(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099790
(43)【公開日】2024-07-25
(54)【発明の名称】血管拡張剤およびその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 31/4155 20060101AFI20240718BHJP
A61P 9/08 20060101ALI20240718BHJP
【FI】
A61K31/4155
A61P9/08
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024073944
(22)【出願日】2024-04-30
(62)【分割の表示】P 2021565693の分割
【原出願日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2019228695
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508189957
【氏名又は名称】株式会社 バイオラジカル研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【弁理士】
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】李 昌一
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC36
4C086GA07
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA36
4C086ZA39
4C086ZA51
4C086ZA59
4C086ZA66
4C086ZA67
4C086ZA81
4C086ZA89
4C086ZB26
4C086ZC02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ROSが存在する環境下においても、血管を拡張可能な血管拡張剤を提供する。
【解決手段】本発明の血管拡張剤は、下記式(1)で表される化合物またはその塩を含む:
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物またはその塩を含む、血管拡張剤:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
【請求項2】
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、下記式(2)または(3)で表される、請求項1記載の血管拡張剤:
【化2】
【化3】
前記式(2)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
2は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
前記式(3)において、
R
4は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
5は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基である。
【請求項3】
Lは、炭素原子数1~6の不飽和の炭化水素基である、請求項1または2記載の血管拡張剤。
【請求項4】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の血管拡張剤:
【化4】
前記式(4)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R
4は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
5は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
【請求項5】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の血管拡張剤。
【化5】
【請求項6】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(6)で表される化合物を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の血管拡張剤。
【化6】
【請求項7】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(12)で表される化合物を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の血管拡張剤:
【化12】
前記式(12)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R
1′は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2′は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3′は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
【請求項8】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(13)で表される化合物を含む、請求項1、2および7のいずれか一項に記載の血管拡張剤。
【化13】
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の血管拡張剤を含む、血流改善剤。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載の血管拡張剤を含む、血管障害防御剤。
【請求項11】
請求項1から8のいずれか一項に記載の血管拡張剤を含む、血管狭窄により生じる疾患用の医薬。
【請求項12】
前記血管狭窄により生じる疾患は、脳出血、糖尿病、糖尿病腎症、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、または歯科疾患である、請求項11記載の医薬。
【請求項13】
請求項1から8のいずれか一項に記載の血管拡張剤を使用する、血管拡張方法。
【請求項14】
前記血管拡張剤と接触させる接触工程を含む、請求項13記載の血管拡張方法。
【請求項15】
前記血管拡張剤を、in vitroまたはin vivoで接触させる、請求項14記載の血管拡張方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管拡張剤およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
狭心症等の血管の狭窄により生じる疾患に対しては、ニトログリセリン、硝酸製剤等の一酸化窒素(NO)を供与する血管拡張薬が利用されている。これらの血管拡張薬によれば、血管拡張薬からNOが供給され、増加した血中のNOの作用により血管が拡張される(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Clayton D. Knox et.al., “Discovery and Clinical Evaluation of MK-8150, A Novel Nitric OxideDonor With a Unique Mechanism of Nitric Oxide Release”, Journal of American Heart Association, 2016, vol. 5, No.9, e003493
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記血管拡張薬は、活性酸素種(ROS)が存在しない環境下では有効に採用する。しかしながら、本発明者らは、ROSが存在する環境下では、NOは、ROSと反応して酸化力の高いペルオキシナイトライト(ONOO-)となり、血管拡張に寄与しないとの知見を得た。また、ペルオキシナイトライトは、高い細胞障害性を有するため、血管障害を引き起こし、この結果、出血等の様々な疾患等を惹起するおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、ROSが存在する環境下においても、血管を拡張可能な血管拡張剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の血管拡張剤は、下記式(1)で表される化合物またはその塩を含む:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
【0007】
本発明の血流改善剤(以下、「改善剤」ともいう)は、前記本発明の血管拡張剤を含む。
【0008】
本発明の血管障害防御剤(以下、「防御剤」ともいう)は、前記本発明の血管拡張剤を含む。
【0009】
本発明の血管狭窄により生じる疾患用の医薬(以下、「医薬」ともいう)は、前記本発明の血管拡張剤を含む。
【0010】
本発明の血管拡張方法は、前記本発明の血管拡張剤を使用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むことにより、ROSが存在する環境下においても、血管を拡張できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、実施例3におけるESRの結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例4におけるスーパーオキサイド産生量の相対値を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例5における蛍光強度の相対値を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施例6におけるスーパーオキサイド産生量の相対値を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施例7における細胞の生存率を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施例7における細胞の生存率を示すグラフである。
【
図7】
図7は、実施例8における
1H-NMRのスペクトルを示すグラフである。
【
図8】
図8は、実施例8における
1H-NMRのスペクトルを示すグラフである。
【
図9】
図9は、実施例8における
13C-NMRのスペクトルを示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例9における本発明の血管拡張剤の投与後の血管径の変化を示すグラフであり、(A)は、細い血管の結果を示し、(B)は、中程度血管の結果を示し、(C)は、太い血管の結果を示す。
【
図11】
図11は、実施例10におけるコントロールの腸間膜の結果を示す写真である。
【
図12】
図12は、実施例10におけるBisEP-C3を投与したラットの腸間膜の結果を示す写真である。
【
図13】
図13は、実施例10における出血面積と出血面積割合とを示すグラフである。
【
図14】
図14は、実施例11におけるNOの抑制率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<血管拡張剤>
本発明の血管拡張剤は、前述のように、下記式(1)で表される化合物またはその塩を含む:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
【0014】
本発明の血管拡張剤は、前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の血管拡張剤は、下記メカニズムで、活性酸素種を捕捉することで、酸化ストレスを軽減し、血管拡張を誘導していると推定される。なお、本発明は、以下の推定に何ら制限されない。前記式(1)で表される化合物またはその塩では、官能基Lにより連結された、ピラゾール環またはピラゾリン環が単独で、または官能基Lと共に共役系を形成していると推定される。そして、前記式(1)の化合物では、形成された共役系により化合物の安定性が高いため、活性酸素種が有するラジカルまたはエネルギーを吸収でき、活性酸素種の捕捉剤として機能すると推定される。この結果、酸化ストレスが軽減され、血管内皮細胞によるNO産生の向上を通じて血管拡張を誘導していると推定される。また、本発明の血管拡張剤は、活性酸素種を捕捉できるため、血管内皮細胞が産生するNOから、ペルオキシナイトライトの生成を抑制すると推定される。このため、本発明の血管拡張剤によれば、血管内皮細胞が産生するNOがペルオキシナイトライトに変換されず、NOとして、血管内皮細胞に作用するため、血管拡張を誘導していると推定される。また、本発明の血管拡張剤によれば、血管内皮細胞が産生するNOがペルオキシナイトライトに変換されない、または変換が抑制されるため、血管障害を防御(抑制)できると推定される。
【0015】
本発明において、「血管拡張」は、例えば、前記本発明の血管拡張剤の非存在下(非投与条件)と比較して、血管が(有意に)拡張されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、血管が収縮していてもよい。この場合、前記「血管拡張」は、例えば、「血管収縮の抑制」、「血管収縮の低減」等ということもできる。前記血管の拡張は、例えば、対象の血管の径(直径、以下、「血管径」ともいう)に基づき、評価できる。前記対象の血管は、例えば、直径50μm以下の血管である。
【0016】
前記血管径は、例えば、血管内径を意味する。前記血管径の測定時期は、例えば、血管収縮後期(心臓の拡張後期に対応)である。前記血管径の測定は、例えば、測定対象の血管を光学的に観察した場合において、血液(赤血球)が存在している領域の最長径として測定できる。
【0017】
本発明の血管拡張剤は、前述のように、活性酸素種を捕捉可能である。このため、本発明の血管拡張剤は、例えば、抗酸化剤ということもできる。前記抗酸化剤は、例えば、活性酸素種を捕捉する剤を意味する。前記活性酸素種は、例えば、ヒドロキシラジカル(・OH)、アルコキシラジカル(LO・)、ペルオキシラジカル(LOO・)、ヒドロペルオキシラジカル(HOO・)、一酸化窒素(NO・)、二酸化窒素(NO2・)、スーパーオキサイドアニオン(O2
-)等のラジカル種;一重項酸素(1O2)、オゾン(O3)、過酸化水素(H2O2)等の非ラジカル種;等があげられる。本発明の血管拡張剤は、例えば、前記活性酸素種のうちいずれか1つを捕捉してもよいし、2つ以上を捕捉してもよいが、一重項酸素(1O2)を捕捉することが好ましい。前記活性酸素種の捕捉は、例えば、活性酸素種の消去ということもできる。前記活性酸素種の捕捉は、例えば、本発明の血管拡張剤が、前記活性酸素種に水素原子を供与し、前記活性酸素種をより安定な他の分子(例えば、水)に変換することにより、実施される。本発明の血管拡張剤は、例えば、活性酸素種、ラジカル種もしくは一重項酸素の捕捉剤、または活性酸素種、ラジカル種もしくは一重項酸素の消去剤ということもできる。また、本発明の血管拡張剤は、例えば、共存する他の分子の活性酸素種による酸化を抑制または防止できる。このため、本発明の血管拡張剤は、例えば、酸化防止剤または酸化抑制剤ということもできる。
【0018】
前記活性酸素種の捕捉能は、例えば、2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidone(TMPD)を用いた活性酸素評価法により評価できる。前記活性酸素種が一重項酸素の場合、一重項酸素の捕捉能は、後述の実施例3に準じて測定できる。
【0019】
以下、前記式(1)で表される化合物における各置換基について、例を挙げて説明する。各置換基の説明において、特に言及がない場合、他の置換基の説明における具体例を援用できる。また、以下の説明で特に言及がない場合、前記式(1)で表される化合物の説明は、例えば、前記式(1)で表される化合物の塩の説明に援用できる。
【0020】
前記式(1)で表される化合物が不斉炭素原子を有する場合、前記式(1)で表される化合物は、例えば、ラセミ体、そのRおよびSのエナンチオマー、またはRおよびSの任意の割合の混合物として存在してもよい。前記式(1)で表される化合物は、2以上の不斉中心を有してもよい。この場合、前記式(1)で表される化合物は、ジアステレオマーおよびその混合物を含んでもよい。前記式(1)で表される化合物が分子中に2重結合を有する場合、本発明の化合物は、例えば、シスおよびトランス異性体の幾何異性体の形態を含んでもよい。
【0021】
前記式(1)において、A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環である。前記置換基を有するピラゾール環は、例えば、下記式(2)で表されるピラゾール環があげられる。また、前記置換基を有するピラゾリン環は、例えば、下記式(3)で表されるピラゾリン環があげられる。
【化2】
【化3】
【0022】
前記式(2)において、R1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基である。
【0023】
前記ハロゲン原子は、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等があげられる。
【0024】
前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~20もしくは1~10の直鎖、分枝もしくは環状の飽和または不飽和アルキル基があげられる。具体例として、前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、t-ペンチル基、n-ヘキシル基、i-ヘキシル基、t-ヘキシル基、n-ヘプチル基、i-ヘプチル基、t-ヘプチル基、n-オクチル基、i-オクチル基、t-オクチル基、n-ノニル基、i-ノニル基、t-ノニル基、n-デシル基、i-デシル基、t-デシル基、n-ウンデシル基、i-ウンデシル基、n-ドデシル基、i-ドデシル基、n-トリデシル基、i-トリデシル基、n-テトラデシル基、i-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、i-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、i-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、i-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、i-オクタデシル基、n-ノナデシル基、i-ノナデシル基等があげられる。前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1~6の直鎖状の飽和アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0025】
前記アルコキシ基(RO-)において、Rは、アルキル基であり、前述のアルキル基の説明を援用できる。
【0026】
前記ヒドロキシアルキル基(HOR-)において、Rは、アルキル基であり、前述のアルキル基の説明を援用できる。
【0027】
前記アシル基(RCO-)において、Rは、アルキル基であり、前述のアルキル基の説明を援用できる。
【0028】
前記アルケニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の二重結合を有するもの等があげられる。前記アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2~20、好ましくは、炭素原子数2~6のアルケニル基があげられ、具体例として、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチルアリル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、2-メチル-2-ブテニル基等があげられる。
【0029】
前記アルキニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の三重結合を有するもの等があげられる。前記アルキニル基としては、例えば、炭素原子数2~20、好ましくは、炭素原子数2~6のアルキニル基があげられ、具体例として、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-メチル-3-ブチニル基等があげられる。前記アルキニル基は、例えば、さらに、1個または複数の二重結合を有してもよい。
【0030】
前記置換基を有してもよいアリール基は、アリール基でもよいし、前記アリール基が置換基により置換されてもよい。前記置換基を有してもよいアリール基は、例えば、置換基における炭素数を含めた総炭素原子数6~20のアリール基であり、具体例として、フェニル基、トリル基、キシリル基、アルキルオキシフェニル基(例えば、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基等)、ヒドロキシフェニル基、ハロゲノフェニル基(例えば、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基等)、アルキルフェニル基(例えば、メチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基等)、シアノフェニル基、プロピルオキシフェニル基、4-スルホフェニル基等があげられ、フェニル基または4-スルホフェニル基が好ましい。
【0031】
前記式(2)において、R2は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、アルキル基または置換基を有してもよいアリール基である。前記アルキル基は、炭素原子数1~6の直鎖状の飽和アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。前記置換基を有してもよいアリール基は、フェニル基または4-スルホフェニル基が好ましい。
【0032】
前記式(2)において、R3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基である。前記アルキル基は、炭素原子数1~6の直鎖状の飽和アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0033】
前記式(3)において、R4は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基である。前記アルキル基は、炭素原子数1~6の直鎖状の飽和アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。
【0034】
前記式(3)において、R5は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基である。前記アルキル基は、炭素原子数1~6の直鎖状の飽和アルキル基が好ましく、メチル基またはエチル基がより好ましい。前記置換基を有してもよいアリール基は、フェニル基または4-スルホフェニル基が好ましい。
【0035】
前記式(3)において、R6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、好ましくは、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基である。
【0036】
前記式(1)において、Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。Lは、例えば、アルキル基等の飽和の炭化水素基;アルケニル基、アルキニル基等の不飽和の炭化水素基があげられる。前記アルキル基は、例えば、R1におけアルキル基の説明を援用できる。前記Lにおける主鎖の炭素原子数は、奇数が好ましく、具体例として、炭素原子数は、1、3、5、または7が好ましく、1、3または5がより好ましく、3がさらに好ましい。
【0037】
前記アルケニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の二重結合を有するもの等があげられる。前記アルケニル基としては、例えば、炭素原子数2~20、好ましくは、炭素原子数2~6のアルケニル基があげられ、具体例として、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチルアリル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、2-メチル-2-ブテニル基等があげられる。
【0038】
前記アルキニル基は、例えば、前記アルキル基において、1個または複数の三重結合を有するもの等があげられる。前記アルキニル基としては、例えば、炭素原子数2~20、好ましくは、炭素原子数2~6のアルキニル基があげられ、具体例として、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-メチル-3-ブチニル基等があげられる。前記アルキニル基は、例えば、さらに、1個または複数の二重結合を有してもよい。
【0039】
Lは、炭素原子数1~6の不飽和の炭化水素基が好ましく、より好ましくは、炭素原子数2~6のアルケニル基であり、具体例として、1-プロペニル基または2-プロペニル基があげられる。
【0040】
前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物を含むことが好ましい。
【化4】
【0041】
前記式(4)において、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R4は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R5は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
【0042】
前記式(4)において、
R1は、水素原子またはアルキル基であり、
R2は、アルキル基または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3は、ヒドロキシ基であり、
R4は、水素原子またはアルキル基であり、
R5は、アルキル基または置換基を有してもよいアリール基であり、
R6は、酸素原子またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の不飽和の炭化水素基であることが好ましく、炭素原子数1、3、または5の不飽和の炭化水素基であることがより好ましい。
【0043】
具体例として、前記式(1)で表される化合物は、例えば、水溶液またはリン酸緩衝液等の水性溶媒での分解反応が抑制され、スーパーオキサイドおよび一重項酸素を捕捉可能であり、細胞毒性が低いまたはなく、かつ一重項酸素との反応後においても細胞毒性を有する副産物の発生が抑制されていることから、下記式(5)で表される化合物を含むことが好ましい。下記式(5)の化合物によれば、例えば、より効果的に血管を拡張できる。下記式(5)の化合物は、例えば、2,4-dihydro-4-[3-(1-ethyl-5-hydroxy-3-methyl-1H-pyrazol-4-yl)-2-propen-1-ylidene]- 2-ethyl-5-methyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。以下、下記式(5)の化合物を、BisEp-C3ともいう。
【化5】
【0044】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、水溶液またはリン酸緩衝液等の水性溶媒での分解反応が抑制され、スーパーオキサイドおよび一重項酸素を捕捉可能であり、かつ細胞毒性が低いまたはないことから、下記式(6)で表される化合物を含むことが好ましい。下記式(6)の化合物は、例えば、2,4-dihydro-4-[3-(5-hydroxy-3-methyl-1-phenyl-1H-pyrazol-4-yl)-2-propen-1-ylidene]-5-methyl-2-phenyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。下記式(6)の化合物は、例えば、Cas登録番号:27981-68-6で登録されている化合物である。以下、下記式(6)の化合物を、ED2APともいう。
【化6】
【0045】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(7)で表される化合物を含む。下記式(7)の化合物は、例えば、4-[4,5-dihydro-4-[3-[5-hydroxy-3-methyl-1-(4-sulfophenyl)-1H-pyrazol-4-yl]-2-propen-1-ylidene]-3-methyl-5-oxo-1H-pyrazol-1-yl]- benzenesulfonic acidということもできる。下記式(7)で表される化合物は、スルホ基における水素がナトリウムでもよい。下記式(7)で表される化合物のナトリウム塩は、例えば、Cas登録番号:63870-34-8で登録されている化合物である。
【化7】
【0046】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(8)で表される化合物を含む。下記式(8)の化合物は、例えば、2,4-dihydro-4-[3-(5-hydroxy-1,3-dimethyl-1H-pyrazol-4-yl)-2-propen-1-ylidene]-2,5-dimethyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。下記式(8)で表される化合物は、例えば、Cas登録番号:242129-71-1で登録されている化合物である。
【化8】
【0047】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(9)で表される化合物を含む。下記式(9)の化合物は、例えば、2,4-dihydro-4-[(5-hydroxy-1,3-dimethyl-1H-pyrazol-4-yl)methylene]-2,5-dimethyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。以下、下記式(9)の化合物を、BisEp-C1ともいう。
【化9】
【0048】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(10)で表される化合物を含む。下記式(10)の化合物は、例えば、Solvent Yellow 93または2,4-dihydro-4-[(5-hydroxy-3-methyl-1-phenyl-1H-pyrazol-4-yl)methylene]-5-methyl-2-phenyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。下記式(10)で表される化合物は、例えば、Cas登録番号:4174-09-8で登録されている化合物である。
【化10】
【0049】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(11)で表される化合物を含む。下記式(11)の化合物は、例えば、2,4-dihydro-4-[(5-hydroxy-1,3-dimethyl-1H-pyrazol-4-yl)methylene]-2,5-dimethyl-3H-pyrazol-3-oneということもできる。下記式(11)で表される化合物は、例えば、Cas登録番号:151589-04-7で登録されている化合物である。
【化11】
【0050】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(12)で表される化合物を含む。
【化12】
【0051】
前記式(12)において、
R1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R1′は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R2′は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3′は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
【0052】
前記式(12)において、
R1は、水素原子またはアルキル基であり、
R2は、アルキル基または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3は、ヒドロキシ基であり、
R1′は、水素原子またはアルキル基であり、
R2′は、アルキル基または置換基を有してもよいアリール基であり、
R3′は、アルキル基またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基であることが好ましい。
【0053】
具体例として、前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(13)で表される化合物を含む。下記式(13)の化合物は、例えば、4,4'-methylenebis[1-ethyl-3-methyl-1H-pyrazol-5-ol]ということもできる。以下、下記式(13)の化合物を、BisEp-C1(H
2)ともいう。
【化13】
【0054】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(14)で表される化合物を含む。下記式(14)の化合物は、例えば、4,4'-methylenebis[3-methyl-1-phenyl-1H-pyrazol-5-ol]ということもできる。下記式(14)で表される化合物は、例えば、Cas登録番号:98395-58-5で登録されている化合物である。
【化14】
【0055】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、下記式(15)で表される化合物を含む。下記式(15)の化合物は、例えば、4,4'-methylenebis[1-hexyl-3-methyl-1H-pyrazol-5-ol]ということもできる。下記式(15)で表される化合物は、例えば、Cas登録番号:153231-80-2で登録されている化合物である。
【化15】
【0056】
前記式(1)で表される化合物は、例えば、異性体でもよい。前記異性体は、例えば、互変異性体または立体異性体があげられる。前記互変異性体または立体異性体は、例えば、理論上可能なすべての互変異性体もしくは立体異性体があげられる。また、本発明において、各置換基の立体配置は、特に制限されない。本発明の血管拡張剤において、前記式(1)で表される化合物は、例えば、前記式(1)で表される化合物またはその塩の水和物でもよいし、溶媒和物でもよい。
【0057】
本発明において、前記式(1)で表される化合物の塩は、特に制限されず、例えば、薬学的に許容される塩である。前記薬学的に許容される塩は、特に制限されず、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N-ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等の複素環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等のアミノ酸塩;塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩、ヒドロキシマレイン酸塩、ピルビン酸塩、フェニル酢酸塩、安息香酸塩、4-アミノ安息香酸塩、アントラニル酸塩、4-ヒドロキシ安息香酸塩、サリチル酸塩、4-アミノサリチル酸塩、パモ酸塩、グルコン酸塩、ニコチン酸塩、等の脂肪族有機酸または芳香族有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、ハロベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、スルファニル酸塩、シクロヘキシルスルファミン酸塩等のスルホン酸塩等があげられる。
【0058】
本発明の血管拡張剤は、例えば、in vivoで使用してもよいし、in vitroで使用してもよい。本発明の血管拡張剤は、例えば、複数の成分から構成されてもよい。この場合、本発明の血管拡張剤は、例えば、血管拡張組成物ということもできる。
【0059】
本発明の血管拡張剤の投与対象は、特に制限されない。本発明の血管拡張剤をin vivoで使用する場合、前記投与対象は、例えば、ヒト、またはヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト動物としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、サル、モルモット等があげられる。前記投与対象は、例えば、炎症が生じている対象でもよいし、炎症が生じていない対象でもよい。前記炎症は、例えば、健常者と比較して、血液中のROS、TNFα等の炎症性サイトカインの濃度が有意に高い状態を意味する。前記本発明の血管拡張剤をin vitroで使用する場合、前記投与対象は、例えば、細胞、組織、器官等があげられ、前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞、培養細胞等があげられる。
【0060】
本発明の血管拡張剤の使用条件(投与条件)は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。
【0061】
本発明の血管拡張剤の投与量は、特に制限されない。本発明の血管拡張剤をin vivoで使用する場合、例えば、投与対象の種類、症状、年齢、投与方法等により適宜決定できる。具体例として、ヒトに投与する場合、1日あたりの前記式(1)で表される化合物の投与量は、合計が、例えば、0.1~1000mg、1~1000mg、10~1000mg、10~100mgであり、好ましくは、10~1000mg、30~1000mg、10~100mg、30~100mgである。1日あたりの投与回数は、例えば、1~5回、1~3回、1回または2回であり、好ましくは1~3回、1回または2回である。前記本発明の血管拡張剤における、前記式(1)で表される化合物の含有量は、特に制限されず、例えば、前述の一日当たりの投与量に応じて適宜設定できる。
【0062】
本発明の血管拡張剤の投与形態は、特に制限されない。本発明の血管拡張剤をin vivoで投与する場合、経口投与でもよいし、非経口投与でもよい。前記非経口投与は、例えば、静脈注射(静脈内投与)、筋肉注射(筋肉内投与)、経皮投与、皮下投与、皮内投与、経腸投与、直腸投与、経膣投与、経鼻投与、経肺投与、腹腔内投与、局所投与等があげられる。
【0063】
本発明の血管拡張剤の剤型は、特に制限されず、例えば、前記投与形態に応じて適宜決定できる。前記剤型は、例えば、液体状、固体状があげられる。具体例として、前記剤型は、放出調節製剤(腸溶性製剤、徐放性製剤等)、カプセル剤、経口液剤(エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、芳香水剤、リモナーデ剤等)、シロップ剤(シロップ用剤等)、顆粒剤(発泡顆粒剤、細粒等)、散剤、錠剤(口腔内崩壊錠、チュアブル錠、発泡錠、分散錠、溶解剤、被覆錠剤等)、丸剤、経口ゼリー剤等の経口投与用製剤;口腔用錠剤(ガム剤、舌下剤、トローチ剤、ドロップ剤、バッカル錠、付着錠等)、口腔用スプレー剤、口腔用半固形剤、含嗽剤等の口腔内適用製剤;注射剤(埋め込み注射、持続性注射剤、輸液剤(点滴用製剤等)、凍結乾燥注射剤、粉末注射剤、充填済シリンジ剤、カートリッジ剤等)等の注射投与用製剤;透析用剤(腹膜透析用剤、血液透析用剤)等の透析用製剤;吸入剤(吸入エアゾール剤、吸入液剤、吸入粉末剤等)等の気管支・肺適用製剤;眼軟膏剤、点眼剤等の目投与用製剤;点耳剤等の耳投与製剤;点鼻剤(点鼻液剤、点鼻粉末剤等)等の鼻適用製剤;坐剤、直腸用半固形剤、注腸剤等の直腸適用製剤;膣用坐剤、膣錠等の膣適用製剤;外用液剤(酒精剤、リニメント剤、ローション剤等)、クリーム剤、ゲル剤、外用固形剤(外用散剤等)、スプレー剤(外用エアゾール剤、ポンプスプレー剤等)、貼付剤(テープ剤、パップ剤等)、軟膏剤等の皮膚適用剤;等があげられる。本発明の血管拡張剤を経口投与する場合、前記剤型は、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、液剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等があげられる。本発明の血管拡張剤を非経口投与する場合、前記剤型は、例えば、注射投与用製剤、点滴用製剤等があげられる。本発明の血管拡張剤を経皮投与する場合、前記剤型は、例えば、貼付剤、塗布剤、軟膏、クリーム、ローション等の外用薬があげられる。
【0064】
本発明の血管拡張剤は、例えば、必要に応じて、添加剤を含んでもよく、本発明の血管拡張剤を医薬または医薬組成物として使用する場合、前記添加剤は、薬学的に許容可能な添加剤または薬学的に許容可能な担体を含むことが好ましい。前記添加剤は、特に制限されず、例えば、基剤原料、賦形剤、着色剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定化剤、保存剤、香料等の矯味矯臭剤等があげられる。本発明の血管拡張剤において、前記添加剤の配合量は、前記式(1)の化合物の機能を妨げるものでなければ、特に制限されない。
【0065】
前記賦形剤は、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、αデンプン、デキストリン等のデンプン誘導体;結晶セルロース等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン等の有機系賦形剤;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、珪酸カルシウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩誘導体;リン酸水素カルシウム等のリン酸塩;炭酸カルシウム等の炭酸塩;硫酸カルシウム等の硫酸塩等の無機系賦形剤があげられる。前記滑沢剤は、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;タルク;ポリエチレングリコール;シリカ;硬化植物油等があげられる。前記矯味矯臭剤は、例えば、ココア末、ハッカ脳、芳香散、ハッカ油、竜脳、桂皮末等の香料、甘味料、酸味料等があげられる。前記結合剤は、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等があげられる。前記崩壊剤は、例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;カルボキシメチルスターチ、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾デンプンおよび化学修飾セルロース類等があげられる。前記安定剤は、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾール等のフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;ソルビン酸等があげられる。
【0066】
前記式(1)~(15)で表される化合物は、市販品を購入してもよいし、後述の実施例における製造例に基づき、自家調製してもよい。
【0067】
本発明の血管拡張剤によれば、前述のように、活性酸素種を捕捉し、これにより血管拡張を誘導できる。このため、本発明の血管拡張剤は、例えば、後述のように、血管狭窄により生じる疾患の医薬として使用することができる。
【0068】
<血流改善剤>
本発明の血流改善剤は、前述のように、前記本発明の血管拡張剤を含む。本発明の改善剤は、前記本発明の血管拡張剤を含むこと、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の改善剤は、前記本発明の血管拡張剤を含むため、活性酸素種を捕捉でき、これにより血管拡張を誘導できる。このため、本発明の改善剤は、対象の血流を改善できる。本発明の改善剤は、前記本発明の血管拡張剤の説明を援用できる。
【0069】
本発明において、「血流改善」は、前記本発明の改善剤の非存在下(非投与条件)と比較して、血流量が(有意に)増加または上昇されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、血流量が減少または低下していてもよい。この場合、前記「血流改善」は、例えば、「血流低下の抑制」、「血流悪化の抑制」等ということもできる。前記血流の改善は、例えば、対象の血管の血流量により評価できる。前記血流量は、例えば、FMD(flow-mediated dilatation)血流介在血管拡張反応(血流依存性血管拡張反応)または加速度脈波(SDPTG、second derivative of photoplethysmogram)を用いた測定方法等があげられる。
【0070】
本発明の改善剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の改善剤の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の血管拡張剤の投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0071】
<血管障害防御剤>
本発明の血管障害防御剤は、前述のように、前記本発明の血管拡張剤を含む。本発明の防御剤は、前記本発明の血管拡張剤を含むこと、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の防御剤は、前記本発明の血管拡張剤を含むため、活性酸素種を捕捉でき、これにより血管内皮細胞の傷害を抑制できる。このため、本発明の防御剤は、血管障害を防御できる。このため、本発明の防御剤は、例えば、血管もしくは血管内皮細胞の障害抑制剤、予防剤、または防止剤、血管障害の抑制剤、予防剤、防止剤、または改善剤ということもできる。本発明の防御剤は、前記本発明の血管拡張剤の説明を援用できる。
【0072】
本発明において、「血管障害」は、例えば、血管機能に障害が生じることを意味する。具体的には、前記「血管障害」は、例えば、血管の閉塞または梗塞、血管壁の破れまたはこれに伴う出血等があげられ、いずれの意味で用いてもよい。
【0073】
本発明において、「血管障害の防御」は、前記本発明の防御剤の非存在下(非投与条件)と比較して、血管障害の数または頻度が(有意に)低下もしくは抑制されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、血管障害の数または頻度が上昇または増加していてもよい。この場合、前記「血管障害の防御」は、例えば、「血管障害の抑制」、「血流悪化の抑制」等ということもできる。前記血管障害の防御は、例えば、対象の血管の血流量により評価できる。前記血流量は、例えば、FMD(flow-mediated dilatation)血流介在血管拡張反応(血流依存性血管拡張反応)または加速度脈波(SDPTG、second derivative of photoplethysmogram)を用いた測定方法があげられる。
【0074】
本発明の防御剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の防御剤の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の血管拡張剤の投与対象および投与条件の説明を援用できる。本発明の防御剤は、例えば、炎症が生じている対象における血管障害の防御に好適に使用できる。
【0075】
<医薬>
本発明の血管狭窄により生じる疾患用の医薬は、前述のように、前記本発明の血管拡張剤を含む。本発明の医薬は、前記本発明の血管拡張剤、すなわち、前記式(1)で表される化合物を含むことが特徴であり、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の医薬は、前記本発明の血管拡張剤を含むため、生体内で生じる活性酸素種を捕捉でき、これにより血管拡張を誘導できる。このため、本発明の医薬は、血管狭窄により生じる疾患を治療できる。本発明の医薬は、前記本発明の血管拡張剤、改善剤、および防御剤の説明を援用できる。
【0076】
本発明において、「治療」は疾患の発症の抑制もしくは予防、疾患の進行の抑制もしくは停止、疾患症状の進行の抑制もしくは停止および/または疾患の改善のいずれの意味で用いてもよい。このため、本発明の医薬は、例えば、抑制薬、予防薬、進行抑制薬、進行停止薬および/または改善薬ということもできる。また、本発明の医薬は、前記本発明の医薬の非存在下(非投与条件)と比較して、疾患の症状または進行が(有意に)抑制されていればよく、開始時(投与開始時)と比較して、疾患が進行していてもよい。
【0077】
前記「血管狭窄」は、例えば、対象の血管の血管径が、正常な血管の血管径と比較して小さくなっていることを意味する。前記血管狭窄は、例えば、血管の内部が閉塞した状態を含んでもよい。
【0078】
前記血管狭窄により生じる疾患は、前記血管狭窄のみに起因する疾患でもよいし、前記血管狭窄と、他の原因に起因する疾患でもよい。具体例として、前記血管狭窄により生じる疾患は、例えば、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、または歯科疾患である。
【0079】
前記循環器系疾患は、例えば、心筋梗塞、不整脈、動脈硬化、血管攣縮、虚血再灌流障害等があげられる。
【0080】
前記呼吸器系疾患は、例えば、肺炎、感染症、抗癌剤による肺線維症、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、パラコート中毒、喫煙による障害、肺気腫、高酸素療法により生じる肺障害、インフルエンザ等の呼吸器感染症があげられる。
【0081】
前記脳神経系疾患は、例えば、脳浮腫、脳出血、てんかん、脳血管攣縮、認知症、うつ病、自律神経障害(Reilly 現象)、遅発性神経障害、脊髄損傷、神経原性肺浮腫等があげられる。前記消化器系疾患は、例えば、急性胃粘膜障害、胃潰瘍、潰瘍性大腸炎、クローン病、ベーチェット病、肝炎、肝硬変、薬物性肝障害、肝移植病態、各種の黄疸病態、膵炎等があげられる。
【0082】
前記血液系疾患は、例えば、慢性肉芽腫症、白血病、後天性免疫不全症候群AIDS、敗血症等の白血球系の血液系疾患;異常ヘモグロビン症(メトヘモグロビン、サラセミア、鎌状赤血球)、ヘマトクロマトーシス、プリマキン過敏症、発作性夜間血色素尿症、薬物性貧血、アカタラセミア等の赤血球系の血液系疾患;α1-酸性蛋白の障害、高脂血症、播種性血管内凝固症候群(DIC)、血小板異常症等の他の血液成分系の血液系疾患等があげられる。
【0083】
前記内分泌系疾患は、例えば、糖尿病、副腎代謝障害、ストレス反応等があげられる。前記糖尿病は、例えば、糖尿病合併症でもよい。前記糖尿病合併症は、例えば、糖尿病性神経障害(胃腸障害(便秘/下痢)、発汗障害、起立性低血圧、インポテンツ、糖尿病性自律神経障害、糖尿病性筋萎縮症)、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、歯周病、血管合併症虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)、脳梗閉塞性動脈硬化症、皮膚合併症(糖尿病性リポイド類壊死症(類脂肪性仮性壊死症)、糖尿病性浮腫性硬化症、環状肉芽腫、糖尿病性黄色腫、Dupuytren拘縮、糖尿病の足(Diabetic foot)、皮膚感染症(丹毒、蜂巣織炎、膀胱炎、皮膚カンジダ症、カンジダ性食道炎、足白癬、アスペルギルス症、真菌性感染症等))、下肢合併症(神経障害性関節症(シャルコー関節)、糖尿病性壊疽(足趾壊疽)、尿路感染症、創傷治癒遅延等があげられる。
【0084】
前記泌尿器系疾患は、例えば、球体腎炎、溶血性腎障害、薬物性腎障害、抗癌剤による障害等があげられる。前記皮膚疾患は、例えば、火傷、日光皮膚炎、アトピー性皮膚炎、皮膚潰瘍等があげられる。
【0085】
前記支持組織系疾患は、例えば、関節リウマチ、自己免疫疾患、膠原病等があげられる。
【0086】
前記眼科疾患は、例えば、未熟児網膜症、網膜変性、白内障、角膜潰瘍等があげられる。前記腫瘍は、例えば、喫煙による発癌、化学発癌または癌化学療法による障害、放射線障害または放射線療法による障害、口腔癌等があげられる。
【0087】
前記医原性疾患は、例えば、薬物障害、抗癌剤による障害(白血球減少症等)、ブレオマイシン肺線維症、アドリアマイシン心筋症、シスプラチン腎障害、光線療法(光増感剤)等があげられる。
【0088】
前記環境汚染性疾患は、例えば、重金属による障害、水俣病、喘息、排気ガス性肺障害、水汚染による各種中毒等があげられる。
【0089】
前記歯科疾患は、例えば、歯周病、顎関節症、口腔乾燥症、口腔粘膜症(口内炎)等があげられる。
【0090】
本発明の医薬の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。本発明の医薬の投与対象および投与条件は、例えば、前記本発明の血管拡張剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0091】
本発明の医薬は、前記本発明の血管障害防御剤を含む。このため、本発明の医薬は、例えば、血管障害により生じる疾患用の医薬としても用いてもよい。前記血管障害により生じる疾患は、前記血管障害のみに起因する疾患でもよいし、前記血管障害と、他の原因に起因する疾患でもよい。具体例として、前記血管障害により生じる疾患は、例えば、血管狭窄により生じる疾患の例示を援用できる。
【0092】
本発明の医薬は、例えば、血管が狭窄していると診断された患者または血管障害が生じていると診断された患者を投与対象としてもよい。
【0093】
<血管拡張方法>
本発明の血管拡張方法は、前述のように、前記本発明の血管拡張剤を使用する。本発明の血管拡張方法は、前記本発明の血管拡張剤を使用すること、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の血管拡張方法は、前記本発明の血管拡張剤を使用するため、活性酸素種を捕捉でき、これにより血管拡張を誘導できる。本発明の血管拡張方法は、前記本発明の血管拡張剤の説明を援用できる。
【0094】
本発明の血管拡張方法は、例えば、前記本発明の血管拡張剤を投与する投与工程を含み、具体的には、投与対象に、前記血管拡張剤を投与する投与工程を含む。前記血管拡張剤は、in vitroで投与されてもよいし、in vivoで投与してもよい。本発明の血管拡張剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の血管拡張剤または防御剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0095】
<血流改善方法>
本発明の血流改善方法(以下、「改善方法」ともいう)は、前記本発明の血流改善剤を使用する。本発明の改善方法は、前記本発明の改善剤を使用すること、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の改善方法は、前記本発明の改善剤を使用するため、活性酸素種を捕捉でき、これにより血管拡張を誘導できる。このため、本発明の改善方法は、血流を改善できる。本発明の改善方法は、前記本発明の血管拡張剤、防御剤、および改善剤の説明を援用できる。
【0096】
本発明の改善方法は、例えば、前記本発明の改善剤を投与する投与工程を含み、具体的には、投与対象に、前記改善剤を投与する投与工程を含む。前記改善剤は、in vitroで投与されてもよいし、in vivoで投与してもよい。本発明の改善剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の血管拡張剤または防御剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0097】
<血管障害の防御方法>
本発明の血管障害の防御方法(以下、「防御方法」ともいう)は、前記本発明の血管防御剤を使用する。本発明の防御方法は、前記本発明の血管障害防御剤を使用すること、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を使用することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の防御方法は、前記本発明の防御剤を使用するため、活性酸素種を捕捉でき、これにより血管障害を防御できる。本発明の防御方法は、前記本発明の血流拡張剤、改善剤、および防御剤の説明を援用できる。
【0098】
本発明の防御方法は、例えば、前記本発明の防御剤を投与する投与工程を含み、具体的には、投与対象に、前記防御剤を投与する投与工程を含む。前記防御剤は、in vitroで投与されてもよいし、in vivoで投与してもよい。本発明の防御剤の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の血管拡張剤または防御剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。
【0099】
<血管狭窄により生じる疾患の治療方法>
本発明の血管狭窄により生じる疾患の治療方法(以下、「治療方法」ともいう)は、患者に、前記本発明の医薬を投与する投与工程を含む。本発明の治療方法は、前記本発明の医薬、すなわち、前記式(1)で表される化合物またはその塩を投与することが特徴であり、その他の工程および条件は、特に制限されない。本発明の治療方法は、前記本発明の医薬を使用するため、生体内で生じる活性酸素種を捕捉することにより、血管を拡張できる。このため、本発明の治療方法は、血管狭窄により生じる疾患を治療できる。また、本発明の治療方法は、前記本発明の医薬を使用するため、生体内で生じる血管障害を防御できる。このため、本発明の治療方法は、血管障害により生じる疾患を治療できる。本発明の治療方法は、前記本発明の血管拡張剤、改善剤、防御剤、医薬、および血管拡張方法の説明を援用できる。
【0100】
本発明の治療方法は、例えば、前記本発明の医薬を投与する投与工程を含み、具体的には、患者に、前記医薬を投与する投与工程を含む。前記医薬は、in vitroで投与されてもよいし、in vivoで投与してもよい。本発明の医薬の投与対象および投与条件は、例えば、本発明の血管拡張剤または防御剤における投与対象および投与条件の説明を援用できる。前記患者は、前記疾患の罹患者でもよいし、前記疾患に罹患すると予測される患者でもよいし、前記疾患に罹患するか不明の患者でもよい。また、前記患者は、前記血管狭窄または血管障害が生じている患者でもよいし、前記血管狭窄により生じる障害または血管障害が生じると予測される患者でもよいし、前記血管狭窄または血管障害が生じているか不明の患者でもよい。
【0101】
前述のように、本発明の医薬は、血管障害を防御できる。このため、本発明の治療方法は、血管障害により生じる疾患の治療方法として用いてもよい。
【0102】
<化合物またはその塩の使用>
本発明は、血管拡張、血流改善、もしくは血管障害防御に用いるための、前記式(1)で表される化合物もしくはその塩、またはその使用であり、血管狭窄もしくは血管障害により生じる疾患の治療に用いるための、前記式(1)で表される化合物またはその塩の使用である。また、本発明は血管拡張剤、血流改善剤、もしくは血管障害防御剤を製造するための、前記式(1)で表される化合物もしくはその塩の使用であり、血管狭窄もしくは血管障害により生じる疾患用の医薬を製造するための、前記式(1)で表される化合物もしくはその塩の使用である。本発明は、例えば、前記本発明の血管拡張剤、改善剤、防御剤、医薬、血管拡張方法、改善方法、防御方法および治療方法の説明を援用できる。
【実施例0103】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0104】
[実施例1]
本発明の血管拡張剤が含む化合物を合成した。
【0105】
(1)ED2APの合成
反応器に3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン(以下、「エダラボン」ともいう)3.58g、マロンアルデヒドジアニリド塩酸塩2.59g、およびエタノール20mlを添加し溶解させた。得られた溶液に、トリエチルアミン2.04gおよび水0.4mlを添加し、室温(約25℃、以下同様)で1時間撹拌した。前記撹拌後、さらに、50℃で1時間反応させた。得られた反応溶液を1N塩酸100mlに排出後、充分撹拌し析出物を濾過した。得られたケーキを水洗した。前記ケーキを、1重量%濃度の水酸化ナトリウム水溶液200mlに添加し、撹拌しながら加熱し完全に溶解させた。つぎに、前記溶解液を、室温まで冷却後3時間撹拌した。そして、得られた析出物を含む液体を濾過後、ケーキを水洗した。この結果、下記物性値のED2APの濃赤色結晶を2.99g得た。なお、ED2APの融点は、249℃であり、水溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、内部標準:THF(テトラハイドロフラン)-d8、AV-600(ブルカ―社製)):δ2.33(s、6H)、6.92(d、2H)、7.02(m、2H)、7.21(m、4H)、8.01(m、4H)、8.31(t、1H)
【0106】
(2)式(10)の化合物の合成
反応器にジメチルホルムアミド3mlを添加し、氷水で外部を冷却した。前記反応器内にオキシ塩化りん1.75gをゆっくり滴下した(反応液A)。また、別の反応器において、エダラボン1.78gをジメチルホルムアミド5mlに溶解させた(反応液B)。室温下で、反応液Aに対して、反応液Bをゆっくりと添加し、添加終了時を基準として、1時間反応させた(反応液C)。また、別の反応器において、3-メチル-1-フェニル-5-ピラゾロン1.81gをクロロホルム8mlに添加し、溶解させた(反応液D)。室温下、反応液Dに反応液Cをゆっくり添加した後、20分間撹拌し、さらに70℃で1時間撹拌した。得られた撹拌液に、水0.2gを添加し、さらに2時間撹拌した。得られた反応液を水100mlに排出し、トルエン/酢酸エチル=1/1(体積比)の混合溶媒で抽出した。得られた抽出物を濃縮後、カラム精製して、下記物性値の式(10)の化合物の黄色結晶を2.92g得た。なお、前記式(10)の化合物の融点は177℃であり、水に難溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、内部標準:CDCl3、AV-600(ブルカ―社製)):δ2.33(s,6H)、7.20(s,1H)、7.26(m,2H)、7.43(m,4H)、7.90(dd,4H)
【0107】
(3)式(14)の化合物の合成
反応フラスコに、エダラボン1.00g、パラホルムアルデヒド0.72g、およびギ酸20mlを加え、70℃で20時間終夜撹拌した。得られた反応液を水80mlに排出し、トルエン/酢酸エチル=1/1(体積比)の混合溶媒で抽出した。前記抽出物を3分の2程度まで濃縮したところで結晶が析出した。さらに、室温まで冷却して、充分晶析させた後濾過した。得られたケーキをトルエンで洗浄して、下記物性値の式(14)の化合物の淡黄色結晶を0.88g得た。なお、前記式(14)の化合物は、水に難溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、内部標準:DMSO(ジメチルスルホキシド)-d6、AV-600(ブルカ―社製)):δ2.31(s、6H)、3.43(s、2H)、7.32(m、2H)、7.48(m、4H)、7.70(m、4H)
【0108】
(4)BisEp-C3の合成
前記実施例1(1)において、エダラボンを3-メチル-1-エチル-5-ピラゾロンに代えた以外は同様に合成し、下記物性値のBisEp-C3の赤色結晶を得た。なお、BisEp-C3は、水溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、DMSO(ジメチルスルホキシド)-d6、AV-600(ブルカ―社製)):δ1.18(t、6H)、2.19(s、6H)、3.69(q、4H)、7.29(d、2H)、8.00(t、1H)
【0109】
(5)BisEp-C1の合成
前記実施例1(2)において、エダラボンを3-メチル-1-エチル-5-ピラゾロンに代えた以外は同様に合成し、下記物性値のBisEp-C1の黄色結晶を得た。なお、BisEp-C1は、水溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、DMSO(ジメチルスルホキシド)-d6、AV-600(ブルカ―社製)):δ1.24(t、6H)、2.23(t、6H)、3.79(q、4H)、7.33(s、1H)
【0110】
(6)BisEp-C1(H2)の合成
前記実施例1(3)において、エダラボンを3-メチル-1-エチル-5-ピラゾロンに代えた以外は同様に合成後、反応液を濃縮し、さらに、カラム精製し、下記物性値のBisEp-C1(H2)の無色結晶を得た。なお、BisEp-C1(H2)は、水溶性であった。
1H-NMR(核磁気共鳴) (600MHz、DMSO(ジメチルスルホキシド)-d6、AV-600(ブルカ―社製)):δ1.18(t、6H)、2.09(t、6H)、3.04(s、2H)、3.73(q、4H)
【0111】
[実施例2]
本発明の血管拡張剤が、水および水性溶媒中で分解が抑制されていること、すなわち、保存安定性を示すことを確認した。
【0112】
下記式(A)のエダラボン(Edaravone)、EMPO、ED2APおよびBisEp-C3について保存安定性を検討した。具体的には、エダラボン、EMPO、ED2APおよびBisEp-C3 をpH7.4-PBSまたは純水に、終濃度が200μmol/lとなるように溶解し、各化合物の溶解液を調製した。なお、溶解しにくい場合は温水40℃の超音波洗浄器中で溶解した。
【化A】
【0113】
下記HPLCの測定条件で、初期濃度を定量した後、各溶液を遮光された37℃のオーブンで保存し、1週間および2週間後に同様の測定条件で定量し、初期濃度(100%)を基準として残存率(%)を求めた。これらの結果を下記表1に示す。
【0114】
(HPLCの測定条件)
装置:
高速液体クロマトグラフ(島津製作所)
データ処理ソフトウェア(型式:LCsolution Ver.1.0;島津製作所社製)
ポンプ(型式:LC-20AD;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO-20A;島津製作所社製)
オートサンプラ(型式:SIL-20A;島津製作所社製)
PDA検出器(形式:SPD-M20A)
HPLC分析条件:
カラム:Atlantis dC18 5μm(250×4.6mm I.D. ;Waters社製)
カラム温度:45℃
流速:0.5ml/min
検出方法:UV(254nm)
溶出液A:
pH3緩衝液(0.05M KH2PO4水溶液にリン酸を加えてpH3に調整)/メタノール=90/10
溶出液B:メタノール
溶出液C:アセトニトリル
タイムプログラム(グラジエント):
時間(分) 0 10 20 45 70
溶出液A(%) 100 100 80 30 30
溶出液B(%) 0 0 20 20 20
溶出液C(%) 0 0 0 50 50
【0115】
【0116】
前記表1に示すように、ED2APおよびBisEp-C3は、純水およびリン酸緩衝液のいずれで保存した場合においても、エダラボンおよびEMPOと比較して、残存率が高く、保存安定性に優れていることが分かった。特に、ED2APおよびBisEp-C3は、エダラボンおよびEMPOと比較して、リン酸緩衝液における保存安定性が極めて高く、水性溶媒で保存する医薬品としても適しているといえる。
【0117】
本発明の血管拡張剤が、水および水性溶媒中で分解が抑制されていること、すなわち、保存安定性を示すことがわかった。
【0118】
[実施例3]
本発明の血管拡張剤が、水性溶媒における保存前後において、一重項酸素等の非ラジカル種の消去能を有することを確認した。
【0119】
ESR法を用いて、エダラボン、EMPO、ED2APおよびBisEp-C3のPBS溶液中における一重項酸素消去能の変化を追跡した。具体的には、以下の反応系を利用した。まず、Pterin-6-carboxylic acid(30μmol/l)および4-oxo-TEMP(4mmol/l)を含むPBS溶液に、340nmのバンドパスフィルター使用下、200W水銀キセノンランプ(hν、RUVF-203S)により5秒間照射する。すると、前記反応系では、下記反応により一重項酸素(1O2)が生じる。
Pterin-6-carboxylic acid + hν → Pterin-6-carboxylic acid *
Pterin-6-carboxylic acid * + 3O2 → Pterin-6-carboxylic acid + 1O2
【0120】
つぎに、生じた一重項酸素は、下記式(B)に示すように、反応系に添加した4-oxo-TEMPと反応し、ESRで検出可能な安定ラジカルであるニトロキシドを生じる。このラジカルは、
図1(A)に示すようにESRスペクトルにN(窒素原子)由来の3重線を生じる。
【化B】
【0121】
前記反応系に、エダラボン、EMPO、ED2APまたはBisEp-C3を添加した場合、ESRで得られる信号強度が変化する。このため、下記式(C)に基づき、各化合物の一重項酸素消去能を検討できる。
【化C】
【0122】
そこで、前記実施例2と同様にして、調製したエダラボン、EMPO、ED2APまたはBisEp-C3のPBS溶液について、保存し、経時的な一重項酸素の消去能を検討した。ESRの測定条件1は、下記の通りとした。また、一重項酸素の消去能は、0日目における消去能を基準とした相対値として算出した。
【0123】
(ESRの測定条件1)
装置:
電子スピン共鳴装置(JES-TE-300、日本電子社製)
測定条件:
マイクロ波出力:8mW
掃引時間:1分
掃引幅:335.5±5mT
磁場変調:100kHz 0.079mT
ゲイン:×630
時定数:0.03秒
【0124】
この結果を
図1に示す。
図1は、ESRの結果を示すグラフである。
図1において、(A)は、ESRスペクトルにN(窒素原子)由来の3重線を示すグラフであり、(B)は、各化合物のESRの結果を示すグラフである。
図1(B)において横軸は、保存日数を示し、縦軸は、保存開始時(0日目)を1とした一重項酸素の消去能の相対値を示す。
図1(B)に示すように、いずれの化合物についても、保存後における一重項酸素の消去能は、保存開始時と大きな差がなかった。これらの結果から、本発明の血管拡張剤が、水性溶媒における保存前後において、一重項酸素等の非ラジカル種の消去能を有することが分かった。また、エダラボンおよびEMPOは、分解後の産物が一重項酸素の消去能を有していることが示唆された。
【0125】
[実施例4]
本発明の血管拡張剤が、スーパーオキサイドアニオン等のラジカル種の消去能を有することを確認した。
【0126】
本発明の血管拡張剤の活性酸素消去作用を検討するために、健常人末梢血から分離した好中球をPMA(phorbor-12-myristate-13-acetate)で刺激した際に、好中球が産生するスーパーオキサイドを利用して検討した。スーパーオキサイド産生量の測定は、CLA(2-methyl-6-pjenyl-3,7-dihydroimidazo[1,2-α]pyrazine-3-one)を用いた化学発光法で実施した。
【0127】
まず、1サンプルあたり4×10
5細胞の好中球に5μmolのCLAと所定濃度(0、12.5、25、50、100もしくは200μmol/l、または0、125、250、500、1250、2500、もしくは5000μmol/l)となるように、ED2AP、BisEp-C3、エダラボン、BisEp-C1またはBisEp-C1(H
2)を添加後、細胞懸濁液を平底96ウェルプレートに播種した。懸濁液の液量は、200μl/ウェルとし、溶液は、phenol red free Ca+, Mg+ HBSS液を用いた。さらに、100ng/mlとなるようにPMAを添加することで好中球を刺激した。前記刺激後、プレートリーダー(Envision 2104 Multilabel Reader、Perkin Elmer社製)を用いて、PMA刺激時を基準として30分間経時的に化学発光値を測定した。測定間隔は、30秒とした。そして、30秒毎に得られた化学発光値を30分間総和したものをスーパーオキサイド産生量とした。また、コントロールは、各化合物を未添加とした以外は、同様にしてスーパーオキサイド産生量を測定した。そして、コントロールにおけるスーパーオキサイド産生量を100とし、各化合物を添加した際のスーパーオキサイド産生量の相対値を算出した。この結果を
図2に示す。
【0128】
図2は、スーパーオキサイド産生量の相対値を示すグラフであり、(A)は、ED2AP、BisEp-C3およびエダラボンの結果を示すグラフであり、(B)は、BisEp-C1の結果を示すグラフであり、(C)は、BisEp-C1(H
2)の結果を示すグラフである。
図2において、横軸は、化合物の種類または化合物の濃度を示し、縦軸は、スーパーオキサイド産生量の相対値を示す。
図2(A)~(C)に示すように、いずれの化合物も濃度依存的にスーパーオキサイド産生量を抑制した、すなわち、活性酸素種の消去能を示した。前記化合物の中でも、ED2APおよびBisEp-C3は、顕著にスーパーオキサイド産生量を抑制し、高濃度において、活性酸素種の消去能は、エダラボンよりも強力であった。これらの結果から、本発明の血管拡張剤が、スーパーオキサイドアニオン等のラジカル種の消去能を有することがわかった。
【0129】
[実施例5]
本発明の血管拡張剤が、活性酸素種による細胞傷害を緩和すること、すなわち、細胞保護機能を有することを確認した。
【0130】
エダラボン、ED2APおよびBisEp-C3について、神経細胞傷害に対する緩和機能を有するか否かを検討した。具体的には、増感剤であるRose Bengal(RB)と、緑色光(G-LED)の照射とを組合わせることで、一重項酸素を発生させ、発生した一重項酸素による細胞傷害に対する緩和機能を細胞活性を指標として検討した。
【0131】
まず、ラットの神経様細胞B50を12ウェルディッシュに2×10
5細胞/ウェルで播種後(培地:5%FCS含有RPMI-1640培地)、終夜培養した。前記培養後、各ウェルの培地を、200nmol/lのRBと、所定濃度(0、12.5、25、50、または100μmol/l)のエダラボン、ED2AP、またはBisEp-C3を含むHBSS液(1000μl/ウェル;phenol red free Ca+, Mg+)に交換した。つぎに、G-LEDを、前記ディッシュに対して5分間照射して一重項酸素を発生させた。その後、各ウェルの培地を1000μlのHBSS液に交換し、Alamar Blueを添加した。そして、前記ディッシュを、37℃、5%CO
2の条件下、インキュベーター内で2時間程度反応させた。前記反応後、プレートリーダー(infinite200、TECAN社)で蛍光強度(励起波長λ-560 nm, 蛍光波長λ-595 nm)を測定した。この実験系では、細胞活性が高いほどAlamar Blueを多く取り込んで蛍光強度が高くなる。コントロールは、前記化合物に変えて、4mmol/lとなるようにアジ化ナトリウム(Azide、NaN
3)を添加した以外は同様にして蛍光強度を測定した。ネガティブコントロール(NC)は、RBを添加しなかった以外は同様にして蛍光強度を測定した。そして、ネガティブコントロールの蛍光強度を100として、各化合物を添加したサンプルにおける蛍光強度の相対値を算出した。この結果を
図3に示す。
【0132】
図3は、蛍光強度の相対値を示すグラフである。
図3において、横軸は、化合物の種類または化合物の濃度を示し、縦軸は、蛍光強度の相対値を示す。
図3に示すように、RBを添加せず、G-LED照射のみを行ったサンプルの蛍光強度を100としたとき、RBを添加し、G-LED照射をしたサンプルでは、発生した一重項酸素による細胞死が惹起され、その蛍光強度は33.17にまで低下した(コントロール)。他方、一重項酸素消去作用を有するアジ化ナトリウム(Azide)を添加した場合、蛍光強度は80.81に回復した。また、ED2APおよびBisEp-C3を添加した場合、濃度依存的に蛍光強度の回復が認められた。他方、Edaravoneでは、蛍光強度の回復が認められなかった。これらの結果から、本発明の血管拡張剤が、活性酸素種による細胞傷害を緩和すること、すなわち、細胞保護機能を有することが分かった。また、ED2APならびにBisEp-C3の細胞保護機能は、エダラボンよりも高いものであることがわかった。
【0133】
[実施例6]
本発明の血管拡張剤が、水性溶媒における保存前後において、スーパーオキサイド等のラジカル種の消去能を有することを確認した。
【0134】
前記実施例2と同様にして、ED2AP、BisEp-C3、またはエダラボンのPBS溶液を調製し、10日間保存した。そして、ED2AP、BisEp-C3、エダラボン、BisEp-C1またはBisEp-C1(H
2)に代えて、保存後のPBS溶液を、ED2AP、BisEp-C3、またはエダラボンが所定濃度(0、6.25、12.5、25、50、100または20μmol/l)となるように添加した以外は、前記実施例4と同様にして、スーパーオキサイド産生量を算出した。また、前記実施例2と同様にして、ED2AP、BisEp-C3、またはエダラボンのPBS溶液を調製し、調製直後のPBS溶液を用いた以外は同様にして、スーパーオキサイド産生量を算出した。そして、各サンプルについて、0μmol/lのサンプルのスーパーオキサイド産生量を100として、スーパーオキサイド産生量の相対値を算出した。これらの結果を
図4に示す。
【0135】
図4は、スーパーオキサイド産生量の相対値を示すグラフであり、(A)は、エダラボンの結果を示し、(B)は、ED2APの結果を示し、(C)は、BisEp-C3の結果を示す。
図4(A)に示すように、エダラボンでは、10日間の保存後には、スーパーオキサイドの消去能は著しく低下していた。他方、ED2APおよびBisEp-C3では、保存後においても、調製直後と同等のスーパーオキサイドの消去能を維持していた。本発明の血管拡張剤が、水性溶媒における保存前後において、スーパーオキサイド等のラジカル種の消去能を有することが分かった。
【0136】
[実施例7]
本発明の血管拡張剤が細胞毒性が低いこと、および本発明の血管拡張剤と一重項酸素との反応後の副産物の細胞毒性が低いことを確認した。
【0137】
(1)毒性評価
ラットの神経様細胞B50を12ウェルプレートに播種後、培養した。各ウェルにエダラボン(RC)、ED2APまたはBisEp-C3を所定濃度(12.5、25、50、100または200μmol/l)となるように添加後、37℃、5%CO
2の条件下で24時間培養した。前記培養後の各ウェルについて、アラマーブルー(Alamar Blue)を用いて細胞の生存率を測定した。この結果を
図5に示す。
【0138】
図5は、細胞の生存率を示すグラフである。
図5において、横軸は、化合物の種類または化合物の濃度を示し、縦軸は、細胞の生存率を示す。
図5に示すように、いずれの濃度においても、エダラボン、ED2APおよびBisEp-C3は、細胞毒性を示さなかった。
【0139】
(2)副産物の毒性評価
無細胞系において、所定濃度(50、100または200μmol/l)のエダラボン、ED2APおよびBisEp-C3を含む培地(5%FCS含有RPMI-1640培地)に前記RBを添加後、525nmのLED照射(G-LED)により一重項酸素を発生させ、各化合物と一重項酸素とを反応させた。神経様細胞B50の培地として、前記反応後の培養液を用いた以外は、前記実施例7(1)と同様にして、細胞生存率を測定した。ネガティブコントロール(NC)は、前記無細胞系において、各化合物およびRBを添加しなかった以外は同様にして、細胞の生存率を測定した。また、コントロール(RB)は、前記無細胞系において、各化合物を添加せず、前記RBのみを添加した以外は同様にして、細胞の生存率を測定した。これらの結果を
図6に示す。
【0140】
図6は、細胞の生存率を示すグラフである。
図6において、横軸は、化合物の種類または化合物の濃度を示し、縦軸は、細胞の生存率を示す。
図6に示すように、いずれの濃度においても、エダラボン、ED2APおよびBisEp-C3の副生成物は、細胞毒性を示さなかった。
【0141】
以上のことから、本発明の血管拡張剤が細胞毒性が低いこと、および本発明の血管拡張剤と一重項酸素との反応後の副産物の細胞毒性が低いことがわかった。
【0142】
[実施例8]
本発明の血管拡張剤が含む化合物が共役系を形成していること、および互変異性体を有することを確認した。
【0143】
(1)ED2AP
ED2APを、CDCl
3またはDMSOに溶解し、NMR測定装置(AV-600、ブルカ―社製)を用いて、
1H-NMRスペクトルを取得した。溶媒としてCDCl
3を使用した場合、周波数は600MHz、化合物の濃度は、20mg/ml、温度は、333K、内部標準は、テトラメチルシランとした。また、DMSOを使用した場合、温度を、298Kとした以外は、溶媒としてCDCl
3を使用した場合の測定条件と同様とした。この結果を
図7に示す。
【0144】
図7は、NMRスペクトルを示すグラフである。
図7において、(A)は、CDCl
3を使用した場合の結果を示し、(B)は、DMSOを使用した場合の結果を示す。
図7において、横軸は、化学シフト値を示し、縦軸は、相対強度を示す。
図7に示すように、ベンゼン環の3本のシグナル(8.02、7.33、7.03)の3本と、架橋部分の共役二重結合に結合している3個のプロトンのシグナルとが、ケトーエノール転位による化学交換によってブロードになって観測されており、リンカー領域(L)が、共役系を形成していることが分かった。また、3個のプロトンのうち、中心の1個のプロトンは最も低磁場で8.30 ppmと7.74 ppmに2つに分かれて観測され、両端のエダラボンに近い2個は7.32 ppmと7.26 ppmに観測されており、その影響がメチル基にも現れ、2本(2.35と2.15 ppm)のシグナルとなっている。これらのことから、Lの2つの二重結合によって、cis-cis、cis-trans、trans-cisまたはtrans-transの異性体を形成することが分かった。以上のことから、R
3のヒドロキシ基において、ケト-エノール異性が生じ、二重結合の位置は隣接する原子間に移動することから、ED2APは、下記式Dの互変異性体およびこれらの幾何異性体(シス-トランス異性体)を形成することが分かった。
【化D】
【0145】
(2)BisEp-C3
BisEp-C3(Bis-MP-C3)を、CDCl
3に溶解し、前記NMR測定装置を用いて、
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルを取得した。
1H-NMRスペクトルの取得において、周波数は、600MHz、化合物の濃度は、20mg/ml、温度は、298Kまたは313K、内部標準は、テトラメチルシランとした。
13C-NMRスペクトルの取得において、温度を、298Kとし、周波数を150MHzとした以外は、
1H-NMRスペクトルの測定条件と同様とした。また、
1H-NMRスペクトルおよび
13C-NMRスペクトルに基づき、化学シフト値とJカップリング値を算出した。これらの結果を、
図8および9および表2に示す。
【0146】
【0147】
図8は、
1H-NMRスペクトルを示すグラフであり、
図9は、
13C-NMRスペクトルを示すグラフである。
図8において、(A)は、298Kの結果を示し、(B)は、313Kの結果を示す。
図8および9において、横軸は、化学シフト値を示し、縦軸は、相対強度を示す。
図8(A)および(B)に示すように、ベンゼン環の3本のシグナル(7.73、7.40、7.38)の3本と、架橋部分の共役二重結合に結合している3個のプロトンのシグナルとが、ケトーエノール転位による化学交換によってブロードになって観測されており、リンカー領域(L)が、共役系を形成していることが分かった。また、3個のプロトンのうち、中心の1個のプロトンは最も低磁場で7.74 ppmにで観測され、両端のエダラボンに近い2個は7.40 ppmに観測されており、その影響がメチル基(2.31ppm)にも現れ、シグナルとなっている。これらのことから、Lの2つの二重結合によって、cis-cis、cis-trans、trans-cisまたはtrans-transの異性体を形成することが分かった。以上のことから、R
3のヒドロキシ基において、ケト-エノール異性が生じ、二重結合の位置は隣接する原子間に移動することから、BisEp-C3は、下記式Eの互変異性体およびこれらの幾何異性体(シス-トランス異性体)を形成することが分かった。
【化E】
【0148】
以上のことから、本発明の血管拡張剤が含む化合物が共役系を形成していること、および互変異性体を有することが分かった。また、Lが、炭素原子数が偶数のアルケニル基の場合、同様の共役系が成立することが示唆された。
【0149】
[実施例9]
本発明の血管拡張剤が、in vivoにおいて、血管を拡張できることを確認した。
【0150】
活性酸素種による酸化ストレスにより、血管内皮細胞でのNO産生が低下し、この結果、血管の収縮および血流量の低下が生じることが知られている。そこで、血管拡張を指標として、本発明の血管拡張剤がin vivoにおいて、活性酸素種を捕捉するかを検討した。
【0151】
8週齢以降の雌のラット(Wistar、体重:約200g、n=1)に対して、7g/kg体重となるようにウレタンを皮下投与することで麻酔した。つぎに、前記ラットの耳介を除毛し、固定台に固定した。前記固定後、前記固定台を顕微鏡(Nikon OPTIphoto、Nikon社製)下に配置した。さらに、前記ラットの鼠蹊部静脈にカテーテルを留置した。
【0152】
BisEP-C3を3mg/mlとなるように生理食塩水に溶解した。得られたBisEP-C3を含む生理食塩水について、3mg/kg体重となるように、前記カテーテルを介して静脈内投与した。そして、前記投与前および投与後の所定時間(30、60、120または180分)において、ラット耳介皮下血管の血流動態経過を顕微鏡で撮影および記録した。
【0153】
得られた画像について、投与前の血管径に基づき、血管の太さを3段階(太:35~45μm、中:15~20μm、細:7~9μm)に分類した。つぎに、得られた画像内の静脈において、血管の分枝がなく、血管に焦点が合った箇所を血管の分類ごとに複数選定した。さらに、各選定箇所について、血管径を測定後、投与前の血管径を基準(1)として、相対的な血管径を算出した。そして、血管径の分類ごとに相対的な血管径の平均値を求めた。コントロールは、生理食塩水を投与した以外は、同様にして血管径を算出した。これらの結果を
図10に示す。
【0154】
図10は、本発明の血管拡張剤の投与後の血管径の変化を示すグラフであり、(A)は、細い血管の結果を示し、(B)は、中程度血管の結果を示し、(C)は、太い血管の結果を示す。
図10(A)~(C)において、横軸は、投与後の経過時間を示し、縦軸は、血管径の相対値を示す。
図10(A)~(C)に示すように、BisEp-C3を投与した場合、コントロールと比較して、投与後のいずれの時間においても血管径が拡張していた。また、BisEp-C3を投与した場合、血管の大きさによらず、血管径が拡張していたが、血管径の拡張の程度は、より細い血管において顕著にみられた。これらの結果から、本発明の血管拡張剤によれば、
in vivoにおいて、血管拡張を誘導できることがわかった。また、前述のように、活性酸素種による酸化ストレスにより、血管内皮細胞でのNO産生が低下し、この結果、血管の収縮および血流量の低下が生じる。本発明の血管拡張剤によれば、活性酸素種を消去できること、および
in vivoにおいて、血管拡張を誘導できることから、本発明の血管拡張剤は、活性酸素種を消去し、酸化ストレスを低減することにより、血管内皮細胞でのNO産生を増強させ、この結果、血管拡張を生じさせていることがわかった。
【0155】
[実施例10]
本発明の防御剤が、in vivoにおいて、血管障害を抑制することを確認した。
【0156】
8週齢以降の雌のラット(Wistar、体重:約200g、n=1)に対して、ウレタン(1.7五g/kg体重)を皮下投与することで麻酔した。つぎに、前記ラットを開腹し、固定台に、前記ラットの腸間膜が観察可能なように固定した。前記固定後、前記固定台を顕微鏡(Nikon OPTIphoto、Nikon社製)下に配置し、前記腸間膜を観察できるように設定した。さらに、前記ラットの鼠蹊部静脈にカテーテルを留置した。
【0157】
1μg/mlの緑膿菌(
Pseudomonas
aeruginosa ATCC27316)由来リポ多糖(Lipopolysaccharide(LPS)、Sigma-Aldrich社製)を1回滴下し(20μl、20ng/sight)、30分静置した。つぎに、前記実施例9と同様に調製したBisEP-C3を含む生理食塩水について、1mg/kg体重となるように、前記カテーテルを介して急速に静脈内投与した。前記静脈内投与後、1mg/kg体重/時間(0.15ml/時間)となるように、持続投与した。また、前記LPSおよびBisEP-C3を含む生理食塩水の投与と並行して、腸間膜の血管を含む1視野を、経時的に撮像した。得られた写真において、出血が生じた領域の面積(出血面積)を画素数に基づき検出後、1視野あたりに占める面積の割合(出血面積割合)を算出した。コントロールは、前記BisEP-C3を含む生理食塩水に代えて、生理食塩水を投与した以外は同様にして実施した。これらの結果を
図11~13に示す。
【0158】
図11は、コントロールの腸間膜の結果を示す写真であり、(A)~(G)は、それぞれ、LPS滴下時(0分)と、LPS滴下後30、60、90、120、150、または180分における写真である。また、
図11において、矢印で示す黒色の領域が、出血が生じた領域である。
【0159】
図12は、BisEP-C3を投与したラットの腸間膜の結果を示す写真であり、(A)~(G)は、それぞれ、LPS滴下時(0分)と、LPS滴下後30、60、90、120、150、または180分における写真である。
【0160】
図13は、出血面積と出血面積割合とを示すグラフである。
図13において、(A)は、出血面積の結果を示し、(B)は、出血面積割合の結果を示す。
図13(A)において、横軸は、LPS投与後の経過時間を示し、縦軸は、出血面積を示す。また、
図13(B)において、LPS投与後の経過時間を示し、縦軸は、出血面積割合を示す。
図11および
図13に示すように、コントロールでは、LPS投与後90分後から腸間膜の血管において周囲への出血が認められ、出血している領域が経時的に増加した。これに対して、
図12および
図13に示すように、BisEP-C3を投与群では、LPS投与後において、出血は認められなかった。LPSの投与により生体では、活性酸素種が発生し、血管が障害される。このため、本発明の防御剤は、生体内で、前記活性酸素種を捕捉することにより、血管障害を防止していると推定された。
【0161】
また、BisEP-C3を投与したラットおよびコントロールについて、LPS滴下後、血中の白血球のローリング現象を経時的に検討した。コントロールでは、LPS滴下後、血管内において、白血球のローリング現象は観察されなかった。これは、LPSの滴下によって、誘導性NO合成酵素によるNOの産生が高まり、かつ、好中球からのROSの産生も高まるため、NOは、ROSの中のスーパーオキシドと反応して酸化力の高いペルオキシナイトライトとなり、細胞障害性を発揮し、血管障害を起こすためと考えられる。他方、BisEP-C3を投与したラットでは、コントロールと比較して、多数の白血球のローリング現象が観察された。これは、LPSの滴下によって、誘導性NO合成酵素によるNOの産生が高まり、かつ、好中球からのROSの産生も高まるが、BisEP-C3によりROSが捕捉され、ペルオキシナイトライトの産生が低下するので、細胞障害が抑制されるためと考えられる。
【0162】
以上のことから、本発明の防御剤が、in vivoにおいて、血管障害を抑制することが分かった。
【0163】
[実施例11]
本発明の拡張剤が、NOの消去能を有することを確認した。
【0164】
本発明の拡張剤が、NO消去能を有するかを検討した。具体的には、一酸化窒素(NO)の発生反応は、NOドナーのNOC-7を用い、BisEP-C3存在下で、NO濃度が低下するかを検討した。まず、0.1mmol/lのリン酸緩衝溶液(pH7.4)140μlに、所定濃度(0、25、50、100、200、400、または600μmol/l)となるように、BisEp-C3溶液を20μl添加し、さらに、スピントラップ剤(100μmol/l Carboxy-PTIO(2-(4-Carboxyphenyl)-4,4,5,5-tetramethylimidazoline-1-oxyl-3-oxide, sodium salt、最終濃度10μmol/l)溶液を20μl、NOドナー溶液(10mmol/l NOC-7 (1-Hydroxy-2-oxo-3-(N-methyl-3-aminopropyl)-3-methyl-1-triazene,最終濃度1.0μmol/l)を20μl添加し、混合した。前記NOドナー溶液は、0.1mmol/lの水酸化ナトリウム溶液を用いて調製した。そして、前記混合後、室温で3分間インキュベートし、得られた反応液を、下記ESRの測定条件2により測定した。そして、BisEP-C3を未添加(0μmol/l)のサンプルのシグナル強度を100%として、シグナル強度の低下の割合をNOの消去能として算出した。これらの結果を
図14に示す。
【0165】
(ESRの測定条件2)
装置:
電子スピン共鳴装置(JES-TE-300、日本電子社製)
測定条件:
マイクロ波出力:8mW
掃引時間:1分
掃引幅:335.5±5mT
磁場変調:100kHz 0.079mT
ゲイン:×32
時定数:0.03秒
【0166】
図14は、NO消去能を示すグラフである。
図14において、横軸は、BisEP-C3の最終濃度を示し、縦軸は、NOの消去能を示す。
図14に示すように、BisEP-C3は、濃度依存的に、NOを消去した。これらの結果から、本発明の拡張剤は、NOの消去能を有することがわかった。なお、等濃度のBisEP-C3におけるNOの消去能と、実施例3におけるスーパーオキシドの産生量の相対値とを比較すると、スーパーオキシドの産生量の低下割合は、NOの消去能より大きい。このため、本発明の拡張剤は、NOと比較して、スーパーオキシドに対する消去能がより高いと推定された。
【0167】
前述のように、NOは、ROSと反応して酸化力の高いペルオキシナイトライト(ONOO-)となり、血管障害を引き起こすと考えられている。本発明の拡張剤は、ペルオキシナイトライトの生成に関与するROSの消去能に加えて、NOの消去能を有することにより、ペルオキシナイトライトの生成を抑制し、血管障害を抑制していると推定された。また、本発明の拡張剤は、血管拡張作用を有するNOに対する消去能も有する。ただし、NOの消去能は、ROSの消去能と比較すると相対的に低い。このため、本発明の拡張剤を生体内に投与した際に血管拡張が生じるのは、本発明の拡張剤が、ROSと優先的に反応し、消去しているためと推定された。
【0168】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0169】
この出願は、2019年12月18日に出願された日本出願特願2019-228695を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【0170】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
下記式(1)で表される化合物またはその塩を含む、血管拡張剤:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
(付記2)
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、下記式(2)または(3)で表される、付記1記載の血管拡張剤:
【化2】
【化3】
前記式(2)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
2は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
前記式(3)において、
R
4は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
5は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アミノ基、シアノ基、ヒドロキシ基、スルホ基、カルボキシル基、アルコキシ基、ヒドロキシアルキル基、アシル基、アルケニル基、アルキニル基、または置換基を有してもよいアリール基である。
(付記3)
Lは、炭素原子数1~6の不飽和の炭化水素基である、付記1または2記載の血管拡張剤。
(付記4)
前記式(1)で表される化合物は、下記式(4)で表される化合物を含む、付記1から3のいずれかに記載の血管拡張剤:
【化4】
前記式(4)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R
4は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
5は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
6は、水素原子、酸素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
(付記5)
前記式(1)で表される化合物は、下記式(5)で表される化合物を含む、付記1から4のいずれかに記載の血管拡張剤。
【化5】
(付記6)
前記式(1)で表される化合物は、下記式(6)で表される化合物を含む、付記1から4のいずれかに記載の血管拡張剤。
【化6】
(付記7)
前記式(1)で表される化合物は、下記式(12)で表される化合物を含む、付記1から3のいずれかに記載の血管拡張剤:
【化12】
前記式(12)において、
R
1は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3は、水素原子、ハロゲン原子、またはヒドロキシ基であり、
R
1′は、水素原子、ハロゲン原子、またはアルキル基であり、
R
2′は、アルキル基、または置換基を有してもよいアリール基であり、
R
3′は、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、またはヒドロキシ基であり、
Lは、炭素原子数1~6の飽和または不飽和の炭化水素基である。
(付記8)
前記式(1)で表される化合物は、下記式(13)で表される化合物を含む、付記1、2および7のいずれかに記載の血管拡張剤。
【化13】
(付記9)
付記1から8のいずれかに記載の血管拡張剤を含む、血流改善剤。
(付記10)
付記1から8のいずれかに記載の血管拡張剤を含む、血管障害防御剤。
(付記11)
付記1から8のいずれかに記載の血管拡張剤を含む、血管狭窄により生じる疾患用の医薬。
(付記12)
前記血管狭窄により生じる疾患は、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、または歯科疾患である、付記11記載の医薬。
(付記13)
付記1から8のいずれかに記載の血管拡張剤を使用する、血管拡張方法。
(付記14)
前記血管拡張剤と接触させる接触工程を含む、付記13記載の血管拡張方法。
(付記15)
前記血管拡張剤を、
in vitroまたは
in vivoで接触させる、付記14記載の血管拡張方法。
(付記16)
患者に、付記11または12記載の医薬を投与する投与工程を含む、血管狭窄により生じる疾患の治療方法。
(付記17)
前記血管狭窄により生じる疾患は、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、または歯科疾患である、付記16記載の治療方法。
(付記18)
血管拡張に用いるための、下記式(1)で表される化合物またはその塩の使用:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
(付記19)
血流改善に用いるための、下記式(1)で表される化合物またはその塩の使用:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
(付記20)
血管狭窄により生じる疾患の治療に用いるための、下記式(1)で表される化合物またはその塩の使用:
【化1】
前記式(1)において、
A環およびB環は、同じでも異なってもよく、置換基を有するピラゾール環または置換基を有するピラゾリン環であり、
Lは、飽和または不飽和の炭化水素基である。
以上のように、本発明によれば、前記式(1)で表される化合物またはその塩を含むことにより血管を拡張できる。このため、本発明の血管拡張剤は、例えば、血管の狭窄により生じる細胞傷害からの防御剤として使用でき、例えば、血管狭窄により生じる疾患用の医薬として使用できる。このため、本発明は、例えば、医薬等の分野において、極めて有用といえる。
前記血管狭窄により生じる疾患は、脳出血、糖尿病、糖尿病腎症、循環器系疾患、呼吸器系疾患、脳神経系疾患、消化器系疾患、血液系疾患、内分泌系疾患、泌尿器系疾患、皮膚疾患、支持組織系疾患、眼科疾患、腫瘍、医原性疾患、環境汚染性疾患、または歯科疾患である、請求項6または7記載の医薬。