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特開2024-99610ヘテロ二量体多重特異性抗体を精製するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099610
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】ヘテロ二量体多重特異性抗体を精製するための方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/22 20060101AFI20240718BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20240718BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
C07K1/22 ZNA
C07K16/46
C07K16/18
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024065251
(22)【出願日】2024-04-15
(62)【分割の表示】P 2021515172の分割
【原出願日】2019-09-20
(31)【優先権主張番号】62/734,566
(32)【優先日】2018-09-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/742,821
(32)【優先日】2018-10-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518452881
【氏名又は名称】テネオバイオ, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ジョーゲンセン, ブレット
(72)【発明者】
【氏名】シェレンベルガー, ウテ
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA11
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA41
4H045DA76
4H045GA22
4H045GA26
4H045GA32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】溶液からヘテロ二量体多重特異性抗体を精製するための方法を提供する。
【解決手段】親和性クロマトグラフィーによって混合物から多重特異性IgG抗体を精製するための方法であって、方法が、混合物から多重特異性IgG抗体を、IgG抗体の重鎖定常ドメインに結合特異性を有する第1の親和性クロマトグラフィーカラム上に固定化すること、及び1つ以上のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて第1の親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む、方法である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親和性クロマトグラフィーによって混合物から多重特異性IgG抗体を精製するための方法であって、前記方法が、
前記混合物から前記多重特異性IgG抗体を、前記IgG抗体の重鎖定常ドメインに結合特異性を有する第1の親和性クロマトグラフィーカラム上に固定化すること、及び
1つ以上のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて前記第1の親和性クロマトグラフィーカラムから前記多重特異性抗体を溶出させて前記混合物から前記多重特異性抗体を精製すること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記1つ以上のポリオールが、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上のポリオールが、約5%~約25%w/vの範囲の濃度を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記1つ以上のポリオールが、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するグリセロールを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記グリセロールが、約10%w/vの濃度を有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記1つ以上のポリオールが、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するスクロースを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記スクロースが、約10%w/vの濃度を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記溶出緩衝液が、約10%w/vのグリセロール及び約10%w/vのスクロースを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記親和性クロマトグラフィーカラムが、プロテインAクロマトグラフィー樹脂を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記溶出緩衝液が、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記溶出緩衝液が、約20mM~約30mMの範囲の濃度のクエン酸を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記溶出緩衝液が、約25mMの濃度のクエン酸を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記溶出緩衝液が、約3.2~約4.2の範囲のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記溶出緩衝液が、約3.4~約3.8の範囲のpHを有する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記溶出緩衝液が、約3.6のpHを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記溶出緩衝液が、約25mMのクエン酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、前記溶出緩衝液が、約3.6のpHを有する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
前記親和性クロマトグラフィーカラムが、前記IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記溶出緩衝液が、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される緩衝液を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記溶出緩衝液が、約45mM~約55mMの範囲の濃度の酢酸を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記溶出緩衝液が、約50mMの濃度の酢酸を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記溶出緩衝液が、約3.4~約4.4の範囲のpHを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記溶出緩衝液が、約3.8~約4.2の範囲のpHを有する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記溶出緩衝液が、約4.0のpHを有する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記溶出緩衝液が、約50mMの酢酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、前記溶出緩衝液が、約4.0のpHを有する、請求項17に記載の方法。
【請求項25】
親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性IgG抗体の凝集を低減する方法であって、前記方法が、
プロテインA親和性クロマトグラフィーカラム上、前記多重特異性IgG抗体を固定化すること、及び
25mMのクエン酸、10%w/vのグリセロール、及び10%w/vのスクロースを含むpH3.6の溶出緩衝液を用いて前記プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムから前記多重特異性IgG抗体を溶出させること、
を含む、前記方法。
【請求項26】
親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性IgG抗体の凝集を低減する方法であって、前記方法が、
前記多重特異性IgG抗体を、前記多重特異性IgG抗体のCH1ドメインに結合親和性を有するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラム上に固定化すること、及び
50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含むpH4.0の溶出緩衝液を用いて前記親和性クロマトグラフィーカラムから前記多重特異性IgG抗体を溶出させること、
を含む、前記方法。
【請求項27】
前記多重特異性IgG抗体が、第1の結合単位及び第2の結合単位を含む、請求項1、請求項25、及び請求項26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記第1の結合単位が、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第2の結合単位が、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記第1の結合単位が、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含み、前記第2の結合単位が、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
前記第1の結合単位が、腫瘍関連抗原に対する結合親和性を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
前記第2の結合単位が、エフェクター細胞に結合親和性を有する、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
前記エフェクター細胞が、T細胞である、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記第2の結合単位が、前記T細胞上のCD3タンパク質に結合親和性を有する、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記多重特異性IgG抗体が、二重特異性IgG抗体である、請求項1、請求項25、及び請求項26のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年9月21日出願の米国仮特許出願第62/734,566号、ならびに2018年10月8日出願の米国仮特許出願第62/742,821号の出願日の優先権の利益を主張し、これらの出願の開示内容は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、溶液からヘテロ二量体多重特異性抗体を精製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
二重特異性抗体(BsAb)は、新たなクラスの重要なタンパク質治療薬である。BsAbは、2つの異なる抗原を認識し、それらに結合するように設計され、この設計の目的は、多くの場合、免疫エフェクター細胞を再標的化してがん細胞を死滅させることである。現在のところ、治療薬として認可されたBsAbは、欧州医薬品庁(EMA)によって認可されたものが2つ、米国食品医薬品局(FDA)によって認可されたものが1つ存在する。ヘテロ二量体多重特異性抗体の精製では、捕捉のために従来のプロテインAクロマトグラフィーを使用することが問題になることが多く、この原因の一部は、未精製のBsAb混合物中にFc含有産物バリアントが存在することにある。さらに、多量体タンパク質(抗体など)は凝集する傾向がより強く、このことが不純物レベルを顕著に高める一因となっている。したがって、産物に特定的な不純物(凝集体または分解産物)及び処理に関連する不純物(培地成分、HCP、DNA、精製において使用されるクロマトグラフィー媒体、エンドトキシン、ウイルスなど)を効率的に除去し、十分な量の正確かつ完全な多重特異性抗体が得られる精製方法を開発する必要がある。抗体を精製するための方法は、当該技術分野でさまざまなものが知られてはいるものの、凝集体及び複合体(例えば、プロセス由来の修飾または製造条件の結果として形成され得るもの)から多重特異性抗体を分離及び精製することができる代替のクロマトグラフィープロセスに対するアンメットニーズが依然として存在する。
【発明の概要】
【0004】
本発明の態様は、親和性クロマトグラフィーによって混合物から多重特異性IgG抗体を精製するための方法を含み、この方法は、当該多重特異性IgG抗体の重鎖定常ドメインに結合特異性を有する第1の親和性クロマトグラフィーカラムに対して、当該混合物から当該IgG抗体を固定化すること、及び1つ以上のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて第1の親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて当該混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0005】
いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約25%w/vの範囲の濃度を有する。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するグリセロールを含む。いくつかの実施形態では、グリセロールは、約10%w/vの濃度を有する。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するスクロースを含む。いくつかの実施形態では、スクロースは、約10%w/vの濃度を有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約10%w/vのグリセロール及び約10%w/vのスクロースを含む。
【0006】
いくつかの実施形態では、親和性クロマトグラフィーカラムは、プロテインAクロマトグラフィー樹脂を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約20mM~約30mMの範囲の濃度のクエン酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約25mMの濃度のクエン酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.2~約4.2の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.4~約3.8の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.6のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約25mMのクエン酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、溶出緩衝液は、約3.6のpHを有する。
【0007】
いくつかの実施形態では、親和性クロマトグラフィーカラムは、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される緩衝液を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約45mM~約55mMの範囲の濃度の酢酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約50mMの濃度の酢酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.4~約4.4の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.8~約4.2の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約4.0のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約50mMの酢酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、溶出緩衝液は、約4.0のpHを有する。
【0008】
本発明の態様は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性IgG抗体の凝集を低減する方法を含み、この方法は、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムに対して多重特異性IgG抗体を固定化すること、ならびに25mMのクエン酸、10%w/vのグリセロール、及び10%w/vのスクロースを含むpH3.6の溶出緩衝液を用いてプロテインA親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性IgG抗体を溶出させること、を含む。
【0009】
本発明の態様は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性IgG抗体の凝集を低減する方法を含み、この方法は、多重特異性IgG抗体のCH1ドメインに結合親和性を有するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムに対して多重特異性IgG抗体を固定化すること、及び50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含むpH4.0の溶出緩衝液を用いて親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性IgG抗体を溶出させること、を含む。
【0010】
いくつかの実施形態では、多重特異性IgG抗体は、第1の結合単位及び第2の結合単位を含む。いくつかの実施形態では、第1の結合単位は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第2の結合単位は、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第1の結合単位は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含み、第2の結合単位は、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。
【0011】
いくつかの実施形態では、第1の結合単位は、腫瘍関連抗原に結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、第2の結合単位は、エフェクター細胞に結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、T細胞である。いくつかの実施形態では、第2の結合単位は、T細胞上のCD3タンパク質に結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、多重特異性IgG抗体は、二重特異性IgG抗体である。
【0012】
こうした態様及び別の態様については、実施例を含めて、本開示の残りの部分においてさらに説明される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のいくつかの実施形態によるBsAb分子を示す。
図2】BsAbの非限定的な例を示す。この示される実施形態は、CD3結合アームと、第1のVHドメイン及び第2のVHドメインを含むTAA結合アームと、を含む。この示される実施形態では、第1のVHドメイン及び第2のVHドメインは同一のものであり、両方がTAAに結合親和性を有する。
図3図2に示されるBsAbの活性形態及び不活性形態を示す。活性形態は、ヘテロ二量体(パネルA)であり、不活性形態には、TAAホモ二量体、半Ab、CD3ホモ二量体、余剰軽鎖(LC)、及び凝集体が含まれる。
図4】時間の関数として吸光度単位(AU)を示すSEC分析のグラフを示す。このグラフは、BsAbヘテロ二量体のサイズが、CD3結合アームのみを含むCD3ホモ二量体(図3のパネルBに示されるもの)と同様であることを示す。
図5】BsAbヘテロ二量体、CD3ホモ二量体、及びTAAホモ二量体が、異なる等電点(pI)を有することを示すIEFゲル分析を示す。
図6】pH3.6でのプロテインAクロマトグラフィーカラムからの溶出プロファイルを示す。この結果は、溶出ピークが総積分面積の96%を占めることを示す。ロード条件、平衡化条件、及び溶出条件が記載される。
図7】時間の関数として吸光度単位(AU)を示すSEC分析のグラフを示し、pH3.6でのプロテインAからの溶出後にBsAb凝集体が存在することを実証している。緩衝液条件及び流速条件が記載される。
図8】高分子量画分はBsAb産物に対応することを確認するSDS-PAGE分析を示す。
図9】添加剤がプロテインAから溶出されたBsAbの凝集を低減し得ることを実証する一連のグラフを示す。検討した添加剤には、マンニトール、グリセロール、スクロース、及びトレハロースが含まれ、これらについての検討をさまざまな組み合わせで行った。
図10】パネルAは、CH1ドメインを含む活性なBsAb分子を示し、パネルBは、不活性なTAAホモ二量体を示す。
図11】プロテインAプール及びCaptureSelect CH1(CH1-XL)プールを含むSDS-PAGE分析を示す。この分析は、TAAホモ二量体がCH1-XL素通り画分に存在することを実証している。
図12】プロテインAによるBsAbの捕捉及び溶出のプロファイル(パネルA)と、CH1-XLによるBsAbの捕捉及び溶出のプロファイル(パネルB)と、を比較したものである。プロテインAからの溶出は、pH3.3で実施し、CH1-XLからの溶出は、pH4.6で実施した。
図13】CH1-XLによるBsAbの捕捉及び溶出のプロファイルを示し、ここではpH4で溶出を実施した。この結果は、BsAbが効率的に溶出され、総積分ピーク面積の93%に相当することを実証している。
図14】時間の関数として吸光度単位(AU)を示すSEC分析のグラフを示し、CH1-XLから溶出されたBsAbが含む凝集体が最小限にとどまることを実証している。CH1-XLプールのHMW含量は少なく(2.2%)、収集細胞培養液(HCCF)から産物が効率的に結合分離されていた。
図15】CH1-XLクロマトグラフィー樹脂の滞留時間及び動的結合容量を示す表である。この結果は、4分としたときに動的結合容量(DBC)がプラトー(9.3mg/mL)に達することを実証している。
図16】BsAbの製造プロセスに伴うさまざまな上流単位工程及び下流単位工程を示す流れ図である。
図17】BsAb精製プロセスのSDS-PAGE分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の際には、別段の指定がない限り、分子生物学の従来の手法(組換え手法を含む)、微生物学の従来の手法、細胞生物学の従来の手法、生化学の従来の手法、及び免疫学の従来の手法が用いられることになるが、これらの手法は、当該技術分野の技能の範囲である。そのような手法は、文献において完全に説明されており、そうした文献は、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,second edition(Sambrook et al.,1989)、“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,ed.,1984)、“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,ed.,1987)、“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.)、“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubel et al.,eds.,1987及び定期的な更新版)、“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullis et al.,ed.,1994)、“A Practical Guide to Molecular Cloning”(Perbal Bernard V.,1988)、“Phage Display:A Laboratory Manual”(Barbas et al.,2001)、Harlow,Lane and Harlow,Using Antibodies:A Laboratory Manual:Portable Protocol No.I,Cold Spring Harbor Laboratory(1998)、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory;(1988)、ならびにUwe Gottschalk,“Process Scale Purification of Antibodies”(2017)などである。
【0015】
値の範囲が与えられる場合、別に文脈上明確に示されない限り、その範囲の上限値と下限値との間に存在する、下限値の10分の1の単位までの各介在値と、その記載範囲内の任意の他の記載値または介在値と、が本発明に包含されることが理解されよう。こうしたより小さな範囲の上限値及び下限値は、そのより小さな範囲に独立して含まれ得るものであり、こうした上限値及び下限値もまた、本発明に包含され、記載範囲において具体的に除外される任意の限界値の対象にもなる。記載範囲が限界値の一方または両方を含む場合、そうした含まれる限界値のどちらか一方または両方を除外した範囲もまた、本発明に含まれる。
【0016】
別段の指定がない限り、本明細書の抗体残基は、Kabatの番号付けシステムに従って番号付けされる(例えば、Kabat et al.,Sequences of Immunological Interest.5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,Md.(1991))。
【0017】
以下に続く説明では、本発明の理解がより完全なものとなるように、多数の具体的な詳細が示される。しかしながら、こうした具体的な詳細のうちの1つ以上が与えられなくとも本発明を実施し得ることが、当業者には明らかであろう。場合によっては、当業者によく知られており、知見が豊富に存在する特徴及び手順については、本発明の理解を妨げることを避けるために記載されていないこともある。
【0018】
特許出願及び刊行物を含めて、本開示を通じて引用される参考文献はすべて、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0019】
I.定義
「含む」は、記載の要素が組成物/方法/キットにおいて必要であるが、特許請求の範囲に含まれる組成物/方法/キットを形成させるためには他にも要素が含められ得ることを意図する。
【0020】
「から本質的になる」は、記載の組成物または方法の範囲を、本発明の基本的かつ新規の特徴(複数可)に実質的に影響を与えない指定の材料またはステップに限定することを意図する。
【0021】
「からなる」は、特許請求の範囲で指定されない任意の要素、ステップ、または成分は組成物、方法、またはキットに含めないことを意図する。
【0022】
本明細書で使用される「結合単位」という用語は、結合標的に結合する少なくとも1つの可変ドメイン配列(V)を含むポリペプチドを指し、このポリペプチドは、関連する抗体軽鎖可変ドメイン(V)配列を含むことも含まないこともある。いくつかの実施形態では、結合単位は、重鎖のみの抗体の単一のVHドメインを含む。他の実施形態では、結合単位は、VHドメイン及びVLドメインを含む。
【0023】
「精製された」抗体(例えば、二重特異性抗体)は、当該抗体の純度が高められており、その結果、当該抗体が、その天然環境中にそれが存在する場合、及び/または実験室条件の下で最初にそれが合成及び/または増幅された時点と比較して純度が高い形態で存在することを意味する。純度は相対的な用語であり、必ずしも絶対的な純度を意味しない。「精製すること」または「分離すること」という用語は、本明細書で互換的に使用され、所望の分子(多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)など)及び1つ以上の不純物を含む組成物または試料から所望の分子の純度を高めることを指す。典型的には、所望の分子の純度は、組成物から少なくとも1つの不純物を(完全または部分的に)除去することによって高められる。
【0024】
本発明の方法に従って精製され得る抗体には、多重特異性抗体が含まれる。多重特異性抗体は、複数の結合特異性を有する。「多重特異性(multi-specific)」または「多重特異性(multispecific)」という用語は、具体的には、「二重特異性」及び「三重特異性」、ならびにより高次の独立した特異的結合親和性(より高次のポリエピトープ特異性、ならびに四価の抗体及び抗体断片など)を含む。「多重特異性」抗体には、具体的には、異なる結合実体の組み合わせを含む抗体、ならびに同じ結合実体を複数含む抗体が含まれる。「多重特異性抗体」、「多重特異性重鎖のみの抗体」、「多重特異性重鎖抗体」、及び「多重特異性UniAb(商標)」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、複数の結合特異性を有する抗体をすべて包含する。非限定的な例では、本発明に従って精製される多重特異性抗体には、具体的には、CD3タンパク質(ヒトCD3など)及びBCMAタンパク質(ヒトBCMAなど)に免疫特異的に結合する抗体が含まれる。
【0025】
本明細書で使用される「凝集体」という用語は、タンパク質凝集体(例えば、ホモ二量体)を指す。凝集体は、精製すべき多重特異性抗体及び/またはそのサブユニットの多量体(二量体、四量体、またはより高次の凝集体など)を包含し、例えば、高分子量凝集体となり得る。
【0026】
本明細書で使用される「抗凝集組成物」は、2つ以上のタンパク質(例えば、多重特異性抗体またはそのサブユニット)の望ましくない会合を低減する組成物を指す。いくつかの実施形態では、抗凝集組成物は、1つ以上のポリオールを含む。
【0027】
「ポリオール」は、複数のヒドロキシル基を有する物質であり、「ポリオール」には、糖(還元糖及び非還元糖)、糖アルコール、ならびに糖酸が含まれる。ポリオールの例としては、限定されないが、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びソルビトールが挙げられる。
【0028】
「ロード密度」は、クロマトグラフィー材料の体積(例えば、リットルで示される)と接触させる組成物の量(例えば、グラムで示される)を指す。いくつかの例では、ロード密度は、g/Lで表現される。
【0029】
「試料」は、より大きい量の材料の小さな部分を指す。一般に、本明細書に記載の方法による試験は、試料に対して実施される。試料は、典型的には、得られる組換えポリペプチド調製物を含む「混合物」から得られ、例えば、培養組換えポリペプチド発現細胞株(本明細書では「産生細胞株」とも称される)または培養宿主細胞から得られる。試料は、混合物(例えば、限定されないが、収集細胞培養液を含むもの)から得られるものであるか、精製プロセスにおけるある特定のステップの時点のプロセス中プールから得られるものであるか、または最終精製産物から得られるものであり得る。試料は、希釈剤、緩衝剤、界面活性剤、ならびに所望の分子(多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)など)と混ざって見られる混入種、デブリ、及び同様のものも含み得る。
【0030】
本明細書で使用される「宿主細胞」は、目的組換えポリペプチドまたは産物を発現させるための遺伝子を含むのではなく、導入(例えば、トランスフェクションによる導入)すべきそのような遺伝子のための受容宿主として働く。
【0031】
本明細書に記載の「産物」という用語は、本発明の方法によって精製すべき物質(例えば、ポリペプチド(例えば、多重特異性抗体))である。
【0032】
「重鎖のみの抗体」及び「重鎖抗体」という用語は、本明細書で互換的に使用され、広い意味では、通常の抗体の軽鎖を含まない抗体を指す。重鎖のみの抗体については、例えば、WO2018/119215に記載されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0033】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、天然に生じる可能性のある変異が少量存在し得ることを除いて同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位に対して指向化されている。さらに、通常の(ポリクローナル)抗体調製物が、典型的には、異なる決定基(エピトープ)に対して指向化された異なる抗体を含むものであることとは対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定基に対して指向化されている。本発明によるモノクローナル抗体は、例えば、Kohler et al.(1975)Nature 256:495によって最初に説明されたハイブリドーマ法によって調製することができ、さらには、組換えタンパク質産生法(例えば、米国特許第4,816,567号を参照のこと)によっても調製することができる。
【0034】
本明細書で使用される「インタクトな抗体鎖」は、全長可変領域及び全長定常領域(Fc)を含むものである。インタクトな「従来の」抗体は、分泌されるIgGのインタクトな軽鎖及びインタクトな重鎖、ならびに軽鎖定常ドメイン(CL)ならびに重鎖定常ドメイン(CH1、ヒンジ、CH2、及びCH3)を含む。インタクトな抗体は、1つ以上の「エフェクター機能」を有し、こうした「エフェクター機能」は、抗体のFc定常領域(天然の配列を有するFc領域またはアミノ酸配列バリアントであるFc領域)に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、貪食、及び細胞表面受容体の下方制御が挙げられる。定常領域バリアントには、エフェクタープロファイルが変化したもの、Fc受容体への結合が変化したもの、及び同様のものが含まれる。
【0035】
IgGクラスに由来する抗体及びさまざまな抗原結合タンパク質は、その重鎖のFc(定常ドメイン)のアミノ酸配列に応じて、異なるサブクラスのものとされ得る。抗体のIgGクラスは、さらに4つの「サブクラス」(アイソタイプ)(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)に分類され得る。IgGクラスの抗体に対応するFc定常ドメインは、γ(ガンマ)と称され得る。さまざまなクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造及び三次元配置はよく知られている。Ig形態には、ヒンジ修飾形態またはヒンジなしの形態が含まれる(Roux et al(1998)J.Immunol.161:4083-4090、Lund et al(2000)Eur.J.Biochem.267:7246-7256、US2005/0048572、US2004/0229310)。いずれの脊椎動物種に由来する抗体の軽鎖も、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、2つのタイプ(κ及びλと呼ばれる)のうちの一方に割り当てられ得る。本発明の実施形態による方法は、任意のサブクラス(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4(そのバリアント配列(本明細書にさらに記載される)を含む))のIgG抗体を対象として使用され得る。
【0036】
「機能性Fc領域」は、天然の配列を有するFc領域の「エフェクター機能」を有する。エフェクター機能の例としては、限定されないが、C1q結合、CDC、Fc受容体結合、ADCC、ADCP、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御などが挙げられる。そのようなエフェクター機能は、一般に、Fc領域が受容体(例えば、FcγRI受容体、FcγRIIA受容体、FcγRIIB1受容体、FcγRIIB2受容体、FcγRIIIA受容体、FcγRIIIB受容体、及び低親和性FcRn受容体)と相互作用することを必要とし、当該技術分野で知られるさまざまなアッセイを使用して評価され得る。「非機能化(dead)」Fcまたは「抑制化(silenced)」Fcは、活性(例えば、血清中半減期の長期化に関するもの)を保持するように変異しているが、高親和性Fc受容体を活性化しないFcである。
【0037】
「天然の配列を有するFc領域」は、天然に見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。天然の配列を有するヒトFc領域には、例えば、天然の配列を有するヒトIgG1 Fc領域(非Aアロタイプ及びAアロタイプ)、天然の配列を有するヒトIgG2 Fc領域、天然の配列を有するヒトIgG3 Fc領域、ならびに天然の配列を有するヒトIgG4 Fc領域、ならびにそれらの天然起源のバリアントが含まれる。
【0038】
「バリアントFc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸改変、好ましくは1つ以上のアミノ酸置換(複数可)によって、天然の配列を有するFc領域のものとは異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、バリアントFc領域は、天然の配列を有するFc領域または親ポリペプチドのFc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、例えば、天然の配列を有するFc領域中または親ポリペプチドのFc領域中のアミノ酸が約1~約10個置換されたもの、好ましくは、約1~約5つ置換されたものである。本明細書のバリアントFc領域は、好ましくは、天然の配列を有するFc領域との相同性及び/または親ポリペプチドのFc領域との相同性が少なくとも約80%となり、最も好ましくは、それとの相同性が少なくとも約90%となり、より好ましくは、それとの相同性が少なくとも約95%となる。
【0039】
バリアントFc配列は、EUインデックスでの234位、235位、及び237位(CH2領域中)に3つのアミノ酸置換を含むことで、FcγRIへの結合が低減されたものであり得る(Duncan et al.,(1988)Nature 332:563を参照のこと)。EUインデックスでの330位及び331位(補体C1qへの結合部位中)の2つのアミノ酸置換は、補体結合を低減する(Tao et al.,J.Exp.Med.178:661(1993)及びCanfield and Morrison,J.Exp.Med.173:1483(1991)を参照のこと)。IgG2の233~236位の残基、及びIgG4の327位、330位、及び331位の残基がヒトIgG1のものへと置換変換されると、ADCC及びCDCが大幅に低減される(例えば、Armour KL.et al.,1999 Eur J Immunol.29(8):2613-24、及びShields RL.et al.,2001.J Biol Chem.276(9):6591-604を参照のこと)。ヒトIgG1アミノ酸配列(UniProtKB番号P01857)は、本明細書では配列番号43として提供される。ヒトIgG4アミノ酸配列(UniProtKB番号P01861)は、本明細書では配列番号44として提供される。抑制化IgG1については、例えば、Boesch,AW.,et al.,“Highly parallel characterization of IgG Fc binding interactions.”MAbs,2014.6(4):p.915-27に記載されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0040】
他のFcバリアントもあり得、こうした他のFcバリアントには、限定されないが、ジスルフィド結合の形成が可能な領域が欠失したもの、または天然のFcのN末端に位置するある特定のアミノ酸残基が除去されたものもしくは天然のFcのN末端にメチオニン残基が付加されたもの、が含まれる。したがって、いくつかの実施形態では、結合化合物のFc位置の1つ以上は、ジスルフィド結合を除去するための変異をヒンジ領域中に1つ以上含み得る。さらに別の実施形態では、Fcのヒンジ領域全体が除去され得る。さらに別の実施形態では、結合化合物は、Fcバリアントを含み得る。
【0041】
さらに、アミノ酸残基を置換(変異導入)するか、欠失させるか、または付加して補体結合またはFc受容体結合に影響を与えることによってエフェクター機能が除去または実質的に低減されるようにFcバリアントが構築され得る。例えば、限定されないが、欠失は補体結合部位(C1q結合部位など)に導入され得る。免疫グロブリンFc断片のそのような配列誘導体を調製するための手法は、国際特許公開公報第WO97/34631号及び同第WO96/32478号に開示されている。さらに、Fcドメインは、リン酸化、硫酸化、アシル化、グリコシル化、メチル化、ファルネシル化、アセチル化、アミド化、及び同様のものによって修飾され得る。
【0042】
Fcは、天然の糖鎖を有する形態であり得るか、天然の形態と比較して糖鎖が増加した形態もしくは天然の形態と比較して糖鎖が減少した形態であり得るか、または非グリコシル化形態もしくは脱グリコシル化形態であり得る。糖鎖の増加、減少、除去、または他の改変は、当該技術分野で一般に使用される方法(化学法、酵素法など)によって達成されるか、または遺伝子操作された産生細胞株においてFcを発現させることによって達成され得る。そのような細胞株には、グリコシル化酵素を天然に発現する微生物(例えば、Pichia Pastoris)及び哺乳類細胞株(例えば、CHO細胞)が含まれ得る。さらに、微生物または細胞は、グリコシル化酵素を発現するように操作され得るか、またはグリコシル化酵素が発現できないようにされ得る(例えば、Hamilton,et al.,Science,313:1441(2006)、Kanda,et al,J.Biotechnology,130:300(2007)、Kitagawa,et al.,J.Biol.Chem.,269(27):17872(1994)、Ujita-Lee et al.,J.Biol.Chem.,264(23):13848(1989)、Imai-Nishiya,et al,BMC Biotechnology 7:84(2007)、及びWO07/055916を参照のこと)。シアリル化活性が変化するように操作された細胞の一例として、アルファ-2,6-シアリルトランスフェラーゼ1遺伝子がチャイニーズハムスター卵巣細胞及びsf9細胞に操作導入されている。したがって、こうした操作された細胞が発現する抗体は、外来遺伝子産物によってシアリル化される。複数の天然分子と比較して糖残基の量が改変されたFc分子を得るためのさらなる方法には、当該複数の分子をグリコシル化画分及び非グリコシル化画分へと分離するものが含まれ、この分離は、例えば、レクチン親和性クロマトグラフィーを使用して行われる(例えば、WO07/117505を参照のこと)。特定のグリコシル化部分が存在すると、免疫グロブリンの機能が変化することが示されている。例えば、Fc分子から糖鎖を除去すると、補体第1成分C1のC1q部分への結合親和性が激減し、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)または補体依存性細胞傷害(CDC)が減少または消失することによって、インビボで不要な免疫応答が誘導されなくなる。追加の重要な修飾には、シアリル化及びフコシル化が含まれる:IgG中にシアル酸が存在することは、抗炎症活性と関連しており(例えば、Kaneko,et al,Science 313:760(2006)を参照のこと)、一方で、IgGからフコースを除去すると、ADCC活性が増進する(例えば、Shoj-Hosaka,et al,J.Biochem.,140:777(2006)を参照のこと)。
【0043】
代替の実施形態では、本発明に従って精製される結合化合物は、エフェクター機能が増進したFc配列を有し得、この増進は、例えば、FcγRIIIAへのその結合能力の向上及びADCC活性の増加によって生じる。例えば、FcのAsn-297に位置するN結合型糖鎖にフコースが付加されると、FcとFcγRIIIAとの相互作用が立体的に妨害され、糖鎖工学によってフコースが除去されるとFcγRIIIAへの結合が増加し得、この増加は、野生型IgG1対照と比較してADCC活性が50倍超に上昇するという結果となる。IgG1のFc部分にアミノ酸変異を導入することによるタンパク質工学によって、FcγRIIIAへのFc結合の親和性が増加したバリアントが複数得られている。注目すべきことに、S298A/E333A/K334Aという三重アラニン変異は、FcγRIIIAへの結合及びADCC機能を2倍に増加させる。S239D/1332E(2×)バリアント及びS239D/I332E/A330L(3×)バリアントでは、インビトロ及びインビボでFcγRIIIAへの結合親和性が顕著に上昇し、ADCC能力が増強されている。酵母ディスプレイによって同定された他のFcバリアントでは、FcγRIIIAへの結合が改善され、マウス異種移植モデルにおける腫瘍細胞死滅が増進していることも示された。例えば、Liu et al.(2014)JBC 289(6):3571-90を参照のこと。当該文献は、参照によって本明細書に明確に組み込まれる。
【0044】
「Fc領域含有抗体」という用語は、Fc領域を含む抗体を指す。Fc領域のC末端リジン(EU番号付けシステムによる残基447)は除去される可能性があり、この除去は、例えば、抗体の精製の間に行われるか、または抗体をコードする核酸の組換え操作によって行われる。したがって、本発明によるFc領域を有する抗体は、K447を有する抗体またはK447を有さない抗体を含み得る。
【0045】
2つ以上の抗体の可変ドメインを組換えで融合させることによって多価人工抗体を産生させるための方法は、さまざまなものが開発されている。いくつかの実施形態では、ポリペプチド上の第1の抗原結合ドメインとポリペプチド上の第2の抗原結合ドメインとが、ポリペプチドリンカーによって連結される。そのようなポリペプチドリンカーの例は、限定されないが、GSリンカーであり、このGSリンカーは、4つのグリシン残基の後に1つのセリン残基が続くアミノ酸配列を有し、この配列は、n回繰り返す(nは、1~約10の範囲の整数(2、3、4、5、6、7、8、または9など)である)。そのようなリンカーの例としては、限定されないが、GGGGS(配列番号1)(n=1)及びGGGGSGGGGS(配列番号2)(n=2)が挙げられる。他の適切なリンカーを使用することもでき、こうしたリンカーは、例えば、Chen et al.,Adv Drug Deliv Rev.2013 October 15;65(10):1357-69に記載されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0046】
「二重特異性三本鎖抗体様分子」または「TCA」という用語は、3つのポリペプチドサブユニットを含むか、3つのポリペプチドサブユニットから本質的になるか、または3つのポリペプチドサブユニットからなる抗体様分子を指すために本明細書で使用され、これらのポリペプチドサブユニットのうちの2つは、1つのモノクローナル抗体の重鎖1つ及び軽鎖1つ、もしくはそのような抗体鎖の機能性抗原結合断片(抗原結合領域及び少なくとも1つのCHドメインを含む)、を含むか、それらから本質的になるか、またはそれらからなる。この重鎖/軽鎖対は、第1の抗原に対する結合特異性を有する。第3のポリペプチドサブユニットは、CH1ドメインが存在せず、CH2ドメイン及び/またはCH3ドメイン及び/またはCH4ドメインを含むFc部分と、第2の抗原のエピトープに結合するか、または第1の抗原の異なるエピトープに結合する抗原結合ドメイン(そのような結合ドメインは、抗体重鎖もしくは抗体軽鎖の可変領域に由来するか、または抗体重鎖もしくは抗体軽鎖の可変領域との配列同一性を有する)と、を含む重鎖のみの抗体を含むか、当該抗体から本質的になるか、あるいは当該抗体からなる。そのような可変領域の部分は、VH遺伝子セグメント及び/またはVL遺伝子セグメントによってコードされるか、D遺伝子セグメント及びJH遺伝子セグメントによってコードされるか、またはJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。可変領域は、再編成されたVHDJH遺伝子セグメント、VLDJH遺伝子セグメント、VHJL遺伝子セグメント、またはVLJL遺伝子セグメントによってコードされ得る。
【0047】
TCA結合化合物は、「重鎖のみの抗体」または「重鎖抗体」または「重鎖ポリペプチド」を利用するものであり、本明細書で使用される「重鎖のみの抗体」または「重鎖抗体」または「重鎖ポリペプチド」は、重鎖定常領域のCH2及び/またはCH3及び/またはCH4は含むが、CH1ドメインは含まない一本鎖抗体を意味する。一実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、ならびにCH2ドメイン及びCH3ドメインから構成される。別の実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH2ドメインから構成される。さらなる実施形態では、重鎖抗体は、抗原結合ドメイン、ヒンジ領域の少なくとも一部、及びCH3ドメインから構成される。CH2ドメイン及び/またはCH3ドメインが短縮された重鎖抗体もまた、本明細書に含まれる。さらなる実施形態では、重鎖は、抗原結合ドメイン及び少なくとも1つのCHドメイン(CH1ドメイン、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはCH4ドメイン)から構成されるが、ヒンジ領域は含まない。重鎖のみの抗体は、二量体の形態であり得、この二量体形態では、2つの重鎖がジスルフィドによって結合されているか、またはその他の様式で互いに共有結合もしくは非共有結合で結合されており、ポリペプチド鎖の間での適切な対形成を促進するための非対称界面をCHドメインの1つ以上の間に任意選択で含み得る。本発明の実施形態に従って精製すべき重鎖抗体は、IgGクラスに属する。特定の実施形態では、重鎖抗体は、IgG1サブクラス、IgG2サブクラス、IgG3サブクラス、またはIgG4サブクラスのものであり、具体的には、IgG1サブタイプまたはIgG4サブタイプのもの(そのバリアント(本明細書にさらに記載される)を含む)である。
【0048】
「エピトープ」は、結合化合物の抗原結合領域の結合相手である抗原分子の表面上の部位である。一般に、抗原は、異なるエピトープをいくつかまたは多く有し、多くの異なる結合化合物(例えば、多くの異なる抗体)と反応する。この用語は、具体的には、直線状エピトープ及び立体構造エピトープを含む。
【0049】
本明細書で使用される「価」という用語は、抗体分子または結合化合物中の特定の結合部位数を指す。
【0050】
「多価」結合化合物は、2つ以上の結合部位を有する。したがって、「二価」、「三価」、及び「四価」という用語は、それぞれ2つの結合部位、3つの結合部位、及び4つの結合部位が存在することを指す。したがって、本発明による方法によって精製される二重特異性抗体は、少なくとも二価のものであり、三価、四価、またはそれ以外の価数の多価のものであり得る。多種態様な方法及びタンパク質配置が知られており、二重特異性モノクローナル抗体(BsMAB)、三重特異性抗体、及び同様のものの調製に使用される。
【0051】
本明細書で使用される「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識相及び活性化相ではなく、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。いくつかのエフェクター細胞は、特定のFc受容体を発現し、特定の免疫機能を実行する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞(ナチュラルキラー細胞など)は、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を誘導する能力を有する。例えば、単球及びマクロファージは、FcRを発現しており、特定の標的細胞死滅及び免疫系の他の成分への抗原提示、または抗原を提示する細胞への結合に関与する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、標的抗原または標的細胞を貪食し得る。
【0052】
「ヒトエフェクター細胞」は、受容体(T細胞受容体またはFcRなど)を発現し、エフェクター機能を発揮する白血球である。好ましくは、細胞は、少なくともFcγRIIIを発現し、ADCCエフェクター機能を発揮する。ADCCを媒介するヒト白血球の例としては、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞、及び好中球が挙げられ、NK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、本明細書に記載のように、その天然源(例えば、血液またはPBMC)から単離され得る。
【0053】
「免疫細胞」という用語は、本明細書では最も広い意味で使用され、限定されないが、骨髄系起源またはリンパ系起源の細胞を含み、こうした細胞は、例えば、リンパ球(B細胞及びT細胞(細胞傷害性T細胞(CTL)を含む)など)、キラー細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、単球、好酸球、多形核細胞(好中球、顆粒球、マスト細胞、及び好塩基球など)である。
【0054】
抗体「エフェクター機能」は、抗体のFc領域(天然の配列を有するFc領域またはアミノ酸配列バリアントであるFc領域)に起因する生物学的活性を指す。抗体エフェクター機能の例としては、C1q結合、補体依存性細胞傷害、Fc受容体結合、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)、貪食、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体(BCR))の下方制御などが挙げられる。
【0055】
「抗体依存性細胞介在性細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)を発現する非特異的な細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)が、標的細胞上に結合した抗体を認識し、その後にそうした標的細胞を溶解させる細胞介在性反応を指す。ADCCを媒介するための初代細胞(NK細胞)はFcγRIIIのみを発現する一方で、単球はFcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcRの発現は、Ravetch and Kinet,Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)の464ページの表3にまとめられている。目的分子のADCC活性の評価には、インビトロのADCCアッセイ(米国特許第5,500,362号または同第5,821,337号に記載のものなど)が実施され得る。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞には、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が含まれる。あるいは、またはさらに、目的分子のADCC活性をインビボで評価するすることができ、例えば、動物モデル(Clynes et al.PNAS(USA)95:652-656(1998)に開示のものなど)において評価することができる。
【0056】
「補体依存性細胞傷害」または「CDC」は、補体の存在下で分子が標的を溶解させる能力を指す。補体活性化経路は、結合相手である抗原と複合体化した分子(例えば、抗体)に対して補体系の第1成分(C1q)が結合することによって開始される。補体活性化の評価には、CDCアッセイ(例えば、Gazzano-Santoro et al.,J.Immunol.Methods 202:163(1996)に記載のもの)が実施され得る。
【0057】
「治療」及び「治療すること」という用語ならびに同様のものは、一般に、所望の薬理的効果及び/または生理的効果を得ること意味するために本明細書で使用される。こうした効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に阻止するという点で予防的であり得、及び/または疾患及び/または疾患に起因し得る有害作用を部分的もしくは完全に治癒させるいう点で治療的であり得る。本明細書で使用される「治療」は、哺乳類における疾患の任意の治療を包含し、(a)疾患に罹りやすくあり得るが、それを有するとはまだ診断されていない対象における疾患の発症阻止、(b)疾患の抑制、すなわち、その発症の抑止、または(c)疾患の軽減、すなわち、疾患の退縮誘起、を含む。治療剤は、疾患または損傷の発生の前、間、または後に投与され得る。進行中の疾患の治療は、特に目的となるものであり、こうした場合、治療は、患者の望ましくない臨床症状を安定化または低減するものである。そのような治療は、患部組織における機能が完全に失われる前に実施されることが望ましい。対象の治療は、疾患の兆候段階の間、場合によっては、疾患の兆候段階の後に実施され得る。
【0058】
「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、治療の評価がなされており、及び/または治療されている哺乳類を指すために本明細書で互換的に使用される。一実施形態では、哺乳類は、ヒトである。「対象」、「個体」、及び「患者」という用語は、限定されないが、がんを有する個体、及び/または自己免疫疾患を有する個体、ならびに同様のものを包含する。対象はヒトであり得るが、対象には、他の哺乳類、具体的には、ヒト疾患の実験モデルとして有用な哺乳類(例えば、マウス、ラットなど)も含まれる。
【0059】
「医薬製剤」という用語は、活性成分の生物学的活性を有効にすることを可能にする形態を有しており、そうした製剤が投与されると想定される対象に許容不可能な毒性を与える追加成分を含まない調製物を指す。そのような製剤は、滅菌されたものである。「医薬的に許容可能な」医薬品添加物(媒体、添加剤)は、用いられる活性成分を有効用量で与えるために対象哺乳類に合理的に投与可能なものである。
【0060】
「滅菌」製剤は、無菌であるか、またはすべての生存微生物及びその胞子を含まないか、もしくは本質的に含まない。「凍結」製剤は、0℃未満の温度にある製剤である。
【0061】
「安定」製剤は、そこに含まれるタンパク質の物理的安定性及び/または化学的安定性及び/または生物学的活性を保存時に本質的に保持する製剤である。好ましくは、製剤は、保存時にその物理的安定性及び化学的安定性ならびにその生物学的活性を本質的に保持する。保存期間は、一般に、製剤の意図される有効期間に基づいて選択される。タンパク質安定性を測定するための分析手法は、当該技術分野ではさまざまなものが利用可能であり、例えば、Peptide and Protein Drug Delivery,247-301.Vincent Lee Ed.,Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,Pubs.(1991)and Jones.A Adv.Drug Delivery Rev.10:29-90)(1993)において概説されている。安定性は、選択される期間、選択される温度で測定され得る。安定性は、さまざまな異なる方法で定性的及び/または定量的に評価することができ、こうした方法には、凝集体形成を評価するもの(この評価は、例えば、サイズ排除クロマトグラフィーを使用し、濁度を測定し、及び/または目視による検証を行うことによって行われる)、陽イオン交換クロマトグラフィー、画像キャピラリー等電点電気泳動(icIEF)、またはキャピラリーゾーン電気泳動を使用して電荷の多様性を評価することによるもの、アミノ末端またはカルボキシ末端の配列を分析するもの、質量分析を行うもの、還元した抗体とインタクトな抗体とをSDS-PAGE分析で比較するもの、ペプチドマップ(例えば、トリプシンまたはLYS-C)分析を行うもの、抗体の生物学的活性または抗原結合機能を評価するものなどが含まれる。不安定性は、凝集、脱アミド化(例えば、Asn脱アミド化)、酸化(例えば、Met酸化)、異性化(例えば、Asp異性化)、クリッピング/加水分解/断片化(例えば、ヒンジ領域断片化)、スクシンイミド形成、不対システイン(複数可)、N末端伸長、C末端プロセシング、グリコシル化差異などのうちの任意の1つ以上を伴い得る。
【0062】
II.詳細な説明
多重特異性抗体の精製方法
ヘテロ二量体多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体(BsAb)を含む)の精製では、捕捉のためにプロテインAクロマトグラフィーを使用することが問題になることが多く、この原因は、未精製のBsAb混合物中に望ましくないFc含有産物バリアント(例えば、望ましくないホモ二量体種)が存在することにある。さらに、多量体タンパク質(抗体など)は凝集する傾向がより強く、このことが不純物レベルを顕著に高める一因となっている。したがって、BsAbのための製造プロセスの設計では、代替の親和性捕捉方法が必要である。本明細書では、プロテインAクロマトグラフィー単位工程の特性及び能力特徴、ならびに代替の捕捉方法について論じられている。
【0063】
本発明の実施形態による方法は、親和性クロマトグラフィー手順を使用して混合物から多重特異性抗体を精製することを含み、この精製は、第1の親和性クロマトグラフィーカラムを混合物と接触させること、第1の親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、第1の親和性クロマトグラフィーカラムを、抗凝集組成物を含む溶出緩衝液と接触させること、及び第1の親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0064】
他の態様では、本発明は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性抗体の凝集を低減する方法を提供し、この方法は、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムを、多重特異性抗体を含む混合物と接触させること、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムを、25mMのクエン酸、10%w/vのグリセロール、及び10%w/vのスクロースを含むpH3.6の溶出緩衝液と接触させること、及びプロテインA親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0065】
さらに他の態様では、本発明は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性抗体の凝集を低減する方法を提供し、この方法は、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムを、多重特異性抗体を含む混合物と接触させること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムを、50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含むpH4.0の溶出緩衝液と接触させること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0066】
本発明の方法は、複数の結合単位を含む多重特異性抗体の精製に使用され得る。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)は、第1の結合単位及び第2の結合単位を含む。いくつかの実施形態では、第1の結合単位は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第2の結合単位は、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む第1の結合単位と、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む第2の結合単位と、を含む。ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、重鎖のみの抗体である。重鎖のみの抗体については、例えば、WO2018/119215に記載されており、当該文献の開示内容は、その全体が参照によって本明細書に組み込まれる。
【0067】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体は、二重特異性抗体である。いくつかの実施形態では、BsAbは、IgGタイプの抗体であり、エフェクター機能活性を低減または増進する改変Fc領域を有するように操作されたサブクラスを含めて、任意のサブクラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)に由来するものである。本発明の実施形態によるBsAbは、任意の種に由来し得る。一態様では、BsAbは、大部分がヒト起源のものである。いくつかの実施形態では、BsAbは、IgG4サブタイプのものであり、CD3と組み合わせて腫瘍関連抗原(TAA)に対して指向化される(CD3-TAA)。図1及び図2には、本発明の実施形態によるBsAbの非限定的な例が示される。図3には、不活性種及び活性種が示される。
【0068】
いくつかの実施形態では、本明細書に記載の多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)のいずれの第1の結合単位も腫瘍関連抗原(TAA)に結合する。腫瘍関連抗原(TAA)は、腫瘍細胞に比較的限定されたものである一方で、腫瘍特異的抗原(TSA)は、腫瘍細胞に特有のものである。TSA及びTAAは、典型的には、細胞内分子の一部が主要組織適合遺伝子複合体の一部として細胞表面上に提示されたものである。腫瘍関連抗原の例としては、限定されないが、CD38、CD19、CD22、及びBCMAが挙げられる。ある特定の実施形態では、本明細書に記載の多重特異性抗体のいずれの第2の結合単位も、エフェクター細胞に結合する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、T細胞である。ある特定の実施形態では、第2の結合単位は、CD3に結合する。
【0069】
「CD3」という用語は、ヒトCD3タンパク質マルチサブユニット複合体を指す。CD3タンパク質マルチサブユニット複合体は、6つの特徴的なポリペプチド鎖から構成される。これらのポリペプチド鎖には、CD3γ鎖(SwissProt P09693)、CD3δ鎖(SwissProt P04234)、2つのCD3ε鎖(SwissProt P07766)、及び1つのCD3ζ鎖ホモ二量体(SwissProt 20963)が含まれ、これらのポリペプチド鎖は、T細胞受容体のα鎖及びβ鎖と結び付いている。「CD3」という用語は、記載がない限り、細胞(T細胞を含む)が天然に発現するか、またはそうしたポリペプチドをコードする遺伝子もしくはcDNAがトランスフェクションされた細胞上に発現し得る任意のCD3バリアント、CD3アイソフォーム、及びCD3種相同体を含む。
【0070】
本明細書で使用される「BCMA」という用語は、B細胞成熟抗原(BCMA、CD269、及びTNFRSF17としても知られる)を指し、この抗原は、分化した形質細胞に選択的に発現する瘍壊死受容体スーパーファミリーのメンバーである。本明細書で使用される「ヒトBCMA」という用語は、ヒトBCMA(UniProt Q02223)の任意のバリアント、アイソフォーム、及び種相同体(その供給源または調製様式は無関係である)を含む。したがって、「ヒトBCMA」は、細胞が天然に発現するヒトBCMA、及びヒトBCMA遺伝子がトランスフェクションされた細胞上に発現するBCMAを含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、BsAbは、構造的には三量体であり、この三量体では、一方のアーム(例えば、CD3結合アーム)は、完全ヒト重鎖及び完全ヒト軽鎖の両方を含み、もう一方のアーム(例えば、TAAアーム)(UniRat(商標)技術から得られるもの)は、ヒト重鎖(CHドメイン(例えば、ヒンジ-CH2-CH3を含み、CH1ドメインを含まないもの)に直接的に融合した1つ以上のVHドメインを有するもの)からなる。このBsAbは特有の構造を有するため、ヘテロ二量体産物のみが、ヒト重鎖のCH1ドメイン(CD3結合アームの一部)を含む。
【0072】
本明細書で使用される「CD38」という用語は、細胞外酵素活性を有する1回膜貫通型のII型膜貫通タンパク質(ADP-リボシルサイクラーゼ/サイクリックADP-リボースヒドロラーゼ1としても知られる)を指す。「CD38」という用語は、任意のヒトまたは非ヒト動物種のCD38タンパク質を含み、具体的には、ヒトCD38ならびに非ヒト哺乳類のCD38を含む。本明細書で使用される「ヒトCD38」という用語は、ヒトCD38(UniProt P28907)の任意のバリアント、アイソフォーム、及び種相同体(その供給源または調製様式は無関係である)を含む。したがって、「ヒトCD38」は、細胞が天然に発現するヒトCD38、及びヒトCD38遺伝子がトランスフェクションされた細胞上に発現するCD38を含む。「抗CD38重鎖のみの抗体」、「CD38重鎖のみの抗体」、「抗CD38重鎖抗体」、及び「CD38重鎖抗体」という用語は、ヒトCD38を含めて、本明細書の上部に定義されるCD38に免疫特異的に結合する本明細書の上部に定義される重鎖のみの抗体を指すために本明細書で互換的に使用される。この定義は、限定されないが、ヒト抗CD38 UniAb(商標)抗体を産生するUniRats(商標)を含めて、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニック動物(トランスジェニックラットまたはトランスジェニックマウスなど)によって産生される、本明細書の上部に定義されるヒト重鎖抗体を含む。
【0073】
本明細書で使用される「CD19」及び「分化抗原群19」という用語は、形質細胞へと最終分化するまでのB細胞発生のすべての相で発現する分子を指す。「CD19」という用語は、任意のヒト及び非ヒト動物種のCD19タンパク質を含み、具体的には、ヒトCD19ならびに非ヒト動物のCD19を含む。本明細書で使用される「ヒトCD19」という用語は、ヒトCD19(UniProt P15391)の任意のバリアント、アイソフォーム、及び種相同体(その供給源または調製様式は無関係である)を含む。したがって、「ヒトCD19」は、細胞が天然に発現するヒトCD19、及びヒトCD19遺伝子がトランスフェクションされた細胞上に発現するCD19を含む。「抗CD19重鎖のみの抗体」、「CD19重鎖のみの抗体」、「抗CD19重鎖抗体」、及び「CD19重鎖抗体」という用語は、ヒトCD19を含めて、本明細書の上部に定義されるCD19に免疫特異的に結合する本明細書の上部に定義される重鎖のみの抗体を指すために本明細書で互換的に使用される。この定義は、限定されないが、ヒト抗CD19 UniAb(商標)抗体を産生するUniRats(商標)を含めて、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニック動物(トランスジェニックラットまたはトランスジェニックマウスなど)によって産生される、本明細書の上部に定義されるヒト重鎖抗体を含む。
【0074】
本明細書で使用される「CD22」及び「分化抗原群22」という用語は、SIGLECレクチンファミリーに属する分子を指し、この分子は、成熟B細胞の表面上見られ、さらには、程度は低くなるが、いくつかの未熟B細胞上にも見られる。「CD22」という用語は、任意のヒト及び非ヒト動物種のCD22タンパク質を含み、具体的には、ヒトCD22ならびに非ヒト哺乳類のCD22を含む。本明細書で使用される「ヒトCD22」という用語は、ヒトCD22(UniProt P20273)の任意のバリアント、アイソフォーム、及び種相同体(その供給源または調製様式は無関係である)を含む。したがって、「ヒトCD22」は、細胞が天然に発現するヒトCD22、及びヒトCD22遺伝子がトランスフェクションされた細胞上に発現するCD22を含む。「抗CD22重鎖のみの抗体」、「CD22重鎖のみの抗体」、「抗CD22重鎖抗体」、及び「CD22重鎖抗体」という用語は、ヒトCD22を含めて、本明細書の上部に定義される含むCD22に免疫特異的に結合する本明細書の上部に定義される重鎖のみの抗体を指すために本明細書で互換的に使用される。この定義は、限定されないが、ヒト抗CD22 UniAb(商標)抗体を産生するUniRats(商標)を含めて、ヒト免疫グロブリンを発現するトランスジェニック動物(トランスジェニックラットまたはトランスジェニックマウスなど)によって産生される、本明細書の上部に定義されるヒト重鎖抗体を含む。
【0075】
本発明の実施形態による方法を使用して精製され得る他の二重特異性抗体の例としては、限定されないが、ブリナツモマブ(CD19×CD3、Amgen)、カツマキソマブ(EpCAM×CD3、Trion Pharma)、エミシズマブ(第IXa因子×第IX因子、Roche,Chugai)、ABT-981(IL-1アルファ×IL-1ベータ、AbbVie)、AFM13(CD30×CD16a、Affimed)、イスチラツマブ(IGF-1R×HER3、Merrimack Pharmaceuticals)、SAR156597(IL-4×IL-13s、Sanofi)、MP0250(VEGF×HGF、Molecular Partners)、MCLA-128(HER3×HER3、Merus)、MCLA-117(CLEC12A×CD3、Merus)、ALX-0761(IL-17A×IL-17F、Ablynx)、AMG570(BAFF×ICOSL、Amgen)、AMG211(CEA×CD3、Amgen/MedImmune)、AMG330(CD33×CD3、Amgen)、AMG420(BCMA×CD3、Amgen)、ABT-165(DLL×VEGF、AbbVie)、AFM11(CD19×CD3、Affimed)、MEDI4276(HER2×HER2、AstraZeneca/MedImmune)、JNJ-61178104(Johnson & Johnson/Genmab(標的非開示))、JNJ-61186372(EGFR×cMET、Johnson & Johnson/Genmab)、MDG006(CD123×CD3、Macrogenics)、MGD007(gpA33×CD3、Macrogenics)、ドゥボルツキシズマブ(MDG011)(CD19×CD3、Macrogenics/Johnson & Johnson)、MDG009(B7-H3×CD3、Macrogenics)、MDG010(CD32B×CD79B、Macrogenics)、REGN1979(CD20×CD3、Regeneron)、RG7386(FAP×DRS、Roche)、RG7828(CD20×CD3、Roche/Genentech)、RG7802(CEA×CD3、Roche)、RG7992(FGFR1×KLB、Roche/Genentech)、XmAb14045(CD123×CD3、Xencor/Novartis)、及びJNJ-63709178(CD123×CD3、Johnson & Johnson/Genmab)が挙げられる。
【0076】
混合物
本発明の態様は、多重特異性抗体及び1つ以上の混入物を含む混合物から、親和性クロマトグラフィー手順を使用して多重特異性抗体を精製するための方法を含む。混合物は、一般に、多重特異性抗体の組換え産生から得られるものであり、例えば、培養組換えポリペプチド発現細胞株または培養宿主細胞から得られるものである。試料または混合物は、例えば、限定されないが、収集細胞培養液(HCCF)から得られるものであるか、精製プロセスにおけるある特定のステップの時点のプロセス中プールから得られるものであるか、または最終精製産物から得られるものであり得る。試料は、希釈剤、緩衝剤、界面活性剤、ならびに所望の分子(多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)など)と混ざって見られる混入種、デブリ、及び同様のものも含み得る。
【0077】
ポリペプチドの組換え産生については、ポリペプチドをコードする核酸は単離され、さらなるクローニング(DNAの増幅)または発現のための複製可能ベクターに挿入される。ポリペプチドをコードするDNAは、従来の手順(例えば、ポリペプチドが抗体の場合は、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合する能力を有するオリゴヌクレオチドプローブを使用することによるもの)を使用して容易に単離及び配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター構成要素には、一般に、限定されないが、下記のもののうちの1つ以上が含まれる:シグナル配列、複製起点、1つ以上のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター、及び転写終結配列(例えば、米国特許第5,534,615号に記載のもの(当該文献は、参照によって本明細書に明確に組み込まれる))。
【0078】
本明細書のベクターでのDNAのクローニングまたは発現に適した宿主細胞は、原核生物、酵母、または高等真核細胞である。この目的に適した原核生物には、真正細菌(グラム陰性生物またはグラム陽性生物など)が含まれ、こうした真正細菌は、例えば、Enterobacteriaceae(Escherichia(例えば、E.coli)、Enterobacter、Erwinia、Klebsiella、Proteus、Salmonella(例えば、Salmonella typhimurium)、Serratia(例えば、Serratia marcescans)、及びShigellaなど)、ならびにBacilli(B.subtilis及びB.licheniformisなど)、Pseudomonas(P.aeruginosaなど)、及びStreptomycesである。好ましいE.coliクローニング宿主の1つはE.coli 294(ATCC31,446)であるが、他の株(E.coli B、E.coli X1776(ATCC31,537)、及びE.coli W3110(ATCC27,325)など)も適している。こうした例は例示であり、限定ではない。
【0079】
有用な哺乳類宿主細胞株の例としては、限定されないが、SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞(COS-7、ATCC CRL1651)、ヒト胎児腎臓細胞(293細胞または浮遊培養において増殖させるためにサブクローニングされた293細胞、Graham et al.,J.Gen Viral.36:59(1977))、ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL10)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:4216(1980))、マウスセルトリ細胞(TM4、Mather,Biol.Reprod.23:243-251(1980))、サル腎臓細胞(CVI ATCC CCL70)、アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587)、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL2)、イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL34)、バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A、ATCC CRL1442)、ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL75)、ヒト肝臓細胞(Hep G2、HB8065)、マウス乳腺腫瘍(MMT060562、ATCC CCL51)、TRI細胞(Mather et al.,Annals N.Y.Acad.Sci.383:44-68(1982))、MRC5細胞、FS4細胞、及びヒトヘパトーマ細胞(Hep G2)が挙げられる。
【0080】
宿主細胞は、ポリペプチドを産生させるための上記の発現ベクターまたはクローニングベクターで形質転換され、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望の配列をコードする遺伝子の増幅に適するように改変された従来の栄養培地において培養される。
【0081】
本発明のポリペプチドの産生に使用される宿主細胞は、さまざまな培地において培養され得る。宿主細胞の培養には市販の培地(ハムF10(Sigma)、最小必須培地((MEM)(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコ改変イーグル培地((DMEM)、Sigma)など)が適している。さらにHam et al.,Meth.Enz.58:44(1979)、Barnes et al.,Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許第4,767,704号、同第4,657,866号、同第4,927,762号、同第4,560,655号、もしくは同第5,122,469号、WO90/03430、WO87/00195、または米国再発行特許30,985に記載の培地はいずれも、宿主細胞の培地として使用され得る。こうした培地はいずれも、必要に応じて、ホルモン及び/または他の増殖因子(インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子など)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、及びリン酸塩など)、緩衝剤(HEPESなど)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジンなど)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬など)、微量元素(マイクロモル濃度範囲の最終濃度で通常は存在する無機化合物として定義される)、ならびにグルコースまたは同等のエネルギー源が添加され得る。任意の他の必要サプリメントもまた、当業者に知られると想定される適切な濃度で含められ得る。培養条件(温度、pH、及び同様のものなど)は、発現用に選択される宿主細胞で以前に使用されたことのあるものであり、当業者には明らかであろう。
【0082】
組換え手法を使用する場合、ポリペプチドは、細胞内に産生されるか、ペリプラズム間隙中に産生されるか、または培地に直接的に分泌され得る。ポリペプチドが細胞内に産生される場合、第1のステップとして、微粒子状デブリ(宿主細胞または溶解細胞のいずれか)(例えば、均質化に由来して生じる)が除去され、この除去は、例えば、遠心分離または限外ろ過によって行われる。ポリペプチドが培地に分泌される場合、そのような発現系から得られる上清は、一般に、市販のタンパク質濃縮フィルター(例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限外ろ過ユニット)を使用して最初に濃縮される。
【0083】
ある特定の実施形態では、多重特異性抗体混合物は、親和性クロマトグラフィーを含む精製の前に界面活性剤処理に供される。次に、多重特異性抗体混合物は、本明細書に記載の精製ステップの1つ以上に供される。
【0084】
親和性クロマトグラフィー
本明細書に記載の精製プロセスの設計において、いくつかのBsAbは低pHに曝露されると凝集する傾向を有することが発見された。それ故に、そのような場合、プロテインAクロマトグラフィーを使用するにあたって低pHでの溶出を行うことが特に問題となり、このことが、プロテインAの適切な代替物として働き得る親和性樹脂を検討するきっかけとなった。本明細書に記載のようにプロテインA溶出緩衝液に添加剤を含めることで観察凝集レベルは低下したものの、望ましくないホモ二量体種(例えば、TAAホモ二量体種)が一緒に精製されてしまうことが依然として観察された。さらに、酸に対してBsAbが不安定であることから、低pHでのウイルス不活化単位工程を使用することが不可能である。それ故に、本発明の実施形態による方法は、さまざまな型の親和性樹脂(限定されないが、プロテインA親和性樹脂を含む)を用いるクロマトグラフィー単位工程を含む。ある特定の実施形態では、プロテインA溶出緩衝液に対して本明細書に記載の抗凝集組成物が添加されることで、溶出液中の望ましくないホモ二量体凝集体が低減される。
【0085】
本発明の他の態様は、IgG抗体のCH1ドメインに結合し、プロセス不純物としての重鎖ホモ二量体と比較してヘテロ二量体多重特異性抗体産物に選択的に結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を利用する親和性クロマトグラフィーを用いるクロマトグラフィー単位工程を含む。ある特定の実施形態では、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂は、CaptureSelect(商標)親和性樹脂である。いくつかの実施形態では、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂は、CaptureSelect(商標)CH1-XL親和性樹脂である。
【0086】
親和性クロマトグラフィーの樹脂または材料は、親和性に基づいて抗体をクロマトグラフィー担体上に保持することを可能にする。親和性クロマトグラフィーの例としては、限定されないが、例えば、プロテインAクロマトグラフィー、プロテインGクロマトグラフィー、プロテインA/Gクロマトグラフィー、またはプロテインLクロマトグラフィーが挙げられる。親和性クロマトグラフィー材料の例としては、限定されないが、ProSep(登録商標)-vA、ProSep(登録商標)Ultra Plus、ProteinA Sepharose(登録商標)Fast Flow、Toyopearl(登録商標)AF-r ProteinA、MabSelect(商標)、MabSelect SuRe(商標)、MabSelect SuRe(商標)LX、KappaSelect、CaptureSelect(商標)、CaptureSelect(商標)FcXL、及びCaptureSelect(商標)CH1-XLが挙げられる。ある特定の実施形態では、親和性クロマトグラフィー材料は、カラムの形態で提供される。ある特定の実施形態では、親和性クロマトグラフィーは、「結合溶出モード」(あるいは「結合溶出プロセス」とも称される)で実施される。「結合溶出モード」は、試料中の産物(多重特異性抗体など)を親和性クロマトグラフィー材料に結合させた後、親和性クロマトグラフィー材料から溶出させる産物分離手法を指す。いくつかの実施形態では、溶出はステップ溶出であり、この場合、溶出プロセスの間に移動相の組成がステップワイズで変更され、この変更は1回または数回行われる。ある特定の実施形態では、溶出はグラジエント溶出であり、この場合、溶出プロセスの間に移動相の組成が連続的に変更される。
【0087】
CH1-XLクロマトグラフィー樹脂の一般特性は、この樹脂がIg重鎖CH1特異的ナノボディリガンドを含み、4つのサブクラスのIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)をすべて認識し、65μmのサイズを有するアガロース上にリガンドが固定化されており、IgGの結合容量が20mg/mL未満であり、5~200cm/時間の流速条件の下で使用可能であり、衛生化のための塩基(25~50mMのNaOH)に対して安定であり、市販されていることである。BsAbの精製目的では、CH1-XL樹脂は、CH1ドメインを含む二重特異性ヘテロ二量体には結合するが、重鎖ホモ二量体種(例えば、TAAホモ二量体)には結合しない。図10に示されるように、活性種のみがCH1ドメインを含む。さらに、CH1-XL樹脂は、あまりストリンジェントでない酸性溶出条件(pH4)の下で使用可能である。こうして溶出条件が緩和されることが、溶出プールにおける抗体凝集の低減に寄与する。
【0088】
「ロード」は、クロマトグラフィー材料上に組成物をロードすることを指す。ロード用緩衝液は、クロマトグラフィー材料(本明細書に記載のクロマトグラフィー材料のいずれか1つなど)上への組成物(例えば、多重特異性抗体及び不純物を含む組成物、または抗体アーム及び不純物を含む組成物)のロードに使用される緩衝液である。クロマトグラフィー材料は、精製すべき組成物のロード前に平衡化緩衝液で平衡化され得る。クロマトグラフィー材料上への組成物のロード後には、洗浄緩衝液が使用され得る。溶出緩衝液を使用することで、目的ポリペプチドが固相から溶出される。
【0089】
いくつかの実施形態では、多重特異性抗体組成物は、親和性クロマトグラフィー材料(例えば、プロテインAクロマトグラフィー材料、CaptureSelect(商標)CH1-XLクロマトグラフィー材料)上にロードされ、このロードの際の多重特異性抗体のロード密度は、約9mg/mL、約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、約18mg/mL、または約19mg/mLである。CH1-XL樹脂の動的結合容量(DBC)を調べた。この結果は、図15に示される。この結果は、4分としたときに動的結合容量がプラトーに達し、その際の動的結合容量値が9.3mg/mLであったことを実証している。その後、HCCFを使用してパイロットスケールでの実験を行ったところ、ロード密度を最大で19mg/mL(約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、または約18mg/mLなど)まで上げることができる可能性があることが実証された。したがって、対象方法の実施形態のいくつかでは、CH1-XLクロマトグラフィーステップは、約9~約19mg/mLの範囲のロード密度(約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、または約18mg/mLなど)で行われる。
【0090】
溶出
本明細書で使用される溶出は、クロマトグラフィー材料からの産物(例えば、多重特異性抗体)の脱離または解離を指す。溶出緩衝液は、クロマトグラフィー材料からの多重特異性抗体の溶出に使用される緩衝液である。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及び同様のものを含み得る。ある特定の実施形態では、プロテインAを含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約5mM~約50mMの範囲の濃度(約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、または約45mMなど)のクエン酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液中のクエン酸の濃度の範囲は、約20mM~約30mMである。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約25mMの濃度のクエン酸を含む。ある特定の実施形態では、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約5mM~約60mMの範囲の濃度(約10mM、約15mM、約20mM、約25mM、約30mM、約35mM、約40mM、約45mM、約50mM、または約55mMなど)の酢酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液中の酢酸の濃度の範囲は、約45mM~約55mMである。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約50mMの濃度の酢酸を含む。
【0091】
多重特異性抗体の凝集には溶出緩衝液のpHが影響することが明らかとなった。したがって、一実施形態では、プロテインAを含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約3.2~約4.2の範囲のpH(3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、または4.2など)を有する。ある特定の実施形態では、プロテインAを含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約3.4~約3.8の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約3.4~約4.4の範囲のpH(3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、または4.4など)を有する。いくつかの実施形態では、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、3.8~約4.2の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムからの多重特異性抗体の溶出に使用される溶出緩衝液は、約4.0のpHを有する。
【0092】
抗凝集組成物
プロテインA樹脂を用いてBsAbを精製する場合、プロテインA樹脂からの溶出を低pHで行うと高分子量凝集体が生じることが、最初の試験から明らかとなった。溶出緩衝液に添加剤を添加することによって、BsAb凝集体の量が低減されることが発見された。したがって、ある特定の好ましい実施形態では、抗凝集組成物を溶出緩衝液に添加してから、多重特異性抗体の溶出が行われる。いくつかの実施形態では、抗凝集組成物は、1つ以上のポリオールを含む。ポリオールの例としては、限定されないが、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びソルビトールが挙げられる。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、1つ以上のポリオールを含む抗凝集組成物を含む。ある特定の実施形態では、1つ以上のポリオールは、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約25%w/vの範囲の濃度(5%w/v、10%w/v、15%w/v、または20%w/vなど)を有する。他の実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するグリセロールを含む。一実施形態では、溶出緩衝液は、約10%w/vの濃度のグリセロールを含む。他の実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するスクロースを含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約10%w/vの濃度のスクロースを含む。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約10%w/vのグリセロール及び約10%w/vのスクロースを含む。本発明の実施形態による方法は、本明細書に記載の添加剤を任意の組み合わせで含む溶出緩衝液を本明細書に記載の任意のpHで使用するプロテインAクロマトグラフィーを含む。本発明の実施形態による別の方法は、本明細書に記載の添加剤を任意の組み合わせで含む溶出緩衝液を本明細書に記載の任意のpHで使用して、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を利用する親和性クロマトグラフィーを含む。ある特定の実施形態では、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を利用する親和性クロマトグラフィーは、CaptureSelect(商標)樹脂を利用するものである。いくつかの実施形態では、CaptureSelect(商標)樹脂は、CaptureSelect(商標)CH1-XLである。
【0093】
下流の精製プロセス
ある特定の実施形態では、親和性クロマトグラフィーから得られる溶出液は、1つ以上の追加の精製ステップに供される。例えば、ある特定の実施形態では、親和性クロマトグラフィーステップから得られる溶出液は、その後に例えば、陰イオン交換クロマトグラフィー手順及び/または陽イオン交換クロマトグラフィー手順に供される。
【0094】
陰イオン交換クロマトグラフィー材料は、自体の表面上または中を通過する水溶液(多重特異性抗体及び不純物を含む組成物など)中の陰イオンと交換させるための遊離陰イオンを有する正荷電固相である。本明細書に記載の方法のいずれかの実施形態のいくつかでは、陰イオン交換材料は、膜、モノリス、または樹脂であり得る。一実施形態では、陰イオン交換材料は、樹脂である。いくつかの実施形態では、陰イオン交換材料は、一級アミン、二級アミン、三級アミン、もしくは四級アンモニウムイオン官能基、ポリアミン官能基、またはジジエチルアミノエチル官能基を含み得る。陰イオン交換材料の例は当該技術分野で知られており、そうした陰イオン交換材料には、限定されないが、Poros(登録商標)HQ50、Poros(登録商標)PI50、Poros(登録商標)D、Mustang(登録商標)Q、Q Sepharose(登録商標)Fast Flow(QSFF)、Accell(商標)Plus Quaternary Methyl Amine(QMA)樹脂、Sartobind STIC(登録商標)、及びDEAE-Sepharose(登録商標)が含まれる。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーは、「結合溶出」モードで実施される。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーは、「フロースルー」モードで実施される。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー材料は、カラムの形態で提供される。いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィー材料は、膜を含む。
【0095】
陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、自体の表面上または中を通過する水溶液(多重特異性抗体及び不純物を含む組成物など)中の陽イオンと交換させるための遊離陰イオンを有する負荷電固相である。本明細書に記載の方法のいずれかの実施形態のいくつかでは、陽イオン交換材料は、膜、モノリス、または樹脂であり得る。いくつかの実施形態では、陽イオン交換材料は、樹脂である。陽イオン交換材料は、カルボン酸官能基またはスルホン酸官能基を含み得、こうした官能基は、限定されないが、スルホン酸、カルボン酸、カルボキシメチルスルホン酸、スルホイソブチル、スルホエチル、カルボキシル、スルホプロピル、スルホニル、スルホキシエチル、またはオルトリン酸などである。上記のものの実施形態のいくつかでは、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、陽イオン交換クロマトグラフィーカラムである。上記のものの実施形態のいくつかでは、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、陽イオン交換クロマトグラフィー膜である。陽イオン交換材料の例は、当該技術分野で知られており、そうした陽イオン交換材料には、限定されないが、Mustang(登録商標)S、Sartobind(登録商標)S、S03 Monolith(例えば、CIM(登録商標)、CIMmultus(登録商標)、及びCIMac(登録商標)S03など)、S Ceramic HyperD(登録商標)、Poros(登録商標)XS、Poros(登録商標)HS50、Poros(登録商標)HS20、sulphopropyl-Sepharose(登録商標)Fast Flow(SPSFF)、SP-Sepharose(登録商標)XL(SPXL)、CM Sepharose(登録商標)Fast Flow、Capto(商標)S、Fractogel(登録商標)EMD Se Hicap、Fractogel(登録商標)EMD S03、またはFractogel(登録商標)EMD COOが含まれる。いくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィーは、「結合溶出」モードで実施される。いくつかの実施形態では、陽イオン交換クロマトグラフィーは、「フロースルー」モードで実施される。上記のものの実施形態のいくつかでは、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、カラムに充填されたものである。上記のものの実施形態のいくつかでは、陽イオン交換クロマトグラフィー材料は、膜を含む。
【0096】
いくつかの実施形態では、陰イオン交換クロマトグラフィーまたは陽イオン交換クロマトグラフィーから得られる溶出液は、混合モードクロマトグラフィーに供される。
【0097】
混合モードクロマトグラフィーは、混合モード媒体を利用するクロマトグラフィーであり、こうした混合モード媒体は、限定されないが、GE Healthcareから入手可能なCapto Adhere(商標)などである。そのような媒体は、混合モードクロマトグラフィーリガンドを含む。ある特定の実施形態では、そのようなリガンドは、結合物質と相互作用する少なくとも2つの異なる部位(これらの部位は、異なるものの、協同的に働く)を提供する能力を有するリガンドを指す。こうした部位の1つは、リガンドと目的物質との間に誘引型の電荷間相互作用を生じさせる。その他の部位は、典型的には、電子受容体-電子供与体相互作用及び/または疎水性相互作用及び/または親水性相互作用を生じさせる。電子供与体-電子受容体相互作用には、水素結合、π-π、陽イオン-π、電荷移動、双極子-双極子、誘起双極子などの相互作用が含まれる。
【0098】
ある特定の実施形態では、混合モード(MM)クロマトグラフィー媒体は、有機担体または無機担体(基礎マトリックスと呼ばれることもある)と直接的にカップリングするか、またはスペーサーを介してカップリングした混合モードリガンドから構成される。担体は、粒子(本質的に球状の粒子など)、モノリス、フィルター、膜、表面、キャピラリーなどの形態であり得る。ある特定の実施形態では、担体は、天然ポリマーから調製されるものであり、こうした天然ポリマーは、架橋糖質物質(アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、キトサン、コンニャク、カラギーナン、ジェラン、アルギン酸など)などである。高い吸着容量を得るためには、担体は多孔性であり得、その結果、リガンドが外表面ならびに孔表面にカップリングする。そのような天然ポリマー担体は、標準的な方法(逆懸濁ゲル化法(S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2),393-398(1964)など)に従って調製され得る。あるいは、担体は、合成ポリマーから調製されるものであり得、こうした合成ポリマーは、架橋合成ポリマー(例えば、スチレンまたはスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルエステル、ビニルアミドなど)などである。そのような合成ポリマーは、標準的な方法に従って調製されるものであり得、こうした方法については、例えば、“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”(R Arshady:Chimica e L’Industria 70(9),70-75(1988))を参照のこと。多孔性の天然ポリマー担体または合成ポリマー担体は、商業的な供給元(GE Healthcare(Uppsala,Sweden)など)からも入手可能である。
【0099】
ある特定の実施形態では、混合モード樹脂は、負荷電部分及び疎水性部分を含む。一実施形態では、負荷電部分は、陽イオン交換のための陰イオン性カルボン酸基または陰イオン性スルホ基である。そのような担体の例としては、限定されないが、Capto Adhere(登録商標)(GE Healthcare)が挙げられる。Capto Adhere(登録商標)は、従来の陰イオン交換体と比較して異なる選択性を樹脂に与える多モード機能性を有する強力な陰イオン交換体である。Capto Adhere(登録商標)リガンド(N-ベンジル-N-メチルエタノールアミン)は、イオン性相互作用、水素結合、及び疎水性相互作用を含めて、複数モードのタンパク質相互作用化学を示す。樹脂が多モード機能性を有することで、抗体二量体及び抗体凝集体、漏出プロテインA、宿主細胞タンパク質(HCP)、抗体/HCP複合体、プロセス残留物、ならびにウイルスを除去する能力が樹脂に備わるようになる。多重特異性抗体は直接的にカラムを通過する一方で、混入物は吸着されるように設計された工程パラメーターを用いる生産スケールでの洗練ステップを行う状況では、樹脂は、フロースルーモードで使用され得る。
【0100】
ある特定の実施形態では、精製された多重特異性結合化合物は、ウイルスろ過ステップに供される。ウイルスろ過は、全精製プロセスの中でウイルス低減に特化したステップである。このステップは、通常、クロマトグラフィー洗練ステップの後に実施される。ウイルス低減は、適切なフィルターを使用することで達成でき、こうしたフィルターには、限定されないが、Asahi Kasei Pharmaから供給されるPlanova 20N(商標)、Planova 50N、もしくはBioEx、EMD Milliporeから供給されるViresolve(商標)フィルター、Sartoriusから供給されるViroSart CPV、Sartoriusフィルター、CUNOから供給されるZeta Plus VR(商標)フィルター、またはPall Corporationから供給されるUltipor DV20(商標)フィルターもしくはUltipor DV50(商標)フィルターが含まれる。所望のろ過性能を得る上で適したフィルターを選択することは、当業者には明らかであろう。
【0101】
本発明のある特定の実施形態では、限外ろ過(UF)ステップ及び/または透析ろ過(DF)ステップを用いて抗体試料がさらに精製及び濃縮される。これは、典型的には、本明細書に記載の精製ステップのうちの1つ以上の後に実施される。限外ろ過については、Microfiltration and Ultrafiltration:Principles and Applications,L.Zeman and A Zydney(Marcel Dekker,Inc.,New York,N.Y.,1996)、及びUltrafiltration Handbook,Munir Cheryan(Technomic Publishing,1986;ISBN番号87762-456-9)に詳述されている。好ましいろ過プロセスは、「Pharmaceutical Process Filtration Catalogue」と題するMilliporeカタログ(Bedford,Mass.,1995/96)の177~202ページに記載のタンジェンシャルフローフィルトレーションである。限外ろ過は、一般に、平均サイズが(例えば)50kDa以下のタンパク質が通過可能な孔径を有するフィルターを使用するろ過を意味すると考えられる。そのような小孔径を有するフィルターを用いることによって、試料緩衝液がフィルターを通過して浸透することで試料の体積は減少し得る一方で、抗体はフィルターを通過せずに保持される。
【0102】
透析ろ過は、限外ろ過膜を使用することで、塩、糖、及び非水性溶媒を除去及び交換し、結合種からの遊離分離を行い、低分子量物質を除去し、及び/またはイオン環境及び/またはpH環境の迅速変更を誘導する方法である。限外ろ過されている溶液に対して限外ろ過速度とほぼ等しい速度で溶媒を添加することによって最も効率的に微小溶質が除去される。これによって、体積を一定に保ちながら溶液から微小種が洗浄除去され、保持される抗体が効率的に精製される。本発明のある特定の実施形態では、本発明との関連で使用されるさまざまな緩衝液の交換(任意選択で、さらなるクロマトグラフィーまたは他の精製ステップの前に行われる)、ならびに多重特異性結合物質からの不純物の除去、のために透析ろ過ステップが用いられる。
【0103】
図16には、本発明の実施形態に従うBsAbの生産に使用され得る製造プロセスの流れ図が示される。この流れ図は、代表的な上流単位工程及び下流単位工程を示す。図17には、精製プロセスの各段階に見られるBsAb種の分析が示される。この結果は、CH1-XLクロマトグラフィーステップを行うことでTAAホモ二量体種が除去されたことを実証している。本発明の実施形態による製造プロセスの全収率は、約70%~約90%の範囲のもの(約75%、約80%、または約85%など)であった。したがって、いくつかの実施形態では、本発明の精製方法から得られる多重特異性抗体産物の全収率は、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約95%である。
【0104】
医薬組成物
本発明の別の態様は医薬組成物を提供し、この医薬組成物は、本発明の方法によって精製された1つ以上の多重特異性抗体が適切な医薬的に許容可能な担体と混合されたものを含む。本明細書で使用される医薬的に許容可能な担体の例としては、限定されないが、補助剤、固体担体、水、緩衝液、もしくは治療成分を保持するために当該技術分野で使用される他の担体、またはそれらの組み合わせが挙げられる。
【0105】
本発明に従って精製された多重特異性抗体の医薬組成物は、所望の純度を有するタンパク質を任意選択の医薬的に許容可能な担体、医薬品添加物、または安定化剤(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A Ed.(1980)を参照のこと)と混合することによって凍結乾燥製剤または水溶液などの形態で保存用として調製される。許容可能な担体、医薬品添加物、または安定化剤は、用いられる用量及び濃度でレシピエントに無毒なものであり、こうしたものには、緩衝液(リン酸、クエン酸、及び他の有機酸など)、抗酸化剤(アスコルビン酸及びメチオニンを含む)、保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド、塩化ヘキサメトニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、フェノール、ブチルアルコールもしくはベンジルアルコール、アルキルパラベン(メチルパラベンもしくはプロピルパラベンなど)、カテコール、レゾルシノール、シクロヘキサノール、3-ペンタノール、及びm-クレゾールなど)、低分子量(約10残基未満)ポリペプチド、タンパク質(血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリンなど)、親水性ポリマー(ポリビニルピロリドンなど)、アミノ酸(グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリジンなど)、単糖、二糖、及び他の糖質(グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む)、キレート剤(EDTAなど)、糖(スクロース、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトールなど)、塩形成対イオン(ナトリウムなど)、金属錯体(例えばZn-タンパク質錯体)、及び/または非イオン性界面活性剤(TWEEN(商標)、PLURONICS(商標)、もしくはポリエチレングリコール(PEG)など)が含まれる。
【0106】
非経口投与のための医薬組成物は、好ましくは、滅菌され、かつ実質的に等張性であり、医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準(GMP)条件の下で製造される。医薬組成物は、単位剤形(すなわち、単回投与のための用量)で提供され得る。製剤は、選択される投与形態に依存する。本明細書に記載の方法に従って精製された多重特異性抗体は、静脈内注射もしくは静脈内注射によって投与されるか、または皮下に投与され得る。注射投与については、本明細書に記載の方法に従って精製された多重特異性抗体は、注射部位で生じる不快感を低減するために、水溶液、好ましくは、生理学的に適合性の緩衝液において製剤化され得る。溶液は、上で論じた担体、医薬品添加物、または安定化剤を含み得る。あるいは、多重特異性抗体は、使用前に適切な媒体(例えば、滅菌された発熱物質非含有水)を用いて構成するための凍結乾燥形態であり得る。
【0107】
製造物品
本明細書に記載の方法によって精製された多重特異性抗体、及び/または本明細書に記載の方法によって精製されたポリペプチドを含む製剤は、製造物品中に含められ得る。本発明の方法に従って精製された1つ以上の多重特異性抗体を含む製造物品または「キット」は、本明細書に記載の疾患及び障害の治療に有用である。一実施形態では、キットは、本明細書に記載のように精製された多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗CD3抗体)を含む容器を含む。キットは、容器上または容器付属のラベルまたは添付文書をさらに含み得る。「添付文書」という用語は、治療医薬品の商用パッケージに慣習的に含められ、そのような治療医薬品の使用に関する適応症、用法、用量、投与、禁忌、及び/または警告についての情報を含む説明物を指すために使用される。適切な容器には、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、ブリスターパックなどが含まれる。容器は、さまざまな材料(ガラスまたはプラスチックなど)から形成され得る。容器は、本明細書に記載の多重特異性抗体の1つ以上または状態の治療に有効なその製剤(例えば、2つ以上の多重特異性抗体の合剤)を含み得、滅菌アクセスポートを有し得る(例えば、容器は、静脈内輸液バッグであるか、または皮下注射針によって貫通可能なストッパーを有するバイアルであり得る)。ラベルまたは添付文書は、選択される状態(がんまたは免疫障害など)の治療に組成物が使用されることを示す。あるいは、またはさらに、製造物品は、医薬的に許容可能な緩衝液(注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液など)を含む第2の容器をさらに含み得る。製造物品は、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、針、及びシリンジを含めて、商用及びユーザーの観点から望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0108】
キットは、1つ以上の多重特異性抗体、及び存在する場合は、その合剤の投与についての指示物をさらに含み得る。例えば、第1の多重特異性抗体を含む第1の医薬組成物と、第2の多重特異性抗体を含む第2の医薬組成物と、をキットが含む場合、第1の医薬組成物及び第2の医薬組成物を、それらを必要とする患者に対して、同時、連続的、または別々に投与することについての指示を、キットはさらに含み得る。キットが2つ以上の組成物を含む場合、それら別々の組成物を入れるための容器(分割ボトルまたは分割ホイルパケットなど)をキットは含み得るが、それら別々の組成物は、単一の非分割容器中に含められることもあり得る。キットは、別々の成分の投与またはその合剤の投与についての指示を含み得る。
【0109】
使用方法
ある特定の態様では、本発明は、親和性クロマトグラフィー手順を使用して混合物から多重特異性抗体を精製するための方法を提供し、この方法は、第1の親和性クロマトグラフィーカラムを混合物と接触させること、第1の親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、第1の親和性クロマトグラフィーカラムを、抗凝集組成物を含む溶出緩衝液と接触させること、及び第1の親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0110】
ある特定の実施形態では、抗凝集組成物は、1つ以上のポリオールを含む。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、マンニトール、グリセロール、スクロース、トレハロース、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。ある特定の実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約25%w/vの範囲の濃度を有する。いくつかの実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するグリセロールを含む。ある特定の実施形態では、グリセロールは、約10%w/vの濃度を有する。他の実施形態では、1つ以上のポリオールは、約5%~約15%w/vの範囲の濃度を有するスクロースを含む。いくつかの実施形態では、スクロースは、約10%w/vの濃度を有する。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約10%w/vのグリセロール及び約10%w/vのスクロースを含む。
【0111】
ある特定の実施形態では、親和性クロマトグラフィーカラムは、プロテインAクロマトグラフィー樹脂を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約20mM~約30mMの範囲の濃度のクエン酸を含む。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約25mMの濃度のクエン酸を含む。こうした実施形態のうちのある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約3.2~約4.2の範囲のpHを有する。他の実施形態では、溶出緩衝液は、約3.4~約3.8の範囲のpHを有する。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約3.6のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約25mMのクエン酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、溶出緩衝液は、約3.6のpHを有する。
【0112】
他の実施形態では、親和性クロマトグラフィーでは、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂が利用される。こうした実施形態のうちのある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、クエン酸、アセテート、酢酸、4-モルホリンエタンスルホン酸(MES)、クエン酸-リン酸、コハク酸、及びそれらの組み合わせ、からなる群から選択される緩衝液を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約45mM~約55mMの範囲の濃度の酢酸を含む。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約50mMの濃度の酢酸を含む。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約3.4~約4.4の範囲のpHを有する。さらに他の実施形態では、溶出緩衝液は、約3.8~約4.2の範囲のpHを有する。いくつかの実施形態では、溶出緩衝液は、約4.0のpHを有する。ある特定の実施形態では、溶出緩衝液は、約50mMの酢酸、約10%のグリセロール、及び約10%のスクロースを含み、溶出緩衝液は、約4.0のpHを有する。
【0113】
他の態様では、本発明は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性抗体の凝集を低減する方法を提供し、この方法は、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムを、多重特異性抗体を含む混合物と接触させること、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、プロテインA親和性クロマトグラフィーカラムを、25mMのクエン酸、10%w/vのグリセロール、及び10%w/vのスクロースを含むpH3.6の溶出緩衝液と接触させること、及びプロテインA親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0114】
さらに他の態様では、本発明は、親和性クロマトグラフィー手順から得られる溶出プールにおける多重特異性抗体の凝集を低減する方法を提供し、この方法は、IgG抗体のCH1ドメインに結合するドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムを、多重特異性抗体を含む混合物と接触させること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラム上で多重特異性抗体を固定化すること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムを、50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含むpH4.0の溶出緩衝液と接触させること、ドメイン特異的クロマトグラフィー樹脂を含む親和性クロマトグラフィーカラムから多重特異性抗体を溶出させて混合物から多重特異性抗体を精製すること、を含む。
【0115】
すべての態様において、多重特異性抗体は、第1の結合単位及び第2の結合単位を含み得る。いくつかの実施形態では、これらの結合単位のうちの一方は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む。いくつかの実施形態では、第1の結合単位及び第2の結合単位は両方共、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含む。他の実施形態では、これらの結合単位の一方は、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。他の実施形態では、第1の結合単位及び第2の結合単位は両方共、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。さらに他の実施形態では、第1の結合単位は、重鎖のみの抗体の重鎖可変領域を含み、第2の結合単位は、抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域を含む。
【0116】
いくつかの実施形態では、第1の結合単位は、腫瘍関連抗原に結合親和性を有する。ある特定の実施形態では、第2の結合単位は、エフェクター細胞に結合親和性を有する。いくつかの実施形態では、エフェクター細胞は、T細胞である。いくつかの実施形態では、第2の結合単位は、T細胞上のCD3タンパク質に結合親和性を有する。
【0117】
本発明の態様のすべてにおいて、多重特異性抗体は、二重特異性抗体であり得る。
【0118】
本明細書に開示のように精製された多重特異性抗体、または当該多重特異性抗体及び医薬的に許容可能な担体を含む組成物は、次に、そのような多重特異性抗体及び組成物について知られるさまざまな診断用途、治療用途、または他の用途に使用される。例えば、多重特異性抗体は、治療的に有効な量の多重特異性抗体を哺乳類に投与することによって哺乳類における障害を治療するために使用され得る。
【0119】
本発明は、この時点で完全に説明されており、本発明の趣旨または範囲を逸脱することなく、さまざまな変更または改変を実施可能であることが当業者には明らかであろう。
【実施例0120】
実施例1:抗CD3-BCMA二重特異性抗体の精製
BsAb CD3-BCMAは、図2に示されており、下記のように精製した。BsAb CD3-BCMAは二重特異性抗体であり、構造的には三量体である。この三量体では、一方のアーム(例えば、CD3結合アーム)は、完全ヒト重鎖及び完全ヒトκ軽鎖の両方を含み、もう一方のアーム(例えば、BCMAアーム)(UniRat(商標)技術から得られたもの)は、ヒト重鎖(CHドメイン(例えば、ヒンジ-CH2-CH3を含み、CH1ドメインを含まないもの)に直接的に融合した1つ以上のVHドメインを有するもの)からなる。BsAb CD3-BCMAを構成する可変ドメイン配列は、以下の表1に示される。具体的には、BsAb CD3-BCMAは、2つの重鎖(HC-1及びHC-2)ならびに1つのカッパ軽鎖(κLC)を有する完全ヒトIgG4二重特異性モノクローナル抗体であり、酸に対して不安定である。重鎖の正しい対形成は、ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)技術を介して達成される。CD3アームは、HC-1及びκLCを含み、T細胞受容体CD3と結合する。TAAアーム、すなわちBCMAアームは、HC-2のみを含み、BCMAを認識する2つの同一のVHドメインからなる。TAAアームは、結合親和性を向上させるために二価であり(1nM未満)、UniRat(商標)技術から得られたものである。このBsAbは特有の構造を有するため、ヘテロ二量体産物のみが、ヒト重鎖のCH1ドメイン(CD3結合アームの一部)を含む。
【0121】
【0122】
図3に示されるさまざまな種のサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析は、BsAbヘテロ二量体がHC/LCホモ二量体種(例えば、CD3ホモ二量体種)と同様のサイズを有することを実証している。SECパラメーターは下記の通りである:流速0.25ml/分でのTSKgel 10×300mmによるMSSプールのUHPLC SEC分析;移動相:0.1Mのクエン酸、0.2Mのアルギニン、0.5MのNaCl(pH6.2)。こうした結果は図4に示される。さらに、こうした種の等電点(pI)の分析から、ヘテロ二量体及びホモ二量体が異なるpIを有することが明らかになっている。こうした結果は図5に示される。レーン1は、等電点電気泳動(IEF)のpI標準である。レーン2は、CD3ホモ二量体(ノブ-ノブ)(pI=8)である。レーン3は、CD3/BCMA二重特異性IgG(pI=7.4~7.6)である。レーン4は、BCMAホモ二量体(ホール-ホール)(pI=6.2)である。ロード量は、5μg/レーンとした。IEFパラメーターは下記の通りである:pH3~10 IEFゲル(Invitrogen);Instant Blue Stain(Expedeon);Serva IEFマーカー3~10ミックス;IEF Gel Program 200V、18mA、2.0Wで1時間;200V、18mA、3.5Wで1時間;500V、18mA、9.0Wで30分。
【0123】
プロテインA樹脂でのBsAbの精製は、図6に示されるように効率的なものであることが最初の試験から明らかとなり、この精製結果は、溶出ピークが総積分面積の90%を占めることが示す。プロテインAクロマトグラフィーのパラメーターは下記の通りである:カラム:1mlのMabSelect(商標)SuRe(商標)LX HiTrap(登録商標),GE Healthcare Life Sciences;ロード:50mL Teneo-BsAb HCCF;平衡化/洗浄緩衝液:50mMのトリス(pH7.0);溶出緩衝液:25mMのクエン酸(pH3.6);中和緩衝液:1Mのトリス(pH9.0)。
【0124】
最初の試験からは、プロテインA樹脂でBsAbを精製すると、望ましくない高分子量(HMW)凝集体が得られることも明らかとなった(図7)。pH3.6での溶出後に凝集産物がかなりの量で存在することがSEC分析によって示された。SECパラメーターは下記の通りである。カラム:Superdex200i 10/30 GL;緩衝液:0.1Mのクエン酸、0.2Mのアルギニン、0.5MのNaCl(pH6.2);流速:0.5ml/分;試料:TeneoBsAb Prot A溶出液プール;注入:100μl、1.4mg/mL;画分体積:1mL。
【0125】
HMW画分はBsAb産物を含むことがSDS-PAGE分析によって確認された(図8)。レーンA2~A5:凝集体;レーンA6:単量体。SDS-PAGEパラメーターは下記の通りである:4~12%のNuPAGEゲル;MES電気泳動用緩衝液;ロード:5μg/レーン;Page Ruler染色済み;マーカー(ThermoFisher Scientific);クマシーによるゲル染色。
【0126】
したがって、添加剤を検討することで、BsAb凝集体の量が減少することによってプロテインA精製が改善され得るかどうかを決定した。この目的のために、さまざまなポリオールを、異なる量でプロテインA溶出緩衝液に添加した。ポリオールの型、ポリオールのパーセント、及び溶出緩衝液のpHという3つの因子を、実験計画(DOE)マトリックスにおいて試験した。ポリオールの型としては、マンニトール、グリセロール、スクロース、及びトレハロースを検討した。パーセントについては、0%~30%の範囲のもの(5%、10%、15%、20%、または25%など)を試験した。溶出緩衝液のpHは、3.4、3.5、または3.6とした。試験したさまざまな組み合わせの結果は図9に示される。本発明の実施形態による方法は、上記の添加剤を任意の組み合わせで含む溶出緩衝液を、上記のいずれのpHで使用するプロテインAクロマトグラフィーも含む。
【0127】
こうした試験の結果から、プロテインA溶出緩衝液に添加剤を加えるとBsAb産物の凝集が低減され得ることが実証された。10%のグリセロール及び10%のスクロースを溶出緩衝液に含めると観観凝集レベルが最低となった。この溶出緩衝液組成が、試験した組成の中で最適なものであった。したがって、好ましい一実施形態では、BsAbを精製するための方法は、プロテインAクロマトグラフィーステップを含み、プロテインA溶出緩衝液は、10%のグリセロール及び10%のスクロースを含む。
【0128】
上記の添加剤をプロテインA溶出緩衝液に添加することで観察凝集レベルは低下したものの、望ましくないホモ二量体種(例えば、TAAホモ二量体種)が一緒に精製されてしまうことが依然として観察された。さらに、酸に対してBsAbが不安定であることから、低pHでのウイルス不活化単位工程を使用することが不可能である。
【0129】
したがって、プロテインAに代わるものとして使用し得るクロマトグラフィー樹脂を探索する上で以下の2つの基準を指針とした:(a)穏やかな(低酸性)条件の下で産物を溶出させる能力を有すること、及び(b)プロセス不純物としての重鎖ホモ二量体と比較して、ヘテロ二量体産物に対する選択性を有すること。CaptureSelect(商標)CH1-XLは、ThermoFisherから市販されており、ヒトIgGの重鎖上のCH1ドメインに特異的に結合する親和性樹脂であり、この親和性樹脂は、13kDaのラマ重鎖抗体断片によって得られた頑強かつ高品質な親和性マトリックスの利点を有するものである。
【0130】
CH1-XL樹脂の一般特性は、この樹脂がIg重鎖CH1特異的ナノボディリガンドを含み、4つのサブクラスのIgG(すなわち、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4)をすべて認識し、65μmのサイズを有するアガロース上にリガンドが固定化されており、IgGの結合容量が20mg/mL未満であり、5~200cm/時間の流速条件の下で使用可能であり、衛生化のための塩基(25~50mMのNaOH)に対して安定であり、市販されていることである。BsAbの精製目的では、CH1-XL樹脂は、CH1ドメインを含む二重特異性ヘテロ二量体には結合するが、重鎖ホモ二量体種(例えば、TAAホモ二量体)には結合しない。図10に示されるように、活性種のみがCH1ドメインを含む。さらに、CH1-XL樹脂は、あまり厳しくない酸性溶出条件(pH4)の下で使用可能である。
【0131】
CH1-XL樹脂を検討したところ、重鎖ホモ二量体はCH1-XL素通り画分に存在することが実証され、このことは、予想通り、このホモ二量体がこの樹脂に結合しないことを示している(図11)。図11に示される通り、レーン1は、分子量標準(5μl)である。レーン2は、二重特異性IgGプロテインAプール(2μg)である。レーン3は、二重特異性IgG CH1素通り画分(2μg)である。レーン4は、CH1塩洗浄画分(2μg)である。レーン5は、CH1 NaOHストリッピング画分(2μg)である。レーン6は、CH1プール(2μg)である。SDS-PAGEパラメーターは下記の通りである:タンパク質ロード:2μg/レーン;NuPAGE4~12%ビス-トリスゲル;MES電気泳動用緩衝液;InstantBlue染料(Expedeon);PageRuler染色済みタンパク質ラダー;電気泳動条件:35分、200V、120mA、25ワット。
【0132】
図12には、捕捉媒体からの溶出が生じるpHの比較が示される。図12では、最初の捕捉ステップとして(プロテインAの代わりに)CH1-XL樹脂を使用すると、プロテインAでの捕捉では溶出pHが3.3であることと比較して、溶出pHをpH4.6に高めることが可能であることが実証されている。こうして溶出条件が緩和されることが、溶出プールにおける抗体凝集の低減に寄与する。図12のパネルAに示されるパラメーターは下記の通りである:カラム:1mlのMabSelect(商標)SuRe(商標)、GE Healthcare Life Sciences;ロード:10mLのHCCF;平衡化/洗浄緩衝液:50mMのトリス(pH7.0)、50mMの酢酸(pH3.0);ストリッピング緩衝液:0.1MのNaOH;溶出:直線勾配10CV-100%B。図12のパネルBに示されるパラメーターは下記の通りである:カラム:1mLのCaptureSelect CH1-XL(商標);ロード:10mLのHCCF;平衡化/洗浄緩衝液:50mMのトリス(pH7.0)、50mMのアセテート(pH3.0);ストリッピング緩衝液:0.1MのNaOH;溶出:直線勾配10CV-100%B。
【0133】
CH1-XL樹脂からのBsAbの溶出は、50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含むpH4.0の溶出緩衝液を使用したときに最適となった。こうした条件の下でBsAbは効率的に溶出され、2CVプール体積中に存在するものの積分ピーク面積の93%を占めた。図13。CaptureSelect(商標)パラメーターは下記の通りである:カラム:9mLのCaptureSelect;ロード:50mLのBsAb含有培養液;平衡化/洗浄緩衝液#1:50mMのトリス(pH7.0);平衡化/洗浄緩衝液#2:50mMのトリス、0.5MのNaCl(pH7.0);溶出緩衝液:50mMの酢酸、10%のグリセロール、10%のスクロース(pH4.0);中和緩衝液:1Mのトリス(pH9.0)。
【0134】
CH1-XLプールをさらに分析したところ、BsAb凝集体の含量が最小であることが明らかとなった(HMWの含量は2.2%であり、HCCF中からのBsAb産物の結合が効率的に生じていた)。図14図14に示されるパラメーターは下記の通りである:TSKgel 10×300mm;流速:0.75ml/分;移動相:01Mのクエン酸;0.2Mのアルギニン、0.5MのNaCl(pH6.2)。したがって、好ましい一実施形態では、BsAbを精製するための方法は、CH1-XLクロマトグラフィーステップを含み、CH1-XL溶出緩衝液は、50mMの酢酸、10%のグリセロール、及び10%のスクロースを含み、4.0のpHを有する。
【0135】
CH1-XL樹脂の動的結合容量を検討した。この結果は図15に示される。図15に示されるパラメーターは下記の通りである:1mLのCH1-XLカラム(0.7×2.5cm);ロード:精製BsAb(5mg/ml);滞留時間:1分、2分、4分、8分;溶出前の10%破過;タンパク質濃度:プールの280nmによるもの。この結果は、4分としたときに動的結合容量がプラトーに達し、その際の動的結合容量値が9.3mg/mLであったことを実証している。その後、HCCFを使用してパイロットスケールでの実験を行ったところ、ロード密度を最大で19mg/mL(約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、または約18mg/mLなど)まで上げることができる可能性があることが実証された。したがって、対象方法の実施形態のいくつかでは、CH1-XLクロマトグラフィーステップは、約9~約19mg/mLの範囲のロード密度(約10mg/mL、約11mg/mL、約12mg/mL、約13mg/mL、約14mg/mL、約15mg/mL、約16mg/mL、約17mg/mL、または約18mg/mLなど)で行われる。
【0136】
図16には、本発明の実施形態に従うBsAbの生産に使用され得る製造プロセスの流れ図が示される。この流れ図は、代表的な上流単位工程及び下流単位工程を示す。図17には、精製プロセスの各段階に見られるBsAb種の分析が示される。レーン1:分子量標準;レーン2:HCCF5μl;レーン3:CH1素通り画分5μl;レーン4:CH1-XL1プール2μg;レーン5:精製ステップ2-プール2μg;レーン6:精製ステップ3-プール2μg;レーン7:分子量標準;レーン8:CH1プール2μg(還元);レーン9:精製ステップ2(還元)-プール2μg;レーン10:精製ステップ3(還元)-プール2μg。パラメーターは下記の通りである:NuPage4~12%ビス-トリスゲル;MES電気泳動用緩衝液;InstantBlue染料(Expedeon);Page Ruler染色済みタンパク質ラダー;タンパク質ロード:2μg/レーン;電気泳動条件:35分、200V、120mA、25ワット。この結果は、CH1-XLクロマトグラフィーステップを行うことでTAAホモ二量体種が除去されたことを実証している。本発明の実施形態による製造プロセスの全収率は、約70%~約90%の範囲のもの(約75%、約80%、または約85%など)であった。
【0137】
実施例2:重鎖のみの結合単位を含む二重特異性抗体の精製
重鎖のみの抗体の重鎖可変領域をそれぞれが含む第1の結合単位及び第2の結合単位を含む二重特異性抗体が、本明細書に記載の方法に従って、当該抗体を含む混合物から精製される。当該二重特異性抗体を含む混合物は、第1の親和性クロマトグラフィー材料と接触され、それによって当該抗体が固定化される。当該抗体は、本明細書に記載のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて溶出され、それによって溶出プールにおける当該二重特異性抗体の凝集が低減される。
【0138】
実施例3:重鎖/軽鎖結合単位を含む二重特異性抗体の精製
抗体の重鎖可変領域及び抗体の軽鎖可変領域をそれぞれが含む第1の結合単位及び第2の結合単位を含む二重特異性抗体が、第1の親和性クロマトグラフィーカラムと接触され、それによって当該抗体が固定化される。当該抗体は、本明細書に記載のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて溶出され、それによって溶出プールにおける当該二重特異性抗体の凝集が低減される。
【0139】
本発明の好ましい実施形態が本明細書に明示及び説明されているが、そのような実施形態は例として提供されるものにすぎないことが当業者には明らかであろう。この時点で、当業者なら本発明から逸脱することなく多数の変形、変更、及び置き換えを想到するであろう。本発明を実施する上では、本明細書に記載の本発明の実施形態に対するさまざまな代替形態を利用できることを理解されたい。添付の特許請求の範囲は、本発明の範囲を定義するものであり、それによって、この特許請求の範囲に含まれる方法及び構造、ならびにそれらの均等物が包含されることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
図16
図17
【配列表】
2024099610000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
親和性クロマトグラフィーによって混合物から多重特異性IgG抗体を精製するための方法であって、前記方法が、
前記混合物から前記多重特異性IgG抗体を、前記IgG抗体の重鎖定常ドメインに結合特異性を有する第1の親和性クロマトグラフィーカラム上に固定化すること、及び
1つ以上のポリオールを含む抗凝集組成物を含む溶出緩衝液を用いて前記第1の親和性クロマトグラフィーカラムから前記多重特異性抗体を溶出させて前記混合物から前記多重特異性抗体を精製すること、
を含む、前記方法。
【外国語明細書】