(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009993
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】リーン車両
(51)【国際特許分類】
F02N 11/08 20060101AFI20240116BHJP
B62J 43/30 20200101ALI20240116BHJP
F02N 11/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
F02N11/08 X
B62J43/30
F02N11/08 L
F02N11/00 U
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178913
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2021526904の分割
【原出願日】2020-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/025567
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001531
【氏名又は名称】弁理士法人タス・マイスター
(72)【発明者】
【氏名】日野 陽至
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数を増加できるリーン車両を提供する。
【解決手段】リーン車両1は、路面と接地するトレッド面TRを有し、前記トレッド面TRの断面形状は円弧状である車輪3a、3bと、前記車輪3bを駆動するためのトルクを前記クランク軸15から出力するエンジン10と、永久磁石を有し、前記クランク軸15を回転させ前記エンジン10を始動する永久磁石式始動モータ20と、前記エンジン10の始動時に前記永久磁石式始動モータ20に電力を供給するディープサイクル鉛バッテリ4と、前記エンジン10の始動時に前記永久磁石式始動モータ20に電力を供給する前記ディープサイクル鉛バッテリ4と常時並列接続されて、前記永久磁石式始動モータ20によって前記エンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタ71と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
左旋回中に車両左方向に傾斜し右旋回中に車両右方向に傾斜するリーン車両であって、
前記リーン車両は、
路面と接地するためのトレッド面を有し、前記トレッド面の断面形状は円弧状である車輪と、
クランク軸を有し前記車輪を駆動するためのトルクを前記クランク軸から出力するエンジンと、
永久磁石を有し、前記クランク軸を回転させ前記エンジンを始動する永久磁石式始動モータと、
前記エンジンの始動時に前記永久磁石式始動モータに電力を供給するディープサイクル鉛バッテリと、
前記エンジンの始動時に前記永久磁石式始動モータに電力を供給する前記ディープサイクル鉛バッテリと常時並列接続され、始動の前に前記ディープサイクル鉛バッテリから出力される電力によってエンジンを始動できる程度の電力を充電することができるよう、前記永久磁石式始動モータによって前記エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタと、
を備える。
【請求項2】
請求項1に記載のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、30F以上の静電容量を有する。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のリーン車両であって、
5から7つの前記電気二重層キャパシタが、直列接続されている。
【請求項4】
請求項1から3いずれか1項に記載のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、前記ディープサイクル鉛バッテリが前記リーン車両の車体から取り外される時点で前記車体に取り付けられた状態を維持するように、前記車体に取り付けられている。
【請求項5】
請求項1から4いずれか1項に記載のリーン車両であって、
前記永久磁石式始動モータは、前記永久磁石で構成された複数の磁極部を有するロータと、
複数のスロットが前記永久磁石式始動モータの周方向に間隔を空けて形成された複数のティースを有するステータコア及び前記スロットを通るように設けられた巻線を有するステータと、を備え、
前記磁極部の数は前記複数のティースの数より多い。
【請求項6】
請求項1から5いずれか1項に記載のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、外部と接続する端子として機能するリード線を備えたリードタイプである。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項に記載のリーン車両であって、 前記ディープサイクル鉛バッテリは、縦、横、及び高さを有する直方体状をなし、前記縦、前記横、及び前記高さのうち最も短い前記縦を含む上面部に正の端子及び負の端子が設けられ、
前記電気二重層キャパシタは、互いに直列接続された5個から7個のいずれかの円柱状であって、前記電気二重層キャパシタの直径φ及び高さLcと、前記上面部の前記横の長さLb及び前記縦の長さWとの関係は下の式(A)及び(B)の通りである。
(Lb/7)≦φ≦ (Lb/5) (A)
Lc ≦ W (B)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーン車両に関する。
【背景技術】
【0002】
リーン車両として、例えば、特許文献1には、エンジンと、モータジェネレータと、バッテリとを備えた自動二輪車が示されている。
特許文献1のモータジェネレータは、バッテリから電力の供給を受けてエンジンのクランク軸を回転駆動させる。また、モータジェネレータは、クランク軸の回転動力に基づいて回生発電を行い、発生した電力をバッテリに充電する。
【0003】
特許文献1に示すようなリーン車両では、スタータモータへ駆動電流を供給するバッテリとして、鉛バッテリが用いられる場合が多い。
【0004】
モータジェネレータが発電する期間が短い場合又は発電する期間がない場合、エンジンが始動する度にバッテリの充電量は減少する。鉛バッテリは、通常、蓄えられた電力が所定量放電すると、鉛バッテリ自体が備える蓄電能力が劣化してしまう。すなわち、鉛バッテリが劣化し再度充電をしても蓄電可能な電力の限度が低下してしまう。
従って、バッテリの大型化を避けつつバッテリの蓄電能力の劣化を抑えようとする場合、エンジンがモータジェネレータを駆動する期間が短い場合又は駆動する期間がない場合にエンジンを始動できる回数は制限される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リーン車両では、車両の大型化を抑制しつつ、バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でもエンジンを始動できる回数を増加することが望まれている。
【0007】
本発明の目的は、車両の大型化を抑制しつつ、バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でもエンジンを始動できる回数を増加できるリーン車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鉛バッテリを用いたエンジンの始動について検討した。
【0009】
鉛バッテリには、ディープサイクル鉛バッテリがある。ディープサイクル鉛バッテリは、深放電に対応したバッテリである。深放電に対応しない、エンジン始動用のバッテリは、スターティングバッテリと称される。
スターティングバッテリは、一般的にエンジンを始動するために使用される。エンジンの始動では、短時間に大きな始動電流を出力することが求められる。スターティングバッテリは、大きな始動電流を出力するため、例えば複雑な表面構造により表面積が増加した電極プレートを有する。より詳細には、電極プレートに鉛スポンジ構造が設けられている。
スターティングバッテリを用いた場合に深放電すると、即ち充電量に対し放電量が大きすぎると、プレートの表面構造が消耗する。この結果、蓄電能力が低下する。
【0010】
これに対し、ディープサイクル鉛バッテリでは、深放電した場合における蓄電能力の低下が抑えられている。ディープサイクル鉛バッテリは、例えば、表面構造の複雑さが少ないプレートを有する。例えば、ディープサイクル鉛バッテリは、鉛スポンジ構造が設けられていない電極プレートを有する。このため、電極プレートの表面構造の消耗が抑えられる。ディープサイクル鉛バッテリは、例えば、充電の後で長時間EV走行するフォークリフトやゴルフカートに使用される。
しかし、ディープサイクル鉛バッテリは、表面構造の複雑さが少ない分、電極プレートの表面積が抑えられる。このため、電流の大きさに制約が生じる。
【0011】
深放電に対応するディープサイクル鉛バッテリでエンジン始動を可能にするため、大型のディープサイクル鉛バッテリを用いることが考えられる。
【0012】
しかし、リーン車両は、走行時乃至旋回時に、ライダーの体重移動によって姿勢制御が行われる。リーン車両の車輪は、円弧状の断面形状を有するトレッド面を有する。リーン車両は、旋回する時に旋回中心に向かってリーンする。即ち、リーン車両は、左旋回中に車両左方向に傾斜し右旋回中に車両右方向に傾斜する。リーン車両の車体は、ライダーの体重移動によって円滑に姿勢制御が行われるように、軽量化乃至小型化されることが好ましい。そのため、一般的に、リーン車両の車体内における装置の設置スペースは、厳しく制限される。バッテリは、リーン車両の搭載物の中で、比較的大きい重量物であるため、装置の設置スペースは、厳しく制限される。例えば、バッテリが大型化すると、バッテリを中に受容する車体フレームの外寸が大きくなる。この結果、リーン車両の車体が大型化する。このため、リーン車両において、ディープサイクル鉛バッテリの容量を増大することは容易でない。
従って、実際のリーン車両のエンジン始動のための電力源として、出力電流が小さいディープサイクル鉛バッテリを用いることは避けられていた。
【0013】
そこで本発明者らは、リーン車両において、ディープサイクル鉛バッテリに電気二重層キャパシタを常時並列接続することを検討した。この検討の中で、本発明者らは次のことを見出した。
【0014】
ディープサイクル鉛バッテリから単位時間で出力することが可能な電力(電流)は小さい。このため、エンジンを周囲温度で始動する冷間始動(Cold Start)といったエンジン始動を実施できる程度の電力を出力するためには、ディープサイクル鉛バッテリの大型化が求められる。ディープサイクル鉛バッテリの大型化は、リーン車両の大型化を招く。
【0015】
しかし、ディープサイクル鉛バッテリに電気二重層キャパシタを常時並列接続すると、始動の前にディープサイクル鉛バッテリから出力される電力によって電気二重層キャパシタを充電することができる。
エンジンの燃焼動作の期間中にディープサイクル鉛バッテリ及び電気二重層キャパシタが充電される。例えばエンジンの燃焼動作の期間が短いため、燃焼動作の停止の時点における電気二重層キャパシタの充電量がエンジンを始動するのに不十分である場合がある。また、低温時に、ディープサイクル鉛バッテリの出力電流が減少し得る。しかし、このような場合であっても、ディープサイクル鉛バッテリは、バッテリ内の電極の化学反応に起因する電圧を出力する。このため、ディープサイクル鉛バッテリは、常時並列接続された電気二重層キャパシタを充電することができる。エンジンの燃焼動作が停止している場合、ディープサイクル鉛バッテリは深放電が可能なので、例えばスターティングバッテリと比べて大きな電力を電気二重層キャパシタに供給することができる。この結果、電気二重層キャパシタには、次にエンジンを始動できる程度の電力が充電される。
電気二重層キャパシタは、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する。この場合、エンジンの始動時に、電気二重層キャパシタに充電された電力を利用してエンジンを始動することができる。
電気二重層キャパシタは、ディープサイクル鉛バッテリのような電極の化学反応を利用していない。このため、電気二重層キャパシタは、例えばディープサイクル鉛バッテリと比べて、内部抵抗が小さい。また、電気二重層キャパシタの体積は、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量で充分なので、例えばディープサイクル鉛バッテリのみでエンジンを始動する場合と比べて蓄電手段をコンパクトにできる。
【0016】
例えば、キャパシタとバッテリの接続形態として、常時並列接続ではなく、エンジンの始動時にキャパシタとバッテリを直列接続する構成が考えられる。しかし、この構成ではバッテリがディープサイクル鉛バッテリである場合、低温時でも始動可能としつつ大型化を抑制することはできない。永久磁石式始動モータがエンジンを始動する時に出力するトルクは、主に電流に依存する。エンジンの始動時に、エンジンを始動するために必要なトルクに対応する電流が必要とされる。
エンジンの始動時にキャパシタがバッテリと直列接続される場合、永久磁石式始動モータに供給される電圧を増大することができる。この電圧は、永久磁石式始動モータの最高回転速度に影響を与えることができる。しかし、エンジンの始動時にキャパシタがバッテリと直列接続されても、永久磁石式始動モータのトルクを増大する程度に電流を増大することはできない。なぜなら、直列接続においてキャパシタを流れる電流のすべてはバッテリも流れるからである。
エンジンの始動時にキャパシタとバッテリとを直列接続する場合、バッテリの電流はキャパシタの電流と実質的に等しい。この構成では、エンジンの始動時にキャパシタの電荷のすべてが放電するとキャパシタの電流が制約される。この結果、キャパシタの電流とバッテリの電流の双方が抑えられる。つまり、バッテリの電力の利用がキャパシタによって妨げられることとなる。
これに対し常時並列接続により、始動のためのキャパシタによる妨げは抑制され、ディープサイクル鉛バッテリから出力される電流も活用できる。
【0017】
また、例えば充電の場面において常時並列接続と異なる構成が考えられる。例えば、まずバッテリが発電機の電流によって充電され、バッテリの電圧が満充電電圧以上の場合に、キャパシタが充電される構成が考えられる。即ち、バッテリの充電を優先する構成が考えられる。しかし、この構成では、例えば、エンジンが始動しても、バッテリが満充電になる前にエンジンが停止するとキャパシタは充電されない。この場合、次の始動でキャパシタは活用されず、バッテリの電力でエンジンが始動されることとなる。このような構成では、バッテリがディープサイクル鉛バッテリである場合、エンジンの始動のため、バッテリの大型化が求められることとなる。
これに対し常時並列接続により、キャパシタが充電されない事態が抑制される。このため、ディープサイクル鉛バッテリの大型化を抑制しつつバッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でもエンジンを始動できる回数を増加することができる。
【0018】
また、例えば、電気二重層キャパシタの静電容量を、エンジンを1回始動する電力を充電可能な量より少なくすることが考えられる。例えば、単に、スタータモータを駆動する駆動回路は、キャパシタ及び/又はバッテリに充電された電力で駆動可能となっている構成が考えられる。即ち、キャパシタの電力はエンジンを1回始動する電力より小さいが、単に駆動回路の機能として「駆動回路は、駆動においてキャパシタ及び/又はバッテリに充電された電力を利用できる」構成が考えられる。しかし、常時並列接続されるバッテリがディープサイクル鉛バッテリである場合、ディープサイクル鉛バッテリから出力できる電流が制約されると、エンジンを始動できない可能性が生じる。あるいは、バッテリの大型化が求められることとなる。
これに対し電気二重層キャパシタの静電容量を少なくともエンジンを1回始動する電力を充電可能な量とすることで、ディープサイクル鉛バッテリから出力できる電流が制約されても、エンジンを始動することができる。従って、ディープサイクル鉛バッテリの大型化が抑制できる。
【0019】
また、エンジンを始動する量の電力を充電可能なキャパシタとして、電気二重層キャパシタの他にリチウムイオンキャパシタの採用が考えられる。しかし、リチウムイオンキャパシタは、電極の一部における化学反応を利用する。このため、リチウムイオンキャパシタは、リチウムイオン電池と同様の原理に起因して低温時に出力電流が減少する傾向を有する。従って、リチウムイオンキャパシタは、ディープサイクル鉛バッテリの低温時の出力電流を補強する役割が果たすことができない。また、リチウムイオンキャパシタには、使用可能な電圧範囲の下限として、0Vよりも大きい下限電圧が設定される。例えば、通常のリチウムイオンキャパシタは、例えば2.5Vの下限電圧を有する。リーン車両において、例えばバッテリの劣化又は長時間の放置等によってリチウムイオンキャパシタの電圧が下限電圧を下回るとリチウムイオンキャパシタ自体が劣化する場合がある。バッテリは期間に応じた交換を想定した部品であるが、リチウムイオンキャパシタが劣化すると、例えばバッテリが交換されても、リチウムイオンキャパシタの劣化は解消しない。リチウムイオンキャパシタが劣化した状態で電圧が印加されても、リチウムイオンキャパシタに対する充電が妨げられる。このため、リチウムイオンキャパシタは、リーン車両に適していると言えない。
これに対し、電気二重層キャパシタは、0Vの下限電圧を有する。このため、例えば周辺回路の故障又はバッテリの劣化に伴う放電によって電気二重層キャパシタの電圧が0Vに低下しても電気二重層キャパシタ自体は劣化しない。つまり、一旦電圧が0Vになった後でも、電気二重層キャパシタは、充電及び放電が可能である。また、上述したように、電気二重層キャパシタは、例えばリチウムイオンキャパシタと比べて、低温時における内部抵抗の増大が少ない。従って、ディープサイクル鉛バッテリと常時並列接続された電気二重層キャパシタは、エンジンを始動する量の電力を充電するとともに、充電された電力に基づいて、エンジンを始動するような電流を出力することができる。
【0020】
本発明者らは、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタが、ディープサイクル鉛バッテリと常時並列接続される構成を考えた。電気二重層キャパシタの体積は、リーン車両のエンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量で充分なので、例えば大容量のディープサイクル鉛バッテリを搭載する場合と比べて小型化できる。そして、スターティングバッテリと比べて出力電流が小さいディープサイクル鉛バッテリをエンジンの始動に用いる場合でも、ディープサイクル鉛バッテリの大型化を抑制することができる。この構成により、本発明者らは、ディープサイクル鉛バッテリの深放電能力を活かし、リーン車両における車両の大型化を抑制しつつエンジンを始動できる回数を増加できることが分った。
【0021】
上記の知見に基づいてなされた本発明のリーン車両は、次の構成を備える。
【0022】
(1)左旋回中に車両左方向に傾斜し右旋回中に車両右方向に傾斜するリーン車両であって、
前記リーン車両は、
路面と接地するためのトレッド面を有し、前記トレッド面の断面形状は円弧状である車輪と、
クランク軸を有し前記車輪を駆動するためのトルクを前記クランク軸から出力するエンジンと、
永久磁石を有し、前記クランク軸を回転させ前記エンジンを始動する永久磁石式始動モータと、
前記エンジンの始動時に前記永久磁石式始動モータに電力を供給するディープサイクル鉛バッテリと、
前記エンジンの始動時に前記永久磁石式始動モータに電力を供給する前記ディープサイクル鉛バッテリと常時並列接続され、始動の前に前記ディープサイクル鉛バッテリから出力される電力によってエンジンを始動できる程度の電力を充電することができるよう、前記永久磁石式始動モータによって前記エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタと、
を備える。
【0023】
上記構成におけるリーン車両は、車輪と、エンジンと、永久磁石式始動モータと、ディープサイクル鉛バッテリと、電気二重層キャパシタと、を備える。
車輪は、断面形状が円弧状であるトレッド面を有している。このため、リーン車両は、左旋回中に車両左方向に傾斜し右旋回中に車両右方向に傾斜するように走行できる。
ディープサイクル鉛バッテリから単位時間で出力することが可能な電力(電流)は、例えば、ディープサイクル鉛バッテリではない鉛バッテリよりも小さい。旋回時に傾斜するように走行するリーン車両において、ディープサイクル鉛バッテリの容量を増大することは容易でない。
本構成のリーン車両が備えるディープサイクル鉛バッテリは、電気二重層キャパシタと常時並列接続されている。このため、始動の前にディープサイクル鉛バッテリから出力される電力によって電気二重層キャパシタを充電することができる。また、電気二重層キャパシタは、ディープサイクル鉛バッテリと常時並列接続されている。このため、エンジンの始動時に、ディープサイクル鉛バッテリがモータに電力を供給すると同時に、事前に充電された電気二重層キャパシタからモータに電力を供給することができる。即ち、電気二重層キャパシタに充電された電力と、ディープサイクル鉛バッテリの電力を前記永久磁石式始動モータに供給する。
また、例えば、ディープサイクル鉛バッテリの充電量が満充電状態に対し少ない状態であっても、ディープサイクル鉛バッテリは、電極の反応に起因する電圧を出力する。このため、ディープサイクル鉛バッテリは、充電量が少ない状態であっても、例えばエンジンの始動前に常時並列接続された電気二重層キャパシタを充電することができる。
ディープサイクル鉛バッテリと並列接続される電気二重層キャパシタは、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する。電気二重層キャパシタは、ディープサイクル鉛バッテリのような電極の化学反応を利用していない。このため、電気二重層キャパシタは、例えばディープサイクル鉛バッテリと比べて、内部抵抗が小さい。従って、出力可能な電流に対し要求される電気二重層キャパシタ体積は、小さい。また、電気二重層キャパシタの体積は、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量に相当する。このため、電気二重層キャパシタは小型化することができる。また、例えば始動電気二重層キャパシタ無しに低温時にエンジンを始動できる程度に始動電気二重層キャパシタの容量を維持する場合と比べ、ディープサイクル鉛バッテリの体積を削減することができる。このため、例えば常時並列接続された電気二重層キャパシタ無しにディープサイクル鉛バッテリのみでエンジンを始動する場合と比べてディープサイクル鉛バッテリを小型化できる。
【0024】
キャパシタがバッテリと常時並列接続される構成は、例えば、エンジンの始動時にキャパシタがバッテリと直列接続される構成とは異なる。
直列接続ではバッテリを流れる電流が制限されると、キャパシタを流れる電流も制限される。つまり、永久磁石式始動モータのトルクが制限される。このため、エンジンの始動時にキャパシタがバッテリと直列接続される構成では、低温を含む広い温度範囲でディープサイクル鉛バッテリによりエンジンを始動するため、ディープサイクル鉛バッテリの増大が求められる。この結果、リーン車両の車体が大型化する。
【0025】
(1)によれば、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタが常時並列接続される。これによって、容量の増大を抑えつつ、バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数の限度を増加することができる。このため、本構成のリーン車両によれば、車両の大型化を抑制しつつ、バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数を増加できる。
【0026】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
【0027】
(2) (1)のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、30F以上の静電容量を有する。
【0028】
上記構成によれば、ディープサイクル鉛バッテリの容量を例えば四輪車の場合ように増大することなく、低温を含む広い温度範囲でエンジンを始動させることができるような期間クランク軸を回転させることができる。
【0029】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
(3) (1)又は(2)のリーン車両であって、
5から7つの前記電気二重層キャパシタが、直列接続されている。
【0030】
上記構成によれば、直列接続された電気二重層キャパシタは、リーン車両に備えられるディープサイクル鉛バッテリが機能しないような場合でも、エンジンを始動させることができる蓄電容量を有することができる。
【0031】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
【0032】
(4) (1)から(3)いずれか1のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、前記ディープサイクル鉛バッテリが前記リーン車両の車体から取り外される時点で前記車体に取り付けられた状態を維持するように、前記車体に取り付けられている。
【0033】
上記構成によれば、ディープサイクル鉛バッテリが例えば交換のため車体から取り外されても、電気二重層キャパシタは車体に取り付けられている。このため、例えばディープサイクル鉛バッテリの寿命が到来してもリーン車両においてディープサイクル鉛バッテリを交換するだけで、ディープサイクル鉛バッテリによりエンジンを始動することができる。
【0034】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
【0035】
(5) (1)から(4)いずれか1のリーン車両であって、
前記永久磁石式始動モータは、前記永久磁石で構成された複数の磁極部を有するロータと、
複数のスロットが前記永久磁石式始動モータの周方向に間隔を空けて形成されたステータコア及び前記スロットを通るように設けられた巻線を有するステータと、を備え、
前記磁極部の数は前記複数のティースの数より多い。
【0036】
上記構成によれば、永久磁石式始動モータが発電する場合の損失を抑制しつつ、永久磁石式始動モータの始動時のトルクを増大するため例えば小さい電気抵抗を有する巻線を採用することができる。そして上記構成によれば、エンジンを始動する場合に永久磁石式始動モータの受け入れに対応した大きな電流を供給することができる。従ってディープサイクル鉛バッテリによりエンジンを始動しやすい。
【0037】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
【0038】
(6) (1)から(5)いずれか1のリーン車両であって、
前記電気二重層キャパシタは、外部と接続する端子として機能するリード線を備えたリードタイプである。
【0039】
上記構成によれば、電気二重層キャパシタは例えば基板に半田接続することによって、例えばボルト型端子の場合と比べより短時間でアレイ構成を製造することができる。
【0040】
本発明の一つの観点によれば、リーン車両は、以下の構成を採用できる。
【0041】
(7) (1)から(6)いずれか1のリーン車両であって、
前記ディープサイクル鉛バッテリは、縦、横、及び高さを有する直方体状をなし、前記縦、前記横、及び前記高さのうち最も短い前記縦を含む上面部に正の端子及び負の端子が設けられ、
前記電気二重層キャパシタは、互いに直列接続された5個から7個のいずれかの円柱状であって、前記電気二重層キャパシタの直径φ及び高さLcと、前記上面部の前記横の長さLb及び前記縦の長さWとの関係は下の式(A)及び(B)の通りである。
(Lb/7)≦φ≦ (Lb/5) (A)
Lc ≦ W (B)
【0042】
円柱状の電気二重層キャパシタの直径φ及び高さLcと、直方体状のディープサイクル鉛バッテリの上面部の横の長さLb及び縦の長さWとの関係を上の式(A)及び(B)の通りにする場合、ディープサイクル鉛バッテリの底面よりも狭い領域に5個から7個の電気二重層キャパシタを並べて配置することが可能である。5個から7個の電気二重層キャパシタが直列接続されることにより、電気二重層キャパシタは、ディープサイクル鉛バッテリと共に動作することが可能な最大使用電圧を有することができる。また、電気二重層キャパシタが上記の式により規定される高さLcを有することで、エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能となる。
【0043】
リーン車両の設計では、ディープサイクル鉛バッテリの寸法を考慮しながらバッテリの周辺部品の配置が行なわれる。例えば、ディープサイクル鉛バッテリの周囲にカバーが配置される場合、当該カバーの内部には、ディープサイクル鉛バッテリの寸法を考慮した空間が設けられる。
【0044】
電気二重層キャパシタが、式(A)及び(B)の関係を有することにより、ディープサイクル鉛バッテリの寸法を考慮して設けられた空間を活用して電気二重層キャパシタを配置することが可能になる。従って、車両の大型化を更に抑制しつつ広い温度範囲でディープサイクル鉛バッテリによりエンジンを始動することができる。
【0045】
リーン車両は、鞍乗型車両の一種である。リーン車両は、騎乗スタイルで乗車する車両である。運転者は、リーン車両のサドルに跨って着座する。リーン車両としては、例えば、スクータ型、モペット型、オフロード型、オンロード型の自動二輪車が挙げられる。また、リーン車両としては、自動二輪車に限定されず、例えば、ATV(All-Terrain Vehicle)等であってもよく、自動三輪車であってもよい。自動三輪車は、2つの前輪と1つの後輪とを備えていてもよく、1つの前輪と2つの後輪とを備えていてもよい。
【0046】
「路面と接地するためのトレッド面を有し、前記トレッド面の断面形状は円弧状である車輪」は、例えば、トレッド面(路面と接地するための面)が車輪の側面にまで達するように構成されている。当該車輪におけるトレッド面の断面形状は、円弧又は円弧に類似する形状である。ここで、トレッド面の断面は、車輪の回転軸線を通る断面である。
当該車輪におけるトレッド面の断面形状は、車幅方向の中央部が稜線を成すように突出する形状であってもよい。当該車輪におけるトレッド面は、旋回時における路面との接触面積が、直進時における路面との接触面積よりも大きくなるように構成されていてもよい。当該車輪は、例えば、リーン車両の傾斜に応じて、路面と接触する面積が連続的に変化するように構成されていてもよい。例えば、当該車輪のトレッド面は、路面と接触しない状態で車輪の回転軸線を中心とする円筒面を含まない。例えば、当該車輪における最外周の断面形状は、路面と接触しない状態で直線で構成されていない。
トレッド面は、例えば、車輪が有するタイヤに形成されている。タイヤのトレッド面に溝が形成されている場合、上記トレッド面の形状は、溝による凹凸を無視した巨視的な形状を意味している。当該車輪は、例えば、ISO又はJISに規定されるモーターサイクル用の車輪である。これに対して、リーン車両以外の車両(例えば自動車)が有する車輪は、路面との接触面が比較的平坦な扁平状のトレッド面を有し、上述した車輪とは明確に区別され得る。
【0047】
永久磁石式始動モータは、永久磁石を有する。例えばロータに永久磁石ではなくコイルを備えた構成は、本構成におけるモータと異なる。
磁石式始動モータは、例えば、磁石式始動発電機である。ただし、磁石式始動モータは、発電機として使用されないモータでもよい。
エンジン始動装置のモータは、例えば、アウタロータ型モータ、インナロータ型モータ、及び、アキシャルギャップ型モータを含む。また、エンジン始動装置のモータとして、例えば、ブラシモータ、及びインバータ付きのブラシレスモータが挙げられる。
永久磁石式始動モータは、少なくとも、クランク軸が回転していない状態のエンジンを始動する。つまり、永久磁石式始動モータは、少なくとも、リーン車両が停止している状態でエンジンを始動する。ただし、永久磁石式始動モータは、クランク軸が回転している状態、又はリーン車両の走行状態でエンジンを始動してもよい。
【0048】
ディープサイクル鉛バッテリは、充電及び放電が可能なバッテリである。つまり、ディープサイクル鉛バッテリは、蓄電池である。ディープサイクル鉛バッテリは、電極の化学反応によって充電及び放電を行う二次電池である。バッテリは、電極の酸化及び還元反応によって充電及び放電を行う。バッテリは、充電される電力を化学エネルギーとして蓄える。バッテリは、蓄えられた化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。バッテリの端子電圧は、バッテリに蓄えられた電力量と比例しない。
【0049】
ディープサイクル鉛バッテリは、スタータ鉛バッテリと構造上の明確な違いを有する。
スタータ鉛バッテリは、鉛スポンジ構造が設けられた電極プレートを有する。鉛スポンジ構造によって表面積が増加する。但し、スタータ鉛バッテリが深放電すると、鉛スポンジ構造の部分が電極プレートから脱落する。
これに対し、ディープサイクル鉛バッテリは、スタータ鉛バッテリよりも表面構造の複雑さが少ないプレートを有する。例えば、ディープサイクル鉛バッテリは、鉛スポンジ構造が設けられていない電極プレートを有する。このため、深放電による性能の劣化が抑えられる。
【0050】
電気二重層キャパシタは、充電される電力を電荷として蓄える。電気二重層キャパシタは、電極の化学反応を伴うことなく充電及び放電を行う。電気二重層キャパシタの端子電圧は、充電された電荷即ち電力量に略比例する。
電気二重層キャパシタは、エンジン始動装置のモータの回転に寄与する電力を蓄える容量を有する。電気二重層キャパシタは、詳細には、蓄電電気二重層キャパシタである。より詳細には、電気二重層キャパシタは、平滑電気二重層キャパシタより大きな等価直列抵抗(Equivalent Series Resistance :ESR)を有する。電気二重層キャパシタは、平滑電気二重層キャパシタより大きな寄生インダクタンスとしての直列インダクタンス(Equivalent Series Inductance :ESL)を有する。
電気二重層キャパシタは、例えばリチウムイオンキャパシタと異なる。例えば、電気二重層キャパシタは、0Vの放電時下限電圧を有する。放電時下限電圧は、自然放電を含む放電時にそれよりも低い電圧の状態にすると電池の著しい不可逆的な劣化を招来する電圧である。
リチウムイオンキャパシタの放電時下限電圧は、0Vよりも大きい。リチウムイオンキャパシタの放電時下限電圧は、例えば、2.5Vである。このため、例えば、リーン車両がリチウムイオンキャパシタを備える場合、例えばバッテリの故障又は長期間の放置によってこのバッテリに接続されたリチウムイオンキャパシタの電圧が電時下限電圧を下回る場合、リチウムイオンキャパシタが劣化してしまう。リチウムイオンキャパシタの劣化は不可逆的である。従って、その後バッテリを交換しても、リチウムイオンキャパシタの並列接続による性能を回復することができない。
これに対し、電気二重層キャパシタは、電圧が0Vでも劣化しない。従って、故障したバッテリを交換すれば、並列接続による性能を回復できる。
また、電気二重層キャパシタは、電圧が0Vでも劣化しないので、例えば、故障したバッテリを除去して、ライダーのキック操作によりエンジンを始動する場合、あるいは他の車両と電気的に接続して電力の供給を受ける場合、エンジンの始動のための最小限の電力を蓄電することができる。
【0051】
ディープサイクル鉛バッテリと電気二重層キャパシタとは、常時並列接続される。例えば、ディープサイクル鉛バッテリと電気二重層キャパシタは、トランジスタで構成されたスイッチングデバイス無しに接続される。従って、接続の構造も含めた装置がシンプルで小型化される。
但し、接続状態はこれに限られず、電気二重層キャパシタは、例えば、メンテナンスの時に接続状態を一時的に切換えるためのスイッチを介してディープサイクル鉛バッテリに接続されてもよい。
また、例えば、5から7つの電気二重層キャパシタが直列接続されている。但し、直列接続される数は、特に限られず、例えば、4以下でもよく、また8以上でもよい。また、直列接続された電気二重層キャパシタからなる第1の組に対し、第1の組とは異なる第2の組が並列接続されてもよい。第2の組に対し、更に第3の組が並列接続されてもよい。第2の組、第3の組のそれぞれは、直列接続されたキャパシタである。つまり、直並列構成も採用可能である。ただし、直並列構成における単位(組)は直列接続であり、複数の単位が並列接続される。
【0052】
例えば、電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続されることは、電気二重層キャパシタとバッテリの双方から出た電流が合流してエンジン始動装置に流れるように電気的に接続されていることを意味する。この逆に、例えば、電気二重層キャパシタから出た電流の全てがバッテリに流れ、この電流がさらにエンジン始動装置に流れることは、電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続されることとは異なる。電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続された状態は、バッテリと電気二重層キャパシタとが配線のみで接続された状態を含む。また、電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続された状態は、バッテリと電気二重層キャパシタの間に配線以外の装置が挿入されている状態を含む。例えば、電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続された状態は、バッテリと電気二重層キャパシタの間に、操作に応じて電気的に接続又は切断状態を切換えるコネクタ(カプラ)が含まれている状態を含む。また、例えば、電気二重層キャパシタがエンジン始動装置から見てバッテリと並列に接続された状態は、バッテリと電気二重層キャパシタの間に、コネクタ以外の電気部品が挿入された状態を含む。このような電気部品としては、例えば、スイッチ、リレー、抵抗器、接続端子、及びヒューズが挙げられる。なお、配線は、例えば、リード線である。ただし、配線は、1つのリード線で構成されるものに限られず、繋ぎ合わされた複数本のリード線でもよい。また、配線は、導通を主な機能とする装置を含む。例えば、配線は、コネクタ、スイッチ、リレー、抵抗器、接続端子、及びヒューズを含む。
【0053】
本明細書にて使用される専門用語は特定の実施例のみを定義する目的であって発明を制限する意図を有しない。
本明細書にて使用される用語「および/または」はひとつの、または複数の関連した列挙された構成物のあらゆるまたはすべての組み合わせを含む。
本明細書中で使用される場合、用語「含む、備える(including)」「含む、備える(comprising)」または「有する(having)」およびその変形の使用は、記載された特徴、工程、操作、要素、成分および/またはそれらの等価物の存在を特定するが、ステップ、動作、要素、コンポーネント、および/またはそれらのグループのうちの1つまたは複数を含むことができる。
本明細書中で使用される場合、用語「取り付けられた」、「結合された」および/またはそれらの等価物は広く使用され、特に指定しない限り直接的および間接的な取り付け、および結合の両方を包含する。
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての用語(技術用語および科学用語を含む)は、本発明が属する当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
一般的に使用される辞書に定義された用語のような用語は、関連する技術および本開示の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈されるべきであり、本明細書で明示的に定義されていない限り、理想的または過度に形式的な意味で解釈されることはない。
本発明の説明においては、多数の技術および工程が開示されていると理解される。
これらの各々は個別の利益を有し、それぞれは、他の開示された技術の1つ以上、または、場合によっては全てと共に使用することもできる。
したがって、明確にするために、この説明は、不要に個々のステップの可能な組み合わせをすべて繰り返すことを控える。
それにもかかわらず、明細書および特許請求の範囲は、そのような組み合わせがすべて本発明および請求項の範囲内にあることを理解して読まれるべきである。
本明細書では、新しいリーン車両について説明する。
以下の説明では、説明の目的で、本発明の完全な理解を提供するために多数の具体的な詳細を述べる。
しかしながら、当業者には、これらの特定の詳細なしに本発明を実施できることが明らかである。
本開示は、本発明の例示として考慮されるべきであり、本発明を以下の図面または説明によって示される特定の実施形態に限定することを意図するものではない。
【発明の効果】
【0054】
本発明によれば、バッテリの充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数を増加できるリーン車両を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリーン車両を模式的に示す図である。
【
図2】
図1に示す実施形態の第一の適用例であるリーン車両及び電気系統を模式的に示す図である。
【
図3】
図2に示すディープサイクル鉛バッテリ及び電気二重層キャパシタを示す外観図である。
【
図4】
図2に示すエンジンユニットの概略構成を模式的に示す部分断面図である。
【
図5】
図4に示す永久磁石式始動モータの回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。
【
図6】
図2に示すリーン車両の電気的な概略構成を示す回路図である。
【
図7】
図2に示すリーン車両において、エンジンの始動時における電流の変化を表すチャートである。
【
図8】第二の適用例におけるリーン車両の電気的な概略構成を示す回路図である。
【
図9】第三の適用例におけるディープサイクル鉛バッテリ及び電気二重層キャパシタの配置例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下、本発明を、実施形態に基づいて図面を参照しつつ説明する。
【0057】
図1は、本発明の一実施形態に係るリーン車両を模式的に示す図である。
図1のパート(a)は、リーン車両の側面図である。
図1のパート(b)は、パート(a)に示す車輪の一部断面図である。
【0058】
図1に示すリーン車両1は、車輪3a,3bと、エンジン10と、永久磁石式始動モータ20と、ディープサイクル鉛バッテリ4と、電気二重層キャパシタ71とを備えている。また、リーン車両1は、車体2を備えている。リーン車両1は、鞍乗型車両である。
図1には、リーン車両1の一例として自動二輪車が示されている。
リーン車両1は、左旋回中に車両左方向に傾斜し右旋回中に車両右方向に傾斜する。
【0059】
リーン車両1に備えられた車輪3a,3bは、前の車輪3aと後ろの車輪3bである。後ろの車輪3bは駆動輪である。
図1のパート(b)に示すように、車輪3aは、路面と接地するためのトレッド面TRを有する。トレッド面TRは、例えばタイヤに形成される。トレッド面TRの断面形状は円弧状である。なお、
図1のパート(b)は、トレッド面TRに形成された溝による凹凸を無視した巨視的な形状を示している。トレッド面TRの断面形状は、後ろの車輪3bについても同様である。
車輪3a,3bのトレッド面TRは、路面と接触しない状態で円弧状の断面形状を有する。路面と接触しない車輪3a,3bは、車輪の回転軸線を中心とする円筒面を含まない。なお、車輪3a,3bが路面と接触する状態では、路面と接触する車輪3a,3bの部分は、車重により路面に応じた平面状に変形する。しかし、路面と接触する車輪3a,3bの部分の形状は、上述した、路面と接触しない状態でのトレッド面TRの断面形状ではない。
車輪3a,3bのトレッド面は、路面と接触しない状態で円弧状の断面形状を有する。このような車輪3a,3bのトレッド面の形状は、例えば四輪車の場合と異なる。
トレッド面TRに形成された溝及び傷による凹凸を除外した巨視的な観点における車輪3a,3bと路面の接触面積は、リーン車両1の傾斜動作に伴い連続的に変化する。
【0060】
エンジン10は、クランク軸15を備えている。エンジン10は、クランク軸15を介して動力を出力する。エンジン10は、車輪3bを駆動するためのトルクをクランク軸15から出力する。車輪3bは、クランク軸15の動力を受け、リーン車両1を走行させる。
エンジン10から出力される動力は、例えば、変速機及びクラッチを介して車輪3bに伝達されることができる。
【0061】
永久磁石式始動モータ20は、永久磁石を有する。より詳細には、永久磁石式始動モータ20は、永久磁石で構成された永久磁石部37を備えている。
【0062】
ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、充電及び放電することができる蓄電デバイスである。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、充電された電力を外部に出力する。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、電力を永久磁石式始動モータ20に供給する。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。また、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20で発電された電力によって充電される。
【0063】
ディープサイクル鉛バッテリ4は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。また、例えばエンジンの始動後、ディープサイクル鉛バッテリ4は、永久磁石式始動モータ20から供給される電流を受けて充電される。
【0064】
電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4と常時並列接続されている。
電気二重層キャパシタ71は、エンジン10の始動時にディープサイクル鉛バッテリ4と共に永久磁石式始動モータ20へ電力を供給する。電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20によってエンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有している。例えば、電気二重層キャパシタ71の総計の重量は、ディープサイクル鉛バッテリ4の重量よりも小さい。
【0065】
電気二重層キャパシタ71から永久磁石式始動モータ20に至る電気経路には、ヒューズが設けられていないか、或いは、50A以上の図示しないヒューズが設けられている。
例えば、50A未満のヒューズが設けられている場合、ディープサイクル鉛バッテリ4が機能せず電気二重層キャパシタ71からの電流で始動した場合に、ヒューズが切断して始動不可能となる可能性がある。
電気二重層キャパシタ71から永久磁石式始動モータ20までの電気経路がヒューズ無し、又は50A以上の図示しないヒューズ付きで構成されることで、始動時にヒューズ切断による始動不能となる事態の発生が抑えられる。
リーン車両1は、例えば、5つ以上の電気二重層キャパシタ71を有する。リーン車両1は、例えば、5から7個までの電気二重層キャパシタ71を有する。リーン車両1に適した最大使用電圧を保持しつつ、リーン車両1における体積を最小に抑えるためである。リーン車両1は、例えば、5又は6個の電気二重層キャパシタ71を有することができる。
【0066】
電気二重層キャパシタ71は、例えば、30F以上の静電容量を有する。これによって、低温時に、幅広い範囲の大きさに属するエンジン10に対応することができる。
例えばディープサイクル鉛バッテリ4が機能しないような場合、即ち電力を出力しないような場合でも、永久磁石式始動モータ20へ電力を供給することによって、幅広い範囲の大きさに属するエンジン10を始動することができる。電気二重層キャパシタ71は、例えば、100mL以上の排気量(行程容量)を有するエンジンも始動することができる。
【0067】
ただし、電気二重層キャパシタ71として30F未満の静電容量を採用することも可能である。また、リーン車両1に備えられるエンジン10として、100mL未満の排気量を有するエンジンも採用可能である。
【0068】
電気二重層キャパシタ71は、例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4と常時並列接続される。複数の電気二重層キャパシタ71は互いに直列に接続されている。
複数の電気二重層キャパシタ71は、実質的な蓄電容量が増大するように直列に接続される。蓄電容量は、充電可能なエネルギーである。電気二重層キャパシタ71が充電できるエネルギーは例えば、電荷で表すことができる。蓄電容量は、静電容量とは異なる。一般的に、複数のキャパシタを直列した場合の合成静電容量は、ここのキャパシタの静電容量と等しい。
【0069】
しかし、本実施形態の電気二重層キャパシタ71は、リーン車両1で用いられる動作電圧よりも低い最大使用電圧を有する。
例えば、リーン車両1が1つだけの電気二重層キャパシタ71を備える場合、動作電圧を電圧変換器や分圧抵抗器といった降圧手段を用いて降圧し、充電する構成が考えられる。この場合、1つだけの電気二重層キャパシタ71から放電される電圧は昇圧手段で昇圧され用いられる。この場合、1つだけの電気二重層キャパシタ71に充電されるエネルギー即ち電荷は、静電容量と電圧の積に等しい。従って、充電されるエネルギーは、電圧が低い分、小さい。即ち、蓄電容量は小さい。
本実施形態では、5つ以上の電気二重層キャパシタ71を有することによって、降圧手段を介することなくディープサイクル鉛バッテリ4と接続される。5つ以上の電気二重層キャパシタ71は、高い電圧で充電できるので、1つだけの電気二重層キャパシタの場合と比べて大きな電荷を充電できる。即ち、蓄電容量は大きい。
【0070】
ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、物理的に互いに別体である。ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、車体2に対して異なる位置に設けられている。ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、互いに隣接した位置に設けられることが可能である。配置関係はこれに限られず、ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、リーン車両1において、互いに離隔した位置に配置されることもできる。
例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4は、交換可能であるように車体2に設けられている。電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の交換が行われる時にディープサイクル鉛バッテリ4と共に車体2から取り外されないように車体2に設けられている。つまり、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4が車体2から取り外される時点で車体2に取り付けられた状態を維持するように、車体2に取り付けられている。より具体的には、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは、互いに異なる部材によって車体2に取り付けられている。
【0071】
永久磁石式始動モータ20は、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力によってクランク軸15を回転させる。これによって永久磁石式始動モータ20はエンジン10を始動する。電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは接続されている。このため、永久磁石式始動モータ20は、電気二重層キャパシタ71に充電された電力と、ディープサイクル鉛バッテリ4に充電された電力の双方によってクランク軸15を回転させる。
【0072】
図1に示す構成で、ディープサイクル鉛バッテリ4は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。ディープサイクル鉛バッテリ4では、例えば同じ容量を有するスターティングバッテリと比べ、深放電した場合における蓄電能力の低下が抑えられている。
ディープサイクル鉛バッテリ4から単位時間で出力することが可能な電流は、例えば同じ容量を有するスターティングバッテリよりも小さい。しかし、ディープサイクル鉛バッテリ4は、電気二重層キャパシタ71と接続されている。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電力によって、始動の前に電気二重層キャパシタ71を充電することができる。
エンジン10の始動時に、ディープサイクル鉛バッテリ4が永久磁石式始動モータ20に電力を供給すると同時に、事前に充電された電気二重層キャパシタ71も永久磁石式始動モータ20に電力を供給することができる。電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4のような電極の化学反応を利用していない。このため、電気二重層キャパシタ71では、例えばディープサイクル鉛バッテリ4と比べて、内部抵抗が小さい。従って、電気二重層キャパシタ71が追加されることによって、例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4のみの場合と比べて、大きな電力を永久磁石式始動モータ20に供給することができる。また、電気二重層キャパシタ71は、例えば、エンジン10の始動開始後の大電流が要求される状況で、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも大きな電流を供給することも可能である。
ただし、電気二重層キャパシタ71は、エンジン10の始動開始後の大電流が要求される状況で、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも小さな電流を供給するように設定されていてもよい。この場合でも、電気二重層キャパシタ71が追加されることによって、例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4のみの場合と比べて、大きな電力を永久磁石式始動モータ20に供給することができる。
また、電気二重層キャパシタ71の体積は、エンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量で充分なのでコンパクトにできる。従って、車両設計の自由度を損なうことなく、旋回時に傾斜するように走行するリーン車両1に搭載することができる。
このように、エンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタ71を接続することによって、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数の限度を増加することができる。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジン10を始動できる回数を増加できる。
【0073】
[第一の適用例]
続いて、
図1を参照して説明した実施形態の第一の適用例を説明する。
【0074】
図2は、
図1に示す実施形態の適用例であるリーン車両及び電気系統を模式的に示す図である。
図2のパート(a)は、リーン車両の平面図である。
図2のパート(b)は、パート(a)に示す車輪の一部断面図である。
図2のパート(c)は、リーン車両の側面図である。
図2のパート(d)は、リーン車両の電気系統の接続を模式的に示す実体配線図である。
図2以降に示す適用例において、
図1に示す実施形態に対応する要素は、
図1と同じ符号を付して説明を行う。
【0075】
図2に示すリーン車両1は、車体2を備えている。車体2には、運転者が着座するためのシート2aが備えられている。運転者は、シート2aに跨がるようにして着座する。
図2には、リーン車両1の一例として自動二輪車が示されている。
【0076】
リーン車両1は、前の車輪3aと後ろの車輪3bを備えている車輪3a及び車輪3bは、路面と接地するためのトレッド面TRを有する。リーン車両1の車輪3a,3bのトレッド面は、路面と接触しない状態で円弧状の断面形状を有する。
【0077】
エンジン10は、エンジンユニットEUを構成する。即ち、リーン車両1は、エンジンユニットEUを備えている。
エンジンユニットEUは、エンジン10と、永久磁石式始動モータ20とを含む。
エンジン10は、クランク軸15を介して動力を出力する。エンジン10は、車輪3bを駆動するためのトルクをクランク軸15から出力する。車輪3bは、クランク軸15の動力を受け、リーン車両1を走行させる。エンジン10は、例えば100mL以上の排気量を有する。エンジン10は、例えば、400mL未満の排気量を有する。
また、リーン車両1は、変速機CVT及びクラッチCLを備えている。エンジン10から出力される動力は、変速機CVT及びクラッチCLを介して車輪3bに伝達される。
【0078】
永久磁石式始動モータ20は、エンジン10に駆動されて発電する。
図2に示す永久磁石式始動モータ20は、磁石式始動発電機である。
永久磁石式始動モータ20は、ロータ30及びステータ40を有する。ロータ30は、永久磁石で構成された永久磁石部37を備えている。ロータ30は、クランク軸15から出力される動力で回転する。ステータ40は、ロータ30と対向するように配置されている。
【0079】
ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、充電及び放電することができる蓄電デバイスである。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、充電された電力を外部に出力する。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、電力を永久磁石式始動モータ20及び電気装置Lに供給する。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。また、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20で発電された電力によって充電される。
【0080】
ディープサイクル鉛バッテリ4は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。また、例えばエンジン10の始動後、ディープサイクル鉛バッテリ4は、永久磁石式始動モータ20から供給される電流を受けて充電される。
リーン車両1は、インバータ21を備えている。インバータ21は、永久磁石式始動モータ20とディープサイクル鉛バッテリ4との間を流れる電流を制御する複数のスイッチング部211を備えている。
【0081】
電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4と常時並列接続されている。
図2に示すリーン車両1は、複数の電気二重層キャパシタ71を備えている。電気二重層キャパシタ71は、互いに直列接続されている。互いに直列接続された電気二重層キャパシタ71は、電気的には1つの電気二重層キャパシタとして動作する。
図2に示す電気二重層キャパシタ71は、インバータ21から見てディープサイクル鉛バッテリ4と常時並列接続されている。電気二重層キャパシタ71は、エンジン10の始動時にディープサイクル鉛バッテリ4と共に永久磁石式始動モータ20へ電力を供給する。電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20によって前記エンジンを少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有している。電気二重層キャパシタ71の総計の重量は、ディープサイクル鉛バッテリ4の重量よりも小さい。
【0082】
ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、物理的に互いに別体である。ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、車体2に対して別々に設けられている。ディープサイクル鉛バッテリ4は、交換可能であるように車体2に設けられている。電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の交換が行われる時にディープサイクル鉛バッテリ4と共に車体2から外れないように車体2に設けられている。つまり、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4が車体2から取り外される場合にも車体2に取り付けられた状態を維持することができるように、車体2に取り付けられている。より具体的には、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは、互いに異なる部材によって車体2に取り付けられている。
電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4が車体2から取り出されたことを条件として車体2から取り出し可能となるように設けられることができる。例えば、車体2に、電気二重層キャパシタ71及びディープサイクル鉛バッテリ4の双方を収納する収納凹部が設けられており、電気二重層キャパシタ71はディープサイクル鉛バッテリ4よりも奥に配置されている。
また、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4が車体2取り付けられた状態で車体2から取り出し可能となるように設けられることもできる。
【0083】
電気二重層キャパシタ71は、配線距離を基準として、電気二重層キャパシタ71とインバータ21との距離が、ディープサイクル鉛バッテリ4とインバータ21との距離よりも短くなるように配設されている。つまり、配線距離を基準として、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも電気二重層キャパシタ71の方がインバータ21に近い位置に配設されている。
図2のパート(d)に示す例において、電気二重層キャパシタ71からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離は、ディープサイクル鉛バッテリ4からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離よりも短い。
【0084】
永久磁石式始動モータ20は、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力によってクランク軸15を回転させる。これによって永久磁石式始動モータ20はエンジン10を始動する。
電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4は常時並列接続されているので、永久磁石式始動モータ20は、電気二重層キャパシタ71に充電された電力と、ディープサイクル鉛バッテリ4に充電された電力の双方によってクランク軸15を回転させる。
【0085】
リーン車両1は、メインスイッチ5を備えている。メインスイッチ5は、操作に応じてリーン車両1に備えられた電気装置L(
図6参照)に電力を供給するためのスイッチである。電気装置Lは、永久磁石式始動モータ20を除いて、電力を消費しながら動作する装置をまとめて表したものである。電気装置Lは、例えば、前照灯9、後述する燃料噴射装置18、及び点火プラグ19を含む。
リーン車両1は、スタータスイッチ6を備えている。スタータスイッチ6は、操作に応じてエンジン10を始動するためのスイッチである。リーン車両1は、メインリレー75を備えている。メインリレー75は、メインスイッチ5からの信号に応じて、電気装置Lを含む回路を開閉する。
リーン車両1は、加速指示部8を備えている。加速指示部8は、操作に応じてリーン車両1の加速を指示するための操作子である。加速指示部8は、詳細には、アクセルグリップである。
【0086】
図2に示す構成で、ディープサイクル鉛バッテリ4は、エンジン10の始動時に永久磁石式始動モータ20に電力を供給する。ディープサイクル鉛バッテリ4では、例えば同じ容量を有するスターティングバッテリと比べ、深放電した場合における蓄電能力の低下が抑えられている。
ディープサイクル鉛バッテリ4から単位時間で出力することが可能な電流は、例えば同じ容量を有するスターティングバッテリよりも小さい。しかし、ディープサイクル鉛バッテリ4は、電気二重層キャパシタ71と常時並列接続されている。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電力によって、始動の前に電気二重層キャパシタ71を充電することができる。
エンジン10の始動時に、ディープサイクル鉛バッテリ4が永久磁石式始動モータ20に電力を供給すると同時に、事前に充電された電気二重層キャパシタ71も永久磁石式始動モータ20に電力を供給することができる。電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4のような電極の化学反応を利用していない。このため、電気二重層キャパシタ71では、例えばディープサイクル鉛バッテリ4と比べて、内部抵抗が小さい。従って、電気二重層キャパシタ71が追加されることによって、例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4のみの場合と比べて、大きな電力を永久磁石式始動モータ20に供給することができる。また、電気二重層キャパシタ71は、例えば、エンジン10の始動開始後の大電流が要求される状況で、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも大きな電流を供給することも可能である。
また、電気二重層キャパシタ71の体積は、エンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量で充分なのでコンパクトにできる。従って、車両設計の自由度を損なうことなく、旋回時に傾斜するように走行するリーン車両1に搭載することができる。
このように、エンジン10を少なくとも1回始動する量の電力を充電可能な静電容量を有する電気二重層キャパシタ71を常時並列接続することによって、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジンを始動できる回数の限度を増加することができる。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジン10を始動できる回数を増加できる。
【0087】
図3は、
図2に示すディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71を示す外観図である。
図3のパート(a)は平面図である。
図3のパート(b)は側面図である。
図3のパート(b)は底面図である。
【0088】
[ディープサイクル鉛バッテリ]
図3に示すディープサイクル鉛バッテリ4は、直方体状である。ディープサイクル鉛バッテリ4は、上面4a、底面4b及び4つの側面4cを有する。
図2及び
図3に示すディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の上面4a(
図3)が、直立状態でのリーン車両1の上方を向くような姿勢で配置される。ただし、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、
図2に示す姿勢に対し、傾いた姿勢で配置されることも可能である。
【0089】
ディープサイクル鉛バッテリ4は、正の端子41及び負の端子42を有する。端子41,42は、ディープサイクル鉛バッテリ4の上面部分に設けられた凹部に設けられる。
【0090】
ディープサイクル鉛バッテリ4は、複数のバッテリセル45を有する。バッテリセル45は、図示しない正極及び負極を有する。ディープサイクル鉛バッテリ4は、電極の化学反応によって外部から供給された電力を蓄える。ディープサイクル鉛バッテリ4は、電極の化学反応によって電力を外部に出力する。
【0091】
[キャパシタ]
リーン車両1(
図2参照)は、例えば、複数の電気二重層キャパシタ71(Electric Double Layer Capacitor, EDLC)を有する。
それぞれの電気二重層キャパシタ71は、単体で機能することができる電気部品である。それぞれの電気二重層キャパシタ71は、端子として機能するリード線71a,71bを備えたリードタイプである。これらの電気二重層キャパシタ71は、回路基板72に接続されている。複数の電気二重層キャパシタ71と回路基板72とは、電気二重層キャパシタブロック7を構成している。即ち、電気二重層キャパシタブロック7は、複数の電気二重層キャパシタ71と、各々の電気二重層キャパシタ71に接続された回路基板72を有する。電気二重層キャパシタブロック7は、リーン車両1に備えられている。
回路基板72は、電気二重層キャパシタ71と半田接続されている。回路基板は、電気二重層キャパシタ71を互いに直列接続する配線パターン72pを有する。複数の電気二重層キャパシタ71は、回路基板72を介して互いに直列接続されている。リードタイプの電気二重層キャパシタ71は、組立て工程において回路基板72に半田接続されることで、短時間で直列接続することができる。
互いに直列接続された複数の電気二重層キャパシタ71は、電気的に1つの電気二重層キャパシタとして機能する。そこで、電気的に1つの電気二重層キャパシタとして機能する複数の電気二重層キャパシタ71を、以降、単に電気二重層キャパシタ71と称する場合もある。
【0092】
図3には、リーン車両1(
図2)に適用される例として5つ以上の電気二重層キャパシタ71を示している。
図2に示すリーン車両1は、例えば、6つの電気二重層キャパシタ71を有する。
【0093】
電気二重層キャパシタ71は、図示しない電極と電解液とを有し、電極は図示しない終電体及び活性炭を含む。電気二重層キャパシタ71は、活性炭と電解液が接する界面にイオンと電子又はホールとの並びから成る電気二重層を形成することによって電力を蓄える。電気二重層キャパシタ71は、電荷の形で電力を蓄える。電気二重層キャパシタ71は、電極の化学変化によらずに電力を蓄える。このため、電気二重層キャパシタ71は、例えば同じ容量を有するディープサイクル鉛バッテリ4と比べた場合に、より大きな電流で充電及び放電することが可能である。
特に、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4と比べ、充電電流の制約が小さい。従って、電気二重層キャパシタ71は、同じ容量を有するディープサイクル鉛バッテリ4と比べて、短時間でより大きな電力を蓄えることができる。また、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4と比べ、放電電流の制約が小さい。従って、電気二重層キャパシタ71は、同じ容量を有するディープサイクル鉛バッテリ4と比べて大きな電流で放電することが可能である。
【0094】
図3に示す電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20が少なくとも1回エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させる電力を充電可能な静電容量を電気二重層キャパシタ71単体で有する。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4がエンジン10を始動させるのに十分な電力を出力できない場合でも、電気二重層キャパシタ71に充電された電流でエンジン10を始動させることができる。仮に、ディープサイクル鉛バッテリ4が接続されない場合でも、電気二重層キャパシタ71に充電された電流でエンジン10を少なくとも1回始動させることができる。
キャパシタの容量は、静電容量である。静電容量はファラッド(F)で表される。但し、容量の尺度は、例えばディープサイクル鉛バッテリ4と合せるため、バッテリの標準的な動作電圧を想定した電流積算量(Ah又はAs)で表すこともできる。電流積算量は、キャパシタに蓄えられる電荷を表している。従って、容量の尺度は、バッテリの標準的な動作電圧を想定した場合に蓄えられる電荷(C:クーロン)で表すことができる。バッテリの標準的な動作電圧は、例えば12Vである。バッテリの標準的な動作電圧は、例えば12Vと等しいかそれより高い電圧でもよい。バッテリの標準的な動作電圧は、例えば24Vでもよい。
本明細書においても、直列接続された電気二重層キャパシタ71に蓄えられる電力を、動作電圧を想定した場合の電荷(C)で表す場合もある。1Cは、1Asと等しい。
【0095】
[キャパシタ形状と並び]
電気二重層キャパシタ71は、円柱状である。複数の円柱状の電気二重層キャパシタ71は、実質的に互いに平行になるように並ぶ。例えば、6つの電気二重層キャパシタ71は6列を成すように並んでいる。円柱状の電気二重層キャパシタ71の2つの底面(上面及び下面)のうち1つの底面から1対のリード線71a,71bが突出している。それぞれの電気二重層キャパシタ71は、リード線71a,71bが突出した底面を回路基板72に向けて並んでいる。
【0096】
[キャパシタとバッテリの配置]
電気二重層キャパシタ71は、例えば
図2に示すリーン車両1を左方に見て、リーン車両1の上下方向において、ディープサイクル鉛バッテリ4の下縁線よりも下方に配置されている。例えば、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の底面に沿って並んでいる。ディープサイクル鉛バッテリ4の底面よりも下方に配置されている。
【0097】
[寸法 関係]
電気二重層キャパシタ71の直径φ及び高さLcと、ディープサイクル鉛バッテリ4の横の長さLb及び縦の長さWとの関係は下の式(A)及び(B)の通りである。
(Lb/7)≦φ≦ (Lb/5) (A)
Lc ≦ W (B)
【0098】
電気二重層キャパシタ71として、例えば30F以上の静電容量を有するキャパシタが採用される。電気二重層キャパシタ71は、例えば100Fの静電容量を有する。また、電気二重層キャパシタ71として、2.5V以上5V以下の最大使用電圧を有する電気二重層キャパシタが採用される。電気二重層キャパシタ71として、例えば2.7V以上3V以下の最大使用電圧を有する電気二重層キャパシタ71が採用される。電気二重層キャパシタ71の最大使用電圧は、例えば2.7Vである。
【0099】
電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20が少なくとも0.5秒間、エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させる電力を充電可能な容量を有することが好ましい。これによって、エンジン10が圧縮行程を含む少なくとも1サイクル分動作する。これによって、燃焼動作が可能になる。
例えば、クランク軸15を回転させる永久磁石式始動モータ20に供給される電流が100A以上の場合、0.5秒間、クランク軸15を回転させる電力は、200Jよりも大きい。電気二重層キャパシタ71が最大33.3F相当の容量を有することにより、リーン車両1における標準的な動作電圧が12Vである場合に、複数の電気二重層キャパシタ71の全体で400Jよりも大きい電力が蓄えられる。複数の電気二重層キャパシタ71の電荷が満充電の半分になるまで放電した場合、200Jよりも大きいエネルギーを供給できる。この場合、永久磁石式始動モータ20が少なくとも0.5秒間、エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させる。
【0100】
また、電気二重層キャパシタ71は、エンジン10のアイドリング時に永久磁石式始動モータ20で発電される電力により20秒以内に実質的に満充電となる容量を有する。エンジン10を20秒アイドリング状態にすると、エンジン10の停止後に、電気二重層キャパシタ71の電力によってエンジン10を再始動することができる。
例えば、エンジン10にアイドリング状態で永久磁石式始動モータ20から供給される平均的な電流が20Aの場合、20秒で電気二重層キャパシタ71に供給される電力は、400Jよりも大きい。電気二重層キャパシタ71が30F以上の容量を有することにより、リーン車両1における標準的な動作電圧が12Vである場合に、400Jよりも大きい電力が蓄えられる。つまり、電気二重層キャパシタ71は、エンジン10のアイドリング時に永久磁石式始動モータ20により発電される電力により20秒以内に満充電となる。この結果、永久磁石式始動モータ20が少なくとも0.5秒間、エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させることが可能である。
【0101】
電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20が少なくとも1秒間より長く、エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させる電力を充電可能な容量を有してもよい。これによって、少なくとも1回のエンジン10の始動が行える。永久磁石式始動モータ20に供給される電流が100Aの場合、1秒間より長くクランク軸15を回転させる電力は、約400Jより大きい。電気二重層キャパシタ71が50F以上の容量を有することにより、1秒間より長く、エンジン10を始動させるためクランク軸15を回転させることができる。
ここでエンジン10の始動は、リーン車両1の停止状態、かつクランク軸15の回転停止状態における始動である。
また、電気二重層キャパシタ71は、エンジン10のアイドリング時に永久磁石式始動モータ20で発電される電力により20秒以内にリーン車両1における標準的な動作電圧となる。電気二重層キャパシタ71は、例えば、400F未満の容量を有する。
【0102】
また、電気二重層キャパシタ71として、エンジン10のアイドリング時に永久磁石式始動モータ20により発電される電力により10秒より短い時間で満充電となる容量を有する構成も採用可能である。この場合、電気二重層キャパシタ71は、例えば、200F未満の容量を有する。エンジン10を10秒アイドリング状態にすると、エンジン10の停止後に、電気二重層キャパシタ71の電力によってエンジン10を再始動することができる。
【0103】
図2に示すインバータ21は、スイッチング部211(
図6参照)を備えている。インバータ21は、永久磁石式始動モータ20に電力を供給することによって、永久磁石式始動モータ20を回転させる。インバータ21は、永久磁石式始動モータ20の巻線に流れる電流のオン・オフを制御することによって、電流を制御する。また、インバータ21は、エンジン10が燃焼動作している場合に、永久磁石式始動モータ20で発電された電力を、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71に供給する。この場合、インバータ21は、永久磁石式始動モータ20で発電された電流を整流する。
【0104】
リーン車両1は、制御装置60を備えている。制御装置60は、インバータ21と物理的に一体に設けられている。詳細には、本適用例の制御装置60とインバータ21とは共通の筐体を有している。制御装置60は、インバータ21のスイッチング部211の動作を制御することによって、永久磁石式始動モータ20とディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71との間で流れる電流を制御する。これによって、制御装置60は、永久磁石式始動モータ20の動作を制御する。
例えば、制御装置60は、スタータスイッチ6からの信号に応じて、インバータ21に、ディープサイクル鉛バッテリ4から永久磁石式始動モータ20に電流を供給させる。これによって、ディープサイクル鉛バッテリ4から永久磁石式始動モータ20に電力が供給され、エンジン10が始動する。エンジンの始動後、即ち燃焼動作開始後、制御装置60は、永久磁石式始動モータ20からの電流をディープサイクル鉛バッテリ4に流すようインバータ21を制御する。これによって、ディープサイクル鉛バッテリ4が永久磁石式始動モータ20の発電電力によって充電される。
また、制御装置60は、エンジン10の始動後、即ち燃焼動作開始後も、加速指示部8の操作に応じてインバータ21に、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力を永久磁石式始動モータ20に供給させる。これによって、エンジン10によるリーン車両1の走行が永久磁石式始動モータ20でアシストされる。
【0105】
また、本適用例の制御装置60は、エンジン10への燃料の供給を制御するエンジン制御部の機能も有する。制御装置60は、後述する燃料噴射装置18の動作を制御することによって、エンジンへの燃料の供給を制御する。
制御装置60は、図示しない中央処理装置及びメモリを備えている。メモリに記憶されたプログラムを実行することによって、エンジン10への燃料の供給を制御する。制御装置60は、平滑キャパシタ61を備えている。平滑キャパシタ61は、制御装置60の電源端子の電圧を平滑化する。
【0106】
図2のパート(d)に示すように、永久磁石式始動モータ20、ディープサイクル鉛バッテリ4、電気二重層キャパシタ71、メインリレー75、インバータ21を含む制御装置60、及び電気装置Lは、配線Jで電気的に接続されている。符号の見やすさのため、配線の符号(J)は、
図2のパート(b)に示す配線の一部に付している。
配線Jは、例えばリード線で構成される。配線Jは、繋ぎ合わされた複数のリード線で構成される場合もある。また、配線Jは、リード線を中継するコネクタ、ヒューズ、及び接続端子を含む場合もある。コネクタ、ヒューズ、及び接続端子の図示は省略する。また、
図2のパート(d)の実体配線図では、正極領域の接続が示されている。負極領域即ちグランド領域は、車体2を介して電気的に接続されている。より詳細には、負極領域は、車体2の図示しない金属製フレームを介して電気的に接続されている。車体2を介した各装置の電気的な接続の距離は、通常、リード線等による正極領域の接続と同等であるか、より短い。そこで、
図2のパート(d)において、車体2による負極領域の接続の図示を省略し、主として、正極領域の配線について説明する。
図2に示す配線Jは、車両に設けられた他の配線と組み合わされて図示しないワイヤハーネスを構成する。
図2のパート(d)では、図に示された装置を電気的に接続する配線Jのみを示す。
図2のパート(d)には、各装置間の配線Jの接続関係、及び配線Jの距離が概略的に示されている。
【0107】
[エンジンユニット]
図4は、
図2に示すエンジンユニットEUの概略構成を模式的に示す部分断面図である。
【0108】
エンジンユニットEUは、エンジン10を備えている。エンジン10は、クランクケース11と、シリンダ12と、ピストン13と、コネクティングロッド14と、クランク軸15とを備えている。ピストン13は、シリンダ12内に往復動可能に設けられている。
クランク軸15は、クランクケース11内に回転可能に設けられている。クランク軸15は、コネクティングロッド14を介して、ピストン13と連結されている。シリンダ12の上部には、シリンダヘッド16が取り付けられている。シリンダ12とシリンダヘッド16とピストン13とによって、燃焼室が形成される。クランク軸15は、クランクケース11に、回転自在な態様で支持されている。クランク軸15の一端部15aには、永久磁石式始動モータ20が取り付けられている。クランク軸15の他端部15bには、変速機CVTが取り付けられている。変速機CVTは、入力の回転速度に対する出力の回転速度の比である変速比を変更することができる。変速機CVTは、クランク軸15の回転速度に対する、車輪の回転速度に対応する変速比を変更することができる。
【0109】
エンジンユニットEUには、燃料噴射装置18が備えられている。燃料噴射装置18は、燃料を噴射することによって、燃焼室に燃料を供給する。吸気通路Ipを通って流れる空気に対し、燃料噴射装置18が燃料を噴射する。空気と燃料の混合気が、エンジン10の燃焼室に供給される。
また、エンジン10には、点火プラグ19が設けられている。
【0110】
エンジン10は、内燃機関である。エンジン10は、燃料の供給を受ける。エンジン10は、混合気を燃焼する燃焼動作によって動力を出力する。即ち、ピストン13が、燃焼室に供給された燃料を含む混合気の燃焼によって往復動する。ピストン13の往復動に連動してクランク軸15が回転する。動力は、クランク軸15を介してエンジン10の外部に出力される。
燃料噴射装置18は、供給燃料の量を調整することによって、エンジン10から出力される動力を調節する。燃料噴射装置18は、制御装置60によって制御される。燃料噴射装置18は、エンジン10に供給される空気の量に基づいた量の燃料を供給するよう制御される。
エンジン10は、クランク軸15を介して動力を出力する。クランク軸15の動力は、変速機CVT及びクラッチCL(
図2参照)を介して、車輪3bに伝達される。
【0111】
図5は、
図4に示す永久磁石式始動モータ20の回転軸線に垂直な断面を示す断面図である。
図4及び
図5を参照して永久磁石式始動モータ20を説明する。
【0112】
永久磁石式始動モータ20は、ロータ30と、ステータ40とを有する。本適用例の永久磁石式始動モータ20は、ラジアルギャップ型である。永久磁石式始動モータ20は、アウタロータ型である。即ち、ロータ30はアウタロータである。ステータ40はインナーステータである。
ロータ30は、ロータ本体部31を有する。ロータ本体部31は、例えば強磁性材料からなる。ロータ本体部31は、有底筒状を有する。ロータ本体部31は、筒状ボス部32と、円板状の底壁部33と、筒状のバックヨーク部34とを有する。底壁部33及びバックヨーク部34は一体的に形成されている。なお、底壁部33とバックヨーク部34とは別体に構成されていてもよい。底壁部33及びバックヨーク部34は筒状ボス部32を介してクランク軸15に固定されている。ロータ30には、電流が供給される巻線が設けられていない。
【0113】
ロータ30は、永久磁石部37を有する。ロータ30は、複数の磁極部37aを有する。複数の磁極部37aは永久磁石部37により形成されている。複数の磁極部37aは、バックヨーク部34の内周面に、設けられている。本適用例において、永久磁石部37は、複数の永久磁石を有する。即ち、ロータ30は、複数の永久磁石を有する。複数の磁極部37aは、複数の永久磁石のそれぞれに設けられている。
なお、永久磁石部37は、1つの環状の永久磁石によって形成されることも可能である。この場合、1つの永久磁石は、複数の磁極部37aが内周面に並ぶように着磁される。
【0114】
複数の磁極部37aは、永久磁石式始動モータ20の周方向にN極とS極とが交互に配置されるように設けられている。本適用例では、ステータ40と対向するロータ30の磁極数が24個である。ロータ30の磁極数とは、ステータ40と対向する磁極数をいう。磁極部37aとステータ40との間には磁性体が設けられていない。
磁極部37aは、永久磁石式始動モータ20の径方向におけるステータ40よりも外方に設けられている。バックヨーク部34は、径方向における磁極部37aよりも外方に設けられている。永久磁石式始動モータ20は、歯部43の数よりも多い磁極部37aを有している。
なお、ロータ30は、磁極部37aが磁性材料に埋め込まれた埋込磁石型(IPM型)であってもよいが、本適用例のように、磁極部37aが磁性材料から露出した表面磁石型(SPM型)であることが好ましい。
【0115】
ステータ40は、ステータコアSTと複数の巻線Wとを有する。ステータコアSTは、周方向に間隔を空けて設けられた複数の歯部(ティース)43を有する。複数の歯部43は、ステータコアSTから径方向外方に向かって一体的に延びている。本適用例においては、合計18個の歯部43が周方向に間隔を空けて設けられている。換言すると、ステータコアSTは、周方向に間隔を空けて形成された合計18個のスロットSLを有する。歯部43は周方向に等間隔で配置されている。
【0116】
ロータ30は、歯部43の数より多い数の磁極部37aを有する。磁極部の数は、スロット数の4/3である。
【0117】
各歯部43の周囲には、巻線Wが巻回している。つまり、複数相の巻線Wは、スロットSLを通るように設けられている。
図5には、巻線Wが、スロットSLの中にある状態が示されている。
【0118】
永久磁石式始動モータ20は、三相発電機である。巻線Wのそれぞれは、U相、V相、W相の何れかに属する。巻線Wは、例えば、U相、V相、W相の順に並ぶように配置される。
【0119】
リーン車両1が走行中にエンジン10が動作状態している場合、永久磁石式始動モータ20で発電される電力によって、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71が充電される。ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71が満充電になると、永久磁石式始動モータ20で発電される電力は、充電に用いられることなく例えば巻線の短絡によって熱として消費される。例えば、永久磁石式始動モータ20において始動時のトルクを増大するため、電気抵抗の小さい太い巻線が採用されると、満充電時に熱として消費される電力も増大する。つまり、損失が増大する。
モータが発電する場合、巻線Wを流れる電流は、巻線W自体に生じるインピーダンスの影響を受ける。インピーダンスは巻線Wを流れる電流を妨げる要素である。インピーダンスは、回転速度ωとインダクタンスの積を含む。ここで、回転速度ωは、実際には、単位時間に歯部近傍を通過する磁極部の数に相当する。即ち、回転速度ωは、モータおける歯部の数に対する磁極部の数の比と、ロータの回転速度とに比例する。
図5に示す永久磁石式始動モータ20は、歯部43の数より多い数の磁極部37aを有する。即ち、永久磁石式始動モータ20は、スロットSLの数より多い数の磁極部37aを有する。このため、巻線Wが大きなインピーダンスを有する。従って、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71が満充電の時に熱として消費される電力が少ない。このため、永久磁石式始動モータ20において始動時のトルクを増大するため、電気抵抗の小さい太い巻線を採用することができる。
リーン車両1は、ディープサイクル鉛バッテリ4に常時並列接続された電気二重層キャパシタ71を備えている。このため、大きな電流を受け入れ始動時のトルクを増大する永久磁石式始動モータ20が採用されている場合に、この受け入れに対応した大きな電流を供給することができる。
【0120】
永久磁石式始動モータ20のロータ30は、クランク軸15の回転に応じて回転するようにクランク軸15と接続されている。
【0121】
図6は、
図2に示すリーン車両1の電気的な概略構成を示す回路図である。
図6の回路図は、
図2に示すリーン車両1の適用例における電気的接続を示している。
【0122】
図6に示すように、永久磁石式始動モータ20は、インバータ21を介して、電気二重層キャパシタ71と電気的に接続されている。永久磁石式始動モータ20は、インバータ21及びメインリレー75を介して、ディープサイクル鉛バッテリ4と電気的に接続されている。
インバータ21は、スイッチング部211を備えている。スイッチング部211によって、インバータ21としての三相ブリッジインバータが構成されている。
スイッチング部211は、複数相の巻線Wの各相と接続され、複数相の巻線Wとディープサイクル鉛バッテリ4との間の電圧の印加/非印加を切換える。複数のスイッチング部211は、これにより、複数相の巻線Wとディープサイクル鉛バッテリ4との間の電流の通過/遮断を切換える。すなわち、複数のスイッチング部211は、ディープサイクル鉛バッテリ4と永久磁石式始動モータ20との間を流れる電流を制御する。より具体的には、永久磁石式始動モータ20がスタータモータとして機能する場合、スイッチング部211のオン・オフ動作によって複数相の巻線Wのそれぞれに対する通電及び通電停止が切換えられる。また、永久磁石式始動モータ20がジェネレータとして機能する場合、スイッチング部211のオン・オフ動作によって、巻線Wのそれぞれとディープサイクル鉛バッテリ4との間の電流の通過/遮断が切換えられる。スイッチング部211のオン・オフが順次切換えられることによって、永久磁石式始動モータ20から出力される三相交流の整流及び電圧の制御が行われる。
【0123】
制御装置60は、スイッチング部211の動作を制御することによって、永久磁石式始動モータ20とディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71との間で流れる電流を制御する。例えば、制御装置60は、スイッチング部211をベクトル制御方式で制御することによって、永久磁石式始動モータ20を回転させる。また、制御装置60は、スイッチング部211をベクトル制御方式で制御することによって、永久磁石式始動モータ20による発電電力をディープサイクル鉛バッテリ4、電気二重層キャパシタ71、及び電気装置Lに供給する。制御装置60がスイッチング部211を制御する方式は、これに限られず、例えば120度通電方式及び位相制御方式でもよい。
【0124】
ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71の双方は、メインリレー75を介して、永久磁石式始動モータ20のインバータ21と電気的に接続されている。ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71の双方は、メインリレー75を介して電気装置Lと電気的に接続されている。ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71の双方は、メインリレー75を介して永久磁石式始動モータ20と電気的に接続されている。
ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71の双方は、制御装置60と電気的に接続されている。
電気二重層キャパシタ71は、平滑キャパシタ61とは別個のキャパシタである。電気二重層キャパシタ71は、平滑キャパシタ61と並列接続されている。電気二重層キャパシタ71は、永久磁石式始動モータ20を駆動するための電力を蓄える。これに対し、平滑キャパシタ61は電源電圧を平滑化する。
電気二重層キャパシタ71の容量は、平滑キャパシタ61の容量よりも大きい。寄生インダクタンスは、平滑キャパシタ61の寄生インダクタンスよりも大きい。電気二重層キャパシタ71は、電気二重層キャパシタで構成される。平滑キャパシタ61は、電解キャパシタで構成される。
【0125】
図6に示す装置の間には、実際には、コネクタ(カプラ)、ヒューズ、接続端子、及び電流調整用抵抗等が含まれている。本適用例では、コネクタ、ヒューズ、接続端子、及び電流調整用抵抗等の部品は、電気的には配線に含まれると考えることができるため、図示及び説明を省略する。ヒューズは
図6に示す装置に含まれない場合もある。
【0126】
図6に示す電気二重層キャパシタ71の全ては、直列接続されている。つまり、ある1つの電気二重層キャパシタ71を流れる電流のほぼ全てが残りの電気二重層キャパシタ71に流れる。
図6のメインリレー75が作動することによって、ディープサイクル鉛バッテリ4を含む回路を閉じる状態をメインリレー75のオン状態と称する。
メインスイッチ5は、操作によりオン状態となる。メインスイッチ5がオン状態のとき、メインリレー75はオン状態になる。
図6の回路図に示すように、インバータ21から見て、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは常時並列接続されている。インバータ21と、電気二重層キャパシタ71と、ディープサイクル鉛バッテリ4とを含む回路には、メインリレー75が含まれている。インバータ21から見て、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは常時並列接続されているので、メインリレー75がオン状態で且つスタータスイッチ6がオン状態であるエンジン始動時の場合、ディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電流と電気二重層キャパシタ71から出力される電流が合流してインバータ21に流れる。
【0127】
また、インバータ21から見て、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とは常時並列接続されている。インバータ21と、ディープサイクル鉛バッテリ4とを含む回路には、メインリレー75及びインバータ21が含まれている。メインリレー75がオン状態で且つエンジン10が燃焼動作している場合、永久磁石式始動モータ20から出力された電流は、インバータ21を経た後、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4とに分かれて供給される。
インバータ21から見て、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4と電気装置Lとは並列接続されている。電気装置Lは、上述したように例えば前照灯9である。従って、より詳細には、メインリレー75がオン状態の場合、永久磁石式始動モータ20から出力された電流は、インバータ21を経た後、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4と電気装置Lとに分かれて供給される。
永久磁石式始動モータ20が発電をしていない場合、ディープサイクル鉛バッテリ4の電流が電気装置Lに供給される。また更に、電気二重層キャパシタ71の電圧がディープサイクル鉛バッテリ4の電圧よりも小さいとき、ディープサイクル鉛バッテリ4から出力された電流の一部が電気二重層キャパシタ71に流れる。つまり、ディープサイクル鉛バッテリ4が電気二重層キャパシタ71を充電する。
例えば、エンジン10が燃焼動作していない場合、電気二重層キャパシタ71の電力は電気装置Lで消費される。この結果、電気二重層キャパシタ71の電圧はディープサイクル鉛バッテリ4の電圧より小さくなる。この状態で、メインリレー75がオン状態になると、電気二重層キャパシタ71がディープサイクル鉛バッテリ4の電力で充電される。この場合、電気二重層キャパシタ71は、電気二重層キャパシタ71の電圧がディープサイクル鉛バッテリ4の電圧と等しくなるまで、充電される。
【0128】
図6の回路図と
図2のパート(d)の実体配線図とは、同一の接続構成を示している。但し、
図2のパート(d)の実体配線図は、各装置間の実際の配線Jの接続関係、及び配線Jの距離を示している点が、
図6と異なる。
【0129】
回路図は、通常、装置の電気的な接続を示している。より詳細には、回路図は、装置の回路トポロジーを示している。つまり、回路図は、例えば、装置同士が例えば直列接続されているか、又は、並列接続されているかを示している。また、回路図は、ある2つの装置が、配線のみで接続されているか、又は、2つの装置とは異なる装置を介して接続されているかを示している。回路図は、実際の配線長を表していない。また、回路図は、各装置の空間上の位置を表していない。例えば、3つの装置が回路図に並んで配置されていることは、3つの装置が実際にその順番に並んで配置されていることを意味しない。また、回路図における配置は、3つの装置が実際に並んで配置されていることも意味しない。
これに対し、
図2のパート(b)に示す実体配線図は、リーン車両1における装置間の実際の配線長を概略で示している。
【0130】
図2のパート(b)に示すように、電気二重層キャパシタ71は、配線距離を基準として、電気二重層キャパシタ71とインバータ21との距離が、ディープサイクル鉛バッテリ4とインバータ21との距離よりも短くなるように配設されている。
電気二重層キャパシタ71からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離は、ディープサイクル鉛バッテリ4からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離よりも短い。
また、電気二重層キャパシタ71は、配線距離を基準として、電気二重層キャパシタ71とインバータ21との距離が電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4との距離よりも長くなるように配設されている。この結果、電気二重層キャパシタ71からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離は、ディープサイクル鉛バッテリ4からインバータ21を経て永久磁石式始動モータ20へ至るまでの配線距離よりも長い。
【0131】
次に、
図7を参照して、リーン車両1におけるエンジン10の始動性について説明する。
【0132】
図7は、
図2に示すリーン車両1において、エンジン10の始動時における電流の変化を表すチャートである。
【0133】
図7の太い実線は、インバータ21に流れる電流Imを示す。細い実線は電気二重層キャパシタ71に流れる電流Icを示す。破線はディープサイクル鉛バッテリ4に流れる電流Ibを示す。縦軸の0Aより上はディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71の充電電流を示し、0Aより下は放電電流を示す。なお、
図7では、容易な理解のため電気装置へ電流が供給されていない時の電流Im、Ic、Ibが示されている。
【0134】
図7のチャートでは、エンジン10への燃料供給などの燃焼動作が行われずにエンジン10の始動のためのクランク軸15の正転動作が行われた時の電流が示されている。具体的な始動条件として、スタータスイッチ6が、所定期間にわたってオン状態になるよう操作される。この期間、制御装置60の制御によってインバータ21が、永久磁石式始動モータ20を回転させるよう、永久磁石式始動モータ20の各相の巻線に電流を供給する。つまり、所定の始動期間(例えば0.5秒間)が得られる。これによって、永久磁石式始動モータ20が上記始動期間にわたってクランク軸15を回転させる。この期間中、エンジン10の燃焼動作は行われない。次に、所定の停止期間(例えば3秒間)が得られ、その後、再度、スタータスイッチ6が、上記始動期間にわたってオン状態になるよう操作される。このように始動期間と停止期間とが交互に繰り返される。
上記始動期間のうち始めの一部(例えば0.05秒)は、回転開始期間に対応する。停止中の永久磁石式始動モータ20が回転を開始するまでは、永久磁石式始動モータ20の巻線のインピーダンスが小さい。つまり、始動期間のうち回転開始期間では、永久磁石式始動モータ20に回転開始期間後の回転時より大きな突入電流が流れる。
この電流は、永久磁石式始動モータ20が、エンジン10のクランク軸15の回転を開始するためのトルクに対応している。
図7のチャートでは、始動期間とそれに続く停止期間の組み合わせが繰り返される。
【0135】
電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4と接続されている。インバータ21に流れる電流Imは、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの合計である。
図7に示すように、始動期間のうちの回転開始期間では、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと、電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの和の電流Imが、インバータ21に流れる。
回転開始期間では、大きな電流Icが電気二重層キャパシタ71から放電されることによって、大きなインバータ21の電流Imが得られる。つまり、インバータ21の電流Imとして、エンジン10の始動に十分な電流が得られる。従って、クランク軸15の回転速度が速やかに大きくなり、エンジン10の始動性が得られる。
ディープサイクル鉛バッテリ4からエンジン10の始動に十分な電流が出力されない場合であっても、エンジン10を始動できる。
【0136】
回転開始期間の経過後、クランク軸15が回転を開始することに伴い、永久磁石式始動モータ20の巻線のインピーダンスが増大する。この結果、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの双方が減少する。
ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibよりも、電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの方が小さい。これは、永久磁石式始動モータ20の巻線のインピーダンス増大に伴い、永久磁石式始動モータ20の巻線での電圧降下が大きくなり、永久磁石式始動モータ20の端子電圧と放電後の電気二重層キャパシタ71の端子電圧との差が減少するためと考えられる。換言すれば、ディープサイクル鉛バッテリ4の放電による端子電圧の変動が電気二重層キャパシタ71の放電による端子電圧の変動と比べて小さいので、ディープサイクル鉛バッテリ4では、上記回転開始期間の経過後の放電電流の変化が小さいと考えられる。
【0137】
始動期間の後の停止期間では、スタータスイッチ6がオフ状態になっている。この期間、制御装置60がインバータ21による、永久磁石式始動モータ20への電流の供給を停止する。従って、インバータ21に流れる電流Imが0である。この停止期間で、電気二重層キャパシタ71の電流Icが充電を示し、ディープサイクル鉛バッテリ4の電流Ibが放電を示している。これは、始動期間の放電によって端子電圧が低下した電気二重層キャパシタ71が、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力によって充電されていることを示している。ディープサイクル鉛バッテリ4の電力による電気二重層キャパシタ71の充電は、電気二重層キャパシタ71の端子電圧がディープサイクル鉛バッテリ4の端子電圧と等しくなるまで継続する。なお、
図7の例では、電気二重層キャパシタ71の端子電圧がディープサイクル鉛バッテリ4の端子電圧と等しくなる前に、次の始動期間が開始している。
【0138】
始動開始期間の前、例えば時間0において、ディープサイクル鉛バッテリ4の電流Ib及び電気二重層キャパシタ71の電流Ic双方が0Aとなっている。時間0のエンジン10の始動前の状態は、電気二重層キャパシタ71がディープサイクル鉛バッテリ4によって充電された状態を意味している。
エンジン10の始動前に、電気二重層キャパシタ71が、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力によって充電された結果である。
このように、ディープサイクル鉛バッテリ4から単位時間で出力することが可能な電力(電流)は小さい。しかし、リーン車両1が備えるディープサイクル鉛バッテリ4は、電気二重層キャパシタ71と接続されている。このため、ディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電力によって、回転開始期間の前に電気二重層キャパシタ71を充電することができる。そして回転開始期間では、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと、電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの和の電流Imによって、永久磁石式始動モータ20を駆動する。
【0139】
図7のチャートでは、始動期間とそれに続く停止期間の組み合わせが繰り返される。ディープサイクル鉛バッテリ4への充電無しに、始動期間とそれに続く停止期間の組み合わせが繰り返されることによって、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電量は減少する。この結果、繰り返しの回数が増加することに従い、始動期間のうち始めの一部でディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電流Ib’,Ib’’は減少する。ただし、各始動期間の後で、電気二重層キャパシタ71が、ディープサイクル鉛バッテリ4の電力によって充電される。
【0140】
ディープサイクル鉛バッテリ4は、例えばスタータバッテリよりも少量の電流を長時間供給する能力に優れている。ディープサイクル鉛バッテリ4は、例えばスタータバッテリよりも多くの繰り返し放充電が可能である。
始動期間に出力できる電流がスタータバッテリと比べ小さい場合でも、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと、電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの和の電流Imによって、永久磁石式始動モータ20を駆動する。
永久磁石式始動モータ20の始動期間に対する発電期間の割合が小さい状態で、ディープサイクル鉛バッテリ4は、長期間電流を出力することができる。例えば、停止期間にディープサイクル鉛バッテリ4から出力される電力によって電気二重層キャパシタ71を充電することができる。そして回転開始期間では、ディープサイクル鉛バッテリ4から放電される電流Ibと、電気二重層キャパシタ71から放電される電流Icの和の電流Imによって、永久磁石式始動モータ20を駆動する。これによって、エンジン10始動することができる。
このように、電気二重層キャパシタ71が接続されることよって、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電期間が短い場合又は充電がない場合でも、エンジン10を始動できる回数の限度を増加することができる。
【0141】
[第二の適用例]
続いて、第二の適用例を説明する。
【0142】
図8は、第二の適用例におけるリーン車両1の電気的な概略構成を示す回路図である。
【0143】
図8に示す適用例では、ディープサイクル鉛バッテリ4と、電気二重層キャパシタ71との間に接続切換器Sw1,Sw2が設けられている。接続切換器Sw1,Sw2は、例えば、制御装置60の制御によって動作する。接続切換器Sw1,Sw2は、常時オン状態である。接続切換器Sw1,Sw2は、例えば、メンテナンス時にオフにされる場合がある。
【0144】
制御装置60は、通常、ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71の並列状態を維持する。並列状態が解除されるのは例えばメンテナンス時である。即ち、ディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71は、実質的に常時接続される。これによって、例えば、エンジン10の始動を連続して実施した場合のように、ディープサイクル鉛バッテリ4の充電量が少ないためディープサイクル鉛バッテリ4から十分な電流の電流が見込めない場合でも、ディープサイクル鉛バッテリ4からの電流と及び電気二重層キャパシタ71からの電流が得られる。この電流によって、エンジン10を始動することができる。このことは、
図6等を参照して説明した適用例と同じである。
なお、リーン車両1は、
図8に示すように、接続切換器Sw1,Sw2の切換えによってディープサイクル鉛バッテリ4と電気二重層キャパシタ71を直列接続することが可能な回路を備えていてもよい。
【0145】
[第三の適用例]
続いて、第三の適用例を説明する。
【0146】
図9は、第三の適用例におけるディープサイクル鉛バッテリ及び電気二重層キャパシタの配置例を説明する図である。
図9のパート(a)は、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71を車体2の一部断面とともに示す側面である。
図9のパート(b)は、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71を車体2の一部断面とともに示す底面である。
図9に示すディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、例えば、
図1、
図2、又は
図8に示すディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71である。
【0147】
ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、車体2に取付けられている。
電気二重層キャパシタ71は、例えば
図2に示すリーン車両1を左方に見て、リーン車両1の上下方向において、ディープサイクル鉛バッテリ4の下縁線よりも下方に配置されている。例えば、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の底面に沿って並んでいる。ディープサイクル鉛バッテリ4の底面よりも下方に配置されている。
【0148】
例えば、ディープサイクル鉛バッテリ4及び電気二重層キャパシタ71は、車体2に設けられた収容部2bに配置されている。例えば、収容部2bは、開口を有する凹部である。例えば、収容部2bは、シート2a(例えば、
図2参照)よりも下方に配置される。シート2aは、開口の蓋として機能する。
ただし、収容部2bの位置は、シート2aよりも下方に限られない。例えば収容部2bは、シートよりも前方に設けられることも可能である。この場合、シート2aとは別の蓋が設けられる。収容部2bの少なくとも一部は、バッテリカバーで構成されている。収容部2b一部は、例えば車体フレームで構成されることも可能である。また、収容部2bの少なくとも一部は、例えば車体フレームをカバーする車体カバーで構成されることも可能である。
【0149】
電気二重層キャパシタ71は、上下方向において、ディープサイクル鉛バッテリ4の下縁線よりも下方に配置されている。ディープサイクル鉛バッテリ4の下縁線は、ディープサイクル鉛バッテリ4を左右方向に見て、ディープサイクル鉛バッテリ4の底面4bで構成される線である。従って、
図9のパート(a)で下縁線は、底面と同じ4bの符号で示される部分である。
より詳細には、電気二重層キャパシタ71は、上下方向において、ディープサイクル鉛バッテリ4の底面4bよりも下方に配置されている。
収容部2bは、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも下方に、電気二重層キャパシタ71が配置されるスペースを有している。より詳細には、収容部2bは、開口の大きさを維持しながら、ディープサイクル鉛バッテリ4よりも下方に延伸している。電気二重層キャパシタ71は、この延伸した空間に配置されている。
電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4との間に電気部品を介在させることなく配置されている。電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4との間には、電気部品以外の部品が配置されてもよい。例えば、電気二重層キャパシタ71とディープサイクル鉛バッテリ4との間には、仕切り部材が配置されてもよい。
電気二重層キャパシタ71の直径φ及び高さLcと、ディープサイクル鉛バッテリ4の横の長さLb及び縦の長さWとの関係は上の式(A)及び(B)の通りである。電気二重層キャパシタ71は、収容部2bの延長した空間に配置可能である。
リーン車両1の車体2の設計において、ディープサイクル鉛バッテリ4の収容部を延長して設けることは、ディープサイクル鉛バッテリ4から分離した、電気二重層キャパシタ71の専用の収容部を設けるよりも容易である。
例えば、収容部2bは、
図9に示すディープサイクル鉛バッテリ4と同じ横の長さLb及び縦の長さWを有し、
図9に示すディープサイクル鉛バッテリ4の高さHbよりも大きな高さを有する別のバッテリを収容可能するために設計することも可能である。収容部2bは、例えば、
図9に示すディープサイクル鉛バッテリ4よりも容量が大きいバッテリを収容することも可能である。
このように、電気二重層キャパシタ71の直径φ及び高さLcと、ディープサイクル鉛バッテリ4の横の長さLb及び縦の長さWとの関係は上の式(A)及び(B)の通りなので、ディープサイクル鉛バッテリ4の収容部を延長することによって、電気二重層キャパシタ71の配置空間を設けることができる。
例えば、ディープサイクル鉛バッテリから離れた空間に電気二重層キャパシタを設ける場合、リーン車両1で電気二重層キャパシタを配置できる空間の位置は、限定されてしまう。
例えば
図9に示す電気二重層キャパシタ71の配置空間は、例えばディープサイクル鉛バッテリ4から離れた空間を設けるよりも容易である。リーン車両1における、電気二重層キャパシタ71の配置位置の選択の自由度が高い。
【0150】
電気二重層キャパシタ71の高さLcと、ディープサイクル鉛バッテリ4の縦の長さWとの関係は上述した式(B),(C)の通りである。
【0151】
なお、上述した実施形態及び適応例では、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の底面に沿って並んだ例を説明した。但し、電気二重層キャパシタ71の位置は、これに限られない。例えば、電気二重層キャパシタ71は、ディープサイクル鉛バッテリ4の側面に沿って並んでいてもよい。
【符号の説明】
【0152】
1 リーン車両
3a,3b 車輪
4 ディープサイクル鉛バッテリ
10 エンジン
15 クランク軸
20 永久磁石式始動モータ
71 電気二重層キャパシタ