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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099915
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】電動圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04B 39/00 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
F04B39/00 106Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003543
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】小林 幹生
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和也
【テーマコード(参考)】
3H003
【Fターム(参考)】
3H003AA05
3H003AB05
3H003AC03
3H003CF01
(57)【要約】
【課題】ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子の放熱性(冷却性)を確保しつつ、従来に比べて部品点数を低減させる。
【解決手段】電動圧縮機1において、インバータ5の回路基板7に取り付けられた姿勢にあるノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aである対象電子部品群5Aがブロック状に形成された熱可塑性樹脂からなるブロック体8によって被覆されている。この電動圧縮機1において、回路基板7は、インバータ収容部6におけるハウジング4側に位置する底壁611に対向するとともに、対象電子部品群5Aが取り付けられる、一方の面7aを有し、インバータ収容部6は、底壁611のブロック体8の端面8aに対向する部分に形成される複数の凹部651を有し、ブロック体8は、端面8aから底壁611に向かって突出する複数の突起部8bであって、それぞれが複数の凹部651のうちの自身に対向する凹部651に嵌まり込む、複数の突起部8bを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、
前記電動モータによって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構と、
ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子である対象電子部品群を含むとともに、前記電動モータを駆動するインバータと、
前記圧縮機構及び前記電動モータを収容するハウジングと、
前記ハウジングと隣り合って設けられ前記インバータを収容するインバータ収容部と、
前記インバータの回路基板に取り付けられた姿勢にある前記対象電子部品群を被覆し且つブロック状に形成された樹脂からなるブロック体と、
を含む、電動圧縮機であって、
前記回路基板は、前記インバータ収容部における前記ハウジング側に位置する底壁に対向するとともに、前記対象電子部品群が取り付けられる、一方の面を有し、
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であり、
前記インバータ収容部は、前記底壁のうちの前記ブロック体の端面に対向する部分に形成される複数の凹部を有し、
前記ブロック体は、前記端面から前記底壁に向かって突出する複数の突起部であって、それぞれが前記複数の凹部のうちの自身に対向する凹部に嵌まり込む、複数の突起部を有する、電動圧縮機。
【請求項2】
前記複数の突起部のそれぞれは、突出方向に交差する方向の自身の変形を許容する変形許容溝を有する、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記対象電子部品群は、前記回路基板を前記インバータ収容部に固定する基板固定ボルトが貫通するスリーブ部品と一緒に、前記ブロック体によって被覆されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記インバータは、複数のパワースイッチング素子を有するスイッチング部と、外部信号に基づいて前記複数のパワースイッチング素子を制御する制御部と、を含み、
前記スイッチング部及び前記制御部を構成する電子部品は、前記対象電子部品群と一緒に、前記回路基板に取り付けられており、
前記回路基板は、前記インバータ収容部に着脱自在に構成されている、請求項1に記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記インバータ収容部の前記底壁のうちの前記ブロック体の前記端面に対向する部分と、前記ブロック体の前記端面との間には、隙間が設けられている、請求項1から4のいずれか一つに記載の電動圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータを一体に有する電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空調装置などで冷媒の圧縮に用いられる電動圧縮機の多くは、インバータを一体に有し、車載バッテリなどからの直流電力を交流電力に変換しながら圧縮機構を駆動する電動モータへの給電を制御している(電動モータを駆動している)。そして、インバータの回路には、ノイズを抑制するためのノイズ抑制素子(ノイズフィルタともいう)やインバータに入力される直流電力の電圧を平滑化する電圧平滑素子(平滑コンデンサともいう)が組み込まれている。このような電動圧縮機の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された電動圧縮機では、ノイズフィルタ及び平滑コンデンサの全体が、耐振性の観点により、樹脂で覆われている。
【0003】
ここで、インバータは、ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子(ノイズフィルタ及び平滑コンデンサ)を含んでおり、これらノイズ抑制素子及び電圧平滑素子については発熱による温度上昇を抑制することが求められ得る。この点に関し、特許文献1には、ノイズフィルタ及び平滑コンデンサとこれらを覆った樹脂とを有するアッセンブリの外壁とハウジングの内壁との間に、放熱シート部材が介装されることで、アッセンブリ内の電子部品から発生した熱を、放熱シート部材を介して放熱することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-36394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような構成では、アッセンブリとハウジングとの間に放熱シート部材を配設しなければならず、コストなどの観点で改善の余地があった。
【0006】
そこで、本発明は、ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子の放熱性(冷却性)を確保しつつ、従来に比べて部品点数を低減させることのできる電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面によると、電動圧縮機が提供される。この電動圧縮機は、電動モータと、前記電動モータによって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構と、ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子である対象電子部品群を含むとともに、前記電動モータを駆動するインバータと、前記圧縮機構及び前記電動モータを収容するハウジングと、前記ハウジングと隣り合って設けられ前記インバータを収容するインバータ収容部と、前記インバータの回路基板に取り付けられた姿勢にある前記対象電子部品群を被覆し且つブロック状に形成された樹脂からなるブロック体と、を含む。この電動圧縮機において、前記回路基板は、前記インバータ収容部における前記ハウジング側に位置する底壁に対向するとともに、前記対象電子部品群が取り付けられる、一方の面を有し、前記樹脂は、熱可塑性樹脂であり、前記インバータ収容部は、前記底壁のうちの前記ブロック体の端面に対向する部分に形成される複数の凹部を有し、前記ブロック体は、前記端面から前記底壁に向かって突出する複数の突起部であって、それぞれが前記複数の凹部のうちの自身に対向する凹部に嵌まり込む、複数の突起部を有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子の放熱性(冷却性)を確保しつつ、従来に比べて部品点数を低減させることのできる電動圧縮機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る電動圧縮機の概略縦断面図である。
図2】インバータ収容部のカバー部材が取り外された状態の実施形態に係る電動圧縮機をインバータ収容部側から見た図である。
図3】実施形態に係る電動圧縮機のインバータの回路の一例を示す図である。
図4】回路基板に取り付けられた姿勢にある対象電子部品群がブロック体によって被覆される前の状態を説明するための図である。
図5】対象電子部品群がブロック体によって被覆された状態を説明するための図である。
図6】インバータ収容部の内部構造を説明するための分解斜視図である。
図7】ブロック体の端面の複数の突起部を説明するための斜視図である。
図8図7の部分拡大斜視図である。
図9】ブロック体の端面の拡大平面図である。
図10】凹部に嵌まり込む際の突起部の変形を説明するため図であり、(a)は変形前の部分断面図、(b)は変形後の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る電動圧縮機1の概略縦断面図である。実施形態に係る電動圧縮機1は、インバータを一体に有する、いわゆるインバータ一体型電動圧縮機である。電動圧縮機1は、例えば、車両に搭載されて車両用空調装置の冷媒回路の一部を構成し、冷媒を圧縮して吐出するように構成され得る。
【0012】
図1を参照すると、電動圧縮機1は、電動モータ2と、電動モータによって駆動されて冷媒を圧縮する圧縮機構3と、電動モータ2及び圧縮機構3を収容するハウジング4と、電動モータ2を駆動するインバータ5と、ハウジング4と隣り合って設けられインバータ5を収容するインバータ収容部6と、を含む。
【0013】
電動モータ2は、例えば三相同期モータ(ブラシレスDCモータ)である。圧縮機構3は、例えばスクロール圧縮機構である。電動モータ2と圧縮機構3とは、ハウジング4内において、電動モータ2の出力軸2aの軸方向に直列に配置されている。電動モータ2の出力軸2aは、圧縮機構3(スクロール圧縮機構の場合には旋回スクロール)に連結されている。
【0014】
インバータ5は、各種の電子部品(後述する)と、各種の電子部品が取り付けられる(実装された)回路基板7とを含む。換言すれば、本実施形態において、各種の電子部品が回路基板7に取り付けられてインバータ5を構成している。
【0015】
インバータ収容部6は、ハウジング4と隣り合って設けられている。インバータ収容部6は、前記軸方向におけるハウジング4の一端側に、具体的には、電動モータ2を挟んで圧縮機構3とは反対側に配置されており、ハウジング4と一体的に設けられている。本実施形態において、インバータ収容部6は、ハウジング4と一体に形成された収容部本体61と、収容部本体61に対して取り外し可能なカバー部材62とを含む。
【0016】
収容部本体61は、インバータ収容部6におけるハウジング4側に位置する底壁611と、底壁611の周縁から立ち上がると共に底壁611に対向する開口部を画定する周壁612と、を有する。カバー部材62は、収容部本体61に取り付けられて前記開口部を閉塞するように構成されている。収容部本体61の底壁611(インバータ収容部6の底壁でもある)の一部は、ハウジング4内とインバータ収容部6内とを仕切る仕切壁Wを構成している。なお、インバータ5から電動モータ2への給電線Lは、気密及び液密な状態で仕切壁Wを貫通して延びている。
【0017】
図2は、インバータ収容部6のカバー部材62が取り外された状態の電動圧縮機1をインバータ収容部6側から見た図である。図2に示されるように、インバータ5を構成する回路基板7は、インバータ収容部6(収容部本体61)内に、複数の基板固定ボルト11(固定部材)により取り付けられている。
【0018】
図1に戻り、ハウジング4の仕切壁W側の部位には、冷媒流入口4aが形成されている。ハウジング4内に流入した冷媒は、ハウジング4内(電動モータ2の隙間)を流れて圧縮機構3に至り、圧縮機構3は、電動モータ2によって駆動されて冷媒を圧縮して吐出する。ハウジング4内に流入する冷媒は、例えば、車両用空調装置の冷媒回路における膨張弁及び蒸発器などを通過した冷媒であり、低温低圧の冷媒である。したがって、冷媒流入口4aからハウジング4内に流入する冷媒によって、仕切壁Wを含む底壁611及び電動モータ2が冷却され得る。ハウジング4内を流れた冷媒は、圧縮機構3によって圧縮されて高温高圧の冷媒となって圧縮機構3から吐出される。そして、圧縮機構3から吐出された(高温高圧)の冷媒は、ハウジング4に形成された冷媒流出口4bから流出する。
【0019】
ここで、インバータ5について簡単に説明する。図3は、インバータ5の回路構成の一例を示す図である。本実施形態において、インバータ5は、外部電源(例えば、車載バッテリ)VBからの直流電力を三相交流電力に変換して電動モータ2に供給するように構成されている。
【0020】
図3に示されるように、インバータ5は、電圧平滑部51と、スイッチング部52と、制御部(制御回路)53と、ノイズフィルタ54とを含む。そして、上述のように、これらが回路基板7に実装されてインバータ5を構成している。
【0021】
電圧平滑部51は、電圧平滑素子51aである平滑コンデンサを含む。電圧平滑部51は、外部電源VBの電源ラインと接地ラインとの間に接続され、外部電源VBからの直流電圧を平滑化する。
【0022】
スイッチング部52は、6つのパワースイッチング素子Q1~Q6と、6つのダイオードD1~D6とを有する。特に限定されないが、パワースイッチング素子Q1~Q6は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)であり得る。スイッチング部52は、パワースイッチング素子Q1~Q6が制御(PMW制御)されることにより、電圧平滑素子51aによって平滑化された外部電源VBからの直流電圧を三相交流電圧に変換して電動モータ2に供給するように構成されている。
【0023】
スイッチング部52についてさらに説明すると、スイッチング部52は、外部電源VBの電源ラインと接地ラインとの間に互いに並列に設けられたU相アーム、V相アーム、及びW相アームを有する。U相アームには、2つのパワースイッチング素子Q1、Q2が直列に接続されており、各パワースイッチング素子Q1、Q2にはダイオードD1、D2がそれぞれ逆並列に接続されている。V相アームには、2つのパワースイッチング素子Q3、Q4が直列に接続されており、各パワースイッチング素子Q3、Q4にはダイオードD3、D4がそれぞれ逆並列に接続されている。W相アームには、2つのパワースイッチング素子Q5、Q6が直列に接続されており、各パワースイッチング素子Q5、Q6にはダイオードD5、D6がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0024】
また、U、V、W各相アームの中間点は、それぞれの一端においてスター結線された電動モータ2のU、V、W各相コイルの他端に接続されている。つまり、U相アームのパワースイッチング素子Q1、Q2の中間点がU相コイルに接続され、V相アームのパワースイッチング素子Q3、Q4の中間点がV相コイルに接続され、及び、W相アームのパワースイッチング素子Q5、Q6の中間点がW相コイルに接続されている。
【0025】
そして、各相アームの電源ライン側のパワースイッチング素子のON期間と接地ライン側のパワースイッチング素子のON期間との比率が制御されることにより、すなわち、複数のパワースイッチング素子Q1~Q6がPWM制御されることにより、スイッチング部52は、電圧平滑素子51aによって平滑化された外部電源VBからの直流電力を三相交流電力に変換して電動モータ2に供給することができ、これによって、電動モータ2を駆動することができる。
【0026】
制御部53は、外部信号(例えば、上述の車両用空調装置の制御装置からの制御信号)に基づいて、電動モータ2、ひいては圧縮機構3を駆動するため、パワースイッチング素子Q1~Q6を制御(PWM制御)する。
【0027】
ノイズフィルタ54は、図示省略のコンデンサやコイル(インダクタ)などノイズ抑制素子54aを含む。特に限定されるものではないが、本実施形態において、ノイズフィルタ54は、電圧平滑部51とスイッチング部52との間に設けられており、主にパワースイッチング素子Q1~Q6の動作に起因するリップルノイズやEMI/EMCノイズなどを抑制する。
【0028】
そして、ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51a(以下、適宜に、対象電子部品群5Aという)は、インバータ5の回路を構成する複数の電子部品のなかで比較的に大型、大重量の部品であり、振動の影響を受け易い部品である。以上のようにして、ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aである対象電子部品群5Aを含むとともに、電動モータ2を駆動するインバータ5が構成されている。
【0029】
図1に戻り、回路基板7は、インバータ収容部6(収容部本体61)におけるハウジング4側に位置する底壁611に対向する一方の面7aを有する。そして、対象電子部品群5Aは、回路基板7の両面のうちの底壁611に対向する一方の面7aに、取り付けられている。つまり、回路基板7は、インバータ収容部6の底壁611に対向するとともに、対象電子部品群5Aが取り付けられる、一方の面7a(換言すると、回路基板7の仕切壁側の面)を有する。
【0030】
特に限定されるものではないが、本実施形態では、インバータ5を構成する電子部品のうち、スイッチング部52のパワースイッチング素子Q1~Q6と制御部53を構成する電子部品は、対象電子部品群5Aと同様に回路基板7の一方の面7aに取り付けられている。つまり、本実施形態では、スイッチング部52及び制御部53を構成する電子部品は、対象電子部品群5Aと一緒に、回路基板7に取り付けられている。
【0031】
ここで、図1を参照すると、電動圧縮機1は、ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aである対象電子部品群5Aを被覆するブロック体8を含む。図1に示されるように、ブロック体8は、インバータ5の回路基板7に取り付けられた姿勢にある対象電子部品群5Aを被覆し且つブロック状に形成された樹脂からなる部材である。つまり、対象電子部品群5Aが回路基板7に電気的に接続されて取り付けられた状態で、ブロック体8は対象電子部品群5Aの周囲を被覆するように樹脂により成形されて回路基板7と一体化されている。
【0032】
ブロック体8に用いられる樹脂は、熱可塑性樹脂であり、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステル系エラストマー、又は、熱可塑性ポリアミド系エラストマーなどの、ゴムに近い弾性を有し且つプラスチックと同程度の良好な成形性を有する熱可塑性エラストマーである。これらの樹脂の場合には、成形の際の樹脂の注入圧力は、一般的な射出成形の場合の射出圧力と比較すると低圧であり且つ大気圧より高い。したがって、成形時における電子部品への負荷が射出成形の場合よりも低減されることになる。なお、ブロック体8の形状については、後に詳述する。
【0033】
図4は、回路基板7に取り付けられた姿勢にある対象電子部品群5Aがブロック体8によって被覆される前の状態を説明するための図であり、図5は、対象電子部品群5Aがブロック体8によって被覆された状態を説明するための図である。図4に示されるように、対象電子部品群5A(ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51a)は、回路基板7の一方の面7aにおける所定の領域に集約されるように取り付けられている。そして、ブロック体8は、回路基板7の一方の面7aに取り付けられた姿勢にある対象電子部品群5Aを被覆することで、図5に示されるように、回路基板7と一体化されている。
【0034】
次に、本実施形態におけるインバータ5の収容構造について説明する。上述のように、本実施形態において、インバータ5は、インバータ収容部6に収容される。
【0035】
図6は、インバータ収容部6の内部構造を説明するための分解斜視図である。上述のように、インバータ収容部6は、収容部本体61と、カバー部材62とを含む。また、本実施形態において、インバータ収容部6は、内部に、パワースイッチング素子Q1~Q6が設置される第1設置部63と、回路基板7を支持する基板支持部64と、ブロック体8が設置される第2設置部65と、を有する。なお、図1は概略断面図であるため、図1に示された収容部本体61の内底面の形状は図6に示された収容部本体61の内底面の形状と厳密に一致していない。
【0036】
第1設置部63は、収容部本体61の内底面、具体的には、底壁611の一部である仕切壁Wのインバータ収容部6側の面に設定されており、平坦な面として形成されている。本実施形態では、パワースイッチング素子Q1~Q6は、2列に並んで配置されている。すなわち、パワースイッチング素子Q1、Q3及びQ5が一方側に配置され、パワースイッチング素子Q2、Q4及びQ6が他方側に配置されている。第1設置部63の近傍には、パワースイッチング素子Q1~Q6を固定するための固定部材としての素子固定ボルト12が螺合される、ボルト穴631が形成されている。
【0037】
基板支持部64は、第1設置部63よりも仕切壁W(のインバータ収容部6側の面)から離れた位置で回路基板7を支持するように構成されている。つまり、インバータ収容部6内において、回路基板7は、パワースイッチング素子Q1~Q6よりもカバー部材62に近い位置に配置される。本実施形態において、基板支持部64は、それぞれが収容部本体61の内底面、すなわち、仕切壁Wのインバータ収容部6側の面から突出した複数の脚部641を含み、複数の脚部641のそれぞれの上面には、上述の基板固定ボルト11(図2参照)が螺合されるボルト穴が形成されている。
【0038】
第2設置部65は、収容部本体61の内底面、具体的には、底壁611のうちのブロック体8の端面8aに対向する部分の面に設定されている。第2設置部65の大部分の面は、平坦な面として形成されており、第2設置部65の一部はカバー部材62側に凸形成されている。そして、第2設置部65には、複数の凹部651が形成されている。つまり、インバータ収容部6は、底壁611のうちのブロック体8の端面8aに対向する部分に形成される複数の凹部651を有する。
【0039】
複数の凹部651は、互いに間隔を空けて配列されており、同形状の有底の穴として形成されている。本実施形態では、複数の凹部651のそれぞれは、ストレート円形穴として形成されている。
【0040】
図6を参照すると、パワースイッチング素子Q1~Q6のそれぞれは、3つの端子c1を有する。本実施形態において、3つの端子c1は、パワースイッチング素子の1つの側面から側方に延びると共に途中で屈曲して先端が上方を向いている。本実施形態において、パワースイッチング素子Q1~Q6は、絶縁シート41を介してインバータ収容部6の第1設置部63に載置された状態で、二個の素子固定ボルト12及びプレート66を介して第1設置部63に固定される。
【0041】
具体的には、絶縁シート41は、放熱性及び絶縁性を有する材料で形成され、パワースイッチング素子Q1~Q6の下面全体をカバーできる大きさを有する。そして、絶縁シート41は、パワースイッチング素子Q1~Q6の下面と第1設置部63との間に挟まれている。そして、パワースイッチング素子Q1~Q6は、列毎にプレート66と絶縁シート41との間に挟まれることで固定されている。素子固定ボルト12用のボルト穴631の形成部分はカバー部材62側に突出しており、プレート66の基端が素子固定ボルト12によってボルト穴631の形成部分に固定されている。その結果、パワースイッチング素子Q1、Q3及びQ5とパワースイッチング素子Q2、Q4及びQ6が、それぞれ、素子固定ボルト12及びプレート66によって、第1設置部63に押さえ付けられて固定されている。
【0042】
次に、ブロック体8の形状について、説明する。図7はブロック体8の形状を説明するための斜視図であり、図8図7の部分拡大斜視図であり、図9はブロック体8の端面8aの拡大平面図である。
【0043】
図1を参照すると、ブロック体8は、複数の電子部品(ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51a)の表面を被覆しているだけではなく、複数の電子部品の間を埋めるようにブロック状に形成されている。
【0044】
そして、図7及び図8を参照すると、ブロック体8は、その端面8aからインバータ収容部6(収容部本体61)の底壁611に向かって突出する複数の突起部8bであって、それぞれがインバータ収容部6(第2設置部65)の複数の凹部651のうちの自身に対向する凹部651に嵌まり込む、複数の突起部8bを有する。つまり、複数の突起部8bと複数の凹部651は、一対一の関係で、互いに嵌合可能な断面形状でそれぞれ形成されている。突起部8bの個数は凹部651の個数と一致している。ここで、突起部8bは熱可塑性樹脂からなるブロック体8の一部であるので、突起部8bも熱可塑性を有する。ただし、突起部8bは、ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aの発熱による温度上昇の範囲内において凹部651との嵌合状態を保持することのできる、耐熱性を有している。
【0045】
特に限定されるものではないが、本実施形態では、複数の凹部651のそれぞれは上述のようにストレート円形穴として形成されており、複数の突起部8bのそれぞれは先細りの円錐台状外面を有している。つまり、各凹部651の穴径は深さ方向で変化なく一定であり、各凹部651の内部は直線的に伸びる円柱空間として形成されている。そして、各突起部8bは、全体として僅かに先細りの概ねテーパーピン状の外形で形成されており、テーパー角度は成形時の型抜き勾配又はそれより僅かに大きな角度に設定されている。
【0046】
図9を参照すると、本実施形態では、複数の突起部8bのそれぞれは、突出方向に交差する方向の自身の変形を許容する変形許容溝8cを有する。特に限定されるものではないが、変形許容溝8cは、例えば、ブロック体8の端面8aに向かって見た平面視で、互いに直交するX字状溝8c1と、突起部8bの中心軸線に沿って延び且つX字状溝8c1の交点を通る円柱状溝8c2と、を有する溝として形成されている。
【0047】
図10は凹部651に嵌まり込む際の突起部8bの変形を説明するため図であり、(a)は変形前の部分断面図、(b)は変形後の部分断面図である。図10(a)を参照すると、突起部8bの外形寸法は、凹部651の穴直径よりも僅かに大きく設定されている。そして、突起部8bの先端角部が凹部651の開口角部に当接すると、突起部8bは、突出方向に交差する方向、具体的には、突起部8bの中心軸線に向かう方向(換言すると、凹部651の径方向内側に向かう方向)に、先端側から徐々に縮径するように弾性変形する。そして、図10(b)に示されるように、突起部8bは、自身の基端近傍まで凹部651内に嵌まり込み、凹部651に保持される。この嵌まり込みが各突起部8bでなされる。その結果、回路基板7に取り付けられた姿勢にあるノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aを被覆したブロック体8が複数の突起部8bと複数の凹部651との嵌合によって、インバータ収容部6における所定の位置(第2設置部65)に位置決めされ、保持される。
【0048】
本実施形態では、対象電子部品群5Aは、回路基板7をインバータ収容部6に固定する基板固定ボルト11が貫通するスリーブ部品9と一緒に、ブロック体8によって被覆されている。スリーブ部品9は、回路基板7における対象電子部品群5Aの周囲のうちの複数の箇所(図では、三箇所)に配置されている。スリーブ部品9は、例えば、金属製の円筒部材である。スリーブ部品9は、ブロック体8における外縁部で且つ回路基板7側の端面に寄せた位置でブロック体8と一体成形されている。そして、図1を参照すると、スリーブ部品9の一端は回路基板7の一方の面7aに当接しており、スリーブ部品9の他端は、基板支持部64の複数の脚部641のうちの第2設置部65の周囲の所定の脚部641の上面に当接している。
【0049】
次に、回路基板7の基板支持部64への取り付けについて、説明する。本実施形態では、回路基板7は、複数のパワースイッチング素子Q1~Q6が第1設置部63に設置(固定)された後に、基板支持部64に取り付けられる。
【0050】
本実施形態において、回路基板7には、インバータ5を構成する電子部品のうち、パワースイッチング素子Q1~Q6以外の他の電子部品があらかじめ実装されている。具体的には、本実施形態では、回路基板7における収容部本体61の底壁611に対向する一方の面7a(回路基板7が基板支持部64に取り付けられたときに仕切壁Wを向く面)に、対象電子部品群5A(ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51a)、ダイオードD1~D6、及び、制御部53を構成する電子部品があらかじめ実装されている(電気的に接続され、取り付けられている)。但し、図4から図6においては、ダイオードD1~D6が省略されている。
【0051】
そして、回路基板7の一方の面7aに取り付けられた姿勢にある対象電子部品群5Aは、複数(図では三個)のスリーブ部品9と一緒に、ブロック体8によって被覆され、回路基板7と一体化されている。
【0052】
また、回路基板7には、パワースイッチング素子Q1~Q6のそれぞれの端子c1が接続(挿通)される端子孔71が形成されている。さらに、回路基板7には、それぞれに基板固定ボルト11が挿通可能な複数の挿通孔72が形成されている。複数の挿通孔72は、基板支持部64を構成する複数の脚部641に対応するように配置されている。
【0053】
そして、回路基板7は、一方の面7aを下側にしてインバータ収容部6の基板支持部64(すなわち、複数の脚部641の上面)に載置される。このとき、ブロック体8の端面8aの各突起部8bは弾性変形しインバータ収容部6の対応する凹部651に嵌まり込む。本実施形態では、ノイズ抑制素子54aの回路基板7からの高さは、電圧平滑素子51aの回路基板7からの高さより低い。そのため、ブロック体8の端面8aにおけるノイズ抑制素子54aを被覆している部分の回路基板7からの高さは、ブロック体8の端面8aにおける電圧平滑素子51aを被覆している部分の回路基板7からの高さより低い。そして、ブロック体8の端面8aの高さの相違に合わせて、インバータ収容部6の第2設置部65の凹部651の形成部分の面の高さ位置が相違している。つまり、第2設置部65のうちのノイズ抑制素子54aに対応する凹部651の形成部分の面は、第2設置部65のうちの電圧平滑素子51aに対応する凹部651の形成部分の面よりもカバー部材62側に位置している。つまり、本実施形態では、ブロック体8が設置される第2設置部65に、段差が設けられている。
【0054】
さらに、回路基板7の複数の挿通孔72は、複数の脚部641の上面に形成されたボルト穴上に配置され、パワースイッチング素子Q1~Q6のそれぞれの端子c1は、回路基板7の端子孔71に挿通されて先端部が回路基板7の前記他方の面(前記仕切壁側の面とは反対側の面)から突出する。
【0055】
その後、基板支持部64(複数の脚部641の上面)に載置された回路基板7は、複数の基板固定ボルト11によって基板支持部64に固定される。具体的には、複数の挿通孔72に挿通された複数の基板固定ボルト11が、複数の脚部641の上面に形成されたボルト穴に螺合されることで、回路基板7が基板支持部64に固定される。このとき、複数の基板固定ボルト11のうちのブロック体8の周囲のいくつか(図では3本)の基板固定ボルト11のそれぞれはブロック体8と一体化されたスリーブ部品9を通っており、ブロック体8も基板固定ボルト11によって基板支持部64に共締めされる。また、パワースイッチング素子Q1~Q6のそれぞれの端子c1の先端部が回路基板7に半田付けされることでパワースイッチング素子Q1~Q6と回路基板7とが電気的に接続される。以上により、回路基板7が基板支持部64に取り付けられる。その後、カバー部材62が図示省略の締結ボルトなどを介して収容部本体61に取り付けられることで、インバータ5がインバータ収容部6に収容される。
【0056】
本実施形態では、インバータ収容部6の底壁611のうちのブロック体8の端面8aに対向する部分(第2設置部65)と、ブロック体8の端面8aとの間には、隙間が設けられている。つまり、突起部8bが弾性変形して凹部651に嵌まり込んだ状態で、ブロック体8の端面8aは、第2設置部65に接触していない。
【0057】
本実施形態では、回路基板7は、複数の基板固定ボルト11及び基板支持部64を介して、インバータ収容部6に着脱自在に構成されている。なお、回路基板7における素子固定ボルト12に対応する部分には、ボルト緩め用のサービス孔73が形成されており、回路基板7を取り外す場合には、素子固定ボルト12がサービス孔73を通じて挿通される工具によって緩められることで、素子固定ボルト12及びプレート66によるパワースイッチング素子Q1~Q6への押さえつけが解除され、その結果、回路基板7がインバータ5を構成する各電子素子とブロック体8と一緒に取り外される。
【0058】
本実施形態に係る電動圧縮機1によれば、以下のような効果が得られる。
【0059】
インバータ5の回路基板7に取り付けられた姿勢にあるノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51aである対象電子部品群5Aがブロック状に形成された熱可塑性樹脂からなるブロック体8によって被覆されており、回路基板7はインバータ収容部6におけるハウジング4側に位置する底壁611に対向するとともに対象電子部品群5Aが取り付けられる一方の面7aを有し、インバータ収容部6は底壁611のうちのブロック体8の端面8aに対向する部分に形成される複数の凹部651を有し、ブロック体8は、その端面8aから底壁611に向かって突出する複数の突起部8bであって、それぞれが複数の凹部651のうちの自身に対向する凹部651に嵌まり込む、複数の突起部8bを有している。このため、対象電子部品群5A(ノイズ抑制素子54a及び電圧平滑素子51a)から発生した熱が、放熱シート部材を別に設けることなく、ブロック体8自体の複数の突起部8bから複数の凹部651の内壁を通じて、広い伝熱面積でハウジング4側に効率的に放熱される。このように、電動圧縮機1は、ノイズ抑制素子及び電圧平滑素子の放熱性(冷却性)を確保しつつ、従来に比べて部品点数を低減させることができ、ひいては、製造コストの低コスト化が図られる。
【0060】
また、ブロック体8が熱可塑性樹脂により形成されているため、突起部8b及び凹部651の寸法の製造公差が大きくても、突起部8bが弾性変形することで、突起部8bと凹部651との嵌合が成立するので、組立作業性の向上も図られる。本実施形態のように、ブロック体8が設置される第2設置部65に、段差が設けられている場合であっても、突起部8bが弾性変形することで、設置面の高さの微調整をシムや薄いシート材を用いることなく、ブロック体8が安定して設置される。また、熱可塑性樹脂の弾性により、嵌合の際の電子部品への反発力の発生も抑えられ、電子部品への負荷の低減が図られる。
【0061】
本実施形態では、複数の突起部のそれぞれは、突出方向に交差する方向の自身の変形を許容する変形許容溝8cを有する。これにより、突起部8bがより弾性変形し易くなるため、組立時のブロック体8の位置決めが容易になり、組立作業性の更なる向上が図られ得る。
【0062】
本実施形態では、対象電子部品群5Aは、回路基板7をインバータ収容部6に固定する基板固定ボルト11が貫通するスリーブ部品9と一緒に、ブロック体8によって被覆されている。これにより、対象電子部品群5Aの耐振性の向上が図られる。
【0063】
本実施形態では、スイッチング部52及び制御部53を構成する電子部品は、対象電子部品群5Aと一緒に、回路基板7に取り付けられており、回路基板7は、インバータ収容部6に着脱自在に構成されている。これにより、インバータ5の部品点数の削減、小型化、組付け性が向上する。
【0064】
本実施形態では、インバータ収容部6の底壁611のうちのブロック体8の端面8aに対向する部分と、ブロック体8の端面8aとの間には、隙間が設けられている。これにより、ブロック体8自体の樹脂使用量が抑制される。
【0065】
なお、ブロック体8の端面8aは底壁611に接触してもよい。また、突起部8bの変形許容溝8cの形状は、X字状に限らず、I字状などでもよい。また、変形許容溝8cは無くてもよい。そして、突起部8b及び凹部651は嵌合可能であればよく、突起部8b及び凹部651の形状や個数は任意に設定可能である。
【0066】
以上、本発明の実施形態及びその変形例について説明したが、本発明は、上述の実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらなる変形が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0067】
1…電動圧縮機、2…電動モータ、3…圧縮機構、4…ハウジング、5…インバータ、5A…対象電子部品群、51a…電圧平滑素子、54a…ノイズ抑制素子、6…インバータ収容部、7…回路基板、7a…一方の面、8…ブロック体、8a…端面、8b…複数の突起部、8c…変形許容溝、9…スリーブ部品、11…基板固定ボルト、52…スイッチング部、53…制御部、611…底壁、651…複数の凹部、Q1~Q6…パワースイッチング素子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10