(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099867
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】管路の構造、及び、管路の更新工法
(51)【国際特許分類】
E03C 1/122 20060101AFI20240719BHJP
F16L 1/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
E03C1/122 Z
F16L1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003457
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】510242314
【氏名又は名称】株式会社長谷工リフォーム
(71)【出願人】
【識別番号】000150615
【氏名又は名称】株式会社長谷工コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】河村 一弘
【テーマコード(参考)】
2D061
【Fターム(参考)】
2D061AA04
2D061AB07
2D061AC06
2D061AC08
2D061AD01
(57)【要約】
【課題】従来の二管路通気方式の管路に比べて資材コストや施工工数を減らし、中高層の建物に適用可能とする。
【解決手段】排水竪管2と、主排水管8に接続される横行排水管3の組み合わせにより、一系統の排水路が構成されており、排水竪管2と横行排水管3との間に曲げ部4を有し、排水竪管2の途中で排水が合流する部分には、排水を通しつつ内部に通気空間を形成できる特殊排水継手5が設けられており、各系統の排水路にて少なくとも、建物中間階の排水が通されるうちで下側に位置する特殊排水継手5の下方に第1通気管が接続され、建物最下階の排水が通される特殊排水継手5の下方に第2通気管6bが接続され、曲げ部4の下方に第3通気管6cが接続されており、横行排水管3は、主排水管8への接続箇所の手前にエルボELを有しており、エルボELの上流側と下流側に接続されるバイパス通気管6gが配置されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内において上下方向に延びる排水竪管と、前記排水竪管の下端に接続される横行排水管と、を備え、
前記排水竪管と前記横行排水管の組み合わせにより、上下方向での一系統の排水路が構成されており、
一系統または複数系統の前記排水路において、各系統に属する前記横行排水管の下流端は主排水管に接続されており、
前記排水竪管と前記横行排水管との間で管路の延びる方向が転換される曲げ部を有し、
前記排水竪管の途中で排水が合流する部分には、排水を通しつつ内部に通気空間を形成できる特殊排水継手が設けられており、
前記各系統の排水路にて少なくとも、
前記建物における中間階の排水が通されるうちで下側に位置する前記特殊排水継手の下方に第1通気管が接続され、
前記建物における最下階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に第2通気管が接続され、
前記曲げ部の下方に第3通気管が接続されており、
前記横行排水管は、前記主排水管への接続箇所の手前にエルボを有しており、
前記エルボの上流側から下流側まで前記横行排水管に対して並行するバイパス通気管が配置され、前記バイパス通気管の上流端は前記横行排水管に接続され、下流端は前記主排水管または前記横行排水管に接続されている、管路の構造。
【請求項2】
前記第1通気管と前記第2通気管とは接続されておらず互いに独立している、請求項1に記載の管路の構造。
【請求項3】
前記第2通気管は前記曲げ部の上方に設けられ、前記第2通気管と前記第3通気管とは接続されていて互いに連通している、請求項1または2に記載の管路の構造。
【請求項4】
前記建物における最下階より一つ上の階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に第4通気管が接続され、前記第4通気管は、前記第2通気管及び前記第3通気管に接続されていて互いに連通している、請求項3に記載の管路の構造。
【請求項5】
既存の二管路通気方式の管路を更新するための方法であって、
前記二管路通気方式の管路は、汚水竪管、雑排水竪管、通気竪管が並行して上下方向に延び、前記汚水竪管の下端に、管路の延びる方向が転換される曲げ部を介して横行排水管が接続され、前記横行排水管は主排水管に接続され、前記横行排水管は、前記主排水管への接続箇所の手前にエルボを有するように構成されており、
前記通気竪管の下部は、前記汚水竪管と前記雑排水竪管とに接続されており、当該接続は、前記汚水竪管に対しては前記曲げ部の上方でなされており、
前記汚水竪管のうち更新が必要な部分を新管に取り換え、その際、前記汚水竪管へ排水の合流する部分に、排水を通しつつ内部に通気空間を形成できる特殊排水継手を新設し、
前記特殊排水継手に既存の汚水系統と雑排水系統とを接続変更し、
前記横行排水管のうち更新が必要な部分を新管に取り換え、
前記通気竪管に対し、既存部分のうち更新が必要な部分を新管に取り換えるとともに、前記曲げ部の下方に位置する前記横行排水管に対して連通していなかった場合には新たに連通させ、
前記エルボの上流側から下流側まで前記横行排水管に対して並行し、上流端が前記横行排水管に接続され、下流端が前記主排水管または前記横行排水管に接続されるバイパス通気管を新設し、
前記雑排水竪管、及び、前記通気竪管のうち前記雑排水竪管に接続されていた部分を廃止し、
前記通気竪管のうち、建物における中間階の排水が通されるうち下側に位置する前記特殊排水継手の下方に接続される第1通気管、前記建物における最下階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に接続される第2通気管、前記曲げ部の下方に接続される第3通気管の各々に接続する部分以外を廃止する、管路の更新工法。
【請求項6】
前記横行排水管につき、更新前後で同径の管材を用いる、請求項5に記載の、管路の更新工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、マンション等の建物内部に設置されている老朽化した排水に関する管路の更新に関連した、管路の構造、及び、管路の更新工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば新築から数十年が経過した建物において、老朽化した排水に関する管路の更新が必要になる。ここで、近年新設される管路の構成では、多層階の建物(マンション等)の場合、各階における排水合流部に特殊排水継手が設けられることが一般的である。この特殊排水継手は、例えば内部に設けられた旋回羽根によって、内部の排水を内周壁に沿う旋回流とすることで、排水を通しつつ、継手内部に通気空間を形成できるものである。このように特殊排水継手を設けた管路では伸頂通気をとることで、排水竪管を通気にも用いることができるので、通気竪管が不要である。
【0003】
しかし、前記特殊排水継手が商品化される前の建物では、排水に関する管路を一つのパイプシャフトに集約したケースであっても、トイレからの排水を通す汚水竪管とその他の排水を通す雑排水竪管を別に設け、更に、通気を確保するために通気竪管も設けた二管路通気方式となっていた。前記「二管路」とは、すなわち、排水用の管路とは別に通気用の管路を設けることで管路が二本になるということである。これに相当するものとして、特許文献1の
図4に、「二管式排水管路」が開示されている
【0004】
このような、既存の二管路通気方式の管路を更新するに当たって、既存の排水ルート及び通気ルートをそのまま新管に交換することが考えられる。一方で、更新に用いる管材を少なくして資材コストや施工工数を減らしたいとの要求がある。また、中高層の建物(具体的には階数が7階以上の建物)に適用できる管路の更新工法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-321308号公報(
図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、従来の二管路通気方式の管路に比べて資材コストや施工工数を減らすことができ、中高層の建物においても適用可能な管路の構造、及び、管路の更新工法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、建物内において上下方向に延びる排水竪管と、前記排水竪管の下端に接続される横行排水管と、を備え、前記排水竪管と前記横行排水管の組み合わせにより、上下方向での一系統の排水路が構成されており、一系統または複数系統の前記排水路において、各系統に属する前記横行排水管の下流端は主排水管に接続されており、前記排水竪管と前記横行排水管との間で管路の延びる方向が転換される曲げ部を有し、前記排水竪管の途中で排水が合流する部分には、排水を通しつつ内部に通気空間を形成できる特殊排水継手が設けられており、前記各系統の排水路にて少なくとも、前記建物における中間階の排水が通されるうちで下側に位置する前記特殊排水継手の下方に第1通気管が接続され、前記建物における最下階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に第2通気管が接続され、前記曲げ部の下方に第3通気管が接続されており、前記横行排水管は、前記主排水管への接続箇所の手前にエルボを有しており、前記エルボの上流側から下流側まで前記横行排水管に対して並行するバイパス通気管が配置され、前記バイパス通気管の上流端は前記横行排水管に接続され、下流端は前記主排水管または前記横行排水管に接続されている、管路の構造である。
【0008】
この構成によれば、一系統の排水路にて少なくとも曲げ部の下方に、通気管が接続されていることにより、横行排水管における排水性能を向上できることで、一系統の排水路全体の排水性能を向上できる。このため、従来の二管路通気方式の管路で必要であった、排水竪管に並行する通気竪管が不要になる。そして、第1通気管、第2通気管、第3通気管、バイパス通気管を組み合わせることにより、排水竪管2に対して通気を行うことができるため、排水性能を飛躍的に向上できる。
【0009】
また、前記第1通気管と前記第2通気管とは接続されておらず互いに独立しているものとできる。
【0010】
この構成によれば、排水性能を向上させるために必要でない、第1通気管と第2通気管との間の通気管を設けないようにできる。
【0011】
また、前記第2通気管は前記曲げ部の上方に設けられ、前記第2通気管と前記第3通気管とは接続されていて互いに連通しているものとできる。
【0012】
この構成によれば、横行排水管に生ずる空気の正圧・負圧状態を排水竪管内部の通気空間からの、第2通気管と第3通気管を経由した空気で解消することができる。
【0013】
また、前記建物における最下階より一つ上の階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に第4通気管が接続され、前記第4通気管は、前記第2通気管及び前記第3通気管に接続されていて互いに連通しているものとできる。
【0014】
この構成によれば、第4通気管を設けることで、排水性能を更に向上できる。
【0015】
また本発明は、既存の二管路通気方式の管路を更新するための方法であって、前記二管路通気方式の管路は、汚水竪管、雑排水竪管、通気竪管が並行して上下方向に延び、前記汚水竪管の下端に、管路の延びる方向が転換される曲げ部を介して横行排水管が接続され、前記横行排水管は主排水管に接続され、前記横行排水管は、前記主排水管への接続箇所の手前にエルボを有するように構成されており、前記通気竪管の下部は、前記汚水竪管と前記雑排水竪管とに接続されており、当該接続は、前記汚水竪管に対しては前記曲げ部の上方でなされており、前記汚水竪管のうち更新が必要な部分を新管に取り換え、その際、前記汚水竪管へ排水の合流する部分に、排水を通しつつ内部に通気空間を形成できる特殊排水継手を新設し、前記特殊排水継手に既存の汚水系統と雑排水系統とを接続変更し、前記横行排水管のうち更新が必要な部分を新管に取り換え、前記通気竪管に対し、既存部分のうち更新が必要な部分を新管に取り換えるとともに、前記曲げ部の下方に位置する前記横行排水管に対して連通していなかった場合には新たに連通させ、前記エルボの上流側から下流側まで前記横行排水管に対して並行し、上流端が前記横行排水管に接続され、下流端が前記主排水管または前記横行排水管に接続されるバイパス通気管を新設し、前記雑排水竪管、及び、前記通気竪管のうち前記雑排水竪管に接続されていた部分を廃止し、前記通気竪管のうち、建物における中間階の排水が通されるうち下側に位置する前記特殊排水継手の下方に接続される第1通気管、前記建物における最下階の排水が通される前記特殊排水継手の下方に接続される第2通気管、前記曲げ部の下方に接続される第3通気管の各々に接続する部分以外を廃止する、管路の更新工法である。
【0016】
この構成によれば、一系統の排水路にて少なくとも曲げ部の下方に、通気管が接続されていることにより、横行排水管における排水性能を向上できることで、一系統の排水路全体の排水性能を向上できる。このため、従来の二管路通気方式の管路で必要であった、排水竪管に並行する通気竪管が不要になる。そして、第1通気管、第2通気管、第3通気管、バイパス通気管を組み合わせることにより、排水竪管に対して通気を行うことができるため、排水性能を飛躍的に向上できる。
【0017】
また、前記横行排水管につき、更新前後で同径の管材を用いるものとできる。
【0018】
この構成によれば、建物の構造物との関係で横行排水管を増径した更新が不可能な場合でも対応できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、通気竪管が不要になることで、従来の二管路通気方式の管路に比べて資材コストや施工工数を減らすことができ、しかも、排水性能を飛躍的に向上できるから、中高層の建物においても適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態に係る管路のうち上側部分の構造を概略的に示す図である。
【
図2】前記実施形態に係る管路のうち下側部分の構造を概略的に示す図である。
【
図3】更新前の排水管路の構造を概略的に示す図である。
【
図4】本実施形態に係る管路の構造を、更新前の管路における廃止部分を示しつつ概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明につき、一実施形態を取り上げて、図面とともに以下説明を行う。まずは本実施形態の、マンションを想定した更新工法について説明する。この更新工法は、
図3に示す、既存の二管路通気方式の排水に関する管路10を更新するための方法である。なお、説明の都合上(配管種類の識別のため)、
図3において通気ルートに位置する配管を破線状に表示しているが、実際には配管が管路の延びる方向(長さ方向)に連続している(他の図も同じ)。
【0022】
既存の二管路通気方式の管路10は、例えば、汚水竪管11、雑排水竪管12、通気竪管13が並行して上下方向に延び、汚水竪管11、雑排水竪管12のそれぞれ下端に、管路の延びる方向が転換される(曲げられる)曲げ部14,16を介して横行排水管15,17が接続されて構成されている。汚水竪管11にはトイレからの排水の汚水系統Aが各階の排水接続点11aで接続され、雑排水竪管12にはキッチン等のその他の排水を通す雑排水系統Bが各階で接続されている。曲げ部14,16は通常の場合、建物の1階床下に設けられている。各横行排水管15,17は、下流側の方が低くなるように配管勾配を持ちつつ横方向に延びる。
図2に示すように、複数系統の横行排水管15,17が、下流端で大径の主排水管8に接続されている。配管サイズは、あくまでも一例であってこれに限定されるものではないが、汚水竪管11(及び接続された横行排水管15)が100A、雑排水竪管12(及び接続された横行排水管17)が80A、通気竪管13が65Aである。
【0023】
通気竪管13の下部は、二手に分岐してそれぞれ汚水竪管11と雑排水竪管12とに接続されており、当該接続は、汚水竪管11、雑排水竪管12の各々に対して曲げ部14,16の上方でなされている。汚水竪管11、雑排水竪管12、通気竪管13のそれぞれ上部は接続されて1本となっており、その端部における通気口18で大気に開放されている。
【0024】
本実施形態の更新工法では、汚水竪管11のうち更新が必要な部分を新管に取り換えることで,
図1、
図2、
図4に示すように排水竪管2を設ける。排水竪管2は、更新前の汚水竪管11と雑排水竪管12とが集約された1本の竪管である。その際、汚水竪管11へ排水の合流する部分であった排水接続点11aの位置に特殊排水継手5を新設する。マンションでは、特殊排水継手5は各階の床部分に設置される。なお、特殊排水継手5を新設する際、必要により床スラブを削る加工を行う。旧管と新管の材質は同一でなくてもよく、更新時点において適切な材質を選択すればよい(汚水竪管11以外の他の配管も同様)。例えば旧管が金属管であった場合、新管を樹脂管とすることができる。そして、特殊排水継手5に既存の汚水系統Aと雑排水系統Bとを接続変更する(各系統A,Bの配管をつなぎ替える)。
【0025】
特殊排水継手5は、その構成が公知であるため簡単に説明すると、例えば内部に設けられた旋回羽根によって、内部の排水を内周壁に沿う旋回流とすることで、排水を通しつつ、継手内部に通気空間を形成できる継手である。この特殊排水継手5により、更新前の汚水竪管11と同サイズの排水竪管2を設け、雑排水竪管12を廃止しても、汚水系統A及び雑排水系統Bの排水を、更新前の汚水竪管11に相当する1本の排水竪管2で問題なく排水できる。
【0026】
そして、横行排水管15,17のうち更新が必要な部分を新管に取り換えることで新たな横行排水管3を設ける。横行排水管3は、更新前後で同径の管材を用いる。その理由は追って説明する。そして、通気竪管13に対し、既存部分のうち更新が必要な部分を新管に取り換えることで新たな通気竪管6を設ける。通気竪管6から更新後の排水竪管2に接続される配管として中間階、具体的には、最上階(例えば7階)から1階下(前記の場合6階)または2階下(前記の場合5階)の排水が通されるうちで下側に位置する前記特殊排水継手の下方に第1通気管としての上結合通気管路6aが設けられる。つまり、上結合通気管路6aは建物における上側2~3階分に設けられる。この上結合通気管路6aにより、流水によって排水竪管2に生じる負圧を解消できる。なお、
図1で実線表示したのが、最上階(7階)から2階下(5階)に対応して上結合通気管路6aが設けられた場合であり、破線表示したのが、1階下(6階)に対応して上結合通気管路6aが設けられた場合である。例えば高層(例えば12階以上)の建物に適用する場合、上結合通気管路6aは複数設けることも可能である。
【0027】
また、最下階(例えば1階)の排水が通される前記特殊排水継手の下方に第2通気管としての下結合通気管路6bが設けられる。これとともに、曲げ部4の下方に位置する横行排水管3に対して連通していなかった場合には通気竪管と横行排水管3を、第3通気管としての逃し通気管路6c、及び、逃し通気管路6cに連通した下連結管路6dにより新たに連通させる。連通箇所は、横行排水管3における上部であって、曲げ部4の変曲開始点から、横行排水管3の延びる方向に沿った距離L(
図1、
図2参照)を1.5~3mの範囲内で設定する。本実施形態では距離Lが1.5mで設定されている。このため、通気竪管6を適宜屈曲させて連通箇所に接続する。なお、既存の管路10において、通気竪管13で横行排水管15に対して連通していた場合には、そこに関して更新が必要な部分を新管に取り換える。既存の二管路通気方式の管路10における通気口18は、必要に応じ、更新して新たな通気口7とされる。通気口7にはベントキャップを設けることができる。
【0028】
横行排水管3のうち、地中梁Cよりも下流側には、主排水管8への接続箇所の手前にエルボELを有している。エルボELは、主排水管8に対して横行排水管3の配管方向をオフセットさせて高さ調整するため、複数、具体的には2個1組で用いられる。なお、2個のエルボELの間に挟まれる直管は、傾斜が45度以下に設定される。本実施形態の更新工法では、
図2に示すように、2個のエルボELの上流側から下流側までの区間で、横行排水管3の上方に、横行排水管3に対して並行するバイパス通気管6gが新設されて接続される。バイパス通気管6gの下流端は、横行排水管3の圧を有効に逃がすため、主排水管8に接続される。ただし、現場の状況に応じて主排水管8への接続が難しい場合等には、圧の逃がし効果が多少低下するが、
図2に破線で示すように、バイパス通気管6gの下流端を横行排水管3(下流側のエルボELよりも下流側の区間)に接続することもできる。前述した下結合通気管路6b、逃し通気管路6c、下連結管路6d、後述の2階連結管路6e(設けられる場合)と、バイパス通気管6gとにより、横行排水管3、曲げ部4の上方部分、エルボELにそれぞれ生じる正圧を解消できる。
【0029】
そして、雑排水竪管12、及び、通気竪管13のうち雑排水竪管12に接続されていた部分を廃止する(
図4において「×」と示した部分)。なお、
図4において符号「6f」で示した、既存の通気竪管13の一部区間は、場合によって廃止し、
図1、
図2に示した構成にすることができる。既存の通気竪管13のうち、本実施形態において廃止する区間は、上結合通気管路6aと下結合通気管路6b(ただし、後述する2階連結管路6eが設けられる場合は2階連結管路6e)の間である(
図4において「×」を示している)。雑排水竪管12は、排水を流すのに用いられなくなるので撤去すればよい。ただし、その後に悪影響がないと思われる場合には、残存管としてそのまま建物(パイプシャフト内)に残すこともできる。そうすることで、廃管材の処分費用を節約できる。
【0030】
ここで、コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造の建物の場合、更新前の横行排水管15,17は通常1階の床下で地中梁Cにおけるスリーブを貫通していることにより、貫通部分を大きくしたり貫通箇所を変更したりすることはできない。よって、横行排水管の更新は、増径も配管勾配を変えることもできないことがほとんどである。
【0031】
一方、特殊排水継手5のメーカーは、横行排水管を竪管に比べて1サイズ大きくすることを施工の条件としている。その理由は、曲げ部4で水流の方向が変化し、曲げ部4よりも下流側の管内で水の跳ね上がりが生じることによって、横行排水管の管内(上側)に空気層が生じることで管内の流れが悪くなり、満水状態にならないことから、設計時に横行排水管のサイズを決定する際、配管の半分に水が流れる前提の「半管計算」を行うからである。前述した地中梁Cを貫通するとの事情(大部分のマンションはこれに当てはまる)があると、前記条件がクリアできないことから、特殊排水継手5を新設した更新が不可能な場合があった。その場合は、通気竪管13が更新後も必要となるから、いわば旧式の配管ルートを変更せずに丸ごと更新するしかない。
【0032】
一方、本実施形態の更新工法では、横行排水管3において前記空気層が生じ得る区間に通気管(通気竪管6、具体的には逃し通気管路6c及び下連結管路6d)が接続される(更新の際の新設の場合と、更新前から通気ルートが存在している場合がある)。この通気管により、前記空気層の空気を横行排水管3の外部に逃がすことができるため、横行排水管3の排水状態を満水に近い状態にできる。よって、更新後の横行排水管3のサイズを決める際に、配管の全部に水が流れる前提の「満管計算」を行うことが可能となる。従って、横行排水管につき、更新前後で同径の管材を用いることができる。よって、建物の構造物(例えば地中梁C)との関係で横行排水管を増径した更新が不可能な場合でも対応できる。
【0033】
また、前述した更新工法では、通気竪管13の全体を通気竪管6へと更新するものであった。しかし、通気竪管13,6の全体であることは必須条件ではなく、横行排水管3に生じる前記空気層への対策をなす部分の通気管のみがあればよい。このため通気竪管13を、曲げ部4の上方で排水竪管2に接続される上結合通気管路6a、曲げ部4の下方で横行排水管3に接続される逃し通気管路6c、上結合通気管路6aと逃し通気管路6cとを連通する下連結管路6dの各々を除いて廃止することができる。この場合、不要になった部分を撤去できる。なお、通気竪管13の不要部分に関しても、その後に悪影響がないと思われる場合には残存管としてそのまま建物(パイプシャフト内)に残すこともできる。また、部分廃止を行わず、通気竪管13の全体を既存の配置のまま更新してもよい。
【0034】
以上のような更新工法により、一系統の排水路にて少なくとも曲げ部4の下方に、通気管が接続されていることにより、横行排水管3における排水性能を向上できることで、一系統の排水路全体の排水性能を向上できる。このため、従来の二管路通気方式の管路10で必要であった、排水竪管2に並行する通気竪管13(更新前)が不要になる。そして、通気竪管13のうち更新後も通気竪管6として用いる部分(主に上結合通気管路6a、逃し通気管路6c、下連結管路6d)を除いて廃止できるので、従来の二管路通気方式の管路10に比べて資材コストや施工工数を減らすことができる。
【0035】
以上のような更新工法を行うことにより、
図1、
図2に示すような管路1の構造を構成できる。この構造では、建物内において上下方向に延びる排水竪管2と、排水竪管2の下端に接続される横行排水管3と、を備える。排水竪管2に並行して、通気竪管6が上下方向に延びるように設けられる。配管サイズは、あくまでも一例であってこれに限定されるものではないが、排水竪管2(及び接続された横行排水管3)が100A(更新前の汚水竪管11と同サイズ)、通気竪管6が65A(更新前と同サイズ)、新設のバイパス通気管6gが65Aである。本実施形態における排水竪管2及び横行排水管3は、更新前の汚水竪管11が配置されていたルートに設けられている。このため、配管支持具が強度上問題なく、支持方式に変更がない場合、汚水竪管11のために用いられていたものを、付け替えることなく再利用できる。
【0036】
排水竪管2と横行排水管3の組み合わせにより、上下方向での一系統の排水路が構成される。排水竪管2と横行排水管3との間には、更新前と同様、管路の延びる方向が転換される(曲げられる)曲げ部4が設けられる。そして、排水竪管2の途中で排水が合流する部分には特殊排水継手5が設けられる。
【0037】
また、一系統の排水路にて少なくとも曲げ部4の下方に、通気管(通気竪管6)が接続されている。本実施形態では、一系統の排水路にて、曲げ部4の下方に加え、曲げ部4の上方かつ最下部に位置する特殊排水継手5の下方に通気管が接続されている。このような接続により、最下部に位置する特殊排水継手5の下方では排水竪管2に通気効果が得られにくいため、この部分に通気管を接続することで、一系統の排水路全体の排水性能を更に向上できる。
【0038】
更に詳しくは、曲げ部4の上方に接続された通気管と、曲げ部4の下方に接続された通気管とが連通している。これにより、横行排水管3に生ずる空気の正圧・負圧状態を排水竪管2内部の通気空間からの空気で解消することができる。
【0039】
本実施形態では、曲げ部4の上方に接続された通気管(通気竪管6のうち上結合通気管路6a)と、曲げ部4の下方に接続された通気管(通気竪管6のうち逃し通気管路6c)とが連通(通気竪管6のうち下連結管路6dを介した連通)して配置されることで全体の通気竪管6を構成している。これにより、特殊排水継手5による排水竪管2経由の通気に加え、通気竪管6経由でも並列的に通気できるので、排水性能を確保する十分な通気が可能である。
【0040】
そして本実施形態では、第1通気管としての上結合通気管路6a、第2通気管としての下結合通気管路6b、第3通気管としての逃し通気管路6c及び下連結管路6d、バイパス通気管6gを組み合わせることにより、排水竪管2に対して通気を行うことができるため、各管における負圧発生と正圧発生との両方への対策ができて排水性能を飛躍的に向上できる。このため、階数が6階以下の低層の建物に比べて排水条件が厳しくなる中高層(7階以上)のマンション等の建物においても適用可能である。ちなみに本願の発明者によって、12階建ての建物でも要求される排水性能を発揮できることが確認(実験施設における確認)されている。
【0041】
以上、本発明につき一実施形態を取り上げて説明してきたが、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0042】
例えば、前記実施形態では、既存の二管路通気方式の管路10を更新することが前提であった。しかしこれに限定されず、前記実施形態の管路1の構造を新築の建物において新設することもできる。新築の場合、前記実施形態のような地中梁Cの貫通部分における配管サイズの制約はない。しかし、雑排水竪管12を設ける必要がない点、通気竪管6の全てを設ける必要がない点、また、「満管計算」が可能なことによる横行排水管3の増径回避可能な点から、従来の二管路通気方式の管路10に比べて資材コストや施工工数を減らすことができ、新たな管路1の構築に関するコスト低減をはかることができるメリットがある。
【0043】
また、前記実施形態に関して説明した既存の管路10では、
図3に示すように、汚水竪管11と雑排水竪管12が別個に並行して配置された構成であった。しかしこれに限定されず、建物の各階で汚水系統Aと雑排水系統Bが合流した状態で1本の竪管に接続される構成であってもよい。
【0044】
また、更新工法の施工順は前述した順に限定されず、順番の前後を適宜入れ替えて実施してもよい。
【0045】
また、前記実施形態では、第1通気管としての上結合通気管路6aが、最上階(例えば7階)から1階下(前記の場合6階)または2階下(前記の場合5階)の排水が通されるうちで下側に位置する特殊排水継手の下方に設けられていた。しかし第1通気管(上結合通気管路6a)は、それ以外の階である中間階の特殊排水継手の下方に設けられていてもよい。
【0046】
また、上結合通気管路6a以外(例えば上結合通気管路6aよりも上方、または、最下部に位置する特殊排水継手5よりも上方)で、通気のために排水竪管2と通気竪管6とを接続することもできる。
図4に示した構成はその一例であって、建物の1階(上結合通気管路6a)に加えて更に、建物の2階に、第4通気管としての2階連結管路6eを設けて排水竪管2と通気竪管6とを接続する例を示している。このようにすることで、通気が更に容易になることから、一系統の排水路全体の排水性能を更に向上できる。なお第4通気管は、前述した2階連結管路6eのような建物の2階に設けられた構成に限られず、建物の他の階(3階等)に設けることもできる。
【0047】
また、前記実施形態では、上結合通気管路6a、逃し通気管路6c、連結管路6dを連通させていたが、例えば逃し通気管路6cだけを設け、横行排水管3の近傍で端部を開放して通気可能としてもよい。または、上結合通気管路6a及び逃し通気管路6cを設け、上結合通気管路6aは排水竪管2の近傍で端部を開放し、逃し通気管路6cは横行排水管3の近傍で端部を開放して通気可能としてもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、更新前の汚水竪管11を排水竪管2に更新した(
図3、
図4参照)。つまり、更新前における汚水竪管11の位置に更新後の排水竪管2を配置するものであった。しかし、更新前の配管に対する更新後の配管の配置関係はこれに限定されるものではなく、更新工事施工前のパイプシャフトの使用状況等によって柔軟に変更可能である。例えば、更新後の排水竪管2の配置が、更新前における雑排水竪管12または通気竪管13の位置であってもよい。そして、更新後の通気竪管6の配置が、更新前における汚水竪管11または雑排水竪管12の位置であってもよい。更には、更新前に配管の無かった位置に更新後の配管を位置させてもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 管路(更新後)
2 排水竪管
3 横行排水管(更新後)
5 特殊排水継手
6 通気管、通気竪管(更新後)
6a 第1通気管、上結合通気管路
6b 第2通気管、下結合通気管路
6c 第3通気管、逃し通気管路
6d 通気竪管の連結管路
6e 第4通気管、2階連結管路
6g バイパス通気管
7 通気口(更新後)
8 主排水管
10 管路(更新前)
11 汚水竪管
11a 排水接続点
12 雑排水竪管
13 通気竪管(更新前)
14 曲げ部(汚水竪管対応)
15 横行排水管(汚水竪管接続)
16 曲げ部(雑排水竪管対応)
17 横行排水管(雑排水竪管接続)
18 通気口(更新前)
A 汚水系統
B 雑排水系統
C 地中梁
L 曲げ部から連通箇所までの距離