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特開2024-99749MPSIおよびMPSIIならびに他の神経障害において神経機能を改善するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099749
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】MPSIおよびMPSIIならびに他の神経障害において神経機能を改善するための方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 48/00 20060101AFI20240718BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240718BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20240718BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/55 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20240718BHJP
   C12N 9/14 20060101ALI20240718BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20240718BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALN20240718BHJP
【FI】
A61K48/00
A61P25/00 ZNA
A61P19/00
A61P1/16
A61P9/00
A61P11/00
A61P37/06
A61K35/76
C12N15/864 100Z
C12N15/55
C12N15/12
C12N7/01
C12N9/14
C07K14/47
A61K31/7088
【審査請求】有
【請求項の数】32
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072000
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2022193375の分割
【原出願日】2017-11-15
(31)【優先権主張番号】62/422,453
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/422,436
(32)【優先日】2016-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/458,248
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/458,259
(32)【優先日】2017-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】518278029
【氏名又は名称】リジェネクスバイオ インコーポレイテッド
(71)【出願人】
【識別番号】507197708
【氏名又は名称】リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ ミネソタ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ラオハラウィー カナット
(72)【発明者】
【氏名】ポデッツ-ペデルセン ケリー エム.
(72)【発明者】
【氏名】コザルスキ カレン
(72)【発明者】
【氏名】マカイバー アール. スコット
(72)【発明者】
【氏名】ベルアー ラリッサ アール.
【テーマコード(参考)】
4B065
4C084
4C086
4C087
4H045
【Fターム(参考)】
4B065AA90Y
4B065AA95X
4B065AA95Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA31
4B065CA44
4C084AA01
4C084AA02
4C084AA13
4C084MA65
4C084MA66
4C084NA13
4C084NA14
4C084ZA02
4C084ZA36
4C084ZA59
4C084ZA75
4C084ZA96
4C084ZB08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA65
4C086MA66
4C086NA13
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA59
4C086ZA75
4C086ZA96
4C086ZB08
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC83
4C087CA12
4C087MA65
4C087MA66
4C087NA13
4C087NA14
4C087ZA02
4C087ZA36
4C087ZA59
4C087ZA75
4C087ZA96
4C087ZB08
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA89
4H045EA20
4H045FA74
(57)【要約】
【課題】中枢神経系障害、例えば、MPSIまたはMPSIIに関連する1つまたは複数の神経症状を、阻止する、阻害する、または処置する方法を提供する。
【解決手段】哺乳動物の中枢神経系に、神経認知衰退を阻止もしくは阻害する、神経認知を増強する、または神経機能を回復するのに有効な遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む、ある量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物を投与する工程による、方法とする。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、中枢神経系の障害を症状発現しているか、またはそれを有するリスクがある哺乳動物において、神経認知衰退を阻止もしくは阻害する、神経認知を増強する、または神経機能を回復する方法:
該哺乳動物の中枢神経系に、
神経認知衰退を阻止もしくは阻害する、神経認知を増強する、または神経機能を回復するのに有効な遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む、ある量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物
を投与する工程。
【請求項2】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記哺乳動物が成体ではない、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヒトが、約6歳~約13歳である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒトが、約4か月齢~約5歳である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒトが、2.5歳未満である、請求項2または3に記載の方法。
【請求項7】
前記ヒトが、骨髄移植または酵素補充療法を受けたことがある、請求項2~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記哺乳動物が、ムコ多糖症I型(MPSI)、ムコ多糖症II型(MPSII)、脊髄筋萎縮症、またはバッテン病を有するか、またはそれを有するリスクがある、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記オープンリーディングフレームが、IDUA、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)、サバイバー運動ニューロン-1(SMN-1)、またはセロイドリポフスチン症タンパク質(CLN)をコードする、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記量が、脳におけるGAGレベルを低減させる、または、水無脳症を阻止するかもしくは低減させる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記量が、骨格形成異常または脊髄圧迫症を減少させるかまたは阻止する、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記量が、肝脾腫大を減少させる、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記量が、心肺閉塞を減少させる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記哺乳動物が、免疫抑制剤で処置されない、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物が、免疫抑制剤で処置される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
rAAVおよび免疫抑制剤が同時投与されるか、または、免疫抑制剤がrAAVの後に投与される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記哺乳動物が、rAAVの投与の前に免疫寛容化されていない、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
前記哺乳動物が、rAAVの投与の前に免疫寛容化されている、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記哺乳動物が、免疫適格性である、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記rAAVベクターが、rAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAAVrh10、またはrAAV9ベクターである、請求項1~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
イズロナート-2-スルファターゼをコードするrAAVが、スルファターゼ修飾因子1をさらにコードする、請求項9に記載の方法。
【請求項22】
イズロナート-2-スルファターゼをコードするrAAVと共に、スルファターゼ修飾因子1をコードするrAAVを投与する工程をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項23】
複数用量が投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、毎週投与される、請求項1~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記rAAVが、rAAV9またはrAAVrh10である、請求項1~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記rAAVが、くも膜下腔内、脳室内、または静脈内に投与される、請求項1~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記rAAVが、大槽に投与される、請求項1~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記免疫抑制剤が、シクロホスファミド、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに対して活性を有する作用物質、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)もしくはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤を含む、請求項15~27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
投与されるrAAVの量が、約1.3×1010 GC/g脳質量~約6.5×1010 GC/g脳質量である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
投与されるrAAVの量が、約1×1013~5.6×1013 GC(1哺乳動物あたりの一律用量)である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
投与されるrAAVの量が、約1×1012~約5.6×1013 GC(1哺乳動物あたりの一律用量)である、請求項1~28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記rAAVが、くも膜下腔内に投与される、請求項29~31のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年2月13日に出願された米国特許出願62/458,248号、2017年2月13日に出願された米国特許出願第62/458,259号、2016年11月15日に出願された米国特許出願第62/422,453号、および2016年11月15日に出願された米国特許出願第62/422,436号の出願日の恩典を主張し、これらの開示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府権利の陳述
本発明は、National Institutes of Healthによって授与されたHD032652の下、政府支援で行われた。政府は、本発明においてある一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
背景
ムコ多糖症(MPS)は、グリコサミノグリカン(GAG)の異化における破壊によって引き起こされ、リソソームにおけるそれらの蓄積がもたらされる、11種類の蓄積症の群である(Muenzer, 2004;Munoz-Rojas et al., 2008)。変動する重症度の症状発現には、臓器腫大、骨格形成異常、心臓および肺の閉塞、ならびに神経衰退が含まれる。イズロニダーゼ(IDUA)の欠損症であるMPS Iについて、重症度は、軽度(シャイエ症候群)から中等度(ハーラー-シャイエ)、重篤(ハーラー症候群)までの範囲にわたり、後者は、神経学的欠損および15歳までの死亡を結果としてもたらす(Muenzer, 2004;Munoz-Rojas et al., 2008)。MPSのための治療法は、大半が対症的である。しかし、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)が効力を呈している、ハーラー症候群を含むいくつかのMPS疾患がある(Krivit, 2004;Orchard et al., 2007;Peters et al., 2003)。追加的に、ますます多くのMPS疾患について、酵素補充療法(ERT)が利用可能になってきている(Brady, 2006)。概して、HSCTおよびERTは、貯蔵物質の一掃および改善された末梢状態を結果としてもたらすが、いくつかの問題が処置後に持続する(骨格、心臓、角膜混濁)。これらの細胞療法および酵素療法における主たる難題は、神経症状発現に対処する際の有効性であり、それは、末梢に投与された酵素が、血液脳関門を貫通しないためであり、HSCTは、すべてではないがいくつかのMPSにとって有益であることが見出されている。
【0004】
MPS Iは、細胞療法および分子療法の開発のために、MPS疾患の最も広範囲にわたって研究されているものの1つである。同種異系HSCTの有効性は、代謝交差補正の結果である可能性が最も高く、それによって、失われている酵素が、ドナー由来の細胞から放出され、その後、宿主細胞によって取り込まれてリソソームに輸送され、そこで、酵素がリソソーム代謝に寄与する(Fratantoni et al., 1968)。GAG貯蔵物質の一掃が、その後、肝臓および脾臓などの末梢臓器において観察され、心肺閉塞からの解放および角膜混濁の改善がある(Orchard et al., 2007)。MPS疾患における神経症状発現の出現に対する同種異系幹細胞移植の効果は、特に重要である。この点において、同種異系幹細胞が生着した個体が、移植されていない患者との比較において改善された転帰に直面する、数種類のMPS疾患についての証拠がある(Bjoraker et al., 2006;Krivit, 2004;Orchard et al., 2007;Peters et al., 2003)。同種異系造血幹細胞移植の神経学的有益性を説明する中心的な仮説は、ドナー由来の造血細胞(ミクログリアの可能性が最も高い)の中枢神経系中への浸透であり(Hess et al., 2004;Unger et al., 1993)、そこで、失われている酵素が生着した細胞によって発現され、その点から、酵素がCNS組織中に拡散して、貯蔵物質の一掃に関与する。CNS組織に提供される酵素のレベルは、このように、脳に生着しているドナー由来の細胞から発現され、放出される量に限定される。そのような生着は、MPS Iにとって大きく有益であるが、レシピエントは、それでもなお、正常よりも下のIQおよび損なわれた神経認知能力を呈し続ける(Ziegler and Shapiro, 2007)。
【0005】
代謝交差補正の現象はまた、数種類のリソソーム蓄積症についてのERTの有効性も説明し(Brady, 2006)、最も著しくはMPS Iである。しかし、CNSに有効に到達するためには、特定のリソソーム蓄積症(LSD)において失われている酵素が血液脳関門(BBB)を通過する必要があり、リソソーム蓄積症(LSD)の神経症状発現に対する酵素療法の有効性は観察されていない(Brady, 2006)。酵素は、BBBを有効に横切るには、ほぼ常に大きすぎ、かつ概して荷電しすぎている。これにより、侵襲的くも膜下腔内酵素投与への調査が促され(Dickson et al., 2007)、それについては、MPS Iのイヌモデルにおいて有効性が実証されており(Kakkis et al., 2004)、MPS Iのためにヒト臨床試験が始まっている(Pastores, 2008;Munoz-Rojas et al., 2008)。酵素療法の主な短所には、その高い費用(1年あたり200,000ドルよりも高い)、および組換えタンパク質の反復注入の必要性が含まれる。くも膜下腔内IDUA投与の現在の臨床試験は、3か月ごとに1回のみ、酵素を注射するように設計されており、そのためこの投薬レジメンの有効性は、不確定のままである。
【0006】
別のMPSである、ハンター症候群(ムコ多糖症II型;MPS II)は、組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を特徴とするイズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損によって引き起こされ、骨格形成異常、肝脾腫大、心肺閉塞、および神経衰退を結果としてもたらす、X連鎖潜性遺伝性リソソーム病である。患者の標準治療は、酵素補充療法(ERT)であるが、ERTは、神経学的改善と関連していない。MPS II(ハンター症候群)の神経症状発現については、現在、既存の許容される治療法がない。
【発明の概要】
【0007】
概要
IDS欠損症のマウスモデルにおいて、若い8週齢マウス中へのAAV9.hIDSの脳室内(ICV)投与は、IDS欠損対照同腹子と比較して、補正的レベルのhIDS酵素活性、GAG貯蔵のほぼ野生型(WT)レベルへの低減、および神経認知機能不全の阻止を結果としてもたらした。神経症状発現の出現が若い成体において阻止できたため、AAV9.hIDSのICV投与によって2か月齢または4か月齢で処置した、より高齢の成体MPS II動物が、神経行動学的機能を回復し、補正されたレベルのIDS酵素活性およびGAG貯蔵を示し得ると仮定された。本明細書において開示されるように、ICV注射の4週間後まで、循環におけるIDS酵素活性は、WTレベルの1000倍であった(0.39+/-0.04 nmol/hr/mlと比較して305+/-85 nmol/hr/mL)。36週齢で、処置動物を、バーンズ迷路において神経認知機能について試験した。処置動物の動作は、罹患していない同腹子のものと区別不能であり、無処置MPS IIマウスと比較して有意に改善された。4か月齢までに失われる認知機能を、このように、IDSをコードするAAV9の脳脊髄液への送達によって、MPS IIマウスにおいて修復させることができる。これらの結果の興味深い意味合いは、ヒトMPS IIが、CNSへのAAV媒介性IDS遺伝子移入によって神経症状発現の発生後に処置可能であるかもしれないという見通しである。このように、CNSへのアデノ随伴ウイルス媒介性IDS遺伝子移入は、MPS IIのマウスモデルにおいて神経機能不全の発生を阻止した。注目すべきことに、CNSへのAAV媒介性IDS遺伝子移入はまた、疾患の症状発現が既に発生している動物に投与した時に、神経機能の回復を結果としてもたらした。このように、MPS IIにおける神経機能の回復は、神経学的欠損症の症状発現が既に出現した後に、CNS中へのIDS遺伝子移入によって達成することができ、そのため、ハンター症候群を有する患者は、この様式で、神経症状の発症後でさえも処置され得る。
【0008】
1つの態様において、本発明は、哺乳動物において神経認知機能不全を阻止、阻害、もしくは処置する、神経認知を増強する、神経機能を回復する、または神経認知衰退を阻止するための、AAVを介した治療用タンパク質のCNSへの送達を提供する。1つの態様において、哺乳動物は、MPSIIを有するか、またはそれを有するリスクがある、例えば、症状が出る前である。1つの態様において、哺乳動物は、MPSIを有するか、またはそれを有するリスクがある、例えば、症状が出る前である。1つの態様において、rAAVは、神経認知機能不全を阻止、阻害、もしくは処置するため、または神経認知機能を修復(増強)するために哺乳動物に、くも膜下腔内に(IT)、血管内に(IV)、または脳室内に(ICV)送達される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫抑制に供される。1つの態様において、哺乳動物は、寛容化に供される。1つの態様において、例えば成体哺乳動物において、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、および/または処置する方法が提供される。1つの態様において、哺乳動物は、寛容化に供される。1つの態様において、例えば非成体哺乳動物において、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、および/または処置する方法が提供される。1つの態様において、rAAVは、乳児(例えば、3歳以下、例えば、3、2.5、2、もしくは1.5歳未満であるヒト)、前青年(例えば、10、9、8、7、6、5、もしくは4歳未満であるが、3歳よりも大きいヒト)、または成人(例えば、約12歳よりも年長のヒト)に投与される。
【0009】
1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。AAVベクターは、それがCNS/脳に送達されること、および導入遺伝子が対象のCNS/脳において成功裡に形質導入されることを確実にするために、様々なやり方で投与することができる。CNS/脳への送達の経路には、くも膜下腔内投与(例えば、大槽を介したまたは腰椎穿刺を介した)、頭蓋内投与、例えば、脳室内投与または側脳室投与、血管内投与、および実質内投与が含まれるが、それらに限定されない。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。1つの態様において、MPSIIを有するか、またはそれを有するリスクがある患者、例えば、約4か月齢~約5歳のヒトは、約1.3×1010ゲノムコピー(GC)/g脳質量~約6.5×1010 GC/g脳質量を投与される。1つの態様において、MPSIIを有するか、またはそれを有するリスクがある患者、例えば、4か月齢以上約9か月齢までのヒトは、約7.8×1012一律用量~約3.9×1013一律用量が投与され;9か月齢以上約18か月齢までは、約1.3× 1013一律用量~約6.5×1013一律用量が投与され;約18か月齢以上約3歳以下は、約1.4×1013~約7.2×1013一律用量が投与され;または、3歳以上は、約1.7×1013~約8.5×1013一律用量が投与され、例えば、クモ膜下腔内に、および任意で、大槽を介してまたは腰椎穿刺を介してである。用量は、約5~約20 mLの体積中であることができる。
【0010】
1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVセロタイプ9(rAAV9)ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある成体哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームおよびSUMF-1をコードするオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある成体哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。例えば、AAV9-IDSは、免疫適格性であるか、免疫欠損であるか、例えば、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制されているか、またはIDSタンパク質の注射によって免疫寛容化されているかのいずれかである成体IDS欠損マウスの側脳室中への直接注射によって、投与されてもよい。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0011】
このように、本発明は、哺乳動物のCNSにおいて発現された時に治療効果を有する遺伝子産物をコードする、組換えAAV(rAAV)ベクターの使用を含む。1つの態様において、哺乳動物は、CNSの疾患または障害(神経疾患)を有する免疫適格性哺乳動物である。本明細書において用いられる「免疫適格性」哺乳動物とは、自然免疫、および、例えば妊娠中または授乳を介した母親に由来する免疫を有する新生児とは対照的に、ポリクローナル刺激に応答したTh1機能の上方制御またはIFN-γ産生によって、抗原刺激への曝露後に細胞性免疫応答および体液性免疫応答の両方が惹起される齢数の哺乳動物である。免疫欠損症を有さない成体哺乳動物が、免疫適格性哺乳動物の例である。例えば、免疫適格性のヒトは、典型的には、少なくとも1、2、3、4、5、または6か月齢であり、免疫欠損症を有さない成体ヒトを含む。1つの態様において、AAVは、くも膜下腔内に投与される。1つの態様において、AAVは、頭蓋内に(例えば、脳室内に)投与される。1つの態様において、AAVは、浸透エンハンサーを伴ってまたは伴わずに投与される。1つの態様において、AAVは、浸透エンハンサーを伴ってまたは伴わずに、血管内に投与され、例えば頸動脈投与である。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、例えば、AAVが投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、免疫抑制剤が、免疫抑制を誘導するために投与される。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0012】
1つの態様において、本発明は、神経認知機能不全を含み得る神経疾患を有する哺乳動物において、分泌タンパク質を増大させる方法を提供する。方法は、分泌タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物におけるその発現が、疾患または機能不全を有するがrAAVが投与されていない哺乳動物と比べて、神経認知を増強する、工程、を含む。1つの態様において、前記rAAVまたは異なるrAAVは、神経保護タンパク質、例えば、GDNFまたはニュールツリンをコードする。1つの態様において、前記rAAVまたは異なるrAAVは、抗体をコードする。1つの態様において、哺乳動物は、免疫抑制剤で処置されていない。別の態様において、例えば、治療用タンパク質の活性を中和する免疫応答を生成し得る対象において、哺乳動物は、免疫抑制剤、例えば、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性を有する作用物質、例えば、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)もしくはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤で処置される。1つの態様において、rAAVおよび免疫抑制剤は、同時投与されるか、または、免疫抑制剤が、rAAVの後に投与される。1つの態様において、免疫抑制剤は、くも膜下腔内に投与される。1つの態様において、免疫抑制剤は、脳室内に投与される。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAA rh10、またはrAAV9ベクターである。1つの態様において、組成物の投与の前に、哺乳動物が免疫寛容化される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0013】
1つの態様において、本発明は、哺乳動物において神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置する方法を提供する。方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物におけるその発現が、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置する、工程、を含む。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0014】
1つの態様において、MPSIIを有する哺乳動物において神経認知機能を増強するかまたは修復する方法が提供される。方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に、くも膜下腔内に、例えば腰椎領域に、または脳室内に、例えば側脳室に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、を含む。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体哺乳動物である。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の非成体哺乳動物である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0015】
1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に、くも膜下腔内に、例えば大槽にまたは腰椎槽に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を修復するかまたは増強する、工程、および任意で、浸透エンハンサーを投与する工程、を含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の前に投与される。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の後に投与される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV-1、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV rh10、またはAAV-9ベクターである。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVがくも膜下腔内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVがくも膜下腔内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVがくも膜下腔内に投与されるが、免疫寛容化または免疫寛容に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0016】
1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を免疫適格性哺乳動物に、脳室内に、例えば側脳室に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、を含む。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV5ベクターではない。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが脳室内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVが脳室内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVが脳室内に投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、哺乳動物は、AAVを含む組成物が投与される前に、遺伝子産物に対して免疫寛容化される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0017】
さらに、哺乳動物においてMPSIIと関連する神経認知機能を増強するかまたは修復する方法が提供される。方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレーム、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現を含むrAAVベクターの有効量、および任意で、浸透エンハンサーの有効量を含む組成物を哺乳動物に、血管内に投与する工程を含む。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウレルエーテル、またはEDTAを含む。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV5ベクターではない。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は毎週投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが血管内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAVの投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVが血管内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVが血管内に投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0018】
1つの態様において、方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を成体哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、および任意で、浸透エンハンサーを投与する工程を含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の前に投与される。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の後に投与される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、例えば、AAVが投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルのIDUAタンパク質発現を誘導するために、免疫寛容化または免疫抑制に供される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0019】
1つの態様において、本明細書に記載される方法は、IDSをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある免疫適格性の成体ヒトのCNSに送達する工程を含む。CNS/脳への投与の経路には、くも膜下腔内投与、頭蓋内投与、例えば、脳室内投与または側脳室投与、投与、血管内投与、および実質内投与が含まれるが、それらに限定されない。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDSが投与されていないMPSIIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、200、または500倍以上、最大で1000倍多いIDSの増加を結果としてもたらす。
【0020】
IDUA欠損症のマウスモデルにおいて、AAV9.hIDUAの脳室内(ICV)投与は、神経学的欠損症の症状発現が既に出現した後で、神経機能の回復を結果としてもたらした。このように、注目すべきことに、CNSへのAAV媒介性IDUA遺伝子導入は、疾患の症状発現を既に発症している動物に投与された時に、神経機能の回復を結果としてもたらした。そのため、MPS I障害、例えば、ハーラー症候群、ハーラー-シャイエ症候群、またはシャイエ症候群を有する患者は、この様式で、神経症状の発症後でさえも処置され得る。
【0021】
1つの態様において、本発明は、MPS Iを有する哺乳動物において神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置するための、AAVを介した治療用タンパク質のCNSへの送達を提供する。1つの態様において、rAAVは、神経認知機能不全を阻止、阻害、もしくは処置するため、または神経認知機能を修復する(増強する)ために哺乳動物に、くも膜下腔内に(IT)、例えば大槽を介してまたは腰椎穿刺によって、血管内に(IV)、または脳室内に(ICV)送達される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫抑制に供される。1つの態様において、哺乳動物は、寛容化に供される。1つの態様において、例えば成体哺乳動物において、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、および/または処置する方法が提供される。方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。AAVベクターは、それがCNS/脳に送達されること、および導入遺伝子が対象のCNS/脳において成功裡に形質導入されることを確実にするために、様々なやり方で投与することができる。CNS/脳への送達の経路には、くも膜下腔内投与、頭蓋内投与、例えば、脳室内投与または側脳室投与、投与、血管内投与、および実質内投与が含まれるが、それらに限定されない。
【0022】
1つの態様において、方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVセロタイプ9(rAAV9)ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある成体哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。1つの態様において、方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレーム、および任意で別のオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある成体哺乳動物のCNSに送達する工程を含む。例えば、AAV9-IDUAは、免疫適格性であるか、免疫欠損であるか、例えば、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制されているか、またはIDUAタンパク質の注射によって免疫寛容化されているかのいずれかである成体IDUA欠損マウスの側脳室中への直接注射によって、投与されてもよい。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0023】
このように、本発明は、哺乳動物のCNSにおいて発現された時に治療効果を有する遺伝子産物をコードする、組換えAAV(rAAV)ベクターの使用を含む。1つの態様において、哺乳動物は、CNSの疾患または障害(神経疾患)を有する免疫適格性哺乳動物である。本明細書において用いられる「免疫適格性」哺乳動物とは、自然免疫、および、例えば妊娠中のまたは授乳を介した母親に由来する免疫を有する新生児とは対照的に、ポリクローナル刺激に応答したTh1機能の上方制御またはIFN-γ産生によって、抗原刺激への曝露後に細胞性免疫応答および体液性免疫応答の両方が惹起される齢数の哺乳動物である。免疫欠損症を有さない成体哺乳動物が、免疫適格性哺乳動物の例である。例えば、免疫適格性のヒトは、典型的には、少なくとも1、2、3、4、5、または6か月齢であり、免疫欠損症を有さない成体ヒトを含む。1つの態様において、AAVは、くも膜下腔内に投与される。1つの態様において、AAVは、頭蓋内に(例えば、脳室内に)投与される。1つの態様において、AAVは、浸透エンハンサーを伴ってまたは伴わずに投与される。1つの態様において、浸透エンハンサーは、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウレルエーテル、またはEDTAを含む。1つの態様において、AAVは、浸透エンハンサーを伴ってまたは伴わずに、血管内に投与され、例えば頸動脈投与である。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、例えば、AAVが投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、免疫抑制剤が、免疫抑制を誘導するために投与される。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0024】
1つの態様において、本発明は、神経認知機能不全を含み得る神経疾患を有する哺乳動物において、分泌タンパク質を増大させる方法を提供する。方法は、分泌タンパク質をコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物におけるその発現が、疾患または機能不全を有するがrAAVが投与されていない哺乳動物と比べて、神経認知を増強する、工程、を含む。1つの態様において、前記rAAVまたは異なるrAAVは、神経保護タンパク質、例えば、GDNFまたはニュールツリンをコードする。1つの態様において、前記rAAVまたは異なるrAAVは、抗体をコードする。1つの態様において、哺乳動物は、免疫抑制剤で処置されていない。別の態様において、例えば、治療用タンパク質の活性を中和する免疫応答を生成し得る対象において、哺乳動物は、免疫抑制剤、例えば、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、またはイムノフィリンに対して活性を有する作用物質、例えば、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)もしくはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤で処置される。1つの態様において、rAAVおよび免疫抑制剤は、同時投与されるか、または、免疫抑制剤が、rAAVの後に投与される。1つの態様において、免疫抑制剤は、くも膜下腔内に投与される。1つの態様において、免疫抑制剤は、脳室内に投与される。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAA rh10、またはrAAV9ベクターである。1つの態様において、組成物の投与の前に、哺乳動物が免疫寛容化される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0025】
1つの態様において、本発明は、哺乳動物において神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置する方法を提供する。方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含む組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物におけるその発現が、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置する、工程、を含む。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて、哺乳動物、例えば非成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。1つの態様において、6歳以上のMPS I患者が、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置するのに有効なrAAV-IDUAの量で処置される。1つの態様において、2歳以下のMPS I患者が、神経認知機能不全を阻止する、阻害する、または処置するのに有効なrAAVの量で処置される。1つの態様において、哺乳動物、例えばヒトは、約1×1012~約2×1014ゲノムコピー(GC)(一律用量)、約5×1012~約2×1014 GC 一律用量;約1×1013~約1×1014 GC一律用量;約1×1013~約2×1013 GC 一律用量;または約6×1013~約8×1013 GC 一律用量が投与され、例えば、大槽を介してまたは腰椎穿刺によって、例えば、くも膜下腔内に投与される。1つの態様において、非成体MPS1患者は、約1×1013~約5.6×1013 GC 一律用量が投与される。1つの態様において、成体MPSI患者は、約1×1012~約5.6×1013 GC 一律用量が投与される。1つの態様において、6歳以上のMPSI患者に対して、単一の一律用量:2×109 GC/g脳質量(2.6×1012 GC)の用量または1×1010 GC/g脳質量(1.3×1013 GC)の用量のいずれかがIC投与される。用量は、約5~約20 mLの体積中であることができる。
【0026】
1つの態様において、MPS Iを有する哺乳動物において神経認知機能を増強するかまたは修復する方法が提供される。方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に、くも膜下腔内に、例えば腰椎領域に、または脳室内に、例えば側脳室に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、を含む。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0027】
1つの態様において、方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を哺乳動物に、くも膜下腔内に、例えば大槽にまたは腰椎槽に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を修復するかまたは増強する、工程、および任意で、浸透エンハンサーを投与する工程を含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の前に投与される。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の後に投与される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV-1、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-6、AAV-7、AAV-8、AAV rh10、またはAAV-9ベクターである。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVがくも膜下腔内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVがくも膜下腔内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVがくも膜下腔内に投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0028】
1つの態様において、方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAVベクターの有効量を含む組成物を免疫適格性哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、を含む。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV5ベクターではない。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが脳室内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAV単独の投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVが脳室内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVが脳室内に投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、哺乳動物は、AAVを含む組成物が投与される前に、遺伝子産物に対して免疫寛容化される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0029】
さらに、哺乳動物においてMPS Iと関連する神経認知機能を増強するかまたは修復する方法が提供される。方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレーム、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現を含むrAAVベクターの有効量、および任意で、浸透エンハンサーの有効量を含む組成物を哺乳動物に、血管内に投与する工程を含む。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウレルエーテル、またはEDTAを含む。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、rAAVベクターは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAVrh10、またはAAV9ベクターである。1つの態様において、rAAVベクターは、rAAV5ベクターではない。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は毎週投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが血管内に投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない(例えば、AAVの投与が、治療効果を提供する)。1つの態様において、AAVが血管内に投与される哺乳動物は、例えば、AAVが血管内に投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルの治療用タンパク質発現を誘導するために、免疫欠損であるか、または、免疫寛容化もしくは免疫抑制に供される。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0030】
1つの態様において、方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を成体哺乳動物に投与する工程であって、哺乳動物の中枢神経系におけるその発現が、神経認知機能を増強するかまたは修復する、工程、および任意で、浸透エンハンサーを投与する工程を含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の前に投与される。1つの態様において、組成物は、浸透エンハンサーを含む。1つの態様において、浸透エンハンサーは、組成物の後に投与される。1つの態様において、哺乳動物は、免疫適格性の成体である。1つの態様において、哺乳動物はヒトである。1つの態様において、複数用量が投与される。1つの態様において、組成物は、毎週、毎月、または2か月以上隔てて投与される。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、免疫寛容化または免疫抑制に供されない。1つの態様において、AAVが投与される哺乳動物は、例えば、AAVが投与されるが、免疫寛容化または免疫抑制に供されない対応する哺乳動物と比べて、より高いレベルのIDUAタンパク質発現を誘導するために、免疫寛容化または免疫抑制に供される。
【0031】
1つの態様において、本明細書に記載される方法は、IDUAをコードするオープンリーディングフレームを含むrAAV9ベクターの有効量を含む組成物を、処置の必要がある免疫適格性の成体ヒトのCNSに送達する工程を含む。CNS/脳への投与の経路には、くも膜下腔内投与、頭蓋内投与、例えば、脳室内投与または側脳室投与、投与、血管内投与、および実質内投与が含まれるが、それらに限定されない。1つの態様において、投与されるAAV-IDUAの量は、AAV-IDUAが投与されていないMPSIを有する対応する哺乳動物と比べて成体哺乳動物において、例えば血漿または脳において、例えば、2、5、10、25、50、100、または200倍以上、最大で1000倍多いIDUAの増加を結果としてもたらす。
【0032】
本明細書において開示される方法を用いて阻止、阻害、または処置され得る神経症状または神経認知機能不全を呈し得る疾患には、副腎白質ジストロフィー、アルツハイマー病、筋委縮性側索硬化症、アンゲルマン症候群、血管拡張性運動失調症、シャルコー-マリー-ツース症候群、コケーン症候群、難聴、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、てんかん、本態性振戦、脆弱X症候群、フリードライヒ運動失調症、ゴーシェ病、ハンチントン病、レッシュ-ナイハン症候群、メープルシロップ尿症、メンケス症候群、筋緊張性ジストロフィー、ナルコレプシー、神経線維腫症、ニーマン-ピック病、パーキンソン病、フェニルケトン尿症、プラダー-ウィリ症候群、レフサム病、レット症候群、脊髄性筋委縮症(サバイバー運動ニューロン-1、SMN-1の欠損症)、脊髄小脳性運動失調症、タンジアー病、テイ-サックス病、結節硬化症、フォンヒッペル-リンダウ症候群、ウィリアムズ症候群、ウィルソン病、またはツェルウェーガー症候群が含まれるが、それらに限定されない。1つの態様において、疾患は、リソソーム蓄積症、例えば、リソソーム貯蔵酵素の欠如または欠損である。リソソーム蓄積症には、ムコ多糖症(MPS)疾患、例として、多糖症I型、例えば、ハーラー症候群およびバリアント、シャイエ症候群、ならびにハーラー-シャイエ症候群(α-L-イズロニダーゼの欠損症);ハンター症候群(イズロナート-2-スルファターゼの欠損症);ムコ多糖症III型、例えば、サンフィリポ症候群(A、B、C、またはD;ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-α-D-グルコサミニダーゼ、アセチルCoA:α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、またはN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損症);ムコ多糖症VI型、例えば、モルキオ症候群(ガラクトサミン-6-硫酸スルファターゼまたはβ-ガラクトシダーゼの欠損症);ムコ多糖症IV型、例えば、マロトー-ラミー症候群(アリールスルファターゼBの欠損症);ムコ多糖症II型;ムコ多糖症III型(A、B、C、またはD;ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-α-D-グルコサミニダーゼ、アセチルCoA:α-グルコサミニドN-アセチルトランスフェラーゼ、またはN-アセチルグルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損症);ムコ多糖症IV型(AまたはB;ガラクトサミン-6-スルファターゼおよびβ-ガラクトシダーゼの欠損症);ムコ多糖症VI型(アリールスルファターゼBの欠損症);ムコ多糖症VII型(β-グルクロニダーゼの欠損症);ムコ多糖症VIII型(グルコサミン-6-硫酸スルファターゼの欠損症);ムコ多糖症IX型(ヒアルロニダーゼの欠損症);テイ-サックス病(β-ヘキソサミニダーゼのαサブユニットの欠損症);サンドホフ病(β-ヘキソサミニダーゼのαサブユニットおよびβサブユニット両方の欠損症);GM1ガングリオシドーシス(I型またはII型);ファブリー病(αガラクトシダーゼの欠損症);異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼAの欠損症);ポンペ病(酸性マルターゼの欠損症);フコシドーシス(フコシダーゼの欠損症);α-マンノシドーシス(α-マンノシダーゼの欠損症);β-マンノシドーシス(β-マンノシダーゼの欠損症)、ニューロンセロイドリポフスチン症(NCL)(セロイドリポフスチン症(CLN)の欠損症、例えば、CLN1~CLN14のうちの1種類または複数種類の遺伝子産物の欠損を有するバッテン病)、およびゴーシェ病(I、II、およびIII型;グルコセレブロシダーゼの欠損症)、ならびに障害、例えば、ヘルマンスキー-パドラック症候群;黒内障性白痴;タンジアー病;アスパルチルグルコサミン尿症;グリコシル化の先天性障害、Ia型;チェディアック-東症候群;黄斑ジストロフィー、角膜、1;シスチン症、腎障害;ファンコニ-ビッケル症候群;ファーバー脂肪肉芽腫症;線維腫症;幸福顔貌骨異形成症(geleophysic dysplasia);グリコーゲン蓄積症I;グリコーゲン蓄積症Ib;グリコーゲン蓄積症Ic;グリコーゲン蓄積症III;グリコーゲン蓄積症IV;グリコーゲン蓄積症V;グリコーゲン蓄積症VI;グリコーゲン蓄積症VII;グリコーゲン蓄積症0;免疫性骨形成不全、シムケ型;リピドーシス;リパーゼb;ムコリピドーシスII;バリアント型を含むムコリピドーシスII;ムコリピドーシスIV;β-ガラクトシダーゼ欠損症を伴うノイラミニダーゼ欠損症;ムコリピドーシスI;ニーマン-ピック病(スフィンゴミエリナーゼの欠損症);スフィンゴミエリナーゼ欠損症を伴わないニーマン-ピック病(コレステロール代謝酵素をコードするnpc1遺伝子の欠損症);レフサム病;シーブルー組織球病;乳児シアル酸蓄積障害;シアル酸尿症;多種スルファターゼ欠損症;長鎖脂肪酸酸化の障害を伴うトリグリセリド蓄積症;ウィンチェスター病;ウォルマン病(コレステロールエステルヒドロラーゼの欠損症);デオキシリボヌクレアーゼI様1障害;アリールスルファターゼE障害;ATPアーゼ、H+輸送、リソソーム、サブユニット1障害;グリコーゲン蓄積症IIb;Ras関連タンパク質rab9障害;点状軟骨異形成症1、X連鎖潜性障害;グリコーゲン蓄積症VIII;リソソーム関連膜タンパク質2障害;メンケス症候群;グリコシル化の先天性障害、Ic型;およびシアル酸尿症が含まれるが、それらに限定されない。非疾患哺乳動物において見出されるリソソーム貯蔵酵素の20%未満、例えば、10%未満または約1%~5%のレベルの置き換えが、哺乳動物において神経変性などの神経症状を阻止、阻害、または処置し得る。1つの態様において、特定の遺伝子で阻止、阻害、または処置される疾患には、MPS I(IDUA)、MPS II(IDS)、MPS IIIA(ヘパラン-N-スルファターゼ;スルファミニダーゼ)、MPS IIIB(α-N-アセチル-グルコサミニダーゼ)、MPS IIIC(アセチル-CoA:α-N-アセチル-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ)、MPS IIID(N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ)、MPS VII(β-グルコロニダーゼ)、ゴーシェ(酸性β-グルコシダーゼ)、α-マンノシドーシス(α-マンノシダーゼ)、β-マンノシドーシス(β-マンノシダーゼ)、α-フコシドーシス(α-フコシダーゼ)、シアリドーシス(α-シアリダーゼ)、ガラクトシアリドーシス(カテプシンA)、アスパルチルグルコサミン尿症(アスパルチルグルコサミニダーゼ)、GM1-ガングリオシドーシス(β-ガラクトシダーゼ)、テイ-サックス(β-ヘキソサミニダーゼサブユニットα)、サンドホフ(β-ヘキソサミニダーゼサブユニットβ)、GM2-ガングリオシドーシス/バリアントAB(GM2アクチベータータンパク質)、クラッベ(ガラクトセレブロシダーゼ)、異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼA)、ならびに、アルツハイマー病(β-アミロイドに対する抗体などの抗体、もしくはアルツハイマーと関連する斑および原線維を攻撃する酵素の発現)、またはアルツハイマー病およびパーキンソン病(GDNFもしくはニュールツリンを含むがそれらに限定されない神経保護タンパク質の発現)を含むがそれらに限定されない他の神経障害が含まれるが、それらに限定されない。
【0033】
例えば、ムコ多糖症疾患を有する、例えば、新生児もしくは乳児(例えば、3歳以下、例えば、3、2.5、2、もしくは1.5歳未満)、前青年(例えば、10、9、8、7、6、5、もしくは4歳未満であるが、3歳よりも大きいヒト)、または成人における神経認知機能不全が、同様に処置されてもよい。例えば、その上、MPS I(IDUA)、MPS IIIA(ヘパラン-N-スルファターゼ;スルファミニダーゼ)、MPS IIIB(α-N-アセチル-グルコサミニダーゼ)、MPS IIIC(アセチル-CoA:α-N-アセチル-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ)、MPS IIID(N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ)、MPS VII(β-グルコロニダーゼ)、ゴーシェ(酸性β-グルコシダーゼ)、α-マンノシドーシス(α-マンノシダーゼ)、β-マンノシドーシス(β-マンノシダーゼ)、α-フコシドーシス(α-フコシダーゼ)、シアリドーシス(α-シアリダーゼ)、ガラクトシアリドーシス(カテプシンA)、アスパルチルグルコサミン尿症(アスパルチルグルコサミニダーゼ)、GM1-ガングリオシドーシス(β-ガラクトシダーゼ)、テイ-サックス(β-ヘキソサミニダーゼサブユニットα)、サンドホフ(β-ヘキソサミニダーゼサブユニットβ)、GM2-ガングリオシドーシス/バリアントAB(GM2アクチベータータンパク質)、クラッベ(ガラクトセレブロシダーゼ)、異染性白質ジストロフィー(アリールスルファターゼA)、ならびに、アルツハイマー病(β-アミロイドに対する抗体などの抗体、もしくはアルツハイマーと関連する斑および原線維を攻撃する酵素の発現)、またはアルツハイマー病およびパーキンソン病(GDNFもしくはニュールツリンを含むがそれらに限定されない神経保護タンパク質の発現)を含むがそれらに限定されない他の神経障害が、処置されてもよい。rAAVベクターによってコードされ得る標的遺伝子産物には、ヘパラン硫酸スルファターゼ、N-アセチル-α-D-グルコサミニダーゼ、β-ヘキソサミニダーゼ、α-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、またはグルコセレブロシダーゼが含まれるが、それらに限定されない。1つの態様において、哺乳動物は、rAAVの投与の前に、骨髄移植、例えば、HSCTを受けていてもよい。1つの態様において、rAAVは、乳児(例えば、3歳以下、例えば、3、2.5、2、もしくは1.5歳未満であるヒト)、前青年(例えば、10、9、8、7、6、5、もしくは4歳未満であるが、3歳よりも大きいヒト)、または成人に投与される。1つの態様において、rAAVは、症状発生の前に投与され、例えば、1つまたは複数の神経症状を阻止するかまたは阻害するのに有効な量で、乳児または前青年に投与される。1つの態様において、rAAVは、例えば、1つまたは複数の神経症状を阻害するかまたは処置するのに有効な量で、症状発生の後に投与される。
【0034】
他のウイルスベクター、例えば、レトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、セムリキ森林ウイルス、または単純ヘルペスウイルスベクターなどのウイルスベクターが、本発明の方法において使用されてもよい。
[本発明1001]
以下の工程を含む、中枢神経系の障害を症状発現しているか、またはそれを有するリスクがある哺乳動物において、神経認知衰退を阻止もしくは阻害する、神経認知を増強する、または神経機能を回復する方法:
該哺乳動物の中枢神経系に、
神経認知衰退を阻止もしくは阻害する、神経認知を増強する、または神経機能を回復するのに有効な遺伝子産物をコードするオープンリーディングフレームを含む、ある量の組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを含む組成物
を投与する工程。
[本発明1002]
前記哺乳動物がヒトである、本発明1001の方法。
[本発明1003]
前記哺乳動物が成体ではない、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
前記ヒトが、約6歳~約13歳である、本発明1002または1003の方法。
[本発明1005]
前記ヒトが、約4か月齢~約5歳である、本発明1002または1003の方法。
[本発明1006]
前記ヒトが、2.5歳未満である、本発明1002または1003の方法。
[本発明1007]
前記ヒトが、骨髄移植または酵素補充療法を受けたことがある、本発明1002~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
前記哺乳動物が、ムコ多糖症I型(MPSI)、ムコ多糖症II型(MPSII)、脊髄筋萎縮症、またはバッテン病を有するか、またはそれを有するリスクがある、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
前記オープンリーディングフレームが、IDUA、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)、サバイバー運動ニューロン-1(SMN-1)、またはセロイドリポフスチン症タンパク質(CLN)をコードする、本発明1001~1008のいずれかの方法。
[本発明1010]
前記量が、脳におけるGAGレベルを低減させる、または、水無脳症を阻止するかもしくは低減させる、本発明1001~1009のいずれかの方法。
[本発明1011]
前記量が、骨格形成異常または脊髄圧迫症を減少させるかまたは阻止する、本発明1001~1010のいずれかの方法。
[本発明1012]
前記量が、肝脾腫大を減少させる、本発明1001~1011のいずれかの方法。
[本発明1013]
前記量が、心肺閉塞を減少させる、本発明1001~1012のいずれかの方法。
[本発明1014]
前記哺乳動物が、免疫抑制剤で処置されない、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1015]
前記哺乳動物が、免疫抑制剤で処置される、本発明1001~1013のいずれかの方法。
[本発明1016]
rAAVおよび免疫抑制剤が同時投与されるか、または、免疫抑制剤がrAAVの後に投与される、本発明1015の方法。
[本発明1017]
前記哺乳動物が、rAAVの投与の前に免疫寛容化されていない、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1018]
前記哺乳動物が、rAAVの投与の前に免疫寛容化されている、本発明1001~1016のいずれかの方法。
[本発明1019]
前記哺乳動物が、免疫適格性である、本発明1001~1018のいずれかの方法。
[本発明1020]
前記rAAVベクターが、rAAV1、rAAV3、rAAV4、rAAV5、rAAVrh10、またはrAAV9ベクターである、本発明1001~1019のいずれかの方法。
[本発明1021]
イズロナート-2-スルファターゼをコードするrAAVが、スルファターゼ修飾因子1をさらにコードする、本発明1009の方法。
[本発明1022]
イズロナート-2-スルファターゼをコードするrAAVと共に、スルファターゼ修飾因子1をコードするrAAVを投与する工程をさらに含む、本発明1009の方法。
[本発明1023]
複数用量が投与される、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1024]
前記組成物が、毎週投与される、本発明1001~1022のいずれかの方法。
[本発明1025]
前記rAAVが、rAAV9またはrAAVrh10である、本発明1001~1024のいずれかの方法。
[本発明1026]
前記rAAVが、くも膜下腔内、脳室内、または静脈内に投与される、本発明1001~1025のいずれかの方法。
[本発明1027]
前記rAAVが、大槽に投与される、本発明1001~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
前記免疫抑制剤が、シクロホスファミド、グルココルチコイド、アルキル化剤を含む細胞増殖抑制剤、代謝拮抗物質、細胞傷害性抗生物質、抗体、イムノフィリンに対して活性を有する作用物質、ナイトロジェンマスタード、ニトロソ尿素、白金化合物、メトトレキサート、アザチオプリン、メルカプトプリン、フルオロウラシル、ダクチノマイシン、アントラサイクリン、マイトマイシンC、ブレオマイシン、ミトラマイシン、IL-2受容体(CD25)もしくはCD3に対する抗体、抗IL-2抗体、シクロスポリン、タクロリムス、シロリムス、IFN-β、IFN-γ、オピオイド、またはTNF-α(腫瘍壊死因子-α)結合剤を含む、本発明1015~1027のいずれかの方法。
[本発明1029]
投与されるrAAVの量が、約1.3×1010 GC/g脳質量~約6.5×1010 GC/g脳質量である、本発明1001~1028のいずれかの方法。
[本発明1030]
投与されるrAAVの量が、約1×1013~5.6×1013 GC(1哺乳動物あたりの一律用量)である、本発明1001~1028のいずれかの方法。
[本発明1031]
投与されるrAAVの量が、約1×1012~約5.6×1013 GC(1哺乳動物あたりの一律用量)である、本発明1001~1028のいずれかの方法。
[本発明1032]
前記rAAVが、くも膜下腔内に投与される、本発明1029~1031のいずれかの方法。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1A~E:hIDSおよびhSUMF1発現のためのアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター構築物。hIDSおよびhSUMF1は、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(CB7)およびウサギβグロビンポリアデニル化シグナル(RBG pA)によって転写が調節され、3'末端および5'末端の両方にAAV2-ITRが隣接している。hIDSおよびhSUMF1を同時発現するベクターのためには、2つのオープンリーディングフレームの間に内部リボソーム進入部位(IRES)が挿入されている。A)hIDSを発現するAAV9(AAV9.hIDS);B)コドン最適化hIDSを発現するAAV9(AAV9.hIDSco);C)hIDSおよびヒトSUMF-1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDS-hSUMF1);D)コドン最適化hIDSおよびコドン最適化ヒトSUMF-1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDSco-hSUMF1co);ならびにE)ヒトSUMF-1を発現するAAV9(AAV9.hSUMF1)。
図2図2A、B:AAV9 IDSベクターのくも膜下腔内(IT)投与後、静脈内(IV)投与後、または脳室内(ICV)投与後の、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)発現。A)AAV9.hIDSのIT投与後またはIV投与後の血漿IDS活性。AAV9.hIDSを、IT注射またはIV注射を介して、8週齢のIDS発現C57BL/6マウス中に送達した(各群についてN=5)。野生型よりも最大で140倍高いIDS活性が、IDS発現マウスにおいてIT投与後またはIV投与後の血漿において観察された。B)様々なベクター構築物のムコ多糖症II型(MPS II)マウス中へのICV注射後の、中枢神経系(CNS)におけるIDS活性。AAV9.hIDS、AAV9.hIDS-hSUMF1、およびAAV9.hIDS+AAV9.hSUMF1は、脳の大部分において野生型レベルの10~40%のIDS活性を示し、他方、いくらかの部分は、野生型に匹敵するレベルを示した。コドン最適化ベクター構築物は、IDSの効率的な発現をもたらさなかった。
図3図3A~D:MPS IIマウスにおけるAAV9.hIDSのICV注射後のIDS発現および代謝補正。A)血漿IDS活性。血漿IDS活性を、4週ごとにモニターした。B)尿グリコサミノグリカン(GAG)。動物を安楽死させる直前に、すべてのマウスから、尿を収集した。無処置マウスにおける尿GAGのレベルは、野生型よりもおよそ2倍高く、他方、処置マウスにおける尿GAGのレベルは、正常化されていた(p>0.05、対野生型)。C)CNSにおける平均IDS活性レベル。IDS活性を、示されるように、野生型動物、無処置MPS II動物、およびAAV9.hIDS処置動物の脳および脊髄の12領域すべてにおいて評価した。いかなるIDS活性も、無処置MPS IIマウスのCNSにおいて観察されなかった。AAV9.hIDS処置動物においては、野生型の9~28%のIDS活性が、嗅球(53%)および脊髄(7%)を除いて、脳の12領域において観察された。D)末梢臓器における平均IDS活性レベル。処置マウス中の各々の試験した末梢臓器における平均IDS活性は、野生型よりも11倍、270倍、5倍、および3倍高かった(それぞれ、心臓、肝臓、脾臓、および腎臓)。肺IDS活性は、野生型の34%であった。注意:無処置MPS II群における1匹のマウスは、肺において異常に高いIDS活性を有していた。
図4図4A、B:MPS IIマウスにおけるICV注射後のAAV9.hIDSベクター生体内分布。A)CNSにおける生体内分布。ゲノムDNAを示された組織から抽出して、IDSベクター配列をリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応によって定量した。平均1~10ベクターコピー/ゲノム当量(vc/ge)が、右海馬(49 vc/ge)を除いて、脳の大部分の区域において観察された。低コピー数を示す1匹のマウスは、注射の失敗に起因した。したがって、この動物についてのGAG蓄積データは、図3において排除されている。B)末梢臓器における生体内分布。平均1 vc/ge未満が、心臓、肺、脾臓、および腎臓において検出され、他方、平均60 vc/geが、肝臓において検出された。右皮質および左小脳のx軸上の2個の黒点は、野生型であった。
図5図5A~C:AAV9.hIDS処置MPS IIマウスにおける蓄積症の補正。A)CNSにおけるGAG貯蔵。無処置MPS IIマウスのCNSにおけるGAG含量は、野生型および処置群の場合よりも有意に高かった(p≦0.01)。処置群におけるGAG含量は、無処置群と比較した時に有意に減少していた(p<0.01)。処置マウスのCNSにおいて観察されたGAG含量は、野生型と有意には異なっていなかった(p>0.05)。B)末梢臓器におけるGAG含量。無処置MPS IIマウスの試験した末梢臓器におけるGAG含量は、野生型および処置群の場合よりも有意に高かった(p≦0.01)。処置群におけるGAG含量は、無処置群と比較した時に有意に減少していた(p<0.01)。処置マウスにおけるGAG含量は、すべての試験した末梢臓器において、野生型と有意には異なっていなかった(p>0.05)。C)AAV.hIDS処置動物における肝腫大の阻止。10か月で、安楽死させる前に、すべてのマウスを秤量した。心臓、肺、肝臓、脾臓、および腎臓を、灌流し、採取し、秤量した。MPS IIマウスは、野生型および処置マウスと比較した時に、有意に増加した肝臓サイズを示した(p<0.001)。心臓、肺、脾臓、および腎臓のサイズは、すべての群間で有意な差を示さなかった。
図6】バーンズ迷路において評価した神経認知機能。3つの群すべてにおける動物を、バーンズ迷路において試験した。グラフは、各群のマウスが、連続した6日間にわたって各々の日に実施された4回の試験の最中に必要とした逃避までの平均潜時(秒)を図示する。野生型および処置群が必要とした逃避までの平均潜時は、実験の6日の経過のうちに減少した。対照的に、MPS IIマウスについては3日目から6日目までいかなる改善も観察されなかった。処置マウス対野生型同腹子の動作においてはいかなる有意な差も観察されず、他方、処置マウスは、5日目および6日目に、無処置MPS IIマウスよりも有意に優れていた(p≦0.01)。図1~6は、2か月齢で処置したMPSIIマウス由来のデータを有し、他方、図8~14におけるデータは、処置した時により高齢であったMPSIIマウス由来である。
図7】AAV9.IDS処置動物において修復された神経認知機能。処置MPSIIマウス、無処置MPSIIマウス、および野生型マウスにおける神経認知機能。7か月齢で、AAV9.hIDS処置動物を、無処置および正常同腹子の対照群と共にバーンズ迷路において試験した。5日の反復試験(1日あたり4回の試験)の経過後に、野生型対照は、プラットフォームから逃避するのに30秒必要とし、他方、MPSII動物は、逃避場所を探し当てるのに50~60秒必要とした。AAV9-hIDS処置動物は、この課題の動作において有意に改善された(4日目にp<.05)。このMPSII系統は、4か月齢で神経認知が欠損しているため、これらの結果により、4か月齢でのAAV9-hIDSでの処置によって、動物をその後7か月齢で試験した時に認知機能が修復されたことが実証される。
図8】確立された神経学的欠損を有するMPSIIマウスについての研究設計。4か月齢のマウスを、右側脳室中への定位注射によって、AAV9.ヒトIDSで処置した。4か月齢で、MPSII動物は、バーンズ迷路において神経認知欠損を有する。すべての動物を、神経機能について7か月でバーンズ迷路において試験し、生化学解析のために11か月齢で安楽死させた。
図9】ICV処置(AAV9-hIDS)MPSIIマウス、無処置MPSIIマウス、および野生型マウスにおける血漿中のIDS活性。血液試料を、ICV注入後の示された時間に収集し、IDS活性についてアッセイした。IDSは、4か月から7か月まで200 nmol/hr/mLで評価され、正常ヘテロ接合体のレベルよりも500倍多かった。
図10】処置MPSIIマウス、無処置MPSIIマウス、および野生型マウスの臓器および組織におけるIDS活性。動物を11か月齢で安楽死させ、示されたように、末梢臓器からおよび脳の顕微解剖した部分から抽出物を調製した。組織抽出物のIDSアッセイにより、(肺を除いた)末梢臓器由来の抽出物における酵素のヘテロ接合体よりも高いレベル、ならびに、肺におけるおよび脳のすべての区域における正常な酵素活性の部分的修復が実証された。
図11】処置MPSIIマウス、無処置MPSIIマウス、および野生型マウスの臓器および組織におけるGAGレベル。結果により、脳のすべての区域においておよび末梢組織において、貯蔵物質のレベルの低減(ほぼ正常であった)が実証された。
図12】バーンズ迷路。
図13図13A、B:6か月齢(症状が出た後)での脳室内注入後のAAV9-IDSベクター生体内分布。1ゲノム当量あたりのベクターコピー数を、脳の顕微解剖した部分から(A)および末梢組織から(B)抽出して、qPCRに供したDNAについて示す。DNAを、示された組織から抽出して、AAV9-IDSベクターを定量PCRによってアッセイした。各点は、個々の動物由来の値を表し、水平線は、すべての試料の平均値を示す。
図14図14A、B:種々の組織由来のqPCRデータ。
図15】ヘテロ接合体または対照マウスと比べた、MPSIマウスへのAAV-IDUAのICV送達後(「処置」)の血漿におけるIDUA酵素活性。血液試料を月1回の頻度で収集し、血漿をIDUA酵素発現についてアッセイした。IDUAのレベルは、ヘテロ接合体対照よりもおよそ1000倍高かった。血漿における高レベルのIDUA酵素活性が、ICV注入後により高齢のMPSIマウスにおいて観察され、注入の6か月後にWTマウスよりも高いままであった。データは、血漿IDUAの急速な増加(すなわち、処置前の24週で0、次いで、その後1mLあたり1000~10,000単位)を示す。
図16】AAV-IDUA ICV処置動物において改善された神経認知機能。バーンズ迷路を用いて、10か月齢で空間学習および記憶を評価した。動物は、迷路上の逃避穴を探し当てなければならず、4日間にわたって1日に6回の試験に供した。MPS Iマウスは、ヘテロ接合体対照と比較して、逃避穴を探し当てる際に有意な神経認知欠損を示し(**P<0.001)、他方、ICV処置動物は、無処置MPS Iマウスよりも有意に良好に(**P<0.001)、およびヘテロ接合体対照と同様に行動した。
図17】ICV送達のためのAAV-IDUAベクターの模式図。
図18】2ヵ月でのICV送達後の、6か月での動物におけるIDUA酵素活性および神経行動。結果は、2ヵ月で処置し、6か月で評定した動物由来であり、動物を(6か月で)屠殺した後の脳における酵素活性を示す。処置は、6か月での神経認知機能不全を阻止した。さらに、データはまた、無処置マウスが、この時までに神経認知機能不全を発症していることも示す。これは、「高齢」マウスを次いで、AAVベクターで処置した時である(下記を参照されたい)。
図19】ICV注入後のより高齢のMPSIマウス中の脳におけるIDUA酵素活性の修復。ヘテロ接合体または対照マウスと比べた、MPSIマウスへのAAV-IDUAのICV送達後(「処置」)の脳の様々な部分、脊髄、および肝臓におけるIDUA酵素活性。動物を、11か月齢で屠殺し、脳を顕微解剖して、イズロニダーゼ発現について解析した。酵素活性は、脊髄においてヘテロ接合体レベルまで修復され、脳の他の部分においては、ヘテロ接合体レベルよりも10~1000倍高い範囲であった。このデータは、6か月(症状が出た後)で処置し、次いで11か月で屠殺した動物由来である。
図20】ヘテロ接合体または対照マウスと比べた、MPSIマウスへのAAV-IDUAのICV送達後(「処置」)の脳の様々な部分におけるGAGレベル。動物を、6か月でのICVベクター注入後に11か月で屠殺し、脳を顕微解剖して、GAG貯蔵について解析した。GAGレベルは、処置動物において、野生型まで、または野生型の近くまで修復された。
図21】バーンズ迷路。
図22図22A、B:A)CNSの組織におけるイズロニダーゼ活性を示すデータ。2か月で注入した動物由来の活性を、6か月で注入した動物由来の活性と並べて示す。B)6か月でAAV9-IDUAを投与し、次いで9か月で屠殺した動物のCNS組織におけるGAG貯蔵の評価。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
定義
本明細書において用いられる場合、(処置の対象におけるような)「個体」とは、哺乳動物を意味する。哺乳動物には、例えば、ヒト;非ヒト霊長類、例えば、類人猿およびサル;ならびに非霊長類、例えば、イヌ、ネコ、ラット、マウス、ウシ、ウマ、ヒツジ、およびヤギが含まれる。非哺乳動物には、例えば、魚および鳥が含まれる。
【0037】
「疾患」または「障害」という用語は、互換的に用いられ、特異的な遺伝子産物、例えば、リソソーム貯蔵酵素の欠如または量の低減が、疾患において役割を果たし、例えば、正常レベルの少なくとも1%まで補うことによって治療的に有益な効果が達成され得るようである、疾患または状態を指すために用いられる。
【0038】
用語が本明細書において用いられる場合の「実質的に」とは、完全にまたはほぼ完全にを意味し;例えば、ある構成要素を「実質的に含まない」組成物は、その構成要素を少しも有さないか、もしくは、組成物のいかなる関連性のある機能特性も、その痕跡量の存在によって影響を受けないような痕跡量を含有するかのいずれかであり、または、化合物は、無視可能な痕跡の不純物のみが存在する際には「実質的に純粋」である。
【0039】
本明細書における意味の内での「処置すること」または「処置」とは、障害または疾患に関連する症状の緩和を指し、「阻害すること」とは、障害または疾患に関連する症状のさらなる進行または悪化の阻害を意味し、「阻止すること」とは、障害または疾患に関連する症状の阻止を指す。
【0040】
本明細書において用いられる場合、本発明の作用物質、例えば、遺伝子産物をコードする組換えAAVの「有効量」または「治療的有効量」とは、障害もしくは状態に関連する症状を全体的にもしくは部分的に緩和するか、または、それらの症状のさらなる進行もしくは悪化を停止させるかもしくは遅くするか、または、障害もしくは状態を阻止するかもしくは予防を提供する作用物質の量、例えば、個体において1つまたは複数の神経症状を阻止する、阻害する、または処置するのに有効である量を指す。
【0041】
特に、「治療的有効量」とは、望ましい治療結果を達成するために、必要な投薬量でおよび期間にわたって有効な量を指す。治療的有効量とはまた、本発明の化合物の任意の毒性効果または有害効果よりも、治療的に有益な効果が勝るものでもある。
【0042】
本明細書において用いられる「ベクター」とは、ポリヌクレオチドを含むか、またはポリヌクレオチドと会合し、インビトロまたはインビボのいずれかで、細胞へのポリヌクレオチドの送達を媒介するために用いることができる、巨大分子または巨大分子の会合物を指す。例証となるベクターには、例えば、プラスミド、ウイルスベクター、リポソーム、および他の遺伝子送達ビヒクルが含まれる。時には「標的ポリヌクレオチド」または「導入遺伝子」と呼ばれる、送達されるポリヌクレオチドは、遺伝子治療における関心対象のコード配列(例えば、治療的関心対象のタンパク質をコードする遺伝子)、および/または選択可能もしくは検出可能なマーカーを含んでもよい。
【0043】
「AAV」とは、アデノ随伴ウイルスであり、ウイルス自体またはその誘導体を指すために用いられ得る。用語は、別の方法で必要とされる場合を除いて、すべてのサブタイプ、セロタイプ、およびシュードタイプ、ならびに、天然に存在する形態および組換え形態の両方をカバーする。本明細書において用いられる場合、「セロタイプ」という用語は、それによって特定され、その結合特性に基づいて他のAAVから区別されるAAVを指し、例えば、AAV2、AAV5、AAV8、AAV9、およびAAVrh10を含む、AAV1~AAV11の11種類のセロタイプのAAVがあり、用語は、同じ結合特性を有するシュードタイプを包含する。したがって、例えば、AAV9セロタイプは、AAV9の結合特性を有するAAV、例えば、AAV9キャプシドと、AAV9に由来しないかもしくはそれから取得されていない、またはゲノムがキメラであるrAAVゲノムとを含むシュードタイプ化AAVを含む。「rAAV」という略語は、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも呼ばれる、組換えアデノ随伴ウイルスを指す。
【0044】
「AAVウイルス」とは、少なくとも1種類のAAVキャプシドタンパク質およびキャプシド形成されたポリヌクレオチドから構成されるウイルス粒子を指す。粒子が、異種ポリヌクレオチド(すなわち、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド、例えば、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子)を含む場合、それは典型的に、「rAAV」と呼ばれる。AAV「キャプシドタンパク質」は、野生型AAVのキャプシドタンパク質、および、構造的に、かつまたは機能的にrAAVゲノムをパッケージングすることができ、かつ野生型AAVによって使用される受容体とは異なってもよい少なくとも1種類の特異的細胞受容体に結合する、AAVキャプシドタンパク質の改変型を含む。改変AAVキャプシドタンパク質には、2種類以上のセロタイプのAAV由来のアミノ酸配列を有するものなどのキメラAAVキャプシドタンパク質、例えば、AAV-2由来のキャプシドタンパク質の一部分に融合されたかまたは連結された、AAV9由来のキャプシドタンパク質の一部分から形成されたキャプシドタンパク質、および、AAVキャプシドタンパク質に融合されたかまたは連結された、タグまたは他の検出可能な非AAVキャプシドペプチドもしくはタンパク質を有するAAVキャプシドタンパク質が含まれ、例えば、トランスフェリン受容体などの、AAV9に対する受容体以外の受容体に結合する抗体分子の一部分が、AAV9キャプシドタンパク質に組換えで融合されてもよい。
【0045】
「シュードタイプ化」rAAVとは、AAVキャプシドタンパク質とAAVゲノムとの任意の組み合わせを有する、感染性ウイルスである。任意のAAVセロタイプ由来のキャプシドタンパク質が、異なるセロタイプの野生型AAVゲノムに由来するかもしくはそれから取得可能であるか、または、キメラゲノムである、すなわち、2種類以上の異なるセロタイプ由来のAAV DNAから形成されている、例えば、2個の逆位末端リピート(ITR)を有し、各ITRが異なるセロタイプ由来またはキメラITRであるキメラゲノムである、rAAVゲノムと共に使用されてもよい。2種類のAAVセロタイプ由来のITRまたはキメラITRを含むものなどの、キメラゲノムの使用は、転写活性を有する分子間コンカテマーの産生をさらに増強し得る方向性組換えを、結果としてもたらすことができる。したがって、本発明のrAAVベクター内の5' ITRおよび3' ITRは、同種、すなわち同じセロタイプ由来、異種、すなわち異なるセロタイプ由来、または、キメラ、すなわち1種類よりも多いAAVセロタイプ由来のITR配列を有するITRであってもよい。
【0046】
rAAVベクター
種々のセロタイプは、遺伝子レベルでさえも、機能的にかつ機能的に関連しているため、任意のセロタイプのアデノ随伴ウイルスが、rAAVを調製するのに適している。すべてのAAVセロタイプは、明らかに、相同なrep遺伝子によって媒介される類似した複製特性を呈し;かつすべては、概して、AAV2において発現されるものなどの3種類の関連したキャプシドタンパク質を有する。関連性の程度は、さらに、ゲノムの長さに沿ったセロタイプ間の広範囲にわたるクロスハイブリダイゼーションを明らかにするヘテロ二重鎖解析;および、ITRに対応する末端での相似の自己アニーリングセグメントの存在によって示唆される。類似した感染性パターンもまた、各セロタイプにおける複製機能が、類似した調節制御下であることを示唆する。種々のAAVセロタイプの中で、AAV2が、最も一般的に使用される。
【0047】
本発明のAAVベクターは、典型的には、AAVにとって異種であるポリヌクレオチドを含む。ポリヌクレオチドは、典型的には、遺伝子治療の状況において標的細胞に対して機能、例えば、ある特定の表現型の発現の上方制御または下方制御を提供する能力のために、関心対象である。そのような異種ポリヌクレオチドまたは「導入遺伝子」は、概して、所望の機能またはコード配列を提供するのに十分な長さである。
【0048】
異種ポリヌクレオチドの転写が、意図された標的細胞において望ましい場合、当技術分野において公知であるように、例えば、標的細胞内の転写の所望のレベルおよび/または特異性に応じて、それ自体のプロモーターまたは異種プロモーターに機能的に連結させることができる。種々のタイプのプロモーターおよびエンハンサーが、この状況における使用に適している。構成的プロモーターは、継続したレベルの遺伝子転写を提供し、治療用または予防用のポリヌクレオチドが、継続的に発現されることが望ましい時に好まれ得る。誘導性プロモーターは、概して、誘導物質の非存在下では低い活性を呈し、誘導物質の存在下で上方制御される。それらは、発現が、ある特定の時間もしくはある特定の場所でのみ望ましい時、または、誘導物質を用いて発現のレベルを滴定することが望ましい時に好まれ得る。プロモーターおよびエンハンサーは、組織特異的であってもよく:すなわち、それらは、ある特定の細胞タイプにおいてのみ活性を呈し、それはおそらく、それらの細胞において独自に見出される遺伝子調節エレメントのためである。
【0049】
プロモーターの例証となる例は、シミアンウイルス40由来のSV40後期プロモーター、バキュロウイルス多角体エンハンサー/プロモーターエレメント、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV tk)、サイトメガロウイルス(CMV)由来の最初期プロモーター、および、LTRエレメントを含む種々のレトロウイルスプロモーターである。誘導性プロモーターには、重金属イオン誘導性プロモーター(例えば、マウス乳がんウイルス(mMTV)プロモーターまたは種々の成長ホルモンプロモーター)、および、T7 RNAポリメラーゼの存在下で活性を有するT7ファージ由来のプロモーターが含まれる。例証として、組織特異的プロモーターの例には、種々のsurfactinプロモーター(肺における発現のため)ミオシンプロモーター(筋肉における発現のため)、およびアルブミンプロモーター(肝臓における発現のため)が含まれる。多種の他のプロモーターが、当技術分野において公知であり、かつ概して利用可能であり、多くのそのようなプロモーターの配列が、GenBankデータベースなどの配列データベースにおいて利用可能である。
【0050】
翻訳もまた、意図された標的細胞において望ましい場合、異種ポリヌクレオチドは、好ましくは、翻訳を促進する制御エレメント(例えば、リボソーム結合部位すなわち「RBS」およびポリアデニル化シグナル)も含む。したがって、異種ポリヌクレオチドは、概して、適しているプロモーターに機能的に連結された少なくとも1つのコード領域を含み、かつまた、例えば、機能的に連結されたエンハンサー、リボソーム結合部位、およびポリAシグナルを含んでもよい。異種ポリヌクレオチドは、1つのコード領域、または1つよりも多いコード領域を、同じかまたは異なるプロモーターの制御下に含んでもよい。制御エレメントとコード領域との組み合わせを含有する単位全体は、多くの場合に、発現カセットと呼ばれる。
【0051】
異種ポリヌクレオチドは、AAVゲノムコード領域中へ、またはその代わりに(すなわち、AAV rep遺伝子およびcap遺伝子の代わりに)、組換え技法によって組み込まれるが、概して、AAV逆位末端リピート(ITR)領域が、いずれかの側に隣接している。これは、複製能を有するAAVゲノムを再生するかもしれない組換えの可能性を低減させるために、例えば(必ずではないが)AAV起源のいかなる介在配列も伴わずに、ITRが、どちらにもちょうど近位で、コード配列から上流および下流の両方に出現することを意味する。しかし、単一のITRが、2個のITRを含む配置に通常関連する機能を実施するのに十分であり得(例えば、WO 94/13788を参照されたい)、1個のITRのみを有するベクター構築物を、したがって、本発明のパッケージング法および作製法と合わせて使用することができる。
【0052】
repのための天然プロモーターは、自己調節的であり、産生されるAAV粒子の量を限定することができる。rep遺伝子はまた、repが、ベクター構築物の一部として提供されようと、または別々に提供されようと、異種プロモーターに機能的に連結させることもできる。rep遺伝子発現によって強く下方制御されない任意の異種プロモーターが適しているが、rep遺伝子の構成的発現は、宿主細胞に対して負の影響を有し得るために、誘導性プロモーターが好まれ得る。例証として、重金属イオン誘導性プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター);ステロイドホルモン誘導性プロモーター(例えば、MMTVプロモーターまたは成長ホルモンプロモーター);および、T7 RNAポリメラーゼの存在下で活性を有するT7ファージ由来のものなどのプロモーターを含む、多種の誘導性プロモーターが、当技術分野において公知である。誘導性プロモーターの1つのサブクラスは、rAAVベクターの複製およびパッケージングを補完するために用いられるヘルパーウイルスによって誘導されるものである。アデノウイルスE1Aタンパク質によって誘導可能であるアデノウイルス初期遺伝子プロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター;VP16または1CP4などのヘルペスウイルスタンパク質によって誘導可能であるヘルペスウイルスプロモーター;および、ワクシニアまたはポックスウイルス誘導性プロモーターを含む、多数のヘルパーウイルス誘導性プロモーターもまた、記載されている。
【0053】
ヘルパーウイルス誘導性プロモーターを特定および試験するための方法が、記載されている(例えば、WO 96/17947を参照されたい)。このように、候補プロモーターがヘルパーウイルス誘導性であるか否か、およびそれらが高効率パッケージング細胞の生成において有用であると考えられるか否かを判定する方法は、当技術分野において公知である。簡潔に述べると、1つのそのような方法は、AAV rep遺伝子のp5プロモーターを、推定上のヘルパーウイルス誘導性プロモーター(当技術分野において公知であるか、またはプロモーターのない「レポーター」遺伝子への連結などの周知の技法を用いて特定されたかのいずれか)で置き換えることを含む。例えば、抗生物質耐性遺伝子などの正の選択可能マーカーに連結されたAAV rep-cap遺伝子(p5が置き換えられた)を、次いで、適している宿主細胞(例えば、下記で例証されるHeLa細胞またはA549細胞)中に安定に組み込む。選択条件下で(例えば、抗生物質の存在下で)相対的に良好に成長することができる細胞を、次いで、ヘルパーウイルスの添加時にrep遺伝子およびcap遺伝子を発現するその能力について試験する。repおよび/またはcapの発現についての最初の試験として、細胞を、Repタンパク質および/またはCapタンパク質を検出するための免疫蛍光を用いて、容易にスクリーニングすることができる。パッケージング能力および効率の確認を、次いで、入ってきたrAAVベクターの複製およびパッケージングについての機能テストによって判定することができる。この方法論を用いて、マウスメタロチオネイン遺伝子に由来するヘルパーウイルス誘導性プロモーターは、(WO 96/17947に記載されているように)p5プロモーターに適している置き換えとして特定されており、高力価のrAAV粒子を作製するために用いられている。
【0054】
1種類または複数種類のAAV遺伝子の除去は、複製能を有するAAV(「RCA」)を生成する可能性を低減させるために、いかなる場合でも望ましい。したがって、rep、cap、またはその両方のためのコード配列またはプロモーター配列は、これらの遺伝子によって提供される機能が、トランスで、例えば、安定株においてまたは同時トランスフェクションを介して提供され得るため、除去されてもよい。
【0055】
結果として生じたベクターは、これらの機能において「欠陥を有する」と呼ばれる。ベクターを複製およびパッケージングするために、失われている機能は、種々の失われているrep遺伝子産物および/またはcap遺伝子産物についての必要な機能を共にコードする、パッケージング遺伝子、またはそれらの複数で補完される。パッケージング遺伝子または遺伝子カセットは、1つの態様において、AAV ITRが隣接しておらず、1つの態様において、rAAVゲノムといかなる実質的な相同性も共有しない。したがって、ベクター配列と別々に提供されたパッケージング遺伝子との間の複製の最中の相同組換えを最小化するために、2つのポリヌクレオチド配列のオーバーラップを回避することが望ましい。相同性のレベルおよび対応する組換えの頻度は、相同配列の長さが増加すると共に、および共有される同一性のレベルと共に増加する。所与のシステムにおいて懸念を引き起こすと考えられる相同性のレベルは、当技術分野において公知であるように、理論的に決定し、経験的に確認することができる。しかし、典型的には、オーバーラップする配列が、その全長にわたって少なくとも80%同一である場合には約25ヌクレオチド未満の配列であるならば、または、その全長にわたって少なくとも70%同一である場合には約50ヌクレオチド未満の配列であるならば、組換えを、実質的に低減させるかまたは排除することができる。当然、さらにより低いレベルの相同性が、それらが組換えの可能性をさらに低減させると考えられるため、好ましい。いかなるオーバーラップする相同性もなくても、RCAを生成するいくらかの残りの頻度があるように見える。(例えば、非相同組換えによって)RCAを生成する頻度におけるもっとさらなる低減を、Allen et al., WO 98/27204によって記載されているように、AAVの複製機能およびキャプシド形成機能を「分割すること」によって得ることができる。
【0056】
rAAVベクター構築物、および補完的なパッケージング遺伝子構築物は、本発明において、多数の異なる形態で実行することができる。ウイルス粒子、プラスミド、および安定に形質転換された宿主細胞はすべて、そのような構築物を、一過的にまたは安定にのいずれかで、パッケージング細胞中に導入するために用いることができる。
【0057】
本発明のある特定の態様において、AAVベクターおよび補完的パッケージング遺伝子は、もしあれば、細菌プラスミド、AAV粒子、またはそれらの任意の組み合わせの形態で提供される。他の態様において、AAVベクター配列、パッケージング遺伝子のいずれか、またはその両方は、遺伝子が変更された(好ましくは遺伝性に変更された)真核細胞の形態で提供される。AAVベクター配列、AAVパッケージング遺伝子、またはその両方を発現するように遺伝性に変更された宿主細胞の開発は、信頼できるレベルで発現される材料の確立された供給源を提供する。
【0058】
様々な異なる遺伝子が変更された細胞を、したがって、本発明の状況において用いることができる。例証として、少なくとも1つの無傷のコピーの安定に組み込まれたrAAVベクターを有する哺乳動物宿主細胞が、用いられてもよい。プロモーターに機能的に連結された少なくともAAV rep遺伝子を含むAAVパッケージングプラスミドを、(米国特許第5,658,776号に記載されているように)複製機能を供給するために用いることができる。あるいは、プロモーターに機能的に連結されたAAV rep遺伝子を有する安定な哺乳動物細胞株を、複製機能を供給するために用いることができる(例えば、Trempe et al.(WO 95/13392);Burstein et al.(WO 98/23018);およびJohnson et al.(米国特許第5,656,785号)を参照されたい)。上記のようなキャプシド形成タンパク質を提供するAAV cap遺伝子を、AAV rep遺伝子と共にまたは別々に提供することができる(例えば、上記で参照された出願および特許、ならびにAllen et al.(WO 98/27204)を参照されたい)。他の組み合わせが可能であり、本発明の範囲内に含まれる。
【0059】
送達のための経路
MPS II(ハンター症候群)の神経症状発現については、現在、既存の許容される治療法がない。CNSへのアデノ随伴ウイルス媒介性IDS遺伝子移入は、MPS IIのマウスモデルにおいて神経機能不全の発生を阻止する。注目すべきことに、本明細書において開示されるように、CNSへのAAV媒介性IDS遺伝子移入はまた、疾患の症状発現を既に発生している動物に投与した時に、神経機能の回復を結果としてもたらす。
【0060】
脳血管の莫大なネットワークにもかかわらず、中枢神経系(CNS)への治療薬の全身性送達は、小分子の98%よりも多くについて、および大分子のほぼ100%について有効ではない(Partridge, 2005)。有効性の欠如は、ほとんどの外来物質が、多くの有益な治療薬でさえも、循環血液から脳へ入ることを阻止する、血液脳関門(BBB)の存在のためである。全身に与えられたある特定の小分子、ペプチド、およびタンパク質治療薬は、BBBを横切ることによって脳実質に達する(Banks, 2008)が、概して、高い全身用量が、治療レベルを達成するために必要とされ、これは、身体において有害な効果をもたらし得る。治療薬は、脳室内注射または実質内注射によって、CNS中に直接導入することができる。
【0061】
rAAV投与の任意の経路が、その経路および投与される量が予防的または治療的に有用である限り、使用されてもよい。1つの例において、CNSへの投与の経路は、くも膜下腔内および頭蓋内を含む。頭蓋内投与は、大槽または脳室へであってもよい。「大槽」という用語は、頭蓋骨と脊柱の上部との間の開口部を介した、小脳の周りおよびその下の空間へのアクセスを含むように意図される。「脳室」という用語は、脊髄の中心管と連続している脳中の腔を含むように意図される。頭蓋内投与は、注射または注入を介し、頭蓋内投与に適している用量範囲は、概して、1~3000マイクロリットルの単一注射体積において送達される、1マイクロリットルあたり約103~1015のウイルスベクターの感染単位である。例として、1マイクロリットルあたりのウイルスゲノム、またはベクターの感染単位は、概して、約10、50、100、200、500、1000、または2000マイクロリットルにおいて送達される、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、または1017のウイルスゲノム、またはウイルスベクターの感染単位を含有するであろう。上述の投薬量は、単に、例示的な投薬量であることが理解されるべきであり、当業者は、この投薬量が変動され得ることを理解するであろう。有効用量は、インビトロまたはインビボの試験システムに由来する用量応答曲線から外挿されてもよい。
【0062】
本発明の処置のくも膜下腔内法において送達されるAAVは、くも膜下腔内投与のために一般的に用いられる任意の便利な経路を通して投与されてもよい。例えば、くも膜下腔内投与は、約1時間にわたる製剤のゆっくりとした注入を介してもよい。くも膜下腔内投与は、注射または注入を介し、くも膜下腔内投与に適している用量範囲は、概して、例えば、1、2、5、10、25、50、75、または100以上のミリリットル、例えば、1~10,000ミリリットル、または0.5~15ミリリットルの単一注射体積において送達される、1マイクロリットルあたり約103~1015のウイルスベクターの感染単位である。例として、1マイクロリットルあたりのウイルスゲノム、またはベクターの感染単位は、概して、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、または1014のウイルスゲノム、またはウイルスベクターの感染単位を含有するであろう。
【0063】
本発明の処置の方法において送達されるAAVは、適している用量範囲、概して、例えば、1、2、5、10、25、50、75、または100以上のミリリットル、例えば、1~10,000ミリリットルまたは0.5~15ミリリットルにおいて送達される、1マイクロリットルあたり約103~1015のウイルスベクターの感染単位で投与されてもよい。例として、1マイクロリットルあたりのウイルスゲノム、またはベクターの感染単位は、概して、約104、105、106、107、108、109、1010、1011、1012、1013、1014、1015、1016、または1017のウイルスゲノム、またはウイルスベクターの感染単位、例えば、少なくとも1.2×1011のゲノムまたは感染単位、例として、少なくとも2×1011、最大で約2×1012のゲノムもしくは感染単位、または、約1×1013~約5×1016のゲノムもしくは感染単位を含有するであろう。1つの態様において、送達のために使用されるAAVは、末端ガラクトース残基を有するグリカンに結合するものであり、1つの態様において、用量は、w9×1010よりも2~8倍高く、1×1011のAAV8ゲノム、またはウイルスベクターの感染単位未満までである。
【0064】
治療法は、上記で議論されるように、対象のニューロン組織および/または髄膜組織におけるリソソーム貯蔵顆粒の正常化を結果としてもたらす。貯蔵顆粒の沈着が、ニューロン組織およびグリア組織から良くなり、それによって、リソソーム蓄積症を患う個体において見られる発生の遅延および退行が軽減することが企図される。治療法の他の効果は、リソソーム蓄積症におけるその存在が高圧水頭症を結果としてもたらす、くも膜顆粒の近くの脳髄膜におけるリソソーム貯蔵顆粒の正常化を含み得る。本発明の方法はまた、C1~C5の索の近くの頚部髄膜における、または脊髄における別の場所のリソソーム貯蔵顆粒の存在に起因する、脊髄圧迫症を処置する際に用いられてもよい。本発明の方法はまた、脳の血管の周りのリソソーム貯蔵顆粒の血管周囲貯蔵によって引き起こされる嚢胞の処置にも方向づけられる。他の態様において、治療法はまた、有利に、肝臓体積および尿中グリコサミノグリカン排泄の正常化、脾臓サイズおよび無呼吸/減呼吸事象の低減、思春期前対象における身長および成長速度の増加、肩の屈曲ならびに肘および膝の伸展の増加、ならびに、三尖弁逆流または肺動脈弁逆流の低減を、結果としてもたらし得る。
【0065】
本発明のくも膜下腔内投与は、組成物を腰椎区域中に導入することを含んでもよい。任意のそのような投与は、ボーラス注射を介してもよい。症状の重症度および対象の治療法への応答性に応じて、ボーラス注射は、1週間に1回、1か月に1回、6か月ごとに1回、または1年に1回投与されてもよい。他の態様において、くも膜下腔内投与は、注入ポンプの使用によって達成される。当業者は、組成物のくも膜下腔内投与をもたらすために用いられ得る装置を承知している。組成物は、例えば、単回注射または連続注入によって、くも膜下腔内に与えられてもよい。投薬処置は、単一用量投与または複数用量の形態であってもよいことが、理解されるべきである。
【0066】
本明細書において用いられる場合、「くも膜下投与」という用語は、バーホール、または大槽穿刺もしくは腰椎穿刺などを通した側脳室注射を含む技法によって、薬学的組成物を対象の脳脊髄液中に直接送達することを含むように意図される。「腰椎領域」とは、第3と第4の腰椎(下背部)の間の区域、および、より包括的には、脊柱のL2-S1領域を含むように意図される。
【0067】
上記で言及された部位のいずれかに対する本発明にしたがう組成物の投与は、組成物の直接注射によって、または注入ポンプの使用によって達成することができる。注射のために、組成物は、液体溶液において、例えば、生理学的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス溶液、リンガー溶液、またはリン酸緩衝液において製剤化することができる。加えて、酵素は、固体形態において製剤化され、使用の直前に、再溶解されるか懸濁されてもよい。凍結乾燥形態もまた、含まれる。注射は、例えば、酵素のボーラス注射または(例えば、注入ポンプを用いた)連続注入の形態であることができる。
【0068】
本発明の1つの態様において、rAAVは、対象の脳中へ側脳室注射によって投与される。注射は、例えば、対象の頭蓋骨に作製されたバーホールを通して行うことができる。別の態様において、酵素および/または他の薬学的製剤は、対象の脳室中に外科的に挿入されたシャントを通して投与される。例えば、第3および第4のより小さな室中への注射も行うことができるが、注射は、より大きい側脳室中に行うことができる。さらに別の態様において、本発明中で用いられる組成物は、対象の大槽または腰椎区域中へ注射によって投与される。
【0069】
1つの態様において、免疫抑制剤または免疫寛容化剤は、非経口的を含む任意の経路によって投与されてもよい。1つの態様において、免疫抑制剤または免疫寛容化剤は、皮下、筋肉内、もしくは静脈内注射によって、経口的に、くも膜下腔内に、または頭蓋内に、または徐放によって、例えば、皮下インプラントを用いて投与されてもよい。免疫抑制剤または免疫寛容化剤は、液体担体ビヒクルにおいて溶解または分散されてもよい。非経口投与のために、活性物質は、例えば、落花生油、綿実油などのような様々な植物油の、許容されるビヒクルと適当に混合されてもよい。ソルケタール、グリセロール、ホルマール、および水性非経口製剤を用いた有機組成物などの他の非経口ビヒクルがまた、用いられてもよい。注射による非経口適用のために、組成物は、望ましくは0.01~10%の濃度の、本発明による活性酸の水溶性の薬学的に許容される塩の水溶液、ならびに任意でまた、水溶液中に、安定化剤および/または緩衝物質も含んでもよい。溶液の投薬量単位は、有利に、アンプル中に封入されてもよい。
【0070】
組成物、例えば、rAAV含有組成物、免疫抑制剤含有組成物、または免疫寛容化組成物は、注射可能な単位用量の形態であってもよい。そのような注射可能な用量を調製するために使用可能である担体または希釈剤の例には、水、エチルアルコール、マクロゴール、プロピレングリコール、エトキシル化イソステアリルアルコール、ポリオキシイソステアリルアルコール、およびポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの希釈剤、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、およびリン酸ナトリウムなどのpH調整剤または緩衝剤、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、およびチオ乳酸などの安定剤、塩化ナトリウムおよびグルコースなどの等張剤、塩酸プロカインおよび塩酸リドカインなどの局所麻酔薬が含まれる。さらに、通常の可溶化剤および鎮痛薬が添加されてもよい。注射薬は、当業者に周知の手順にしたがって、そのような担体を酵素また他の活性物に添加することによって、調製することができる。薬学的に許容される賦形剤の徹底的な考察は、REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Pub. Co., N.J. 1991)において入手可能である。薬学的に許容される製剤は、水性ビヒクルに容易に懸濁することができ、従来の皮下注射針を通してまたは注入ポンプを用いて導入することができる。導入の前に、製剤を、好ましくは、ガンマ線照射または電子ビーム滅菌で滅菌することができる。
【0071】
免疫抑制剤または免疫寛容化剤が、皮下インプラントの形態において投与される時、化合物は、当業者に公知のゆっくり分散される物質中に懸濁もしくは溶解されるか、または、浸透圧ポンプなどの一定駆動力の使用を通して活性物質をゆっくり放出する装置において投与される。そのような場合には、長期にわたる投与が可能である。
【0072】
免疫抑制剤または免疫寛容化剤を含有する組成物が投与される投薬量は、広い範囲内で変動してもよく、疾患の重症度、患者の年齢などのような種々の要因に依存することになり、かつ個々に調整されなければならない場合がある。1日あたりに投与され得る量の可能な範囲は、約0.1 mg~約2000 mg、または約1 mg~約2000 mgである。免疫抑制剤または免疫寛容化剤を含有する組成物は、それらが、単一投薬単位としてまたは複数投薬単位としてのいずれかで、これらの範囲内の用量を提供するように、適当に製剤化されてもよい。対象製剤は、免疫抑制剤を含有することに加えて、治療用遺伝子産物をコードする1種類または複数種類のrAAVを含有してもよい。
【0073】
本明細書に記載される組成物は、別の薬剤と組み合わせて使用されてもよい。組成物は、従来の形態、例えば、エアロゾル、溶液、懸濁液、または局所塗布物において、または凍結乾燥形態において見ることができる。
【0074】
典型的な組成物は、rAAV、および任意で、免疫抑制剤、浸透エンハンサー、またはそれらの組み合わせ、ならびに、担体または希釈剤であることができる薬学的に許容される賦形剤を含む。例えば、活性作用物質は、担体と混合されてもよく、または担体によって希釈されてもよく、または担体内に封入されてもよい。活性作用物質が担体と混合される時、または担体が希釈剤として働く時、担体は、活性作用物質のためのビヒクル、賦形剤、または媒質として作用する固体、半固体、または液体の物質であることができる。適している担体のいくつかの例は、水、塩溶液、アルコール、ポリエチレングリコール、ポリヒドロキシエトキシル化ヒマシ油、落花生油、オリーブ油、ゼラチン、ラクトース、白土、スクロース、デキストリン、炭酸マグネシウム、砂糖、シクロデキストリン、アミロース、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ゼラチン、寒天、ペクチン、アラビアゴム、ステアリン酸、またはセルロースの低級アルキルエーテル、ケイ酸、脂肪酸、脂肪酸アミン、脂肪酸モノグリセリドおよびジグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、ヒドロキシメチルセルロース、ならびにポリビニルピロリドンである。同様に、担体または希釈剤は、当技術分野において公知の任意の徐放物質、例えば、モノステアリン酸グリセリン、またはジステアリン酸グリセリンを、単独でまたはワックスと混合して含むことができる。
【0075】
製剤は、活性作用物質と有害に反応しない補助的作用物質と混合することができる。そのような添加物には、湿潤剤、乳化剤および懸濁剤、浸透圧に影響を及ぼすための塩、緩衝剤、および/または着色物質、保存剤、甘味物質、または着香物質を含むことができる。組成物は、望ましい場合、滅菌することもできる。
【0076】
液体担体が用いられる場合、調製物は、液体、例えば、水性液体の懸濁液または溶液の形態であることができる。許容される溶媒またはビヒクルには、滅菌水、リンガー溶液、または等張水性生理食塩水が含まれる。
【0077】
作用物質は、上記のような適切な溶液での再構成に適している粉末として提供されてもよい。これらの例には、凍結乾燥、回転乾燥、もしくはスプレー乾燥された粉末、無定形粉末、顆粒、沈殿物、または粒子が含まれるが、それらに限定されない。組成物は、任意で、安定剤、pH修飾物質、界面活性剤、生物学的利用能修飾物質、およびこれらの組み合わせを含有することができる。単位剤形は、個々の容器中、または複数用量の容器中にあることができる。
【0078】
本発明によって企図される組成物は、例えば、ミセルもしくはリポソーム、またはいくつかの他のカプセル化形態を含んでもよく、または、例えば、生分解性ポリマー、例えば、ポリラクチド-ポリグリコリドを用いて、長期の貯蔵および/もしくは送達効果を提供するために延長された放出形態で投与することができる。他の生分解性ポリマーの例には、ポリ(オルトエステル)およびポリ(無水物)が含まれる。
【0079】
例えば、ポリ乳酸(PLA)の疎水性コアおよびメトキシ-ポリ(エチレングリコール)(MPEG)の親水性シェルから構成されるポリマーナノ粒子は、改善された可溶性およびCNSに対するターゲティングを有し得る。マイクロエマルジョンとナノ粒子製剤との間のターゲティングにおける領域の差は、粒子サイズの差のためであり得る。
【0080】
リポソームは、両親媒性の脂質、すなわち、リン脂質またはコレステロールの1つまたは複数の脂質二重層からなる、非常に単純な構造である。二重層の親油性部分は、互いの方を向いており、膜において内部疎水性環境を創り出す。リポソームは、それらがサイズおよび形状において適合する場合、脂質二重層の非極性部分と会合することができるいくつかの親油性薬物のための適している薬物担体である。リポソームのサイズは、20 nmから数μmまで変動する。
【0081】
混合ミセルは、胆汁酸塩、リン脂質、トリグリセリド、ジグリセリド、およびモノグリセリド、脂肪酸、遊離コレステロール、ならびに脂溶性微量栄養素から構成される効率的な界面活性構造である。長鎖リン脂質が、水に分散させた時に二重層を形成することが公知であるように、短鎖類似体の好ましい相は、球状ミセル相である。ミセル溶液は、水および有機溶媒において自発的に形成される熱力学的に安定なシステムである。ミセルと疎水性/親油性薬物との間の相互作用は、多くの場合に膨張ミセルとも呼ばれる、混合ミセル(MM)の形成をもたらす。ヒト身体において、それらは、低い水溶性を有する疎水性化合物を組み入れ、消化の産物、例えば、モノグリセリドのための貯蔵所として作用する。
【0082】
脂質マイクロ粒子は、脂質ナノスフェアおよびマイクロスフェアを含む。マイクロスフェアは、概して、サイズが約0.2~100μmである任意の材料でできた小さな球状粒子として定義される。200 nmよりも下の、より小さなスフェアは、通常、ナノスフェアと呼ばれる。脂質マイクロスフェアは、市販されている脂肪乳剤に類似した均質な油/水マイクロエマルジョンであり、集中的超音波処理手順または高圧乳化法(粉砕法)によって調製される。天然の界面活性剤であるレシチンは、液体の界面張力を低下させ、したがって、安定な乳剤を形成するための乳化剤として作用する。脂質ナノスフェアの構造および組成は、脂質マイクロスフェアのものに類似しているが、より小さな直径を有する。
【0083】
ポリマーナノ粒子は、多種多様の成分のための担体として働く。活性構成要素は、ポリマーマトリックスに溶解されるか、または、粒子表面上に捕捉されるかもしくは吸着されるかのいずれかであってもよい。有機ナノ粒子の調製に適しているポリマーには、セルロース誘導体およびポリエステル、例えば、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、およびそれらのコポリマーが含まれる。ポリマーナノ粒子は、それらの小さなサイズ、それらの大きな表面積/体積比、および界面の官能基化の可能性のために、理想的な担体および放出システムである。粒子サイズが50 nmよりも下である場合、それらはもはや、多くの生物学的障壁層およびまた合成障壁層によって粒子として認識されないが、分子分散システムと同様に作用する。
【0084】
このように、本発明の組成物は、当技術分野において周知の手順を用いることによって、個体への投与後に、活性作用物質の迅速な、持続された、制御された、もしくは遅延された放出、またはそれらの任意の組み合わせを提供するように製剤化することができる。1つの態様において、酵素は、等張溶液または低張溶液中にある。1つの態様において、水溶性ではない酵素のために、脂質ベースの送達ビヒクル、例えば、その開示が参照により本明細書に組み入れられるWO 2008/049588に記載されているもののようなマイクロエマルジョン、またはリポソームが、使用されてもよい。
【0085】
1つの態様において、調製物は、エアロゾル適用のために、水性担体などの液体担体において溶解または懸濁された、作用物質を含有することができる。担体は、可溶化剤などの添加物、例えば、ポリエチレングリコール、界面活性剤、レシチン(ホスファチジルコリン)もしくはシクロデキストリンなどの吸収エンハンサー、または、パラベンなどの保存薬を含有することができる。例えば、溶解性に加えて、投与後のCNSへの効率的な送達は、膜透過性に依存し得る。
【0086】
概して、活性作用物質は、1単位投薬量あたりに薬学的に許容される担体と共に活性成分を含む単位剤形において分配される。通常、投与に適している剤形は、薬学的に許容される担体または希釈剤と混合された、約125μg~約125 mg、例えば、約250μg~約50 mg、または約2.5 mg~約25 mgの化合物を含む。
【0087】
剤形は、毎日、または1日に1回よりも多く、例えば、毎日2回もしくは3回、投与することができる。あるいは、剤形は、処方する医師によって得策であると見出される場合、毎日よりも少ない頻度で、例えば、1日おきに、または毎週、投与することができる。
【0088】
本発明は、以下の非限定的な実施例によって説明されるであろう。
【実施例0089】
実施例I
ムコ多糖症I型のマウスモデルにおけるAAVベクター媒介性イズロニダーゼ遺伝子送達:CNSへの送達の様々な経路の比較
ムコ多糖症I型(MPS I)は、リソソーム酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされる遺伝性代謝障害である。グリコサミノグリカンの全身性のかつ異常な蓄積が、成長の遅延、臓器腫大、骨格形成異常、および心肺疾患に関連している。疾患の最も重篤な形態(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞、および早期の死を被る。MPS Iに対する2種類の現在の処置(造血幹細胞移植および酵素補充療法)は、疾患の中枢神経系(CNS)症状発現すべてを有効に処置することはできない。
【0090】
遺伝子治療に関して、成体マウスにおけるAAV9の血管内送達は、広範な直接ニューロンターゲティングを達成しないことが以前に実証された(Foust et al, 2009を参照されたい)。以前の研究はまた、成体IDUA欠損マウスのCNS中へのAAV8-IDUAの直接注射は、導入遺伝子発現の低い頻度または不十分なレベルを結果としてもたらしたことも示した。MPS1の処置のために前臨床モデルを用いる以下の実施例は、驚くべきことに、免疫適格性の成体IDUA欠損マウスのCNS中へのAAV9-IDUAの直接注射が、野生型成体マウスにおけるIDUA酵素の発現および活性と同じであるかまたはそれよりも高い、IDUA酵素の発現および活性を結果としてもたらしたことを実証する。
【0091】
方法
AAV9-IDUA調製 AAV-IDUAベクター構築物(MCI)は、以前に記載されている(Wolf et al., 2011)(mCagsプロモーター)。AAV-IDUAプラスミドDNAを、University of Florida Vector CoreでAAV9ビリオン中にパッケージングして、1ミリリットルあたり3×1013ベクターゲノムの力価を生じた。
【0092】
ICV注入 成体Idua-/-マウスに、ケタミンおよびキシラジンのカクテル(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)を用いて麻酔し、定位フレーム上に置いた。10マイクロリットルのAAV9-IDUAを、Hamiltonシリンジを用いて、右側側脳室(定位は、ブレグマからAP 0.4、ML 0.8、DV 2.4 mmに調整する)中に注入した。動物を、回復のために、加温パッド上のケージに戻した。
【0093】
くも膜下腔内注入 若い成体マウス中への注入を、0.2 mL 25%マンニトールの静脈内注射の20分後に、L5椎骨とL6椎骨との間に、10μLのAAVベクター含有溶液の注射によって実施した。
【0094】
免疫寛容化 新生IDUA欠損マウスに、5.8μgの組換えイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)を含有する5μLを、顔面側頭静脈を通して注射し、次いで、動物をケージに戻した。
【0095】
シクロホスファミド免疫抑制 免疫抑制のために、動物に、AAV9-IDUAベクターの注入の1日後から開始して、1週間に1回、120 mg/kgの用量でシクロホスファミドを投与した。
【0096】
動物 動物を、屠殺の前に、ケタミン/キシラジン(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)で麻酔し、70 mL PBSを経心腔的に灌流させた。脳を採取し、氷上で、小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイス上で凍結し、次いで-80℃で保存した。試料を融解し、電動ペッスルを用いて1 mLのPBS中でホモジナイズし、0.1% Triton X-100で透過化処理した。IDUA活性を、基質として4MU-イズロニドを用いて、蛍光定量アッセイによって測定した。活性を、Bradfordアッセイ(BioRad)によって測定した1 mgタンパク質あたりの単位(1分あたりに生成物に変換される基質のパーセント)で表す。
【0097】
組織 組織ホモジネートを、Eppendorf卓上遠心分離機モデル5415D(Eppendorf)を用いて13,000 rpmで3分間の遠心分離によって清澄化し、プロテイナーゼK、DNアーゼ1、およびRNアーゼと一晩インキュベートした。GAG濃度を、Blyscan Sulfated Glycosaminoglycan Assay(Accurate Chemical)を用いて、製造業者の説明書にしたがって測定した。
【0098】
結果
イズロニダーゼ欠損マウスにAAVを、脳室内(ICV)またはくも膜下腔内(IT)のいずれかに投与した。免疫応答を阻止するために、動物には、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制したか、誕生時にヒトイズロニダーゼタンパク質(aldurazyme)の静脈内投与によって免疫寛容化したかのいずれかを行い、または、注射を、同様にイズロニダーゼ欠損であるNOD-SCID免疫欠損マウスにおいて実施した。動物を、処置後の示された時に屠殺し、脳を顕微解剖して、抽出物をイズロニダーゼ活性についてアッセイした。
【0099】
AAV-IDUAベクターをICV注射した免疫欠損IDUA欠損動物は、脳のすべての区域において高レベルのIDUA発現(野生型の10~100倍)を呈し、最高レベルは、脳幹および視床(「残り」)で観察された。
【0100】
ICV経路によってAAVベクターを投与した免疫抑制動物は、免疫欠損動物と比較して、相対的に低いレベルの酵素を脳において有していた。不健康であったために屠殺の2週間前にCPを中止していたため、これらの動物において免疫抑制が損なわれていた可能性があることに注意されたい。
【0101】
免疫抑制動物に、IT経路によってAAVベクターを投与した。AAVベクターをICV投与した免疫寛容化動物は、免疫欠損動物において観察されたものと同様に、脳のすべての部分において広範なIDUA活性を呈し、このことは、免疫寛容化手順の有効性を示した。
【0102】
GAG貯蔵物質を、試験群の4種類すべてについて、脳の様々な区分においてアッセイした。各群について、脳の各部分の平均値を左に示し、個々の動物の各々についての値を右に示す。IDUA欠損動物(一番左)は、野生型動物(マゼンタバー)と比較して高レベルのGAGを含有していた。GAGレベルは、AAV処置動物のすべての群における脳のすべての部分について、野生型であるか、または野生型よりも低かった。GAGレベルは、AAV9-IDUAをくも膜下腔内に投与した動物の皮質および脳幹において、野生型よりも有意にではないがわずかに高かった。
【0103】
結論
線条体および海馬におけるIDUA発現は、ICV注射した動物と比べ、IT注射した動物において、より低かったが、結果は、送達の経路にかかわらず(ICVまたはIT)、脳におけるIDUAの高いかつ広範な分布を示す。免疫欠損マウスは、免疫適格性マウスよりも高いレベルの発現を有するため、免疫応答があるように見られる。ICV注射に関しては、CPが早期に中止された時、IDUA発現はより低い。加えて、免疫寛容化は、高レベルの酵素活性を取り戻す際に有効であった。さらに、GAGレベルは、すべての処置したマウスの実験群において、正常に修復された。
【0104】
実施例II
方法
AAV9-IDUA調製 AAV-IDUAプラスミドを、University of Florida vector coreまたはUniversity of Pennsylvania vector coreのいずれかでAAV9ビリオン中にパッケージングして、1ミリリットルあたり1~3×1013ベクターゲノムの力価を生じた。
【0105】
ICV注入 実施例Iを参照されたい。
【0106】
くも膜下腔内注入 実施例Iを参照されたい。
【0107】
免疫寛容化 以下以外は実施例Iにおける通りである:複数回寛容化のために、新生IDUA欠損マウスに、第1用量のAldurazymeを顔面側頭静脈に注射し、その後6回の毎週注射を腹腔内投与した。
【0108】
シクロホスファミド免疫抑制 実施例Iを参照されたい。
【0109】
動物 動物を、屠殺の前に、ケタミン/キシラジン(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)で麻酔し、70 mL PBSを経心腔的に灌流させた。脳を採取し、氷上で、小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイス上で凍結し、次いで-80℃で保存した。
【0110】
組織IDUA活性 組織試料を融解し、組織ホモジナイザーにおいて食塩水中でホモジナイズした。組織ホモジネートを、卓上Eppendorf遠心分離機における15,000 rpmでの、4℃で15分間の遠心分離によって清澄化した。組織溶解物(上清)を収集して、IDUA活性およびGAG貯蔵レベルについて解析した。
【0111】
組織GAGレベル 組織溶解物を、プロテイナーゼK、RNアーゼ、およびDNアーゼと一晩インキュベートした。GAGレベルを、Blyscan Sulfated Glycosaminoglycan Assayを用いて、製造業者の説明書にしたがって解析した。
【0112】
IDUAベクターコピー 組織ホモジネートを、Wolf et al. (2011)に記載されているように、DNA単離およびその後のQPCRのために用いた。
【0113】
結果
動物に、脳室内(ICV)注入またはくも膜下腔内(IT)注入のいずれかによって、AAV9-IDUAベクターを投与した。ベクター投与は、同様にIDUA欠損であるNOD-SCID免疫欠損(ID)マウスにおいて、または、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制したか、もしくは誕生時にヒトイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)の単回注射または複数回注射によって免疫寛容化したか、のいずれかのIDUA欠損マウスにおいて実施した。すべてのベクター投与は、3~4.5か月齢の範囲の成体動物において実施した。動物に、10マイクロリットルあたり3×1011ベクターゲノムの用量の10μLのベクターを注射した。
【0114】
頭蓋内に注入した免疫欠損IDUA欠損マウスにおけるIDUA酵素活性は、脳のすべての区域において高く、野生型レベルよりも30~300倍高い範囲であった。最高の酵素発現は、視床および脳幹において、ならびに海馬において見られた。
【0115】
頭蓋内に注射し、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制した動物は、他の群よりも有意に低いレベルの酵素活性を示した。しかし、この場合のCP投与は、動物が不健康であったために、屠殺の2週間前に中止しなければならなかった。
【0116】
誕生時にIDUAタンパク質(Aldurazyme)で寛容化し、ベクターを頭蓋内に投与した動物におけるIDUA酵素レベルは、免疫欠損動物において達成されたレベルと同様に、脳のすべての部分において高く、野生型レベルよりも10~1000倍高い範囲であり、このことは、免疫寛容化手順の有効性を示した。
【0117】
くも膜下腔内に注射し、週1回の頻度でCPを投与したマウスにおけるIDUA酵素レベルは、上昇し、脳のすべての部分において、特に小脳および脊髄において観察された。酵素のレベルは、線条体および海馬において最低であり、野生型レベルの活性であった。
【0118】
IDUA欠損マウスを、記載されているようにAldurazymeで寛容化して、ベクターをくも膜下腔内に注射した。脳のすべての部分において、広範なIDUA酵素活性があり、最高レベルの活性が、脳幹および視床、嗅球、脊髄、ならびに小脳にあった。同様に、最低レベルの酵素活性が、線条体、皮質、および海馬において見られた。
【0119】
対照免疫適格性IDUA欠損動物に、免疫抑制または免疫寛容化を伴わずに、ベクターをくも膜下腔内に注入した。結果は、酵素活性は、野生型レベルであるかまたはわずかに高かったが、免疫調節を受けた動物において観察されたものよりも有意に低かったことを示す。酵素レベルの減少は、免疫調節動物において最高レベルの酵素を発現した区域である、小脳、嗅球、ならびに視床および脳幹において特に有意であった。
【0120】
動物を、GAG貯蔵物質についてアッセイした。すべての群は、GAG貯蔵のクリアランスを示し、GAGレベルは、野生型動物において観察されたものと同様であった。免疫抑制し、AAV9-IDUAベクターをくも膜下腔内に注射した動物は、野生型よりもわずかに高かったが、それでも無処置IDUA欠損マウスよりもずっと低い皮質におけるGAGレベルを有していた。
【0121】
免疫寛容化し、ベクターを頭蓋内またはくも膜下腔内のいずれかに注射した動物におけるAAV9-IDUAベクターの存在を、QPCRによって評定した。1細胞あたりのIDUAコピーは、くも膜下腔内に注入した動物との比較において、頭蓋内に注入した動物においてより高く、これは、頭蓋内に注射した動物において見られたより高いレベルの酵素活性と一致している。
【0122】
結論
IDUAの高い、広範な、かつ治療的なレベルが、成体マウスにおける脳室内経路およびくも膜下腔内経路のAAV9-IDUA投与後に、脳のすべての区域において観察された。酵素活性は、AAV-IDUAをくも膜下腔内に注入した免疫適格性IDUA欠損動物において、野生型レベルまで修復されたか、またはわずかに高かった。有意により高いレベルのIDUA酵素が、誕生時にIDUAタンパク質の投与によって開始して免疫寛容化した動物において、両方の経路のベクター注射について観察された。
【0123】
実施例III
ムコ多糖症II型(MPS II;ハンター症候群)は、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損、ならびに、グリコサミノグリカン(GAG)であるデルマタンおよびヘパラン硫酸のその後の蓄積によって引き起こされる、X連鎖潜性遺伝性リソソーム蓄積症である。罹患した個体は、ある範囲の重症度の身体的、神経学的な症状発現、および短くなった期待寿命を呈する。例えば、罹患した個体は、ある範囲の重症度の症状発現、例えば、臓器腫大、骨格形成異常、心肺閉塞、神経認知欠損、および短くなった期待寿命を呈する。現時点で、MPS IIのための治療法はない。現在の標準治療は、疾患の進行を管理するために用いられる酵素補充療法(ELAPSRASE;イデュルスルファーゼ)である。しかし、酵素補充療法(ERT)は、神経学的改善を結果としてもたらさない。造血幹細胞移植(HSCT)は、MPS IIに対して神経学的有益性を示していないため、現在、この疾患の神経症状発現を呈する患者のための臨床上の頼りは何もなく、新たな治療法が極度に必要とされている。
【0124】
AAV9ベクターを、処置した動物において、脳におけるIDSレベルを修復し、神経認知欠損の出現を阻止するための、MPS IIマウスの中枢神経系中へのヒトIDSコード配列(AAV9-hIDS)の送達のために開発する。特に、スルファターゼ活性部位の活性化のために必要とされるヒトスルファターゼ修飾因子-1(SUMF-1)を伴うかまたは伴わずにヒトIDSをコードする、一連のベクターを生成した。3種類の投与の経路:くも膜下腔内(IT)、脳室内(ICV)、および静脈内(IV)を、これらの実験において用いた。投与の経路にかかわらず、酵素レベルにおけるいかなる有意な差も、hIDS単独を形質導入するAAV9ベクターで処置したマウスと、ヒトIDSおよびSUMF-1をコードするAAV9ベクターで処置したマウスとの間で見出されなかった。IT投与したNOD.SCID(IDS Y+)およびC57BL/6(IDS Y+)は、無処置動物と比較した時に、脳および脊髄において上昇したIDS活性を示さず、他方、血漿は、無処置動物よりも10倍高い(NOD.SCID)および150倍高い(C57BL/6)レベルを示した。AAV9-hIDSを静脈内投与したIDS欠損マウスは、野生型に匹敵するIDS活性をすべての臓器において呈した。さらに、IV注射した動物の血漿は、野生型よりも100倍高い酵素活性を示した。AAV9-hIDUAをICV投与したIDS欠損マウスは、脳の大部分の区域および末梢組織において野生型に匹敵するIDS活性を示し、他方、脳のいくつかの部分は、野生型よりも2~4倍高い活性を示した。そのうえ、血漿中のIDS活性は、野生型よりも200倍高かった。驚くべきことに、すべての処置動物の血漿におけるIDS酵素活性は、注射後少なくとも12週間にわたって持続性を示した;そのため、IDS酵素は、少なくともC57BL/6マウスバックグラウンド上では免疫原性ではなかった。無処置MPS II動物の神経認知欠損を、野生型同腹子のものと差別化するために、バーンズ迷路を用いて、追加的な神経行動試験を実施した。罹患した動物の学習能力は、同腹子において観察されたものよりも特徴的に遅いことが見出された。したがって、バーンズ迷路を用いて、MPS IIマウスモデルにおけるこれらの治療法の有益性に対処する。これらの結果は、MPS IIにおける神経学的欠損症を阻止するための、CNSへのAAV9媒介性ヒトIDS遺伝子移入の治療的有益性の潜在能力を示す。
【0125】
要約すると、AAV9-hIDSの脳室内(ICV)注射は、脳における野生型レベルのIDSを含み、IDS酵素欠損症の全身的補正を結果としてもたらした。hIDSとhSUMF-1との同時送達は、組織におけるIDS活性を増加させなかった。hIDS発現は、WTおよびMPS II C57BL/6マウスにおいて非免疫原性であった。
【0126】
以下は、この点に関してさらなる詳細を提供する。
【0127】
ムコ多糖症II型(MPS II、ハンター症候群)は、欠陥イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)によって引き起こされ、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸のグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を結果としてもたらす、希少x連鎖潜性リソソーム障害である。酵素補充が、MPS IIについて利用可能である唯一のFDA承認療法であるが、高価であり、かつMPS II患者において神経学的転帰を改善しない。下記のように、本研究は、MPS IIのマウスモデルにおいて脳室内に送達された、ヒトIDSをコードするIDSコードアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの有効性を評定した。超生理学的レベルのIDSが、注射後少なくとも28週間にわたって循環において(野生型よりも160倍高い)、および注射後10か月で大部分の試験した末梢臓器において(最大で270倍)観察された。対照的に、脳のすべての区域においては、低いレベルのIDSのみ(野生型の7%~40%)が観察された。持続性IDS発現は、すべての試験した組織におけるGAGの正常化、および肝腫大の阻止に対して甚大な効果を有していた。追加的に、CNSにおける持続性IDS発現は、2か月齢で処置したMPS IIマウスにおける神経認知欠損の阻止において顕著な効果を有していた。本研究は、CNSに方向づけられたAAV9媒介性遺伝子移入が、ハンター症候群、および神経学的関与を有する他の単一遺伝子性障害のための潜在的に有効な処置であることを実証する。
【0128】
序文
ムコ多糖症(MPS)は、グリコサミノグリカン(GAG)の分解を触媒する11種類のリソソームヒドロラーゼのうちのいずれか1種類の欠損によって引き起こされる、リソソーム障害の群である。MPS II型(MPS II;ハンター症候群)は、肝脾腫大、骨格形成異常、関節硬直、および気道閉塞に関連する、罹患した個体の組織におけるその後の基質(GAG)の蓄積を伴うイズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損によって引き起こされ、X連鎖潜性である。重篤な症例において、罹患した個体は、神経認知欠損を呈し、青年期に病死する。MPS IIについて利用可能である現在のかつ唯一の処置は、酵素補充療法(ERT)であり、これは、疾患進行を和らげるために用いられるが、神経学的改善を伴わない。MPS Iについて長期の有益性を提供することが示されている(Whitley et al., 1993)造血幹細胞移植は、MPS IIの重篤な症例においては神経変性疾患を良くすることが報告されていない(McKinnis et al. 1996;Vellodi et al. 2015;Hoogerbrugge et al. 1995)。
【0129】
Sleeping Beauty(SB)トランスポゾンシステムおよびミニサークルは、MPS I型およびVII型などの全身性疾患についてマウスにおける使用が成功している、2種類の非ウイルス性遺伝子治療プラットフォームである(Aronovich et al. 2009;Aronovich et al. 2007;Osborn et al. 2011)。効率的であり、かつインビボで持続性発現を提供するにもかかわらず(Aronovich et al. 2007;Chen 2003)、これらのシステムの主要な欠点は、BBBを貫通できないことであり(Aronovich and Hackett 2015)、これはまだ解決されていない。これが、CNSに対する非ウイルス性遺伝子治療システムの有効性を限定している。
【0130】
種々のウイルスベクターが、それらの潜在力および持続性発現のために、多くの疾患についての遺伝子治療臨床試験において広範囲にわたって研究されている(Kaufmann et al. 2013)。これらのビヒクルの中で、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)は、単一遺伝子性障害のための遺伝子移入の媒介において、臨床試験についての有望な候補であることが示されている(Tanaka et al. 2012;Bennett et al. 2012;Nathwani et al. 2014)。他のAAVセロタイプとは異なり、アデノ随伴ウイルスベクターセロタイプ9(AAV9)は、CNSおよび末梢神経組織(PNS)に効率的に形質導入するだけではなく、BBBを貫通し、かつ末梢組織において種々の細胞タイプに形質導入することが、多くの動物モデルにおいて実証されている(Duque et al., 2009;Foust et al., 2009;Huda et al., 2014;Schuster et al., 2014)。したがって、AAV9は、MPS IIなどの単一遺伝子性障害についてのCNSを含む全身的補正のための候補として、他のウイルスベクターよりも性能が優れている。本明細書において、MPS IIのマウスモデルにおいてIDS欠損症を補正し、かつ神経認知障害を阻止するための、CNSに方向づけられたAAV9媒介性ヒトIDS遺伝子移入の有効性を報告する。
【0131】
材料および方法
AAVベクターのアセンブリおよびパッケージング
すべてのベクターは、Penn Vector Core(Philadelphia, PA)で構築され、パッケージングされ、かつ精製されて、REGENXBIO, Inc.(Rockville, MD)によって提供された。簡潔に述べると、発現カセットは、3'末端および5'末端の両方上のAAV2逆位末端リピート(ITR)のバックボーンの上に、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーを伴うニワトリβ-アクチン(CB7)プロモーター、およびそれに続くhIDSまたはヒトスルファターゼ修飾因子1(hSUMF1)、ウサギβ-アクチンポリアデニル化シグナルを含有していた。同時発現構築物は、内部リボソーム進入部位(IRES)の下流でSUMF1の翻訳を開始するために、hIDSとSUMF1との間に位置づけられたIRESを含んでいた。本研究においては、以下の5種類の異なるベクター構築物を調査した:ヒトIDSのみを発現するAAV9(AAV9.hIDS;図1A);コドン最適化ヒトIDSを発現するAAV9(AAV9.hIDSco;図1B);ヒトIDSおよびヒトSUMF1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDS-hSUMF1;図1C);コドン最適化ヒトIDSおよびコドン最適化ヒトSUMF1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDScohSUMF1co;図1D);ならびにヒトSUMF1のみを発現するAAV9(AAV9.hSUMF1;図1E)。AAVベクターを、AAVシス(Fi. 1)、AAVトランス(pAAV2/9 repおよびcap)、ならびにアデノウイルスヘルパー(pAdDF6)の3種類のプラスミドをHEK293細胞中に同時トランスフェクトすることによってパッケージングした(Lock et al., 2010)。AAVベクターを、次いで、Profile IIデプスフィルターを用いて上清から精製し、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって濃縮した。濃縮した供給原料を、イオジキサノール勾配遠心分離によって再清澄化し、次いで、100 kDa MWCO HyStreamスクリーンチャンネル膜を有するTFFカセットを用いて再濃縮した。精製したベクターを、次いで、SDS-PAGEによって純度について、および定量ポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)によって潜在力について試験した(Lock et al., 2010)。
【0132】
動物の世話および飼育
すべての動物の世話および実験手順は、University of MinnesotaのInstitutional Animal Care and use Committee(IACUC)の承認の下で実施した。NOD.SCIDマウスは、The Jackson Laboratoryから購入し、C57BL/6野生型マウスは、National Cancer Instituteから購入した。C57BL/6イズロナート-2-スルファターゼノックアウト(IDS KO)マウスは、Dr. Joseph Muenzer(University of North Carolina, NC)により厚意で提供され、University of MinnesotaのResearch Animal Resources(RAR)施設で特定病原体除去条件下で維持した。ヘテロ接合体(IDS+/-)の雌を野生型(IDS+/0)のC57BL/6雄と交配することによって、MPS IIの雄の仔(IDS-/0)を生成した。すべての仔を、PCRによって遺伝子型判定した。
【0133】
AAVベクター投与
くも膜下腔内(IT)注射のためには、以前に記載されているように(Vulchanova et al., 2010)、8週齢のマウスに、5.6×1010ベクターコピー(vc)のAAV9ベクターの用量を、L5椎骨とL6椎骨との間に注射した。注射は、10~15秒の持続期間で、意識のある動物において行った。静脈内(IV)注射のためには、動物を短時間拘束し、5.6×1010 vcの用量を、尾静脈を介して注射した。脳室内(ICV)注射は、以前に記載されているように(Janson et al., 2014)、成体8週齢のマウスにおいて実施した。簡潔に述べると、動物に、ケタミン/キシラジン混合物(100 mg/kgケタミン、10 mg/kgキシラジン)を腹腔内注射して深い麻酔を生じ、次いで、定位フレーム(Kopf Model 900)上に乗せた。頭蓋骨を曝露するように切開を行い、注射のための部位として小さな穴をドリルで開け、次いで、Hamiltonシリンジ(Model 701)を用いて、手でおよそ0.5 lL/分の速度で注入を実施した。シリンジをその場所にさらに3分間放置し、次いで、少なくとも2分の時間をかけてゆっくりと引き抜いた。注射の完了後、頭皮を縫合し、麻酔から回復後、マウスを、標準的な住居に戻した。マウスのすべては、手術後の感染症および炎症を阻止するために、3日コースの皮下へのケトプロフェン(2.5~5.0 mg/kg)および腹腔内へのBaytril 5 mg/kgを受けた。
【0134】
試料の収集および調製
血液を、滅菌5 mmランセット(Goldenrode(商標))を用いた顎下穿刺によってMicrovette(登録商標)ヘパリン処理コートチューブ(Sarstedt AG & Co.)中へ収集し、Eppendorf遠心分離機5415Dにおいて7,000 rpmで10分間、遠心分離した。血漿を収集して、IDSアッセイのために-20℃~-80℃で保存した。尿を収集して、クレアチニンアッセイおよびGAGアッセイに用いるまで-20℃で保存した。3分間、2 L/分でCO2フュームチャンバーを用いた安楽死の前に、OHAUS(登録商標)CS 200スケールを用いて動物の体重を最初に測定することによって、臓器を採取した。動物を、SURFLO(登録商標)翼状注入セット(TERUMO(登録商標))サイズ23Gx3/4"で手の圧力によって、60 mLシリンジ(BD)中の60 mLの1×リン酸緩衝食塩水(PBS)で灌流した。心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、および脊髄を採取し、Sartorius BP 61Sスケールを用いて秤量した。脳を、左および右の小脳、皮質、海馬、線条体、嗅球、および視床/脳幹に顕微解剖した。臓器を直ちに、急速冷凍し、さらなる組織加工処理まで-70℃で保存した。
【0135】
組織加工処理のために、小脳、海馬、線条体、および嗅球を、250 lLの滅菌食塩溶液中に1すくい(1すくいあたり0.2 g)の0.5 mmガラスビーズ(Next Advance)を含有する、あらかじめ割り当てられた1.5 mLロック付キャップマイクロチューブ(Eppendorf)中に添加した。視床/脳幹、皮質、および脊髄を、400 lLの滅菌食塩溶液中に2すくいの0.5 mmガラスビーズを含有する、割り当てられたロック付キャップマイクロチューブ中に添加した。肺の半分および全脾臓を、400 lLの食塩溶液中に2すくいの0.9~2.0 mmステンレス鋼ブレンド(1すくいあたり0.6 g)を含有する、割り当てられたチューブ中に添加した。心臓、約0.3 gの肝臓、および1個の腎臓を、600 lLの滅菌食塩溶液中に3すくい(2すくいの0.9~2.0 mmステンレス鋼ブレンド[1すくいあたり0.6 g]および1すくいの3.2 mmステンレス鋼ビーズ[1すくいあたり0.7 g]の混合物)を含有する、割り当てられたチューブ中に添加した。ビーズチューブ中で調製した試料のすべてを、次いで、Bullet blender(登録商標)STORMビーズミルホモジナイザー(Next Advance)を用いてスピード12で5分間ホモジナイズして、組織ホモジネートを生成した。50マイクロリットルの組織ホモジネートを、1.5 mLマイクロチューブ(GeneMate)中に移し、qPCRのために-20℃~-80℃で保存した。残りの組織ホモジネートを、Eppendorf遠心分離機5424Rを用いて13,000 rpmで15分間、4℃で清澄化した。上清(組織溶解物)のすべてを、新たなマイクロチューブ中に移し、IDSアッセイ、GAGアッセイ、およびタンパク質アッセイのために用いるまで、-20℃~-80℃で保存した。
【0136】
イズロナートスルファターゼアッセイ
IDS酵素活性を、2段階アッセイで、基質として4-メチルウンベリフェリル-α-L-イズロニド-2-硫酸二ナトリウム(4-MU-αIdoA-2S;Toronto Research Chemical Incorporation;カタログ番号M334715)を用いて、組織溶解物において測定した。組織溶解物を、1.25 mM MU-αIdoA-2S(0.1 M酢酸ナトリウム緩衝液pH 5.0+10 mM酢酸鉛+0.02%アジ化ナトリウム)と混合し、37℃で1.5時間インキュベートした。第1段階の反応を、IDS酵素活性を停止するためのPiCi緩衝液(0.2 M Na2HPO4/0.1 Mクエン酸緩衝液、pH 4.5+0.02% Na-アジド)で終了させた。最終濃度1μg/mLのイズロニダーゼ(IDUA;R&D Systems;カタログ番号4119-GH-010)をチューブ中に添加して、第2段階の反応を開始した。チューブを37℃で一晩インキュベートして、4-MU-IdoAを4-MUに切断した。第2段階の反応を、200μLの停止緩衝液(0.5M Na2CO3+0.5 M NaHCO3、0.025% Triton X-100、pH 10.7)を添加することによって終了させた。チューブを、Eppendorf遠心分離機5415Dを用いて13,000 rpmで1分間遠心分離した。上清を、丸底黒色96ウェルプレート中に移し、蛍光を、Gen5プレートリーダープログラムを有するSynergy MXプレートリーダー分光光度計(Bio Tek)を用いて、励起365 nmおよび発光450 nm、感度75で測定した。酵素活性を、血漿試料についてはnmol/h/mL血漿で、組織抽出物についてはnmol/h/mgタンパク質で表す。タンパク質を、ウシ血清アルブミンを標準として、Pierce(商標) 660 nm Protein Assay Reagentを用いて測定した(カタログ番号23208;Thermo Scientific)。
【0137】
グリコサミノグリカンアッセイ
組織溶解物を、以前に記載されているように(Wolf et al., 2011)、プロテイナーゼK、DNアーゼ1、およびRNアーゼと一晩インキュベートし、次いで、GAG含量を、Blyscan(商標) Sulfated Glycosaminoglycan Assay kit(Biocolor Life Science Assays;Accurate Chemical)を用いて評価した。Blyscanグリコサミノグリカン標準100μg/mL(カタログ番号CLRB 1010;Accurate Chemical)を用いて、日々の標準曲線を作製した。吸光度を、Gen5プレートリーダープログラムを有するSynergy MXプレートリーダー分光光度計(Bio Tek)を用いて、656 nmで測定した。ブランク値を、すべての読み取り値から差し引いた。組織GAG含量を、1ミリグラムタンパク質あたりのマイクログラムGAGで報告し、尿GAG含量を、1ミリグラムクレアチニンあたりのマイクログラムGAGとして報告する。尿クレアチニンを、Creatinine Assay Kit(Sigma-Aldrich(登録商標))を用いて、製造業者の説明書にしたがって測定した。
【0138】
IDSベクター配列についてのqPCR
組織ホモジネートを、300μL細胞溶解緩衝液(5 Prime)および100μgプロテイナーゼKと、穏やかに揺らして一晩、55℃で混合した。DNAを、試料からフェノール/クロロホルム抽出によって単離した。20μlの反応混合物は、60 ngのDNA鋳型、10μLのFastStart Taqman Probe Master mix(Roche)、各々200 nMのフォワードプライマーおよびリバースプライマー、ならびに100 nMのProbe36(#04687949001;Roche)を含有していた。CFXマネージャーソフトウェアv3.1を装備したC1000 Touch(商標) Thermo Cycler(Bio-Rad)を、qPCR反応に用いた。PCR条件は、95℃で10分間、その後95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルであった。用いたIDSプライマーは、
フォワードプライマー:
IDSリバースプライマー:
であった。標準を調製するために、pENN.AAV.CB7.hIDSを、SalI制限酵素(New England BioLab, Inc.)での消化によって直線化した。直線化プラスミドDNAを、次いで、5Prime DNA Extraction kitを用いて精製した。プラスミドDNA濃度を、NanoDrop 1000 3.7.0プログラムを有するNanoDrop 1000分光光度計(Thermo Scientific)を用いて測定した。精製した直線化プラスミドDNAを、次いで、qPCR標準曲線を調製するために希釈した。UltraPure(商標)蒸留水(Invitrogen)を、陰性対照として用いた。10倍希釈系列の直線化プラスミドを用いて、二連で1アッセイあたり1~108プラスミドコピーの範囲の標準曲線を生成し、増幅効率は90%~110%の間で、0.96~0.98のR2であった。ベクターコピーを、毎日の標準曲線に基づいて算出し、1細胞ゲノム当量あたりのベクターコピー(vc/ge)として表した。
【0139】
バーンズ迷路における神経認知試験
バーンズ迷路(Barnes, 1979)は、直径がおよそ4フィートである円形プラットフォームであり、床からおよそ4フィート上昇しており、外周に等間隔の40個の穴を有する。マウスがプラットフォームから逃避するための囲いである唯1個の穴以外、穴のすべては遮断されている。様々な視覚的な手がかりが、マウスが空間ナビゲーターとして用いるように、4つの壁の各々に取り付けられていた。6か月齢で、試験マウスを、不透明な漏斗でマウスを覆って、プラットフォームの中央に置いた。カバーを持ち上げて、マウスを放し、明るい光に曝した。動物は、3分以内に1個の開いた穴を用いてプラットフォームから逃避することによって、課題を完了することが期待される。各マウスを、合計で6日間、1日あたり4回の試験に供した。マウスが各試験においてプラットフォームから逃避するのに必要とした時間を記録し、平均を、各群において各日について算出した。
【0140】
統計解析
データは、平均値‐標準誤差(SE)として報告する。統計解析を、Prism 6を用いて行った。チューキーの事後検定を伴う二元配置分散分析を用いて、IDSアッセイ、GAGアッセイ、および神経行動アッセイについて試験群の間で差の有意性を評定し、<0.05のp値を有意と考えた。Microsoft Excel上での両側t検定を用いて、顕微解剖した脳の左半球と右半球との間でのIDS活性の差を評定した。
【0141】
結果
パイロット研究:CNSにおけるIDS発現を達成するためのベクター構築物および投与の経路の比較
パイロット研究を、いくつかのAAVベクター構築物を比較するため、およびCNSにおいてIDS発現を結果としてもたらす適している投与の経路を見出すために実施した。抗IDS免疫応答の潜在的合併症を回避するために、NOD.SCIDマウスを本研究に用いた。図1A~Dに示した4種類のベクター(AAV9.hIDS、AAV9.hIDSco、AAV9.hIDS-hSUMF1、およびAAV9.hIDSco-hSUMF1co)を、材料および方法に記載されているように、IT投与によって送達した。SUMF1は、酵素を触媒として活性型に変換する、IDSを含むリソソームスルファターゼ中の活性部位システインを翻訳後に酸化する酵素をコードする(Sabourdy et al., 2015)。ベクターのいくつかへのSUMF1の添加は、IDSが過剰発現された時に活性IDSタンパク質の産生においてSUMF1活性が律速であるかどうかを判定するためであった。5匹の無処置IDS+ NOD.SCIDマウスを、対照群として用いた。注射の6週間後に、マウスを安楽死させて、脳を様々な部分に顕微解剖した。MPS Iにおける本研究者らの並行した研究により、hIDUAをコードするAAV9ベクターのIT注射後のCNSにおいて、IDUAの超生理学的活性が実証されている(Belur et al., 2014)。本発明者らは、したがって、AAV9.hIDSベクターを投与したIDS+NOD.SCIDマウスにおいて、内在性レベルを超える高レベルのIDSを見ることを期待した。驚くべきことに、本発明者らは、ベクター構築物にかかわらず、注射していないNOD.SCIDマウスの内在性レベルを超える、CNSにおけるIDS活性のいかなる有意な増加も観察しなかった(データは示されていない)。AAV9.hIDSをまた、8週齢の3匹の野生型C57BL/6(IDS+ C57BL/6)マウスの2群に、一方の群はIT投与を介して、もう一方の群はIV投与を介して注射した。再び、無処置対照の内在性レベルより上の、CNSにおけるIDS活性のレベルのいかなる有意な増加も観察されなかった(データは示されていない)。このように、IDSコードAAVベクターのIT注射もIV注射も、適している投与の経路であるように見られなかった。
【0142】
上記の最初のパイロット研究からの別の予想外の結果は、CNSにおいてはIDS活性の増加は検出不可能であったが、IV処置群およびIT処置群の両方における血漿IDS活性は、無処置野生型レベルよりも上に最大でおよそ140倍増加し、処置後少なくとも12週間持続したことである(図2A)。この結果は、AAVベクターが、脳脊髄液(CSF)中へのIT注射後に末梢循環へ分布したことを示唆する。(ITまたはIVいずれかの)注射後少なくとも12週間にわたる持続性酵素活性の存在はまた、hIDSがC57BL/6マウスにとって恐らく非免疫原性であることも示唆する。
【0143】
同じ4種類のベクター構築物(AAV9.hIDS、AAV9.hIDSco、AAV9.hIDShSUMF1、およびAAV9.hIDSco-hSUMF1co)を、IT注射よりもずっと高いレベルのCNSにおける形質導入を支持する手順であるICV注射によって、免疫適格性MPS IIマウス中に投与した(Wolf et al., 2011)。本発明者らは、ヒトIDSの発現が、C57BL/6マウスにおいて免疫応答を惹起しないことを見出したため、MPS II試験動物の免疫抑制は、必要なかった。SUMF1およびIDSが、IRESを使用することによる下流位置からのSUMF1の翻訳に依拠するよりも、両方が独立して翻訳される時に、追加的なIDS活性があるかどうかを判定するために、追加的な群のMPS IIマウスに、AAV9.hIDS(図1A)およびAAV9.hSUMF1(図1E)の2種類のベクターの1:1比での組み合わせ(AAV9.hIDS+AAV9.hSUMF1;合計で5×1010 vcの用量)をICV注射した。無処置野生型同腹子を、対照として用いた。注射の6週間後に、動物を安楽死させて、臓器を採取し、脳を顕微解剖してIDS活性を測定した。AAV9.hIDS、AAV9.hIDS-hSUMF1、またはAAV9.hIDS+AAV9.h-SUMF1を注射した動物は、脳の大抵の部分において、野生型レベルのおよそ10~40%のIDS活性のレベルを示した(図3)。IDS活性は、MPS IIマウスの脳のすべての区域において検出不可能であった(図3C)。コドン最適化ベクター構築物を注射した動物は、ほとんどが野生型レベルの<10%を示し、そのため、IDS配列のコドン最適化は、形質導入組織において、より高いレベルのIDS活性を結果としてもたらさなかった。AAV9.hIDS注射動物とAAV9.hIDS+hSUMF1を注射した動物との間には、いかなる有意な差もなかった。このように、同じベクター上または別々のベクター上いずれかでのhSUMF1の同時送達は、評価したIDS活性のレベルを増強しなかった。SUMF1の添加もコドン最適化アルゴリズムも、天然hIDS cDNA配列と比較して増加したIDS活性を結果としてもたらさなかったため、下記のように、ベクターAAV9.hIDS(図1A)をその後、ICV投与したMPS IIマウスにおける、より広範囲にわたる効力研究のために用いた。
【0144】
AAV9.hIDSベクターのICV投与によるCNSおよび末梢のリソソーム病の阻止
5.6×1010 AAV9.hIDS vcの用量を、CSFを通したベクターの広範なCNS分布を達成するために、ICV注射によって8週齢MPS IIマウス中に注入した。パイロット研究の場合のように、野生型よりも最大で160倍高い血漿IDS活性が、ICV処置MPS II動物のこのより大きなコホートにおいて観察され、この発現は、実験を通して持続した(注射後28週間;図3A)。
【0145】
野生型および無処置MPS IIマウスと比較して、処置動物におけるGAG排泄に対する長期IDS発現の効果を評定するために、尿を、研究の終わり(注射後40週間)に収集した。尿GAGは、野生型同腹子と比較した時にMPS II動物において有意に上昇した(図3B;p<0.05)。処置動物は、無処置同腹子と比較した時に尿GAG含量において有意な低減を示し(p<0.05)、野生型レベルと比較した時には正常化された(p>0.05)。
【0146】
10か月齢(注射後40週間)で、すべてのマウスを安楽死させ、解析のために臓器を採取した。IDS活性は、無処置MPS IIマウスの脳のすべての区域および脊髄において検出不可能であった(図3C)。AAV9.hIDS注射動物は、脳のすべての領域において野生型のおよそ9~28%の、嗅球において53%の、および脊髄において7%のIDS活性を有していた(図3C)。ベクターを、脳の右室中に注入したが、左半球と右半球との間で、IDS活性におけるいかなる有意な差も観察されなかった(p>0.05)。CNSとは異なり、超生理学的レベルの酵素活性が、野生型の34%が観察された肺の場合を除いて、心臓、肝臓、脾臓、および腎臓(それぞれ11倍、166倍、5倍、および3倍;図3D)などのすべての試験した末梢臓器において観察された(図3D)。これにより、ベクターは、BBBをCNSから循環中へと横切ることができ、それによって、末梢臓器によって取り込まれ、そこにおいて発現されたことが示唆される。
【0147】
DNAを、同じ組織ホモジネートから単離して、qPCRによってベクター分布について評定した。Wolf et al. (2011)と一致して、AAVベクターのICV注入は、CNSにおいて(図4A)および試験した末梢組織のすべてにおいて(図4B)、ベクターの全体的な分布を結果としてもたらした。最高のvc数は、右海馬において観察され(49 vc/ge)、他方、同様のvcが、脳のすべての領域について左半球と右半球との間で観察された(図4A)。CNSとは異なり、相対的に低いコピー数が、処置動物の心臓、肺、脾臓、および腎臓を含む、大部分の試験した末梢組織において検出され(<0.6 vc/ge;図4B)、他方、高いvc数が、肝臓において観察された(44 vc/ge;図4B)。これにより、肝臓によって産生された酵素が、循環中に放出され、そこで、試験した末梢臓器が循環酵素を取り込んだこと(すなわち、代謝交差補正)が示唆される。
【0148】
IDSの全体的な分布および発現は、リソソーム貯蔵物質の蓄積に対して有意な効果を有していた。リソソームGAG含量の上昇が、野生型同腹子と比較した時に、無処置MPS IIマウスのCNSにおいて観察された(図5A;p<0.0001)。CNSにおいて野生型IDSレベルの10~40%しかなかったが、CNSにおけるGAG含量は、野生型と比較した時に正常化された(p<0.01;図5A)。CNSと同様に、リソソームGAG含量の有意な上昇が、野生型と比較した時に、無処置MPS II動物のすべての試験した末梢臓器において観察された(p<0.01;図5B)。対照的に、有意に減少したGAGレベルが、無処置群と比較した時に、処置マウスのすべての試験した末梢組織において(図5B)観察された(p<0.01)。統計解析は、野生型動物と処置群との間に、GAG含量におけるいかなる有意な差も示さず(p>0.05)、このことは、GAG含量が処置群において正常化されたことを示す。
【0149】
すべてのマウスの体重を、屠殺前に測定し、臓器を、動物を1×PBSで灌流した後に秤量して、屠殺直後の体重に対する臓器重量のパーセンテージを算出した。いかなる有意な差も、すべての群の間で、心臓、肺、脾臓、または腎臓のサイズにおいて観察されなかった。しかし、無処置MPS IIマウスの肝臓は、野生型動物のものよりも20%大きかった(それぞれ、総体重の6.2%および5.2%;p<0.001;図5C)。対照的に、処置MPS IIマウスの肝臓は、無処置群よりも68%小さかった(それぞれ、総体重の4.2%および6.2%;p<0.0001;図5C)。この結果は、肝臓におけるGAG含量の正常化が、次に、処置マウスにおいて肝臓腫大を阻止したことを示す。
【0150】
CNSにおけるIDSの持続性発現は、MPS IIマウスにおいて神経認知欠損の阻止をもたらす
6か月齢(処置後4か月)で、無処置MPS IIマウス、AAV9.hIDS処置MPS IIマウス、および対照正常同腹子を、空間ナビゲーションおよび記憶のための試験であるバーンズ迷路において神経認知機能について評定した。動物を、一連の3分試験である、6日のコースにわたる1日に4回の試験に供した。野生型同腹子は、6日目に低減した逃避までの潜時(30秒)を示し、他方、無処置MPS IIマウスは、この課題の学習において有意な欠損を呈した(逃避までの潜時は、71秒までしか低減しなかった;p≦0.05、対正常同腹子;図6)。対照的に、AAV9.hIDS処置マウスは、逃避までの潜時において顕著な低減(25秒)を示し、5および6日目に無処置MPS IIマウスよりも有意に優れていた(p≦0.01)。加えて、処置動物と野生型同腹子との間には、いかなる有意な差もなかった(p>0.05;図6)。本発明者らは、CNSにおけるIDSの持続性発現が、若い齢数で処置した時にMPS IIマウスにおいて神経認知欠損の出現を阻止したことを結論づける。
【0151】
考察
本研究において、強いプロモーターを用いるAAV9.hIDSを、MPS IIマウスのCNSに投与した。CNSにおけるIDS活性のレベルは、野生型の7~28%だけであった。対照的に、循環における、および試験した末梢臓器におけるIDS活性のレベルは、野生型レベルよりも少なくとも2倍、最大で170倍高かった。持続性IDS発現は、GAG含量の全体的な正常化をもたらす。最終的に、持続したレベルのIDS活性は、神経衰退の阻止に対して甚大な効果を有していた。
【0152】
たとえIDSを強いCB7プロモーターの調節下で発現させても、CNSにおけるIDS活性の内在性レベルより上のいかなる有意な増加も、ベクター構築物、投与の経路、またはマウス系統にかかわらず、IV処置IDS+マウスまたはIT処置IDS+マウスにおいて観察されなかった(データは示されていない)。しかし、IT処置IDS+マウスにおける血漿IDS活性のレベルは、野生型レベルよりも平均100倍高く、このことは、ベクターのIT投与の成功を示した。同様の高レベルの血漿IDSが、AAV9.hIDSをICV注射を介してMPS IIマウス中に注入した時に観察された(図2Bおよび図3C)が、この場合には、CNSにおけるベースラインより上のIDS活性が、脳の12種類のアッセイした部分すべてにおいて観察された(図3C)。同様のIDS活性が、Motasら(脳の冠状切片において(Motas et al., 2016))およびHindererら(2016)(全脳)から報告されており、そこで彼らは、CNSにおいて野生型レベルのおよそ20~40%を観察した。本明細書において、ベクターの分布および発現のより広範囲にわたる解析が、MPS IIマウスにおいてAAV9.hIDSのICV投与後に、脳の様々な顕微解剖した区域すべてにおいて報告されている。
【0153】
Motas et al. (2016)およびHinderer et al. (2016)とは異なり、AAV9.hIDSのICV投与後には、CNSにおいて達成されたIDS活性のレベルが限定されていた。これらの限定されたレベルのIDS活性は、野生型レベルよりも100~1,000倍高いIDUA活性が観察される(Belur et al., 2014)、AAV9-IDUAベクターのICV注射後にMPS IマウスのCNSにおいて観察されたIDUA活性のレベルと全く対照的である。超生理学的レベルのIDS(>1,000 nmol/h/mg)がまた、CNSにおいて10~100倍少ないIDS発現(10~100 nmol/h/mg)を生じたのと同様のvc数で、本発明者らの研究においてICV投与した動物の肝臓において観察された。そのため、MPS IIのためのCNSに方向づけられた遺伝子治療の目標に非常に関連して、高効率のAAV媒介性IDS遺伝子送達後に、脳におけるIDSの発現を限定するものは何か?が、本発明の疑問である。
【0154】
1つの可能性は、SUMF1活性が、脳における活性IDSの生成にとって律速であるかもしれないということである。SUMF1は、IDSを含むリソソームスルファターゼの翻訳後活性化に必要とされる(Sabourdy et al., 2015)。hIDS酵素は、恐らくマウスSUMF1によって、MPS IIマウスの組織において明らかに活性化されたが、このプロセスは、AAVにコードされるhIDSタンパク質が大量に発現されるが、限定された量のhIDSのみが活性化される場合に、脳において律速であり得るであろう。例えば、Fraldi et al. (2007)は、彼らのMPS IIIA研究において、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ活性が、酵素がSUMF1と同時発現された時に増加したことを実証した。SUMF1の潜在的な限定を予期して、hIDSおよびhSUMF1を、同じ構築物上(図1C)または2つの別々のベクター上(図1AおよびE)のいずれかで同時形質導入したが、hIDS活性におけるいかなる有意な増加も、hIDS単独の送達と比較して見出されなかった(図2B)。hIDS活性は、これらの実験において、hSUMF1との同時送達によって増強されなかった。
【0155】
別の可能性は、CB7プロモーターが、内在性IDSプロモーターと比較した時に限定的であるかもしれないということである。この可能性をさらに調査するために、雄マウスにおいて、1vcあたりのIDS活性(nmol/h/mgタンパク質=単位)を、各組織について算出し、1内在性コピーあたりのIDS活性と比較した。処置マウスのCNSにおけるIDS活性は、1ゲノム当量あたり平均200単位を発現する野生型雄マウスと比較して、1vcあたり2~32(平均8)単位が観察された(野生型レベルのおよそ1~31%のみ)。比較すると、肝臓では、ICV処置マウスにおいて1vcあたり平均55単位のIDS活性があった。これから、CB7プロモーターは、脳において内在性IDSプロモーターほど堅牢ではないことが結論づけられるかもしれない。しかし、内在性発現に対する、1vcあたりのベクター媒介性IDS発現のより低いレベルは、恐らく非効率的な細胞内在化のために、注射後に頭蓋内空間中に残っている過剰な転写的に不活性なAAVゲノムの存在に起因する可能性が最も高い。それでもなお、MPS IIの結果は、本発明者らのMPS I研究由来の結果と大きく対照をなし、MPS I研究では、野生型よりもおよそ10~100倍高いレベルのIDUA活性が、AAV-hIDUAをくも膜下腔内に投与したマウスのCNSにおいて観察され(Belur et al., 2014)、他方、ヘテロ接合体MPS I動物は、脳において1ゲノム当量あたりおよそ6単位を発現する(Ou et al.,2014)。そのため、MPS IマウスのCNSにおいて野生型IDUAレベルを達成するかまたはそれを超えることは、実現可能である。本発明者らがMPS II研究において用いたプロモーターは、MPS I研究において用いたプロモーターと同様であったが同一ではなく(Wolf et al., 2011;Belur et al., 2014)、関連するプロモーター強度が結果において観察された差に寄与し得る可能性を排除することはできない。
【0156】
驚くべきことに、超正常レベルの酵素活性が、処置動物のすべての試験した末梢臓器において観察された。最高レベルのIDS活性(野生型の164倍)が、肝臓において観察され、これは、見出されたvcの最高数(48 vc/ge)と相関していた。対照的に、(肝臓以外の)試験した末梢臓器は、低レベルのベクターを含有していたが、レベルは、IDS活性の野生型レベルよりも高かった。肝臓における例外的に高いレベルのIDS(図3D)は、循環における持続した高レベルのIDS活性(野生型よりも最大で172倍高い)をもたらす(図2Aおよび図3A)。同様の結果が、MPS IIIA研究、および異なるタイプのベクターを用いた数種類のMPS I研究において(Aronovich et al., 2009;Osborn et al., 2011;Haurigot 2013)、MPS IIマウスにおける2種類の研究(Motas et al., 2016;Hinderer et al., 2016)と共に報告されている。これらの結果は、本研究において、肝臓が、多量のIDSを産生してそれを循環系中に放出し、そこでその後IDSが末梢における他の臓器によって取り込まれる、酵素工場として作用することを示唆する。野生型よりも高いレベルのIDS酵素活性が、処置マウスにおける心臓、脾臓、および腎臓で観察されたにもかかわらず、これらの臓器におけるベクターレベルは、予想外に低かった(<0.6 vc/ge)。この低い形質導入率は、これらの臓器が、循環IDSを取り込み、野生型よりも高いレベルのIDSで代謝交差補正をもたらしたことを示唆する。
【0157】
Politoらは、AAV2/5 CMV-hIDSの単回IV注射後のCNSにおいて、いかなる検出可能なIDS活性も観察しなかった。しかし、彼らは、CNSにおいてGAG含量の部分的補正を観察した(Polito et al., 2009)。彼らは、肝臓から産生された高レベルの循環hIDSの微小な画分のみが、CNS中へとBBBを通過し、その後のGAGの部分的補正を伴ったことを推測した。同様に、本発明の実験において、例外的に高いレベルのIDSが、AAV9.hIDS処置マウスの循環において見出され、しかし生理学的活性未満の酵素のみが、CNSにおいて観察された。この知見により、ベクターのICV注射後に肝臓から産生された有意ではない量の酵素が、BBBを循環からCNS中へ貫通できたことが示される。これは、IDS+ C57BL/6マウスにおけるAAV9.hIDSのIV投与後のCNSにおける、野生型レベルを上回るIDSの増加の欠如と一致している(図2A)。そのため、脳において観察されたIDSのレベルは、循環酵素由来よりもむしろ、ICV注射後のCNSの内側のベクター構築物の形質導入に依拠した可能性が最も高い。CNSにおいて野生型に匹敵するか、またはそれよりも高いIDSレベルを達成するためには、さらなる調査が必要とされる。
【0158】
CNS中への直接ベクター注射後の持続したレベルの酵素発現が、それらの酵素の野生型レベルが達成されたかどうかに関係なく、数種類のMPS研究において、GAG低減に対して顕著な効果を有することが示されている(Janson et al., 2014;Barnes, 1979;Belur et al., 2014;Motas et al., 2016;Ou et al., 2014)。同様に、AAV9.hIDSのICV注射後のCNSにおいて、生理学的レベル未満のIDSのみが観察されたが、GAG低減に対する酵素の有意な効果があり、これは期待されたよりも大きかった。DesnickらおよびPolitoらは、リソソーム酵素の野生型レベルの5%未満のみが、GAG貯蔵欠陥を補正するために必要とされると推測した(Polito et al., 2009;Desnick et al., 2012)。本結果は、この推測と一致している。AAV9.hIDS処置後に、脳のすべての区域(図5A)およびさらに脊髄(最低の酵素が測定された臓器;10.7 nmol/h/mgタンパク質;野生型の7.4%;図3C)は、無処置MPS IIマウスの場合よりも有意に低いGAG含量を示した(図5A)。処置マウスのCNSにおけるGAG含量が、野生型と比較した時に正常化されたように、統計解析は、際立った結果を明らかにした。本発明者らはまた、処置動物の尿において、ならびに、心臓、肺、肝臓、脾臓、および腎臓においても、GAG含量の正常化を観察した。これらの結果は、GAG含量の補正に対するIDS発現の持続性効果を示す。
【0159】
Robertsらは、GAG合成阻害物質であるローダミンBをMPS IIIAマウス中に注射した時の、GAG蓄積と肝臓サイズとの間の直接の関係を実証した。彼らは、GAG含量が肝臓において減少し、肝臓サイズの正常化をもたらしたことを見出した(Roberts et al., 2006)。Motasらは、MPS IIマウス中へのAAV9.hIDSのICV投与後に、肝腫大に対する阻止効果を観察した(Motas et al., 2016)。同様に、本発明者らはまた、処置マウスにおける肝臓の重量が、AAV9.hIDSのICV注射後に正常化されたことも観察した(図5C)。この結果は、肝臓におけるGAG含量の正常化をもたらし、次に、処置動物における肝腫大を阻止する、持続性IDS発現の顕著な効果を示す。
【0160】
数種類のMPS研究により、マウスにおけるAAV媒介性遺伝子移入後の神経学的欠損の阻止が実証されている(Wolf et al., 2011;Motas et al., 2016;Fu et al., 2011)。本発明者らは、無処置MPS IIマウスにおいて6か月齢で神経認知欠損を観察した。本発明者らはまた、AAV9.hIDSのICV注入後に、CNSにおける持続性IDS発現が、MPS IIマウスにおける神経認知機能不全の出現を阻止したことも観察した(図6)。数種類の研究により、海馬が齧歯類において神経認知に関連していることが示されている(Seeger et al., 2004;Paylor et al., 2001;Miyakawa et al., 2001)。しかし、視力、嗅覚、または運動ニューロン欠陥などの身体障害がまた、バーンズ迷路における結果に影響を及ぼし得た可能性を排除することはできず、それは、齧歯類が、この試験において要求される課題を行うために、前述の身体能力のすべてを必要とするためである(Harrison et al., 2006)。追加的な行動解析が、無処置MPS IIマウスの学習障害において神経認知欠損が中心的な役割を果たすという観察、およびAAV媒介性IDS遺伝子移入によるその阻止を支持すると考えられる。
【0161】
結論として、本出願は、CNSへの直接AAV9媒介性hIDS遺伝子移入の有益性を特徴づける。本研究から出現する最も重要な難題は、肝臓などの他の組織との比較において、およびIDUAなどのAAV媒介性形質導入によってCNS中に導入される他の治療用遺伝子の発現との比較において限定されたレベルの、CNSにおいて達成されるAAV媒介性IDS発現である(Wolf et al., 2011;Belur et al., 2014)。それでもなお、MPS IIデータにより、CNS中へのAAV9.hIDSベクターの直接注射が、MPS IIの処置および神経認知欠損の阻止にとって鍵となる効率的な遺伝子移入を結果としてもたらしたことが示される。本発明者らはまた、AAV9.hIDSベクターが、BBBをCNSから循環中へと横切ることができ、CNSの外側でのベクターの全体的な形質導入を結果としてもたらし、IDS酵素の長期発現を全身性に提供したことも見出した。脳におけるIDS活性は期待されたよりも低かったが、本研究は、それでもなお、IDSの野生型レベルの<10%が、GAG貯蔵蓄積を阻止するために必要とされるという以前の研究(Polito et al., 2009;Desnick et al., 2012)からの見解を支持する。加えて、持続性IDS発現は、肝臓におけるGAGの蓄積を補正し、その後、肝腫大の出現を阻止した。最終的に、本発明者らの結果は、動物を若い齢数で処置する時に、神経学的欠損の出現を阻止する際の、CNSにおける持続性IDS発現の重要性を強調する。本発明者らは、本研究が、MPS II患者のために神経学的有益性を有する長期の有効な処置の開発において、当分野に貢献するであろうと予期する。
【0162】
実施例IV
ムコ多糖症I型(MPS I)は、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされ、ヘパリンおよびデルマタン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を結果としてもたらす、遺伝性常染色体潜性代謝疾患である。疾患の最も重篤な形態(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞、および10歳までの死を被る。この疾患のための現在の処置には、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)および酵素補充療法(ERT)が含まれる。しかし、これらの処置は、疾患のCNS症状発現に対処するには、有効性が不十分である。
【0163】
目標は、現在のERTおよびHSCTをCNSへのIDUA遺伝子移入で補い、それによって疾患の神経症状発現を阻止することによって、重篤なMPS Iのための治療法を改善することである。本研究において、CNSにおけるIDUA遺伝子の送達および発現のために、静脈内投与したAAVセロタイプ9およびrh10(AAV9およびAAVrh10)の、血液脳関門を横切る能力を試験した。4~5か月齢の成体MPS I動物に、ヒトIDUA遺伝子をコードするAAV9ベクターまたはAAVrh10ベクターのいずれかを、尾静脈を介して静脈内に注入した。血液および尿の試料を、動物を注射後10週間で屠殺するまで週1回の頻度で収集した。処置動物における血漿IDUA活性は、注射後3週間で、ヘテロ接合体対照のものよりも1000倍近く高かった。脳、脊髄、および末梢臓器を、IDUA活性、GAG蓄積のクリアランス、および組織切片のIDUA免疫蛍光について解析した。処置動物は、CNSを含むすべての臓器において、IDUA酵素活性の広範な修復を示した。これらのデータにより、MPS IのCNS症状発現の相殺における全身性AAV9およびAAVrh10ベクター注入の有効性が実証される。
【0164】
実施例V
遺伝子移入は、ムコ多糖症の治療法のために多大な潜在能力を提供する。研究は、MPS IマウスのCNSにおいてα-L-イズロニダーゼ(IDUA)の高レベル発現を達成することに焦点を合わせており、そこでは、ヒトIDUA遺伝子を形質導入するAAV9の脳室内(ICV)注入後に、脳において野生型(WT)よりも最大で1000倍多い酵素が観察された。AAV9ベクターのくも膜下腔内(IT)注入もまた、脳全体にわたる高レベルIDUA発現(野生型の10~100倍)を結果としてもたらした。すべての経路の投与が、脳のすべての区域においてグリコサミノグリカンレベルを正常化し、バーンズ迷路において評価した際に4~5か月齢で神経認知欠損の出現を阻止した。WTマウスは、脳においてIDUAよりもずっと高いレベルの内在性イズロナートスルファターゼ(IDS)を発現し、ヒトIDS遺伝子を形質導入するAAV9をIT注入した動物において、脳におけるIDSのレベルは、WTから区別不能であった。AAV9-IDSベクターのICV注入後に、MPS IIマウスにおいては、GAG蓄積をほぼ野生型レベルまで低減させる、かつ神経認知機能不全の出現を阻止するのに十分なIDSの発現があったが、IDSのレベルは、脳において決してWTのレベルを達成しなかった。
【0165】
実施例VI
ハンター症候群(ムコ多糖症II型;MPS II)は、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損および組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積によって引き起こされ、骨格形成異常、肝脾腫大、心肺閉塞、および神経衰退を結果としてもたらす、X連鎖潜性遺伝性リソソーム病である。患者の標準治療は、酵素補充療法(ERT)であるが、ERTは、神経学的改善を伴わない。IDS欠損症のマウスモデルにおいて、若い8週齢マウス中へのAAV9.hIDSの脳室内(ICV)投与は、IDS欠損対照同腹子と比較して、補正的レベルのhIDS酵素活性、GAG貯蔵のほぼWTレベルへの低減、および神経認知機能不全の阻止を結果としてもたらした。神経症状発現の出現が、若い成体において阻止できたため、AAV9.hIDSのICV投与によって4か月齢で処置した、より高齢の成体MPS II動物が、神経行動学的機能を回復し、補正されたレベルのIDS酵素活性およびGAG貯蔵を示すと仮定された。ICV注射の4週間後まで、循環におけるIDS酵素活性は、WTレベルの1000倍であった(0.39+/-0.04 nmol/hr/mlと比較して305+/-85 nmol/hr/ml)。36週齢で、処置動物を、バーンズ迷路において神経認知機能について試験した。処置動物の動作は、罹患していない同腹子のものと区別不能であり、無処置MPS IIマウスと比較して有意に改善された。4か月齢までに失われる認知機能を、このように、IDSをコードするAAV9の脳脊髄液への送達によって、MPS IIマウスにおいて修復させることができる。これらの結果の含意は、ヒトMPS IIが、CNSへのAAV媒介性IDS遺伝子移入によって神経症状発現の発生後に処置可能であるかもしれないという見通しである。
【0166】
実施例VII
MPSIIは、希少X連鎖リソソーム蓄積症である。MPSII患者は、IDSの欠損を有し、GAGを蓄積する。臨床症状発現には、粗大顔貌(coarse facial feature)、低身長、多発性骨形成不全症、関節硬直、骨格形成異常およびニューロン圧迫、臓器腫大、網膜変性、心臓/呼吸器閉塞、小石様皮膚(pebbled skin)、および知的障害(重篤な形態)が含まれる。現在の処置(HSCTおよびERT)は、HSCTにおいては、HSCT(MPSI)において酵素発現が非常に低いレベルであり、そのため、神経学的欠損の逆転において有益性を提供する可能性が低い、およびERTにおいては、酵素が急速に枯渇し、かつ血液脳関門を横切らず、神経学的改善がない点で欠けている。
【0167】
既に神経学的欠損を症状発現した、より高齢のMPSII動物のAAV-IDSでの処置が、有益な効果を有するかどうかを調査するために、4か月齢MPSIIマウスに、AAV-hIDSをICV投与した(図8)。
【0168】
AAV9.hIDS ICV注射によって4か月で処置したMPSII動物は、血漿においてWTの500倍のIDS酵素活性(図9)、肝臓においてWTの約100倍のIDS酵素活性、および脳、例えば海馬においてWTレベルの約1/3の上昇した酵素活性(図10)を呈し、GAGレベルは、すべての組織においてWTレベルまで修復され(図11)、処置は、神経認知機能を修復した(図7)。
【0169】
実施例VIII
ムコ多糖症I型のマウスモデルにおけるAAVベクター媒介性イズロニダーゼ遺伝子送達:CNSへの送達の様々な経路の比較
ムコ多糖症I型(MPS I)は、リソソーム酵素であるα-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされる遺伝性代謝障害である。グリコサミノグリカンの全身性のかつ異常な蓄積が、成長の遅延、臓器腫大、骨格形成異常、および心肺疾患に関連している。疾患の最も重篤な形態(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞、および早期の死を被る。MPS Iに対する2種類の現在の処置(造血幹細胞移植および酵素補充療法)は、疾患の中枢神経系(CNS)症状発現すべてを有効に処置することはできない。
【0170】
遺伝子治療に関して、成体マウスにおけるAAV9の血管内送達は、広範な直接ニューロンターゲティングを達成しないことが以前に実証された(Foust et al, 2009を参照されたい)。以前の研究はまた、成体IDUA欠損マウスのCNS中へのAAV8-IDUAの直接注射は、導入遺伝子発現の低い頻度または不十分なレベルを結果としてもたらしたことも示した。MPS1の処置のために前臨床モデルを用いる以下の実施例は、驚くべきことに、免疫適格性の成体IDUA欠損マウスのCNS中へのAAV9-IDUAの直接注射が、野生型成体マウスにおけるIDUA酵素の発現および活性と同じであるかまたはそれよりも高い、IDUA酵素の発現および活性を結果としてもたらしたことを実証する。
【0171】
方法
AAV9-IDUA調製 AAV-IDUAベクター構築物(MCI)は、以前に記載されている(Wolf et al., 2011)(mCagsプロモーター)。AAV-IDUAプラスミドDNAを、University of Florida Vector CoreでAAV9ビリオン中にパッケージングして、1ミリリットルあたり3×1013ベクターゲノムの力価を生じた。
【0172】
ICV注入 成体Idua-/-マウスに、ケタミンおよびキシラジンのカクテル(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)を用いて麻酔し、定位フレーム上に置いた。10マイクロリットルのAAV9-IDUAを、Hamiltonシリンジを用いて、右側側脳室(定位は、ブレグマからAP 0.4、ML 0.8、DV 2.4 mmに調整する)中に注入した。動物を、回復のために、加温パッド上のケージに戻した。
【0173】
くも膜下腔内注入 若い成体マウス中への注入を、0.2 mL 25%マンニトールの静脈内注射の20分後に、L5椎骨とL6椎骨との間に、10μLのAAVベクター含有溶液の注射によって実施した。
【0174】
免疫寛容化 新生IDUA欠損マウスに、5.8μgの組換えイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)を含有する5μLを、顔面側頭静脈を通して注射し、次いで、動物をケージに戻した。
【0175】
シクロホスファミド免疫抑制 免疫抑制のために、動物に、AAV9-IDUAベクターの注入の1日後から開始して、1週間に1回、120 mg/kgの用量でシクロホスファミドを投与した。
【0176】
動物 動物を、屠殺の前に、ケタミン/キシラジン(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)で麻酔し、70 mL PBSを経心腔的に灌流させた。脳を採取し、氷上で、小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイス上で凍結し、次いで-80℃で保存した。試料を融解し、電動ペッスルを用いて1 mLのPBS中でホモジナイズし、0.1% Triton X-100で透過化処理した。IDUA活性を、基質として4MU-イズロニドを用いて、蛍光定量アッセイによって測定した。活性を、Bradfordアッセイ(BioRad)によって測定した1 mgタンパク質あたりの単位(1分あたりに生成物に変換される基質のパーセント)で表す。
【0177】
組織 組織ホモジネートを、Eppendorf卓上遠心分離機モデル5415D(Eppendorf)を用いて13,000 rpmで3分間の遠心分離によって清澄化し、プロテイナーゼK、DNアーゼ1、およびRNアーゼと一晩インキュベートした。GAG濃度を、Blyscan Sulfated Glycosaminoglycan Assay(Accurate Chemical)を用いて、製造業者の説明書にしたがって測定した。
【0178】
結果
イズロニダーゼ欠損マウスにAAVを、脳室内(ICV)またはくも膜下腔内(IT)のいずれかに投与した。免疫応答を阻止するために、動物には、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制したか、誕生時にヒトイズロニダーゼタンパク質(aldurazyme)の静脈内投与によって免疫寛容化したかのいずれかを行い、または、注射を、同様にイズロニダーゼ欠損であるNOS-SCID免疫欠損マウスにおいて実施した。動物を、処置後の示された時に屠殺し、脳を顕微解剖して、抽出物をイズロニダーゼ活性についてアッセイした。
【0179】
AAV-IDUAベクターをICV注射した免疫欠損IDUA欠損動物は、脳のすべての区域において高レベルのIDUA発現(野生型の10~100倍)を呈し、最高レベルは、脳幹および視床(「残り」)で観察された。
【0180】
ICV経路によってAAVベクターを投与した免疫抑制動物は、免疫欠損動物と比較して、相対的に低いレベルの酵素を脳において有していた。不健康であったために屠殺の2週間前にCPを中止していたため、これらの動物において免疫抑制が損なわれていた可能性があることに注意されたい。
【0181】
免疫抑制動物に、IT経路によってAAVベクターを投与した。AAVベクターをICV投与した免疫寛容化動物は、免疫欠損動物において観察されたものと同様に、脳のすべての部分において広範なIDUA活性を呈し、このことは、免疫寛容化手順の有効性を示した。
【0182】
GAG貯蔵物質を、試験群の4種類すべてについて、脳の様々な区分においてアッセイした。各群について、脳の各部分の平均値を左に示し、個々の動物の各々についての値を右に示す。IDUA欠損動物(一番左)は、野生型動物(マゼンタバー)と比較して高レベルのGAGを含有していた。GAGレベルは、AAV処置動物のすべての群における脳のすべての部分について、野生型であるか、または野生型よりも低かった。GAGレベルは、AAV9-IDUAをくも膜下腔内に投与した動物の皮質および脳幹において、野生型よりも有意にではないがわずかに高かった。
【0183】
結論
線条体および海馬におけるIDUA発現は、ICV注射した動物と比べ、IT注射した動物において、より低かったが、結果は、送達の経路にかかわらず(ICVまたはIT)、脳におけるIDUAの高いかつ広範な分布を示す。免疫欠損マウスは、免疫適格性マウスよりも高いレベルの発現を有するため、免疫応答があるように見られる。ICV注射に関しては、CPが早期に中止された時、IDUA発現はより低い。加えて、免疫寛容化は、高レベルの酵素活性を取り戻す際に有効であった。さらに、GAGレベルは、すべての処置したマウスの実験群において、正常に修復された。
【0184】
実施例IX
方法
AAV9-IDUA調製 AAV-IDUAプラスミドを、University of Florida vector coreまたはUniversity of Pennsylvania vector coreのいずれかでAAV9ビリオン中にパッケージングして、1ミリリットルあたり1~3×1013ベクターゲノムの力価を生じた。
【0185】
ICV注入 実施例VIIIを参照されたい。
【0186】
くも膜下腔内注入 実施例VIIIを参照されたい。
【0187】
免疫寛容化 以下以外は実施例VIIIにおける通りである:複数回寛容化のために、新生IDUA欠損マウスに、第1用量のAldurazymeを顔面側頭静脈に注射し、その後6回の毎週注射を腹腔内投与した。
【0188】
シクロホスファミド免疫抑制 実施例VIIIを参照されたい。
【0189】
動物 動物を、屠殺の前に、ケタミン/キシラジン(1 kgあたり100 mgケタミン+10 mgキシラジン)で麻酔し、70 mL PBSを経心腔的に灌流させた。脳を採取し、氷上で、小脳、海馬、線条体、皮質、および脳幹/視床(「残り」)に顕微解剖した。試料をドライアイス上で凍結し、次いで-80℃で保存した。
【0190】
組織IDUA活性 組織試料を融解し、組織ホモジナイザーにおいて食塩水中でホモジナイズした。組織ホモジネートを、卓上Eppendorf遠心分離機における15,000 rpmでの、4℃で15分間の遠心分離によって清澄化した。組織溶解物(上清)を収集して、IDUA活性およびGAG貯蔵レベルについて解析した。
【0191】
組織GAGレベル 組織溶解物を、プロテイナーゼK、RNアーゼ、およびDNアーゼと一晩インキュベートした。GAGレベルを、Blyscan Sulfated Glycosaminoglycan Assayを用いて、製造業者の説明書にしたがって解析した。
【0192】
IDUAベクターコピー 組織ホモジネートを、Wolf et al. (2011)に記載されているように、DNA単離およびその後のQPCRのために用いた。
【0193】
結果
動物に、脳室内(ICV)注入またはくも膜下腔内(IT)注入のいずれかによって、AAV9-IDUAベクターを投与した。ベクター投与は、同様にIDUA欠損であるNOD-SCID免疫欠損(ID)マウスにおいて、または、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制したか、もしくは誕生時にヒトイズロニダーゼタンパク質(Aldurazyme)の単回注射または複数回注射によって免疫寛容化したか、のいずれかのIDUA欠損マウスにおいて実施した。すべてのベクター投与は、3~4.5か月齢の範囲の成体動物において実施した。動物に、10マイクロリットルあたり3×1011ベクターゲノムの用量の10μLのベクターを注射した。
【0194】
頭蓋内に注入した免疫欠損IDUA欠損マウスにおけるIDUA酵素活性は、脳のすべての区域において高く、野生型レベルよりも30~300倍高い範囲であった。最高の酵素発現は、視床および脳幹において、ならびに海馬において見られた。
【0195】
頭蓋内に注射し、シクロホスファミド(CP)で免疫抑制した動物は、他の群よりも有意に低いレベルの酵素活性を示した。しかし、この場合のCP投与は、動物が不健康であったために、屠殺の2週間前に中止しなければならなかった。
【0196】
誕生時にIDUAタンパク質(Aldurazyme)で寛容化し、ベクターを頭蓋内に投与した動物におけるIDUA酵素レベルは、免疫欠損動物において達成されたレベルと同様に、脳のすべての部分において高く、野生型レベルよりも10~1000倍高い範囲であり、このことは、免疫寛容化手順の有効性を示した。
【0197】
くも膜下腔内に注射し、週1回の頻度でCPを投与したマウスにおけるIDUA酵素レベルは、上昇し、脳のすべての部分において、特に小脳および脊髄において観察された。酵素のレベルは、線条体および海馬において最低であり、野生型レベルの活性であった。
【0198】
IDUA欠損マウスを、記載されているようにAldurazymeで寛容化して、ベクターをくも膜下腔内に注射した。脳のすべての部分において、広範なIDUA酵素活性があり、最高レベルの活性が、脳幹および視床、嗅球、脊髄、ならびに小脳にあった。同様に、最低レベルの酵素活性が、線条体、皮質、および海馬において見られた。
【0199】
対照免疫適格性IDUA欠損動物に、免疫抑制または免疫寛容化を伴わずに、ベクターをくも膜下腔内に注入した。結果は、酵素活性は、野生型レベルであるかまたはわずかに高かったが、免疫調節を受けた動物において観察されたものよりも有意に低かったことを示す。酵素レベルの減少は、免疫調節動物において最高レベルの酵素を発現した区域である、小脳、嗅球、ならびに視床および脳幹において特に有意であった。
【0200】
動物を、GAG貯蔵物質についてアッセイした。すべての群は、GAG貯蔵のクリアランスを示し、GAGレベルは、野生型動物において観察されたものと同様であった。免疫抑制し、AAV9-IDUAベクターをくも膜下腔内に注射した動物は、野生型よりもわずかに高かったが、それでも無処置IDUA欠損マウスよりもずっと低い皮質におけるGAGレベルを有していた。
【0201】
免疫寛容化し、ベクターを頭蓋内またはくも膜下腔内のいずれかに注射した動物におけるAAV9-IDUAベクターの存在を、QPCRによって評定した。1細胞あたりのIDUAコピーは、くも膜下腔内に注入した動物との比較において、頭蓋内に注入した動物においてより高く、これは、頭蓋内に注射した動物において見られたより高いレベルの酵素活性と一致している。
【0202】
結論
IDUAの高い、広範な、かつ治療的なレベルが、成体マウスにおける脳室内経路およびくも膜下腔内経路のAAV9-IDUA投与後に、脳のすべての区域において観察された。酵素活性は、AAV-IDUAをくも膜下腔内に注入した免疫適格性IDUA欠損動物において、野生型レベルまで修復されたか、またはわずかに高かった。有意により高いレベルのIDUA酵素が、誕生時にIDUAタンパク質の投与によって開始して免疫寛容化した動物において、両方の経路のベクター注射について観察された。
【0203】
実施例X
ムコ多糖症II型(MPS II;ハンター症候群)は、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損、ならびに、グリコサミノグリカン(GAG)であるデルマタンおよびヘパラン硫酸のその後の蓄積によって引き起こされる、X連鎖潜性遺伝性リソソーム蓄積症である。罹患した個体は、ある範囲の重症度の身体的、神経学的な症状発現、および短くなった期待寿命を呈する。例えば、罹患した個体は、ある範囲の重症度の症状発現、例えば、臓器腫大、骨格形成異常、心肺閉塞、神経認知欠損、および短くなった期待寿命を呈する。現時点で、MPS IIのための治療法はない。現在の標準治療は、疾患の進行を管理するために用いられる酵素補充療法(ELAPSRASE;イデュルスルファーゼ)である。しかし、酵素補充療法(ERT)は、神経学的改善を結果としてもたらさない。造血幹細胞移植(HSCT)は、MPS IIに対して神経学的有益性を示していないため、現在、この疾患の神経症状発現を呈する患者のための臨床上の頼りは何もなく、新たな治療法が極度に必要とされている。
【0204】
AAV9ベクターを、処置した動物において、脳におけるIDSレベルを修復し、神経認知欠損の出現を阻止するための、MPS IIマウスの中枢神経系中へのヒトIDSコード配列(AAV9-hIDS)の送達のために開発する。特に、スルファターゼ活性部位の活性化のために必要とされるヒトスルファターゼ修飾因子-1(SUMF-1)を伴うかまたは伴わずにヒトIDSをコードする、一連のベクターを生成した。3種類の投与の経路:くも膜下腔内(IT)、脳室内(ICV)、および静脈内(IV)を、これらの実験において用いた。投与の経路にかかわらず、酵素レベルにおけるいかなる有意な差も、hIDS単独を形質導入するAAV9ベクターで処置したマウスと、ヒトIDSおよびSUMF-1をコードするAAV9ベクターで処置したマウスとの間で見出されなかった。IT投与したNOD.SCID(IDS Y+)およびC57BL/6(IDS Y+)は、無処置動物と比較した時に、脳および脊髄において上昇したIDS活性を示さず、他方、血漿は、無処置動物よりも10倍高い(NOD.SCID)および150倍高い(C57BL/6)レベルを示した。AAV9-hIDSを静脈内投与したIDS欠損マウスは、野生型に匹敵するIDS活性をすべての臓器において呈した。さらに、IV注射した動物の血漿は、野生型よりも100倍高い酵素活性を示した。AAV9-hIDUAをICV投与したIDS欠損マウスは、脳の大部分の区域および末梢組織において野生型に匹敵するIDS活性を示し、他方、脳のいくつかの部分は、野生型よりも2~4倍高い活性を示した。そのうえ、血漿中のIDS活性は、野生型よりも200倍高かった。驚くべきことに、すべての処置動物の血漿におけるIDS酵素活性は、注射後少なくとも12週間にわたって持続性を示した;そのため、IDS酵素は、少なくともC57BL/6マウスバックグラウンド上では免疫原性ではなかった。無処置MPS II動物の神経認知欠損を、野生型同腹子のものと差別化するために、バーンズ迷路を用いて、追加的な神経行動試験を実施した。罹患した動物の学習能力は、同腹子において観察されたものよりも特徴的に遅いことが見出された。したがって、バーンズ迷路を用いて、MPS IIマウスモデルにおけるこれらの治療法の有益性に対処する。これらの結果は、MPS IIにおける神経学的欠損症を阻止するための、CNSへのAAV9媒介性ヒトIDS遺伝子移入の治療的有益性の潜在能力を示す。
【0205】
要約すると、AAV9-hIDSの脳室内(ICV)注射は、脳における野生型レベルのIDSを含み、IDS酵素欠損症の全身的補正を結果としてもたらした。hIDSとhSUMF-1との同時送達は、組織におけるIDS活性を増加させなかった。hIDS発現は、WTおよびMPS II C57BL/6マウスにおいて非免疫原性であった。
【0206】
以下は、この点に関してさらなる詳細を提供する。
【0207】
ムコ多糖症II型(MPS II、ハンター症候群)は、欠陥イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)によって引き起こされ、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸のグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を結果としてもたらす、希少x連鎖潜性リソソーム障害である。酵素補充が、MPS IIについて利用可能である唯一のFDA承認療法であるが、高価であり、かつMPS II患者において神経学的転帰を改善しない。下記のように、本研究は、MPS IIのマウスモデルにおいて脳室内に送達された、ヒトIDSをコードするIDSコードアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターの有効性を評定した。超生理学的レベルのIDSが、注射後少なくとも28週間にわたって循環において(野生型よりも160倍高い)、および注射後10か月で大部分の試験した末梢臓器において(最大で270倍)観察された。対照的に、脳のすべての区域においては、低いレベルのIDSのみ(野生型の7%~40%)が観察された。持続性IDS発現は、すべての試験した組織におけるGAGの正常化、および肝腫大の阻止に対して甚大な効果を有していた。追加的に、CNSにおける持続性IDS発現は、2か月齢で処置したMPS IIマウスにおける神経認知欠損の阻止において顕著な効果を有していた。本研究は、CNSに方向づけられたAAV9媒介性遺伝子移入が、ハンター症候群、および神経学的関与を有する他の単一遺伝子性障害のための潜在的に有効な処置であることを実証する。
【0208】
序文
ムコ多糖症(MPS)は、グリコサミノグリカン(GAG)の分解を触媒する11種類のリソソームヒドロラーゼのうちのいずれか1種類の欠損によって引き起こされる、リソソーム障害の群である。MPS II型(MPS II;ハンター症候群)は、肝脾腫大、骨格形成異常、関節硬直、および気道閉塞に関連する、罹患した個体の組織におけるその後の基質(GAG)の蓄積を伴うイズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損によって引き起こされ、X連鎖潜性である。重篤な症例において、罹患した個体は、神経認知欠損を呈し、青年期に病死する。MPS IIについて利用可能である現在のかつ唯一の処置は、酵素補充療法(ERT)であり、これは、疾患進行を和らげるために用いられるが、神経学的改善を伴わない。MPS Iについて長期の有益性を提供することが示されている(Whitley et al., 1993)造血幹細胞移植は、MPS IIの重篤な症例においては神経変性疾患を良くすることが報告されていない(McKinnis et al. 1996;Vellodi et al. 2015;Hoogerbrugge et al. 1995)。
【0209】
Sleeping Beauty(SB)トランスポゾンシステムおよびミニサークルは、MPS I型およびVII型などの全身性疾患についてマウスにおける使用が成功している、2種類の非ウイルス性遺伝子治療プラットフォームである(Aronovich et al. 2009;Aronovich et al. 2007;Osborn et al. 2011)。効率的であり、かつインビボで持続性発現を提供するにもかかわらず(Aronovich et al. 2007;Chen 2003)、これらのシステムの主要な欠点は、BBBを貫通できないことであり(Aronovich and Hackett 2015)、これはまだ解決されていない。これが、CNSに対する非ウイルス性遺伝子治療システムの有効性を限定している。
【0210】
種々のウイルスベクターが、それらの潜在力および持続性発現のために、多くの疾患についての遺伝子治療臨床試験において広範囲にわたって研究されている(Kaufmann et al. 2013)。これらのビヒクルの中で、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)は、単一遺伝子性障害のための遺伝子移入の媒介において、臨床試験についての有望な候補であることが示されている(Tanaka et al. 2012;Bennett et al. 2012;Nathwani et al. 2014)。他のAAVセロタイプとは異なり、アデノ随伴ウイルスベクターセロタイプ9(AAV9)は、CNSおよび末梢神経組織(PNS)に効率的に形質導入するだけではなく、BBBを貫通し、かつ末梢組織において種々の細胞タイプに形質導入することが、多くの動物モデルにおいて実証されている(Duque et al., 2009;Foust et al., 2009;Huda et al., 2014;Schuster et al., 2014)。したがって、AAV9は、MPS IIなどの単一遺伝子性障害についてのCNSを含む全身的補正のための候補として、他のウイルスベクターよりも性能が優れている。本明細書において、MPS IIのマウスモデルにおいてIDS欠損症を補正し、かつ神経認知障害を阻止するための、CNSに方向づけられたAAV9媒介性ヒトIDS遺伝子移入の有効性を報告する。
【0211】
材料および方法
AAVベクターのアセンブリおよびパッケージング すべてのベクターは、Penn Vector Core(Philadelphia, PA)で構築され、パッケージングされ、かつ精製されて、REGENXBIO, Inc.(Rockville, MD)によって提供された。簡潔に述べると、発現カセットは、3'末端および5'末端の両方上のAAV2逆位末端リピート(ITR)のバックボーンの上に、サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサーを伴うニワトリβ-アクチン(CB7)プロモーター、およびそれに続くhIDSまたはヒトスルファターゼ修飾因子1(hSUMF1)、ウサギβ-アクチンポリアデニル化シグナルを含有していた。同時発現構築物は、内部リボソーム進入部位(IRES)の下流でSUMF1の翻訳を開始するために、IDSとSUMF1との間に位置づけられたIRESを含んでいた。本研究においては、以下の5種類の異なるベクター構築物を調査した:ヒトIDSのみを発現するAAV9(AAV9.hIDS);コドン最適化ヒトIDSを発現するAAV9(AAV9.hIDSco);ヒトIDSおよびヒトSUMF1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDS-hSUMF1);コドン最適化ヒトIDSおよびコドン最適化ヒトSUMF1を同時発現するAAV9(AAV9.hIDScohSUMF1co);ヒトSUMF1のみを発現するAAV9(AAV9.hSUMF1)。AAVベクターを、AAVシス、AAVトランス(pAAV2/9 repおよびcap)、ならびにアデノウイルスヘルパー(pAdΔF6)の3種類のプラスミドをHEK293細胞中に同時トランスフェクトすることによってパッケージングした(Lock et al. 2010)。AAVベクターを、次いで、Profile IIデプスフィルターを用いて上清から精製し、タンジェンシャルフロー濾過(TFF)によって濃縮した。濃縮した供給原料を、イオジキサノール勾配遠心分離によって再清澄化し、次いで、100 kDa MWCO HyStreamスクリーンチャンネル膜を有するTFFカセットを用いて再濃縮した。精製したベクターを、次いで、SDS-PAGEによって純度について、およびqPCRによって潜在力について試験した(Lock et al. 2010)。
【0212】
動物の世話および飼育 すべての動物の世話および実験手順は、University of MinnesotaのInstitutional Animal Care and use Committee(IACUC)の承認の下で実施した。NOD.SCIDマウスは、The Jackson Laboratoryから購入し、C57BL/6野生型マウスは、National Cancer Instituteから購入した。C57BL6イズロナート-2-スルファターゼノックアウト(IDS KO)マウスは、Dr. Joseph Muenzer(University of North Carolina, NC, USA)により厚意で提供され、University of MinnesotaのResearch Animal Resources(RAR)施設で特定病原体除去条件下で維持した。ヘテロ接合体(IDS+/-)の雌を野生型(IDS+/0)のC57BL/6雄と交配することによって、MPS IIの雄の仔(IDS-/0)を生成した。すべての仔を、PCRによって遺伝子型判定した。
【0213】
AAVベクター投与 くも膜下腔内注射のためには、8週齢のマウスに、5.6×1010ベクターゲノム(vg)のAAV9ベクターの用量を、L5椎骨とL6椎骨との間に注射した。注射は、10~15秒の持続期間で、意識のある動物において行った。静脈内注射のためには、動物を短時間拘束し、5.6×1010 vgの用量を、尾静脈を介して注射した。脳室内注射は、成体8週齢のマウスにおいて実施した。
【0214】
簡潔に述べると、動物に、6μlのケタミン/キシラジン混合物(36 mg/mlケタミン、5.5 mg/mLキシラジン)を腹腔内注射して深い麻酔を生じ、次いで、定位フレーム(Kopf Model 900)上に乗せた。頭蓋骨を曝露するように切開を行い、注射のための部位として小さな穴をドリルで開け、次いで、Hamiltonシリンジ(Model 701)を用いて、手で1分あたりおよそ0.5μLの速度で注入を実施した。シリンジをその場所にさらに3分間放置し、次いで、少なくとも2分の時間をかけてゆっくりと引き抜いた。注射の完了後、頭皮を縫合し、麻酔から回復後、マウスを次いで、標準的な住居に戻した。マウスのすべては、手術後の感染症および炎症を阻止するために、3日コースの皮下へのケトプロフェン2.5 mg/kgおよび腹腔内へのBaytril 5 mg/kgを受けた。
【0215】
試料の収集および調製 血液を、滅菌5 mmランセット(Goldenrode(商標))を用いた顎下穿刺によってMicrovette(登録商標)ヘパリン処理コートチューブ(SARSTEDT AG & Co.)中へ収集し、Eppendorf遠心分離機5415Dにおいて7000 rpmで10分間、遠心分離した。血漿を収集して、IDSアッセイのために-20℃~-80℃で保存した。尿を収集して、クレアチニンアッセイおよびGAGアッセイに用いるまで-20℃で保存した。3分間、2リットル/分でCO2フュームチャンバーを用いて安楽死させる前に、OHAUS(登録商標)CS 200スケールを用いて動物の体重を最初に測定することによって、臓器を採取した。動物を、SURFLO(登録商標)翼状注入セット(TERUMO(登録商標))サイズ23Gx."で手の圧力によって、60 mlシリンジ(BD)中の60 mLの1×PBSで灌流した。心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、および脊髄を採取した。採取した末梢臓器を、Sartorius BP 61Sスケールを用いて秤量した。脳を、左および右の小脳、皮質、海馬、線条体、嗅球、および視床/脳幹に顕微解剖した。臓器を直ちに、急速冷凍し、さらなる組織加工処理まで-70℃で保存した。
【0216】
組織加工処理のために、小脳、海馬、線条体、および嗅球を、250μl滅菌食塩溶液中に1すくい(1すくいあたり0.2 g)の0.5 mmガラスビーズ(NEXT ADVANCE)を含有する、あらかじめ割り当てられた1.5 mLロック付キャップマイクロチューブ(EPPENDORF)中に添加した。視床/脳幹、皮質、および脊髄を、400μlの滅菌食塩溶液中に2すくいの0.5 mmガラスビーズを含有する、割り当てられたロック付キャップマイクロチューブ中に添加した。肺の半分および全脾臓を、400μlの食塩溶液中に2すくいの0.9~2.0 mmステンレス鋼ブレンド(1すくいあたり0.6 g)を含有する、割り当てられたチューブ中に添加した。心臓、約0.3 gの肝臓、および1個の腎臓を、600μL滅菌食塩溶液中に3すくい(2すくいの0.9~2.0 mmステンレス鋼ブレンド(1すくいあたり0.6 g)および1すくいの3.2 mmステンレス鋼ビーズ(1すくいあたり0.7 g)の混合物)を含有する、割り当てられたチューブ中に添加した。ビーズチューブ中で調製した試料のすべてを、次いで、Bullet blender(登録商標)STORMビーズミルホモジナイザー(NEXT ADVANCE)を用いてスピード12で5分間ホモジナイズして、組織ホモジネートを生成した。50マイクロリットルの組織ホモジネートを、1.5 mLマイクロチューブ(GeneMate)中に移し、定量リアルタイムPCR(qPCR)のために-20℃~-80℃で保存した。残りの組織ホモジネートを、Eppendorf遠心分離機5424Rを用いて13,000 rpmで15分間、4℃で清澄化した。上清(組織溶解物)のすべてを、新たなマイクロチューブ中に移し、IDSアッセイ、GAGアッセイ、およびタンパク質アッセイのために用いるまで、-20℃~-80℃で保存した。
【0217】
イズロナートスルファターゼアッセイ IDS酵素活性を、2段階アッセイで、基質として4-メチルウンベリフェリル-α-L-イズロニド-2-硫酸二ナトリウム(4-MU-αIdoA-2S:Toronto Research Chemical Incorporation;カタログ番号M334715)を用いて、組織溶解物において測定した。組織溶解物を、1.25 mM MU-αIdoA-2S(0.1 M酢酸ナトリウム緩衝液pH 5.0+10 mM酢酸鉛+0.02%アジ化ナトリウム)と混合し、37℃で1.5時間インキュベートした。第1段階の反応を、IDS酵素活性を停止するためのPiCi緩衝液(0.2 M Na2HPO4/0.1 Mクエン酸緩衝液、pH 4.5+0.02% Na-アジド)で終了させた。最終濃度1μg/mlのイズロニダーゼ(IDUA:R&D Systems、カタログ番号4119-GH-010)をチューブ中に添加して、第2段階の反応を開始した。チューブを37℃で一晩インキュベートして、4-MU-IdoAを4-MUに切断した。第2段階の反応を、200μl停止緩衝液(0.5 M Na2CO3+0.5 M NaHCO3、0.025% Triton X-100、pH 10.7)を添加することによって終了させた。チューブを、Eppendorf遠心分離機5415Dを用いて13,000 rpmで1分間遠心分離した。上清を、丸底黒色96ウェルプレート中に移し、蛍光を、Gen5プレートリーダープログラムを有するSynergy MXプレートリーダー分光光度計(Bio Tek)を用いて、励起365 nmおよび発光450 nm、感度75で測定した。酵素活性を、血漿試料についてはnmol/hr/ml血漿で、組織抽出物についてはnmol/hr/mgタンパク質で表す。タンパク質を、BSAを標準として、Pierce(商標) 660 nm Protein Assay Reagentを用いて測定した(カタログ番号23208;Thermo Scientific, MN)。
【0218】
グリコサミノグリカンアッセイ 組織溶解物を、以前に記載されているように(Wolf et al. 2011)、プロテイナーゼK、DNアーゼ1、およびRNアーゼと一晩インキュベートし、次いで、GAG含量を、Blyscan(商標) Sulfated Glycosaminoglycan Assay kit(biocolor life science assays, Accurate Chemical)を用いて評価した。Blyscanグリコサミノグリカン標準100μg/mL(カタログ番号CLRB 1010:Accurate Chemical, NY)を用いて、日々の標準曲線を作製した。吸光度を、Gen5プレートリーダープログラムを有するSynergy MXプレートリーダー分光光度計(Bio Tek)を用いて、656 nmで測定した。ブランク値を、すべての読み取り値から差し引いた。組織GAG含量を、1 mgタンパク質あたりのug GAGで報告し、尿GAG含量を、1 mgクレアチニンあたりのug GAGとして報告する。尿クレアチニンを、Creatinine Assay Kit(Sigma-Aldrich(登録商標))を用いて、製造業者の説明書にしたがって測定した。
【0219】
IDSベクター配列についての定量リアルタイムPCR(qPCR) 組織ホモジネートを、300μL細胞溶解緩衝液(5 Prime)および100μgのプロテイナーゼKと、穏やかに揺らして一晩、55℃で混合した。DNAを、試料からフェノール/クロロホルム抽出によって単離した。20μlの反応混合物は、60 ngのDNA鋳型、10μlのFastStart Taqman Probe Master mix(Roche)、各々200 nMのフォワードプライマーおよびリバースプライマー、ならびに100 nMのプローブを含有していた。CFXマネージャーソフトウェアバージョン3.1を装備したC1000 Touch(商標) Thermo Cycler(BIO-RAD)を、qPCR反応に用いた。PCR条件は、95℃で10分間、その後95℃で15秒間および60℃で1分間の40サイクルであった。用いたIDSプライマーは、
フォワードプライマー:
IDSリバースプライマー:
IDSプローブ:
であった。標準を調製するために、pENN.AAV.CB7.hIDSを、SalI制限酵素(New England BioLab, Inc.)での消化によって直線化した。直線化プラスミドDNAを、次いで、5Prime DNA Extraction kitを用いて精製した。プラスミドDNA濃度を、NanoDrop 1000 3.7.0プログラムを有するNanoDrop 1000分光光度計(Thermo Scientific)を用いて測定した。精製した直線化プラスミドDNAを、次いで、qPCR標準曲線を調製するために希釈した。UltraPure(商標)蒸留水(Invitrogen)を、陰性対照として用いた。10倍希釈系列の直線化プラスミドを用いて、二連で1アッセイあたり1~108プラスミドコピーの範囲の標準曲線を生成し、増幅効率は90%~110%の間で、0.96~0.98のR2であった。ベクターコピーを、日々の標準曲線に基づいて算出し、1細胞ゲノム当量あたりのベクターゲノム(vg/ge)として表した。
【0220】
バーンズ迷路における神経認知試験 バーンズ迷路(Barnes 1979)は、直径がおよそ4フィートである円形プラットフォームであり、床からおよそ4フィート上昇しており、外周に等間隔の40個の穴を有する。マウスがプラットフォームから逃避するために開いている唯1個の穴以外、穴のすべては遮断されている。様々な視覚的な手がかりが、マウスが空間ナビゲーターとして用いるように、4つの壁の各々に取り付けられていた。6か月齢で、試験マウスを、不透明な漏斗でマウスを覆って、プラットフォームの中央に置いた。カバーを持ち上げて、マウスを放し、明るい光に曝した。動物は、3分以内に1個の開いた穴を用いてプラットフォームから逃避することによって、課題を完了することが期待される。各マウスを、合計で6日間、1日あたり4回の試験に供した。マウスが各試験においてプラットフォームから逃避するのに必要とした時間を記録し、平均を、各群において各日について算出した。
【0221】
統計解析 データは、平均値±S.E.として報告する。統計解析を、Prism 6を用いて行った。チューキーの事後検定を伴う二元配置分散分析を用いて、IDSアッセイ、GAGアッセイ、および神経行動アッセイについて試験群の間で差の有意性を評定し、0.05未満のP値を有意と考えた。Microsoft Excel上での両側t検定を用いて、顕微解剖した脳の左半球と右半球との間でのIDS活性の差を評定した。
【0222】
結果
CNSにおけるIDS発現を達成するためのベクター構築物および投与の経路の比較 パイロット研究を、いくつかのAAVベクター構築物を比較するため、およびCNSにおいてIDS発現を結果としてもたらす適している投与の経路を見出すために実施した。抗IDUA免疫応答の潜在的合併症を回避するために、NOD.SCIDマウスを本研究に用いた。4種類のベクター(AAV9.hIDS、AAV9.hIDSco、AAV9.hIDS-hSUMF1、およびAAV9.hIDSco-hSUMF1co)を、くも膜下腔内(IT)投与によって送達した。SUMF1は、触媒的活性型への変換を結果としてもたらす、IDSを含むスルファターゼ中のアミノ酸を翻訳後に修飾する酵素をコードする。ベクターのいくつかへのSUMF1の添加は、IDSが過剰発現された時に活性IDSタンパク質の産生においてSUMF1活性が律速であるかどうかを判定するためであった。5匹の無処置IDS+ NOD.SCIDマウスを、対照群として用いた。注射の6週間後に、マウスを安楽死させて、脳を採取し、様々な部分に顕微解剖した。MPS Iにおける並行した研究により、hIDUAをコードするAAV9ベクターのIT注射後のCNSにおいて、IDUAの超生理学的活性が実証されている(Belur et al. 2014)。AAV9.hIDSベクターを投与したIDS+ NOD.SCIDマウスにおいて、内在性レベルを超える高レベルのIDSが見えることが期待された。驚くべきことに、ベクター構築物にかかわらず、注射していないNOD.SCIDマウスにおいて観察された内在性レベルを超える、IDS活性のいかなる有意な増加も、CNSにおいて観察されなかった(データは示されていない)。AAV9.hIDSをまた、8週齢の3匹の野生型C57BL/6(IDS+ C57BL/6)マウスの2群に、一方の群はIT投与を介して、もう一方の群は静脈内投与(IV)を介して注射した。再び、無処置対照の内在性レベルより上の、CNSにおけるIDS活性のレベルのいかなる有意な増加も観察されなかった(データは示されていない)。このように、IDSコードAAVベクターのIT注射もIV注射も、適している投与の経路であるように見られなかった。
【0223】
上記の最初の研究からの別の予想外の結果は、CNSにおいてはIDS活性の増加は検出不可能であったが、IV処置群およびIT処置群の両方における血漿IDS活性は、無処置野生型レベルよりも上に最大でおよそ140倍増加し、処置後少なくとも12週間持続したことである。IT処置動物について、この結果は、AAVベクターが、脳脊髄液中への注射後に末梢循環へ分布したことを示唆する。(ITまたはIVいずれかの)注射後少なくとも12週間にわたる持続性酵素活性の存在はまた、hIDSがC57BL/6マウスにとって恐らく非免疫原性であることも示唆する。
【0224】
同じ4種類のベクター構築物(AAV9.hIDS、AAV9.hIDSco、AAV9.hIDS-hSUMF1、およびAAV9.hIDSco-hSUMF1co)を、IT注射よりもずっと高いレベルのCNSにおける形質導入を支持する手順である脳室内注射によって、免疫適格性MPS IIマウス中に投与した。ヒトIDSの発現は、C57BL/6マウスにおいて免疫応答を惹起しないことが見出されたため、MPS II試験動物の免疫抑制は、必要なかった。SUMF1発現が、IRESからの発現の駆動と比較した際に最適化されている条件下で、追加的なIDS活性があるかどうかを判定するために、追加的な群のMPS IIマウスに、AAV9.hIDSおよびAAV9-hSUMF1の2種類のベクターの1:1比での組み合わせ(AAV9.hIDS+AAV9.hSUMF1;合計で5×1010 vgの用量)をICV注射した。無処置野生型同腹子を、対照として用いた。注射の6週間後に、動物を安楽死させて、臓器を採取し、脳を顕微解剖してIDS活性を測定した。AAV9.hIDS、AAV9.hIDS-hSUMF1、またはAAV9.hIDS+AAV9.hSUMF1を注射した動物は、脳の大部分において、野生型レベルのおよそ10%~40%のIDS活性のレベルを示した。IDS活性は、MPS IIマウスの脳のすべての区域において検出不可能であった。コドン最適化ベクター構築物を注射した動物は、ほとんどが野生型レベルの10%未満を示した。AAV9.hIDS注射動物とAAV9.hIDS+hSUMF1を注射した動物との間には、いかなる有意な差もなかった。このように、本発明者らの思いのままに、同じベクター上または別々のベクター上いずれかでのhSUMF1の同時送達は、評価したIDS活性のレベルを増強しなかった。SUMF1の添加も用いたコドン最適化アルゴリズムも、天然hIDS cDNA配列と比較した際に増加したIDS活性を結果としてもたらさなかったため、下記のように、ベクターAAV9.hIDSをその後、ICV投与したMPS IIマウスにおける、より広範囲にわたる効力研究のために用いた。
【0225】
AAV9.hIDSベクターの脳室内投与によるCNSおよび末梢のリソソーム病の阻止 5.6×1010 AAV9.hIDS vgの用量を、脳脊髄液(CSF)を通したベクターの広範なCNS分布を達成するために、ICV注射によって8週齢MPS IIマウス中に注入した。パイロット研究の場合のように、野生型よりも最大で160倍高い血漿IDS活性が、ICV処置MPS II動物のこのより大きなコホートにおいて観察され、この発現は、実験を通して持続した(注射後28週間)。野生型および無処置MPS IIマウスと比較して、処置動物におけるGAG排泄に対する長期IDS発現の効果を評定するために、尿を、研究の終わり(注射後40週間)に収集した。尿GAGは、野生型同腹子と比較した時にMPS II動物において有意に上昇した(p<0.05)。処置動物は、無処置同腹子と比較した時に尿GAG含量において有意な低減を示し(p<0.05)、野生型レベルと比較した時には正常化された(p>0.05)。
【0226】
10か月齢(注射後40週間)で、すべてのマウスを安楽死させ、解析のために臓器を採取した。IDS活性は、無処置MPS IIマウスの脳のすべての区域および脊髄において検出不可能であった。AAV9.hIDS注射動物は、脳のすべての領域において野生型のおよそ9%~28%の、嗅球において53%の、および脊髄において7%のIDS活性を有していた。ベクターを、脳の右室中に注入したが、本発明者らは、左半球と右半球との間で、IDS活性におけるいかなる有意な差も観察しなかった(p>0.05)。CNSとは異なり、超生理学的レベルの酵素活性が、野生型の34%であると観察された肺の場合を除いて、心臓、肝臓、脾臓、および腎臓(それぞれ11倍、166倍、5倍、および3倍)などのすべての試験した末梢臓器において観察された。
【0227】
DNAを、同じ組織ホモジネートから単離して、qPCRによってベクター分布について評定した。Wolfら (Wolf et al. 2011)と一致して、AAVベクターのICV注入は、CNSにおいておよび試験した末梢組織のすべてにおいて、ベクターの全体的な分布を結果としてもたらした。最高のベクターコピー数は、右海馬においてであり(49 vg/ge)、他方、同様のベクターコピーが、脳のすべての領域について左半球と右半球との間で観察された。CNSとは異なり、相対的に低いコピー数が、処置動物の心臓、肺、脾臓、および腎臓を含む、大部分の試験した末梢組織において検出され(0.6 vg/ge未満)、他方、高いベクターコピー数が、肝臓において観察された(44 vg/ge)。これにより、肝臓によって産生された酵素が、循環中に放出され、そこで、試験した末梢臓器が循環酵素を取り込んだこと(すなわち、代謝交差補正)が示唆された。
【0228】
IDSの全体的な分布および発現は、リソソーム貯蔵物質の蓄積に対して有意な効果を有していた。リソソームGAG含量の上昇が、野生型同腹子と比較した時に、無処置MPS IIマウスのCNSにおいて観察された(p<0.0001)。たとえCNSにおいて野生型IDSレベルの10%~40%しかなくても、CNSにおけるGAG含量は、野生型と比較した時に正常化された(p<0.01)。CNSと同様に、リソソームGAG含量の有意な上昇が、野生型と比較した時に、無処置MPS II動物のすべての試験した末梢臓器において観察された(p<0.01)。対照的に、有意に減少したGAGレベルが、無処置群と比較した時に、処置マウスのすべての試験した末梢組織において観察された(p<0.01)。統計解析は、野生型動物と処置群との間に、GAG含量におけるいかなる有意な差も示さず(p>0.05)、このことは、GAG含量が処置群において正常化されたことを示す。
【0229】
すべてのマウスの体重を、屠殺前に測定し、臓器を、動物を1×PBSで灌流した後に秤量して、屠殺直後の体重に対する臓器重量のパーセンテージを算出した。本発明者らは、すべての群の間で、心臓、肺、脾臓、および腎臓のサイズにおいて、いかなる有意な差も観察しなかった。しかし、無処置MPS IIマウスの肝臓は、野生型動物のものよりも20%大きかった(それぞれ、総体重の6.2%および5.2%;p<0.001)。対照的に、処置MPS IIマウスの肝臓は、無処置群よりも68%小さかった(それぞれ、総体重の4.2%および6.2%;p<0.0001)。この結果は、肝臓におけるGAG含量の正常化が、次に、処置マウスにおいて肝臓腫大を阻止したことを示す。
【0230】
CNSにおけるIDSの持続性発現は、MPS IIマウスにおいて神経認知欠損の阻止をもたらす 6か月齢(処置後4か月)で、無処置MPS IIマウス、AAV9.hIDS処置MPS IIマウス、および対照正常同腹子を、空間ナビゲーションおよび記憶のための試験であるバーンズ迷路において神経認知機能について評定した。動物を、一連の3分試験である、6日のコースにわたる1日に4回の試験に供した。野生型同腹子は、6日目に低減した逃避までの潜時(30秒)を示し、他方、無処置MPS IIマウスは、この課題の学習において有意な欠損を呈した(逃避までの潜時は、71秒までしか低減しなかった;p≦0.05、対正常同腹子)。対照的に、AAV9.hIDS処置マウスは、逃避までの潜時において顕著な低減(25秒)を示し、5日目および6日目に無処置MPS IIマウスよりも有意に優れていた(p≦0.01)。加えて、処置動物と野生型同腹子との間には、いかなる有意な差もなかった(p>0.05)。本発明者らは、CNSにおけるIDSの持続性発現が、若い齢数で処置した時にMPS IIマウスにおいて神経認知欠損の出現を阻止することを結論づける。
【0231】
考察
本研究において、強いプロモーターを用いるAAV9.hIDSを、MPS IIマウスのCNSに投与した。CNSにおけるIDS活性のレベルは、野生型の7%~28%だけであった。対照的に、循環における、および試験した末梢臓器におけるIDS活性のレベルは、野生型レベルよりも少なくとも2倍、最大で170倍高かった。持続性IDS発現は、GAG含量の全体的な正常化をもたらすこともまた観察された。最終的に、持続したレベルのIDS活性は、神経衰退の阻止に対して甚大な効果を有していたことが観察された。
【0232】
たとえIDSを強いCB7プロモーターの調節下で発現させても、CNSにおけるIDS活性の内在性レベルより上のいかなる有意な増加も、ベクター構築物、投与の経路、またはマウス系統にかかわらず、IV処置IDS+マウスまたはIT処置IDS+マウスにおいて観察されなかった。同様の結果がまた、AAV9.hIDSをICV注射を介してMPS IIマウス中に注入した時にも観察されたが、これらのマウスCNSにおけるベースラインより上のIDS活性が観察され、処置後40週間で野生型レベルよりも低かった。同様の結果が、Motasら(Motas et al. 2016)およびHindererら(Hinderer et al. 2016)から報告されており、そこで彼らは、CNSにおいて野生型レベルのおよそ20%~40%を観察した。これらの限定されたレベルのIDS活性は、野生型レベルよりも100~1000倍高いIDUA活性が観察される(Belur et al. 2014)、AAV9-IDUAベクターのICV注射後にMPS IマウスのCNSにおいて観察されたIDUA活性のレベルと全く対照的である。超生理学的レベルのIDS(>1000 nmol/hr/mg)がまた、CNSにおいて10~100倍少ないIDS発現(10~100 nmol/hr/mg)を生じたのと同様のベクターコピー数で、本発明者らの研究においてICV投与した動物の肝臓において観察された。そのため、MPS IIのためのCNSに方向づけられた遺伝子治療の目標に非常に関連して、高効率のAAV媒介性IDS遺伝子送達後に、脳におけるIDSの発現を限定するものは何か?が、本発明の疑問である。
【0233】
1つの可能性は、SUMF1活性が、脳における活性IDSの生成にとって律速であるかもしれないということである。SUMF1は、IDSを含むリソソームスルファターゼの翻訳後活性化に必要とされる(Sabourdy et al. 2015)。hIDS酵素は、恐らくマウスSUMF1によって、MPS IIマウスの組織において明らかに活性化されたが、このプロセスは、AAVにコードされるhIDSタンパク質が大量に発現されるが、限定された量のhIDSのみが活性化される場合に、脳において律速であり得るであろう。例えば、Fraldiら(Fraldi et al. 2007)は、彼らのMPS IIIA研究において、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ活性が、酵素がSUMF1と同時発現された時に増加したことを実証した。SUMF1の潜在的な限定を予期して、本発明者らは、hIDSおよびhSUMF1を、同じ構築物上または2つの別々のベクター上のいずれかで同時形質導入したが、hIDS単独の送達と比較して、hIDS活性におけるいかなる有意な増加も見出さなかった。hIDS活性は、これらの実験において、hSUMF1との同時送達によって増強されなかったことが結論づけられた。CNSにおけるIDSのSUMF1媒介性活性を評定するさらなる研究が、それでもなお正当とされる。
【0234】
別の可能性は、CB7プロモーターが、内在性IDSプロモーターと比較した時に限定的であるかもしれないということである。この可能性をさらに調査するために、雄マウスにおいて、1ベクターコピーあたりのIDS活性(nmol/h/mgタンパク質=単位)を、各組織について算出し、1内在性コピーあたりのIDS活性と比較した。処置マウスのCNSにおけるIDS活性は、1ゲノム当量あたり平均200単位を発現する野生型雄マウスと比較して、1ベクターコピーあたり2~32単位が観察された(野生型レベルのおよそ1%~31%のみ)。これから、CB7プロモーターは、脳において内在性IDSプロモーターほど堅牢ではないことが結論づけられるかもしれない。しかし、内在性発現に対する、1ベクターコピーあたりのベクター媒介性IDS発現のより低いレベルは、細胞内在化されて発現されない、注射後の脳における過剰なAAVベクターの存在に起因する可能性が最も高い。それでもなお、MPS IIの結果は、本MPS I研究由来の結果と大きく対照をなし、MPS I研究では、野生型よりもおよそ10~100倍高いレベルのIDUA活性が、AAV-hIDUAをくも膜下腔内に投与したマウスのCNSにおいて観察され(Belur et al. 2014)、他方、ヘテロ接合体MPS I動物は、脳において1ゲノム当量あたりおよそ6単位を発現する(Ou et al. 2014)。そのため、MPS IマウスのCNSにおいて野生型IDUAレベルを達成するかまたはそれを超えることは、実現可能である。本発明者らのMPS II研究において本発明者らが用いたプロモーターは、MPS I研究において用いたプロモーターと同様であったが同一ではなく(Wolf et al. 2011;Belur et al. 2014)、関連するプロモーター強度が結果において観察された差に寄与し得る可能性を排除することはできない。
【0235】
驚くべきことに、超正常レベルの酵素活性が、処置動物のすべての試験した末梢臓器において観察された。最高レベルのIDS活性(野生型の164倍)が、肝臓において観察され、これは、見出されたベクターコピーの最高数(48 vc/ge)と相関していた。対照的に、(肝臓以外の)試験した末梢臓器は、低レベルのベクターを含有していたが、IDS活性の野生型レベルよりも高かった。肝臓における例外的に高いレベルのIDSは、循環における持続した高レベルのIDS活性(野生型よりも最大で172倍高い)をもたらす。同様の結果が、MPS IIIA研究、および異なるタイプのベクターを用いた数種類のMPS I研究において(Aronovich et al. 2009;Osborn et al. 2011;Haurigot et al. 2013)、MPS IIマウスにおける2種類の研究(Motas;Hinderer)と共に報告されている。これらの結果は、本発明者らの研究において、肝臓が、多量のIDSを産生してそれを循環系中に放出し、そこでその後IDSが末梢における他の臓器によって取り込まれる、酵素工場として作用することを示唆する。本発明者らが、野生型よりも高いレベルのIDS酵素活性を、処置マウスにおける心臓、脾臓、および腎臓で観察したにもかかわらず、これらの臓器におけるベクターレベルは、予想外に低かった(0.6 vc/ge未満)。この低い形質導入率は、これらの臓器が、循環IDSを取り込み、野生型よりも高いレベルのIDSで代謝交差補正をもたらしたことを示唆する。
【0236】
Politoらは、AAV2/5 CMVhIDSの単回IV注射後のCNSにおいて、いかなるIDS活性も示さなかった。しかし、彼らは、CNSにおいてGAG含量の部分的補正を観察した(Polito and Cosma 2009)。彼らは、高レベルの循環hIDSのある画分のみが、CNS中へとBBBを通過し、その後のGAGの部分的補正を伴ったことを推測した。同様に、例外的に高いレベルのIDSが、AAV9.hIDS処置マウスの循環にあったが、本発明者らは、CNSにおいて生理学的活性未満の酵素のみを観察した。この知見により、もしあったとしても有意ではない量の循環酵素のみが、CNS中へとBBBを通過できたことが示される。そのため、脳において観察されたIDSのレベルは、循環酵素由来よりもむしろ、CNSの内側のベクター構築物の発現に依拠した可能性が最も高い。CNSにおいて野生型に匹敵するか、またはそれよりも高いIDSレベルを達成するためには、さらなる調査が必要とされる。
【0237】
CNS中への直接注射後の持続したレベルの酵素発現が、それらの酵素の野生型レベルが達成されたか否かの数種類のMPS研究において、GAG低減に対して顕著な効果を有することが示されている(Belur et al. 2014;Wolf et al. 2011;Motas et al. 2016;Haurigot et al. 2013)(Hinderer et al 2016)。同様に、本発明者らは、AAV9.hIDSのICV注射後のCNSにおいて、生理学的レベル未満のIDSのみを観察したが、GAG低減に対する酵素の有意な効果があり、これは期待されたよりも大きかった。DesnickらおよびPolitoらは、リソソーム酵素の野生型レベルの5%未満のみが、GAG貯蔵欠陥を補正するために必要とされると推測した(Desnick and Schuchman 2012;Polito and Cosma 2009)。本結果は、この推測と一致している。AAV9.hIDS処置後に、脳のすべての区域およびさらに脊髄(最低の酵素が測定された臓器;10.7 nmol/h/mgタンパク質;野生型の7.4%)は、無処置MPS IIマウスよりも有意に低いGAG含量を示したことが見出された。処置マウスのCNSにおけるGAG含量が、野生型と比較した時に正常化されたように、統計解析は、際立った結果を明らかにした。処置動物の尿において、ならびに、心臓、肺、肝臓、脾臓、および腎臓において、GAG含量の正常化もまた観察された。これらの結果は、GAG含量の補正に対するIDS発現の持続性効果を示す。
【0238】
Robertsらは、GAG合成阻害物質であるローダミンBをMPS IIIAマウス中に注射した時の、GAG蓄積と肝臓サイズとの間の直接の関係を実証した。彼らは、GAG含量が肝臓において減少し、肝臓サイズの正常化をもたらしたことを見出した(Roberts et al., 2006)。Motasらは、MPS IIマウス中へのAAV9.hIDSのICV投与後に、肝腫大に対する阻止効果を観察した(Motas et al., 2016)。同様に、処置マウスにおける肝臓の重量が、AAV9.hIDSのICV注射後に正常化されたこともまた観察された。この結果は、肝臓におけるGAG含量の正常化をもたらし、次に、処置動物における肝腫大を阻止する、持続性IDS発現の顕著な効果を示す。
【0239】
数種類のMPS研究により、マウスにおけるAAV媒介性遺伝子移入後の神経学的欠損の阻止が実証されている(Fu et al. 2011;Wolf et al. 2011;Motas et al. 2016)。6か月齢で、無処置MPS IIマウスにおいて神経認知欠損が観察された。本発明者らはまた、AAV9.hIDSのICV注入後に、CNSにおける持続性IDS発現が、MPS IIマウスにおける神経認知機能不全の出現を阻止したことも観察した。数種類の研究により、海馬が齧歯類において神経認知に関連していることが示されている(Seeger et al. 2004;Paylor et al. 2001;Miyakawa et al. 2001)。しかし、視力、嗅覚、または運動ニューロン欠陥などの身体障害がまた、バーンズ迷路における結果に影響を及ぼし得た可能性を排除することはできず、それは、齧歯類が、この試験において要求される課題を行うために、前述の身体能力のすべてを必要とするためである(Harrison et al. 2006)。追加的な行動解析が、無処置MPS IIマウスの学習障害において神経認知欠損が中心的な役割を果たすという本発明者らの観察、およびAAV媒介性IDS遺伝子移入によるその阻止を支持すると考えられる。
【0240】
結論として、本結果は、CNSへの直接AAV9媒介性hIDS遺伝子移入の有益性を示す。しかし、肝臓などの他の組織との比較において、およびIDUAなどのAAV媒介性形質導入によってCNS中に導入される他の治療用遺伝子の発現との比較において(Belur et al. 2014;Wolf et al. 2011)限定されたレベルの、CNSにおいて達成されたAAV媒介性IDS発現は、驚くべきであった。それでもなお、MPS IIデータにより、CNS中へのAAV9.hIDSベクターの直接注射が、MPS IIの処置および神経認知欠損の阻止にとって鍵となる効率的な遺伝子移入を結果としてもたらしたことが示される。本発明者らは、AAV9.hIDSベクターが、BBBをCNSから循環中へと横切ってCNSの内側および外側の両方でのベクターの全体的な形質導入を結果としてもたらすことができただけではなく、IDS酵素の長期発現を全身性に提供できたことを見出した。持続性IDS発現は、肝臓におけるGAGの蓄積を補正し、その後、肝臓腫大の出現を阻止した。加えて、本発明者らの結果は、動物を若い齢数で処置する時に、神経学的欠損の出現を阻止する際の、CNSにおける持続性IDS発現の重要性を強調する。
【0241】
実施例XI
ムコ多糖症I型(MPS I)は、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされ、ヘパリンおよびデルマタン硫酸グリコサミノグリカン(GAG)の蓄積を結果としてもたらす、遺伝性常染色体潜性代謝疾患である。疾患の最も重篤な形態(ハーラー症候群)を有する個体は、神経変性、精神遅滞、および10歳までの死を被る。この疾患のための現在の処置には、同種異系造血幹細胞移植(HSCT)および酵素補充療法(ERT)が含まれる。しかし、これらの処置は、疾患のCNS症状発現に対処するには、有効性が不十分である。
【0242】
目標は、現在のERTおよびHSCTをCNSへのIDUA遺伝子移入で補い、それによって疾患の神経症状発現を阻止することによって、重篤なMPS Iのための治療法を改善することである。本研究において、CNSにおけるIDUA遺伝子の送達および発現のために、静脈内投与したAAVセロタイプ9およびrh10(AAV9およびAAVrh10)の、血液脳関門を横切る能力を試験した。4~5か月齢の成体MPS I動物に、ヒトIDUA遺伝子をコードするAAV9ベクターまたはAAVrh10ベクターのいずれかを、尾静脈を介して静脈内に注入した。血液および尿の試料を、動物を注射後10週間で屠殺するまで週1回の頻度で収集した。処置動物における血漿IDUA活性は、注射後3週間で、ヘテロ接合体対照のものよりも1000倍近く高かった。脳、脊髄、および末梢臓器を、IDUA活性、GAG蓄積のクリアランス、および組織切片のIDUA免疫蛍光について解析した。処置動物は、CNSを含むすべての臓器において、IDUA酵素活性の広範な修復を示した。これらのデータにより、MPS IのCNS症状発現の相殺における全身性AAV9およびAAVrh10ベクター注入の有効性が実証される。
【0243】
実施例XII
遺伝子移入は、ムコ多糖症の治療法のために多大な潜在能力を提供する。研究は、MPS IマウスのCNSにおいてα-L-イズロニダーゼ(IDUA)の高レベル発現を達成することに焦点を合わせており、そこでは、ヒトIDUA遺伝子を形質導入するAAV9の脳室内(ICV)注入後に、脳において野生型(WT)よりも最大で1000倍多い酵素が観察された。AAV9ベクターのくも膜下腔内(IT)注入もまた、脳全体にわたる高レベルIDUA発現(野生型の10~100倍)を結果としてもたらした。すべての経路の投与が、脳のすべての区域においてグリコサミノグリカンレベルを正常化し、バーンズ迷路において評価した際に5か月齢で神経認知欠損の出現を阻止した。WTマウスは、脳においてIDUAよりもずっと高いレベルの内在性イズロナートスルファターゼ(IDS)を発現し、ヒトIDS遺伝子を形質導入するAAV9をIT注入した動物において、脳におけるIDSのレベルは、WTから区別不能であった。AAV9-IDSベクターのICV注入後に、MPS IIマウスにおいては、GAG蓄積を低減させる、かつ神経認知機能不全の出現を阻止するのに十分なIDSの発現があったが、IDSのレベルは、脳において決してWTのレベルを達成しなかった。極度に高いレベルの酵素(WTの1000倍)が、IDUA遺伝子を形質導入するAAV9ベクターを静脈内注射したMPS I動物の血漿において検出された。IDUAについての染色により、肝臓における高頻度の形質導入細胞が示され、ずっとより少ない数の形質導入細胞が、脳の実質および血管において観察された。全体的に、これらの結果は、ムコ多糖症の2種類のマウスモデルにおいて、侵襲性の異なる程度と関連するAAVベクター投与の異なる経路の相対的有効性の包括的評価を提供する。
【0244】
実施例XIII
ハンター症候群(ムコ多糖症II型;MPS II)は、イズロナート-2-スルファターゼ(IDS)の欠損および組織におけるグリコサミノグリカン(GAG)の蓄積によって引き起こされ、骨格形成異常、肝脾腫大、心肺閉塞、および神経衰退を結果としてもたらす、X連鎖潜性遺伝性リソソーム病である。患者の標準治療は、酵素補充療法(ERT)であるが、ERTは、神経学的改善を伴わない。IDS欠損症のマウスモデルにおいて、若い8週齢マウス中へのAAV9.hIDSの脳室内(ICV)投与は、IDS欠損対照同腹子と比較して、補正的レベルのhIDS酵素活性、GAG貯蔵のほぼWTレベルへの低減、および神経認知機能不全の阻止を結果としてもたらした。神経症状発現の出現が、若い成体において阻止できたため、AAV9.hIDSのICV投与によって4か月齢で処置した、より高齢の成体MPS II動物が、神経行動学的機能を回復し、補正されたレベルのIDS酵素活性およびGAG貯蔵を示すと仮定された。ICV注射の4週間後まで、循環におけるIDS酵素活性は、WTレベルの1000倍であった(0.39+/-0.04 nmol/hr/mlと比較して305+/-85 nmol/hr/ml)。36週齢で、処置動物を、バーンズ迷路において神経認知機能について試験した。処置動物の動作は、罹患していない同腹子のものと区別不能であり、無処置MPS IIマウスと比較して有意に改善された。4か月齢までに失われる認知機能を、このように、IDSをコードするAAV9の脳脊髄液への送達によって、MPS IIマウスにおいて修復させることができる。これらの結果の興奮するような含意は、ヒトMPS IIが、CNSへのAAV媒介性IDS遺伝子移入によって神経症状発現の発生後に処置可能であるかもしれないという見通しである。
【0245】
実施例XIV
ムコ多糖症I型(MPS I)は、α-L-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって引き起こされる進行性多系統疾患である。現在の処置は、CNS疾患に対して無効である。本発明者らの目標は、CNSへのIDUA遺伝子移入で現在の処置を補うことによって、重篤なMPS Iのための治療法を改善することである。AAV9-IDUAベクターを、様々な投与の経路を用いて、6~8週齢のMPS Iマウスの脳に送達し、超生理学的レベルのIDUA酵素および神経疾患の阻止を結果としてもたらした。しかし、MPS Iは、容赦なく進行性のかつ致命的な疾患であるため、本研究における本発明者らの目標は、有意な既存の疾患を既に発症しているMPS Iマウスを処置すること、ならびに、代謝欠損および神経認知欠損に対する治療効果を確かめることであった。MPS I動物を、誕生時にIDUA(Aldurazyme)で免疫寛容化し、次いで、6か月齢で脳室内注入によってAAV9-IDUAベクターを投与し、その時点で、無処置MPS I動物は、有意な神経学的欠損を既に発症していた。処置動物における血漿IDUA活性は、処置の6週間後に開始して、WT対照よりも1000倍高かった。10か月齢で、処置動物を、齢が一致したWTおよびIDUA欠損対照と共に、バーンズ迷路を用いた神経認知試験に供した。以前に実証されたように、無処置MPS Iマウスは、罹患していない同腹子との比較において有意な神経認知欠損を提示した。注目すべきことに、症状が出た後にAAV-IDUAで処置したMPS Iマウスは、WT対照のものに類似した行動を呈し、このことは、6か月齢で無処置動物において見出される神経認知欠損の補正を実証した。12か月で屠殺した処置動物は、脳、脊髄、および肝臓においてIDUA酵素活性の広範な修復を示した。これらの結果は、神経症状発現の発生後のヒトMPS Iの処置への潜在的応用を伴って、有意な負荷まで蓄積されたCNS疾患からのMPS Iマウスの回復におけるAAV9-IDUAの有効性を実証する。
【0246】
実施例XV
MPSIは、GAGの分解を触媒するIDUAの欠如によって引き起こされる。IDUAの欠如は、GAGの蓄積を引き起こし、成長遅延、肝脾腫大、心肺疾患、および骨格形成異常、ならびに神経障害をもたらす。現在の処置(HSCTおよびERT)は、この衰弱させる神経疾患に妥当に対処せず、それは、HSCTは、神経障害の極少量の補正のみを結果としてもたらし、リソソーム酵素は、血液脳関門を横切らないためである。
【0247】
確立された疾患を有するより高齢の(成体)マウスにおけるAAV-IDUAの効力を試験するために、新生マウスを、誕生時にIDUAで免疫寛容化し、6か月齢で、AAV9-IDUAをICV注入した(図17)。具体的には、MPSIマウスを、誕生時に開始して、毎週投与した5用量のラロニダーゼ(Aldurazyme)で免疫寛容化し、その後、6か月齢でAAV9-IDUAベクターの注入を行った。血漿および脳におけるIDUA酵素活性は、6か月で野生型よりも100倍高く(図15、18、および19)、GAGレベルが低減した(図6)。さらに、処置したマウスは、神経認知欠損を低減していた(図16)。
【0248】
要約すると、処置したマウスにおいて、IDUA酵素活性は、測定した脳のすべての区域において高く、GAGのレベルが低減しており、神経認知機能が改善されていた。このように、遺伝子治療は、確立されたMPSI疾患において有用である。
【0249】
参照文献
【0250】
すべての刊行物、特許、および特許出願は、参照により本明細書に組み入れられる。前述の明細書において、本発明が、そのある特定の好ましい態様と関連して説明されており、多くの詳細が、例証の目的で示されているが、本発明に追加的な態様の余地があること、および、本明細書におけるある特定の詳細は、本発明の基本原理から逸脱することなく大幅に変動してもよいことが、当業者に明らかであろう。
【0251】
配列情報
SEQUENCE LISTING
<110> REGENXBIO INC.
REGENTS OF THE UNIVERSITY OF MINNESOTA
<120> METHOD FOR IMPROVING NEUROLOGICAL FUNCTION IN MPSI AND
MPSII AND OTHER NEUROLOGICAL DISORDERS
<150> US 62/458,248
<151> 2017-02-13
<150> US 62/458,259
<151> 2017-02-13
<150> US 62/422,453
<151> 2016-11-15
<150> US 62/422,436
<151> 2016-11-15
<160> 5
<170> FastSEQ for Windows Version 4.0

<210> 1
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> A synthetic oligonucleotide primer
<400> 1
gccaaaaatt atggggacat 20

<210> 2
<211> 22
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> A synthetic oligonucleotide primer
<400> 2
attccaacac actattgcaa tg 22

<210> 3
<211> 27
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> A synthetic oligonucleotide probe
<400> 3
atgaagcccc ttgagcatct gacttct 27

<210> 4
<211> 20
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> A synthetic oligonucleotide primer
<400> 4
tcccttacct cgaccctttt 20

<210> 5
<211> 19
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<220>
<223> A synthetic oligonucleotide primer
<400> 5
cacaaggtcc atggattgc 19
図1
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