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特開2024-9994ペプチド、細胞増殖促進剤、タンパク質産生促進剤、培地、該ペプチドを用いた細胞増殖方法、及び、該ペプチドを用いたタンパク質産生方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024009994
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】ペプチド、細胞増殖促進剤、タンパク質産生促進剤、培地、該ペプチドを用いた細胞増殖方法、及び、該ペプチドを用いたタンパク質産生方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/083 20060101AFI20240116BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240116BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20240116BHJP
   C07K 5/093 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C07K5/083
C12N5/071
C12P21/00 A
C07K5/093
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023178978
(22)【出願日】2023-10-17
(62)【分割の表示】P 2022166686の分割
【原出願日】2020-12-22
(71)【出願人】
【識別番号】591040513
【氏名又は名称】株式会社マルハチ村松
(74)【代理人】
【識別番号】110000626
【氏名又は名称】弁理士法人英知国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】保苅 義則
(72)【発明者】
【氏名】奈良輪 名津子
(72)【発明者】
【氏名】青島 啓太
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 晴美
(72)【発明者】
【氏名】関根 亜矢
(57)【要約】      (修正有)
【課題】動物由来の成分を含まない、合成培地であり、特に動物由来の成分が含まれなくとも、細胞増殖の促進し、又、タンパク質産生促進に寄与するペプチドを含む培地を提供する。
【解決手段】Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される、ペプチドを含む培地を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される、ペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のペプチドを1種以上含む、細胞増殖促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のペプチドを1種以上含む、タンパク質産生促進剤。
【請求項4】
請求項2記載の細胞増殖促進剤、又は、請求項3記載のタンパク質産生促進剤を含む、培地。
【請求項5】
請求項1記載のペプチド1種以上を用いた、細胞増殖方法。
【請求項6】
請求項1記載のペプチド1種以上を用いた、タンパク質産生方法。
【請求項7】
バッチ培養又はフェドバッチ培養を含む、請求項6に記載のタンパク質産生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチドに関する。特に、動物細胞培養用に適した新規なトリペプチド、該ペプチドを含む細胞増殖促進剤、タンパク質産生促進剤、培地、該ペプチドを用いた細胞増殖方法、及び、該ペプチドを用いたタンパク質産生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物細胞を培養して該動物細胞の産生する天然型タンパク質を得ようとする場合、あるいは所望のタンパク質をコードする遺伝子を導入した動物細胞を培養して所望のタンパク質等を製造する場合、ビタミン類、アミノ酸類、塩類、糖類等の栄養成分の他に、動物細胞の増殖の目的で、牛胎児血清等の哺乳動物由来の抽出物や、魚肉関連成分が添加される(特許文献1、2)。
【0003】
しかしながら、牛胎児血清等の哺乳動物由来の抽出物は、培地に対し5%~20%程度で添加され、培地のコストの75%~95%を占めることや、動物由来のために品質にロット差があるという問題があった。さらに、狂牛病、ウシ海綿状脳症、感染性海綿状脳症、クロイツフェルト・ヤコブ病等との相関が懸念されるため、牛胎児血清等の哺乳動物由来の抽出物を含有しない培地も試みられたが、培養の早期に細胞生存率の著しい低下を生じ、長期培養や大量培養を行うことが困難であるという別の課題が発生した。
【0004】
また、魚肉抽出物や魚肉の酵素分解物である魚肉関連成分が添加されることにより、コスト面や、培養早期での細胞生存率低下の面の課題は解決された。しかしながら、動物由来に伴う品質にロット差があることには変わりはないという問題が残った。さらには、該魚肉関連成分の成分詳細が不明であり、また対象となる魚の種類、部位、酵素分解条件によって成分が変動するため、培地として使用する際にさまざまな未知のリスクを伴い、安全に使用しづらいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO99/63058号公報
【特許文献2】特開2003-334068号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、動物由来の成分を含まない、合成培地を提供することを課題とする。特に、動物由来の成分が含まれなくとも、細胞増殖を促進し、又、タンパク質産生の促進に寄与するペプチドを含む培地を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑みて鋭意検討した結果、細胞増殖を促進し、又、タンパク質産生の促進に寄与するペプチドを見出し、該ペプチドを含む細胞増殖促進剤、該ペプチドを含むタンパク質産生促進剤、該ペプチドを含む培地を見出した。
【0008】
すなわち、本発明のペプチドは、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択されることを特徴とする。
【0009】
本発明の細胞増殖促進剤は、上記ペプチドを1種以上含むことを特徴とする。
【0010】
本発明のタンパク質産生促進剤は、上記ペプチドを1種以上含むことを特徴とする。
【0011】
本発明の培地は、上記細胞増殖促進剤、又は、上記タンパク質産生促進剤を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の細胞増殖方法は、上記ペプチドを1種以上用いることを特徴とする。
【0013】
本発明のタンパク質産生方法は、上記ペプチドを1種以上用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明のペプチドにより、動物由来成分を含まず、化学的に合成した物質を配合した、細胞増殖促進剤、タンパク質産生促進剤、培地、細胞増殖方法、及び、タンパク質産生方法を提供することができる。すなわち、狂牛病等との相関の懸念もなく、コストも抑えられ、かつ、成分詳細が明確となることにより品質の安定した細胞増殖促進剤、タンパク質産生促進剤、培地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】細胞増殖試験における、GEKの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図2】細胞増殖試験における、DGPの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図3】細胞増殖試験における、AGKの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図4】細胞増殖試験における、GPPの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図5】細胞増殖試験における、GGPの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図6】細胞増殖試験における、AEKの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図7】細胞増殖試験における、AGGの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図8】細胞増殖試験における、ASNの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図9】細胞増殖試験における、EGKの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図10】細胞増殖試験における、GGGの濃度と生細胞数(吸光度)との関係を示す。
図11】細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数(吸光度)を示す。
図12】細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数(吸光度)の経時変化を示す。
図13】3日間の細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数を示す。
図14】3日間の細胞増殖試験における、各トリペプチドの細胞生存率を示す。
図15】5日間の細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数を示す。
図16】5日間の細胞増殖試験における、各トリペプチドの細胞生存率を示す。
図17】トリペプチド1種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数を示す。
図18】トリペプチド1種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの細胞生存率を示す。
図19】トリペプチド1種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの産生タンパク質量を示す。
図20】トリペプチド2種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの生細胞数を示す。
図21】トリペプチド2種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの細胞生存率を示す。
図22】トリペプチド2種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの産生タンパク質量を示す。
図23】トリペプチド3種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの生細胞数を示す。
図24】トリペプチド3種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの細胞生存率を示す。
図25】トリペプチド3種の細胞増殖試験における、各トリペプチドの組み合わせの産生タンパク質量を示す。
図26】ビタミン及び核酸を添加した細胞増殖試験における、AGKの生細胞数、及び、産生タンパク質量を示す。
図27】完全合成培地を用いた細胞増殖試験における、GEKの濃度と生細胞数との関係を示す。
図28】完全合成培地を用いた細胞増殖試験における、GEKの濃度と細胞生存率との関係を示す。
図29】完全合成培地を用いた細胞増殖試験における、GEKの濃度と産生タンパク質量との関係を示す。
図30】ビタミン等補強培地を用いた細胞増殖試験における、各トリペプチドの生細胞数を示す。
図31】ビタミン等補強培地を用いた細胞増殖試験における、各トリペプチドの細胞生存率を示す。
図32】ビタミン等補強培地を用いたタンパク質産生試験における、各トリペプチドの産生タンパク質量を示す。
図33】ビタミン等補強培地を用いたタンパク質産生試験における、各トリペプチドの産生タンパク質量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、以下に具体的に説明する。
【0017】
(ペプチド)
本発明のペプチドは、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される。また、上記ペプチドは薬学上許容される塩とすることができ、さらにはペプチドの活性の変わらないアミノ酸を化学修飾することができる。なかでも、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、及び、Gly-Gly-Pro(GGP)が好ましい。
「薬学上許容される塩」としては、塩酸塩、リン酸塩、硫酸塩等の無機酸塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等の無機塩基塩、スルホン酸塩、コハク酸塩、シュウ酸塩等の有機酸塩、アルキルアンモニウム塩等の有機塩基塩等が例示される。
「ペプチドの活性の変わらないアミノ酸を化学修飾する」とは、アミノ酸が化学修飾されても大きくペプチドの活性が変わらないもので化学修飾することであり、アミド、エステル、アシル基等によるC-末端の修飾、アセチル基によるN-末端の修飾等が例示される。
なお、上記プロリン(Pro(P))は、ヒドロキシル基が導入されたヒドロキシプロリン(Hyp)となっていてもよい。
【0018】
上記トリペプチドは、主に魚肉の抽出物やその酵素分解物に含まれる数百種類のさまざまな長さのペプチドを中心に、動物細胞増殖を促進するもの及びタンパク質産生を促進するものをさまざまな条件で分画して同定し、その効果をペプチドごとに確認することにより、鋭意探索されたものである。
【0019】
上記ペプチドは、魚肉の抽出物やその酵素分解物から分画する方法や、ペプチド合成法を含む化学合成法、あるいは、組換えDNA法による発現のような手段によって、得ることができる。
魚肉の抽出物やその酵素分解物等から分画する方法では、ゲルろ過クロマトグラフィー、順相/逆相HPLCの各種条件を調整して分画、単離する。化学合成法では、合成されたアミノ酸もしくは化学修飾されたアミノ酸を化学反応により合成し、特定の配列を有するペプチドを得ることができる。組換えDNA法では、ペプチド配列を複数含む組換えタンパク質を組換え体により生成させ、それらのタンパク質を精製後、酵素処理、あるいは化学処理等により分解することにより、目的とするペプチドを得ることができる。
【0020】
(細胞増殖促進剤)
本発明の細胞増殖促進剤は、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される、1種以上のペプチドを含む。また、該1種以上のペプチドを含まない場合に比べ、細胞増殖を促進するものである。
【0021】
上記ペプチドは薬学上許容される塩とすることができ、さらにはペプチドの活性の変わらないアミノ酸を化学修飾することができる。上記プロリン(Pro(P))は、ヒドロキシル基が導入されたヒドロキシプロリン(Hyp)となっていてもよい。
【0022】
ペプチドの選択は、上記ペプチドから1種以上から適宜組み合わせることにより行われる。
なかでも、1種の場合は、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)がより好ましい。
2種の場合は、Asp-Gly-Pro(DGP)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Gly-Glu-Lys(GEK)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Asp-Gly-Pro(DGP)及びGly-Glu-Lys(GEK)、Gly-Pro-Pro(GPP)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)及びGly-Glu-Lys(GEK)等が好ましい組み合わせとして例示される。
3種の場合は、Gly-Pro-Pro(GPP)+Asp-Gly-Pro(DGP)+Gly-Glu-Lys(GEK)の組み合わせ、Gly-Pro-Pro(GPP)+Asp-Gly-Pro(DGP)+Ala-Gly-Lys(AGK)の組み合わせ、Gly-Pro-Pro(GPP)+Gly-Glu-Lys(GEK)+Ala-Gly-Lys(AGK)の組み合わせ等が、好ましい組み合わせとして例示される。
【0023】
(タンパク質産生促進剤)
本発明のタンパク質産生促進剤は、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される、1種以上のペプチドを含む。また、該1種以上のペプチドを含まない場合に比べ、タンパク質産生を促進するものである。
【0024】
上記ペプチドは薬学上許容される塩とすることができ、さらにはペプチドの活性の変わらないアミノ酸を化学修飾することができる。上記プロリン(Pro(P))は、ヒドロキシル基が導入されたヒドロキシプロリン(Hyp)となっていてもよい。
【0025】
ペプチドの選択は、上記ペプチドから1種以上から適宜組み合わせることにより行われる。
なかでも、1種の場合は、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)が好ましいペプチドとして例示される。
2種の場合は、Asp-Gly-Pro(DGP)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Gly-Glu-Lys(GEK)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Asp-Gly-Pro(DGP)及びGly-Glu-Lys(GEK)、Gly-Pro-Pro(GPP)及びAla-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)及びGly-Glu-Lys(GEK)等が好ましい組み合わせとして例示される。
3種の場合は、Gly-Pro-Pro(GPP)+Asp-Gly-Pro(DGP)+Gly-Glu-Lys(GEK)の組み合わせ、Gly-Pro-Pro(GPP)+Asp-Gly-Pro(DGP)+Ala-Gly-Lys(AGK)の組み合わせ、Gly-Pro-Pro(GPP)+Gly-Glu-Lys(GEK)+Ala-Gly-Lys(AGK)の組み合わせ等が、好ましい組み合わせとして例示される。
【0026】
(培地)
本発明の培地は、上記ペプチドを含む上記細胞増殖促進剤、又は、上記ペプチドを含む上記タンパク質産生促進剤を含む。
【0027】
培地中のペプチドの濃度は、細胞や培養条件により適宜設定される。すなわち、培地中のペプチドの量は、細胞が生存維持できる濃度が下限濃度であり、細胞増殖促進剤やタンパク質産生促進剤が添加されていない培地に比べて細胞増殖の量やタンパク質産生量が最大となる濃度が好適濃度であり、培地の組成として有害とならない最大濃度が上限濃度である。ペプチド1種あたりの濃度の一例は、培地に対し0.1mM~50mM、好ましくは0.2mM~10mM、より好ましくは0.5mM~5mMである。
【0028】
培地には、動物細胞培養用培地で使用される他の成分を適宜配合することができる。ビタミン類、核酸、アミノ酸、無機塩、糖、ポリアミン、炭水化物、タンパク質、脂肪酸、脂質、pH調整剤、亜鉛、銅、セレン等が例示される。
ビタミン類としては、塩化コリン、ナイアシンアミド、D-パントテン酸ヘミカルシウム塩、葉酸、シアノコバラミン、ピリドキサール塩酸塩、リボフラビン、ビオチン、ミオ-イノシトール、アスコルビン酸、塩酸チアミン、ビタミンB12等が例示される。
核酸としては、キサンチン、ヒポキサンチン、ウリジン、グアニン塩酸塩、イノシン、グアノシン、シチジン、チミジン、アデニン等が例示される。
アミノ酸としては、グリシン、L-アラニン、L-アルギニン塩酸塩、L-アスパラギン-一水和物、L-アスパラギン酸、L-システイン酸塩酸塩-一水和物、L-シスチン二塩酸塩、L-グルタミン酸、L-グルタミン、L-ヒスチジン塩酸塩-一水和物、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-リシン塩酸塩、L-メチオニン、L-フェニルアラニン、L-プロリン、L-セリン、L-トレオニン、L-トリプトファン、L-チロシン二ナトリウム塩、L-バリン、アルギニン等が例示される。
無機塩としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム-一水和物等が例示される。
その他の成分として、D-グルコース、α-リポ酸、フェノールスルホンフタレイン(フェノールレッド)、ピルビン酸ナトリウム、AlbuMax(登録商標)II、ヒトトランスフェリン(ホロ)、メタバナジン酸アンモニウム、硫酸銅、塩化マンガン、セレン酸ナトリウム、エタノールアミン、グルタチオン、メトトレキサート、インスリン等があげられる。さらには、目的に応じ、ウシ胎児血清等の血清成分が含まれてもよいが、培地から動物由来の成分を除く意図がある場合は含有させない。
【0029】
(細胞増殖方法及びタンパク質産生方法)
本発明の細胞増殖方法及びタンパク質産生方法は、上記培地に本発明のペプチドを配合し、様々な動物細胞を培養することによって行うものである。
細胞増殖方法及びタンパク質産生方法は、以下に例示するが、これに限定されるものではない。
【0030】
基礎培地を用いて、動物細胞を無血清浮遊化に馴化させる。
Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、及び、Glu-Gly-Lys(EGK)からなる群より選択される、1種以上のペプチドを基礎培地に添加する。このとき、基礎培地を補強する成分である、ビタミン、核酸、糖、ポリアミン、アミノ酸を添加してもよい。
バイオリアクターを用いて、ペプチドが添加された基礎培地に、基礎培地で馴化した動物細胞を播種し、細胞増殖及びタンパク質産生を行う。
【実施例0031】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を制限するものではない。
【0032】
(各ペプチド溶液の濃度と生細胞数の関係の測定)
Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、Glu-Gly-Lys(EGK)、及び、Gly-Gly-Gly(GGG)の配列を有するペプチドを合成し、表1~表10に記載の10倍濃度となるように、ペプチド溶液をそれぞれ調製した。
CHO-K1(理化学研究所バイオリソース研究センター、型番RCB2330)を、3x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を96wellプレートへ100μL/wellとなるように播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させた、MEMα培地(gibco社)を用いた。
各wellの培地を除去し、MEMα培地(100μL)で洗い出した後、さらに新しいMEMα培地を90μLずつ分注し、各ペプチド溶液(10μL)をそれぞれ添加して(合計100μL/well)、0mM~5mMの範囲内の表1~表10に記載の終濃度とし、5日間培養した。なお、比較試料としてペプチドもFBSも含有しない系にて、同様な培養試験を行った。5日間の培養後、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque社)を10μL/well添加し、37℃、CO25%のインキュベーターで2時間呈色反応させ、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。参照波長は630nmとした。なお、450nmの吸光度は細胞数と相関することが確認されている。
【0033】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各ペプチド溶液の濃度における吸光度を表1~表10、図1図10に示した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【0042】
【表9】
【0043】
【表10】
【0044】
表1~表10、図1図10より、試験したペプチドにおいては、GGGを除き、ペプチド溶液を添加することにより、添加しない場合に比べ、細胞数が増えることが分かった。また、ペプチドの種類により、細胞数が最も増えるペプチド溶液の濃度は異なることが分かった。
【0045】
さらに、ペプチド溶液の濃度を最適化した場合の細胞増殖促進の程度を比較して示すため、試験した各ペプチドについて、細胞数が最も増えるペプチド溶液の濃度における吸光度について、表11及び図11にまとめた。
【0046】
【表11】
【0047】
上記試験条件においては、ペプチドの配列が、Gly-Glu-Lys(GEK)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Pro-Pro(GPP)、Gly-Gly-Pro(GGP)、Ala-Glu-Lys(AEK)、Ala-Gly-Gly(AGG)、Ala-Ser-Asn(ASN)、Glu-Gly-Lys(EGK)の順に細胞増殖が促進されることが分かった。
【0048】
(各ペプチドの細胞増殖日数と細胞数の関係の測定)
Gly-Pro-Pro(GPP)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Gly-Glu-Lys(GEK)、Ala-Gly-Lys(AGK)の配列を有するペプチドを合成し、0mM~5mMの範囲内で最も細胞数が増える濃度となるようにペプチド溶液をそれぞれ調製した。すなわち、Gly-Pro-Pro(GPP)は11mM、Asp-Gly-Pro(DGP)は22mM、Gly-Glu-Lys(GEK)は21mM、Ala-Gly-Lys(AGK)は20mMにそれぞれ調製し、細胞培養試験直前に各wellの総培地容量の1/10量を添加し、それぞれ終濃度を1.1mM、2.2mM、2.1mM、2.0mMとした。
CHO-K1(理化学研究所バイオリソース研究センター、型番RCB2330)を、3x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を96wellプレートへ100μL/wellとなるように播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させた、MEMα培地(gibco社)を用いた。
各wellの培地を除去し、MEMα培地(100μL)で洗い出した後、さらに新しいMEMα培地を90μLずつ分注し、各ペプチド溶液(10μL)をそれぞれ添加して(合計100μL/well)、0~5日間培養した。1日毎に、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque社)を10μL/well添加し、37℃、CO25%のインキュベーターで2時間呈色反応させ、プレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。参照波長は630nmとした。なお、450nmの吸光度は細胞数と相関することが確認されている。比較試料としてペプチドもFBSも含有しない系にて、同様な培養試験を行った。
【0049】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、1日毎の各ペプチド溶液の吸光度及び標準偏差を表12、図12に示した。
【0050】
【表12】
【0051】
表12及び図12より、上記試験条件においては、ペプチド溶液を添加することにより、添加しない系に比べ、日数が経過するに従い細胞数が増えることが分かった。
【0052】
(各ペプチドのコート剤上での細胞増殖試験-3日間-)
Gly-Glu-Lys(GEK)、及び、Asp-Gly-Pro(DGP)の配列を有するペプチドを合成し、0mM~5mMの範囲内で最も細胞数が増える濃度となるようにペプチド溶液をそれぞれ調製した。すなわち、Gly-Glu-Lys(GEK)は21mM、Asp-Gly-Pro(DGP)は22mMにそれぞれ調製し、細胞培養試験直前に各wellの総培地容量の1/10量を添加し、それぞれ終濃度を2.1mM、2.2mMとした。
ポリ-L-リシン(ペプチド研究所、ポリ-L-リシン塩酸塩、型番3075)を0.1mg/mLに調製し、24wellプレートの各wellに200μLずつ分注し、37℃のインキュベーターで2時間静置した。アスピレーターで残液を除去後、蒸留水でリンスし、蓋をせずにクリーンベンチ内でUVランプを照射し、一晩乾燥、滅菌した。
CHO-K1(理化学研究所バイオリソース研究センター、型番RCB2330)を、4x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を24wellプレートへ500μL/wellとなるように播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させた、MEMα培地(gibco社)を用いた。
各wellの培地を除去し、MEMα培地(500μL)で洗い出した後、さらに新しいMEMα培地を450μLずつ分注し、各ペプチド溶液(50μL)をそれぞれ添加して(合計500μL/well)、3日間培養した。細胞を回収し細胞数をカウントした。なお、比較試料としてペプチドもFBSも含有しない系にて、同様な培養試験を行った。
【0053】
各well中の培地を1.5mLチューブに回収し、MEMα200μLでリンスし、リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。その後、トリプシン100μLを添加して3分間インキュベートを行った。10%FBS含有MEMα300μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。再度、10%FBS含有MEMα200μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。
【0054】
1.5mLチューブに回収した細胞に対し、遠心操作を行った。遠心条件は、1000rpm、10分間、4℃とした。
上清を取り除き、Cold PBS(リン酸緩衝生理食塩水)300μLを添加し、同じ条件で遠心操作を行った。本操作を2回繰り返した。
Binding Buffer100μLで懸濁させ、PI(ヨウ化プロピジウム)2μLを添加してチューブを攪拌し、室温・遮光で15分間反応させた。その後、フローサイトメーターで生細胞数及び生存率を測定した。
【0055】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各ペプチド溶液における生細胞数を表13、図13に示し、各ペプチド溶液における細胞生存率を表14、図14に示した。
【0056】
【表13】
【0057】
【表14】
【0058】
表13、表14、図13図14より、上記試験条件のコート剤上での3日間のペプチド培養において、ペプチドを添加しない系に比べ、生細胞数も増加し、細胞生存率も高いことが分かった。
【0059】
(各ペプチドのコート剤上での細胞増殖試験-5日間-)
Asp-Gly-Pro(DGP)、Ala-Gly-Lys(AGK)、Gly-Glu-Lys(GEK)、及び、Gly-Gly-Gly(GGG)の配列を有するペプチドを合成し、0mM~5mMの範囲内で最も細胞数が増える濃度となるようにペプチド溶液をそれぞれ調製した。すなわち、Asp-Gly-Pro(DGP)は22mM、Ala-Gly-Lys(AGK)は20mM、Gly-Glu-Lys(GEK)は21mM、及び、Gly-Gly-Gly(GGG)は25mMにそれぞれ調製し、細胞培養試験直前に各wellの総培地容量の1/10量を添加し、それぞれ終濃度を2.2mM、2.0mM、2.1mM、2.5mMとした。
ポリ-L-リシン(ペプチド研究所、ポリ-L-リシン塩酸塩、型番3075)を0.1mg/mLに調製し、24wellプレートの各wellに200μLずつ分注し、37℃のインキュベーターで2時間静置した。アスピレーターで残液を除去後、蒸留水でリンスし、蓋をせずにクリーンベンチ内でUVランプを照射し、一晩乾燥、滅菌した。
CHO-K1(理化学研究所バイオリソース研究センター、型番RCB2330)を、4x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を24wellプレートの各wellへ500μL/wellとなるように播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させた、MEMα培地(gibco社)を用いた。
各wellの培地を除去し、MEMα培地(500μL)で洗い出した後、さらに新しいMEMα培地を450μLずつ分注し、各ペプチド溶液(50μL)をそれぞれ添加して(合計500μL/well)、5日間培養した。細胞を回収し細胞数をカウントした。なお、比較試料としてペプチドもFBSも含有しない系にて、同様な培養試験を行った。
【0060】
各well中の培地を1.5mLチューブに回収し、MEMα200μLでリンスし、リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。その後、トリプシン100μLを添加して3分間インキュベートを行った。10%FBS含有MEMα300μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。再度、10%FBS含有MEMα200μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。
【0061】
1.5mLチューブに回収した細胞に対し、遠心操作を行った。遠心条件は、1000rpm、10分間、4℃とした。
上清を取り除き、Cold PBS(リン酸緩衝生理食塩水)300μLを添加し、同じ条件で遠心操作を行った。本操作を2回繰り返した。
Binding Buffer100μLで懸濁させ、PI(ヨウ化プロピジウム)2μLを添加してチューブを攪拌し、室温・遮光で15分間反応させた。その後、フローサイトメーターで生細胞数及び細胞生存率を測定した。
【0062】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各ペプチド溶液における生細胞数を表15、図15に示し、各ペプチド溶液における細胞生存率を表16、図16に示した。
【0063】
【表15】
【0064】
【表16】
【0065】
表15、表16、図15図16より、上記試験条件のコート剤上での5日間のペプチド培養において、GGGを除き、ペプチドを添加しない系に比べ、細胞数も増加し、細胞生存率も高いことが分かった。
【0066】
(各ペプチド及びペプチドを組み合わせた、コート剤上での細胞増殖試験及びタンパク質産生試験)
Gly-Pro-Pro(GPP)、Asp-Gly-Pro(DGP)、Gly-Glu-Lys(GEK)、Ala-Gly-Lys(AGK)の配列を有するペプチドを合成し、0mM~5mMの範囲内で最も細胞数が増える濃度となるようにペプチド溶液をそれぞれ調製した。すなわち、Gly-Pro-Pro(GPP)は11mM、Asp-Gly-Pro(DGP)は22mM、Gly-Glu-Lys(GEK)は21mM、Ala-Gly-Lys(AGK)は20mMにそれぞれ調製し、細胞培養試験直前に各wellの総培地容量の1/10量を添加し、それぞれ終濃度を1.1mM、2.2mM、2.1mM、2.0mMとした。
ポリ-L-リシン(ペプチド研究所、ポリ-L-リシン塩酸塩、型番3075)を0.1mg/mLに調製し、24wellプレートに200μLずつ分注し、37℃のインキュベーターで2時間静置した。アスピレーターで残液を除去後、蒸留水でリンスし、蓋をせずにクリーンベンチ内でUVランプを照射し、一晩乾燥、滅菌した。
CHO DP-12(ATCC、型番CRL-12445)を、2x104cells/well・500μLとなるように調製した細胞懸濁液を24wellプレートに播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させたDMEM培地(gibco社)に200nMメトトレキサート、2μg/mLインスリンを配合したDMEM基礎培地を用いた。
各wellの培地を除去、DMEM基礎培地(500μL)で洗い出した後、さらに新しいDMEM基礎培地を450μLずつ分注し、各ペプチド溶液(50μL)をそれぞれ添加して(合計500μL/well)、5日間培養した。
ペプチドはGPP、DGP、GEK、AGKの単体の他、GPP+GEK、GPP+AGK、DGP+GEK、GEK+AGK、DGP+AGK、GPP+GEK+AGK、GPP+DGP+AGK、GPP+DGP+GEKの組み合わせを用いた。なお、比較試料としてペプチドもFBSも含有しない系にて、同様な培養試験を行った。
【0067】
産生タンパク質量を測定するために、培地上清100μLを1.5mLチューブに回収し、希釈し、ELISA法により産生タンパク質量を定量した。
【0068】
細胞を回収するため、各well中の培地を1.5mLチューブに回収し、DMEM基礎培地200μLでリンスし、リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。その後、トリプシン100μLを添加して3分間インキュベートを行った。10%FBS含有DMEM基礎培地300μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。再度、10%FBS含有DMEM基礎培地200μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。
【0069】
1.5mLチューブに回収した細胞に対し、遠心操作を行った。遠心条件は、1000rpm、10分間、4℃とした。
上清を取り除き、Cold PBS(リン酸緩衝生理食塩水)300μLを添加し、同じ条件で遠心操作を行った。本操作を2回繰り返した。
Binding Buffer100μLで懸濁させ、PI(ヨウ化プロピジウム)2μLを添加してチューブを攪拌し、室温・遮光で15分間反応させた。その後、フローサイトメーターで生細胞数及び細胞生存率を測定した。
【0070】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各ペプチド溶液における生細胞数を表17、図17、表20、図20、表23、図23に示し、各ペプチド溶液における細胞生存率を表18、図18、表21、図21、表24、図24に示し、各ペプチド溶液における産生タンパク質量を表19、図19、表22、図22、表25、図25に示した。
【0071】
【表17】
【0072】
【表18】
【0073】
【表19】
【0074】
【表20】
【0075】
【表21】
【0076】
【表22】
【0077】
【表23】
【0078】
【表24】
【0079】
【表25】
【0080】
表17~表25、図17図25より、上記試験条件において、ペプチド単体及びペプチド2種以上を組み合わせて添加することにより、細胞増殖を促進させ、タンパク質産生を促進させることが分かった。
【0081】
(各ペプチドの細胞増殖試験及びタンパク質産生試験-ビタミン及び核酸の添加効果-)
Ala-Gly-Lys(AGK)の配列を有するペプチドを合成し、1.0mM及び2.0mMのペプチド溶液を調製した。
CHO DP-12(ATCC、型番CRL-12445)を、2x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を、1x104cells/well(500μL)となるように24wellプレートに播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、10%FBSを含有させたDMEM培地(gibco社)に200nMメトトレキサート、2μg/mLインスリンを配合したDMEM基礎培地を用いた。
各wellの培地を除去し、DMEM基礎培地(500μL)で洗い出した後、各ペプチド溶液(500μL)をそれぞれのwellに分注して(合計500μL/well)、5日間培養した。
【0082】
以下の試験区の評価培地にそれぞれ培地交換した後、37℃、CO25%のインキュベーターで5日間培養した。
<評価培地>
・DMEM基礎培地
・AGK(1mM)+DMEM基礎培地
・AGK(2mM)+DMEM基礎培地
・ビタミン及び核酸補強培地(DMEM基礎培地+ビタミン+核酸)
・AGK(1mM)+ビタミン及び核酸補強培地
・AGK(2mM)+ビタミン及び核酸補強培地
【0083】
培養5日後、24wellプレートの各wellの培地を全量回収し、遠心操作(5000rpm、5分間)を行い、上清を別途回収して産生タンパク質量をELISA法により測定した。
【0084】
上記ビタミン及び核酸の組成は、表26に示した。
【0085】
【表26】
【0086】
培地回収後のwellに接着している細胞は、トリプシン処理により剥離し、再度10%FBSを含有したDMEM基礎培地に懸濁させ、セルカウンターにてトリパンブルー染色法により生細胞数及び生存率を測定した。
【0087】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各評価培地における生細胞数、細胞生存率、産生タンパク質量を表27に示し、生細胞数と産生タンパク質量を図26に示した。
【0088】
【表27】
【0089】
表27、図26より、上記試験条件においては、基礎培地に対し、ペプチドを添加すると、生細胞数、産生タンパク質量ともに多くなるが、さらにビタミンと核酸を添加すると細胞増殖もタンパク質産生もより促進されることが分かった。
【0090】
(完全合成培地にペプチドを添加した場合の細胞増殖試験及びタンパク質産生試験)
【0091】
Gly-Glu-Lys(GEK)の配列を有するペプチドを合成し、0mM、2.6mM、5.1mM、10mM、20.5mM、41mMの濃度のペプチド溶液を調製し、細胞培養試験直前に各wellの総培地容量の1/10量を添加して、それぞれ終濃度を0mM、0.26mM、0.51mM、1.0mM、2.05mM、4.1mMとした。本試験には、CHO用の完全合成培地であるASF104培地(味の素)に、200nMメトトレキサート、2μg/mLインスリンを配合したASF104基礎培地に馴化させたCHO DP-12(ATCC、型番CRL-12445)を使用した。細胞濃度が4x104cells/mLに調製した細胞懸濁液を24wellプレートへ450μL/wellとなるように播種し、37℃、CO25%のインキュベーターで24時間培養した。培地は、CHO用の完全合成培地であるASF104培地(味の素)に、200nMメトトレキサート、2μg/mLインスリンを配合したASF104基礎培地を用いた。
【0092】
24時間後、調製したペプチド溶液を50μLずつ添加し、5日間培養した。培養後に細胞を回収して生細胞数をカウントした。
<評価培地>
・ASF104基礎培地
・GEK(0.26mM)+ASF104基礎培地
・GEK(0.51mM)+ASF104基礎培地
・GEK(1.0mM) +ASF104基礎培地
・GEK(2.05mM)+ASF104基礎培地
・GEK(4.1mM) +ASF104基礎培地
【0093】
産生タンパク質量を定量するために、培地上清100μLを1.5mLチューブに採取した。該上清を希釈し、ELISA法により産生タンパク質量を測定した。
【0094】
細胞を解析するために、各well中の培地を1.5mLチューブに回収し、PBS200μLでリンスし、リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した。その後、0.25%トリプシン/EDTA100μLを添加して1分間インキュベートを行った。トリプシンインヒビター100μLを添加して同じ1.5mLチューブに回収した。
PBS200μLでリンスし、該リンス済みの液も同じ1.5mLチューブに回収した後、遠心操作を行った。PBS100μLで懸濁させ、セルカウンターにてトリパンブルー染色法により生細胞数及び細胞生存率を測定した。
【0095】
以上の調製、培養、測定をn=3で行い、各ペプチド溶液における生細胞数を表28、図27に示し、各ペプチド溶液における細胞生存率を表29、図28に示し、産生タンパク質量を表30、図29に示した。
【0096】
【表28】
【0097】
【表29】
【0098】
【表30】
【0099】
表28~表30、図27図29より、上記試験条件において、市販の完全合成培地を用いた基礎培地に比べ、GEKのペプチドを添加した場合、生細胞数は増加し、細胞生存率は同等に高く、産生タンパク質量も増加傾向がみられ、細胞増殖を促進し、タンパク質産生を促進することが分かった。
【0100】
(浮遊細胞系におけるGEK及びDGPの細胞増殖試験及びタンパク質産生試験)
Gly-Glu-Lys(GEK)及びAsp-Gly-Pro(DGP)の配列を有するペプチドを合成し、2.87mMのGly-Glu-Lys(GEK)、及び、1.55mMのAsp-Gly-Pro(DGP)のペプチド溶液を調製した。
【0101】
Micro-24バイオリアクターシステム(日本ポール社製)の24well(Deep well)カセットの各wellにDMEM/F12基礎培地やビタミン等補強培地(DMEM/F12基礎培地+ビタミン等補強成分)、各ペプチド溶液を5mLずつ加え、37℃、pH7、撹拌速度650rpmの条件で一晩培養した。翌日にpHキャリブレーションを行い、その後、3.5x105cells/mLに調製した細胞懸濁液を24well(Deep well)カセットの各wellに2mLずつ加え、浮遊細胞の細胞密度が1x105cells/mL(7mL/well)となるように播種し、37℃、pH7、撹拌速度650rpm、溶存酸素30%の培養条件、以下の評価培地で培養した。

<評価培地>
・DMEM/F12基礎培地
・ビタミン等補強培地(基礎培地+ビタミン等補強成分)
・GEK(2.05mM)+ビタミン等補強培地
・DGP(1.11mM)+ビタミン等補強培地

なお、培地は、DMEM/F12培地(gibco社)に200nMメトトレキサート、10μg/mLインスリン、5.5μg/mLトランスフェリン、6.7ng/mL亜セレン酸ナトリウム、10μL/mLのAnti-Clumping Agent、10μL/mLの10%PluronicF68を配合したDMEM/F12基礎培地を用いた。
【0102】
使用する浮遊細胞には、CHO DP-12(ATCC、型番CRL-12445)を無血清浮遊化に馴化し、振とう型培養装置(Custom Bio Shaker CO2-BR-43FL、タイテック社)で、100mL容三角フラスコを用いて、37℃、CO25%、撹拌速度125rpmの培養条件で継代培養をしている無血清浮遊化CHO DP-12を用いた。
【0103】
上記ビタミン等補強成分を、表31に示す。
【0104】
【表31】

【0105】
培養3日目以降、24well(Deep well)カセットの各wellから培地200μLを1.5mLのチューブに回収した。うち、50μLを別の1.5mLのチューブに取り、トリパンブルー50μLを加えて十分に懸濁させた後、セルカウンター(Countess II、Life Technologies社製)により生細胞数及び生存率を測定した。
【0106】
以上の調製、培養、測定をn=2又は3で行い、各評価培地における生細胞数を表32、図30に示した。また、各評価培地における生存率を表33、図31に示した。
【0107】
【表32】
【0108】
【表33】
【0109】
表32、図30、表33、図31より、上記試験条件において、基礎培地、あるいは、ビタミン等補強培地に対し、ペプチドを添加すると、生細胞数及び生存率ともに多くなることが分かった。
【0110】
培養3日目以降、24well(Deep well)カセットの各wellから回収した培地200μLのうち、150μLを1.5mLのチューブで遠心操作(5000rpm、5分間)を行い、上清を別途回収して産生タンパク質量をELISA法により測定した。
表34、図32に、測定された産生タンパク質量を示した。
【0111】
【表34】
【0112】
表34、図32より、基礎培地、あるいは、ビタミン等強化培地に対し、ペプチドを添加すると、産生タンパク質量は多くなることが分かった。
【0113】
(浮遊細胞系におけるAGK及びGPPのタンパク質産生試験)
Ala-Gly-Lys(AGK)及びGly-Pro-Pro(GPP)の配列を有するペプチドを合成し、5.53mMのAla-Gly-Lys(AGK)、及び、6.16mMのGly-Pro-Pro(GPP)のペプチド溶液を調製した。
【0114】
Micro-24バイオリアクターシステム(日本ポール社製)の24well(Deep well)カセットの各wellに基礎培地やビタミン等補強培地(基礎培地+ビタミン等補強成分)、各ペプチド溶液を5mLずつ加え、37℃、pH7、650rpmの条件で一晩培養した。翌日にpHキャリブレーションを行い、その後、3.5x105cells/mLに調製した細胞懸濁液を24well(Deep well)カセットの各wellに2mLずつ加え、浮遊細胞の細胞密度が1x105cells/mL(7mL/well)となるように播種し、37℃、pH7、650rpm、溶存酸素30%の培養条件、以下の評価培地で培養した。
<評価培地>
・基礎培地
・ビタミン等補強培地(基礎培地+ビタミン等補強成分)
・AGK(3.95mM)+ビタミン等補強培地
・GPP(4.40mM)+ビタミン等補強培地
なお、培地は、DMEM/F12培地(gibco社)に200nMメトトレキサート、10μg/mLインスリン、5.5μg/mLトランスフェリン、6.7ng/mL亜セレン酸ナトリウム、10μL/mLのAnti-Clumping Agent、10μL/mLの10%PluronicF68を配合した基礎培地を用いた。
【0115】
使用する浮遊細胞には、CHO DP-12(ATCC、型番CRL-12445)を無血清浮遊化に馴化し、振とう型培養装置(Custom Bio Shaker CO2-BR-43FL、タイテック社)で、100mL容三角フラスコを用いて、37℃、CO25%、撹拌速度125rpmの培養条件で継代培養をしている無血清浮遊化CHO DP-12を用いた。
【0116】
上記ビタミン等補強成分は表31に示したものである。
【0117】
培養3日目以降、24well(Deep well)カセットの各wellから培地150μLを1.5mLのチューブに回収し、遠心操作(5000rpm、5分間)を行い、上清を回収して産生タンパク質量をELISA法により測定した。
表35、図33に、測定された産生タンパク質量を示した。
【0118】
【表35】
【0119】
表35、図33より、上記試験条件において、基礎培地、あるいは、ビタミン等補強培地に対し、ペプチドを添加すると、産生タンパク質量は多くなることが分かった。
【0120】
なお、上記浮遊細胞系でのタンパク質産生において、CHO細胞を無血清浮遊化したが、まず血清培地のみを用いて細胞培養を行い、その後、血清培地と無血清培地を半々にして細胞培養を行い、最後に無血清培地のみを用いて細胞培養を行うことにより、馴化させてもよい。
【0121】
また、上記浮遊細胞系におけるタンパク質産生試験において、CHO細胞を用いたが、本発明のペプチドを含む培地は、その他の物質産生に利用されるハイブリドーマ、HEK293、COS、Sf9等の細胞株にも適用可能である。
【0122】
本発明のペプチドによるタンパク質産生方法は、上記バッチ培養の他、産生中に培地を継ぎ足すフェドバッチ培養の工程を含んでもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
【手続補正書】
【提出日】2023-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
la-Gly-Lys(AGK)からなるペプチド。
【請求項2】
請求項1記載のペプチドを含む、細胞増殖促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のペプチドを含む、タンパク質産生促進剤。
【請求項4】
請求項2記載の細胞増殖促進剤、又は、請求項3記載のタンパク質産生促進剤を含む、培地。
【請求項5】
請求項1記載のペプチドを用いた、細胞増殖促進方法。
【請求項6】
請求項1記載のペプチドを用いた、タンパク質産生促進方法。
【請求項7】
バッチ培養又はフェドバッチ培養を含む、請求項6に記載のタンパク質産生促進方法。