(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099931
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】Tyro3断片ペプチド及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/705 20060101AFI20240719BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20240719BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20240719BHJP
C12N 15/63 20060101ALN20240719BHJP
C12N 1/15 20060101ALN20240719BHJP
C12N 1/19 20060101ALN20240719BHJP
C12N 1/21 20060101ALN20240719BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C07K14/705
C12P21/02 C
C12N15/12 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003571
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】福森 亮雄
(72)【発明者】
【氏名】柳田 寛太
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 結衣
(72)【発明者】
【氏名】岡田 健
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA10
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA13
4B064DA14
4B065AA93X
4B065AA93Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045BA10
4H045CA40
4H045DA50
4H045EA50
4H045EA51
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】Tyro3の切断後の分子小断片であるペプチドを特定し、当該ペプチドを製造できるようにする。
【解決手段】Tyro3断片ペプチドの製造方法は、特定のヌクレオチド配列を含む発現ベクターを該発現ベクターによる遺伝子発現が可能な宿主細胞に導入するステップと、前記宿主細胞を前記遺伝子発現が可能な条件下で培養するステップと、前記宿主細胞から特定のアミノ酸配列を含むTyro3断片ペプチドを回収するステップとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2~4のいずれかのアミノ酸配列を含むTyro3断片ペプチドであって、
配列番号3及び4における最もN末端側のグルタミンはピログルタミル化修飾を受けている、Tyro3断片ペプチド。
【請求項2】
C末端にタグ分子を含む、請求項1に記載のTyro3断片ペプチド。
【請求項3】
配列番号6のヌクレオチド配列を含む発現ベクターを該発現ベクターによる遺伝子発現が可能な宿主細胞に導入するステップと、
前記宿主細胞を前記遺伝子発現が可能な条件下で培養するステップと、
前記宿主細胞から請求項1又は2に記載のペプチドを回収するステップとを含む、Tyro3断片ペプチドの製造方法。
【請求項4】
前記発現ベクターは、タグ分子をコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項3に記載のTyro3断片ペプチドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Tyro3断片ペプチド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、多くの疾患が知られているが、中でも癌やアルツハイマー病等は生活の質を著しく低下させる疾患として知られている。それらの原因は、生体に不要な腫瘍細胞やアミロイド斑等の蓄積である。従来のコンピュータ断層撮影法(Computed Tomography:CT)、核磁共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging:MRI)及び陽電子放出断層撮影法(Positron Emission Tomography:PET)等の画像診断技術は、腫瘍やアミロイド等の凝集塊の検出に有効であるものの、それらの蓄積量が少ないときは検出が困難である。そのため、上記のような従来技術によって腫瘍や凝集塊が発見されたとしても、既に病状が進行しており手遅れとなる場合がある。
【0003】
これまでに、腫瘍やアミロイド等の生体に不要な凝集塊の認識や貪食に中心的な役割を果たす分子がいくつか知られており、その中の1つとしてTAM受容体がある。TAM受容体は、Tyro3、Axl及びMerの3種類の分子からなる1型膜貫通タンパク質の受容体チロシンキナーゼである。TAM受容体は、特にアミロイドβタンパク質を認識する受容体として知られており(非特許文献1)、また、Tyro3が、膵臓癌において発現上昇していることも知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Nature Immunology,22,p586-594(2021).
【非特許文献2】Cancer Letters,470,p149-160(2020).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記事実から、TAM受容体分子を指標として癌やアルツハイマー等の疾患の早期診断に利用することが考えられる。例えば、TAM受容体分子の1つであるTyro3は、典型的な2段階の切断を受けることが知られており、Tyro3が腫瘍やアミロイド周辺に存在する量を、血液中への放出が想定される切断後のTyro3の分子小断片の量から推定することで、癌やアミロイドの凝集塊の微量蓄積を検出できる可能性があると考えられる。しかしながら、上記Tyro3の2段階の切断について、未だその正確な切断部位は不明であり、さらに、この2段階の切断により放出される分子小断片を検出したという報告はない。当該分子小断片を上記腫瘍やアルツハイマー病等の疾患のバイオマーカーとして利用可能にするためには、分子小断片のアミノ酸配列やアミノ酸修飾を特定することが必要であり、それらを特定した上で当該分子小断片を製造することができれば、分子小断片を検出するための抗体等の作製も可能となり得る。
【0006】
本発明は前記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、Tyro3の切断後の分子小断片であるペプチドを特定し、当該ペプチドを製造できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために、本発明者らは、鋭意研究の結果、シェダーゼによる細胞外シェディングにより切断されたTyro3の切断部位を特定し、さらにその切断部位がピログルタミル化されていることを見出して本発明を完成した。
【0008】
具体的に、本発明に係るTyro3断片ペプチドは、配列番号2~4のいずれかのアミノ酸配列を含むTyro3断片ペプチドであり、配列番号3及び4における最もN末端側のグルタミンはピログルタミル化修飾を受けていることを特徴とする。
【0009】
本発明に係るTyro3断片ペプチドは、C末端にタグ分子を含むことが好ましい。
【0010】
また、本発明に係るTyro3断片ペプチドの製造方法は、配列番号6のヌクレオチド配列を含む発現ベクターを該発現ベクターによる遺伝子発現が可能な宿主細胞に導入するステップと、前記宿主細胞を前記遺伝子発現が可能な条件下で培養するステップと、前記宿主細胞から上記のペプチドを回収するステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
本発明に係るTyro3断片ペプチドの製造方法において、前記発現ベクターは、タグ分子をコードするヌクレオチド配列をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るTyro3断片ペプチド及びその製造方法によると、癌やアルツハイマー病等の疾患のバイオマーカーとして利用可能なTyro3の切断後の分子小断片を得ることができ、これを利用して分子小断片を検出するための抗体等の作製することができるため、癌やアルツハイマー病等の疾患の診断等に有益となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、Tyro3の二段階切断を説明するためのモデル図である。
【
図2】
図2は、実施例にて行ったTyro3発現ベクターを導入されたHEK293細胞の細胞膜から得たサンプルを用いたイムノブロットの結果を示す写真である。
【
図3】
図3は、実施例にて行ったTyro3発現ベクターを導入されたHEK293細胞の細胞膜から得たサンプルを用いたイムノブロットの結果を示す写真である。
【
図4】
図4は、実施例にて行ったTyro3ΔC発現ベクターを導入されたHEK293細胞の細胞膜から得たサンプルを用いたイムノブロットの結果を示す写真である。
【
図5】
図5の(a)はTyro3のアミノ酸配列の一部を示す図であり、(b)は実施例にて行ったTyro3ΔC発現ベクターを導入されたHEK293細胞の細胞膜から得たサンプルを用いた質量分析の結果を示すグラフである。
【
図6】
図6は、上段が
図5(b)の質量分析の結果をより詳細に示すグラフであって、下段がPBD150処理をした場合の質量分析の結果を示すグラフであり、それらを対比する図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用方法或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0015】
本発明の一実施形態は、配列番号2~4のいずれかのアミノ酸配列を含むTyro3断片ペプチドであり、配列番号3及び4における最もN末端側のグルタミンはピログルタミル化修飾を受けていることを特徴とするものである。
【0016】
本実施形態において、Tyro3とは、Axl及びMerとによりTAM受容体を構成する分子であり、TAM受容体は1型膜貫通タンパク質の受容体チロシンキナーゼである。上述の通り、TAM受容体は、腫瘍やアミロイド等の生体に不要な凝集塊の認識や貪食に中心的な役割を果たす分子として知られており、アミロイドβタンパク質を認識する受容体として知られている。Tyro3は、所定の癌において発現上昇していることも知られている。
【0017】
また、上述の通りTyro3は、典型的な2段階の切断を受けることが知られており、具体的には、
図1に示すように、まずシェダーゼによりTyro3の細胞外の大部分が切断され、その後に細胞膜上に残るTyro3のC末端ペプチド(C末端断片)がその膜貫通領域、すなわち膜貫通ドメイン(TMD)をγ-セクレターゼ(プレセニリン)により切断される。これらの切断により、放出が想定されるTyro3の細胞外分子小断片であるTyro3βが、腫瘍やアミロイド等の凝集塊を認識する際に、全長型のTyro3分子の発現に伴って、血液中に増加すると考えられる。しかしながら、これまでにTyro3βが検出された報告は無く、第1段階の切断に関わるシェダーゼについても明らかとはなっておらず、当該切断における切断部位も不明である。
【0018】
今回、本発明者らは鋭意研究の結果、後に実施例にて説明する通り、シェダーゼによるTyro3の切断部位を特定した。具体的には、Tyro3は、そのアミノ酸配列における418番目のグアニンと419番目のグルタミンとの間、419番目のグルタミンと420番目のグルタミンとの間、又は420番目のグルタミンと421番目のグアニンとの間のいずれかで切断される。Tyro3は、全長が890アミノ酸長のタンパク質であり(配列番号1)、従って、Tyro3のシェダーゼによる切断後のC末端断片は、419番目のグルタミン、420番目のグルタミン又は421番目のグアニンから890番目のシステインまでのアミノ酸配列を有することとなる。
配列番号1:MALRRSMGRPGLPPLPLPPPPRLGLLLAALASLLLPESAAAGLKLMGAPVKLTVSQGQPVKLNCSVEGMEEPDIQWVKDGAVVQNLDQLYIPVSEQHWIGFLSLKSVERSDAGRYWCQVEDGGETEISQPVWLTVEGVPFFTVEPKDLAVPPNAPFQLSCEAVGPPEPVTIVWWRGTTKIGGPAPSPSVLNVTGVTQSTMFSCEAHNLKGLASSRTATVHLQALPAAPFNITVTKLSSSNASVAWMPGADGRALLQSCTVQVTQAPGGWEVLAVVVPVPPFTCLLRDLVPATNYSLRVRCANALGPSPYADWVPFQTKGLAPASAPQNLHAIRTDSGLILEWEEVIPEAPLEGPLGPYKLSWVQDNGTQDELTVEGTRANLTGWDPQKDLIVRVCVSNAVGCGPWSQPLVVSSHDRAGQQGPPHSRTSWVPVVLGVLTALVTAAALALILLRKRRKETRFGQAFDSVMARGEPAVHFRAARSFNRERPERIEATLDSLGISDELKEKLEDVLIPEQQFTLGRMLGKGEFGSVREAQLKQEDGSFVKVAVKMLKADIIASSDIEEFLREAACMKEFDHPHVAKLVGVSLRSRAKGRLPIPMVILPFMKHGDLHAFLLASRIGENPFNLPLQTLIRFMVDIACGMEYLSSRNFIHRDLAARNCMLAEDMTVCVADFGLSRKIYSGDYYRQGCASKLPVKWLALESLADNLYTVQSDVWAFGVTMWEIMTRGQTPYAGIENAEIYNYLIGGNRLKQPPECMEDVYDLMYQCWSADPKQRPSFTCLRMELENILGQLSVLSASQDPLYINIERAEEPTAGGSLELPGRDQPYSGAGDGSGMGAVGGTPSDCRYILTPGGLAEQPGQAEHQPESPLNETQRLLLLQQGLLPHSSC
【0019】
上記の通り、Tyro3は細胞外及びTMD内において2段階切断を受けるため、細胞内に配置される部分(細胞内ドメイン:ICD)については切断部位の検討やβペプチドの生成等のためには不要であるので、そのうちの一部が省略(欠損)されていても構わない。後の実施例においても説明するが、例えば上記配列番号1のアミノ酸配列のうち、501番目のセリンよりもC末端側部分が欠損されたTyro3ΔCが用いられてもよい。その場合、シェダーゼによる切断後のTyro3ΔCのアミノ酸配列は、418番目のグアニンと419番目のグルタミンとの間で切断された場合は下記配列番号2の配列、419番目のグルタミンと420番目のグルタミンとの間で切断された場合は下記配列番号3の配列、420番目のグルタミンと421番目のグアニンとの間で切断された場合は下記配列番号4の配列となる。
配列番号2:GPPHSRTSWVPVVLGVLTALVTAAALALILLRKRRKETRFGQAFDSVMARGEPAVHFRAARSFNRERPERIEATLDSLGIS
配列番号3:QGPPHSRTSWVPVVLGVLTALVTAAALALILLRKRRKETRFGQAFDSVMARGEPAVHFRAARSFNRERPERIEATLDSLGIS
配列番号4:QQGPPHSRTSWVPVVLGVLTALVTAAALALILLRKRRKETRFGQAFDSVMARGEPAVHFRAARSFNRERPERIEATLDSLGIS
【0020】
さらに、本発明者らは、シェダーゼによる切断後のTyro3のC末端側断片におけるN末端のグルタミン(配列番号3又は4の最もN末端側のグルタミン)がピログルタミル化修飾を受けていることを見出した。以上のような、Tyro3のC末端断片のアミノ酸配列や受けている修飾については、これまでに知られておらず、今回初めて明らかとなったものである。シェダーゼによる切断後のC末端断片のアミノ酸配列及び修飾と、さらに切断されて生じるTyro3βのN末端側のアミノ酸配列及び修飾は同一であるので、Tyro3βのN末端側のアミノ酸配列及び修飾も同様に特定されることとなる。従って、これらの情報に基づいて、例えばTyro3βのN末端を認識する抗体等の検出分子を製造することができ、そうすることで、Tyro3βを癌やアルツハイマー等の疾患を検出するためのバイオマーカーとして利用することができる。
【0021】
本実施形態におけるTyro3断片ペプチドは、実質的には上記の通りのアミノ酸配列で構成されるが、アミノ酸のうちの少なくとも10個以下、好ましくは5個以下、より好ましくは2個以下の置換、付加又は欠失等の変異を含んでもよい。また、上記N末端のグルタミンのピログルタミル化修飾以外に、他のアミノ酸が修飾を受けていてもよい。また、本実施形態におけるTyro3断片ペプチドは、例えばC末端等の所定の位置に、検出用のタグ分子が付加されていてもよい。用いられるタグ分子は、本技術分野において通常用いられるものであれば特に限定されず、例えばFlag(登録商標)タグ、Hisタグ、HAタグ及びMycタグ等を用いることができる。
【0022】
次に、本発明の他の実施形態は、配列番号6のヌクレオチド配列を含む発現ベクターを該発現ベクターによる遺伝子発現が可能な宿主細胞に導入するステップと、前記宿主細胞を前記遺伝子発現が可能な条件下で培養するステップと、前記宿主細胞から上記のペプチドを回収するステップとを含むことを特徴とするTyro3断片ペプチドの製造方法である。
【0023】
本実施形態において、配列番号6のヌクレオチド配列は、Tyro3の一部をコードするヌクレオチド配列であり、具体的にはTyro3ΔCをコードするヌクレオチド配列である。また当然に、発現ベクターは、全長型Tyro3をコードするヌクレオチド配列(配列番号5)を含んでいてもよい。それらの配列は以下の通りである。
配列番号5:atggcgctgaggcggagcatggggcggccggggctcccgccgctgccgctgccgccgccaccgcggctcgggctgctgctggcggctctggcttctctgctgctcccggagtccgccgccgcaggtctgaagctcatgggagccccggtgaagctgacagtgtctcaggggcagccggtgaagctcaactgcagtgtggaggggatggaggagcctgacatccagtgggtgaaggatggggctgtggtccagaacttggaccagttgtacatcccagtcagcgagcagcactggatcggcttcctcagcctgaagtcagtggagcgctctgacgccggccggtactggtgccaggtggaggatgggggtgaaaccgagatctcccagccagtgtggctcacggtagaaggtgtgccatttttcacagtggagccaaaagatctggcagtgccacccaatgcccctttccaactgtcttgtgaggctgtgggtccccctgaacctgttaccattgtctggtggagaggaactacgaagatcgggggacccgctccctctccatctgttttaaatgtaacaggggtgacccagagcaccatgttttcctgtgaagctcacaacctaaaaggcctggcctcttctcgcacagccactgttcaccttcaagcactgcctgcagcccccttcaacatcaccgtgacaaagctttccagcagcaacgctagtgtggcctggatgccaggtgctgatggccgagctctgctacagtcctgtacagttcaggtgacacaggccccaggaggctgggaagtcctggctgttgtggtccctgtgcccccctttacctgcctgctccgggacctggtgcctgccaccaactacagcctcagggtgcgctgtgccaatgccttggggccctctccctatgctgactgggtgccctttcagaccaagggtctagccccagccagcgctccccaaaacctccatgccatccgcacagattcaggcctcatcttggagtgggaagaagtgatccccgaggcccctttggaaggccccctgggaccctacaaactgtcctgggttcaagacaatggaacccaggatgagctgacagtggaggggaccagggccaatttgacaggctgggatccccaaaaggacctgatcgtacgtgtgtgcgtctccaatgcagttggctgtggaccctggagtcagccactggtggtctcttctcatgaccgtgcaggccagcagggccctcctcacagccgcacatcctgggtacctgtggtccttggtgtgctaacggccctggtgacggctgctgccctggccctcatcctgcttcgaaagagacggaaagagacgcggtttgggcaagcctttgacagtgtcatggcccggggagagccagccgttcacttccgggcagcccggtccttcaatcgagaaaggcccgagcgcatcgaggccacattggacagcttgggcatcagcgatgaactaaaggaaaaactggaggatgtgctcatcccagagcagcagttcaccctgggccggatgttgggcaaaggagagtttggttcagtgcgggaggcccagctgaagcaagaggatggctcctttgtgaaagtggctgtgaagatgctgaaagctgacatcattgcctcaagcgacattgaagagttcctcagggaagcagcttgcatgaaggagtttgaccatccacacgtggccaaacttgttggggtaagcctccggagcagggctaaaggccgtctccccatccccatggtcatcttgcccttcatgaagcatggggacctgcatgccttcctgctcgcctcccggattggggagaacccctttaacctacccctccagaccctgatccggttcatggtggacattgcctgcggcatggagtacctgagctctcggaacttcatccaccgagacctggctgctcggaattgcatgctggcagaggacatgacagtgtgtgtggctgacttcggactctcccggaagatctacagtggggactactatcgtcaaggctgtgcctccaaactgcctgtcaagtggctggccctggagagcctggccgacaacctgtatactgtgcagagtgacgtgtgggcgttcggggtgaccatgtgggagatcatgacacgtgggcagacgccatatgctggcatcgaaaacgctgagatttacaactacctcattggcgggaaccgcctgaaacagcctccggagtgtatggaggacgtgtatgatctcatgtaccagtgctggagtgctgaccccaagcagcgcccgagctttacttgtctgcgaatggaactggagaacatcttgggccagctgtctgtgctatctgccagccaggaccccttatacatcaacatcgagagagctgaggagcccactgcgggaggcagcctggagctacctggcagggatcagccctacagtggggctggggatggcagtggcatgggggcagtgggtggcactcccagtgactgtcggtacatactcacccccggagggctggctgagcagccagggcaggcagagcaccagccagagagtcccctcaatgagacacagaggcttttgctgctgcagcaagggctactgccacacagtagctgttag
配列番号6:atggcgctgaggcggagcatggggcggccggggctcccgccgctgccgctgccgccgccaccgcggctcgggctgctgctggcggctctggcttctctgctgctcccggagtccgccgccgcaggtctgaagctcatgggagccccggtgaagctgacagtgtctcaggggcagccggtgaagctcaactgcagtgtggaggggatggaggagcctgacatccagtgggtgaaggatggggctgtggtccagaacttggaccagttgtacatcccagtcagcgagcagcactggatcggcttcctcagcctgaagtcagtggagcgctctgacgccggccggtactggtgccaggtggaggatgggggtgaaaccgagatctcccagccagtgtggctcacggtagaaggtgtgccatttttcacagtggagccaaaagatctggcagtgccacccaatgcccctttccaactgtcttgtgaggctgtgggtccccctgaacctgttaccattgtctggtggagaggaactacgaagatcgggggacccgctccctctccatctgttttaaatgtaacaggggtgacccagagcaccatgttttcctgtgaagctcacaacctaaaaggcctggcctcttctcgcacagccactgttcaccttcaagcactgcctgcagcccccttcaacatcaccgtgacaaagctttccagcagcaacgctagtgtggcctggatgccaggtgctgatggccgagctctgctacagtcctgtacagttcaggtgacacaggccccaggaggctgggaagtcctggctgttgtggtccctgtgcccccctttacctgcctgctccgggacctggtgcctgccaccaactacagcctcagggtgcgctgtgccaatgccttggggccctctccctatgctgactgggtgccctttcagaccaagggtctagccccagccagcgctccccaaaacctccatgccatccgcacagattcaggcctcatcttggagtgggaagaagtgatccccgaggcccctttggaaggccccctgggaccctacaaactgtcctgggttcaagacaatggaacccaggatgagctgacagtggaggggaccagggccaatttgacaggctgggatccccaaaaggacctgatcgtacgtgtgtgcgtctccaatgcagttggctgtggaccctggagtcagccactggtggtctcttctcatgaccgtgcaggccagcagggccctcctcacagccgcacatcctgggtacctgtggtccttggtgtgctaacggccctggtgacggctgctgccctggccctcatcctgcttcgaaagagacggaaagagacgcggtttgggcaagcctttgacagtgtcatggcccggggagagccagccgttcacttccgggcagcccggtccttcaatcgagaaaggcccgagcgcatcgaggccacattggacagcttgggcatcagc
【0024】
本実施形態において、発現ベクターは、上記全長型のTyro3をコードするヌクレオチド配列を発現できるベクターであれば特に限定されず、該ベクターが導入される宿主細胞内において、全長型のTyro3を正常に発現するのに適した例えばプロモータ等の制御配列を含み得る。そのような制御配列は、用いる宿主細胞等の条件に従って、当業者であれば適宜選択できる。
【0025】
本実施形態において、該発現ベクターによる遺伝子発現が可能な宿主細胞についても本技術分野において通常用いられている細胞を用いることができ、例えばHEK293細胞等の株化培養細胞を用いることができるがこれに限定されない。
【0026】
本実施形態において、発現ベクターの宿主細胞への導入は、本技術分野において通常用いられているトランスフェクション技術を用いることができる。トランスフェクション技術としては、例えばリポフェクション法やリン酸カルシウム共沈殿法等の化学的手段、アデノウイルス等を利用した生物学的手段、エレクトロポレーション法等の物理的手段を用いることができるがこれらに限定されない。
【0027】
本実施形態において、遺伝子導入後の宿主細胞の培養は、宿主細胞が導入された遺伝子を発現するのに適した条件下で行われる。当該条件は、当業者であれば適宜選択することが可能であり、例えば、RPMI-1640培地やダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)などの培地に、必要に応じウシ胎児血清(FBS)などの血清成分を添加した培地を用いて、5%CO2、37℃の環境下で培養することができる。
【0028】
本実施形態において、上記発現ベクターが導入された宿主細胞からTyro3ペプチドを回収する方法は、本技術分野において通常用いられる細胞から所望のタンパク質を回収する手段を利用することができる。特に、Tyro3のC末端ペプチドは、細胞膜に存在するため、細胞膜からタンパク質を回収する手段を利用することができる。例えば、宿主細胞をチューブ等に回収後に、所定の溶解液を用いて細胞膜を可溶化処理し、タンパク質を回収することができる。ここで、Tyro3のみを分離して回収できるようにするために、例えば上記発現ベクターにおいて、全長型Tyro3のC末端にタグ分子が結合されたタンパク質を発現するように設計することが好ましい。タグ分子としては、上述した通り、例えばFlag(登録商標)タグ、Hisタグ、HAタグ及びMycタグ等を用いることができる。このようなタグ分子が結合されたTyro3を宿主細胞が発現することにより、当該タグ分子に特異的に結合する抗体等の結合分子を用いて、Tyro3のみを分離回収することができる。このとき、細胞内においてTyro3は2段階切断を受けるため、全長型Tyro3、そのC末端断片、及び該C末端断片からTyro3βが切断された分子のそれぞれが回収されることとなるが、それらは分子量がそれぞれ異なるため、例えばSDS-PAGE等を利用することにより、容易にそれぞれを分離することができる。このため、容易にTyro3のC末端断片のみを回収することができる。以上のようにしてTyro3断片ペプチドを製造することが可能となる。
【実施例0029】
以下に、本発明に係るTyro3断片ペプチド及びその製造方法について詳細に説明するための実施例を示す。
【0030】
(Tyro3発現用細胞の準備)
まず、10%のウシ胎児血清(FBS)及び1%のペニシリン-ストレプトマイシンを含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、HEK293細胞及びプレセニリノックアウト(PSKO)HEK293細胞を37℃、5%CO2の雰囲気下で培養した。その後、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)し、トリプシン/EDTAを用いて細胞を15mLチューブに回収した。回収した細胞を5000rpmで3分間遠心分離して沈殿させた後、上清を吸引して取り除き6.7mLの上記DMEMを加えてサスペンドし、各細胞を10mLのDMEMの入った10cmディッシュ6枚に1mLずつ播種して37℃、5%CO2雰囲気下で培養した。
【0031】
なお、PSKOのHEK293細胞は、Ran FA, Hsu PD, Wright J,et al.Nat Protoc.2013;8(11):2281-308.を参照し、CRISPR/Cas9ゲノム編集を利用して作製した。特に、プレセニリン1(PS1)の欠失は、(Tagami et al cell report 2017;https://www.cell.com/cell-reports/pdf/S2211-1247(17)31307-4.pdf)にて用いられたコンストラクトを用いた。簡単に説明すると、エクソン4の次の配列を標的gRNAとしてCCCTGAGCCATTATCTAATGGAC Px330にクローニングして、それを用いて下記の方法で作成した。一方、ヒトプレセニリン2(PS2)を標的とする3つの20塩基のガイド配列は、CRISPRデザインツール(http://crispr.dbcls.jp/)を用いて設計した。PS2の3つのガイドRNA配列は、Feng Zhangから供与を受けたpSpCas9(BB)-2A-Puro(pX459)V2.0 にクローニングした(Addgene plasmid#62988;http://n2t.net/addgene:62988;RRID:Addgene62988)以下のプライマーを用いた。
hPS2 605-627-f:caccgCCACTACAGACATAGCGGTC(配列番号7)
hPS2 605-627-r:aaacGACCGCTATGTCTGTAGTGGc(配列番号8)
hPS2 709-731-f:caccgTGTCACTCTGTGCATGATCG(配列番号9)
hPS2 709-731-r:aaacCGATCATGCACAGAGTGACAc(配列番号10)
hPS2 1164-1186-f:caccgACCTCCCAGAGTGGTCCGCG(配列番号11)
hPS2 1164-1186-r:aaacCGCGGACCACTCTGGGAGGTc(配列番号12)
【0032】
PSKO細胞の作製のために、まず、PS1KO細胞を作製し、次に、そのPS1KO細胞のPS2をノックアウトした。具体的には、pX330又はpX459ベクター(1μg)中の1つ又は3つのガイドRNAをLipofectamine2000を用いてHEK293細胞へ共導入した。共導入の24時間後、細胞を1μg/mlのピューロマイシン(ナカライテスク、29455-12)でさらに24時間処理した。その後、細胞を96ウェルプレートに制限希釈法で播種し、1ウェルに1細胞ずつ分離した。単一クローンを拡大し、イムノブロット分析によりPS1の発現をスクリーニングした。検証されたPS1/2KO HEK293細胞(PSKO)は、10%ウシ胎児血清および1%ペニシリン/ストレプトマイシン(ペニシリン-ストレプトマイシン混合液 ナカライ 09367-34)を含むDMEMで維持した。
【0033】
(Tyro3発現ベクターの導入)
上記培養の次の日に、各細胞にTyro3発現ベクター又はTyro3ΔC発現ベクターを導入した。Tyro3発現ベクターは、pDONR223-TYRO3(addgene:Plasmid#23916)をpcDNAhygro(addgene)にFlagタグと共に移して作製した。また、Tyro3ΔC発現ベクターは、欠失したい領域を除く領域をプライマーで挟んでPCRし、PCR産物をT4 polynucleotide kinase(TaKaRa #2021A)とATPでリン酸化、DPnI(BioLabs #R0176L)でテンプレートDNAを分解後にライゲーション(T4 DNA Ligase TaKaRa #2011A)して大腸菌(DH5α)に形質転換し、200mLLB培地で一晩培養して、大腸菌ペレットを回収し、Midi Prepによって得られた。なお、ここでは、Tyro3の細胞内領域において細胞膜に近い50アミノ酸を残して欠失させた(配列番号6)。
【0034】
上記各ベクターの導入は以下の通り行った。まず、1.8mLのPBSにTyro3発現ベクター又はTyro3ΔC発現ベクターを6μL(10.2μg)加え、この遺伝子希釈液にPEIストックを66μL加えて混合して室温で15分間静置した。なお、PEIストックは、PEI MAX-Transfection Grade Linear Polyethylenimine Hydrochloride(MW 40,000)(コスモバイオ 24765-1)を1mg/mlになるように溶解し、NaOHでpHが7.2~7.4になるように調整した後、0.22μmのフィルターで濾過滅菌して調製されたものである。その後、40~80%コンフルエントに調整された上記各細胞を含む培地(10cmディッシュ、10mLのDMEM)中に上記混合液をドロップワイズにて加えた。その次の日に、培地を交換した。
【0035】
(Tyro3を過剰発現させたHEK293サンプルのイムノブロット)
次に、Tyro3におけるプレセニリンの存在の有無の影響について検討するために、まず、上記HEK293細胞及びPSKOHEK293細胞について、それぞれ6ウェルプレートに播種した。その後、それぞれの細胞に上記方法に従って、Tyro3発現ベクターを導入した。なお、コントロール(-)にはDMSOを用いた。トランスフェクションの24時間後に培地交換を行い、さらに24時間後に常法にて細胞を回収し、STEN-溶解バッファー(50mMのTris-HCl pH7.6、150mMのNaCl、2mMのEDTA、1%のNonidet P-40)によって溶解し、タンパク質定量(proteinアッセイBCAキット、ナカライ、06385-00)を行い、各サンプルのタンパク質濃度が同じになるように調整した。その後、各サンプルを2×Ureaサンプルバッファーに溶解後、12.5μLの溶解液を10~20%トリシンゲル(Thermo Fisher Scientific)にロードし、電気泳動を行った。その後、電気泳動後のゲルを常法にてニトロセルロース膜に転写し、抗Flag抗体(Sigma)を用いてイムノブロットを行った。その結果を
図2に示す。
【0036】
図2に示すように、Tyro3を発現させた細胞(TYRO3)では、発現させていない細胞(-)と比較して、105kDa付近で極めて強いバンドが検出され、これがTyro3であると考えられる。さらに、Tyro3を発現させた細胞において、プレセニリンをノックアウトさせた細胞(PSKO)では、ノックアウトさせていない細胞(HEK)と比較して55kDa付近のバンドが強く検出され、逆に当該バンドの下に検出されたバンドはプレセニリンをノックアウトさせた細胞の方が弱く検出された。従って、これらはそれぞれTyro3のC末端断片及び細胞内ドメインであると考えられる。
【0037】
(Tyro3又はTyro3ΔCを過剰発現させたHEK293サンプルのイムノブロット)
次に、Tyro3発現ベクターと同様に、上記Tyro3ΔC発現ベクターも用いてイムノブロットを行った、具体的には、上記と同様に、HEK293細胞及びPSKO HEK293細胞について、Tyro3発現ベクター又はTyro3ΔC発現ベクターを導入した。トランスフェクションの24時間後に培地交換を行い、その24時間後に常法にて細胞を回収した。回収した細胞について、上記と同様の方法にて、細胞を溶解し、サンプル中のタンパク質量を合わせ、10~20%トリシンゲル(Thermo Fisher Scientific)にロードし、電気泳動を行った。その後、電気泳動後のゲルを常法にてニトロセルロース膜に転写し、抗Flag抗体(Millipore、F7425-2MG)を用いてイムノブロットを行った。なお、ここでは、プレセニリン1及び2の発現量、並びにロードされたタンパク量を対比するためのアクチン量を評価するために、それらを認識する抗体も用いた(抗プレセニリン1抗体:BioLegend、823401、マウス。抗プレセニリン2:Cell Signaling、#2192、ラビット。抗β-アクチン(C4):santa cruz、Sc-47778、マウス。)。ここでは、二次抗体として、抗マウス抗体(Promega W402B)又は抗ラビット抗体(Promega W401B)を用いた。その結果を
図3及び4に示す。
【0038】
まず、
図3に示すように、Tyro3を発現させた細胞(TYRO3)では、
図2の結果と同様に、発現させていない細胞(-)と比較して、105kDa付近で極めて強いバンドが検出され、
図2の結果と合わせて、当該バンドは全長型のTyro3であるといえる(TYRO3 Full length)。また、Tyro3を発現させた細胞において、プレセニリン1及び2をノックアウトさせた細胞(PSKO)では、これも
図2の結果と同様に、ノックアウトさせていない細胞(HEK)と比較して、55kDa付近のバンドが強く検出された(TYRO3 CTF)。従って、
図2の結果と合わせて、当該バンドはTyro3のシェダーゼによる切断後のC末端断片であるといえる。なお、PSKO細胞では、PS1及びPS2のいずれもバンドは確認されず、PS1及びPS2がノックアウトされていることが確認できた。また、アクチンのバンド(TYRO3 Actin)の比較から、いずれのサンプルも同等のタンパク質がロードされていることが確認できた。一方、Tyro3ΔCを発現させた細胞においても、
図4に示すように
図3と同様の結果が得られた。
【0039】
(質量分析)
以上の通り、シェダーゼによる切断により約55kDaのTyro3のC末端断片が得られることがわかったが、具体的にシェダーゼによる切断部位を特定するために質量分析を行った。その方法及び結果を以下に示す。
【0040】
まず、上記Tyro3ΔC発現ベクターをトランスフェクションしたHEK293細胞及びPSKO HEK293細胞を準備し、トランスフェクションの翌日の培地交換の際に、予め作製しておいたピログルタミル化阻害剤である10mMのPBD150(MedChemExpress、#HY-119173)を培地量の1/1000量加えた(10mLの培地に対して10μL)。その後、各細胞をPBSで洗浄した後、さらにPBSを加えてピペットを用いて懸濁し、10cmディッシュ中の細胞を50mLチューブに回収した。その後、5000rpmで3分間遠心して細胞を沈殿させた。沈殿した細胞に、5mLの低浸透圧緩衝液(15mMのクエン酸ナトリウム、10mMのDTT、1mMのEDTA、1×cOmplet(ロシュ社))を加えて懸濁した。その懸濁液を含む50mLチューブを液体窒素中に入れて凍結させた後、常温の水を含むウォーターバスに当該チューブを入れて解凍した。その後、チューブを2500×gで20分間遠心し、上清を15mLチューブに移し、65%グリセロールを450μl加えて転倒混和した。その混合液を超遠心チューブ(1.5mL、ベックマンコールター社)に920μLずつ入れ、55000rpmで1時間遠心し、上清を除去して細胞膜を回収した。
【0041】
上記回収した細胞膜を含む1.5mL超遠心チューブのそれぞれに100μLの溶解バッファー(1%DDM(n-ドデシル-β-D-マルトシド)、1×プロテアーゼインヒビター(cOmplet、ロシュ社))を加え、氷上でボルテックスを用いて撹拌した。その後、21000×gで10分間、4℃において遠心し、上清を超遠心チューブにまとめて、さらに55000rpmで1時間、4℃において超遠心した。
【0042】
次に、1.5mLチューブに移し、10μLのM2アガロース(抗FLAG(登録商標)M2抗体アフィニティーゲル、メルク社)と共に1時間混和した後、15000rpmで1分間遠心して上清を除去した。上清除去後のチューブに1mLのミリQ水を入れて転倒混和した後に、15000rpmで1分間遠心し、上清を除去し、さらに注射器を用いて水分を完全に除去した。
【0043】
上記免疫沈降後のサンプルについて質量分析を行った。具体的には、まず、TWA(50%アセトニトリル、2.5%TFA(トリフルオロ酢酸))を室温で解凍し、500μLのTWAに過飽和となるようにCHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)を加え、37℃で10分間振盪しながらインキュベートした。その後、12μLのCHCA/TWAを上記免疫沈降したチューブに加えてボルテックスした後、15000rpmで1分間遠心した。遠心後のサンプルを、MALDI Targetプレート(MSP96 Target ground steel BC(ブルカー社))に1μLずつスポットし、乾燥後にさらにスポットし、合計3回スポットした。完全に乾燥後、マトリックス支援レーザ脱離イオン化(MALDI)TOF MSによって解析を行った。その結果を
図5に示す。
【0044】
図5(b)に示すように、質量分析の結果、10000m/z付近に3つのピーク(1~3の▽で示す)が見られ、それらのピークは
図5(a)の1~3の▽で示す部分で切断されたTyro3のC末端断片にそれぞれ対応し、すなわち、Tyro3のC末端断片は、そのN末端がグルタミン(419番目)、グルタミン(420番目)、グアニン(421番目)の部分で切断されていることがわかった。また、
図5の結果を拡大した
図6の上段のグラフにおいて、N末端がグルタミンであるC末端断片に対応する2か所のピーク(1及び2の▽)において17m/z低いピークが観察された。
図6の下段のグラフに示すように、これらのピークはピログルタミル化阻害剤であるPBD150によって処理されたサンプルでは抑制された。、ピログルタミル化されていることが明らかになった。従って、Tyro3におけるシェダーゼによる切断には、切断部位が複数あり、さらにピログルタミル化修飾が関係していることが明らかになった。