(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099726
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】アンモニア低下成分による老化細胞除去
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7032 20060101AFI20240718BHJP
A61K 31/198 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/185 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/7016 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20240718BHJP
A61K 31/205 20060101ALI20240718BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240718BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K31/7032
A61K31/198 ZNA
A61K31/185
A61K31/192
A61K31/7016
A61K31/4188
A61K31/205
A61P3/00
A61P43/00 105
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024071260
(22)【出願日】2024-04-25
(62)【分割の表示】P 2023551705の分割
【原出願日】2023-03-24
(31)【優先権主張番号】P 2022049514
(32)【優先日】2022-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】522120392
【氏名又は名称】株式会社たづ
(74)【代理人】
【識別番号】100110456
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 務
(74)【代理人】
【識別番号】100117813
【弁理士】
【氏名又は名称】深澤 憲広
(72)【発明者】
【氏名】神本(高橋) 祥子
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲司
【テーマコード(参考)】
4C086
4C206
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086CB22
4C086EA01
4C086EA05
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZB21
4C086ZC21
4C086ZC52
4C206AA01
4C206AA02
4C206DA16
4C206DA17
4C206FA44
4C206FA59
4C206GA02
4C206GA37
4C206HA28
4C206HA32
4C206JA08
4C206KA01
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZB21
4C206ZC21
4C206ZC52
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明において、生体内にある老化細胞を、より簡便に、副作用を少なく、除去できる手法を開発することを課題とする。
【解決手段】本発明者らは、代謝により過剰に生成されたアンモニアが老化細胞の生存を維持するメカニズムに注目し、アンモニア排出を促進することで老化細胞を除去できることを実証した。より具体的には、マウスを用いた動物実験で、アンモニアを排出する成分を老齢マウスに投与すると、老化細胞のマーカーであるp21の発現量が有意に低下することを明らかにした。アンモニアを除去する成分の摂取によって老化細胞除去効果が発揮されることを初めて明らかにした。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、カルグルミン酸、ラクツロース、ラクチトール、リファキシミンからなる群から選択される1または複数の物質である生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去剤。
【請求項2】
生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項1に記載の老化細胞除去剤。
【請求項3】
オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、カルグルミン酸、ラクツロース、ラクチトール、リファキシミンからなる群から選択される1または複数の物質である生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化予防のための老化細胞除去剤。
【請求項4】
生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項3に記載の老化予防のための老化細胞除去剤。
【請求項5】
オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、カルグルミン酸、ラクツロース、ラクチトール、リファキシミンからなる群から選択される1または複数の物質である生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去用組成物。
【請求項6】
医薬用である、請求項5に記載の老化細胞除去用組成物。
【請求項7】
生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項5または6に記載の老化細胞除去用組成物。
【請求項8】
オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、カルグルミン酸、ラクツロース、ラクチトール、リファキシミンからなる群から選択される1または複数の物質である生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化予防のための老化細胞除去用組成物。
【請求項9】
医薬用である、請求項8に記載の老化予防のための老化細胞除去用組成物。
【請求項10】
生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、またはこれらのいずれかの組み合わせである、請求項8または9に記載の老化予防のための老化細胞除去用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内から老化細胞を除去し、老化を予防するための新たな手段を提供することに関する。より具体的には、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質により、生体内から老化細胞を除去し、老化を予防するための新たな手段を提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの体内では、加齢に伴って増殖できなくなった細胞である「老化細胞」が体内に蓄積し、動脈硬化や脂肪肝などの病気や老化現象を引き起こす原因となることが知られている。また、最近の研究では、老化細胞を除去できるマウスを作成したところ、加齢に伴う病態の発症が遅れることが明らかとなった(非特許文献1、非特許文献2)。
【0003】
老化細胞を除去(セノリシス)することで、身体の機能障害を予防または遅延させ、健康寿命を延ばすことが可能であると報告されている(非特許文献1)。
【0004】
しかし、これまで報告されている老化細胞除去の候補薬は、抗がん剤として使用されているものが多く、老化細胞を除去するために使用するには、副作用が強すぎることについての懸念があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Johmura Y., SCIENCE, Vol 371, Issue 6526, pp. 265-270, 2021
【非特許文献2】Suda M., et al., Nature Aging, vol 1, pages 1117-1126, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明において、より簡便に、副作用を少なく、生体内にある老化細胞を除去しまたは老化を予防できる手法を開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、代謝により過剰に生成されたアンモニアが老化細胞の生存を維持するメカニズムに注目し、生体内のアンモニアの排出を促進することで老化細胞を除去しまたは老化を予防できるのではないかと考え、アンモニア排出促進効果が知られている薬剤と食品成分について、老化細胞を除去しまたは老化を予防する効果があるかどうかを、老齢マウスを用いて検証することとした。
【0008】
本発明者らは、代謝により過剰に生成されたアンモニアが老化細胞の生存を維持するメカニズムに注目し、アンモニア排出を促進することで老化細胞を除去または老化を予防できることを実証した。より具体的には、マウスを用いた動物実験で、アンモニアを排出する成分を老齢マウスに投与すると、老化細胞のマーカーであるp21の発現量が有意に低下することを明らかにした。アンモニアを除去する成分の摂取によって老化細胞除去効果が発揮されることを初めて明らかにした。
【0009】
より具体的には、本件出願は、前述した課題を解決するため、以下の態様を提供する:
[1]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去剤;
[2]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、ラクチトール、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、リファキシミン、カルグルミン酸からなる群から選択される1または複数の物質である、[1]に記載の老化細胞除去剤;
[3]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、ラクツロース、オルニチン、安息香酸ナトリウム、またはこれらのいずれかの組み合わせである、[1]に記載の老化細胞除去剤;
[4]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化予防剤。
[5]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、ラクチトール、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、リファキシミン、カルグルミン酸からなる群から選択される1または複数の物質である、[4]に記載の老化予防剤。
[6]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、ラクツロース、オルニチン、安息香酸ナトリウム、またはこれらのいずれかの組み合わせである、[4]に記載の老化予防剤。
[7]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去作用または老化予防作用を有する組成物;
[8]:医薬用である、[7]に記載の組成物;
[9]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、ラクチトール、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、リファキシミン、カルグルミン酸からなる群から選択される1または複数の物質である、[7]または[8]に記載の組成物;
[10]:生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質が、ラクツロース、オルニチン、安息香酸ナトリウム、またはこれらのいずれかの組み合わせである、[7]または[8]に記載の組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去剤あるいは老化予防剤、老化細胞除去作用または老化予防作用を有する組成物を提供することができる。この老化細胞除去剤あるいは老化予防剤、老化細胞除去作用または老化予防作用を有する組成物により、経口的に摂取するだけのより簡便な方法で、抗がん剤のような副作用がない、生体内にある老化細胞を除去し、老化を予防できる手法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、腎臓において、老化細胞のマーカーであるp21のmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図2】
図2は、肝臓において、老化細胞のマーカーであるp21およびp16のmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図3】
図3は、海馬において、老化細胞のマーカーであるp16のmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、骨格筋において、老化細胞のマーカーであるp16のmRNA発現量を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の発明者らは、代謝により過剰に生成されたアンモニアが老化細胞の生存を維持するメカニズムに注目し、アンモニア排出を促進することで老化細胞を除去できることを実証した。
【0013】
この結果、本発明は第一の態様として、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去剤を提供することができる。
【0014】
一般に、老化細胞とは、テロメアの異常、酸化的ストレス、DNA損傷、がん遺伝子の活性化、ミトコンドリアの機能異常、ウイルス感染、炎症などの様々なストレスにより、染色体DNAに損傷が入ることで不可逆的に細胞分裂を停止した状態になった細胞のことをいう。老化細胞では、p16遺伝子やp21遺伝子が高発現されることが知られており、これらの遺伝子が老化細胞の代表的なマーカーとされている。また、機能的には、これらの老化細胞が体内に蓄積されることにより、サイトカイン・ケモカインなどの様々な炎症性タンパク質を高発現し細胞外へと分泌することによって、様々な組織の機能低下や慢性炎症、発がん等が生じることが知られている。
【0015】
このような特徴に基づいて、老化細胞除去薬により老化細胞を除去することにより、老化や、老年病を改善することができることが提唱されている(非特許文献1)。
【0016】
老化細胞の共通する特徴として、不良タンパク質の蓄積にともない、細胞内リソソーム膜に損傷が生じ、リソソームの内腔のpH5前後の内容物が細胞内に漏出することにより、細胞内pHが低下すること、このような細胞内ではグルタミン代謝酵素であるグルタミナーゼ1(GLS1)の産生が活性化され、グルタミンからグルタミン酸、およびアンモニアの過剰な産生が生じること、この過剰に産生されるアンモニアにより細胞内pHの恒常性を調節して生存を維持すること、が考えられている。
【0017】
そのため、細胞内からアンモニアを除去して、老化細胞の細胞内pHを酸性化させて老化細胞が生存できないようにすることにより、老化細胞の除去を促進できると考えた。
【0018】
細胞内には、アンモニア排出のための経路がいくつか存在している。具体的には、
・オルニチンまたはシトルリンとアンモニアとの反応から最終的に尿素を生成してアンモニアを無毒化し排出する尿素回路(オルニチン回路)
・グルタミン酸(Glu)またはアスパラギン酸(Asp)とアンモニアとの反応からグルタミン(Gln)またはアスパラギン(Asn)を生成する酸アミド生成
・α-ケトグルタル酸とアンモニアの反応からグルタミン酸(Glu)を生成するケト酸との反応
・クレアチンの生成
・尿素サイクルを賦活化させることにより血中アンモニア濃度を低下させる経路
・腸内細菌に作用してアンモニア産生を低下させることで血中のアンモニアを低下させる経路
・アンモニアと結合して馬尿酸として体外へ排出する経路
などのアンモニア排出経路が知られている。
【0019】
本発明において有効成分として使用することができる、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質としては、上記のアンモニア排出経路の1つまたは複数に作用して、アンモニアの排出を促進できる物質のことをいう。例えば、オルニチン回路の構成成分であるオルニチンまたはシトルリン、酸アミド生成におけるグルタミン酸またはアスパラギン酸、ケト酸との反応におけるα-ケトグルタル酸など、アンモニアと反応する物質はこの目的に使用することができるが、これらのものに限定されない。
【0020】
より具体的には、例えば、オルニチン、シトルリン、タウリン、カルニチン、アルギニン、分岐鎖アミノ酸(BCAA)、アセチルグルタミン酸、安息香酸ナトリウム、ラクツロース、ラクチトール、フェニル酪酸ナトリウム、フェニル酢酸ナトリウム、リファキシミン、カルグルミン酸などを使用することができるが、これらのものに限定されない。例えば、現在臨床研究を行っている高アンモニア血症を治療するために使用される物質であれば、将来的に使用することもできる。
【0021】
本発明において、好ましい態様として、上記の生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質として、ラクツロース、オルニチン、安息香酸ナトリウム、またはこれらのいずれかの組み合わせを使用することができる。
【0022】
本発明の老化細胞除去剤において、上記の有効成分以外に、食品あるいは医薬に一般的に使用される各種添加剤を含んでいてもよい。
【0023】
本発明において、老化細胞除去という場合、老化細胞に細胞死を生じさせて生体内から除去すること、老化細胞の細胞性状を変化させて老化細胞の特徴を低減させること、を含むことができる。老化細胞が除去されたかどうかの確認は、生体から採取した試料中で、老化細胞の特徴であるp16遺伝子やp21遺伝子の発現の低下、老化関連酸性β-ガラクトシダーゼ(SAβ-Gal)の活性低下、細胞染色(SAβ-Gal染色、HE染色、PAS染色、シリウスレッド染色、マッソントリクローム染色)を確認することにより行うことができる。
【0024】
本発明における有効成分の摂取量は、有効成分として使用できるそれぞれの物質ごとに異なり、それぞれの物質ごとに一般的に使用される摂取量で含ませることができる。それぞれの有効成分の摂取量を摂取する際の摂取スケジュールはどのようなものであってもよく、例えば、一日あたり1回で摂取してもよく、一日あたり3回で摂取してもよく、あるいは頻度を下げて一週間あたり1回、一か月あたり1回などのスケジュールで摂取してもよい。
【0025】
本発明は、第一の態様の派生として、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化予防剤を提供することができる。本発明において、上述した通り、有効成分である生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質により老化細胞を除去することにより、老化を予防することができる。
【0026】
本発明は第二の態様として、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去作用または老化予防作用を有する組成物を提供することができる。
【0027】
前述した通り、本発明において有効成分として使用することができる生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質には、生体内に存在する物質、食品中に含まれる物質、医薬品として承認を受ける必要がある物質などが存在している。そのため、この態様における組成物という場合、食品組成物(一般的な食品についての組成物、および生体調節機能を有する食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、または機能性表示食品)についての組成物)であっても、医薬用組成物であってもよい。
【0028】
本発明の組成物において、上記の有効成分(生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質)以外に、他の成分や、食品あるいは医薬に一般的に使用される各種添加剤を含んでいてもよく、これらの他の成分や各種添加剤はどのようなものであっても許容される。
【0029】
医薬用組成物として生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去作用または老化予防作用を有する組成物を使用する場合、経口投与により投与することが一般的であるが、除去したい老化細胞が存在する部位に応じて投与方法を変更することができ、経口投与以外の投与経路を使用して投与することもできる。
【0030】
例えば、血液を介してアクセス可能な組織における老化細胞を除去しまたは老化を予防することを目的とする場合には、本発明の有効成分を、経口投与、静脈注射、皮下注射、組織内直接投与、腹腔内投与、などの投与経路を使用して投与することができる。
【0031】
例えば、血液を介して直接的にはアクセスが困難な脳における老化細胞を除去しまたは老化を予防することを目的とする場合には、硬膜外投与、脳室内投与、経鼻投与、などの投与経路を使用して投与することができる。
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示す。下記に示す実施例はいかなる方法によっても本発明を限定するものではない。
【実施例0033】
実施例1:老化細胞の除去効果の検討
本実施例では、種々のアンモニア排出促進効果を有する物質を動物に投与して、それぞれの物質が老化細胞を除去する効果を有するかを確認した。
【0034】
(1)試料調製
動物について、若齢マウスとして7週齢のC57BL/6Jマウスのオス、7匹を使用し、老齢マウスとして78週齢のC57BL/6J-Agedマウスのオス、28匹を使用し実験を行った。
【0035】
それぞれの動物は、温度20~26℃、湿度30~70%、照明時間12時間/日(7時点灯、19時消灯)でSPF環境で飼育した。温度・湿度は毎日記録し、生データとして保管した。
【0036】
動物の飼育ケージは、ポリカーボネート製マウスケージ(170 W×240 D×120 H mm、日本クレア株式会社製)を用い、個別飼育とした。床敷きには紙製チップ、ペパークリーン(日本エスエルシー株式会社製)をオートクレーブ滅菌(温度121℃、滅菌40分、乾燥30分)したものを使用した。
【0037】
飼料は、オートクレーブ滅菌(温度121℃、滅菌15分、乾燥5分)したマウス・ラット飼育用固形飼料MF(オリエンタル酵母工業株式会社製)を自由摂取させた。
【0038】
給水は、100 mL容量のポリカーボネート製給水瓶を用い、自家揚水に次亜塩素酸ナトリウム(ツルクロン、鶴見曹達株式会社製)を0.025%添加し、自由摂取させた。
【0039】
若齢マウスは、群1として、老齢マウスを7匹ずつ4群に分け(群2~群5)、以下の表のとおり、実験条件を振り分けた。
【0040】
【0041】
下記に説明する通り、群3~群5には、被験物質を添加した水を摂取させた。群3~群5に接種させる被験物質は、群3にはA成分、群4にはB成分、群5にはC成分を下記の通り調製し、接種させた。被験物質の調製は、1週間に2回、実施した:
・A成分:L-オルニチン塩酸塩(99%、Sigma-Aldrich)を、1%となるように水に添加し、調製した。
・B成分:L-オルニチン塩酸塩(99%、Sigma-Aldrich)を、1%となるように、および安息香酸ナトリウム(>99%、Sigma-Aldrich)を0.0006%となるように、それぞれ水に添加し、調製した。
・C成分:ラクツロース・シロップ(60%、興和創薬)を、7.2%となるように水に添加し、調製した。
【0042】
これらの方法で被験物質を添加して調製した飲水を、各群に自由摂取により飲水させ、1カ月間経口投与した。実験開始から1か月経過後、すべての動物を犠死させ、解剖し、老化細胞のマーカー測定のため、各動物から肝臓、腎臓、海馬、骨格筋を採取した。
【0043】
(2)老化細胞のマーカー測定
(2-1)RNA抽出
解剖時にマウスから採取した組織は、RNA later(Ambion)に一晩浸したあと、-80℃で保存した。TRIzol-クロロホルム法を用いて肝臓組織からtotal RNAを抽出した。
【0044】
RNA laterから取り出した組織50~100 mgを1 mlのTRIzol Reagent(Invitrogen Life Technologies)に入れ粉砕した。室温で5分間静置した後、0.2 mlのクロロホルムを加え攪拌し、室温で2-3分間静置したのち、4℃、12,000×gで15分間遠心した。上層を250μl回収し、0.5 mlのイソプロパノールを加えた。室温で10分間静置した後、再び4℃、12,000×gで10分間遠心した。
【0045】
75%エタノールで精製し、減圧下で蒸発乾固させた後、50μlのRNA-free水に溶解させた。NanoDrop ND-1000(NanoDrop Technologies)を用いて、260 nmおよび280 nmにおける吸光光度比(A260 /280 nm)を測定し、その値が1.9~2.1の範囲に収まることを確認することでRNA純度を確認した。
【0046】
(2-2)リアルタイムRT-PCR
組織から抽出されたTotal RNAを用いて、定量リアルタイムPCRにより、老化マーカーとして当該技術分野において一般的に知られているp16およびp21について、mRNA発現解析を行った。
【0047】
total RNAからPrimeScript(登録商標)RT reagent Kit(Perfect Real Time)を使用し、製造者のプロトコルに従ってcDNAを合成した。cDNAをThermal Cycler Dice Real Time System TP800(Takara Bio)を用いて増幅し、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM(Perfect Real Time)およびreal-time PCR detection system(Takara Bio)により蛍光を検出した。
【0048】
PCR反応は、95℃×10 secを1サイクルの後、[95℃×5 sec、60℃×30 sec]を40サイクルさせ、さらに[95℃×15 sec、60℃×30 sec、95℃×15 sec]を1サイクル行った。
【0049】
グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)のmRNA発現を内部標準として補正に用い、目的のmRNAの相対値を算出した。各プライマーは、ウェブアプリケーションPRIMER3によりプライマーを設計し、合成をInvitrogenに依頼して作製した。なお、目的遺伝子である老化マーカーであるp16およびp21の遺伝子増幅用プライマー配列は以下に示した通りである。
【0050】
【0051】
(2-3)老化細胞の除去効果
前述の(1)において採取した肝臓、腎臓、海馬、骨格筋の組織試料において、(2-1)(2-2)に記載したように、老化マーカーであるp16およびp21の発現を、PCR増幅により確認した。以下に示す図中、「*」はp<0.05、「**」はp<0.01、「***」はp<0.005であることをそれぞれ示す。
【0052】
(2-3-1)腎臓での発現量
腎臓において、老化細胞のマーカーであるp21のmRNA発現量を測定したところ、ラクツロースを摂取させた群(図中、「Aged+L」と表記)では、何も投与していない老齢マウス(図中、「Aged」と表記)と比べて有意に減少した(
図1)。
【0053】
(2-3-2)肝臓での発現量
肝臓において、老化細胞のマーカーであるp21のmRNA発現量を測定したところ、全実験群(オルニチン摂取群、オルニチン+安息香酸Na群、ラクツロース摂取群)で、何も投与していない老齢マウス(図中「Aged」と表記)と比べて、p21のmRNA発現量が有意に減少した(
図2上パネル)。特に、オルニチン+安息香酸Na摂取群(図中「Aged+OB」と表記)で有意に減少し、オルニチン摂取群(図中「Aged+O」と表記)、ラクツロース摂取群(図中「Aged+L」と表記)で減少傾向であった(p<0.1)。
【0054】
肝臓においてはまた、老化細胞のマーカーであるp16のmRNA発現量も測定したところ、何も投与していない老齢マウス(図中「Aged」と表記)と比べて、オルニチン摂取群(図中「Aged+O」と表記)ではp16のmRNA発現量が減少傾向にあり、ラクツロース摂取群(図中「Aged+L」と表記)ではp16のmRNA発現量が有意に減少した(
図2下パネル)。
【0055】
(2-3-3)海馬での発現量
海馬において、老化細胞のマーカーであるp16のmRNA発現量を測定したところ、有意ではないものの、全実験群(オルニチン摂取群(図中「Aged+O」と表記)、オルニチン+安息香酸Na摂取群(図中「Aged+OB」と表記)、ラクツロース摂取群(図中「Aged+L」と表記))で、何も投与していない老齢マウス(図中「Aged」と表記)と比べて、p16のmRNA発現量が減少した(
図3)。
【0056】
(2-3-4)骨格筋での発現量
骨格筋において、老化細胞のマーカーであるp16のmRNA発現量を測定したところ、有意ではないものの、全実験群(オルニチン摂取群(図中「Aged+O」と表記)、オルニチン+安息香酸Na摂取群(図中「Aged+OB」と表記)、ラクツロース摂取群(図中「Aged+L」と表記))で、何も投与していない老齢マウス(図中「Aged」と表記)と比べて、p16のmRNA発現量が減少した(
図4)。
本発明は、生体内でアンモニア排出促進作用を有する物質を含む、老化細胞除去剤あるいは老化細胞除去作用を有する組成物を提供することができる。この老化細胞除去剤あるいは老化細胞除去作用を有する組成物により、経口的に摂取するだけのより簡便な方法で、抗がん剤のような副作用がない、生体内にある老化細胞を除去できる手法を提供することができる。