質」という用語は、「対象物質」と互換的に使用され、有機フッ素化合物(Perfluoro chemicals:PFCs)、医薬品(例えば、難分解発がん物質、抗生物質)などを指す。有機フッ素化合物には、限定されないが、パーフルオロオクタン酸(PFOA)、パーフルオロオクンタスルホン酸(PFOS)、パーフルオロアルキルスルホン酸(PFAS)、パーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド、及びパーフルオロオクタンスルホン酸フルオリド誘導体など挙げられる。また、本明細書では、「難分解性物質」に、環状エーテル(1,4-ジオキサンなど)、ダイオキシン、又はこれらの混合物を含めることができる。また、本明細書で使用される場合、「重金属」という用語は、上記「対象物質」と互換的に使用され、カドミウム、鉛、ヒ素などを指す。
【0033】
本明細書で使用される場合、「吸着物質」とは、被処理水中の対象物質を吸着し、さらには濃縮し得る物質であって、金属有機構造体、多孔性配位高分子、及び活性炭が例示される。本明細書では、「金属有機構造体」とは、多孔性の錯体結晶を形成するものであり、より具体的には、有機配位子が金属イオンの存在下で、配位結合が連続的に起こって細孔構造を形成した結晶を指す。
【0034】
本発明において使用される金属有機構造体は、吸着させるべき対象物質に基づいて、適宜選択することができる。金属有機構造体は、ゼオライト様イミダゾレート構造体であることが好ましい。特に、亜鉛イオン又はコバルトイオンとイミダゾール化合物とから形成されるゼオライト様イミダゾレート構造体が、その製造容易性から好ましく用いられる。この構造体は、「ZIF-8」の名称で一般的に公知であり、当業者であれば、合成し又は入手可能である。
【0035】
金属イオンが亜鉛イオンである態様において、用いられる有機配位子はイミダゾール化合物であることが好ましい。イミダゾール化合物としては、限定されないが、2-メチルイミダゾール、イミダゾール-2-カルボアルデヒド、5-アザベンゾイミダゾール、4-アザベンゾイミダゾールなどが挙げられる。好ましくは、2-メチルイミダゾール又はイミダゾール-2-カルボアルデヒドである。
【0036】
金属イオンがコバルトイオンである態様において、用いられる有機配位子はイミダゾール化合物であることが好ましい。イミダゾール化合物としては、限定されないが、2-メチルイミダゾール、イミダゾール-2-カルボアルデヒド、5-アザベンゾイミダゾール、4-アザベンゾイミダゾールなどが挙げられる。好ましくは、2-メチルイミダゾールである。
【0037】
本発明に使用される金属有機構造体は、好ましくは、平均粒径が、10nm以上1000nm以下であり、より好ましくは、20nm以上500nm以下である。限定されないが、例えば、10~500nm、10~300nm、10~200nm、1~100nm、20~300nm、20~200nm、20~100nm、30~500nm、30~300nm、30~200nm、30~100nm、40~500nm、40~300nm、40~200nm、40~100nm、50~500nm、50~200nm、
50~100nmなどが挙げられる。また、金属有機構造体は、粒度分布が単分散性に近く、粒度分布の広さの指標である「d90/d10」の値が、好ましくは、1.0以上3.0以下であり、より好ましくは、1.0以上2.0以下である。また、「d90/d50」の値が、好ましくは、1.0以上3.0以下であり、より好ましくは、1.0以上2.0以下である。金属有機構造体は、上記範囲の粒径及び分散性を有することにより、特定の物質を選択的に吸着する吸着体としての用途に好適に用いることができる。
【0038】
本発明において使用される多孔性配位高分子は、吸着させるべき対象物質に基づいて、適宜選択することができる。多孔性配位高分子は、金属イオンと有機配位子が交互に配位結合されてなる構造体である。当業者に理解されるように、多孔性配位高分子を構成する有機配位子とは、金属イオンと配位可能な複数の官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を指す。なお、多孔性配位高分子の細孔口径は、IUPACの定義によるマイクロポアの領域である0.6~1.0nmの範囲内であるが、適宜、変更可能である。なお、本明細書では、「多孔性配位高分子」なる用語は、上記「金属有機構造体」と互換的に使用され得る。
【0039】
本発明で使用される活性炭とは、木などの炭素物質から高温での活性化反応を経て製造される、多孔質の、炭素を主な成分とする物質を指す。一般的に活性炭は、粉末状活性炭及び顆粒状(又は粒状)活性炭として知られ、本発明の水処理方法においてはいずれの活性炭も使用可能である。好ましくは、粉末状活性炭である。粉末状活性炭は、通常、直径1mm未満を有する。本発明によれば、粉末状活性炭の粒径は、限定されないが、1μm~1mmであり、好ましくは1~500μm、より好ましくは1~300μm、さらに好ましくは1~100μm、例えば、1~50μm、1~30μm、1~20μm、1~10μmであり得る。
【0040】
上記の通り、本発明の被処理水の水処理方法は、吸着塔においては、被処理水タンクから供給された被処理水を平衡吸着(第1吸着段階)及び吸引ろ過吸着又は加圧ろ過吸着(第2吸着段階)処理することによって特徴付けられる。第1吸着段階では、被処理水中の対象物質と、吸着物質とを接触させ、及び混合させる工程を含む。平衡吸着に達するまでの時間は、対象物質及び吸着物質に依存するが、例えば、上記工程は、約15~120分程度で十分であると考えられるが、例えば、第1吸着段階は、120分以内、好ましくは60分以内であり得、また、例えば、1~120分間、1~60分間、5~60分間、5~30分間、10~60分間、10~30分間であってもよい。第2吸着段階については、上記「(1)水処理装置」の項について詳述した通りである。
【0041】
本発明によれば、前述のように、メリーゴーランド方式を採用することができるため、第1吸着段階と第2吸着段階を繰り返して行う方法が提供される。反復する回数は特に限定されるものではないが、「複数回」には、例えば、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、及び10回などが含まれる。
【0042】
付加的に、吸着物質に吸着させた対象物質は、吸着物質とともに物理化学的手法に分解されてもよい。物理化学的手法としては、典型的には、電気分解手段であり得る。電気分解に使用させ得る電極としては、例えば、ダイヤモンドにドープしたダイヤモンド(例えば、ボロンドープダイヤモンド(BDD))を付着させた基材電極が挙げられる。一般的に、ダイヤモンドにドープするとダイヤモンドは導電性になり、かかるドープダイヤモンド材料を用いると電気化学デバイスに使用できる電極を形成することができるということが知られている。本発明によれば、BDDを陽極として使用した場合、陰極として、白金電極又はグラファイトを使用することができる。
【0043】
例えば、陽極としてBDD電極、及び陰極としてグラファイトを使用する場合の電気分解に基づく対象物質の電気分解の例では、最初に、以下の反応式に示すように、水を電気分解することにより生成されるオゾン(O3)及び過酸化水素(H22)を利用する。
陽極:3H2O→6H++6e-+O3
陰極:O2+2H++2e-→H22
【0044】
次に、以下の示すように、オゾンと過酸化水素の反応からOHラジカル(・OH)を生成させ、これにより対象物質(有機物:R)を分解することができる。
2O3+H22→2・OH+3O2
R+・OH→H2O+CO2
【0045】
一方で、上記の態様に加えて、陽極上でBDD触媒により、対象物質(有機物:R)を直接、電解により分解してもよい。
R→ROH→ROOH→H2O+CO2
【0046】
本発明によれば、被処理水を促進酸化処理法により、又は上記の電気分解と併用して処理してもよい。促進酸化処理法は、オゾン、過酸化水素、紫外線などを少なくとも1つ、好ましくは2つを使用して、被処理水中の対象物質を酸化分解する方法である。オゾンと過酸化水素を利用する例は、前述の通りである。また、オゾンとUVの反応からOHラジカル(・OH)を生成して対象物質を分解する反応機構は、以下の通りである。
3+hν→O+O2
O+H2O→2・OH
R+・OH→H2O+CO2
【0047】
また、被処理水中の対象物質を効率的に処理するために、被処理水中にpH調整剤を添加してもよい。pH調整剤としては、公知のものを用いることができ、限定されないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸や、アンモニア、水酸化ナトリウムなどの無機アルカリ成分を挙げることができる。また、pH値を安定化させるため、緩衝液を添加してもよい。
【0048】
付加的に、被処理水中の対象物質を吸着及び濃縮した後、対象物質を物理化学的手法によって分解する前に、例えば、上記pH調整剤(硫酸など)を用いて、被処理水のpHを一時的に酸性にし、その後pH調整剤(水酸化ナトリウムなど)を用いて元のpH付近に戻すことにより、対象物質を効率的に分解することができる。調整後(酸性)のpH値は、限定されないが、pH0~3の範囲、又はこれらの範囲に含まれる任意のpHであり得る。被処理水の酸性状態を維持する時間は、一時的であればよく、特に限定されないが、1~10分であり得る。酸性に調整した被処理水は、上記pH調整剤(水酸化ナトリウムなど)を用いて、酸処理にする前の元のpH付近に戻すことが望まれる。
【0049】
さらに、pH調整剤とともに又はそれに代えて、分解反応を促進するために、被処理水中に反応助剤を展開してもよい。反応助剤としては、限定されないが、カルボン酸、カルボン酸塩、炭酸ガス又は水溶性炭酸塩を用いることができる。
【0050】
本発明の水処理方法において、使用される吸着物質の量は、適宜調整することができ、限定されないが、対象物質に対して、添加される吸着物質の比をとると、対象物質:吸着物質は、1:100~100:1であり得る。
【0051】
以上、本発明の排水処理方法について一例を挙げて説明したが、必ずしもこのような態様に限定されず、本発明の趣旨に反しない限度において、適宜変更することができる。
【実施例0052】
本研究では、被処理水中の対象物質の吸着物質への吸着において、吸着時間の短縮及び吸着率の向上を目指して、新たに吸着工程(第2吸着段階)を加えることにより、吸着効率の改善を図れるかどうかを検討した。
【0053】
吸引ろ過
第2吸着段階の吸着工程では、減圧ろ過を行った。機材は以下の通りである。
ドライ真空ポンプ:Rocker 300C(吐出流量:20L/分;到達真空度:約170hPa)
フィルター:MERCK JHWP04700 オムニポアメンブランフィルター(孔径:0.45μm;親水性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製メンブレンフィルター;直径:47mm)
吸引ろ過装置:ポリサルフォンフォルダー(47mm径)(アドバンテック東洋製;KP-47S及びKP-47U)
【0054】
PFOA濃度の分析
被処理水中のPFOA濃度をLC-MS(SHIMADZU 2050)を用いて測定した。
分析カラム:Kinetex(C18、150×4.6mm、粒径5μm)
溶離液:アセトニトリル:酢酸アンモニウム=9:11、流量:0.2mL/分、カラム温度:40℃
【0055】
比較例1:吸引ろ過によるPFOAの吸着(平衡吸着なし)
0.0553gのZIF-8を200mLの純水に混合し、その混合水を吸引ろ過し、ろ紙上にZIF-8を集めた(ケーキ層)。そのZIF-8に、100mg/LのPFOA(200mL)を添加して吸引ろ過を行った。このろ液の吸引ろ過を5回繰り返した。ろ過前のPFOA濃度(Co)を基準として、Coに対する、各回の吸引ろ過後のろ液中のPFOA濃度(C)の比を図1に示した。
【0056】
混合水中のPFOAは、吸引ろ過の反復回数が増えるに従って、除去されることが観察された。
【0057】
実施例1:平衡吸着後の吸引ろ過によるPFOAの吸着(1)
0.0553gのZIF-8を180mLの純水に混合し、1g/LのPFOA(20mL)と常温常圧で混合し(100mg/L PFOA)、30分間又は60分間撹拌した。その後、吸引ろ過を2回繰り返した。比較例1と同様に、PFOA濃度を測定した。平衡30分後及び60分後のろ液に対して、吸引ろ過を2回繰り返した後のPFOA濃度の比を図2に示した。
【0058】
図2は、吸引ろ過前に、平衡吸着させることにより、その後の吸引ろ過(1回目及び2回目)の混合水中のPFOAは、比較例で示される図1中の「1回目」及び「2回目」とそれぞれと比較して、さらに顕著に吸着除去されることを示している。
【0059】
実施例2:平衡吸着後の吸引ろ過によるPFOAの吸着(2)
PFOA濃度100mg/Lの試料を調製し、これを200mLビーカーに入れ、次に吸着材である粉末状活性炭を0.1013g添加した。実施例1と同様に経過時間毎のPFOA濃度を測定した。活性炭はヤシ殻活性炭(粒径6μm)を使用した。その後、試料を減圧濾過して活性炭を回収し、ろ液のPFOA濃度を測定した(図3)。
【0060】
PFOA濃度100mg/Lの試料を調製し、これを200mLビーカーに入れ、次に上記実験で回収した粉末状活性炭を添加し、経過時間毎のPFOA濃度を測定した。その後、試料を減圧濾過して活性炭を回収し、ろ液のPFOA濃度を測定した(図4)。平衡吸着後に吸引ろ過(1回目及び2回目)することにより、混合水中のPFOAが顕著に吸着除去されることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、吸着物質(金属有機構造体、多孔性配位高分子、活性炭など)によって被処理水中の難分解性物質や重金属を吸着及び濃縮し、さらにろ過処理を施すことにより、被処理水を高効率で水処理することができる。
【0062】
本明細書に引用する全ての刊行物及び特許文献は、参照により全体として本明細書中に援用される。なお、例示を目的として、本発明の特定の実施形態を本明細書において説明したが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、種々の改変が行われる場合があることは、当業者に容易に理解されるであろう。
図1
図2
図3
図4