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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099879
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/83 20060101AFI20240719BHJP
   B01J 29/89 20060101ALI20240719BHJP
   B01J 35/57 20240101ALI20240719BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20240719BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B01J29/83 A ZAB
B01J29/89 A
B01J35/04 301L
B01D53/94 228
F01N3/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003477
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】川上 祐紀
(72)【発明者】
【氏名】杉岡 大輔
(72)【発明者】
【氏名】千葉 明哉
【テーマコード(参考)】
3G091
4D148
4G169
【Fターム(参考)】
3G091AA17
3G091AB01
3G091BA20
3G091GA06
3G091GB01
4D148AA06
4D148AA08
4D148AA13
4D148AA18
4D148AB01
4D148AB02
4D148AB09
4D148BA03X
4D148BA06Y
4D148BA07X
4D148BA08X
4D148BA15Y
4D148BA16X
4D148BA18X
4D148BA19X
4D148BA31Y
4D148BA32Y
4D148BA33Y
4D148BA34Y
4D148BA35Y
4D148BA36Y
4D148BA37X
4D148BA38Y
4D148BA39Y
4D148BB02
4D148CC31
4D148CC58
4D148EA04
4G169AA03
4G169BA01B
4G169BA07A
4G169BA07B
4G169BA13A
4G169BA13B
4G169BB06A
4G169BB06B
4G169BB10B
4G169BC13B
4G169BC35A
4G169BC35B
4G169BC40B
4G169BC42A
4G169BC42B
4G169BC43A
4G169BC43B
4G169BC44A
4G169BC44B
4G169BC50A
4G169BC50B
4G169BC51A
4G169BC51B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169CA09
4G169CA11
4G169CA15
4G169DA06
4G169EA18
4G169EB12Y
4G169FC05
4G169ZA39A
4G169ZA39B
4G169ZA40A
4G169ZA40B
4G169ZF02A
4G169ZF02B
4G169ZF05A
4G169ZF05B
(57)【要約】
【課題】水熱耐久後におけるコールドスタート時のNH浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここに開示される排ガス浄化用触媒は、基材と、前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、を備える。前記排ガス浄化層は、Siを実質的に含有しない分子篩と、触媒金属と、を含有する。前記Siを実質的に含有しない分子篩は、骨格の一部がAl以外の金属により置換されたメタロアルミノホスフェートである。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、
を備える排ガス浄化用触媒であって、
前記排ガス浄化層は、Siを実質的に含有しない分子篩と、触媒金属と、を含有し、
前記Siを実質的に含有しない分子篩は、骨格の一部がAl以外の金属により置換されたメタロアルミノホスフェートである、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記メタロアルミノホスフェートの骨格を置換する金属が、Zr、Zn、Co、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記メタロアルミノホスフェートの骨格を置換する金属が、Coである、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記排ガス浄化層が、前記Siを実質的に含有しない分子篩を含有するNH吸着層と、前記触媒金属を含有する触媒層と、を有する、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記NH吸着層と前記触媒層とが、積層されており、前記NH吸着層が、前記触媒層よりも基材側に位置している、請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項6】
前記排ガス浄化層が、フロント部と、排ガスの流れ方向において前記フロント部よりも下流側に位置するリア部と、を有し、前記NH吸着層が前記フロント部を構成し、前記触媒層が前記リア部を構成している、請求項4に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項7】
ガソリンエンジンの排ガス浄化用である、請求項1に記載の排ガス浄化用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のガソリンエンジンから排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応によって除去するために、従来から排ガス浄化用触媒が利用されている。
【0003】
ガソリンエンジンのコールドスタート時でのHCの除去性能を向上させるために、排ガス浄化用触媒において、分子篩等のHC吸着材を使用する技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。一方、近年、排ガス規制は益々強化されており、ガソリンエンジン車からのNH排出量の低減が望まれている。NHは、排ガス浄化用触媒によるNOxの過還元によって発生し得る成分である。分子篩は、NH吸着材としても機能することが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-116331号公報
【特許文献2】特開2009-167973号公報
【特許文献3】特開2020-34001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら本発明者らが鋭意検討した結果、ガソリンエンジン車からのNH排出量の低減を目的として、従来技術の分子篩をNH吸着材に用いた場合には、水を含んだ高温の排気ガスに長時間晒された後(以下、これを「水熱耐久後」と称する)の、コールドスタート時でのNH浄化性能が低いという問題があることを見出した。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、水熱耐久後におけるコールドスタート時のNH浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らが鋭意検討した結果、排ガス浄化用触媒において吸着材としてゼオライトを用いた場合には、水熱耐久後にゼオライト(アルミノシリケート塩)に含まれるSiが移動して、触媒金属である貴金属に悪影響を及ぼし、これによりNH浄化性能を低下させていることを見出した。さらに、排ガス浄化用触媒において吸着材として、Siを含有しないアルミノホスフェート分子篩を用いた場合であっても、コールドスタート時のNH浄化性能が不十分であることを見出した。これに対し、本発明者らがさらに鋭意検討した結果、アルミノホスフェート分子篩の骨格の一部を金属で置換することで、NH吸着能が向上し、コールドスタート時でのNH浄化性能を顕著に高めることができることを見出した。
【0008】
すなわち、ここに開示される排ガス浄化用触媒[1]は、基材と、前記基材上に設けられた排ガス浄化層と、を備える。前記排ガス浄化層は、Siを実質的に含有しない分子篩と、触媒金属と、を含有する。前記Siを実質的に含有しない分子篩は、骨格の一部がAl以外の金属により置換されたメタロアルミノホスフェートである。このような構成によれば、水熱耐久後におけるコールドスタート時のNH浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供することができる。
【0009】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[2]は、上記排ガス浄化用触媒[1]において、前記メタロアルミノホスフェートの骨格を置換する金属が、Zr、Zn、Co、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも1種である。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のNH浄化性能に関し有利である。
【0010】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[3]は、上記排ガス浄化用触媒[1]において、前記メタロアルミノホスフェートの骨格を置換する金属が、Coである。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のNH浄化性能を特に高くすることができる。
【0011】
ここに開示される排ガス浄化用触媒[4]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[3]のいずれかにおいて、前記排ガス浄化層が、前記Siを実質的に含有しない分子篩を含有するNH吸着層と、前記触媒金属を含有する触媒層と、を有する。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のNH浄化性能に関し有利である。
【0012】
ここに開示される排ガス浄化用触媒体[5]は、上記排ガス浄化用触媒[4]において、前記NH吸着層と前記触媒層とが、積層されており、前記NH吸着層が、前記触媒層よりも基材側に位置している。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のNH浄化性能に関し特に有利である。
【0013】
ここに開示される排ガス浄化用触媒体[6]は、上記排ガス浄化用触媒[4]において、前記排ガス浄化層が、フロント部と、排ガスの流れ方向において前記フロント部よりも下流側に位置するリア部と、を有し、前記NH吸着層が前記フロント部を構成し、前記触媒層が前記リア部を構成している。このような構成によれば、排ガス浄化用触媒の上記のNH浄化性能に関し特に有利である。
【0014】
ここに開示される排ガス浄化用触媒体[7]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[6]のいずれかにおいて、排ガス浄化用触媒が、ガソリンエンジンの排ガス浄化用である。このような構成によれば、ガソリンエンジンからのNH排出量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第1実施形態に係る排ガス浄化システムを示す模式図である。
図2図1の排ガス浄化用触媒を模式的に示す斜視図である。
図3図1の排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図4図1の排ガス浄化用触媒の変形例の構成を示す部分断面図である。
図5】第2実施形態における排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図6】第3実施形態における排ガス浄化用触媒を筒軸方向に切断した部分断面図である。
図7】各実施例および各比較例の水熱耐久処理後におけるNH50%浄化温度を示すグラフである。
図8】各実施例および比較例1の水熱耐久処理後におけるHC50%浄化温度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0017】
≪排ガス浄化システム≫
図1は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関(エンジン)2と、排ガス浄化装置3と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、を備えている。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NOx、NH等を、排ガス浄化装置3で浄化するように構成されている。なお、図1の矢印は排ガスの流動方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠い側を下流側という。
【0018】
内燃機関2は、ここではガソリン車両のガソリンエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、ガソリン以外のエンジン、例えばディーゼルエンジンやハイブリッド車に搭載されるエンジン等であってもよい。内燃機関2は、燃焼室(図示せず)を備えている。燃焼室は、燃料タンク(図示せず)に接続されている。燃料タンクには、ここではガソリンが貯留されている。ただし、燃料タンクに貯留される燃料は、ディーゼル燃料(軽油)等であってもよい。燃焼室では、燃料タンクから供給された燃料が酸素と混合され、燃焼される。これにより、燃焼エネルギーが力学的エネルギーへと変換される。燃焼室は、排気ポート2aに連通している。排気ポート2aは、排ガス浄化装置3に連通している。燃焼された燃料ガスは、排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。
【0019】
排ガス浄化装置3は、内燃機関2と連通する排気経路4と、圧力センサ8と、第1触媒9と、第2触媒10と、を備えている。排気経路4は、排ガスが流動する排ガス流路である。排気経路4は、ここではエキゾーストマニホールド5と排気管6とを備えている。エキゾーストマニホールド5の上流側の端部は、内燃機関2の排気ポート2aに連結されている。エキゾーストマニホールド5の下流側の端部は、排気管6に連結されている。排気管6の途中には、上流側から順に、第1触媒9と第2触媒10とが配置されている。ただし、第1触媒9と第2触媒10との配置は任意に可変であってよい。また、第1触媒9と第2触媒10との個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられてもよい。また、第2触媒10の下流側には、さらに第3触媒が配置されていてもよい。
【0020】
第1触媒9については従来と同様でよく、特に限定されない。第1触媒9は、例えば、排ガスに含まれるPMを除去するディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter);排ガスに含まれるHCやCOを浄化するディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst);排ガスに含まれるHC、CO、NOxを同時に浄化する三元触媒;通常運転時に(リーン条件下で)NOxを吸蔵し、燃料を多めに噴射した時に(リッチ条件下で)HC、COを還元剤としてNOxを浄化するNOx吸着還元(NSR:NOx Storage-Reduction)触媒;等であってもよい。第1触媒9は、例えば第2触媒10に流入する排ガスの温度を上昇させる機能を有していてもよい。なお、第1触媒9は必須の構成ではなく、他の実施形態において省略することもできる。
【0021】
第2触媒10は、排ガス中の有害成分(特にNH)を浄化する機能を有する。第2触媒10は、ここでは三元触媒である。第2触媒10は、ここに開示される排ガス浄化用触媒の一例である。なお、以下では、第2触媒10を「排ガス浄化用触媒」ということがある。第2触媒(排ガス浄化用触媒)10の構成については、後に詳述する。
【0022】
ECU7は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU7は、内燃機関2と、排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、圧力センサ8や、温度センサ、酸素センサ等)とに、電気的に接続されている。なお、ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えばプロセッサや集積回路である。ECU7は、入力ポート(図示せず)と出力ポート(図示せず)とを備えている。ECU7は、例えば、車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。ECU7は、センサで検知された情報(例えば、圧力センサ8で計測された圧力)を、入力ポートを介して受信する。ECU7は、例えば受信した情報に基づいて、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU7は、例えば内燃機関2の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御等の運転を制御する。ECU7は、例えば内燃機関2の運転状態や内燃機関2から排出される排ガスの量等に基づいて、排ガス浄化装置3の駆動と停止とを制御する。
【0023】
≪排ガス浄化用触媒≫
図2は、排ガス浄化用触媒10を模式的に示す斜視図である。なお、図2の矢印は、排ガスの流れを示している。図2では、相対的に内燃機関2に近い排気経路4の上流側が左側に表され、相対的に内燃機関2から遠い排気経路の下流側が右側に表されている。また、図2において、符号Xは、排ガス浄化用触媒10の筒軸方向を表している。排ガス浄化用触媒10は、筒軸方向Xが排ガスの流動方向に沿うように排気経路4に設置されている。筒軸方向Xは、排ガスの流動方向である。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側ともいう。)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側ともいう。)ということがある。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎず、排ガス浄化用触媒10の設置形態を何ら限定するものではない。
【0024】
図3に例示されるように、排ガス浄化用触媒10は、ストレートフロー構造の基材11と、排ガス浄化層40と、を備えている。排ガス浄化用触媒10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。排ガス浄化用触媒10の外形は、ここでは円筒形状である。ただし、排ガス浄化用触媒10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム状、ペレット形状、繊維状等であってもよい。
【0025】
基材11は、排ガス浄化用触媒10の骨組みを構成するものである。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材および形態のものが使用可能である。基材11は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよいし、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金等で構成されるメタル担体であってもよい。図2に示すように、基材11は、ここではハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材11の体積(セル12の容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.1~10L、例えば0.5~5Lであってもよい。また、基材11の筒軸方向Xに沿う平均長さ(全長)Lは、概ね10~500mm、例えば50~300mmであってもよい。
【0026】
セル12は、排ガスの流路となる。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさ、数等は、例えば、排ガス浄化用触媒10を流動する排ガスの流量や成分等を考慮して設計すればよい。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に限定されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形等の四角形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、波形、円形等種々の幾何学形状であってよい。隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁14の平均厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、機械的強度を向上する観点や圧損を低減する観点等から、概ね0.1~10mil(1milは、約25.4μm)、例えば0.2~5milであってもよい。隔壁14は、排ガスが通過可能なように多孔質であってもよい。
【0027】
図3は、排ガス浄化用触媒10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。図3に示すように、この基材11上に、排ガス浄化層40が設けられており、排ガス浄化層40は、NH吸着層20と、触媒層30とを備えている。よって、基材11上に、NH吸着層20および触媒層30が積層されている。このように、排ガス浄化層40は、排ガスの浄化に関与する層から構成される。
【0028】
NH吸着層20は、触媒層30よりも基材11側(すなわち、下層側)に配置されている。このような配置によれば、NH吸着層20に吸着されたNHがNH吸着層20から脱離した際に、そのNHを触媒層30によって効率的に除去することができる。
【0029】
排ガス浄化層40は、Siを実質的に含有しない分子篩と、触媒金属と、含有する。本実施形態では、排ガス浄化層40のうち、NH吸着層20がSiを実質的に含有しない分子篩を含有し、触媒層30が触媒金属を含有している。
【0030】
NH吸着層20に含有される、Siを実質的に含有しない分子篩は、NH吸着材として機能する。よって、Siを実質的に含有しない分子篩は、触媒金属が十分に活性化されていない温度においてNHを吸着し、触媒金属が十分に活性化されている温度において、NHを脱離するように機能する。本明細書において、「分子篩がSiを実質的に含有しない」とは、分子篩を構成するすべて原子に対するSi原子の割合が、6原子%以下(好ましくは3原子%以下、より好ましくは1原子%以下、さらに好ましくは0原子%)であることをいう。よって、例えば、Siの移動、不可避的不純物等によって、分子篩にSiが含有されることは許容される。なお、分子篩を構成するすべて原子に対するSi原子の割合は、蛍光X線分析(XRF)により求めることができる。
【0031】
そして、本実施形態では、このSiを実質的に含有しない分子篩として、骨格の一部がAl以外の金属により置換されたメタロアルミノホスフェート(以下、「MeAPO」ともいう)が用いられる。すなわち、アルミノホスフェート(ALPO)分子篩の骨格の一部が、Al以外の金属によって置換された分子篩が用いられる。骨格の構成元素が金属で置換されているため、担持金属がイオン交換された金属含有(金属担持)分子篩とは異なる。
【0032】
MeAPO分子篩は、Siを実質的に含有しないが、MeAPO分子篩のSiO/Al比(モル比)は、好ましくは1未満であり、より好ましくは0.5以下であり、さらに好ましくは0.1以下であり、最も好ましくは0である。ここで用いられるMeAPO分子篩は、Siを実質的に含有しないため、SiOに対するAlの含有割合を高めたアルミノホスフェート系ゼオライトとは異なる(低シリカゼオライトであっても、SiO/Al比は通常、1以上である)。なお、SiO/Al比は、蛍光X線分析(XRF)により求めることができる。
【0033】
MeAPO分子篩は、ゼオライトと同じ、類似の、または異なる骨格構造を有し得る。MeAPO分子篩の骨格構造の例としては、国際ゼオライト学会(IZA:International Zeolite Association)が定める骨格型コードとして、AEI、AEL、AEN、AET、AFI、AFN、AFO、AFR、AFS、AFT、AFY、ANA、APC、APD、AST、ATO、ATS、ATT、ATV、AVE、AVL、AWO、AWW、CHA、DFO、ERI、LEV、SBS、SBE、SBT、SOD、VFI、ZONなどが挙げられる。骨格構造は、好適には、AFIである。
【0034】
MeAPOの骨格を置換する金属(以下、「骨格置換金属」ともいう)の種類は、Al以外である限り特に限定されない。MeAPO分子篩の製造の容易さの観点から、Zr、Zn、Co、およびTiからなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。MeAPO分子篩中の骨格置換金属の量が多い方が、NHの吸着点が多くなり有利である。よって、骨格置換金属としては、MeAPO分子篩の骨格への導入のし易さの観点(すなわち、NH浄化性能の特に高い排ガス浄化用触媒10を得る観点)から、CoおよびZrが好ましく、Coがより好ましい。一方、HC浄化性能の特に高い排ガス浄化用触媒10を得る観点からは、CoおよびZnが好ましく、Coがより好ましい。
【0035】
骨格置換金属によるMeAPOの骨格の置換量は、特に限定されない。骨格置換金属(Me)/(Al+P)で表される原子数の比が大きい方が、NH浄化性能がより高くなる。そこで、Me/(Al+P)で表される原子数の比は、例えば、0.0001以上であり、好ましくは0.0010以上であり、より好ましくは0.010以上であり、さらに好ましくは0.015以上であり、さらにいっそう好ましくは0.020以上である。一方、Me/(Al+P)で表される原子数の比は、技術的限界によって定まり、例えば、0.30以下、0.10以下、または0.030以下であり得る。
【0036】
MeAPOは、公知方法(例えば、ChemPhysChem, 2018,Vol.19, Issue 4, pp.484-495のMortenらの論文等参照)に従い、合成して入手することができる。
【0037】
本実施形態においては、Siを実質的に含有しない分子篩であるMeAPO分子篩をNH吸着材に用いることにより、排ガス浄化用触媒10の水熱耐久後のコールドスタート時でのNH浄化性能を顕著に高めることができる。これは、次の理由による。
【0038】
従来より、排ガスの有害成分(特にHC)の吸着材に用いられる分子篩として、ゼオライトが知られている。ゼオライトは、分子篩として機能する結晶性アルミノケイ酸塩であり、よって、SiおよびAlを含有する。本発明者らによる検討により得られた知見では、ゼオライトを含む触媒層に水熱耐久処理を施すと、ゼオライトに含まれるSiが移動して、触媒金属に悪影響を及ぼし、これがコールドスタート時の排ガス浄化性能を低下させる。これは、高温還元雰囲気下においてゼオライトに含まれるSiOがSiOへ還元され、SiOxの形態での界面移動や蒸散が起こるためと考えられる。また、Siと貴金属との相互作用による被毒によるものと考えられる。
【0039】
そこで、本実施形態では、NH吸着材として、Siを実質的に含有しない分子篩を用いることで、Siの移動による問題を解決し、その結果、排ガス浄化用触媒10の水熱耐久後のコールドスタート時のNH浄化性能を高くすることができる。
【0040】
一方、排ガスの有害成分の分子篩として、ALPO分子篩が知られている。ALPO分子篩は、Siを実質的に含有しない分子篩である。しかしながら、本発明者らによる検討により得られた知見では、ALPO分子篩によっても、水熱耐久後のコールドスタート時のNH浄化性能が不十分である。そこで、本実施形態では、ALPO分子篩の骨格の一部を金属で置換することで、NH吸着能を向上させている。その結果、排ガス浄化用触媒10の水熱耐久後のコールドスタート時でのNH浄化性能をいっそう高めることができる。
【0041】
加えて、排ガス規制は益々強化されており、ガソリンエンジン車からのHC排出量のさらなる低減が望まれている。MeAPO分子篩は、HC吸着材として機能することもできる。このため、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒10によれば、排ガス中のHC浄化を高効率で行うことができ、水熱耐久後においても高いHC浄化性能を有する。
【0042】
本実施形態においては、NH吸着層20は、MeAPO分子篩以外のNH吸着材(例、ゼオライト、ALPO等の分子篩)を含有していてもよい。NH吸着層20において、全NH吸着材のうち、典型的には50質量%超え、好ましく80質量%以上、より好ましくは90%質量以上、さらに好ましくは100質量%がMeAPO分子篩である。
【0043】
排ガス浄化用触媒10におけるMeAPO分子篩の量は、特に限定されず、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。基材11の体積1L当たりのMeAPO分子篩の量として、例えば、1g/L以上、5g/L以上、10g/L以上、15g/L以上、または20g/L以上であってよく、例えば、200g/L以下、150g/L以下、100g/L以下、80g/L以下、60g/L以下、50g/L以下、または40g/L以下であってよい。
【0044】
なお、本明細書において「基材の体積1L当たり」とは、基材の純体積にセル通路の容積も含めた全体の嵩容積1L当たりをいう。以下の説明において(g/L)と記載しているものについては、基材の体積1Lに含まれる量を示すものである。
【0045】
NH吸着層20は、任意成分として、NH吸着材以外の成分を含み得る。NH吸着層20の任意成分の例としては、アルミナゾル、シリカゾル等のバインダ、各種添加剤などが挙げられる。
【0046】
NH吸着層20は、その他の任意成分として、酸素吸放出能を有する酸素吸放出材(いわゆる、OSC材)、酸素吸放出能を有しない非酸素吸放出材(いわゆる、非OSC材)を含有していてもよい。OSC材、および非OSC材の例は、後述の触媒層30に含まれるOSC材、および非OSC材と同様である。
【0047】
NH吸着層20におけるOSC材および非OSC材の含有量は、特に限定されない。NH吸着層20におけるNH吸着材の量が多いほど、NHを吸着できる。このため、NH吸着層20におけるOSC材および非OSC材の含有量はそれぞれ、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下である。
【0048】
一方、排ガス浄化用触媒10は、触媒層30を有するため、NH吸着層20は、通常、触媒金属を含有しない。
【0049】
好ましい形態の一つにおいては、NH吸着層20は、MeAPO分子篩、およびバインダ成分のみによって構成される。
【0050】
NH吸着層20の一部が、NH吸着層20の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、NH吸着層20の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、NH吸着層20の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる骨格構造のMeAPO分子篩を含有していてもよく、異なる金属で骨格置換されたMeAPO分子篩を含有していてもよい。
【0051】
NH吸着層20のコート量(すなわち、成形量)は、特に限定されない。当該コート量は、筒軸方向Xに沿ってNH吸着層20が形成されている基材の部分の体積1Lあたり、例えば3~200g/Lであり、10~100g/Lであってもよい。上記範囲を満たすことにより、有害成分の浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで両立することができる。また、耐久性や耐剥離性を向上することができる。
【0052】
NH吸着層20の厚みは特に限定されず、耐久性や耐剥離性等を考慮して適宜設計すればよい。NH吸着層20の厚みは、例えば1~100μmであり、5~100μmであってよい。
【0053】
NH吸着層20の筒軸方向Xのコート幅(平均長さ)は、特に限定されない。当該コート幅は、大きい方がNH浄化性能に優れるため、当該コート幅は、基材11の全長Lの例えば20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上であり、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。
【0054】
触媒層30は、排ガス中の有害成分を浄化する反応場である。触媒層30は、多数の細孔(空隙)を有する多孔質体である。排ガス浄化用触媒10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層30と接触する。これによって、排ガス中の有害成分が浄化される。例えば、排ガスに含まれるHCやCOは、触媒層30によって酸化され、水や二酸化炭素等に変換(浄化)される。例えば、排ガスに含まれるNOxは、触媒層30によって還元され、窒素に変換(浄化)される。そして、排ガスに含まれるNHは、触媒層30によって酸化され、窒素と水に変換(浄化)される。
【0055】
触媒層30は、必須成分として少なくとも触媒金属を含む。触媒金属としては、有害成分の浄化にあたり酸化触媒や還元触媒として機能し得る種々の金属種を使用可能である。触媒金属の典型例としては、白金族、すなわち、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)が挙げられる。また、白金族にかえて、あるいは白金族に加えて、他の金属種を使用してもよい。例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの金属種を使用してもよい。また、これらの金属のうちの2種以上を合金化したものを用いてもよい。触媒金属としては、酸化活性が高い酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)、および還元活性が高い還元触媒(例えばRh)が好適であり、特にこれらを2種以上組み合わせることが好ましい。酸化触媒および還元触媒は、同じ(単一の)触媒層に存在していてもよいし、別個の触媒層に存在していてもよい。
【0056】
触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。触媒金属の平均粒子径(具体的には、透過電子顕微鏡(TEM)観察により求められる、50個以上の触媒金属の粒径の平均値)は、概ね1~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。
【0057】
排ガス浄化用触媒10における触媒金属の量は、特に限定されず、触媒金属の種類等に応じて適宜決定することができる。基材11の体積1L当たりの触媒金属の量として、特に高い排ガス浄化性能の観点からは、例えば、0.01g/L以上、0.03g/L以上、0.05g/L以上、0.08g/L以上、または0.10g/L以上であってよい。排ガス浄化性能とコストとのバランスの観点からは、例えば、15.00g/L以下、10.00g/L以下、5.00g/L以下、3.00g/L以下、1.50g/L以下、1.00g/L以下、0.80g/L以下、または0.50g/L以下であってよい。
【0058】
触媒金属は、通常、担体に支持されている。よって、触媒層30は、触媒金属を担持する担体をさらに含有していてもよい。
【0059】
触媒金属を担持する担体としては、排ガス浄化用触媒の触媒金属の担体として用いられる公知の材料を使用することができる。担体は、典型的には、無機多孔質体である。担体としては、酸化アルミニウム(Al、アルミナ)、酸化チタン(TiO、チタニア)、酸化ジルコニウム(ZrO、ジルコニア)、酸化ケイ素(SiO、シリカ)等の酸素貯蔵能を有しない材料(非OSC材);セリア(CeO)、セリアを含む複合酸化物等の酸素貯蔵能を有する材料(OSC材);などが挙げられる。担体は、非OSC材およびOSC材のいずれかであってよく、両方であってよい。
【0060】
非OSC材として用いられる酸化物には、耐熱性等を向上させるために、Pr、Nd、La、Y等の希土類元素の酸化物が、少量(例えば、1質量%以上10質量%以下)添加されていてもよい。耐熱性および耐久性に特に優れることから、非OSC材は、Alが好ましく、Laが複合化されたAl(La-Al複合酸化物;LA複合酸化物)であることがより好ましい。
【0061】
OSC材に関し、セリアを含む複合酸化物としては、セリアとジルコニアとを含む複合酸化物(セリア-ジルコニア複合酸化物(いわゆる、CZ複合酸化物またはZC複合酸化物))などが挙げられる。OSC材に酸化ジルコニウムが含有されている場合には、酸化セリウムの熱劣化を抑制できることから、OSC材としては、セリア-ジルコニア複合酸化物が好ましい。
【0062】
OSC材は、特性(特に耐熱性と酸素吸放出特性等)の向上を目的として、希土類元素の酸化物を含んでいても良い。希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luなどが挙げられる。希土類元素の酸化物としては、好適にはPr、Nd、La、およびYである。
【0063】
OSC材が酸化セリウムを含む複合酸化物である場合、その酸素吸蔵能を十分に発揮させる観点から、当該複合酸化物における酸化セリウムの含有率は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。一方、酸化セリウムの含有率が高過ぎると、OSC材の塩基性が高くなり過ぎるおそれがある。そのため、酸化セリウムの含有率は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0064】
一例として、触媒層30は、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、OSC材、および非OSC材の両方に担持される。
【0065】
触媒層30は、触媒金属を担持しない形態で、上記のOSC材および/または上記の非OSC材をさらに含有していてもよい。担体として使用されるOSC材および非OSC材、ならびに非担体として使用されるOSC材および非OSC材は、Siを含有しないことが好ましい。
【0066】
排ガス浄化用触媒10におけるOSC材および非OSC材の量は、特に限定されず、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。基材11の体積1L当たりのOSC材および非OSC材の合計量(担体および非担体の両方を含めたOSC材および非OSC材の合計量)として、例えば、50g/L以上、70g/L以上、80g/L以上、90g/L以上、または100g/L以上であってよく、例えば、300g/L以下、250g/L以下、200g/L以下、180g/L以下、または160g/L以下であってよい。
【0067】
触媒層30は、触媒金属の担体として、または、触媒金属を担持しない形態で、OSC材を含むことが好ましい。このとき、例えば車両の走行条件などによって排ガスの空燃比が変動したときにも、安定して優れた浄化性能を発揮することができる。
【0068】
触媒層30は、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類元素を含んでいてもよい。アルカリ土類元素によって、触媒金属(特に酸化触媒)の被毒を抑制することができる。また、アルカリ土類元素によって、触媒金属の分散性が高められ、触媒金属の粒成長に伴うシンタリングを抑制することができる。また、触媒層30が、OSC材と共にアルカリ土類元素を含む場合には、理論空燃比よりも燃料が薄いリーン雰囲気(酸素過剰雰囲気)において、OSC材への酸素吸収量をさらに向上させることができる。アルカリ土類元素は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等の形態で含有され得る。
【0069】
また、触媒層30は、NOx吸蔵能を有するNOx吸着材や、安定化剤等を含んでいてもよい。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素が挙げられる。なお、希土類元素は、酸化物の形態で触媒層30に存在しうる。
【0070】
触媒層30のその他の任意成分としては、アルミナゾル、シリカゾル等のバインダ、各種添加剤などが挙げられる。バインダは、Siを含有しないものが好ましく、よってアルミナゾルが好ましい。
【0071】
触媒層30は、NH吸着材を含んでいてもよいが、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒10は、NH吸着層20を有しているため、触媒層30が、NH吸着材を含んでいないことが好ましい。
【0072】
特に限定されるものではないが、触媒層30のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0073】
触媒層30の長さや厚みは、例えば、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。触媒層30は、基材11の隔壁14に連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。触媒層30は、例えば、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよい。
【0074】
特に限定されるものではないが、触媒層30の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、触媒層30のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0075】
触媒層30の一部が、触媒層30の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、触媒層30の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、触媒層30の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる触媒金属を含有していてもよい。
【0076】
図3に例示される排ガス浄化用触媒10は、排ガス浄化層40のみを有している。しかしながら、排ガス浄化用触媒10は、これら以外の層をさらに有していてもよい。例えば、排ガス浄化用触媒10は、基材11と排ガス浄化層40との間に別の層(下地層とも呼ばれ得る)を有していてもよいし、排ガス浄化層40の上に別の層を有していてもよい。また、排ガス浄化層40は、NH吸着層20と触媒層30以外の排ガスの浄化に関与する層をさらに有していてもよい。
【0077】
図3に例示される排ガス浄化用触媒10の触媒層30は、単層構造を有している。しかしながら、触媒層30は、各層が触媒金属を含有する複層構造を有していてもよい。以下、触媒層30が複層構造である場合の排ガス浄化用触媒の例について説明する。
【0078】
≪排ガス浄化用触媒10の変形例≫
図4は、排ガス浄化用触媒10の変形例である排ガス浄化用触媒10’を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。排ガス浄化用触媒10’は、基材11と、基材11に設けられた排ガス浄化層40’とを備えている。排ガス浄化層40’は、NH吸着層20と、複層構造の触媒層30’と、を備えている。NH吸着層20が、触媒層30’よりも基材11側になるように、NH吸着層20と触媒層30’とが積層されている。触媒層30’が複層構造であることにより、排ガス浄化性能をさらに高めることができる。
【0079】
基材11およびNH吸着層20については上記と同様である。触媒層30’は、図3に示す例とは異なり、複層構造を有している。具体的には、触媒層30’は、第1部分触媒層(下層)31と第2部分触媒層(上層)32とが、厚み方向に積層された積層構造を有している。したがって、下層31が、基材11側に配置されている。図示例では、NH吸着層20の表面に接するように下層31が設けられ、下層31の上面に接するように上層32が設けられている。図示例では、触媒層30’は、2層構造を有しているが、触媒層30’は、3層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、触媒層30’は、下層31と上層32との間に中間層を有していてもよいし、触媒層30’は、上層32の上にさらに別の層を有していてもよい。
【0080】
下層31および上層32はそれぞれ、触媒金属を含有している。ここで、下層31と上層32は、同じ触媒金属を含んでいてよいし、異なる触媒金属を含んでいてもよく、異なる触媒金属を含有することが好ましい。
【0081】
具体的に、例えば、下層31は、触媒金属として、酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含み、上層32は、触媒金属として還元触媒(例えばRh)を含む。この場合、排ガス浄化用触媒10’は、排ガス浄化性能に特に優れる。より高い排ガス浄化性能の観点から、下層31の触媒金属がPtであり、上層32の触媒金属がRhであることが有利である。この場合、パラフィンの浄化に特に有利である。あるいは、より高い排ガス浄化性能の観点から、下層31の触媒金属がPdであり、上層32の触媒金属がRhであることが有利である。この場合、オレフィンの浄化に特に有利である。
【0082】
なお、下層31が、Ptを含む場合、下層31に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Ptである。下層31が、Pdを含む場合、下層31に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Pdである。上層32が、Rhを含む場合、上層32に含まれる触媒金属のうちの好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%が、Rhである。
【0083】
下層31および上層32は、上記した触媒層30と同様の任意成分を含有していてもよい。
【0084】
≪排ガス浄化用触媒10の製造方法≫
排ガス浄化用触媒10は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、基材11と、NH吸着層20を形成するためのNH吸着層形成用スラリーと、触媒層30を形成するための触媒層形成用スラリーを用意する。
【0085】
NH吸着層形成用スラリーは、例えば、MeAPO分子篩と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。触媒層形成用スラリーは、例えば、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。分散媒としては、例えば、水、水と水溶性有機溶媒の混合物等を使用し得る。これらのスラリーの性状(例えば、粘度、固形分率等)は、使用する基材11のサイズや、セル12(隔壁14)の形態、NH吸着層20および触媒層30への要求特性等によって適宜決定することができる。
【0086】
次に、NH吸着層形成用スラリーを用いて、基材11にNH吸着層20を形成する。NH吸着層20の形成は、従来公知の方法(例えば、含浸法、ウォッシュコート法等)により行うことができる。具体的に例えば、NH吸着層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給する。スラリーは、流入口10aと流出口10bのいずれから流入させてもよい。このとき、余分なスラリーは反対側の端部から吸引してもよい。また、反対側の端部から送風を行う等して、余分なスラリーをセル12から排出させてもよい。
【0087】
次に、スラリーを供給した基材11を所定の温度および時間で焼成する。焼成の方法は従来と同様であってよい。また、焼成の前に乾燥を行って、分散媒を除去してもよい。これにより、基材11上にNH吸着層20を形成することができる。
【0088】
続いて、触媒層形成用スラリーを用いて、触媒層30を形成する。触媒層30の形成は、従来公知の方法(例えば、含浸法、ウォッシュコート法等)により行うことができる。例えば、上記と同様にして、触媒層形成用スラリーを基材11の端部からセル12に流入させ、筒軸方向Xに沿って所定の長さまで供給し、基材11に形成されたNH吸着層20上に、触媒層形成用スラリーを塗工する。
【0089】
次に、これを、所定の温度および時間で焼成する。焼成の方法は従来と同様であってよい。また、焼成の前に乾燥を行って、分散媒を除去してもよい。これにより、基材11に形成されたNH吸着層20上に触媒層30を形成することができる。以上のようにして、排ガス浄化用触媒10を得ることができる。
【0090】
〔第2実施形態〕
第2実施形態は、第1実施形態とは、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化層の構造が異なっている。よって、この点について主に説明し、第1実施形態と同じ点については、基本的に説明を省略する。
【0091】
図5は、第2実施形態における排ガス浄化用触媒110を筒軸方向に切断した部分断面図である。図5に示すように、第2実施形態に係る排ガス浄化用触媒110は、基材11と、排ガス浄化層140と、を備えている。基材11には、第1実施形態と同じ基材が用いられている。排ガス浄化層140は、MeAPO分子篩と触媒金属とを含有する。第2実施形態では、排ガス浄化層140が、筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)140Aと下流側X2部分(リア部)140Bとを有している。フロント部140Aは、MeAPO分子篩を含有するNH吸着層として構成され、リア部140Bは、触媒金属を含有する触媒層として構成されている。
【0092】
フロント部140Aを構成するNH吸着層の組成は、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10のNH吸着層20と同じであってよい。リア部140Bを構成する触媒層の組成は、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10の触媒層30と同じであってよい。
【0093】
排ガス浄化用触媒110における触媒金属、MeAPO分子篩、OSC材、非OSC材の量はそれぞれ、特に限定されず、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10における量と同じであってよい。
【0094】
フロント部140Aおよびリア部140Bの筒軸方向Xのコート幅(平均長さ)の比は、特に限定されないが、例えば、5:95~90:10であり、好ましくは10:90~80:20であり、より好ましくは20:80~70:30である。
【0095】
フロント部140Aおよびリア部140Bはそれぞれ、単層構造を有しているが、複層構造であってもよい。例えば、リア部140Bは、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層と下層が、異なる種類の触媒金属を含有していてもよい。
【0096】
具体的に例えば、リア部140Bは、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層が触媒金属として還元触媒(例えばRh)とを含有し、下層が触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含有する。このとき、排ガス浄化用触媒110は、排ガス浄化性能に特に優れる。
【0097】
なお、排ガス浄化層140において、フロント部140Aを触媒層として構成し、リア部140BをNH吸着層として構成することも可能である。しかしながら、上述のように、フロント部140AをNH吸着層として構成し、リア部140Bを触媒層として構成する場合には、フロント部140Aで吸着したNHを、フロント部140Aから脱離した際にリア部140Bで浄化できるため、NHの浄化効率において特に有利である。
【0098】
図示例では、フロント部140Aとリア部140Bが、接しているが、離れていてもよい。また、製法上の理由等により、フロント部140AのX2側端部と、リア部140BのX1側端部とが、一部重なっていてもよい。
【0099】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒110の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0100】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、排ガス浄化層140のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0101】
第2実施形態の排ガス浄化用触媒110は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、第1実施形態と同様に、基材11と、NH吸着層形成用スラリーと、触媒層形成用スラリーを用意する。
【0102】
基材11の排ガスの流入側端部から、NH吸着層形成用スラリーを所定の位置まで流し込み、乾燥する。基材11の排ガスの流出側端部から、触媒層形成用スラリーを所定の位置まで流し込み、乾燥する。その後焼成を行い、基材11上に、NH吸着層から構成されるフロント部と、触媒層から構成されるリア部とを備える排ガス浄化層140を形成する。これにより、排ガス浄化用触媒110を得ることができる。
【0103】
〔第3実施形態〕
第3実施形態は、第1実施形態とは、排ガス浄化用触媒の排ガス浄化層の構造が異なっている。よって、この点について主に説明し、第1実施形態と同じ点については、基本的に説明を省略する。
【0104】
図6は、第3実施形態における排ガス浄化用触媒210を筒軸方向に切断した部分断面図である。図6に示すように、第3実施形態に係る排ガス浄化用触媒210は、基材11と、排ガス浄化層240と、を備えている。基材11には、第1実施形態と同じ基材が用いられている。排ガス浄化層240は、MeAPO分子篩と触媒金属とを含有する。第3実施形態では、一つの層内に、MeAPO分子篩と触媒金属とが混合されて含有されている。
【0105】
排ガス浄化層240において、触媒金属は、MeAPO分子篩に担持されていてもよいし、担体に支持されていてもよい。よって、排ガス浄化層240は、触媒金属を担持する担体をさらに含有していてもよい。触媒金属は、MeAPO分子篩および担体のいずれかに担持されていてもよく、その両方に担持されていてもよい。担体の例としては、上述のOSC材、および上述の非OSC材が挙げられる。
【0106】
一例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、MeAPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、MeAPO分子篩、OSC材、および非OSC材のすべてに担持される。別の例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、MeAPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、非OSC材に担持される。さらに別の例として、排ガス浄化層240は、触媒金属、MeAPO分子篩、OSC材、および非OSC材を含み、触媒金属は、OSC材および非OSC材に担持される。
【0107】
排ガス浄化層240は、任意成分として、アルカリ土類元素、NOx吸着材、安定化剤、バインダ、各種添加剤、MeAPO分子篩以外のNH吸着材等を含有していてもよい。バインダは、Siを含有しないものが好ましく、よってアルミナゾルが好ましい。
【0108】
排ガス浄化用触媒210における触媒金属、MeAPO分子篩、OSC材、非OSC材の量はそれぞれ、特に限定されず、第1実施形態に係る排ガス浄化用触媒10における量と同じであってよい。
【0109】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0110】
特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。特に限定されるものではないが、排ガス浄化層240のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。
【0111】
排ガス浄化層240の一部が、排ガス浄化層240の他の部分と異なる組成を有していてもよい。例えば、例えば、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる組成を有していてもよい。具体的に例えば、排ガス浄化層240の筒軸方向Xの上流側X1部分(フロント部)と下流側X2部分(リア部)とが、異なる種類の触媒金属を含有していてもよく、異なる種類のMeAPO分子篩を含有していてもよい。
【0112】
図示例では、排ガス浄化層240は、単層構造であるが、複層構造であってもよい。例えば、排ガス浄化層240は、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層および下層のそれぞれが、MeAPO分子篩と触媒金属とを含有していてもよい。このとき、上層と下層が、異なる種類の触媒金属を含有していてもよく、異なる種類のMeAPO分子篩を含有していてもよい。
【0113】
具体的に例えば、排ガス浄化層240は、表層部側の上層と、基材側の下層とを含む複層構造を有し、上層が、MeAPO分子篩と、触媒金属として還元触媒(例えばRh)とを含有し、下層が、MeAPO分子篩と、触媒金属として酸化触媒(例えばPdおよびPtのうちの少なくとも一方)を含有する。このとき、排ガス浄化用触媒210は、排ガス浄化性能に特に優れる。
【0114】
第3実施形態の排ガス浄化用触媒210は、例えば以下のような方法で製造することができる。まず、基材11と、排ガス浄化層240を形成するための排ガス浄化層形成用スラリーを用意する。排ガス浄化層形成用スラリーは、例えば、触媒金属源(例えば、触媒金属をイオンとして含む溶液)と、MeAPO分子篩と、その他の任意成分(例えば、非OSC材、OSC材、バインダ、各種添加剤等)とを、分散媒中で混合することにより、調製することができる。
【0115】
次に、排ガス浄化層形成用スラリーを、従来公知の方法により、基材11に塗布し、必要に応じ乾燥し、その後焼成する。これにより、基材11上に排ガス浄化層240を形成して、排ガス浄化用触媒210を得ることができる。
【0116】
≪排ガス浄化用触媒10,110,210の用途≫
排ガス浄化用触媒10,110,210は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機等のマリン用製品;草刈機、チェーンソー、トリマー等のガーデニング用製品;ゴルフカート、四輪バギー等のレジャー用製品;コージェネレーションシステム等の発電設備;ゴミ焼却炉;等の内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、自動車等の車両に対して好適に用いることができ、特に、ガソリンエンジンを備える車両に対して好適に用いることができる。なお、本明細書において、「ガソリンエンジン」とは、燃料としてガソリンを使用し、理論空燃比(空気:ガソリン=14.7:1)を含むリッチ領域からリーン域の空燃比の混合気が燃焼されるエンジンであり、リーンバーンエンジンを含まない。
【0117】
ガソリンエンジンからの排ガスの浄化に、排ガス浄化用触媒10,110,210を用いる場合、第1触媒と、排ガスの流動方向において第1触媒よりも下流側に位置する第2触媒とを備える触媒ユニットにおいて、第1触媒として三元触媒を含有するものを用い、第2触媒として、排ガス浄化用触媒10,110,210を用いることが好ましい。このとき、第1触媒において過還元によって生成したNHを、排ガス浄化用触媒10,110,210で効率よく浄化することができ、NH排出量を顕著に低減することができる。第1触媒は、典型的には、基材と、触媒層と、を備える。基材は、第1実施形態における11と同様であってよく、触媒層は、第1実施形態における触媒層30と同様であってよい。
【0118】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0119】
〔実施例1〕
基材として、ハニカム基材(コージェライト製、容積:0.0175L、基材の全長:24mm、セル数:400セル、セル形状:四角形、隔壁の厚み:6mil)を用意した。NH吸着材として、Znで骨格置換されたAFI型ALPO(以下、「ZnAPO-5」とも記す)を用意した。なお、ZnAPO-5において、Zn/(Al+P)で表される原子比は、0.0039であった。また、排ガス浄化層の原料として、以下を用意した。
非OSC材:La複合化Al、La含有量1~10質量%
OSC材:CeO-ZrO系複合酸化物、CeO含有量15~40質量%、Pr、Nd、La、Yが微量添加され、高耐熱化が施されたもの
【0120】
NH吸着材(すなわち、ZnAPO-5)、Al系バインダ、および水溶媒を混合して、NH吸着層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、基材表面をNH吸着層形成用の材料でコーティングした。その後、電気炉内で500℃で1時間焼成した。このようにして、基材上にNH吸着層を形成した。
【0121】
硝酸系Pt水溶液、上記La複合化Al、上記CeO-ZrO系複合酸化物、硫酸Ba、Al系バインダ、および水溶媒を混合して、下側触媒層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、NH吸着層を形成した基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、NH吸着層を下側触媒用形成用の材料でコーティングした。その後、電気炉内で500℃で1時間焼成した。このようにして、基材上にPt触媒を含有する下側触媒層を形成した。
【0122】
次に、硝酸Rh水溶液、上記La複合化Al、上記CeO-ZrO系複合酸化物、Al系バインダ、および水溶媒を混合して、上側触媒層形成用スラリーを調製した。このスラリーを。下側触媒層を形成した基材に流し込み、ブロアーで不要部分を吹き払うことで、下側触媒層の表面を上側触媒層形成用の材料でコーティングした。その後、電気炉内で500℃で1時間焼成した。これにより、下側触媒層上にRh触媒を含有する上側触媒層を形成した。このようにして、NH吸着層、Pt含有下側触媒層、およびRh含有上側触媒層から構成される排ガス浄化層を基材上に備える、実施例1の排ガス浄化用触媒を得た。得られた排ガス浄化用触媒において、基材の体積1L当たりのPtの含有量は0.3g/L、Rhの含有量は0.06g/L、担体(非OSC材+OSC材)の含有量は150g/L、NH吸着材の含有量は108g/Lであった。
【0123】
〔実施例2〕
NH吸着材として、ZnAPO-5に代えて、Zrで骨格置換されたAFI型ALPO(以下、「ZrAPO-5」とも記す)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、ZrAPO-5において、Zr/(Al+P)で表される原子比は、0.011であった。
【0124】
〔実施例3〕
NH吸着材として、ZnAPO-5に代えて、Coで骨格置換されたAFI型ALPO(以下、「CoAPO-5」とも記す)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、CoAPO-5において、Co/(Al+P)で表される原子比は、0.0227であった。
【0125】
〔実施例4〕
NH吸着材として、ZnAPO-5に代えて、Tiで骨格置換されたAFI型ALPO(以下、「TAPO-5」とも記す)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の排ガス浄化用触媒を作製した。なお、TAPO-5において、Ti/(Al+P)で表される原子比は、0.0013であった。
【0126】
〔比較例1〕
NH吸着層形成用スラリーを使用せずにNH吸着層を形成しなかった以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0127】
〔比較例2〕
NH吸着材として、ZnAPO-5に代えて、BEA型ゼオライト(SiO/Al比=500)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0128】
〔比較例3〕
NH吸着材として、ZnAPO-5に代えて、AFI型ALPO-5を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の排ガス浄化用触媒を作製した。
【0129】
[水熱耐久処理]
各実施例および各比較例の排ガス浄化用触媒に、RichガスとLeanガスとを交互に、10分ごとに切り替えながら、900℃で10時間流通させた。このRichガスの組成は、CO:5%、水:10%、N:残部とし、このLeanガスの組成は、O:2.5%、水:10%、N:残部とした。
【0130】
[NHに対する触媒活性評価]
上記水熱耐久処理を施した各実施例および各比較例の排ガス浄化用触媒に、前処理ガスAを流通させながら100℃から500℃まで20℃/分で昇温を行い、5分間500℃に保持した。次いで、不活性ガス(Nガス)を流通させながら100℃まで降温させた。温度が安定した後、反応ガスAを流通させながら650℃まで50℃/分で昇温を行い、反応ガスのNHの浄化率が50%に到達する温度(NH50%浄化温度:T50)を求めた。なお、前処理ガスAおよび反応ガスAとしては、以下のものを用いた。各実施例および各比較例のNH50%浄化温度のグラフを図7に示す。
前処理ガスA
A/F比:14.6;
:2400ppmC、C:600ppmC、CO:0.5%、
NO:800ppm、HO:10%、CO:10%、O:0.6%、N:残部
反応ガスA
NH:500ppm、HO:3%、CO:10%、O:0.1%、N:残部
【0131】
図7のグラフからわかるように、NH吸着層のNH吸着材として、MeALPOを用いた実施例1~4は、NH吸着材を使用しない比較例1、ゼオライトを用いた比較例2、ALPOを用いた比較例3に比べて、水熱耐久後のNH50%浄化温度が低く、低温でも高いNH浄化性能を示した。よって、ここに開示される排ガス浄化用触媒によれば、水熱耐久後におけるコールドスタート時のNH浄化性能が高い排ガス浄化用触媒を提供できることがわかる。
【0132】
実施例1~4の比較より、骨格置換金属の種類に関して、NH浄化性能は、Co>Zr>Ti>Znの順に高かった。
【0133】
[HCに対する触媒活性評価]
上記水熱耐久処理を施した各実施例および比較例1の排ガス浄化用触媒に、上記前処理ガスAを流通させながら100℃から500℃まで20℃/分で昇温を行い、5分間500℃に保持した。次いで、不活性ガス(Nガス)を流通させながら100℃まで降温させた。温度が安定した後、反応ガスBを流通させながら550℃まで50℃/分で昇温を行い、反応ガスのHCの浄化率が50%に到達する温度(HC50%浄化温度:T50)を求めた。なお、反応ガスBとしては、以下のものを用いた。各実施例および比較例1のHC50%浄化温度のグラフを図8に示す。
反応ガスB
A/F比:14.5;
:1500ppmC、C1022:1500ppmC、HO:3%、
CO:10%、O:0.3%、N:残部
【0134】
図8のグラフより、MeALPO分子篩は、HC吸着材としても機能し、ここに開示される排ガス浄化用触媒は、水熱耐久後におけるコールドスタート時のHC浄化性能も高いことがわかる。実施例1~4の比較より、骨格置換金属の種類に関して、HC浄化性能は、Co>Zn>Ti>Zrの順に高かった。
【0135】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、他にも種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。例えば、上記した実施形態の一部を他の変形態様に置き換えることも可能であり、上記した実施形態に他の変形態様を追加することも可能である。また、その技術的特徴が必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することも可能である。
【符号の説明】
【0136】
1 排ガス浄化システム
2 内燃機関
3 排ガス浄化装置
10 第2触媒(排ガス浄化用触媒)
11 基材
20 NH吸着層
30 触媒層
40 排ガス浄化層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8