(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099756
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】患者由来アミロイド異種移植非ヒト動物モデル
(51)【国際特許分類】
A01K 67/02 20060101AFI20240718BHJP
【FI】
A01K67/02
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024072280
(22)【出願日】2024-04-26
(62)【分割の表示】P 2021525102の分割
【原出願日】2019-11-11
(31)【優先権主張番号】18205502.0
(32)【優先日】2018-11-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521195467
【氏名又は名称】ニューリミューン エイジー
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】ミカロン,アービン
(72)【発明者】
【氏名】グリム,ヤン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】新しい有効なアミロイドーシス治療の開発を可能にするためにアミロイドーシスのモデルを適切に作製する新しい系を提供する。
【解決手段】患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデル、その使用および作製方法、ならびにアミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬を決定/獲得するためのモデルを含む方法、ならびにそのような薬物を特徴づけ、検証し、開発し、および/または品質管理し、ならびに製造する方法およびプロセスが提供される。より具体的には、その動物モデルは、ATTRアミロイドーシスまたはATTR関連疾患を患っている患者の組織または器官に由来するアミロイドトランスサイレチン(ATTR)原線維の植込片により特徴づけられる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書に記載されている発明。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビボ動物モデルの分野、具体的には、患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデル、その使用、およびPDAXモデルを作製する方法に関する。本発明はまた、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬を決定/獲得し、特徴づけ、検証し、開発し、および/または品質管理する方法およびプロセスならびにその薬学的組成物を製造する方法およびプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アミロイドーシスは、不溶性原線維の形をとって凝集する特定の可溶性前駆タンパク質の細胞外沈着により特徴づけられるタンパク質フォールディング疾患である;概説として、Hazenberg、Rheum.Dis.Clin.North Am. 39(2013)、323~345を参照。直径がおよそ10nmである、これらの強固でかつ分岐していない原線維は、通常、逆平行立体配置に配置されたペプチドで構成される、分子βプリーツシート構造により特徴づけられる。原線維のこの構造は、それの不溶性、タンパク質分解に対する抵抗性、ならびにアミロイド特異的コンゴレッドおよびチオフラビンS色素に対する結合親和性の原因となる。以下の3つの機構が、独立してまたは相まって、作動するように思われる:その前駆タンパク質は、加齢に伴って(野生型トランスサイレチン)または高血清レベルにおいて(血清アミロイドAタンパク質および免疫グロブリン遊離軽鎖)顕著になる、ミスフォールドする内在性性向を有し得る;遺伝性または後天性変異型タンパク質(トランスサイレチン);ならびに前駆タンパク質(β-アミロイド前駆タンパク質)のタンパク質分解性リモデリング。細胞外マトリックスとの相互作用もまた、重要であるように思われ、いくつかの器官または組織におけるアミロイドの優先的沈着に関係し得る。器官および組織におけるアミロイド線維の細胞外沈着は、結果として、冒された器官の進行性機能喪失をもたらす組織浸潤および膨潤を生じる。
【0003】
アミロイドーシスは、沈着が、脳におけるアミロイドβタンパク質斑を有するアルツハイマー病、または膵臓のランゲルハンス島におけるアミロイドアミリン沈着を有する2型糖尿病のような身体の1つの器官または部位に限定されている限局型と、原線維沈着が身体中の様々な器官および組織に生じる全身型とに大まかに区別される。最も頻度の高い全身性アミロイドーシスの1つが、アミロイドトランスサイレチン(ATTR)アミロイドーシスであり、それにおいては、ATTR原線維が、複数の器官および組織に蓄積し、急速な疾患進行および致死的な結果を伴う、多臓器機能不全をもたらす。
【0004】
ATTRアミロイドーシスは、心筋症(ATTR-CM)をもたらす心臓組織における優勢なアミロイド原線維蓄積、および多発ニューロパチー(ATTR-PN)をもたらす神経線維における原線維蓄積を有する、2つの主要な型の臨床像を示す(Andoら、Orphanet J.Rare Dis. 8:31(2013)1~18)。TTRは、不溶性アミロイド線維へと凝集する生来の能力を有する。アミロイドミスフォールディングは、推定上全ての個体において低率で自然発生的に起こり、加齢および老化で増加する。健康な対象において、免疫系は、アミロイド原線維を排除する能力を有すると仮定されている;しかしながら、未だ完全には解明されていない理由により、アミロイド原線維は、ATTR患者において、免疫監視機構を逃れ、毒性レベルまで蓄積する。ATTR-CMに関して、未だ利用可能な特定の処置はない。β遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害剤、およびアンジオテンシン受容体遮断薬などの通常の心不全処置は、ATTR-CMにおいて耐容性が悪く、避けられるべきである(Gertzら、J.Am.Coll.Cardiol. 66(2015)、2451~2466)。ATTRアミロイドの量を特異的に減少させることができる処置の非存在下で、心臓移植が今もなお、心機能を回復させるための唯一の利用可能なアプローチであるが、高齢および脆弱な患者集団には適用しにくい。肝臓移植は、変異体ATTRについての選択肢と考えられたが、肝臓移植後、末梢性ニューロパチー、加えて心臓アミロイドーシスの両方が、進行し得る。トランスサイレチン安定化薬である、タファミジス(Vyndaqel(登録商標))が、初期ATTR-PNを有する患者用に2011年11月、ヨーロッパで承認された。しかしながら、承認後治験において、タファミジス処置から1年後、神経学的障害スコアが55%悪化し、それが疾患進行を止めることができなかったことを示唆した(Gertzら、J.Am.Coll.Cardiol. 66(2015)、2451~2466)。同様の結果は、最近、ATTR-CM患者におけるタファミジスに関して得られた。タファミジスは、ATTR-CM患者において、疾患進行の速度を低下させて、30カ月間の処置後、35%高い生存率および入院率をもたらした(Maurerら、N.Engl.J.Med. 379(2018)、1007~1016);しかしながら、ATTR-PNにおいて観察されたことと同じように、タファミジス処置は、初期ステージ患者にとって、より有益であり、疾患進行を低下させたが、停止させず、患者に症状寛解をもたらさなかった。
【0005】
新しい薬物治療の開発において、薬物の有効性および安全性を評価するために動物モデルは必須である。ATTRにおいてだけでなく、全部ではないにしてもほとんどのアミロイドーシスにおいて、アミロイドーシス薬物処置は、今までのところ、トランスジェニック動物モデル、特にトランスジェニックマウスモデルを用いて研究されており、そのトランスジェニック動物モデルは大部分、ヒト患者において観察されるそれぞれの前駆タンパク質の変異に依存する。例えば、複数のトランスジェニックマウスモデルが、ATTRアミロイドーシスのモデルを作製する試みとして科学界に提示されているが、それらは全て、ATTRアミロイド沈着の欠如または希少、年齢、性別、遺伝的背景、および飼育条件に依存する高い変動性、ならびに全ての場合において、患者症状を模倣する表現型の欠如を含む重大な制限を被っている(Takaokaら、Transgenic Research 6(1997)、261~269;Tengら、Lab Invest. 81(2001)、385~396;Sousaら、Am.J.Path. 161(2002)、1935~1948;Noguchi、Exp.Anim. 51(2002)、309~316;Panayiotou、BB reports 8(2016)、48~54)。
【0006】
トランスジェニックマウスモデルを特徴づける分析は、これらのトランスジェニックマウスモデルが非アミロイドTTR沈着を呈し、この非アミロイドTTR沈着は、アミロイドの特徴的な着色性質を有さず、不溶性である代わりに可溶性であり、かつマウスにおいて毒性を誘導しない。したがって、入手できるモデルは、可溶性沈着物のみを提示するこれらのモデルにおいて、不溶性アミロイド原線維を結合し、かつクリアリングする化合物の潜在能力を評価するのに適切ではない。したがって、新しい有効なアミロイドーシス治療の開発を可能にするためにアミロイドーシスのモデルを適切に作製する新しい系の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2015/092077 A1
【特許文献2】WO2014/124334 A2
【特許文献3】WO2018/007923 A3
【特許文献4】WO2016/120810 Al
【特許文献5】US2017/0058023 A1
【特許文献6】US9,879,080 B2
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Hazenberg、Rheum.Dis.Clin.North Am. 39(2013)、323~345
【非特許文献2】Andoら、Orphanet J.Rare Dis. 8:31(2013)1~18
【非特許文献3】Gertzら、J.Am.Coll.Cardiol. 66(2015)、2451~2466
【非特許文献4】Maurerら、N.Engl.J.Med. 379(2018)、1007~1016
【非特許文献5】Takaokaら、Transgenic Research 6(1997)、261~269
【非特許文献6】Tengら、Lab Invest. 81(2001)、385~396
【非特許文献7】Sousaら、Am.J.Path. 161(2002)、1935~1948
【非特許文献8】Noguchi、Exp.Anim. 51(2002)、309~316
【非特許文献9】Panayiotou、BB reports 8(2016)、48~54
【非特許文献10】Higakiら、the XVIth International Symposium on Amyloidosis;2018年3月26~29日;Kumamoto、Japanでのポスター発表
【非特許文献11】Suhrら、J.Internal Medicine 281(2017)、337~347
【非特許文献12】Higashiら、Brain Research 1184(2007)284~294
【非特許文献13】Leeら、Trends in Neurosciences 27(2004)、129~134
【非特許文献14】Sakataら、J.Histochem. Cytochem. 53(2005)、237~242
【非特許文献15】Higakiら、Amyloid 23(2016)、86~97
【非特許文献16】Orphanet Journal of Rare Diseases 10(2015)、Suppl.1:P39
【非特許文献17】Yoshimuraら、Bioconjugate Chem. 27(2016)、1532~1539
【非特許文献18】Leinoら、Journal of Alzheimer’s Disease 59(2017)、43~56
【非特許文献19】Tennent、Methods Enzymol. 309(1999)、26~47
【非特許文献20】Remington:The Science and Practice of Pharmacy (2000)、University of Sciences in Philadelphia、ISBN 0-683-306472
【非特許文献21】Vaccine Protocols. 第2版、Robinsonら編、Humana Press、Totowa、New Jersey、USA、2003
【非特許文献22】Banga、Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation, Processing, and Delivery Systems.第2版、Taylor and Francis (2006)、ISBN:0-8493-1630-8
【非特許文献23】O’Haganら、Nature Reviews、Drug Discovery 2(9)(2003)、727~735
【非特許文献24】Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版 (1985)および対応する最新版
【非特許文献25】Langer、Science 249(1990)、1527~1533
【非特許文献26】Smithら、Anal.Biochem. 150(1985)、76~85
【非特許文献27】Prasら、J.Clin.Invest. 47(1968)、924~33
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、一般的に、患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデルに関する。より具体的には、その動物モデルは、ATTRアミロイドーシスまたはATTR関連疾患を患っている患者の組織または器官に由来するアミロイドトランスサイレチン(ATTR)原線維の植込片により特徴づけられる。
【0010】
本発明によれば、前記組織は、心臓組織、腎臓組織、肝臓組織、胃腸組織、皮膚組織、筋肉組織、舌組織、脂肪組織、唾液腺組織、リンパ節組織、脳組織、膵臓組織、または任意のATTRアミロイドーマであり、そのアミロイド原線維が、皮下に植え込まれ、または動物モデルの腎臓もしくは被膜下に、腹膜、筋肉、脳、室、神経、眼、舌、もしくは心臓に植え込まれる。
【0011】
本発明の一実施形態において、動物は、マウス、ラット、すなわち、げっ歯類、または非ヒト霊長類、すなわち、一般的には、非ヒト哺乳動物である。
【0012】
本発明のさらなる実施形態において、動物は、少なくともアミロイド原線維タンパク質について、非トランスジェニックである。
【0013】
別の態様において、本発明は、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬を決定および/または獲得する方法であって、前記方法が、薬物またはそのバリアントを本発明のモデルに投与するステップ、および前記モデルにおいてアミロイド原線維を決定するステップを含み、前記薬物またはそのバリアントを投与した際のアミロイド原線維の排除または低下が、対照と比較して加速していることが、抗アミロイド薬への適合性を示す、方法に関する。一実施形態において、方法は、投与後の第1および第2の時点における組織生検の収集、ならびに免疫組織化学法を含む、アミロイド原線維の分析および定量化を含む。好ましくは、アミロイド原線維の量は、植込片組織エリアに占めるパーセンテージとして表され、前記薬物またはそのバリアントで処置された群における植込片組織エリアに占めるアミロイド染色エリアが、対照群においてより有意に低い。追加または代替の実施形態において、アミロイド原線維の排除または低下の加速は、用量依存的に観察される。
【0014】
本発明の方法の一実施形態において、薬物は、抗アミロイド原線維タンパク質抗体またはアミロイド原線維結合性分子を含む。
【0015】
本発明の別の実施形態において、薬物は抗体であり、対照は、対応するアイソタイプ抗体である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、抗体は、ヒト由来、好ましくは、ヒトメモリーB細胞由来の抗体であり、そのバリアントは、異種性定常ドメインを含み、好ましくは、前記バリアント抗体がキメラ抗体であり、かつ前記異種性定常ドメインが、モデルに用いられた動物と同じ種に由来する。
【0017】
本発明のさらなる実施形態において、薬物は、静脈内に、腹腔内に、皮下に、または経口で投与される。
【0018】
別の態様において、本発明は、抗アミロイド薬および薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物の製造プロセスであって、薬物またはそのバリアントを、抗アミロイド薬を決定および/または獲得するための本発明による方法に供するステップ、ならびに適切な抗アミロイド薬として決定された前記薬物を薬学的に許容される担体と混合するステップを含む、プロセスを提供する。
【0019】
本発明の一実施形態において、薬学的組成物は、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患の治療のために設計される。
【0020】
本発明のさらなる態様は、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬の特徴づけ、検証、開発、および/または品質管理のための方法であって、薬物またはそのバリアントを、抗アミロイド薬を決定および/もしくは獲得するための本発明による方法に供するステップ、前記方法により得られた情報をクライアント、契約当事者、もしくは協力パートナーへ伝達し、および/または適切な抗アミロイド薬であると決定された前記薬物を選択するステップ、ならびに任意で、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患の治療のために、前記抗アミロイド薬または前記抗アミロイド薬を含む薬学的組成物を使用するステップを含む、方法に関する。したがって、本発明の一態様は、アミロイドーシスもしくはアミロイド関連疾患の治療のための医薬の製造における、薬物の特徴づけ、品質管理、および/もしくは開発、前臨床試験および/もしくは並行臨床試験、または薬物の選択もしくは検証のための、本発明によるモデルの使用に関する。
【0021】
別の態様において、本発明は、ATTRアミロイドーシスまたはATTR関連疾患を患っている患者から得られた組織生検からのATTR原線維の単離、および非ヒト動物における前記単離されたアミロイド原線維の植込みを含み、好ましくは、その総タンパク質濃度が、好ましくはBCAアッセイで決定された場合、約0.5~5mg/ml、好ましくは約1~4mg/ml、最も好ましくは約2±0.5mg/mlである、本発明の患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデルを作製する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ヒト心臓組織から調製されたアミロイド原線維抽出物におけるNI-301.37F1により検出された大きなATTR凝集物の存在を示す図である。A:四量体WT-TTR(100ng、検出されず)、ミスフォールディング型WT-TTR(100ng)、ならびにレーンあたり0.2μg、2.0μg、および20μgのATTR原線維抽出物のセミネイティブSDS-PAGEおよびNI-301.37F1でのウェスタンブロット分析。B:30秒間の曝露時間を用いた、ATTRアミロイドーシスを有する異なる4人の患者から得られた死後の心臓組織(試料番号4、67、87、および70)から抽出されたATTR原線維との抗体NI-301.37F1(10nM)結合に関するウェスタンブロット。試料70との結合は、非常にかすかであり、この組織におけるIHCによるATTR検出の非常に低い量と一致する。NI-301.37F1は、ATTRアミロイドーシスを有しないヒト心臓組織(試料40、18、60、および48)から、およびTTRをもたないアミロイドーシスを有する1つの試料(A+TTR-試料94)から調製された、その同じタンパク質画分と結合しなかった。
【
図2A】マウスにおける皮下ATTR原線維植込片の特徴づけを示す図である。A:植込みから24時間後、原線維移植片は、隣接する皮膚組織とは異なるそれらの特徴的な形および形態により、認識可能であった。原線維移植片は、コンゴレッド陽性であり、ヒトTTR抗体Dako A0002でのIHCにより強く染色し、ATTR原線維の存在を示した。原線維移植片は、通常のマウスマクロファージマーカーCD68、F4/80、およびIba1が陰性である細胞に浸潤された。
【
図2B】マウスにおける皮下ATTR原線維植込片の特徴づけを示す図である。B:原線維植込片がCD11b抗体でのIHCにより陽性に染色し、ATTR植込片を浸潤しかつ原線維を除去する細胞が、好中球であることを示している。
【
図3A】インビボで、ATTR特異的抗体NI-301.37F1が、患者由来ATTR原線維を用量依存的に結合することを示す図である。A:皮下での原線維植込みおよび静脈内への抗体注射から48時間後、蛍光標識NI-301.37F1(NI-301.37F1-VT680)が、チオフラビンS蛍光により検出されたATTR原線維植込片上に用量依存的に蓄積した。これは、アイソタイプ抗体(アイソタイプ-VT680)にでは観察されなかった。用量レベルあたりn=5のマウスでの代表的な画像。
【
図3B】インビボで、ATTR特異的抗体NI-301.37F1が、患者由来ATTR原線維を用量依存的に結合することを示す図である。B:インビボにおいて、血漿中の抗体濃度とATTR原線維移植片上での抗体濃度との間に直線相関が観察された。用量範囲0.05~15mg/kgに渡る、血漿中のNI-301.37F1-VT680濃度(上方の左パネル)および原線維移植片におけるNI-301.37F1-VT680蛍光強度(上方の右パネル)における用量依存的増加が示されている。用量範囲0.05~15mg/kgに渡る、NI-301.37F1-VT680濃度と蛍光強度との間の直線相関(下方のパネル)。点線:直線近似 ±95%CI、R
2=0.846、用量レベルあたりn=5。
【
図4】マウスキメラNI-301.37F1での処置は、インビボでATTR原線維クリアランスを加速することを示す図である。移植および処置投与から6時間後および96時間後の、ATTR原線維植込片中に残存するヒトTTRのIHCによる定量化。5mg/kgでのch.NI-301.37F1の静脈内投与は、原線維排除を加速した。群あたりn=9~10のマウス、シダックの多重比較検定と組み合わせた2元配置ANOVA:p<0.0001。
【
図5】マウスキメラNI-301.37F1での処置は、インビボでのATTR原線維クリアランスを用量依存的に加速することを示す図である。TTR IHCを用いたATTR原線維定量化。群あたりN=5、ダネットの多重比較検定と組み合わせた1元配置ANOVA: n.s.:有意性なし(p>0.05)、
**:p=0.001、
***:p<0.001。
【
図6A】マウスキメラNI-301.37F1で処置した際のマウスにおける皮下ATTR原線維植込片の特徴づけを示す図である。A:移植、および静脈内での5mg/kgのch.NI-301.37F1またはアイソタイプでの処置から6時間後および96時間後の、皮下ATTR原線維移植片上でのIBA1染色。動物あたり5個の非連続的切片を用い、処置群および時点あたりn=5マウスからの代表的な画像。
【
図6B】マウスキメラNI-301.37F1で処置した際のマウスにおける皮下ATTR原線維植込片の特徴づけを示す図である。B:移植、および静脈内での5mg/kgのch.NI-301.37F1またはアイソタイプでの処置から6時間後および96時間後の、ATTR原線維移植片上でのCD11B染色。動物あたり5個の非連続的切片を用い、処置群および時点あたりn=5マウスからの代表的な画像。
【
図6C】マウスキメラNI-301.37F1で処置した際のマウスにおける皮下ATTR原線維植込片の特徴づけを示す図である。C:移植、および静脈内での5mg/kgのch.NI-301.37F1またはアイソタイプでの処置から6時間後および96時間後の、ATTR原線維移植片上でのLY6G染色。処置群および時点あたり3匹の異なるマウスからの代表的な画像。群あたり5匹のマウスで、かつ動物あたり2個の非連続的切片を用いて実施された染色。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデルに関する。抗アミロイド薬を試験するための適切なインビボ動物モデルがない中で、本発明者らは、この目的のために単純だが、非常に有効性の高いモデルを開発し、それは、有利には、必ずしもトランスジェニック動物に基づいているわけではない。PDAXモデルは、アミロイドトランスサイレチン(ATTR)アミロイドーシスまたはATTR関連疾患を患っている患者の組織または器官から単離されたATTR原線維の植込片によって特徴づけられる。驚くべきことに、アミロイド原線維植込片は、動物において数日間維持され、さらに、薬物処置を受け入れやすい。特に、実施例1および2においてATTR原線維を植え込まれたマウスについて例示的に示されているように、アミロイド原線維植込片は、実験動物において許容され、組織学的分析後、組織生検において特徴的なアミロイドフィーチャーを提示する。さらに、実施例3および4において示されているように、PDAXモデルは、別のマウスモデルにおいてインビボでATTR原線維のクリアリングを活発に促進することが示されている抗ATTR特異的抗体で、検証されている。したがって、PDAXモデルは、化合物または薬物を抗アミロイド薬としてのそれらの適合性について試験するのに非常に適している。
【0024】
以前、the XVIth International Symposium on Amyloidosis;2018年3月26~29日;Kumamoto、Japanでのポスター発表においてHigakiらは、ミスフォールディング型TTRに対する全身的に投与されたヒト化抗体(mis-TTR抗体)による標的会合および抗体依存性細胞食作用(ADCP)のインビボモデルに関して報告し、そこでは、基底膜マトリックス(Matrigel)中に懸濁したHisタグ付きTTR-V30Mの凝集物がマウスの皮下に植え込まれている。
【0025】
しかしながら、原理上、その植込みの方法は、本発明によるPDAX動物モデルを作製するために使用することができるが、HigakiらのADCPモデルマウスはそれ自体、本発明による適切な動物モデルを表しているだけで、意図された目的には適し得ない。
【0026】
例えば、ヒトATTRアミロイドーシスは単一遺伝子疾患であるという事実にも関わらず、それの表現型およびATTR原線維組成に多くのバリエーションがあり、例えば、異なる型のアミロイド原線維があり、A型はC末端ATTR断片および完全長TTRからなるが、その他のB型は完全長TTRのみからなり、それが、TTR Val30-Met変異についての表現型多様性に関係していると思われる;Suhrら、J.Internal Medicine 281(2017)、337~347を参照。
【0027】
さらに、アミロイド原線維タンパク質により引き起こされる様々な種類の全身性アミロイドーシスにおいて、組織および器官におけるアミロイド原線維タンパク質の沈着が、1つまたは複数の異なるアミロイド原線維タンパク質と共局在化および/または共凝集していることは知られている。実際、当技術分野において知られ、および例えば、Higashiら、Brain Research 1184(2007)284~294に発表されているように、τ-およびα-シヌクレイン、ならびにTAR-DNA結合性タンパク質43(TDP43)が、アルツハイマー病およびレビー小体認知症の脳の病態において共存していることが見出されている;Leeら、Trends in Neurosciences 27(2004)、129~134も参照。
【0028】
ATTRアミロイドーシスにおけるアポリポタンパク質AI(apoAI)のアミロイド沈着物との共局在化が、アミロイドA(AA)アミロイドーシス(AAアミロイドーシス)、免疫グロブリン(Ig)λ軽鎖アミロイドーシス(Aλアミロイドーシス)、Ig κ軽鎖アミロイドーシス(Aκアミロイドーシス)、およびAβ2Mアミロイドーシスにおいてもまた見出されている;Sakataら、J.Histochem. Cytochem. 53(2005)、237~242を参照。したがって、人工的なインビトロで作製されたTTR-V30M凝集物は、インビボでの、すなわち、ATTRアミロイドーシスを患っている患者における、ATTR原線維の実際の構造を反映し得ない。
【0029】
加えて、ADCPが、抗TTR抗体のインビボでの治療適用への適合性について意義があるのかどうかは、疑わしい可能性があり、まだ証明されていない。というのも、そのモデルに使用された抗体が、TTR配列内のクリプトトープを含む人工的な抗原性ペプチドに対して産生されたヒト化マウスモノクローナル抗体であり、現在まで、インビトロで特徴づけされているに過ぎないためである;Higakiら Amyloid 23(2016)、86~97を参照。
【0030】
対照的に、本発明のPDAXモデルは、ヒト患者由来の組織およびその原線維をそれぞれ用い、TTR凝集物に対する立体構造特異的ヒト由来モノクローナル抗体NI-301.37F1で検証されており、その抗体は、もっぱらヒトV30M-TTRタンパク質のみを発現し、かつマウスTTRタンパク質を発現しないトランスジェニックマウス(FAPマウス)においてインビボでの診断的および治療的使用のための潜在能力を有することが実証されている;WO2015/092077 A1およびMichalonら、Orphanet Journal of Rare Diseases 10(2015)、Suppl.1:P39を参照。
【0031】
以前のYoshimuraら、Bioconjugate Chem. 27(2016)、1532~1539には、アミリン(膵島アミロイドポリペプチド(IAPP))凝集物の同所植込みの方法により確立され、かつアミリン画像化プローブ、特に、99mTc標識ピリジルベンゾフラン誘導体の開発を研究することを意図された、膵島アミロイドモデルマウスが記載されている。具体的には、同所性アミリン凝集物は、そのペプチド溶液を希釈し、外科的方法でBALB/c-nu/nuマウス(週齢8~10週間、雄)へ植え込まれた;Yoshimuraら(2016)、上記、1537ページ、左欄におけるセクション「Orthotopic Amylin Aggregates for Implantation」を参照。
【0032】
しかしながら、原理上、その植込みの方法は、本発明によるPDAX動物モデルを作製するために使用することができるが、Yoshimuraらの膵島アミロイドモデルマウスは、本発明の目的としての適切な動物モデルを表しているだけで、意図された目的には適し得ない。これは、ATTRについての上記Higakiら(2018)のインビボモデルと同様に、インビトロで調製されたアミリン凝集物は、アミリンのインビボ構造を(完全に)反映することを予想することはできないからである。例えば、リン酸化TDP43(pTDP43)とIAPPの間に会合が観察され、それは、特にDMおよび膵臓に高度のIAPPを有する対象において、強くかつ著しかった;Leinoら、Journal of Alzheimer’s Disease 59(2017)、43~56を参照。
【0033】
したがって、アミロイドーシスの治療における抗体を提供するための、これまでのたいていのアプローチが失敗していることの一つの理由は、これまでの抗体候補が、インビトロで作製された組換えアミロイドタンパク質およびその原線維を用いてスクリーニングされており、しかしながら、それは、患部組織または器官におけるアミロイド原線維の実際の環境および3次元構造を考慮しておらず、加えて、その患部組織または器官は他のアミロイド原線維形成タンパク質をも含み得る。
【0034】
好ましい実施形態において、植え込まれるATTR原線維は、心臓組織、腎臓組織、肝臓組織、胃腸組織、皮膚組織、筋肉組織、舌組織、脂肪組織、唾液腺組織、リンパ節組織、脳組織、膵臓組織、または任意のATTRアミロイドーマから単離される。好ましい実施形態において、アミロイド原線維は、心臓組織から単離される。アミロイド原線維を組織から単離する方法は、以前に、例えば、Tennent、Methods Enzymol. 309(1999)、26~47に記載されている。特に、本発明によれば、アミロイド原線維は、その原線維の天然の立体構造を保存するために、界面活性剤を含まないプロトコールを用いて単離される。単離の有効性は、当業者に知られた、セミネイティブSDS-PAGE、その後、ウェスタンブロットのような標準技術により検証することができる。実施例1に記載され、および
図1に示されているように、アミロイドトランスサイレチン(ATTR)原線維は、死後の凍結心臓組織から有効に単離され得る。
【0035】
本発明によれば、アミロイド原線維は、皮下にまたは被膜下に植え込まれ、腎臓、腹膜、筋肉、脳、室、神経、眼、舌、または心臓に植え込まれる。実施例に示されているように、アミロイド原線維は、便利には、マウスの大腿に皮下注射され、そこで、それらは、薬物処置、および皮膚生検におけるさらなる分析を受け入れやすい沈着物を形成する。具体的には、実施例2は、組織学的分析後、本発明によるモデルの皮膚生検における沈着したアミロイド原線維がヒト生検におけるATTRアミロイドの特徴的なフィーチャーを示す、すなわち、コンゴレッド陽性であり、かつヒトTTR抗体Dako A0002でのIHCにより強く染色されたことを示している(
図2A)。したがって、好ましい実施形態において、アミロイド原線維は皮下に植え込まれる。
【0036】
本発明に適しているよく使われるモデル動物は、マウス、ラット、すなわち、げっ歯類、または非ヒト霊長類、すなわち、一般的には、非ヒト哺乳動物である。本発明の好ましい実施形態において、動物はマウスである。本発明の目的におけるモデル生物体としてのマウスは、有利には、飼育するのに便利でかつ安価であり、短い世代時間を有する、すなわち、相対的に短い期間で多くの動物が産生され得る。
【0037】
少なくともマウスゲノムは操作するのが相対的に容易であるが、トランスジェニックのマウス系統または他の動物の確立は、常に、費用とかなり多大な時間を伴う。したがって、本発明によるPDAXモデルについて、野生型動物が用いられ得ることは非常に有利である。それゆえに、本発明の一実施形態において、動物は、少なくともアミロイド原線維タンパク質について、非トランスジェニックである。もちろん、適切な場合、例えば実際の患者の状況をより良く反映するために、トランスジェニック動物もまた用いられ得る。例えば、アミロイドーシスに加えて免疫不全に関連した疾患を患っている患者のモデルを作製するために、アミロイド原線維が免疫不全マウスに植え込まれることは考え得る。これは、追加の疾患、例えば、トランスジェニック動物モデルが利用できる免疫不全または他の疾患に関しての複合患者系における抗アミロイド薬の分析を可能にする。
【0038】
さらなる態様において、本発明は、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬を決定および/または獲得する方法に関する。その方法は、薬物またはそのバリアントを本発明のモデルに投与するステップ、および前記モデルにおいてアミロイド原線維を決定するステップを含み、前記薬物を投与した際のアミロイド原線維の排除または低下が、対照と比較して加速していることが、抗アミロイド薬への適合性を示しり、好ましくは、前記排除または低下の加速が用量依存的に観察される。意図された薬物よりむしろ、その薬物のバリアントが本発明のPDAXモデルにおいて用いられ、試験される場合があり、特に、動物において免疫応答を誘発する傾向にあり得る抗体または受容体ベースなどのタンパク質性薬の場合である。例えば、実施例に例証されているように、最終的に製造される薬物は親の完全ヒト抗体であるが、キメラバージョンの、その他の点では完全なヒト抗体を、試験に用いることができる。
【0039】
当業者は、アミロイド原線維を決定する様々な方法を知っている。実施例2~5に詳細に示されているように、アミロイド原線維は、組織切片において、コンゴレッド染色、チオフラビンS染色、または適切な抗体での免疫組織化学法により分析され得る。薬物処置が、対照と比較して、アミロイド原線維の排除または低下を加速するかどうかを決定するために、その後、アミロイド原線維は、自動顕微鏡観察法および画像分析プロセスのような適切なデバイスおよびプロセスを用いて定量化される。さらに、実施例4および5に言及されているように、ATTR原線維は、モデルにおいて自然発生的な原線維排除プロセスを起こす。したがって、評価される薬物での処置による原線維排除または低下の加速が、抗アミロイド薬として適合性についてのアウトプットである。したがって、方法は、好ましくは、投与後の第1および第2の時点における組織生検を収集すること、ならびに免疫組織化学法を含む、アミロイド原線維の分析および定量化を含む。さらなる好ましい実施形態において、アミロイド原線維の量は、植込片組織エリアに占めるパーセンテージとして表され、前記薬物またはそのバリアントで処置された群における植込片組織エリアに占めるアミロイド染色エリアが、対照群においてより有意に低い。
【0040】
好ましい実施形態において、第1の時点は、薬物またはそのバリアントの投与から3~10時間後、より好ましくは5~8時間後、最も好ましくは6時間後であり、第2の時点は、薬物またはそのバリアントの投与から48~156時間後、より好ましくは72~120時間後、最も好ましくは96時間後である。
【0041】
原理上、利用可能な、患者の生検においてアミロイドーシスを診断するための全ての方法が、モデル生物体のアミロイド原線維移植片を決定/分析するために本発明の方法に適用され得る。
【0042】
実施例3~5に示されているように、ATTR特異的抗体は、植え込まれたアミロイド原線維を特異的に結合し、それらの排除を加速することが示されている。したがって、本発明の方法の一実施形態において、薬物は、抗アミロイド原線維タンパク質抗体またはアミロイド原線維結合性分子を含む。さらなる実施形態において、薬物は抗体であり、対照は、対応するアイソタイプ抗体である。適切な抗体候補は、先行技術から知られており、例えば、抗トランスサイレチン(TTR)抗体が、WO2015/092077 A1、WO2014/124334 A2、WO2018/007923 A3、WO2016/120810 Al、US2017/0058023 A1、およびUS9,879,080 B2に開示されている。もちろん、特に新規の抗体または化合物が、一般的に、抗アミロイド薬としてのそれらの適合性について評価されるために本発明の方法に適用され得ることは、本発明の範囲内で構想される。抗体以外にも、例えば小分子を含む、全ての型の薬物が、抗アミロイド薬としてのそれらの適合性について、本発明の方法により便利に試験され得る。
【0043】
言及されているように、アミロイドーシスの治療における薬物を提供するためのこれまでのたいていのアプローチは、インビトロで作製された組換えアミロイドタンパク質およびその原線維でのリード候補化合物のスクリーニングを用いており、しかしながら、それは、患部組織または器官におけるアミロイド原線維の実際の環境および3次元構造を考慮しておらず、加えて、その患部組織または器官は他のアミロイド原線維形成タンパク質をも含み得る。
【0044】
対照的に、本発明のPDAX動物モデルは、抗アミロイド化合物、特に、処置されるべき患者において標的アミロイドタンパク質と、例えば毒性のアミロイド沈着物の所望かつ必要な位置で選択的に結合するほど特異的であることが合理的に予想することができる抗体、の獲得および選択を可能にする。
【0045】
特定の好ましい実施形態において、候補抗体は、ヒト化抗体、ヒト様抗体、またはヒト抗体、好ましくはヒト由来抗体、最も好ましくはヒトメモリーB細胞から単離されたヒト由来抗体、およびその組換えバリアントであり、その組換えバリアントは、典型的には、最初のヒト由来抗体の可変重鎖および軽鎖、ならびに、好ましくはIgG1またはIgG4サブタイプであるが、必ずしも最初のヒト由来抗体の定常ドメインと同一とは限らない、ヒト定常ドメインを実質的に含む。
【0046】
しかしながら、本発明のPDAXモデルにおける試験および検証について実施例に例示されているように、好ましくは、ヒト化抗体、ヒト様抗体、またはヒト抗体のバリアントが用いられ、そのバリアントは、異種性定常ドメインを含み、好ましくは、前記バリアント抗体がキメラ抗体であり、かつ前記異種性定常ドメインが、モデルに用いられる動物と同じ種に由来する。
【0047】
当業者は、薬物をモデル動物に投与するための様々な経路を知っている。したがって、本発明の方法の一実施形態において、薬物は、静脈内に、腹腔内に、皮下に、または経口で投与される。例えば、薬物は、実施例3および4に示されているように、単離されたアミロイド原線維の植込片を受けているマウスの尾静脈において静脈内注射される。
【0048】
本発明のさらなる態様は、抗アミロイド薬またはそのバリアントおよび薬学的に許容される担体を含む薬学的組成物の製造プロセスに関する。このプロセスにおいて、上記のような本発明の方法により適切な抗アミロイド薬であることが決定された抗アミロイド薬が、薬学的に許容される担体と混合される。
【0049】
薬学的に許容される担体および投与経路は、当業者に知られた、対応する文献から入手することができる。本発明の薬学的組成物は、当技術分野においてよく知られた方法に従って製剤化することができる;例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy (2000)、University of Sciences in Philadelphia、ISBN 0-683-306472;Vaccine Protocols 第2版、Robinsonら編、Humana Press、Totowa、New Jersey、USA、2003;Banga、Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation, Processing, and Delivery Systems.第2版、Taylor and Francis (2006)、ISBN:0-8493-1630-8を参照。適切な薬学的担体の例は、当技術分野においてよく知られており、それには、リン酸緩衝食塩水、水、油/水乳濁液などの乳濁液、様々な型の湿潤剤、無菌溶液などが挙げられる。そのような担体を含む組成物は、周知の通常の方法により製剤化することができる。これらの薬学的組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。適切な組成物の投与は、種々の様式により果たされ得る。例には、経口、鼻腔内、直腸、局所的、腹腔内、静脈内、筋肉内、皮下、真皮下、経皮、髄腔内、および頭蓋内の方法により、薬学的に許容される担体を含有する組成物を投与することが挙げられる。鼻腔用スプレー製剤などのエアロゾル製剤は、活性物質の精製された水溶液または他の溶液を、保存剤および等張剤と共に含む。そのような製剤は、好ましくは、鼻粘膜と適合したpHおよび等張状態へ調整される。単一ドメイン抗体分子(例えば、「ナノボディ(商標)」)などの経口投与用の薬学的組成物もまた、本発明において構想される。そのような経口製剤は、錠剤、カプセル、粉末、液体、または半固体の形をとり得る。錠剤は、ゼラチンまたはアジュバントなどの固体担体を含み得る。直腸または膣投与用の製剤は、適切な担体を含む坐剤として提供され得る;O’Haganら、Nature Reviews、Drug Discovery 2(9)(2003)、727~735も参照。様々な型の投与に適している製剤に関するさらなるガイドラインは、Remington’s Pharmaceutical Sciences、Mace Publishing Company、Philadelphia、PA、第17版 (1985)および対応する最新版に見出すことができる。薬物送達のための方法の簡単な概説として、Langer、Science 249(1990)、1527~1533を参照。
【0050】
本発明のプロセスの一実施形態において、薬学的組成物は、ATTRまたはATTR関連疾患の治療のために設計される。それにより、アミロイドーシスは、患者におけるATTR沈着、特にそのそれぞれの前駆タンパク質によって特徴づけられる。
【0051】
別の態様において、本発明は、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患を治療できる抗アミロイド薬の特徴づけ、検証、開発、および/または品質管理のための方法に関する。例えば、抗アミロイド薬は、用量応答研究、標的会合実験(標的との薬物結合)において特徴づけられ、または処置作用様式、例えば、原線維移植片部位における薬物による特異的な免疫応答の局所的活性化、もしくはPK/PD関係、例えば、薬物曝露レベルの関数としての用量応答について、特徴づけられる。それにより、上記のような本発明の抗アミロイド薬を決定および/または獲得する方法に供された薬物についての情報は、クライアント、契約当事者、または協力パートナーへ伝達される。さらに、適切な抗アミロイド薬であると決定された薬物が選択され得、任意で、その抗アミロイド薬、またはその抗アミロイド薬を含む薬学的組成物が、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患の治療に使用される。
【0052】
本発明はさらに、アミロイドーシスまたはアミロイド関連疾患の治療のための医薬の製造における、薬物の特徴づけ、品質管理、および/もしくは開発、前臨床試験および/もしくは並行臨床試験、または薬物の選択もしくは検証のためのPDAXモデルの使用に関する。薬物を特徴づけるために、例えば、用量応答研究、または標的会合実験(標的との薬物結合)において、本発明のモデルを使用する方法は、当業者によく知られている。さらに、本発明によれば、モデルは、薬物の処置作用様式、例えば、原線維移植片部位における薬物による特異的な免疫応答の局所的活性化、またはPK/PD関係、例えば、薬物曝露レベルの関数としての用量応答の特徴づけに使用される。
【0053】
この関連において、PDAXモデルが、個別化医療との関連において使用されることも考えられ、それは、個々の患者からアミロイド原線維が単離され、本発明のモデルを使用して抗アミロイド薬に対するそれらの応答について個々に分析されることを意味する。本発明のモデルのそのような使用に関して、有利には、患者を処置する前でも、および患者を、起こり得る有害作用に曝す前に、処置が特定の患者において有効であるかどうかを決定することが可能である。したがって、本発明のモデルの使用は、より的を絞ったアミロイドーシス治療を可能にする。
【0054】
さらなる態様において、本発明は、本発明の患者由来アミロイド異種移植(PDAX)非ヒト動物モデルを作製する方法に関する。その方法は、ATTRアミロイドーシスまたはATTR関連疾患を患っている患者から得られた組織生検からのATTR原線維の単離、および非ヒト動物における前記単離されたアミロイド原線維の植込みを含み、好ましくは、前記原線維調製物が、好ましくはビシンコニン酸(BCA)アッセイで決定された場合、約0.5~5mg/ml、好ましくは約1~4mg/ml、最も好ましくは約2±0.5mg/mlのアミロイド原線維の総タンパク質濃度を有し、高粘性を有する;例えば、Smithら、Anal.Biochem. 150(1985)、76~85を参照。どのようにして本発明のモデルが作製されるのかの例は、実施例1に描かれている。上記のように、アミロイド原線維が単離される組織生検は、心臓組織、腎臓組織、肝臓組織、胃腸組織、皮膚組織、筋肉組織、舌組織、脂肪組織、唾液腺組織、リンパ節組織、脳組織、膵臓組織、または沈着したアミロイドーマを有する任意の他の組織である。当業者は、アミロイド原線維を単離する種々の方法を知っており、例えば、原線維の天然立体構造を保存する単離方法は、Tennent、Methods Enzymol. 309(1999)、26~47において詳細に記載されている。実施例1に示されているように、単離されたアミロイド原線維は、皮下注射により植え込まれるが、被膜下植込み、腎臓、腹膜、筋肉、脳、室、神経、眼、舌、または心臓における植込みのような他の植込みの形式が考え得る。
【実施例0055】
以下の実施例1~5は、本発明の実施形態を例証するのを助けるものである。本発明が前述の記載によって限定されることは意図されず、その前述の記載が本発明の実施形態を例証するのに役立つように意図されていることは認識されているだろう。以下の実施例に提示された患者由来アミロイド異種移植(PDAX)マウスモデルは、死後の心臓組織から得られた患者由来ATTR原線維の皮下植込みを含む。
【0056】
実施例1:PDAXモデルの作製
ATTR原線維の単離
広範囲なTTRアミロイド浸潤を示す凍結ヒト心臓試料を、アミロイドTTR原線維の生化学的抽出のために処理した。できる限り原線維の立体構造を保存するために界面活性剤を含まないプロトコールを用いた(Prasら、J.Clin.Invest. 47(1968)、924~33;Tennent、Methods Enzymol. 309(1999)、26~47)。簡単に述べれば、手順は、可溶性タンパク質を抽出し、かつ排除するための氷冷TEバッファー(10mM Tris pH8.0、140mM NaCl、10mM EDTA、0.1%(重量/体積)NaN3、プロテアーゼ阻害剤カクテル)中での機械的ホモジナイゼ-ションの繰り返し、その後、氷冷純水中での機械的ホモジナイゼ-ションの繰り返しからなった。これは、純水中のアミロイド原線維の懸濁を可能にする、アミロイド原線維上のSAPタンパク質のカルシウム依存性結合を除去するために記載されている(Prasら(1968)、上記)。ATTR原線維を、NaClおよびEDTAでの沈殿によりさらに精製し、遠心分離により濃縮した。総タンパク質濃度を、BCAアッセイで決定し、原線維調製物の高粘性を保証するために2mg/mlに調整した。各原線維調製物を、以下に記載されているような標準手順を用いる、セミネイティブSDS-PAGE、およびATTR原線維特異的抗体NI-301.37F1(10nM)でのウェスタンブロットにより検証した。分析過程中、凝集物を保存するために、試料をローディングバッファーと混合し、SDS-PAGEゲル上に直接ロードし、通常の熱変性ステップを省略した。各試料について、10.0μgの総タンパク質を、MOPSバッファー中4~12% bis-trisゲルにロードし、200Vで40分間、流した。タンパク質を、20Vで60分間のセミドライ式ブロッティングによりニトロセルロース膜へ転写した。膜を、ブロッキングバッファー(PBSバッファー中2% BSA、0.1% tween-20、pH7.4)中1時間、ブロッキングし、ブロッキングバッファー中10nMに希釈されたNI-301.37F1抗体と4℃で一晩、インキュベートした。化学発光基質と組み合わせた、HRPコンジュゲート型抗ヒトIgG抗体を用いて、検出を実施した。
【0057】
図1Aは、四量体WT-TTR(100ng、検出されず)、ミスフォールディング型凝集WT-TTR(100ng)、ならびにレーンあたり0.2μg、2.0μg、および20μgのATTR原線維抽出物のセミネイティブSDS-PAGEおよびNI-301.37F1でのウェスタンブロット分析を示す。組織抽出手順は、結果として、ATTR原線維が高度に濃縮された画分を生じ、それは、二次抗体のみの対照(
図1A、右パネル)においては存在しなかった、高分子量の凝集物としてセミネイティブSDS-PAGEゲル上でNI-301.37F1により検出された(
図1A、左パネル)。同様の実験を、ATTRアミロイドーシス(ATTR+)を有する4人の異なるドナー、アミロイドーシスを有しない4人のドナー(ATTR-)、およびATTRに関連していないアミロイドーシスを有する1人のドナー(A+TTR-)から得られた死後の心臓組織から調製されたATTR原線維に関して実施した(
図1B)。NI-301.37F1は、非常に少ない量のアミロイドを有する1つ(試料70)を含め、全てのATTR症例において患者由来ATTR原線維を選択的に検出し、ATTRアミロイドーシスなしの組織から調製された同じ組織画分に存在する、非関連性タンパク質を検出しなかった。
【0058】
患者由来の原線維の植込み
WT SKH1雌マウスを、イソフルランで短時間麻酔して、大腿における皮下注射による100μgのATTR原線維抽出物の植込みを与えた。
【0059】
抗TTR抗体
マウスキメラ抗体ch.NI-301.37F1を、WO2015/092077 A1に開示されたヒト由来モノクローナル抗体NI-301.37F1から作製した。そのマウスキメラバリアントを、マウス定常ドメインバックボーンにおいて、NI-301.37F1のヒト可変ドメインを含有するように設計した。特に、ヒト由来モノクローナル抗体NI-301.37F1の重鎖可変ドメイン(VH)および軽鎖可変ドメイン(VL)のアミノ酸配列は、WO2015/092077 A1の
図1において開示されており、VH鎖については配列番号10および53、それぞれ、ならびにVL鎖については配列番号12であり、一方、マウス重鎖定常ドメインはUniprotエントリーP01863に対応し、マウス軽鎖定常ドメインはUniprotエントリーP01837に対応する。簡単に述べれば、遺伝子合成を用いて、NI-301.37F1のヒト重鎖可変ドメインをコードする配列、続いて、マウスIgG2a重鎖定常ドメインをコードする配列を含む合成重鎖遺伝子(配列mur.37F1 H参照)、およびNI-301.37F1のヒト軽鎖可変ドメインをコードする配列、続いて、マウスκ軽鎖定常ドメインをコードする配列を含む合成軽鎖遺伝子(配列mur.37F1 L参照)を作製した。その後、これらの2つの遺伝子を、CHO細胞のトランスフェクションに用いられる適切な発現ベクターへサブクローニングした。プロテインAカラムでのクロマトグラフィーによる抗体の精製を含むWO2015/092077 A1に記載されているような標準プロセスを用いて、Ch.NI-301.37F1抗体を細胞培地から精製した。
【0060】
実施例2:PDAXモデルの特徴づけ
患者由来ATTR原線維の植込みから24時間後、マウスを屠殺し、原線維植込片を含む皮膚組織を収集し、固定し、包埋し(PPFA)、コンゴレッドでの組織学的分析およびヒトTTR抗体Dako A0002でのIHC、ならびにマクロファージマーカーCD68、F4/80、およびIba1のために切断した。コンゴレッド染色を、Putchlerの改変を用いて実施した。簡単に述べれば、組織切片をヘマラムで染色し、水中で脱染し、溶液I(80% EtOH、30g/l NaCl、0.01% NaOH)中および溶液II(80% EtOH、30g/l NaCl、5g/l コンゴレッド、0.01% NaOH)中で連続的に室温(RT)、それぞれ30分間、インキュベートし、0.01% NaOHを含むおよび含まない100% EtOH中でクリアリングし、マウントした。切片を、明視野および偏光モードにおいて20×対物レンズで画像化した。免疫染色を、標準手順に従い、RTで20分間のメタノール中3% H2O2での内在性ペルオキシダーゼ活性のクエンチング、RTで1時間のブロッキングバッファー(PBS+5%血清(ウマ/ヤギ)+4% BSA)中でのインキュベーション、その後、4℃で一晩の一次抗体とのインキュベーションによって、実施した。検出を、Vectastain ABCキット(Vector Laboratories)およびジアミノベンジジン(Dako)と組み合わせた適切な二次抗体(全て、Jackson Immuno-research製;1:400)を用いて実施した。TTR染色を、1:400希釈のビオチンコンジュゲート型ヤギ抗ウサギIgG抗体と組み合わせた、1:500希釈のTTR抗体Dako A0002を用いて実施した;CD68抗体を1:400希釈で、F4/80抗体を1:200希釈で、およびIBA1抗体を1:750希釈で用い、それぞれ、PBS中1:400希釈のHRPコンジュゲート型ビオチン ロバ抗ウサギIgGと組み合わせた。
【0061】
アミロイド原線維植込片は、皮膚の構造化されかつ複雑な形態とは明らかに異なる、それらの形および外観により隣接する皮膚組織から容易に認識可能であった。
図2Aに示されているように、アミロイド原線維植込片は、コンゴレッド染色およびTTR IHCが陽性であった。原線維植込片は、マウスマクロファージマーカーCD68、F4/80、およびIba1陰性に染色した小細胞で浸潤された。その代わりに、
図2Bに示されているように、アミロイド原線維植込片を浸潤するその細胞は、単球マーカーCD11b(インテグリンαMとも名づけられている)陽性に染色し、これらの細胞が間違いなく好中球であり、それは、マクロファージのように、抗体媒介性食作用を行うことができる。好中球は、血液の中で最も豊富な免疫細胞型である。皮下注射による原線維移植は、6~8日間の間に、局所毛細血管の破裂を有する微小病変、ならびに、原線維移植片を被包し、それに浸潤し、それを完全に排除する好中球の放出を生じる。下記の実施例4に示されているように、この過程は、ATTR抗体NI-301.37F1の存在下で加速され、その抗体がインビボで免疫系を活性化し得ることを示している。
【0062】
実施例3:PDAXモデルにおける、インビボでの化合物のATTR原線維との結合
PDAXモデルを特徴づけるために、ATTR特異的抗体の、植え込まれた患者由来ATTR原線維とのインビボ結合を分析している。WT SKH1雌マウスは、短時間ガス麻酔下で、大腿における皮下注射による患者由来ATTR原線維100μgの植込み、その後、0.05mg/kg、0.5mg/kg、5.0mg/kg、または15mg/kgでの蛍光標識NI-301.37F1またはアイソタイプ抗体の尾静脈における静脈内注射による投与を受けた。Vivotag-680での抗体標識を、使用説明書(Perkin Elmer)に従って実施した。簡単に述べれば、Vivotag-680エステル反応性色素を、DMSOに溶解し、炭酸バッファー中に調製された抗体と混合した。暗闇中での2時間のインキュベーション後、その標識された抗体を、PBSバッファー中4℃で一晩の透析により精製した。
【0063】
移植から48時間後、マウスを屠殺し、皮膚生検を収集し、固定し、包埋し(PPFA)、組織学的分析のために切断した。切片を脱水し、チオフラビンSで染色し、Dapi含有封入剤でマウントした。スライドスキャニングを、Dapi、FITC、およびCy5チャネルを用いる20×倍率での自動蛍光顕微鏡を用いて、実施した。
【0064】
皮下ATTR原線維植込片は、それらの特異的な形および外観により隣接する皮膚組織から明らかに認識可能であり、強いチオフラビンS蛍光を提示し、保存されたアミロイド立体構造を有する原線維の存在を示した(
図3A)。蛍光標識抗体NI-301.37F1の結合は、原線維上で用量依存的に増加したが、周囲組織上では増加しなかった(
図3A);原線維結合は、NI-301.37F1に対して選択的であり、アイソタイプ抗体に関しては観察されなかった。NI-301.37F1蛍光はチオフラビンS蛍光と重複し、ATTR原線維上でのNI-301.37F1の結合を示した。これらの結果は、NI-301.37F1が、マウスに植え込まれた患者由来ATTR原線維と用量依存的に結合することを示している。
【0065】
原線維部位におけるNI-301.37F1-VT680蛍光強度は、ソフトウェアに基づいた画像分析により定量化され、抗体密度のプロキシとしての役割を果たした。蛍光強度は、試験された全用量範囲に渡って連続的に増加した;より具体的には、試験された最高用量(5mg/kgおよび15mg/kg)の間でさえもNI-301.37F1結合の飽和はなかったことを示す、蛍光強度の連続的増加があった。
【0066】
キメラNI-301.37F1についての血漿レベルを、直接的TTR ELISAおよび既知濃度の抗体での較正曲線を用いて決定した。簡単に述べれば、96ウェルマイクロプレートを、PBSバッファー(pH7.4)中10μg/mlの濃度に希釈されたヒト野生型TTRで37℃で1時間コーティングした。非特異的結合部位を、ブロッキングバッファー(PBSバッファー中2% BSA、0.1% tween-20 pH7.4)で、RTで1時間ブロッキングした。血漿試料を、ブロッキングバッファー中に二連で1:500希釈した。較正試料を、同様に、キメラNI-301.37F1抗体をブロッキングバッファー中、二連で、5pMから5nMまでの濃度範囲で希釈することにより、調製した。希釈された血漿試料を、二連で(試料あたり合計四連)、以下のように定量化した:試料を、4℃で一晩、インキュベートし、キメラNI-301.37F1を、ブロッキングバッファー中1:4000希釈度でのHRPコンジュゲート型抗マウスIgG2a抗体(Jackson Immunoresearch)で検出し、その後、標準手順を用いて、HRP活性を測定した。
【0067】
ATTR原線維上での蛍光強度に対するNI-301.37F1-VT680濃度の分析により、0.5~15mg/kgの用量範囲に渡って直線相関が明らかになった。この直線相関は、最高15mg/kgまでの抗体用量で標的の飽和がないことを示している(
図3B)。用量群0.05mg/kgについての結果は、相関分析から除外され、その抗体濃度が、非常に低い濃度におけるマトリックス干渉効果により過小評価された可能性があるからである。
【0068】
実施例4:インビボでのATTR原線維クリアランス
患者由来ATTR原線維を、WTマウスに皮下注射により植え込み、その後、5.0mg/kgでのマウスキメラNI-301.37F1バリアント(ch.NI-301.37F1)または対応するアイソタイプ抗体を静脈内に投与した。6時間または96時間後、マウスを屠殺し、皮膚生検を、組織学的分析のために収集した。ATTR原線維を、市販のヒトTTR抗体Dako A0002を用いる免疫組織化学法により検出した。定量化を、自動顕微鏡観察法および画像分析法を用いて実施し、ATTR原線維の量を、植込片組織エリアに占めるパーセンテージとして表した。
【0069】
皮下ATTR原線維植込片は、それらの特異的な形および外観により、隣接する皮膚組織から明らかに認識可能であった。植込みおよび処置投与から6時間後、ATTR原線維植込片を、IHCによりTTRについて完全に染色し、TTR染色は、両方の処置群において植込片組織エリアの平均60~70%を占めた(
図4)。原線維植込みから96時間後、TTR染色エリアは、ch.NI-301.37F1で処置された群においては植込片エリアのたった12%、アイソタイプ群においては39%を占めた(
図4)。その2つの群間の差は、p<0.0001で統計的に有意であった。これらの結果は、ATTR原線維排除が、ch.NI-301.37F1での処置により加速されたことを実証している。
【0070】
同様の実験を、コンゴレッド染色およびチオフラビンS染色に基づいて行い、それらは、ch.NI-301.37F1での処置が、アイソタイプ抗体での処置と比較して、ATTR原線維排除を加速したことをさらに確認した。
【0071】
インビボでNI-301.37F1の活性をさらに特徴づけるために、ATTR原線維移植マウスは、0.05mg/kg、0.5mg/kg、5.0mg/kg、および50mg/kgでのch.NI-301.37F1、または50mg/kgでのアイソタイプの静脈内の単回投与を受けた。各群からの1匹のマウスを、参照のため、薬物投与から6時間後、屠殺した(t0);全ての他のマウスを、96時間後に屠殺し、皮膚生検を、上記のように組織学的分析のために収集した。
【0072】
アイソタイプ処置マウスにおいて、t0において移植片エリアの86%を占めたATTR原線維は、4日(96時間)後、58%に減少し(
図5)、このモデルにおける自発的原線維排除を反映した。原線維排除は、ch.NI-301.37F1での処置により用量依存的に加速された。処置効果は、0.5mg/kg以上の用量において統計的に有意であったが(
図5)、0.05mg/kgの非常に低い用量においては、限られた効果量および用量群あたりのマウスの少ない数により、有意ではなかった。完全な原線維排除は、5.0mg/kg用量と50mg/kg用量の両方で得られた。
【0073】
これらのデータは、インビボでのNI-301.37F1の活性を確認し、ATTR原線維の排除についての免疫系の活性化がすでに低用量で起こっていることを示している。
【0074】
実施例5:抗体処置によるPDAXモデルの特徴づけ
実施例4に示されているような、PDAXモデルにおけるインビボでのATTR原線維のクリアランスを、骨髄系細胞マーカーIBA1、DC11B、およびLY6Gについての染色によりさらに特徴づけた。
【0075】
同種移植片炎症因子1(AIF1)としても知られたIBA1は、マクロファージ、加えて、活性化好中球についてのマーカーである。ATTR移植片組織を、IBA1発現についてIHCにより染色した。ATTR移植片組織内およびその周囲に存在する細胞は、移植から6時間後、少しのIBA1発現も存在しなかった(
図6A)。同様に、移植から96時間後のIBA1発現は、少なく、または存在せず、ATTR移植片エリア内のほんのわずかな細胞においてのみ検出された。
【0076】
表面抗原分類分子11B(CD11B)はまた、インテグリンαM(ITGAM)、マクロファージ-1抗原(Mac-1)、または補体受容体3(CR3)という名前でも知られており、単球およびマクロファージだけでなく、顆粒球およびナチュラルキラー細胞によっても発現されている。IHCによりCD11B発現について染色されたATTR移植片組織は、移植から6時間後、移植片組織の内部およびそれに隣接した、CD11B陽性細胞を提示した(
図6B)。この時点において、CD11B陽性細胞は、典型的には、小さくかつアメーバ様であり、細胞の一部は伸長した突起を提示した。移植から96時間後、本発明者らは、対照抗体処置マウス、およびch.NI-301.37F1処置マウスの両方において、ATTR移植片全体を浸潤しているCD11B陽性細胞の大きな増加を観察した。
【0077】
LY6Gは、GPIアンカー型タンパク質であり、LY6Cと共に、ミエロイド分化抗原GR-1のコンポーネントである。LY6Gは、主に、末梢好中球上に存在する。LY6G発現について染色されたATTR移植片切片は、処置に関係なく、移植から6時間後、ATTR移植片の内部および周囲にLY6G陽性細胞を提示した(
図6C)。対照的に、移植から96時間後、LY6G発現細胞は検出されなかった。