(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009973
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 4/02 20060101AFI20240116BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C09J4/02
C09J11/06
【審査請求】有
【請求項の数】37
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023177758
(22)【出願日】2023-10-13
(62)【分割の表示】P 2023517555の分割
【原出願日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2021074443
(32)【優先日】2021-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】内田(濱口) 留智
(72)【発明者】
【氏名】谷川(星野) 貴子
(72)【発明者】
【氏名】須藤 恵
(72)【発明者】
【氏名】奥村 広美
(72)【発明者】
【氏名】吉田 準
(57)【要約】 (修正有)
【課題】相溶性、スピンコートプロセス適合性、耐熱性及び各種剥離プロセスへの適合性に優れる仮固定組成物の提供。
【解決手段】下記(A)~(C)を含有する仮固定組成物。
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)を含有する仮固定組成物。
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
【請求項2】
更に下記(D)を含有する、請求項1に記載の仮固定組成物。
(D)UV吸収剤
【請求項3】
(A)成分の分子量が250以上である、請求項1又は2に記載の仮固定組成物。
【請求項4】
(A)成分がアルキルエーテル骨格を有しない2官能(メタ)アクリレートである、請求項1~3のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項5】
(A)成分が、脂肪族炭化水素骨格を有するか若しくはヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素骨格を有するか、並びに/又はエステル骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである、請求項1~4のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項6】
(B)成分が、23℃において粘度500mPa・s以上を有する液状であるか、又は23℃において固体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項7】
(B)成分が有する環状骨格が芳香環を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項8】
(B)成分がフェノールエーテル骨格を有する、請求項7に記載の仮固定組成物。
【請求項9】
(B)成分がフルオレン骨格を有する、請求項6又は7に記載の仮固定組成物。
【請求項10】
(C)成分が、350nm以上の波長の光でラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤である、請求項1~9のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項11】
(C)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)からなる群から選択される1種以上である請求項1~10のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項12】
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(C)成分0.01~5質量部を含有する請求項1~11のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項13】
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(A)成分と(B)成分の質量比が5~95:5~95の範囲である、請求項1~12のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項14】
更に下記(E)を含有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
(E)単官能(メタ)アクリレート
【請求項15】
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(E)成分を0質量部超50質量部以下含有する請求項14に記載の仮固定組成物。
【請求項16】
(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレートを含まない、請求項1~13のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項17】
更に下記(F)を含有する、請求項1~16のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
(F)ポリマー
【請求項18】
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(F)成分を0質量部超50質量部以下含有する請求項17に記載の仮固定組成物。
【請求項19】
23℃における粘度が、100~10000mPa・sの範囲であることを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【請求項20】
請求項1~19のいずれか一項に記載の仮固定組成物を含む、仮固定接着剤。
【請求項21】
請求項20に記載の仮固定接着剤を使用して基材を接着した接着体。
【請求項22】
請求項1~19のいずれか一項に記載の仮固定組成物を硬化して得られる硬化体。
【請求項23】
単層硬化体である請求項22に記載の硬化体。
【請求項24】
窒素雰囲気下において、2%質量減少温度が250℃以上である請求項22又は23に記載の硬化体。
【請求項25】
30~100Paである減圧環境下において、2%質量減少温度が250℃以上である請求項22~24のいずれか一項に記載の硬化体。
【請求項26】
下記(A)~(C):
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
を含有する仮固定接着剤を使用して、基材を接着した接着体であって、波長350nm以上の光により前記仮固定接着剤が硬化し、かつ波長385nm未満のレーザー光により前記基材が剥離する、接着体。
【請求項27】
請求項20に記載の仮固定接着剤を半導体ウエハ基材及び/又は支持部材に塗布して、前記半導体ウエハ基材と前記支持部材を接着するステップと、
波長350nm~700nmの光を照射することで前記仮固定接着剤を硬化させ、接着体を得るステップと、
前記接着体に波長385nm未満のレーザー光を照射して、前記半導体ウエハ基材を剥離するステップと
を含む、半導体ウエハの製造方法。
【請求項28】
硬化した仮固定接着剤が、前記接着体中で単層を構成する、請求項27に記載の製造方法。
【請求項29】
用途がUVレーザー剥離用である請求項20に記載の仮固定接着剤。
【請求項30】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、かつ(D)成分を含まない仮固定組成物からなる第一の硬化層と、請求項2に記載の仮固定組成物からなる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。
【請求項31】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む請求項1に記載の仮固定組成物を硬化した第一の硬化層と、前記第一の硬化層の上にUV吸収剤を塗布して得られる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。
【請求項32】
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む請求項1に記載の仮固定組成物を硬化した第一の硬化層と、光熱変換(LTHC)硬化層とを有する、硬化体。
【請求項33】
下記条件の全てを満たす、請求項30~32のいずれか一項に記載の硬化体。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の395nm以上の波長領域の光透過率が70%以上であること。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の350nm以上395nm未満の波長領域の光透過率が20%以上であること。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、UVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長(355nm)での光透過率が1%以下であること。
【請求項34】
請求項30~33のいずれか一項に記載の硬化体と、被着体とを含む構造体。
【請求項35】
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、かつ(D)成分を含まない仮固定組成物を塗布し部分硬化させるステップと、
上記の部分硬化した仮固定組成物の上に請求項2に記載の仮固定組成物を塗布するステップと、
塗布した仮固定組成物の上に透明基板を更に載せ、光硬化させるステップと
を含む、構造体の製造方法。
【請求項36】
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含みかつ(D)成分を含まない仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
透明基板上に請求項2に記載の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
前記ウエハと前記透明基板の、仮固定組成物を塗布した側の面同士を密着させてから、光硬化により接合するステップと
を含む、構造体の製造方法。
【請求項37】
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含みかつ(D)成分を含まない請求項1に記載の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
透明基板上に光熱変換(LTHC)層を塗布し、乾燥し硬化させるステップと、
前記ウエハの仮固定組成物を塗布した側の面と、前記透明基板のLTHC層を塗布した側の面とを密着させてから、光硬化により接合するステップと
を含む、構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮固定用に用いる仮固定組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスは、シリコンに代表される無機系の材質の基板を主材料とし、その表面への絶縁膜形成、回路形成、研削による薄化等の加工を施すことで得られる。加工に際しては、ウエハ型の基板を用いる場合、厚さ数百μm程度のものが多く用いられるが、基板には脆くて割れやすい材質のものが多いため、特に研削による薄化に際しては破損防止措置が必要である。この措置には、従来、研削対象面の反対側の面(裏面ともいう)に、加工工程終了後に剥離することが可能な、仮固定用保護テープを貼るという方法がとられている。このテープは、有機樹脂フィルムを基材に用いており、柔軟性がある反面、強度や耐熱性が不充分であり、高温となる工程での使用には適さない。
【0003】
そこで、電子デバイス基板をシリコン、ガラス等の支持体に接着剤を介して接合することによって、裏面研削や裏面電極形成の工程の条件に対する充分な耐久性を付与するシステムが提案されている。この際に重要なのが、基板を支持体に接合する際の接着剤層である。これは基板を支持体に隙間なく接合出来、後の工程に耐えるだけの充分な耐久性が必要で、最後に薄化したウエハを支持体から簡便に剥離出来ることが必要である。
【0004】
接着剤の必要特性としては、(1)塗布に適した粘度を有すること及びニュートン流体であること(又はせん断粘度のせん断速度非依存性)、(2)基板を薄化する際に研削・研磨に耐え得るせん断接着力、(3)同じく基板を薄化する際に研削・研磨で基板に加わる砥石の荷重の局所的な集中による基板の破損を避けるため、荷重を面内方向に分散させつつ基板の局所的な沈下を防いで平面性をも保てる適度な硬度、(4)絶縁膜形成やはんだリフロー工程に耐え得る耐熱性、(5)薄化やレジスト工程に耐え得る耐薬品性、(6)基板を支持体から簡便に剥離出来る易剥離性、(7)剥離後、基板上に接着剤の残渣が残らないための凝集特性、(8)易洗浄性が挙げられる。
【0005】
接着剤とその剥離方法としては、光吸収性物質を含む接着剤に高強度の光を照射し、接着剤層を分解することによって支持体から接着剤層を剥離する技術(特許文献1)、熱溶融性の炭化水素系化合物を接着剤に用い、加熱溶融状態で接合・剥離を行う技術(特許文献2)が提案されている。前者の技術はレーザー等の高価な装置が必要であり、且つ、基板1枚あたりの処理時間が長くなる等の問題があった。後者の技術は加熱だけで制御するため簡便である反面、200℃を超える高温での熱安定性が不充分であるため、適用範囲は狭かった。
【0006】
1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する1種又は2種以上の(メタ)アクリレートを含有してなる接着剤組成物を用いて基材同士を貼り合わせ、該接着剤組成物を硬化させることにより形成した接着体に対して、中心波長が172nm又は193nmのエキシマ光を照射する工程を含み、少なくとも一方の基材は該エキシマ光に対して透過性を示す接着体の解体方法が開示されている(特許文献3)。しかし、特許文献3は、より長波長の光を使用することについて記載がない。本発明は、剥離のためにエネルギーの強いエキシマ光を使用する必要がない。
【0007】
樹脂組成として、ポリイソブテン樹脂及び多官能(メタ)アクリレートを含み、かつ粘着付与剤を含まない、電子デバイスで用いるための接着性封入用組成物の技術が開示されている(特許文献4)。また単官能(メタ)アクリレートをモノマーとして使うことも記載されているが、単官能(メタ)アクリレートのガラス転移温度が記載されていないため、該樹脂組成物を電子デバイス製造工程用仮固定剤として応用する際に必要とされる柔軟性の発現方法が不明であるという問題があった。
【0008】
樹脂組成として、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及びポリイソブテン系重合体を含む、有機エレクトロルミネッセンスデバイス等の電子デバイスのための接着性封入用組成物の技術も開示されている(特許文献5)。しかし、単官能(メタ)アクリレートのガラス転移温度が記載されていないため、該樹脂組成物を電子デバイス製造工程用仮固定剤として応用する際に必要とされる柔軟性の発現方法が不明であるという問題があった。
【0009】
樹脂組成として、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート、及びイソブテン・無水マレイン酸共重合ポリマーを含む、異種基材間接着のための樹脂組成物及び接着・解体方法が開示されている(特許文献6)。しかし、特許文献6のポリマーは無水マレイン酸由来成分を含有するという点で種類が限定されており、接着方法についても詳述されていない。特許文献6は、粘度等のスピンコート適合性について記載がない。
【0010】
活性エネルギー線による硬化が可能な、オレフィン系ポリマー構造を含むウレタン(メタ)アクリレート樹脂とポリイソブチレン樹脂からなる複合樹脂組成物の技術が開示されている(特許文献7)。また、(A)成分:ポリイソブチレン骨格を有する(メタ)アクリレート化合物及び(B)成分:(メタ)アクリルアミド化合物を含み、(A)成分100質量部に対して(B)成分0.1~15質量部を含む光硬化性組成物が開示されている(特許文献8)。しかし、特許文献7~8は、仮固定用途について記載がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004-064040号公報
【特許文献2】特開2006-328104号公報
【特許文献3】国際公開第2011/158654号
【特許文献4】特許第5890177号公報
【特許文献5】特表2009-524705号公報
【特許文献6】特許第6139862号公報
【特許文献7】特開2017-226785号公報
【特許文献8】国際公開第2020/080309号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って例えば、従来技術に係る組成物を仮固定に用いても、硬化速度、スピンコートプロセス適合性、耐熱性、加熱真空下の低アウトガス性、剥離速度が十分ではないこと、又特にUVレーザー剥離プロセス(剥離工程)への適性も同様に十分でないこと、という課題が解決出来ていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、本発明では以下の態様を提供できる。
【0014】
[態様1]
下記(A)~(C)を含有する仮固定組成物。
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
【0015】
[態様2]
更に下記(D)を含有する、態様1に記載の仮固定組成物。
(D)UV吸収剤
【0016】
[態様3]
(A)成分の分子量が250以上である、態様1又は2に記載の仮固定組成物。
【0017】
[態様4]
(A)成分がアルキルエーテル骨格を有しない2官能(メタ)アクリレートである、態様1~3のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0018】
[態様5]
(A)成分が、脂肪族炭化水素骨格を有するか若しくはヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素骨格を有するか、並びに/又はエステル骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである、態様1~4のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0019】
[態様6]
(B)成分が、23℃において粘度500mPa・s以上を有する液状であるか、又は23℃において固体である、態様1~5のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0020】
[態様7]
(B)成分が有する環状骨格が芳香環を含む、態様1~6のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0021】
[態様8]
(B)成分がフェノールエーテル骨格を有する、態様7に記載の仮固定組成物。
【0022】
[態様9]
(B)成分がフルオレン骨格を有する、態様6又は7に記載の仮固定組成物。
【0023】
[態様10]
(C)成分が、350nm以上の波長の光でラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤である、態様1~9のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0024】
[態様11]
(C)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)からなる群から選択される1種以上である態様1~10のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0025】
[態様12]
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(C)成分0.01~5質量部を含有する態様1~11のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0026】
[態様13]
(A)成分と(B)成分の合計100質量部に対して、(A)成分と(B)成分の質量比が5~95:5~95の範囲である、態様1~12のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0027】
[態様14]
更に下記(E)を含有する、態様1~13のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
(E)単官能(メタ)アクリレート
【0028】
[態様15]
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(E)成分を0質量部超50質量部以下含有する態様14に記載の仮固定組成物。
【0029】
[態様16]
(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレートを含まない、態様1~13のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0030】
[態様17]
更に下記(F)を含有する、態様1~16のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
(F)ポリマー
【0031】
[態様18]
(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(F)成分を0質量部超50質量部以下含有する態様17に記載の仮固定組成物。
【0032】
[態様19]
23℃における粘度が、100~10000mPa・sの範囲であることを特徴とする、態様1~18のいずれか一項に記載の仮固定組成物。
【0033】
[態様20]
態様1~19のいずれか一項に記載の仮固定組成物を含む、仮固定接着剤。
【0034】
[態様21]
態様20に記載の仮固定接着剤を使用して基材を接着した接着体。
【0035】
[態様22]
態様1~19のいずれか一項に記載の仮固定組成物を硬化して得られる硬化体。
【0036】
[態様23]
単層硬化体である態様22に記載の硬化体。
【0037】
[態様24]
窒素雰囲気下において、2%質量減少温度が250℃以上である態様22又は23に記載の硬化体。
【0038】
[態様25]
30~100Paである減圧環境下において、2%質量減少温度が250℃以上である態様22~24のいずれか一項に記載の硬化体。
【0039】
[態様26]
下記(A)~(C):
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
を含有する仮固定接着剤を使用して、基材を接着した接着体であって、波長350nm以上の光により前記仮固定接着剤が硬化し、かつ波長385nm未満のレーザー光により前記基材が剥離する、接着体。
【0040】
[態様27]
態様20に記載の仮固定接着剤を半導体ウエハ基材及び/又は支持部材に塗布して、前記半導体ウエハ基材と前記支持部材を接着するステップと、
波長350nm~700nmの光を照射することで前記仮固定接着剤を硬化させ、接着体を得るステップと、
前記接着体に波長385nm未満のレーザー光を照射して、前記半導体ウエハ基材を剥離するステップと
を含む、半導体ウエハの製造方法。
【0041】
[態様28]
硬化した仮固定接着剤が、前記接着体中で単層を構成する、態様27に記載の製造方法。
【0042】
[態様29]
用途がUVレーザー剥離用である態様20に記載の仮固定接着剤。
【0043】
[態様30]
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、かつ(D)成分を含まない仮固定組成物からなる第一の硬化層と、態様2に記載の仮固定組成物からなる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。
【0044】
[態様31]
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む態様1に記載の仮固定組成物を硬化した第一の硬化層と、前記第一の硬化層の上にUV吸収剤を塗布して得られる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。
【0045】
[態様32]
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む態様1に記載の仮固定組成物を硬化した第一の硬化層と、光熱変換(LTHC)硬化層とを有する、硬化体。
【0046】
[態様33]
下記条件の全てを満たす、態様30~32のいずれか一項に記載の硬化体。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の395nm以上の波長領域の光透過率が70%以上であること。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の350nm以上395nm未満の波長領域の光透過率が20%以上であること。
・厚さ50μmの前記硬化体の光透過率の内、UVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長(355nm)での光透過率が1%以下であること。
【0047】
[態様34]
態様30~33のいずれか一項に記載の硬化体と、被着体とを含む構造体。
【0048】
[態様35]
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、かつ(D)成分を含まない仮固定組成物を塗布し部分硬化させるステップと、
上記の部分硬化した仮固定組成物の上に態様2に記載の仮固定組成物を塗布するステップと、
塗布した仮固定組成物の上に透明基板を更に載せ、光硬化させるステップと
を含む、構造体の製造方法。
【0049】
[態様36]
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含みかつ(D)成分を含まない仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
透明基板上に態様2に記載の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
前記ウエハと前記透明基板の、仮固定組成物を塗布した側の面同士を密着させてから、光硬化により接合するステップと
を含む、構造体の製造方法。
【0050】
[態様37]
ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含みかつ(D)成分を含まない態様1に記載の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、
透明基板上に光熱変換(LTHC)層を塗布し、乾燥し硬化させるステップと、
前記ウエハの仮固定組成物を塗布した側の面と、前記透明基板のLTHC層を塗布した側の面とを密着させてから、光硬化により接合するステップと
を含む、構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0051】
本発明によって、例えば、硬化速度、スピンコートプロセス適合性、耐熱性、加熱窒素雰囲気下及び減圧下の低アウトガス性、剥離速度に優れる組成物が得られ、しかも剥離プロセス特には各種レーザー剥離プロセス(UVレーザー剥離プロセス等)に適合する仮固定組成物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下本発明を説明する。本明細書においては別段の断わりがないかぎりは、数値範囲はその上限値及び下限値を含むものとする。また本明細書における量・率は、別段の断わりがないかぎりは質量基準である。
【0053】
単官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいう。2官能(メタ)アクリレートとは、1分子中に2個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物をいい、本明細書においては、その他の多官能(メタ)アクリレートとも単官能(メタ)アクリレートとも区別される。なお本明細書においては、多官能(メタ)アクリレートとは1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を指すが、文脈に依っては2官能(メタ)アクリレートを除くことに留意されたい。
【0054】
特に断わりのない場合、本明細書では(メタ)アクリレート等の重合性化合物はモノマーを意味し、それらが重合して得られるものをポリマーと呼称する。
【0055】
本発明の実施形態に係る仮固定組成物(以下、単に「組成物」と称することもある)は、下記(A)~(C)成分を含有することを特徴とする。当該組成物は、(A)成分及び(B)成分以外の(メタ)アクリレートを含まないことが好ましい。
(A)環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレート
(B)環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレート
(C)光ラジカル重合開始剤
【0056】
上記(A)成分及び(B)成分として2官能(メタ)アクリレートを用いると、その他の(メタ)アクリレートを用いた場合とは異なり、反応性・架橋性が適度であるため、得られる組成物が優れた耐熱性を呈する。その上で本発明者は、環状骨格を有さない(A)成分と環状骨格を有する(B)成分の組み合わせが、仮固定剤としての性能を著しく向上させることに想到し、本発明を完成させた。
【0057】
或る実施形態に係る組成物は、2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレートを含まなくてもよい。別の実施形態に係る組成物は、本発明の効果を損わない限りにおいて、2官能(メタ)アクリレート以外の(メタ)アクリレート(例えば単官能(メタ)アクリレート若しくは3官能(メタ)アクリレート)を含んでいてもよく、その量は(A)成分と(B)成分の合計を100質量部としたときに、0質量部超50質量部以下であってよい。
【0058】
(A)成分である環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレートとは、脂環骨格も芳香環骨格も有さないものを指す。(A)成分としては、直鎖状アルキル基、又は分岐鎖状アルキル基を有する2官能(メタ)アクリレートが好ましい。当該アルキル基は置換基を有してもよく、例えばヒドロキシアルキル基であってもよい。
【0059】
(A)成分としては例えば、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ステアリン酸変性ペンタエリストールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレート ビス[6-(アクリロイルオキシ)ヘキサノエート](略称:HPHPAH)、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジ(メタ)アクリレート(例えば日本化薬社製の商品名KAYARAD HX-220、HX-620等)等といった、アルキルエーテル骨格を有しない化合物が挙げられる。
【0060】
好ましい実施形態においては、得られる組成物の粘度を適度に高められる観点から、(A)成分の分子量は、250以上であってよく、300以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。(A)成分の分子量の上限は特に制限されないが、組成物の粘度を高めすぎない観点からは例えば2000以下であってよく、1000以下であることが好ましい。(A)成分は例えば、好ましくは炭素数18~40、より好ましくは炭素数18~32の、例えばイソステアリル基、イソテトラコサニル基(2-デシル-1-テトラデカニル基等)、イソトリアコンタニル基(2-テトラデシル-1-オクタデカニル基等)等の分岐鎖状アルキル基から誘導される構造を有していてよい。このような長鎖・高分子量かつ脂肪族炭化水素の性格の強い成分を用いることで、仮固定組成物に求められる低揮発性、耐薬品性及び耐熱性といった特性を向上できる。
【0061】
好ましい実施形態においては、(A)成分が、多価アルコール(より好ましくは2価もしくは3価のアルコール)、又はアルキルエステルから誘導されるジ(メタ)アクリレートであってよい。より具体的には(A)成分が、脂肪族炭化水素骨格を有するか若しくはヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素骨格を有する(好ましくは、両末端に(メタ)アクリロイル基を有する直鎖又は分鎖の脂肪族炭化水素からなる)か、エステル骨格を有する(好ましくは、両末端に(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族エステルからなる)か、あるいはその両方の特徴を有していてもよい。
【0062】
好ましい実施形態においては、耐熱性を向上させる観点から、(A)成分はアルキルエーテル骨格を有しない構造であってよい。アルキルエーテル骨格を有しない(A)成分と、後述するフェノールエーテル骨格を有する(B)成分とを組み合わせることで、組成物の耐熱性が優れて向上する効果が得られる。
【0063】
(B)成分である環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレートとは、一個以上の環構造を有する化合物であり、その環は炭素環であってもよく複素環であってもよく、それらの組み合わせであってもよい。好ましい実施形態においては、耐熱性向上の観点から、(B)成分は一個以上の芳香環を有してよく、複数個の芳香環を有することがより好ましく、縮合した芳香環を有する(例えばフルオレン骨格、ナフタレン骨格、インデン骨格、アントラセン骨格等を有する)ことがさらに好ましい。
【0064】
好ましい実施形態においては、(B)成分がスピロ環構造を有することで、組成物において優れた粘性が得られつつ、優れたアウトガス性・耐熱性も両立できる顕著な効果が得られる。そうした(B)成分の例としては、ビスフェノールフルオレン誘導体(例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート等)、ビスクレゾールフルオレン誘導体、シクロアルカン誘導体(シクロデカン誘導体、シクロオクタン誘導体等)といったものが挙げられる。
【0065】
好ましい実施形態においては、(B)成分がフェノールエーテル骨格を有することで、上述した(A)成分との組み合わせにおいて耐熱性を向上できる。
【0066】
(B)成分の分子量は特に制限されないが、組成物の粘度を適度に高められる観点からは例えば、200以上であってよく、300以上がより好ましく、500以上がさらに好ましい。(B)成分の分子量の上限は特に制限されないが、組成物の粘度を高めすぎない観点からは例えば2000以下であってよく、1000以下であることが好ましい。(B)成分は好ましくは、23℃において粘度500mPa・s以上を有する液状であるか、又は23℃において固体であってよい。
【0067】
好ましい実施形態においては、(B)成分が芳香環を有し、かつアルキル鎖部分の炭素数が少なめである(すなわち芳香環に対する脂肪族部位の割合が小さめである)ことがアウトガス性向上の観点から好ましい。例えば(B)成分が有するアルキル鎖部分の炭素数は20以下であってよく、10以下がより好ましく、5以下がさらに好ましい。
【0068】
(B)成分の例としては、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシアダマンタン、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシテトラエトキシフェニル)プロパン、イソシアヌル酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、フルオレン骨格を有するジ(メタ)アクリレート(例えば、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジ(メタ)アクリレート等)が挙げられる。フルオレン骨格を有するジ(メタ)アクリレートとしては例えば、新中村化学社製A-BPEF-2、大阪ガスケミカル社製OGSOL GA-5060P、EA-0300、GA-5060P、GA-2800として市販されているものが入手可能である。
【0069】
(B)成分の別の例としては、下記式(1)で示されるエトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレートも挙げられる。
【化1】
(式中、R
1、R
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基、m及びnは、それぞれ独立して正数を表す。m及びnは、それぞれ独立して1~10の正数を表すことが好ましい。なお、m=n=1の場合には当該式は上述した2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシジエトキシフェニル)プロパンに相当する)。
【0070】
(A)成分と(B)成分の配合比は、スピンコートプロセス適合性の観点から、その合計100質量部に対して、質量比で5~95:5~95の範囲であることが好ましく、25~75:25~75の範囲がより好ましく、33~67:33~67の範囲であることがさらに好ましい。
【0071】
(C)成分である光ラジカル重合開始剤とは、例えば、紫外線或いは可視光線(例えば波長350nm~700nm、好ましくは385nm~700nm、より好ましくは385nm~500nm、さらにより好ましくは385nm~450nm)の照射により分子が切断され、2つ以上のラジカルに分裂する化合物をいう。
【0072】
(C)光ラジカル重合開始剤としては、反応速度、硬化後の耐熱性、低アウトガス性、後述するUVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長とも該UVレーザー剥離に用いるUV吸収剤の吸収波長領域とも異なる領域での吸収特性を有する点で、アシルフォスフィンオキサイド系化合物、チタノセン系化合物、又はα-アミノアルキルフェノン系化合物から選択される1種以上が好ましい。又、後述する構造を有する仮固定組成物の内の、UVレーザー剥離プロセスに対応するための層ではない、加工対象基材のサポート基材との接合から加熱工程までの破損防止の仮固定用途のための樹脂組成物用光ラジカル重合開始剤としては、上記以外に、オキシムエステル系化合物を選択することも出来る。
【0073】
アシルフォスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。これらの中では、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドが特に好ましい。
【0074】
チタノセン系化合物としては、ビス(η5-2、4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムが挙げられる。
【0075】
α-アミノアルキルフェノン系化合物としては、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン等が挙げられる。
【0076】
オキシムエステル系化合物としては、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)等が挙げられる。これらの中では、1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)が好ましい。
【0077】
(C)光ラジカル重合開始剤としては、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2、4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)からなる群から選択される1種以上が好ましい。
【0078】
本発明のUVレーザー剥離工程用の仮固定組成物を提供する場合には、最も好ましい光ラジカル重合開始剤は、アシルフォスフィンオキサイド系化合物である。好ましいアシルフォスフィンオキサイド系化合物は、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、及び/又は、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドである。これら光ラジカル重合開始剤は、高感度であること、光褪色性を有することから深部硬化性に優れることに加え、ラジカルを発生させるための吸収波長領域が比較的長波長領域にまで広がっており、具体的にビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドは波長約440nmまでの範囲であり、後述するUVレーザー剥離工程で用いるUV吸収剤の吸収波長領域との差が大きい。つまり、添加するUV吸収剤によるUV硬化阻害の度合いが小さい、より長波長の光でラジカル重合を開始出来る。そのため、UV吸収剤の共存下であっても比較的高速度で効率良くラジカル重合を開始し、硬化させることが可能となる。
【0079】
最も好ましくは、光ラジカル重合開始剤を吸光度から選定できる。具体的には、300nm~500nmの波長領域に極大吸収をもたない溶媒(例えば、アセトニトリルやトルエンなど)に0.1質量%の濃度で溶解させた際に、365nmの波長において吸光度が0.5以上であること、385nmの波長において吸光度が0.5以上であること、及び405nmの波長において吸光度が0.5以上であることのいずれかひとつ以上の条件を満たすような化合物の1種以上から、光ラジカル重合開始剤を選択できる。そのような条件を満たす化合物としては例えば、溶媒としてのアセトニトリルに対して0.1質量%の濃度で溶解させた際において、365nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)、365nmと385nmの波長において吸光度が0.5以上である1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、365nmと385nmと405nmの波長において吸光度が0.5以上であるビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、が挙げられる。
【0080】
また、光ラジカル重合開始剤による硬化性とUVレーザー剥離性を両立する観点からは、400~500nmの範囲に吸収波長領域を有するビス(η5-2、4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウムも、光ラジカル重合開始剤として使用できる。
【0081】
(C)光ラジカル重合開始剤の使用量は、反応速度及び硬化後の耐熱性、低アウトガス性の点で、(A)~(B)の合計100質量部に対して、0.01~5質量部が好ましく、0.1~1質量部がより好ましい。(C)成分の量が0.01質量部以上だと十分な硬化性が得られ、5質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれるおそれがない。
【0082】
また本組成物が含んでもよい(D)成分として使用可能なUV吸収剤とは、例えば、紫外線或いは可視光線のレーザーの照射により分子が切断されて分解・気化し、該分解・気化がサポート基材(又は支持体)と仮固定剤の界面で発生することにより、剥離工程直前まで維持されていた仮固定剤・サポート基材(又は支持体)間の接着力を喪失させる化合物をいう。
【0083】
(D)UV吸収剤としては、UV吸収波長領域のUVレーザー波長との重なりの度合い、同波長でのUV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点で、ベンゾトリアゾール系化合物、及びヒドロキシフェニルトリアジン系化合物から選択される1種以上が好ましい。
【0084】
ベンゾトリアゾール系化合物としては、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、及び2-[2-ヒドロキシ-3-(3,4,5,6-テトラヒドロフタルイミド-メチル)-5-メチルフェニル]ベンゾトリアゾールからなる群から選択される1種以上が、樹脂成分との相溶性、UV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点から特に好ましい。
【0085】
ヒドロキシフェニルトリアジン系化合物としては、2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、及び2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジンからなる群から選択される1種以上が、樹脂成分との相溶性、UV吸収特性、低アウトガス性、耐熱性の点から特に好ましい。
【0086】
本発明のUVレーザー剥離工程用の仮固定組成物を提供する場合、最も好ましいUV吸収剤は、2,4,6-トリス(2-ヒドロキシ-4-ヘキシルオキシ-3-メチルフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、又は2,2’-メチレンビス[6-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール]からなる群から選択される1種以上である。これらは(A)~(B)成分との相溶性に優れ、融点が高く、300℃以下程度の温度条件下で蒸気圧が比較的低いため、使用量の広い範囲内での選択が可能で、且つ硬化後の仮固定組成物からの本温度条件下でのアウトガス低減に寄与することが出来る。
【0087】
(D)UV吸収剤として最も好ましくは以下に挙げる、UV透過率から選定された吸収剤を用いることが出来る。(D)成分がこのようなUV透過率を有することで、組成物の硬化と剥離を適切に制御可能となる効果が得られる。
【0088】
290~410nmの波長において極大吸収を持たない溶媒に対して、UV吸収剤を0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が50%以下であり、かつ波長385~420nmで50%より高い透過率であることが好ましい。さらに好ましくは、355nmの波長において透過率が40%以下であり、かつ385~420nmで60%以上の透過率であってよい。
【0089】
最も好ましい(D)UV吸収剤としては例えば下記が挙げられる。
【0090】
溶媒として用いるトルエンに対して、0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が20%以下であり、かつ波長385~420nmで60%以上の透過率である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(BASF社製Tinuvin 900、アデカ社製アデカスタブ LA-24、Everlight Chemical社製EVERSORB 76、EVERSORB 234、分子量447)。
【0091】
溶媒としてのトルエンに対して0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が30%以下であり、かつ波長385~420nmで70%以上の透過率である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール(BASF社製Tinuvin 928、Everlight Chemical社製EVERSORB 89/89FD、分子量442)。
【0092】
溶媒としてのテトラヒドロフランに対して0.002質量%の濃度で溶解させた際に、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が40%以下であり、かつ波長385~420nmで90%以上の透過率である2-[4-[(2-ヒドロキシ-3-(2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製Tinuvin 405、分子量584)。
【0093】
溶媒としてのテトラヒドロフランに対して0.002質量%の濃度で溶解させ、光路長1cmにおける355nmの波長において透過率が10%以下であり、かつ波長385~420nmで80%以上の透過率である2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製Tinuvin 460、分子量630)。
【0094】
本明細書における硬化体のUV透過率は、反射率測定分光法により得られる値である。具体的には、透過率は、下記の条件にて、PET樹脂のシートに挟んで作製した厚さ約50μmの硬化体のフィルムを用い、反射率分光測定装置(日本分光株式会社製V-650)を使用して得られる。
【0095】
セル長:10mm
測光モード:T (Transmittance)
測定範囲:450-200nm
データ取込間隔:1nm
UV/visバンド幅:2.0nm
レスポンス:medium
走査速度:40nm/min
光源切換:340nm
光源:D2/WI
フィルタ切換:ステップ
補正:ベースライン
【0096】
(D)成分であるUV吸収剤の使用量は(A)~(B)の合計100質量部に対して0.01~5質量部が好ましく、0.5~2.5質量部がより好ましい。0.01質量部以上だと十分なUVレーザー剥離速度が得られ、5質量部以下だと低アウトガス性及び耐熱性が損なわれるおそれがない。
【0097】
このような特性を持つ組成物は、特に薄化後の裏面工程においてイオン注入、アニーリングやスパッタによる電極形成といった高温真空プロセスを含むプロセスに、好適に使用することが出来る。
【0098】
本発明の実施形態に係る組成物の粘度は、23℃(大気圧下)において100~10000mPa・sの範囲であることが好ましく、560~9200mPa・sの範囲であることがよりに好ましく、1100~6400mPa・sの範囲であることがさらに好ましい。
【0099】
本発明の実施形態に係る組成物の硬化体のアウトガス性は2%質量減少温度によって評価できる。当該硬化体の窒素雰囲気下における2%質量減少温度は、250℃以上であることが好ましく、270℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましい。当該硬化体の、30~100Paへ減圧した環境下における2%質量減少温度は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、250℃以上であることがさらに好ましい。
【0100】
本明細書においては、2%質量減少温度を複数の条件の組み合わせによって評価可能である。当該技術分野においては、異なる環境下で測定した2%質量減少温度は一般に互換可能とは言えないことが知られている。すなわち、或る環境での2%質量減少温度からでは、別の環境のその値は容易には推察できないことが知られている。
【0101】
また、本発明の仮固定組成物を用いて厚さ50μmの硬化フィルムを作製した場合、以下の条件をひとつ以上満たすことが好ましく、全て満たすことがより好ましい。以下の条件は、例えば上記したUV吸収剤や光ラジカル重合開始剤を用いることにより、満たすことができる。
・該硬化フィルムの光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の395nm以上の波長領域の光透過率が70%以上であること。
・該硬化フィルムの光透過率の内、硬化に用いる光源の波長の内の350nm以上395nm未満、好ましくは385nm以上395nm未満の波長領域の光透過率が20%以上であること。
・該硬化フィルムの光透過率の内、UVレーザー剥離に用いるUVレーザーの波長(355nm)での光透過率が1%以下であること。
これらの条件を満たすことで、実用上十分に高い硬化速度とUVレーザー剥離速度を両立させることが可能である。更には、本十分に高い硬化速度とUVレーザー剥離速度の両立に加え、硬化後の加熱条件下における質量減少の割合を低下(又は高温真空下におけるアウトガス量を低減)させることが出来る。このような特性を持つ仮固定剤は、特に薄化後の裏面工程においてイオン注入、アニーリングやスパッタによる電極形成といった高温真空プロセスを含むプロセスに、好適に使用することができる。
【0102】
本発明の組成物は、高温に暴露された後の剥離性を維持するために、酸化防止剤を使用してもよい。酸化防止剤としては、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、2,2-メチレン-ビス(4-メチル-6-ターシャリーブチルフェノール)、カテコール、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノターシャリーブチルハイドロキノン、2,5-ジターシャリーブチルハイドロキノン、p-ベンゾキノン、2,5-ジフェニル-p-ベンゾキノン、2,5-ジターシャリーブチル-p-ベンゾキノン、ピクリン酸、クエン酸、フェノチアジン、ターシャリーブチルカテコール、2-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,6-ジターシャリーブチル-p-クレゾール及び4-((4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル)アミノ)-2,6-ジ-t-ブチルフェノール等が挙げられる。
【0103】
酸化防止剤の使用量は、(A)~(D)の合計100質量部に対して、0.001~3質量部が好ましい。0.001質量部以上だと高温に暴露された後の剥離性の維持が確保され、3質量部以下だと良好な接着性が得られ、未硬化になることもない。
【0104】
或る実施形態に係る組成物においては、さらに(E)成分として単官能(メタ)アクリレートを添加してもよく、その添加量は(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(E)成分が0質量部超50質量部以下であってよい。
【0105】
(E)成分の例としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。そうした化合物としては例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、エイコデシル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレート、2-デシル-1-テトラデカニル(メタ)アクリレート、2-テトラデシル-1-オクタデカニル(メタ)アクリレート等といったものが挙げられる。
【0106】
或る実施形態に係る組成物においては、さらに(F)成分としてポリマーを添加してもよく、その添加量は(A)~(B)成分の合計100質量部に対して(F)成分が0質量部超50質量部以下であってよい。(F)成分は、組成物の硬化体の光透過性を阻害しない性質を有することが望ましい。
【0107】
(F)成分としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、酢酸ビニル、変性酢酸ビニル等を原料としたポリマー、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、酢酸ビニル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(メタ)アクリル-シリコン共重合体、(メタ)アクリル-ウレタン共重合体、天然ゴム、合成ゴムといったものが挙げられるが、耐熱性向上の観点からはガラス転移温度が300℃以下であるもの(ポリイソブテン等)は少量添加にとどめることが好ましく(例えば(A)~(B)成分の合計100質量部に対して5質量部以下等)、添加しないことがさらに好ましい。
【0108】
本組成物の塗布方法としては、スピンコート、スクリーン印刷、各種コーター等の公知の塗布方法を用いることが出来る。本発明の組成物の粘度は、塗布性や作業性の点で、100mPa・s以上が好ましく、1000mPa・s以上がより好ましく、2000mPa・s以上が最も好ましい。本発明の組成物の粘度は、塗布性や作業性の点で、10000mPa・s以下が好ましく、5000mPa・s以下がより好ましく、4000mPa・s以下が最も好ましい。100mPa・s以上だと塗布性、特にスピンコートによる塗布性に優れる。10000mPa・s以下だと作業性に優れる。
【0109】
スピンコートとは、例えば、基板に液状組成物を滴下し、基板を所定の回転数で回転させることにより、組成物を基板表面に塗布する方法である。スピンコートにより、高品質な塗膜を効率良く生産出来る。
【0110】
本発明の組成物は、仮固定用樹脂組成物、仮固定接着剤、粘着シート、又は電子デバイス製造用仮固定接着剤として使用出来る。本発明では、仮固定組成物、仮固定用樹脂組成物、仮固定接着剤を、仮固定剤と総称することもある。
【0111】
本発明の組成物を用いて加工対象基材と光学的に透明なサポート基材(又は支持体)を接着する際は、可視光線若しくは紫外線(波長又は中心波長365~405nm)においてエネルギー量が1~20000mJ/cm2になるように照射することが好ましい。エネルギー量が1mJ/cm2以上だと十分な接着性が得られ、20000mJ/cm2以下だと生産性が優れ、光ラジカル重合開始剤からの分解生成物が発生しにくく、アウトガスの発生が抑制される。生産性、接着性、低アウトガス性、易剥離性の点で、1000~10000mJ/cm2であることが好ましい。
【0112】
本発明の組成物によって接着される基材は、特に制限はないものの、少なくとも一方の基材は光を透過する透明基材が好ましい。透明基材としては、水晶、ガラス、石英、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム等の無機基材、プラスチック等の有機基材等が挙げられる。これらの中では、汎用性があり、大きい効果が得られる点で、無機基材が好ましい。無機基材の中では、ガラス、及び石英から選択される1種以上が好ましい。
【0113】
本発明の組成物は一実施形態において、光硬化型であり、それにより提供される硬化体は優れた耐熱性及び剥離性を有する。本発明の組成物の硬化体は一実施形態において、高温で暴露されてもアウトガス量が少なく、種々の光学部品や光学デバイス、電子部品の接合、封止、コーティングに好適である。本発明の組成物は、耐溶剤性、耐熱性、接着性等といった、多岐にわたる耐久性が必要とされる用途、特に半導体製造プロセス用途に適している。
【0114】
本発明の組成物の硬化体は、室温から高温までの幅広い温度範囲におけるプロセスに使用出来る。プロセス中の加熱温度は、350℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましく、250℃以下が最も好ましい。本発明の仮固定接着剤で接着した接着体は、高いせん断接着力を有するため薄化工程等には耐えることが出来、絶縁膜形成等の加熱工程を経た後には容易に剥離出来る。高温で使用する場合、本発明の組成物の硬化体は、例えば、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上の高温のプロセスで使用出来る。
【0115】
更に本発明では一実施形態において、仮固定接着剤により基材を接着した接着体が得られ、当該接着体に外力を加えることにより剥離出来る効果が得られる。例えば、刃物、シート又はワイヤーを、接合部分に差し込むことにより剥離出来る。
【0116】
更に本発明では一実施形態において、仮固定接着剤により基材を接着した接着体が得られ、当該接着体の光学的に透明な基材側からUVレーザー又はIRレーザーを全面に走査するように照射することにより剥離出来る効果が得られる。
【0117】
<薄型ウエハの製造方法>
本発明の実施形態では、薄型ウエハの製造方法も提供できる。当該製造方法は、半導体回路等を有するウエハと支持体との接着剤層として、上述した仮固定組成物又は仮固定接着剤(以下、単に接着剤又は仮固定剤ということもある)を用いることを特徴とする。本発明の薄型ウエハの製造方法は下記(a)~(e)の工程を有する。
【0118】
[工程(a)]
工程(a)は、表面に回路形成面を有し、裏面に回路非形成面を有するウエハの前記回路形成面を、接着剤を介して、支持体に接合する際に、前記支持体又は回路付きウエハ上にスピンコート法で接着剤を塗布し、もう一方の支持体又は回路付きウエハと真空下で貼り合わせる工程である。
【0119】
回路形成面及び回路非形成面を有するウエハは、一方の面が回路形成面であり、他方の面が回路非形成面であるウエハである。本発明が適用出来るウエハは、通常、半導体ウエハである。該半導体ウエハとしては、シリコンウエハのみならず、窒化ガリウムウエハ、タンタル酸リチウムウエハ、ニオブ酸リチウムウエハ、炭化ケイ素ウエハ、ゲルマニウムウエハ、ガリウム-ヒ素ウエハ、ガリウム-リンウエハ、ガリウム-ヒ素-アルミニウムウエハ等が挙げられる。該ウエハの厚さは、特に制限はないが、600~800μmが好ましく、625~775μmがより好ましい。支持体としては、例えば、光を透過する透明基材が用いられる。
【0120】
[工程(b)]
工程(b)は、接着剤を光硬化させる工程である。前記ウエハ加工体(積層体基板)が形成された後、可視光線若しくは紫外線(波長又は中心波長365nm~405nm)領域においてエネルギー量が1~20000mJ/cm2になるように照射することが好ましい。エネルギー量が1mJ/cm2以上だと十分な接着性が得られ、20000mJ/cm2以下だと生産性が優れ、光ラジカル重合開始剤からの分解生成物が発生しにくく、アウトガスの発生も抑制される。生産性、接着性、低アウトガス性、易剥離性の点で、1000~10000mJ/cm2がより好ましい。
【0121】
組成物の硬化にあたっては、光源としてブラックライトやUV-LEDや可視光-LEDを使用可能であり、例えば以下のような光源を用いることが出来る。ブラックライトとしては、その中心波長にかかわらず、波長350nm以上、好ましくは波長385nm以上の成分を含むライトが好ましく用いられる。なお、本明細書において波長の範囲が記載されているときには、中心波長がその範囲に含まれているか否かで、その範囲に含まれるか否かを判断するものとする。
・ブラックライト(中心波長365nm、照度10mW/cm2、株式会社トーヨーアドテック製TUV-8271)
・UV-LED(波長385±5nm、照度350mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V2-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LEDz(波長395±5nm、照度375mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V3-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LED(波長405±5nm、照度400mW/cm2(条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V4-1S19+専用設計ミラーユニット)
・UV-LED(中心波長405nm、照度10mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)
・可視光-LED(波長451±5nm、照度550mW/cm2(条件:照射ユニット先端からのワークディスタンス10mm)、CCS株式会社製HLDL-155VL450‐PSC)
・可視光-LED(波長492±5nm、照度400mW/cm2(条件:照射ユニット先端からのワークディスタンス10mm)、CCS株式会社製HLDL-155BG‐PSC)
【0122】
好ましい実施形態においては、照射波長が一般にbroadであるため積算光量が多く、照射時間が長くなる傾向にあるブラックライトよりも、積算光量が少なくて済む(照射時間が短くて済む)UV-LED又は可視光-LEDを光源としてよい。すなわち、照射波長がnarrowであるLED光源を使用することで、仮固定を短時間で行い、結果として製造工程に掛かる時間を短縮できるという効果が得られる。
【0123】
[工程(c)]
工程(c)は、支持体と接合したウエハの回路非形成面を研削及び/又は研磨する工程、即ち、工程(a)にて貼り合わせて得られたウエハ加工体のウエハ裏面側を研削して、該ウエハの厚みを薄くする工程である。薄化されたウエハの厚さは、10~300μmが好ましく、30~100μmがより好ましい。ウエハ裏面の研削/研磨加工の方式には特に制限はなく、公知の研削/研磨方式が採用される。研削は、ウエハと砥石(ダイヤモンド刃付き砥石等)に水をかけて、冷却しながら行うことが好ましい。
【0124】
[工程(d)]
工程(d)は、回路非形成面を研削/研磨したウエハ加工体、即ち、裏面研削/研磨によって薄化されたウエハ加工体の回路非形成面に加工を施す工程である。この工程にはウエハレベルで用いられる様々なプロセスが含まれる。例えば、電極形成、金属配線形成、保護膜形成等が挙げられる。より具体的には、電極等の形成のための金属スパッタリング、金属スパッタリング層をエッチングするためのウェットエッチング、金属配線形成のマスクとするためのレジストの塗布、露光、及び現像によるパターンの形成、レジストの剥離、ドライエッチング、金属めっきの形成、TSV形成のためのシリコンエッチング、シリコン表面の酸化膜形成等、従来公知のプロセスが挙げられる。
【0125】
[工程(e)]
工程(e)は剥離工程である。本工程は工程(d)で加工を施したウエハをウエハ加工体から剥離する工程である。例えば、薄化したウエハに様々な加工を施した後、ダイシングする前にウエハ加工体からウエハを剥離する工程である。この際、あらかじめ薄化、加工した面にダイシングテープを貼り付けておくことが出来る。この剥離工程は、一般に室温から60℃程度までの比較的低温の条件で実施される。この剥離工程としては、公知のUVレーザー剥離工程、IRレーザー剥離工程、又はメカニカル剥離工程のいずれも採用することが出来る。好ましくは、UVレーザー剥離工程を使用できる。
【0126】
UVレーザー剥離工程とは、例えば、ウエハ加工体の光学的に透明な支持体側の端部から接線方向に直線状に往復しながら走査するようにUVレーザーを全面に照射してレーザーのエネルギーにより接着剤層を分解させて剥離する工程である。このような剥離工程は、例えば、特表2019-501790号公報や特表2016-500918号公報に記載されている。本発明の仮固定組成物は、特に(D)成分を含み、かつ前記(C)成分及び/又は(D)成分の好ましい要件を満たすことにより、特にUVレーザー剥離工程に適する。
【0127】
IRレーザー剥離工程とは、例えば、ウエハ加工体の光学的に透明な支持体側の端部から接線方向に直線状に往復しながら走査するようにIRレーザーを全面に照射してレーザーのエネルギーにより接着剤層を加熱・分解させて剥離する工程である。このような剥離工程は例えば特許第4565804号公報に記載されている。このIRレーザー剥離工程を実施するために、仮固定剤層とガラス支持体の間にIRレーザー光を吸収して熱に変換する光熱変換層(例えば3M社のLTHC; Light-To-Heat-Conversion release coating)を設けてもよい。3M社のLTHCを用いる場合、例えば、LTHCをガラス支持体上にスピンコートして硬化し、仮固定剤層はウエハ上にスピンコートしてからLTHC層が形成された前記ガラス支持体と貼り合わせてUV硬化することが出来る。3M社のLTHCを用いてIRレーザー剥離工程を実施する方法は、例えば上記と同じ特許第4565804号公報に記載されている。
【0128】
メカニカル剥離工程とは、例えば、ブレードをウエハ加工体の界面端部に挿入してウエハ・支持体間に開裂を発生させるためにウエハ加工体のウエハを下側にして水平に固定しておき、該ブレード挿入後に上方の支持体及び/又は該ブレードに上向きの応力を印加して前記開裂を進展させてウエハ・支持体を剥離させる工程を含む剥離工程である。このような剥離工程は、例えば、特許第6377956号公報や特開2016-106404号公報に記載されている。
【0129】
本発明の実施形態に係る組成物の剥離に当たっては、これらの剥離方法のいずれかが使用出来る。この時、ウエハ加工体のウエハ又は支持体の一方を水平に固定しておき、ブレードを入れることや溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)で接着剤層の外周部を膨潤させて剥離のきっかけを作った後、他方を水平方向から一定の角度を付けて持ち上げることが好ましい。これらの剥離方法は、通常、室温で実施されるが、上限90℃程度で加温することも好ましい。レーザーを用いる場合は、YAGレーザー又はYVO4レーザーを用いることが好ましい。
【0130】
上記の工程(e)の加工を施したウエハを支持体から剥離する工程は、メカニカル剥離工程の場合にはさらに、
(f)加工を施したウエハのウエハ面にダイシングテープを接着する工程と、
(g)ダイシングテープ面を吸着面に真空吸着する工程と、
(h)吸着面の温度が10~100℃の温度範囲で、前記支持体を、加工を施した前記ウエハから剥離する工程と、
を含むことが好ましい。このようにすると、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することが出来、後のダイシング工程を容易に行うことが出来る。
【0131】
またUVレーザー又はIRレーザーで剥離する場合は、当該製造方法がさらに例えば、
(i)加工を施したウエハを光学的に透明な支持体側を上にして、水平な場所に、好ましくはダイシングテープを介して設置/固定する工程と、
(j)加工を施した前記ウエハの支持体側からレーザーを走査するように全面に照射する工程と、
を含むことが好ましい。このようにすると、支持体を、加工を施したウエハから容易に剥離することが出来、後のダイシング工程を容易に行うことが出来る。
【0132】
また、工程(e)の加工を施したウエハを支持体からUVレーザー又はIRレーザーにより剥離する工程の次には、
(k)ウエハの表面に残存している仮固定剤を除去する工程、
を実施する必要がある。仮固定剤の除去方法としては、薄化した面を吸着面に真空吸着させた状態で、もう片方の、仮固定剤が残存している面の全面にダイシングテープのような粘着テープを貼り、そのテープごと仮固定剤を剥離する方法、及びウエハを溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)中に浸漬し、接着剤層を膨潤させて剥離させる方法がある。これらの方法の内、工程数の少なさ、所要時間の短さの点から、テープ剥離方式が好ましい。
【0133】
仮固定剤除去後のウエハは、表面を洗浄せずにそのまま次の工程に進ませることも出来る。洗浄する場合はさらに、
(l)支持体と仮固定剤を除去したウエハを、回路形成面を上にした状態で溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)を用いて洗浄する工程
を行うことが好ましい。
【0134】
工程(k)により、仮固定剤を除去したウエハの回路形成面には、接着剤(仮固定剤)が一部残存している場合がある。又、剥離した支持体は洗浄し再利用することが好ましいが、この支持体の表面にも接着剤残渣が固着している場合がある。これらの接着剤残渣を除去する方法としては、溶剤(例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン等の脂肪族系又は芳香族系炭化水素系の溶剤)に浸漬し、膨潤させて剥離させる方法等が挙げられる。
【0135】
或る実施形態では、上記組成物を硬化して硬化体を得るにあたって、下記のような種々の手法を採用できる。
【0136】
第一の手法として、(A)~(C)成分を含む仮固定組成物からなる層を硬化し、単層硬化体を得ることが可能である。
【0137】
そして第二の手法としては、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含有しかつ(D)成分を含まない仮固定組成物からなる第一の層と、(A)~(D)成分を含む仮固定組成物からなる第二の層とをそれぞれ用意し、硬化させることで、一体化した単層又は多層(複層)を有する硬化体を得る手法が挙げられる。この硬化体では、その厚み方向に関して成分の濃度分布が異なること、又は硬化体の厚み方向に関しての上面と下面において成分の濃度分布が異なっていることが好ましい。成分の濃度分布が異なっていることは、上述した反射率測定分光法により、硬化体の両面についてUV透過率を定量することにより確認可能である。この手法により、光透過性の異なる層を組み合わせることで、最適な硬化を実現可能になる効果が得られる。また上述した硬化にあたっては、光源としてブラックライトやUV-LEDを使用可能である(下記の手法も同様)。ブラックライトの例としては、株式会社トーヨーアドテック製TUV-8271(中心波長365nm、照度10mW/cm2)が挙げられる。またUV-LEDとしては、HOYA株式会社製H-4MLH200-V2-1S19+専用設計ミラーユニット(波長385±5nm、照度350mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのスキャンピッチ20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V3-1S19+専用設計ミラーユニット(波長395±5nm、照度375mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、HOYA株式会社製H-4MLH200-V4-1S19+専用設計ミラーユニット(波長405±5nm、照度400mW/cm2、条件:ミラーユニット先端からのワークディスタンス20mm)、といったものが挙げられる。
【0138】
また第三の手法としては、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む仮固定組成物からなる硬化層の上に、(D)成分を塗布(例えばスピンコートによる塗布)することで、少なくとも部分的に一体化した単層を有する硬化体を得る手法も可能である。この場合、当該硬化体の厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる。成分の濃度分布は、上述したように対象層ごとの反射率測定分光法により定量可能である。この手法により、UV吸収特性を精密に制御できる、といった効果が得られる。
【0139】
また第四の手法として、(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む仮固定組成物からなる層の上に、市販のLTHC剤(光熱変換剤)の層を載せて硬化させることで、多層硬化体を得てもよい。これにより簡便に硬化体を得られるという効果が得られる。
【0140】
上述したような手法で得られた硬化体を、被着体と組み合わせて構造体として提供可能である。
【0141】
上述したような構造体の製造方法としても、種々の例を挙げられる。例えば第一の製造方法には、ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含有しかつ(D)成分を含まない第一の仮固定組成物を塗布し部分硬化させるステップと、上記の部分硬化した仮固定組成物の上に、(A)~(D)成分を含有する第二の仮固定組成物を塗布するステップと、塗布した第二の仮固定組成物の上に透明基板を更に載せ、光硬化させるステップとを含めてよい。
【0142】
また構造体の第二の製造方法として、ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含有しかつ(D)成分を含まない第一の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、透明基板上に(A)~(D)成分を含有する第二の仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、ウエハと透明基板のそれぞれ仮固定組成物を塗布した側の面同士を密着させてから、光硬化により接合するステップと、を含むものがあってもよい。
【0143】
また構造体の第三の製造方法として、ウエハ上に(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含有しかつ(D)成分を含まない仮固定組成物を塗布し、必要に応じて部分硬化させるステップと、透明基板上にLTHC層を塗布し、乾燥し硬化させるステップと、ウエハの仮固定組成物を塗布した側の面と、透明基板のLTHC層を塗布した側の面とを密着させてから、光硬化により接合するステップとを含むものがあってもよい。
【0144】
上記仮固定組成物とは別に、本発明の仮固定組成物に用いられるものと同じ組成物は、特許第4565804号公報に記載のIRレーザー光を吸収して熱に変換する光熱変換(LTHC)層の原料としても使用可能である。本組成物を光熱変換(LTHC)層の成分として加えることで、その耐熱性を向上させることが可能となる。
【0145】
本発明の別な側面としては、仮固定接着剤を半導体ウエハ基材及び/又は支持部材に塗布して、前記半導体ウエハ基材と前記支持部材を接着するステップと、波長350nm~700nm(好ましくは385~700nm、より好ましくは385~500nm、さらにより好ましくは385~450nm)の光を照射することで前記仮固定接着剤を硬化させ、接着体を得るステップと、前記接着体に波長385nm未満のレーザー光(好ましくは波長200nm以上波長385nm未満のレーザー光)を照射して、前記半導体ウエハ基材を剥離するステップとを含む、半導体ウエハの製造方法を提供できる。本製造方法は、硬化及び剥離のステップが共に常温下での工程であり、部材を加熱したり冷却したりする必要が無く、一般的には溶媒等を用いる必要が無く、簡単で、かつタクトタイム(cycle time)が短いという利点がある。
【0146】
さらには、硬化した仮固定接着剤が、前記接着体中で単層を構成してもよい。そうすることで、工程の簡略化やタクトタイム(cycle time)の短縮にとって好ましい。
【0147】
好ましい実施形態においては、上述した好ましい(C)光ラジカル重合開始剤成分と(D)UV吸収剤成分を共に組成物が含むことにより、たとえ単層の仮固定接着剤であっても、早い硬化速度と早い剥離速度を両立させることが可能である。さらに、仮固定接着剤をUV硬化した際に硬化体に残留する未硬化のUV硬化性単量体成分を著しく少なくすることが可能で、硬化体の耐熱性や真空下での揮発分を減少させることが可能となる。すなわち、例えば硬化体のTg/DTA測定における2%加熱質量減少温度を高くすることが可能となる。硬化体の高い耐熱性や、真空下での揮発分を減少させた仮固定接着剤は、最近の半導体製造プロセスにとって極めて有用である。
【実施例0148】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0149】
特記しない限り、23℃、湿度50%で実験した。表1a、1b、2に示す組成(単位は質量部)の硬化性樹脂組成物(以下、液状樹脂組成物ということもある)を調製し、評価した。実験例に記載の硬化性樹脂組成物中の各成分としては、以下の化合物を選択した。
【0150】
(組成)
(A) 環状骨格を含まない2官能(メタ)アクリレートとして、以下の化合物を選択した。
ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレート ビス[6-(アクリロイルオキシ)ヘキサノエート](以下「HPHPAH」と略す;シグマアルドリッチ社製、分子量541)
ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジアクリレート(日本化薬社製「KAYARAD HX-220」、以下「HX-220」と略す、分子量541、炭素数28)
ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールのε-カプロラクトン付加物のジアクリレート(日本化薬社製「KAYARAD HX-620」、以下「HX-620」と略す、分子量783、炭素数40)
1,4-ブタンジオールジアクリレート(大阪有機化学工業社製「ビスコート#195」、以下「#195」と略す、分子量198、炭素数10)
【0151】
(B) 環状骨格を有する2官能(メタ)アクリレートとして、以下の化合物を選択した。
エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート(2,2-ビス(4-アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、固体、分子量424、式(1)において、R1、R2は水素原子、m及びnは1を表す。以下「BPE」と略記する)
フルオレン骨格を有するジアクリレート(9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート、新中村化学社製「NKエステルA-BPEF-2」、以下「A-BPEF-2」と略す、固体、分子量546)
【0152】
(C) 光ラジカル重合開始剤として、以下の化合物を選択した。
ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド(BASF社製「Irgacure 819」)
1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)(BASF社製「Irgacure OXE-02」、以下「OXE-02」と略す)
【0153】
(D) UV吸収剤として以下の化合物を選択した。
2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチルオキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチルオキシフェニル)-1,3,5-トリアジン(BASF社製「Tinuvin 460」、分子量630)
【0154】
酸化防止剤として、以下の化合物を選択した。
4-((4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イル)アミノ)-2,6-ジ-t-ブチルフェノール(BASF社製「IRGANOX 565」)
【0155】
(液状サンプル作製)
材料を80℃で加温混合することで均一な混合物とした。
【0156】
(365nmUV-LEDを用いた硬化サンプル作製)
上記の加温混合により均一化した液状樹脂組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μm(後述の弾性率測定用サンプルのみ0.5mm)になるまで押し広げ、積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化させ、硬化体を作製した。硬化にはUV-LED(中心波長365nm、照度100mW/cm2、CCS社製HLDL-120U6-NWPSC)を用いた。
【0157】
(405nmUV-LEDを用いた硬化サンプル作製)
上記の加温混合により均一化した液状樹脂組成物をPETフィルムに挟み込み、厚さ50μm(後述の弾性率測定用サンプルのみ0.5mm)になるまで押し広げ、積算光量5000mJ/cm2の条件にて硬化させ、硬化体を作製した。硬化にはUV-LED(中心波長405nm、照度100mW/cm2、CCS社製HLDL-120V0-NWPSC)を用いた。
【0158】
UVレーザー剥離プロセス適合性評価用試験体の作製工程:作製した液状樹脂組成物を、自動ウエハボンダー中で8インチシリコンウエハ(直径200mm×厚さ0.725mm)上に厚さが50μmになる条件でスピンコートし、次に同装置内で10Paの減圧条件下で8インチガラスウエハ(直径201mm×厚さ0.7mm)と接合した。接合後、ガラスウエハ側から上記のいずれかのUV光源を用いて該液状樹脂化合物を硬化させ、接着体を得た。次に、得られた接着体のシリコンウエハ面を研削研磨して厚さ50μmまで薄化した後、300℃、20Paの高温減圧環境下で1時間加熱処理を行った。
【0159】
(評価)
液状樹脂組成物の材料の相溶性(表1a、1b、2中の「材料の相溶性」、「吸光度」):
上記の加温混合により均一化した仮固定組成物を23℃まで冷やして均一状態が維持されるかを確認した。日本分光株式会社製の紫外可視分光光度計V-650を用い、光路長方向の幅10mmのセルに入れたサンプルの、波長660nmでの吸光度(OD660)を測定した。吸光度が0.1未満の場合は相溶で可、0.1以上の場合、及び目視で相分離等の不均一化が確認された場合は非相溶で不可とした。吸光度は、相溶性の点で、0.1未満が好ましい。なお、「不可」になった例については以降の評価を省略した。以下も同様である。
【0160】
粘度(表1a、1b、2中の「スピンコートプロセス適合性」、「粘度」):
上記「材料の相溶性」において、23℃で均一状態が維持される液状樹脂組成物の粘度を測定し、実際のプロセスで想定される基材上面へのスピンコートに対する適合性を評価した。Anton-Paar社製レオメーターMCR302を用い、コーンプレートCP50-2を用いて23℃の温度条件で粘度を測定した。せん断速度が1s-1の点でのせん断粘度が1000mPa・s以上4000mPa・s未満であるものを優、4000mPa・s以上10000mPa・s以下、又は、100mPa・s以上1000mPa・s未満であるものを可、10000mPa・sを超える、又は、100mPa・s未満であるものを不可とした。粘度は、スピンコートプロセスへの適合性の点で、100~10000mPa・sが好ましい。なお、「不可」になった例については以降の評価を省略した。以下も同様である。
【0161】
硬化体の窒素雰囲気下2%加熱質量減少温度(表1a、1b、2中の「耐熱性1」、「硬化体の窒素雰囲気下2%加熱質量減少温度」):
得られた硬化体2~10mgを、ネッチ・ジャパン株式会社製示差熱・熱質量同時測定装置「TG-DTA STA-2500」により、窒素気流下、昇温速度10℃/分で30℃から600℃まで昇温し、得られた硬化体の加熱質量減少率を測定した。硬化体の2%加熱質量減少温度を示した。300℃以上の値を示したものを優、250℃以上300℃未満の値を示したものを良、200℃以上250℃未満の値を示したものを可、200℃未満の値を示したものを不可とした。
【0162】
減圧条件下での2%加熱質量減少温度(表1a、1b、2中の「耐熱性2」、「硬化体の減圧下2%加熱質量減少温度」):
得られた硬化体2~5mgを、ネッチ・ジャパン株式会社製示差熱・熱質量同時測定装置「TG-DTA STA-2500」により、減圧条件下30~100Paにおいて、昇温速度10℃/分で30℃から600℃まで昇温し、得られた硬化体の加熱質量減少率を測定した。硬化体の2%加熱質量減少温度を示した。250℃以上の値を示したものを優、200℃以上250℃未満の値を示したものを良、150℃以上200℃未満の値を示したものを可、150℃未満の値を示したものを不可とした。加熱質量減少率が2%となる温度は、半導体製造高温工程適合性の点で、150℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。
【0163】
減圧条件下での圧力変化(表4中の「アウトガス性」、「300℃到達時の圧力」):
4インチシリコンウエハ上に50μm厚みのPTFEをΦ3インチにくり抜いたΦ4インチシートを置き、くり抜き部分に液状樹脂組成物を塗布し、PETシート、4インチウエハと積層し、LED積算光量5000mJ/cm2(中心波長405nm、照度100mW/cm2)の条件にて硬化させた。LEDは、4インチガラスウエハ表面から照射した。硬化後、PETフィルムをはがし、ウエハと樹脂組成物の積層体をφ1cmに切り出し、試験片とした。真空中加熱ガス抽出・質量分析装置TE-360S型により、1~2×10-6Paの減圧条件下、昇温速度10℃/分で50℃から600℃まで昇温し、アウトガスによる圧力上昇を測定した。300℃到達までに圧力が5×10-6Pa未満を保持したものを優、5×10-6以上1×10-5Pa未満を保持したものを良、1×10-5以上5×10-4Pa未満を保持したものを可、5×10-4Pa以上に達したものは不可とした。半導体製造高温工程適合性の点で、5×10-4Pa未満が好ましく、5×10-6Pa未満がより好ましい。
【0164】
高温での接着性(表1a、1b、2の「高温条件下(300℃・1h・減圧20Pa)での接着性」、「外縁部の変色の幅」、「加熱による剥離」):作製した液状樹脂組成物を用いて、4インチシリコンウエハ(直径10cm×厚さ0.47mm)と4インチガラスウエハ(直径10cm×厚さ0.7mm)を貼り合わせた。貼り合わせに際し、樹脂組成物の厚みは仮固定剤に宇部エクシモ社製のシリカ粒子(商品名ハイプレシカ TS N3N 平均粒径50μm)を0.1質量%添加し、混合したものを用いることで調整した。貼り合わせ後、LED積算光量5000mJ/cm2(中心波長405nm、照度100mW/cm2)の条件にて硬化させ、高温減圧条件下での接着性評価用試験片を作製した。接着剤は貼り合わせ面の全面に塗布した。LEDは、4インチガラスウエハ表面から照射した。完成した試験片をMSAファクトリー社製真空ホットプレートチャンバー内のホットプレート上に4インチシリコンウエハ側を下にして載せて加熱し、外縁部の変色領域のウエハ中心方向への幅、及びガラス側から目視で確認出来る剥離の有無を観察した。20Paの減圧下、ホットプレートの温度は300℃、加熱継続時間は1時間とした。表1a、1b、2の「高温条件下(300℃・1h・減圧20Pa)での接着性」において、剥離や変色がないものは優、剥離または変色領域の外縁部から中心方向への広がりの幅が5mm以下のものは良、5mmより大きく10mm以下のものは可、それ以上の剥離や変色がみられたものは不可とした。
【0165】
(1)UVレーザー剥離プロセス適合性(表1a、1b、2の「UVレーザー剥離性」、「完全剥離達成所要時間最小値」、及び表3の「UVレーザー照射条件」):得られた8インチ試験体のガラス支持体側から該試験体全面を走査するように、同試験体を中心に固定した210mm四方の面積にUVレーザーを照射した。UVレーザー照射条件として表3に示す各条件を、表1a、1bの実施例それぞれに対して順次適用し評価を行った。UVレーザーは株式会社クォークテクノロジー製QLA-355を、出力9.3W、パルスエネルギー235μJ、エネルギー密度11968mJ/cm2、周波数40kHz、ビーム径(スポット径)50μm、スキャンピッチ500μm、スキャン速度20m/sという表3の条件番号9に示した条件で使用した(表3は、この最適な条件を検討するための試行を記載したものである)。照射後の剥離性は、接着力が完全に失われていてガラス支持体がシリコンウエハ上を自由に滑る(又は動く)状態になっているもの(接着力=0)を完全剥離と定義し、この完全剥離の状態を得るのに必要なUVレーザー照射プロセスの所要時間の最小値によってUVレーザー剥離プロセス適合性を評価した。同所要時間の最小値が15秒未満のものを優、15秒以上30秒未満のものを良、30秒以上60秒未満のものを可、60秒以上を不可とした。
【0166】
【0167】
【0168】
【0169】
【0170】
【0171】
表1a、1bと表4の実施例及び表2の比較例の結果から、本発明の樹脂組成物は、相溶性、スピンコートプロセス適合性、耐熱性に優れる組成物であることが分かる。
すわなち、比較例1のように(B)成分を用いなかった場合、スピンコートプロセス適合性が得られない。また、比較例2、3のように(A)成分を用いなかった場合、固体となってしまい、やはりスピンコートプロセスに不適であった。
【0172】
また表4の結果から、本発明の組成物が、アウトガス性にきわめて優れることがわかる。
【0173】
本発明の樹脂組成物は、材料の相溶性とスピンコートに際して必要な最低粘度が確保出来ており、室温及び高温条件での接着性、耐熱性及び剥離性に優れる。
【0174】
本実施例に係る樹脂組成物は、UVレーザー剥離プロセスに対する適合性、及びメカニカル剥離プロセスに対する適合性を有する。上記実施例に記載の方法で作製したシリコンウエハ/ガラス支持体積層体の端部の基材界面に開裂発生用の薄くて鋭利な金属のブレードを挿入してからガラス支持体を上側にして水平に固定しておき、ブレード挿入後に上方の支持体に上向きの応力を印加して前記開裂を進展させてウエハ・支持体を剥離させる方法により、剥離が可能であった。
【0175】
又、剥離に要するエネルギーの評価方法として、上記同様に薄くて鋭利なブレードを一定距離だけ挿入し、その時に開裂が進展する距離を測定するMaszara試験という方法を用いた。同試験においても、実施例1の組成の液状樹脂を用いて接合したサンプルは充分に低い値を示す。
【0176】
本実施例に係る樹脂組成物は、UVレーザー剥離プロセスに対する適合性を有する。上記実施例に記載の方法で作製したシリコンウエハ/ガラス支持体積層体について、シリコンウエハを下側にして固定装置に固定し、ガラス支持体側から株式会社クォークテクノロジー製UVレーザーQLA-355を、出力9.3W、周波数40kHz、スキャンピッチ200μm、ビーム径50μmで照射後、上記(3)メカニカル剥離プロセス適合性評価と同じ手順で剥離力を測定したところ、剥離力UV照射前は3Nだった値が0Nまで低下していた。
本発明の組成物は、種々の電子部品、光学部品や光学デバイスの製造において、紫外線又は可視光線を照射するだけで容易に強い接着性を発現するために、作業性、生産性に優れる。本発明の組成物の硬化体は、更に250℃という高温でもアウトガスの量が極めて少ない。本発明の組成物は、加工後に剥離することが容易である。そのため、本発明の組成物を用いて接着した種々の電子部品、光学部品、光学デバイスは、200℃を超えるような高温での蒸着処理や、高温での焼付塗装が施される場合でも、適用可能である。
ICや抵抗、インダクタ等の電子部品以外にイメージセンサ等の光学部品も回路基板への表面実装が適用されるようになっている。その場合は高温のハンダリフローに通される。近年、特にハンダの鉛フリー化に伴い、ハンダリフローの温度条件も厳しくなってきている。このような生産工程において、光学部品や光学デバイスの品質を高めるために、又は、生産性や生産歩留まりを高めるために、本発明の組成物の使用箇所は、高温加熱処理に十分に耐えることが要求される。本発明の組成物を使用して製造された光学部品や光学デバイスは、前記高温加熱処理に十分耐えることができるため、産業上大変有用である。
(A)成分が、脂肪族炭化水素骨格を有するか若しくはヒドロキシ基を有する脂肪族炭化水素骨格を有するか、並びに/又はエステル骨格を有する2官能(メタ)アクリレートである、請求項1又は2に記載の仮固定組成物。
(C)成分が、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリン-4-イルフェニル)-ブタン-1-オン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタンジオン 2-O-ベンゾイルオキシム、及び1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]エタノン 1-(O-アセチルオキシム)からなる群から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の仮固定組成物。
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含み、かつ(D)成分を含まない仮固定組成物からなる第一の硬化層と、請求項2に記載の仮固定組成物からなる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。
(A)成分、(B)成分、及び(C)成分を含む請求項1に記載の仮固定組成物を硬化した第一の硬化層と、前記第一の硬化層の上にUV吸収剤を塗布して得られる第二の硬化層とを有し、厚み方向に関して成分の濃度分布が異なる硬化体。