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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099563
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】眼球細胞の分化方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0797 20100101AFI20240718BHJP
【FI】
C12N5/0797
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024061393
(22)【出願日】2024-04-05
(62)【分割の表示】P 2020557896の分割
【原出願日】2019-04-22
(31)【優先権主張番号】62/660,899
(32)【優先日】2018-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】510003830
【氏名又は名称】フジフィルム セルラー ダイナミクス,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】チェイス ルーカス
(72)【発明者】
【氏名】ウォレス カイル
(72)【発明者】
【氏名】メリン ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ディアス アンドリュー
(72)【発明者】
【氏名】シェリー ブランドン
(72)【発明者】
【氏名】フェン マリサ
(72)【発明者】
【氏名】フィリップス デブヤーニ
(72)【発明者】
【氏名】スターンフェルド マシュー
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー ネイサン
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB01
4B065CA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ヒト神経上皮系細胞(特に光受容体前駆体(PRP)細胞)の実質的に純粋な培養物を得るための効率的で信頼性の高い大規模な方法を提供する。
【解決手段】神経網膜前駆細胞(NRP)の集団を製造する方法であって、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)の出発集団を得ること、このiPSCを網膜誘導培地(RIM)で培養して、この細胞の前部神経外胚葉細胞への分化を開始させること、この細胞を、BMP阻害剤を含む第1の網膜分化培地(RD1)でさらに培養して、この細胞を前部神経外胚葉細胞にさらに分化させること、前部神経外胚葉細胞を、BMP阻害剤を本質的に含まない第2の網膜分化培地(RD2)で培養することにより、この細胞の網膜分化を誘導して、網膜前駆細胞(RPC)を形成すること、及びこのRPCを網膜成熟(RM)培地で培養して、NRPを製造することを含む方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経網膜前駆細胞(NRP)の集団を製造する方法であって、
(a)ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)の出発集団を得ること、
(b)前記細胞を、BMP阻害剤を含む第1の網膜分化培地(RD1)で培養して、前記細胞を前部神経外胚葉細胞にさらに分化させること、
(c)前記前部神経外胚葉細胞を、BMP阻害剤を本質的に含まない第2の網膜分化培地(RD2)で培養することにより、前記細胞の網膜分化を誘導して、網膜前駆細胞(RPC)を形成すること、
及び
(d)前記RPCを網膜成熟(RM)培地で培養して、NRPを製造すること
を含む方法。
【請求項2】
前記細胞をRD1で培養する前に、前記iPSCを網膜誘導培地(RIM)で培養して、前記細胞の前部神経外胚葉細胞への分化を開始させることをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記NRPの集団を、γ-セクレターゼ阻害剤及びROCK阻害剤を含む培地で懸濁凝集体として培養することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(a)~(d)の培養することは、付着性2次元培養としてさらに定義される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記RIMは、BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、及び/又はIGF-1を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記RIMは、WNT阻害剤をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
RIMは、CKI-7を本質的に含まないか、又は含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記RIMは、アクチビンAを本質的に含まない、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記RD1培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、及びMEK阻害剤をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記RD1は、Wnt阻害剤をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記RD1は、Wnt阻害剤を本質的に含まない、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記RD1は、CKI-7を本質的に含まないか、又は含まない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RD2培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、及びMEK阻害剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記RD2培地は、LDN193189を本質的に含まない、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記RM培地は、ニコチンアミド及びアスコルビン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記RM培地は、FGF及びTGFβ阻害剤をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記RM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記前部神経外胚葉細胞のVSX2発現の増加を検出して分化能を判定することをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
RD2での培養後に、前記細胞の少なくとも90%は、PMEL17を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
RD2での培養後に、前記細胞の少なくとも30%は、VSX2を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記RPCは、PAX6、MITF、及び/又はPMELを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記RPCは、TRYP1、CRALBP、及び/又はBEST1を発現しないか、又は本質的に発現しない、請求項1又は21に記載の方法。
【請求項23】
RMでの培養後に、前記細胞の少なくとも70%は、PAX6及びCHX10(VSX2)を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記NRPは、PAX6及びCHX10(VSX2)を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記NRPは、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELからなる群から選択されるマーカーの内の1つ又は複数を発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
請求項1に従って製造されたNRPと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項27】
光受容体前駆体細胞(PRP)の集団を製造する方法であって、
(a)請求項1~25のいずれか一項に記載のNRPの出発集団を得ること、
(b)前記NRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、γ-セクレターゼ阻害剤及びFGFを含む光受容体前駆体誘導培地(FDSC)でさらに培養すること
を含む方法。
【請求項28】
前記FDSCは、TGFβ阻害剤及びWNT阻害剤をさらに含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記工程(a)及び(b)の培養することは、付着性2次元培養としてさらに定義される、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記PRPの集団を、ニコチンアミドを含むRM培地又は光受容体成熟(PM)培地で懸濁凝集体として成熟させ、それにより成熟PRP凝集体の集団を製造することをさらに含む請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記成熟PRP凝集体を凍結保存することをさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記成熟PRP凝集体を、PM培地中で本質的に単一の細胞に解離させることをさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項33】
前記成熟PRPを単一細胞として凍結保存することをさらに含む請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記PM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
前記PRPを精製することをさらに含む請求項27に記載の方法。
【請求項36】
精製することは、CD171に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む、請求項27~35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
精製することは、CD171及び/又はSUSD2に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
精製することは、CD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド)、PSA-NCAM、及び/又はPTK7に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項39】
精製することは、CD111、CD133、CD230、及び/又はCD344に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
精製することは、CD344に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む、請求項35に記載の方法。
【請求項41】
精製することは、CD9、CD49f、CD340、ポドプラニン、CD29、CD63、及びCD298からなる群から選択されるマーカーの内の2つ以上に関して陽性の細胞の枯渇を含む、請求項35~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞の少なくとも90%は、クラスIIIβ-チューブリン(TUBB3)を発現する、請求項35~41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記細胞の少なくとも75%は、リカバリン(RCVRN)を発現する、請求項35~42のいずれか一項に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞の少なくとも50%は、RCVRNを発現する、請求項35~43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞の少なくとも70%は、RCVRNを発現する、請求項35~45のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記PRPは、OTX2、IRBP、SUSD2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1つ又は複数のマーカーを発現する、請求項27に記載の方法。
【請求項47】
前記PRPは、TRYP1、CRALBP、BEST1、Ki67、MITF、PMEL17、PAX6、CHX10、及び/又はOnecut1を発現しないか、又は本質的に発現しない、請求項27に記載の方法。
【請求項48】
前記精製済PRP集団中の細胞の15%、10%又は5%未満は、PAX6を発現する、請求項35~40のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
請求項27に従って製造されたPRPと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項50】
PRPの集団を製造する方法であって、
(a)請求項1~24のいずれか一項に記載のNRPの出発集団を得ること、
(b)前記NRPを、RM培地で凝集体として培養すること、
及び
(c)前記NRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤をさらに含むRM培地又はPRP成熟培地(PM)でさらに培養すること
を含む方法。
【請求項51】
前記細胞の少なくとも70%は、工程(b)の前に、PAX6及びCHX10に関して陽性である、請求項50に記載の方法。
【請求項52】
前記NRPを、γ-セクレターゼ阻害剤及びROCK阻害剤の存在下で凝集体として培養する、請求項50に記載の方法。
【請求項53】
前記PMは、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む、請求項50に記載の方法。
【請求項54】
前記PMは、MEK阻害剤をさらに含む、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記PRPを、PM培地中で本質的に単一の細胞に解離させることをさらに含む請求項50に記載の方法。
【請求項56】
前記PRPを、PM培地で付着性細胞として培養する、請求項55に記載の方法。
【請求項57】
CD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド)、PSA-NCAM、及び/若しくはPTK7に関して陽性である細胞を選択することにより、並びに/又はCD9、CD49f、CD340、ポドプラニンCD29、CD63、及び/若しくはCD298に関して陽性である細胞を除去することにより、PRPを富化させることをさらに含む請求項55に記載の方法。
【請求項58】
前記細胞の少なくとも90%は、TUBB3に関して陽性であり、及び/又は前記細胞の少なくとも70%は、RCVRNに関して陽性である、請求項57に記載の方法。
【請求項59】
請求項50に従って製造されたPRPと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項60】
眼胞(OV)の集団を製造する方法であって、
(a)請求項50に記載のPRPの出発集団を得ること、
及び
(b)前記PRPを、OVの集団を製造するのに十分な期間にわたり、RM培地又はPM培地で懸濁凝集体としてさらに培養すること
を含む方法。
【請求項61】
前記RM培地又はPM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤を含む、請求項60に記載の方法。
【請求項62】
前記PM培地は、CDK4/6阻害剤をさらに含む、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記OVの集団中の細胞の少なくとも50%は、VSX2を発現する、請求項60に記載の方法。
【請求項64】
前記OVの集団中の細胞の少なくとも20%は、RCVRNを発現する、請求項60に記載の方法。
【請求項65】
前記OVは、ガンマ-シヌクレイン(SNCG)、オプシン、RCVRN、及びロドプシンを発現する、請求項60に記載の方法。
【請求項66】
請求項60に従って製造されたOVと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【請求項67】
NRP集団を含む組成物であって、前記NRP集団中の細胞の少なくとも90%は、PAX6を発現し、前記NRP集団中の細胞の少なくとも90%は、PMEL17を発現し、及び/又は前記NRP集団中の細胞の少なくとも70%は、VSX2を発現する、組成物。
【請求項68】
前記NRP集団中の細胞の少なくとも95%は、PAX6を発現し、前記NRP集団中の細胞の少なくとも90%は、PMEL17を発現し、及び/又は前記NRP集団中の細胞の少なくとも75%は、VSX2を発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項69】
前記NRP集団中の細胞の少なくとも95%は、PAX6を発現し、前記NRP集団中の細胞の少なくとも90%は、PMEL17を発現し、及び前記NRP集団中の細胞の少なくとも75%は、VSX2を発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項70】
前記NRP集団中の細胞は、Ki67をさらに発現する、請求項71に記載の組成物。
【請求項71】
PRP集団を含む組成物であって、前記PRP集団中の細胞の少なくとも90%は、TUBB3を発現し、前記PRP細胞集団中の細胞の少なくとも50%は、RCVRNを発現し、及び/又は前記PRP集団中の細胞の15%未満は、PAX6を発現する、組成物。
【請求項72】
前記PRP集団中の細胞の少なくとも70%は、RCVRNを発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項73】
前記PRP集団中の細胞の10%又は5%未満は、PAX6を発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項74】
前記PRP集団中の細胞の少なくとも90%は、TUBB3を発現し、前記PRP細胞集団中の細胞の少なくとも50%は、RCVRNを発現し、及び前記PRP集団中の細胞の15%未満は、PAX6を発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項75】
前記PRP集団中の細胞の少なくとも90%は、TUBB3を発現し、前記PRP細胞集団中の細胞の少なくとも70%は、RCVRNを発現し、及び/又は前記PRP集団中の細胞の5%未満は、PAX6を発現する、請求項67に記載の組成物。
【請求項76】
前記PRPは、OTX2、IRBP、SUSD2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーを発現する、請求項67~75のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項77】
前記PRPは、TRYP1、CRALBP、BEST1、Ki67、MITF、及び/又はPMEL17を発現しないか、又は本質的に発現しない、請求項76に記載の組成物。
【請求項78】
OVの集団を含む組成物であって、前記細胞の少なくとも50%は、VSX2を発現し、及び/又は前記細胞の少なくとも20%は、RCVRNを発現する、組成物。
【請求項79】
前記細胞の少なくとも65%は、VSX2を発現し、及び/又は前記細胞の少なくとも30%は、RCVRNを発現する、請求項78に記載の組成物。
【請求項80】
前記細胞の少なくとも65%は、VSX2を発現し、及び前記細胞の少なくとも30%は、RCVRNを発現する、請求項78に記載の組成物。
【請求項81】
対象における網膜ニューロンの損傷又は変性を処置する方法であって、前記対象の目に、請求項42~71のいずれか一項に記載の組成物の有効な量を投与することを含む方法。
【請求項82】
前記網膜ニューロンは、光受容体である、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
PRP細胞の富化集団を得る方法であって、
a)PRP細胞を含む出発細胞集団を得ること、
並びに
b)CD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド)、PSA-NCAM、及び/若しくはPTK7に関して陽性である細胞を選択することにより、並びに/又はCD9、CD49f、CD340、ポドプラニン、CD29、CD63、及び/若しくはCD298に関して陽性である細胞をそこから除去することにより、PRP細胞に関して前記出発細胞集団を富化させ、それにより、前記出発細胞集団と比較して、PRP細胞が富化されているPRP富化細胞集団を得ること
を含む方法。
【請求項84】
前記PRP富化集団中の前記PRP細胞の富化のレベルを決定することをさらに含む請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記富化のレベルを、TUBB3、RCVRN、OTX2、IRBP、SUSD2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される細胞マーカーの使用により決定する、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
前記PRP富化細胞集団は、RCVRN選別により決定した場合に、前記出発細胞集団と比較してPRP細胞が富化されている、請求項83に記載の方法。
【請求項87】
前記PRP富化集団は、少なくとも50%のPRP細胞である、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記PRP富化集団は、少なくとも70%のPRP細胞である、請求項86に記載の方法。
【請求項89】
前記PRP富化集団は、本質的に純粋なPRP細胞である、請求項86に記載の方法。
【請求項90】
前記PRP細胞は、ヒトPRP細胞である、請求項83に記載の方法。
【請求項91】
前記出発細胞集団は、iPSCから調製されている、請求項83に記載の方法。
【請求項92】
選択すること及び/又は除去することを、磁気ビーズに基づく選別又は蛍光に基づく選別により実施する、請求項83に記載の方法。
【請求項93】
前記方法は、CD171、SUSD2、CD111、CD133、CD230、及び/又はCD344に関して陽性である細胞を選択することを含む、請求項83に記載の方法。
【請求項94】
NRP細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELからなる群から選択される細胞マーカーの発現を検出することを含む方法。
【請求項95】
前記細胞の少なくとも70%は、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELに関して陽性である、請求項94に記載の方法。
【請求項96】
前記細胞の少なくとも90%は、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELに関して陽性である、請求項94に記載の方法。
【請求項97】
PRP細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、PAX6、ONECUT1、HNCHF6、CHX10、及びKi67からなる群から選択されるオフターゲット細胞マーカーの発現を検出することを含む方法。
【請求項98】
オフターゲット細胞は、PAX6及びISL1に関して陽性である、請求項1に記載の方法。
【請求項99】
品質管理を通過するPRP細胞製品は、10%又は5%未満のPAX6陽性細胞を含む、請求項97に記載の方法。
【請求項100】
品質管理を通過するPRP細胞製品は、10%未満のPAX6陽性細胞、0.05%未満のKi67陽性細胞、30%未満のCHX10陽性細胞、及び/又は2%未満のONECUT1陽性細胞を含む、請求項97に記載の方法。
【請求項101】
品質管理を通過するPRP細胞製品は、5%未満のPAX6陽性細胞、0.04%未満のKi67陽性細胞、15%未満のCHX10陽性細胞、及び/又は1%未満のONECUT1陽性細胞を含む、請求項97に記載の方法。
【請求項102】
品質管理を通過するPRP細胞製品は、5%未満のPAX6陽性細胞、0.04%未満のKi67陽性細胞、15%未満のCHX10陽性細胞、及び1%未満のONECUT1陽性細胞を含む、請求項97に記載の方法。
【請求項103】
OV細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、RCVRN、CHX10、PAX6、及びKi67からなる群から選択される1種又は複数種の細胞マーカーの発現を検出することを含む方法。
【請求項104】
前記細胞マーカーは、RCVRN及びCHX10である、請求項103に記載の方法。
【請求項105】
前記OV細胞製品中の細胞の少なくとも60%は、RCVRNに関して陽性であり、前記OV細胞製品中の細胞の少なくとも30%は、CHX10に関して陽性である、請求項104に記載の方法。
【請求項106】
前記細胞マーカーは、PAX6及びKi67である、請求項103に記載の方法。
【請求項107】
TYRP1の非存在を検出することをさらに含む請求項103~106のいずれか一項に記載の方法。
【請求項108】
MITF、CRALBP、BEST1、OTX2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、TUBB3、ONECUT1、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーの発現を検出することをさらに含む請求項107に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2018年4月20日に出願された米国仮特許出願第62/660,899号明細書の利益を主張しており、当該明細書は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本開示は、一般に幹細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本開示は、多能性幹細胞を様々な眼球細胞(例えば、光受容体前駆体(PRP)細胞)に分化させる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
網膜は、目の内面を覆う感光性の組織層である。網膜中の光受容体細胞(杆体又は錐体のいずれか)は、光に直接反応し、化学的な光シグナルを、神経インパルスを引き起こす電気的事象に変換する。光受容体細胞の機能の障害又は完全な喪失は、網膜疾患(例えば、遺伝性網膜変性及び加齢黄斑変性症(AMD))での不可逆的失明の原因の一つである。緑内障における網膜神経節細胞(RGC)の死もまた、不可逆的な失明をもたらす。変性した網膜の救出は大きな課題であり、細胞の置き換えは、最も有望なアプローチの一つである(Pearsonら、2012年)。
【0004】
2006年でのマウス成体の体細胞からの人工多能性幹細胞(iPSC)の製造は、幹細胞研究、創薬、疾患のモデル、及び細胞治療に重要なブレイクスルーをもたらした(Takahashiら、2006)。ヒトiPSCは、特殊な細胞型に分化し得、再生医療のための患者特異的な免疫適合細胞の可能性を有する(Yuら、2007年)。ヒト多能性幹細胞、胚幹(ES)細胞、及びiPSCの使用は、ヒト網膜変性疾患の処置に新たな道を開く。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
多能性状態を保持しつつ培養で無制限に増殖する能力を有するヒトES(hES)細胞及びヒトiPS(hiPS)細胞は、組織移植のための光受容体細胞の無尽蔵の供給源として使用される可能性がある(Comynら、2010年)。胚様体形成後のhES細胞の神経網膜への関与の可能性、及び光受容体マーカーを発現する細胞にさらに分化する能力を実証する収束データが相次いでいる(Zhongら、2014年;Meyerら、2009年)。既に開発されている様々な方法は、実際の進歩ではあるが、多能性幹細胞の高度に特殊な細胞型への分化と一般に関連する欠点を依然として抱えている。hES細胞又はhiPS細胞の光受容体指向性分化のためのこれらのプロトコルは、いくつかの工程、いくつかの分子の追加を必要としており、どちらかと言えば非効率的である。光受容体細胞系統への分化のための現在の方法は、胚様体の形成を必要としており、及び/又は培養物からの網膜細胞の手動による選択を必要としている。そのため、当該技術分野では、ある特定のヒト神経上皮系細胞(特に光受容体前駆体(PRP)細胞)の実質的に純粋な培養物を得るための効率的で信頼性の高い大規模な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態は、眼球細胞を製造するための方法及び組成物、並びにそれらの使用を提供する。第1の実施形態では、神経網膜前駆細胞(NRP)の集団を製造する方法であって、ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)の出発集団を得ること、このiPSCを網膜誘導培地(RIM)で培養して、この細胞の前部神経外胚葉細胞への分化を開始させること、この細胞を、BMP阻害剤を含む第1の網膜分化培地(RD1)でさらに培養して、この細胞を前部神経外胚葉細胞にさらに分化させること、前部神経外胚葉細胞を、BMP阻害剤を本質的に含まない第2の網膜分化培地(RD2)で培養することにより、この細胞の網膜分化を誘導して、網膜前駆細胞(RPC)を形成すること、及びこのRPCを網膜成熟(RM)培地で培養して、NRPを製造することを含む方法が提供される。さらなる実施形態では、NRPの集団を製造する方法であって、ヒトiPSCの出発集団を得ること、この細胞を、BMP阻害剤を含むRD1で培養して、この細胞を前部神経外胚葉細胞にさらに分化させること、前部神経外胚葉細胞を、BMP阻害剤を本質的に含まないRD2で培養することにより、この細胞の網膜分化を誘導して、RPCを形成すること、及びこのRPCをRM培地で培養して、NRPを製造することを含む方法が提供される。特定の態様では、培養することは、付着性2次元培養(adherent 2-dimensional culture)とさらに定義される。
【0007】
一部の態様では、この方法は、細胞をRD1で培養する前に、iPSCを網膜誘導培地(RIM)で培養して、この細胞の前部神経外胚葉細胞への分化を開始させることをさらに含む。ある特定の態様では、この方法は、NRPの集団を、γ-セクレターゼ阻害剤及びROCK阻害剤を含む培地で懸濁凝集体として培養することをさらに含む。
【0008】
上記実施形態の一部の態様では、この方法は、NRPを、NRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、γ-セクレターゼ阻害剤及びFGFを含むFDSC培地で培養することをさらに含む。
【0009】
ある特定の態様では、RIMは、BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、及び/又はIGF-1を含む。ある特定の態様では、RIMは、BMP阻害剤、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、及び/又はIGF-1を含む。特定の態様では、RIMは、アクチビンAを本質的に含まない。特定の態様では、RIMは、CKI-7等のWnt阻害剤を本質的に含まない。一部の態様では、iPSCをRIMで培養することは、1~3日(例えば、1、2、又は3日)にわたる。
【0010】
一部の態様では、RD1培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、IGF-1、及びMEK阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、RD1培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、IGF-1、及びMEK阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、RD1培地は、CKI-7を含まない。一部の態様では、RD1で培養することは、1~3日(例えば、1、2、又は3日)にわたる。
【0011】
一部の態様では、RD2培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、IGF-1、及びMEK阻害剤を含む。ある特定の態様では、前部神経外胚葉細胞のVSX2発現の増加を、分化能のために測定する。特定の態様では、RD2培地は、LDN193189を本質的に含まない。一部の態様では、RD2で培養することは、5~9日(例えば、5、6、7、8、又は9日)にわたる。ある特定の態様では、RD2での培養後に、細胞の少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%は、PMEL17を発現する。ある特定の態様では、RD2での培養後に、細胞の少なくとも30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%は、VSX2を発現する。特定の態様では、RPCは、PAX6、MITF、及び/又はPMELを発現する。一部の態様では、RPCは、TRYP1、CRALBP、及び/又はBEST1を発現しないか、又は本質的に発現しない。
【0012】
一部の態様では、iPSCを得ることからRMで培養することまでの培養することは、付着性2次元培養とさらに定義される。一部の態様では、iPSCを得ることからRMで培養することまでの培養することは、凝集体を本質的に含まない。
【0013】
一部の態様では、RM培地は、ニコチンアミド及びアスコルビン酸を含む。ある特定の態様では、RM培地は、FGF及びTGFβ阻害剤をさらに含む。一部の態様では、RM培地は、FGF、SB431542、CKI-7、及びIGF-1をさらに含む。一部の態様では、RM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、RM培地で培養してNRPを製造することは、3~7日にわたる。一部の態様では、NRPは、PAX6及びVSX2を発現する。ある特定の態様では、RM培地で培養してNRPを製造した後に、細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、PAX6及びVSX2を発現する。特定の態様では、RPCは、PAX6、MITF、及び/又はPMELを発現する。
【0014】
別の実施形態では、光受容体前駆体細胞(PRP)の集団を製造する方法であって、実施形態に係るNRPの出発集団を得ること、及びこのNRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、γ-セクレターゼ阻害剤及びFGFを含む光受容体前駆体誘導培地(FDSC)培地でさらに培養することを含む方法が提供される。一部の態様では、培養することは、付着性2次元培養とさらに定義される。
【0015】
一部の態様では、NRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、γ-セクレターゼ阻害剤及びFGFを含むFDSC培地で培養することは、10~20、20~30、30~40、又は40~50日(例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、若しくは19日、又はより多い)にわたる。FDSCは、TGFβ阻害剤及びWNT阻害剤をさらに含む。一部の態様では、RM培地は、FGF及びTGFβ阻害剤をさらに含む。
【0016】
一部の態様では、PRPを製造するための方法は、PRPの集団を、ニコチンアミドを含むRM培地又は光受容体成熟(PM)培地で懸濁凝集体として成熟させ、それにより成熟PRP凝集体の集団を製造することをさらに含む。一部の態様では、成熟させることは、6~10日(例えば、6、7、8、9、又は10日)にわたる。追加の態様では、この方法は、成熟PRP凝集体を凍結保存することをさらに含む。一部の態様では、PM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む。
【0017】
ある特定の態様では、PRPを製造するための方法は、成熟PRP凝集体を、PM培地中で本質的に単一の細胞に解離させることをさらに含む。一部の態様では、この方法は、成熟PRPを単一の細胞として凍結保存することを含む。
【0018】
一部の態様では、PRPを、5~12日(例えば、5、6、7、8、9、10、11、又は12日)にわたり、PM培地で付着細胞として培養する。ある特定の態様では、PM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、解離した細胞は再凝集している。一部の態様では、PM培地は、CDK阻害剤をさらに含む。特定の態様では、細胞の少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、90%、95%、又は100%は、リカバリン(Recoverin)(RCVRN)を発現する。
【0019】
一部の態様では、この方法は、PRPを精製することをさらに含む。ある特定の態様では、精製することは、CD171に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む。一部の態様では、精製することは、CD171及び/又はSUSD2に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む。特定の態様では、精製することは、CD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド(Frizzled))、PSA-NCAM、及び/又はPTK7に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む。具体的な態様では、精製することは、CD111、CD133、CD230、及び/又はCD344に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む。一部の態様では、精製することは、CD344に関して陽性である細胞を選択し、それにより精製済PRP細胞集団を得ることを含む。一部の態様では、精製することを、65日目又は75日目に実施する。ある特定の態様では、精製することは、CD9、CD49f、CD340、ポドプラニン、CD29、CD63、及びCD298からなる群から選択されるマーカーの内の2つ以上に関して陽性の細胞の枯渇を含む。
【0020】
一部の態様では、精製済PRP細胞集団中の細胞の少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%は、クラスIIIβ-チューブリン(TUBB3)を発現する。ある特定の態様では、精製済PRP細胞集団中の細胞の少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、RCVRNを発現する。一部の態様では、精製済PRP細胞集団中の細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、RCVRNを発現する。一部の態様では、PRPは、OTX2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーを発現する。ある特定の態様では、PRPは、TRYP1、CRALBP、BEST1、Ki67、MITF、及び/又はPMEL17を発現しないか、又は本質的に発現しない。一部の態様では、細胞は、PAX6、CHX10(本明細書ではVSX2とも称される;両方の用語は、本明細書では互換的に使用されている)、及び/又はOnecut1の発現が低いか、又は本質的に発現しない。特定の態様では、精製済PRP集団中の細胞の15%、10%、又は5%未満(例えば、4%、3%、2%、又は1%未満)は、PAX6を発現する。
【0021】
さらなる実施形態は、PRPの集団を製造する方法であって、実施形態に係るNRPの出発集団を得ること、及びNRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、サイクリン依存性キナーゼ阻害剤を含むPRP成熟培地(PM)でさらに培養することを含む方法を提供する。
【0022】
一部の態様では、細胞の少なくとも70%(例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%)は、PM培地での培養の前に、PAX6及びCHX10に関して陽性である。ある特定の態様では、NRPを、γ-セクレターゼ阻害剤及びROCK阻害剤の存在下で凝集体として培養する。一部の態様では、PMは、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む。特定の態様では、PMは、MEK阻害剤をさらに含む。
【0023】
追加の態様では、この方法は、PRPを、PM培地中で本質的に単一の細胞に解離させることをさらに含む。一部の態様では、PRPを、PM培地で付着細胞として培養する。
【0024】
一部の態様では、この方法は、CD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド)、PSA-NCAM、及び/若しくはPTK7に関して陽性である細胞を選択することにより、並びに/又はCD9、CD49f、CD340、ポドプラニンCD29、CD63、及び/若しくはCD298に関して陽性である細胞を除去することにより、PRPを富化させることをさらに含む。一部の態様では、細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%)は、TUBB3に関して陽性であり、及び/又は細胞の少なくとも70%(例えば、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%)は、RCVRNに関して陽性である。
【0025】
さらに別の実施形態では、眼胞(OV)の集団を製造する方法であって、実施形態に係るPRPの出発集団を得ること、及びこのPRPを、OVの集団を製造するのに十分な期間にわたり、RM培地又はPRP成熟(PM)培地で懸濁凝集体としてさらに培養することを含む方法が提供される。
【0026】
一部の態様では、PRPを、OVの集団を製造するのに十分な期間にわたり、RM培地又はPRP成熟(PM)培地で懸濁凝集体として培養することは、少なくとも20日(例えば、少なくとも21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、35、40、45、50、又はより多くの日数)にわたる。一部の態様では、RM培地は、γ-セクレターゼ阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、RM培地は、FGF及びSB431542をさらに含む。一部の態様では、OVの集団中の細胞の少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、VSX2を発現する。一部の態様では、OVの集団中の細胞の少なくとも10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、又はより多くは、RCVRNを発現する。一部の態様では、OVは、ガンマ-シヌクレイン(SNCG)、オプシン、RCVRN、及びロドプシンを発現する。ある特定の態様では、FDSCは、TGFβ阻害剤及びWnt阻害剤をさらに含む。
【0027】
一部の態様では、NRPを、PRPの集団を製造するのに十分な期間にわたり、γ-セクレターゼ阻害剤及びFGFを含むRM培地で培養することは、10~20日(例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、又はより多くの日数)にわたる。一部の態様では、PRPの集団中の細胞の少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又はより多くは、TUBB3を発現する。一部の態様では、PRPの集団中の細胞の少なくとも30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%は、RCVRNを発現する。
【0028】
追加の態様では、この方法は、NRPの集団を、γ-セクレターゼ阻害剤及びROCK阻害剤を含む培地で懸濁凝集体として培養することをさらに含む。一部の態様では、この培地は、アスコルビン酸及びニコチンアミドをさらに含む。ある特定の態様では、NRPの集団中の細胞の少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、VSX2を発現する。
【0029】
別の実施形態では、実施形態に従って製造されたPRP、実施形態に従って製造されたOV、又は実施形態に従って製造されたNRPと、薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物が提供される。
【0030】
さらなる実施形態は、対象における網膜ニューロンの損傷又は変性を処置する方法であって、この対象の目に、実施形態の医薬組成物(例えば、本明細書で製造されたPRP、OV、又はNRP)の有効な量を投与することを含む方法を提供する。一部の態様では、網膜ニューロンは、光受容体である。
【0031】
本明細書の方法により製造された眼球細胞(例えばPRP細胞)を、光受容体細胞のための当該技術分野で現在知られている任意の方法及び用途で使用することができる。例えば、化合物を評価する方法であって、光受容体細胞へのこの化合物の薬理学的特性又は毒性学的特性をアッセイすることを含む方法を提供することができる。PRP細胞への効果に関して化合物を評価する方法であって、a)本明細書で提供されているPRP細胞と、この化合物とを接触させること、及びb)このPRP細胞へのこの化合物の効果をアッセイすることを含む方法も提供することができる。
【0032】
上記実施形態のある特定の態様では、RIMは、LDN193189、SB431542、CKI-7、及びIGF-1を含む。一部の態様では、RD1培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、IGF-1、及びMEK阻害剤をさらに含む。ある特定の態様では、RD2培地は、TGFβ阻害剤、Wnt阻害剤、IGF-1、及びMEK阻害剤を含む。一部の態様では、BMP阻害剤は、LDN193189である。一部の態様では、TGFβは、I型受容体アクチビン受容体様キナーゼ(ALK5)阻害剤としてさらに定義される。ある特定の態様では、TGFβ阻害剤は、SB431542、6SB525334、SB-505124、Lefty、A 83-01、D 4476、GW 788388、LY 364847、R 268712、又はRepSoxである。一部の態様では、WNT阻害剤は、CKI-7、IWP2、IWP4、PNU 74654 XAV939、TAK 715、DKK1、又はSFRP1である。特定の態様では、MEK阻害剤は、PD0325901である。一部の態様では、RD2培地は、SB431542、CKI-7、IGF-1、及びPD0325901を含む。具体的な態様では、RM培地は、FGF、SB431542、CKI-7、及びIGF-1をさらに含む。一部の態様では、γ-セクレターゼ阻害剤は、DAPT、ベガスエステイト(Begacestat)、コンパウンドW、JLK6、L-685,485、フルリザン(Flurizan)、DBZ、MRK560、PF3084014臭化水素酸塩、又はBMS299897である。一部の態様では、サイクリング依存性キナーゼ(CDK)阻害剤は、CDK4/6阻害剤であり、例えばPD0332291(パルボシクリブ)である。
【0033】
別の実施形態では、NRP集団を含む組成物であって、このNRP集団中の細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)は、PAX6を発現し、このNRP集団中の細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%)は、PMEL17を発現し、及び/又はこのNRP集団中の細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%は、VSX2を発現する、組成物が提供される。一部の態様では、NRP集団中の細胞の少なくとも95%は、PAX6を発現し、NRP集団中の細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%)は、PMEL17を発現し、及び/又はNRP集団中の細胞の少なくとも75%は、VSX2を発現する。ある特定の態様では、NRP集団中の細胞の少なくとも95%は、PAX6を発現し、NRP集団中の細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%)は、PMEL17を発現し、及びNRP集団中の細胞の少なくとも75%は、VSX2を発現する。一部の態様では、NRP集団中の細胞は、Ki67をさらに発現する。
【0034】
別の実施形態では、PRP集団を含む組成物であって、このPRP集団中の細胞の少なくとも90%(例えば、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、若しくは100%)は、TUBB3を発現し、このPRP細胞集団中の細胞の少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%は、RCVRNを発現し、及び/又はこのPRP集団中の細胞の15%未満は、PAX6を発現する、組成物が提供される。一部の態様では、PRP集団中の細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、RCVRNを発現する。ある特定の態様では、PRP集団中の細胞の10%又は5%未満は、PAX6を発現する。一部の態様では、PRP集団中の細胞の少なくとも90%は、TUBB3を発現し、PRP細胞集団中の細胞の少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、RCVRNを発現し、及びPRP集団中の細胞の15%未満は、PAX6を発現する。一部の態様では、PRP集団中の細胞の少なくとも90%は、TUBB3を発現し、PRP細胞集団中の細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%は、RCVRNを発現し、及び/又はPRP集団中の細胞の5%未満は、PAX6を発現する。ある特定の態様では、PRPは、OTX2、IRBP、SUSD2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーを発現する。一部の態様では、PRPは、TRYP1、CRALBP、BEST1、Ki67、MITF、及び/又はPMEL17を発現しないか、又は本質的に発現しない。
【0035】
さらなる実施形態は、OVの集団を含む組成物であって、この細胞の少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、若しくは100%は、VSX2を発現し、及び/又はこの細胞の少なくとも20%は、RCVRNを発現する、組成物を提供する。一部の態様では、細胞の少なくとも65%は、VSX2を発現し、及び/又は細胞の少なくとも30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、90%、95%、若しくは100%は、RCVRNを発現する。ある特定の態様では、細胞の少なくとも65%は、VSX2を発現し、細胞の少なくとも30%は、RCVRNを発現する。
【0036】
別の実施形態は、PRP細胞の富化集団を得る方法であって、PRP細胞を含む出発細胞集団を得ること、並びにCD171、SUSD2、CD56(NCAM)、CD57(LAMP-3)、CD81、CD111(ネクチン1)、CD133、CD147、CD184(CXCR4)、CD200、CD230、CD276、CD298、CD344(フリズルド)、PSA-NCAM、及び/若しくはPTK7に関して陽性である細胞を選択することにより、並びに/又はCD9、CD49f、CD340、ポドプラニン、CD29、CD63、及び/若しくはCD298に関して陽性である細胞を除去することにより、PRP細胞に関して前記出発細胞集団を富化させ、それにより、この出発細胞集団と比較して、PRP細胞が富化されているPRP富化細胞集団を得ることを含む方法を提供する。一部の態様では、この方法は、前記PRP富化集団中のPRP細胞の富化のレベルを決定することをさらに含む。一部の態様では、富化のレベルを、TUBB3、RCVRN、OTX2、IRBP、SUSD2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される細胞マーカーの使用により決定する。ある特定の態様では、PRP富化細胞集団は、RCVRN選別により決定した場合に、出発細胞集団と比較してPRP細胞が富化されている。一部の態様では、PRP富化集団は、少なくとも50%、51%、52%、53%、54%、55%、56%、57%、58%、59%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、又は100%のPRP細胞である。ある特定の態様では、PRP富化集団は、少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%のPRP細胞である。一部の態様では、PRP富化集団は、本質的に純粋なPRP細胞である。特定の態様では、PRP細胞は、ヒトPRP細胞である。一部の態様では、出発細胞集団は、iPSCから調製されている。一部の態様では、選択すること及び/又は除去することを、磁気ビーズに基づく選別又は蛍光に基づく選別により実施する。一部の態様では、この方法は、CD171、SUSD2、CD111、CD133、CD230、及び/又はCD344に関して陽性である細胞を選択することを含む。
【0037】
別の実施形態は、NRP細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELからなる群から選択される細胞マーカーの発現を検出することを含む方法を提供する。一部の態様では、細胞の少なくとも70%、71%、72%、73%、74%、75%、76%、77%、78%、79%、80%、85%、90%、95%、又は100%は、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELに関して陽性である。ある特定の態様では、細胞の少なくとも90%は、PAX6、CHX10(VSX2)、Ki67、及びPMELに関して陽性である。
【0038】
さらなる実施形態では、PRP細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、PAX6、ONECUT1、HNCHF6、CHX10、及びKi67からなる群から選択されるオフターゲット細胞マーカーの発現を検出することを含む方法が提供される。一部の態様では、オフターゲット細胞は、PAX6及びISL1に関して陽性である。一部の態様では、品質管理を通過するPRP細胞製品は、10%又は5%未満のPAX6陽性細胞を含む。ある特定の態様では、品質管理を通過するPRP細胞製品は、10%未満のPAX6陽性細胞、0.05%未満のKi67陽性細胞、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%未満のCHX10陽性細胞、及び/又は2%未満のONECUT1陽性細胞を含む。一部の態様では、品質管理を通過するPRP細胞製品は、5%未満のPAX6陽性細胞、0.04%未満のKi67陽性細胞、15%未満のCHX10陽性細胞、及び/又は1%未満のONECUT1陽性細胞を含む。ある特定の態様では、品質管理を通過するPRP細胞製品は、5%未満のPAX6陽性細胞、0.04%未満のKi67陽性細胞、15%未満のCHX10陽性細胞、及び1%未満のONECUT1陽性細胞を含む。
【0039】
さらなる実施形態は、OV細胞製品の製造中に品質管理を実施する方法であって、RCVRN、CHX10、PAX6、及びKi67からなる群から選択される1種又は複数種の細胞マーカーの発現を検出することを含む方法を提供する。ある特定の態様では、細胞マーカーは、RCVRN及びCHX10である。特定の態様では、OV細胞製品中の細胞の少なくとも60%は、RCVRNに関して陽性であり、OV細胞製品中の細胞の少なくとも30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%、40%、45%、50%、55%、60%、70%、80%、90%、95%、又は100%は、CHX10に関して陽性である。一部の態様では、細胞マーカーは、PAX6及びKi67である。一部の態様では、この方法は、TYRP1の非存在を検出することをさらに含む。一部の態様では、この方法は、MITF、CRALBP、BEST1、OTX2、CRX、BLIMP1、NEUROD1、TUBB3、ONECUT1、及びCD171/L1CAMからなる群から選択される1種又は複数種のマーカーの発現を検出することをさらに含む。
【0040】
本開示の他の目的、特徴、及び利点は、下記の詳細な説明から明らかになるだろう。しかしながら、詳細な説明及び具体的な実施例は、本発明の好ましい実施形態を示しつつ、実例としてのみ与えられていることを理解すべきであり、なぜならば、本発明の趣旨及び範囲内の様々な変更及び改変が、この詳細な説明から当業者に明らかになるからである。
【0041】
下記の図面は、本明細書の一部を形成し、且つ本発明のある特定の態様をさらに示すことが意図されている。本発明は、本明細書で提示されている特定の実施形態の詳細な説明と組み合わせて、これらの図面の内の1つ又は複数を参照することにより、より理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
図1】候補の概要。神経網膜前駆細胞(NRP)、光受容体前駆体細胞(PRP)、及び眼胞(OV)を含む、iPSC由来の眼球細胞分化の概略。候補1(C-1)は、付着性2次元(2-D)条件下で分化したPRP(2-D PRP)を表す。候補2(C-2)は、2-D条件及び懸濁凝集体3次元(3-D)条件の両方の下で分化したPRP(ハイブリッドPRP)を表す。候補3(C-3)は、2-D条件及び3-D条件の両方の下で分化したOV(ハイブリッドOV)を表す。候補4(C-4)は、2-D条件下で分化したNRPを表す。
【0043】
図2】培地相の持続時間を含む2-D PRR分化プロセスの概略。
【0044】
図3A-3C】2-D PRP MACS富化。MACS富化前(図3A)、及びMACS富化後(図3B)の両方でのβIII-チューブリン(TUBB3)及びリカバリン(RCVRN)の発現に関する2-D PRPのフローサイトメトリー分析。(図3C)2-D PRP分化に関するMACS前後のフローサイトメトリー分析の概要(n=5)。
【0045】
図4A-4D】2-D PRPキャラクタリゼーション。(図4A)2日目解凍後2-D PRP凝集体の画像(10×対物レンズ)。(図4B)TUBB3及びRCVRNに関する1日目解凍後2-D PRPの免疫蛍光染色(20×対物レンズ)。(図4C)CRX及びRCVRNに関する1日目解凍後2-D PRPの免疫蛍光染色(20×対物レンズ)。(図4D)2日目解凍後2-D PRP凝集体の単一細胞遺伝子発現分析。
【0046】
図5】ハイブリッドPRP分化プロセスの概略。
【0047】
図6】入力iPSC密度最適化。6ウェルプレートの1つのウェル当たり1×104(10K)~1×106(1000K)個の細胞の範囲の入力密度による、Pax6及びVsx2に関する15日目ハイブリッドPRP分化のフローサイトメトリー分析。
【0048】
図7】RM培地最適化。FGF2及びSB431542を添加したか又は添加していないRM培地で増殖した18日目RPCのフローサイトメトリー分析。
【0049】
図8A-8B】PM培地最適化。(図8A)PD0332991又はアクチビンAを添加したか又は添加していないPM培地中での後期播種PRPの形態。(図8B)PD0332991又はアクチビンAを添加したか又は添加していないPM培地中での後期播種C-2 PRPのフローサイトメトリー分析。
【0050】
図9】ハイブリッドPRP MACS富化。MACS富化前後の両方での、TUBB3、ネスチン、及びRCVRNの発現に関するハイブリッドPRPのフローサイトメトリー分析。
【0051】
図10A-10D】ハイブリッドPRPキャラクタリゼーション。(図10A)2日目解凍後ハイブリッドPRP凝集体の画像(10×対物レンズ)。(図10B)TUBB3及びRCVRNに関する1日目解凍後ハイブリッドPRPの免疫蛍光染色(20×対物レンズ)。(図10C)CRX及びRCVRNに関する1日目解凍後ハイブリッドPRPの免疫蛍光染色(20×対物レンズ)。(図10D)。2日目解凍後ハイブリッドPRP凝集体の単一細胞遺伝子発現分析。
【0052】
図11】ハイブリッドOV分化プロセスの概略。
【0053】
図12A-12D】ハイブリッドOVの形態及びキャラクタリゼーション。(図12A)68日目分化ハイブリッドOVの画像。(図12B)VSX2及びRCVRNに関する分化ハイブリッドOVの免疫蛍光染色経時変化。(図12C)ガンマ-シヌクレイン(SNCG;網膜神経節細胞マーカー)、RCVRN(PRP及び光受容体のマーカー)、緑色感受性オプシン(OPN1MW;錐体マーカー)、錐体-アレスチン(ARR3;錐体マーカー)、及びロドプシン(RHO;杆体マーカー)に関する後期ハイブリッドOVの免疫蛍光染色。(図12D)VSX2及びRCVRNに関する分化ハイブリッドOVのフローサイトメトリー経時変化分析。
【0054】
図13】2-D NRP分化プロセスの概略。
【0055】
図14A-14C】2-D NRPキャラクタリゼーション。(図14A)2日目解凍後NRP凝集体の画像。(図14B)PAX6(左側)及びVSX2(右側)に関する1日目解凍後付着性NRPの免疫蛍光染色。(図14C)PAX6、PMEL17、及びVSX2に関する2日目解凍後NRPのフローサイトメトリー分析。
【0056】
図15A-15B】表4に対応する表面抗原及びリカバリンの共発現のフロー分析を、リカバリンと、それぞれの表面抗原に対する抗体とによる二重標識後の象限フロープロットを使用して決定した。加えて、リカバリンのみを発現する細胞(FITC中、x軸)又は表面抗原のみを発現する細胞(APC中、y軸)のパーセント集団を評価した。全てのプロットを、非染色(空)細胞、及び対応するアイソタイプコントロール(REA IgG1、MsIgG1、Ms IgG2a、MsIgG2b、MsIgM)に対してゲーティングした。
【0057】
図16】表面抗原による富化後のリカバリン発現の経時変化。リカバリン発現は、CD344富化PRPに関してはD65で最大である。CD111及びCD230による富化でも、富化前(MACS前)細胞と比較して、リカバリン発現の高い割合が得られる。
【0058】
図17】D55での表面抗原CD111、CD230、及びCD344による富化後の、オンターゲットPRP及びオフターゲット網膜細胞の富化後発現の評価。
【0059】
図18】D65での表面抗原CD111、CD230、及びCD344による富化後のオンターゲットPRP及びオフターゲット網膜細胞の富化後発現の評価。
【0060】
図19】D75での表面抗原CD111、CD230、及びCD344による富化後のオンターゲットPRP及びオフターゲット網膜細胞の富化後発現の評価。
【0061】
図20】D75でのCD133による富化後のオンターゲットPRP及びオフターゲット網膜細胞の富化後発現の評価。
【0062】
図21】枯渇マーカーのフロー分析。
【0063】
図22】PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないPAX6及びCHX10の発現のフローサイトメトリー分析。
【0064】
図23】PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないPAX6及びCHX10の発現率。
【0065】
図24A-24B】(図24A)PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないKi67及びCHX10の発現のフローサイトメトリー分析。*共役CHX10の使用により、プロットがシフトした(より高くなった)が、この場合では、発現レベルが低下し、これは、立体障害に起因して抗体が最大エピトープを標識しなかった可能性があり得る。(図24B)PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないKi67及びCHX10の発現率。
【0066】
図25A-25B】(図25A)PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないTYRP1及びPMELの発現のフローサイトメトリー分析。(図25B)PRP分化の15日目及び25日目での、CKI-7によるか又はよらないTYRP1及びPMELの発現率。
【0067】
図26A-26B】RIMの存在下(図26A)及び非存在下(図26B)での初期眼野及びRPEマーカーの比較。
【0068】
図27A-27D】系統にわたる、PAX6(図27A)、CHX10(図27B)、TRYP10(図27C)、及びPMEL(図27D)の発現での初期(D15)神経網膜分化へのRIMあり対RIMなしの効果。
【0069】
図28A-28D】PAX6(図28A)、CHX10(図28B)、TRYP10(図28C)、及びPMEL(図28D)の発現でのRIMの存在下又は非存在下における、PRPの中期分化(約D30)の比較。
【0070】
図29A-29B】RIMの存在下(図29A)での及び非存在下(図29B)での75日目におけるオンターゲットPRPキャラクタリゼーションマーカーの発現。
【0071】
図30】RIMの存在下での又は非存在でのD75分化におけるオフターゲット網膜細胞マーカーの発現。
【0072】
図31A-31B】リカバリン発現は、CD171と比較してSUSD2により富化されているPRP細胞中で90%を超える。(図31A)SUSD2により富化されたRCVRN陽性集団。(図31B)CD171により富化されたRCVRN陽性集団。
【0073】
図32A-32E】分化55日目~65日目で、リカバリン(図32A)及びSUSD2(図32B)の最大発現を観察しており、リカバリンは、SUSD2の直後にピークに達した。リカバリン及びSUSD2の共発現(図32C)は、SUSD2単独発現を模倣しており、このことは、SUSD2を発現する細胞はリカバリンも発現するが、全てのリカバリン陽性細胞がSUSD2を発現するわけではないことを示唆する。3つのグラフの重ね合わせにより、二重リカバリン/SUSD2対単一SUSD2株の並列発現が明確に示される(図32D)。固定後リカバリン標識によるSUSD2標識。初期D55~後期D105でのリカバリン及びSUSD2の共発現の独立した経時変化研究(図32E)は、D65付近でのピークSUSD2発現を支持するが、D55での同様に上昇した発現も示す。
【0074】
図33A-33C】リカバリンの発現率は、D65、D75、及びD85でのSUSD2富化後にさらに増加しており(図33A)、このことは、初期ピークSUSD2及びリカバリンの発現時間にも対応するD65での最も高い発現を示す。D65~D75~D85では、リカバリン陽性細胞集団のパーセントは減少する(B)が、D85では、SUSD2富化は、CD171富化と比較して、リカバリン陽性細胞の割合を依然として高める(図33B)。しかしながら、SUS2富化の限界は低い細胞出力であり、富化後に回復した初期細胞入力の25%未満である(図33C)。このことは、D85でSUSD2又はCD171のいずれかにより富化された細胞に当てはまり、そのため、総入力細胞のわずか3%がSUSD2により富化されており、総入力細胞のわずか18%でCD171により富化されている。フロースルー(SUSD2-及びCD171-と標識されている)は、細胞の大部分を含んでいるように見え、このことは、後期分化期で両方の表面マーカーの発現が減少する可能性を示唆する。
【0075】
図34A-34E】D65での、高いMACS前SUSD2及びMASC前後のリカバリン発現、CHX10発現は最低であるが、D75及びD85では有意に増加する(図34A)。リカバリン-CHX10の共発現は、D65で3%未満であり、D75及びD85それぞれで上昇し及び下降し、このことは、短命の双極細胞集団を示唆する(図34B)。NeuroD1発現は、D75及びD85と比較して、D65での富化前後に最も高く(図34C)、NeuroD1共発現はまた、D65でも最も高く、SUSD2富化後にさらに増強された(図34D)。追加実験(図34E)により、D55で低いCHX10を確認しており、D75でのSUSD2 MACS富化後のCHX10の大幅な減少も示された。
【発明を実施するための形態】
【0076】
I.例示的実施形態の説明
ある特定の実施形態では、本開示は、眼球細胞(例えば、光受容体前駆体(PRP)細胞集団)を製造する方法を提供する。PRP細胞は、胚様体の形成又は細胞のコロニーの選択を必要とすることなく、定義された2D細胞培養で、ES細胞又はiPS細胞等の多能性幹細胞に由来し得る。或いは、PRP細胞を、付着性2-D及び懸濁凝集体3-Dのハイブリッド培養で得てもよい。簡潔に説明すると、PSCを前部神経外胚葉細胞に分化させ、この前部神経外胚葉細胞を、短期間にわたり、BMP阻害剤を含む網膜分化培地で培養し、次いで、BMP阻害剤を含まない網膜分化培地でさらに培養することができる。興味深いことに、本発明者らは、BMP阻害剤の除去により前部神経外胚葉細胞の神経網膜分化能が増強されることを発見した。次いで、この細胞を、ニコチンアミドの存在下で及びアクチビンAの非存在下で、網膜前駆細胞(RPC)にさらに分化させ、この細胞を、網膜色素上皮細胞等の他の網膜系統ではなく光受容体系統へと導くことができる。最後に、RPCを、TGFβ阻害剤、WNT阻害剤、塩基性FGF、及びγ-セクレターゼ阻害剤の存在下で分化させて、神経網膜前駆細胞(NRP)を製造し得、次いで、このNRPを、PRP細胞へと分化することができる。そのため、本開示は、PSCのPRP細胞への分化の高効率で再現可能な方法を提供する。
【0077】
本開示はまた、2D凝集体培養及び3D凝集体培養の組み合わせによるPRP細胞又は眼胞の製造方法も提供する。RPCを、一定期間にわたり、アクチビンAを含まない網膜成熟培地で凝集体として培養してPRP凝集体を製造し得、次いで、PRP凝集体を解離させて単層として培養することができる。或いは、RPCを、長期間にわたり、アクチビンAを含まない網膜成熟培地で培養してPRP凝集体を製造し、最終的には眼胞を製造することができる。
【0078】
本開示のさらなる実施形態は、上記方法により得られるPRP細胞の集団を精製する方法を提供する。この精製方法は、陽性選択及び/又は陰性選択を含むことができる。例えば、CD171を発現する細胞を、細胞選別により選択することができる。従って、この精製プロセスにより、RPCからの分化後に得られる集団と比べてPRP細胞の割合が高いPRP富化細胞集団が得られる。
【0079】
そのため、本方法は、より時間的に及びコスト的に効率的であり、且つ臨床規模で、再生可能な供給源である幹細胞からの治療法のためのPRP富化細胞集団の製造を可能にし得る。この方法を使用して、光受容体細胞の発生、分化、維持、生存、及び機能に重要な機序、新規遺伝子、可溶性因子又は膜結合因子を明らかにすることができる。
【0080】
本明細書で提供されるPRP細胞及び光受容体細胞を、様々なインビボでの方法及びインビトロでの方法で使用することができる。例えば、PRP細胞をインビボで使用して、網膜の状態(例えば、限定されないが、黄斑変性症及び網膜色素変性症)を処置することができる。同様に、PRP細胞及び光受容体細胞を、スクリーニングアッセイにおいてインビトロで使用して、推定上の治療的処置候補又は予防的処置候補を同定することができる。本開示のさらなる実施形態及び利点を、下記で説明する。
【0081】
I.定義
「精製済」という用語は、絶対的な純度を必要とするものではなく、むしろ、相対的な用語として意図されている。そのため、細胞の精製済集団は、約90%超、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%純粋であり、最も好ましくは、他の細胞型を本質的に含まない。
【0082】
本明細書で使用される場合、特性の成分に関する「本質的に」又は「本質的に含まない」は、本明細書では、この特定の成分が組成物中に意図的に配合されていない及び/又は汚染物質としてのみ存在するか若しくは微量で存在することを意味するために使用される。従って、組成物のあらゆる意図しない汚染によるこの特定の成分の総量は、0.05%をはるかに下回り、好ましくは0.01%未満である。最も好ましいのは、この特定の成分の量が標準的な分析方法により検出され得ない組成物である。
【0083】
本明細書で使用される場合、「a」又は「an」は、1つ又は複数を意味することができる。本明細書において特許請求の範囲で使用される場合、単語「含む(comprising)」と共に使用される際には、単語「a」又は「an」は、1つ又は複数を意味することができる。
【0084】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、本開示が選択肢のみ並びに「及び/又は」を指す定義を支持するが、選択肢のみを指すこと明示的に示されていない限り、又は選択肢が相互に排他的でない限り、「及び/又は」を意味するために使用される。本明細書で使用される場合、「別の」は、少なくても2番目以降を意味することができる。
【0085】
本出願全体を通して、「約」という用語は、ある値が、デバイスの固有の誤差のばらつき、この値を決定するために用いられる方法、又は研究対象の間に存在するばらつきを含むことを示すために使用される。
【0086】
「細胞集団」という用語は、本明細書では、細胞(典型的には共通の型)の群を指すために使用される。細胞集団は、共通の前駆細胞に由来し得るか、又は複数種の細胞型を含んでもよい。「富化」細胞集団は、出発細胞集団に由来する細胞集団(例えば、分画されていない異種細胞集団)であって、特定の細胞型の割合が出発集団中のこの細胞型の割合と比べて高い細胞集団を指す。細胞集団は、1種又は複数種の細胞型が富化され且つ1種又は複数種の細胞型が枯渇され得る。
【0087】
「幹細胞」という用語は、本明細書では、適切な条件下では多様な特定の細胞型に分化することができる、他の適切な条件下では自己複製し且つ本質的には未分化の多能性状態に留まり得る細胞を指す。「幹細胞」という用語はまた、多能性細胞、多分化能細胞、前駆体細胞、及び前駆細胞も包含する。例示的なヒト幹細胞を、骨髄組織から得られる造血幹細胞又は間葉幹細胞、胚組織から得られる胚性幹細胞、又は胎児の生殖器組織から得られる胚性生殖細胞から得ることができる。例示的な多能性幹細胞を、多能性と関連するある特定の転写因子の発現により多能性状態に体細胞をリプログラムすることにより、体細胞からも製造し得、この細胞は、「人工多能性幹細胞」又は「iPSC」と呼ばれる。
【0088】
「多能性」という用語は、胚外細胞又は胎盤細胞を除いて生物の全ての他の細胞型に分化する細胞の性質を指す。多能性幹細胞は、長期の培養後であっても、3つ全ての胚葉の細胞型(例えば、外胚葉、中胚葉、及び内胚葉の細胞型)に分化することができる。ある多能性幹細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来する胚性幹細胞である。他の実施形態では、多能性幹細胞は、体細胞をリプログラムすることにより得られる人工多能性幹細胞である。
【0089】
「分化」という用語は、未分化の細胞が、構造的特性及び/又は機能的特性の変化を伴って、より分化した型になるプロセスを指す。成熟細胞は、典型的には、変更された細胞構造及び組織特異的タンパク質を有する。
【0090】
本明細書で使用される場合、「未分化」は、未分化細胞の特徴的なマーカー及び形態学的特徴であって、この未分化細胞を、胚起源又は成体起源の末期分化細胞と明確に区別する特徴的なマーカー及び形態学的特徴を示す細胞を指す。
【0091】
「胚様体(EB)」は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉の胚葉の細胞への分化を受け得る多能性幹細胞の凝集体である。スフェロイド構造は、多能性幹細胞が非付着性培養条件下で凝集した場合に生じ、そのため、懸濁液中でEBを形成する。
【0092】
「単離」細胞は、生物中の又は培養物中の他の細胞から実施的に分離されているか、又は精製されている。単離細胞は、例えば、少なくとも99%、少なくとも98%純粋、少なくとも95%純粋、又は少なくとも90%純粋であり得る。
【0093】
「胚」は、人工的にリプログラムされた核を有する接合体又は活性化された卵母細胞の1回又は複数回の分裂により得られる細胞塊を指す。
【0094】
「胚性幹(ES)細胞」は、胚盤胞期での内部細胞塊等の初期段階の胚から得られる未分化多能性細胞であるか、又は人工的な手段(例えば核移植)より製造される未分化多能性細胞であり、生殖細胞(例えば、精子及び卵子)等の胚又は成体のあらゆる分化細胞型を生じることができる。
【0095】
「人工多能性幹細胞(iPSC)」は、因子(本明細書では、リプログラミング因子と称される)の組み合わせを発現させることによって、又はこの発現を誘発することによって、体細胞をリプログラミングすることにより、生成される細胞である。iPSCを、胎児の、出生後の、新生児の、若年の、又は成体の体細胞を使用して生成することができる。ある特定の実施形態では、体細胞を多能性幹細胞にリプログラムするために使用され得る因子として、例えば、Oct4(Oct 3/4と称される場合もある)、Sox2、c-Myc、及びKlf4、Nanog、及びLin28が挙げられる。一部の実施形態では、少なくても2種のリプログラミング因子、少なくとも3種のリプログラミング因子、又は4種のリプログラミング因子を発現させて、体細胞を多能性幹細胞にリプログラミングすることにより、体細胞をリプログラミングする。
【0096】
「対立遺伝子」は、遺伝子の2つ以上の形態の内の1つを指す。ヒト等の二倍体生物は、各染色体の2つのコピーを含み、そのため、それぞれで1つの対立遺伝子を保有する。
【0097】
「ホモ接合性」という用語は、特定の遺伝子座で同一の対立遺伝子の内の2つを含むと定義される。「ヘテロ接合性」という用語は、特定の遺伝子座で2つの異なる対立遺伝子を含むことを指す。
【0098】
「ハプロタイプ」は、単一の染色体に沿った複数の遺伝子座での対立遺伝子の組み合わせを指す。ハプロタイプは、単一の染色体上の一塩基多型(SNP)のセット及び/又は主要組織適合性複合体での対立遺伝子に基づくことができる。
【0099】
本明細書で使用される場合、「ハプロタイプ適合」という用語は、細胞(例えばiPS細胞)及び処置される対象が1つ又は複数の主要組織適合性遺伝子座ハプロタイプを共有すると定義される。対象のハプロタイプを、当該技術分野で公知のアッセイを使用して容易に決定することができる。ハプロタイプ適合iPS細胞は、自家性であり得るか、又は同種であり得る。組織培養で増殖してPRP細胞に分化した自家細胞は、本質的に対象にハプロタイプが適合している。
【0100】
「実質的に同一のHLA型」は、ドナーの体細胞に由来するiPSCの分化を誘発することにより得られている移植細胞が、患者に移植された場合に生着し得る程度まで、ドナーのヒト白血球抗原(HLA)型と患者のHLA型とが一致することを示す。
【0101】
「スーパードナー」は、本明細書では、ある特定のMHCクラスI及びIIの遺伝子に対してホモ接合性である個体を指す。これらのホモ接合性個体は、スーパードナーとして機能し得、これらの細胞(この細胞を含む組織又は他の物質を含む)を、このハプロタイプに対してホモ接合性であるか又はヘテロ接合性である個体に移植することができる。スーパードナーは、HLA-A、HLA-B、HLA-C、HLA-DR、HLA-DP、又はHLA-DQ遺伝子座/遺伝子座対立遺伝子それぞれに対してホモ接合性であり得る。
【0102】
「フィーダーフリー」又は「フィーダー非依存性」は、本明細書では、フィーダー細胞層の代替としてサイトカイン及び増殖因子(例えば、TGFβ、bFGF、LIF)が補充されている培養物を指すために使用される。そのため、「フィーダーフリー」又はフィーダー非依存性の培養システム及び培地を使用して、未分化の増殖状態で多能性細胞を培養して維持することができる。場合によっては、フィーダーフリー培養物は、動物ベースのマトリックス(例えばMATRIGEL(商標))を利用するか、又はフィブロネクチン、コラーゲン、若しくはビトロネクチン等の基材上で増殖する。これらのアプローチにより、ヒト幹細胞を、マウス線維芽細胞「フィーダー層」を必要とすることなく本質的に未分化状態で維持することが可能になる。
【0103】
「フィーダー層」は、本明細書では、例えば培養皿の底部上の細胞のコーティング層として定義される。フィーダー細胞は、培養培地中に栄養素を放出し得、且つ多能性幹細胞等の他の細胞が付着し得る表面を提供することができる。
【0104】
「定義されている」又は「完全に定義されている」という用語は、培地、細胞外マトリックス、又は培養条件との関連で使用される場合には、ほぼ全ての成分の化学組成及び量が既知である培地、細胞外マトリックス、又は培養条件を指す。例えば、定義されている培地は、ウシ胎仔血清、ウシ血清アルブミン、又はヒト血清アルブミン等の定義されていない因子を含まない。一般に、定義されている培地は、組換えアルブミン、化学的に明確な脂質、及び組換えインスリンが補充されている基本培地(例えば、アミノ酸、ビタミン、無機塩、バッファー、抗酸化剤、及びエネルギー源を含むダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、F12、又はロズウェルパーク記念研究所培地(RPMI)1640)を含む。完全に定義されている培地の一例は、Essential 8(商標)培地である。
【0105】
ヒト細胞により使用される培地、細胞外マトリックス、又は培養システムに関して、「異種成分(Xeno)フリー(XF)」という用語は、使用される物質が非ヒト動物起源ではない状態を指す。
【0106】
「プレコンフルエント」は、細胞培養物であって、細胞で覆われているこの培養物の表面の割合が約60~80%である細胞培養物を指す。通常、プレコンフルエントは、培養物であって、この培養物の表面の約70%が細胞で覆われている培養物を指す。
【0107】
「網膜前駆細胞」という用語は、「網膜前駆体細胞」又は「RPC」とも呼ばれ、網膜の全ての細胞型を生成する能力を有する細胞(例えば、神経網膜細胞(例えば、杆体、錐体、光受容体前駆体細胞)、及びRPEに分化し得る細胞)を包含する。
【0108】
「神経網膜前駆細胞」又は「NRP」という用語は、神経網膜細胞型への分化能が制限されている細胞を指す。
【0109】
「光受容体前駆体細胞」及び「PRP」細胞という用語は、細胞マーカーであるロドプシン又は3種の錐体オプシンのいずれかを発現し且つ杆体又は錐体のcGMPを所望により発現する光受容体細胞に分化し得る胚性幹細胞又は人工多能性幹細胞から分化した細胞を指す。光受容体は、杆体光受容体及び/又は錐体光受容体であり得る。
【0110】
「眼胞」又は「OV」という用語は、眼胞構造を含む形態を有する細胞凝集体又はオルガノイド(例えばPRP細胞凝集体)を指す。
【0111】
「網膜色素上皮」は、血管で満たされている層である脈絡膜と、神経網膜との間の色素細胞の層を指す。
【0112】
「網膜誘導培地(RIM)」は、本明細書では、WNT経路阻害剤及びBMP経路阻害剤を含み且つ網膜系統細胞へのPSCの分化をもたらし得る増殖培地を指す。RIMはまた、TGFβ経路阻害剤も含み、IGF-1及びアスコルビン酸を含んでもよい。
【0113】
「網膜分化培地(RD)」は、本明細書では、WNT阻害剤、TGFβ阻害剤、及びMEK阻害剤を含み且つ前部神経外胚葉細胞を分化させる培地と定義される。RDMは、BMP阻害剤を含んでもよいし(即ちRD1)含まなくてもよく(即ちRD2)、IGF-1及びアスコルビン酸を含んでもよい。
【0114】
「網膜成熟培地(RM)」は、ニコチンアミド及びアスコルビン酸を含む、網膜細胞の培養用の増殖培地と定義される。RMは、好ましくはアクチビンAを含まない。RMは、γセクレターゼ阻害剤(例えばDAPT)又はTGFβ阻害剤(例えばSB431542)を含んでもよいし(即ちRM1)含まなくてもよく(即ちRM2)、IGF-1及びアスコルビン酸を含んでもよい。
【0115】
「PRP成熟培地(PM)」は、本明細書では、ニコチンアミド及びγセクレターゼ阻害剤(例えばDAPT)を含む、PRP細胞の培養用の増殖培地と称される。PMは、CDK阻害剤(例えばPD0332291)、TGF-β経路活性化剤(例えばアクチビンA)、又はマイトジェン(例えばレチノイン酸)を含んでもよいし(即ちPM1)含まなくてもよい(即ちPM2)。
【0116】
「光受容体前駆体誘導培地(FDSC)」は、TGFβ阻害剤、WNT阻害剤、及びγ-セクレターゼ阻害剤を含む増殖培地を指す。FDSCは、塩基性FGF及びアスコルビン酸を含んでもよい。
【0117】
「網膜変性関連疾患」という用語は、生得的な又は出生後の網膜の変性又は異常に起因するあらゆる疾患を指すことが意図されている。網膜変性関連疾患の例として、網膜異形成、網膜変性、加齢性黄斑変性症、糖尿病性網膜症、網膜色素変性症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障、視神経症、及び外傷が挙げられる。
【0118】
本明細書で使用される「治療上有効な量」は、疾患又は状態の処置のために対象に投与された場合に、そのような処置に影響を及ぼすのに十分な化合物の量を指す。
【0119】
II.多能性幹細胞
A.胚性幹細胞
ES細胞は、胚盤胞の内部細胞塊に由来しており、且つインビトロでの分化能が高い。発生中の胚の外側の栄養外胚葉層を除去し、次いで、非増殖細胞のフィーダー層上で内部塊細胞を培養することにより、ES細胞を単離することができる。再播種された細胞は、増殖してES細胞の新規のコロニーを生じ続け得、このコロニーは、取り出し、解離し、再び再播種し、及び増殖することができる。未分化ES細胞を「継代培養する」このプロセスを何度も繰り返して、未分化ES細胞を含む細胞系統を作製することができる(米国特許第5,843,780号明細書;同第6,200,806号明細書;同第7,029,913号明細書)。
【0120】
マウスES細胞を製造する方法は公知である。一方法では、マウスの129株由来の着床前胚盤胞をマウス抗血清で処理して栄養外胚葉を除去し、内部細胞塊を、ウシ胎仔血清を含む培地中の化学的に不活性化されたマウス胚性線維芽細胞のフィーダー細胞層上で培養する。発生する未分化ES細胞のコロニーを、ウシ胎仔血清の存在下にてマウス胚性線維芽細胞フィーダー層上で継代培養して、ES細胞の集団を製造する。一部の方法では、血清含有培養培地にサイトカイン白血病抑制因子(LIF)を添加することにより、フィーダー層の非存在下でマウスES細胞を増殖させることができる(Smith、2000年)。他の方法では、骨形成タンパク質及びLIFの存在下にて、血清フリー培地でマウスES細胞を増殖させることができる(Yingら、2003年)。
【0121】
ヒトES細胞は、既に説明されている方法により胚細胞を製造するために、精子及び卵子細胞の融合、核移植、発病、又はクロマチンのリプログラミング及びそれに続くリプログラムされたクロマチンの原形質膜への組込みにより製造された接合体又は胚盤胞期の哺乳動物胚から製造され得るか、又は由来し得る(Thomson及びMarshall,1998年;Reubinoffら、2000年)。一方法では、ヒト胚盤胞を抗ヒト血清に暴露し、栄養外胚葉細胞を溶解させて、マウス胚性線維芽細胞のフィーダー層上で培養されている内部細胞塊から除去する。さらに、内部細胞塊に由来する細胞の凝集塊を、化学的に又は機械的に解離させて再播種し、未分化形態を有するコロニーをマイクロピペットで選択し、解離させて再播種する(米国特許第6,833,269号明細書)。一部の方法では、塩基性線維芽細胞増殖因子の存在下にて線維芽細胞のフィーダー層上でヒトES細胞を培養することにより、このES細胞を血清なしで増殖させることができる(Amitら、2000年)。他の方法では、塩基性線維芽細胞増殖因子を含む「馴化」培地の存在下にてMATRIGEL(商標)又はラミニン等のタンパク質マトリックス上でヒトES細胞を培養することにより、この細胞をフィーダー細胞層なしで増殖させることができる(Xuら、2001)。
【0122】
ES細胞はまた、既に説明されている方法(Thomson,及びMarshall,1998年;Thomsonら、1995年;Thomson及びOdorico,2000年)により、アカゲザル及びマーモセット等の他の生物にも由来し得、並びに確立されているマウス細胞系統及びヒト細胞系統にも由来し得る。例えば、確立されているヒトES細胞系統として、MAOI、MA09、ACT-4、HI、H7、H9、H13、H14、及びACT30が挙げられる。さらなる例として、確立されているマウスES細胞系統として、マウス株129胚の内部細胞塊から確立されているCGR8細胞系統が挙げられ、CGR8細胞の培養物を、フィーダー層なしで、LIFの存在下にて増殖させることができる。
【0123】
ES幹細胞は、タンパク質マーカー(例えば、転写因子Oct4、アルカリホスファターゼ(AP)、ステージ特異的胚抗原SSEA-1、ステージ特異的胚抗原SSEA-3、ステージ特異的胚抗原SSEA-4、転写因子NANOG、腫瘍拒絶抗原1-60(TRA-1-60)、腫瘍拒絶抗原1-81(TRA-1-81)、SOX2、又はREX1)により検出することができる。
【0124】
B.人工多能性幹細胞
多能性の誘発は、多能性と関連している転写因子の導入により体細胞をリプログラミングすることによって、マウス細胞を使用して2006年に(Yamanakaら、2006年)、及びヒト細胞を使用して2007年に(Yuら、2007年;Takahashiら、2007年)、初めて達成された。多能性幹細胞は未分化状態で維持され得、且つあらゆる成体細胞型に分化することができる。
【0125】
生殖細胞を除いて、あらゆる体細胞を、iPSCの出発点として使用することができる。例えば、細胞型は、ケラチノサイト、線維芽細胞、造血細胞、間葉系細胞、肝細胞、又は胃細胞の可能性がある。リプログラミングのための体細胞の供給源として、T細胞も使用することができる(米国特許第8,741,648号明細書)。細胞分化の程度又は細胞を採取する動物の年齢は制限されず、未分化前駆細胞(例えば体性幹細胞)及び最終的に分化した成熟細胞であっても、本明細書で開示されている方法において、体細胞の供給源として使用することができる。一実施形態では、体細胞は、それ自体がPRP細胞(例えばヒトPRP細胞)である。このPRP細胞は、成体PRP細胞又は胎児PRP細胞であり得る。iPSCは、特定の細胞型にヒトES細胞を分化させることが知られている条件下で増殖することができ、且つヒトES細胞マーカー(例えば、SSEA-1、SSEA-3、SSEA-4、TRA-1-60、及びTRA-1-81)を発現することができる。
【0126】
当業者に既知の方法を使用し、体細胞をリプログラミングして人工多能性幹細胞(iPSC)を製造することができる。当業者は人工多能性幹細胞を容易に製造し得、例えば、米国特許出願公開第20090246875号明細書、同第2010/0210014号明細書;同第20120276636号明細書;米国特許第8,058,065号明細書;同第8,129,187号明細書;同第8,278,620号明細書;PCT国際公開第2007/069666A1号パンフレット、及び米国特許第8,268,620号明細書(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。一般に、核リプログラミング因子を使用して、体細胞から多能性幹細胞を製造する。一部の実施形態では、Klf4、c-Myc、Oct3/4、Sox2、Nanog、及びLin28の内の少なくとも2つ、少なくとも3つ、又は少なくとも4つを利用する。他の実施形態では、Oct3/4、Sox2、c-Myc、及びKlf4を利用する。
【0127】
この細胞を、核リプログラミング物質で処理し、この核リプログラミング物質は、一般に、体細胞からiPSCを誘導し得る1種若しくは複数種の因子であるか、又はこれらの物質をコードする核酸(例えば、ベクターに組み込まれている形態)である。この核リプログラミング物質として、一般に、少なくともOct3/4、Klf4、及びSox2が挙げられるか、又はこれらの分子をコードする核酸が挙げられる。追加の核リプログラミング物質として、p53の機能的阻害剤、L-myc又はL-mycをコードする核酸、及びLin28若しくはLin28b又はLin28若しくはLin28bをコードする核酸を利用することができる。核リプログラミングにNanogも利用することができる。米国特許出願公開第20120196360号明細書で開示されているように、iPSCの製造のための例示的なリプログラミング因子として、下記が挙げられる:(1)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc(Sox2は、Soxl、Sox3、Soxl5、Soxl7、若しくはSoxl8に置き換えられ得、Klf4は、Klfl、Klf2、若しくはKlf5に置き換え可能である);(2)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、SV40大型T抗原(SV40LT);(3)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、ヒトパピローマウイルス(HPV)16 E6;(4)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E7;(5)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(6)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、TERT、Bmil;(7)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28;(8)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、SV40LT;(9)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、Lin28、TERT、SV40LT;(10)Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc、SV40LT;(11)Oct3/4、Esrrb、Sox2、L-Myc(Esrrbは、Esrrgに置き換え可能である);(12)Oct3/4、Klf4、Sox2;(13)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、SV40LT;(14)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HP VI 6 E6;(15)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E7;(16)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、HPV16 E6、HPV16 E7;(17)Oct3/4、Klf4、Sox2、TERT、Bmil;(18)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28;(19)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、SV40LT;(20)Oct3/4、Klf4、Sox2、Lin28、TERT、SV40LT;(21)Oct3/4、Klf4、Sox2、SV40LT;又は(22)Oct3/4、Esrrb、Sox2(Esrrbは、Esrrgに置き換え可能である)。非限定的な一例では、Oct3/4、Klf4、Sox2、及びc-Mycを利用する。他の実施形態では、Oct4、Nanog、及びSox2を利用し、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,682,828号明細書を参照されたい。この因子として、Oct3/4、Klf4、及びSox2が挙げられるが、これらに限定されない。他の例では、この因子として、Oct 3/4、Klf4、及びMycが挙げられるが、これらに限定されない。非限定的な一部の例では、Oct3/4、Klf4、c-Myc、及びSox2を利用する。非限定的な他の例では、Oct3/4、Klf4、Sox2、及びSal 4を利用する。Nanog、Lin28、Klf4、又はc-Mycのような因子は、リプログラミング効率を高め得、且ついくつかの異なる発現ベクターから発現することができる。例えば、EBVエレメントベースのシステム等の組込みベクターを使用することができる(米国特許第8,546,140号明細書)。さらなる態様では、リプログラミングタンパク質は、タンパク質形質導入により体細胞に直接導入される可能性がある。リプログラミングは、細胞と、1種又は複数種のシグナル伝達受容体とを接触させることをさらに含み得、このシグナル伝達受容体として、グリコーゲン合成酵素キナーゼ3(GSK-3)阻害剤、マイトジェン活性化プロテインキナーゼキナーゼ(MEK)阻害剤、形質転換増殖因子ベータ(TGF-β)受容体阻害剤又はシグナル伝達阻害剤、白血病抑制因子(LIF)、p53阻害剤、NF-カッパB阻害剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。この制御因子として、低分子、阻害性ヌクレオチド、発現カセット、又はタンパク質因子が挙げられ。実質的にあらゆるiPS細胞又は細胞系統を使用できるることが予想される。
【0128】
この核リプログラミング物質のマウスcDNA配列及びヒトcDNA配列は、参照により本明細書に組み込まれる国際公開第2007/069666号パンフレットで言及されているNCBIアクセッション番号を参照して入手可能である。1種若しくは複数種のリプログラミング物質又はこのリプログラミング物質をコードする核酸を導入する方法は、当該技術分野で既知であり、例えば、米国特許出願公開第2012/0196360号明細書及び米国特許第8,071,369号明細書(これらは両方とも、参照により本明細書に組み込まれる)で開示されている。
【0129】
一旦誘導されれば、iPSCは、多能性を維持するのに十分な培地で培養することができる。米国特許第7,442,548号明細書及び米国特許出願公開第2003/0211603号明細書で説明されているように、iPSCを、多能性幹細胞(より具体的には、胚性幹細胞)を培養するために開発された様々な培地及び技術と共に使用することができる。マウス細胞の場合では、通常の培地に分化抑制因子として白血病抑制因子(LIF)を添加して培養を実行する。ヒト細胞の場合では、LIFの代わりに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加することが望ましい。当業者に既知であるようなiPSCの培養及び維持のための他の方法を使用してもよい。
【0130】
ある特定の実施形態では、定義されていない条件を使用し得、例えば、未分化状態で幹細胞を維持するために、多能性細胞を、線維芽細胞フィーダー細胞上で又は線維芽細胞フィーダー細胞に暴露されている培地上で培養することができる。一部の実施形態では、この細胞を、フィーダー細胞としての、細胞分裂を終了させるために放射線又は抗生物質で処理したマウス胚性線維芽細胞の共存在下で培養する。或いは、定義されたフィーダー非依存性培養システム(例えば、TESR(商標)培地(Ludwigら、2006a;Ludwigら、2006b)又はE8(商標)培地(Chenら、2011年))を使用して、多能性細胞を本質的に未分化の状態で培養して維持してもよい。
【0131】
一部の実施形態では、iPSCを、外来性核酸を発現するように改変し得、例えば、プロモーターに作動可能に連結されているエンハンサー及び第1のマーカーをコードする核酸配列を含むように改変することができる。適切なプロモーターとして、光受容体細胞中で発現される任意のプロモーター(例えばロドプシンキナーゼプロモーター)が挙げられるが、これに限定されない。この構築物はまた、他のエレメント(例えば、翻訳開始のためのリボソーム結合部位(内部リボソーム結合配列)、及び転写/翻訳ターミネーター)も含み得る。一般に、この構築物で細胞をトランスフェクトすることが有利である。安定したトランスフェクションに適したベクターとして、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びSendaiウイルスが挙げられるが、これらに限定されない。
【0132】
一部の実施形態では、マーカーをコードするプラスミドは、下記で構成されている:(1)高コピー数複製起点、(2)カナマイシンによる抗生物質選択のための選択マーカー(例えば、限定されないが、ネオ遺伝子)、(3)転写終結配列(例えば、チロシナーゼエンハンサー)、及び(4)様々な核酸カセットの組込み用のマルチクローニング部位、及び(5)チロシナーゼプロモーターに作動可能に連結されているマーカーをコードする核酸配列。タンパク質をコードする核酸を誘導するための多数のプラスミドベクターが、当技術分野で既知である。これらとして、米国特許第6,103,470号明細書;同第7,598,364号明細書;同第7,989,425号明細書;及び同第6,416,998号明細書(これらは、参照により本明細書に組み込まれる)で開示されているベクターが挙げられるが、これらに限定されない。
【0133】
ウイルス遺伝子送達システムは、RNAベースの又はDNAベースのウイルスベクターであり得る。エピソーム遺伝子送達システムは、プラスミド、エプスタイン-バーウイルス(EBV)ベースのエピソームベクター、酵母ベースのベクター、アデノウイルスベースのベクター、サルウイルス40(SV40)ベースのエピソームベクター、ウシパピローマウイルス(BPV)ベースのベクター、又はレンチウイルスベクターであり得る。
【0134】
マーカーとして、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質若しくは赤色蛍光タンパク質)、酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、若しくはアルカリホスファターゼ、若しくはホタル/ウミシイタケルシフェラーゼ、若しくはナノルック(nanoluc))、又は他のタンパク質が挙げられるが、これらに限定されない。マーカーは、タンパク質(例えば、分泌された細胞表面タンパク質若しくは内部タンパク質;細胞により合成されたか若しくは取り込まれている);核酸(例えば、mRNA、若しくは酵素的に活性な核酸分子)、又は多糖類であり得る。含まれるのは、目的の細胞型のマーカーに特異的な抗体、レクチン、プローブ、又は核酸増幅反応により検出可能である任意のそのような細胞成分の決定因子である。マーカーを、遺伝子産物の機能に依存する生化学的アッセイ若しくは酵素アッセイ又は生物学的反応によっても同定することができる。これらのマーカーをコードする核酸配列は、チロシナーゼエンハンサーに作動可能に連結することができる。加えて、他の遺伝子(例えば、PRP分化、又は光受容体機能、又は生理、又は病理に対して幹細胞に影響を及ぼし得る遺伝子)が含まれていてもよい。
【0135】
1.MHCハプロタイプ一致
主要組織適合性複合体(MHC)は、同種臓器移植の免疫拒絶の主な原因である。3つの主要なクラスI MHCハプロタイプ(A、B、及びC)、並びに3つの主要なMHCクラスIIハプロタイプ(DR、DP、及びDQ)が存在する。HLA遺伝子座は高度な多型を示し、6番染色体上に4Mbにわたり分布している。この領域内のHLA遺伝子をハプロタイプ化する能力は臨床上重要であり、なぜならば、この領域は、自己免疫疾患及び感染性疾患と関連しており、且つドナーとレシピエントとの間のHLAハプロタイプの適合性が移植の臨床転帰に影響を及ぼす可能性があるからである。MHCクラスIに対応するHLAは、細胞内からペプチドを提示し、MHCクラスIIに対応するHLAは、細胞外からTリンパ球に抗原を提示する。移植片と宿主との間のMHCハプロタイプの適合性は、移植片に対する免疫反応を誘発して、この移植片の拒絶を引き起こす。そのため、患者を免疫抑制剤で処置して拒絶を予防することができる。HLA適合幹細胞系統は、免疫拒絶のリスクを克服する場合がある。
【0136】
移植ではHLAが重要であることから、HLA遺伝子座は、通常、好ましいドナー-レシピエント対を同定するために、血清学及びポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により分類される。HLAクラスI及びIIの抗原の血清学的検出は、精製されたTリンパ球又はBリンパ球による補体媒介性リンパ球毒性試験を使用して達成することができる。この手順は、主に、HLA-A遺伝子座及びHLA-B遺伝子座を一致させるために使用される。分子に基づく組織適合試験は、血清学的試験と比べて正確であり得ることが多い。PCR産物が一連のオリゴヌクレオチドプローブに対して試験される低分解能分子法(例えばSSOP(配列特異的オリゴヌクレオチドプローブ)法)を使用してHLA抗原を同定し得、現在、この方法は、クラスII-HLA分類に使用される最も一般的な方法である。PCR増幅に対立遺伝子特異的プライマーを利用する高分解能技術(例えばSSP(配列特異的プライマー)法)により、特定のMHC対立遺伝子を同定することができる。
【0137】
ドナー細胞がHLAホモ接合性である(即ち、各抗原提示タンパク質に関して同一の遺伝子座を含む)場合には、ドナーとレシピエントとの間のMHC適合性は有意に増加する。ほとんどの個体はMHCクラスI遺伝子及びMHCクラスII遺伝子に関してヘテロ接合性であるが、ある特定の個体は、これらの遺伝子に関してホモ接合性である。このホモ接合性個体は、スーパードナーとしての役割を果たし得、この細胞から生成された移植片は、このハプロタイプに関してホモ接合性であるか又はヘテロ接合性である全ての個体で移植することができる。さらに、ホモ接合性ドナー細胞は、ある集団において高頻度で見出されるハプロタイプを有する場合には、この細胞は、多数の個体の移植治療で適用することができる。
【0138】
従って、iPSCは、処置される対象の体細胞から製造することができるか、又はこの患者と同一の又は実質的に同一のHLA型を有する別の対象の体細胞から製造することができる。一例では、ドナーの主要なHLA(例えば、HLA-A、HLA-B、及びHLA-DRという3つの主要な遺伝子座)は、レシピエントの主要なHLAと同一である。場合によっては、体細胞ドナーはスーパードナーであり得、そのため、MHCホモ接合性スーパードナーに由来するiPSCを使用してPRP細胞を生成することができる。そのため、スーパードナーに由来するiPSCは、ハプロタイプに関してホモ接合性であるか又はヘテロ接合性である対象で移植することができる。例えば、iPSCは、HLA-A及びHLA-B等の2種のHLA対立遺伝子でホモ接合性であり得る。従って、スーパードナーから製造されたiPSCを、本明細書で開示されている方法で使用して、多数の潜在的レシピエントに潜在的に「一致」し得るPRP細胞を製造することができる。
【0139】
2.エピソームベクター
ある特定の態様では、リプログラミング因子は、1種又は複数種の外来性エピソーム遺伝子エレメントに含まれている発現カセットから発現される(参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2010/0003757号明細書を参照されたい)。そのため、iPSCは、外来性遺伝子エレメント(例えば、レトロウイルスベクターエレメント又はレンチウイルスベクターエレメントに由来する)を本質的に含み得ない。このiPSCは、染色体外複製ベクター(即ちエピソームベクター)の使用により調製され、このベクターは、外来性のベクターエレメント又はウイルスエレメントを本質的に含まないiPSCを作製するためにエピソーム的に複製し得るベクターである(米国特許第8,546,140号明細書(参照により本明細書に組み込まれる);Yuら、2009年を参照されたい)。多くのDNAウイルス(例えば、アデノウイルス、サル空胞ウイルス40(SV40)、若しくはウシパピローマウイルス(BPV))又は出芽酵母ARS(自律複製配列)含有プラスミドは、哺乳動物細胞中で染色体外的に又はエピソーム的に複製する。このエピソームプラスミドは、ベクターの組込みと関連するこれらの欠点全てを本質的に含まない(Bodeら、2001年)。例えば、上記で定義されているリンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)ベースの包含又はエプスタイン・バーウイルス(EBV)は、染色体外で複製してリプログラミング遺伝子の体細胞への送達を促進することができる。有用なEBVエレメントは、OriP及びEBNA-1であるか、又はこれらのバリアント若しくは機能的等価物である。エピソームベクターのさらなる利点は、外来性エレメントが、細胞に導入された後に時間と共に失われ、このエレメントを本質的に含まない自己持続性iPSCがもたらされるということである。
【0140】
他の染色体外ベクターとして、他のリンパ指向性ヘルペスウイルスベースのベクターが挙げられる。リンパ指向性ヘルペスウイルスは、リンパ芽球(例えばヒトBリンパ芽球)中で複製し、自然なライフサイクルの一部でプラスミドとなるヘルペスウイルスである。単純ヘルペスウイルス(HSV)は、「リンパ指向性」ヘルペスウイルスではない。例示的なリンパ指向性ヘルペスウイルスとして、EBV、カポジ肉腫ヘルペスウイルス(KSHV);ヘルペスウイルスサイミリ(HS)、及びマレック病ウイルス(MDV)が挙げられるが、これらに限定されない。同様に、エピソームベースのベクターの他の供給源(例えば、酵母ARS、アデノウイルス、SV40、又はBPV)が企図される。
【0141】
C.体細胞核移植
多能性幹細胞を、体細胞核移植の方法により調製することができる。体細胞核移植は、紡錘体フリーの卵母細胞へのドナー核の移植を伴う。一方法では、アカゲザルの皮膚線維芽細胞由来のドナー線維芽細胞核を、電気融合により紡錘体フリーの成熟中期IIアカゲザル卵母細胞の細胞質に導入する(Byrneら、2007年)。融合した卵母細胞を、イオノマイシンへの暴露により活性化させ、次いで胚盤胞期までインキュベートする。次いで、選択した胚盤胞の内部細胞塊を培養して、胚性幹細胞系統を製造する。この胚性幹細胞系統は正常なES細胞形態を示し、様々なES細胞マーカーを発現し、且つインビトロ及びインビボの両方で複数の細胞型に分化する。
【0142】
III.光受容体前駆体細胞
一部の実施形態では、神経網膜前駆(NRP)細胞、光受容体前駆体(PRP)細胞、又は眼胞(OV)を、本明細書で開示されている方法で製造する。網膜中において光に直接反応する細胞は、光受容体細胞である。光受容体は、網膜の外側部分における感光性ニューロンであり、杆体又は錐体のいずれかであり得る。光伝達のプロセスでは、光受容体細胞は、レンズにより集束された入射光エネルギーを電気シグナルに変化し、次いで、この電気シグナルは、視神経を介して脳に送られる。脊椎動物は、2種類の光受容体細胞(例えば、錐体及び杆体)を有する。錐体は、細かいディテール、中心視野及び色覚を検出するように適合されており、明るい光下で良好に機能する。杆体は、周辺視野及び暗所視に関与する。杆体及び錐体からの神経シグナルは、網膜の他のニューロンによる処理を受ける。
【0143】
PRP細胞は、マーカー(例えば、OTX2、CRX、PRDM1(BLIMP1)、NEUROD1、RCVRN、TUBB3、及びL1CAM(CD171))を発現することができる。PRP細胞は、方法論(例えば、免疫細胞化学、ウエスタンブロット分析、フローサイトメトリー、及び酵素結合免疫アッセイ(ELISA))の使用による検出のためのマーカーとして機能し得るいくつかのタンパク質を発現する。例えば、一つの特徴的なPRPマーカーは、RCVRNである。PRP細胞は、胚性幹細胞マーカーOCT-4、NANOG、又はREX-1を(任意の検出可能レベルで)発現しない場合がある。具体的には、これらの遺伝子の発現は、定量的RT-PCRにより評価した場合に、ES細胞中又はiPSC細胞中と比べて、PRP細胞中で約100~1000倍低い。
【0144】
例えば、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)、ノーザンブロット分析、又は公的に入手可能な配列データ(GENBANK(登録商標))を使用する標準的な増幅方法で配列特異的プライマーを使用するドットブロットハイブリダイゼーション分析により、PRP細胞マーカーをmRNAレベルで検出することができる。タンパク質レベル又はmRNAレベルで検出された組織特異的マーカーの発現は、このレベルが、コントロール細胞(例えば、未分化多能性幹細胞又は他の無関係な細胞型)の少なくとも又は約2、3、4、5、6、7、8、又は9倍である場合に、より具体的には10、20、30、40、50倍超、又はより高い場合に、陽性と見なされる。
【0145】
光受容体細胞の機能障害、損傷、及び喪失は、多くの眼疾患及び眼障害(例えば、加齢性黄斑変性症(AMD)、ベスト病等の遺伝性黄斑変性症、及び網膜色素変性症)の原因である。そのような疾患の潜在的な処置は、そのような処置が必要なものの網膜へのPRP又は光受容体細胞の移植である。PRP又は光受容体細胞の移植によるこれらの補充により、劣化を遅延させ得るか、停止させ得るか、又は反転させ得、網膜機能を改善させ得、且つそのような状態に起因する失明を予防し得ると推測される。しかしながら、ヒトドナー及びヒト胚からPRP又は光受容体細胞を直接得ることは困難である。
【0146】
一部の実施形態では、ヒトiPSC等のPSCの本質的に単一の細胞の懸濁液からPRP細胞を製造するための方法が提供される。一部の実施形態では、PSCをプレコンフルエントまで培養して、いかなる細胞凝集体も予防する。ある特定の態様では、PSCを、細胞解離溶液又は細胞解離酵素(例えば、ヴェルセン、トリプシン、ACCUTASE(商標)、又はTRYPLE(商標)で例示される)と一緒のインキュベーションにより解離させる。PSCを、ピペット操作によっても、本質的に単一の細胞の懸濁液に解離させることができる。
【0147】
加えて、ブレビスタチン(例えば約2.5μM)を培地に添加して、細胞が培養容器に付着することなく、単一細胞への解離後にPSC生存率を増加させることができる。或いは、ブレビスタチンの代わりにROCK阻害剤を使用して、単一細胞への解離後にPSC生存率を増加させることができる。
【0148】
単一細胞PSCからPRP細胞を効率的に分化させるために、入力密度の正確な計数によりPRP分化効率を増加させることができる。そのため、PSCの単一細胞懸濁液を、一般には播種前に計数する。例えば、PSCの単一細胞懸濁液を、血球計数器又は自動細胞カウンタ(例えば、VICELL(登録商標)又はTC20)により計数する。この細胞を、約10,000~約500,000個の細胞/mL、約50,000~約200,000個の細胞/mL、又は約75,000~約150,000個の細胞/mLの細胞密度まで希釈することができる。非限定的な例では、PSCの単一細胞懸濁液を、ESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地等の完全に定義されている培養培地で、約100,000個の細胞/mLの密度まで希釈する。
【0149】
PSCの単一細胞懸濁液を既知の細胞密度で得ると、細胞を、一般には、組織培養プレート(例えば、フラスコ、6ウェルプレート、24ウェルプレート、又は96ウェルプレート)等の適切な培養容器に播種する。この細胞を培養するために使用される培養容器として下記が挙げられ得るが、これらに特に限定されない:内部で幹細胞を培養し得る限り、フラスコ、組織培養用のフラスコ、シャーレ、ペトリ皿、組織培養用のシャーレ、マルチシャーレ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、マイクロスライド、チャンバースライド、チューブ、トレイ、CELLSTACK(登録商標)チャンバー、培養バッグ、及びローラーボトル。この細胞を、培養の必要性に応じて、下記の体積で培養し得る:少なくとも又は約0.2、0.5、1、2、5、10、20、30、40、50ml、100ml、150ml、200ml、250ml、300ml、350ml、400ml、450ml、500ml、550ml、600ml、800ml、1000ml、1500ml、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲。ある特定の実施形態では、培養容器はバイオリアクタであり得、このバイオリアクタは、細胞を増殖させ得るように生物学的に活性な環境を支持するエクスビボでのあらゆるデバイス又はシステムを指し得る。バイオリアクタは、少なくとも又は約2、4、5、6、8、10、15、20、25、50、75、100、150、200、500リットル、1、2、4、6、8、10、15立方メートル、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲の容積でもよい。
【0150】
ある特定の態様では、iPSC等のPSCを、効率的な分化に適した細胞密度で播種する。一般には、この細胞を、約1,000~約75,000個の細胞/cm2(例えば、約5,000~約40,000個の細胞/cm2)の細胞密度で播種する。6ウェルプレートでは、この細胞を、1つのウェル当たり約50,000~約400,000個の細胞の細胞密度で播種することができる。例示的な方法では、この細胞を、1つのウェル当たり約100,000、約150,000、約200,000、約250,000、約300,000、又は約350,000個の細胞(例えば、1つのウェル当たり約200,000個の細胞)の細胞密度で播種する。
【0151】
iPSC等のPSCを、一般には、1種又は複数種の細胞付着タンパク質によりコーティングされている培養プレート上で培養して、細胞生存率を維持しつつ細胞付着を促進する。例えば、好ましい細胞付着タンパク質として、細胞外マトリックスタンパク質(例えば、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、及び/又はフィブロネクチン)が挙げられ、この細胞外マトリックスタンパク質を使用して、多能性細胞の増殖のための固体支持体を提供する手段として培養表面をコーティングすることができる。「細胞外マトリックス(ECM)」という用語は、当該技術分野で認識されている。ECMの成分として、下記のタンパク質の内の1つ又は複数が挙げられ得るが、これらに限定されない:フィブロネクチン、ラミニン、ビトロネクチン、テネイシン、エンタクチン、トロンボスポンジン、エラスチン、ゼラチン、コラーゲン、フィブリリン、メロシン、アンコリン、コンドロネクチン、結合タンパク質、骨シアロタンパク質、オステオカルシン、オステオポンチン、エピネクチン、ヒアルロネクチン、ウンデュリン(undulin)、エピリグリン、及びカリニン。他のECM成分として、付着用の合成ペプチド(例えば、RGDモチーフ若しくはIKVAVモチーフ)、合成ヒドロゲル(例えば、PEG、PLGA等)、又は天然ヒドロゲル(例えばアルギネート)が挙げられ得る。例示的な方法では、PSCを、ビトロネクチンでコーティングされている培養プレート上で増殖させる。一部の実施形態では、細胞付着タンパク質は、ヒトタンパク質である。
【0152】
細胞外マトリックスタンパク質は、天然起源であり且つヒト若しくは動物の組織から精製されてもよく、或いは、ECMタンパク質は、遺伝子操作されている組換えタンパク質であってもよいし、天然での合成であってもよい。ECMタンパク質は、全タンパク質であってもよいし、天然の又は操作されたペプチド断片の形態であってもよい。細胞培養のためにマトリックスで有用であり得るECMタンパク質の例として、ラミニン、コラーゲンI、コラーゲンIV、フィブロネクチン、及びビトロネクチンが挙げられる。一部の実施形態では、マトリックス組成物は異種成分フリーである。例えば、ヒト細胞を培養するための異種成分フリーマトリックスでは、ヒト起源のマトリックス成分を使用し得、あらゆる非ヒト動物成分を除外することができる。
【0153】
一部の態様では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1ng/mL~約1mg/mLであり得る。一部の好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約1μg/mL~約300μg/mLである。より好ましい実施形態では、マトリックス組成物中の総タンパク質濃度は、約5μg/mL~約200μg/mLである。
【0154】
PRP細胞又はPSC等の細胞を、細胞の各特定の集団の増殖を支持するのに必要な栄養素と共に培養することができる。一般に、細胞を、炭素源、窒素源、及びpHを維持するためのバッファーを含む増殖培地で培養する。この培地はまた、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化物質、ピルビン酸、緩衝剤、pH指示薬、及び無機塩も含み得る。例示的な増殖培地は、幹細胞の増殖を増強するために様々な栄養素(例えば、非必須アミノ酸及びビタミン)が補充されている最少必須培地(例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)又はESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地)を含む。最少必須培地の例として、最少必須培地イーグル(MEM)アルファ培地、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、RPMI-1640培地、199培地、及びF12培地が挙げられるが、これらに限定されない。加えて、最少必須培地は、添加剤(例えば、ウマ、子ウシ、又はウシ胎仔の血清)を補充することができる。或いは、この培地は血清フリーでもよい。他の場合では、増殖培地は、培養中に未分化細胞(例えば幹細胞)を増殖させて維持するのに最適化されている血清フリー製剤と本明細書で称される「ノックアウト血清代替物」を含むことができる。KNOCKOUT(商標)血清代替物は、例えば、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2002/0076747号明細書で開示されている。好ましくは、PSCを、完全に定義されており且つフィーダーフリーの培地で培養する。
【0155】
従って、単一細胞PSCを、一般に、播種後に、完全に定義されている培養培地で培養する。ある特定の態様では、播種の約18~24時間後に、培地を吸引し、新鮮な培地(例えばE8(商標)培地)を培養物に添加する。ある特定の態様では、単一細胞PSCを、播種後に約1、2、又は3日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。好ましくは、単一細胞PSCを、分化プロセスを進める前に約2日にわたり、完全に定義されている培養培地で培養する。
【0156】
一部の実施形態では、培地は、血清の任意の代替物を含んでもよいし含まなくてもよい。血清の代替物として、アルブミン(例えば、脂質リッチアルブミン、アルブミン代用物(例えば組換えアルブミン)、植物デンプン、デキストラン、及びタンパク質加水分解物)、トランスフェリン(又は他の鉄輸送体)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、3’-チオグリセロール、又はこれらの等価物を適切に含む物質が挙げられ得る。血清の代替物を、例えば国際公開第98/30679号パンフレットで開示されている方法により調製することができる。或いは、任意の市販の材料をより便利に使用することができる。市販の材料として、KNOCKOUT(商標)血清代替物(KSR)、化学的に定義されている脂質濃縮物(Gibco)、及びGLUTAMAX(商標)(Gibco)が挙げられる。
【0157】
他の培養条件を適切に定義することができる。例えば、培養温度は、約30~40℃であり得、例えば、少なくとも又は約31、32、33、34、35、36、37、38、39℃であり得るが、これらに特に限定されない。一実施形態では、細胞を37℃で培養する。CO2濃度は、約1~10%(例えば約2~5%)であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。酸素分圧は、少なくとも、最大で、又は約1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20%であり得るか、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲であり得る。
【0158】
A.分化培地
網膜誘導培地
単一細胞PSCが培養プレートに付着した後、この細胞を、好ましくは、網膜誘導培地(RIM)で培養して網膜系統細胞への分化プロセスを開始させる。RIMはWNT経路阻害剤を含み、網膜系統細胞へのPSCの分化を引き起こすことができる。RIMは、TGFβ経路阻害剤及びBMP経路阻害剤をさらに含む。例示的な一RIM培地を表1に示す。
【0159】
RIMは、DMEM及びF12を約1:1の比で含み得る。例示的な方法では、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)がRIMに含まれており、BMP経路阻害剤(例えばLDN193189)が含まれており、且つTGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)が含まれている。例えば、RIMは、約5nM~約50nM(例えば約10nM)のLDN193189、約0.1μM~約5μM(例えば約0.5μM)のCKI-7、及び約0.5μM~約10μM(例えば約1μM)のSB431542を含む。加えて、RIMは、ノックアウト血清代替物(例えば約1%~約5%)、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸、及びインスリン増殖因子1(IGF1)を含み得る。好ましくは、IGF1は動物フリーIGF1(AF-IGF1)であり、約0.1ng/mL~約10ng/mL(例えば約1ng/mL)でRIMに含まれている。培地を毎日吸引して、新鮮なRIMと交換する。細胞を、一般に、約1~約5日(例えば、約1、2、3、4、又は5日、例えば約2日)にわたりRIMで培養して、前部神経外胚葉細胞を製造する。
【0160】
網膜分化培地
次いで、前部神経外胚葉細胞を、さらなる分化のために網膜分化培地(RD)で培養することができる。RDは、WNT経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、及びMEK阻害剤を含む。一実施形態では、RDは、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)、所望によりBMP経路阻害剤(例えばLDN193189)、TGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)、及びMEK阻害剤(例えばPD0325901)を含む。一般に、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、及びTGFβ経路阻害剤の濃度は、RIMと比較してRDM中で高く、例えば約9~約11倍高く、例えば約10倍高い。例示的な方法では、RDは、約50nM~約200nM(例えば約100nM)のLDN193189、約1μM~約10μM(例えば約5μM)のCKI-7、約1μM~約50μM(例えば約10μM)のSB431542、及び約0.1μM~約10μM(例えば、約1μM、2μM、3μM、4μM、5μM、6μM、7μM、8μM、又は9μM)のPD0325901を含む。例示的なRDを表1に示す。
【0161】
一部の態様では、細胞を、BMP阻害剤の非存在下での分化の前に、一定期間にわたり、BMP阻害剤(例えばLDN1913189)の存在下で最初に分化させることができる。最初に、前部神経外胚葉細胞を、約1~3日(例えば2日)にわたり、BMP経路阻害剤(例えばLDN193189)を含むRD1で培養する。次に、この細胞を、BMP経路阻害剤を含まないRD2で培養する。第2の工程は、前部神経外胚葉細胞の分化を継続するために、約5~10日(例えば約7日)にわたることができる。この方法による、その後に製造されたPRP細胞中でのVSX2の発現の増加を見出した。VSX2は、眼胞及び杯状体内の神経RPCの最初期の特異的マーカーである(Rowanら、2004年)。VSX2+網膜前駆細胞は、神経網膜の全ての細胞型(錐体、杆体、神経節細胞、アマクリン細胞、双極細胞、水平細胞、及びミュラーグリア)を生じさせることができる。
【0162】
一般に、RDは、約1:1の比でのDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物(例えば約1%~約5%、例えば約1.5%)、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、アスコルビン酸、及びIGF1(例えば約1ng/mL~約50ng/mL、例えば約10ng/mL)を含む。特定の方法では、細胞に、前日からの培地の吸引後に毎日新鮮なRDを与える。一般に、細胞を、約2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、又は16日(例えば約7日)にわたりRDMで培養して、前部神経外胚葉細胞をRPCへと分化させる。
【0163】
網膜成熟培地
次に、前部神経外胚葉細胞を、この細胞を網膜成熟培地(RM)で培養してRPCを製造することにより、さらに分化させて拡大させることができる。RMは、ニコチンアミドを含み得る。RMは、約1mM~約50mM(例えば約10mM)のニコチンアミドを含み得る。RMは、アスコルビン酸(例えば50~500μm、特に約100~300μm、例えば約200μm)をさらに含み得る。好ましくは、RMは、アクチビンAを含まないか、又は本質的に含まない。例示的なRM培地を表1に示す。RM(例えばRM2)は、γ-セクレターゼ阻害剤(例えば、DAPT、塩基性FGF)、及び/又はTGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)をさらに含んでもよい。
【0164】
RMは、約1:1の比でのDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)でのノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含み得る。この培地を、室温のRMと毎日交換することができる。この細胞を、一般に、約8、9、10、11、12、13、14、15、16、又は17日(例えば約10日)にわたりRMで培養して、拡大されたRPCを誘導する。
【0165】
PRP成熟培地(PM)
PRPを、PRP成熟培地(PM)で成熟させることができる。例示的なPM培地を表1に示す。PM培地は、アスコルビン酸、ニコチンアミド、及びγ-セクレターゼ阻害剤(例えばDAPT(例えば、約1μM~約10μM(例えば約5μM)のDAPT))を含む。PM(例えばPM2)はまた、CDK阻害剤も含んでもよく、例えばCDK4/6阻害剤を含んでもよく、例えばPD0332991(例えば、約1μM~約50μM、例えば約10μMのPD0332991)も含んでもよい。
【0166】
PM培地は、約1:1の比でのDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)でのノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含み得る。この培地を、室温のPM培地と毎日交換し得る。この細胞を、一般に、約4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日(例えば約10日)にわたりRM培地で培養して、成熟PRP細胞を誘導する。
【0167】
光受容体前駆体誘導培地(FDSC)
RPCのさらなる分化のために、細胞を、好ましくはFDSC培地で培養する。例示的なFDSC培地を表1に示す。FDSC培地は、WNT経路阻害剤、γ-セクレターゼ阻害剤、及びTGFβ経路阻害剤を含む。一実施形態では、FDSCは、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)、TGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)、及びγ-セクレターゼ阻害剤(例えばDAPT)を含む。例示的な方法では、FDSC培地は、約1μM~約10μM(例えば約5μM)のCKI-7、約1μM~約50μM(例えば約10μM)のSB431542、及び約1μM~約10μM(例えば約5μM)のDAPTを含む。FDSCは、塩基性FGFも含んでもよい。
【0168】
FDSC培地は、約1:1の比でのDMEM及びF12、約1%~約5%(例えば約1.5%)でのノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含み得る。加えて、この培地は、塩基性FGF(例えば約5ng/mL~約15ng/mL(例えば約10ng/mL))を含み得る。この培地を、室温のFDSC培地と毎日交換することができる。この細胞を、一般に、約10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20日(例えば約15日)にわたりFDSCで培養して、PRP細胞を誘導する。
【表1】
【0169】
加えて、この培地にブレビスタチン(例えば約2.5μM)を添加して、凝集体形成を促進することにより、PRP生存率を増加させ得、且つ純度を維持することができる。或いは、ブレビスタチンの代わりのROCK阻害剤を使用して、例えばTRYPLE(商標)を使用することにより、単一細胞への解離後にPRP生存率を増加させてもよい。
【0170】
PRP凝集体を培養して、ハイブリッド光受容体細胞又は眼胞を製造することができる。
【0171】
B.PRP細胞の凍結保存
本明細書で開示されている方法により製造された光受容体前駆体細胞を凍結保存し得、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT国際公開第2012/149484A2号パンフレットを参照されたい。この細胞を、基材と共に又は基材なしで凍結保存することができる。いくつかの実施形態では、保存温度は、約-50℃~約-60℃、約-60℃~約-70℃、約-70℃~約-80℃、約-80℃~約-90℃、約-90℃~約-100℃、及びこれらの重複範囲の範囲である。一部の実施形態では、凍結保存された細胞の保存(例えば維持)のために、より低い温度を使用する。いくつかの実施形態では、液体窒素(又は他の同様の冷却液)を使用して細胞を保存する。さらなる実施形態では、この細胞を、約6時間超にわたり保存する。追加の実施形態では、この細胞を約72時間保存する。いくつかの実施形態では、この細胞を、48時間から約1週間保存する。さらに他の実施形態では、この細胞を、約1、2、3、4、5、6、7、又は8週間にわたり保存する。さらなる実施形態では、この細胞を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、又は12ヶ月にわたり保存する。この細胞を、より長い時間にわたっても保存することができる。この細胞は、別々に凍結保存することができ、又は本明細書で開示されている基材のいずれか等の基材上で凍結保存することができる。
【0172】
一部の実施形態では、追加の抗凍結剤を使用することができる。例えば、この細胞を、1種又は複数種の抗凍結剤(例えば、DM80、血清アルブミン(例えばヒト血清アルブミン若しくはウシ血清アルブミン))を含む凍結保存溶液中で凍結保存することができる。ある特定の実施形態では、この溶液は、約1%、約1.5%、約2%、約2.5%、約3%、約4%、約5%、約6%、約7%、約8%、約9%、又は約10%のDMSOを含む。他の実施形態では、この溶液は、約1%~約3%、約2%~約4%、約3%~約5%、約4%~約6%、約5%~約7%、約6%~約8%、約7%~約9%、又は約8%~約10%のジメチルスルホキシド(DMSO)又はアルブミンを含む。ある特定の実施形態では、この溶液は2.5%のDMSOを含む。別の特定の実施形態では、この溶液は10%のDMSOを含む。
【0173】
細胞を、例えば凍結保存中に約1℃/分で冷却することができる。一部の実施形態では、凍結保存温度は、約-80℃~約-180℃又は約-125℃~約-140℃である。一部の実施形態では、細胞を、4℃まで冷却した後に、約1℃/分で冷却する。凍結保存された細胞を、使用のために解凍する前に、液体窒素の蒸気相に移すことができる。一部の実施形態では、例えば、この細胞が約-80℃に達すると、この細胞を液体窒素保存領域に移す。凍結保存を、速度が制御された冷凍庫を使用しても行うことができる。凍結保存された細胞を、例えば約25℃~約40℃の温度で、典型的には約37℃の温度で、解凍することができる。
【0174】
或いは、この細胞を、単一細胞懸濁液に解離させることなく凝集体として凍結保存することができる。例えば、PRP富化の後に、単一細胞を、最少培地(RMN)で2日にわたり組織培養フラスコ中で再凝集させることができる。凝集体をプールして、細胞計数のためにサンプルアリコートを得ることができる。一連の洗浄の後、凝集体をCryoSTOR CS10 Freeze Mediumに再懸濁させ得、この凝集体懸濁液を、例えば25×10^6個の凝集細胞製品/バイアルで液体窒素保存バイアルに移すことができる。
【0175】
C.阻害剤
WNT経路阻害剤
WNTは、細胞間相互作用を調節する高度に保存されている分泌シグナル伝達分子のファミリであり、ショウジョウバエ属(Drosophila)セグメント極性遺伝子ウイングレス(wingless)と関連している。ヒトでは、遺伝子のWNTファミリは、38~43kDaのシステインリッチ糖タンパク質をコードする。WNTタンパク質は、疎水性シグナル配列、保存されているアスパラギン結合オリゴ糖コンセンサス配列(例えば、Shimizuら Cell Growth Differ 8:1349-1358(1997)を参照されたい)、及び22個の保存されているシステイン残基を有する。WNTタンパク質は、細胞質ベータ-カテニンの安定化を促進する能力のために、転写活性化因子として働いてアポトーシスを阻害することができる。特定のWNTタンパク質の過剰発現は、ある種の癌と関連していることが示されている。
【0176】
本明細書におけるWNT阻害剤(WNT経路阻害剤とも称される)は、一般に、WNT阻害剤を指す。そのため、WNT阻害剤は、WNTファミリタンパク質のメンバー(例えば、Wnt1、Wnt2、Wnt2b、Wnt3、Wnt4、Wnt5A、Wnt6、Wnt7A、Wnt7B、Wnt8A、Wnt9A、Wnt10a、Wnt11、及びWnt16)の任意の阻害剤を指す。本方法のある特定の実施形態は、分化培地中のWNT阻害剤に関する。当該技術分野で既知である適切なWNT阻害剤の例として、下記が挙げられる:N-(2-アミノエチル)-5-クロロイソキノリン-8-スルホンアミド二塩酸塩(CKI-7)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-4-オキソ-3-フェニルチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP2)、N-(6-メチル-2-ベンゾチアゾリル)-2-[(3,4,6,7-テトラヒドロ-3-(2-メトキシフェニル)-4-オキソチエノ[3,2-d]ピリミジン-2-イル)チオ]-アセトアミド(IWP4)、2-フェノキシ安息香酸-[(5-メチル-2-フラニル)メチレン]ヒドラジド(PNU74654)2,4-ジアミノ-キナゾリン、ケルセチン、3,5,7,8-テトラヒドロ-2-[4-(トリフルオロメチル)フェニル]-4H-チオピラノ[4,3-d]ピリミジン-4-オン(XAV939)、2,5-ジクロロ-N-(2-メチル-4-ニトロフェニル)ベンゼンスルホンアミド(FH535)、N-[4-[2-エチル-4-(3-メチルフェニル)-5-チアゾリル]-2-ピリジニル]ベンズアミド(TAK715)、ジクコフ(Dickkopf)関連タンパク質1(DKK1)、及び分泌フリズルド関連タンパク質(SFRP1)1。加えて、WNTの阻害剤として、WNTに対する抗体、WNTのドミナントネガティブバリアント、並びにWNTの発現を抑制するsiRNA及びアンチセンス核酸が挙げられ得る。RNA媒介性干渉(RNAi)を使用しても、WNTの阻害を達成することができる。
【0177】
BMP経路阻害剤
骨形態形成タンパク質(BMP)は、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)スーパーファミリに属する多機能性増殖因子である。BMPは、重要な形態形成シグナルの一群を構成すると見なされており、身体全体にわたり構造を組織化する。生理におけるBMPシグナルの重要な機能は、病理プロセスにおけるBMPシグナル伝達の調節不全に関する多数の役割により強調される。
【0178】
BMP経路阻害剤(本明細書ではBMP阻害剤とも称される)は、一般にはBMPシグナル伝達の阻害剤を含み得るか、又はBMP1、BMP2、BMP3、BMP4、BMP5、BMP6、BMP7、BMP8a、BMP8b、BMP10、若しくはBMP15に特異的な阻害剤を含み得る。例示的なBMP阻害剤として、下記が挙げられる:4-(6-(4-(ピペラジン-1-イル)フェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル)キノリン塩酸塩(LDN193189)、6-[4-[2-(1-ピペリジニル)エトキシ]フェニル]-3-(4-ピリジニル)-ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン二塩酸塩(ドルソモルフィン)、4-[6-(4-(1-メチルエトキシ)フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]-キノリン(DMH1)、4-[6-[4-[2-(4-モルホリニル)エトキシ]フェニル]ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(DMH-2)、及び5-[6-(4-メトキシフェニル)ピラゾロ[1,5-a]ピリミジン-3-イル]キノリン(ML347)。
【0179】
TGFβ経路阻害剤
トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGFβ)は、ほとんどの細胞において、増殖、細胞分化、及び他の機能を制御する分泌タンパク質である。TGFβは、免疫、癌、気管支喘息、肺線維症、心疾患、糖尿病、及び多発性硬化症で役割を果たすサイトカインの一種である。TGF-βには、TGF-β1、TGF-β2、及びTGF-β3と呼ばれる少なくとも3つのアイソフォームが存在する。TGF-βファミリは、トランスフォーミング増殖因子ベータスーパーファミリとして既知のタンパク質のスーパーファミリの一部(例えば、インヒビン、アクチビン、抗ミュラー管ホルモン、骨形成タンパク質、デカペンタプレジック、及びVg-1)である。
【0180】
TGFβ経路阻害剤(本明細書ではTGFβ阻害剤とも称される)は、一般に、TGFβシグナル伝達のあらゆる阻害剤を含み得る。例えば、TGFβ阻害剤は、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(SB431542)、6-[2-(1,1-ジメチルエチル)-5-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-4-イル]キノキサリン(SB525334)、2-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-2-イエリ(ieri)-ブチル-3H-イミダゾール-4-イル)-6-メチルピリジン塩酸塩水和物(SB-505124)、4-(5-ベンゾール[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2-イル)-ベンズアミド水和物、4-[4-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]-ベンズアミド水和物、左右決定因子(レフティ)、3-(6-メチル-2-ピリジニル)-N-フェニル-4-(4-キノリニル)-1H-ピラゾール-1-カルボチオアミド(A83-01)、4-[4-(2,3-ジヒドロ-1,4-ベンゾジオキシン-6-イル)-5-(2-ピリジニル)-1H-イミダゾール-2-イル]ベンズアミド(D4476)、4-[4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-2-ピリジニル]-N-(テトラヒドロ-2H-ピラン-4-イル)-ベンズアミド(GW788388)、4-[3-(2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]-キノリン(LY364847)、4-[2-フルオロ-5-[3-(6-メチル-2-ピリジニル)-1H-ピラゾール-4-イル]フェニル]-1H-ピラゾール-1-エタノール(R268712)、又は2-(3-(6-メチルピリジン-2-イル)-1H-ピラゾール-4-イル)-1,5-ナフチリジン(RepSox)である。
【0181】
MEK阻害剤
MEK阻害剤は、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ酵素MEK1又はMEK2を阻害する化学物質又は薬物である。この化学物質及び薬物を使用して、MAPK/ERK経路に影響を及ぼすことができる。例えば、MEK阻害剤として、下記が挙げられる:N-[(2R)-2,3-ジヒドロキシプロポキシ]-3,4-ジフルオロ-2-[(2-フルオロ-4-ヨードフェニル)アミノ]-ベンズアミド(PD0325901)、N-[3-[3-シクロプロピル-5-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6,8-ジメチル-2,4,7-トリオキソピリド[4,3-d]ピリミジン-1-イル]フェニル]アセトアミド(GSK1120212)、6-(4-ブロモ-2-フルオロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(MEK162)、N-[3,4-ジフルオロ-2-(2-フルオロ-4-ヨードアニリノ)-6-メトキシフェニル]-1-(2,3-ジヒドロキシプロピル)シクロプロパン-1-スルホンアミド(RDEA119)、及び6-(4-ブロモ-2-クロロアニリノ)-7-フルオロ-N-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルベンズイミダゾール-5-カルボキサミド(AZD6244)。
【0182】
ガンマ-セクレターゼ阻害剤
ガンマセクレターゼは、膜貫通ドメイン内の残基でシングルパス膜貫通タンパク質を開裂するマルチサブユニットプロテアーゼ複合体(これ自体が膜内在性タンパク質である)である。このタイプのプロテアーゼは、膜内プロテアーゼとして知られている。ガンマセクレターゼの最も公知の基質は、大きい膜内在性タンパク質であるアミロイド前駆体タンパク質であり、この膜内在性タンパク質は、ガンマセクレターゼ及びベータセクレターゼの両方により開裂されると、アミロイドベータと呼ばれる短いアミノ酸ペプチドを生じ、このアミノ酸ペプチドの異常に折り畳まれたフィブリル形態は、アルツハイマー病患者の脳中で見出されるアミロイド斑の主要な構成要素である。
【0183】
本明細書のガンマセクレターゼ阻害剤は、一般に、γ-セクレターゼ阻害剤を指す。例えば、γ-セクレターゼ阻害剤として下記が挙げられるが、これらに限定されない:N-[(3,5-ジフルオロフェニル)アセチル]-L-アラニル-2-フェニル]グリシン-1,1-ジメチルエチルエステル(DAPT)、5-クロロ-N-[(1S)-3,3,3-トリフルオロ-1-(ヒドロキシメチル)-2-(トリフルオロメチル)プロピル]-2-チオフェンスルホンアミド(ベガスエステイト)、MDL-28170、3,5-ビス(4-ニトロフェノキシ)安息香酸(コンパウンドW)、7-アミノ-4-クロロ-3-メトキシ-1H-2-ベンゾピラン(JLK6)、(5S)-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)-6-フェニル-(4R)-ヒドロキシ-(2R)-ベンジルヘキサノイル)-L-ロイシ-L-フェニルアラニンアミド(L-685,485)、(R)-2-フルオロ-α-メチル[1,1’-ビフェニル]-4-酢酸((R)-フルルビプロフェン;フルリザン)、N-[(1S)-2-[[(7S)-6,7-ジヒドロ-5-メチル-6-オキソ-5H-ジベンゾ[b,d]アゼピン-7-イル]アミノ]-1-メチル-2-オキソエチル]-3,5-ジフルオロベンゼンアセトアミド(ジベンザゼピン;DBZ)、N-[cis-4-[(4-クロロフェニル)スルホニル]-4-(2,5-ジフルオロフェニル)シクロヘキシル]-1,1,1-トリフルオロメタンスルホンアミド(MRK560)、(2S)-2-[[(2S)-6,8-ジフルオロ-1,2,3,4-テトラヒドロ-2-ナフタレニル]アミノ]-N-[1-[2-[(2,2-ジメチルプロピル)アミノ]-1,1-ジメチルエチル]-1H-イミダゾール-4-イル]ペンタンアミド二臭化水素酸塩(PF3084014臭化水素酸塩)、及び2-[(1R)-1-[[(4-クロロフェニル)スルホニル](2,5-ジフルオロフェニル)アミノ]エチル-5-フルオロベンゼンブタン酸(BMS299897)。
【0184】
サイクリン依存性キナーゼ阻害剤
サイクリン依存性キナーゼ(CDK)は、細胞周期の制御における役割に関して最初に発見された糖キナーゼのファミリである。CDKはまた、神経細胞の転写、mRNAプロセシング、及び分化の制御にも関与している。多くのヒト癌では、CDKが過剰に活性であるか、又はCDK阻害タンパク質が機能していない。CDK阻害剤は、CDK1阻害剤、CDK2阻害剤、CDK3阻害剤、CDK4阻害剤、CDK5阻害剤、CDK6阻害剤、CDK7阻害剤、CDK8阻害剤、及び/又はCDK9阻害剤であり得る。特定の態様では、CDK阻害剤は、CDK4/6阻害剤である。
【0185】
CDK阻害剤として下記が挙げられ得るが、これらに限定されない:パルボシクリブ(PD-0332991)HCl、ロスコビチン(セリシクリブ、CYC202)、SNS-032(BMS-387032)、ディナシクリブ(Dinaciclib)(SCH727965)、フラボピリドール(アルボシジブ)、MSC2530818、JNJ-7706621、AZD5438、MK-8776(SCH 900776)、PHA-793887、BS-181 HCl、A-674563、アベマシクリブ(LY2835219)、BMS-265246、PHA-767491、又はミルシクリブ(Milciclib)(PHA-848125)。
【0186】
IV.光受容体前駆体細胞の使用
ある特定の態様は、多くの重要な研究目的、開発目的、及び商業目的に使用され得るPRP又はPRP富化細胞集団を製造する方法を提供する。
【0187】
一部の態様では、本明細書で開示されている方法により、少なくとも又は約50%(例えば、少なくとも又は約60%、70%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲)のPRP細胞を含む少なくとも又は約106、107、108、5×108、109、1010個の細胞(又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲)の細胞集団が得られる。
【0188】
ある特定の態様では、本方法のための出発細胞は、少なくとも又は約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013個の細胞又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲の使用を含み得る。この出発細胞集団は、少なくとも又は約101、102、103、104、105、106、107、108個の細胞/mL又はこれらの中で導き出し得る任意の範囲の播種密度を有し得る。
【0189】
本明細書で開示されている方法により製造されたPRP細胞又は光受容体細胞を、PRP又は光受容体細胞に関して当該技術分野で現在知られている任意の方法及び用途で使用することができる。例えば、化合物を評価する方法であって、PRP又は光受容体細胞に対するこの化合物の薬理学的特性又は毒性学的特性をアッセイすることを含む方法を提供することができる。PRP細胞への効果に関して化合物を評価する方法であって、a)本明細書で提供されるPRP細胞と、この化合物を接触させること、及びb)このPRP細胞へのこの化合物の効果をアッセイすることを含む方法も提供することができる。
【0190】
PRP細胞、又はPRP細胞に由来する細胞を、細胞レスキュー治療又は全組織置換治療等の移植に使用することができる。本実施形態の細胞を、病態生理を研究するための網膜疾患モデルの作製にも使用し得、薬物スクリーニングにも使用することができる。
【0191】
A.試験化合物のスクリーニング
PRP細胞を商業的に使用して、そのような細胞及びその様々な後代の特性に影響を及ぼす因子(例えば、溶媒、低分子薬物、ペプチド、オリゴヌクレオチド)又は環境条件(例えば、培養条件又は操作)に関してスクリーニングすることができる。例えば、試験化合物は、化合物、低分子、ポリペプチド、増殖因子、サイトカイン、又は他の生物学的薬剤であり得る。
【0192】
一実施形態では、方法は、PRP細胞と、試験薬剤とを接触させること、及びこの試験薬剤が集団内のPRP細胞の活性又は機能を調節するかどうかを決定することを含む。一部の用途では、PRP細胞の増殖を調節するか、PRP細胞の分化を変更するか、又は細胞生存率に影響を及ぼす薬剤の同定に、スクリーニングアッセイを使用する。スクリーニングアッセイを、インビトロ又はインビボで実施することができる。眼用薬剤又はPRP薬剤をスクリーニングして同定する方法として、ハイスループットスクリーニングに適したものが挙げられる。例えば、PRP細胞を、潜在的な治療用分子の同定のために、所望により定義された位置で、培養皿、フラスコ、ローラーボトル、又はプレート(例えば、単一のマルチウェルディッシュ又はディッシュ、例えば、8、16、32、64、96、384、及び1536マルチウェルプレート又はディッシュ)の上に配置し得るか、又は設置し得る。スクリーニングし得るライブラリとして、例えば、低分子ライブラリ、siRNAライブラリ、及びアデノウイルストランスフェクションベクターライブラリが挙げられる。
【0193】
他のスクリーニング用途は、網膜組織の維持又は修復への効果に関する医薬化合物の試験に関する。この化合物が、この細胞に対して薬理学的効果を有するように設計されていることから、又は他の箇所で効果を有するように設計されている化合物が、この組織型の細胞に対して意図されていない副作用を有する場合があることから、スクリーニングが行うことができる。
【0194】
B.治療及び移植
他の実施形態はまた、必要な任意の状態(例えば、網膜変性又は重大な損傷)に関する眼組織の維持及び修復を増強するためのPRP細胞の使用も提供することができる。網膜変性は、加齢黄斑変性症(AMD)、スターガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性症、緑内障、網膜血管病、眼のウイルス感染、及び他の網膜/眼疾患と関連する場合がある。光受容体前駆体細胞は、培養物中の細胞の少なくとも50%、少なくとも75%、少なくとも85%、少なくとも95%、少なくとも99%、又は約100%を構成することができる。
【0195】
別の態様では、本開示は、必要な個体の処置の方法であって、前記個体に、光受容体前駆体細胞を含む組成物を投与することを含む方法を提供する。前記組成物を、眼、網膜下腔、又は静脈内に投与することができる。そのような個体は、加齢黄斑変性等の黄斑変性症を有し得、そのような黄斑変性症は、初期段階であってもよいし後期段階であってもよい。そのような個体は、網膜色素変性症、シュタルガルト病、網膜異形成症、網膜変性症、糖尿病性網膜症、先天性網膜ジストロフィー、レーバー先天黒内障、網膜剥離、緑内障、又は神経障害を有し得る。
【0196】
治療的投与に関する細胞組成物の適合性を決定するために、細胞を、適切な動物モデルで最初に試験することができる。一態様では、PRP細胞を、その生存する能力に関して及びその表現型を維持する能力に関してインビボで評価する。細胞組成物を、免疫不全動物(例えば、ヌードマウス、又は化学的に若しくは放射線照射により免疫不全にされた動物)に投与する。組織を、増殖期間後に回収し、多能性幹細胞由来の細胞が依然として存在するかどうかを評価する。
【0197】
PRP細胞組成物の適合性の試験に、多くの動物が利用可能である。例えば、Royal College of Surgeon’s(RCS)ラットは、網膜ジストロフィーの公知のモデルである(Lundら、2006年)。加えて、PRP細胞の適合性及び生存率を、NOGマウス等の免疫不全動物でのマトリゲルにおける移植(例えば、皮下又は網膜)により決定することができる(Kanemuraら、2014年)。使用され得る他のモデルとして、網膜変性のS334terラットモデル、及びNIH Rowettヌード(RNU)ラットモデルが挙げられるが、これらに限定されない。
【0198】
本明細書で説明されているヒトPRP細胞、又はこの細胞を含む医薬組成物を、必要な患者の状態を処置するための薬物の製造に使用することができる。PRP細胞を、予め冷凍保存することができる。ある特定の態様では、本開示のPRP細胞はiPSCに由来しており、そのため、眼疾患を有する患者に「個別化医療」を提供するために使用することができる。一部の実施形態では、患者から得られた体細胞を、疾患を引き起こす変異を修正するために遺伝子操作し、PRPに分化させ、且つPRP組織を形成するように操作することができる。このPRP組織を使用して、同一患者の内因性の変性PRPを置き換えることができる。或いは、健康なドナー又はHLAホモ接合性「スーパードナー」から生成されたiPSCを使用することができる。
【0199】
様々な眼の状態を、本明細書で開示されている方法を使用して得られたPRP細胞の導入により、処置し得るか、又は予防し得る。この状態として、網膜疾患、又は一般に網膜の機能不全若しくは分解、網膜損傷、及び/若しくは網膜色素上皮の喪失と関連する疾患が挙げられる。処置され得る状態として、網膜の変性疾患(例えば、スターガルト黄斑ジストロフィー、網膜色素変性症、黄斑変性症(例えば加齢黄斑変性症)、緑内障、及び糖尿病性網膜症)が挙げられるが、これに限定されない。さらなる状態として、下記が挙げられる:レーバー先天黒内障、遺伝性又は後天性の黄斑変性症、ベスト病、網膜剥離、脳回転状萎縮症、全脈絡膜萎縮、パターンジストロフィー、光受容体細胞の他のジストロフィー、及び光、レーザー、炎症、感染、放射線、血管新生、又は外傷による損傷のいずれか1つにより引き起こされる損傷に起因する網膜損傷。ある特定の実施形態では、網膜変性を特徴とする状態を処置するか又は予防するための方法であって、PRP細胞を含む組成物の有効な量を、必要な対象に投与することを含む方法が提供される。この方法は、これらの状態の内の1つ又は複数を有する対象を選択すること、並びにこの状態を処置するのに及び/又はこの状態の症状を寛解させるのに十分なPRP細胞の治療上有効な量を投与することを含み得る。PRP細胞を、様々な形態で移植することができる。例えば、PRP細胞を、細胞懸濁液の形態で標的部位に導入してもよいし、単層として、マトリックス、細胞外マトリックス、又は基材(例えば生分解性ポリマー)上に付着させてもよいし、組み合わせであってもよい。また、PRP細胞を、網膜色素上皮細胞等の他の網膜細胞と一緒に移植してもよい(共移植)。一部の実施形態では、PRP細胞は、処置される対象由来のiPSCから製造されており、そのため自家性である。他の実施形態では、PRP細胞は、MHC適合ドナーから製造されている。
【0200】
有利には、本開示の医薬組成物を使用して、光受容体細胞機能の欠如又は低下を補償することができる。本発明の網膜細胞集団及び方法により処置され得る網膜機能障害の例として、下記が挙げられるが、これらに限定されない:光受容体変性(例えば、網膜色素変性症、錐体ジストロフィー、錐体-杆体及び/又は杆体-錐体ジストロフィー、並びに黄斑変性症で起こるもの);網膜剥離及び網膜外傷;レーザー又は太陽光により引き起こされる光損傷;黄斑円孔;黄斑浮腫;夜盲症及び色覚異常;糖尿病又は血管閉塞により引き起こされた虚血性網膜症;早産児/早産に起因する網膜症;感染性状態、例えば、CMV、網膜炎、及びトキソプラズマ症;炎症性状態、例えばぶどう膜炎;腫瘍、例えば網膜芽細胞腫及び眼内黒色腫;並びに眼神経障害(例えば、緑内障、外傷性視神経症、並びに放射線視神経症及び網膜症)に罹患している網膜内ニューロンの置き換え。
【0201】
一態様では、本細胞は、処置が必要な患者の網膜色素変性症の症状を処置することができるか、又は緩和することができる。別の態様では、この細胞は、この処置が必要な患者の黄斑変性症(例えば、加齢黄斑変性症(湿式又は乾式)、シュタルガルト病、近視性の黄斑変性症、又は同類のもの)の症状を処置することができる、又は緩和することができる。これらの処置の全てのために、この細胞は、患者に対して、自家性であり得るか、又は同種であり得る。さらなる態様では、本開示の細胞を、他の処置と組み合わせて投与することができる。
【0202】
一部の実施形態では、PRP細胞を、再生医療を受けるのに適した対象に対する自家性PRP移植片に使用することができる。PRP細胞を、光受容体等の他の網膜細胞と組み合わせて移植することができる。本開示の方法により製造されたPRP細胞の移植を、当該技術分野で既知の様々な技術により実施することができる。一実施形態によれば、経扁平部硝子体切除術、及びその後の網膜下腔への小さい網膜開口を介した細胞の送達により、又は直接注射により、移植を実施する。PRP細胞を、細胞懸濁液、細胞凝集体の形態で標的部位に導入することができるか、細胞外マトリックス等のマトリックス上に付着させることができるか、生分解性ポリマー等の基材上に提供することができる。同様に、PRP細胞を、他の細胞と一緒に移植(共移植)することができる(例えば、PRP細胞及び網膜色素上皮(PRE)細胞)。そのため、本明細書で開示されている方法により得られたPRP細胞を含む組成物が提供される。
【0203】
PRP細胞、及び、所望により、このPRP細胞から分化した光受容体細胞を使用して、神経感覚網膜構造体を生成することができる。例えば、本開示は、RPE細胞及び光受容体細胞(又はPRP細胞)で構成されている多層細胞構造体の生成を企図する。この構造体を、薬物スクリーニングに使用することができるか、疾患のモデルとして使用することができるか、又は医薬品として若しくは医薬品で使用することができる。後者の場合には、この医薬品はRPE-光受容体移植片であり得、このRPE-光受容体移植片は、「パッチ」のように移植し得る生体適合性の固体支持体又はマトリックス(好ましくは、生体適合性のマトリックス又は支持体)上に配置することができる。
【0204】
さらに説明するために、細胞の生体適合性支持体は、網膜前駆体細胞の生分解性合成(例えばポリエステル)フィルム支持体であり得る。生分解性ポリエステルは、網膜前駆体細胞の増殖及び分化を支持する基材又は足場としての使用に適した任意の生分解性ポリエステルであり得る。ポリエステルは、薄膜(好ましくは微細な模様が表面に付いた膜)を形成し得るべきであり、且つ組織又は細胞の移植に使用される場合には生分解性であるべきである。本発明での使用に適した生分解性ポリエステルとして、下記が挙げられる:ポリ乳酸(PLA)、ポリラクチド、ポリヒドロキシアルカノエート、ホモポリマー及びコポリマーの両方、例えば、ポリヒドロキシブチレート(PHB)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシバリレート(PHBV)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシヘキサノート(PHBHx)、ポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクトノアート(PHBO)及びポリヒドロキシブチレートco-ヒドロキシオクタデカノエート(PHBOd)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリエステルアミド(PEA)、脂肪族コポリエステル、例えば、ポリブチレンスクシネート(PBS)及びポリブチレンスクシネート/アジペート(PBSA)、芳香族コポリエステル。高分子量ポリエステル及び低分子量ポリエステルの両方、置換ポリエステル及び非置換ポリエステル、ブロック、分枝又はランダム、並びにポリエステルの混合物及びブレンドを使用することができる。好ましくは、生分解性ポリエステルは、ポリカプロラクトン(PCL)である。
【0205】
本明細書で開示されている方法により製造されたPRP細胞の医薬組成物。この組成物は、少なくとも約1×103個のPRP細胞、約1×104個のPRP細胞、約1×105個のPRP細胞、約1×106個のPRP細胞、約1×107個のPRP細胞、約1×108個のPRP細胞、又は約1×109個のPRP細胞を含むことができる。ある特定の実施形態では、この組成物は、本明細書で開示されている方法により製造された分化PRP細胞を含む、(非PRP細胞に関して)実質的に精製された調製物である。足場(例えば、ポリマー担体及び/又は細胞外マトリックス)、並びに本明細書で開示されている方法により製造されたPRP細胞の有効な量を含む組成物も提供される。例えば、この細胞は、細胞の単層として提供される。マトリックス材料は、一般には生理学的に許容され、インビボでの用途での使用に適している。例えば、生理学的に許容される材料として、下記が挙げられるが、これらに限定されない:吸収性である及び/又は非吸収性である固体マトリックス材料、例えば、小腸粘膜下組織(SIS)、架橋アルギネート又は非架橋アルギネート、親水コロイド、発泡体、コラーゲンゲル、コラーゲンスポンジ、ポリグリコール酸(PGA)メッシュ、フリース、及び生体接着剤。
【0206】
適切なポリマー担体として、合成ポリマー又は天然ポリマー、及びポリマー溶液で形成された多孔質のメッシュ又はスポンジも挙げられる。例えば、マトリックスは、ポリマーのメッシュ若しくはスポンジであるか、又は高分子ヒドロゲルである。使用され得る天然ポリマーとして、タンパク質、例えば、コラーゲン、アルブミン、及びフィブリン;並びに多糖類、例えば、アルギン酸塩、及びヒアルロン酸のポリマーが挙げられる。合成ポリマーとして、生分解性ポリマー及び非生分解性ポリマーの両方が挙げられる。例えば、生分解性ポリマーとしてヒドロキシ酸のポリマーが挙げられ、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、及びポリ乳酸-グリコール酸(PGLA)、ポリオルトエステル、ポリ無水物、ポリホスファゼン、及びこれらの組み合わせが挙げられる。非生分解性ポリマーとして、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、エチレンビニルアセテート、及びポリビニルアルコールが挙げられる。
【0207】
可鍛性であるイオン的に又は共有結合的に架橋されたヒドロゲルを形成し得るポリマーを使用することができる。ヒドロゲルは、有機ポリマー(天然又は合成)が、共有結合、イオン結合、又は水素結合を介して架橋されて、水分子を捕捉してゲルを形成する三次元開格子構造を作る際に形成される物質である。ヒドロゲルを形成するために使用され得る材料の例として、イオン的に架橋されている多糖類(例えば、アルギネート、ポリホスファゼン、及びポリアクリレート)、又はブロックコポリマー(例えば、PLURON1CS(商標)若しくはTETRON1CS(商標)、温度若しくはHそれぞれにより架橋されているポリエチレンオキシド-ポリプロピレングリコールブロックコポリマー)が挙げられる。他の材料として、フィブリン等のタンパク質、ポリビニルピロリドン等のポリマー、ヒアルロン酸、及びコラーゲンが挙げられる。
【0208】
本医薬組成物を、所望の目的(例えば、網膜組織の疾患又は異常を改善するためのPRP細胞機能の再構成)のための書面による指示と共に、適切な容器に所望により包装することができる。一部の実施形態では、本開示の方法により製造されたPRP細胞を使用して、必要な対象の変性光受容体細胞を置き換えることができる。
【0209】
C.商業目的、治療目的、及び研究目的のための流通
一部の実施形態では、製造、流通、又は使用のいずれでも存在するPRP又はPRP富化細胞集団を含む細胞のセット又は組み合わせを含む試薬システムが提供される。この細胞セットは、本明細書で説明されている細胞集団と、未分化多能性幹細胞又は他の分化細胞型との任意の組み合わせを含み、同一ゲノムを共有していることが多い。各細胞型を、同一の実体の制御下において、又はビジネス関係を共有する異なる実体の制御下において、同時に又は異なる時間で、同一の施設内にて又は異なる場所にて、一緒に又は別々の容器で包装することができる。
【0210】
医薬組成物を、所望の目的(例えば、眼組織の疾患又は損傷を改善するためのPRP細胞機能の再構成)のための書面による指示と共に、適切な容器に所望により包装することができる。
【0211】
V.キット
一部の実施形態では、例えば、PRP細胞を製造するための1種又は複数種の培地及び成分を含み得るキットが提供される。そのような製剤は、光受容体前駆体又は光受容体細胞と組み合わせるのに適した形態で、網膜分化因子及び/又は栄養因子のカクテルを含み得る。この試薬システムは、必要に応じて、水性媒体で凍結乾燥の形態で包装することができる。このキットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、又は他の容器手段を含み、この中に成分が入れられ得、好ましくは適切に分注することができる。このキットに複数種の成分が含まれる場合には、このキットはまた、一般に、第2、第3、又は他の追加の容器を含み、これらの中に追加の成分を別々に入れることができる。しかしながら、1つのバイアルに、成分の様々な組み合わせが含まれてもよい。このキットの成分は、乾燥粉末として提供することができる。試薬及び/又は成分が乾燥粉末として提供される場合には、この粉末を、適切な溶媒の添加により再構成することができる。この溶媒を別の容器手段で提供し得ることも想定される。このキットはまた、典型的には、商用販売のための厳重な閉じ込めでキット成分を含むための手段を含む。そのような容器として、所望のバイアルが保持される射出成形プラスチック容器又はブロー成形プラスチック容器が挙げられ得る。このキットはまた、例えば印刷形式又はデジタル形式等の電子形式の使用説明書も含み得る。
【実施例0212】
VI.実施例
下記の実施例は、本発明の好ましい実施形態を実証するために含まれている。下記の実施例で開示されている技術が、本発明の実施において良好に機能するように本発明者らにより発見されている技術を表し、そのため、本発明の実施のための好ましいモデルを構成すると見なされ得ることを当業者は認識すべきである。しかしながら、当業者は、本開示に照らして、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、開示されている具体的な実施形態において多くの変更がなされて類似の又は同様の結果が依然として得られ得ることを認識すべきである。
【0213】
実施例1-出発多能性幹細胞集団の調製
光受容体前駆体(PRP)の様々なステージへのiSPCの分化のための方法を開発した(図1)。簡潔に説明すると、網膜前駆体細胞(RPC)の集団はiPSCに由来しており、次いで神経網膜前駆細胞(NRP)へとさらに分化させ、次いでPRP細胞に分化させる。
【0214】
最初に、iPSCを、ビトロネクチンでコーティングしたプレート上の完全に定義された培養培地(例えばESSENTIAL 8(商標)(E8(商標))培地)で、マウス又はヒトのフィーダー層を使用することなく増殖させた。ビトロネクチンストックを、カルシウム又はマグネシウムを含まないDPBSで1:200に希釈し、この希釈されたビトロネクチン溶液で培養プレートをコーティングし、約1時間にわたり室温でインキュベートした。iPSCを、このiPSCがプレコンフルエントである場合に分割して過剰に増殖させず、不健康な及び/又は分化した細胞を予防した。
【0215】
RPCを得るために、iPSCを単一細胞懸濁液へと最初に解離させた。単一細胞懸濁液を得るために、この細胞をDPBS(カルシウム及びマグネシウムを含まない)で洗浄し、37℃で約10分にわたり細胞解離酵素(例えばTRYPLE(商標))中でインキュベートした。次いで、この細胞を、血清学的ピペットによるピペッティングにより剥離させ、細胞懸濁液をコニカルチューブに集めた。穏やかなピペッティングにより細胞が剥離しなかった場合には、培養物をより長く(例えばさらに2~3分間)インキュベートした。全ての細胞を回収するために、培養容器を室温のE8(商標)培地で洗浄し、次いで、この培地を、細胞懸濁液を含むチューブに入れた。加えて、細胞が培養容器に付着することなく、単一細胞への解離後のPSC生存率を増加させるために、E8(商標)培地にブレビスタチン(例えば2.5μM)を添加した。細胞を回収するために、約5分にわたり400×gで遠心分離し、上清を吸引して、細胞を適切な体積のE8(商標)培地に再懸濁させた。
【0216】
単一細胞iPSCからPRP細胞を効率的に分化させるために、単一細胞iPSCの入力密度を、VICELL(商標)等の自動細胞カウンタで正確に計数し、室温のE8(商標)培地で約1×105個の細胞/mLの細胞懸濁液に希釈した。iPSCの単一細胞懸濁液を(例えば血球計数器により)既知の細胞密度で得ると、この細胞を、ビトロネクチンでコーティングした6ウェルプレート等の適切な培養容器に播種した。この細胞を、1つのウェル当たり約200,000個の細胞の細胞密度で播種し、5%CO2及び37℃の加湿インキュベータに入れた。約18~24時間後、培地を吸引し、培養物に新鮮なE8(商標)培地を添加した。細胞を、適切な付着及びiPSC拡大のために、播種後約2日にわたりE8(商標)培地で培養した。
【0217】
実施例2-RPCへのiSPCの分化
適切な細胞密度で播種した単一細胞iPSCを、実施例1のように約2日にわたり培養すると、RPCを得るための様々な分化培地で培養した。E8(商標)培地を吸引し、室温の網膜誘導培地(RIM)(例えば表1)を添加した。簡潔に説明すると、RIMは、約1:1の比でのDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物、MEM非必須アミノ酸(NEAA)、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含んだ。加えて、RIMは、WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、TGFβ経路阻害剤、及びインスリン増殖因子1(IGF1)を含んだ。毎日、培地を吸引して、細胞に新鮮なRIMを添加した。この細胞を、約2日にわたりRIMで培養して、前部神経外胚葉細胞を生成した。
【0218】
次いで、この細胞を、約1~4日(特に約2日)にわたり網膜分化培地1(RD1)で培養した。簡潔に説明すると、RD1(表1)は、約1:1の比でのDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含んだ。加えて、RD1は、WNT経路阻害剤(例えばCKI-7)、BMP経路阻害剤(例えばLDN193189)、TGFβ経路阻害剤(例えばSB431542)、及びMEK阻害剤(例えばPD325901)、及びIGF-1を含んだ。WNT経路阻害剤、BMP経路阻害剤、及びTGFβ経路阻害剤の濃度は、RIMと比較して、RDMでは10倍高かった。毎日、培地を吸引し、細胞に室温のRD1を添加して、分化網膜細胞を製造した。特に、最初の数日後(例えば2日後)にBMP阻害剤を除去して、PRP細胞中でのVSX2の発現を増強してもよい。RDM1培地を、BMP阻害剤(例えばLDN193189)を含まないRD2(表1)に置き換えてもよい。細胞を、約5~10日(例えば約7日)にわたりRD2で培養してもよい。
【0219】
NRP細胞を得るために、次いで、細胞を、約5日にわたり網膜成熟培地(RM1又はRM2)(表1)で培養して、RPC細胞をNRPに分化させた。RM1は、約1:1の比でのDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含んだ。加えて、RM1は、ニコチンアミドを含んだが、RPE細胞への分化を防止するためにアクチビンAを含まなかった。RM1培地は、γ-セクレターゼ阻害剤(例えばDAPT)をさらに含んでもよい。RM2は、TGFβ阻害剤(例えばSB431542)、及び/又はbFGFをさらに含んでもよい。この培地を、室温のRM1と毎日交換した。次いで、RPCを、15~18日目に光受容体前駆体誘導培地(FDSC)培地で培養して、NRP細胞を製造した。NRP細胞を分析するために、NRP細胞を解凍後培地に解凍し、PAX6及びVSX2の発現に関してアッセイした(図14)。NRP細胞は、PAX6に関してほぼ100%陽性であり、PMEL17に関して約90%陽性であり、且つVSX2に関して約80%陽性であることが分かった(図14)。
【0220】
実施例3-RPCのPRP細胞への分化
PRP細胞への分化プロセスを完了するために、実施例2のRPC細胞をFDSC培地(表1)で培養した。簡潔に説明すると、FDSC培地は、約1:1の比でのDMEM及びF12、ノックアウト血清代替物、MEM NEAA、ピルビン酸ナトリウム、N-2サプリメント、B-27サプリメント、及びアスコルビン酸を含む。加えて、FDSC培地は、NRPをPRP細胞に分化させるために、塩基性FGF、DAPT、SB431542、及びCKI-7を含んでもよい。この細胞を、約10~20日(特に15日)にわたりFDSC培地で培養した。PRP細胞を、マーカーTuj1/ネスチン及びRCVRNの発現に関して分析した(図4A~4C)。
【0221】
この段階で、得られたPRP細胞を、TRYPLE(商標)を使用して解離させて、異種成分フリーCS10培地中で凍結保存することができる。或いは、得られたPRP細胞を、1~5日(例えば3日)にわたりROCK阻害剤又はブレビスタチンを含む培地で培養して凝集体形成を促進させ、より良好な細胞の生存率及び移植を促進することができる。そのため、本開示の方法は、臨床応用のために大規模で一貫して再現され得る多能性細胞由来のPRP細胞を提供する。
【0222】
実施例4-眼胞の製造
実施例2のRPC細胞を、長時間にわたりRM1培地又はRM2培地で凝集体として培養して、眼胞を製造した。ブレビスタチンを使用して、凝集体形成を促進させた。RM1培地は、DMEM/F12、ノックアウト血清代替物、ピルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸、及びニコチンアミドを含んだ。この眼胞を、30日目、40日目、50日目、及び60日目に、マーカー発現に関して評価した。40日目の3.3%から78日目の30%超まで、RCVRN発現が増加していた(図12D)。
【0223】
実施例5-PRP細胞の製造の代替方法
実施例2のRPC細胞を、約40~70日にわたりRM1培地又はRM2培地(表1)で凝集体として培養した。凝集体形成の最中にブレビスタチンを使用した。RM2培地は、RM1培地の成分に加えてDAPTを含む。細胞は、約68日目まで凝集体のままであり、この時点で細胞を解離させ、BENZONASE(登録商標)で処理し、RM2培地に7日にわたり播種して、ハイブリッドPRP細胞を生成した。このハイブリッドPRP細胞は、実施例3のPRP細胞と同様の表現型を示した。磁気活性化細胞選別(MACS)精製の後、ハイブリッドPRP細胞集団は、TUBB3に関して97%超陽性であったが、ネスチンに関して陰性(<3%)であり、RCVRNに関してほぼ80%陽性であった(図10)。
【0224】
実施例6-NRP又はPRPの凍結保存
分化したNRP又はPRPの凍結保存のために、培地を吸引し、細胞を、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)で洗浄した。次いで、この細胞を細胞解離酵素と共にインキュベートし、細胞懸濁液を、ピペットでコニカルチューブに入れた。この細胞を遠心分離し、上清を吸引し、細胞を室温の培地に再懸濁させた。次いで、細胞懸濁液をSTERIFLIP(登録商標)細胞ストレーナ(20μm)に通して濾過し、細胞を計数した。次に、この細胞を遠心分離し、冷CryoStor(登録商標)CS10に適切な密度(例えば1×107個の細胞/mL)で再懸濁させた。細胞懸濁液を、予め標識したクライオバイアルに分配し、冷凍容器に入れて、12~24時間にわたり-80℃の冷凍庫に移した。次いで、このバイアルを、保存のために液体窒素に移した。
【0225】
或いは、この細胞を、単一細胞懸濁液への解離の代わりに凝集体として凍結保存してもよい。例えば、D75 PRPのCliniMACS富化の後、単一細胞を、最少培地(RMN)で2日にわたり組織培養フラスコ中で再凝集させた。凝集体をD77でプールし、サンプルアリコートを、細胞計数のために得た。一連の洗浄の後、凝集体をCryoSTOR CS10凍結培地に再懸濁させ、凝集体懸濁液1mlを、25×10^6個の凝集細胞製品/バイアルで液体窒素保存バイアルに移した。
【0226】
形態学上、培養物中に残っていた、解凍した凝集体は、解凍後2日の単一細胞から形成された凝集体と変わらなかった。解凍した凝集体は、細胞生存率が、解凍した単一細胞の場合の37%と比較して67%であった。下記の4つの条件を、RCVRN(オンターゲットPRPマーカー)、CHX10(初期眼野細胞(early eye field cell))、RCVRN+、CHX10(オフターゲット双極細胞)、Ki67(オフターゲット増殖細胞)、及びPax6(オフターゲット神経外胚葉/初期眼野)の発現に関して試験した:凍結保存された単一細胞を解凍し、RMN培地で2日にわたり再凝集させた(SC D77 2d解凍後凝集体);富化後の単一細胞を、凍結保存することなくRMNで2日わたり凝集させた(D77凍結保存前培養凝集体);凍結保存された凝集体の解凍直後(解凍時のD77凝集体);及び凍結保存された凝集体を解凍し、RMN培地で2日間培養した(D79解凍凝集体培養2d)。これら4つの条件の間に、RCVRN発現の差違はなかった。初期眼野に関するオフターゲットマーカー(CHX10+及びPax6+)は、全ての条件で低いままであり、増殖細胞(Ki67+)は無視できるほどであった。
【0227】
【表2】
【0228】
そのため、凝集体を成功裏に凍結保存し得るだけでなく、富化されたPRPが凍結保存段階又は解凍段階の間に損なわれないことが示された。このことは、オンターゲットPRPマーカーであるリカバリンの同様の高発現により明らかであった。同様に、オフターゲットマーカー及び増殖細胞マーカーは、全ての条件にわたり同様に低いままであった。凝集体を凍結保存することにより、製品が、手渡しの「間」が最小で研究室から患者へと送られることが可能になり、なぜならば、移植される製品は凝集体の形態だからである。培養ステップの「間」の2日間を省略することにより、夾雑及び細胞の喪失の懸念が最小限に抑えられる。
【0229】
実施例7-PRP細胞のMACS精製
PRP細胞の集団は、PRE細胞又は他の非ニューロン型等の残留夾雑非PRP細胞(「夾雑細胞」と総称される)を有する可能性があり、この夾雑細胞の全てを分離して除去し、PRP富化細胞集団を得ることができる。この夾雑細胞を、様々な方法論(例えば、磁気活性化細胞選別(MACS(登録商標))、蛍光活性化細胞選別(FACS)、又は陽性選択及び/若しくは陰性選択による単一細胞選別)により、培養物から除去することができる。表面抗原に応じて様々な細胞集団を分離することが当該技術分野で知られているMACS(登録商標)方法論を使用して、所望のPRP細胞から夾雑細胞を分離した。
【0230】
PRP細胞に関する陽性MACS選択は、ニューロンマーカーCD171を発現する細胞の単離を含み得る。PRP細胞に関する陽性MACS選択を実行するために、実施例3又は6からのPRP細胞の全集団を、単一細胞懸濁液に解離させた。培地を吸引し、細胞をDPBSで洗浄し、TRYPLE(商標)を添加して細胞を解離させた。次いで、細胞を集めて遠心分離した。細胞を、PRP培地で洗浄し、20μm steriflip細胞ストレーナを使用して濾過した。ViCellを使用して細胞懸濁液を計数し、この細胞懸濁液にMACSバッファーを1×107個の細胞/mLで添加した。次に、この細胞懸濁液を、1:25の希釈にて一次抗体CD171-ビオチン(Miltenyi)で染色した。インキュベーション後、MACSバッファー20mLを添加し、細胞を5分にわたり400×gで遠心分離した。細胞ペレットをMACSバッファー20mLに再懸濁させ、激しく混合し、5分にわたり400×gで遠心分離して、あらゆる非結合抗体を除去した。細胞ペレットを、MACSバッファーに(例えば1.11×108個の細胞/mLで)再懸濁させ、希釈した(1:10)二次抗体(例えば抗ビオチン)でコーティングされたマイクロビーズを添加し、細胞を20分にわたり4℃でインキュベートした。インキュベーション後、細胞をMACSバッファーで洗浄して非結合マイクロビーズを除去し、最大1.25×108個の細胞をMACSバッファー500μLに再懸濁させた。細胞懸濁液を、強地場中に置いたLSカラムに移し、マイクロビーズに付着している、抗原CD171を発現する細胞は、このカラム中に残存した。このLSカラムを、MACSバッファーで2回洗浄した。次いで、このLSカラムから富化細胞集団を洗い流し、選別後純度分析に関して評価した。RCVRNに関する細胞染色の画像を、MACS富化がPRP細胞の有意な富化をもたらすことを示す図3及び図9に示す。
【0231】
さらなる研究を実施して、PRP細胞の富化のための追加の表面タンパク質を同定した。Miltenyi Marker Screenプレートを使用した表面タンパク質評価により、光受容体前駆体(PRP)製品を富化するための表面タンパク質標的として、SUSD2を同定した。Sushiドメイン含有タンパク質-2(SUSD2)は、細胞-細胞付着及び細胞-マトリックス付着を促進するI型膜貫通タンパク質である。SUSD2の過剰発現が癌細胞で観測されており、SUSD2は、様々な間葉系幹細胞の確立された富化マーカーである。表面タンパク質に関してD75 PRP 2.3 CBPをアッセイすることにより、主に光受容体で発現されるニューロン特異的カルシウム結合タンパク質であるリカバリンに関して陽性に標識されている細胞上でのSUSD2発現の上昇が明らかになった。この発見により、SUSD2を、富化マーカーとしての使用に関して試験した。
【0232】
SUSD2は、光受容体になる運命にある細胞により発現されるマーカーであるリカバリンとの高い共発現を有した。加えて、SUSD2は、CD171富化後の約83%のリカバリン陽性細胞と比較して、約95%のリカバリン陽性-陽性細胞で富化された(図31)。DAPTで予め処理し、次いでDAPTの存在下でPD033を含むLN521に播種した細胞に対して、研究を実施した。初期の神経網膜前駆細胞に対して高度の選択的な転写因子であるCHX10と結合したリカバリンは、(錐体)双極細胞の顕著な特徴付けマーカーと見なすことができる(図34)。双極細胞は、光受容体及び神経節細胞と相互に連結されてシグナル伝達を促進する、後期に生じた網膜ニューロンである。CHX10陽性(リカバリン陰性)細胞は、ミュラーグリア細胞のサブセットでも発現される場合がある。
【0233】
SUSD2発現を、MACS富化の前に、D55~D105の分化エンドポイントに関して、RCVRN発現と同時に調べた(図32)。SUSD2がPRPのみを標的として他の網膜ニューロンを標的としない精度は、最終製品の純度に重要であった。SUSD2富化後の低い細胞収量にもかかわらず、SUSD2マーカーは、調べた各時点でリカバリン発現細胞を富化しており(表3)、このことは、SUSD2が、リカバリン陽性の可能性があるPRPの高度に特異的なマーカーであることを示唆する。図33は、SUSD2標的特異性をさらに示す。
【0234】
既に論じたように、CHX10及びリカバリンは、(錐体)双極細胞の顕著な特徴付けマーカーである。CHX10は、網膜前駆細胞中で初期に発現され、有糸分裂後のPRPでは発現を下方制御するが、有糸分裂後の双極細胞及び一部のミュラーグリア細胞では高度に発現されたままである。この研究から、CHX10は、SUSD2 MACS富化前後の両方において、より早い(D65)タイムポイントでは低いことが分かった。加えて、リカバリン-CHX10発現は、この時点では無視できるほどであり、このことは、この時点では、SUSD2富化後の製品中に双極細胞が存在しないことを示唆する。
【0235】
逆に、リカバリンと、光受容体の最終分化において役割を果たす一時的に発現される転写因子であるニューロン分化因子1(NeuroD1、ND1)との共標識により、D65のSUSD2 MACS富化前後での高い発現レベルが示された。D65を過ぎると、RCVRN-CHX10を発現する双極細胞(及び/又は場合によりCHX10を発現する一部のミュラーグリア細胞)を観測した。RCVRN-ND1発現は徐々に下方制御され、この組み合わせは、D65及びD75と比較して富化D85細胞の半分未満で発現されており、ND1の一過性の発現と一致する可能性がある。
【0236】
【表3】
【0237】
これらの研究は、ピークSUSD2発現時間と相まって、SUSD2は、D65等の初期の時点での良好な富化マーカーであることを示唆した。さらに、D65では、SUSD2は、RCVRN発現細胞及びND1発現細胞に対して高度の選択性を示したが、CHX10発現(オフターゲット又は前駆)細胞に対しては選択性を示さなかった。SUSD2の選択的性質は、富化後の細胞収率がわずかな場合であっても、高度にリカバリン陽性の純粋集団の富化により強調された。全体として、SUSD2は、SUSD2発現が高い初期の時点(例えばD55及びD65)で最終製品が製造されるという条件で、PRP富化の有用な標的マーカーである。
【0238】
SUSD2及びCD171に加えて、代替の潜在的PRP富化マーカーを特定した。この表面マーカーはまた、程度がより小さいが、光受容体及び錐体双極細胞で主に発現されるニューロン特異的カルシウム結合タンパク質であるリカバリンとも共局在化した(Gunhanら、2003年;Haverkampら、2003年)。表4は、CD171及びSUSD2を除く15種の追加の潜在的PRP富化マーカーを列挙する。
【0239】
【表4】
【0240】
これらの表面分子に対する研究は、成長中の又は成体の網膜内での細胞の発現及び/又は機能に主に焦点を当てた。表4は、表面抗原とリカバリンとを共発現した細胞集団、又はオフターゲット分化細胞上でのみ表面抗原を発現した細胞集団それぞれの割合を列挙する。両方のマーカーのいずれかを発現するパーセント集団を、二重染色D75 PRP製品のフローサイトメトリー分析により決定した(図15)。加えて、リカバリンのみを発現する細胞(FITC中、x軸)又は表面抗原のみを発現する細胞(APC中、y軸)のパーセント集団を評価した。全てのプロットを、非染色(空)細胞、及び対応するアイソタイプコントロール(REA IgG1、MsIgG1、Ms IgG2a、MsIgG2b、MsIgM)に対してゲーティングした。リカバリン共発現が高いがオフターゲット発現が低い(<20%)表面分子として、CD11、CD133、CD230、及びCD344が挙げられる。
【0241】
このタイプのフローサイトメトリープロファイルは、抗原がより多くのPRP細胞上で発現され且つより少ないオフターゲット細胞上で発現される可能性を高める。これが本当にそうであるかどうかを決定するために、CD111表面抗原、CD230表面抗原、CD344表面抗原、及びCD133表面抗原に対する抗体を使用して、複数の実験からの分化細胞をPRPに関して富化させた。図16は、D55、D65、及びD75でのリカバリン発現を示す。リカバリン発現は、MACS前(CD133富化をD75 PRPに対してのみ実施した、単一時点、菱形)等の全ての条件でD65にてピークに達し、次いでD75までに低下した。このデータは、これらの特異的表面抗原(CD133を除く)によるPRP富化にはD65が最適な時点であり得ることを示唆する。
【0242】
図17~22は、リカバリン(オンターゲットPRPマーカー)と、オフターゲット細胞マーカーPax6(網膜前駆細胞-RPC、アマクリン細胞-AC、及び網膜神経節細胞-RGCにより発現される)、Onecut1(RPC及び水平細胞により発現される)、Ki67(増殖細胞により発現される)、並びにCHX10(RPCにより発現され、双極細胞上でリカバリンと共に共発現される)とのパーセント発現の表及びグラフを示す。最も高いリカバリン発現は、CD344富化と共に起きた。各富化物の溶出画分は、一部のリカバリン陽性細胞を示したが、全体的には、富化部分と比べて低い画分を示し、一方では、オフターゲットマーカーOnecut1のより高い割合を示した。評価された細胞集団では、増殖細胞又はCHX10+RPC/双極オフターゲット細胞が本質的には存在しなかった。再び、CD344富化細胞は、リカバリン陽性発現の最も高い割合、並びに低いPax6及びOnecut1を示した。この細胞集団では、増殖細胞が存在しなかった。
【0243】
D75までにオンターゲット細胞及びオフターゲット細胞の全体的な減少が見出されており、このことは、この時点までに標的マーカーの発現が有意に減少している可能性があることを示唆する。興味深いことに、CHX10発現は高く、可能性のある双極オフターゲット細胞及び/又は可能性のある前駆細胞の第二波を示唆する。
【0244】
全ての研究に関して、リカバリン発現は、CD344富化後に最も高く、次いでCD230富化後に高かった。CD344富化はまた、MACS前と比較して、Pax6陽性及びCHX10陽性のオフターゲット細胞マーカーを減少させた。3つ全ての富化の溶出液又はフロースルーは、Pax6+細胞及びCHX10+細胞の大部分を含んでいるように思われ、このことは、富化が、リカバリン+PRPを標的としており、網膜神経節細胞(RGC)及びアマクリン細胞(AC)(これらは両方ともPax6を発現する)等のオフターゲット細胞を標的としないことを示唆する。富化部分は75日目に中程度のレベルのCHX10を発現したことから、リカバリン標識細胞の一部もCHX10標識細胞上で共局在化し得、このことは、富化画分中に双極細胞(BP)の集団が存在していたことを示唆する。
【0245】
CD133を使用する富化を別の細胞系統(31538.102)に対して行なって、この系統がPRPに分化するかどうかを試験した。CD133はリカバリン+細胞を富化させ、MACS前と比較して、富化後のオフターゲット細胞マーカー発現が全体的に減少した。Ki67は、富化後にも減少したが、PD0332991処理により、富化画分中に存在するあらゆる残余の増殖細胞を除去した。
【0246】
そのため、マーカーCD71、SUSD2、CD111、CD133、CD230、及びCD344を、PRP細胞集団の富化及びオフターゲット細胞の除去に使用し得た。
【0247】
実施例8-CliniMACS(登録商標)を使用するPRP富化
さらなる研究を、例えばCliniMACS(登録商標)機器を使用して実行し、より高いスループットスケールでのPRP富化の実現可能性を評価した。C-1細胞又はC-2細胞を、LSチューブと共にCD34.2又はEnrichment 1.1プログラムを使用して機器に入力するCliniMACS(登録商標)機器を使用して、CDC171マーカーを使用するPRP富化を試験した。次いで、PRP富化細胞を、TUBB3/ネスチン及びRCVRNに関して評価した。CliniMACSハイスループット法は、出力細胞の90%超がニューロンであり、この細胞の50%超がRCVRNに関して陽性であるLSカラム法と比較して、同様の出力純度を有した(図3及び図9)。
【0248】
実施例9-材料及び方法
FBS又はヒト血清アルブミン20mLをDPBS(即ち、カルシウム及びマグネシウムを含まない)1000mLに添加することにより、フローサイトメトリー洗浄バッファーを調製した。このバッファーをフィルタ滅菌し、最大4週にわたり4℃で保存することができる。
【0249】
FBS 20mLをDPBS(即ち、カルシウム及びマグネシウムを含まない)1000mLに添加することにより、フローサイトメトリー透過化バッファーを調製した。サポニン 1グラムを添加してよく混合した。このバッファーをフィルタ滅菌し、最大4週にわたり4℃で保存することができる。
【0250】
Live-Dead StainをDPBS(即ち、カルシウム及びマグネシウムを含まない)で1:1000に希釈することにより、フローサイトメトリーLive-Dead Red染色剤を調製した。アッセイする2×106個の細胞当たり、この染色剤1mLを調製した。この染色剤を、使用前に新たに調製した。
【0251】
36.5%ホルムアルデヒド110μLをDPBS(即ち、カルシウム及びマグネシウムを含まない)880μLに添加することにより、フローサイトメトリー固定バッファーを調製した。アッセイする2×106個の細胞当たり、染色剤1mLを調製した。このバッファーを、使用前に新たに調製した。
【0252】
実施例10-PRP富化の枯渇マーカー
加えて、PRP細胞集団を逆に富化させるための枯渇マーカーとして使用され得る表面分子を同定した。この分子は、リカバリンとの共発現を示さなかったが、オフターゲット細胞を標識しており、それにより不要な細胞型の良好な枯渇マーカーであった。表5は、リカバリンとの非常に少ない共発現(<15%)を示すが他の細胞型を標識する(>30%)4種の可能な枯渇候補を列挙する。枯渇抗体に対するリカバリンの発現プロファイルを、フロー分析により評価した。図21は、リカバリンとの枯渇候補表面抗原の共発現の低発現又はほぼ非存在を示す。
【0253】
【表5】
【0254】
実施例11-PRP分化の最適化
PRP分化方法を、0日目及び1日目に、CKI-7等のWnt活性化剤の使用に関してさらに評価した。細胞を、CKI-7の非存在下で分化させ、分化プロセスの15日目及び25日目に、PAX6、CHX10、Ki67、及びPMELの発現に関して特徴付けた。0日目及び1日目にCKI-7を使用することなく、細胞集団は、15日目及び25日目にPAX6、CHX10、Ki67、及びPMELの同様の発現を有することが分かった(図22~25)。そのため、PRP細胞を、0日目及び1日目に、CKI-7の非存在下で分化させることができる。
【0255】
或いは、この分化方法を、RIMを使用することなく実施した。代わりに、細胞を、0~1日目にわたり、LDN193189を補充したRD1培地で培養し、次いで、LDN193189を含まないRD2培地で培養した(図26~30)。
【0256】
実施例1~3の方法を、RIM培地での2日間の培養を取り除くように変更し、初期の神経網膜分化を評価した。細胞を、0~1日目にわたり、LDN193189、SB431542、及びCKI-7の濃度が高いRD1培地で直接培養し、続いて、2~10日目にわたり、LDN193189を含まないRD2培地で培養した。細胞を15日目に凝集させ、凝集時に、30日目の中間プロセスの進行時に、及び75日目の最終プロセスの進行時に、サンプルを、フロー分析用に処理した。
【0257】
D15インプロセスフロー分析から、初期ヒト神経外胚葉の運命決定因子であるPAX6の発現は、CBP 2.3(RIMによる)条件対CBP 2.5(RIMなし)条件で類似しているが、初期眼野マーカーCHX10の発現はRIM条件で低いことが分かった(図26)。LDNを含むRD1によるRIM工程の除去により、CHX10発現が増加することを観察した。同様に、RIMの除去により、RPEマーカーTyrp1の発現は、RIMを含む条件と比較して50%近く減少した(図27及び図28)。
【0258】
複数の細胞系統を試験して、様々な系統にわたりRIMの除去がPRP分化を促進するかどうかを決定した。系統31536.102、31538.101、及び31538.102は、D15でのインプロセス分析でCHX10を一貫して低く発現する系統であったが、両方の系統でのCHX10発現は、RIM工程を除去した場合には有意に増加した(図27)。図27は、RIMの存在下での(CBP)又は非存在下での(-RIM)4種の系統にわたり、神経外胚葉マーカーPax6、眼野マーカーCHX10、並びにRPEマーカーTyrp1及びPMELの発現を比較する。系統にわたり、Paxの発現は、RIM存在下で又は非存在下で類似していた。CHX10発現は、RIMが除去された場合に系統にわたり増加したが、系統8.101及び8.102では、両方の系統において約80%も劇的に改善された。同時に、Tyrp1発現は、RIMの除去後に減少した。
【0259】
色素細胞特異的タンパク質(PMEL)は、一般に、RPE色素沈着と関連している。本分化系では、PMEL発現はD15で高いままであり、D15での低いPMEL発現は、通常、乏しいPRP分化をもたらすことが分かった。RIMの除去により、系統6.102又は系統AのいずれにおいてもPMEL発現は破壊されないが、系統8.101及び8.102ではPMEL発現が顕著に増加する。このことから、RIMの除去は、PRP発生プロセスを妨げないが、PRPの発生に向けて余分な後押しを必要とする系統にとっては有益であることが実証された。まとめると、データは、RIMの除去により、D15での細胞がRPEに分化する可能性が減少し得るが、PRPへの分化の可能性が増加することを示唆する。
【0260】
過去のデータに基づくと、中間段階(インプロセス)PRP発生(約D30)の間に、PAX6及びCHX10の発現はピークに達するが、TYRP1及びPMELの発現はさらに減少する。発生プロセスは、タンパク質発現でのこれらの変化を自然に駆動するが、分化の初期段階でのRIMの除去は、PRP分化を許容できないとこれまで見なされていた系統においいて追加のサポートを提供する。RIMの初期除去は、PAX6及びCHX10の発現レベルを上昇させ且つTRYP1及びPMELの発現レベルを低下させることにより、系統8.101及び8.102でのD30中期PRP発生に影響を及ぼす。
【0261】
網膜が発生するにつれて、網膜細胞の異種集団が時系列的に誕生し、この細胞集団の特徴付けは、オフターゲット細胞型により発現される抗原を標的とする抗体の特異的なパネルに基づく。オンターゲットPRP細胞を同定するための現在のパネルは、NeuroD1(ニューロン分化因子1、ND1;図29A)又はCHX10(図29B)のいずれかと結合したリカバリン(RCVRN)を含む。リカバリンは、光受容体で主に発現されるニューロン特異的カルシウム結合タンパク質であり、NeuroD1は、光受容体の最終分化において役割を果たす一時的に発現される転写因子である。RCVRNと結合したCHX10は、(錐体)双極細胞の顕著な特徴付けマーカーである。CHX10は、網膜前駆細胞中で初期に発現され、有糸分裂後のPRPでは発現を下方制御するが、有糸分裂後の双極細胞及び一部のミュラーグリア細胞では高度に発現されたままである。双極細胞はCHX10及びRCVRNの両方を発現するが、PRPは、RCVRN+のみ(陽性)及びCHX10-のみ(陰性)である。従って、RCVRN及びCHX10による二重標識を使用して、細胞集団における双極細胞の非存在又は低い存在を検証し、RCVRN+細胞がPRPに主に分化されることを実証した。
【0262】
D75 PRPへのRIMなしの効果は系統Aで最も顕著であり、RCVRN及びND1の発現は、RIMの除去により増加した。このデータから、RIMの除去がPRPの発生に影響を及ぼすことが分かった。さらに、CHX10発現は、RIMの除去により、系統にわたり、減少するか、又は10%以下のままであり、RCVRN+/CHX10+二重陽性細胞も減少した。
【0263】
オフターゲット細胞マーカーとして、網膜神経節細胞(RGC)に関するPax6-Isl1二重陽性、水平細胞に関するNHF6、及び全増殖細胞(pan proliferative cell)マーカーであるKi67が挙げられる。Pax6は、下記で説明するように、他の成熟網膜細胞上でも発現される(図30)。Pax6は、神経誘導に関する信頼性の高いマーカーであるが、網膜では、いくつかの有糸分裂後のオフターゲット細胞がPax6を発現する(例えば、RGC、ミュラーグリア、及びアマクリン細胞のサブセット)。同様に、Isl1はまた、複数の成熟オフターゲット網膜細胞(例えば、ON双極細胞、RGC、及びアマクリン細胞のサブセット)によっても発現される。この発生段階では、RIMなしの条件は、オフターゲットマーカー発現がわずかに減少した以外は、大した影響はなかった。二重陽性Isl1/Pax6集団は、培地条件に関係なく、残っているRGC又はアマクリン細胞のサブセットのわずかな割合(≦10%)を表した。加えて、系統及び条件にわたり、存在するHNF6+水平細胞は無視できるほどであり、且つ増殖細胞は実質的には存在しなかった。
【0264】
そのため、本研究から、分化に使用する培地順序からRIMを除去することは、特に初期の発生段階において、PRPの分化及び発生に有意に影響を及ぼすことが分かった。RIMの存在により、D30での一部の系統において、全ての系統にわたりD15でCHX10発現が弱まった。RIMを除去することは、減少したCHX10発現を「救出する」ように思われ、D15及びD30での系統にわたり、系統8.101及び8.102で有意な改善を観測した。最も重要なことに、RIMを除去することにより、いくつかの場合においてRCVRN及びND1の発現レベルが上昇し且つCHX10レベルが低下したが、観測したいずれの時点でも悪影響はなかった。
【0265】
本明細書で開示されており且つ特許請求されている全ての方法は、本開示を考慮して、過度の実験を行なうことなく組み立てられて実行され得る。本発明の組成物及び方法は、好ましい実施形態に関して説明されているが、本発明の概念、趣旨、及び範囲から逸脱することなく、本明細書で説明されている方法に変更を適用し得ること、及びこの方法の工程又は工程の順序で変更を適用し得ることが、当業者が明らかであるだろう。より具体的には、同一の又は類似の結果が達成されるであろう限りにおいて、本明細書で説明されている薬剤を、化学的及び生理学的の双方に関連するある特定の薬剤に置き換え得ることが明らかであるだろう。当業者に明らかな全てのそのような類似の置き換え及び改変は、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の趣旨、範囲、及び概念の範囲内であると見なされる。
参照文献
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図1
図2
図3A-3C】
図4A-4C】
図4D
図5
図6
図7
図8A-8B】
図9
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図10D
図11
図12A-12B】
図12C
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図27A-27D】
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図31A-31B】
図32A-32E】
図33A-33C】
図34A-34E】
【手続補正書】
【提出日】2024-04-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経網膜前駆細胞(NRP)の集団を製造する方法であって、
(a)ヒト人工多能性幹細胞(iPSC)の出発集団を得ること、
(b)前記細胞を、BMP阻害剤を含む第1の網膜分化培地(RD1)で培養して、前記細胞を前部神経外胚葉細胞にさらに分化させること、
(c)前記前部神経外胚葉細胞を、BMP阻害剤を本質的に含まない第2の網膜分化培地(RD2)で培養することにより、前記細胞の網膜分化を誘導して、網膜前駆細胞(RPC)を形成すること、
及び
(d)前記RPCを網膜成熟(RM)培地で培養して、NRPを製造すること
を含む方法。
【外国語明細書】