(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024099952
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】筋形成促進剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20240719BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240719BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240719BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240719BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240719BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240719BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240719BHJP
A61P 13/12 20060101ALN20240719BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20240719BHJP
【FI】
A61K31/7105
A61P21/00
A61K48/00
C12Q1/686 Z
C12Q1/6813 Z
C12M1/00 A
C12M1/34 B
A61P13/12
C12N15/113 Z ZNA
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003603
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100130845
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 伸一
(72)【発明者】
【氏名】萬代 新太郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 信一
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB20
4B029CC01
4B029FA12
4B063QA01
4B063QA19
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C084AA13
4C084MA52
4C084MA55
4C084NA14
4C084ZA941
4C084ZA942
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA94
(57)【要約】
【課題】 本発明は、筋形成促進剤を提供し、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、筋形成促進剤を提供する。また、本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、筋形成促進剤。
【請求項2】
筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、請求項1に記載の筋形成促進剤。
【請求項3】
miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬。
【請求項4】
サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、請求項3に記載の治療又は予防薬。
【請求項5】
生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、筋形成の測定方法。
【請求項6】
筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、請求項5に記載の測定方法。
【請求項7】
生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法。
【請求項8】
サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、請求項7に記載の測定方法。
【請求項9】
請求項5~8のいずれか1項に記載の測定方法を実施するための情報処理装置。
【請求項10】
請求項5~8のいずれか1項に記載の測定方法を実施するための情報処理装置のためのプログラム。
【請求項11】
筋形成を測定するためのキットであって、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを測定するための試薬を含む、キット。
【請求項12】
筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、請求項11に記載のキット。
【請求項13】
サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットであって、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを測定するための試薬を含む、キット。
【請求項14】
サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、請求項13に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋形成促進剤に関し、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬に関する。
【背景技術】
【0002】
骨格筋は、運動器と代謝・内分泌器官の役割を兼ねた人体最大の臓器である。未踏の高齢化社会を迎え、サルコペニアや高齢者の寝たきりの予防対策は、人的及び社会福祉的資源が有限であるという観点からも喫緊の課題である。慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は、サルコペニアの代表的な原因疾患であり、透析患者の2~3人に1人がサルコペニアを罹患するとも言われる。CKDは世界人口の7億人(非特許文献1~2)、本邦でも1300万人が罹患する新たな国民病とも言われる。特に高齢者の3人に1人が罹患することを鑑みると、CKDによるサルコペニアの病態解明は極めて重要な点だが、その病態解明は未だに不十分であり、運動や食事療法の他に有効な治療法が確立していない。
【0003】
現状、エビデンスを伴う治療法は、運動及び栄養療法のみであり、有酸素運動、レジスタンス運動又はそれらの組み合わせは、筋力維持効果の他、少数のRCTながら腎保護効果も報告される(非特許文献3)。分岐鎖アミノ酸(BCAA)摂取、特にロイシン摂取は、mammalian target of rapamycin(mTOR)を活性化し筋量を増加させる。しかしながら、高度のCKD患者ではCKD診療ガイドラインでも腎保護のため0.6-0.8g/kg/日のタンパク制限食が推奨されるというジレンマが潜在している。近年、骨格筋量を回復させる治療がCKD、癌といった原疾患の治療にも有効である可能性が示されており(非特許文献4~5)、筋-腎の相互作用を標的とした病態解明や治療法開発は極めて重要な意味を持つ。
【0004】
筋の量や恒常性を維持するために、筋形成と呼ばれる重要なプロセスが生体には存在しており、運動や筋傷害時に骨格筋再生及び肥大を制御する。従来研究として、筋形成を制御するmicroRNA(miRNA)が複数報告されている。miRNAはサルコペニアの治療戦略として本発明でも着目する、21-25塩基長の1本鎖RNAであり、遺伝子の転写後発現を調節する働きを持つ。miR-199a-5pはWNTシグナル経路の分子群を抑制して筋形成を抑制することや(非特許文献6)、miR-351-5pがlactamase βを標的として筋形成を抑制すること(非特許文献7)、miR-148aが筋形成を促進すること(非特許文献8)などが知られる。サルコペニア、筋萎縮疾患におけるmiRNAの発現変動の研究がこれまでにも知られている。CKDサルコペニアにおいてはmiR-486の有効性が報告されている。CKDモデルにmiR-486を前脛骨筋に導入すると、筋萎縮が起こらず、保護効果が報告されている(非特許文献9)。しかしながら、こうした筋形成を制御し得るmiRNAが、CKDを始めとした疾患病態に則して発現量や活性が変化し、病態に寄与するかは十分に分かっておらず、疾患治療への応用が進んでいない現状がある。
【0005】
小型細胞外小胞(small extracellular vesicles、sEV)は、後期エンドソームである多胞体を介して全細胞種から恒常的に分泌される、エクソソームとも呼ばれる40-150nmの膜小胞体である。小型細胞外小胞は、タンパク質、脂質、RNA、miRNA等を内包し、血液1ccに>10億個が循環する細胞間・組織間のメッセンジャーである。CKDによって、sEVの起源、組成、標的細胞及び機能が、どのように健康状態から変化するか、どのように病態と関わるかは未解明であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lancet 2018; 392(10159): 1736-1788.
【非特許文献2】JAMA 2017; 317(19): 1976-1992.
【非特許文献3】Am J Kidney Dis 2017; 69: 837-852.
【非特許文献4】Cell 2010; 142: 531-543.
【非特許文献5】J Am Soc Nephrol 2014; 25 : 2800-2811.
【非特許文献6】Cell Death Differ 2013; 20(9): 1194-1208.
【非特許文献7】FASEB J 2019; 33(2): 1911-1926.
【非特許文献8】J Biol Chem 2012; 287(25): 21093-21101.
【非特許文献9】Kidney Int 2012; 82(4): 401-411
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、筋形成促進剤を提供し、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、血液中を循環する小型細胞外小胞(small extracellular vesicles、sEVs)が慢性腎臓病(CKD)による腎-筋の臓器間相互作用及び筋萎縮を制御することを明らかにした。さらに、本発明者らは、sEVsに内包されるmiRNAの中から病態に関わる鍵となる複数のmiRNAを同定し、治療応用し得ることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明者らは、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAが、筋形成促進剤や、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬の有効成分となることを見出した。また、本発明者らは、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とすれば、筋形成を測定することができ、サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定することができることを見出した。これらの測定は、情報処理装置や情報処理装置のためのプログラムを用いて行うことができる。さらに、これらの測定は、キットによって行うこともできる。
【0010】
より具体的には、本発明者らは、アデニン含有食による薬剤誘導性のCKD・サルコペニアモデルラットを作成した。CKD由来のsEVを抽出した後、miRNAトランスクリプトーム解析を実施し、CKDによって発現量が変化する、sEVが内包するmiRNAを複数同定した。筋形成の評価系としてマウス骨格筋培養C2C12細胞を用いて、2%ウマ血清による筋細胞分化を誘導し、蛍光免疫染色によって筋管細胞形成を定量評価した。特にCKDモデル動物及びCKD患者において発現量が低下したmiRNAの中から、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの4種類について模倣体をそれぞれ細胞内にリポフェクションにより導入して筋形成能を評価した。その結果、これらのmiRNAが骨格筋細胞分化及び骨格筋形成などの筋形成を促進する作用を発揮することが分かった。
【0011】
すなわち、本発明は、以下を提供するものである。
[項1] miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、筋形成促進剤。
[項2] 筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、項1に記載の筋形成促進剤。
[項3] miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬。
[項4] サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、項3に記載の治療又は予防薬。
[項5] 生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、筋形成の測定方法。
[項6] 筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、項5に記載の測定方法。
[項7] 生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法。
[項8] サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、項7に記載の測定方法。
[項9] 項5~8のいずれか1項に記載の測定方法を実施するための情報処理装置。
[項10] 項5~8のいずれか1項に記載の測定方法を実施するための情報処理装置のためのプログラム。
[項11] 筋形成を測定するためのキットであって、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを測定するための試薬を含む、キット。
[項12] 筋形成が、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成である、項11に記載のキット。
[項13] サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットであって、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを測定するための試薬を含む、キット。
[項14] サルコペニア又は筋萎縮疾患が、慢性腎臓病に伴うものである、項13に記載のキット。
【発明の効果】
【0012】
より具体的な態様の本発明の筋形成促進剤によれば、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成などの筋形成であっても、筋形成を促進することができる。より具体的な態様の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬によれば、慢性腎臓病に伴うサルコペニア又は筋萎縮疾患であっても、サルコペニア又は筋萎縮疾患を治療又は予防することができる。より具体的な態様の本発明の筋形成の測定方法によれば、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成などの筋形成であっても、筋形成を測定することができる。より具体的な態様の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法によれば、慢性腎臓病に伴うサルコペニア又は筋萎縮疾患であっても、サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定することができる。より具体的な態様の本発明の情報処理装置やプログラムによれば、これらの測定方法を実施することができる。より具体的な態様の本発明の筋形成を測定するためのキットによれば、骨格筋細胞分化又は骨格筋形成などの筋形成であっても、筋形成を測定することができる。より具体的な態様の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットによれば、慢性腎臓病に伴うサルコペニア又は筋萎縮疾患であっても、サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】野生型ウィスター(Wister)ラットに0.75%のアデニンを含む食餌を4週間与えることによるCKD齧歯類モデルの確立。
【
図2】マッソントリクローム染色の結果、CKDラットの腎臓において尿細管間質線維化と広範な尿細管拡張が認められた。
【
図3】血清尿素窒素及びクレアチニンは、CKDラット血清において上昇した(群あたりn=8)。
【
図4】ポリマー沈殿ベースの精製方法が、その後の小型細胞外小胞(sEV)の解析のために主に使用された。
【
図5】コントロール(Ctrl)又はCKDラットからの単一sEVの電子顕微鏡及びsEVの代表的なサイズ分布。
【
図6】循環sEVの粒子数は、対照(Ctrl)ラットとCKDラットの間で差はなかった。
【
図7】sEVに含まれ、ポリマー沈殿除去後に完全に枯渇したテトラスパニンCD9、CD63、CD81及びβ-アクチンのウエスタンブロット。CKDは、sEVのCD9及びCD63の発現量を変化させなかった(群あたりn=8)。
【
図8】miRNAトランスクリプトームプロファイリングのボルケーノプロットは、対照ラットとCKDラットの末梢循環sEVを比較している(
図1)。水平線は、miRNA発現の倍率変化(FC)閾値が1.5以上であることを示し、垂直線は、log2変換した発現量に対するt検定のP値の閾値が0.1であることを示す。右上側のスポットはアップレギュレートされたmiRNAを表し、左上側のスポットはダウンレギュレートされたmiRNAを表す。
【
図9】rno-miR-16-5p、rno-miR-17-5p、rno-miR-20a-5p及びrno-miR-106b-5pの減少は、rno-miR-139-5pで補正した定量的RT-PCRで検証された(群あたりn=8)。対照miRNAであるrno-miR-423-3pの発現レベルは、CKDによって変化しなかった。
【
図10】miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの配列は、進化的に哺乳類で広く保存されている。
【
図11】37人のCKD患者におけるmiR-139-5p発現と比較したmiRNA発現レベル。sEVは、ポリマー沈殿を使用して精製された(
図4)。CKDステージ(ステージG5、eGFR <15.0; ステージG4、eGFR 15.0-29.9; ステージG3、eGFR 30.0-59.9; ステージG1/2、eGFR ≧60.0)による各miRNA発現レベルは、CKDの進行がsEVにおけるmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5p発現の喪失と有意に関連していたことを示している。P値<0.01は、統計的に有意とみなされた。
【
図12】年齢と性別を調整する多変数線形回帰モデルにより、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-17-5p、hsa-miR-20a-5p及びhsa-miR-106b-5の発現における1四分位減少が、それぞれeGFRの低下と関連することが明らかになった。
【
図13】循環する血清中の小型細胞外小胞(sEV)を段階的遠心分離で精製した。
【
図14】電子顕微鏡とナノ粒子解析システムは、それぞれ、コントロール又はCKDラットからの代表的な単一のsEV、sEVのサイズ分布を示した。
【
図15】miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの絶対発現レベルは、sEVでCKDによってダウンレギュレートされた(群あたりn=4)。
【
図16】37人のCKDコホート患者を使用して、sEVの各miRNA発現量の四分位とeGFRの間の関連を分析した。sEVは、ポリマー沈殿を使用して精製した(
図4)。miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの発現量低下は、eGFR低下と相関していたが、miR-423-3p発現とeGFRとの関連性は有意ではなかった(群あたりn=9又は10)。
【
図17】
図17は、未分化で残存する単核筋芽細胞の割合(%)と、多核筋管細胞(核数, ≧5/細胞)の割合(%)を計測して、筋形成能を定量するグラフである。
【
図18】
図18は、各miRNA模倣体の機能解析としての蛍光免疫染色を示す写真である。
図18は、筋形成のin vitroアッセイを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発明を実施するための形態を説明するに先立ち、まず、各図面の概要を、図面中に用いられた略称の説明とともに、以下に示す。
図1~
図12:CKD齧歯類モデルの確立とサルコペニアに関連する機能的miRNAの同定。CKD、慢性腎臓病;GFR、糸球体濾過率。
図13~
図15:段階的超遠心分離によって精製されたsEVのmiRNA発現プロファイル。CKD、慢性腎臓病;miRNA、マイクロRNA;sEV、血清細胞外小胞。
図16:miRNA発現の四分位数とeGFRとの関連。
図17~
図18:マウスC2C12細胞を用いた筋形成アッセイ。骨格筋培養細胞を用いた筋形成アッセイは、2%ラット血清での培養の120時間後に、蛍光免疫染色を実施した。
【0015】
次に、本明細書における略称を以下に挙げる。
CKD、慢性腎臓病;GFR、糸球体濾過率;miRNA、マイクロRNA;sEV、小型細胞外小胞;UTR、未翻訳領域。
【0016】
以下、発明を実施するための形態を説明する。
筋形成促進剤:
特定の態様において、本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、筋形成促進剤を提供する。
miRNAは、microRNAやマイクロRNAとも呼ばれる21-25塩基長の1本鎖RNAであり、遺伝子の転写後の発現を調節する働きを持つと言われる。その一方で、miRNAは、20~24ヌクレオチドの短い非コード性RNAであり、mRNAの安定性と翻訳の両方に影響を与えることによって、多細胞生物における遺伝子発現の転写後調節に関与しているとも言われる。このように、miRNAは、その塩基長の定義は一義的ではないため、本発明におけるmiRNAは、その塩基長の定義に拘束されないものとする。
miRNAは、RNAポリメラーゼIIによって、キャップ構造を有するポリアデニル化された初期転写産物(primiRNA)の一部として転写される。この初期転写産物は、タンパク質をコードすることも、コードしないこともある。この初期転写産物は、DroshaリボヌクレアーゼIII酵素によって切断されて、約70ヌクレオチドのステムループ構造をとる前駆体miRNA(pre-miRNA)を生成する。これはさらに、細胞質のDicerリボヌクレアーゼによって切断されて、成熟miRNAとそのアンチセンス側のmiRNA*を生じる。そして、成熟miRNAは、RNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、RISCは、miRNAとの不完全な塩基対合を通じて標的mRNAを認識し、一般的には、標的mRNAの翻訳阻害又は不安定化をもたらす。
【0017】
したがって、miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、miRNAを含むものに限られず、当該miRNAの初期転写産物や前駆体miRNAを含むものを包含するものとする。miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、miRNAやmiRNAの初期転写産物や前駆体miRNAなどをコードするDNAを含むものであってもよい。また、miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、miRNAのみを含むものには限られず、本発明の筋形成促進剤に含まれるmiRNAは、そのアンチセンス側のmiRNA*との組み合わせであってもよい。さらに、miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、miRNA模倣体を含むものであってもよい。miRNA模倣体は、miRNA mimic、miRNAミミック、miRNA擬態者などとも言われる。miRNA模倣体は、miRNA分子を模倣した、化学修飾を施した2本鎖RNAである。miRNA模倣体としては、例えば、強いRNAi活性を示す天然型RNAからなるガイド鎖と、RNAi活性を示さない化学修飾したパッセンジャー鎖から構成されるものが挙げられる。miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、単独で分子であるmiRNAを含むものであってもよいが、その他の化合物と結合してできた化合物における一部としてmiRNAを含むものであってもよい。例えば、miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤は、2’O-メチル修飾などの修飾を含むmiRNAを含むものであってもよい。また、miRNAを有効成分とする本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAは、天然核酸分子であるRNAには限られず、BNA、LNA、ENAなどの人工核酸であってもよい。
【0018】
本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiRNAとしては、例えば、miR-16-5pが挙げられる。miR-16-5pとしては、例えば、配列番号8~10で表される配列からなるRNAが挙げられる。配列番号8~10で表される配列は、データベースにおいて、それぞれ、アクセス番号MIMAT0039892、アクセス番号MIMAT0000527及びアクセス番号MIMAT0000785として知られている。本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiR-16-5pは、配列番号8~10で表される配列からなるRNAのみに限られず、例えば、これらの配列の一部において欠失、置換、付加又は挿入があるものの、配列番号8~10で表される配列からなるRNAと同等の活性を示すRNAであってもよい。欠失、置換、付加又は挿入の個数は、例えば、1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下又は10個以下である。当該RNAは、配列番号8~10で表される配列からなるRNAとの配列の相同性が、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%である。
【0019】
本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiRNAとしては、例えば、miR-17-5pが挙げられる。miR-17-5pとしては、例えば、配列番号11~13で表される配列からなるRNAが挙げられる。配列番号11~13で表される配列は、データベースにおいて、それぞれ、アクセス番号MIMAT0000070、アクセス番号MIMAT0000649及びアクセス番号MIMAT0000786として知られている。本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiR-17-5pは、配列番号11~13で表される配列からなるRNAのみに限られず、例えば、これらの配列の一部において欠失、置換、付加又は挿入があるものの、配列番号11~13で表される配列からなるRNAと同等の活性を示すRNAであってもよい。欠失、置換、付加又は挿入の個数は、例えば、1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下又は10個以下である。当該RNAは、配列番号11~13で表される配列からなるRNAとの配列の相同性が、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%である。
【0020】
本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiRNAとしては、例えば、miR-20a-5pが挙げられる。miR-20a-5pとしては、例えば、配列番号14~16で表される配列からなるRNAが挙げられる。配列番号14~16で表される配列は、データベースにおいて、それぞれ、アクセス番号MIMAT0000075、アクセス番号MIMAT0000529及びアクセス番号MIMAT0000602として知られている。本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiR-20a-5pは、配列番号14~16で表される配列からなるRNAのみに限られず、例えば、これらの配列の一部において欠失、置換、付加又は挿入があるものの、配列番号14~16で表される配列からなるRNAと同等の活性を示すRNAであってもよい。欠失、置換、付加又は挿入の個数は、例えば、1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下又は10個以下である。当該RNAは、配列番号14~16で表される配列からなるRNAとの配列の相同性が、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%である。
【0021】
本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiRNAとしては、例えば、miR-106b-5pが挙げられる。miR-106b-5pとしては、例えば、配列番号17~19で表される配列からなるRNAが挙げられる。配列番号17~19で表される配列は、データベースにおいて、それぞれ、アクセス番号MIMAT0000680、アクセス番号MIMAT0000386及びアクセス番号MIMAT0000825として知られている。本発明の筋形成促進剤が有効成分とするmiR-106b-5pは、配列番号17~19で表される配列からなるRNAのみに限られず、例えば、これらの配列の一部において欠失、置換、付加又は挿入があるものの、配列番号17~19で表される配列からなるRNAと同等の活性を示すRNAであってもよい。欠失、置換、付加又は挿入の個数は、例えば、1個以下、2個以下、3個以下、4個以下、5個以下、6個以下、7個以下、8個以下、9個以下又は10個以下である。当該RNAは、配列番号17~19で表される配列からなるRNAとの配列の相同性が、例えば、60%以上、70%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上又は99%である。
【0022】
本発明の筋形成促進剤は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれる単一のmiRNAを有効成分としてもよく、これらから選ばれる複数のmiRNAを有効成分としてもよい。
【0023】
本発明の筋形成促進剤に言う筋としては、例えば、骨格筋のほか、心筋、平滑筋などが挙げられる。本発明の筋形成促進剤に言う筋形成としては、例えば、骨格筋細胞分化、骨格筋形成のほか、骨格筋再生、骨格筋肥大などが挙げられる。
【0024】
本発明の筋形成促進剤における100重量%中の有効成分の含有割合は、例えば、0.001~99.99重量%の範囲において適宜設定することができる。
【0025】
本発明の筋形成促進剤は、核酸やタンパク質の細胞への導入を促進する薬剤を含んでもよい。
【0026】
本発明の筋形成促進剤中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、医薬的に許容され得る担体又は添加剤などが挙げられる。担体又は添加剤に特に制限はなく、例えば、剤形等に応じて適宜選択することができ、任意の担体、希釈剤、賦形剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、媒体、送達システム、乳化剤、錠剤分解物質、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、香料又は甘味料を含みうる。
【0027】
本発明の筋形成促進剤におけるその他の成分の含有量についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
本発明の筋形成促進剤の剤形としては、特に制限はなく、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、固形剤(錠剤、カプセル剤、座剤、粉末等)などが挙げられる。注射剤としては、例えば、組成物中に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、関節内用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。固形剤には、腸溶性コーティングが施されていてもよい。
【0029】
本発明の筋形成促進剤の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、医薬組成物の剤形、患者の状態等に応じて、局所投与、全身投与のいずれかを選択することができる。投与は、例えば、関節内投与、経静脈投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、注腸投与、経管栄養などにより行うことができる。
【0030】
本発明の筋形成促進剤を投与する対象者としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどの哺乳類動物が挙げられる。
【0031】
本発明の筋形成促進剤の投与量としては、特に制限はなく、投与形態や、投与対象の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができる。
【0032】
本発明の筋形成促進剤は、miRNA又はその前駆体RNA、それらをコードするDNA、miRNA模倣体として、適当な賦形剤や添加剤を含む錠剤、粉末、液体、半固体などの任意の形態で投与することができる。筋形成促進剤としての投与量と投与経路は、使用する核酸の種類と剤形に応じて、適宜決定することができるが、例えば、1日あたり100~1,000,000 nmol、好ましくは、150~100,000 nmolとし、投与頻度は、例えば、1月あたり1~100回とすることができる。
【0033】
本発明の筋形成促進剤の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、所定の疾患に感受性の患者に対して予防的に投与されてもよいし、症状を呈する患者に治療的に投与されてもよい。また、投与回数としても、特に制限はなく、投与対象の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて、適宜選択することができる。
【0034】
本発明の筋形成促進剤を対象者に投与すれば、対象者における前述のような筋形成を促進することができる。したがって、本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを対象者に投与することを特徴とする、対象者における前述のような筋形成を促進する方法を提供する。
【0035】
サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬:
特定の態様において、本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを有効成分とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を提供する。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬が有効成分とするmiRNAは、本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAと同様である。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれる単一のmiRNAを有効成分としてもよく、これらから選ばれる複数のmiRNAを有効成分としてもよい。
【0036】
サルコペニアは、加齢による骨格筋量の低下と定義され、副次的に筋力や有酸素運動能力の低下を生じる。握力が低下しているか(男性26kg未満、女性18kg未満)、又は歩く速度が低下していて(0.8m/秒以下)、検査で筋肉量が基準より減少していることが認められると、サルコペニアと診断される。サルコペニアになると、歩く、立ち上がるなどの日常生活の基本的な動作に影響が生じ、介護が必要になったり、転倒しやすくなったりする。65歳以上の高齢者の15%程度がサルコペニアに該当すると考えられている。サルコペニアの割合は、加齢に伴って増加すること(65歳よりも75歳、85歳で増える)、女性よりも男性で高くなることなどの特徴がある。サルコペニアは、加齢に伴って生じる原発性(一次性)サルコペニアと、活動、栄養、疾患に伴って生じる二次性サルコペニアに分類される。サルコペニアのステージ分類として、プレサルコペニア、サルコペニア及び重症サルコペニアの3段階が定義されている。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬におけるサルコペニアは、このように分類される類型の全体を包含するものとする。
【0037】
筋萎縮疾患は、筋萎縮とも呼ばれる。筋萎縮とは、筋肉がやせることである。筋萎縮は、筋肉そのものにその原因のある筋原性筋萎縮と、筋肉に指令や栄養を供給している運動ニューロンにその原因のある神経原性筋萎縮と、何らかの原因により長期に筋肉を使用しなかったために筋体積が減少して筋の萎縮をきたした廃用性筋萎縮に分類される。筋原性筋萎縮の代表的なものが筋ジストロフィーであり、神経原性筋萎縮を代表するものが筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)及び球脊髄性筋萎縮症である。筋原性筋萎縮症をミオパチー、神経原性筋萎縮症をニューロパチーとも言う。
筋原性筋萎縮は、上腕部、大腿部のような四肢の近位筋や肩甲帯、骨盤周囲などに著明な萎縮が認められる。例外として、筋強直性ジストロフィーのように遠位筋が主に萎縮するものや、デュジャンヌ型筋ジストロフィーのように病的な肥大を伴うものもある。筋原性筋萎縮の主な原因疾患としては進行性筋ジストロフィーや多発性筋炎などがある。
神経原性筋萎縮には、1次運動ニューロン障害による神経原性筋萎縮と、2次運動ニューロン障害による神経原性筋萎縮とがある。1次運動ニューロン障害には、脳障害による筋萎縮と脊髄障害による筋萎縮がある。1次運動ニューロン障害による筋萎縮では、二次的に廃用性の筋萎縮が発生するまでは萎縮が起こりにくく、萎縮の程度も2次運動ニューロン障害よりは軽度である場合が多い。1次運動ニューロン障害による筋萎縮の主な原因疾患は、脳血管障害、脳浮腫、脊髄損傷等である。2次運動ニューロン障害には、脊髄前角細胞の病変による筋萎縮、末梢神経の病変による筋萎縮がある。脊髄前角細胞の病変による筋萎縮は、四肢の末梢に強く、左右が対照的に侵されやすく、繊維束性攣縮を認めるなどの特徴がある。脊髄前角細胞の病変による筋萎縮の主な原因疾患は、脊髄性進行性筋萎縮症、急性脊髄前角炎(ポリオ)、ギランバレー症候群などがある。末梢神経の病変による筋萎縮は、侵された末梢神経の支配領域に限定され、知覚障害を合併していることが特徴である。末梢神経の病変による筋萎縮の主な原因疾患には、多発性神経炎、手根管症候群、外傷や機械的圧迫による末梢神経麻痺などがある。
廃用性筋萎縮は、長期間の筋肉の不使用により生じる。怪我や病気、加齢などにより、筋力を使った活動が行えなくなってくると、筋肉が長時間使われにくい状態になってしまい、廃用性筋委縮が起きる可能性が高くなる。例としては、脳障害や肺炎、手術後の長期臥床、あるいは関節炎などの痛みや骨折、脱臼の治療目的のギプス固定等による長期の不動が原因で起こることが多い。
筋萎縮疾患としては、平山病も挙げられる。平山病は、若年性に発症し、20歳程で進行が止まる(ただし、痩せてしまった筋肉は戻らない)珍しい疾患である。
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬における筋萎縮疾患は、このように分類される類型の全体を包含するものとする。
【0038】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患は、例えば、慢性腎臓病に伴うものである。慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は、腎機能の低下や蛋白尿などの尿検査異常が3ヶ月以上続く状態である。本邦の1300万人、世界人口の7億人(高齢者の3人に1人)が慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)に罹患すると言われる。慢性腎臓病(chronic kidney disease、CKD)は、心血管病、サルコペニア(筋量・筋力減少症、血液透析患者の40%が罹患する)等、全身臓器の機能低下に連鎖、波及し、生命寿命・健康寿命を損なうことが知られている。
【0039】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬における100重量%中の有効成分の含有割合は、例えば、0.001~99.99重量%の範囲において適宜設定することができる。
【0040】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬は、核酸やタンパク質の細胞への導入を促進する薬剤を含んでもよい。
【0041】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬中のその他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、医薬的に許容され得る担体又は添加剤などが挙げられる。担体又は添加剤に特に制限はなく、例えば、剤形等に応じて適宜選択することができ、任意の担体、希釈剤、賦形剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、媒体、送達システム、乳化剤、錠剤分解物質、吸収剤、保存剤、界面活性剤、着色剤、香料又は甘味料を含みうる。
【0042】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬におけるその他の成分の含有量についても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0043】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬の剤形としては、特に制限はなく、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、固形剤(錠剤、カプセル剤、座剤、粉末等)などが挙げられる。注射剤としては、例えば、組成物中に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤等を添加し、常法により皮下用、関節内用、筋肉内用、静脈内用等の注射剤を製造することができる。pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。固形剤には、腸溶性コーティングが施されていてもよい。
【0044】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬の投与方法としては、特に制限はなく、例えば、医薬組成物の剤形、患者の状態等に応じて、局所投与、全身投与のいずれかを選択することができる。投与は、例えば、関節内投与、経静脈投与、皮下投与、筋肉内投与、経口投与、経腸投与、注腸投与、経管栄養などにより行うことができる。
【0045】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を投与する対象者としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどの哺乳類動物が挙げられるが、好ましくはヒト、特にサルコペニア又は筋萎縮疾患を発症しているヒトの患者、より好ましくは、慢性腎臓病に伴いサルコペニア又は筋萎縮疾患を発症しているヒトの患者である。当該対象者の他の例としては、慢性腎臓病に罹患しているものの、サルコペニア又は筋萎縮疾患を発症していないヒトの患者を挙げることができる。
【0046】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬の投与量としては、特に制限はなく、投与形態や、投与対象の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて適宜選択することができる。
【0047】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬は、miRNA又はその前駆体RNA、それらをコードするDNA、miRNA模倣体として、適当な賦形剤や添加剤を含む錠剤、粉末、液体、半固体などの任意の形態で投与することができる。サルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬としての投与量と投与経路は、使用する核酸の種類と剤形に応じて、適宜決定することができるが、例えば、1日あたり100~1,000,000 nmol、好ましくは、150~100,000 nmolとし、投与頻度は、例えば、1月あたり1~100回とすることができる。
【0048】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬の投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬は、例えば、慢性腎臓病やサルコペニア又は筋萎縮疾患に感受性の患者に対して予防的に投与されてもよいし、慢性腎臓病やサルコペニア又は筋萎縮疾患の症状を呈する患者に治療的に投与されてもよい。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬は、慢性腎臓病の症状を呈するものの、サルコペニア又は筋萎縮疾患の症状を呈しない患者に投与されてもよい。また、投与回数としても、特に制限はなく、投与対象の年齢、体重、所望の効果の程度等に応じて、適宜選択することができる。
【0049】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬を対象者に投与すれば、対象者における前述のようなサルコペニア又は筋萎縮疾患を治療又は予防することができる。したがって、本発明は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを対象者に投与することを特徴とする、対象者における前述のようなサルコペニア又は筋萎縮疾患を治療又は予防する方法を提供する。
【0050】
測定方法:
本発明者らは、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とすれば、筋形成を測定することができることを見出した。すなわち、本発明は、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、筋形成の測定方法を提供する。本発明の筋形成の測定方法において、miRNAは、本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAと同様である。以下の本発明の筋形成の測定方法の説明において、miRNAは、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指す。もっとも、本発明の筋形成の測定方法は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pからmiRNAを選ぶ工程を必須とするものではない。例えば、生体試料中のmiR-16-5pを指標とする筋形成の測定方法や、生体試料中のmiR-17-5pを指標とする筋形成の測定方法や、生体試料中のmiR-20a-5pを指標とする筋形成の測定方法や、生体試料中のmiR-106b-5pを指標とする筋形成の測定方法や、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの2つ、3つ又は4つの組み合わせを指標とする筋形成の測定方法も、本発明の筋形成の測定方法に包含される。本発明の筋形成の測定方法において、筋形成は、本発明の筋形成促進剤における筋形成と同様である。
【0051】
生体試料としては、血液、尿、透析液などが挙げられ、より好ましくは、小型細胞外小胞を含む血液のほか、小型細胞外小胞が挙げられる。血液としては、より好ましくは、四肢の皮静脈などの部位から採取した血液が挙げられる。生体試料は、生体から採取した試料に限られず、生体に由来する試料であってもよい。生体に由来する試料は、例えば、生体から採取した試料を加工して得ることができる。生体に由来する試料としては、例えば、小型細胞外小胞を含む血液から小型細胞外小胞を濃縮して得られた試料が挙げられる。
【0052】
生体試料が由来する被験者としては、例えば、ヒト、マウス、ラット、ウシ、ブタ、サル、イヌ、ネコなどの哺乳類動物が挙げられるが、好ましくはヒトが挙げられる。また、生体試料が由来する被験者としては、例えば、慢性腎臓病を発症している被験者のほか、慢性腎臓病の罹患が疑われる被験者、サルコペニア又は筋萎縮疾患を発症している被験者、サルコペニア又は筋萎縮疾患の罹患が疑われる被験者などが挙げられる。
【0053】
本発明の筋形成の測定方法が指標とする生体試料中のmiRNAは、生体試料中のmiRNAの濃度のほか、生体試料中のmiRNAの存否であってもよい。生体試料中のmiRNAの濃度は、生体試料におけるmiRNAの濃度を示す絶対値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した相対値であってもよい。所定の対照と比較した相対値は、数値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した数値の大小を示す記号であってもよい。生体試料中のmiRNAの存否は、例えば、所定の方法における検出限界のもとでmiRNAが検出されたと判断されるかどうかである。
【0054】
本発明の筋形成の測定方法において、生体試料中のmiRNAを指標とする、筋形成の測定は、ヒトが行ってもよいが、ヒトが行うにあたっては、医師による診断としては行わないものであってもよい。
【0055】
本発明の筋形成の測定方法において、筋形成の測定としては、例えば、生体試料が由来する被験者における筋形成に関する情報の提示が挙げられる。筋形成に関する情報の提示としては、例えば、生体試料が由来する被験者において筋形成が十分であることを示す情報の提示のほか、生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分であることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来不十分となる可能性が高いことを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来不十分となる可能性が低いことを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来不十分となる確率が所定の数値以上であることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来不十分となる確率が所定の数値以下であることを示す情報の提示などが挙げられる。
【0056】
本発明の筋形成の測定方法において、生体試料中のmiRNAを指標とする、筋形成の測定は、本発明の筋形成の測定方法を実施するための情報処理装置を使用して行ってもよい。
【0057】
本発明の筋形成の測定方法をするための情報処理装置としては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段と、生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段と、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づき筋形成に関する情報を生成する手段と、生成された筋形成に関する情報を出力するための手段を備える情報処理装置が挙げられる。
【0058】
当該情報処理装置の使用は、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段を備える情報処理装置に対して、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段によって、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力し、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づき筋形成に関する情報を生成する手段によって、筋形成に関する情報を生成し、生成された筋形成に関する情報を出力するための手段によって、生成された筋形成に関する情報を出力することにより行うことができる。
【0059】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報としては、例えば、生体試料中のmiRNAの存在を示す記号の情報や、生体試料中のmiRNAの不存在を示す記号の情報のほか、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値又は記号の情報などが挙げられる。
【0060】
当該情報処理装置における筋形成に関する情報としては、例えば、生体試料が由来する被験者において筋形成が十分であることを示す情報、生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分であることを示す情報、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来も十分である可能性が高いことを示す情報、生体試料が由来する被験者において筋形成が将来不十分となる可能性が高いことを示す情報、生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分となる確率が所定の数値以上であることを示す情報、生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分となる確率が所定数値以下であることを示す情報などが挙げられる。
【0061】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報としては、例えば、生体試料中のmiRNAの不存在を示す記号の情報と生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分であることを示す情報とを対応づける条件を含むとともに、生体試料中のmiRNAの存在を示す記号の情報と生体試料が由来する被験者において筋形成が十分であることを示す情報とを対応づける条件を含む情報が挙げられる。当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報の他の例としては、例えば、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値以下であることと生体試料が由来する被験者において筋形成が不十分であることを示す情報とを対応づける条件を含むとともに、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値を超えることと生体試料が由来する被験者において筋形成が十分であることを示す情報とを対応づける条件を含む情報が挙げられる。
【0062】
当該情報処理装置における記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づき筋形成に関する情報を生成する手段は、例えば、入力された生体試料中のmiRNAに関する情報が、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件に該当するかどうかを判定し、当該判定の結果に基づき、該当した条件に対応づけられた筋形成に関する情報を生成する。
【0063】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段としては、例えば、キーボード、マウスなどが挙げられる。当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段としては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどが挙げられる。当該情報処理装置における記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づき筋形成に関する情報を生成する手段としては、例えば、CPUなどが挙げられる。当該情報処理装置における生成された筋形成に関する情報を出力するための手段としては、例えば、モニター、プリンターなどが挙げられる。
【0064】
当該情報処理装置は、単一の情報処理端末からなるものには限られず、複数の情報処理端末により構成されるシステムであってもよい。すなわち、例えば、当該情報処理装置は、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段と生成された筋形成に関する情報を出力するための手段とを備える情報処理端末と、生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段と記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づき筋形成に関する情報を生成する手段とを備える情報処理端末とを、通信回線により接続して得られるシステムであってもよい。このようなシステムを構成するそれぞれの単一の情報処理端末も、本発明の筋形成の測定方法を実施するための情報処理装置に該当しうるものとする。
【0065】
本発明は、生体試料中のmiRNAを指標とする、筋形成の測定方法を実施するための情報処理装置のためのプログラムも提供する。本発明の当該プログラムとしては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報と筋形成に関する情報とを対応づける条件を含むプログラムが挙げられる。本発明の当該プログラムにおいて、生体試料中のmiRNAに関する情報や、筋形成に関する情報や、これらを対応づける条件は、前述の本発明の筋形成の測定方法を実施するための情報処理装置におけるものと同様とする。
【0066】
本発明者らは、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とすれば、サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定することができることを見出した。すなわち、本発明は、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指標とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を提供する。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、miRNAは、本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAと同様である。以下の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法の説明において、miRNAは、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指す。もっとも、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法は、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pからmiRNAを選ぶ工程を必須とするものではない。例えば、生体試料中のmiR-16-5pを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法や、生体試料中のmiR-17-5pを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法や、生体試料中のmiR-20a-5pを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法や、生体試料中のmiR-106b-5pを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法や、生体試料中のmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの2つ、3つ又は4つの組み合わせを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法も、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法に包含される。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、サルコペニア又は筋萎縮疾患は、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患と同様である。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、生体試料は、本発明の筋形成の測定方法における生体試料と同様である。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、測定方法が指標とする生体試料中のmiRNAは、本発明の筋形成の測定方法における、測定方法が指標とする生体試料中のmiRNAと同様である。
【0067】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、生体試料中のmiRNAを指標とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定は、ヒトが行ってもよいが、ヒトが行うにあたっては、医師による診断としては行わないものであってもよい。
【0068】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定としては、生体試料が由来する被験者におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報の提示が挙げられる。生体試料が由来する被験者におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報の提示としては、例えば、例えば、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患していることを示す情報の提示のほか、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していないことを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患している可能性があることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していない可能性があることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患している確率が所定の数値以上であることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していない確率が所定の数値以上であることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する可能性が高いことを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する可能性が低いことを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する確率が所定の数値以上であることを示す情報の提示、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来ならない又は筋萎縮疾患に将来罹患しない確率が所定の数値以上であることを示す情報の提示などが挙げられる。
【0069】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法において、生体試料中のmiRNAを指標とする、筋形成の測定は、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を実施するための情報処理装置を使用して行ってもよい。
【0070】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法をするための情報処理装置としては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段と、生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段と、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づきサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する手段と、生成されたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を出力するための手段を備える情報処理装置が挙げられる。
【0071】
当該情報処理装置の使用は、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段を備える情報処理装置に対して、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段によって、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力し、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づきサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する手段によって、サルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成し、生成されたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を出力するための手段によって、生成されたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を出力することにより行うことができる。
【0072】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報としては、例えば、生体試料中のmiRNAの存在を示す記号の情報や、生体試料中のmiRNAの不存在を示す記号の情報のほか、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値又は記号の情報などが挙げられる。
【0073】
当該情報処理装置におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報としては、例えば、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患していることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していないことを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患している可能性があることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していない可能性があることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患している確率が所定の数値以上であることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していない確率が所定の数値以上であることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する可能性が高いことを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する可能性が低いことを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する確率が所定の数値以上であることを示す情報、生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患が将来罹患する確率が所定数値以下であることを示す情報などが挙げられる。
【0074】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報としては、例えば、生体試料中のmiRNAの不存在を示す記号の情報と生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患していることを示す情報とを対応づける条件を含むとともに、生体試料中のmiRNAの存在を示す記号の情報と生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していないことを示す情報とを対応づける条件を含む情報が挙げられる。当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報の他の例としては、例えば、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値以下であることと生体試料が由来する被験者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患していることを示す情報とを対応づける条件を含むとともに、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値を超えることと生体試料が由来する被験者がサルコペニアでない又は筋萎縮疾患に罹患していないことを示す情報とを対応づける条件を含む情報が挙げられる。当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報の他の例としては、例えば、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値以下であることと生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する確率が所定の数値以上であることを示す情報とを対応づける条件を含むとともに、生体試料中のmiRNAの濃度を示す数値が所定の数値を超えることと生体試料が由来する被験者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する確率が所定の数値未満であることを示す情報とを対応づける条件を含む情報が挙げられる。
【0075】
当該情報処理装置における記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づきサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する手段は、例えば、入力された生体試料中のmiRNAに関する情報が、記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件に該当するかどうかを判定し、当該判定の結果に基づき、該当した条件に対応づけられたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する。
【0076】
当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段としては、例えば、キーボード、マウスなどが挙げられる。当該情報処理装置における生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段としては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶したハードディスク、フラッシュメモリなどが挙げられる。当該情報処理装置における記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づきサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する手段としては、例えば、CPUなどが挙げられる。当該情報処理装置における生成されたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を出力するための手段としては、例えば、モニター、プリンターなどが挙げられる。
【0077】
当該情報処理装置は、単一の情報処理端末からなるものには限られず、複数の情報処理端末により構成されるシステムであってもよい。すなわち、例えば、当該情報処理装置は、生体試料中のmiRNAに関する情報を入力するための手段と生成されたサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を出力するための手段とを備える情報処理端末と、生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報を記憶する手段と記憶された生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含む情報と入力された生体試料中のmiRNAに関する情報とに基づきサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を生成する手段とを備える情報処理端末とを、通信回線により接続して得られるシステムであってもよい。このようなシステムを構成するそれぞれの単一の情報処理端末も、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を実施するための情報処理装置に該当しうるものとする。
【0078】
本発明は、生体試料中のmiRNAを指標とする、サルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を実施するための情報処理装置のためのプログラムも提供する。本発明の当該プログラムとしては、例えば、生体試料中のmiRNAに関する情報とサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報とを対応づける条件を含むプログラムが挙げられる。本発明の当該プログラムにおいて、生体試料中のmiRNAに関する情報や、サルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報や、これらを対応づける条件は、前述の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を実施するための情報処理装置におけるものと同様とする。
【0079】
キット:
本発明は、筋形成を測定するためのキットであって、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬を含む、キットを提供する。本発明の筋形成を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬につき、miRNAは、生体試料中のmiRNAという用法に反しない限りにおいて、本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAと同様である。以下の本発明の筋形成を測定するためのキットの説明において、miRNAは、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指す。本発明の筋形成を測定するためのキットにおける筋形成は、本発明の筋形成促進剤における筋形成と同様である。本発明の筋形成を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬につき、生体試料は、本発明の筋形成の測定方法における生体試料と同様である。
【0080】
本発明の筋形成を測定するためのキットにおいて、生体試料中のmiRNAの測定は、生体試料中のmiRNAの濃度の測定のほか、生体試料中のmiRNAの存否の測定であってもよい。測定される生体試料中のmiRNAの濃度は、生体試料におけるmiRNAの濃度を示す絶対値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した相対値であってもよい。所定の対照と比較した相対値は、数値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した数値の大小を示す記号であってもよい。測定される生体試料中のmiRNAの存否は、例えば、所定の方法における検出限界のもとでmiRNAが検出されたと判断されるかどうかである。
【0081】
本発明の筋形成を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬としては、例えば、当該miRNAに相補的なプライマーなどが挙げられる。
【0082】
本発明の筋形成を測定するためのキットは、例えば、生体試料が由来する対象者において筋形成が十分であるかどうか、生体試料が由来する対象者において筋形成が将来不十分となるかどうか、などを判定するためのキットであることができる。
【0083】
本発明の筋形成を測定するためのキットには、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬のほか、当該試薬を使用する方法を説明する説明書や、当該試薬を使用して測定した生体試料中のmiRNAから生体試料が由来する対象者における筋形成に関する情報を提示するために用いられるmiRNAの基準となる数値を説明する説明書などを含んでもよい。本発明の筋形成を測定するためのキットは、これらの説明書を含む場合であっても、これらの説明書を紙として含むことを必須とするものではなく、これらの説明書は、電気通信回線を通して提供されるものであってもよい。
【0084】
本発明の筋形成を測定するためのキットを使用して筋形成を測定するためには、例えば、本発明の筋形成を測定するためのキット含まれる生体試料中のmiRNAを測定するための試薬を用いて、前述の本発明の生体試料中のmiRNAを指標とする筋形成の測定方法を行えばよい。
【0085】
本発明は、サルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットであって、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬を含む、キットを提供する。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬につき、miRNAは、生体試料中のmiRNAという用法に反しない限りにおいて、本発明の筋形成促進剤におけるmiRNAと同様である。以下の本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットの説明において、miRNAは、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pから選ばれるmiRNAを指す。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットにおけるサルコペニア又は筋萎縮疾患は、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の治療又は予防薬におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患と同様である。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬につき、生体試料は、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法における生体試料と同様である。
【0086】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットにおいて、生体試料中のmiRNAの測定は、生体試料中のmiRNAの濃度の測定のほか、生体試料中のmiRNAの存否の測定であってもよい。測定される生体試料中のmiRNAの濃度は、生体試料におけるmiRNAの濃度を示す絶対値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した相対値であってもよい。所定の対照と比較した相対値は、数値であってもよいが、それに限られず、例えば、所定の対照と比較した数値の大小を示す記号であってもよい。測定される生体試料中のmiRNAの存否は、例えば、所定の方法における検出限界のもとでmiRNAが検出されたと判断されるかどうかである。
【0087】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットに含まれる、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬としては、例えば、当該miRNAに相補的なプライマーなどが挙げられる。
【0088】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットは、例えば、生体試料が由来する対象者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患しているかどうか、生体試料が由来する対象者がサルコペニアである又は筋萎縮疾患に罹患している可能性があるかどうか、生体試料が由来する対象者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患するリスクが高いかどうか、生体試料が由来する対象者がサルコペニアに将来なる又は筋萎縮疾患に将来罹患する確率が所定の数値以上であるかどうか、などを判定するためのキットであることができる。
【0089】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットには、生体試料中のmiRNAを測定するための試薬のほか、当該試薬を使用する方法を説明する説明書や、生体試料が由来する対象者におけるサルコペニア又は筋萎縮疾患に関する情報を提示するために用いられるmiRNAの基準となる数値を説明する説明書などを含んでもよい。本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットは、これらの説明書を含む場合であっても、これらの説明書を紙として含むことを必須とするものではなく、これらの説明書は、電気通信回線を通して提供されるものであってもよい。
【0090】
本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキットを使用してサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためには、例えば、本発明のサルコペニア又は筋萎縮疾患を測定するためのキット含まれる生体試料中のmiRNAを測定するための試薬を用いて、前述の本発明の生体試料中のmiRNAを指標とするサルコペニア又は筋萎縮疾患の測定方法を行えばよい。
【実施例0091】
実施例における実験手法の詳細を以下に示す。
【0092】
CKD齧歯類モデルの確立:
動物は、通常の固形飼料(CL2;日本クレア株式会社、東京、日本)又はアデニンを含むCL2を与えられた対照群又はCKD群に無作為に割り当てられた。CKDは、4週間の0.75%のアデニンを含む飼料で、雄のウィスターラットにおいて誘発された(
図1)。麻酔下でラットの心臓から血清を採取した。
【0093】
腎臓の組織学的検査:
ラットの腎臓を採取し、パラフィン包埋サンプル用に10%ホルムアルデヒド中性緩衝液(ナカライテスク、京都、日本)で固定した。組織切片をマッソントリクローム染色にかけた。腎臓のマッソントリクローム染色結果を観察し、BZ-X810顕微鏡(キーエンス、大阪、日本)を使用して写真を撮った。染色切片の画像は、BZ-X810顕微鏡を使用してキャプチャし写真撮影した。
【0094】
齧歯類及びヒトにおける血清sEVの分離:
静脈血を採取し、室温で60分間放置した。3,000Gで10分間遠心後、上清を回収し、-80℃で保存して使用した。血清sEVを分離するために、500 μLの血清をヒト/ラットで使用した。sEVは主にトータルエクソソーム分離試薬(血清由来、Cat.4478360、Invitrogen、CA、USA)を用いてメーカーの指示に従って単離された。
図5~
図12、
図16に示す実験と結果は、この分離技術に基づいて行われた。段階的遠心分離(Optima MAX-TL Beckman Coulter)による別の分離技術は、
図13~
図15に示す実験でのみ使用された。簡単に言えば、血清を2,000×gで30分間遠心分離して、細胞破片を除去した(
図5~
図12、
図16)。1/5量のエクソソーム分離試薬を血清と混合して、4℃で30分間インキュベートした。ペレットを10,000×gで10分間遠心分離することにより沈殿させ、さらなる機能実験のためにPBSに再懸濁した。sEV及びsEV枯渇血清が正常に枯渇したかどうかを判断するために、コントロール又はCKDラットからの血清、分離sEV及びsEV枯渇血清を25μgのタンパク質の同じロード量の下で使用して、sEV特異的マーカーであるテトラスパニンCD9、CD63及びCD81並びにβ-アクチンのイムノブロッティングを実行した。NanoSight LM10及びNanoSight NTA 3.0 0068ソフトウェア(Malvern Instruments、Worcestershire、英国)を使用して、sEVのナノ粒子解析システムを実行した。単一のsEVは、株式会社花市電子顕微鏡技術研究所(岡崎、日本)の透過型電子顕微鏡で可視化した。
【0095】
血清の生化学:
クレアチニン、尿素窒素、リン及びカルシウムを含む血清化学は、自動分析装置(JCA-BM8000、日本電子、東京、日本)を使用して測定した。
【0096】
免疫蛍光:
マウスC2C12細胞を用いた筋形成アッセイは、2%齧歯類血清での培養の120時間後に、蛍光免疫染色を実施した。
【0097】
miRNAトランスクリプトーム解析とin silicoターゲット解析:
sEV内の全RNAは、Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit(Cat.4478545、Invitrogen)によって精製した。Filgen(名古屋、日本)によるAffymetrix GeneChip(登録商標)miRNA 4.0(Affymetrix、カリフォルニア州サンタクララ)を使用して、包括的なmiRNAトランスクリプトームを実行した。分光光度計(Implen GmbH、ドイツ、ミュンヘン)及びAgilent 2100 Bioanalyzer(Agilent Technologies、米国カリフォルニア州サンタクララ)を使用したRNAの品質確認の後、Affymetrix GeneChip miRNAアレイのためのFlash Tag(商標)Biotin HSR RNA標識キット(Affymetrix)を使用して、製造元の指示に従って各サンプルの3,000 ngをビオチン標識した。標識されたRNAは、48℃で18時間、GeneChip miRNA 4.0 Array(Affymetrix)上でハイブリダイズさせた。GeneChip Fluidics station 450(Affymetrix)を使用してアレイを洗浄し、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix)でスキャンした。
【0098】
イムノブロッティング:
sEVのホモジネートは、免疫ブロッティングのために溶解バッファーで溶解した。2×SDSサンプルバッファー(Cosmo Bio USA CO., Carlsbad, CA, USA)で希釈し、70℃で10分間変性させた。タンパク質抽出物をSDS-PAGEで分離し、ニトロセルロース膜に電気的に転写して、一次抗体で、すなわち、マウス抗CD9(C-4; Santa Cruz Biotechnology, Inc., Dallas, TX, USA; sc-13118 ; 1:1,000)、マウス抗CD63抗体(MX-49.129.5; Santa Cruz; sc-5275; 1:1,000)でプローブした。アルカリホスファターゼ結合抗IgG抗体(Promega, Madison, WI)は二次抗体であった。ImageJソフトウェア(National Institutes of Health)を使用して、タンパク質のバンド密度を定量化した。
【0099】
定量的リアルタイムPCR:
Total Exosome RNA & Protein Isolation Kit(Cat.4478545, Invitrogen)で抽出したmiRNAを使用して、sEVのmiRNA発現レベルを定量化した。腎臓組織、VSMC及びHUVECを使用して、miRNeasy Mini Kit(Qiagen)を使用して、small RNAを含む全RNAを精製した。Mir-X(商標)miRNA First-Strand Synthesis KitとMir-X(商標)miRNA qRT-PCR TB Green(商標)Kit(Takara)を使用してmiRNAを定量した。プライマー配列を表1に示す。PCR増幅は、95℃で10秒間の最初の変性ステップの後、95℃で5秒間、60℃で20秒間の45サイクルで構成した。
【0100】
【0101】
CKD患者のコホート:
2つの単一施設の前向き観察コホートから、透析に依存しないCKDの成人患者37人を登録した(表2)。最初のコホートでは、参加者の組み入れは次の基準に基づいて行った。
(1) 2020年10月から2021年12月までの東京医科歯科大学病院の入院患者又は外来患者。
(2) 18歳から74歳の年齢。
(3) Kidney Disease Improving Global Outcomes(KDIGO)分類に従い、透析に依存しないCKD。
GFRは、日本腎臓学会が開発した次の3変数の日本人GFR方程式を用いて推定した。
eGFR(mL/min per 1.73m2) = 194×血清クレアチニン-1.094×年齢-0.287(女性の場合,×0.739)
倫理委員会は、すべての参加機関のこの研究を承認し、研究はヘルシンキ宣言の倫理原則に準拠した。すべての参加者は、書面による同意を提供した。
【0102】
【0103】
データ分析:
統計分析は、正規分布と分散の均一性を示す持つ変数について、3群以上の多群間では一元配置分散分析ANOVA及びTurkeyの事後検定が行われ、2群間では対応のない(unpaired)t検定が行われた。それ以外の場合、ウィルコクソン検定を使用して多群間比較を、マン・ホイットニー検定で2群間比較を行った。すべてのデータは、平均±SDとして表示する。DIANA-miRPath v.3 platformを使用して、予測された標的遺伝子の濃縮分析を分析し、単一又は複数のmiRNAが標的とする経路を検出することができた。さらに、miRNA-遺伝子相互作用ネットワークを階層的に構築するツールであるmiRTargetLinkを使用して、miRNAの標的遺伝子を具体的に分析した。交絡因子を調整する多変数線形回帰モデルを使用して、sEVのmiRNA発現レベルと腎機能を示すeGFRとの関連を調べた。統計分析は、Stata version 15.0 software(Stata Corp., College Station、TX、USA)及びGraphPad Prism 9(GraphPad Software, Inc.)を使用して実行した。分析は、必要に応じて無作為化及び盲検化された方法でも実行した。P値<0.05は、統計的に有意であるとみなした。
【0104】
実施例1 CKD齧歯類及びヒトのサルコペニアにおける機能的miRNAの同定:
CKD・サルコペニアモデルラットを作成した。このCKDモデルは、ラットに0.75%のアデニンを含む食事を4週間与えて確立し、ラットを安楽死させた後に血清を採取した(
図1)。ラット腎臓のマッソントリクローム染色は、CKDラットの腎間質における全体的な線維化を示した(
図2)。さらに、尿素窒素とクレアチニンのレベルは、CKD血清中の尿毒症性溶質の上昇を示した(
図3)。
コントロール又はCKDラットからsEVを収集した(
図4)。ポリマー沈殿精製は、主にこれらの実験に使用され、90%を超えるsEVの回収、その後のsEVとsEV枯渇血清の機能アッセイ、及びヒトの診断精密検査への展開を達成した。まず、対照ラットsEVとCKD sEVの間で同様のサイズ分布を特徴付け、それぞれ85 nmと90 nmの平均直径を示した(
図5)。また、対照又はCKDラットからそれぞれ得た単一のsEVの電子顕微鏡検査も行った。循環sEVの粒子数は、対照とCKDラットの間で差がなかった(
図6)。sEVの枯渇後、血清は、sEVに最初に含まれていたテトラスパニンCD9、CD63及びCD81とβ-アクチンを完全に欠き、sEVのほぼ完全な枯渇を示した(
図7)。CKDは、sEVのCD9及びCD63の発現を変化させなかった。
【0105】
CKDにおける末梢循環sEVのmiRNA発現プロファイルを解析するために、Affymetrix GeneChip(登録商標)miRNA 4.0(Affymetrix、Santa Clara、CA)を使用して、CKDモデルラットから収集したsEVの網羅的なmiRNAトランスクリプトーム解析を実施した。
図8は、CKDと対照ラットにおける各miRNAの発現変化を示している。水平線は、miRNA発現の倍数変化(FC)閾値が1.5以上であることを示し、垂直線は、t検定の閾値P値が0.1であることを示す。右上側のスポットは、8つのダウンレギュレートされたmiRNAを表し(rno-miR-16-5p、rno-miR-17-5p、rno-miR-20a-5p、rno-miR-106b-5p、rno-miR-107-3p、rno-let -7a-5p、rno-let-7c-5p、rno-let-7d-5p)、左上側のスポットは単一の上方制御されたmiRNA(rno-miR-206-3p)を表す。4つのmiRNA、miR-16-5p(FC, 0.18)、miR-17-5p(FC, 0.51)、miR-20a-5p(FC, 0.33)及びmiR-106b-5p(FC, 0.45)のダウンレギュレーションが、miR-139-5pで補正した定量的RT-PCRで確認された。これら4つのmiRNAの減少は、段階的超遠心分離によって精製されたsEVでも確認された(
図13、
図14及び
図15)。これらのmiRNAの配列は、哺乳類全体で進化的に保存されている(
図10及び表3)。
【0106】
【0107】
CKDのヒトがsEVでhsa-miR-16-5p、hsa-miR-17-5p、hsa-miR-20a-5p及びhsa-miR-106b-5pの発現を欠いているかどうかを評価した。この目的のために、37人の透析に依存しない患者(女性27%、平均年齢71歳[四分位範囲、61~79歳])からなる2つのCKDコホートを使用した(表2)。次に、miR-139-5pの発現と比較したmiRNAの発現レベルを調べた。腎機能を評価する推定GFR(eGFR)の中央値は28.1(19.5-51.5)であった。
図11は、CKDステージ(ステージG5、eGFR < 15.0; ステージG4、eGFR 15.0-29.9; ステージG3、eGFR 30.0-59.9; ステージG1/2、eGFR ≧60.0)による各miRNA発現レベルを示し、CKDの進行がsEVにおけるmiR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5p発現の喪失と有意に関連したことを示す(P値<0.0005)。さらに、miRNA発現の四分位数とeGFRとの関連を分析すると、各miRNAの低い発現は低いeGFRと相関していた(
図16)。さらに、hsa-miR-16-5p、hsa-miR-17-5p、hsa-miR-20a-5p及びhsa-miR-106b-5の発現の1四分位の減少が、年齢と性別を調整した多変数線形回帰モデルで、それぞれ、9.48[95%信頼区間(CI)、3.75-15.22; P値=0.002]、9.93(95%CI、3.92-15.94; P値=0.002)、10.80(95%CI、4.89-16.71; P値=0.001)及び10.26(95%CI、3.97-16.55; P値=0.002)のeGFR低下と関連していることを発見した(
図12)。ネガティブコントロールとして、miR-423-3pはeGFRと関連していなかった(β, 3.32; 95%CI, -3.32-9.97; P値=0.3)。
骨格筋形成におけるこれらのmiRNAの機能をさらに評価するために、2%ラットCKD血清を含む筋形成誘導培養液で処理したC2C12細胞に各miRNA模倣体をトランスフェクトした。
図17に示すように、すべての模倣体で、未分化で残存する単核筋芽細胞の割合(%)がネガティブコントロールに比べて抑制されることが分かった。また、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5p模倣体が多核筋管細胞(核数, ≧5/細胞)の割合(%)を著しく増加させていた。以上のことから、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの4種類のmiRNAが筋形成を促進する効果を発揮することが明らかになった。
【0108】
実施例2:
マウス骨格筋培養C2C12細胞は、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養し、10%ウシ胎児血清、4 mM l-グルタミン、100U/mLペニシリン及び0.1 mg/mLストレプトマイシンを添加した。細胞は、加湿インキュベーターにおいて、37℃、5%CO
2下で培養した。C2C12細胞を48ウェルプレートにおいて80-90%コンフルエンスに増殖させた。筋形成の評価系としてC2C12細胞に対し、2%血清による筋細胞分化を誘導し、120時間後にミオシン重鎖(myosin heavy chain)に対する抗体anti-MHC抗体 (A4.1025; Upstate Biotechnology Inc., Lake Placid, NY, USA)を用いた蛍光免疫染色を実施した。顕微鏡BZ-X810(KEYENCE)を用いて観察して撮影し、筋管細胞形成を定量評価した。筋形成能の定量は、未分化で残存する単核筋芽細胞の割合(%)と、多核筋管細胞(核数, ≧5/細胞)の割合(%)を計測した。
結果を
図17に示す。
図17に示すように、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pが骨格筋細胞分化及び骨格筋形成などの筋形成を促進する作用を発揮することが分かった。
【0109】
実施例3:
特にCKDモデル動物及びCKD患者において発現量が低下したmiRNAの中から、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pの4種類について模倣体をそれぞれC2C12細胞内にリポフェクションにより導入して筋形成能を評価した。模倣体のトランスフェクションは、メーカーの説明書に従ってLipofectamine RNAiMAX(Invitrogen)を使用して、100 nM miRNA模倣体でC2C12細胞をトランスフェクトした。
結果を
図18に示す。
図18に示すように、miR-16-5p、miR-17-5p、miR-20a-5p及びmiR-106b-5pが骨格筋細胞分化及び骨格筋形成などの筋形成を促進する作用を発揮することが分かった。